説明

固体撮像素子

【課題】高速応答が可能な固体撮像素子を提供する。
【解決手段】一対の電極と、前記一対の電極の間に配置された光電変換層を備え、前記一対の電極の一方の電極を透過し前記光電変換層に入射した光によって当該光電変換層で発生する信号電荷を、前記一対の電極間に印加する電圧によって前記一対の電極に移動させる光電変換素子を有する固体撮像素子であって、前記光電変換層が、少なくとも1つの有機化合物半導体で構成され(ただし、光電変換層がDCM1からなるものを除く)、該光電変換層の正孔移動度をh1とし、電子移動度をe1としたとき、0.1<h1/e1<10を満たし、正孔移動度h1が8.5×10E−6cm/V・s以上3.8×10E−5cm/V・s以下であって、かつ、電子移動度e1が9.3×10E−7cm/V・s以上7.6×10E−5cm/V・s以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極間に設けられ、電界を印加することで電子キャリア及び正孔キャリアを生成する光電変更層を有する光電変換素子を備えた固体撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、デジタルカメラ等の撮像装置に搭載された光センサなどの撮像素子には、光電変換素子が用いられている。光電変換素子は、電界を印加することで電荷を生成する光電変換層を有しており、例えば光電変換層が一対の電極間に配置された構成を有している。この構成では、一対の電極間に電界を印加することで、光電変換層に生じた電子キャリア及び正孔キャリアによって電荷を生成し、この電荷を信号として読み出している。このように、光電変換素子では、光電変換効率を最大限に引き出し、光電変換効率を向上させるためや応答速度向上のために外部から電圧を印加することが多い。
【0003】
下記特許文献1では、高光電変換効率を有する光電変換素子の作製のためにキャリア移動度が1×10−4cm/V・s以上となる有機半導体化合物を含む光電変換層を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−59483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上記特許文献1のようにキャリア移動度以上の有機半導体化合物を用いなくても、電子移動度及び正孔移動度が近い光電変換層を用いることで、低暗電流、高光電変換効率で高速応答が可能とすることを見出した。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、高速応答が可能な固体撮像素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記構成によって達成される。
(1)一対の電極と、前記一対の電極の間に配置された光電変換層を備え、前記一対の電極の一方の電極を透過し前記光電変換層に入射した光によって当該光電変換層で発生する信号電荷を、前記一対の電極間に印加する電圧によって前記一対の電極に移動させる光電変換素子を有する固体撮像素子であって、
前記光電変換層が、少なくとも1つの有機化合物半導体で構成され(ただし、光電変換層がDCM1からなるものを除く)、
該光電変換層の正孔移動度をh1とし、電子移動度をe1としたとき、0.1<h1/e1<10を満たし、正孔移動度h1が8.5×10E−6cm/V・s以上3.8×10E−5cm/V・s以下であって、かつ、電子移動度e1が9.3×10E−7cm/V・s以上7.6×10E−5cm/V・s以下である固体撮像素子。
(2)(1)記載の固体撮像素子であって、
前記光電変換素子は、前記一対の電極に電圧を印加したときに、前記一対の電極のうち一方から正孔が注入されることを抑制する正孔ブロッキング層を有し、前記正孔ブロッキング層の電子移動度をe2としたとき、電子移動度e2が、前記光電変換層の電子移動度e1よりも大きい固体撮像素子。
(3)(2)記載の固体撮像素子であって、
前記正孔ブロッキング層の正孔移動度をh2としたとき、該正孔移動度h2と、電子移動度e2とがe2/h2>10を満たす固体撮像素子。
(4)(1)記載の固体撮像素子であって、
前記光電変換素子は、前記一対の電極に電圧を印加したときに、前記一対の電極のうち一方から電子が注入されることを抑制する電子ブロッキング層を有し、前記電子ブロッキング層の正孔移動度をh3としたとき、正孔移動度h3が、前記光電変換層の正孔移動度h1よりも大きい固体撮像素子。
(5)(4)記載の固体撮像素子であって、
前記電子ブロッキング層の電子移動度をe3としたとき、該電子移動度e3と、正孔移動度h3とがh3/e3>10を満たす固体撮像素子。
【0008】
なお、電子移動度及び正孔移動度は、Time of Flight(TOF)測定、又は、電界効果トランジスタ素子を用いて求めることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高速応答が可能な固体撮像素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明にかかる光電変換素子の第1実施形態の構成を示す断面模式図である。
【図2】本発明にかかる光電変換素子の第2実施形態の構成を示す断面模式図である。
【図3】本発明にかかる光電変換素子の第3実施形態の構成を示す断面模式図である。
【図4】本発明にかかる光電変換素子の第4実施形態の構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、本発明にかかる光電変換素子の第1実施形態の基本的構成を示す断面模式図である。
図1に示す光電変換素子10は、基板Sと、該基板S上に形成された下部電極(画素電極)101と、下部電極101上に形成された光電変換層102と、光電変換層102上に形成された上部電極(対向電極)104とを備える。
【0012】
図1に示す光電変換素子10は、上部電極104上方から光が入射するものとしている。また、図1に示す光電変換素子10は、光電変換層102で発生した電荷(正孔及び電子)のうち、電子を上部電極104に移動させ、正孔を下部電極101に移動させるように、下部電極101及び上部電極104間にバイアス電圧が印加されるものとしている。つまり、上部電極104を電子捕集電極とし、下部電極101を正孔捕集電極としている。
【0013】
上部電極104は、光電変換層102に光を入射させる必要があるため、透明な導電性材料で構成されている。ここで、透明とは、波長が約420nm〜約660nmの範囲の可視光を約80%以上透過することを言う。透明な導電性材料としてはITOを用いることが好ましい。
【0014】
下部電極101は導電性材料であればよく、透明である必要はない。しかし、図1に示す光電変換素子10は、後述するが、下部電極101下方にも光を透過させることが必要になる場合もあるため、下部電極101も透明な導電性材料で構成することが好ましい。上部電極104と同様に、下部電極101においてもITOを用いることが好ましい。
【0015】
光電変換層102は、光電変換機能を有する、1つの有機化合物半導体で構成されている。ここで、有機化合物としては、下記の構造式で示すものを用いる。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

