説明

回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置および絶縁欠陥検査方法

【課題】回転電機巻線の、試験対象部位以外での放電発生や絶縁劣化を防止でき、高圧端子側コイルの潜在的な絶縁欠陥を確実に検出できる回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置を得ることである。
【解決手段】単極インパルス電源と、電源から導出された第1の電源配線と第2の電源配線と、第1の電源配線と第2の電源配線とに接続された高周波リアクトルと、第1の電源配線の外部配線部に配設された部分放電検出センサとを備えており、第1の電源配線が、回転電機巻線の一端に接続する配線であり、第2の電源配線が回転電機巻線の他端に接続する配線であり、高周波リアクトルが、そのインダクタンスを変えることができる可変高周波リアクトルである回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置と絶縁欠陥検査方法とに関し、特に、インバータ駆動回転電機の高圧端子側巻線を形成するコイルの巻始めと巻終わりとの間の絶縁欠陥を検出する、回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置と絶縁欠陥検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気エネルギーの効率的利用のため、インバータ駆動回転電機の需要が高まっている。インバータ駆動回転電機には高い絶縁信頼性が要求されるので、製品出荷前に回転電機巻線を形成するコイルの隣り合う電線間、つまりターン間の絶縁検査が行われている。
絶縁検査における、ターン間が完全に短絡した欠陥を検出する検査は、コイルに過電圧を加えて試験する方法が知られている。
しかし、最近は、例えば、インバータ駆動中に大きな電圧がかかる回転電機巻線の高圧端子側コイルに、短絡に至る前に部分放電を発生させ、絶縁劣化を進行させる潜在的な絶縁欠陥が、存在するかどうかを判別する絶縁検査が要求されている。
すなわち、製品出荷の検査時に、コイルに生じた潜在的な絶縁欠陥を検出し、不良品を除くことにより、製品の長期信頼性を確保できる絶縁検査が望まれている。
【0003】
従来のコイルに生じた潜在的な絶縁欠陥を検出する検査装置として、試験体の電動機の巻線に高周波交流電圧を印加する高周波電源と、試験体に接続された電源線から結合コンデンサを介して接地された接続線に設けられた電流プローブ1と、巻線を形成するコイル間の接続部に接地された電流プローブ2とを備えた絶縁診断装置がある。
この絶縁診断装置は、コイル絶縁部の部分放電により検出される、電流プローブ1の放電電流の極性と電流プローブ2の放電電流の極性とを比較して、コイルの層間絶縁に部分放電が発生していることを検出するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、従来のコイルに生じた潜在的な絶縁欠陥を検出する検査装置として、試験体の電動機の巻線にパルス電圧を印加するパルス電源と、パルス電源に接続された巻線の端子とアース間の電圧を検出する電圧プローブと、巻線をアースする接続線が貫通された電流検出器と、巻線に印加されたパルス電圧の波形と電流検出器で検出された電流の波形とを観測する観測手段であるオシロスコープとを備えた巻線絶縁診断装置がある。
この巻線絶縁診断装置は、巻線に印加するパルス電圧波形に同期させた形で、電流検出器の電流波形を観測し、電流波形にコロナ放電に起因して発生した、立上がり時間とパルス幅が短いパルスが重畳した電流波形を観測することにより、巻線のターン間にある潜在的な絶縁欠陥を検出するものである(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−365326号公報(第5頁、第6頁、第1図)
【特許文献2】特開平09−257862号公報(第5頁、第7−8頁、第1図、第5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の絶縁診断装置は、試験体の電動機の巻線に高周波交流電圧を印加し、電流プローブ1の放電電流の極性と電流プローブ2の放電電流の極性とを比較して、コイルの層間絶縁に部分放電が発生していることを検出するものである。
しかし、巻線に印加される電圧が高周波交流電圧であり、インバータ駆動回転電機における、インパルス電圧の印加に起因して発生する絶縁不良モードを検出できない場合があるという問題があった。また、部分放電を検出するのに、少なくとも電流プローブが2個必要であり、装置のコストが高くなるとの問題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載の巻線絶縁診断装置は、インバータ駆動回転電機に印加されるのと同様な、パルス電圧を巻線に印加するものであり、巻線のターン間にコロナ放電が発生するまで印加電圧を段階的に上昇させて、電流検出器で測定した電流の波形が、パルスが重畳した形状となることより、巻線のターン間にある潜在的な絶縁欠陥を検出するものである。
しかし、巻線に流れる電流に重畳したパルス電流を検出するものであり、検出感度が低いとの問題があった。また、巻線に印加された電圧は、巻線を構成する各コイルに分担されて印加されるため、放電を発生させるためには、印加電圧を高くする必要があり、回転電機巻線の試験対象部位以外での放電発生や回転電機巻線の絶縁劣化がおこるとの問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、回転電機巻線の試験対象部位以外での放電発生や回転電機巻線の絶縁劣化を防止でき、回転電機巻線における高圧端子側コイルの潜在的な絶縁欠陥を確実に検出できるとともに、装置コストの低減が可能な回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置およびこの装置を用いた絶縁欠陥検査方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係わる回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置は、回転電機巻線にインパルス電圧を印加する単極インパルス電源と、単極インパルス電源から導出された、第1の電源配線と第2の電源配線と、第1の電源配線と第2の電源配線とに接続され、単極インパルス電源に対して電気的に並列になるように配設された高周波リアクトルと、第1の電源配線の外部配線部に配設された部分放電検出センサと、部分放電検出センサに接続された部分放電判定装置とを備えており、第1の電源配線が、回転電機巻線の一端に接続する配線であり、第2の電源配線が、アースに接続されるとともに、回転電機巻線の他端に接続する配線であり、高周波リアクトルが、そのインダクタンスを変えることができる可変高周波リアクトルである。
【0010】
本発明に係わる回転電機巻線の絶縁欠陥検査方法は、可変高周波リアクトルのインダクタンスを、飽和点インダクタンスから増加させ、負ピーク比Prnを、その飽和値から数%低い値となるインダクタンスである試験インダクタンスに調節する工程と、可変高周波リアクトルのインダクタンスを、試験インダクタンスに設定して、回転電機巻線に、単極インパルス電源から試験電圧を印加し、部分放電が部分放電検出センサにより検出されたか否かを部分放電判定装置により判定する工程とを備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係わる回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置は、回転電機巻線にインパルス電圧を印加する単極インパルス電源と、単極インパルス電源から導出された、第1の電源配線と第2の電源配線と、第1の電源配線と第2の電源配線とに接続され、単極インパルス電源に対して電気的に並列になるように配設された高周波リアクトルと、第1の電源配線の外部配線部に配設された部分放電検出センサと、部分放電検出センサに接続された部分放電判定装置とを備えており、第1の電源配線が、回転電機巻線の一端に接続する配線であり、第2の電源配線が、アースに接続されるとともに、回転電機巻線の他端に接続する配線であり、高周波リアクトルが、そのインダクタンスを変えることができる可変高周波リアクトルであり、回転電機巻線の試験対象部位以外での放電発生や回転電機巻線の絶縁劣化を防止でき、回転電機巻線における高圧端子側コイルの潜在的な絶縁欠陥を確実に検出できるとともに、装置コストの低減が可能である。
【0012】
本発明に係わる回転電機巻線の絶縁欠陥検査方法は、可変高周波リアクトルのインダクタンスを、飽和点インダクタンスから増加させ、負ピーク比Prnを、その飽和値から数%低い値となるインダクタンスである試験インダクタンスに調節する工程と、可変高周波リアクトルのインダクタンスを、試験インダクタンスに設定して、回転電機巻線に、単極インパルス電源から試験電圧を印加し、部分放電が部分放電検出センサにより検出されたか否かを部分放電判定装置により判定する工程とを備えており、回転電機巻線の試験対象部位以外での放電発生や回転電機巻線の絶縁劣化を防止でき、回転電機巻線における高圧端子側コイルの潜在的な絶縁欠陥を確実に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1に係わる回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置のブロック図である。
