説明

固−液混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料

【課題】溶媒として有機溶媒であるジメチルスルホキシドを用いず、短時間で強固に接着
する生体内分解吸収性粘着性医用材料の開発が望まれていた。
【解決手段】蒸留水、生分解性高分子と静電的相互作用及びキレート効果によって相互作
用する金属イオンを含む水溶液、又は緩衝溶液からなる溶媒に溶解した生分解性高分子を
接着成分とし、電子吸引基によってジカルボン酸のカルボキシル基を2つ、又はトリカル
ボン酸のカルボキシル基を2つ又は3つ修飾した粉末状の有機酸誘導体を硬化成分とする
ことを特徴とする固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、創部の閉鎖・接合等用の生体組織接着剤として用いられる固体−液
体混合型の二成分系の生体内で分解吸収性がある粘着性医用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術における皮膚、臓器、血管などの創部の閉鎖・接合等において、フィブリン系
接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ゼラチンをホルムアルデヒド又はグルタールアル
デヒドで架橋させたゼラチン系接着剤、ポリウレタン系接着剤などが知られており(特許
文献1〜6及び非特許文献1)生体組織用接着剤として臨床的に使用されている。
【0003】
本発明者らは、クエン酸回路内に存在するトリカルボン酸であるクエン酸のカルボキシ
ル基を電子吸引性基によって少なくとも1つ以上修飾した有機酸誘導体を開発し(特許文
献7)、該誘導体を硬化成分とし、有機溶媒溶液若しくは水溶液又は水−有機溶媒混合溶
液に溶解した生分解性高分子(アルブミン、コラーゲン、ゼラチンなど)を接着成分とす
る生体内分解吸収性粘着性医用材料を開発した(特許文献8、非特許文献2〜10)。
【0004】
また、酒石酸誘導体を硬化成分とし、有機溶媒溶液若しくは水溶液又は水−有機溶媒混
合溶液に溶解した生分解性高分子(アルブミン、コラーゲン、ゼラチンなど)を接着成分
とする生体内分解吸収性粘着性医用材料を開発した(特願2004−233869)。な
お、タンパク質分子とタンパク質分子とを架橋反応させるための架橋剤としてアルカン二
酸ジスクシンイミドが知られている(特許文献9)が生体内分解吸収性や生体内での使用
を目的とした粘着性医用材料ではない。
【0005】
【特許文献1】特開平6−218035号公報
【特許文献2】特開平7−163860号公報
【特許文献3】特開平9−103479号公報
【特許文献4】WO98/54224
【特許文献5】特開2000−290633号公報
【特許文献6】特表2000−503883号(特許第3238711号公報)
【特許文献7】特開2004−99562号公報
【特許文献8】特開2004−261222号公報
【特許文献9】特開昭61−69759公報
【非特許文献1】Bellotto et al.,Surgery, gynecology and obstetrics Vol.174, pp221-224(1992)
【非特許文献2】Abstract for 2003 Meeting of The Korean Society for Biomaterials,p.328-329, A novel tissue adhesive consisting of a citric acid derivative and collagen with a high bonding strength and low cytotoxicity, Tetsushi Taguchi, Hirofumi Saito, Hisatoshi Kobayashi, Kazunori Kataoka and Junzo Tanaka
【非特許文献3】Polymer Preprints, Japan2003, Vol. 52, No.5, p.1132
【非特許文献4】Polymer Preprints, Japan2003, Vol. 52, No.12, p.3559-3560
【非特許文献5】Polymer Preprints, Japan2003, Vol. 52, No.14, p.4147
【非特許文献6】Polymer Preprints, Japan2003, Vol. 52, No.14, p.4140
【非特許文献7】NIMS NOW, 2004, Jan.Vol.4, No.1、高分子ゲルの医療用接着剤への応用−クエン酸誘導体による生体高分子の架橋−、田口哲志
【非特許文献8】Materials Science &Engineering C 2004, Vol. 24, p.775-780
【非特許文献9】Materials Science &Engineering C 2004, Vol. 24, p.781-785
【非特許文献10】Materials Science & Engineering C 2004, Vol. 24, p.787-790
