説明

固体、詳しくは金属または鉱物の表面での、高分子、微生物およびバイオフィルムの固着を防止または限定するためのビホスホン酸化合物

本発明は、式(I)のビスホスホン酸化合物、この化合物を含む微生物汚染防止組成物、および金属または鉱物表面のような固体表面での高分子、微生物およびバイオフィルムの固着を防止しまたは制限するためのそれらの使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、高分子、および微生物汚染、特に細菌汚染からの、金属または鉱物表面のような固体表面の保護の分野に関する。
【0002】
「微生物汚染」(microbiological contamination)という用語は、微生物による汚染を意味するものと考えられる。
【0003】
本発明は、詳しくは新規ビスホスホン酸化合物、それらを含む汚染防止化合物、および金属または鉱物表面のような表面への高分子および微生物、特に細菌の付着を制限するためのそれらの使用に関する。
【0004】
背景技術
食品または医療産業において、表面は重要な細菌学的汚染源となっている。
【0005】
例えば、醗酵または反応器をバイオテクノロジーとして用いる産業では、容器の壁へ高分子が吸着してこれらの化合物を変性させ、これが醗酵槽による高価値タンパク質(例えば、サイトカインなど)の産生の場合に悪影響を生じる可能性がある。
【0006】
他の状況では、形成したポリマー層自身が、吸着して部分的に変性したプリオンの場合のように潜在的に病原性であり、表面からそれを完全に除去することが困難である可能性がある。
【0007】
微生物、特に細菌は様々な表面にコロニー形成しかつ真の集合体を形成することができる。これらの表面コロニー形成現象は、重要な微生物汚染源を構成するバイオフィルムの形成に関与している。
【0008】
表面でのバイオフィルムの形成は、様々な連続的現象を伴う。
【0009】
前駆現象は、高分子の変性によるそれらの付着または吸着、および表面と接触したそれらの広がりである。これらのポリマー性高分子は、タンパク質または多糖類、あるいはポリフェノール性である。一般に、それらは、生物学的起源、特に細菌起源のものである。表面に付着することによって、高分子は、吸着したプリオンの場合のように、潜在的に病原性のポリマー層を形成する。
【0010】
原生動物、細菌、真菌または藻類のような多数の微生物は、それにより疎水性ゾーン、アミンまたはスルフィド基、または単糖類または多糖類部位の存在によりこのポリマー層において発育することができるようになる。付着したならば、好ましい条件下では、これらの微生物は増殖するだけでなく、他のポリマーを分泌することによってバイオフィルムとして知られているフィルム型マトリックスを構築する。このフィルムは、例えば、レジオネラ菌による空調設備の汚染の本質的要因であり、これらの微生物を高濃度でまき散らすことができることが知られている。
【0011】
海洋または河川環境のような特殊条件下では、この微生物学的フィルムは多細胞性植物または動物体の支持体として働き、厚いフィルムを生成する。一例はボート船体の汚染例であり、前進運動に対する抵抗を著しく増加する。
【0012】
一般に、これらの現象は全体として「付着物」または「生物付着」として知られていることが多く、これは下記の方法で定義することができる。すなわち、微生物または多細胞性生物により表面のコロニー形成を生じる総ての連続的過程である。
【0013】
同様な現象は、インプラントしたプロテーゼの現象であり、これは接触した媒質に含まれる高分子で速やかに被覆され、次いでこれにより移動する細胞の侵襲の支持体として働く。
【0014】
バイオフィルムの構造は一般に多孔性であり、水および栄養分を循環させることができ、これによって微生物コロニーを再生し、発育させることができる。この高分子層は、細胞に関して生物活性な生成物の接近を遅らせることによって微生物を外部からの攻撃(殺生物剤、抗生物質、防腐剤)から保護することもできる。高分子の吸着段階では、様々な吸引力が表面の種類によって包含される。この過程に一般に包含されるものは、静電的、イオン性、ファン・デル・ヴァールス力、水素結合、または疎水性相互作用性のものである。従って、吸着は、高分子と表面との間に存在する引力と反発力とによって変化する。その上、支持体の表面張力(界面活性剤の存在または非存在によって調節される)または表面上の電荷の不均一な分布など多くの因子を考慮しなければならない。
【0015】
この吸着期の後、微生物の付着自体は、その種類、培地中のその個体数の大きさ、その増殖期の期間、および細胞変形によって変化する。最後のものは、分散媒質、溶液の温度、pH、電解質および栄養分の利用可能性によっても変化する。最後に、付着力は、表面の電荷および接触時間によっても変化する。
【0016】
付着の後、微小コロニーが表面上に形成される。増殖およびその後のそのコンフルエンスにより最初に薄い表面コーティングが速やかに形成されて、これが微生物増殖と共に厚みを増し、数ミリメートルの厚みに達するのであり、これがバイオフィルムである。従って、高分子接着は、バイオフィルム形成過程の本質的段階である。
【0017】
最もよく知られているバイオフィルムは、ヒトの口腔の複雑な生態系である歯苔として一般に知られている歯のバイオフィルムであり、これは虫歯、虫歯の再発、歯周病およびインプラント周囲炎(peri-implantitis)の原因となる。
【0018】
塩素または抗生物質のような化学殺生物剤は、表面でのバイオフィルムの形成に無効であるかまたは不十分であることが明らかになっていることが多い。実際に、バイオフィルムの塩素化はバイオフィルムの外側部分しか行われず、再度速やかに発育することができる細菌の層は無傷のままである。バイオフィルムを除去する目的での塩素の使用は、バイオフィルムを表面から手作業で除去するときにしか有効でない。
【0019】
抗生物質も、微生物、特に細菌に耐性遺伝子をばらまきやすく、これによって抗生物質が次第に不活性になるので、満足なものではない。単離された細菌に対してイン・ビトロで活性である殺生物剤が固着した細菌に対して完全に不活性となることは、よく見られることである。
【0020】
更に、撥水性分子の使用は、進化した多細胞生物にしか有効でないことが分かっている。
【0021】
従って、現時点では、バイオフィルムに対してだけでなく微生物または細菌自身の発育に対しても活性な生成物の開発に研究が向けられている。表面汚染と闘うには、
バイオフィルムの構造を分解させることによってその脱離を促進する直接的酵素作用、
表面への高分子の接着を制限して微生物コロニーの発育を防止し、これらの表面のクリーニングを促進する
二つの可能性がある。
【0022】
本発明において、選択される方法は、固体表面の物理化学的特性、特にこれらの表面の引力を高分子の接着または吸着に不都合にすることによって、微生物、特に細菌のこれらの表面への付着を制限しまたは防止することである。
【0023】
この方法の問題点は、保護しようとする表面に長期継続的に速やかかつ効果的に付着または吸着することができ、かつ表面と外部媒質との間に微生物の接着および生育に不都合な界面を作ることによってこの表面への微生物の付着を防止しまたは制限する化合物を同定することにある。
【0024】
高分子の吸着を制限するための既知の方法は、吸着および/またはグラフトによる親水性ポリマーのコーティングである。上記ポリマーの鎖のブラウン運動により、分子が吸着しようとするのを撥ね除ける。この範囲の分子には、ある種の多糖類(例えば、デキストラン)およびタンパク質(最も普通に見られる例はアルブミン)であるが、エチレングリコール(PEG)のような合成ポリマーも挙げられる。その明らかな利点およびその明らかにされた有効性にも拘わらず、このポリマーのブラシ効果(polymeric brush effect)にはある種の制限があり、表面密度が低すぎたり(この場合には、層に孔があるので、吸着の可能性がある)または高すぎたり(鎖は、他分子を撥ね除けるブラウン運動を行うための十分な自由度を示さない)してはならない。更に、固定される高分子と溶液中の分子との相互作用は、それらの性質が独特なものであろうとなかろうと無関係に、弱いものでなければならない。この点から、実際に高い反対電荷を有する高分子と強い相互作用を行うことができる総ての静電的に高く帯電したポリマーが除外される。実際的観点からは、適当な長時間継続特性を有するコーティングの調製は、特に広い表面については行うことが一般に困難である。適当な特性を有する層を得るのに成功する手段を、この特許明細書で提案する。
【0025】
数年前、ホスホリルコリン基を十分な密度で表す表面は、タンパク質吸着をかなり制限することができることが示された(Biomaterials,2002,23,3699-3710)。これは、特にホスファチジルコリンを基剤とするリポソーム、およびホスホリルコリン基を有するポリマーでコーティングした脈管プロテーゼの保護について示された。同様に、チオール基を介して支持体に付着したホスホリルコリン基を含んでなる分子を用いることによって「金」型金属支持体へのタンパク質の吸着をかなり減少させることが可能である。これらの効果に関与した機構は、グラフトしたホスホリルコリンの固有の強い親水性および水素結合を形成することができるルイス酸−塩基基の非存在における電気双極子の存在に関連していると思われる。この仮説は、スルホベタインのような双性イオン性分子も吸着防止効果を有することができることを説明している。
【0026】
米国特許第5,888,405号明細書では、表面特性を変更することによって生物付着現象を少なくするためのアミノホスホン酸塩の使用が提案されている。しかしながら、酸化鉄型金属支持体へのホスホン酸塩の吸着力は比較的不連続的であり(J. Coll. Interface Sci.,238(1):37-42)、作用が限定されていることが暗示される。
【0027】
この文献には、タンパク質吸着を制限しかつスチール、アルミニウム、カルシウム塩または改質ガラスのような支持体に強力に付着することができる利用可能な分子は挙げられていない。
【発明の概要】
【0028】
本発明の目的は、様々な可能な応用、詳細にはペーストおよびゲル、水性、アルコール性または有機溶液、懸濁液、フォーム、粉末、エアゾールなどに準じて、生物付着(この用語の広義)を減少させるのに特に効果的かつ適当な化合物および組成物を提供することによって従来技術の欠点を克服することである。
【0029】
本発明の目的は、これらの応用で有効な分子に最も適当な製造プロトコールを定義することである。
【0030】
本発明のもう一つの目的は、金属または鉱物表面の微生物汚染と闘うことができる活性物質の有効量を用いる組成物を提供することである。
【0031】
本発明の目的は、詳細にはタンパク質付着の良好な競合的阻害剤でありかつ保護しようとする金属または鉱物表面に効果的かつ長期継続的に付着することができる化合物を含んでなる組成物を得ることである。
【0032】
本発明は、従って、金属または鉱物表面に付着することができかつ微生物、特に細菌の付着およびこれらの表面での微生物の成育を制限することができる新規化合物を提案する。
【0033】
本発明は、詳細にはこれらの新規化合物を含む組成物、および歯科学分野(歯苔の形成の制限および虫歯および歯周病の形成の防止)および病院衛生および農産物の分野における金属または鉱物表面の微生物汚染を防止するためのそれらの使用に関する。
【0034】
本発明の第一の主題は、下式(I)の化合物である:
【化1】

