説明

回転電機用ステータ

【課題】ステータコアへの巻き付け工程を簡略化できると共に、スロット形状にかかわらずコイルの占積率を高めることができる回転電機用ステータを実現する。
【解決手段】複数のスロット22を有するステータコアと当該ステータコアに取り付けられたコイルとを有する回転電機用ステータであって、コイルは、被覆導体線束4をステータコアに巻き付けて構成され、被覆導体線束4は、導体線を複数本集合させてなる導体線束の外周を、可撓性を有する絶縁被覆材により被覆した構造を有し、スロット22のそれぞれの中に、複数本の被覆導体線束4が配置され、当該複数本の被覆導体線束4の内の隣り合う被覆導体線束4が互いに接するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスロットを有するステータコアと当該ステータコアに取り付けられたコイルとを有する回転電機用ステータに関する。
【背景技術】
【0002】
電動機又は発電機としての回転電機には、これまでにも、複数のスロットを有するステータコアと当該ステータコアに取り付けられたコイルとを有する回転電機用ステータが用いられている。このような回転電機用ステータとして、例えば下記の特許文献1には、ステータコアの周方向に分散配置された複数のスロットに、断面が円形の導体線を多数回巻き付けてコイルを構成している。
【0003】
上記のように、断面が円形の導体線を用いてコイルを構成する回転電機用ステータでは、スロット内において導体線間に隙間が生じ易く、コイルの占積率を高めることが難しい。導体線間の隙間を小さくして占積率を高めるためには、導体線の径を小さくすることも有効である。しかし、導体線の径を小さくするためには、ステータコアに巻き付ける際に断線しないような工夫が必要となることや、ステータコアへの巻き付け回数が多くなって巻き付け工程に長い時間を要することといった課題がある。一方、占積率を高めるためには、断面が矩形状の導体線を用いてコイルを構成することも有効であるが、スロットの形状もほぼ矩形状に限定され、スロット或いはティースの形状を必ずしも最適な形状とすることができないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−009588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、ステータコアへの巻き付け工程を簡略化できると共に、スロット形状にかかわらずコイルの占積率を高めることができる回転電機用ステータの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、複数のスロットを有するステータコアと当該ステータコアに取り付けられたコイルとを有する回転電機用ステータの特徴構成は、前記コイルが、被覆導体線束を前記ステータコアに巻き付けて構成され、前記被覆導体線束が、導体線を複数本集合させてなる導体線束の外周を、可撓性を有する絶縁被覆材により被覆した構造を有し、前記スロットのそれぞれの中に、複数本の前記被覆導体線束が配置され、当該複数本の被覆導体線束の内の隣り合う被覆導体線束が互いに接するように配置されている点にある。
【0007】
ここで、導体線束の外周とは、当該導体線束の延在方向に直交する断面の周囲(外周)のことである。また、本願においては、スロットのそれぞれの中に配置された被覆導体線束の本数は、各スロットの中に配置された部分のみに着目して数えることとする。従って、各スロットの中に配置された複数本の被覆導体線束が、当該スロットの外において接続されている結果、ステータコアから取り外した状態で1本の被覆導体線束となっている場合であっても、本発明における複数本の被覆導体線束という概念に含まれる。なお、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0008】
この特徴構成によれば、被覆導体線束の延在方向に直交する断面の形状を比較的自由に変形させることができるため、被覆導体線束を挿入するスロット開口部が狭い場合等であってもスロット内への挿入を容易に行なうことができる。また、複数本の導体線を束ねて被覆導体線束を構成しているので、細い導体線を用いて占積率を高めつつステータコアへの巻き付け回数を少なく抑えることができ、被覆導体線束の巻き付け工程を効率化できる。更に、導体線束が絶縁被覆材により被覆されているので、スロット内への挿入の際に導体線が損傷することを抑制できると共に絶縁性を容易に確保できる。そして、スロット内への挿入後は、隣り合う被覆導体線束が互いに接するように配置することで複数本の被覆導体線束どうしの隙間を小さく抑えることができ、更にはスロット形状に合わせて被覆導体線束を変形させ、被覆導体線束とスロット内壁面との隙間も小さく抑えることができるため、占積率を高めることができる。従って、この特徴構成によれば、ステータコアへの巻き付け工程を簡略化できると共に、スロット形状にかかわらずコイルの占積率を高めることができる回転電機用ステータが実現できる。
【0009】
ここで、同じ前記スロットの中に配置された複数本の前記被覆導体線束は、前記被覆導体線束の延在方向に直交する断面の形状がそれぞれ異なる構成となっていると好適である。
【0010】
このように、各スロット内に配置された複数本の被覆導体線束の断面形状がそれぞれ異なる形状に変形することにより、スロットの形状に合わせて複数本の被覆導体線束どうしの隙間及び被覆導体線束とスロット内壁面との隙間が小さい状態とすることが容易となる。従って、スロット形状にかかわらずコイルの占積率を高めることができる。
【0011】
また、前記スロットのそれぞれの中に配置された複数本の前記被覆導体線束の中の少なくとも一部が、前記スロットの内壁面に沿った形状の部分を有し、当該部分において前記内壁面に面接触で接触していると好適である。
【0012】
このように、各スロット内に配置された複数本の被覆導体線束の中の少なくとも一部が、スロット内壁面との隙間が小さくなるように、スロット形状に合わせて変形して面接触した状態となっていることにより、スロット形状にかかわらずコイルの占積率を高めることができる。
