説明

固体酸化物形燃料電池システムおよび接合材

【課題】高温の作動温度領域下でも、電極にガスを供給するためのガス管と単セルとが高い気密性と耐久性とを長期にわたって保持して接合された固体酸化物形燃料電池(SOFC)システムを提供すること。また、そのような高い気密性と耐久性を有する接合部を形成するために用いる接合材を提供すること。ならびに、そのような接合材を用いてSOFCの単セルとガス管とを接合する方法を提供すること。
【解決手段】本発明によって提供される固体酸化物形燃料電池システム100は、燃料極12と空気極16と固体電解質14とを備えるSOFC10と、SOFC10に接合されてガスを供給するためのガス管20とを備え、SOFC10とガス管20との接合部1は、クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶がガラスマトリックス中に析出しているガラスからなる接合材により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)システムに関し、詳しくは、SOFC(単セル)と該SOFCに燃料ガスまたは酸素含有ガスを供給するためのガス配管とを接合する接合材、および該接合材を用いた接合方法、ならびに接続されたSOFCおよびガス配管を備えたSOFCシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:以下、単に「SOFC」ということもある。)は、第三世代型燃料電池とも呼ばれており、他の燃料電池に比べて以下のような利点がある。例えば、SOFCでは作動温度を高くできるため反応促進剤(触媒)が不要であり、ランニングコストの低減となる。また、高温の排出ガス(排熱)を再利用することで、全体の効率(総合効率)を高めることが可能である。さらに、SOFCは出力密度が高いので小型化が可能である。これらのことから、蒸気タービン、ガスタービン等の内燃機関に代わる分散型発電装置として期待されている。
【0003】
SOFCは、その基本構造(単セル)として、酸素イオン伝導体(典型的には酸素イオン伝導性のセラミック体)から成る緻密な固体電解質(例えば緻密膜層)の一方の面に多孔質構造の空気極(カソード)が形成され、他方の面に多孔質構造の燃料極(アノード)が形成(例えば積層)されることにより構成されている。燃料極が形成された側の固体電解質の表面には燃料ガス(典型的にはH(水素))が供給され、空気極が形成された側の固体電解質の表面にはO(酸素)含有ガス(典型的には空気)が供給される。また、このようなガスをSOFCの両電極に供給するために、ガス源とSOFCとを連結して上記各ガスを流通させるガス管がSOFCに接続される。
【0004】
SOFC用の固体電解質としては、化学的安定性および機械的強度の高さから、ジルコニア系材料(例えばイットリア安定化ジルコニア:YSZ)からなる固体電解質が広く用いられている。かかる固体電解質(層)は、薄くなるほどイオン透過速度が上昇して充放電特性等の電池性能が向上する。このことにより、近年、SOFCの電池性能を向上させるべく固体電解質の薄層化を目的として、燃料極として機能する多孔質基材の表面に固体電解質が薄膜状に形成されてなるアノード支持形SOFCの開発が進められている。
【0005】
また、燃料極としては例えばNiOとジルコニアのサーメット、空気極としてはLaCoO、LaMnO等のペロブスカイト構造の酸化物がよく用いられる。これら電解質材料や電極材料等のSOFC構成材料は、SOFCが通常800℃〜1200℃程度の高温域で好適に動作するという温度特性を考慮するとともに、高温での酸化・還元雰囲気における化学耐久性や電気伝導性が高く、さらには相互に熱膨張率が近くなるようにして選択され、電池性能の向上化を目的としてより好ましいSOFC構成材料の改良、開発が進められている。
【0006】
この種のアノード支持形SOFCを備えたSOFCシステムの構造の一例を図1および図2に示す。図1および図2に模式的に示されるように、SOFCシステム100は、中空箱型形状の多孔質な燃料極12と、該燃料極12の外側表面に積層された緻密な固体電解質膜14と、該固体電解質膜14上に積層された多孔質な空気極16とを備えるアノード支持形SOFC10を備えている。そして、かかるSOFCシステム100は、上記燃料極12に燃料ガスを供給するためのガス管20を備える。かかるガス管20は、上記中空箱型形状の燃料極12の外側表面のうち固体電解質膜14と空気極16を形成していない対向する2つの面13,15の各面に、該ガス管20の一方の端部を接合されており、上記2つの対向する面13,15の各面につき少なくとも1本(図1および図2では1つの対向面につき2本連結されているので合計4本)のガス管20が連結されている。
【0007】
かかるSOFC10に供給される燃料ガスは、ガス管20を通って上記燃料極12におけるガス管20との連結面13から該燃料極12の中空部11(図3参照)に流入する。中空部11は、例えば、ガス管20の軸方向(ガスの流通方向)と平行に形成された燃料ガス用流路であってガス管20の内径と同程度の直径を有する中空円筒状(空洞状)の燃料ガス用流路となっている。中空部11に供給された燃料ガスは、その一部は多孔質な燃料極12内を透過(拡散)してSOFC10における充放電に寄与するとともに、残りは他方のガス管20との連結面15からガス管20を通って排出される。
【0008】