【図2】比較の絶縁欠陥検査装置のブロック図である。
【図3】比較の絶縁欠陥検査装置を用いて、回転電機巻線に単発のインパルス電圧を印加した場合の、インパルス電圧の立ち上がり時間Tuと高圧端子側コイル電圧Ecとの関係を示す図である。
【図4】比較の絶縁欠陥検査装置を用いて、回転電機巻線に単発のインパルス電圧を印加した場合の、巻線端子間電圧Esと高圧端子側コイル電圧Ecとの経時変化を示す図である。
【図5】比較の絶縁欠陥検査装置を用いて、回転電機巻線にインパルス電圧を印加した場合の、回転電機巻線の1相あたりのコイル数と、第1のコイル電圧負ピークPcnと第1の端子間電圧負ピークPsnとの比Pcn/Psnである負ピーク比Prnとの関係を示す図である。
【図6】比較の絶縁欠陥検査装置を用いて、潜在的な絶縁欠陥を有する回転電機巻線に連続してインパルス電圧を印加した場合の、巻線端子間電圧Esと高圧端子側コイル電圧Ecとの経時変化および検出された放電信号Sdを示す図である。
【図7】実施の形態1の絶縁欠陥検査装置を用いて、回転電機巻線に単発のインパルス電圧を印加した場合の、巻線端子間電圧Esと高圧端子側コイル電圧Ecとの経時変化を示す図である。
【図8】実施の形態1の絶縁欠陥検査装置を用いて、回転電機巻線に単発のインパルス電圧を印加した場合の、絶縁欠陥検査装置の高周波リアクトルのインダクタンスと、負ピーク比Prnとの関係を示す図である。
【図9】実施の形態1の絶縁欠陥検査装置を用いて、潜在的な絶縁欠陥を有する回転電機巻線に連続してインパルス電圧を印加した場合の、巻線端子間電圧Esと高圧端子側コイル電圧Ecとの経時変化および検出された放電信号Sdを示す図である。
【図10】実施の形態1の絶縁欠陥検査装置を用い、回転電機巻線における高圧端子側コイルの潜在的な絶縁欠陥を検査する手順を示す工程図である。
【図11】本発明の実施の形態2に係わる回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置のブロック図である。
【図12】本発明の実施の形態3に係わる回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置のブロック図である。
【図13】インダクタンス良否判定装置の構成を示すブロック図である。
【図14】回転電機巻線にインパルス電圧を印加した時の巻線端子間電圧の経時変化曲線を示す図である。
【図15】不良巻線端子間電圧の経時変化曲線と正常巻線端子間電圧の経時変化曲線とから求めた電圧の差分の経時変化曲線を示す図である。
【図16】インパルス電圧を印加後の可変高周波リアクトルの切り離し時間と、電圧の差分との関係を示す図である。
【図17】実施の形態3の絶縁欠陥検査装置を用い、回転電機巻線における高圧端子側コイルの潜在的な絶縁欠陥と回転電機巻線のインダクタンス不良とを検査する手順を示す工程図である。
【図18】本発明の実施の形態4に係わる回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係わる回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置のブロック図である。
図1には、本実施の形態の回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置(絶縁欠陥検査装置と記す)100で検査される回転電機の回転電機巻線1も示している。
図1に示すように、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置100は、単極インパルス電圧を発生する単極インパルス電源3と、可変高周波リアクトル6と、高周波リアクトル制御装置7と、部分放電検出センサ8と、部分放電判定装置9とを備えている。
【0015】
単極インパルス電源3は、第1の電源配線3aと第2の電源配線3bとを導出しており、第1,第2の電源配線3a,3bは、図1において点線で囲まれた装置内の内部配線部と、装置と回転電機巻線1の端子とを接続する外部配線部とで形成されている。
また、第1の電源配線3aは、外部配線部に部分放電検出センサ8が配設されているとともに、回転電機巻線1における、一相の巻線の反中性点側の端子と接続される。また、第2の電源配線3bは、アースに接続されているとともに、回転電機巻線1の他の二相の巻線における反中性点側の各端子と接続される。
第1,第2の電源配線3a,3bの、内部配線部と外部配線部とは、一体のものであっても良く、あるいは、別体のものであっても良い。
【0016】
例えば、図1では、回転電機巻線1におけるU相の巻線の反中性点側の端子に、第1の電源配線3aが接続されており、回転電機巻線1におけるV相とW相との巻線の反中性点側の両端子に、第2の電源配線3bが接続されている。
そして、単極インパルス電源3は、第1,第2の電源配線3a,3bを介して、インパルス電圧を、回転電機巻線1に印加する。
【0017】
可変高周波リアクトル6は、単極インパルス電源3における第1の電源配線3aと第2の電源配線3bとに接続されており、単極インパルス電源3に対して、電気的に並列に接続されている。そこで、可変高周波リアクトル6は、単極インパルス電源3と第1,第2の電源配線3a,3bで電気的に接続された回転電機巻線1に対しても、並列に接続されるようになっている。
また、可変高周波リアクトル6は、高周波リアクトル制御装置7と第4の配線7dで接続されており、高周波リアクトル制御装置7からの信号により、そのインダクタンスを変えることができる。
【0018】
高周波リアクトル制御装置7は、第1の配線7aで第1の電源配線3aと接続され、第2の配線7bで第2の電源配線3bとに接続されているとともに、第3の配線7cで、第1の電源配線3aが接続される一相の巻線における高圧端子側コイル2の巻終わり側に設けた計測端子(図示せず)と、接続するようになっている。
第3の配線7cも、装置内の内部配線部と、装置と計測端子とを接続する外部配線部とが、一体のものであっても良く、あるいは、別体のものであっても良い。
【0019】
そして、高周波リアクトル制御装置7は、第1の配線7aと第2の配線7bとで、単極インパルス電源3で印加された単極インパルス電圧により発生する、回転電機巻線1の端子間電圧(巻線端子間電圧と記す)Esを計測する。
そして、第1の配線7aと第3の配線7cとで、単極インパルス電源3で印加された単極インパルス電圧により発生する高圧端子側コイル2の巻始め巻終わり間電圧(高圧端子側コイル電圧と記す)Ecを計測する。
【0020】
また、高周波リアクトル制御装置7は、巻線端子間電圧Esと高圧端子側コイル電圧Ecとの計測データに基づき、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを変化させる信号を第4の配線7dで可変高周波リアクトル6に入力して、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを所定の値に制御する。
【0021】
第1の電源配線3aの外部配線部に配設された部分放電検出センサ8は、高圧端子側コイル2に発生する部分放電を検出する。
そして、部分放電検出センサ8は、配線8aで部分放電判定装置9と接続されており、検出された信号を、配線8aで部分放電判定装置9に入力する。
部分放電判定装置9は、部分放電検出センサ8から、配線8aを介して入力された信号に基づき部分放電の有無を判定する。
【0022】
次に、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置100が、回転電機巻線1における高圧端子側コイル2の潜在的な絶縁欠陥を確実に検出できる機構を説明する。
まず、比較のための高周波リアクトルを備えていない絶縁欠陥検査装置(比較の絶縁欠陥検査装置と記す)の特性について説明する。
図2は、比較の絶縁欠陥検査装置のブロック図である。
図2に示すように、比較の絶縁欠陥検査装置300は、単極インパルス電源3と部分放電検出センサ8と部分放電判定装置9とを備えており、単極インパルス電源3の、回転電機巻線1への接続、部分放電検出センサ8の配設、部分放電判定装置9と部分放電検出センサ8との接続は、本実施の絶縁欠陥検査装置100と同様である。
【0023】
図3は、比較の絶縁欠陥検査装置を用いて、回転電機巻線に単発のインパルス電圧を印加した場合の、インパルス電圧の立ち上がり時間Tuと高圧端子側コイル電圧Ecとの関係を示す図である。
図3に示すように高圧端子側コイル電圧Ecは、インパルス電圧の立ち上がり時間Tuが短くなると、大きくなる。
これは、インパルス電圧の立ち上がり時間Tuが短くすると、立ち上がり時間Tuの逆数で示される印加時のインパルス電圧の周波数fiが、回転電機巻線1の共振周波数ftより、十分に大きくなるためである。