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが開発した上記の生体内分解吸収性粘着性医用材料は、生体軟組織の強度に
匹敵する高い接着強度を有し、生体に対する毒性が低く生体親和性に優れた医療用の液体
−液体混合型二成分系接着剤である。このような接着剤を調製する際、硬化成分である有
機酸誘導体を溶解するための溶媒としては蒸留水、緩衝溶液、有機溶媒が挙げられるが、
硬化成分は、水に対する溶解性が低く(10重量%以下)、有機溶媒であるジメチルスル
ホキシドを使わざるを得なかったが、ジメチルスルホキシドは、細胞に対して毒性を示し
、実際の臨床では使用することができないという点で課題となっていた。
【0007】
そこで、ジメチルスルホキシドを用いることなく、生分解性高分子、有機酸などの生体
由来分子で構成される架橋剤を用いて、短時間で強固に接着する生体内分解吸収性粘着性
医用材料の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、本発明では、生分解性高分子を液体状の接着成分とし
、粉末状のジ又はトリカルボン酸誘導体を固体状の硬化成分とすることにより、
硬化成分の溶媒を用いずに、高い接着強度と生体親和性を有する固体−液体混合型二成分
系生体内分解吸収性粘着性医用材料を開発した。
【0009】
すなわち、本発明は、蒸留水、生分解性高分子と静電的相互作用及びキレート効果によ
って相互作用する金属イオンを含む水溶液、又は緩衝溶液からなる溶媒に溶解した生分解
性高分子を接着成分とし、電子吸引基によってジカルボン酸のカルボキシル基を2つ、又
はトリカルボン酸のカルボキシル基を2つ又は3つ修飾した粉末状の有機酸誘導体を硬化
成分とすることを特徴とする固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料
である。
【0010】
本発明の固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料は、血管吻合部な
ど軟組織と軟組織、生体腱と骨あるいは歯周組織と歯などの軟組織と硬組織、又は骨と骨
あるいは歯と歯などの硬組織と硬組織を接着する生体用組織接着剤に使用される。
【0011】
また、本発明の固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料は、肝臓な
どの止血剤、血管栓塞剤、肺用のシーラント又は動脈瘤の封止剤として使用される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の粘着性医用材料は、有機溶媒を一切用いないで使用できるので細胞に対する毒
性が低くなる。また、粉末状の有機酸誘導体を硬化成分として使用することにより、硬化
成分を溶媒を用いて溶液状として用いる場合と比較して硬化成分の濃度が同程度でも接着
強度が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に使用される生分解性高分子は、タンパク質、グリコサミノグリカン、ポリアミ
ノ酸、ポリオールの1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0014】
また、タンパク質は、コラーゲン(数10種類のタイプによらない)、アテロコラーゲ
ン(数10種類のタイプによらない)、アルカリ処理コラーゲン(数10種類のタイプに
よらない)、メチル化コラーゲン(数10種類のタイプによらない)、ゼラチン、ケラチ
ン、ヘモグロビン、カゼイン、グロブリン、フィブリノーゲン、キチン、キトサン、ヘモ
グロビン、カゼイン、ヒト血液由来アルブミン、ヒト遺伝子組み換えアルブミン、アルブ
ミンフラグメント、及び化学的に改変されたアルブミン等アミノ基を有する高分子が含ま
れる群より選択されるタンパク質の1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0015】
また、グリコサミノグリカンには、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン
酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、又はこれらの誘導体の1種又は2種以上の
組み合わせが挙げられる。これらのグリコサミノグリカンは、分子量及び由来する生物に
よらない。
【0016】
また、その他の生分解性高分子として、キトサン(脱アセチル化度、分子量によらない
)、ポリアミノ酸(アミノ酸の種類、分子量によらない)、ポリアルコール(種類、分子
量によらない)が挙げられる。
【0017】
また、接着成分を作製するための溶媒としては、蒸留水、生分解性高分子と静電的相互
作用及びキレート効果によって相互作用する金属イオンを含む水溶液、又は緩衝溶液が用
いられる。これらの溶媒は、有機溶媒ではないので、生体組織に対し、高い毒性を示さず
、また、これらを使用することにより、接着剤を付着させた周囲の生体組織を浸透圧、p
Hの変化により壊死させないようにすることができる。ただし、蒸留水は、接着効果に影
