固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システム及びその運転方法
【課題】固体酸化物形燃料電池から効率的にCO2を分離回収するための固体酸化物形燃料電池システム及びその運転方法を得る。
【解決手段】固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムであって、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システム及びその運転方法。
【解決手段】固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムであって、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システム及びその運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池から二酸化炭素(CO2)を分離回収するためのシステム及びその運転方法に関し、より詳しくは、固体酸化物形燃料電池から効率的にCO2を分離回収するための固体酸化物形燃料電池システム及びその運転方法に関する。本発明は、固体酸化物形燃料電池を用いた分散型電源システムに好適に適用される。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell、以下適宜“SOFC”と略称する)の単電池すなわちセルは、固体酸化物からなる電解質を挟んで燃料極および空気極が配置され、燃料極/電解質/空気極の三層ユニットで構成される。本明細書中、固体酸化物からなる電解質を適宜「電解質」または「電解質膜」とも言う。また、空気極は、酸化剤ガスとして酸素が用いられる場合は酸素極であるが、本明細書においては、酸化剤ガスとして酸素または酸素富化空気が用いられる場合を含めて空気極という。
【0003】
固体酸化物からなる電解質の構成材料としては、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)等のジルコニア系やLaGaO3系などが用いられ、燃料極の構成材料としては、例えばニッケルとイットリア安定化ジルコニアの混合物(Ni/YSZサーメット等)等の多孔質体が用いられ、空気極の構成材料としては、例えばSrドープのLaMnO3等の多孔質体が用いられ、通常、電解質膜の両面に燃料極と空気極を焼き付けることによりセルが構成される。
【0004】
SOFCにはその形状の観点からして、平板方式、円筒方式、一体積層方式、その他各種あるが、これらは原理的には同じであり、(a)電解質膜自体でその構造を保持する自立膜式や(b)膜厚の厚いアノードで電解質膜を支持する支持膜式のほか、(c)多孔質の絶縁性支持基体の上に電池を配置した形式なども考えられている。また、SOFCはその作動温度が1000〜800℃程度と高いが、最近ではそれ以下、800〜650℃程度の範囲、例えば750℃程度の温度で作動するSOFCが開発されつつある。
【0005】
図7(a)〜(c)はそれらSOFCセルの態様例を説明する断面図である。図7(a)は自立膜式のSOFCセルで、セル1は、電解質膜3の下面にアノード2が配置され、電解質膜3の上面にカソード4が配置されて構成される。図7(b)は支持膜式のSOFCセルで、セル1は、膜厚の厚いアノード2の上に電解質膜3が配置され、電解質膜3の上にカソード4が配置されて構成される。
【0006】
支持膜式においては、電解質膜の膜厚を薄く構成でき、その膜厚が例えば10μm程度となり、800〜650℃という低温で運転できる。このため、インターコネクタなどの構成材料として耐熱合金、例えばステンレス鋼などの安価な材料の使用が可能となり、また小型化が可能であるなど各種利点を有する。図7(c)は、支持基体5の上に順次、アノード2、電解質3及びカソード4を配置して構成したセル1である。それらいずれの態様でも、空気極側に空気を流し、燃料極側に燃料を流して、両電極を外部負荷に接続することで電力が得られる。
【0007】
図8は支持膜式SOFCセルを例にし、それを組込んだ支持膜式SOFCスタックの構成例を断面図で示している。支持膜式SOFCセルは、燃料極の上に電解質膜が配置され、電解質膜の上に空気極が配置されて構成される。支持膜式SOFCスタックは、上部から下部へ順次セパレータA、セパレータB、セパレータC、接合材(シール材による接合箇所)、支持膜式SOFCセル、セパレータDが配置される。セパレータAの上部および下部には集電板等が配置されるが、図示は省略している。
【0008】
ところで、SOFCのセル一つでは高々0.8V程度の電圧しか得られないので、実用的な電力を得るためにセルとセルをインターコネクタを介して交互に積層配置してスタック化される。図9は、セル1を二個、その間にインターコネクタ6を一個、上方セルの上面および下方セルの下面にそれぞれ枠体7(この枠体も一種のインターコネクタである)を備えてスタックを構成した場合を示している。インターコネクタ6には、セルに空気および燃料を供給するための複数個の溝状のガス流路が形成されている。なお、図9中A−A線断面が図7(a)〜(c)の各断面に相当している。すなわち、隣接するセルを電気的に直列に接続するのと同時に、カソードとアノードのそれぞれに空気と燃料とを分配し供給し排出する目的でインターコネクタとセルとが交互に積層される。
【0009】
図10(a)〜(b)はその積層の態様例を説明する図である。図10(a)は、各セル1とインターコネクタ6、7の燃料流路、空気流路との位置関係を示す図で、燃料流と空気流が並行流する態様を示している。図10(b)は、図10(a)のようにしてセルを積層したSOFCスタックの斜視図で、インターコネクタ等の記載は省略している。図10(b)ではセル数が16個の場合を示しているが、その数は適宜設定される。SOFCの運転時には、セルのアノード側に燃料を流し、カソード側に酸化剤ガス、例えば空気を流して、両電極間に外部負荷Wを接続することで電力が得られる。
【0010】
図10(c)は、図10(a)〜(b)に示すSOFCスタックを構成するセル1個を取り出し、その作動時における空気中の酸素、電子の流れなどを示した図である。
図10(c)のとおり、カソード側を流れる空気中の酸素はカソードで酸素イオン(O2-)となり、電解質3を通ってアノード2に至る。ここで、アノード2側を流れる燃料と反応して電子を放出し、電気と水、二酸化炭素等の反応生成物を生成する。カソードでの利用済み空気は空気極オフガスつまりカソードオフガスとして排出され、アノードでの利用済み燃料は、燃料極オフガスつまり、未利用の燃料と水蒸気や二酸化炭素等の反応生成物を含むアノードオフガスとして排出される。
【0011】
ところで、SOFCにおいては、水素(H2)と一酸化炭素(CO)が燃料となるが、炭化水素のうちメタンは、アノードの構成成分である金属、例えばニッケルの触媒作用により水蒸気改質されて水素と一酸化炭素になる。このため、SOFCでは、水素、一酸化炭素、メタン、あるいはそれらの2種以上からなる燃料であればそのままアノードへ導入すればよいが、燃料にメタン以外の炭化水素、すなわち炭素数2以上の炭化水素が含まれていると、SOFCへの配管、特にアノードへの燃料導入管やアノードに炭素を生成し、これが電気化学反応を阻害して電池性能を劣化させてしまう。
【0012】
このため、炭素数C2以上の炭化水素を含む原燃料の場合は、水蒸気改質法や部分酸化法で予備改質して水素、一酸化炭素及びメタンを含む予備改質ガスに変えられる。予備改質に代えて、メタンも改質して水素、一酸化炭素に変えてもよい。水蒸気改質法で原燃料を改質する場合、メタン換算スチーム(モル)比(S/C比)は2以上(=完全水蒸気改質に必要な水蒸気量の2倍以上)、好ましくは3以上とされる。
【0013】
ここで、本明細書において、そのように、予備改質または改質する前の燃料を“原燃料”と言い、その原燃料を水蒸気改質法や部分酸化法で予備改質または改質してSOFCのアノードへ導入する予備改質済みの燃料(水素、一酸化炭素、メタン、あるいはそれらの2種以上を含む燃料)及び改質済みの燃料(水素、一酸化炭素のうちの一方または両者を含む燃料)を単に“燃料”と称している。
【0014】
ところで、SOFCにおいては、適量の燃料をアノードへ供給するために原燃料の流量を制御する必要があるが、その制御は一般的には次のように行うことができる。SOFCの効率を決める一つの要因として燃料利用率がある。燃料利用率は、投入した燃料に対し、どれだけ発電に利用できたかを示す指標である。より具体的に言えば、アノードへ導入する燃料量に対する実際に発電に寄与する燃料量の比率であり、アノードへ導入する燃料のうちどれだけ発電に利用されるかを示す比率である。従って、燃料利用率が高いほど発電効率が高くなるので、一般的には、できる限り燃料利用率を高めるような工夫をし、できる限り高い燃料利用率で運転する。