【0013】
また、前記導体線は、その延在方向に直交する断面が円形状であると好適である。
【0014】
この構成によれば、被覆導体線束における絶縁被覆材に囲まれた内部に隙間ができ、絶縁被覆材に囲まれた内部の導体線が移動し易くなるため、被覆導体線束の断面形状の変形し易さを高めることができる。これにより、被覆導体線束のスロット内への挿入を容易にすることができる。また、スロット内への挿入後に複数本の被覆導体線束どうしの隙間及び被覆導体線束とスロット内壁面との隙間を小さく抑えるように被覆導体線束を変形させ、コイルの占積率を高めることが容易になる。
【0015】
また、前記被覆導体線束の延在方向に直交する断面を円形とした状態での当該断面の直径が、前記被覆導体線束の延在方向に直交する面内における前記スロットの開口部の開口幅よりも大きく設定されていると好適である。
【0016】
この構成によれば、ステータコアへの巻き付け回数を少なく抑え、巻き付け工程を容易に効率化できる。この場合においても、被覆導体線束の断面形状を比較的自由に変形させることができるため、スロット内への挿入は容易に行なうことができる。
【0017】
また、前記スロットの中において、複数本の前記被覆導体線束が、それらの延在方向に直交する方向に開口する前記スロットの開口部側から押圧された状態での形状を保って配置されていると好適である。
【0018】
この構成によれば、複数本の被覆導体線束がスロット内において互いに押圧された状態とすることができる。従って、複数本の被覆導体線束どうしの隙間及び被覆導体線束とスロット内壁面との隙間を小さくするように、スロット形状に合わせて変形させた状態で複数本の被覆導体線束を配置することができる。これにより、スロット形状にかかわらずコイルの占積率を高めることができる。
【0019】
また、前記導体線は、裸線であると好適である。ここで、裸線とは、表面が絶縁体により覆われていないむき出しの導体線のことである。従って、樹脂等の電気的絶縁材料による被覆や被膜が表面に設けられた導体線は、裸線に含まれない。但し、表面に酸化皮膜が形成された導体線は、裸線に含まれる。
【0020】
この構成によれば、導体線の表面に絶縁体の被膜や被覆等が設けられている場合に比べて、被覆導体線束の断面に占める導体の断面積を大きく確保することが容易になる。従って、スロット内での導体の密度を高くすることができ、コイルの占積率を高めることが容易になる。
【0021】
また、前記スロットは、前記ステータコアの円筒状のコア基準面の軸方向に延びると共に前記コア基準面の周方向に複数分散配置され、前記ステータコアは、隣接する2つの前記スロットの間に形成される複数のティースを有し、前記ティースのそれぞれにおける周方向を向く2つの側面が、互いに平行であると好適である。
【0022】
この構成によれば、各ティースにおける磁路の断面積をティースの全体にわたって均等にすることができる。従って、各ティースにおいて必要な磁束量を確保しつつ、無駄なティース幅を削ってスロット内空間を最大限確保することができ、ステータの断面積に占めるコイルの断面積の割合を高くすることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る回転電機用ステータの斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る回転電機用ステータの部分拡大断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る回転電機用ステータの被覆導体線束の構造を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係る回転電機用ステータの被覆導体線束の構造を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る回転電機用ステータの製造工程を説明する図である。
【図6】本発明に係る回転電機用ステータのその他の実施形態を示す部分拡大断面図である。
【図7】本発明に係る回転電機用ステータのその他の実施形態を示す部分拡大断面図である。
【図8】本発明に係る回転電機用ステータのその他の実施形態を示す部分拡大断面図である。
【図9】本発明に係る回転電機用ステータのその他の実施形態を示す部分拡大断面図である。
【図10】本発明に係る回転電機用ステータのその他の実施形態を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る回転電機用ステータの実施形態について、図面を参照して説明する。ここでは、本発明に係る回転電機用ステータを、インナーロータ型の回転電機のステータ1に適用した場合を例として説明する。本実施形態に係るステータ1は、図1に示すように、ステータコア2と、このステータコア2に取り付けられたコイル3とを備えている。コイル3は、被覆導体線束4をステータコア2に巻き付けて構成されている。図3に示すように、被覆導体線束4は、導体線41を複数本集合させてなる導体線束42の外周42aを、可撓性を有する絶縁被覆材43により被覆した構造を有している。本実施形態に係るステータ1は、このような被覆導体線束4を用いた点に特徴を有している。以下、本実施形態に係るステータ1の構成について詳細に説明する。なお、以下の説明では、特に断らない限り、「軸方向L」、「周方向C」、「径方向R」は、後述するステータコア2の円筒状のコア基準面21(例えばステータコア2の内周面)の軸心を基準として定義している。
【0025】
1.ステータの全体構成
本実施形態に係るステータ1の全体構成について、図1及び図2を参照して説明する。図1に示すように、ステータ1は、ステータコア2及びコイル3を備えている。なお、図1では、煩雑さを避けるために、ステータコア2から軸方向Lに突出するコイル3の部分であるコイルエンド部については、一対のスロット22から突出する部分のみを示し、他は省略している。従って、図1では、残りのスロット22の軸方向Lの端部には、コイル3を構成する複数本の被覆導体線束4の断面が表れている。
