説明

回転電機用電機子及びその製造方法

【課題】線状導体を周回させてなるコイル部を複数有するコイルを備える回転電機用電機子において、各スロット内で径方向に並んで配置される導体辺部の本数を容易に奇数とすることを可能とする。
【解決手段】毎極毎相あたりK個のスロット22を有する電機子コアに巻装されるコイルを備えた回転電機用電機子。コイルは、1本の線状導体をL回周回させてなるL周巻コイル部とM回周回させてなるM周巻コイル部とをK個ずつ交互に有して構成される。各コイル部のそれぞれが導体辺部33を偶数本備えると共に、これらの半分ずつが第一導体辺部組41と第二導体辺部組42とに分けられ、全てのスロット22内のそれぞれに、何れかの1つのL周巻コイル部の第一導体辺部組41と何れかの1つのM周巻コイル部の第二導体辺部組42とを合わせて(L+M)本の導体辺部33が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状のコア基準面の軸方向に延びるスロットが当該コア基準面の周方向に複数分散配置されている電機子コアと、電機子コアに巻装されるコイルとを備えた回転電機用電機子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような回転電機用電機子として、特開2007−166849号公報(特許文献1)に記載された方法で製造されるものが知られている。この方法では、線状導体をそれぞれ同じ回数だけ周回させてなるコイル部を複数形成し、コイル部のそれぞれが有する複数の導体辺部の半分をスロットに挿入すると共に残りの半分を未挿入の状態とするように全てのコイル部を各スロットに配置する。その後、未挿入の状態とされた方の導体辺部を周方向に沿って移動させてから径方向に移動させてスロットに挿入する。
【0003】
このように特許文献1の製造方法では、各コイル部の複数の導体辺部を半分ずつの二組に分け、これらを周方向に相対移動させる前後で2回に分けてスロット内に挿入する。そのため、完成後の回転電機用電機子において各スロット内で径方向に並んで配置される導体辺部の本数は常に偶数であった。しかし、回転電機は、コイルの巻数(ターン数)に応じて発生可能なトルクや逆起電力の大きさが異なり得る。そのため、所望の特性を得るためには各スロット内で径方向に並んで配置される導体辺部の本数を奇数にすることが望ましい場合がある。特許文献1の技術は、そのような要求を適切に満たすことができないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−166849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、線状導体を周回させてなるコイル部を複数有するコイルを備える回転電機用電機子において、各スロット内で径方向に並んで配置される導体辺部の本数を容易に奇数とすることが可能な技術の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、円筒状のコア基準面の軸方向に延びるスロットが当該コア基準面の周方向に複数分散配置されている電機子コアと、前記電機子コアに巻装されるコイルと、を備えた回転電機用電機子の特徴構成は、前記電機子コアは、毎極毎相あたりK個(Kは自然数を表す)の前記スロットを有し、前記コイルは、1本の線状導体をL回(Lは1以上の奇数を表す)周回させてなるL周巻コイル部と1本の線状導体をM回(Mは2以上の偶数を表す)周回させてなるM周巻コイル部とを有すると共に、連続するK個の前記L周巻コイル部と連続するK個の前記M周巻コイル部とが交互に接続されて構成され、前記L周巻コイル部及び前記M周巻コイル部のそれぞれが、前記スロット内に配置される部分である導体辺部を偶数本備えると共に、これら偶数本の前記導体辺部の半分ずつが、前記スロット内での電流の向きがそれぞれ同じとなる一対の導体辺部組である第一導体辺部組と第二導体辺部組とに分かれて一対の前記スロット内に配置され、前記コア基準面の径方向一方側を径第一方向とし、径方向他方側を径第二方向として、複数の前記L周巻コイル部のうちの1つである第1のコイル部の前記第一導体辺部組が、複数の前記スロットのうちの第1のスロットの前記径第一方向側部分に配置され、前記第1のコイル部の前記第二導体辺部組が、複数の前記スロットのうちの第2のスロットの前記径第二方向側部分に配置され、複数の前記M周巻コイル部のうちの1つである第2のコイル部の前記第一導体辺部組が、前記第2のスロットの前記径第一方向側部分に配置され、前記第2のコイル部の前記第二導体辺部組が、複数の前記スロットのうちの第3のスロット又は前記第1のスロットの前記径第二方向側部分に配置され、前記電機子コアが備える全ての前記スロット内のそれぞれに、何れかの1つの前記L周巻コイル部の前記導体辺部組と何れかの1つの前記M周巻コイル部の前記導体辺部組とを合わせて(L+M)本の前記導体辺部が配置されている点にある。
【0007】
上記の特徴構成によれば、線状導体を周回させてなるコイル部(L周巻コイル部及びM周巻コイル部の双方を包括する概念)を複数有するコイルにおいて、L周巻コイル部の周回回数をL回とすることで、スロット内に配置される線状導体の部分である導体辺部を、各L周巻コイル部に2L本ずつ備えさせることができる。各L周巻コイル部の2L本の導体辺部は、半分(L本)ずつ第一導体辺部組と第二導体辺部組とに分かれて一対のスロット内に配置される。また、M周巻コイル部の周回回数をM回とすることで、各M周巻コイル部に導体辺部を2M本ずつ備えさせることができる。各M周巻コイル部の2M本の導体辺部は、半分(M本)ずつ第一導体辺部組と第二導体辺部組とに分かれて一対のスロット内に配置される。すなわち、第1のコイル部のL本の第一導体辺部組が第1のスロットの径第一方向側部分に配置されると共に、同じくL本の第二導体辺部組が第2のスロットの径第二方向側部分に配置される。同様に、第2のコイル部のM本の第一導体辺部組が上記第2のスロットの径第一方向側部分に配置されると共に、同じくM本の第二導体辺部組が第3のスロット(この第3のスロットは、磁極数によっては上記第1のスロットと同一であっても良い)の径第二方向側部分に配置される。他のコイル部についても同様の態様でスロット内に順次配置することで、全てのスロット内のそれぞれに、何れかの1つのL周巻コイル部の一対の導体辺部組のうちの一方と、何れかの1つのM周巻コイル部の一対の導体辺部組のうちの一方とを合わせて(L+M)本の導体辺部が配置される。ここで、Lは奇数であると共にMは偶数であるので、(L+M)は必ず奇数となる。よって、各スロット内で径方向に並んで配置される導体辺部の本数を容易に奇数とすることができる。
【0008】