【0022】
上記有機化合物を真空蒸着法で100nmの膜厚で形成することによって光電変換層は102を設ける。光電変換層102を形成した後、アルミニウムを真空蒸着法で5nmの膜厚で形成することで、上部電極104を設ける。
【0023】
光電変換層102の正孔移動度をh1とし、電子移動度をe1としたとき、0.1<h1/e1<10を満たすものとする。こうすれば、光電変換層102の正孔移動度と電子移動度が近い範囲となるため、低暗電流、高光電変換効率で高速応答が可能となる。光電変換層102の正孔移動度h1及び電子移動度e1は、素材の選択のほかに、蒸着速度や成膜時の基板温度などの成膜条件を選択することで制御できる。
【0024】
図2は、本発明にかかる光電変換素子の第2実施形態の基本的構成を示す断面模式図である。
図2に示す光電変換素子20は、基板Sと、該基板S上に形成された下部電極(画素電極)101と、下部電極101上に形成された電子ブロッキング層103と、電子ブロッキング層103上に形成された光電変換層102と、光電変換層102上に形成された上部電極(対向電極)104とを備える。
【0025】
有機光電変換素子において、暗電流を増大させることなく光電変換効率を向上させるためには、電極と有機光電変換膜の間に上記電子ブロッキング層103や後述する正孔ブロッキング層(以下総称して、電荷ブロッキング層ともいう。)を設けることが有効である。電極から正孔の注入を抑える正孔ブロッキング層は、有機光電変換膜よりイオン化ポテンシャルが大きく、また有機光電変換膜からの電荷捕集を阻害しないために、正孔ブロッキング層は有機光電変換膜より電子親和力が大きいことが望ましい。電極から電子の注入を抑える電子ブロッキング層は、また有機光電変換膜のより電子親和力が小さく、また有機光電変換膜からの電荷捕集を阻害しないために、電子ブロッキング層は有機光電変換膜よりイオン化ポテンシャルが小さいことが望ましい。
【0026】
図2に示す光電変換素子20は、上部電極104上方から光が入射するものとしている。又、図2に示す光電変換素子20は、光電変換層102で発生した電荷(正孔及び電子)のうち、電子を上部電極104に移動させ、正孔を下部電極101に移動させるように、下部電極101及び上部電極104間にバイアス電圧が印加されるものとしている。つまり、上部電極104を電子捕集電極とし、下部電極101を正孔捕集電極としている。
【0027】
下部電極101及び上部電極104は、図1の光電変換素子10と同じものを用いることができる。
【0028】
電子ブロッキング層103は、下記構造式で示される有機化合物を真空蒸着法で100nmの膜厚で形成される。
【0029】
【化7】

