説明

回転電機用ロータ

【課題】 回転電機のロータに発生する渦電流を最小限に抑えて発熱およびエネルギー損失を低減する。
【解決手段】 電動機のロータボディ31は、導電性材料製の第1、第2フランジ部材32,33の外周部と、周方向に所定間隔で配置した弱磁性体の導電性材料製の複数の連結部材34の両端部とをボルト37で連結し、周方向に隣接する連結部材34間に軟磁性体製の誘導磁極39L,39Rを支持して構成される。第1、第2フランジ部材32,33と連結部材34との結合部を絶縁コーティングで電気的に絶縁したので、運転時に第1フランジ部材32、連結部材34、第2フランジ部材33および連結部材34で構成される閉回路を流れる渦電流を低減することができ、渦電流に伴う発熱やエネルギー損失を最小限に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性材料で構成されて共通の軸線上に相互に対向するように離間して配置された第1フランジ部材および第2フランジ部材の外周部間を、導電性の弱磁性体で構成されて前記軸線を中心とする周方向に所定間隔で配置された複数の連結部材で連結し、周方向に隣接する前記連結部材間に軟磁性体で構成された誘導磁極を支持した回転電機用ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電機子を有して回転磁界を発生する環状のステータをケーシングに固定し、外周に複数の永久磁石を支持する第1ロータをステータの内部に回転自在に支持し、複数の軟磁性体製の誘導磁極を支持する円筒状の第2ロータを前記ステータおよび前記第1ロータ間に回転自在に支持することで、第1ロータおよび第2ロータから別個に出力を取り出すことを可能とした二軸出力型電動機が、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開平8−111963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記特許文献1に記載された二軸出力型電動機の第2ロータは、2枚の円板状のロータフレームを複数の棒状の固定部材で連結して籠状に構成されており、周方向に隣接する固定部材間に軟磁性体を支持する構造になっている。しかしながら、その第2ロータは2枚のロータフレームと複数の固定部材の両端との連結部が絶縁されていないため、運転時に発生する渦電流が一方のロータフレーム、固定部材、他方のロータフレームおよび固定部材で構成される閉回路を流れることで、大きな発熱やエネルギー損失が発生する可能性があった。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、回転電機のロータに発生する渦電流を最小限に抑えて発熱およびエネルギー損失を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、導電性材料で構成されて共通の軸線上に相互に対向するように離間して配置された第1フランジ部材および第2フランジ部材の外周部間を、弱磁性体で構成されて前記軸線を中心とする周方向に所定間隔で配置された複数の連結部材で連結し、周方向に隣接する前記連結部材間に軟磁性体で構成された誘導磁極を支持した回転電機用ロータにおいて、前記第1、第2フランジ部材間を電気的に絶縁したことを特徴とする回転電機用ロータが提案される。
【0006】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記連結部材および前記誘導磁極が接する部分で、前記誘導磁極の径方向厚さよりも前記連結部材の径方向厚さを小さくしたことを特徴とする回転電機用ロータが提案される。
【0007】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記連結部材がステンレス鋼製であることを特徴とする回転電機用ロータが提案される。
【0008】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記連結部材がアルミニウム製あるいはアルミニウム合金製であることを特徴とする回転電機用ロータが提案される。
【0009】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記連結部材がチタン製あるいはチタン合金製であることを特徴とする回転電機用ロータが提案される。
【0010】
また請求項6に記載された発明によれば、請求項1〜請求項5の何れか1項の構成に加えて、前記連結部材は表面を絶縁処理されていることを特徴とする回転電機用ロータが提案される。
【0011】
尚、実施の形態の第1誘導磁極39Lおよび第2誘導磁極39Rは本発明の誘導磁極に対応する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、導電性材料製の第1、第2フランジ部材の外周部間を、周方向に所定間隔で配置した弱磁性体の導電性材料製の複数の連結部材で連結し、周方向に隣接する連結部材間に軟磁性体製の誘導磁極を支持して構成した回転電機用ロータにおいて、その第1、第2フランジ部材間を電気的に絶縁したので、運転時に第1フランジ部材、連結部材、第2フランジ部材および連結部材で構成される閉回路を流れる渦電流を低減することができ、渦電流に伴う発熱やエネルギー損失を最小限に抑えることができる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、連結部材および誘導磁極が接する部分で誘導磁極の径方向厚さよりも連結部材の径方向厚さを小さくしたので、連結部材の断面積を小さくして渦電流を更に低減することができる。
【0014】
また請求項3の構成によれば、連結部材をステンレス鋼製としたので、その電気抵抗値が高くなって渦電流が抑制されるだけでなく、材料費が安価であって加工も容易である。
【0015】
また請求項4の構成によれば、連結部材をアルミニウム製あるいはアルミニウム合金製としたので、材料費が安価で軽量であって加工も容易であり、しかも渦電流を遮断するための表面処理が容易である。
【0016】
また請求項5の構成によれば、連結部材をチタン製あるいはチタン合金製としたので、その電気抵抗値が高くなって渦電流が抑制されるだけでなく、強度に比して軽量であるためにロータの軽量化を図ることができる。
【0017】
また請求項6の構成によれば、連結部材の表面を絶縁処理したので、特別の絶縁部材を用いることなく連結部材とフランジ部材との接触部を絶縁して渦電流を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0019】