【0026】
ステータコア2は、磁性材料を用いて形成されており、コイル3を巻き付け可能とすべく、複数のスロット22を有する。ここでは、スロット22は、ステータコア2の円筒状のコア基準面21の軸方向Lに延びると共に、当該コア基準面21の周方向Cに複数分散配置されている。また、複数のスロット22は、ステータコア2の軸心から放射状に径方向Rに延びるように形成されている。なお、「円筒状のコア基準面21」とは、スロット22の配置や構成に関して基準となる仮想的な面である。本実施形態では、図1に示すように、隣接する2つのスロット22の間に形成される複数のティース23の径方向Rの内側の端面を含む仮想的な円筒状の面であるコア内周面を、コア基準面21としている。なお、円筒状のコア内周面と同心であって、軸方向L視(軸方向Lに沿って見た場合)における断面形状が当該コア内周面の軸方向L視における断面形状と相似の関係にある円筒状の面(仮想面を含む)も、本発明における「円筒状のコア基準面21」になり得る。本実施形態では、図1に示すように、ステータコア2は円筒状に形成されているため、例えば、ステータコア2の外周面を「円筒状のコア基準面21」とすることもできる。
【0027】
ステータコア2は、周方向Cに沿って一定間隔で分散配置された複数のスロット22を有している。そして、これら複数のスロット22は互いに同じ形状とされている。また、ステータコア2は、隣接する2つのスロット22の間に形成される複数のティース23を有する。本実施形態では、スロット22は、軸方向L及び径方向Rに延びると共に周方向Cに所定の幅を有する溝状に形成されている。本実施形態では、図2に示すように、各ティース23の周方向Cを向く2つの側面23aが互いに平行な平行ティースとしているため、各スロット22は、周方向Cの幅が径方向Rの外側へ向うに従って次第に広くなるように形成されている。従って、各スロット22の内壁面22aは、周方向Cに互いに対向すると共に径方向Rの外側へ向うに従って互いの間隔が広くなるように形成された2つの平面と、当該2つの平面よりも径方向Rの外側に形成されて軸方向Lに延びる断面円弧状の面と、を有している。また、各スロット22は径方向Rの内側に開口(ステータコア2の内周面に開口)する径方向開口部22bを有すると共にステータコア2の軸方向Lの両側(軸方向両端面)に開口する軸方向開口部22cを有するように形成されている。スロット22の内壁面22aには、スロット絶縁部24が設けられている。本実施形態では、内壁面22aの全体に絶縁粉体塗装が施されており、この絶縁粉体塗装の塗膜によってスロット絶縁部24が形成されている。
【0028】
ステータコア2における周方向Cに互いに隣接する2つのスロット22間に、各ティース23が形成されている。本実施形態では、各ティース23は、当該ティース23における周方向Cを向く2つの側面23a(以下、単に「ティース側面23a」という。)が互いに平行となるように形成されている。すなわち、本実施形態におけるステータコア2は、平行ティースを備えている。ここでは、各ティース23の先端部には、ティース側面23aの他の部分に対して周方向Cに突出する周方向突出部23bが形成されている。これにより、2つのティース側面23aにおける周方向突出部23bを形成するための段差部を除いた大部分が、互いに平行となるように形成されている。図2から明らかなように、これらの2つのティース側面23aは、径方向Rに平行に配置されている。
【0029】
上記のように、各ティース23が先端部に周方向突出部23bを備えることにより、各スロット22の径方向開口部22bの開口幅Wは、それより径方向Rの外側の部分に比べて狭くなっている。ここで、径方向開口部22bの開口幅Wは、径方向開口部22bにおける周方向Cの幅、すなわち径方向Rに直交する方向の幅である。この開口幅Wは、図2の断面に示されるように、ステータ1の軸方向Lに直交する面内における径方向開口部22bの幅である。そして、各スロット22は、径方向開口部22bの開口幅Wが、コイル3が配置される部分における周方向Cの幅よりも狭くなっている。このようなスロット22は、一般的にセミオープンスロットと呼ばれる。本実施形態では、後述するように、被覆導体線束4の延在方向Aが軸方向Lに平行であることから、径方向開口部22bが被覆導体線束4の延在方向Aに直交する方向に開口するスロット22の開口部に相当する。また、径方向開口部22bの周方向Cの開口幅Wが、被覆導体線束4の延在方向Aに直交する面内におけるスロット22の開口部の開口幅に相当する。
【0030】
本実施形態では、回転電機は三相交流(U相、V相、W相)で駆動される三相交流電動機又は三相交流発電機である。従って、ステータ1のコイル3は、三相(U相、V相、W相)のそれぞれに対応して、U相コイル、V相コイル、W相コイルに分けられている。そのため、ステータコア2には、U相用、V相用及びW相用のスロット22が、周方向Cに沿って繰り返し現れるように配置されている。本例では、ステータコア2には、毎極毎相あたりのスロット数が「2」となるように、U相コイルが挿入される2つのU相用スロットと、V相コイルが挿入される2つのV相用スロットと、W相コイルが挿入される2つのW相用スロットとが、記載の順に周方向Cに沿って繰り返し現れるように配置されている。コイル3は、被覆導体線束4をステータコア2に巻き付けて構成される。この際のステータコア2への被覆導体線束4の巻き方としては、公知の各種方法を用いることができる。例えば、重ね巻及び波巻のいずれか一方と集中巻及び分布巻のいずれか一方との組合せにより被覆導体線束4をステータコア2に巻き付けて、コイル3を構成することができる。
【0031】
以上により、ステータ1は、回転電機の電機子として構成されている。一方、図示は省略するが、ステータ1(ステータコア2)の径方向Rの内側には、永久磁石や電磁石を備えた界磁としてのロータが、ステータ1に対して相対回転可能に配置される。そして、ステータ1から発生する回転磁界によりロータが回転する。すなわち、本実施形態に係るステータ1は、インナーロータ型で回転界磁型の回転電機に用いられる構成となっている。