なお、L周巻コイル部とM周巻コイル部とが毎極毎相あたりのスロット数に応じた個数ずつ交互に接続されるので、上記第1のスロットと上記第2のスロットとが周方向に1磁極ピッチ分ずれて配置される構成の回転電機用電機子に適したコイルを適切に構成できる。また、各コイル部における第一導体辺部組及び第二導体辺部組はそれぞれスロット内での電流の向きが同じとなる1本以上の導体辺部の組からなり、各導体辺部組の中では導体辺部を流れる電流の向きが統一されている。よって、同じスロット内に配置される全ての導体辺部を流れる電流の向きを容易に揃えることができ、上記のような奇数巻のコイルを適切に構成できる。
【0009】
ここで、同じ前記スロット内に前記導体辺部組が配置される前記L周巻コイル部と前記M周巻コイル部とに関して、当該L周巻コイル部を構成する線状導体の周回方向と当該M周巻コイル部を構成する線状導体の周回方向とが、互いに逆方向であると好適である。
【0010】
この構成によれば、上記第1のコイル部としてのL周巻コイル部のうちの1つの第一導体辺部組を構成する線状導体の電流の向きと、上記第2のコイル部としてのM周巻コイル部のうちの1つの第二導体辺部組を構成する線状導体の電流の向きとを一致させることができる。よって、同じスロット内に配置される全ての導体辺部を流れる電流の向きを揃えることができる。
【0011】
また、前記L周巻コイル部及び前記M周巻コイル部のそれぞれが、前記周方向に見て、これらのコイル部を構成する線状導体が交差することなく周回する渦巻状に形成されていると好適である。
【0012】
この構成によれば、各L周巻コイル部及び各M周巻コイル部について、異なる周方向位置にある一対のスロットに配置される第一導体辺部組と第二導体辺部組との接続部において、線状導体が交差することが抑制される。よって、当該部分における線状導体どうしの擦れや干渉等の発生を抑制することができ、回転電機用電機子の性能を良好に維持できる。
【0013】
本発明に係る、円筒状のコア基準面の軸方向に延びるスロットが当該コア基準面の周方向に複数分散配置されている電機子コアと、前記電機子コアに巻装されるコイルとを備え、前記電機子コアが毎極毎相あたりK個(Kは自然数を表す)の前記スロットを有する回転電機用電機子の製造方法の特徴構成は、線状導体をL回(Lは1以上の奇数を表す)周回させてなるL周巻コイル部と線状導体をM回(Mは2以上の偶数を表す)周回させてなるM周巻コイル部とを、K個ずつ交互に接続するように形成するコイル部形成工程と、前記L周巻コイル部及び前記M周巻コイル部のそれぞれにおける前記線状導体のうち前記スロット内に配置される部分である導体辺部を半分ずつ、前記スロット内での電流の向きがそれぞれ同じとなる一対の導体辺部組である第一導体辺部組と第二導体辺部組とに分け、前記L周巻コイル部及び前記M周巻コイル部のそれぞれにおける前記第一導体辺部組及び前記第二導体辺部組の一方を前記スロットに挿入すると共に前記第一導体辺部組及び前記第二導体辺部組の他方を未挿入の状態とするように全ての前記L周巻コイル部及び全ての前記M周巻コイル部を配置するコイル部配置工程と、前記L周巻コイル部及び前記M周巻コイル部のそれぞれにおける前記第一導体辺部組と前記第二導体辺部組とを一括して前記周方向に相対移動させて前記コイル部を変形させるコイル部変形工程と、前記コイル部変形工程の後、前記コイル部配置工程において未挿入の状態とされた方の導体辺部組を前記コア基準面の径方向に移動させて前記スロットに挿入するコイル部挿入工程と、を備える点にある。
【0014】
この特徴構成によれば、線状導体を周回させてなるコイル部(L周巻コイル部及びM周巻コイル部の双方を包括する概念)を複数有するコイルにおいて、コイル部形成工程で形成される各L周巻コイル部の周回回数をL回とすることで、スロット内に配置される線状導体の部分である導体辺部を、各L周巻コイル部に2L本ずつ備えさせることができる。また、各M周巻コイル部の周回回数をM回とすることで、各M周巻コイル部に導体辺部を2M本ずつ備えさせることができる。各L周巻コイル部の2L本の導体辺部は、半分ずつそれぞれL本の第一導体辺部組と第二導体辺部組とに分けて一対のスロット内に配置される。また、各M周巻コイル部の2M本の導体辺部は、半分ずつそれぞれM本の第一導体辺部組と第二導体辺部組とに分けて一対のスロット内に配置される。すなわち、コイル部配置工程で各コイル部の第一導体辺部組及び第二導体辺部組のうちの一方がスロットに挿入されると共に、第一導体辺部組及び第二導体辺部組のうちの他方が未挿入の状態となるように全てのコイル部が配置される。その後、コイル部変形工程で各コイル部における第一導体辺部組と第二導体辺部組とを一括して周方向に相対移動させた後、未挿入の状態とされた方の導体辺部組を、コイル部挿入工程でスロットに挿入する。これにより、全てのスロット内のそれぞれに、何れかの1つのL周巻コイル部のL本の導体辺部と、何れかの1つのM周巻コイル部のM本の導体辺部とを合わせて(L+M)本の導体辺部が配置される。ここで、Lは奇数であると共にMは偶数であるので、(L+M)は必ず奇数となる。よって、各スロット内で径方向に並んで配置される導体辺部の本数を容易に奇数とすることができる。
【0015】
なお、L周巻コイル部とM周巻コイル部とが毎極毎相あたりのスロット数に応じた個数ずつ交互に接続されるので、上記第1のスロットと上記第2のスロットとが周方向に1磁極ピッチ分ずれて配置される構成の回転電機用電機子に適したコイルを適切に構成できる。また、各コイル部における第一導体辺部組及び第二導体辺部組はそれぞれスロット内での電流の向きが同じとなる1本又は複数本の導体辺部の組からなり、各組の中では導体辺部を流れる電流の向きが統一されている。よって、同じスロット内に配置される全ての導体辺部を流れる電流の向きを容易に揃えることができ、上記のような奇数巻のコイルを適切に構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第一の実施形態に係る回転電機用電機子の斜視図である。
【図2】第一の実施形態に係る回転電機用電機子の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】コイル部形成工程で形成される相コイルの斜視図である。
【図4】コイル部形成工程で形成される相コイルを周方向に展開して示す模式図である。
【図5】コイル部配置工程後の各コイル部の軸方向視での配置状態を示す平面図である。
【図6】コイル部配置工程後の相コイルを周方向に展開して示す模式図である。
【図7】コイル部変形工程後の各コイル部の軸方向視での配置状態を示す平面図である。
【図8】コイル部変形工程後の相コイルを周方向に展開して示す模式図である。
【図9】コイル部挿入工程後の各コイル部の軸方向視での配置状態を示す平面図である。
【図10】コイル部挿入工程後の相コイルを周方向に展開して示す模式図である。
【図11】第二の実施形態に係るコイル部形成工程で形成される相コイルを周方向に展開して示す模式図である。