図1〜図20は本発明の第1の実施の形態を示すもので、図1は電動機を軸線方向に見た正面図(図2の1−1線矢視図)、図2は図1の2−2線断面図、図3は図2の3−3線断面図、図4は図2の4−4線断面図、図5は図3の5−5線矢視図、図6は図5の6−6線断面図、図7は図5の7−7線断面図、図8は図5の8−8線断面図、図9は図5の9−9線断面図、図10は電動機の分解斜視図、図11はインナーロータの分解斜視図、図12は連結部材および誘導磁極の斜視図、図13はスプリングの斜視図、図14はリングの斜視図、図15は電動機を円周方向に展開した模式図、図16はインナーロータを固定した場合の作動説明図(その1)、図17はインナーロータを固定した場合の作動説明図(その2)、図18はインナーロータを固定した場合の作動説明図(その3)、図19はアウターロータを固定した場合の作動説明図(その1)、図20はアウターロータを固定した場合の作動説明図(その2)である。
【0020】
図10に示すように、本実施の形態の電動機Mは、軸線L方向に短い八角筒形状を成すケーシング11と、ケーシング11の内周に固定された円環状の第1、第2ステータ12L,12Rと、第1、第2ステータ12L,12Rの内部に収納されて軸線Lまわりに回転する円筒状のアウターロータ13と、アウターロータ13の内部に収納されて軸線Lまわりに回転する円筒状のインナーロータ14とで構成されるもので、アウターロータ13およびインナーロータ14は固定された第1、第2ステータ12L,12Rに対して相対回転可能であり、かつアウターロータ13およびインナーロータ14は相互に相対回転可能である。
【0021】
図1および図2に示すように、ケーシング11は有底八角筒状の本体部15と、本体部15の開口に複数本のボルト16…で固定される八角板状の蓋部17とで構成されており、本体部15および蓋部17には通気のための複数の開口15a…,17a…が形成される。
【0022】
図1〜図4および図10に示すように、第1、第2ステータ12L,12Rは、同一構造のものを円周方向にずらして重ね合わせたものであり、その一方の第1ステータ12Lを例にとって構造を説明する。第1ステータ12Lは、積層鋼板よりなるコア18の外周にインシュレータ19を介してコイル20を巻回した複数個(実施の形態では24個)第1電機子21L…を備えており、これらの第1電機子21L…は全体として円環状を成すように円周方向に結合された状態で、リング状のホルダ22で一体化される。ホルダ22の軸線L方向一端から径方向に突出するフランジ22a…が、ケーシング11の本体部15の内面の段部15b(図2参照)に複数本のボルト23…で固定される。
【0023】
第2ステータ12Rは、上述した第1ステータ12Lと同様に24個の第2電機子21R…を備えており、そのホルダ22のフランジ22a…がケーシング11の本体部15の内面の段部15c(図2参照)に複数本のボルト24…で固定される。このとき、第1ステータ12Lおよび第2ステータ12Rの円周方向の位相は、インナーロータ14の第1、第2永久磁石52L…,52R…のピッチの半分だけ相互にずれている(図3および図4参照)。そして第1、第2ステータ12L,12Rの第1、第2電機子21L…,21R…に、ケーシング11の本体部15に設けた3個の端子25,26,27(図1参照)から3相交流電流を供給することで、第1、第2ステータ12L,12Rに回転磁界を発生させることができる。
【0024】
図2および図10に示すように、アウターロータ13の籠状のロータボディ31は、導電性材料である鉄あるいは鉄鋼で構成された円板状の第1、第2フランジ部材32,33と、導電性の弱磁性体であるアルミニウムあるいはアルミニウム合金で構成された複数本(実施の形態では20本)の棒状の連結部材34…とを組み立てて構成される。第1フランジ部材32の中心から軸線L上に突出する第1アウターロータシャフト32aがボールベアリング35でケーシング11の蓋部17に回転自在に支持されるとともに、第2フランジ部材33の中心から軸線L上に突出する第2アウターロータシャフト33aがボールベアリング36でケーシング11の本体部15に回転自在に支持される。アウターロータ13の出力軸となる第2アウターロータシャフト33aは、ケーシング11の本体部15を貫通して外部に延出する。
【0025】
弱磁性体とは、磁石に吸着しない材質で、例えばアルミニウム等の他に樹脂、木等を含み、非磁性体と呼ばれることもある。
【0026】
第1、第2フランジ部材32,33は基本的に円板状の部材であり、また連結部材34は基本的に棒状の部材であるため、それらを例えばダイキャストで成形する場合に、小型で簡素な構造の金型を使用することが可能となり、ロータボディ31の量産性を高めて製造コストを削減することができる。
【0027】
図12に示すように、連結部材34は両端に形成された一対の円形断面の位置決め部34a,34aと、その内側に連設された一対の非円形断面の回り止め部34b,34bと、その内側に連設された一対の誘導磁極支持部34c,34cと、その内側に連設された一段厚いリング支持部34dと、位置決め部34a,34aを除く全長の両側面に突設された四角断面を有する畝状の凸部34e,34eとを備えており、リング支持部34dの一端側に係止突起34fが径方向外向きに突設される。
【0028】
図6〜図8に示すように、第1、第2フランジ部材32,33の外周部内面には環状溝32b,33bが形成されており、これらの環状溝32b,33bの底部に円形断面の位置決め孔32c,33cが形成され、これらの位置決め孔32c,33cの底部がボルト孔32d,33dを介して第1、第2フランジ部材32,33の外周部外面に連通する。第1フランジ部材32の環状溝32bおよび位置決め孔32cに連結部材34の一端側の回り止め部34bおよび位置決め部34aがそれぞれが嵌合した状態で、ボルト37がワッシャ38および第1フランジ部材32のボルト孔32dを貫通して連結部材34の雌ねじ部34gに螺合することで、20本の連結部材34…の一端側が第1フランジ部材32に連結される。
【0029】
同様にして、第2フランジ部材33の環状溝33bおよび位置決め孔33cに連結部材34の他端側の回り止め部34bおよび位置決め部34aがそれぞれが嵌合した状態で、ボルト37がワッシャ38および第2フランジ部材33のボルト孔33dを貫通して連結部材34の雌ねじ部34gに螺合することで、20本の連結部材34…の他端側が第2フランジ部材33に連結される。その結果、第1、第2フランジ部材32,33と20本の連結部材34…とによって籠状のロータボディ31が構成される。
【0030】