響は無いが生体組織との浸透圧の違いにより、周辺組織の細胞が破壊することがあるので
使用上注意を要する。緩衝溶液を使うことによりpHを6〜8の間で変化させることが可
能となり、硬化速度の制御が可能になる。
【0018】
また、金属イオンを含む水溶液の金属イオンは、カルシウム、ナトリウム、カリウム、
マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅、銀、セレン、モリブデン、ニッケル、クロム、
コバルト、バナジウムの1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。接着成分である生
分解性高分子とこれらの金属イオンが静電的相互作用及びキレート効果によって相互作用
するため接着強度が増加する。金属イオンを含む水溶液は、これらの金属イオンの硫酸塩
、硝酸塩、塩化物塩(市販品)を0.01〜1Mになるように水に溶解することにより調
製できる。この溶液に生分解性高分子を溶解する。
【0019】
また、緩衝溶液は、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩の1種又は
2種以上の組み合わせが挙げられる。緩衝溶液としては、炭酸水素ナトリウム緩衝溶液、
ホウ酸緩衝溶液、リン酸緩衝溶液等が挙げられる。また、緩衝溶液を調製する際に用いる
無機塩の濃度範囲は0.01M〜10.0Mを用いることができる。

【0020】
本発明における硬化成分として用いる粉末状の有機酸誘導体は、ジ又はトリカルボン酸
を電子吸引基、例えば、スクシンイミジル、スルホスクシンイミジル、マレイミジル、フ
タルイミジル、イミダゾールイル、ニトロフェニル、トレジル又はこれらの誘導体の1種
又は2種以上の組み合わせと合成反応させ、活性エステルを導入したものである。
【0021】
ジ又はトリカルボン酸は、酒石酸又はクエン酸回路に存在するリンゴ酸、オキサル酢酸
、クエン酸、cis-アコニット酸、2−ケトグルタル酸又はこれらの誘導体が好ましいが、
その他のジ又はトリカルボン酸、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミ
メリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリト酸、
メリト酸などでもよい。
【0022】
本発明において硬化成分として用いる粉末状の有機酸誘導体は、ジ又はトリカルボン酸
の有機溶媒溶液に、縮合剤、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)
カルボジイミド(EDC)、又は、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の存在下で、電
子吸引基となる分子、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミドを加え、反応させ、副生成物
であるウレアを含む粗生成物を得る。
【0023】
その後、反応溶媒をエバポレーターにより減圧留去することによりペースト状の粗生成
物を得る。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーにより分離精製する。さら
にシリカゲルクロマトグラフィーのフラクションを減圧留去、再結晶によって精製する。
これにより粒度分布が10〜100μm程度の粉末状の白色結晶が得られる。得られる電
子吸引基によってジカルボン酸のカルボキシル基を2つ、又はトリカルボン酸のカルボキ
シル基を2つ又は3つ修飾した有機酸誘導体は、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)及び元素分
析により純度95%以上のものである。
【0024】
かかる反応物は、例えば、ジ又はトリカルボン酸0.001〜10重量%に対し、電子
吸引基として、N-ヒドロキシスクシンイミド、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド、又は
これらの誘導体を0.001〜10重量%、縮合剤として、カルボジイミド(EDC)を0
.001〜20重量%、残部有機溶媒、合計100重量%の割合で用い、反応温度0〜1
00℃、より好ましくは、0℃〜50℃、反応時間1〜48時間の適宜の条件を選択して
得られる。
【0025】
蒸留水、生分解性高分子と静電的相互作用及びキレート効果によって相互作用する金属
イオンを含む水溶液、又は緩衝溶液からなる溶媒に溶解した生分解性高分子の溶液に、上
記の反応により得られた粉末状の有機酸誘導体を分散させ、接着成分と粉末状の硬化成分
を混合することにより、生分解性高分子中のアミノ基と有機酸誘導体のスクシンイミジル
エステル基が反応してアミド結合を形成することにより架橋体が生じることにより固体−
液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料が得られる。
【0026】
接着成分(生分解性高分子)と粉末状の硬化成分(有機酸誘導体)の割合は、蒸留水、