【0032】
なお、上記のようなステータコア2は、例えば、円環板状の電磁鋼板を複数枚積層した積層構造体とし、或いは磁性材料の粉体を加圧成形してなる圧粉材を主な構成要素として形成することができる。また、本実施形態では、ステータコア2には毎極毎相あたりのスロット数が「2」となるように複数のスロット22が形成されているが、当然ながら、毎極毎相あたりのスロット数は適宜変更可能である。例えば、毎極毎相あたりのスロット数を「1」や「3」等とすることができる。また、回転電機を駆動する交流電源の相数も適宜変更可能であり、例えば「1」、「2」、「4」等とすることができる。
【0033】
2.被覆導体線束の構成
次に、コイル3を構成する被覆導体線束4のそれぞれについて説明する。被覆導体線束4は、各相のコイル3を構成する導体であり、この被覆導体線束4をステータコア2に巻き付けることにより、ステータ1のコイル3が構成される。図3に示すように、この被覆導体線束4は、導体線41を複数本集合させてなる導体線束42と、当該導体線束42の外周42aを被覆する可撓性の絶縁被覆材43と、を有する。
【0034】
導体線41は、例えば銅やアルミニウム等により構成された線状の導体である。本実施形態では、各導体線41は、延在方向に直交する断面の形状が円形状であり、比較的小径のものが用いられる。例えば、直径が0.2mm以下の円形断面の導体線41が好適に用いられる。また、本実施形態では、導体線41として、裸線を用いている。すなわち、この裸線でなる導体線41は、銅やアルミニウム等の導体の表面が絶縁体によって覆われておらず、導体表面がむき出しになっている。ところで、導体の表面が酸化してできる酸化皮膜は弱い電気的絶縁性を有する場合があるが、このような酸化皮膜はここでいう絶縁体には含まれない。従って、導体の表面に酸化皮膜が形成されたものも、この裸線でなる導体線41に含まれる。なお、導体線41の表面に、樹脂(例えばポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂等)等の電気的絶縁材料にからなる絶縁皮膜が形成されていても好適である。この絶縁皮膜は、後述する絶縁被覆材43とは異なり、各導体線41の表面を覆う皮膜として形成されている。
【0035】
そして、複数本の導体線41が集合して導体線束42が構成される。導体線束42を構成する導体線41の本数は、最終的な被覆導体線束4の太さ(断面積)と、各導体線41の太さ(断面積)及び形状と、によって決定される。本実施形態では、図2に示すように、各スロット22内の空間を6本の被覆導体線束4によって満たすように、各被覆導体線束4の太さ(断面積)が設定されており、それに合わせて導体線束42の太さ(断面積)、並びに導体線41の本数及び太さ(断面積)等が設定されている。図3に示すように、本実施形態では、複数本の導体線41を撚って束ねることにより1本の導体線束42を構成している。
【0036】
絶縁被覆材43は、可撓性を有する電気的絶縁部材であり、導体線束42の外周42aを被覆するように設けられている。ここで、導体線束42の外周42aとは、当該導体線束42の延在方向Aに直交する断面の周囲(外周)のことであり、導体線束42の延在方向Aの端部は含まれない。すなわち、絶縁被覆材43は、導体線束42の外周42aの全周を覆うと共に、導体線束42の延在方向Aの端部に設けられた接続部を除いて延在方向Aに沿った全域を覆うように設けられている。ここで、接続部は、一つの被覆導体線束4を他の被覆導体線束4又は他の導体に電気的に接続するための部分である。なお、導体線束42の延在方向Aは、被覆導体線束4の延在方向と等しいため、以下では、被覆導体線束4の延在方向も同じ符号「A」で表す。絶縁被覆材43としては、可撓性を有すると共に電気的絶縁性を有する材質が用いられ、例えば、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリフェニレンスルファイド等の各種合成樹脂が用いられる。ここで、「可撓性」とは、曲げたり撓ませたりすることができる性質のことである。
【0037】
絶縁被覆材43は、例えば、溶融した樹脂材料を導体線束42の外周42aに適量供給しつつ、導体線束42を延在方向Aに移動させることにより形成できる。このように、溶融した樹脂材料によって絶縁被覆材43を形成した場合、図4に示すように、絶縁被覆材43の内周面は、導体線束42の外周42aの形状に適合した凹凸を有する形状とすることができる。この場合、絶縁被覆材43と導体線束42の外周42aとの間、より詳しくは絶縁被覆材43と導体線束42の径方向最外側に配置された導体線41の表面との間には、隙間は形成されない。しかし、上記のとおり、本実施形態では、導体線41として、延在方向に直交する断面の形状が円形状でのものを用いている。このため、導体線束42を構成する複数の導体線41どうしの間には、隙間Gが形成される。また、絶縁被覆材43は、例えば、シート状材料又は筒状材料によって導体線束42の外周42aを包むことによっても形成できる。この場合、図4に示す例とは異なり、導体線束42を構成する複数の導体線41どうしの間、及び絶縁被覆材43の内周面と導体線束42の外周42aとの間に、隙間Gが形成される。いずれにしても、本実施形態に係る被覆導体線束4は、絶縁被覆材43に囲まれた内部に隙間Gを有している。
【0038】
以上のように、被覆導体線束4は、導体線41を複数本集合させてなる導体線束42の外周42aを、可撓性を有する絶縁被覆材43により被覆した構造を有するため、絶縁被覆材43の中で複数本の導体線41の相対移動が可能となっている。このため、被覆導体線束4は、延在方向Aに直交する断面の形状を比較的自由に変形させることができる構成となっている(図5参照)。また、本実施形態の構成によれば、上記のように、被覆導体線束4は、各導体線41を比較的小径の円形断面としており、絶縁被覆材43に囲まれた内部に隙間Gを形成している。これによって、被覆導体線束4の断面形状が更に容易に変形するように構成されている。従って、この被覆導体線束4は、延在方向A(長さ方向)に沿って撓ませて変形させることが容易なだけでなく、延在方向Aに直交する断面の形状を変形させることも容易な構成となっている。なお、図5(a)に示すように、本実施形態では、被覆導体線束4の延在方向Aに直交する断面を円形とした状態での当該断面の直径D(図4も参照)は、被覆導体線束4の延在方向Aに直交する面内におけるスロット22の径方向開口部22bの開口幅Wよりも大きく設定されている。