【0015】
しかし、燃料利用率には理論上、そして実用上も上限がある。図11はその事実を説明する図で、電流密度を例えば0.2A/cm2と一定にして、燃料利用率を高めた場合のSOFCセル中における燃料出口付近のセル電圧の変化を示している。図11のとおり、SOFCセルでの燃料利用率が高くなるにつれてセル電圧が漸次低下し、燃料利用率が90%程度を超えるとセル電圧が急激に落ち込む。
【0016】
そのようにセル電圧が落ちてくる現象は、アノード側での酸素分圧の増加を意味しており、酸素分圧がある一定値以上に増加すると、アノード中の触媒金属、例えばニッケル(Ni)が酸化してNiOに変化し、Niの酸化に伴って起こる格子膨張によりアノードが破損し、安全性を損なってしまう。これが“燃料枯れ”と呼ばれるもので、セルに十分な燃料が行き渡らず、発電を損なうことになる。
【0017】
SOFCセルのアノードに供給された燃料は出口に向けて順次消費されていくため、燃料枯れは、単セルでも、複数のセルを配置したSOFCスタックでも、また複数のSOFCスタックを併置したSOFCバンドルでも、通常、アノードでの燃料の出口側で起こり得る。加えて、実際のSOFCセル、SOFCスタックあるいはSOFCバンドルの場合には、若干の燃料リークや、電極内部のガス拡散が律速(支配的)となり、これらに起因して燃料利用率は85%程度が限度となる。
【0018】
〈分散型電源システムについて〉
ところで、燃料電池は、太陽光発電、太陽熱発電などとともに分散型電源として期待されているが、通常、分散型電源システムにおいては、発電に伴い発生したCO2はほとんど回収されることなく、大気中に放出される。SOFCその他、各種燃料電池に関しても、一般的にCO2を回収することはない。
【0019】
〈従来のSOFCについて〉
図1のとおり、従来のSOFCセルでは、燃料を水蒸気により改質し、生成改質ガスをSOFCセルのアノードに供給するとともに、空気をカソードに供給して発電することで電気を発生させる。燃料利用率は85%程度が限度であることから、SOFCセルでの残燃料つまりアノードオフガスと残空気つまりカソードオフガスを混合し燃焼(混合燃焼)させる。
【0020】
SOFCセルで発生するアノードオフガスには、H2O、CO2のほか、燃料利用率の関係からSOFCセルで未利用のH2、COが15%以上含まれており、カソードオフガスにはSOFCセルで未利用のO2が含まれている。そこで、未利用のH2、COを有効利用するために、図1のとおり、アノードオフガスをカソードオフガスと混合して燃焼し、その発生熱をSOFCセルの保温に利用することが考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかし、そのようにアノードオフガスをカソードオフガスと混合燃焼してしまうと、燃焼排ガスにはCO2に混じって多量の窒素が混入することになり、燃焼排ガスからのCO2の分離回収が困難になる。また、その排出燃焼ガスは、例えばコジェネレーションシステムにおける水蒸気発生用や給湯用などにも利用されるが、水蒸気や温湯の需要量にも限度があり、多量の窒素が混入することにも変りはない。
【0022】
そこで、SOFCセルを多段に構成し、後段のSOFCセルにおいて、発電により強制的にオフガスを燃焼させ、燃料利用率を90%程度まで高め、その後、ガスを冷却・圧縮することによりCO2を分離回収することが提案されている。図2はその先行技術(Westinghouse)の概略を説明する図である。図2のとおり、SOFCセルを二段(多段)に配置して、二段目(二段目以降)のSOFCセルをオフガス酸化用のセルとする。そして、オフガス酸化用セルに一段目のSOFCセルからのアノードオフガスとカソードオフガスを導入して、燃料利用率を90%程度まで高める。
【0023】
そして、オフガス酸化用セルからのアノードオフガスを冷却して、その中の水蒸気は冷却・凝縮し、CO2を分離回収する。さらに、それらの成分を回収した後の残余のアノードオフガスをオフガス酸化用セルからのカソードオフガスと混合燃焼して燃焼排ガスとして排出する。しかし、このシステムでの燃料利用率は90%程度で限度であり、オフガス酸化用セルは依然、そのアノードが酸化する危険がある。
【0024】
本発明は、固体酸化物形燃料電池システムにおける以上の諸問題を解決してなる、固体酸化物形燃料電池から効率的にCO2を分離回収するためのシステム及び固体電解質形燃料電池から効率的にCO2を分離回収する方法を提供することを目的とするものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明(1)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムであって、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムである。
【0026】
本発明(2)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムであって、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなり、且つその運転時に、前記固体酸化物アノードで構成されたアノードオフガス完全酸化用の模擬セルを短絡させてなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムである。
【0027】
本発明(1)〜(2)の固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムにおいて、前記固体酸化物アノードの構成材料としては、例えばペロブスカイト型の酸化物を使用することができる。
【0028】
本発明(3)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法であって、固体酸化物形燃料電池セルを二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出される燃料オフガスを強制的に酸化させることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法である。
【0029】
本発明(4)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法であって、固体酸化物形燃料電池セルを二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させ、且つその運転時に、前記固体酸化物アノードで構成されたアノードオフガス完全酸化用の模擬セルを短絡させることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法である。
【0030】
本発明(3)〜(4)の固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法において、前記固体酸化物アノードの構成材料としては、例えばペロブスカイト型の酸化物を使用することができる。
【発明の効果】
【0031】
前記のように、従来技術や先行技術の場合には、SOFCからのオフガス中のCO2濃度を極めて高濃度に高めることは困難である。本発明によれば、SOFCからのオフガス中のCO2濃度を99%乃至その近傍まで高めることが可能であり、CO2の分離回収を容易にするだけでなく、分離回収するCO2濃度の純度も上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来技術(SOFCオフガス混合燃焼等)を説明する図である。
【図2】先行技術(Westinghouse)の概略を説明する図である。
【図3】本発明のSOFCを説明する図である。
【図4】本発明のSOFCを説明する図である。
【図5】本発明を説明する図である。
【図6】本発明を説明する図である。
【図7】本発明の前提となる従来のSOFCを説明する図である。
【図8】本発明の前提となる従来のSOFCを説明する図である。
【図9】本発明の前提となる従来のSOFCを説明する図である。
【図10】本発明の前提となる従来のSOFCを説明する図である。
【図11】本発明の前提となる事実を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明(1)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムである。そして、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなることを特徴とする。
【0034】
本発明(2)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムである。そして、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなり、且つその運転時に、前記固体酸化物アノードで構成されたアノードオフガス完全酸化用の模擬セルを短絡させてなることを特徴とする。