【0024】
図4は、比較の絶縁欠陥検査装置を用いて、回転電機巻線に単発のインパルス電圧を印加した場合の、巻線端子間電圧Esと高圧端子側コイル電圧Ecとの経時変化を示す図である。
図4に示すように、巻線端子間電圧Esは、単極インパルス電源3からの電圧印加により、最初に大きな正ピーク(第1の端子間電圧正ピークと記す)Pspを示した後、単極インパルス電源3と回転電機巻線1とのインピーダンスで決まる共振周波数fsrで振動しながら減衰する。そして、巻線端子間電圧Esにおける、第1の端子間電圧正ピークPsp後に発生する第1の負ピーク(第1の端子間電圧負ピークと記す)Psnも、かなり大きい値である。
【0025】
また、高圧端子側コイル電圧Ecも、最初に正ピーク(第1のコイル電圧正ピークと記す)Pcpを示した後、所定の周波数fcrで減衰する。しかし、第1のコイル電圧正ピークPcp後に発生する、高圧端子側コイル電圧Ecにおける第1の負ピーク(第1のコイル電圧負ピークと記す)Pcnは、かなり小さく、高圧端子側コイル2に加わる負ピークの電圧は、非常に小さい。
【0026】
これは、巻線端子間電圧Esの振動周波数fsrが、回転電機巻線1の共振周波数ft以下であり、回転電機巻線1のインピーダンスは、インダクタンス成分が支配的となり、回転電機巻線1の各コイルにかかる電圧が、巻線端子間電圧Esを各コイルで均等に分担した電圧となるためである。
【0027】
このことを明確にするため、図5に、比較の絶縁欠陥検査装置を用いて、回転電機巻線にインパルス電圧を印加した場合の、回転電機巻線の1相あたりのコイル数と、第1のコイル電圧負ピークPcnと第1の端子間電圧負ピークPsnとの比Pcn/Psn(負ピーク比Prnと記す)との関係を示す。
【0028】
図5から、明らかなように、回転電機巻線1の1相あたりのコイル数の増加にともない、負ピーク比Prnが低下する。例えば、図2に示した回転電機巻線1のコイル数では、高圧端子側コイルには巻線端子間電圧Esの約6分の1の電圧しかかからない。
そこで、高圧端子側コイル2に十分な電圧を印加するには、巻線端子間電圧Esの振動周波数fsrを、回転電機巻線1の共振周波数ftより大きくする必要がある。
【0029】
図6は、比較の絶縁欠陥検査装置を用いて、潜在的な絶縁欠陥を有する回転電機巻線に連続してインパルス電圧を印加した場合の、巻線端子間電圧Esと高圧端子側コイル電圧Ecとの経時変化および検出された放電信号Sdを示す図である。
図6に示すように、1回目のインパルス電圧の印加による、第1のコイル電圧正ピークPcpで、放電が発生しているが、それ以降のインパルス電圧の印加では、放電は発生しない。すなわち、放電信号Sdは、1回目のインパルスにおける第1のコイル電圧正ピークPcpでしか検出されない。
【0030】
比較の絶縁欠陥検査装置300は、1回目のインパルスにおける第1のコイル電圧正ピークPcpでしか、放電信号Sdを測定することができず、放電信号Sdを取り逃す可能性が高い。すなわち、放電有無の判定に誤差を生じ易く、高圧端子側コイル2の潜在的な絶縁欠陥を検出する精度が低い。
また、連続してインパルス電圧を印加した場合でも、各インパルスにおける、第1のコイル電圧負ピークPcnはかなり小さく、高圧端子側コイル2に加わる負ピークの電圧は、非常に小さい。
【0031】
比較の絶縁欠陥検査装置300が、1回目のインパルスにおける第1のコイル電圧正ピークPcpでしか、放電を発生させることができない原因は、単極性電圧下において絶縁物間で放電が発生すると、絶縁物表面が帯電し、次の放電発生が抑制されるためである。
高圧端子側コイル2に、放電を連続的に発生させるには、さらに高い電圧を印加するか、逆極性の電圧を印加することが必要である。
【0032】
絶縁欠陥検査装置において、インパルス電圧を大きくすると、試験対象部に複数回の放電を発生させることはできるが、試験対象部位以外、例えば対地間でも放電が発生する。この場合、試験対象部の放電かその他の部分の放電かを区別しがたく、高圧端子側コイルにおける絶縁欠陥存在の有無を判断できない。また、インパルス電圧を高くすると、試験対象部位以外に絶縁上の損傷を与える可能性も生じる。
また、両極性インパルス電源を用い逆極性の電圧を印加することにより、試験対象部に複数回の放電を発生させることはできるが、両極性インパルス電源は高価である。
【0033】
次に、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置100の特性について説明する。
図7は、実施の形態1の絶縁欠陥検査装置を用いて、回転電機巻線に単発のインパルス電圧を印加した場合の、巻線端子間電圧Esと高圧端子側コイル電圧Ecとの経時変化を示す図である。
図7の例は、図2の比較の絶縁欠陥検査装置300での試験に用いられたのと同じ回転電機巻線1を、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置100に用いた場合を示している。この例では、絶縁欠陥検査装置100の可変高周波リアクトル6のインダクタンスを1mHに設定している。
【0034】
図7に示すように、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置100の場合も、単極インパルス電源3からの電圧印加により、巻線端子間電圧Esは、第1の端子間電圧正ピークPspを示した後、単極インパルス電源3と可変高周波リアクトル6と回転電機巻線1とのインピーダンスで決まる共振周波数fstで振動しながら減衰する。この周波数は、比較の絶縁欠陥検査装置300の場合に比べて高くなっている。
そして、巻線端子間電圧Esにおける第1の端子間電圧負ピークPsnも、かなり大きい値である。
【0035】
また、高圧端子側コイル電圧Ecも、第1のコイル電圧正ピークPcpを示した後、所定の周波数fctで減衰する。この周波数も、比較の絶縁欠陥検査装置300の場合に比べて高くなっている。
また、高圧端子側コイル電圧Ecにおける、第1のコイル電圧負ピークPcnは、比較の絶縁欠陥検査装置300の場合とは異なり大きく、高圧端子側コイル2に大きな負ピークの電圧が加わる。すなわち、負ピーク比Prnが、比較の絶縁欠陥検査装置300の場合より、大きくなっている。
【0036】
図8は、実施の形態1の絶縁欠陥検査装置を用いて、回転電機巻線に単発のインパルス電圧を印加した場合の、絶縁欠陥検査装置の高周波リアクトルのインダクタンスと、負ピーク比Prnとの関係を示す図である。
図8に示すように、可変高周波リアクトル6のインダクタンスが小さくなると、負ピーク比Prnが大きくなり、特定のインダクタンス以下では、負ピーク比Prnの増加が飽和し、一定となる。
【0037】
可変高周波リアクトル6のインダクタンスが小さくしていくと、負ピーク比Prnが大きくなるのは、巻線端子間電圧Esの、単極インパルス電源3と可変高周波リアクトル6と回転電機巻線1とのインピーダンスで決まる共振周波数fstが、回転電機巻線1の共振周波数ftより、十分に高くなることにより、高圧端子側コイル2が、大きい第1の端子間電圧負ピークPsnを有する巻線端子間電圧Esのかなりの部分を、分担するためである。
【0038】
しかし、単極インパルス電源3から印加されるインパルス電圧の周波数を極端に高くすると、高電圧が印加される時間が非常に短くなり、放電が発生するのに必要な放電の起点となる初期電子が、存在しなくなることがあり、放電発生確率が低下する。
すなわち、負ピーク比Prnの増加が飽和する領域まで、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを小さくすると、部分放電の発生確率が低下する。
【0039】
そのため、可変高周波リアクトル6のインダクタンスは、負ピーク比Prnを飽和領域に入る直前のインダクタンス値であることが好ましい。このように可変高周波リアクトル6のインダクタンス値を設定すると、高圧端子側コイル2に十分に大きな第1のコイル電圧負ピークPcnを発生できるとともに、部分放電の発生確率を低下させることがない。
【0040】
次に、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置の動作機構を説明する。
単極インパルス電源3が、回転電機巻線1に放電を発生させない程度のインパルス電圧を印加する。この時、可変高周波リアクトル6のインダクタンスが、高周波リアクトル制御装置7からの信号により、所定の値に設定される。
高周波リアクトル制御装置7が、インパルス電圧が印加されたことにより発生した第1の端子間電圧負ピークPsnと第1のコイル電圧負ピークPcnとを計測するとともに、負ピーク比Prnを算出する。
【0041】
また、高周波リアクトル制御装置7が、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを、1度、負ピーク比Prnの増加が飽和するまで小さくした後、負ピーク比Prnが、その飽和値Bより数%低い値、例えば、0.97B〜0.93Bとなるように、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを調節する。