【0039】
3.ステータコアに対する被覆導体線束の配置構成
次に、本実施形態に係る被覆導体線束4のステータコア2に対する配置構成について詳細に説明する。図2に示すように、ステータコア2が有する複数のスロット22のそれぞれの中には、複数本の被覆導体線束4が配置され、当該複数本の被覆導体線束4の内の隣り合う被覆導体線束4が互いに接するように配置されている。図示の例では、各スロット22に6本の被覆導体線束4が配置されている。本実施形態では、各スロット22内の複数本の被覆導体線束4が、周方向Cの同じ位置において径方向Rに沿った列を形成して並ぶように配置されている。ここでは、各スロット22内に配置される複数本(ここでは6本)の被覆導体線束4の全部が径方向Rに沿って一列に並ぶように配置されている。従って、このステータ1は、被覆導体線束4が径方向Rに複数本配列された複数層巻構造(ここでは6層巻構造)とされている。そして、各被覆導体線束4は、各スロット22内において、当該スロット22に沿って軸方向Lに平行な方向を延在方向Aとして直線状に配置されている。
【0040】
本願では、各スロット22内に配置された被覆導体線束4の本数は、各スロット22内に配置される部分のみに着目して数える。従って、ステータコア2から取り外した状態で1本につながっている被覆導体線束4を、同じスロット22に6回巻き付けることにより、各スロット22内に6本の被覆導体線束4が配置された構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。同様に、ステータコア2から取り外した状態で2本の被覆導体線束4を、同じスロット22に3回ずつ巻き付け、或いはステータコア2から取り外した状態で3本の被覆導体線束4を、同じスロット22に2回ずつ巻き付けることにより、各スロット22内に6本の被覆導体線束4が配置された構成としても好適である。また、各スロット22内の6本の被覆導体線束4が、ステータコア2から取り外した状態でも6本独立している構成としても好適である。いずれにしても、ステータコア2が有する複数のスロット22のそれぞれの中に、複数本(ここでは6本)の被覆導体線束4が配置されるように、被覆導体線束4をステータコア2に巻き付けることにより、コイル3が構成されている。
【0041】
上記のように、被覆導体線束4は、延在方向Aに直交する断面の形状(以下、適宜「断面形状」という。)を変形させることが容易な構成となっている。従って、各スロット22内において、当該スロット22の形状に合わせて被覆導体線束4を変形させ、複数本の被覆導体線束4どうしの隙間及び被覆導体線束4とスロット22の内壁面22aとの隙間を小さく抑え、コイル3の占積率を高めることができる。このように隙間が小さい状態を実現するため、各スロット22内において、隣り合う被覆導体線束4どうしが互いに接した状態となっている。より詳しくは、図2に示すように、複数本の被覆導体線束4のそれぞれが、隣接する他の被覆導体線束4の接触面に沿った形状の接触面を有し、当該接触面において互いに面接触で接触している。また、本実施形態では、各スロット22内に配置された複数本の被覆導体線束4の全てが、スロット22の内壁面22aに沿った形状の部分を有し、当該部分において内壁面22aに面接触で接触している。すなわち、各被覆導体線束4は、内壁面22aに平行であって当該内壁面22aに面接触で接触する接触面を有する。本実施形態において、面接触とは、所定面積以上の2つの面が互いに接触している状態を指す。この所定面積としては、例えば、導体線41の断面積(延在方向Aに直交する断面積)以上に設定される。
【0042】
上記のような被覆導体線束4の接触面は、スロット22内において、複数の被覆導体線束4のそれぞれが、内壁面22a又は他の被覆導体線束4に押し付けられて変形することにより形成されている。すなわち、本実施形態では、各スロット22内において、複数本の被覆導体線束4が、それらの延在方向Aに直交する方向に開口するスロット22の径方向開口部22b側から押圧された状態での形状を保って配置されている。ここで、「押圧された状態での形状を保って」とは、スロット22内において径方向開口部22b側から少しでも押圧力が作用して、被覆導体線束4に外力が全く作用していない自然状態に比べて変形した状態となっていることを指す。従って、後述するようなステータ1の製造過程においてスロット22内の複数本の被覆導体線束4に対して作用する押圧力よりも低い押圧力で押圧された状態の形状を保っていることも含まれる。言い換えると、ステータ1の製造過程において加えられた押圧力が解除され、被覆導体線束4の形状に戻りが生じた後の状態も含まれる。
【0043】
また、各スロット22内の空間を複数本(ここでは6本)の被覆導体線束4によって満たすように、各被覆導体線束4の太さ(延在方向Aに直交する断面積)が設定されている。従って、複数本(ここでは6本)の被覆導体線束4がスロット22内に収容された状態では、図2に示すように、各被覆導体線束4が互いに接触して或いはスロット22の内壁面22aと接触して変形し、複数本の被覆導体線束4どうしの隙間及び被覆導体線束4とスロット22の内壁面22aとの隙間が非常に小さい状態となる。この状態では、複数本の被覆導体線束4の断面形状を合わせた形状は、スロット22の軸方向Lに直交する断面の形状に適合している。本実施形態では、各スロット22の内壁面22aは、互いに平行でなく対向する2つの平面や軸方向Lに延びる断面円弧状の面を有している。このようなスロット22に、断面形状が固定された比較的太い線状導体を配置すると、当該線状導体とスロット22の内壁面22aとの間の隙間が大きくなり易い。しかし、本実施形態の構成によれば、各被覆導体線束4の断面形状がスロット22の内壁面22aの形状に追従して変形することにより、内壁面22aとの隙間を小さくすることが容易になっている。このように各被覆導体線束4の断面形状が変形することによって、隣接する被覆導体線束4どうしが密着し、或いは被覆導体線束4と内壁面22aとが密着して隙間が小さくなっている。この際、各被覆導体線束4の断面形状が内壁面22aの形状に追従して変形することにより、或いは、断面形状が変形容易な被覆導体線束4どうしが互いに押圧されることにより、複数本の被覆導体線束4のそれぞれの断面形状は様々に変形する。このため、同じスロット22の中に配置された複数本の被覆導体線束4は、断面形状がそれぞれ異なるものとなっている。