[上記式中、
は、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状もしくは分岐鎖状のC−C12アルキル基、−OH基、必要に応じて直鎖状もしくは分岐鎖状のC−Cアルキル基により置換されていてもよいアミン、または−A′−NR′R′R′,Xであり、
、R′、R、R′、RおよびR′は、互いに独立して
*直鎖状もしくは分岐鎖状のC−C12アルキル基、または
*アルキルアンモニウム基−(CH−NRR′R″,X(ここで、nは1〜12の整数であり、R、R′およびR″は互いに独立して、直鎖状または分岐鎖状のC−Cアルキル基である)
であり、
AおよびA′は、互いに独立して基−(CH−Z−(CH
{ここで、
* mは0〜12の整数であり、
* pは0〜12の整数であり、
* m+pは0〜12の整数であり、
* −Z−は酸素原子、硫黄原子、−CR−基、−COO−基、−CONR−基、または−NR−基(ここで、R,RおよびRは、Rと同じ意味を有する)であるか、または−N−,X基(ここで、RおよびRは互いに独立して直鎖状または分岐鎖状のC−C12アルキル基である)である}
であり、
式(I)の分子は、少なくとも2個の第四アンモニウム官能基を含むことを条件とし、
X、X、XおよびXは、薬学上許容可能な対イオンである]。
【0035】
「薬学上許容可能な」という用語は、毒性の観点から許容可能であることを意味する。
【0036】
「ハロゲン原子」という用語は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子を意味する。
【0037】
「C−Cアルキル」および「C−C12アルキル」という用語は、それぞれ1〜4個の炭素原子を含むアルキルおよび1〜12個の炭素原子を含むアルキルを意味する。直鎖状または分岐鎖状のC−Cアルキル基は、詳細にはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、第二ブチル、第三ブチルを含んでなる。
【0038】
「R、RおよびRは、Rと同じ意味を有する」という表現は、R、R、RおよびRが互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、直鎖状もしくは分岐鎖状のC−C12アルキル基、−OH基、必要に応じて直鎖状もしくは分岐鎖状のC−Cアルキル基により置換されていてもよいアミン、または上記で定義した基−A′−NR′5R′R′,Xを表すことを意味する。
【0039】
これらの化合物は、
無毒でありかつ生物分解性であり、
必ずしも殺生物性ではなく、
必ずしも制菌性ではなく、
金属表面(ステンレススチールまたはアルミニウムなど)または鉱物表面(歯の表面など)に高い親和性を有し、
保護しようとする表面に長期継続的に速やかかつ効果的に付着することができ、
金属または鉱物表面と接触したときに自己集合した単分子フィルムを形成することによって、保護表面と外部環境との間に界面を生成して、これらの表面上でのバイオフィルムの生育を効果的かつ長期継続的に制限し、
この界面が、表面と接触したときに通常はバイオフィルムの形成の原因となる高分子の変性を制限しまたは防止する
という理由により、金属または鉱物表面の微生物汚染防止に特に適している。
【0040】
式(I)の化合物は、保護しようとする固体表面に付着することができる同一炭素原子に結合した2個のホスホン酸基(ビスホスホン酸またはgem−ジホスホン酸基)と、この同じ炭素原子に結合しかつ鎖または分岐鎖に順々に配置されている少なくとも2個の第四アンモニウム官能基を含んでなる1または2つの必要に応じて分岐した鎖を含んでなる。
【0041】
第四アンモニウム官能基は、
歯または金属表面の場合には極めて陰性が高いことが多い表面電荷を減少させることができ、弱い電荷は重要な生体適合性因子であり、
外部媒質との界面に水を構築することによって表面をすることができ、この水和により高分子化合物の変性を制限しまたは防止することができる
という微生物汚染の現象を防止する上で重要な役割を有している。
【0042】
式(I)において、Rが基−A′−NR′R′R′,X1であるときには、好ましくはA′=A、R′=R、R′=RおよびR′=R、およびX=Xである。
【0043】
は、好ましくは水素原子、ハロゲン原子、−OH基またはアミン−NHである。
【0044】
好ましくは、Zは、酸素原子、硫黄原子、−CR−基、−COO−基、−CONR−基、または−NR−基であって、R、RおよびRは上記で定義した通りである。更に一層好ましくは、Zは−N−,X基であって、RおよびRは互いに独立して直鎖状または分岐鎖状のC−C12アルキル基である。
【0045】
有利には、R、R、R、RおよびRは、互いに独立してエチルまたはメチル基のようなC−Cアルキル基である。
【0046】
更に一層有利には、R、RおよびRは同一であり、それぞれメチルまたはエチル基を表し、RおよびRは同一でありそれぞれメチルまたはエチル基である。
【0047】
有利には、X、X、XおよびXは、ヨウ化物、塩化物、臭化物、フッ化物、スルホン酸、リン酸およびホスホン酸イオン、または任意の薬理活性イオンから選択される。
【0048】
好ましくは、本発明による化合物は、下式(Ia)の化合物から選択される:
【化2】

