回転機械の軸系安定性計測方法及び運転方法
【課題】運転時における回転軸系の固有振動成分を抽出して回転軸系の安定性を精度よく評価することにある。
【解決手段】回転機械の運転時に発生する振動を回転部又は非回転部で計測する第1のステップと、この第1のステップで計測された振動信号に対し回転機械の固有振動数に着目して周波数分析を行う第2のステップと、この第2のステップで周波数分析された固有振動数の周波数成分が抽出できるよう連続的に所定時間平均化処理を実施して周波数応答を得る第3のステップと、この第3のステップによって得られる周波数応答から回転軸系の安定性を評価する第4のステップとを備える。
【解決手段】回転機械の運転時に発生する振動を回転部又は非回転部で計測する第1のステップと、この第1のステップで計測された振動信号に対し回転機械の固有振動数に着目して周波数分析を行う第2のステップと、この第2のステップで周波数分析された固有振動数の周波数成分が抽出できるよう連続的に所定時間平均化処理を実施して周波数応答を得る第3のステップと、この第3のステップによって得られる周波数応答から回転軸系の安定性を評価する第4のステップとを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転時における回転軸系の固有振動成分を検出して回転軸系の安定性を評価する回転機械の軸系安定性計測方法及び運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械の回転軸系においては、さまざまな不安定化要因が存在しており、運転状態によって転軸の安定性が損なわれると、振動の増大を生じさせることがある。この回転軸の安定性が損なわれる要因としては、例えば軸受の荷重不足によるオイルウイップ、オイルホワールや、蒸気タービンで蒸気の旋回流に起因するスチームホワールなどの現象が見られる。
【0003】
これらの現象は、いずれも回転軸系の減衰率が低下することで生じるもので、回転機械の安全性を確保する上で回転軸系の安定性評価は非常に有効な手段である。
【0004】
しかるに、静止時の固有振動測定から求められる減衰率は構造物の値であって、不安定要因である軸受や蒸気流の効果が含まれていないため、直接評価に用いることはできない。
【0005】
一方、回転機械の運転中は、回転数やその整数倍の振動数における振動振幅が支配的であるため、通常の振動測定では回転軸系の安定性の評価に必要な自由振動成分を抽出することが困難である。
【0006】
従来、回転軸系の安定性評価方法としては、電磁石を用いて運転中の回転軸に対して強制的に加振を行って、回転軸に自由振動を生じさせてその減衰率を測定する方法(例えば、特許文献1)や、加振を行わず、回転機械の運転中に発生する暗振動を用いた振動特性評価法(例えば、特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平5−5057号公報
【特許文献2】米国特許7078434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の減衰率測定方法では、大掛かりな加振装置が必要な上に、不釣り合い振動と同程度の大きな振動を発生させることになるため、回転機械の日常的な監視には適していない。
【0009】
また、特許文献2に記載の振動特性評価法では、平常運転時における暗振動の固有振動数近傍は振動レベルが低く、ランダム応答となるため、リアルタイムの応答曲線から精度よく減衰比を評価することは困難である。
【0010】
本発明の目的は、運転時における回転軸系の固有振動成分を抽出して、回転軸系の安定性を精度よく評価することができる回転機械の軸系安定性計測方法及び運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記のような目的を達成するため、次のような方法により回転機械の軸系安定性を計測するものである。
【0012】
(1)回転機械の運転時に発生する振動を回転部又は非回転部で計測する第1のステップと、この第1のステップで計測された振動信号に対し前記回転機械の固有振動数に着目して周波数分析を行う第2のステップと、この第2のステップにより周波数分析された前記固有振動数の周波数成分が抽出できるよう所定時間連続的に平均化処理を実施して周波数応答を得る第3のステップと、この第3のステップによって得られる周波数応答から回転軸系の安定性を評価する第4のステップとを備えて回転機械の軸系安定性を計測する。
【0013】
(2)上記回転機械の軸系安定性計測方法において、前記第3のステップにより得られる周波数応答から当該周波数における減衰率を求める第5のステップを設け、前記第4のステップは、前記第5のステップで求められた減衰率の大きさから回転軸系の安定性を評価する。
【0014】
(3)上記回転機械の軸系安定性計測方法において、前記回転機械の現在までの運転条件の変化に対する前記第4のステップで評価される回転軸系の安定性の変化から、将来の回転軸系の安定性を推定する第6のステップを設ける。
【0015】
(4)上記回転機械の軸系安定性計測方法により評価される回転軸系安定性の結果から回転機械の運転条件を調整して運転する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、運転時における回転軸系の固有振動成分を抽出して回転軸系の安定性を精度よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による回転機械の軸系安定性計測方法を説明するための第1の実施形態における一例を示す構成図。
【図2】同実施形態における他の例を示す構成図。
【図3】従来の手法による回転軸の振動の解析結果を示すグラフ。
【図4】本発明の第1の実施形態における回転軸の振動の周波数分析結果を示すグラフ。
【図5】同実施形態において、平均化処理時間1分の場合の減衰比推定誤差を示すグラフ。