【図12】第二の実施形態に係るコイル部配置工程後の相コイルを周方向に展開して示す模式図である。
【図13】第二の実施形態に係るコイル部変形工程後の相コイルを周方向に展開して示す模式図である。
【図14】第二の実施形態に係るコイル部挿入工程後の相コイルを周方向に展開して示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.第一の実施形態
本発明に係る回転電機用電機子及びその製造方法の第一の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態では、回転電機用電機子としての回転電機用のステータ1を例として説明する。なお、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念である。本実施形態に係る製造方法によれば、いわゆる奇数回巻(奇数ターン)のコイル3を備えたステータ1を容易に製造することができる。以下では、ステータ1の構成、及びステータ1の製造方法の順に説明する。
【0018】
以下の説明では、特に区別して明記している場合を除き、「軸方向L」、「周方向C」、「径方向R」は、ステータコア2の円筒状のコア基準面21の軸心Xを基準として定義している。「軸第一方向L1」は図1における軸方向Lに沿った上方を表し、「軸第二方向L2」は下方を表す。「周第一方向C1」は軸第一方向L1側から見た軸方向L視での時計回り方向を表し、「周第二方向C2」は反時計回り方向を表す。「径第一方向R1」はコア基準面21の径方向Rの外側へ向かう方向を表し、「径第二方向R2」は径方向Rの内側へ向かう方向を表す。なお、コイル3を構成する各部材に関しては、これらがステータコア2に装着された状態での方向として規定している。
【0019】
また、製造段階での各工程の説明に関しても、完成品としてのステータ1に対応するものとして各方向を規定している。
【0020】
1−1.ステータの構成
本実施形態に係るステータ1の構成について、図1を参照して説明する。このステータ1は、インナーロータ型の回転電機のステータである。図1に示すように、ステータ1は、電機子コアとしてのステータコア2と、当該ステータコア2に巻装されるコイル3とを備えている。なお、図1では、ステータコア2から軸方向Lに突出するコイル3の部分であるコイルエンド部については、一部のみを示して他の部分の図示を省略している。ステータコア2の径第二方向R2側には、永久磁石や電磁石等を備えた界磁としてのロータ(図示せず)が配置される。
【0021】
ステータコア2は、磁性材料を用いて形成されている。ステータコア2は、円筒状のコア基準面21の周方向Cに分散配置された複数のスロット22と、周方向Cに互いに隣接する2つのスロット22の間に形成された複数のティース23とを有する。「円筒状のコア基準面21」は、スロット22の配置や構成に関して基準となる仮想的な面である。本実施形態では、複数のティース23の径第二方向R2側の端面を含む仮想的な円筒状の面(コア内周面)をコア基準面21としている。なお、ステータコア2の径第一方向R1側の面(コア外周面)等をコア基準面21としても良い。
【0022】
複数のスロット22は、周方向Cに沿って一定間隔で分散配置されている。各スロット22は、軸方向Lに延びると共に、ステータコア2の軸心Xから放射状に径方向Rに延びるように形成されている。各スロット22は、互いに同じ形状とされており、軸方向L及び径方向Rに延びると共に周方向Cに所定の幅を有する溝状に形成されている。各スロット22は、径第二方向R2側に開口(コア内周面に開口)している。
【0023】
複数のティース23は、それぞれ周方向Cに隣接する2つのスロット22の間に形成され、周方向Cに沿って一定間隔で分散配置されている。各ティース23は、互いに同じ形状とされており、軸方向L及び径方向Rに延びると共に周方向Cに所定の幅を有する厚板状に形成されている。
【0024】
本実施形態では、回転電機は多相交流(本例では三相交流)で駆動される交流電動機である。ステータ1のコイル3は、三相(U相,V相,W相)のそれぞれに対応して、位相が互いに異なる交流電流が流れる3つの相コイル(U相コイル,V相コイル,W相コイル)を有する。これに応じて、ステータコア2には、U相用、V相用、及びW相用のスロット22が、周方向Cに沿って繰り返し現れるように配置されている。毎極毎相あたりのスロット数をK(Kは自然数を表す)とすると、本例では、このKが「2」とされている。つまり、ステータコア2には、各相用のスロット22が、周方向Cに沿ってK個(すなわち、本例では2個)ずつ繰り返し現れるように配置されている。なお、本例では毎相あたりの磁極数が「8」とされており、ステータコア2には合計48(=2×8×3)個のスロット22が設けられている。
【0025】
コイル3は、ステータコア2に巻装された状態で当該ステータコア2から軸方向Lに突出するコイルエンド部に、複数の渡り部39を備えている。渡り部39は、ステータコア2の異なるスロット22間をつなぐように少なくとも周方向Cに延びる部分である。図1等に示すように、各渡り部39は、毎極毎相あたりのスロット数(2)と相数(3)とに応じて、互いに6(=2×3)スロットピッチ離れた一対のスロット22どうしを結ぶように配置されている。
【0026】
各渡り部39は、周第一方向C1側の端部において同じ周方向C位置にある他の渡り部39に対して径第二方向R2側に位置すると共に、周第二方向C2側の端部において同じ周方向C位置にある他の渡り部39に対して径第一方向R1側に位置するように配置されている。各渡り部39は、周第一方向C1側から周第二方向C2側に向かって径第二方向R2側から径第一方向R1側に向かうように配置されている。そして、周方向Cに互いに隣接する2つの渡り部39が、それぞれ径方向R視で重複する部分を有するように配置されている。なお、2つの部材の配置に関して「所定方向視で重複する部分を有する」とは、当該所定方向を視線方向として当該視線方向に直交する各方向に視点を移動させた場合に、2つの部材が重なって見える視点が少なくとも一部の領域に存在することを意味する。このようにして、複数の渡り部39は、軸方向L視で全体として放射渦巻状に配置されている。
【0027】
コイル3は、複数のコイル部32を有して構成されている。各コイル部32は、1本の線状導体31を周回させて構成されている。線状導体31は、例えば銅やアルミニウム等の金属により構成された線状の導体である。このような線状導体31としては、複数の細線を束ねた縒り線として構成される導体や、延在方向に直交する断面が一定以上の大きさの所定形状(例えば矩形状)を有する導体等を用いることができる。図1や図5等には前者の例を示している。線状導体31の表面には、樹脂等からなる絶縁皮膜が形成されている。各コイル部32は、線状導体31の一部であってスロット22内に配置される部分である導体辺部33を複数本備えている。複数の導体辺部33は、一対の導体辺部組41,42に分かれて一対のスロット22内に配置される。複数のコイル部32により構成されるコイル3は、重ね巻かつ分布巻によりステータコア2に巻装されている。