【0030】
【化8】

【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
電子ブロッキング層103を形成した後、上記化合物4で示される有機化合物を真空蒸着法で100nmの膜厚で形成し、光電変換層102とした。なお、光電変換層102は、光電変換素子10と同様に、化合物1〜3,5及び6などの有機化合物から構成してもよい。光電変換層102を形成した後、該光電変換層102の上面にアルミニウムを真空蒸着法で5nmの膜厚で形成する。
【0034】
本実施形態の光電変換素子20は、電子ブロッキング層103の正孔移動度をh3とし、電子移動度をe3としたとき、h3/e3>10を満たす。また、電子ブロッキング層103は、正孔移動度h3が、光電変換層102の正孔移動度h1よりも大きいことが好ましい。
【0035】
光電変換素子20の構成によれば、電子ブロッキング層103の正孔移動度h3が電子移動度e3に対して十分に大きい値であり、また、電子ブロッキング層103の正孔移動度h3が光電変換層102の正孔移動度h1より大きいため、低暗電流、高光電変換効率で高速応答が可能でありとなる。ここで、光電変換層102は、上記実施形態と同様に、正孔移動度をh1とし、電子移動度をe1としたとき、0.1<h1/e1<10を満たすものとする。
【0036】
図3は、本発明にかかる光電変換素子の第3実施形態の基本的構成を示す断面模式図である。
図3に示す光電変換素子30は、基板Sと、該基板S上に形成された下部電極(画素電極)101と、下部電極101上に形成された光電変換層102と、光電変換層102上に形成された正孔ブロッキング層105と、正孔ブロッキング層105上に形成された上部電極(対向電極)104とを備える。
【0037】
図3に示す光電変換素子30は、上部電極104上方から光が入射するものとしている。又、図3に示す光電変換素子30は、光電変換層102で発生した電荷(正孔及び電子)のうち、電子を上部電極104に移動させ、正孔を下部電極101に移動させるように、下部電極101及び上部電極104間にバイアス電圧が印加されるものとしている。つまり、上部電極104を電子捕集電極とし、下部電極101を正孔捕集電極としている。
【0038】
下部電極101及び上部電極104は、図1及び図2に示す光電変換素子10,20と同じものを用いることができる。
【0039】
正孔ブロッキング層105は、下記構造式で示される有機化合物を用いて真空蒸着法によって50nmの膜厚で形成される。
【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