可変高周波リアクトル6のインダクタンスが、上記の所望の値に調節されると、単極インパルス電源3が、回転電機巻線1へ試験検査用のインパルス電圧を印加して、部分放電検出センサ8で測定された信号により、部分放電判定装置9が部分放電検出の有無を判定する。
【0042】
図9は、実施の形態1の絶縁欠陥検査装置を用いて、潜在的な絶縁欠陥を有する回転電機巻線に連続してインパルス電圧を印加した場合の、巻線端子間電圧Esと高圧端子側コイル電圧Ecとの経時変化および検出された放電信号Sdを示す図である。
図9に示すように、各インパルス電圧の印加において、第1のコイル電圧正ピークPcpと第1のコイル電圧負ピークPcnとで放電が発生し、放電信号Sdが検出される。
これは、本実施の絶縁欠陥検査装置100が、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを制御することにより、各インパルスの印加において、第1のコイル電圧負ピークPcnを大きくできるためである。
【0043】
また、2回目以降のインパルス電圧の印加においても、第1のコイル電圧正ピークPcpと第1のコイル電圧負ピークPcnとで放電が発生し、放電信号Sdが検出されるのは、1回目のインパルス電圧の印加で発生した大きい第1のコイル電圧負ピークPcnが、1回目のインパルス電圧の印加で発生した第1のコイル電圧正ピークPcpに起因する放電によるコイル絶縁体の帯電を消滅させ、放電発生が抑制されるのを防止するためである。2回目以降のインパルス電圧の印加においても、同様な機構により、コイル絶縁体の帯電を防止し、各インパルス電圧の印加において、継続的に放電を発生させる。
【0044】
本実施の形態の絶縁欠陥検査装置100に用いられる部分放電検出センサ8は、高周波CTや高周波アンテナが好ましい。そして、商用周波数の交流電圧の印加時に比べ、時間変化の早いインパルス電圧の印加時は、100MHz以下のノイズ強度が高いので、部分放電の測定時にはこのノイズ周波数帯域をフィルタで遮断し、ノイズ周波数よりも高い周波数の部分放電信号を検出することが好ましい。
例えば、フィルタは、部分放電検出センサ8と部分放電判定装置9とを接続する配線8aに設ける。
【0045】
次に、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置を用いて、回転電機の回転電機巻線における高圧端子側コイルの潜在的な絶縁欠陥を検査する方法について説明する。
図10は、実施の形態1の絶縁欠陥検査装置を用い、回転電機巻線における高圧端子側コイルの潜在的な絶縁欠陥を検査する手順を示す工程図である。
【0046】
図10に示すように、本実施の形態の回転電機巻線の絶縁欠陥検査方法では、以下の工程が、順番に実施される。
第1の工程は、回転電機巻線1に、単極インパルス電源3から導出された、部分放電検出センサ8が配設されている第1の電源配線3aと、第2の電源配線3bとを接続し、第1の電源配線3aが接続された一相の回転電機巻線における高圧端子側コイル2の巻終わり側に、高周波リアクトル制御装置7の第3の配線7cを接続する。
【0047】
第2の工程は、回転電機巻線1に、単極インパルス電源3から、放電が発生しない程度のインパルス電圧を印加する。
第3の工程は、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを低減して、負ピーク比Prnを増加させる。
第4の工程は、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを、負ピーク比Prnの増加が飽和するインダクタンス(飽和点インダクタンスと記す)に調節する。
【0048】
第5の工程は、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを、飽和点インダクタンスから増加させ、負ピーク比Prnを、その飽和値から数%低い値となるインダクタンス(試験インダクタンスと記す)に調節する。
第6の工程は、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを、試験インダクタンスに設定して、回転電機巻線1に、単極インパルス電源3から試験電圧を印加し、部分放電が部分放電検出センサ8により検出されたか否かを部分放電判定装置9により判定する。
第7の工程は、回転電機巻線1の判定後に、回転電機巻線1への電圧印加が停止され、検査を終了する。
【0049】
そして、部分放電判定装置9の判定により、部分放電が検出されれば、回転電機巻線の高圧端子側コイルに絶縁欠陥があると判定し、この回転電機巻線が設けられた回転電機を不合格品とし、部分放電が検出されなければ、回転電機巻線の高圧端子側コイルに絶縁欠陥が無いと判定し、この回転電機巻線が設けられた回転電機を合格品とする。
本実施の形態の絶縁欠陥検査方法は、高周波リアクトル制御装置7に入力される巻線端子間電圧Esと高圧端子側コイル電圧Ecとの信号により、高周波リアクトル制御装置7が可変高周波リアクトル6のインダクタンスを制御するので、第3〜第5の工程は、自動で行うことができる。
【0050】
本実施の形態の絶縁欠陥検査方法では、試験時に、回転電機巻線1における高圧端子側コイル巻線2の巻始め巻終わり間の電圧を計測するための計測端子を、巻線の途中に設ける必要がある。しかし、出荷試験時の回転電機において、回転電機巻線1に計測端子を設けることができない場合は、第1から第5の工程を、計測端子を設けることが可能な回転電機巻線単体について実施し、まず、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを試験インダクタンスに調節する。
そして、可変高周波リアクトル6のインダクタンスが試験インダクタンスに調節された絶縁欠陥検査装置の、第1,第2の電源配線3a,3bを、回転電機の回転電機巻線の端子に接続し、第6と第7との工程を実施する。
【0051】
本実施の形態の絶縁欠陥検査装置100は、単極インパルス電源3の第1,第2の電源配線3a,3bに、インダクタンスを変えることができる可変高周波リアクトル6が接続されている。そこで、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを変えて、単極インパルス電圧印加後の巻線端子間電圧Esの振動周波数fstを、回転電機巻線1の共振周波数ftより、十分に高くすることにより、高圧端子側コイル2に巻線端子間電圧Esのかなりの部分をかけることができる。
【0052】
例えば、第1のコイル電圧負ピークPcnと第1の端子間電圧負ピークPsnとの比である負ピーク比Prnを、0.7〜0.8にできる。すなわち、高圧端子側コイル電圧Ecにおける第1のコイル電圧負ピークPcnを、第1の端子間電圧負ピークPsnの70〜80%程度に大きくできる。
【0053】
本実施の形態の絶縁欠陥検査装置100は、高圧端子側コイル電圧Ecにおける第1のコイル電圧負ピークPcnを十分に大きくできるので、潜在的な絶縁欠陥を有する高圧端子側コイル2での、放電回数を多くでき、放電検出センサ8が放電を多少取り逃しても問題にはならず、潜在的な絶縁欠陥の検出を確実に行うことができる。
【0054】
また、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置100は、高圧端子側コイル2での放電回数を多くするのに、回転電機巻線1に、必要以上に高い電圧を印加する必要がないので、試験対象部位以外での放電の発生がなく、この面からも、絶縁欠陥の検出を確実に行える。また、試験対象部位以外で絶縁上の損傷を生じることもない。
【0055】
また、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置100は、試験に用いられる印加電圧が、インパルス電圧であるので、インバータ駆動回転電機における、インパルス電圧に起因して発生する絶縁不良モードを検出できる。
また、回転電機巻線にインパルス電圧を印加する電源が、単極インパルス電源であるとともに、部分放電を検出する部分放電検出センサが1個であり、装置コストを低くできる。
【0056】
本実施の形態では、絶縁欠陥検査装置で、コイルが1相あたり4個の回転電機巻線の回転電機を検査することを例示したが、これに限定されず、1相あたり複数個のコイルでなる回転電機巻線を有する回転電機の検査にも用いることができる。
また、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置は、EV用モータ、サーボモータ等、全ての回転電機の絶縁検査に適用可能である。
【0057】
また、本実施の形態では、単極インパルス電源の第1の電源配線3aを、回転電機巻線における一相の巻線の反中性点側の端子に接続し、アースに接続された第2の電源配線3bを回転電機巻線の他の二相の巻線における反中性点側の各端子に接続して検査することを例示したが、第1の電源配線3aを、回転電機巻線のUVW相の各端子に一括して接続し、アースに接続された第2の電源配線を回転電機巻線の中性点に接続して検査することができる。
【0058】
実施の形態2.