【0044】
上記のように隙間が少ない状態で複数本の被覆導体線束4がスロット22内に収容されるためには、各スロット22内において、複数本の被覆導体線束4がスロット22の径方向開口部22b側から押圧された状態での形状を保っていると好適である。本実施形態では、径方向開口部22bからの被覆導体線束4の飛び出しを抑えるために、スロット22の径方向開口部22bに、当該径方向開口部22bを塞ぐための閉塞部材25が配置されている。ここでは、閉塞部材25は、径方向開口部22bの全体を塞ぐ形状の平板状部材とされている。このような部材は、いわゆるウェッジと呼ばれるものである。この閉塞部材25は、ティース23の先端部に形成された周方向突出部23bの径方向Rの外側の面に当接することにより、被覆導体線束4を径方向Rの内側から支持する。このため、閉塞部材25は、スロット22の径方向開口部22bの開口幅Wより大きい周方向Cの幅を有し、ステータコア2の軸方向Lの長さと同じ軸方向Lの長さを有する。この閉塞部材25は、各種合成樹脂等、磁気抵抗及び電気抵抗の比較的大きい材質により形成されていると好適である。なお、径方向開口部22bに閉塞部材25を配置しない構成とすることも、好適な実施形態の一つである。この場合でも、径方向開口部22bに最も近い被覆導体線束4が、スロット22内で径方向開口部22bの開口幅Wより周方向Cに大きくなるように変形して閉塞部材25の役割を担う。これにより、複数本の被覆導体線束4が、径方向開口部22b側から押圧された状態での形状を保って配置される。
【0045】
図1に示すように、一つのスロット22内に収容された複数本の被覆導体線束4は、ステータコア2の軸方向Lの端部から突出し、周方向Cに延びて他のスロット22内に収容される。図示の例では、ステータコア2は周方向Cに分散して48本のスロット22を有しており、毎極毎相あたりのスロット数が「2」に設定されている。そして、一つのスロット22内の被覆導体線束4は、当該スロット22から6スロット離れて配置された他のスロット22内の被覆導体線束4に接続されている。図1では一対のスロット22間を結ぶ被覆導体線束4の部分のみを示しているが、実際には全てのスロット22について同様に、ステータコア2から軸方向Lに突出した被覆導体線束4の部分が、スロット22間を結んで周方向Cに延びるように配置される。このようにステータコア2から突出する被覆導体線束4の部分が集まってコイルエンド部が形成される。ここで、コイルエンド部は、ステータコア2から軸方向Lの外側へ突出したコイル3の部分を指す。このコイルエンド部における被覆導体線束4の具体的な配置構成は、重ね巻や波巻等の具体的なコイル3の巻き方によって異なる。なお、本願発明においては、上記のとおり、コイル3の巻き方を自由に選択することが可能である。
【0046】
4.ステータの製造方法
次に、本実施形態に係るステータ1の製造方法について説明する。図5は、本実施形態に係るステータ1の製造工程を順に説明するための図である。なお、図5及びこれを用いた以下の説明では、ステータコア2が備える複数のスロット22の中の一つのみを対象とするが、他のスロット22についても同様の工程を実行することにより、ステータ1を製造することができる。まず、図5(a)に示すように、複数本の被覆導体線束4をスロット22内に挿入する。ここでは、複数本の被覆導体線束4を、1本ずつ順に径方向開口部22bから挿入する。これにより、被覆導体線束4は、径方向Rの内側から外側へ向って径方向開口部22bを介してスロット22内へ挿入される。ところで、本実施形態では、被覆導体線束4の断面形状を円形とした状態での当該断面形状の直径Dが、スロット22の径方向開口部22bの周方向Cの開口幅Wよりも大きい。従って、被覆導体線束4を径方向開口部22bからスロット22内へ挿入する際には、被覆導体線束4の断面形状を変形させて当該被覆導体線束4の周方向Cの幅を開口幅W以下とした状態で挿入する。このように、被覆導体線束4の直径を径方向開口部22bの開口幅Wよりも大きくしているので、被覆導体線束4のステータコア2への巻き付け回数を少なく抑え、巻き付け工程を効率化することが可能になっている。
【0047】
その後、図5(b)に示すように、スロット22内に全て(ここでは6本)の被覆導体線束4が挿入されると、それら複数本の被覆導体線束4を、スロット22の径方向開口部22bから押圧する。ここでは、押圧ジグ5を径方向開口部22bから挿入して被覆導体線束4を径方向R外側へ向って押圧する。これにより、スロット22内の複数本の被覆導体線束4を、当該スロット22の形状に合わせて変形させ、当該被覆導体線束4とスロット22の内壁面22aとの隙間及び複数本の被覆導体線束4どうしの隙間を小さくする。そして最後に、図5(c)に示すように、閉塞部材25をスロット22の径方向開口部22bに挿入する。ここでは、スロット22内の複数本の被覆導体線束4における最も径方向開口部22b側(径方向R内側)の面とティース23の周方向突出部23bとの間に閉塞部材25を配置する。例えば、平板状の閉塞部材25は、スロット22の軸方向開口部22cから軸方向Lに沿って挿入することができる。このように閉塞部材25を配置することにより、スロット22内に配置された被覆導体線束4が径方向開口部22bから飛び出すことを抑制できる。そして、複数本の被覆導体線束4が、径方向開口部22b側から押圧された状態での形状を保って配置される。なお、上記のとおり、閉塞部材25を備えない構成としても好適である。以上のようにして、各スロット22の中に配置された複数本の被覆導体線束4のそれぞれは、同じスロット22内の他の被覆導体線束4と比べて断面形状が異なるものとなっている。