このとき、円形断面の位置決め部34a,34aと円形断面の位置決め孔32c,33cとの嵌合により第1、第2フランジ部材32,33に対する連結部材34…の位置が精密に位置決めされ、非円形断面の回り止め部34b,34bと環状溝32b,33bとの嵌合により第1、第2フランジ部材32,33に対する連結部材34…の相対回転が規制されることで、第1、第2フランジ部材32,33に対して連結部材34…を直角に位置決めしてアウターロータ13の組立精度を確保することができる。
【0031】
図6に拡大して示すように、第2フランジ部材33の表面には硬質アルマイト製の絶縁被膜aが施されており、同様に各連結部材34の表面には硬質アルマイト製の絶縁被膜bが施されている。また第2フランジ部材33に各連結部材34をボルト37で固定する際に使用する鉄製のワッシャ38は、その表面にポリアミドイミドよりなる絶縁被膜cが施されている。そして前記ボルト37は第2フランジ部材33のボルト孔33dを隙間を存して貫通し、連結部材34の雌ねじ部34gに螺合する。従って、連結部材34の右端と第2フランジ33とは電気的に絶縁されることになる。同様の構造により、連結部材34の左端と第1フランジ部材32とは電気的に絶縁されており、第1フランジ部材32、連結部材34、第2フランジ部材33および連結部材34を介して構成される電気的な閉回路(図5の矢印参照)を確実に遮断することができる。
【0032】
図5に示すように、20本の連結部材34…の間には軸線Lと平行に延びる20本のスリットが形成され、各スリットに軟磁性体製の第1誘導磁極39Lと、弱磁性体製のリング40と、軟磁性体製の第2誘導磁極39Rとが、ロータボディ31の軸線L方向一端側から挿入されて支持される。
【0033】
図12に示すように、第1、第2誘導磁極39L,39Rは、軸線L方向に積層された多数の鋼板で構成されるもので、軸線Lに沿う両側面には四角断面の凹部39a,39aが形成されており、これらの凹部39a,39aが、その両側に位置する連結部材34,34の凸部34e,34eに凹凸係合することで、第1、第2誘導磁極39L,39Rの径方向の脱落が防止される。前記凸部34e,34eおよび前記凹部39a,39aの間には若干の隙間が発生することが避けられないため、連結部材34…に対して第1、第2誘導磁極39L…,39R…が相対移動して騒音を発するのを防止すべく、その凹凸係合部が接着剤59(図9参照)で固定される。
【0034】
ところで、実施の形態では第1、第2誘導磁極39L,39Rの凹部39a,39aおよび連結部材34の凸部34e,34eは共に四角断面であるが、それらを共に半円状断面とすれば接触部の隙間を減少させ、接着剤59を使用しなくても騒音を低減することができる。
【0035】
尚、第1誘導磁極39L、リング40および第2誘導磁極39Rの組み付けは、例えば第1フランジ部材32に連結部材34…の一端を結合した状態で行われ、その後に連結部材34…の他端に第2フランジ部材33が結合される。
【0036】
図14に示すように、リング40は帯状の金属板を環状に形成したもので、その第2フランジ部材33側の端縁に18°間隔で複数個(実施の形態では20個)の位置決め溝40b…が凹設される。
【0037】
図5〜図7に示すように、アウターロータ13が回転すると、第1、第2誘導磁極39L…,39R…に加わる遠心力で連結部材34…は径方向外側に撓もうとするが、連結部材34…の軸線L方向中央部をリング40で径方向内向きに押さえることで、連結部材34…の変形を効果的に抑制してアウターロータ13の高速回転を可能にすることができる。
【0038】
特に、リング40を第1誘導磁極39L…と第2誘導磁極39R…との間に配置したので、重量の大きい第1、第2誘導磁極39L…,39R…に作用する遠心力を効果的に支持することができる。しかもリング40で遠心力を支持することで、連結部材34…を細くすることが可能になり、渦電流の低減にも寄与することができる。
【0039】
図5および図7に示すように、隣接する一対の連結部材34,34間のスリットに嵌合する第1、第2誘導磁極39L,39Rは、一対の第1、第2スプリング41L,41Rで相互に接近する方向に付勢され、以下のような方法で軸線L方向に位置決めされる。
【0040】
各20個の第1、第2スプリング41L…,41R…は全て同一構造を有しているため、その一方の第2スプリング41Rについて構造を説明する。第2スプリング41Rは板金を所定形状に打ち抜いて湾曲させたものであり、第1係止部41a、第2係止部41bおよび押圧部41cを備える(図13参照)。第2フランジ部材33の環状溝33bの底部に係止孔33eが形成されており、この係止孔33eに第1係止部41aを係合させ、かつ環状溝33bの外周壁に第2係止部41bを圧縮状態で挿入することで、第2スプリング41Rは第2フランジ部材33の環状溝33bに支持され、この状態で第2スプリング41Rの押圧部41cは第2誘導磁極39Rの端面に当接して軸線L方向左向きの弾発力F2(図7参照)を発生する。
【0041】
第1スプリング41Lは、上述した第2スプリング41Rと同様の構造で第1フランジ部材32の環状溝32bに装着され、この状態で第1スプリング41Lの押圧部41cは第1誘導磁極39Lの端面に当接して軸線L方向右向きの弾発力F1(図7参照)を発生する。このとき、第1、第2誘導磁極39L,39Rはリング40を挟んで両側から第1、第2スプリング41L,41Rで押圧されるため、その軸線L方向の位置を規制するために次のような構造が採用されている。
【0042】
即ち、図7において左側の第1スプリング41Lの弾発力F1で右側に押圧された第1誘導磁極39Lと、それに当接するリング40とは右側に押圧され、リング40の右端に形成した各位置決め溝40b(図14参照)は連結部材34の係止突起34fに左側から当接して軸線L方向に位置決めされる。一方、右側の第2スプリング41Rの弾発力F2で左側に押圧された第2誘導磁極39Rは、リング40の右端に右側から当接して軸線L方向に位置決めされる。このとき、仮に右側の第2スプリング41Rの弾発力F2が左側の第1スプリング41Lの弾発力F1よりも強いと、右側の第2スプリング41Rの弾発力F2でリング40および第1誘導磁極39Lが左側に押し戻されてしまい、リング40の位置決め溝40bと連結部材34の係止突起34fとの係合が外れてしまう可能性があるため、左側の第1スプリング41Lの弾発力F1は右側の第2スプリング41Rの弾発力F2よりも強く設定される。弾発力F1,F2の差は、第1、第2スプリング41L,41Rの材質の差や、圧縮代の差で調整可能である。
【0043】
以上のように、リング40の軸線L方向両側に第1、第2誘導磁極39L,39Rを配置し、第1、第2スプリング41L,41Rで第1、第2誘導磁極39L,39Rを相互に接近する方向に付勢してリング40の両側縁に圧接するので、第1、第2誘導磁極39L,39Rの軸線L方向の寸法にばらつきが存在しても、その寸法のばらつきを吸収して第1、第2誘導磁極39L,39Rを確実に固定することができる。