【0035】
本発明(3)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法である。そして、固体酸化物形燃料電池セルを二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出される燃料オフガスを強制的に酸化させることを特徴とする。
【0036】
本発明(4)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法である。そして、固体酸化物形燃料電池セルを二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させ、且つその運転時に、前記固体酸化物アノードで構成されたアノードオフガス完全酸化用の模擬セルを短絡させることを特徴とする。
【0037】
〈先行技術のSOFCシステム〉
前述図2のとおり、先行技術のSOFCセルでは、燃料を水蒸気改質し、生成した改質ガスをSOFCセルのアノードに供給するとともに、空気をカソードに供給して発電することで電気を発生させる。ここまでは、従来のSOFCシステムと同じである。先行技術のSOFCシステムでは、SOFCセルに続きオフガス酸化用セル(以下“先行技術:オフガス酸化用セル”とする)を配置する。
【0038】
ここで“先行技術:オフガス酸化用セル”は、通常の発電セルであるSOFCセル(「SOFCセルA」とする)と同じ材料で構成したセルであり、燃料利用率を90%程度まで上げ得るが、これで限度である。このため“オフガス酸化用セル”を経た後のアノードオフガスには尚(なお)、10%程度の水素およびCOが残ることになり、当該残分の水素およびCOは混合燃焼により低減させるほかはない。このため“オフガス酸化用セル”を経た残燃料つまりアノードオフガスと残空気つまりカソードオフガスを混合し燃焼(混合燃焼)させる。
【0039】
〈本発明のSOFCシステム〉
図3は本発明のSOFCシステムを説明する図である。図3のとおり、本発明のSOFCセルでは、原燃料を水蒸気改質し、生成した改質ガスをSOFCセルのアノードに供給するとともに、空気をカソードに供給して発電することで電気を発生させる。ここまでは、従来のSOFCシステム、先行技術のSOFCシステムと同じである。
【0040】
本発明のSOFCシステムでは、SOFCセル(すなわち「SOFCセルA」)に続き、“アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セル”すなわち“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”を配置する。先行技術のSOFCシステムでも“先行技術:オフガス酸化用セル”を配置するが、当該“先行技術:オフガス酸化用セル”はSOFCセルAと同じ材料で構成されたセルであり、当該“先行技術:オフガス酸化用セル”の燃料利用率は90%程度まで上げ得るが、これで限度である。
【0041】
これに対して、本発明のSOFCシステムで配置する、本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”は燃料利用率を100%乃至ほぼ100%、すなわち燃料を完全乃至ほぼ完全に利用する“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”である。このためアノードの構成材料として、アノードとしての性能は劣るが、アノード側での酸素分圧が増加しても酸化されることのない材料を使用する。
【0042】
そのようなアノード(燃料極)の構成材料としては酸化物、例えばペロブスカイト型の酸化物が挙げられる。その例としてはLaXSr(1-X)CrYMn(1-Y)O3(0.1≦x≦0.4、0.3≦y≦0.7)を挙げることができ、その一例としてLa0.2Sr0.8Cr0.5Mn0.5O3を挙げることができる。この材料は、SOFCセルのアノードとしての性能は劣るが、酸素に侵されることなく、模擬SOFCセルとして長期間使用することができる。
【0043】
ここで、本明細書中“模擬SOFCセル”とは、セル構造としてはSOFCと同様であるが、電力を取り出すためのものではなく、“前段の発電用SOFCから排出されるアノードオフガス中の水素およびCOを水蒸気とCO2へ変えるためのSOFCセル”との意味である。
【0044】
〈通常の発電用SOFCセルと“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”について〉
図4は通常の発電用SOFCシステムの構成と対比して、本発明のアノードオフガス酸化用模擬SOFCシステムの構成を説明する図である。図4(a)のとおり、通常の発電用SOFCシステムにおいては、SOFCセルのアノードとカソードの間に負荷をかけることにより電力を取り出すことができる。
【0045】
これに対して、図4(b)のとおり、本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”の場合には、SOFCセルに負荷をかけず、アノードとカソードとの間を導線で結んで両電極間に電流を流して短絡させる。短絡(ショート)とは“触れるべきでない所で導線が触れ合って抵抗が小さくなり、大きな電流が流れる”ことを意味するが、本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”では、“前段の発電用SOFCから排出されるアノードオフガス中の水素およびCOを水蒸気とCO2へ変える”ために当該セルでの発生電流を短絡させることを目的として、アノードとカソードとの間を導線で結ぶものである。
【0046】
本発明のアノードオフガス酸化用模擬SOFCセルにおいて、そのようにアノードとカソードとの間を導線で結んで短絡させることにより、発電用SOFCセルからのアノードオフガス中の残燃料である水素およびCOの全部乃至ほぼ全部を水蒸気とCO2へ変えることにより、アノードオフガス中のCOを完全乃至ほぼ完全に除去し、低減させる。すなわち、本発明では、通常の発電用SOFCセルの後段に、酸化物からなるアノードで構成されたアノードオフガス酸化用模擬SOFCセルを配し、且つ、アノードオフガス酸化用模擬SOFCセルを短絡させることによって、空気極側からアノードオフガス側に強制的に酸素イオン(O2-)を注入し、アノードオフガスを酸化してCO2を濃縮し、それに続き当該CO2を分離回収するものである。
【0047】
ここで“短絡”とは、下記のように“・・・触れるべきでない所で導線が触れ合って抵抗が小さくなり、大きな電流が流れること・・・”などマイナーな意味で使用される場合が多いが、本発明においては“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセルによって、発電用SOFCセルからのアノードオフガス中の残燃料である水素およびCOの全部乃至ほぼ全部を水蒸気とCO2へ変えるために、アノードオフガス酸化用模擬SOFCセルのカソードとアノードとを導線で結ぶ”との意味で使用している。
なお、上記“短絡”により電流が流れるが、その際発生する熱は発電用SOFCセルの運転温度保持、保温などに利用する。
「(2)短絡 われわれの使う電気器具はみな一定の抵抗をもっていて、この抵抗と電圧とによりきまった電流が流れる。だから配線設備などをする場合には、流れる電流の大きさを考えて適当な太さの導線を選び、また必要な絶縁を施さなければならない。ところが、導線の絶縁布・ゴムなどが取れて、線と線とがじかに触れ合うと、そこの抵抗は非常に小さいので、きわめて大きな電流が流れることになる。このために装置がこわれたり、また電流の流れる各部分の温度が上がって、火事の原因にもなる。また、電気回路の中で不注意に金属の物体を扱ったり、絶縁物をぬらしたりしても同じような結果を起す。このように、触れるべきでない所で導線が触れ合って抵抗が小さくなり、大きな電流が流れることを、短絡(ショート)という。短絡が起きたとき電流をすぐ切るために、ヒューズを所々に入れておく。」(非特許文献1)
【0048】
【非特許文献1】昭和29年1月25日、実教出版株式会社発行、真島正市外6名著「物理の教室(上)」p.15
【0049】
〈本発明の“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”の構成例について〉
図5は、本発明の固体酸化物形燃料電池システムで用いるアノードオフガス酸化用模擬SOFCスタックの構成例を説明する図で、3つのSOFCセルを積層して構成した例を示している。なお、単電池を複数層積層した構造体を本明細書及び図面中適宜スタックと指称している。図5のとおり、アノード2、電解質3、カソード4からなるSOFCセルをインターコネクタを介して3個積層してスタックを構成している。