【0028】
1−2.ステータ製造方法
本実施形態に係るステータ1の製造方法について、図2〜図10を参照して説明する。図2に示すように、本実施形態に係るステータ1は、コイル部形成工程P1、コイル部配置工程P2、コイル部変形工程P3、及びコイル部挿入工程P4を経て製造される。これらの各工程P1〜P4は、記載の順に実行される。以下、各工程について順に説明する。なお、以下では、ステータ1が備える3つの相コイルのうちの1つ(U相コイル3U)に主に注目して説明する。
【0029】
1−2−1.コイル部形成工程
コイル部形成工程P1は、線状導体31を複数回周回させてなるコイル部32を複数形成する工程である。コイル部形成工程P1では、巻枠等を用いて線状導体31をL回(Lは1以上の奇数を表す)周回させることにより、図3及び図4に示すようにL周巻のコイル部32(L周巻コイル部32L)を形成する。また、巻枠等を用いて線状導体31をM回(Mは2以上の偶数を表す)周回させることにより、図3及び図4に示すようにM周巻のコイル部32(M周巻コイル部32M)を形成する。本実施形態では、LとMとの間に「L−M=1」の関係が成立するように、L周巻コイル部32LとM周巻コイル部32Mとを形成する。なお、本例では、Lが「3」であると共にMが「2」の場合の例を図示している。
【0030】
このとき、各コイル部32(L周巻コイル部32L及びM周巻コイル部32Mの双方を包括する概念)において、線状導体31は仮想平面上を中心側から外側に向かって周回するように形成されている。各コイル部32は、上記仮想平面に直交する方向(完成後のステータ1では周方向C)から見て、線状導体31が交差することなく周回する渦巻状に形成されている。L周(本例では3周)ずつ周回されて形成された各L周巻コイル部32Lは、線状導体31のうちのスロット22内に配置される部分である導体辺部33を、周回数の2倍に相当する2L本(本例では6本)備える。また、M周(本例では2周)ずつ周回されて形成された各M周巻コイル部32Mは、導体辺部33を2M本(本例では4本)備える。
【0031】
このようなL周巻又はM周巻のコイル部32は、毎極毎相あたりのスロット数(2)及び毎相あたりの磁極数(8)に応じて、合計で16(=2×8)個形成される。このとき、L周巻コイル部32LとM周巻コイル部32Mとは同じ数ずつ形成され、それぞれ8個ずつ形成される。なお、図4において、上段には各コイル部32の上記仮想平面を一致させた状態でのU相コイル3Uを示し、下段には各コイル部32を構成する導体辺部33を模式的に示している。図4等において各コイル部32に隣接して付された(a)〜(p)の符号は、U相コイル3U中での各コイル部32を区別するための識別符号であり、最終的にステータコア2に巻装される状態での周方向Cの配列順に対応している。コイル部形成工程P1では、L周巻コイル部32LとM周巻コイル部32Mとを、毎極毎相あたりのスロット数に応じて、K個(本例では2個)ずつ交互に直列接続する。
【0032】
本実施形態では、各相コイル(ここではU相コイル3U)の複数(合計16個)のコイル部32は、毎極毎相あたりのスロット数に対応した個数(2つ)ずつ、磁極数に対応した数(8つ)のグループG(G1〜G8)に分けられる。本実施形態では、各グループGには同じ周回数のコイル部32のみが含まれる。また、周方向Cに互いに隣接するグループG間では、それぞれに含まれるコイル部32の周回数が異なっている。本例では、グループG1,G3,G5,G7にL周巻コイル部32Lのみが含まれ、グループG2,G4,G6,G8にM周巻コイル部32Mのみが含まれる。各グループG内におけるコイル部32どうしの接続、及びグループG間におけるコイル部32どうしの接続は、いずれも導体辺部33に対して軸第一方向L1側で実現されている。
【0033】
ここで、各グループGのそれぞれにおける2つのコイル部32のうち周第二方向C2側に配置される方のコイル部32を、「第一コイル部群」と称する。第一コイル部群は、(a)の符号が付されたL周巻コイル部32L(以下、「L周巻コイル部32L(a)」と表す;他のL周巻コイル部32Lに関しても同様),L周巻コイル部32L(e),(i),(m)と、(c)の符号が付されたM周巻コイル部32M(以下、「M周巻コイル部32M(c)」と表す;他のM周巻コイル部32Mに関しても同様),M周巻コイル部32M,(g),(k),(o)とからなる。一方、各グループGのそれぞれにおける2つのコイル部32のうち周第一方向C1側に配置される方のコイル部32を、「第二コイル部群」と称する。第二コイル部群は、L周巻コイル部32L(b),(f),(j),(n)と、M周巻コイル部32M(d),(h),(l),(p)とからなる。
【0034】
本実施形態では、周方向CにおけるグループG1を始点とするL周巻コイル部32LとM周巻コイル部32Mとの配列順が、第一コイル部群と第二コイル部群とで一致している。すなわち、第一コイル部群及び第二コイル部群のいずれも、グループG1にL周巻コイル部32Lが含まれ、グループG2にM周巻コイル部32Mが含まれ、この関係が順次繰り返されている。
【0035】
図3及び図4に示すように、各コイル部32は、U相コイル3Uを流れる電流の方向(線状導体31の延在方向)に沿った一方端である第一端部35と、他方端である第二端部36とを有する。例えば、各コイル部32は、第一端部35で動力線(電源)側に接続され、第二端部36で中性点側に接続される。本実施形態では各コイル部32は整数周巻(L周巻又はM周巻)とされ、いずれも端数周分を有さないので、各コイル部32における第一端部35及び第二端部36は、複数の導体辺部33に対して軸方向Lの同じ側(本例では軸第一方向L1側)に配置されている。
【0036】
本実施形態では、各グループGには同じ周回方向のコイル部32のみが含まれる。また、周方向Cに隣接するグループG間では、それぞれに含まれるコイル部32の周回方向が互いに逆となっている。これにより、周方向Cに隣り合って配置される一対のグループGの対応する位置にあるコイル部32間で、線状導体31の周回方向は互いに逆方向となっている。ここで、「一対のグループGの対応する位置にある」とは、各グループG内での周方向Cの配列順における位置が互いに等しいことを表す。
【0037】
例えば、グループG1,G2のそれぞれにおける2つのコイル部32のうち周第二方向C2側に配置されるコイル部32である、L周巻コイル部32L(a)とM周巻コイル部32M(c)との関係に注目する。すると、図3に示すように、L周巻コイル部32L(a)は周第二方向C2側から見て反時計回りに周回しているのに対して、M周巻コイル部32M(c)は、それとは逆に周第二方向C2側から見て時計回りに周回している。また、グループG1,G2のそれぞれにおける2つのコイル部32のうち周第一方向C1側に配置されるコイル部32である、L周巻コイル部32L(b)とM周巻コイル部32M(d)との関係に注目する。すると、これらの間の関係は、L周巻コイル部32L(a)とM周巻コイル部32M(c)との上記関係と同様となっている。