【0042】
【化13】

【0043】
光電変換素子30は、光電変換層102の正孔移動度をh1とし、電子移動度をe1としたとき、0.1<h1/e1<10を満たすものとする。
【0044】
本実施形態では、正孔ブロッキング層の電子移動度をe2とし、電子移動度をe2としたときにe2/h2>10を満たす。また、正孔ブロッキング層105は、電子移動度e2が、光電変換層102の電子移動度e1よりも大きい。
【0045】
光電変換素子30の構成によれば、光電変換層102の正孔移動度と電子移動度が近い範囲であり、かつ、正孔ブロッキング層105の電子移動度が光電変換層102の電子移動度より大きいため、低暗電流、高光電変換効率で高速応答が可能となる。
【0046】
図4は、本発明にかかる光電変換素子の第4実施形態の基本的構成を示す断面模式図である。
図4に示す光電変換素子40は、基板Sと、該基板S上に形成された下部電極(画素電極)101と、下部電極101上に形成された電子ブロッキング層103と、電子ブロッキング層103上に形成された光電変換層102と、光電変換層102上に形成された正孔ブロッキング層105と、正孔ブロッキング層105上に形成された上部電極(対向電極)104とを備える。
【0047】
光電変換素子40は、上部電極104上方から光が入射するものとしている。また、光電変換層102で発生した電荷(正孔及び電子)のうち、電子を上部電極104に移動させ、正孔を下部電極101に移動させるように、下部電極101及び上部電極104間にバイアス電圧が印加されるものとしている。つまり、上部電極104を電子捕集電極とし、下部電極101を正孔捕集電極としている。
【0048】
下部電極101及び上部電極104は、図1から図3に示す光電変換素子10,20,30と同じものを用いることができる。なお、上部電極104は、ITOをスパッタ法で5〜20nmの膜厚で形成する。
【0049】
電子ブロッキング層103は、上記化合物7で示される有機化合物を真空蒸着法で100nmの膜厚で形成したものである。
【0050】
光電変換層102は、上記化合物4で示される有機化合物を真空蒸着法で100nmの膜厚で形成したものである。
【0051】
正孔ブロッキング層104は、上記化合物11から13で示される有機化合物のうちいずれか1つを用いて真空蒸着法で50nmの膜厚で形成されたものである。
【0052】
本実施形態の光電変換素子40は、光電変換層102の正孔移動度をh1とし、電子移動度をe1としたとき、0.1<h1/e1<10を満たす。
【0053】
ここで、電子ブロッキング層103の正孔移動度をh3とし、電子移動度をe3としたとき、h3/e3>10を満たすことが好ましい。正孔ブロッキング層の電子移動度をe2とし、電子移動度をe2としたときにe2/h2>10を満たすことが好ましい。
【0054】
さらに、光電変換素子20では、電子ブロッキング層103を有し、この電子ブロッキング層103の正孔移動度をh3としたとき、正孔移動度h3が、光電変換層102の正孔移動度h1よりも大きい。さらに、光電変換素子40は、正孔ブロッキング層105を有し、この正孔ブロッキング層105の電子移動度をe2としたとき、電子移動度e2が、光電変換層102の電子移動度e1よりも大きい。
【0055】
本実施形態の光電変換素子40の構成によれば、光電変換層102の正孔移動度と電子移動度が近い範囲であり、かつ、電子ブロッキング層103の正孔移動度が光電変換層102の正孔移動度より大きく、かつ、正孔ブロッキング層105の電子移動度が光電変換層102の電子移動度より大きいため、低暗電流、高光電変換効率で高速応答が可能でありとなる。
【0056】
次に、本発明にかかる光電変換素子について光応答時間を測定した。
【0057】
(実施例A)
図1に示す構成と同様に、実施例1から4、及び、比較例1,2,9として、下部電極と、光電変換層と、上部電極とで構成された光電変換素子を用意した。実施例1から4、及び、比較例1,2,9の光電変換素子は、いずれも、下部電極、光電変換層、上部電極の順に形成した。また、下部電極は、ITOで構成した。
実施例1の光電変換層は上記化合物1の有機化合物で構成し、実施例2の光電変換層は上記化合物2の有機化合物で構成し、実施例3の光電変換層は上記化合物3の有機化合物で構成し、実施例4の光電変換層は上記化合物4の有機化合物で構成し、比較例1の光電変換層は上記化合物5の有機化合物で構成し、比較例2の光電変換層は上記化合物6の有機化合物で構成し、比較例9の光電変換層は、下記化合物14の有機化合物で構成した。各光電変換素子の光電変換層は、いずれも真空蒸着法で100nmの膜厚で形成し、光電変換層作製後、アルミニウムを真空蒸着法で5nmの膜厚で形成し、上部電極とした。下記の表1に作製した実施例及び比較例の光電変換素子の光応答時間、光電変換層の移動度を示す。ここで、光応答時間は、各光電変換素子の上部電極(アルミニウム)側に正のバイアスを5.0×10E+5 V/cmで印加した状態で、光を入射させてから、光電流が飽和するまでの時間である。また、移動度は、Time of Flight(TOF)法で測定した値である。この結果、表1に示したように、電子と正孔との移動度の比が0.1〜10の範囲内の光電変換層を用いた実施例1から4の光電変換素子は、いずれも1ms以内に光電流が立ち上がった。一方で、比較例1,2及び9の光電変換素子では、光応答時間が実施例1から4に比べて、著しく長くなることがわかった。
【0058】
【化14】