また、空気極16に供給される酸素含有ガス(典型的には空気)は、上記SOFC10の外周空間を流れ、空気極16における固体電解質膜14側の表面と反対側の表面に接触するように流通する。また、固体電解質膜14と空気極16とは、上記燃料極12の上記連結面13,15とは異なる面のうちの1面上に形成されて1組のSOFC10(すなわち単セル)を備えた構成であってもよい。あるいは、図1および図2に示されるように、SOFCシステム100は、燃料極12における上記連結面13,15とは異なる面のうちの対向する一対の面にそれぞれ固体電解質膜14と空気極16とが形成された(すなわち1つの燃料極に固体電解質膜14と空気極16とが2つずつ形成された)2組のSOFC10(スタック)を備えた構成であってもよい。
【0009】
近年、SOFCの実用化が進み、上記のような固体電解質の薄膜化やSOFC構成材料の改良化に伴ってSOFCの電池性能(発電性能)が向上した結果、従来では問題にはならなかった要素がSOFCの作動特性を左右するようになってきた。かかる要素の主たるものはSOFCでのガスリーク(例えば単セルとガス管との接合部や、単セル同士を接続するインターコネクタと単セルとの接合部でのガス漏れ)が原因として生じ得るものである。例えば、かかるガスリークによる燃料ガスの利用効率低下や、局部的な熱分布ムラの発生等が挙げられる。このような気密性不良を生じ得る構成のSOFCは、実用的な長時間の使用には好ましくなく、ガスリーク発生を防止してSOFCにおける接合部の気密性(シール性)を高めることが大きな課題となっている。
【0010】
ここで、SOFCにおける接合部の接合材料としては、接合する対象に適合し得る種々の接合材料が提案されている。例えば、特許文献1〜4に示されるように、固体電解質とインターコネクタ(セパレータともいう)とを接合する材料として、安定化ジルコニアやスピネル等を主成分とする接合材や、安定化ジルコニア等のセラミック体とガラスの混合物、あるいは金属とガラスの混合物等が提案されている。また、特許文献5では、SOFCを構成する金属枠と電解質層との間を非晶質セラミックからなる絶縁性バリア層をろう材で接合する方法が提案されている。また、特許文献6では、電極およびガスの導入・導出用の孔を備えた2枚の合金箔板であってセル全体を包む合金箔板を接合する方法が提案されている。なお、特許文献7では、Na/S電池における固体電解質と絶縁部材との接合部を接合するガラス接合体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−154525号公報
【特許文献2】特開2004−39573号公報
【特許文献3】特表2008−527680号公報
【特許文献4】特表2008−529256号公報
【特許文献5】特開2005−190862号公報
【特許文献6】特許4184139号公報
【特許文献7】特開平11−307118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、例えば0.5mm以上の厚みを有する固体電解質(例えばYSZ製)を備えた従来のSOFCにおいて、かかるSOFCとガス管とを接合する一般的な方法として、主には、SOFCの使用温度(例えば700℃〜1000℃)下で柔軟性を有し得るガラスまたは金属材料を接合材として使用し、かかる接合材をガス管(例えばYSZ製の緻密な管状部材)と上記固体電解質との間に挿入し、加圧、接合(シール)していた。あるいは、このような電解質とガス管とが同質の材料であることを利用して、接合予定部に上記電解質およびガス管と同質材料であるジルコニア等のスラリー(ペースト状組成物)を塗布し、焼成することにより拡散接合していた。
【0013】
一方、上述のようなアノード支持形SOFCでは、典型的には膜厚50μm以下の固体電解質膜を用いるため、かかる電解質膜とガス管とを接合するには上記のような従来の加圧シール法では、該接合部の強度が得られない虞があり不適である。また、燃料ガスとの接触により燃料極(アノード)が還元雰囲気に曝されるため、燃料極の体積変化(典型的には膨張)に伴う応力の発生により上記加圧シール部(接合部)に負荷がかかり易くなるため、かかる接合部でガスリークが発生し得る。また、上記固体電解質膜とガス管とを同質材料を介して拡散接合することも、固体電解質膜が非常に薄いため、困難である。
したがって、アノード支持形SOFCのような膜厚の小さい固体電解質を備えたSOFCにおいて、かかるSOFCとガス管との接合部であって実用的使用に十分に耐え得る強度(耐久性)と気密性(シール性)とを実現し得る接合部の形成が望まれていた。
【0014】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温の作動温度領域下でも、電極にガスを供給するためのガス管と単セルとが高い気密性と耐久性とを長期にわたって保持して接合された固体酸化物形燃料電池システムを提供することである。また、そのような高い気密性と耐久性を有する接合部を形成するために用いる接合材を提供することである。さらに、そのような接合材を用いてSOFCの単セルとガス管とを接合する方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を実現するべく、本発明により提供される燃料電池システムは、燃料極(アノード)と、空気極(カソード)と、固体電解質とを備える固体酸化物形燃料電池(SOFC)と、上記固体酸化物形燃料電池に接合されて該固体酸化物形燃料電池にガスを供給するためのガス管と、を備える固体酸化物形燃料電池(SOFC)システムである。かかるシステムでは、上記固体酸化物形燃料電池と上記ガス管との接合部は、クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶がガラスマトリックス中に析出していることを特徴とするガラスからなる接合材により形成されている。ここで、「燃料電池(具体的にはSOFC)」は、燃料極と空気極と固体電解質とを構成要素とする単セル、および該単セルを複数備えたいわゆるスタックを包含する用語である。