【0050】
最下部のインターコネクタの周縁上面にセパレータDを配置し、セパレータDの上面にセパレータCを配置し、セパレータCの上面にインターコネクタを配置し、インターコネクタの周縁上面にセパレータDを配置し、セパレータDの上面にセパレータCを配置し、セパレータCの上面にインターコネクタを配置し、それら各部材間はシール材による接合箇所Sとして示すようにシール材Sによりシールし固定する。3個の各SOFCセルは、セパレータDで囲われた空間に配置し、それぞれセパレータCにより支持する。
【0051】
本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”について、その電解質の材料としては、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)等の焼結体が用いられ、空気極の材料としては、例えばSrドープのLaMnO3等の多孔質体が用いられる。本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”において、カソード材料、電解質材料については、通常の発電用SOFCセルと同様の材料を用いることができる。
【0052】
そして、アノードの材料としては、前記のとおり、ペロブスカイト型の酸化物などが挙げられる。これを、通常の発電用SOFCセルとの関係で言えば、アノードの構成材料として、通常の発電用SOFCセルでは、例えばニッケルとイットリア安定化ジルコニアの混合物(Ni/YSZサーメット)等を使用するのに対して、本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”においては酸化物、例えばペロブスカイト型の酸化物を用いる点で基本的に相異する。
【0053】
本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”において、そのカソードへは、その前段に置いた通常の発電用SOFCセルから出るカソードオフガスを導入する。通常の発電用SOFCセルから出るカソードオフガス中の酸素は、“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”のカソードで酸素イオン(O2-)となり、電解質を通ってアノード側に至る。そして、当該アノード側で、その前段に置いた通常の発電用SOFCセルから出るアノードオフガス中の水素およびCOと反応し、それぞれ水蒸気(H2O)および二酸化炭素(CO2)を生成する。
【0054】
そのため“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”のアノードから排出するアノードオフガスには、通常の発電用SOFCセルのカソードに導入した空気に由来する窒素等を含まないので、CO2の分離回収を容易にし、分離回収するCO2の純度も上げることができる。本発明によれば、回収CO2濃度を99%乃至その近傍まで高めることが可能である。
【0055】
図6は、本発明における“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”を含む固体酸化物形燃料電池システムの態様例を説明する図である。図6のとおり、水気化器、水蒸気改質器、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の通常の発電用SOFCセル、“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”を配置する。水気化器では水から原燃料の改質用水蒸気を発生させる。その加熱源として“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”からのアノードオフガスとカソードオフガスの熱を利用する。
【0056】
原燃料は、水蒸気と混合され、水蒸気改質器へ導入されて改質される。水蒸気改質器で生成した水素、COを主成分とする改質ガスは発電用SOFCセルのアノードへ導入され、発電用SOFCセルのカソードへは空気が導入される。発電用SOFCセルで発電した電力は直流電源として各種電気機器(負荷)に使用し、またインバータにより交流電流である商用電源に変え、各種電気機器に使用される。
【0057】
発電用SOFCセルからのアノードオフガス、カソードオフガスは、それぞれ“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”のアノード、カソードへ導入される。“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”は、アノードオフガス酸化用模擬SOFCセルのカソードとアノードとを導線で結んで短絡させ、通常の発電用SOFCセルから排出されるアノードオフガス中の水素およびCOの全部乃至殆ど全部を水蒸気とCO2へ変えるものである。
【0058】
発電用SOFCセルからのアノードオフガスには未利用の水素、未利用のCOが含まれている。すなわち、発電用SOFCセルへ導入された燃料中の水素およびCOについては、その15%程度が未利用のままアノードオフガス酸化用模擬SOFCセルのアノードへ導入され、その全部またはほぼ全部が水蒸気とCO2へ変換される。
このように、発電用SOFCセルでの未利用水素およびCOの全部またはほぼ全部を水蒸気とCO2へ変換するのがアノードオフガス酸化用模擬SOFCセルの役割であり、そのため“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”を含む固体酸化物形燃料電池システムの運転中、アノードオフガス酸化用模擬SOFCセルのカソードとアノード間を短絡させておくことが必須である。
【0059】
本発明における“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”を含む固体酸化物形燃料電池システムにおいて、原燃料中のC成分は、SOFCの通常の発電セル、“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”を経て、実質上その全部がCO2となり、副次的にH2Oを生成するが、それらは水気化器を経てCO2とドレインに分離され取り出される。
【符号の説明】
【0060】
1:セル
2:アノード
3:電解質(膜)
4:カソード
5:支持基体
6:インターコネクタ
7:枠体(インターコネクタ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池から二酸化炭素(CO2)を分離回収するためのシステム及びその運転方法に関し、より詳しくは、固体酸化物形燃料電池から効率的にCO2を分離回収するための固体酸化物形燃料電池システム及びその運転方法に関する。本発明は、固体酸化物形燃料電池を用いた分散型電源システムに好適に適用される。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell、以下適宜“SOFC”と略称する)の単電池すなわちセルは、固体酸化物からなる電解質を挟んで燃料極および空気極が配置され、燃料極/電解質/空気極の三層ユニットで構成される。本明細書中、固体酸化物からなる電解質を適宜「電解質」または「電解質膜」とも言う。また、空気極は、酸化剤ガスとして酸素が用いられる場合は酸素極であるが、本明細書においては、酸化剤ガスとして酸素または酸素富化空気が用いられる場合を含めて空気極という。
【0003】
固体酸化物からなる電解質の構成材料としては、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)等のジルコニア系やLaGaO3系などが用いられ、燃料極の構成材料としては、例えばニッケルとイットリア安定化ジルコニアの混合物(Ni/YSZサーメット等)等の多孔質体が用いられ、空気極の構成材料としては、例えばSrドープのLaMnO3等の多孔質体が用いられ、通常、電解質膜の両面に燃料極と空気極を焼き付けることによりセルが構成される。
【0004】
SOFCにはその形状の観点からして、平板方式、円筒方式、一体積層方式、その他各種あるが、これらは原理的には同じであり、(a)電解質膜自体でその構造を保持する自立膜式や(b)膜厚の厚いアノードで電解質膜を支持する支持膜式のほか、(c)多孔質の絶縁性支持基体の上に電池を配置した形式なども考えられている。また、SOFCはその作動温度が1000〜800℃程度と高いが、最近ではそれ以下、800〜650℃程度の範囲、例えば750℃程度の温度で作動するSOFCが開発されつつある。
【0005】
図7(a)〜(c)はそれらSOFCセルの態様例を説明する断面図である。図7(a)は自立膜式のSOFCセルで、セル1は、電解質膜3の下面にアノード2が配置され、電解質膜3の上面にカソード4が配置されて構成される。図7(b)は支持膜式のSOFCセルで、セル1は、膜厚の厚いアノード2の上に電解質膜3が配置され、電解質膜3の上にカソード4が配置されて構成される。