【図6】同じく平均化処理時間5分の場合の減衰比推定誤差を示すグラフ。
【図7】同実施形態において、平均化処理時間と最大誤差の関係を示すグラフ。
【図8】同実施形態において、回転軸の安定性評価を説明するための周波数と振幅の関係を示す曲線図。
【図9】同実施形態において、回転機械の安定性評価を説明するためのタービン出力と減衰率の関係を示す曲線図。
【図10】本発明による回転機械の軸系安定性計測方法を説明するための第2の実施形態及び第3の実施形態におけるフィルタ処理による周波数と振幅との関係を示す図。
【図11】本発明による回転機械の運転条件決定方法を説明するための実施形態におけるタービン出力と減衰率の関係を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本発明による回転機械の軸系安定性計測方法を説明するための第1の実施形態における一例を示す構成図である。
【0020】
図1において、1は回転機械で、この回転機械1の回転軸2はその両端部側に設けられた軸受3により回転自在に支持されている。このような回転機械1において、回転軸2の軸受3より外側の回転軸2に対応させて非接触式変位計4を図示しない支持体に支持させて設ける。
【0021】
この非接触式変位計4は、回転軸2の変位を検出するもので、その検出値は変換器5に取込まれて電圧信号に変換される。この変換器5より出力される電圧信号は、フィルタ6を介してFFTアナライザ7に入力され、周波数分析が行われる。
【0022】
このFFTアナライザ7による周波数分析結果が演算装置8に取込まれると、この演算装置8では詳細を後述する演算処理により周波数分析結果に基づく回転軸2の安定性を評価する。
【0023】
図2は同実施形態の他の例を示す構成図である。
【0024】
図1では、回転機械1の回転軸2の両端部側に非接触式変位計4を設け、この非接触式変位計4により検出された回転軸2の変位を変換器5により電圧信号に変換してフィルタ6を介してFFTアナライザ7に入力するようにしたが、回転軸2の振動は軸受3に伝播されるので、図2では、回転軸2の両端部側を支持する軸受3に加速度ピックアップ9を接触させて設け、この加速度ピックアップ9で抽出された加速度を振動計10により電圧信号として増幅した上でフィルタ6を介してFFTアナライザ7に入力するようにしたものである。
【0025】
上記のように構成された本発明の第1の実施形態における回転機械の軸系安定性計測方法について説明する。
【0026】
まず、従来の手法により回転軸2の振動をFFTアナライザ7で周波数分析した場合について述べる。
【0027】
図3は、回転機械の運転中に発生する回転軸2の振動をFFTアナライザ7で従来の手法により周波数分析した場合の周波数応答波形を示すもので、横軸は周波数、縦軸は振幅を表している。
【0028】
通常、回転軸2の振動は不釣り合い振動が大きいので、図3に見られるように回転軸2の回転周波数fRにおける振幅が著しく大きく、それ以外の周波数成分は殆んど識別されることはなかった。
【0029】
また、回転同期周波数や回転周波数の整数倍など異常時に振幅が成長する特定の周波数以外の振動数については注目することもなかった。
【0030】
さらに、回転軸2の固有振動数については、危険速度通過時に注意されるが、これは回転周波数と一致するからであって、定常運転時においては共振問題が発生しない限り検討されることはなかった。
【0031】
しかしながら、回転軸2の固有振動数fn付近に着目すると、回転同期成分に比べると非常に低いレベルではあるものの、振幅のピークの存在を認めることができる。これは回転軸2の不釣り合い加振力に比べると小さいが、回転軸2の回転によってランダムに広い帯域周波数で加振がなされ、回転軸2に自由振動が発生して回転軸2の固有振動数が励起されたものと考えられる。
【0032】
次に本発明の第1の実施形態において、回転軸2の振動をFFTアナライザ7で周波数分析した場合について述べる。
【0033】
近年、測定器の性能が向上されるにつれて、ダイナミックレンジを大きくとることができるため、このような小さい振動でも比較的高精度に分析することが可能になってきている。
【0034】
図4は、図3における固有振動数fn近傍を拡大して示したものである。図4に示す破線は、通常の分析時間で回転軸2の振動を周波数分析した場合の応答波形である。
【0035】
通常の振動測定では、FFTアナライザ7の分析時間は数秒程度で、長くとも数分間とすることが一般的である。長時間の監視を行う場合も、前述のような短時間の測定を繰返すものであって、測定時間と分析時間が一致するものではなかった。
【0036】
このように固有振動数fn近傍で振幅の増大が認められるものの、加振力が弱くかつランダム的であることから、この帯域での応答波形から固有振動数を正確に特定できるほど明確なピークを把握することができない。
【0037】
このことも、これまで運転時の固有振動数に注意が払われなかった要因の一つであると考えられるが、ランダム加振による応答波形は平均化処理を多数繰返せば測定精度を向上させることができるので、長時間に亘ってFFTアナライザ7による分析を連続的に持続させたところ図4の実線で示すように明確なピーク波形を求めることができた。
【0038】
この波形はランダム加振による回転軸2の自由振動の周波数応答を示すものであるから、最大点から固有振動数fnを求めるとともに応答波形にハーフパワー法を適用することによって減衰率ζを計算することができる。
【0039】
すなわち、ピークの1/2の振幅における応答波形の振動振幅Δfを固有振動数fnで割った値が1/2ζに一致することから、減衰率ζを計算することができる。この他、カーブフィッテングの手法を適用しても固有振動数fnや減衰率ζを求めることができる。
【0040】
上述した手法により、精度良く軸系の減衰率を評価するためには平均化処理を行う時間を適切に設定する必要がある。
【0041】