本発明に係る固体酸化物形燃料電池システムでは、上記SOFCと上記ガス管との接合部が、ガラスマトリックス中にクリストバライト結晶(SiO)および/またはリューサイト結晶(KAlSi)とが析出しているガラス(以下、「結晶含有ガラス」ということもある。)からなる接合材により形成されている。かかる接合材は、800℃以上の温度域、例えば800℃〜1000℃の温度域で流動し難い。したがって、かかるSOFCシステムによると、上記SOFCの使用温度が上記温度域に到達しても、上記SOFCと上記ガス管との接合部が溶出する虞はない。その一方、そのような温度域において上記接合材は柔軟性があるため、接合部に応力が生じた場合であっても該応力を緩和し得る。したがって、本発明に係るSOFCシステムは、機械的強度が向上した接合部を実現することができる。
【0016】
ここで開示される固体酸化物形燃料電池システムの好ましい一態様では、上記接合部は、SiO、Al、NaO、KOを必須構成要素とし、好ましくは付加的構成要素としてMgO、CaO、Bのうちの少なくとも一つを含む結晶含有ガラスから形成されている。特に好ましくは、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 60〜75質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 3〜15質量%;
O 5〜15質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
0〜 3質量%;
から実質的に構成されている。
かかる組成の接合部は、接合対象であるSOFC(例えば該SOFCの固体電解質)およびガス管の熱膨張率(熱膨張係数)に近似した熱膨張率を有し得る。このため、ここで開示されるSOFCシステムのSOFCを高温域(例えば700℃〜1000℃)で繰り返し使用し、該使用温度域と非使用時の温度(常温)との間で昇温と降温とを繰り返しても、上記接合部(シール部)からのガスのリークを防止し、長期にわたり高い気密性を保持することができる。またガスリークの防止により電池性能も向上させることができる。したがって、かかる構成の燃料電池システムは、優れた耐熱性と電池特性を備えた高性能のSOFCシステムを実現することができる。
【0017】
ここで開示される固体酸化物形燃料電池システムの別の好ましい一態様では、上記固体電解質および上記ガス管は、ジルコニア系酸化物から構成されている。より好ましくは、このような固体電解質とガス管との間の隙間を塞ぐように上記接合部が形成されている。
かかる構成のSOFCシステムでは、上記固体電解質およびガス管が同質材料から構成されていることにより、上記結晶含有ガラスから形成される接合材を用いて、より高い気密性と機械的強度を備えた状態でガス管とSOFCとを接合させることができる。また、典型的には緻密な固体電解質とガス管との間の隙間を塞ぐように接合部が形成されることにより、SOFCとガス管とを高い気密性と機械的強度を有して連結させることができる。したがって、かかる構成の燃料電池システムは、より優れた耐熱性と電池特性を備えた高性能のSOFCシステムを実現することができる。
【0018】
ここで開示される固体酸化物形燃料電池システムのより好ましい一態様では、上記固体酸化物形燃料電池は、燃料極と、該燃料極の表面上に100μm以下の膜厚で形成されて前記燃料極に支持される固体電解質膜と、該固体電解質膜の表面上に形成された空気極とからなる積層構造を備えている。
ここで開示される結晶含有ガラスからなる接合材は、上記のような薄膜状の固体電解質を含む多層構造を備えたSOFC(すなわち、アノード支持形のSOFC)に対しても好ましく適用することができ、かかるSOFCとガス管とを高い気密性と機械的強度を有して接合(シール)させることができる。したがって、かかるSOFCを備えたSOFCシステムは、より優れた耐熱性と電池特性を備えた高性能のSOFCシステムを実現することができる。
【0019】
また、本発明は、他の側面として、上記課題を解決する接合材を提供する。すなわち、固体酸化物形燃料電池と該固体酸化物形燃料電池にガスを供給するためのガス管とを接合するための接合材である。ここで開示される接合材は、SiO、Al、NaO、KOを必須構成要素とし、好ましくは付加的構成要素としてMgO、CaO、Bのうちの少なくとも一つを含む結晶含有ガラスから形成されている。特に好ましくは、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 60〜75質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 3〜15質量%;
O 5〜15質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
0〜 3質量%;