[上記式中、
は−OHまたは−NHであり、
mは1〜12の整数であり、
pは1〜12の整数であり、
m+pは2〜12の整数であり、
、R、R、RおよびRは互いに独立して直鎖状または分岐鎖状のC−Cアルキル基であり、
は薬学上許容可能な対イオンである]。
【0049】
式(Ia)の化合物において、mは好ましくは3〜7であり、pは好ましくは1〜4である。
【0050】
有利には、R、R、R、RおよびRは、互いに独立して好ましくは直鎖状のC−Cアルキル、例えば、エチルまたはメチルである。
【0051】
、RおよびRは、好ましくは同一であり、それぞれメチルまたはエチル基であり、RおよびRは好ましくは同一であり、それぞれメチルまたはエチル基である。
【0052】
有利には、Xは、ヨウ化物、塩化物、臭化物、フッ化物、スルホン酸、リン酸およびホスホン酸イオン、または任意の薬理活性イオンから選択される。
【0053】
第二の態様によれば、本発明の主題は、少なくとも1個の上記のような式(I)の化合物、好ましくは式(Ia)の化合物を、好ましくは1種類以上の薬学上許容可能な賦形剤と組み合わせて含んでなる局所口腔衛生組成物である。
【0054】
組成物は、式(I)の化合物を0.001重量%〜10重量%、好ましくは0.005重量%〜5重量%、更に一層好ましくは0.01重量%〜1重量%を含んでなる。組成物は、典型的には含嗽剤(mouthwash)、液体スプレー、練り歯磨き、歯磨きゲル、塗布用ペースト、塗布用液体、粉末、チューインガムまたは塗布用ガム、またはフォームの形態である。
【0055】
組成物は、適当な手法、詳細にはブラッシング、チンキ、スプレー、含嗽剤またはチューインガムによって、または上記組成物を含浸したデンタルフロス、上記組成物を含浸した必要に応じて使い捨て可能なタオル、または上記組成物を含浸したスポンジのような歯科用アクセサリーによって歯に適用することができる。他の可能な適用手段は、当業者に知られている。
【0056】
予防薬、研磨剤、他の界面活性剤、フレーバー剤、増粘剤、または保湿剤のような様々な他の成分を、組成物に配合することができる。しかしながら、これらの薬剤は、歯の表面へのポリホスホン酸塩の所望な付着を妨げないことを確かめる必要がある。
【0057】
予防薬の中では、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、ヘキシルアミンヒドロフルオリドのような虫歯を制限する化合物の他に、口腔活性について知られている総ての防腐剤および抗生物質も挙げることができる。典型的には、これらの予防薬は、例えば、組成物の0.5〜2重量%の次数のフッ化物イオン濃度を提供するのに十分な量で含まれる。
【0058】
研磨剤の中では、樹脂(尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物)、加熱によって重合した樹脂の粒子(米国特許第3,070,510号明細書参照)、シリカキセロゲル(米国特許第3,538,230号明細書参照)、沈降シリカ粒子、ピロリン酸カルシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、水和アルミナ、およびオルトリン酸二カルシウムを挙げることができ、これらの薬剤は十分に非研磨性であって、歯または象牙質の表面を望ましくないやり方で損なわない。これらの薬剤は、例えば、組成物の5重量%〜95重量%であることができる。
【0059】
ゲル化剤または増粘剤の中では、アラビアゴムのような天然ゴム、カルボキシセルロースナトリウム、またはヒドロキシエチルセルロースを挙げることができ、一般に組成物の0.5重量%〜10重量%である。
【0060】
組成物が口腔液体の形態であるときには、これは典型的にはアルコール、可溶化剤および非研磨性浄化剤を含み、またこれがゲノム形態であるときには、これは典型的には増粘剤を含んでなる。
【0061】
保湿剤の中では、グリセロール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、および他の多価アルコールを挙げることができ、これらの保湿剤を組成物の約35重量%までとすることができる。典型的には、組成物は10重量%〜99重量%でありかつ水と保湿剤を様々な比率で含んでなる液相を含んでなることができる。
【0062】
フレーバー剤の中では、ミント油、メントール、オイゲノール、オレンジ、レモン、アニス、バニリン、またはチモールの必要に応じて組合せを用いることができ、これらの薬剤は一般に組成物の5重量%未満である。
【0063】
組成物は、例えば、甘味料(サッカリンナトリウム)、漂白剤(二酸化チタンまたは酸化亜鉛)、ビタミン、他のプラーク防止剤(クエン酸亜鉛などの亜鉛塩、銅塩、スズ塩、ストロンチウム塩、アラントイン、クロルヘキシジン)、抗菌剤(トリクロサン: 2′,4,4′−10/トリクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテル、歯石防止剤(二および/または四アルカリ金属ピロリン酸塩)、pH調節剤、色素、虫歯防止剤(カゼイン、尿素、グリセロリン酸カルシウム、フッ化ナトリウム、フルオロリン酸一ナトリウム)、変色防止剤(シリコーンポリマー)、抗炎症薬(置換トリチルアニリド)、および除痛約(硝酸カリウム、クエン酸カリウム)を含んでなることもある。この薬剤は、米国特許第5,258,173号明細書に記載されている。
【0064】
組成物のpHは、典型的には5〜10である。pHは、好ましくは5〜7である。
【0065】
練り歯磨きまたは歯磨きゲル用の組成の例は、下記の通りである(重量%)。
式(I)のビスホスホン酸化合物: 0.005%〜5%
研磨剤: 10%〜50%
増粘剤: 0.1%〜5%
保湿剤: 10%〜55%
フレーバー剤: 0.04%〜2%
甘味料: 0.1%〜3%
色素: 0.01%〜0.5%
水: 2%〜45%。
【0066】
歯肉下ゲルのような非研磨性ゲルの組成の例(重量%):
式(I)のビスホスホン酸化合物: 0.005%〜5%
増粘剤: 0.1%〜20%