図11は、本発明の実施の形態2に係わる回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置のブロック図である。
図11に示すように、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置200は、単極インパルス電源3と、手動でインダクタンスを変えることができる手動可変高周波リアクトル16と、部分放電検出センサ8と、部分放電判定装置9とを備えている。
そして、単極インパルス電源3と回転電機巻線11との接続、手動可変高周波リアクトル16と単極インパルス電源3との接続、部分放電判定装置9と部分放電検出センサ8との接続、部分放電検出センサ8の第1の電源配線3aの外部配線部への配設は、実施の形態1の絶縁欠陥検査装置100と同様である。
本実施の形態でも、部分放電検出センサ8は、高周波CTや高周波アンテナが好ましく、100MHz以下のノイズ周波数帯域を遮断するフィルタを用いることが好ましい。
【0059】
本実施の形態の絶縁欠陥検査装置200は、図3に示された、インパルス電圧の立ち上がり時間Tuと高圧端子側コイル電圧Ecとの関係が分かっている回転電機巻線を有する回転電機(Tu−Ec特性判明回転電機と記す)に用いられるものである。
次に、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置200を用いて、Tu−Ec特性判明回転電機の回転電機巻線11における高圧端子側コイルの潜在的な絶縁欠陥を検査する方法について説明する。
検査は、以下の第1〜第6の工程を順番に実施して行われる。
【0060】
第1の工程は、回転電機巻線11のTu−Ec関係から、高圧端子側コイル電圧Ecが、その飽和値から数%小さくなるインパルス電圧の立ち上がり時間Tusを求め、この立ち上がり時間Tusの逆数で表される印加時のインパルス電圧の周波数(適正インパルス電圧の周波数と記す)fisを求める。
第2の工程は、回転電機巻線11に、単極インパルス電源3から導出された、部分放電検出センサ8が配設されている第1の電源配線3aと、第2の電源配線3bとを接続する。
【0061】
第3の工程は、単極インパルス電源3と手動可変高周波リアクトル16と回転電機巻線11とから成る系の共振周波数fsmを、インピーダンスメータで測定して求める。
第4の工程は、単極インパルス電源3と手動可変高周波リアクトル16と回転電機巻線11とから成る系の共振周波数fsmが、適正インパルス電圧の周波数fisと同じになるように、手動可変高周波リアクトル16のインダクタンスを調節する。
【0062】
第5の工程は、単極インパルス電源3と手動可変高周波リアクトル16と回転電機巻線11とから成る系の共振周波数fsmを適正インパルス電圧の周波数fisと同じにした状態で、回転電機巻線11に、単極インパルス電源3から試験電圧を印加し、部分放電が部分放電検出センサ8により検出されたか否かを部分放電判定装置9により判定する。
第6の工程は、回転電機巻線11の判定後に、回転電機巻線11への電圧印加が停止され、検査を終了する。
【0063】
本実施の形態の絶縁欠陥検査方法では、第3の工程で、単極インパルス電源3と手動可変高周波リアクトル16と回転電機巻線11とから成る系の共振周波数fsmを、インピーダンスメータで測定して求めているが、共振周波数fsmに対する単極インパルス電源3のインピーダンスの寄与が小さいので、単極インパルス電源3のインピーダンスを無視して、回転電機巻線11のインダクタンスL1と、回転電機巻線11のキャパシタンスCと、手動可変高周波リアクトル16のインダクタンスL2を用いて、下記の式から求めても良い。
【0064】
【数1】

【0065】
本実施の形態の絶縁欠陥検査装置200は、手動でインダクタンスを変えることができる手動可変高周波リアクトル16を備えており、手動可変高周波リアクトル16のインダクタンス値を変えることにより、単極インパルス電源3と手動可変高周波リアクトル16と回転電機巻線11とから成る系の共振周波数fsmを調節し、高圧端子側コイル電圧Ecが、その飽和値から数%小さくなるように設定することができる。
【0066】
本実施の形態の絶縁欠陥検査装置200も、実施の形態1の絶縁欠陥検査装置100と同様に、高圧端子側コイル電圧Ecにおける第1のコイル電圧負ピークPcnを十分に大きくできるので、潜在的な絶縁欠陥の検出を確実に行うことができ、試験対象部位以外での放電発生や回転電機巻線の絶縁劣化を防止でき、装置コストの低減も可能である。
【0067】
実施の形態3.
図12は、本発明の実施の形態3に係わる回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置のブロック図である。
図12に示すように、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置400は、可変高周波リアクトル6と第1の電源配線3aとの接続を切入する、すなわち、可変高周波リアクトル6と絶縁欠陥検査装置400の試験回路とを、接続したり切断したりする切り離しスイッチ12と、回転電機巻線1にインパルス電圧を印加し、切り離しスイッチ12を切にした後の巻線端子間電圧Esの経時変化から回転電機巻線1のインダクタンスの良否を判定するインダクタンス良否判定装置13とを備えている以外、実施の形態1の絶縁欠陥検査装置100と同様である。
【0068】
そして、インダクタンス良否判定装置13は、第1,第2の電源配線3a,3bに接続され、巻線端子間電圧が入力される。
また、切り離しスイッチ12には、印加電圧が数kVになることがあり、過電圧がかかることも予想されるので、印加電圧の2倍程度の耐電圧を有するスイッチが使用される。
【0069】
図13は、インダクタンス良否判定装置の構成を示すブロック図である。
図13に示すように、インダクタンス良否判定装置13は、巻線端子間電圧の経時変化データを記憶する記憶部17と、回転電機巻線のインダクタンスの良否を判定する判定部18と、図示しないが、切り離しスイッチ12を切にして、可変高周波リアクトル6と第1の電源配線3aとの接続を切った時に、入力されている巻線端子間電圧の経時変化を記憶部17に記憶する動作を行わせるスイッチ回路とを備えている。
【0070】
また、記憶部17は、正常な回転電機巻線の巻線端子間電圧(基準巻線端子間電圧と記す)Escの経時変化データを記憶する基準データ記憶部17aと、検査する回転電機巻線の巻線端子間電圧(検査巻線端子間電圧と記す)Esmの経時変化データを記憶する検査データ記憶部17bとを備えている。
そして、インダクタンス良否判定装置13に入力された巻線端子間電圧Esを、必要に応じて、基準データ記憶部17aに記憶させるか、検査データ記憶部17bに記憶させるかを選択する切換スイッチ回路も備えている。
【0071】
また、判定部18は、検査データ記憶部17bのデータと基準データ記憶部17aのデータとから、検査巻線端子間電圧Esmと基準巻線端子間電圧Escとの電圧の差分(EsmとEscとの電圧の差分と記す)の経時変化を求める演算部18aと、演算部18aのデータから、回転電機巻線のインダクタンスの良否を判段する判段部18bと、判断部18bからの信号でインダクタンスの良否の有無を知らせる警告部18cとを備えている。
【0072】
次に、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置400が、回転電機巻線の潜在的な絶縁欠陥に加え、インダクタンス不良も検出できる機構を説明する。
最初に、従来の回転電機巻線のインダクタンス不良を検出する方式を説明する。
一般的に、回転電機巻線にインパルス電圧を印加すると、巻線端子間電圧Esは、下記の式から求められる回転電機巻線共振周波数ftで振動しながら減衰する。下記の式において、L1は回転電機巻線のインダクタンスであり、Cは回転電機巻線のキャパシタンスである。すなわち、インダクタンスL1が小さい回転電機巻線ほど、巻線端子間電圧Esの振動周波数が高くなる。
【0073】
【数2】

【0074】
図14は、回転電機巻線にインパルス電圧を印加した時の巻線端子間電圧の経時変化曲線を示す図である。
図14に示すように、巻線端子間電圧は、上記、回転電機巻線のインダクタンスL1と回転電機巻線共振周波数ftとの関係式に基づき、所定の周波数で振動しながら減衰する。図14において、Aは、正常回転電機巻線の巻線端子間電圧の経時変化曲線(正常巻線端子間電圧の経時変化曲線と記す)であり、Bは、インダクタンスが正常回転電機巻線の半分である不良回転電機巻線の巻線端子間電圧の経時変化曲線(不良巻線端子間電圧の経時変化曲線と記す)である。
図14から、不良巻線端子間電圧の経時変化曲線Bの周波数fbが、正常巻線端子間電圧の経時変化曲線Aの周波数faより、高くなっているのがわかる。
【0075】
図15は、不良巻線端子間電圧の経時変化曲線と正常巻線端子間電圧の経時変化曲線とから求めた電圧の差分の経時変化曲線を示す図である。
不良巻線端子間電圧の経時変化曲線Bの周波数fbと正常巻線端子間電圧の経時変化曲線Aの周波数faが異なるので、図15に示すように、不良巻線端子間電圧の経時変化曲線Bと正常巻線端子間電圧の経時変化曲線Aとに、電圧の差分が発生している。
すなわち、従来の回転電機巻線のインダクタンスの良否を判定する装置では、検査する回転電機巻線の巻線端子間電圧の経時変化データを、基準となる正常回転電機巻線の巻線端子間電圧の経時変化データと比較して、電圧の差分をとることにより、検査する回転電機巻線の良否を判定している。
【0076】
しかし、実施の形態1の絶縁欠陥検査装置100では、検査する回転電機巻線1のインダクタンスより、十分に小さいインダクタンスを有する可変高周波リアクトル6が、検査する回転電機巻線1と並列に接続されており、回転電機巻線1と可変高周波リアクトル6との合成インダクタンスは、可変高周波リアクトル6のインダクタンスで決まる。