【0059】
【表1】

【0060】
(実施例B)
図2に示す構成と同様に、実施例4及び5、比較例3から5として、下部電極と、電子ブロッキング層と、光電変換層と、上部電極とで構成された光電変換素子を用意した。なお、実施例4の構成は、上述した実施例Aのものと同じである。実施例5、及び、比較例3から5の光電変換素子は、電子ブロッキング層、光電変換層、上部電極の順に形成する。また、下部電極は、ITOで構成した。
実施例5の電子ブロッキング層を化合物7で構成し、実施例3の電子ブロッキング層を化合物8で構成し、比較例4の電子ブロッキング層を化合物10で構成し、比較例5の電子ブロッキング層を化合物9で構成した。各光電変換素子は、電子ブロッキング層形成後、上記化合物4で示される有機化合物を真空蒸着法で100nmの膜厚で形成し、光電変換層とした。光電変換層作製後、アルミニウムを真空蒸着法で5nmの膜厚で形成し、上部電極とした。下記の表2に作製した素子の光応答時間、光電変換効率、暗電流値、電子ブロッキング層の移動度を示す。ここで、光応答時間は、光電変換素子の上部電極(アルミニウム)側に正のバイアスを5.0×10E+5 V/cm印加した状態で、光を入射させてから、光電流が飽和するまでの時間である。光電変換効率、暗電流値は、電界強度5.0×10E+5 V/cm下で測定したものとした。移動度は、TOF法で測定した値である。この結果、表2に示したように、電子ブロッキング層の正孔移動度h3が電子移動度e3よりも、十分に大きい構成である実施例4及び5の光電変換素子は、光電変換効率、光応答時間を悪化させずに、暗電流を低減できた。一方で、比較例3及び4は、電子ブロッキング層の正孔移動度が、光電変換層の正孔移動度よりも低いため、効率が低下し応答速度が低くなった。比較例5は、電子ブロッキング層の正孔移動度は高く、応答速度は高いが、h3/e3が10以下であるため暗電流が増加してしまった。なお、下記表2において、一部の電子移動度が「<1×10E−8」と記載されているが、これは、移動度が低すぎて正確な値にについては測定できないことを意味している。
【0061】
【表2】

【0062】
(実施例C)
図4に示す構成と同様に、実施例6,7及び比較例6,7として、下部電極と、電子ブロッキング層と、光電変換層と、正孔ブロッキング層と、上部電極とで構成された光電変換素子を用意した。なお、実施例9の構成は、基本的な構成が上記実施例4の構成と同じであるが、画素電極がITOである点で相違する。実施例6及び比較例6,7の光電変換素子は、電子ブロッキング層、光電変換層、正孔ブロッキング層、上部電極の順に形成する。また、下部電極は、ITOである。実施例6及び比較例6,7の各光電変換素子において、電子ブロッキング層が上記化合物7で示される有機化合物を真空蒸着法で100nmの膜厚で形成したものであり、また、光電変換層は上記化合物4で示される有機化合物を真空蒸着法で100nmの膜厚で形成したものである。実施例6の正孔ブロッキング層を上記化合物11で構成し、比較例6の正孔ブロッキング層を上記化合物12で構成し、比較例7の正孔ブロッキング層を上記化合物13で構成した。各正孔ブロッキング層は、対応する有機化合物をそれぞれ真空蒸着法で50nmの膜厚で形成されたものとする。各光電変換素子の上部電極はITOをスパッタ法で5〜20nmの膜厚で形成されたものとする。下記の表3に作製した素子の光応答時間、光電変換効率、暗電流値、正孔ブロッキング層の移動度を示す。ここで、光応答時間は、光電変換素子の上部ITO電極側に正のバイアスを5.0×10E+5 V/cm下で測定したものとした。移動度はTOF法で測定した値である。この結果、表3に示したように、正孔ブロッキング層の電子移動度e2が正孔移動度h2よりも大きい(e2/h2>10)構成とすることで、光電変換効率、光応答時間を悪化させずに暗電流を低減できた。
【0063】
【表3】