【0006】
支持膜式においては、電解質膜の膜厚を薄く構成でき、その膜厚が例えば10μm程度となり、800〜650℃という低温で運転できる。このため、インターコネクタなどの構成材料として耐熱合金、例えばステンレス鋼などの安価な材料の使用が可能となり、また小型化が可能であるなど各種利点を有する。図7(c)は、支持基体5の上に順次、アノード2、電解質3及びカソード4を配置して構成したセル1である。それらいずれの態様でも、空気極側に空気を流し、燃料極側に燃料を流して、両電極を外部負荷に接続することで電力が得られる。
【0007】
図8は支持膜式SOFCセルを例にし、それを組込んだ支持膜式SOFCスタックの構成例を断面図で示している。支持膜式SOFCセルは、燃料極の上に電解質膜が配置され、電解質膜の上に空気極が配置されて構成される。支持膜式SOFCスタックは、上部から下部へ順次セパレータA、セパレータB、セパレータC、接合材(シール材による接合箇所)、支持膜式SOFCセル、セパレータDが配置される。セパレータAの上部および下部には集電板等が配置されるが、図示は省略している。
【0008】
ところで、SOFCのセル一つでは高々0.8V程度の電圧しか得られないので、実用的な電力を得るためにセルとセルをインターコネクタを介して交互に積層配置してスタック化される。図9は、セル1を二個、その間にインターコネクタ6を一個、上方セルの上面および下方セルの下面にそれぞれ枠体7(この枠体も一種のインターコネクタである)を備えてスタックを構成した場合を示している。インターコネクタ6には、セルに空気および燃料を供給するための複数個の溝状のガス流路が形成されている。なお、図9中A−A線断面が図7(a)〜(c)の各断面に相当している。すなわち、隣接するセルを電気的に直列に接続するのと同時に、カソードとアノードのそれぞれに空気と燃料とを分配し供給し排出する目的でインターコネクタとセルとが交互に積層される。
【0009】
図10(a)〜(b)はその積層の態様例を説明する図である。図10(a)は、各セル1とインターコネクタ6、7の燃料流路、空気流路との位置関係を示す図で、燃料流と空気流が並行流する態様を示している。図10(b)は、図10(a)のようにしてセルを積層したSOFCスタックの斜視図で、インターコネクタ等の記載は省略している。図10(b)ではセル数が16個の場合を示しているが、その数は適宜設定される。SOFCの運転時には、セルのアノード側に燃料を流し、カソード側に酸化剤ガス、例えば空気を流して、両電極間に外部負荷Wを接続することで電力が得られる。
【0010】
図10(c)は、図10(a)〜(b)に示すSOFCスタックを構成するセル1個を取り出し、その作動時における空気中の酸素、電子の流れなどを示した図である。
図10(c)のとおり、カソード側を流れる空気中の酸素はカソードで酸素イオン(O2-)となり、電解質3を通ってアノード2に至る。ここで、アノード2側を流れる燃料と反応して電子を放出し、電気と水、二酸化炭素等の反応生成物を生成する。カソードでの利用済み空気は空気極オフガスつまりカソードオフガスとして排出され、アノードでの利用済み燃料は、燃料極オフガスつまり、未利用の燃料と水蒸気や二酸化炭素等の反応生成物を含むアノードオフガスとして排出される。
【0011】
ところで、SOFCにおいては、水素(H2)と一酸化炭素(CO)が燃料となるが、炭化水素のうちメタンは、アノードの構成成分である金属、例えばニッケルの触媒作用により水蒸気改質されて水素と一酸化炭素になる。このため、SOFCでは、水素、一酸化炭素、メタン、あるいはそれらの2種以上からなる燃料であればそのままアノードへ導入すればよいが、燃料にメタン以外の炭化水素、すなわち炭素数2以上の炭化水素が含まれていると、SOFCへの配管、特にアノードへの燃料導入管やアノードに炭素を生成し、これが電気化学反応を阻害して電池性能を劣化させてしまう。
【0012】
このため、炭素数C2以上の炭化水素を含む原燃料の場合は、水蒸気改質法や部分酸化法で予備改質して水素、一酸化炭素及びメタンを含む予備改質ガスに変えられる。予備改質に代えて、メタンも改質して水素、一酸化炭素に変えてもよい。水蒸気改質法で原燃料を改質する場合、メタン換算スチーム(モル)比(S/C比)は2以上(=完全水蒸気改質に必要な水蒸気量の2倍以上)、好ましくは3以上とされる。
【0013】
ここで、本明細書において、そのように、予備改質または改質する前の燃料を“原燃料”と言い、その原燃料を水蒸気改質法や部分酸化法で予備改質または改質してSOFCのアノードへ導入する予備改質済みの燃料(水素、一酸化炭素、メタン、あるいはそれらの2種以上を含む燃料)及び改質済みの燃料(水素、一酸化炭素のうちの一方または両者を含む燃料)を単に“燃料”と称している。
【0014】
ところで、SOFCにおいては、適量の燃料をアノードへ供給するために原燃料の流量を制御する必要があるが、その制御は一般的には次のように行うことができる。SOFCの効率を決める一つの要因として燃料利用率がある。燃料利用率は、投入した燃料に対し、どれだけ発電に利用できたかを示す指標である。より具体的に言えば、アノードへ導入する燃料量に対する実際に発電に寄与する燃料量の比率であり、アノードへ導入する燃料のうちどれだけ発電に利用されるかを示す比率である。従って、燃料利用率が高いほど発電効率が高くなるので、一般的には、できる限り燃料利用率を高めるような工夫をし、できる限り高い燃料利用率で運転する。
【0015】
しかし、燃料利用率には理論上、そして実用上も上限がある。図11はその事実を説明する図で、電流密度を例えば0.2A/cm2と一定にして、燃料利用率を高めた場合のSOFCセル中における燃料出口付近のセル電圧の変化を示している。図11のとおり、SOFCセルでの燃料利用率が高くなるにつれてセル電圧が漸次低下し、燃料利用率が90%程度を超えるとセル電圧が急激に落ち込む。
【0016】
そのようにセル電圧が落ちてくる現象は、アノード側での酸素分圧の増加を意味しており、酸素分圧がある一定値以上に増加すると、アノード中の触媒金属、例えばニッケル(Ni)が酸化してNiOに変化し、Niの酸化に伴って起こる格子膨張によりアノードが破損し、安全性を損なってしまう。これが“燃料枯れ”と呼ばれるもので、セルに十分な燃料が行き渡らず、発電を損なうことになる。
【0017】
SOFCセルのアノードに供給された燃料は出口に向けて順次消費されていくため、燃料枯れは、単セルでも、複数のセルを配置したSOFCスタックでも、また複数のSOFCスタックを併置したSOFCバンドルでも、通常、アノードでの燃料の出口側で起こり得る。加えて、実際のSOFCセル、SOFCスタックあるいはSOFCバンドルの場合には、若干の燃料リークや、電極内部のガス拡散が律速(支配的)となり、これらに起因して燃料利用率は85%程度が限度となる。
【0018】
〈分散型電源システムについて〉
ところで、燃料電池は、太陽光発電、太陽熱発電などとともに分散型電源として期待されているが、通常、分散型電源システムにおいては、発電に伴い発生したCO2はほとんど回収されることなく、大気中に放出される。SOFCその他、各種燃料電池に関しても、一般的にCO2を回収することはない。
【0019】
〈従来のSOFCについて〉
図1のとおり、従来のSOFCセルでは、燃料を水蒸気により改質し、生成改質ガスをSOFCセルのアノードに供給するとともに、空気をカソードに供給して発電することで電気を発生させる。燃料利用率は85%程度が限度であることから、SOFCセルでの残燃料つまりアノードオフガスと残空気つまりカソードオフガスを混合し燃焼(混合燃焼)させる。
【0020】
SOFCセルで発生するアノードオフガスには、H2O、CO2のほか、燃料利用率の関係からSOFCセルで未利用のH2、COが15%以上含まれており、カソードオフガスにはSOFCセルで未利用のO2が含まれている。そこで、未利用のH2、COを有効利用するために、図1のとおり、アノードオフガスをカソードオフガスと混合して燃焼し、その発生熱をSOFCセルの保温に利用することが考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかし、そのようにアノードオフガスをカソードオフガスと混合燃焼してしまうと、燃焼排ガスにはCO2に混じって多量の窒素が混入することになり、燃焼排ガスからのCO2の分離回収が困難になる。また、その排出燃焼ガスは、例えばコジェネレーションシステムにおける水蒸気発生用や給湯用などにも利用されるが、水蒸気や温湯の需要量にも限度があり、多量の窒素が混入することにも変りはない。
【0022】