図5は、蒸気タービンを模擬した軸・軸受系に対するシミュレーション計算によって得られた軸振動データに対し、(1)周波数分析、(2)1分間の分析結果を平均化処理、(3)ハーフパワー法による減衰比推定を繰り返し行い、減衰比推定誤差をプロットしたものである。
【0042】
シミュレーション計算では、軸にホワイトノイズ状の周波数特性を持ったランダムな加振力が作用していると仮定した。最大で0.4%程度の誤差が発生していることが分かる。
【0043】
同様に、図6は、5分間の平均化処理を行い、誤差をプロットしたもので、この場合、最大誤差は0.2%以下の精度となる。
【0044】
図7は、平均化処理時間と最大誤差の関係をプロットしたもので、平均化処理時間が長くなればなるほど最大誤差は小さくなるが、20分で誤差0.1%以下とより十分な精度が得られることが分かる。
【0045】
このシミュレーションでは、1回の周波数分析に4秒間のデータが必要になるので、5分(300秒)で75回、20分(1200秒)で300回の平均化処理を行っていることになる。このことから、平均化処理時間は少なくとも5分以上、好ましくは20分以上とすることが望ましい。ただし、評価対象機械の回転数や固有振動数が、蒸気タービンと大きく異なり、1回当たりの周波数分析時間が変わる場合には、平均化回数75回に相当する時間以上平均化処理を行えば実用上問題ない精度が得られ、平均化回数300回に相当する時間以上とすればより好ましい精度が得られる。
【0046】
軸受3の荷重・潤滑油温度や、蒸気など内部を流れる流体の圧力・温度の変化によって、回転軸2の力学系が変化すると減衰率ζに変化が生じる。不安定振動は、自励振動とも呼ばれ、軸系の減衰が負になることによって生じる。数学的には運動方程式を複素固有値λiの実部の符号が負であれば安定、正になると不安定となる。
【0047】
回転軸2の角固有振動数をωiとすれば、λi=−ζiωiの関係が成り立ち、ωi>0であることから減衰率ζiの値から回転軸2の安定性を評価することができる。すなわち、通常の運転時には減衰率ζiの値は数%であるが、タービンの出力上昇などにより不安定な要因が生じてくるとこの値は次第に小さくなっていく。
【0048】
図8はスチームホワールによって回転軸2の減衰が低下し、安定性が損なわれていく過程を示したものである。図8において、実線は安定な状態での波形であって、ピークの振幅は低く、裾野が広い波形を示しているが、不安定な状態に近づくと破線で示すようにピークの周波数(固有振動数fn´)は僅かに低下するとともに振幅が増大する。一方、波形の裾野が狭まった波形に変化し、減衰率が低下(この例では1/2に低下)していることを示している。
【0049】
ここで、図1又は図2において、演算装置8はFFTアナライザ7によって求められた周波数分析結果に基づいて固有振動数fnや減衰率ζを求める。そして、この減衰率ζの変化を監視して安定性の状態を判定する。
【0050】
従来の監視では、回転軸2の振動振幅から判定を行うのが一般的であるが、上述したように不安定な兆候があっても、固有振動数の成分は回転周波数成分に比べて非常に小さいので、振動振幅には殆んど影響が現れない。このため、不安定現象が発生するまで、異常を検知することができない。
【0051】
これに対して本発明では、減衰率を監視することで、不安定現象の進行程度を定量的に評価することが可能であり、早期に不安定現象の兆候を検知して、未然に不安定振動の発生を回避できる。
【0052】
図9は、蒸気タービンにおいて過去の運転記録から出力と減衰率の関係をプロットしたものである。この実績値に基づいて出力Pに対する減衰率ζの近似曲線を求めると、図示するような曲線となる。
【0053】
上述したように減衰率ζの符号が正から負に反転すると不安定を発生するので、横軸との交点が安定限界となる。すなわち、出力がPuを超えると不安定現象が発生するものと予測されるので、出力Pu以下で運転制限をかけることができる。
【0054】
このように本発明の第1の実施形態では、回転機械の運転時に発生する振動のうち回転機械の固有振動fnに着目して周波数分析を行い、その周波数分析結果に対して連続的に平均化処理を実施することによって得られる周波数応答から該周波数の減衰率ζを求め、その減衰率ζの大きさを監視することにより、回転軸系の安定性を精度よく評価することができる。また、運転中の周波数応答から求められる該周波数の減衰率ζの変化を監視し、現在までの運転条件の変化に対する回転軸系の安定性の変化から、将来の回転軸系の安定性を推定することにより、回転機械1の安定性から異常な運転状態を回避して、回転機械の安全な運転を確保することができる。
【0055】
(第2の実施形態)
図10は本発明による回転機械の軸系安定性計測方法を説明するための第2の実施形態におけるフィルタ処理による周波数と振幅との関係を示す図である。
【0056】
本発明の第2の実施形態では、図1又は図2に示す構成において、フィルタ6に図10に示すような固有振動数fnを中心として透過周波数幅ΔfPのバンドパスフィルタを用いる。このとき、透過周波数幅ΔfPは透過領域に除去したい周波数が入らないように設定するが、少なくともハーフパワー法で必要な周波数幅Δf以上とる必要がある。
【0057】
上述したように、測定された振動データでは回転周波数fRにおける振幅の方が固有振動周波数fnにおける振幅よりも桁外れに値が大きい。測定器のダイナミックレンジには限界があるので、どうしても固有振動数成分の精度が劣化してしまう。
【0058】
そこで、本実施形態のようにフィルタ6に固有振動数fnを中心として透過周波数幅ΔfPのバンドパスフィルタを用いることにより、FFTアナライザ7には必要な周波数範囲の信号のみが入力されるので、大幅にダイナミックレンジが改善される。
【0059】
このように本発明の第2の実施形態では、回転機械1の運転時に発生する振動を回転機械の固有振動周波数に着目して周波数分析を行うに際して、振動信号の入力に対してその周波数の周辺帯域に対してバンドパスフィルタ処理を施して、該周波数帯域のゲインを向上させることにより、周波数応答の精度が向上するので、平均化処理時間を短縮することができる。