【0038】
図4下段の模式図においては、線状導体31に沿って第一端部35から第二端部36に向かう周回方向を考えた場合に、軸第一方向L1側から軸第二方向L2側へと向かう方向性を有する導体辺部33にハッチングを付し、それとは逆に軸第二方向L2側から軸第一方向L1側へと向かう方向性を有する導体辺部33にハッチングを付さない態様で示している。なお、図4等において各導体辺部33に付された「1」〜「40」の番号は、線状導体31の周回順序を区別するための識別番号であり、同じ番号が付された一対の導体辺部33で線状導体31の1周分が構成される。
【0039】
コイル部形成工程P1では、上記のようにして形成される相コイルを、3相分それぞれ準備する。
【0040】
1−2−2.コイル部配置工程
コイル部配置工程P2は、複数のコイル部32をそれぞれ部分的にスロット22内に配置する工程である。図5及び図6に示すように、このコイル部配置工程P2は、ステータコア2の径第二方向R2側に加工用治具51が配置された状態で行われる。加工用治具51の径第一方向R1側の面には、スロット22の数と同数の径方向Rの溝部52が形成されている。コイル部配置工程P2では、径方向Rに互いに対向するスロット22と溝部52とに亘って複数のコイル部32がそれぞれ配置される。図6等において各スロット22に隣接して付された(1),(2),(7),(8),・・・,(43),(44)の番号は、各スロット22を区別するための識別番号であり、ステータコア2における周方向Cの配列順に対応している。なお、図6においては、U相用のスロット22のみを表示し、他相用のスロット22の表示は省略している。
【0041】
コイル部配置工程P2では、各コイル部32の偶数本の導体辺部33は、半分ずつ第一導体辺部組41と第二導体辺部組42とに分けられる。第一導体辺部組41及び第二導体辺部組42は、L周巻コイル部32LではそれぞれL本(本例では3本)の導体辺部33の組として構成され、M周巻コイル部32MではそれぞれM本(本例では2本)の導体辺部33の組として構成される。すなわち、各L周巻コイル部32Lについて、それぞれL本の一対の導体辺部33の組の、いずれか一方が当該L周巻コイル部32Lについての第一導体辺部組41とされ、いずれか他方が当該L周巻コイル部32Lについての第二導体辺部組42とされる。同様に、各M周巻コイル部32Mについて、それぞれM本の一対の導体辺部33の組の、いずれか一方が当該M周巻コイル部32Mについての第一導体辺部組41とされ、いずれか他方が当該M周巻コイル部32Mについての第二導体辺部組42とされる。
【0042】
図6等から理解できるように、各L周巻コイル部32Lにおいて、第一導体辺部組41を構成するL本の導体辺部33は、それぞれを流れる電流の向きが互いに同じであり、第二導体辺部組42を構成するL本の導体辺部33も、それぞれを流れる電流の向きが互いに同じである。同様に、各M周巻コイル部32Mにおいて、第一導体辺部組41を構成するM本の導体辺部33は、それぞれを流れる電流の向きが互いに同じであり、第二導体辺部組42を構成するM本の導体辺部33も、それぞれを流れる電流の向きが互いに同じである。
【0043】
コイル部配置工程P2では、L周巻コイル部32L及びM周巻コイル部32Mのそれぞれにおける第一導体辺部組41をスロット22に挿入すると共に、第二導体辺部組42をスロット22には未挿入の状態とするように全てのL周巻コイル部32L及び全てのM周巻コイル部32Mを配置する。なお、スロット22に未挿入のままとされる第二導体辺部組42は、加工用治具51の溝部52に挿入される。なお、各L周巻コイル部32L及び各M周巻コイル部32Mは、スロット22及び溝部52に対して軸方向Lに沿って挿入される。
【0044】
本実施形態では、各相用のスロット22毎に、周方向Cに互いに隣接する2つのスロット22には、2つのL周巻コイル部32L又は2つのM周巻コイル部32Mが配置される。そして、これら2つのL周巻コイル部32Lと2つのM周巻コイル部32Mとが交互に配置される。このとき、周方向Cに隣り合って配置される一対のグループGの対応する位置にあるコイル部32の第一導体辺部組41間、及び、対応する位置にあるコイル部32の第二導体辺部組42間で、導体辺部33を流れる電流の向きは互いに逆方向となる。
【0045】
コイル部配置工程P2では、コイル部形成工程P1で形成された3相分の相コイルを、それぞれ上述した態様で、毎極毎相あたりのスロット数に対応する数のスロットピッチ(2スロットピッチ)ずつずらしながら順に配置する。
【0046】
1−2−3.コイル部変形工程
コイル部変形工程P3は、複数のコイル部32を変形させる工程である。図7に示すように、コイル部変形工程P3では、ステータコア2と加工用治具51とを軸心Xを中心として相対回転させる。これにより、L周巻コイル部32L及びM周巻コイル部32Mのそれぞれにおける第一導体辺部組41と第二導体辺部組42とを一括して周方向Cに相対移動させて、全ての相コイルの全てのL周巻コイル部32L及び全てのM周巻コイル部32Mを一括して変形させる。このときの相対回転角度は45°(電気角で「π」)であり、相対移動距離は6スロットピッチ(1磁極ピッチ)分である(図5及び図7を参照)。
【0047】
これにより、図8に示すように、L周巻コイル部32L(a),(b),(e),(f),(i),(j),(m),(n)のL本の導体辺部33からなる第一導体辺部組41が配置されたスロット22に対向する溝部52に、M周巻コイル部32M(o),(p),(c),(d),(g),(h),(k),(l)のM本の導体辺部33からなる第二導体辺部組42がそれぞれ配置される。また、M周巻コイル部32M(c),(d),(g),(h),(k),(l),(o),(p)のM本の導体辺部33からなる第一導体辺部組41が配置されたスロット22に対向する溝部52に、L周巻コイル部32L(a),(b),(e),(f),(i),(j),(m),(n)のL本の導体辺部33からなる第二導体辺部組42がそれぞれ配置される。
【0048】
1−2−4.コイル部挿入工程
コイル部挿入工程P4は、コイル部変形工程P3で変形後の複数のコイル部32を押し出してスロット22に挿入する工程である。コイル部挿入工程P4では、溝部52から径方向Rに沿って進退自在に構成された板状の押出部材を、径第一方向R1側に向かって放射状に突出させる。これにより、図9及び図10に示すように、コイル部配置工程P2及びコイル部変形工程P3においてスロット22には未挿入の状態とされた(溝部52に挿入された)第二導体辺部組42を、一括してスロット22に挿入する。