から実質的に構成されたガラスであって該ガラスのマトリックス中にクリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶が析出していることを特徴とするガラスからなる。
また、好適な一態様では、上記結晶含有ガラスを主成分として含むペースト状(スラリー状)の接合材(シール材)として提供される。
かかる構成の接合材を使用することによって、上述のようにSOFCとガス管とを高い気密性と機械的強度を有して接合(シール)させることができるとともに、優れた耐熱性と耐久性に備えた上記接合部を備えた高性能のSOFCシステムを提供することができる。
【0020】
ここで開示される接合材の好ましい一態様では、熱膨張係数が9×10−6/K〜12×10−6/Kとなるように調製されている。
かかる熱膨張係数(典型的には、一般的な示差膨張方式(TMA)に基づく室温(25℃)〜ガラスの軟化点以下の温度(例えば450℃)の間の平均値)は、例えば電極(例えば燃料極)材料、固体電解質材料あるいはガス管材料として好適に用いられ得るYSZ等のジルコニア系酸化物(ジルコニア系材料)の熱膨張係数と近似する。したがって、かかる構成の接合材を使用することによって、SOFCとガス管とをより一層高い気密性と機械的強度を有して接合(シール)させることができるとともに、より優れた耐熱性と耐久性に備えた上記接合部を備えた高性能のSOFCシステムを提供することができる。
【0021】
また、本発明は、固体酸化物形燃料電池と該固体酸化物形燃料電池にガスを供給するためのガス管とを接合する方法を提供する。すなわち、ここで開示されるいずれかの接合材を用意し、該接合材を固体酸化物形燃料電池とガス管との接続部分に塗布すること、そして、上記塗布された接合材を、該接合材が上記塗布した部分から流出しない温度域で焼成することによって、上記固体酸化物形燃料電池と上記ガス管との上記接続部分において該接合材からなるガス流通を遮断する接合部を形成すること、を包含する。
また、上記固体電解質と上記ガス管との隙間を塞ぐように上記固体酸化物形燃料電池と上記ガス管とを接合することが好ましい。
かかる構成の方法では、上記接続部分に塗布された接合材を焼成することによって、上述したような効果を奏する固体酸化物形燃料電池システムを提供することができる。
したがって、本発明は他の側面として、ここで開示されるいずれかの接合材を使用してSOFC(例えばジルコニア系酸化物からなる固体電解質)と、例えばジルコニア系酸化物からなるガス管とを、上記接合方法により接合することを特徴とするSOFCシステムの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】アノード支持形固体酸化物形燃料電池(SOFC)と該SOFCに接合されたガス管とを備えたSOFCシステムの一形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】アノード支持形SOFCと該SOFCに接合されたガス管とを備えたSOFCシステムの一形態を模式的に示す正面図である。
【図3】図2のIII−III線断面であって、一実施形態に係るアノード支持形SOFCシステムの要部の構成を模式的に示す図である。
【図4】他の実施形態に係るアノード支持形SOFCと該SOFCに接合されたガス管とを備えたSOFCシステムの構成を模式的に示す断面図である。
【図5】アノード支持形SOFCと該SOFCに接合されたガス管とを備えたSOFCシステムの一形態を模式的に示す斜視図である。
【図6】実施例において作成した接合体(試供体)の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、接合材を構成する結晶含有ガラスの調製方法)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(原料粉末の混合方法や単セルおよびスタックの構築方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0024】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池システム(SOFCシステム)は、該システムを構成する固体酸化物形燃料電池(SOFC)と該SOFCにガスを供給するためのガス管との間の接合部が、ガラスマトリックス中にクリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶が析出している上記結晶含有ガラスからなる接合材により形成されていることにより特徴づけられるものであり、その他の構成成分、例えばSOFCの空気極の組成やガス管の形状等は、種々の基準に照らして任意に決定することができる。
【0025】
ここで開示される接合材は、SOFCシステムを構成するSOFCと少なくとも一つのガス管とを互いに接合するための接合材であり、ガラスマトリックス中にクリストバライト(SiO)結晶および/またはリューサイト(KAlSiあるいは4SiO・Al・KO)結晶が析出し得る組成のガラス組成物(結晶含有ガラス)からなる。
【0026】
まず、結晶含有ガラスについて説明する。
SOFCシステムを比較的高温域、例えば700℃〜1200℃、好ましくは700℃〜1000℃(例えば800℃〜1000℃)で使用する場合、かかる接合材の構成成分として好適な結晶含有ガラスは、当該高温域で溶融し難い組成のガラスが好ましい。この場合、ガラスの融点(軟化点)を上昇させる成分の添加または増加により、所望する高融点(高軟化点)を実現することができる。