金属イオンを含む水溶液、又は緩衝溶液からなる溶媒中の接着成分の濃度0.01〜80
重量%程度に対し、硬化成分の濃度範囲は0.01〜100mMが望ましい。溶媒中の接
着成分のより好ましい濃度範囲は、3〜60重量%である。また、接着成分に対する硬化
成分のより好ましい濃度範囲は0.05〜10mM程度である。
【0027】
なお、両者の配合に際しては、上記濃度範囲となる粉末状の硬化成分を使用する直前に
、上記濃度範囲である接着成分に直接添加するか、その逆とし、混合溶液が均一になるよ
うに攪拌して混合するのが好ましい。
【0028】
なお、本発明の固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料は当該用途
に適用後は生体内で分解し、6ヶ月以内に生体内、最終的には、肝臓で吸収、消失する特
性があり、体内に異物として残存することがない。また、硬化成分及び接着成分の濃度が
高いと分解時間は長くなるが、濃度を増減させることにより、体内での分解時間を1ヶ月
〜6ヶ月に制御することができる。
【実施例1】
【0029】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明をする。
<生体組織接着剤の調製及び接着力測定評価>
生体組織接着剤を下記のようにして調製した。生分解性高分子として、ヒト由来血清の
アルブミン(シグマアルドリッチジャパン(株)製A1653)を0.1Mリン酸ナトリ
ウム緩衝溶液(pH6.0)に44重量%となるように溶解した。このアルブミン溶液8
00mgに対し、粉末状の硬化成分としてクエン酸誘導体(CAD)、リンゴ酸誘導体(
MAD)、酒石酸誘導体(TAD)をそれぞれ242mg、164mg、172mg添加
し、25℃にて15秒間攪拌し硬化前の混合溶液を得た。
【0030】
CAD、MAD、TADの合成
クエン酸、リンゴ酸、酒石酸それぞれのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(5重
量%)中に氷冷下にて、N−ヒドロキシスクシンイミドと縮合剤としてEDCを加え、1時
間攪拌し、その後、室温にて2時間攪拌を行った。クエン酸の場合は、N−ヒドロキシス
クシンイミドを3.1当量分、EDCを3.2当量分加えた。リンゴ酸、酒石酸の場合は、N
−ヒドロキシスクシンイミドを2.1当量分、EDCを2.2当量分加えた。続いて、反応系
の溶媒であるDMFを減圧留去した。得られた残渣をアセトン−n−へキサンの混合溶液を
用いて、再結晶により精製を行い、クエン酸の3つのカルボキシル基、リンゴ酸の2つの
カルボキシル基、酒石酸の2つのカルボキシル基が、それぞれN−ヒドロキシスクシンイ
ミドに修飾されたCAD、MAD、TADを得た。得られたCAD、MAD、TADは、
粒度分布が10〜100μmの粒状の白色結晶であった。
【0031】
生体組織に対する接着強度測定用のモデル物質として、円柱状のプラスチックロッド(
直径1cm、高さ2cm)の底面に直径1cmの円形状に成型したコラーゲンケーシング
(新田ゼラチン(株)製、組成:コラーゲン44重量%、セルロース18重量%、グリセ
リン15重量%、植物性油脂3重量%、カルボキシメチルセルロース2重量%)を貼り合
せて接着強度測定を実施した。
【0032】
コラーゲンケーシングを貼り付けた接着面に厚さが均一になるように硬化前の混合溶液
を塗布し、同様にコラーゲンケーシングを貼り付けたプラスチックロッドをその塗布面に
重ね合わせた。37℃で1〜15分間反応後、引っ張り試験機(英弘精機(株)製TA-XT2
i)により接着強度を測定した。測定は25℃、測定スピード1mm/sで行った。
【0033】
図1は、接着時間と接着強度の関係を示すグラフである。接着時間は、酒石酸誘導体(
TAD)を硬化成分として用いた接着剤が最も早く、続いてリンゴ酸誘導体(MAD)、
クエン酸誘導体(CAD)の順に早いことが確認された。
[比較例1]
【0034】
コラーゲンケーシングを貼り付けた接着面に厚さが均一になるように、接着剤としてフ
ィブリン糊(ヘキスト社製、商品名 ベリプラストP)のA液とB液を混合・塗布し、同
様にコラーゲンケーシングを貼り付けたプラスチックロッドをその塗布面に重ね合わせた
。37℃で反応させて5分後、引っ張り試験機(英弘精機(株)製TA-XT2i)により接着強
度を測定した。測定は25℃、測定スピード1mm/sで行った。
[比較例2]
【0035】
コラーゲンケーシングを貼り付けた接着面に厚さが均一になるように、接着剤としてゼ
ラチン−レゾルシノール溶液及びホルムアルデヒド−グルタールアルデヒド溶液の2液か
らなるゼラチン糊(E.H.S.社(フランス)製、商品名 GRFグルー)を混合・塗
布し、同様にコラーゲンケーシングを貼り付けたプラスチックロッドをその塗布面に重ね
合わせた。37℃で反応させて5分後、引っ張り試験機(英弘精機(株)製TA-XT2i)によ
り接着強度を測定した。測定は25℃、測定スピード1mm/sで行った。
[比較例3]
【0036】
コラーゲンケーシングを貼り付けた接着面に厚さが均一になるように、接着剤として2
−オクチルシアノアクリレート(ETHICON社製、商品名 DERAMABOND)