【0049】
その結果、図10に示すように、L周巻コイル部32L(a),(b),(e),(f),(i),(j),(m),(n)のL本の導体辺部33からなる第一導体辺部組41が各スロット22の径第一方向R1側部分に配置され、各スロット22の径第二方向R2側部分に、M周巻コイル部32M(o),(p),(c),(d),(g),(h),(k),(l)のM本の導体辺部33からなる第二導体辺部組42がそれぞれ配置される。また、M周巻コイル部32M(c),(d),(g),(h),(k),(l),(o),(p)のM本の導体辺部33からなる第一導体辺部組41が各スロット22の径第一方向R1側部分に配置され、各スロット22の径第二方向R2側部分に、L周巻コイル部32L(a),(b),(e),(f),(i),(j),(m),(n)のL本の導体辺部33からなる第二導体辺部組42がそれぞれ配置される。
【0050】
なお、各スロット22内における導体辺部33の径第一方向R1側からの径方向R位置を「層」で表した場合、「L>M」の場合には、各スロット22の第1層〜第M層(本例では第1層と第2層)には、L周巻コイル部32L又はM周巻コイル部32Mの第一導体辺部組41を構成する導体辺部33のうちのM本(本例では2本)が配置される。各スロット22の第(L+1)層〜第(L+M)層(本例では第4層と第5層)には、L周巻コイル部32L又はM周巻コイル部32Mの第二導体辺部組42を構成する導体辺部33のうちのM本が配置される。各スロット22の第(M+1)層〜第L層(本例では第3層)には、各相の相コイル毎に、L周巻コイル部32Lの第一導体辺部組41を構成する導体辺部33のうちの(L−M)本(本例では1本)と、L周巻コイル部32Lの第二導体辺部組42を構成する導体辺部33のうちの(L−M)本とが、K個ずつ交互に配置される。なお、「L<M」の場合も同様に考えることができるが、ここでは詳細な説明は省略する。
【0051】
このようにして、複数のL周巻コイル部32Lのうちの1つである第1のコイル部の、第一導体辺部組41が複数のスロット22のうちの第1のスロットの径第一方向R1側部分に配置され、第二導体辺部組42が複数のスロット22のうちの第2のスロットの径第二方向R2側部分に配置される。更に、複数のM周巻コイル部32Mのうちの1つである第2のコイル部の、第一導体辺部組41が上記第2のスロットの径第一方向R1側部分に配置され、第二導体辺部組42が複数のスロット22のうちの第3のスロットの径第二方向R2側部分に配置される。以上が、各相コイルについて、周方向Cの全域に亘って順次繰り返される。
【0052】
これにより、ステータコア2が備える全てのスロット22内のそれぞれに、何れかの1つのL周巻コイル部32Lの第一導体辺部組41又は第二導体辺部組42と、何れかの1つのM周巻コイル部32Mの第二導体辺部組42又は第一導体辺部組41とを合わせて、(L+M)本(本例では5本)の導体辺部33が配置される。以上のようなステータ1の製造方法によれば、各スロット22内で径方向Rに並んで配置される導体辺部33の本数を容易に奇数とすることができる。なお、このとき各コイル部32の偶数本の導体辺部33は、スロット22内での電流の向きがそれぞれ同じとなる第一導体辺部組41と第二導体辺部組42とに分かれて、一対のスロット22に配置される。そして、同じスロット22内で径方向Rに並んで配置される(L+M)本の導体辺部33は、流れる電流の向きがそれぞれ同じとなる。
【0053】
その後、各相の相コイルは中性点で互いに接続されると共に、それぞれ動力線(電源)に接続される(図示せず)。以上のようにして、奇数回巻(奇数ターン)のコイル3を適切に構成することができる。
【0054】
2.第二の実施形態
本発明に係る回転電機用電機子及びその製造方法の第二の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態では、コイル部形成工程P1においてL周巻コイル部32LとM周巻コイル部32MとをK個(本例では2個)ずつ交互に直列接続する際の具体的な接続態様が、上記第一の実施形態とは異なっている。以下では、主にその相違点に関連する事項について説明する。なお、特に明記しない点に関しては、上記第一の実施形態と同様とする。
【0055】
2−1.コイル部形成工程
コイル部形成工程P1では、線状導体31をL回又はM回周回させることにより、図11に示すようにL周巻コイル部32LとM周巻コイル部32Mとを形成する。本実施形態では、各グループGにL周巻コイル部32L及びM周巻コイル部32Mの双方が含まれる。また、周方向Cに互いに隣接するグループG間では、それぞれに含まれるL周巻コイル部32L及びM周巻コイル部32Mの各グループG内における周方向Cの位置関係が互いに逆となっている。本例では、グループG1,G3,G5,G7では、周第二方向C2側から周第一方向C1側に向かってL周巻コイル部32LとM周巻コイル部32Mとがこの順に配列されて接続される。一方、グループG2,G4,G6,G8では、これとは逆に、周第二方向C2側から周第一方向C1側に向かってM周巻コイル部32MとL周巻コイル部32Lとがこの順に配列されて接続される。なお、本実施形態でも、L周巻コイル部32LとM周巻コイル部32Mとは、それぞれ2つのグループGに跨りながら、毎極毎相あたりのスロット数に応じてK個(本例では2個)ずつ交互に直列接続される。
【0056】
本実施形態では、周方向CにおけるグループG1を始点とするL周巻コイル部32LとM周巻コイル部32Mとの配列順が、第一コイル部群と第二コイル部群とで異なっている。すなわち、グループG1を始点として考えた場合に、第一コイル部群ではL周巻コイル部32LとM周巻コイル部32Mとがこの順に繰り返して配列されているのに対して、第二コイル部群ではM周巻コイル部32MとL周巻コイル部32Lとがこの順に繰り返して配列されている。なお、本実施形態でも、周方向Cに隣り合って配置される一対のグループGの対応する位置にあるコイル部32間で、線状導体31の周回方向は互いに逆方向となっている。
【0057】
2−2.コイル部配置工程
コイル部配置工程P2では、L周巻コイル部32L及びM周巻コイル部32Mをそれぞれ部分的にスロット22内に配置する。本実施形態でも、L周巻コイル部32L及びM周巻コイル部32Mのそれぞれにおける第一導体辺部組41をスロット22に挿入すると共に、第二導体辺部組42をスロット22には未挿入の状態とするように全てのL周巻コイル部32L及び全てのM周巻コイル部32Mを配置する。
【0058】