すなわち、回転電機巻線1にインパルス電圧を印加した時の、巻線端子間電圧の経時変化の周波数は、可変高周波リアクトル6のインダクタンスが支配的であり、回転電機巻線1のインダクタンスの寄与が小さい。
【0077】
すなわち、実施の形態1の絶縁欠陥検査装置100では、インパルス電圧を印加した時の巻線端子間電圧の経時変化の周波数は、可変高周波リアクトル6のインダクタンスで決まるので、回転電機巻線1のインダクタンスが正常値から変化しても、周波数の変化が小さく、上記、従来の回転電機巻線のインダクタンスの良否を判定する方法を、そのまま用いた場合、回転電機巻線のインダクタンス不良を検出する精度が低い。
【0078】
本実施の形態の絶縁欠陥検査装置400では、切り離しスイッチ12を備えており、切り離しスイッチ12を切にすることにより、回転電機巻線1と並列に接続されている可変高周波リアクトル6を、電気的に切り離し、回転電機巻線1にインパルス電圧を印加した時の巻線端子間電圧の経時変化の周波数を、回転電機巻線1のインピーダンスで決まる周波数にすることができる。
【0079】
また、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置400では、インダクタンス良否判定装置13に、第1,第2の電源配線3a,3bを介して、巻線端子間電圧が入力できるようになっている。そして、入力された巻線端子間電圧は、切り離しスイッチ12が切の時に、インダクタンス良否判定装置13の記憶部17に記憶できるようになっている。すなわち、回転電機巻線1のインピーダンスで決まる周波数の巻線端子間電圧の経時変化のデータを記憶できる。
【0080】
図16は、インパルス電圧を印加後の可変高周波リアクトルの切り離し時間と、電圧の差分との関係を示す図である。
図16における縦軸は、可変高周波リアクトルを接続時の電圧の差分に対する比較値である。
また、可変高周波リアクトルの切り離しは、可変高周波リアクトルに流れる電流が0の時に行うので、電圧振動中の正あるいは負のピークで切り離すようになっている。
【0081】
図16に示すように、電圧の差分は、可変高周波リアクトルが接続されていない時が、最も大きく、可変高周波リアクトルの切り離し時間が、巻線端子間電圧Esにおける第1の負ピーク、第2の正ピークの順になるにつれて、小さくなっている。しかし、第2の正ピークでの可変高周波リアクトルの切り離しであっても、電圧の差分は大きく、回転電機巻線のインダクタンス不良を精度良く検出できる。すなわち、インパルス電圧を印加後の第2の正ピーク、つまり、1サイクル目のピーク、での可変高周波リアクトルの切り離しであっても、回転電機巻線のインダクタンス不良を精度良く検出できる。
【0082】
次に、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置400における、インダクタンス良否判定装置13の動作機構を説明する。
まず、記憶部17における基準データ記憶部17aは、あらかじめ、正常なインダクタンスを有する基準回転電機巻線に絶縁欠陥検査装置400をセットし、インパルス電圧を印加した後、巻線端子間電圧が第2の正ピークとなった時点で切り離しスイッチ12を切にした場合の、基準巻線端子間電圧Escの経時変化データを記憶する。
次に、記憶部17における検査データ記憶部17bは、検査する回転電機巻線に絶縁欠陥検査装置400をセットし、インパルス電圧を印加した後、巻線端子間電圧が第2の正ピークとなった時点で切り離しスイッチ12を切にした場合の、検査巻線端子間電圧Esmの経時変化データを記憶する。
【0083】
次に、判定部18における演算部18aは、基準データ記憶部17aから基準巻線端子間電圧Escの経時変化のデータが入力され、検査データ記憶部17bから検査巻線端子間電圧Esmの経時変化のデータが入力され、EsmとEscとの差分の経時変化を算出する。
次に、判定部18における判断部18bは、演算部18aからEsmとEscとの差分の経時変化データが入力され、回転電機巻線のインダクタンスの良否を判段する。
次に、判定部18における警告部18cは、判断部18bからの信号により、回転電機巻線のインダクタンスの良否を知らせる。
警告部18cの良否を知らせる手段は、例えば、表示装置で示したり、警告音で知らせることが挙げられる。
【0084】
次に、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置400を用いて、回転電機の回転電機巻線における高圧端子側コイルの潜在的な絶縁欠陥と回転電機巻線のインダクタンス不良とを検査する方法について説明する。
図17は、実施の形態3の絶縁欠陥検査装置を用い、回転電機巻線における高圧端子側コイルの潜在的な絶縁欠陥と回転電機巻線のインダクタンス不良とを検査する手順を示す工程図である。
【0085】
図17に示すように、本実施の形態の回転電機巻線の絶縁欠陥検査方法では、以下の工程が、順番に実施される。
第1の工程は、絶縁欠陥検査装置400に、基準回転電機巻線をセットし、切り離しスイッチ12を入にした状態で、単極インパルス電源3から試験電圧を印加した後、巻線端子間電圧の1サイクル目のピークで切り離しスイッチ12を切にして、切り離しスイッチ12を切にした後の基準巻線端子間電圧Escの経時変化データを、インダクタンス良否判定装置13に記憶させる。
【0086】
第2の工程は、絶縁欠陥検査装置400に、検査する回転電機巻線をセットし、切り離しスイッチ12を入にした状態で、検査する回転電機巻線に、単極インパルス電源3から、放電が発生しない程度のインパルス電圧を印加する。
第3の工程は、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを低減して、負ピーク比Prnを増加させる。
第4の工程は、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを、負ピーク比Prnの増加が飽和するインダクタンスである飽和点インダクタンスに調節する。
【0087】
第5の工程は、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを、飽和点インダクタンスから増加させ、負ピーク比Prnを、その飽和値から数%低い値となるインダクタンスである試験インダクタンスに調節する。
第6の工程は、可変高周波リアクトル6のインダクタンスを、試験インダクタンスに設定して、検査する回転電機巻線に、単極インパルス電源3から試験電圧を印加した後、巻線端子間電圧の1サイクル目のピークで切り離しスイッチ12を切にする。
【0088】
第7の工程は、部分放電が部分放電検出センサ8により検出されたか否かを部分放電判定装置9により判定するとともに、切り離しスイッチ12を切にした後の検査巻線端子間電圧Esmの経時変化データをインダクタンス良否判定装置13に記憶させ、このデータと、あらかじめ記憶された基準巻線端子間電圧Escの経時変化データとの電圧の差分を求め、この電圧の差分のデータから、検査する回転電機巻線のインダクタンスの良否を判定する。
第8の工程は、検査する回転電機巻線の判定後に、検査する回転電機巻線への電圧印加が停止され、検査を終了する。
【0089】
そして、部分放電判定装置9およびインダクタンス良否判定装置13により、回転電機巻線の高圧端子側コイルに絶縁欠陥がなく、回転電機巻線にインダクタンス不良がないと判定されれば、この回転電機巻線が設けられた回転電機を合格品とする。
本実施の形態の絶縁欠陥検査方法でも、高周波リアクトル制御装置7に入力される巻線端子間電圧Esと高圧端子側コイル電圧Ecとの信号により、高周波リアクトル制御装置7が可変高周波リアクトル6のインダクタンスを制御するので、第3〜第5の工程は、自動で行うことができる。
【0090】
また、本実施の形態の回転電機巻線の絶縁欠陥検査方法における、絶縁欠陥検査装置への回転電機巻線のセットは、具体的には、回転電機巻線に、単極インパルス電源3から導出された、部分放電検出センサ8が配設されている第1の電源配線3aと、第2の電源配線3bとを接続し、第1の電源配線3aが接続された一相の回転電機巻線における高圧端子側コイル2の巻終わり側に、高周波リアクトル制御装置7の第3の配線7cを接続することである。
【0091】
本実施の形態の絶縁欠陥検査装置400は、可変高周波リアクトル6が回転電機巻線1と並列に接続された状態で、回転電機巻線1にインパルス電圧を印加し、切り離しスイッチ12により、巻線端子間電圧Esの1サイクル目のピークで、可変高周波リアクトル6を切り離すので、巻線端子間電圧Esの第1の負ピークまでの周波数は高く、第1の正ピークと第1の負ピークとに対応した高いピークの高圧端子側コイル電圧Ecが高圧端子側コイル2に加わり、実施の形態1の絶縁欠陥検査装置100と同様な効果を有する。
【0092】
さらに、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置400は、巻線端子間電圧Esの1サイクル目のピーク以後は、回転電機巻線1と並列に接続された可変高周波リアクトル6が、切り離された状態となるので、巻線端子間電圧Esの周波数が、回転電機巻線1のインダクタンスに対応したものとなり、この巻線端子間電圧Esの経時変化データを正常なインダクタンスを有する基準回転電機巻線の、同様な時間範囲の巻線端子間電圧Esの経時変化データと比較することにより、回転電機巻線1のインダクタンス不良を検出できる。
本実施の形態の絶縁欠陥検査装置400は、1回のインパルス電圧の印加で、回転電機巻線の潜在的な絶縁欠陥の検出に加え、回転電機巻線のインダクタンス不良も検出できる。すなわち、短い試験時間で回転電機巻線の信頼性検査を行うことができる。
【0093】
実施の形態4.