【0044】
またリング40の位置決め溝40bを連結部材34の係止突起34fに係止して軸線L方向に位置決めし、その状態で第1、第2誘導磁極39L,39Rをリング40に圧接して固定するので、軸線L方向両側から第1、第2スプリング41L,41Rで弾発力を加えても、第1、第2誘導磁極39L,39Rを軸線L方向に精度良く位置決めすることができる。更に、リング40の位置決め溝40bが連結部材34の係止突起34fに係止されることで、リング40の周方向の位置決めも同時に達成される。
【0045】
図2に示すように、アウターロータ13の第2アウターロータシャフト33aを囲むように、アウターロータ13の回転位置を検出するための第1レゾルバ42が設けられる。第1レゾルバ42は、第2アウターロータシャフト33aの外周に固定されたレゾルバロータ43と、このレゾルバロータ43の周囲を囲むようにケーシング11の蓋部17に固定されたレゾルバステータ44とで構成される。
【0046】
図2〜図4および図11に示すように、インナーロータ14は、円筒状に形成されたロータボディ45と、ロータボディ45のハブ45aを貫通してボルト46で固定されたインナーロータシャフト47と、積層鋼板で構成されてロータボディ45の外周に嵌合する円環状の第1、第2ロータコア48L,48Rと、ロータボディ45の外周に嵌合する円環状のスペーサ49とを備える。インナーロータシャフト47の一端は軸線L上で第2アウターロータシャフト33aの内部にボールベアリング50で回転自在に支持され、またインナーロータシャフト47の他端は第1アウターロータシャフト32aの内部にボールベアリング51で回転自在に支持されるとともに、第1アウターロータシャフト32aおよびケーシング11の蓋部17を貫通し、インナーロータ14の出力軸としてケーシング11の外部に延出する。
【0047】
ロータボディ45の外周に嵌合する第1、第2ロータコア48L,48Rは同一構造を有するもので、その外周面に沿って複数個(実施の形態では20個)の永久磁石支持孔48a…(図3および図4参照)を備えており、そこに第1、第2永久磁石52L…,52R…が軸線L方向に圧入される。第1ロータコア48Lの隣接する第1永久磁石52L…の極性は交互に反転しており、第2ロータコア48Rの隣接する第2永久磁石52R…の極性は交互に反転しており、かつ第1ロータコア48Lの第1永久磁石52L…の円周方向の位相と、第2ロータコア48Rの第2永久磁石52R…の円周方向の位相とは、それらのピッチの半分だけ相互にずれている(図3および図4参照)。
【0048】
そしてロータボディ45の外周の軸線L方向中央に弱磁性体のスペーサ49が嵌合し、その外側に第1、第2永久磁石52L…,52R…を抜け止めする一対の内側永久磁石支持板53,53がそれぞれ嵌合し、その外側に第1、第2ロータコアロータコア48L,48Rがそれぞれ嵌合し、その外側に第1、第2永久磁石52L…,52R…を抜け止めする一対の外側永久磁石支持板54,54がそれぞれ嵌合し、その外側に一対のストッパリング55,55が圧入によりそれぞれ固定される。
【0049】
図2に示すように、インナーロータシャフト47を囲むように、インナーロータ14の回転位置を検出するための第2レゾルバ56が設けられる。第2レゾルバ56は、インナーロータシャフト47の外周に固定されたレゾルバロータ57と、このレゾルバロータ57の周囲を囲むようにケーシング11の蓋部17に固定されたレゾルバステータ58とで構成される。
【0050】
しかして、図3および図4に示すように、アウターロータ13の外周面に露出する第1誘導磁極39L…の外周面に、僅かなエアギャップを介して第1ステータ12Lの第1電機子21L…の内周面が対向し、アウターロータ13の内周面に露出する第1誘導磁極39L…の内周面に、僅かなエアギャップを介してインナーロータ14の第1ロータコア48Lの外周面が対向する。同様に、アウターロータ13の外周面に露出する第2誘導磁極39R…の外周面に、僅かなエアギャップを介して第2ステータ12Rの第2電機子21R…の内周面が対向し、アウターロータ13の内周面に露出する第2誘導磁極39R…の内周面に、僅かなエアギャップを介してインナーロータ14の第2ロータコア48Rの外周面が対向する。
【0051】
次に、上記構成を備えた第1の実施の形態の電動機Mの作動原理を説明する。
【0052】
図15は電動機Mを円周方向に展開した状態を模式的に示すものである。図15の左右両側には、インナーロータ14の第1、第2永久磁石52L…,52R…がそれぞれ示される。第1、第2永久磁石52L…,52R…は円周方向(図15の上下方向)に所定のピッチPでN極およびS極が交互に配置されるとともに、第1永久磁石52L…と第2永久磁石52R…とが所定のピッチPの半分だけ、つまり半ピッチP/2だけずれて配置される。
【0053】
図15の中央部には第1、第2ステータ12L,12Rの第1、第2電機子21L…,21R…に対応する仮想永久磁石21…が円周方向に所定のピッチPで配置される。実際には、第1、第2ステータ12L,12Rの第1、第2電機子21L…,21R…の数は各24個であり、インナーロータ14の第1、第2永久磁石52L…,52R…の数は各20個であるため、第1、第2電機子21L…,21R…のピッチはインナーロータ14の第1、第2永久磁石52L…,52R…のピッチPと一致していない。
【0054】
しかしながら、第1、第2電機子21L…,21R…はそれぞれ回転磁界を形成するため、それら第1、第2電機子21L…,21R…を、ピッチPで配置されて円周方向に回転する20個の仮想永久磁石21…で置き換えることができる。以下、第1、第2電機子21L…,21R…を、仮想永久磁石21…の第1、第2仮想磁極21L…,21R…と呼ぶ。円周方向に隣接する仮想永久磁石21…の第1、第2仮想磁極21L…,21R…の極性は交互に反転しており、かつ各仮想永久磁石21…の第1仮想磁極21L…と第2仮想磁極21R…とは、円周方向に半ピッチP/2だけずれている。
【0055】
第1、第2永久磁石52L…,52R…と仮想永久磁石21…との間に、アウターロータ13の第1、第2誘導磁極39L…,39R…が配置される。第1、第2誘導磁極39L…,39R…は円周方向にピッチPで配置されるとともに、第1誘導磁極39L…と第2誘導磁極39R…とは軸線L方向に整列している。
【0056】