図12に示すように、本実施形態では、各相用のスロット22毎に、周方向Cに互いに隣接する2つのスロット22には、L周巻コイル部32LとM周巻コイル部32Mとが1つずつ配置される。そして、その1つのL周巻コイル部32Lと1つのM周巻コイル部32Mとの組が、周方向Cの配列順を逆転させながら交互に配置される。このとき、本実施形態でも、周方向Cに隣り合って配置される一対のグループGの対応する位置にあるコイル部32の第一導体辺部組41間、及び、対応する位置にあるコイル部32の第二導体辺部組42間で、導体辺部33を流れる電流の向きは互いに逆方向となる。
【0059】
2−3.コイル部変形工程
コイル部変形工程P3では、L周巻コイル部32L及びM周巻コイル部32Mを変形させる。図13に示すように、L周巻コイル部32L及びM周巻コイル部32Mのそれぞれにおける第一導体辺部組41と第二導体辺部組42とを一括して周方向Cに相対移動させて、全ての相コイルの全てのL周巻コイル部32L及び全てのM周巻コイル部32Mを一括して変形させる。
【0060】
2−4.コイル部挿入工程
コイル部挿入工程P4では、変形後のL周巻コイル部32L及びM周巻コイル部32Mを径方向Rに押し出してスロット22に挿入する。図14に示すように、コイル部配置工程P2及びコイル部変形工程P3においてスロット22には未挿入の状態とされた(溝部52に挿入された)第二導体辺部組42を、一括してスロット22に挿入する。
【0061】
その結果、本実施形態では、第一コイル部群に関しては、L周巻コイル部32L(a),(e),(i),(m)のL本の導体辺部33からなる第一導体辺部組41が各スロット22の径第一方向R1側部分に配置され、各スロット22の径第二方向R2側部分に、M周巻コイル部32M(o),(c),(g),(k)のM本の導体辺部33からなる第二導体辺部組42がそれぞれ配置される。また、M周巻コイル部32M(c),(g),(k),(o)のM本の導体辺部33からなる第一導体辺部組41が各スロット22の径第一方向R1側部分に配置され、各スロット22の径第二方向R2側部分に、L周巻コイル部32L(a),(e),(i),(m)のL本の導体辺部33からなる第二導体辺部組42がそれぞれ配置される。
【0062】
また、第二コイル部群に関しては、L周巻コイル部32L(d),(h),(l),(p)のL本の導体辺部33からなる第一導体辺部組41が各スロット22の径第一方向R1側部分に配置され、各スロット22の径第二方向R2側部分に、M周巻コイル部32M(b),(f),(j),(n)のM本の導体辺部33からなる第二導体辺部組42がそれぞれ配置される。また、M周巻コイル部32M(f),(j),(n),(b)のM本の導体辺部33からなる第一導体辺部組41が各スロット22の径第一方向R1側部分に配置され、各スロット22の径第二方向R2側部分に、L周巻コイル部32L(d),(h),(l),(p)のL本の導体辺部33からなる第二導体辺部組42がそれぞれ配置される。
【0063】
このようにして、複数のL周巻コイル部32Lのうちの1つである第1のコイル部の、第一導体辺部組41が複数のスロット22のうちの第1のスロットの径第一方向R1側部分に配置され、第二導体辺部組42が複数のスロット22のうちの第2のスロットの径第二方向R2側部分に配置される。更に、複数のM周巻コイル部32Mのうちの1つである第2のコイル部の、第一導体辺部組41が上記第2のスロットの径第一方向R1側部分に配置され、第二導体辺部組42が複数のスロット22のうちの第3のスロットの径第二方向R2側部分に配置される。以上が、各相コイルについて、周方向Cの全域に亘って順次繰り返される。
【0064】
これにより、ステータコア2が備える全てのスロット22内のそれぞれに、何れかの1つのL周巻コイル部32Lの第一導体辺部組41又は第二導体辺部組42と、何れかの1つのM周巻コイル部32Mの第二導体辺部組42又は第一導体辺部組41とを合わせて、流れる電流の向きが揃った(L+M)本(本例では5本)の導体辺部33が配置される。本実施形態に係る製造方法によっても、各スロット22内で径方向Rに並んで配置される導体辺部33の本数を容易に奇数とすることができる。
【0065】
3.その他の実施形態
最後に、本発明に係る回転電機用電機子及びその製造方法の、その他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0066】
(1)上記の各実施形態では、毎極毎相あたりのスロット数であるKが「2」とされた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、毎極毎相あたりのスロット数を例えば「3」、「4」としても良く、「1」、或いは「5」以上とすることも可能である。要するに、毎極毎相あたりのスロット数であるKは、任意の自然数とすることができる。この場合、コイル部形成工程P1では、Kの設定に応じて、L周巻コイル部32LとM周巻コイル部32MとをK個ずつ交互に直列接続する。
【0067】
(2)上記の各実施形態では、Lが「3」とされて各L周巻コイル部32Lが3周ずつ周回されると共に、Mが「2」とされて各M周巻コイル部32Mが2周ずつ周回され、全てのスロット22内のそれぞれに5本の導体辺部33が配置される構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、Lは「1」以上の任意の奇数とすることができるし、Mは「2」以上の任意の偶数とすることができる。この場合において、LとMとの間の関係は「L−M=1」に限られず、「L−M=−1」、「L−M=±3」、「L−M=±5」等となっても良い。この場合であっても、L及びMの設定に応じて、ステータコア2が備える全てのスロット22内のそれぞれに、流れる電流の向きが揃った(L+M)本の導体辺部33が配置されることになる。
【0068】
(3)上記の各実施形態では、界磁としてのロータの磁極数が「8」とされ、各相の相コイルの複数のコイル部32が磁極数に応じて8つのグループGに分けられた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、磁極数は任意の偶数とすることができ、「2」、「4」、「6」、或いは「10」以上とすることができる。このとき、各相の相コイルの複数のコイル部32は、磁極数に応じた数のグループGに分けられる。
【0069】
なお、磁極数が「2」とされ、各相の相コイルの複数のコイル部32が2つのいずれかのグループGに分けられる場合には、複数のL周巻コイル部32Lのうちの1つである第1のコイル部の、第一導体辺部組41が複数のスロット22のうちの第1のスロットの径第一方向R1側部分に配置され、第二導体辺部組42が複数のスロット22のうちの第2のスロットの径第二方向R2側部分に配置される。更に、複数のM周巻コイル部32Mのうちの1つである第2のコイル部の、第一導体辺部組41が上記第2のスロットの径第一方向R1側部分に配置され、第二導体辺部組42が上記第1のスロットの径第二方向R2側部分に配置されることになる。
【0070】