図18は、本発明の実施の形態4に係わる回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置のブロック図である。
図18に示すように、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置500は、実施の形態2の絶縁欠陥検査装置200に、実施の形態3の絶縁欠陥検査装置400に用いられた、切り離しスイッチ12とインダクタンス良否判定装置13とを設けたものである。
【0094】
次に、本実施の形態の絶縁欠陥検査装置500を用いて、回転電機の回転電機巻線における高圧端子側コイルの潜在的な絶縁欠陥と回転電機巻線のインダクタンス不良とを検査する方法について説明する。
検査は、以下の工程を順番に実施して行われる。
【0095】
第1の工程は、絶縁欠陥検査装置に、基準回転電機巻線をセットし、切り離しスイッチ12を入にした状態で、単極インパルス電源3から試験電圧を印加した後、巻線端子間電圧の1サイクル目のピークで切り離しスイッチ12を切にして、切り離しスイッチ12を切にした後の基準巻線端子間電圧Escの経時変化データを、インダクタンス良否判定装置13に記憶させる。
【0096】
第2の工程は、検査する回転電機巻線のTu−Ec関係から、高圧端子側コイル電圧Ecが、その飽和値から数%小さくなるインパルス電圧の立ち上がり時間Tusを求め、この立ち上がり時間Tusの逆数で表される印加時のインパルス電圧の周波数である適正インパルス電圧の周波数fisを求める。
第3の工程は、絶縁欠陥検査装置に、検査する回転電機巻線をセットし、切り離しスイッチ12を入にした状態で、単極インパルス電源3と手動可変高周波リアクトル16と回転電機巻線11とから成る系の共振周波数fsmを、インピーダンスメータで測定して求める。
【0097】
第4の工程は、単極インパルス電源3と手動可変高周波リアクトル16と検査する回転電機巻線とから成る系の共振周波数fsmが、適正インパルス電圧の周波数fisと同じになるように、手動可変高周波リアクトル16のインダクタンスを調節する。
第5の工程は、単極インパルス電源3と手動可変高周波リアクトル16と検査する回転電機巻線とから成る系の共振周波数fsmを適正インパルス電圧の周波数fisと同じにした状態で、検査する回転電機巻線に、単極インパルス電源3から試験電圧を印加した後、巻線端子間電圧Esmの1サイクル目のピークで切り離しスイッチ12を切にする。
【0098】
第6の工程は、部分放電が部分放電検出センサ8により検出されたか否かを部分放電判定装置9により判定するとともに、切り離しスイッチ12を切にした後の検査巻線端子間電圧Esmの経時変化データをインダクタンス良否判定装置13に記憶させ、このデータと、あらかじめ記憶された基準巻線端子間電圧Escの経時変化データとの電圧の差分を求め、この電圧の差分のデータから、検査する回転電機巻線のインダクタンスの良否を判定する。
第7の工程は、検査する回転電機巻線の判定後に、検査する回転電機巻線への電圧印加が停止され、検査を終了する。
【0099】
本実施の形態の絶縁欠陥検査装置500は、実施の形態2の絶縁欠陥検査装置200に、実施の形態3で用いられた、切り離しスイッチ12とインダクタンス良否判定装置13とを設けたものであり、実施の形態3と同様に、切り離しスイッチ12とインダクタンス良否判定装置13との動作により、1回のインパルス電圧の印加で、回転電機巻線の潜在的な絶縁欠陥の検出に加え、回転電機巻線のインダクタンス不良も検出できる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明に係わる絶縁欠陥検査装置は、回転電機巻線の潜在的な絶縁欠陥の検出を確実に行うことができるので、長期信頼性が要求されるインバータ駆動回転電機の出荷試験に用いられる。
【符号の説明】
【0101】
1 回転電機巻線、2 高圧端子側コイル、3 単極インパルス電源、
3a 第1の電源配線、3b 第2の電源配線、6 可変高周波リアクトル、
7 高周波リアクトル制御装置、7a 第1の配線、7b 第2の配線、
7c 第3の配線、7d 第4の配線、8 部分放電検出センサ、
9 部分放電判定装置、9a 配線、11 回転電機巻線、12 切り離しスイッチ、
13 インダクタンス良否判定装置、16 手動可変高周波リアクトル、
17 記憶部、17a 基準データ記憶部、17b 検査データ記憶部、
18 判定部、18a 演算部、18b 判段部、18c 警告部、
100,200,300,400,500 絶縁欠陥検査装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機巻線にインパルス電圧を印加する単極インパルス電源と、上記単極インパルス電源から導出された、第1の電源配線と第2の電源配線と、上記第1の電源配線と上記第2の電源配線とに接続され、上記単極インパルス電源に対して電気的に並列になるように配設された高周波リアクトルと、上記第1の電源配線の外部配線部に配設された部分放電検出センサと、上記部分放電検出センサに接続された部分放電判定装置とを備えており、
上記第1の電源配線が、上記回転電機巻線の一端に接続する配線であり、上記第2の電源配線が、アースに接続されるとともに、上記回転電機巻線の他端に接続する配線であり、上記高周波リアクトルが、そのインダクタンスを変えることができる可変高周波リアクトルである回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置。
【請求項2】
上記可変高周波リアクトルのインダクタンスを制御する高周波リアクトル制御装置を備えており、
上記高周波リアクトル制御装置には、第1の電源配線に接続した第1の配線と、第2の電源配線に接続した第2の配線と、上記第1の配線が接続される回転電機巻線の高圧端子側コイルの巻終わり側に接続する第3の配線と、上記可変高周波リアクトルに接続した第4の配線とが設けられており、
上記高周波リアクトル制御装置が、上記第1の配線と上記第2の配線とで、単極インパルス電圧により発生する上記回転電機巻線の端子間電圧である巻線端子間電圧を計測し、上記第1の配線と上記第3の配線とで、単極インパルス電圧により発生する高圧端子側コイルの巻始め巻終わり間電圧である高圧端子側コイル電圧を計測し、上記第4の配線で上記巻線端子間電圧と上記高圧端子側コイル電圧との計測データに基づき、上記可変高周波リアクトルのインダクタンスを制御する信号を上記可変高周波リアクトルに入力することを特徴とする請求項1に記載の回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置。
【請求項3】
上記可変高周波リアクトルが、そのインダクタンスを手動で変える手動可変高周波リアクトルであることを特徴とする請求項1に記載の回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置。
【請求項4】
上記部分放電検出センサに、高周波CTまたは高周波アンテナが用いられ、上記部分放電検出センサと部分放電判定装置とを接続する配線に100MHz以下のノイズ周波数帯域を遮断するフィルタを設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置。
【請求項5】
請求項2に記載の回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置が用いられ、
回転電機巻線に、単極インパルス電源から導出された、部分放電検出センサが配設されている第1の電源配線と、第2の電源配線とを接続し、上記第1の電源配線が接続された一相の回転電機巻線における高圧端子側コイルの巻終わり側に、高周波リアクトル制御装置の第3の配線を接続する第1の工程と、
上記回転電機巻線に、上記単極インパルス電源から、放電が発生しない程度のインパルス電圧を印加する第2の工程と、
可変高周波リアクトルのインダクタンスを低減して、負ピーク比Prnを増加させる第3の工程と、
上記可変高周波リアクトルのインダクタンスを、上記負ピーク比Prnの増加が飽和するインダクタンスである飽和点インダクタンスに調節する第4の工程と、
上記可変高周波リアクトルのインダクタンスを、上記飽和点インダクタンスから増加させ、上記負ピーク比Prnを、その飽和値から数%低い値となるインダクタンスである試験インダクタンスに調節する第5の工程と、
上記可変高周波リアクトルのインダクタンスを、上記試験インダクタンスに設定して、上記回転電機巻線に、上記単極インパルス電源から試験電圧を印加し、上記部分放電が部分放電検出センサにより検出されたか否かを部分放電判定装置により判定する第6の工程と、
上記回転電機巻線の合否判定後に、上記回転電機巻線への電圧印加を停止し、検査を終了する第7の工程とを備え、
上記第1から第7の工程を順番に行うことを特徴とする回転電機巻線の絶縁欠陥検査方法。
【請求項6】
請求項3に記載の回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置が用いられ、