図15に示すように、仮想永久磁石21の第1仮想磁極21Lの極性が、それに対向する(最も近い)第1永久磁石52Lの極性と異なるときには、仮想永久磁石21の第2仮想磁極21Rの極性が、それに対向する(最も近い)第2永久磁石52Rの極性と同じになる。また仮想永久磁石21の第2仮想磁極21Rの極性が、それに対向する(最も近い)第2永久磁石52Rの極性と異なるときには、仮想永久磁石21の第1仮想磁極21Lの極性が、それに対向する(最も近い)第1永久磁石52Lの極性と同じになる(図17(G)参照)。
【0057】
先ず、インナーロータ14(第1、第2永久磁石52L…,52R…)を回転不能に固定した状態で、第1、第2ステータ12L,12R(第1、第2仮想磁極21L…,21R…)に回転磁界を発生させることで、アウターロータ13(第1、第2誘導磁極39L…,39R…)を回転駆動する場合の作用を説明する。この場合、図16(A)→図16(B)→図16(C)→図16(D)→図17(E)→図17(F)→図17(G)の順番で、固定された第1、第2永久磁石52L…,52R…に対して仮想永久磁石21…が図中下向きに回転することで、第1、第2誘導磁極39L…,39R…が図中下向きに回転する。
【0058】
図16(A)に示すように、相対向する第1永久磁石52L…および仮想永久磁石21…の第1仮想磁極21L…に対して第1誘導磁極39L…が整列し、かつ相対向する第2仮想磁極21R…および第2永久磁石52R…に対して第2誘導磁極39R…が半ピッチP/2ずれた状態から、仮想永久磁石21…を同図の下方に回転させる。その回転の開始時においては、仮想永久磁石21…の第1仮想磁極21L…の極性は、それに対向する第1永久磁石52L…の極性と異なるとともに、仮想永久磁石21…の第2仮想磁極21R…の極性は、それに対向する第2永久磁石52R…の極性と同じになる。
【0059】
第1誘導磁極39L…が第1永久磁石52L…および仮想永久磁石21…の第1仮想磁極21L…間に配置されているので、第1誘導磁極39L…が第1永久磁石52L…および第1仮想磁極21L…によって磁化され、第1永久磁石52L…、第1誘導磁極39L…および第1仮想磁極21L…間に第1磁力線G1が発生する。同様に、第2誘導磁極39R…が第2仮想磁極21R…および第2永久磁石52R…間に配置されているので、第2誘導磁極39R…が第2仮想磁極21R…および第2永久磁石52R…によって磁化され、第2仮想磁極21R…、第2誘導磁極39R…および第2永久磁石52R…間に第2磁力線G2が発生する。
【0060】
図16(A)に示す状態では、第1磁力線G1は、第1永久磁石52L…、第1誘導磁極39L…および第1仮想磁極21L…を結ぶように発生し、第2磁力線G2は、円周方向に隣り合う各2つの第2仮想磁極21R…と両者の間に位置する第2誘導磁極39R…とを結ぶように、また円周方向に隣り合う各2つの第2永久磁石52R…と両者の間に位置する第2誘導磁極39R…とを結ぶように発生する。その結果、この状態では、図18(A)に示すような磁気回路が構成される。この状態では、第1磁力線G1が直線状であることにより、第1誘導磁極39L…には、円周方向に回転させるような磁力は作用しない。また円周方向に隣り合う各2つの第2仮想磁極21R…と第2誘導磁極39R…との間の2つの第2磁力線G2の曲がり度合いおよび総磁束量が互いに等しく、同様に円周方向に隣り合う各2つの第2永久磁石52R…と第2誘導磁極39R…との間の2つの第2磁力線G2の曲がり度合いおよび総磁束量も、互いに等しくなってバランスしている。このため、第2誘導磁極39R…にも、円周方向に回転させるような磁力は作用しない。
【0061】
そして、仮想永久磁石21…が図16(A)に示す位置から図16(B)に示す位置に回転すると、第2仮想磁極21R…、第2誘導磁極39R…および第2永久磁石52R…を結ぶような第2磁力線G2が発生するとともに、第1誘導磁極39L…と第1仮想磁極21L…との間の第1磁力線G1が曲がった状態になる。これに伴い、第1、第2の磁力線G1,G2によって、図18(B)に示すような磁気回路が構成される。
【0062】
この状態では、第1磁力線G1の曲がり度合いは小さいものの、その総磁束量が多いため、比較的強い磁力が第1誘導磁極39L…に作用する。これにより、第1誘導磁極39L…は、仮想永久磁石21…の回転方向、つまり磁界回転方向に比較的大きな駆動力で駆動され、その結果アウターロータ13が磁界回転方向に回転する。また第2磁力線G2の曲がり度合いは大きいものの、その総磁束量が少ないため、比較的弱い磁力が第2誘導磁極39R…に作用し、それにより第2誘導磁極39R…は磁界回転方向に比較的小さな駆動力で駆動され、その結果アウターロータ13は磁界回転方向に回転する。
【0063】
次いで、仮想永久磁石21が、図16(B)に示す位置から、図16(C),(D)および図17(E),(F)に示す位置に順に回転すると、第1誘導磁極39L…および第2誘導磁極39R…は、それぞれ第1、第2の磁力線G1,G2に起因する磁力によって磁界回転方向に駆動され、その結果アウターロータ13が磁界回転方向に回転する。その間、第1誘導磁極39L…に作用する磁力は、第1磁力線G1の曲がり度合いが大きくなるものの、その総磁束量が少なくなることによって、徐々に弱くなり、第1誘導磁極39L…を磁界回転方向に駆動する駆動力が徐々に小さくなる。また第2誘導磁極39R…に作用する磁力は、第2磁力線G2の曲がり度合いが小さくなるものの、その総磁束量が多くなることによって徐々に強くなり、第2誘導磁極39R…を磁界回転方向に駆動する駆動力が徐々に大きくなる。
【0064】
そして、仮想永久磁石21が図17(E)に示す位置から図17(F)に示す位置に回転する間、第2磁力線G2が曲がった状態になるとともに、その総磁束量が最多に近い状態になり、その結果、最強の磁力が第2誘導磁極39R…に作用し、第2誘導磁極39R…に作用する駆動力が最大になる。その後、図17(G)に示すように、仮想永久磁石21が当初の図16(A)の位置からピッチP分回転することにより、仮想永久磁石21の第1、第2仮想磁極21L…,21R…がそれぞれ第1、第2永久磁石52L…,52R…に対向する位置に回転すると、図16(A)の状態と左右が反転した状態となり、その瞬間だけアウターロータ13を円周方向に回転させる磁力は作用しなくなる。
【0065】
この状態から、仮想永久磁石21が更に回転すると、第1、第2の磁力線G1,G2に起因する磁力によって、第1、第2誘導磁極39L…,39R…が磁界回転方向に駆動され、アウターロータ13が磁界回転方向に回転する。その際、仮想永久磁石21が再び図16(A)に示す位置まで回転する間、以上とは逆に、第1誘導磁極39L…に作用する磁力は、第1磁力線G1の曲がり度合が小さくなるものの、その総磁束量が多くなることによって強くなり、第1誘導磁極39L…に作用する駆動力が大きくなる。逆に、第2誘導磁極39R…に作用する磁力は、第2磁力線G2の曲がり度合が大きくなるものの、その総磁束量が少なくなることによって弱くなり、第2誘導磁極39R…に作用する駆動力が小さくなる。