このような結晶含有ガラスは、必須構成成分としてSiO、Al、KOを含む酸化物ガラスが好ましい。これら必須成分のほか、目的に応じて種々の成分(典型的には種々の酸化物成分)を付加的に含むことができる。
また、クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶の析出量は、ガラス組成物中の上記必須構成成分の含有率(組成率)によって適宜調整することができる。
特に限定されないが、ガラス成分全体(クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶部分を含む)の酸化物換算の質量比で、SiO:60〜75質量%、Al:10〜20質量%、NaO:3〜15質量%、KO:5〜15質量%、MgO:0〜3質量%、およびCaO:0〜3質量%(好ましくは0.1〜3質量%)であるものが好ましい。
【0027】
SiOはクリストバライト結晶およびリューサイト結晶を構成する成分であり、接合部のガラス層(ガラスマトリックス)の骨格を構成する主成分である。SiO含有率が高すぎると融点(軟化点)が高くなりすぎてしまい好ましくない。一方、SiO含有率が低すぎると、クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶析出量が少なくなるため好ましくない。また、耐水性や耐化学性が低下する。SiO含有率がガラス組成物全体の60〜75質量%であることが好ましく、65〜75質量%程度であることが特に好ましい。
【0028】
Alはリューサイト結晶を構成する成分であり、ガラスの流動性を制御して付着安定性に関与する成分である。Al含有率が低すぎると付着安定性が低下して均一な厚みのガラス層(ガラスマトリックス)の形成を損なう虞があるとともにリューサイト結晶析出量が少なくなるため好ましくない。一方、Al含有率が高すぎると、接合部の耐化学性を低下させる虞がある。Al含有率がガラス組成物全体の10〜20質量%であることが好ましい。
【0029】
Oはリューサイト結晶を構成する成分であり、他のアルカリ金属酸化物(典型的にはNaO)とともに熱膨張率(熱膨張係数)を高める成分である。KO含有率が低すぎるとリューサイト結晶析出量が少なくなるため好ましくない。また、KO含有率およびNaO含有率が低すぎると熱膨張率(熱膨張係数)が低くなりすぎる虞がある。一方、KO含有率およびNaO含有率が高すぎると熱膨張率(熱膨張係数)が過剰に高くなるため好ましくない。KO含有率がガラス組成物全体の5〜15質量%であることが好ましく、9〜11質量%程度であることが特に好ましい。また、他のアルカリ金属酸化物(典型的にはNaO)の含有率がガラス組成物全体の3〜15質量%であることが好ましい。KOとNaOの合計がガラス組成物全体の10〜20質量%であることが特に好ましい。
【0030】
アルカリ土類金属酸化物であるMgOおよびCaOは、熱膨張係数の調整を行うことができる任意添加成分である。CaOはガラス層(ガラスフラックス)の硬度を上げて耐摩耗性を向上させ得る成分であり、MgOはガラス溶融時の粘度調整を行うことができる成分でもある。また、これらの成分を入れることによりガラスマトリックスが多成分系で構成されるため、耐化学性が向上し得る。これら酸化物のガラス組成物全体における含有率は、それぞれ、ゼロ(無添加)かあるいは3質量%以下が好ましい。例えば、MgOおよびCaOの合計量がガラス組成物全体の2.5質量%以下であることが好ましい。
【0031】
もまた任意添加成分(0質量%でもよい)である。Bはガラス中でAlと同様の作用を示すと考えられ、ガラスマトリックスの多成分化に貢献し得る。また、接合材調製時の溶融性の向上に寄与する成分である。一方、この成分が多すぎると耐酸性の低下を招くため好ましくない。Bのガラス組成物全体における含有率は、0.1〜3質量%程度が好ましい。
【0032】
また、上述した酸化物成分以外の、本発明の実施において本質的ではない成分(例えばZnO、LiO、Bi、SrO、SnO、SnO、CuO、CuO、TiO、ZrO、La)を種々の目的に応じて添加することができる。
好ましくは、接合材の熱膨張係数が、該接合対象(例えば、ガス管とSOFCの燃料極および/または固体電解質)の熱膨張係数に近似するように上述の各成分を調合して結晶含有ガラスを調製する。例えばガス管および固体電解質がYSZ等のジルコニア系酸化物の緻密体から形成されており、かかる緻密なガス管と固体電解質との間を塞ぐようにしてSOFCとガス管とを接合(シール)する場合には、上記ジルコニア系酸化物の熱膨張係数に近似させて、熱膨張係数(示差膨張方式(TMA)に基づく室温(25℃)〜(ガラスの軟化点以下の温度(例えば450℃)の間の平均値)が9×10−6/K〜12×10−6/Kとなるように組成を調整して上記結晶含有ガラスを調製すればよい。
【0033】
次に、接合材の製造方法について説明する。
上記のような組成の接合材の製造方法に関して特に制限はなく、従来の結晶含有ガラス(すなわち、クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶が析出し得る組成のガラス組成物)を製造するのと同様の方法が用いられる。典型的には、当該組成物を構成する各種酸化物成分を得るための化合物(例えば各成分を含有する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、複合酸化物等を含む工業製品、試薬、または各種の鉱物原料)および必要に応じてそれ以外の添加物を所定の配合比で乾式または湿式のボールミル等の混合機に投入し、数〜数十時間混合する。このようにして得られた混和物(粉末)は、乾燥後、耐火性の坩堝に入れ、適当な高温(典型的には1000℃〜1500℃)条件下で加熱・溶融させる。