【0060】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態では、図1又は図2に示す構成において、フィルタ6に図10に示すような除去範囲Δfeのバンドエリミネーテドフィルタを用いる。
【0061】
このようなバンドエリミネーテドフィルタを用いることにより、回転周波数成分など固有振動成分の抽出に不必要な周波数成分を除去して周波数分析を行うことができる。
【0062】
このように本発明の第3の実施形態では、回転機械1の運転時に発生する振動を回転機械の固有振動周波数に着目して周波数分析を行うに際して、振動信号の入力に対してその周波数以外の周波数成分に対してバンドエリミネーテドフィルタ処理を施して、該周波数帯域のゲインを向上させることにより、第2の実施形態と同様に周波数応答の精度が向上するので、平均化処理時間を短縮することができる。
【0063】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態では、第1の実施形態において、図1又は図2に示すFFTアナライザ7で周波数分析を実施する際に、固有振動周波数fnを中心周波数とするズーミング処理を行う。
【0064】
このようなズーミング処理を行うと、元の分析条件に対して周波数分解能を保持したままサンプリング数を削減することができるので、一回当たりの分析時間を短縮することができる。したがって、同一の平均化回数であれば平均化の時間が短縮される。
【0065】
このように本発明の第4の実施形態では、回転機械1の運転時に発生する振動を回転機械の固有振動周波数に着目して周波数分析を行うに際して、該周波数の周辺帯域を分析範囲とするズーミング処理を行って周波数分解能を向上させることにより、平均化の処理時間を短縮し、異常を早期に検出することができる。
【0066】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態では、第1の実施形態において、図1又は図2に示す演算装置8で過去に得られた運転履歴から減衰率と運転条件を調整する。
【0067】
図11は、軸受給油温度がL1の状態(×印)とL2の状態(・印)でそれぞれ減衰率ζを求め、タービン出力Pとの相関を示したものである。
【0068】
図11において、それぞれのプロットから求めた近似曲線を破線と実線で記入してある。軸受給油温度がL1では出力の安定限界はPu1であるが、軸受給油温度をL2に変えると出力の安定限界はPu2に伸ばせることがわかる。したがって、軸受給油温度L1で運転していて、出力を増加させPu1に近づいてきたら軸受給油温度をL2に変えるよう運転条件を変更する。
【0069】
このように本発明の第5の実施形態では、軸系安定性を評価し、その結果から回転機械の運転条件、つまり安定限界を大きくするための運転条件として、軸受給油温度を調整することにより、不安定現象の発生を抑制するように運転条件が変更できるので、回転機械の安定を確保した運転が可能になる。
【符号の説明】
【0070】
1…回転機械、2…回転軸、3…軸受、4…非接触式変位計、5…変換器、6…フィルタ、7…FFTアナライザ、8…演算装置、9…加速度ピックアップ、10…振動計
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転時における回転軸系の固有振動成分を検出して回転軸系の安定性を評価する回転機械の軸系安定性計測方法及び運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械の回転軸系においては、さまざまな不安定化要因が存在しており、運転状態によって転軸の安定性が損なわれると、振動の増大を生じさせることがある。この回転軸の安定性が損なわれる要因としては、例えば軸受の荷重不足によるオイルウイップ、オイルホワールや、蒸気タービンで蒸気の旋回流に起因するスチームホワールなどの現象が見られる。
【0003】
これらの現象は、いずれも回転軸系の減衰率が低下することで生じるもので、回転機械の安全性を確保する上で回転軸系の安定性評価は非常に有効な手段である。
【0004】
しかるに、静止時の固有振動測定から求められる減衰率は構造物の値であって、不安定要因である軸受や蒸気流の効果が含まれていないため、直接評価に用いることはできない。
【0005】
一方、回転機械の運転中は、回転数やその整数倍の振動数における振動振幅が支配的であるため、通常の振動測定では回転軸系の安定性の評価に必要な自由振動成分を抽出することが困難である。
【0006】
従来、回転軸系の安定性評価方法としては、電磁石を用いて運転中の回転軸に対して強制的に加振を行って、回転軸に自由振動を生じさせてその減衰率を測定する方法(例えば、特許文献1)や、加振を行わず、回転機械の運転中に発生する暗振動を用いた振動特性評価法(例えば、特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平5−5057号公報
【特許文献2】米国特許7078434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の減衰率測定方法では、大掛かりな加振装置が必要な上に、不釣り合い振動と同程度の大きな振動を発生させることになるため、回転機械の日常的な監視には適していない。
【0009】
また、特許文献2に記載の振動特性評価法では、平常運転時における暗振動の固有振動数近傍は振動レベルが低く、ランダム応答となるため、リアルタイムの応答曲線から精度よく減衰比を評価することは困難である。
【0010】
本発明の目的は、運転時における回転軸系の固有振動成分を抽出して、回転軸系の安定性を精度よく評価することができる回転機械の軸系安定性計測方法及び運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記のような目的を達成するため、次のような方法により回転機械の軸系安定性を計測するものである。