保湿剤: 10%〜55%
フレーバー剤: 0.04%〜2%
甘味料: 0.1%〜3%
色素: 0.01%〜0.5%
水: 2%〜45%。
【0067】
含嗽剤の組成の例(重量%):
式(I)のビスホスホン酸化合物: 0.005%〜5%
保湿剤: 0%〜50%
フレーバー剤: 0.04%〜2%
甘味料: 0.1%〜3%
色素: 0.01%〜0.5%
水: 45%〜95%
エタノール: 0%〜25%。
【0068】
歯科用溶液は、典型的には水90%〜99%を含んでなる。チューインガム型の組成物は、典型的には基剤ゴム(約80%〜99%)、フレーバー剤(約0.4%〜2%)、および甘味料(約0.01%〜20%)を含んでなる。
【0069】
当業者であれば、米国特許第6,132,702号明細書に記載の様々な薬剤を適当かつ過度の労力なしに配合するであろう。
【0070】
歯磨き組成物を調製するには、例えば、下記の手順を行う。すなわち、グリセロールまたはプロピレングリコールのような保湿剤を甘味料および水と共にミキサー中で混合物が均質ゲルとなるまで分散させる。次に、顔料、適当な場合にはpH調節剤、および虫歯防止薬を加える。これらの成分を均質な相が得られるまで混合し、次にこの相に減摩剤を混合する。次いで、混合物を高速ミキサーに移し、増粘剤、フレーバー剤および式(I)の化合物を20〜100mmHgの減圧下で混合する。得られる生成物は、半固形状の押出可能なペーストである。
【0071】
歯磨き組成物は、典型的には規則的に毎日または2または3日毎に、1日1〜3回約5〜9または10、一般的には5.5〜8のpHで適用される。
【0072】
本発明の主題は、上記の口腔衛生組成物の有効量を歯に投与することを含んでなる、歯での歯苔の出現を防止しまたは歯苔の発育を制限するための化粧方法でもある。「有効量」とは、歯苔の出現または発育を制限しまたは防止することができる量を意味する。
【0073】
本発明の主題は、詳細には虫歯の形成を防止しまたは歯周病を予防するための、式(I)、好ましくは(Ia)の少なくとも1種類の化合物を含んでなる薬剤、または上記の口腔組成物でもある。
【0074】
第三の態様によれば、本発明の主題は、金属または鉱物表面のような固体表面への高分子の付着を防止しまたは制限するための、上記のような式(I)の少なくとも1種類の化合物、好ましくは式(Ia)の少なくとも1種類の化合物を含んでなる汚染防止組成物である。
【0075】
本発明に関して、「高分子」という用語は、比較的大きな分子質量(1000Daより大きな分子量)を有しかつ固体表面での微生物の付着および発育のための基質として働くことができる有機分子を意味するものと考えられる。これらの高分子は、詳細には、ペプチド、タンパク質、多糖類、ポリフェノール、脂質または核酸タイプのものである。
【0076】
更に、本発明による汚染防止組成物は、微生物、詳細には細菌の付着を制限しまたは防止し、これにより固体表面、詳細には金属または鉱物表面上のバイオフィルムの形成および発育を制限しまたは防止する。
【0077】
本発明に関して、「微生物」という用語は、特に細菌、ウイルスおよびプリオンを表す。
【0078】
この種の組成物が標的とする細菌には、特にStreptococcusmutanssanguispyogenesなど)、SalmonellaListeria monocytogenesLegionellaVibrio choleraeLactobacillusPorphyromonasStaphylococcusaureusepidermidis)、PseudomonasEscherichia coliCandidaを挙げることができる。
【0079】
汚染防止組成物は、有利には式(I)の化合物、好ましくは式(Ia)の化合物を0.001重量%〜10重量%、好ましくは0.005重量%〜5重量%、更に一層好ましくは0.01重量%〜1重量%含んでなる。
【0080】
組成物のpHは、典型的には5〜10である。pHは、好ましくは5〜7となる。この生成物は、工業的に用いられる洗剤または消毒剤処方物における添加剤として混合物に用いることができる。
【0081】
洗剤の製造に最も一般的に用いられる化学薬剤は、界面活性剤(イオン性、非イオン性または両性)、キレート化剤、アルカリ、および溶媒である。これらの処方物は、防腐、殺生物性または抗生物質タイプの活性成分を含むこともできる。
【0082】
例えば、式(I)の化合物を、下記の組成を有する処方物に配合することができる:
・防腐剤(グルタルアルデヒド、過酢酸、次亜塩素酸ナトリウムなど)が、例えば、組成物の0.01重量%〜30重量%、
・界面活性剤(エトキシル化(etholated)、プロポキシル化脂肪族アルコール、アミン酸化物、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの縮合生成物、第四アンモニウム塩、硫酸塩、スルホン酸塩およびスルホコハク酸塩など)が、例えば、組成物の0.01重量%〜30重量%、
・キレート化剤(例えば、EDTA、イミノジコハク酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オルトリン酸塩、およびケイ酸塩、縮合リン酸塩)が、例えば、組成物の0.1重量%〜5重量%、
・アルカリ(炭酸塩、リン酸塩およびケイ酸塩)が、例えば、組成物の0.1重量%〜40重量%、
・水混和性溶媒(アルコール、グリコール)または水不混和性溶媒(テレピン誘導体、石油誘導体)であって、必要に応じてイオン性であるものが、例えば、組成物の0.1重量%〜80重量%。
【0083】
本発明による汚染防止組成物によって保護することができる表面は、例えば、鉄、ステンレススチール、クロム、アルミニウム、亜鉛、チタン、タングステン、鉛または銅、およびこれらの金属の少なくとも1つを含む合金または複合体のような金属表面、またはケイ素およびその誘導体、ケイ酸質材料、または石灰質、セラミックまたは歯の表面のような鉱物表面である。
【0084】