【0066】
また図16(A)と図17(G)とを比較すると明らかなように、仮想永久磁石21がピッチP分回転するのに伴って、第1、第2誘導磁極39L…,39R…が半ピッチP/2分しか回転しないので、アウターロータ13は、第1、第2ステータ12L、12Rの回転磁界の回転速度の1/2の速度で回転する。これは、第1、第2磁力線G1,G2に起因する磁力の作用によって、第1、第2誘導磁極39L…,39R…が、第1磁力線G1で結ばれた第1永久磁石52L…と第1仮想磁極21L…との中間、および第2磁力線G2で結ばれた第2永久磁石52R…と第2仮想磁極21R…トの中間に、それぞれ位置した状態を保ちながら、回転するためである。
【0067】
次に、図19および図20を参照しながら、アウターロータ13を固定した状態で、インナーロータ14を回転させる場合の電動機Mの作動について説明する。
【0068】
先ず、図19(A)に示すように、各第1誘導磁極39L…が各第1永久磁石52L…に対向するとともに、各第2誘導磁極39R…が隣り合う各2つの第2永久磁石52R…の間に位置した状態から、第1、第2回転磁界を同図の下方に回転させる。その回転の開始時において、各第1仮想磁極21L…の極性を、それに対向する各第1永久磁石52L…の極性と異ならせるとともに、各第2仮想磁極21R…の極性をそれに対向する各第2永久磁石52R…の極性と同じにする。
【0069】
この状態から、仮想永久磁石21…が図19(B)に示す位置に回転すると、第1誘導磁極39L…と第1仮想磁極21L…の間の第1磁力線G1が曲がった状態になり、かつ第2仮想磁極21R…が第2誘導磁極39R…に近づくことによって、第2仮想磁極21R…、第2誘導磁極39R…および第2永久磁石52R…を結ぶような第2磁力線G2が発生する。その結果、第1、第2永久磁石52L…,52R…、仮想永久磁石21…および第1、第2誘導磁極39L…,39R…において、前述した図18(B)に示すような磁気回路が構成される。
【0070】
この状態では、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極39L…との間の第1磁力線G1の総磁束量は高いものの、この第1磁力線G1がまっすぐであるため、第1誘導磁極39L…に対して第1永久磁石52L…を回転させるような磁力が発生しない。また第2永久磁石52R…およびこれと異なる極性の第2仮想磁極21R…の間の距離が比較的長いことにより、第2誘導磁極39R…と第2永久磁石52R…との間の第2磁力線G2の総磁束量は比較的少ないものの、その曲がり度合いが大きいことによって、第2永久磁石52R…に、これを第2誘導磁極39R…に近づけるような磁力が作用する。これにより、第2永久磁石52R…は、第1永久磁石52L…と共に、仮想永久磁石21…の回転方向、即ち磁界回転方向と逆方向(図16の上方)に駆動され、図19(C)に示す位置に向かって回転する。また、これに伴い、インナーロータ14が磁界回転方向と逆方向に回転する。
【0071】
そして第1、第2永久磁石52L…,52R…が図19(B)に示す位置から図19(C)に示す位置に向かって回転する間、仮想永久磁石21…は、図19(D)に示す位置に向かって回転する。以上のように、第2永久磁石52R…が第2誘導磁極39R…に近づくことにより、第2誘導磁極39R…と第2永久磁石52R…との間の第2磁力線G2の曲がり度合いは小さくなるものの、仮想永久磁石21…が第2誘導磁極39R…に更に近づくのに伴い、第2磁力線G2の総磁束量は多くなる。その結果、この場合にも、第2永久磁石52R…に、これを第2誘導磁極39R…側に近づけるような磁力が作用し、それにより、第2永久磁石52R…が、第1永久磁石52L…と共に、磁界回転方向と逆方向に駆動される。
【0072】
また第1永久磁石52L…が磁界回転方向と逆方向に回転するのに伴い、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極39L…との間の第1磁力線G1が曲がることによって、第1永久磁石52L…に、これを第1誘導磁極39L…に近づけるような磁力が作用する。しかし、この状態では、第1磁力線G1に起因する磁力は、第1磁力線G1の曲がり度合いが第2磁力線G2よりも小さいことによって、上述した第2磁力線G2に起因する磁力よりも弱い。その結果、両磁力の差分に相当する磁力によって、第2永久磁石52R…が第1永久磁石52L…と共に、磁界回転方向と逆方向に駆動される。
【0073】
そして、図19(D)に示すように、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極39L…との間の距離と、第2誘導磁極39R…と第2永久磁石52R…との間の距離が互いにほぼ等しくなったときには、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極39L…との間の第1磁力線G1の総磁束量および曲がり度合いが、第2誘導磁極39R…と第2永久磁石52R…との間の第2磁力線G2の総磁束量および曲がり度合いとそれぞれほぼ等しくなる。
【0074】
その結果、これらの第1、第2磁力線G1,G2に起因する磁力が互いにほぼ釣り合うことによって、第1、第2永久磁石52L…,52R…が一時的に駆動されない状態になる。
【0075】
この状態から、仮想永久磁石21…が図20(E)に示す位置まで回転すると、第1磁力線G1の発生状態が変化し、図20(F)に示すような磁気回路が構成される。それにより、第1磁力線G1に起因する磁力が、第1永久磁石52L…を第1誘導磁極39L…に近づけるようにほとんど作用しなくなるので、第2磁力線G2に起因する磁力によって、第2永久磁石52R…は、第1永久磁石52L…とともに、図20(G)に示す位置まで、磁界回転方向と逆方向に駆動される。
【0076】