【0048】
5.その他の実施形態
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0049】
(1)上記の実施形態では、図2及び図5に示すように、スロット22内の隣り合う被覆導体線束4どうしの接触面が、径方向Rに直交する方向(周方向C)に延びる面となっている場合を例として説明した。しかし、現実には、隣り合う被覆導体線束4どうしの接触面がこのように整然と配置されることは少なく、例えば図6に示すように、スロット22内の隣り合う被覆導体線束4どうしの接触面が、無作為に様々な方向を向くように配置される場合も多いと考えられる。この場合、同じスロット22の中に配置された複数本の被覆導体線束4は、断面形状がそれぞれ大きく異なるものとなる。このような構成であっても、上記の実施形態と同様に、複数本の被覆導体線束4が径方向開口部22b側から押圧された状態での形状を保って配置されることにより、スロット22内の隙間を小さく抑えることができ、コイル3の占積率を高めることができる。したがって、このような構成も本発明の好適な実施形態の一つである。
【0050】
(2)上記の実施形態では、各ティース23の2つの側面23aが互いに平行な平行ティースとし、スロット22の周方向Cの幅が径方向Rの外側へ向うに従って次第に広くなるように形成されている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこのような構成に限定されない。例えば、図7に示すように、スロット22の周方向Cの幅が径方向Rの位置に関わらず一定とされた、いわゆる平行スロットとすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、各スロット22の内壁面22aは、周方向Cに互いに対向すると共に互いに平行に形成された2つの平面を有する。なお、図7の例では、スロット22は、内壁面22aにおける径方向R外側の部分に、径方向Rに直交する平面を有するように形成されている。また、図8に示すように、スロット22の周方向Cの幅が径方向Rの外側へ向うに従って次第に狭くなるように形成することも可能である。この場合、各スロット22の内壁面22aは、周方向Cに互いに対向すると共に径方向Rの外側へ向うに従って互いの間隔が狭くなるように形成された2つの平面を有する。
【0051】
(3)上記の実施形態では、各ティース23が先端部に周方向突出部23bを備え、各スロット22の径方向開口部22bの開口幅Wが他の部分に比べて狭く形成された、いわゆるセミオープンスロットである構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこのような構成に限定されない。例えば、図9に示すように、各ティース23の先端部に周方向突出部23bが形成されておらず、スロット22の内壁面22aが平面のまま径方向開口部22bまで連続している構成とすること、すなわちスロット22をいわゆるオープンスロットとすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合において、径方向開口部22bを塞ぐためのウェッジ等の閉塞部材25が設けられてもよいが、図9に示すように、このような閉塞部材25を備えない構成としてもよい。
【0052】
(4)上記の実施形態では、各スロット22内に配置される複数本(6本)の被覆導体線束4の全部が径方向Rに沿って一列に並ぶように配置されている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこのような構成に限定されない。各スロット22内に配置される複数本の被覆導体線束4が、径方向Rに沿った列を周方向Cに複数列有するように配置された構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。例えば、図10に示すように、各スロット22内に、12本の被覆導体線束4が、径方向Rに沿った6本の被覆導体線束4による列を周方向Cに隣接して2列有するように配置された構成としても好適である。
【0053】
(5)図2及び図6〜図10に示すように、上記の実施形態では、各スロット22内に配置された複数本の被覆導体線束4の全てが内壁面22aに面接触している構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこのようなものに限定されず、各スロット22内に配置された複数本の被覆導体線束4の中の一部のみが、スロット22の内壁面22aに沿った形状の部分を有し、当該部分において内壁面22aに面接触で接触している構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。例えば、図10に示す例から更に被覆導体線束4の周方向Cの配列数を増やし、被覆導体線束4が周方向Cに3列以上並ぶように配列しても好適である。このような構成とした場合、一部の被覆導体線束4は他の被覆導体線束4と接するだけで、スロット22の内壁面22aには接しない位置に配置される。この場合においても、各スロット22内に配置される複数本の被覆導体線束4の内の隣り合う被覆導体線束4は、互いに接するように配置される。
【0054】
(6)上記の実施形態では、被覆導体線束4の断面形状を円形とした状態での当該断面形状の直径Dが、スロット22の径方向開口部22bの開口幅Wよりも大きい構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこのような構成に限定されない。すなわち、被覆導体線束4の断面形状を円形とした状態での当該断面形状の直径Dが、スロット22の径方向開口部22bの開口幅Wより小さく設定されていることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0055】