処理しようとする表面への汚染防止組成物の適用は、この表面を組成物に浸すかまたは浸漬することによって、または処理しようとする表面に組成物を噴霧することによって行うことができる。これはまた、補助製品、例えば、組成物を含浸した必要に応じて使い捨て可能なタオルを用いることによって行うこともできる。
【0085】
従って、本発明の主題は、上記のような式(I)の化合物または上記のような微生物汚染防止組成物を用いて、固体表面、詳細には金属または鉱物表面への高分子、微生物およびバイオフィルムの付着を制限しまたは防止することである。
【0086】
これらの表面は、例えば、工業、農産物(agrofoods)もしくは病院の装置の表面、陸上、航空もしくは海上の建築物、建造物もしくは輸送手段の表面、または空調もしくは冷蔵装置の表面、あるいは外科手術、プロテーゼ、歯科用器具、または生物学もしくは医学センサーの表面である。
【0087】
濡れた布を用いて浸液、すすぎまたは積重(depositing)によりまたは散液(sprinkling)による液体微生物汚染防止組成物の例(重量%):
式(I)の化合物: 0.02%〜5%
水: 15%〜99%
エタノール: 0%〜85%。
【0088】
上記組成物では、アルコールが含まれていることによって表面の濡れおよびコーティングの均質性が促進される。更に、アルコールが蒸発することによって表面における濃度を極めて高くすることが可能であるので、速やかな吸着が促進される。エタノールは、水混和性(C−Cアルコール、特にイソプロピルアルコール、アルデヒド、アセトンなどのケトン、エーテルなど)または水不混和性(特にC−Cアルカン)の揮発性化合物に好都合に置き換えることができる。
【0089】
このような組成物では、液体が蒸発した後にごく僅かの固形物残渣しか残らないので、特に食物や人体と接触しなければならない装置や器具について適用後直ちに表面を使用しなければならないときには特に適当である。
【0090】
表面すすぎ液体組成物の例(重量%):
式(I)のビスホスホン酸化合物: 0.02%〜5%
保湿剤: 0%〜50%
付香剤: 0.04%〜2%
色素: 0%〜0.5%
水: 15%〜99%
エタノール: 0%〜85%。
【0091】
公共建築物のステンレススチールシートのような美的表面の保持を容易にすることを目的とするこの組成物では、保湿剤、付香剤または色素の存在が適用を容易にしかつまた美的魅力を増す上で考えられる(例えば、蛍光増白色素)。
【0092】
ペーストまたはゲルの組成の例(重量%):
式(I)のビスホスホン酸化合物: 0.02%〜5%
研磨剤: 10%〜50%
増量剤: 0.1%〜5%
保湿剤: 10%〜55%
色素: 0%〜0.5%
pH調節剤: 0%〜3%
水: 2%〜60%。
【0093】
この組成物は、詳細には垂直または反り返った表面の汚れのひどい表面を擦り磨くことを目的とする。
【0094】
フォームタイプ組成物の例(重量%):
式(I)のビスホスホン酸化合物: 0.02%〜5%
界面活性剤: 0%〜20%
増量剤: 0%〜20%
水: 25%〜50%
エタノール: 0%〜25%
噴射剤: 5%〜70%。
【0095】
この組成物において、噴射剤は、アルカン(プロパンまたはブタン)のような液化ガス、フッ化炭素を基剤とした生成物(F14、F26など)、加圧ガス(CO、Nなど)、または揮発性液体でよい。この処方物は、部品が到達し難いとき(狭いパイプの内部、熱交換器、空調装置など)には特に好都合である。これは、大表面(バイオテクノロジーでの醗酵槽、農産物の調製または切り取りの部屋など)で使用するのにも有利である。
【0096】
粉末タイプの組成物の例(重量%):
式(I)のビスホスホン酸化合物: 0.02%〜5%
界面活性剤: 5%〜95%
錯化剤: 1%〜10%
希釈剤: 10%〜90%
保湿剤: 1%〜5%
色素: 0%〜0.5%
pH調節剤: 0%〜3%。
【0097】
この組成物では、全般的組成は当業者に既に知られている粉末状洗剤であって、これに式(I)のビスホスホン酸化合物を加えたものでよい。この処方物は、食器洗浄機および洗濯機用の洗浄剤として特に有利である。
【0098】
上記の総ての組成物において、式(I)の化合物は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0099】
コーティングプロテーゼの組成物の例(重量%):
式(I)のビスホスホン酸化合物: 0.02%〜5%
錯化剤: 0%〜10%
pH調節剤: 0%〜3%。
【0100】
この組成物では、錯化剤およびpH調節剤の添加は式(I)のビスホスホン酸化合物の最適な付着を確実にしようとするものである。更に、ペプチド、タンパク質、脂質、炭水化物または核酸タイプの1種類以上の生物活性分子へ結合した式(I)のビスホスホン酸化合物を用いることによって、一層良好な生体適合性を得または生体の反応を指定することができる。関連したプロテーゼは、詳細には組織と接触し同時に生体の外側に留まっている(例えば、義歯または聴覚プロテーゼ)、または脈管レベル、骨レベル、歯科インプラントなどでインプラント可能な金属系(ステンレススチール、ニチノール、チタン、ニッケル−クロムなど)である。
【0101】
コーティングセンサーの組成物の例(重量%):
式(I)のビスホスホン酸化合物: 0.02%〜5%
錯化剤: 0%〜10%
pH調節剤: 0%〜3%。
【0102】
この適用においても、ペプチド、タンパク質、脂質、炭水化物、核酸または他のタイプの1種類以上の生物活性分子へ結合した式(I)のビスホスホン酸化合物を用いることによって、分子、微粒子、細胞、ウイルスなどの物体を検出し、その濃度を測定することができる。
【0103】
選択された使用によれば、本発明による微生物汚染防止組成物は、典型的には、それぞれの使用の後(例えば、外科手術装置)、それぞれの使用サイクルの後(例えば、肉の工業的切り分け装置)、一般的メインテナンス中に定期的に(美的表面)、または1回だけ適用される。
【実施例】
【0104】
本発明を、下記の実施例によって説明する。
【0105】
A)式(I)の化合物の合成
A−1)工程1
【化3】