そこで、SOFCセルを多段に構成し、後段のSOFCセルにおいて、発電により強制的にオフガスを燃焼させ、燃料利用率を90%程度まで高め、その後、ガスを冷却・圧縮することによりCO2を分離回収することが提案されている。図2はその先行技術(Westinghouse)の概略を説明する図である。図2のとおり、SOFCセルを二段(多段)に配置して、二段目(二段目以降)のSOFCセルをオフガス酸化用のセルとする。そして、オフガス酸化用セルに一段目のSOFCセルからのアノードオフガスとカソードオフガスを導入して、燃料利用率を90%程度まで高める。
【0023】
そして、オフガス酸化用セルからのアノードオフガスを冷却して、その中の水蒸気は冷却・凝縮し、CO2を分離回収する。さらに、それらの成分を回収した後の残余のアノードオフガスをオフガス酸化用セルからのカソードオフガスと混合燃焼して燃焼排ガスとして排出する。しかし、このシステムでの燃料利用率は90%程度で限度であり、オフガス酸化用セルは依然、そのアノードが酸化する危険がある。
【0024】
本発明は、固体酸化物形燃料電池システムにおける以上の諸問題を解決してなる、固体酸化物形燃料電池から効率的にCO2を分離回収するためのシステム及び固体電解質形燃料電池から効率的にCO2を分離回収する方法を提供することを目的とするものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明(1)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムであって、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムである。
【0026】
本発明(2)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムであって、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなり、且つその運転時に、前記固体酸化物アノードで構成されたアノードオフガス完全酸化用の模擬セルを短絡させてなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムである。
【0027】
本発明(1)〜(2)の固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムにおいて、前記固体酸化物アノードの構成材料としては、例えばペロブスカイト型の酸化物を使用することができる。
【0028】
本発明(3)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法であって、固体酸化物形燃料電池セルを二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出される燃料オフガスを強制的に酸化させることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法である。
【0029】
本発明(4)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法であって、固体酸化物形燃料電池セルを二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させ、且つその運転時に、前記固体酸化物アノードで構成されたアノードオフガス完全酸化用の模擬セルを短絡させることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法である。
【0030】
本発明(3)〜(4)の固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法において、前記固体酸化物アノードの構成材料としては、例えばペロブスカイト型の酸化物を使用することができる。
【発明の効果】
【0031】
前記のように、従来技術や先行技術の場合には、SOFCからのオフガス中のCO2濃度を極めて高濃度に高めることは困難である。本発明によれば、SOFCからのオフガス中のCO2濃度を99%乃至その近傍まで高めることが可能であり、CO2の分離回収を容易にするだけでなく、分離回収するCO2濃度の純度も上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来技術(SOFCオフガス混合燃焼等)を説明する図である。
【図2】先行技術(Westinghouse)の概略を説明する図である。
【図3】本発明のSOFCを説明する図である。
【図4】本発明のSOFCを説明する図である。
【図5】本発明を説明する図である。
【図6】本発明を説明する図である。
【図7】本発明の前提となる従来のSOFCを説明する図である。
【図8】本発明の前提となる従来のSOFCを説明する図である。
【図9】本発明の前提となる従来のSOFCを説明する図である。
【図10】本発明の前提となる従来のSOFCを説明する図である。
【図11】本発明の前提となる事実を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明(1)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムである。そして、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなることを特徴とする。
【0034】
本発明(2)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムである。そして、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなり、且つその運転時に、前記固体酸化物アノードで構成されたアノードオフガス完全酸化用の模擬セルを短絡させてなることを特徴とする。
【0035】
本発明(3)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法である。そして、固体酸化物形燃料電池セルを二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出される燃料オフガスを強制的に酸化させることを特徴とする。
【0036】
本発明(4)は、固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法である。そして、固体酸化物形燃料電池セルを二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させ、且つその運転時に、前記固体酸化物アノードで構成されたアノードオフガス完全酸化用の模擬セルを短絡させることを特徴とする。
【0037】
〈先行技術のSOFCシステム〉
前述図2のとおり、先行技術のSOFCセルでは、燃料を水蒸気改質し、生成した改質ガスをSOFCセルのアノードに供給するとともに、空気をカソードに供給して発電することで電気を発生させる。ここまでは、従来のSOFCシステムと同じである。先行技術のSOFCシステムでは、SOFCセルに続きオフガス酸化用セル(以下“先行技術:オフガス酸化用セル”とする)を配置する。
【0038】
ここで“先行技術:オフガス酸化用セル”は、通常の発電セルであるSOFCセル(「SOFCセルA」とする)と同じ材料で構成したセルであり、燃料利用率を90%程度まで上げ得るが、これで限度である。このため“オフガス酸化用セル”を経た後のアノードオフガスには尚(なお)、10%程度の水素およびCOが残ることになり、当該残分の水素およびCOは混合燃焼により低減させるほかはない。このため“オフガス酸化用セル”を経た残燃料つまりアノードオフガスと残空気つまりカソードオフガスを混合し燃焼(混合燃焼)させる。
【0039】
〈本発明のSOFCシステム〉
図3は本発明のSOFCシステムを説明する図である。図3のとおり、本発明のSOFCセルでは、原燃料を水蒸気改質し、生成した改質ガスをSOFCセルのアノードに供給するとともに、空気をカソードに供給して発電することで電気を発生させる。ここまでは、従来のSOFCシステム、先行技術のSOFCシステムと同じである。
【0040】
本発明のSOFCシステムでは、SOFCセル(すなわち「SOFCセルA」)に続き、“アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セル”すなわち“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”を配置する。先行技術のSOFCシステムでも“先行技術:オフガス酸化用セル”を配置するが、当該“先行技術:オフガス酸化用セル”はSOFCセルAと同じ材料で構成されたセルであり、当該“先行技術:オフガス酸化用セル”の燃料利用率は90%程度まで上げ得るが、これで限度である。
【0041】