【0034】
次いで得られたガラスを粉砕し、結晶化熱処理を行う。例えば、ガラス粉末を室温から約100℃まで約1〜5℃/分の昇温速度で加熱し、800℃〜1000℃の温度域で30分〜60分程度保持することにより、ガラスマトリックス中にクリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶を析出させることができる。
こうして得られた結晶含有ガラスは、種々の方法で所望する形態に成形することができる。例えば、ボールミルで粉砕したり、適宜篩いがけしたりすることによって、所望する平均粒径(例えば0.1μm〜10μm)の粉末状ガラス組成物(結晶含有ガラス)を得ることができる。
【0035】
このようにして得られた粉末状ガラス組成物に対して、水を適量加えて上記と同様のボールミルを用いて混合する。その後、所定時間の乾燥処理を実施することにより、本発明に係る粉末状の接合材を得ることができる。
このようにして得られた粉末状の接合材は、従来の接合材と同様に、典型的にはペースト状に調製されて、接合対象の接続部分(被接合部分)に塗布することができる。例えば、得られた上記接合材に適当なバインダーや溶媒を混合してペーストを調製することができる。なお、ペーストに用いられるバインダー、溶媒および他の成分(例えば分散剤)は、特に限定されるものではなく、ペースト製造において従来公知のものから適宜選択して用いることができる。
例えば、バインダーの好適例としてセルロースまたはその誘導体が挙げられる。具体的には、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの塩が挙げられる。バインダーは、ペースト全体の5〜20質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0036】
また、ペースト中に含まれ得る溶媒としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、または他の有機溶剤が挙げられる。好適例としてエチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ターピネオール等の高沸点有機溶媒またはこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。ペーストにおける溶媒の含有率は、特に限定されないが、ペースト全体の1〜40質量%程度が好ましい。
【0037】
ここで開示される接合材は、従来のこの種の接合材と同様に用いることができる。具体的には、接合対象であるSOFC(例えば固体電解質および/または燃料極)とガス管の被接合部分を相互に接触・接続し、当該接続した部分にペースト状に調製された接合材を塗布する。そして、かかる塗布物を適当な温度(典型的には60℃〜100℃、例えば80℃±10℃)で乾燥させる。次いで、好ましくはSOFCの使用温度域(例えば700℃〜1000℃、あるいはそれよりも高い温度域、例えば800℃〜1200℃)と同等またはそれよりも高い温度域であってガラスが流出しない温度域(例えば使用温度域が700℃〜1000℃の場合、典型的には800℃〜1200℃、使用温度域が概ね1200℃までの場合、典型的には1200℃〜1300℃)で焼成する。このことにより、SOFCとガス管との接続(連結)部分においてガス流通を遮断する(すなわちガスリークが無い)接合部(シール部)が形成される。例えば、SOFCにおける緻密な固体電解質とガス管との間に生じ得る隙間が塞がれるように上記接合材を付与してSOFCとガス管とを接合する。このようにして形成された接合部では、ガス管内を流通するガス(例えば燃料ガス)がリークすることなくSOFCに供給される。また、かかる接合材は、SOFCの使用温度域において柔軟性を示すことにより、例えば燃料ガスの接触に伴う還元膨張等によって上記接合部に応力が発生し得る場合でも当該接合部の気密性および耐久性は高く維持され得る。
【0038】
ここで開示される接合材を好ましく適用することができるSOFCおよびガス管について説明する。
かかる接合材は、種々の構造のSOFC(例えば、従来公知の平板型(Planar)、円筒型(Tubular)、あるいは円筒の周側面を垂直に押し潰したフラットチューブラー(Flat tubular)型等)に対して好ましく適用することができ、SOFCの形状またはサイズに特に限定されない。かかる接合材は、例えば強度不足等により加圧シールや拡散接合による接合が困難な接合対象についても好ましく接合させ得ることから、例えば、燃料極を支持基材として該燃料極上に薄膜状(例えば膜厚が100μm以下の膜状)に形成された固体電解質を備えた構成のアノード支持形SOFCに対しても好適に適用することができる。以下、特に限定することを意図しないが、ここで開示されるSOFCについて、アノード支持形SOFCを例として詳細に説明する。
【0039】