を塗布し、同様にコラーゲンケーシングを貼り付けたプラスチックロッドをその塗布面に
重ね合わせた。37℃で反応させて5分後、引っ張り試験機(英弘精機(株)製TA-XT2i)
により接着強度を測定した。測定は25℃、測定スピード1mm/sで行った。
【0037】
比較例1〜3の結果と実施例1の最大接着条件(5分後)の結果を表1に示す。本発明
による接着剤は、市販の接着剤と同様あるいはそれ以上の接着強度を持つことが明らかと
なった。
【0038】
【表1】

【0039】
[比較例4]
生分解性高分子として、ヒト由来血清のアルブミン(シグマアルドリッチジャパン(株
)製A1653)を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝溶液(pH7.0)に50重量%となる
ように溶解した。このアルブミン溶液400uLに対し、粉末状の硬化成分としてクエン酸
誘導体(CAD)のジメチルスルホキシド溶液100uL(濃度1000mM)を添加し(
終濃度200mM)し、25℃にて15秒間攪拌し硬化前の混合溶液を得た。次いで、接着
強度の試験を実施例1と同様に行った。ただし、反応させて5分後に試験した。硬化成分
であるCADの溶媒にジメチルスルホキシドを使用した際の最大接着強度は、760g/cm2
あった。
【0040】
[比較例5]
生分解性高分子として、ヒト由来血清のアルブミン(シグマアルドリッチジャパン(株
)製A1653)を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝溶液(pH7.0)に45重量%とな
るように溶解した。このアルブミン溶液400uLに対し、粉末状の硬化成分として酒石酸
誘導体(TAD)のジメチルスルホキシド溶液100uL(濃度1000mM)を添加し(
終濃度200mM)し、25℃にて15秒間攪拌し硬化前の混合溶液を得た。次いで、接着
強度の試験を実施例1と同様に行った。ただし、反応させて5分後に試験した。硬化成分
であるTADの溶媒にジメチルスルホキシドを使用した際の最大接着強度は、716(g/cm2
)であった。比較例4、比較例5の結果を実施例と対比して表2に示す。
【0041】
【表2】

【実施例2】
【0042】
<家兎肺へのシーリング効果の評価>
実施例1の硬化成分としてTADを用いた接着剤を、気管からのエアーの導入により膨
張させた家兎の肺(メスで損傷)へ塗布した。その後、シーリングを行った肺をリン酸緩
衝液に浸漬し、常温18時間後、再びエアーを気管から導入することによりシーリング効
果を検証した。図2に示すように、シーリング前の空気漏れ(左図)を本固体−液体混合
型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料を塗布することにより封止可能なことが明ら
かとなった。
【実施例3】
【0043】
<家兎肝臓への塗布効果の評価>
実施例1と同様に接着剤を調製した。ただし、緩衝溶液のpHを6.0と8.0とし、
CADの添加量を0.5mmolとした2種及び緩衝溶液のpHを6.0とし、TADの
添加量を0.05mmolとした2種を用いた。これらの接着剤を、家兎の肝臓へ塗布し
た。図3に示すように、肝臓表面へ本固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性
医用材料を塗布・接着可能なことが明らかとなった。
【実施例4】
【0044】
<マウス皮下での生体親和性評価>
実施例1と同様に接着剤を調製した。ただし、TADの添加量を0.1molとした。
この接着剤をマウス腹腔内への移植を行い、経時的に組織反応を観察した。図4に示すよ
うに、3日目、7日目となるにつれ接着剤の分解が進む様子が観察されたが、強い炎症反
応は認められず、生体親和性が高いことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料は、皮膚と皮膚な
どの軟組織間の接着、骨と骨などの硬組織間の接着、骨と軟骨などの硬組織と軟組織の接
着を目的とした生体用組織接着剤として用いられる。また、止血剤、血管塞栓剤、シーラ
ント、又は動脈瘤の封止剤としても用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1において、アルブミンを接着成分、CAD、MAD、又はTADを硬化成分とした固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料の接着時間と接着強度の関係を示すグラフである。
【図2】実施例2において、アルブミンを接着成分、TADを硬化成分とした固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料を損傷した家兎肺に塗布前後の様子を示した図面代用写真である。
【図3】実施例3において、アルブミンを接着成分、CAD及びTADを硬化成分とした固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料を家兎肝臓に塗布後の様子を示した図面代用写真である。