そして、図20(G)に示す位置から、仮想永久磁石21…が若干回転すると、以上とは逆に、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極39L…との間の第1磁力線G1に起因する磁力が、第1永久磁石52L…に、これを第1誘導磁極39L…に近づけるように作用し、それにより、第1永久磁石52L…が第2永久磁石52R…と共に、磁界回転方向と逆方向に駆動され、インナーロータ14が磁界回転方向と逆方向に回転する。そして仮想永久磁石21…が更に回転すると、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極39L…との間の第1磁力線G1に起因する磁力と第2誘導磁極39R…と第2永久磁石52R…との間の第2磁力線G2に起因する磁力の差分に相当する磁力によって、第1永久磁石52L…が第2永久磁石52R…と共に、磁界回転方向と逆方向に駆動される。その後、第2磁力線G2に起因する磁力が、第2永久磁石52R…を第2誘導磁極39R…に近づけるようにほとんど作用しなくなると、第1磁力線G1に起因する磁力によって、第1永久磁石52L…が第2永久磁石52R…と共に駆動される。
【0077】
以上のように、第1、第2回転磁界の回転に伴い、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極39L…との間の第1磁力線G1に起因する磁力と、第2誘導磁極39R…と第2永久磁石52R…との間の第2磁力線G2に起因する磁力と、これらの磁力の差分に相当する磁力とが、第1、第2永久磁石52L…,52R…に、即ちインナーロータ14に交互に作用し、それによりインナーロータ14が磁界回転方向と逆方向に回転する。また、そのように磁力、即ち駆動力がインナーロータ14に交互に作用することによって、インナーロータ14のトルクはほぼ一定になる。
【0078】
この場合、インナーロータ14は、第1、第2回転磁界と同じ速度で逆回転する。これは、第1、第2磁力線G1,G2に起因する磁力の作用によって、第1、第2誘導磁極39L…,39R…が、第1永久磁石52L…と第1仮想磁極21L…との中間、および第2永久磁石52R…と第2仮想磁極21R…との中間にそれぞれ位置した状態を保ちながら、第1、第2永久磁石525L…,52R…が回転するためである。
【0079】
以上、インナーロータ14を固定してアウターロータ13を磁界回転方向に回転させる場合と、アウターロータ13を固定してインナーロータ14を磁界回転方向と逆方向に回転させる場合とを別個に説明したが、勿論インナーロータ14およびアウターロータ13の両方を相互に逆方向に回転させることも可能である。
【0080】
以上のように、インナーロータ14およびアウターロータ13のいずれか一方、あるいはインナーロータ14およびアウターロータ13の両方を回転させる場合に、インナーロータ14およびアウターロータ13の相対的な回転位置に応じて、第1、第2誘導磁極39L…,39R…の磁化の状態が変わり、滑りを生じることなく回転させることが可能であり、同期機として機能するので、効率を高めることができる。また第1仮想磁極21L…、第1永久磁石52L…および第1誘導磁極39L…の数が互いに同じに設定されるとともに、第2仮想磁極21R…、第2永久磁石52R…および第2誘導磁極39R…の数が互いに同じに設定されているので、インナーロータ14およびアウターロータ13のいずれを駆動する場合にも、電動機Mのトルクを十分に得ることができる。
【0081】
しかして、本実施の形態の電動機Mによれば、アウターロータ13の外郭を円板状の第1、第2フランジ部材32,33と、それらを連結する複数の棒状の連結部材34…とに分割して構成したので、連結部材34…を第1、第2フランジ部材32,33の何れか一方と一体に形成する場合に比べて、加工コストを大幅に削減することができる。
【0082】
またアウターロータ13の第1、第2フランジ部材32,33と、それらを連結する連結部材34…とを電気的に絶縁したので、電動機Mの運転中に図5に矢印で示した第1フランジ部材32、連結部材34、第2フランジ部材33および連結部材34で構成される閉回路を絶縁部で遮断し、渦電流の発生を抑制して発熱やエネルギー損失を最小限に抑えることができる。しかも一つの閉回路に対して、2本の連結部材34,34の両端の4か所が絶縁部になるため、万一その4か所のうちの3か所の絶縁が破れても、第1、第2フランジ部材32,33間の絶縁を確保して渦電流の発生を抑制することができる。
【0083】
特に、第1、第2フランジ部材32,33および連結部材34…の両方に絶縁被膜a,bを形成したので、その一方が傷付いても絶縁を確保することができるだけでなく、ボルト37…のワッシャ38…にも絶縁被膜cを施したので、ボルト37…を介しての第1、第2フランジ部材32,33および連結部材34…間の電気的導通をも確実に阻止することができる。
【0084】
また図9に示すように、連結部材34の誘導磁極支持部34cの径方向厚さT2を、それに接する第1、第2誘導磁極39L,39Rの厚さT1よりも薄くしたので、連結部材34の断面積を最小限に抑えて磁束が流れ難くし、渦電流の発生を抑制することができる。
【0085】
更に、第1誘導磁極39L…および第2誘導磁極39R…が円周方向に同位相で配置されるので、第1、第2誘導磁極39L…,39R…を円周方向に異なる位相で配置する場合に比べて、それら第1、第2誘導磁極39L…,39R…を支持するアウターロータ13のロータボディ31の構造が簡素化されるだけでなく、ロータボディ31の強度も向上する。
【0086】
次に、図21に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0087】
第1の実施の形態の連結部材34は中実の部材であったが、第2の実施の形態の連結部材34は、例えばステンレス板をプレス加工したものを2枚溶接で結合することで中空に構成される。この構造により、連結部材34を更に軽量化するとともに、その実質的な断面積を減少させて渦電流を更に低減することができる。
【0088】
次に、図22に基づいて本発明の第3の実施の形態を説明する。
【0089】
第1の実施の形態では第1、第2フランジ部材32,33と連結部材34…とが別部材で構成されていたが、第3の実施の形態では連結部材34…の半数が第1フランジ部材32と一体に形成され、残りの半数が第2フランジ部材33と一体に形成されており、組立状態で第1フランジ部材32側の連結部材34…と第2フランジ部材33側の連結部材34…とが交互に配置される。この場合、第1、第2フランジ部材32,33の材料は、連結部材34…と同じ弱磁性体であるアルミニウムかアルミニウム合金とされる。
【0090】
この第3の実施の形態においても、第1フランジ部材32側の連結部材34…を第2フランジ部材33に結合する部分と、第2フランジ部材33側の連結部材34…を第1フランジ部材32に結合する部分とを電気的に絶縁することで、第1の実施の形態と同様の作用効果を達成することができる。
【0091】
次に、図23に基づいて本発明の第4の実施の形態を説明する。
【0092】
第1の実施の形態では第1、第2フランジ部材32,33と連結部材34…とが別部材で構成されていたが、第4の実施の形態の連結部材34…の全てが第1フランジ部材32と一体に形成される。