ここで開示されるSOFCが備える固体電解質としては、酸化(空気)雰囲気および還元(燃料ガス)雰囲気のいずれにおいても酸素イオン伝導性が高く、ガス透過性の無い緻密な層を形成できる材料から構成されることが好ましく、特にジルコニア系酸化物からなる固体電解質が好適である。このようなジルコニア系酸化物として、典型的にはイットリア(Y)で安定化したジルコニア(YSZ)が用いられる。その他、カルシア(CaO)で安定化したジルコニア(CSZ)、スカンジア(Sc)で安定化したジルコニア(SSZ)等が挙げられる。
【0040】
ここで開示されるSOFCが備える燃料極および空気極は、従来のSOFCと同様でよく特に制限はない。例えば、燃料極としてはニッケル(Ni)とYSZのサーメット、ルテニウム(Ru)とYSZのサーメット等が好適に採用される。空気極としてはランタンコバルトネート(LaCoO)系やランタンマンガネート(LaMnO)系のペロブスカイト型酸化物が好適に採用される。これら材質からなる多孔質体をそれぞれ燃料極および空気極として使用することが好ましい。
【0041】
ここで開示されるSOFCの単セルおよびそのスタックの製造は、従来のSOFCの単セルとスタックの製造に準じればよく、本発明のSOFCを構築するために特別な処理を必要としない。従来用いられている種々の方法により、固体電解質、燃料極および空気極を形成することができる。
例えば、アノード支持形SOFCを構築する場合には以下のようにして行う。まず、支持基材(支持体)として機能し得る燃料極を作製する。まず、所定のサーメット材料(例えば平均粒径0.1μm〜10μm程度のYSZ粉末、平均粒径1μm〜10μm程度のNiO粉末、バインダー、分散剤、溶媒)からなるスラリー状の燃料極用成形材料を調製する。次いで、かかる成形材料を用いて、例えば押出成形等により燃料極成形体を作製する。ここで、燃料極成形体の形状としては、シート状(または平板状)、もしくは燃料ガスを燃料極内に流入させるための中空部(ガス流路)を備えた中空箱型状、または中空扁平状(フラットチューブラ−状)であることが好ましい。
【0042】
次に、固体電解質材料を調製する。すなわち所定の材料(例えば平均粒径0.1μm〜10μm程度のYSZ粉末、バインダー、分散剤、溶媒)を混合してスラリー状(ペースト状)の固体電解質用の成形材料を調製する。この固体電解質用成形材料を上記燃料極成形体の上に、膜厚100μm以下(典型的には1μm〜100μm、好ましくは10μm〜100μm、例えば10μm〜50μm)で印刷成形することにより未焼成の固体電解質膜を形成する。この燃料極成形体に支持された固体電解質膜を乾燥した後に、1200℃〜1400℃の焼成温度で大気中で焼成する。これにより多孔質の燃料極上に緻密な固体電解質膜が形成されてなる焼成体が得られる。
【0043】
次に、空気極材料を調製する。すなわち所定の材料(例えば平均粒径1μm〜10μm程度のLaSrO粉末、バインダー、分散剤、溶媒)からなるスラリー状の空気極用の成形材料を調製する。この空気極用成形材料を上記得られた焼成後の固体電解質膜の表面に膜厚100μm以下(典型的には1μm〜100μm、好ましくは10μm〜100μm、例えば10μm〜50μm)で印刷成形することにより未焼成の空気極層(膜)を形成する。これを乾燥後、1000℃〜1200℃の焼成温度で大気中で焼成する。このようにして、上記固体電解質膜上に多孔質な空気極を形成し、燃料極、固体電解質膜、および空気極からなる積層構造を備えたアノード支持形SOFC(単セル)が製造される。
【0044】
上記のようなSOFCに連結されるために該SOFCと接合されるガス管は、SOFCにガスを供給するために用いられる従来のガス管と同様でよく、特に制限されない。例えば固体電解質と同質材料であるYSZ等のジルコニア系酸化物の緻密体からなるガス管は、上記接合材により固体電解質と接合させ易く、好適に用いることができる。ガス管の形状、サイズについては、連結されるSOFCのサイズや接合部分の大きさに合わせて適宜設定される。
【0045】
上記ガス管を製造する方法は、SOFCにガスを供給するための従来のガス管を製造する方法と同様でよく、特に限定されない。例えば、所定の材料(例えば平均粒径0.1μm〜10μm程度のYSZ粉末、バインダー、分散剤、溶媒)からなるスラリー状のガス管用成形材料を調製する。次いで、かかる成形材料を用いて例えば押出成形等によって所定サイズの管状に成形する。得られた成形体を大気中で適当な温度域(例えば1300℃〜1600℃)で焼成し、管状のガス管を作製することができる。また、SOFC用の市販のガス管を用いてもよい。
【0046】
そして、ここで開示される接合材を使用して、上記製造したSOFCとガス管とを接合して連結させることにより、本発明に係る固体酸化物形燃料電池システムを製造することができる。
以下、上述した図1および図2に示した構成のSOFCシステムに適用した本発明の好適例を説明する。なお、図3は、図2のIII−III線断面であって、本発明を適用した図1に示されたSOFCシステムの要部の構成を模式的に示す図である。図4は、他の実施形態に係るアノード支持形SOFC40とガス管50とを備えたSOFCシステム110を模式的に示す断面図である。また、かかる図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付すが、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0047】