【0106】
ジアミンの5当量を、少量のアセトニトリルに溶解する。次に、臭素酸(bromoacid)を滴加する。混合物を3〜24時間攪拌する。過剰のジアミンを、再結晶または熱時条件下での洗浄によって分離する。次いで、乾燥を行う。
【0107】
【表1】

【0108】
工程1では、式(CHN−CH−(CH−N(CHのテトラメチル化ジアミンを、ジメチル化ジアミンの代わりに用いることもできる。この場合には、数当量のハロゲン化アルキルが実施例3で用いられる。
【0109】
A−2)工程2
【化4】

【0110】
出発生成物を、クロロベンゼンに分散させる。
この混合物に、HO 2.5当量を加える。混合物を40℃に加熱する。
次に、三塩化リンを、滴下漏斗から滴加する。
混合物を2時間還流する。
反応を、過剰量の水を加えて停止させる。このようにして形成した生成物を、2時間還流する(100℃)。
分子を、エタノールから結晶させることによって精製する。
【0111】
【表2】

【0112】
A−3)工程3
【化5】

分子を過剰量のCHIに溶解し、これに無水の水酸化ナトリウム3当量を加える。混合物を、暗所で空気に暴露することなく24〜72時間攪拌する。
【0113】
形成した生成物を真空で縮合する。
【0114】
【表3】

【0115】
工程3は、ヨウ化メチルの代わりに他のハロゲン化アルキル、例えば、臭化メチルを用いて行うこともできる。
【0116】
A−4)他の合成法
更に、第四アンモニウム官能基の数が2より大きい分子は、アミノアルキルジホスホネートに化学量論的量のブロモアルキルトリアルキルアンモニウムブロミドを加えることによって容易に得ることができる。この工程は、置換アミンの飽和度によってヨードメタンでメチル化してもまたはしなくともよい。
【0117】
例えば、3または4個のアンモニウム官能基を含んでなる分子は、下記の方法で合成することができる。
【化6】

【0118】
一般に、当業者であれば、通常かつ周知の合成法を用いることによって式(I)の化合物を容易に調製することができるであろう。
【0119】
B)ヒドロキシアパタイト支持体へのビスホスホン酸分子の付着
放射能標識したモデル分子で試験を行い、ビスホスホン酸分子が鉱物表面へ速やかかつ均質に付着する能力を明らかにした。様々なpH条件下で行ったこれらの試験により、鉱物表面(ヒドロキシアパタイト)へのビスホスホン酸の付着についての速やかな反応速度を明らかにすることができた。
【0120】
B−1)材料および方法
B−1−1)溶液
ヨウ素125で放射能標識したビスホスホン酸の水溶液を、0.1モル・l−1および0.01モル・l−1の濃度で調製した。これらの溶液のpHを、HClおよびNaOHのモル溶液を用いて5、7、9および11に調整した。それぞれの溶液は、5x10Bq/mlに対応する量の放射能標識分子を受け取った。
【0121】
B−1−2)表面
ビスホスホン酸化合物の支持体として働く表面は、ヒドロキシアパタイト粉末(CHT(商標)セラミックヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム(Ca(POOH),Biorad,フランス)からなっている。この表面は、溶血試験管に14mg/試験管の割合で包装される。
【0122】
B−1−3)表面のコーティング
表面をコーティングスルホン酸働きをする分子は、合成ビスホスホン酸化合物であり、その構造は下記の通りである
【化7】

【0123】
これらの分子は、それらの構造が類似しており(ビスホスホン酸基と窒素原子の存在)かつまた一般式(I)に対応する分子と物理化学特性が類似している(水溶性が高く、考慮中の表面への吸着が速やか)ため、金属および鉱物表面へのビスホスホン酸の付着のモデルとして選択した。200μlの容積のコーティング溶液を、表面を含むそれぞれの試験管に加える。対照は、滅菌蒸留水(pH6.8±0.2)200μlを用いて行う。ビスホスホン酸化合物の分子の付着に用いるインキュベーション時間は、30秒間、5分間または1時間である。次に、表面の粒子を引き上げないように注意しながら上清を取り出した後、2サイクルの上清の洗浄/傾瀉/除去を、蒸留水3mlを用いて行う。
【0124】
B−1−4)付着分子の計数
洗浄水を除いた後、ヒドロキシアパタイトビーズの表面に付着したビスホスホン酸化合物上に存在する125Iの崩壊中に放出されるγ−放射能を、Cobra2自動γ線計数装置(Packard Bioscience Company,フランス)を用いて計数する。
【0125】
B−2)結果
結果は、pHの関数として表される。ベクレルでの活性を、0.1モル/lのビスの濃度について接触時間の関数として測定する。結果を、図1に示す。
【0126】
付着反応速度および単位表面当たりの付着生成物の量に対するpHの大きな影響が、注目される。接触の最初の5分間から以後、利用可能な表面はほぼ完全にコーティングされていることが注目されるので、付着反応速度は速やかにプラトー期に達する。更に、pHは分子の電荷にかなりの影響を有し、高pHでは強い静電反発を生じ、これは、pH9および11で観察される低コーティング率を説明している。
【0127】
従って、ビスホスホン酸化合物が表面のコーティングに用いられる好ましいpHは、5〜7である。
【0128】
C)表面汚染の防止
C−1)材料および方法
C−1−1)表面
バイオフィルムの支持体として働く表面は、ヒドロキシアパタイト粉末(CHT(商標)セラミックヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム(Ca(POOH),Biorad,フランス)からなっている。ヒドロキシアパタイト粉末(HAP)の粒度は80±8μmであり、展開した表面積は72cm・g−1である。
【0129】
この表面は、溶血試験管に14mg/試験管の割合で包装される。試験管当たりの表面の粒子の対応する量は、5000である。使用前に、それらは180℃での乾熱(オーブン,Tau,イタリア)により2時間滅菌する。
【0130】
C−1−2)コーティング分子
表面をコーティングする働きをする分子は、合成ビスホスホン酸である。用いられる分子は、実施例Aで合成され、下式を有する分子Aである。
【化8】