【0012】
(1)回転機械の運転時に発生する振動を回転部又は非回転部で計測する第1のステップと、この第1のステップで計測された振動信号に対し前記回転機械の固有振動数に着目して周波数分析を行う第2のステップと、この第2のステップにより周波数分析された前記固有振動数の周波数成分が抽出できるよう所定時間連続的に平均化処理を実施して周波数応答を得る第3のステップと、この第3のステップによって得られる周波数応答から回転軸系の安定性を評価する第4のステップとを備えて回転機械の軸系安定性を計測する。
【0013】
(2)上記回転機械の軸系安定性計測方法において、前記第3のステップにより得られる周波数応答から当該周波数における減衰率を求める第5のステップを設け、前記第4のステップは、前記第5のステップで求められた減衰率の大きさから回転軸系の安定性を評価する。
【0014】
(3)上記回転機械の軸系安定性計測方法において、前記回転機械の現在までの運転条件の変化に対する前記第4のステップで評価される回転軸系の安定性の変化から、将来の回転軸系の安定性を推定する第6のステップを設ける。
【0015】
(4)上記回転機械の軸系安定性計測方法により評価される回転軸系安定性の結果から回転機械の運転条件を調整して運転する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、運転時における回転軸系の固有振動成分を抽出して回転軸系の安定性を精度よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による回転機械の軸系安定性計測方法を説明するための第1の実施形態における一例を示す構成図。
【図2】同実施形態における他の例を示す構成図。
【図3】従来の手法による回転軸の振動の解析結果を示すグラフ。
【図4】本発明の第1の実施形態における回転軸の振動の周波数分析結果を示すグラフ。
【図5】同実施形態において、平均化処理時間1分の場合の減衰比推定誤差を示すグラフ。
【図6】同じく平均化処理時間5分の場合の減衰比推定誤差を示すグラフ。
【図7】同実施形態において、平均化処理時間と最大誤差の関係を示すグラフ。
【図8】同実施形態において、回転軸の安定性評価を説明するための周波数と振幅の関係を示す曲線図。
【図9】同実施形態において、回転機械の安定性評価を説明するためのタービン出力と減衰率の関係を示す曲線図。
【図10】本発明による回転機械の軸系安定性計測方法を説明するための第2の実施形態及び第3の実施形態におけるフィルタ処理による周波数と振幅との関係を示す図。
【図11】本発明による回転機械の運転条件決定方法を説明するための実施形態におけるタービン出力と減衰率の関係を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本発明による回転機械の軸系安定性計測方法を説明するための第1の実施形態における一例を示す構成図である。
【0020】
図1において、1は回転機械で、この回転機械1の回転軸2はその両端部側に設けられた軸受3により回転自在に支持されている。このような回転機械1において、回転軸2の軸受3より外側の回転軸2に対応させて非接触式変位計4を図示しない支持体に支持させて設ける。
【0021】
この非接触式変位計4は、回転軸2の変位を検出するもので、その検出値は変換器5に取込まれて電圧信号に変換される。この変換器5より出力される電圧信号は、フィルタ6を介してFFTアナライザ7に入力され、周波数分析が行われる。
【0022】
このFFTアナライザ7による周波数分析結果が演算装置8に取込まれると、この演算装置8では詳細を後述する演算処理により周波数分析結果に基づく回転軸2の安定性を評価する。
【0023】
図2は同実施形態の他の例を示す構成図である。
【0024】
図1では、回転機械1の回転軸2の両端部側に非接触式変位計4を設け、この非接触式変位計4により検出された回転軸2の変位を変換器5により電圧信号に変換してフィルタ6を介してFFTアナライザ7に入力するようにしたが、回転軸2の振動は軸受3に伝播されるので、図2では、回転軸2の両端部側を支持する軸受3に加速度ピックアップ9を接触させて設け、この加速度ピックアップ9で抽出された加速度を振動計10により電圧信号として増幅した上でフィルタ6を介してFFTアナライザ7に入力するようにしたものである。
【0025】
上記のように構成された本発明の第1の実施形態における回転機械の軸系安定性計測方法について説明する。
【0026】
まず、従来の手法により回転軸2の振動をFFTアナライザ7で周波数分析した場合について述べる。
【0027】
図3は、回転機械の運転中に発生する回転軸2の振動をFFTアナライザ7で従来の手法により周波数分析した場合の周波数応答波形を示すもので、横軸は周波数、縦軸は振幅を表している。
【0028】
通常、回転軸2の振動は不釣り合い振動が大きいので、図3に見られるように回転軸2の回転周波数fRにおける振幅が著しく大きく、それ以外の周波数成分は殆んど識別されることはなかった。
【0029】
また、回転同期周波数や回転周波数の整数倍など異常時に振幅が成長する特定の周波数以外の振動数については注目することもなかった。
【0030】
さらに、回転軸2の固有振動数については、危険速度通過時に注意されるが、これは回転周波数と一致するからであって、定常運転時においては共振問題が発生しない限り検討されることはなかった。
【0031】
しかしながら、回転軸2の固有振動数fn付近に着目すると、回転同期成分に比べると非常に低いレベルではあるものの、振幅のピークの存在を認めることができる。これは回転軸2の不釣り合い加振力に比べると小さいが、回転軸2の回転によってランダムに広い帯域周波数で加振がなされ、回転軸2に自由振動が発生して回転軸2の固有振動数が励起されたものと考えられる。