【図4】実施例4において、アルブミンを接着成分、TADを硬化成分とした固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料をマウス腹腔内にインプラント後の組織切片の図面代用写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留水、生分解性高分子と静電的相互作用及びキレート効果によって相互作用する金属イ
オンを含む水溶液、又は緩衝溶液からなる溶媒に溶解した生分解性高分子を接着成分とし
、電子吸引基によってジカルボン酸のカルボキシル基を2つ、又はトリカルボン酸のカル
ボキシル基を2つ又は3つ修飾した粉末状の有機酸誘導体を硬化成分とすることを特徴と
する固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料。
【請求項2】
電子吸引基がスクシンイミジル、スルホスクシンイミジル、マレイミジル、フタルイミジ
ル、イミダゾールイル、ニトロフェニル、トレジル又はこれらの誘導体の1種又は2種以
上の組み合わせであることを特徴とする請求項1記載の固体−液体混合型二成分系生体内
分解吸収性粘着性医用材料。
【請求項3】
ジ又はトリカルボン酸が酒石酸又はクエン酸回路に存在するリンゴ酸、オキサル酢酸、ク
エン酸、cis−アコニット酸、又は2−ケトグルタル酸又はこれらの誘導体の1種又は
2種以上の組み合わせであることを特徴とする請求項1記載の固体−液体混合型二成分系
生体内分解吸収性粘着性医用材料。
【請求項4】
粉末状の有機酸誘導体は、ジ又はトリカルボン酸の有機溶媒溶液に、縮合剤の存在下で、
電子吸引基となる分子を加えて得られる反応生成物の再結晶精製物であることを特徴とす
る請求項1記載の固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料。
【請求項5】
金属イオンを含む水溶液の金属イオンが、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシ
ウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅、銀、セレン、モリブデン、ニッケル、クロム、コバルト
、バナジウムの1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする請求項1記載の固
体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料。
【請求項6】
緩衝液が、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩の1種又は2種以上の
組み合わせからなることを特徴とする請求項1記載の固体−液体混合型二成分系生体内分
解吸収性粘着性医用材料。
【請求項7】
請求項1記載の生分解性高分子がタンパク質、グリコサミノグリカン、ポリアミノ酸、ポ
リオールの1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする固体−液体混合型二成
分系生体内分解吸収性粘着性医用材料。
【請求項8】
請求項7記載のタンパク質が、コラーゲン、アテロコラーゲン、アルカリ処理コラーゲン
、メチル化コラーゲン、ゼラチン、ヒト血液由来アルブミン、ヒト遺伝子組み換えアルブ
ミン、卵白アルブミン、ケラチン、グロブリン、フィブリノーゲン、キチン、キトサン、
ヘモグロビン、カゼインの1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする固体−
液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着性医用材料。
【請求項9】
請求項7記載のグリコサミノグリカンが、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアル
ロン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、又はこれらの誘導体の1種又は2種以
上の組み合わせであることを特徴とする固体−液体混合型二成分系生体内分解吸収性粘着
性医用材料。
【請求項10】
請求項1記載の生体内分解吸収性粘着性医用材料からなることを特徴とする軟組織と軟組
織、軟組織と硬組織、又は硬組織と硬組織を接着する生体用組織接着剤。
【請求項11】
請求項1記載の生体内分解吸収性粘着性医用材料からなることを特徴とする止血剤、血管
栓塞剤、シーラント又は動脈瘤の封止剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−346049(P2006−346049A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174414(P2005−174414)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(593183366)フルウチ化学株式会社 (13)
【Fターム(参考)】