【0131】
溶液を0.1モル・l−1(pH4.8)で調製し、0.2μmフィルター(Minisart,Sartorius,フランス)による濾過によって滅菌する。
【0132】
C−1−3)人工唾液
口腔環境を再現するため、下記の唾液モデルを処方した(Hutteau & Mathlouti,1998に準じる):
人工唾液:NaHCO 5.208g・l−1;KHPO・3HO 1.369g・l−1;NaCl 0.877g・l−1;NaN 0.500g・l−1;KCl 0.477g・l−1;CaCl,2HO 0.441g・l−1,ムチン2.16g・l−1およびα−アミラーゼ200000 IU・l−1
【0133】
人工唾液を等張pH(pH7)に調整し、0.2μmフィルター(Minisart,Sartorius,フランス)による濾過によって滅菌する。
【0134】
C−1−4) 菌株
検討は、う食原性細菌のモデル:Streptococcus mutons ATCC 25175D(LGC Promochem,Molscheim,フランス)で行う。Streptococcus mutansは歯苔の一成分であり、虫歯の主要な病因物質である。
【0135】
菌株を、等分して−80℃で保管する。これを、2mlピペットチップをSchaedlerブロス(Bio Merieux,フランス)の10ml試験管に移すことによって再度培地に置き、37℃で24時間インキュベーションする。得られた貯蔵溶液の1/20倍希釈液を600nmで測定した後、人工唾液(C−1−3で記載の方法により調製)で希釈して、100μl中に約5x10のコロニー形成単位(cfu)に調整された懸濁液(SA)3mlが得られるようにする。
【0136】
C−1−5)表面のコーティング
コーティング溶液(C−1−2)200μlの容積を、表面(C−1−1)を含むそれぞれの試験管に加える。対照は、滅菌蒸留水(pH6.8±0.2)200μlを用いて行う。ビスホスホン酸分子の付着に用いたインキュベーション時間は、37℃で3分間である。次に、表面の粒子を引き上げないように注意しながら上清を取り出した後、2サイクルの上清の洗浄/傾瀉/除去を、蒸留水3mlを用いて行う。
【0137】
C−1−6)バイオフィルムの形成
人工唾液(C−1−3)3mlの容積を、コーティングした表面を含む試験管(対照および試験)に加える。その直後、調整した細菌懸濁液(C−1−4)を、100μlの容積で試験管に接種する。試験管を、37℃で4〜24時間インキュベーションする。
【0138】
C−1−7)バイオフィルムの細菌の計数
コロニー形成した粒子を洗浄し、(表面の粒子を引き上げないように注意しながら)生理食塩水3mlを用いて3サイクルの上清の洗浄/傾瀉/除去を行うことによって非付着細菌を除く。表面の粒子を生理食塩水1mlに再懸濁し、超音波処理を行って付着した細菌を脱離した(Branson 1200,47KHz,95W,5分間,Bransonic,米国)。得られた細菌懸濁液を生理食塩水の10倍希釈液によって計数し、希釈液−1および−2を100μlから血液寒天で培養する。37℃で48〜72時間インキュベーションした後、計数を行う。細菌の数は、ヒドロキシアパタイト14mg当たりのcfuで表す。
【0139】
C−2)結果
C−2−1)細菌汚染の防止
HAP表面のコーティングを、試験を行う溶液を用いて3分間行う。次に、HAP表面を細菌溶液と共に4〜24時間インキュベーションする。
【0140】
表1に得られた結果を挙げてあり、非コートのヒドロキシアパタイト表面またはビスホスホン酸化合物でコーティングしたヒドロキシアパタイト表面(それぞれ、対照および試験)について時間の関数として細菌のコロニー形成を示している。統計分析のために、cfuの数をlog10に転換して結果の正規分布を得た。スチューデント試験を用いて、2つの実験における値の有意性を評価した。
(表I).
【0141】
【表4】

【0142】
バイオフィルムの増殖を2つの場合で観察するが、コロニー形成曲線のプロフィールは類似していない。ヒドロキシアパタイト表面でコロニー形成する細菌数は、対照の方が高い。コロニー形成の差は、インキュベーションの6時間以後、および8、15および24時間後は有意である(P<0.05)。従って、15時間後には、ビスホスホン酸化合物でコーティングしたHAP表面の細菌数は、100のファクターだけ減少する。
【0143】
D)分子Aの殺菌活性の評価
D−1)原理
分子Aの殺菌活性を、実際の操作条件を考慮するように変更したStandard NF EN 1040のプロトコールに準じて評価する。選択した条件は下記の通りである:標的菌株,Streptococcus mutans;媒質,生理食塩水;温度,37℃;接触時間,5分間。
【0144】
D−2)材料および方法
D−2−1)分子Aの溶液
2x10−1モル・l−1の貯蔵溶液(pHは6.0±0.1に調整)を調製し、0.2μmフィルター(Minisart,Sartorius,フランス)による濾過によって滅菌する。次に、標準的範囲の溶液、すなわち10−1、2x10−2および10−2モル・l−1を、滅菌蒸留水で希釈することによって調製する。
【0145】
D−2−2)菌株
試験は、バイオフィルムの検討の目的で選択したう食原性細菌モデルStreptococcus mutans ATCC 25175D(LGC Promochem,Molscheim,フランス)を用いて行う。菌株を、等分して−80℃で保管する。これを、2mlピペットチップをSchaedlerブロス(Bio Merieux,フランス)の10ml試験管に移すことによって再度培地に置き、37℃で24時間インキュベーションする。
【0146】
得られた貯蔵溶液の1/20倍希釈液を600nmで測定した後、生理食塩水または人工唾液で希釈して、100μl中に約10のコロニー形成単位(cfu)に調整された懸濁液(SA)3mlが得られるようにする。
【0147】
D−2−3)殺菌活性の測定
試験した分子の濃度のそれぞれについて、2本の試験管に生理食塩水900μlを満たす。次に、培地中で調製したSA 100μlを、試験の直前に加える。最後に、時間Tに、分子の濃度または滅菌蒸留水1mlを試験管に加える。後者のものを、37℃で5分間±15秒間インキュベーションする。従って、細菌と接触している分子の濃度範囲は、下記の通りである:10−1、5x10−2、10−2および5x10−3モル・l−1。インキュベーションの後、試験管に存在する細菌の数を生理食塩水(Bio Merieux,フランス)での10倍希釈液によって計数し、希釈液−2、−3および−4を100μlから血液寒天(Columbia+5%ヒツジ血液,Bio Merieux,フランス)で培養する。37℃で48時間インキュベーションした後、計数を行う。細菌の数は、1mg当たりのcfuで表す。
【0148】
D−3)結果
表IIは、生理食塩水培地について得られた結果を示している。
【0149】
【表5】