【0032】
次に本発明の第1の実施形態において、回転軸2の振動をFFTアナライザ7で周波数分析した場合について述べる。
【0033】
近年、測定器の性能が向上されるにつれて、ダイナミックレンジを大きくとることができるため、このような小さい振動でも比較的高精度に分析することが可能になってきている。
【0034】
図4は、図3における固有振動数fn近傍を拡大して示したものである。図4に示す破線は、通常の分析時間で回転軸2の振動を周波数分析した場合の応答波形である。
【0035】
通常の振動測定では、FFTアナライザ7の分析時間は数秒程度で、長くとも数分間とすることが一般的である。長時間の監視を行う場合も、前述のような短時間の測定を繰返すものであって、測定時間と分析時間が一致するものではなかった。
【0036】
このように固有振動数fn近傍で振幅の増大が認められるものの、加振力が弱くかつランダム的であることから、この帯域での応答波形から固有振動数を正確に特定できるほど明確なピークを把握することができない。
【0037】
このことも、これまで運転時の固有振動数に注意が払われなかった要因の一つであると考えられるが、ランダム加振による応答波形は平均化処理を多数繰返せば測定精度を向上させることができるので、長時間に亘ってFFTアナライザ7による分析を連続的に持続させたところ図4の実線で示すように明確なピーク波形を求めることができた。
【0038】
この波形はランダム加振による回転軸2の自由振動の周波数応答を示すものであるから、最大点から固有振動数fnを求めるとともに応答波形にハーフパワー法を適用することによって減衰率ζを計算することができる。
【0039】
すなわち、ピークの1/2の振幅における応答波形の振動振幅Δfを固有振動数fnで割った値が1/2ζに一致することから、減衰率ζを計算することができる。この他、カーブフィッテングの手法を適用しても固有振動数fnや減衰率ζを求めることができる。
【0040】
上述した手法により、精度良く軸系の減衰率を評価するためには平均化処理を行う時間を適切に設定する必要がある。
【0041】
図5は、蒸気タービンを模擬した軸・軸受系に対するシミュレーション計算によって得られた軸振動データに対し、(1)周波数分析、(2)1分間の分析結果を平均化処理、(3)ハーフパワー法による減衰比推定を繰り返し行い、減衰比推定誤差をプロットしたものである。
【0042】
シミュレーション計算では、軸にホワイトノイズ状の周波数特性を持ったランダムな加振力が作用していると仮定した。最大で0.4%程度の誤差が発生していることが分かる。
【0043】
同様に、図6は、5分間の平均化処理を行い、誤差をプロットしたもので、この場合、最大誤差は0.2%以下の精度となる。
【0044】
図7は、平均化処理時間と最大誤差の関係をプロットしたもので、平均化処理時間が長くなればなるほど最大誤差は小さくなるが、20分で誤差0.1%以下とより十分な精度が得られることが分かる。
【0045】
このシミュレーションでは、1回の周波数分析に4秒間のデータが必要になるので、5分(300秒)で75回、20分(1200秒)で300回の平均化処理を行っていることになる。このことから、平均化処理時間は少なくとも5分以上、好ましくは20分以上とすることが望ましい。ただし、評価対象機械の回転数や固有振動数が、蒸気タービンと大きく異なり、1回当たりの周波数分析時間が変わる場合には、平均化回数75回に相当する時間以上平均化処理を行えば実用上問題ない精度が得られ、平均化回数300回に相当する時間以上とすればより好ましい精度が得られる。
【0046】
軸受3の荷重・潤滑油温度や、蒸気など内部を流れる流体の圧力・温度の変化によって、回転軸2の力学系が変化すると減衰率ζに変化が生じる。不安定振動は、自励振動とも呼ばれ、軸系の減衰が負になることによって生じる。数学的には運動方程式を複素固有値λiの実部の符号が負であれば安定、正になると不安定となる。
【0047】
回転軸2の角固有振動数をωiとすれば、λi=−ζiωiの関係が成り立ち、ωi>0であることから減衰率ζiの値から回転軸2の安定性を評価することができる。すなわち、通常の運転時には減衰率ζiの値は数%であるが、タービンの出力上昇などにより不安定な要因が生じてくるとこの値は次第に小さくなっていく。
【0048】
図8はスチームホワールによって回転軸2の減衰が低下し、安定性が損なわれていく過程を示したものである。図8において、実線は安定な状態での波形であって、ピークの振幅は低く、裾野が広い波形を示しているが、不安定な状態に近づくと破線で示すようにピークの周波数(固有振動数fn´)は僅かに低下するとともに振幅が増大する。一方、波形の裾野が狭まった波形に変化し、減衰率が低下(この例では1/2に低下)していることを示している。
【0049】
ここで、図1又は図2において、演算装置8はFFTアナライザ7によって求められた周波数分析結果に基づいて固有振動数fnや減衰率ζを求める。そして、この減衰率ζの変化を監視して安定性の状態を判定する。
【0050】
従来の監視では、回転軸2の振動振幅から判定を行うのが一般的であるが、上述したように不安定な兆候があっても、固有振動数の成分は回転周波数成分に比べて非常に小さいので、振動振幅には殆んど影響が現れない。このため、不安定現象が発生するまで、異常を検知することができない。
【0051】
これに対して本発明では、減衰率を監視することで、不安定現象の進行程度を定量的に評価することが可能であり、早期に不安定現象の兆候を検知して、未然に不安定振動の発生を回避できる。
【0052】
図9は、蒸気タービンにおいて過去の運転記録から出力と減衰率の関係をプロットしたものである。この実績値に基づいて出力Pに対する減衰率ζの近似曲線を求めると、図示するような曲線となる。
【0053】
上述したように減衰率ζの符号が正から負に反転すると不安定を発生するので、横軸との交点が安定限界となる。すなわち、出力がPuを超えると不安定現象が発生するものと予測されるので、出力Pu以下で運転制限をかけることができる。