これに対して、本発明のSOFCシステムで配置する、本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”は燃料利用率を100%乃至ほぼ100%、すなわち燃料を完全乃至ほぼ完全に利用する“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”である。このためアノードの構成材料として、アノードとしての性能は劣るが、アノード側での酸素分圧が増加しても酸化されることのない材料を使用する。
【0042】
そのようなアノード(燃料極)の構成材料としては酸化物、例えばペロブスカイト型の酸化物が挙げられる。その例としてはLaXSr(1-X)CrYMn(1-Y)O3(0.1≦x≦0.4、0.3≦y≦0.7)を挙げることができ、その一例としてLa0.2Sr0.8Cr0.5Mn0.5O3を挙げることができる。この材料は、SOFCセルのアノードとしての性能は劣るが、酸素に侵されることなく、模擬SOFCセルとして長期間使用することができる。
【0043】
ここで、本明細書中“模擬SOFCセル”とは、セル構造としてはSOFCと同様であるが、電力を取り出すためのものではなく、“前段の発電用SOFCから排出されるアノードオフガス中の水素およびCOを水蒸気とCO2へ変えるためのSOFCセル”との意味である。
【0044】
〈通常の発電用SOFCセルと“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”について〉
図4は通常の発電用SOFCシステムの構成と対比して、本発明のアノードオフガス酸化用模擬SOFCシステムの構成を説明する図である。図4(a)のとおり、通常の発電用SOFCシステムにおいては、SOFCセルのアノードとカソードの間に負荷をかけることにより電力を取り出すことができる。
【0045】
これに対して、図4(b)のとおり、本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”の場合には、SOFCセルに負荷をかけず、アノードとカソードとの間を導線で結んで両電極間に電流を流して短絡させる。短絡(ショート)とは“触れるべきでない所で導線が触れ合って抵抗が小さくなり、大きな電流が流れる”ことを意味するが、本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”では、“前段の発電用SOFCから排出されるアノードオフガス中の水素およびCOを水蒸気とCO2へ変える”ために当該セルでの発生電流を短絡させることを目的として、アノードとカソードとの間を導線で結ぶものである。
【0046】
本発明のアノードオフガス酸化用模擬SOFCセルにおいて、そのようにアノードとカソードとの間を導線で結んで短絡させることにより、発電用SOFCセルからのアノードオフガス中の残燃料である水素およびCOの全部乃至ほぼ全部を水蒸気とCO2へ変えることにより、アノードオフガス中のCOを完全乃至ほぼ完全に除去し、低減させる。すなわち、本発明では、通常の発電用SOFCセルの後段に、酸化物からなるアノードで構成されたアノードオフガス酸化用模擬SOFCセルを配し、且つ、アノードオフガス酸化用模擬SOFCセルを短絡させることによって、空気極側からアノードオフガス側に強制的に酸素イオン(O2-)を注入し、アノードオフガスを酸化してCO2を濃縮し、それに続き当該CO2を分離回収するものである。
【0047】
ここで“短絡”とは、下記のように“・・・触れるべきでない所で導線が触れ合って抵抗が小さくなり、大きな電流が流れること・・・”などマイナーな意味で使用される場合が多いが、本発明においては“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセルによって、発電用SOFCセルからのアノードオフガス中の残燃料である水素およびCOの全部乃至ほぼ全部を水蒸気とCO2へ変えるために、アノードオフガス酸化用模擬SOFCセルのカソードとアノードとを導線で結ぶ”との意味で使用している。
なお、上記“短絡”により電流が流れるが、その際発生する熱は発電用SOFCセルの運転温度保持、保温などに利用する。
「(2)短絡 われわれの使う電気器具はみな一定の抵抗をもっていて、この抵抗と電圧とによりきまった電流が流れる。だから配線設備などをする場合には、流れる電流の大きさを考えて適当な太さの導線を選び、また必要な絶縁を施さなければならない。ところが、導線の絶縁布・ゴムなどが取れて、線と線とがじかに触れ合うと、そこの抵抗は非常に小さいので、きわめて大きな電流が流れることになる。このために装置がこわれたり、また電流の流れる各部分の温度が上がって、火事の原因にもなる。また、電気回路の中で不注意に金属の物体を扱ったり、絶縁物をぬらしたりしても同じような結果を起す。このように、触れるべきでない所で導線が触れ合って抵抗が小さくなり、大きな電流が流れることを、短絡(ショート)という。短絡が起きたとき電流をすぐ切るために、ヒューズを所々に入れておく。」(非特許文献1)
【0048】
【非特許文献1】昭和29年1月25日、実教出版株式会社発行、真島正市外6名著「物理の教室(上)」p.15
【0049】
〈本発明の“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”の構成例について〉
図5は、本発明の固体酸化物形燃料電池システムで用いるアノードオフガス酸化用模擬SOFCスタックの構成例を説明する図で、3つのSOFCセルを積層して構成した例を示している。なお、単電池を複数層積層した構造体を本明細書及び図面中適宜スタックと指称している。図5のとおり、アノード2、電解質3、カソード4からなるSOFCセルをインターコネクタを介して3個積層してスタックを構成している。
【0050】
最下部のインターコネクタの周縁上面にセパレータDを配置し、セパレータDの上面にセパレータCを配置し、セパレータCの上面にインターコネクタを配置し、インターコネクタの周縁上面にセパレータDを配置し、セパレータDの上面にセパレータCを配置し、セパレータCの上面にインターコネクタを配置し、それら各部材間はシール材による接合箇所Sとして示すようにシール材Sによりシールし固定する。3個の各SOFCセルは、セパレータDで囲われた空間に配置し、それぞれセパレータCにより支持する。
【0051】
本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”について、その電解質の材料としては、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)等の焼結体が用いられ、空気極の材料としては、例えばSrドープのLaMnO3等の多孔質体が用いられる。本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”において、カソード材料、電解質材料については、通常の発電用SOFCセルと同様の材料を用いることができる。
【0052】
そして、アノードの材料としては、前記のとおり、ペロブスカイト型の酸化物などが挙げられる。これを、通常の発電用SOFCセルとの関係で言えば、アノードの構成材料として、通常の発電用SOFCセルでは、例えばニッケルとイットリア安定化ジルコニアの混合物(Ni/YSZサーメット)等を使用するのに対して、本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”においては酸化物、例えばペロブスカイト型の酸化物を用いる点で基本的に相異する。
【0053】
本発明に係る“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”において、そのカソードへは、その前段に置いた通常の発電用SOFCセルから出るカソードオフガスを導入する。通常の発電用SOFCセルから出るカソードオフガス中の酸素は、“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”のカソードで酸素イオン(O2-)となり、電解質を通ってアノード側に至る。そして、当該アノード側で、その前段に置いた通常の発電用SOFCセルから出るアノードオフガス中の水素およびCOと反応し、それぞれ水蒸気(H2O)および二酸化炭素(CO2)を生成する。
【0054】
そのため“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”のアノードから排出するアノードオフガスには、通常の発電用SOFCセルのカソードに導入した空気に由来する窒素等を含まないので、CO2の分離回収を容易にし、分離回収するCO2の純度も上げることができる。本発明によれば、回収CO2濃度を99%乃至その近傍まで高めることが可能である。
【0055】