【0150】
対照試験管と比較して分子を含む試験管では、細菌個体数の有意な現象は見られない。従って、分子は、試験した最大濃度、すなわち10−1モル・l−1で殺菌活性を全く示さない。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】支持体に付着したモデルのビスホスホン酸分子の接触時間の関数としての活性(ベクレル)。図中、黒四角:pH=5、◆:pH=7、▲:pH=9、×:pH=11。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I)のビスホスホン酸化合物:
【化1】

[式中、
は、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状もしくは分岐鎖状のC−C12アルキル基、−OH基、必要に応じて直鎖状もしくは分岐鎖状のC−Cアルキル基により置換されていてもよいアミン、もしくは−A′−NR′R′R′,Xであり、
、R′、R、R′、RおよびR′は、互いに独立して
直鎖状もしくは分岐鎖状のC−C12アルキル基、または
アルキルアンモニウム基−(CH−NRR′R″,X(ここで、nは1〜12の整数であり、R、R′およびR″は互いに独立して、直鎖状または分岐鎖状のC−Cアルキル基である)
であり、
AおよびA′は、互いに独立して基−(CH−Z−(CH
{ここで、
mは0〜12の整数であり、
pは0〜12の整数であり、
m+pは0〜12の整数であり、
−Z−は酸素原子、硫黄原子、−CR−基、−COO−基、−CONR−基、または−NR−基(ここで、R,RおよびRは、Rと同じ意味を有する)であるか、または−N−,X基(ここで、RおよびRは互いに独立して、直鎖状または分岐鎖状のC−C12アルキル基である)である}
であり、
式(I)の分子は、少なくとも2個の第四アンモニウム官能基を含むことを条件とし、
X、X、XおよびXは、薬学上許容可能な対イオンである]。
【請求項2】
が、水素原子、ハロゲン原子、−OH基、または−NHである、請求項1に記載のビスホスホン酸化合物。
【請求項3】
Zが、酸素原子、硫黄原子、−CR−基、−COO−基、−CONR−基、または−NR−であって、R、RおよびRは請求項1で定義した通りである、請求項1または2に記載のビスホスホン酸化合物。
【請求項4】
Zが−N−,X基であって、RおよびRは互いに独立して直鎖状または分岐鎖状のC−C12アルキル基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のビスホスホン酸化合物。
【請求項5】
、R、R、RおよびRが互いに独立して、直鎖状または分岐鎖状のC−Cアルキル基であり、好ましくはメチルまたはエチル基である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のビスホスホン酸化合物。
【請求項6】
下式(Ia)である、請求項1に記載のビスホスホン酸化合物:
【化2】

[式中、
は−OHまたは−NHであり、
mは1〜12、好ましくは3〜7の整数であり、
pは1〜12、好ましくは1〜4の整数であり、
m+pは2〜12の整数であり、
、R、R、RおよびRは互いに独立して、直鎖状または分岐鎖状のC−Cアルキル基であり、好ましくはメチルまたはエチル基であり、かつ
はヨウ化物、塩化物、臭化物、フッ化物、スルホン酸、リン酸もしくはホスホン酸イオンのような薬学上許容可能な対イオン、または任意の薬理活性イオンである]。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の少なくとも1種の化合物を、1以上の薬学上許容可能な賦形剤と組み合わせて含んでなる、局所口腔衛生組成物。
【請求項8】
式(I)の化合物の濃度が、0.001重量%〜10重量%、更に好ましくは0.005重量%〜5重量%、更に一層好ましくは0.01重量%〜1重量%である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
含嗽剤(mouthwash)、液体スプレー、練り歯磨き、歯磨きゲル、塗布用ペースト、塗布用液体、粉末、チューインガムまたは塗布用ガム、またはフォームの形態である、請求項7または8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の組成物を含浸させてなる、デンタルフロス、必要に応じて使い捨て可能である、タオルまたはスポンジのような歯科用アクセサリー。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物を含んでなる、金属または鉱物表面用の微生物汚染防止組成物。
【請求項12】
式(I)の化合物を、0.001重量%〜10重量%、好ましくは0.005重量%〜5重量%含んでなる、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項11または12に記載の組成物を含浸させた、必要に応じて使い捨て可能なタオル。
【請求項14】
金属または鉱物表面のような固体表面への高分子の付着を防止または制限するための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項15】
金属または鉱物表面のような固体表面への微生物の付着を防止または制限するための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項16】
金属または鉱物表面のような固体表面のバイオフィルムの形成および生育を防止または制限するための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項17】
金属表面が鉄、ステンレススチール、クロム、アルミニウム、亜鉛、チタン、タングステン、鉛または銅、およびこれらの金属の少なくとも1つを含む合金または複合体を含んでなる群に属し、かつ鉱物表面がケイ素およびその誘導体、シリカ質材料、石灰質表面、セラミック表面または歯の表面を含んでなる群に属する、請求項14〜16のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項18】
表面が、工業、農産物(agrofoods)もしくは病院の装置の表面、陸上、航空もしくは海上の建築物、建造物もしくは輸送手段の表面、または空調もしくは冷蔵装置の表面、あるいは外科手術、プロテーゼ、歯科用器具、または生物学もしくは医学センサーの表面である、請求項14〜17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の組成物の有効量を歯に塗布することを含んでなる、歯の歯苔の出現を防止または歯苔の発育を制限する方法。
【請求項20】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の少なくとも1個の化合物を含んでなる、薬剤。
【請求項21】
虫歯または歯周病の防止のための、請求項20に記載の薬剤。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2008−520629(P2008−520629A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541973(P2007−541973)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【国際出願番号】PCT/EP2005/056120
【国際公開番号】WO2006/053910
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(507166368)シュルファクティス、テクノロジーズ (1)
【氏名又は名称原語表記】SURFACTIS TECHNOLOGIES
【出願人】(500025477)アンスティテュ、ナショナル、ド、ラ、サント、エ、ド、ラ、ルシェルシュ、メディカル(アンセルム) (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA    RECHERCHE MEDICAL (INSERM)
【出願人】(502320312)ユニベルシテ、ダンジェ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE D’ANGERS
【Fターム(参考)】