【0093】
この第4の実施の形態においても、第1フランジ部材32側の連結部材34…を第2フランジ部材33に結合する部分を電気的に絶縁することで、第1の実施の形態と同様の作用効果を達成することができる。
【0094】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0095】
例えば、実施の形態では電動機Mを例示したが、本発明はアウターロータおよびインナーロータの一方を固定して他方を回転させることでステータに起電力を発生させる発電機や、ステータに永久磁石を設け、アウターロータ、インナーロータおよびステータの三つの部材間で駆動力を伝達する、いわゆる磁気歯車にも適用することができる。
【0096】
また実施の形態では径方向外側に配置したステータ12L,12Rに電機子21L…,21R…を設け、径方向内側に配置したインナーロータ14に永久磁石52L…,52R…を設けているが、電機子21L…,21R…および永久磁石52L…,52R…の位置関係を逆にしても良い。
【0097】
また実施の形態では第1フランジ部材32、第2フランジ部材33および連結部材34…の全てに絶縁コーティングを施しているが、第1フランジ部材32、第2フランジ部材33および連結部材34…の何れか一つあるいは二つに絶縁コーティングを施せば、渦電流が流れる閉回路を遮断することができる。
【0098】
また実施の形態ではアウターロータ13の第1、第2フランジ部材32,33および連結部材34…にアルミニウムあるいはアルミニウム合金を使用しているが、それに代えてチタン、チタン合金、ステンレス等を使用することができる。
【0099】
アルミニウムあるいはアルミニウム合金は安価で軽量であって加工が容易であり、しかもアルマイト加工するだけで容易に絶縁コーティングを施すことができるという特長があるが、抵抗値が低いために渦電流が流れ易いという問題がある。
【0100】
チタンあるいはチタン合金は抵抗値が高いために渦電流が流れ難く、しかも重量に比して強度が高いためにアウターロータ13を軽量化できるという特長があるが、材料費や絶縁コーティングの費用が高いという問題がある。
【0101】
ステンレスはチタンあるいはチタン合金よりも更に抵抗値が高いために渦電流が流れ難く、材料費も比較的に安く加工も比較的に容易であるという特長があるが、重量が重く、電気的特性が不安定(熱処理等によって磁性体になってしまうことがある)であり、絶縁コーティングの費用が高いという問題がある。
【0102】
また実施の形態では第1、第2フランジ部材32,33と連結部材34…とを結合する部分を全て絶縁しているが、渦連流が流れる閉回路に存在する4か所の結合部のうちの少なくとも1か所を絶縁すれば、所期の目的を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】第1の実施の形態に係る電動機を軸線方向に見た正面図(図2の1−1線矢視図)
【図2】図1の2−2線断面図
【図3】図2の3−3線断面図
【図4】図2の4−4線断面図
【図5】図3の5−5線矢視図
【図6】図5の6−6線断面図
【図7】図5の7−7線断面図
【図8】図5の8−8線断面図
【図9】図5の9−9線断面図
【図10】電動機の分解斜視図
【図11】インナーロータの分解斜視図
【図12】連結部材および誘導磁極の斜視図
【図13】スプリングの斜視図
【図14】リングの斜視図
【図15】電動機を円周方向に展開した模式図
【図16】インナーロータを固定した場合の作動説明図(その1)
【図17】インナーロータを固定した場合の作動説明図(その2)
【図18】インナーロータを固定した場合の作動説明図(その3)
【図19】アウターロータを固定した場合の作動説明図(その1)
【図20】アウターロータを固定した場合の作動説明図(その2)
【図21】本発明の第2の実施の形態に係る、前記図9に対応する図
【図22】本発明の第3の実施の形態に係るアウターロータの分解斜視図
【図23】本発明の第4の実施の形態に係るアウターロータの分解斜視図
【符号の説明】
【0104】
32 第1フランジ部材
33 第2フランジ部材
34 連結部材
39L 第1誘導磁極(誘導磁極)
39R 第2誘導磁極(誘導磁極)
L 軸線
T1 誘導磁極の径方向厚さ
T2 連結部材の径方向厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料で構成されて共通の軸線(L)上に相互に対向するように離間して配置された第1フランジ部材(32)および第2フランジ部材(33)の外周部間を、導電性の弱磁性体で構成されて前記軸線(L)を中心とする周方向に所定間隔で配置された複数の連結部材(34)で連結し、周方向に隣接する前記連結部材(34)間に軟磁性体で構成された誘導磁極(39L,39R)を支持した回転電機用ロータにおいて、
前記第1、第2フランジ部材(32,33)間を電気的に絶縁したことを特徴とする回転電機用ロータ。
【請求項2】
前記連結部材(34)および前記誘導磁極(39L,39R)が接する部分で、前記誘導磁極(39L,39R)の径方向厚さ(T1)よりも前記連結部材(34)の径方向厚さ(T2)を小さくしたことを特徴とする、請求項1に記載の回転電機用ロータ。
【請求項3】
前記連結部材(34)がステンレス鋼製であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の回転電機用ロータ。
【請求項4】
前記連結部材(34)がアルミニウム製あるいはアルミニウム合金製であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の回転電機用ロータ。
【請求項5】
前記連結部材(34)がチタン製あるいはチタン合金製であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の回転電機用ロータ。
【請求項6】
前記連結部材(34)は表面を絶縁処理されていることを特徴とする、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の回転電機用ロータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2008−271724(P2008−271724A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113037(P2007−113037)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】