【0054】
このように本発明の第1の実施形態では、回転機械の運転時に発生する振動のうち回転機械の固有振動fnに着目して周波数分析を行い、その周波数分析結果に対して連続的に平均化処理を実施することによって得られる周波数応答から該周波数の減衰率ζを求め、その減衰率ζの大きさを監視することにより、回転軸系の安定性を精度よく評価することができる。また、運転中の周波数応答から求められる該周波数の減衰率ζの変化を監視し、現在までの運転条件の変化に対する回転軸系の安定性の変化から、将来の回転軸系の安定性を推定することにより、回転機械1の安定性から異常な運転状態を回避して、回転機械の安全な運転を確保することができる。
【0055】
(第2の実施形態)
図10は本発明による回転機械の軸系安定性計測方法を説明するための第2の実施形態におけるフィルタ処理による周波数と振幅との関係を示す図である。
【0056】
本発明の第2の実施形態では、図1又は図2に示す構成において、フィルタ6に図10に示すような固有振動数fnを中心として透過周波数幅ΔfPのバンドパスフィルタを用いる。このとき、透過周波数幅ΔfPは透過領域に除去したい周波数が入らないように設定するが、少なくともハーフパワー法で必要な周波数幅Δf以上とる必要がある。
【0057】
上述したように、測定された振動データでは回転周波数fRにおける振幅の方が固有振動周波数fnにおける振幅よりも桁外れに値が大きい。測定器のダイナミックレンジには限界があるので、どうしても固有振動数成分の精度が劣化してしまう。
【0058】
そこで、本実施形態のようにフィルタ6に固有振動数fnを中心として透過周波数幅ΔfPのバンドパスフィルタを用いることにより、FFTアナライザ7には必要な周波数範囲の信号のみが入力されるので、大幅にダイナミックレンジが改善される。
【0059】
このように本発明の第2の実施形態では、回転機械1の運転時に発生する振動を回転機械の固有振動周波数に着目して周波数分析を行うに際して、振動信号の入力に対してその周波数の周辺帯域に対してバンドパスフィルタ処理を施して、該周波数帯域のゲインを向上させることにより、周波数応答の精度が向上するので、平均化処理時間を短縮することができる。
【0060】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態では、図1又は図2に示す構成において、フィルタ6に図10に示すような除去範囲Δfeのバンドエリミネーテドフィルタを用いる。
【0061】
このようなバンドエリミネーテドフィルタを用いることにより、回転周波数成分など固有振動成分の抽出に不必要な周波数成分を除去して周波数分析を行うことができる。
【0062】
このように本発明の第3の実施形態では、回転機械1の運転時に発生する振動を回転機械の固有振動周波数に着目して周波数分析を行うに際して、振動信号の入力に対してその周波数以外の周波数成分に対してバンドエリミネーテドフィルタ処理を施して、該周波数帯域のゲインを向上させることにより、第2の実施形態と同様に周波数応答の精度が向上するので、平均化処理時間を短縮することができる。
【0063】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態では、第1の実施形態において、図1又は図2に示すFFTアナライザ7で周波数分析を実施する際に、固有振動周波数fnを中心周波数とするズーミング処理を行う。
【0064】
このようなズーミング処理を行うと、元の分析条件に対して周波数分解能を保持したままサンプリング数を削減することができるので、一回当たりの分析時間を短縮することができる。したがって、同一の平均化回数であれば平均化の時間が短縮される。
【0065】
このように本発明の第4の実施形態では、回転機械1の運転時に発生する振動を回転機械の固有振動周波数に着目して周波数分析を行うに際して、該周波数の周辺帯域を分析範囲とするズーミング処理を行って周波数分解能を向上させることにより、平均化の処理時間を短縮し、異常を早期に検出することができる。
【0066】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態では、第1の実施形態において、図1又は図2に示す演算装置8で過去に得られた運転履歴から減衰率と運転条件を調整する。
【0067】
図11は、軸受給油温度がL1の状態(×印)とL2の状態(・印)でそれぞれ減衰率ζを求め、タービン出力Pとの相関を示したものである。
【0068】
図11において、それぞれのプロットから求めた近似曲線を破線と実線で記入してある。軸受給油温度がL1では出力の安定限界はPu1であるが、軸受給油温度をL2に変えると出力の安定限界はPu2に伸ばせることがわかる。したがって、軸受給油温度L1で運転していて、出力を増加させPu1に近づいてきたら軸受給油温度をL2に変えるよう運転条件を変更する。
【0069】
このように本発明の第5の実施形態では、軸系安定性を評価し、その結果から回転機械の運転条件、つまり安定限界を大きくするための運転条件として、軸受給油温度を調整することにより、不安定現象の発生を抑制するように運転条件が変更できるので、回転機械の安定を確保した運転が可能になる。
【符号の説明】
【0070】
1…回転機械、2…回転軸、3…軸受、4…非接触式変位計、5…変換器、6…フィルタ、7…FFTアナライザ、8…演算装置、9…加速度ピックアップ、10…振動計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の運転時に発生する振動を回転部又は非回転部で計測する第1のステップと、
この第1のステップで計測された振動信号に対し前記回転機械の固有振動数に着目して周波数分析を行う第2のステップと、
この第2のステップにより周波数分析された前記固有振動数の周波数成分が抽出できるよう所定時間連続的に平均化処理を実施して周波数応答を得る第3のステップと、