(7)上記の実施形態では、スロット22の内壁面22aに設けられるスロット絶縁部24が、絶縁粉体塗装により形成されている場合を例として説明した。しかし、スロット絶縁部24の構成はこれに限定されない。例えば、スロット絶縁シートをスロット22の内壁面22aに沿って配置することにより、スロット絶縁部24を形成することも、本発明の好適な実施形態の一つである。このようなスロット絶縁シートを用いる場合、スロット22の径方向開口部22bにまでスロット絶縁部24を形成する必要がなく、基本的には被覆導体線束4が配置される領域だけにスロット絶縁部24が形成される。このようなスロット絶縁部24の構成の一例を図7に示している。また、図示は省略するが、スロット22の内壁面22aにスロット絶縁部24が設けられない構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合であっても、被覆導体線束4は、外周面が絶縁被覆材43により被覆されているため、ステータコア2との間の電気的絶縁性は確保される。
【0056】
(8)上記の実施形態では、導体線41が断面円形状のものである場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこのような構成に限定されない。導体線41の延在方向に直交する断面の形状を、例えば、四角形状、三角形状、五角形状、六角形状、八角形状等の各種多角形状とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0057】
(9)上記の実施形態では、複数のスロット22が径方向Rの内側に開口する径方向開口部22bを備える構成を例として説明した。このような構成は、ステータ1に対して径方向Rの内側にロータが配置されるインナーロータ型の回転電機に適している。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。例えば、複数のスロット22が径方向Rの外側に開口する径方向開口部を備える構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。このような構成は、ステータ1に対して径方向Rの外側にロータが配置されるアウターロータ型の回転電機に適している。また、本発明は、これらのラジアルギャップ型の回転電機に限らず、アキシャルギャップ型の回転電機にも好適に利用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、複数のスロットを有するステータコアと当該ステータコアに取り付けられたコイルとを有する回転電機用ステータに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1:ステータ(回転電機用ステータ)
2:ステータコア
3:コイル
4:被覆導体線束
21:コア基準面
22:スロット
22b:径方向開口部(スロットの開口部)
22a:スロットの内壁面
23:ティース
23a:ティースの側面
41:導体線
42:導体線束
42a:導体線束の外周
43:絶縁被覆材
W:スロット開口部の開口幅
D:被覆導体線束の円形断面の直径
A:被覆導体線束の延在方向
G:被覆導体線束の内部の隙間
L:軸方向
C:周方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットを有するステータコアと当該ステータコアに取り付けられたコイルとを有する回転電機用ステータであって、
前記コイルは、被覆導体線束を前記ステータコアに巻き付けて構成され、
前記被覆導体線束は、導体線を複数本集合させてなる導体線束の外周を、可撓性を有する絶縁被覆材により被覆した構造を有し、
前記スロットのそれぞれの中に、複数本の前記被覆導体線束が配置され、当該複数本の被覆導体線束の内の隣り合う被覆導体線束が互いに接するように配置されている回転電機用ステータ。
【請求項2】
同じ前記スロットの中に配置された複数本の前記被覆導体線束は、前記被覆導体線束の延在方向に直交する断面の形状がそれぞれ異なる請求項1に記載の回転電機用ステータ。
【請求項3】
前記スロットのそれぞれの中に配置された複数本の前記被覆導体線束の中の少なくとも一部が、前記スロットの内壁面に沿った形状の部分を有し、当該部分において前記内壁面に面接触で接触している請求項1又は2に記載の回転電機用ステータ。
【請求項4】
前記導体線は、その延在方向に直交する断面が円形状である請求項1から3のいずれか一項に記載の回転電機用ステータ。
【請求項5】
前記被覆導体線束の延在方向に直交する断面を円形とした状態での当該断面の直径が、前記被覆導体線束の延在方向に直交する面内における前記スロットの開口部の開口幅よりも大きい請求項1から4のいずれか一項に記載の回転電機用ステータ。
【請求項6】
前記スロットの中において、複数本の前記被覆導体線束が、それらの延在方向に直交する方向に開口する前記スロットの開口部側から押圧された状態での形状を保って配置されている請求項1から5のいずれか一項に記載の回転電機用ステータ。
【請求項7】
前記導体線は、裸線である請求項1から6のいずれか一項に記載の回転電機用ステータ。
【請求項8】
前記スロットは、前記ステータコアの円筒状のコア基準面の軸方向に延びると共に前記コア基準面の周方向に複数分散配置され、
前記ステータコアは、隣接する2つの前記スロットの間に形成される複数のティースを有し、
前記ティースのそれぞれにおける周方向を向く2つの側面が、互いに平行である請求項1から7のいずれか一項に記載の回転電機用ステータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−235587(P2012−235587A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101477(P2011−101477)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】