図6は、本発明における“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”を含む固体酸化物形燃料電池システムの態様例を説明する図である。図6のとおり、水気化器、水蒸気改質器、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の通常の発電用SOFCセル、“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”を配置する。水気化器では水から原燃料の改質用水蒸気を発生させる。その加熱源として“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”からのアノードオフガスとカソードオフガスの熱を利用する。
【0056】
原燃料は、水蒸気と混合され、水蒸気改質器へ導入されて改質される。水蒸気改質器で生成した水素、COを主成分とする改質ガスは発電用SOFCセルのアノードへ導入され、発電用SOFCセルのカソードへは空気が導入される。発電用SOFCセルで発電した電力は直流電源として各種電気機器(負荷)に使用し、またインバータにより交流電流である商用電源に変え、各種電気機器に使用される。
【0057】
発電用SOFCセルからのアノードオフガス、カソードオフガスは、それぞれ“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”のアノード、カソードへ導入される。“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”は、アノードオフガス酸化用模擬SOFCセルのカソードとアノードとを導線で結んで短絡させ、通常の発電用SOFCセルから排出されるアノードオフガス中の水素およびCOの全部乃至殆ど全部を水蒸気とCO2へ変えるものである。
【0058】
発電用SOFCセルからのアノードオフガスには未利用の水素、未利用のCOが含まれている。すなわち、発電用SOFCセルへ導入された燃料中の水素およびCOについては、その15%程度が未利用のままアノードオフガス酸化用模擬SOFCセルのアノードへ導入され、その全部またはほぼ全部が水蒸気とCO2へ変換される。
このように、発電用SOFCセルでの未利用水素およびCOの全部またはほぼ全部を水蒸気とCO2へ変換するのがアノードオフガス酸化用模擬SOFCセルの役割であり、そのため“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”を含む固体酸化物形燃料電池システムの運転中、アノードオフガス酸化用模擬SOFCセルのカソードとアノード間を短絡させておくことが必須である。
【0059】
本発明における“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”を含む固体酸化物形燃料電池システムにおいて、原燃料中のC成分は、SOFCの通常の発電セル、“アノードオフガス酸化用模擬SOFCセル”を経て、実質上その全部がCO2となり、副次的にH2Oを生成するが、それらは水気化器を経てCO2とドレインに分離され取り出される。
【符号の説明】
【0060】
1:セル
2:アノード
3:電解質(膜)
4:カソード
5:支持基体
6:インターコネクタ
7:枠体(インターコネクタ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムであって、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システム。
【請求項2】
固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムであって、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなり、且つその運転時に、前記固体酸化物アノードで構成されたアノードオフガス完全酸化用の模擬セルを短絡させてなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムにおいて、前記固体酸化物アノードの構成材料がペロブスカイト型の酸化物であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システム。
【請求項4】
固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法であって、固体酸化物形燃料電池セルを二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出される燃料オフガスを強制的に酸化させることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法。
【請求項5】
固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法であって、固体酸化物形燃料電池セルを二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させ、且つその運転時に、前記固体酸化物アノードで構成されたアノードオフガス完全酸化用の模擬セルを短絡させることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法。
【請求項6】
前記請求項4または5に記載の固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法において、前記固体酸化物からなるアノードの構成材料がペロブスカイト型の酸化物であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法。
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムであって、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システム。
【請求項2】
固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムであって、固体酸化物形燃料電池を二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させるようにしてなり、且つその運転時に、前記固体酸化物アノードで構成されたアノードオフガス完全酸化用の模擬セルを短絡させてなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムにおいて、前記固体酸化物アノードの構成材料がペロブスカイト型の酸化物であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システム。
【請求項4】
固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法であって、固体酸化物形燃料電池セルを二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出される燃料オフガスを強制的に酸化させることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法。
【請求項5】
固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法であって、固体酸化物形燃料電池セルを二段構成とし、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルの後段に、アノードを固体酸化物で構成したアノードオフガス中の水素およびCO酸化用の模擬固体酸化物形燃料電池セルを配することにより、前段に置いた固体酸化物形燃料電池の通常の発電セルから排出されるアノードオフガスを強制的に酸化させ、且つその運転時に、前記固体酸化物アノードで構成されたアノードオフガス完全酸化用の模擬セルを短絡させることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法。
【請求項6】
前記請求項4または5に記載の固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法において、前記固体酸化物からなるアノードの構成材料がペロブスカイト型の酸化物であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池からCO2の分離回収システムの運転方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−150988(P2012−150988A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8878(P2011−8878)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】
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