この第3のステップによって得られる周波数応答から回転軸系の安定性を評価する第4のステップと、
を備えることを特徴とする回転機械の軸系安定性計測方法。
【請求項2】
請求項1記載の回転機械の軸系安定性計測方法において、
前記第3のステップにより得られる周波数応答から当該周波数における減衰率を求める第5のステップを設け、
前記第4のステップは、前記第5のステップで求められた減衰率の大きさから回転軸系の安定性を評価する
ことを特徴とする回転機械の軸系安定性計測方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の回転機械の軸系安定性計測方法において、
前記第1のステップで計測された振動信号が入力されると当該周波数の周辺帯域に対してバンドパスフィルター処理を施して、当該周波数帯域のゲインを向上させたことを特徴とする回転機械の軸系安定性計測方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の回転機械の軸系安定性計測方法において、
前記第1のステップで計測された振動信号が入力されると当該周波数の周辺帯域に対してバンドエルミネートドフィルター処理を施して、当該周波数帯域のゲインを向上させたことを特徴とする回転機械の軸系安定性計測方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の回転機械の軸系安定性計測方法において、
前記第3のステップで周波数分析を実施する際に、当該周波数の周辺帯域を分析範囲とするズーミング処理を行って周波数分解能を向上させたことを特徴とする回転機械の軸系安定性計測方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の回転機械の軸系安定性計測方法において、
前記回転機械の現在までの運転条件の変化に対する前記第4のステップで評価される回転軸系の安定性の変化から、将来の回転軸系の安定性を推定する第6のステップを設けたことを特徴とする回転機械の軸系安定性計測方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の回転機械の軸系安定性計測方法により評価される回転軸系安定性の結果から回転機械の運転条件を調整して運転することを特徴とする回転機械の運転方法。
【請求項8】
請求項7記載の回転機械の運転方法において、
前記回転機械の運転条件の調整として、前記回転部の軸受給油温度を調整することを特徴とする回転機械の運転方法。
【請求項1】
回転機械の運転時に発生する振動を回転部又は非回転部で計測する第1のステップと、
この第1のステップで計測された振動信号に対し前記回転機械の固有振動数に着目して周波数分析を行う第2のステップと、
この第2のステップにより周波数分析された前記固有振動数の周波数成分が抽出できるよう所定時間連続的に平均化処理を実施して周波数応答を得る第3のステップと、
この第3のステップによって得られる周波数応答から回転軸系の安定性を評価する第4のステップと、
を備えることを特徴とする回転機械の軸系安定性計測方法。
【請求項2】
請求項1記載の回転機械の軸系安定性計測方法において、
前記第3のステップにより得られる周波数応答から当該周波数における減衰率を求める第5のステップを設け、
前記第4のステップは、前記第5のステップで求められた減衰率の大きさから回転軸系の安定性を評価する
ことを特徴とする回転機械の軸系安定性計測方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の回転機械の軸系安定性計測方法において、
前記第1のステップで計測された振動信号が入力されると当該周波数の周辺帯域に対してバンドパスフィルター処理を施して、当該周波数帯域のゲインを向上させたことを特徴とする回転機械の軸系安定性計測方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の回転機械の軸系安定性計測方法において、
前記第1のステップで計測された振動信号が入力されると当該周波数の周辺帯域に対してバンドエルミネートドフィルター処理を施して、当該周波数帯域のゲインを向上させたことを特徴とする回転機械の軸系安定性計測方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の回転機械の軸系安定性計測方法において、
前記第3のステップで周波数分析を実施する際に、当該周波数の周辺帯域を分析範囲とするズーミング処理を行って周波数分解能を向上させたことを特徴とする回転機械の軸系安定性計測方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の回転機械の軸系安定性計測方法において、
前記回転機械の現在までの運転条件の変化に対する前記第4のステップで評価される回転軸系の安定性の変化から、将来の回転軸系の安定性を推定する第6のステップを設けたことを特徴とする回転機械の軸系安定性計測方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の回転機械の軸系安定性計測方法により評価される回転軸系安定性の結果から回転機械の運転条件を調整して運転することを特徴とする回転機械の運転方法。
【請求項8】
請求項7記載の回転機械の運転方法において、
前記回転機械の運転条件の調整として、前記回転部の軸受給油温度を調整することを特徴とする回転機械の運転方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−133362(P2011−133362A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293268(P2009−293268)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]