(4)上記の各実施形態では、各コイル部32(L周巻コイル部32L,M周巻コイル部32M)が、周方向Cから見て、線状導体31が交差することなく周回する渦巻状に形成された構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、少なくとも第一導体辺部組41及び第二導体辺部組42のそれぞれにおいて複数の導体辺部33を流れる電流の向きが揃っていれば、各コイル部32を構成する線状導体31が周方向Cから見て一部交差した構成としても良い。
【0071】
(5)上記の各実施形態では、三相交流で駆動される回転電機用のステータ1を一例とし、コイル3が3つの相コイルを有する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、コイル3が有する相コイルの個数は、これ以外にも「1」、「2」、或いは「4」以上とすることもできる。
【0072】
(6)上記の各実施形態では、インナーロータ型の回転電機用のステータ1を例として説明した。しかし、本発明の適用対象はこれに限定されない。すなわち、アウターロータ型の回転電機用のステータ1に対しても、本発明を適用することができる。
【0073】
(7)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載されていない構成に関しては、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、円筒状のコア基準面の軸方向に延びるスロットが当該コア基準面の周方向に複数分散配置されている電機子コアと、電機子コアに巻装されるコイルとを備えた回転電機用電機子、及びその製造方法に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 ステータ(回転電機用電機子)
2 ステータコア(電機子コア)
3 コイル
21 コア基準面
22 スロット
31 線状導体
32 コイル部
32L L周巻コイル部
32M M周巻コイル部
33 導体辺部
41 第一導体辺部組
42 第二導体辺部組
L 軸方向
R 径方向
R1 径第一方向
R2 径第二方向
C 周方向
P1 コイル部形成工程
P2 コイル部配置工程
P3 コイル部変形工程
P4 コイル部挿入工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のコア基準面の軸方向に延びるスロットが当該コア基準面の周方向に複数分散配置されている電機子コアと、前記電機子コアに巻装されるコイルと、を備えた回転電機用電機子であって、
前記電機子コアは、毎極毎相あたりK個(Kは自然数を表す)の前記スロットを有し、
前記コイルは、1本の線状導体をL回(Lは1以上の奇数を表す)周回させてなるL周巻コイル部と1本の線状導体をM回(Mは2以上の偶数を表す)周回させてなるM周巻コイル部とを有すると共に、連続するK個の前記L周巻コイル部と連続するK個の前記M周巻コイル部とが交互に接続されて構成され、
前記L周巻コイル部及び前記M周巻コイル部のそれぞれが、前記スロット内に配置される部分である導体辺部を偶数本備えると共に、これら偶数本の前記導体辺部の半分ずつが、前記スロット内での電流の向きがそれぞれ同じとなる一対の導体辺部組である第一導体辺部組と第二導体辺部組とに分かれて一対の前記スロット内に配置され、
前記コア基準面の径方向一方側を径第一方向とし、径方向他方側を径第二方向として、
複数の前記L周巻コイル部のうちの1つである第1のコイル部の前記第一導体辺部組が、複数の前記スロットのうちの第1のスロットの前記径第一方向側部分に配置され、
前記第1のコイル部の前記第二導体辺部組が、複数の前記スロットのうちの第2のスロットの前記径第二方向側部分に配置され、
複数の前記M周巻コイル部のうちの1つである第2のコイル部の前記第一導体辺部組が、前記第2のスロットの前記径第一方向側部分に配置され、
前記第2のコイル部の前記第二導体辺部組が、複数の前記スロットのうちの第3のスロット又は前記第1のスロットの前記径第二方向側部分に配置され、
前記電機子コアが備える全ての前記スロット内のそれぞれに、何れかの1つの前記L周巻コイル部の前記導体辺部組と何れかの1つの前記M周巻コイル部の前記導体辺部組とを合わせて(L+M)本の前記導体辺部が配置されている回転電機用電機子。
【請求項2】
同じ前記スロット内に前記導体辺部組が配置される前記L周巻コイル部と前記M周巻コイル部とに関して、当該L周巻コイル部を構成する線状導体の周回方向と当該M周巻コイル部を構成する線状導体の周回方向とが、互いに逆方向である請求項1に記載の回転電機用電機子。
【請求項3】
前記L周巻コイル部及び前記M周巻コイル部のそれぞれが、前記周方向に見て、これらのコイル部を構成する線状導体が交差することなく周回する渦巻状に形成されている請求項1又は2に記載の回転電機用電機子。
【請求項4】
円筒状のコア基準面の軸方向に延びるスロットが当該コア基準面の周方向に複数分散配置されている電機子コアと、前記電機子コアに巻装されるコイルとを備え、前記電機子コアが毎極毎相あたりK個(Kは自然数を表す)の前記スロットを有する回転電機用電機子の製造方法であって、
線状導体をL回(Lは1以上の奇数を表す)周回させてなるL周巻コイル部と線状導体をM回(Mは2以上の偶数を表す)周回させてなるM周巻コイル部とを、K個ずつ交互に接続するように形成するコイル部形成工程と、
前記L周巻コイル部及び前記M周巻コイル部のそれぞれにおける前記線状導体のうち前記スロット内に配置される部分である導体辺部を半分ずつ、前記スロット内での電流の向きがそれぞれ同じとなる一対の導体辺部組である第一導体辺部組と第二導体辺部組とに分け、前記L周巻コイル部及び前記M周巻コイル部のそれぞれにおける前記第一導体辺部組及び前記第二導体辺部組の一方を前記スロットに挿入すると共に前記第一導体辺部組及び前記第二導体辺部組の他方を未挿入の状態とするように全ての前記L周巻コイル部及び全ての前記M周巻コイル部を配置するコイル部配置工程と、
前記L周巻コイル部及び前記M周巻コイル部のそれぞれにおける前記第一導体辺部組と前記第二導体辺部組とを一括して前記周方向に相対移動させて前記コイル部を変形させるコイル部変形工程と、
前記コイル部変形工程の後、前記コイル部配置工程において未挿入の状態とされた方の導体辺部組を前記コア基準面の径方向に移動させて前記スロットに挿入するコイル部挿入工程と、
を備える回転電機用電機子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−70523(P2013−70523A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207553(P2011−207553)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】