回転電機巻線のTu−Ec関係から、高圧端子側コイル電圧Ecが、その飽和値から数%小さくなるインパルス電圧の立ち上がり時間Tusを求め、この立ち上がり時間Tusの逆数で表される印加時のインパルス電圧の周波数である適正インパルス電圧の周波数fisを求める第1の工程と、
上記回転電機巻線に、単極インパルス電源から導出された、部分放電検出センサが配設されている第1の電源配線と、第2の電源配線とを接続する第2の工程と、
上記単極インパルス電源と手動可変高周波リアクトルと上記回転電機巻線とから成る系の共振周波数fsmを、インピーダンスメータで測定して求める第3の工程と、
上記単極インパルス電源と上記手動可変高周波リアクトルと上記回転電機巻線とから成る系の共振周波数fsmが、上記適正インパルス電圧の周波数fisと同じになるように、上記手動可変高周波リアクトルのインダクタンスを調節する第4の工程と、
上記単極インパルス電源と上記手動可変高周波リアクトルと上記回転電機巻線とから成る系の共振周波数fsmを上記適正インパルス電圧の周波数fisと同じにした状態で、上記回転電機巻線に、上記単極インパルス電源から試験電圧を印加し、部分放電が部分放電検出センサにより検出されたか否かを部分放電判定装置により判定する第5の工程と、
上記回転電機巻線の合否判定後に、上記回転電機巻線への電圧印加が停止され、検査を終了する第6の工程とを備え、
上記第1から第6の工程を順番に行うことを特徴とする回転電機巻線の絶縁欠陥検査方法。
【請求項7】
上記第3の工程が、単極インパルス電源と手動可変高周波リアクトルと回転電機巻線とから成る系の共振周波数fsmを、上記回転電機巻線のインダクタンスL1と、上記回転電機巻線のキャパシタンスCと、上記手動可変高周波リアクトルのインダクタンスL2を用いて、下記の式から計算で求めることであることを特徴とする請求項6に記載の回転電機巻線の絶縁欠陥検査方法。
【数1】

【請求項8】
上記可変高周波リアクトルと絶縁欠陥検査装置の試験回路とを、接続したり切断したりする切り離しスイッチと、回転電機巻線にインパルス電圧を印加し、上記切り離しスイッチを切にした後の巻線端子間電圧の経時変化から上記回転電機巻線のインダクタンスの良否を判定するインダクタンス良否判定装置とを備えていることを特徴とする請求項2に記載の回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置。
【請求項9】
上記手動可変高周波リアクトルと絶縁欠陥検査装置の試験回路とを、接続したり切断したりする切り離しスイッチと、回転電機巻線にインパルス電圧を印加し、上記切り離しスイッチを切にした後の巻線端子間電圧の経時変化から上記回転電機巻線のインダクタンスの良否を判定するインダクタンス良否判定装置とを備えていることを特徴とする請求項3に記載の回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置。
【請求項10】
上記インダクタンス良否判定装置が、巻線端子間電圧の経時変化データを記憶する記憶部と、回転電機巻線のインダクタンスの良否を判定する判定部とを備えており、
上記記憶部が、正常な回転電機巻線の基準巻線端子間電圧の経時変化データを記憶する基準データ記憶部と、検査する回転電機巻線の検査巻線端子間電圧の経時変化データを記憶する検査データ記憶部とを有し、
上記判定部が、上記検査データ記憶部のデータと上記基準データ記憶部のデータとから、上記検査巻線端子間電圧と上記基準巻線端子間電圧との電圧の差分の経時変化を求める演算部と、上記演算部のデータから、上記回転電機巻線のインダクタンスの良否を判段する判段部と、上記判断部からの信号で上記回転電機巻線のインダクタンスの良否を知らせる警告部とを有することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置。
【請求項11】
請求項8に記載の回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置が用いられ、
上記絶縁欠陥検査装置に、基準回転電機巻線をセットし、切り離しスイッチを入にした状態で、単極インパルス電源から試験電圧を印加した後、上記切り離しスイッチを切にして、上記切り離しスイッチを切にした後の基準巻線端子間電圧の経時変化データを、インダクタンス良否判定装置に記憶させる第1の工程と、
上記絶縁欠陥検査装置に、検査する回転電機巻線をセットし、上記切り離しスイッチを入にした状態で、上記検査する回転電機巻線に、上記単極インパルス電源から、放電が発生しない程度のインパルス電圧を印加する第2の工程と、
可変高周波リアクトルのインダクタンスを低減して、負ピーク比Prnを増加させる第3の工程と、
上記可変高周波リアクトルのインダクタンスを、上記負ピーク比Prnの増加が飽和するインダクタンスである飽和点インダクタンスに調節する第4の工程と、
上記可変高周波リアクトルのインダクタンスを、上記飽和点インダクタンスから増加させ、上記負ピーク比Prnを、その飽和値から数%低い値となるインダクタンスである試験インダクタンスに調節する第5の工程と、
上記可変高周波リアクトルのインダクタンスを、上記試験インダクタンスに設定して、上記検査する回転電機巻線に、上記単極インパルス電源から試験電圧を印加した後、上記切り離しスイッチを切にする第6の工程と、
部分放電が部分放電検出センサにより検出されたか否かを部分放電判定装置により判定するとともに、上記切り離しスイッチを切にした後の検査巻線端子間電圧の経時変化データを上記インダクタンス良否判定装置に記憶させ、このデータと、あらかじめ記憶された上記基準巻線端子間電圧の経時変化データとの電圧の差分を求め、上記検査する回転電機巻線のインダクタンスの良否を判定する第7の工程と、
上記検査する回転電機巻線の判定後に、上記検査する回転電機巻線への電圧印加が停止され、検査を終了する第8の工程とを備え、
上記第1から第8の工程を順番に行うことを特徴とする回転電機巻線の絶縁欠陥検査方法。
【請求項12】
請求項9に記載の回転電機巻線の絶縁欠陥検査装置が用いられ、
上記絶縁欠陥検査装置に、基準回転電機巻線をセットし、切り離しスイッチを入にした状態で、単極インパルス電源から試験電圧を印加した後、上記切り離しスイッチを切にして、上記切り離しスイッチを切にした後の基準巻線端子間電圧の経時変化データを、インダクタンス良否判定装置に記憶させる第1の工程と、
検査する回転電機巻線のTu−Ec関係から、高圧端子側コイル電圧Ecが、その飽和値から数%小さくなるインパルス電圧の立ち上がり時間Tusを求め、この立ち上がり時間Tusの逆数で表される印加時のインパルス電圧の周波数である適正インパルス電圧の周波数fisを求める第2の工程と、
上記絶縁欠陥検査装置に、上記検査する回転電機巻線をセットし、上記切り離しスイッチを入にした状態で、上記単極インパルス電源と手動可変高周波リアクトルと上記検査する回転電機巻線とから成る系の共振周波数fsmを、インピーダンスメータで測定して求める第3の工程と
上記単極インパルス電源と上記手動可変高周波リアクトルと上記検査する回転電機巻線とから成る系の共振周波数fsmが、上記適正インパルス電圧の周波数fisと同じになるように、上記手動可変高周波リアクトルのインダクタンスを調節する第4の工程と、
上記単極インパルス電源と上記手動可変高周波リアクトルと上記検査する回転電機巻線とから成る系の共振周波数fsmを上記適正インパルス電圧の周波数fisと同じにした状態で、上記検査する回転電機巻線に、上記単極インパルス電源から試験電圧を印加した後、上記切り離しスイッチを切にする第5の工程と、
部分放電が部分放電検出センサにより検出されたか否かを部分放電判定装置により判定するとともに、上記切り離しスイッチを切にした後の検査巻線端子間電圧の経時変化データを上記インダクタンス良否判定装置に記憶させ、このデータと、あらかじめ記憶された上記基準巻線端子間電圧の経時変化データとの電圧の差分を求め、上記検査する回転電機巻線のインダクタンスの良否を判定する第6の工程と、
上記検査する回転電機巻線の判定後に、上記検査する回転電機巻線への電圧印加が停止され、検査を終了する第7の工程とを備え、
上記第1から第7の工程を順番に行うことを特徴とする回転電機巻線の絶縁欠陥検査方法。
【請求項13】
上記検査する回転電機巻線に、単極インパルス電源から試験電圧を印加した後、巻線端子間電圧の1サイクル目のピークで、切り離しスイッチを切にすることを特徴とする請求項11または請求項12に記載の回転電機巻線の絶縁欠陥検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−112925(P2012−112925A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26629(P2011−26629)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】