【0064】
(実施例D)
図3に示す構成と同様に、実施例8及び比較例8として、下部電極と、光電変換層と、正孔ブロッキング層と、上部電極とで構成された光電変換素子を用意した。この光電変換素子は、光電変換層、正孔ブロッキング層、上部電極の順に形成する。下部電極は、ITOである。光電変換層は、化合物2で示される有機化合物を、真空蒸着法で100nmの膜厚で形成した。実施例8の光電変換素子は、光電変換層作製後、正孔ブロッキング層は、化合物11で示される有機化合物を真空蒸着法で50nmの膜厚で形成し、Alを真空蒸着法で80nmの範囲の膜厚で形成した。一方、比較例8の光電変換素子は、光電変換層作製後、正孔ブロッキング層は、化合物13で示される有機化合物を真空蒸着法で50nmの膜厚で形成し、Alを真空蒸着法で5nmの膜厚で形成した。下記表4に作製した光電変換素子の光応答時間、光電変換層の移動度を示す。光応答時間は、光電変換素子のAl側に正のバイアスを5. 0×10E+5 V/cm下で測定したものとし、光を入射させてから、光電流が飽和するまでの時間である。移動度は、TOF法で測定した値である。この結果、表4に示したように、光電変換層の電子移動度よりも、大きい電子移動度を示す正孔ブロッキング層を用いることで、光電変換効率、光応答時間を悪化させずに、暗電流を低減できた。電子ブロッキング層の正孔移動度が低い場合は、光電変換効率の低下、光応答時間の悪化を示した。
【0065】
【表4】

【0066】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜な変形、改良などが可能である。
例えば、上記実施形態の光電変換素子は、デジタルカメラ等の撮像装置に搭載された光センサなどの撮像素子に適用することができ、特に固体撮像素子に適用することで、低暗電流、高光電変換効率で高速応答を実現することができる。
【符号の説明】
【0067】
10,20,30,40 光電変換素子
101 画素電極
102 光電変換層
103 電子ブロッキング層
104 対向電極
105 正孔ブロッキング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、前記一対の電極の間に配置された光電変換層を備え、前記一対の電極の一方の電極を透過し前記光電変換層に入射した光によって当該光電変換層で発生する信号電荷を、前記一対の電極間に印加する電圧によって前記一対の電極に移動させる光電変換素子を有する固体撮像素子であって、
前記光電変換層が、少なくとも1つの有機化合物半導体で構成され(ただし、光電変換層が下記化1(DCM1)からなるものを除く)、
【化1】


該光電変換層の正孔移動度をh1とし、電子移動度をe1としたとき、0.1<h1/e1<10を満たし、正孔移動度h1が8.5×10E−6cm/V・s以上3.8×10E−5cm/V・s以下であって、かつ、電子移動度e1が9.3×10E−7cm/V・s以上7.6×10E−5cm/V・s以下である固体撮像素子。
【請求項2】
請求項1記載の固体撮像素子であって、
前記光電変換素子は、前記一対の電極に電圧を印加したときに、前記一対の電極のうち一方から正孔が注入されることを抑制する正孔ブロッキング層を有し、前記正孔ブロッキング層の電子移動度をe2としたとき、電子移動度e2が、前記光電変換層の電子移動度e1よりも大きい固体撮像素子。
【請求項3】
請求項2記載の固体撮像素子であって、
前記正孔ブロッキング層の正孔移動度をh2としたとき、該正孔移動度h2と、電子移動度e2とがe2/h2>10を満たす固体撮像素子。
【請求項4】
請求項1記載の固体撮像素子であって、
前記光電変換素子は、前記一対の電極に電圧を印加したときに、前記一対の電極のうち一方から電子が注入されることを抑制する電子ブロッキング層を有し、前記電子ブロッキング層の正孔移動度をh3としたとき、正孔移動度h3が、前記光電変換層の正孔移動度h1よりも大きい固体撮像素子。
【請求項5】
請求項4記載の固体撮像素子であって、
前記電子ブロッキング層の電子移動度をe3としたとき、該電子移動度e3と、正孔移動度h3とがh3/e3>10を満たす固体撮像素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−138582(P2012−138582A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−15970(P2012−15970)
【出願日】平成24年1月27日(2012.1.27)
【分割の表示】特願2008−56691(P2008−56691)の分割
【原出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】