上述のような図1および図2に示される構成のSOFCシステム100において、上記結晶含有ガラスからなる接合材1は、図3に示されるように、上記燃料極12の一方の連結面13とガス管20の端面21とを当接させ、かかる面同士を接合させるように付与される。また、これに加えて、かかる接合材1は、上記連結面13と上記ガス管20の端面21との当接面(接合面)を越えて固体電解質膜14との端部にまでかかるように付与されて、緻密なガス管20と緻密な固体電解質膜14との間を上記接合材1で塞いでガス管20と固体電解質膜14との間で露出し得る多孔質の燃料極12部分(典型的には端部)を覆うように付与されることが好ましい。燃料極12の他方の連結面15とガス管20の端面23についても同様である。このように接合材1を付与することにより、緻密な固体電解質膜14とガス管20との間で生じ得る隙間(すなわち露出し得る多孔質な燃料極12の一部分)が上記接合材1により完全に塞がれるような状態でガス管20とSOFC10とを接合、連結させることができる。このような接合により形成された接合部1は、高い気密性と強度を有するため、かかるSOFCシステム100は、ガスリークが好ましく防止されて高い耐久性と電池特性を有する優れた電池性能を備えたSOFCシステムを実現することができる。
【0048】
本発明に係るSOFCシステムの他の好適例としては、例えば図4に示されるように、中空箱型形状の多孔質な絶縁性支持基材を備えた構成のSOFCシステム110であってもよい。このSOFCシステム110は、例えばジルコニア系酸化物またはマグネシア等の多孔質体から構成される絶縁性の支持基材であって燃料ガスを流通させる流路を備えた中空箱型形状の支持基材30と、該支持基材の対向する一対の面上に形成された燃料極層42と、該燃料極層42上に積層された固体電解質膜44と、該固体電解質膜44上に積層された空気極層46とから構成されるSOFC40とを備える。またかかるSOFCシステム110は、上記SOFC40の支持基材30の一対の端面に当接、接合されたガス管50を備える。このような構成のSOFCシステム110では、図4に示されるように、上記結晶含有ガラスからなる接合材1は、ガス管50と支持基材30の端面との当接面同士を接合されるように付与されるとともに、かかる当接面(接合面)を超えて固体電解質膜44の端部にまでかかるように付与されて、緻密なガス管50と緻密な固体電解質膜44との間を塞ぎ、該ガス管50と該固体電解質膜44との間で露出し得る多孔質の支持基材30部分(典型的には端部)と多孔質の燃料極層42部分を覆うように付与されることが好ましい。このことにより、支持基材30にガス管50が連結された構成のSOFCシステム110においても、ガス管50と固体電解質膜44との間で生じ得る隙間が上記接合材1によって完全に塞がれるような状態で、SOFC40とガス管50とを接合、連結させることができる。
【0049】
以上、本発明に係るSOFCシステムの好ましい実施形態を図1〜図4に示して説明したが、これらに限定されない。SOFCシステムの別の好適例としては、図5に示されるように、扁平な角筒形状を有する燃料極62を備えた構成のSOFCシステム120でもよい。かかるシステム120では、角筒形状の燃料極62の内部全体が燃料ガス用流路61となっており、かかる流路61の形状に合わせてガス管70が燃料極62に接合されている。このようにガス管70から供給された燃料ガスが燃料極62の内部全体を流通可能であるような構成は、燃料ガスと燃料極62との接触効率が向上するので好ましい。
また、図5に示されるように、1つの燃料極62における1面または2面(典型的には互いに対向する一対の面)上に、所定面積で形成された固体電解質膜64と該固体電解質膜64上に積層された空気極66とからなる積層体(典型的には矩形状の)を、ガス管70の軸方向(ガスの流通方向)と平行になるように複数配列することによって、複数のSOFC60が燃料ガスの流通方向と平行に並列したスタックを備えるSOFCシステム120が好ましく提供される。
【0050】
以下、図6を参照しつつ本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0051】
<アノード支持形SOFC(単セル)の作製>
3〜8mol%イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末(平均粒径:約1μm)および酸化ニッケル(NiO)粉末に一般的なバインダー(ここではポリビニルアルコール(PVA)を使用した。)、および溶媒(ここでは水)を添加して混練した。次いで、この混練物(スラリーまたはペースト状の燃料極用成形材料)を用いてシート成形を行い、直径20mm×厚み1mm程度の円板形状の燃料極成形体を得た。
次いで、3〜8mol%YSZ粉末(平均粒径:約1μm)に上記と同様のバインダー、分散剤、および溶媒を添加して混練した。次いで、この混練物(ペースト状の固体電解質膜用成形材料)を上記燃料極成形体上に、直径16mm×厚み10μm〜30μmの円板状に印刷成形した。この燃料極成形体と該成形体上に支持された固体電解質膜とからなる未焼成の積層体を乾燥後、1200℃〜1400℃の焼成温度で大気中で焼成した。
次いで、LaSrO粉末(平均粒径:約1μm)に一般的なバインダー(ここでは、エチルセルロースを用いた。)、および溶媒(ここではターピネオールを用いた。)を添加して混練した。次いで、この混練物(ペースト状の空気極用成形材料)を上記固体電解質膜上に、直径13mm×厚み10μm〜30μmの円板状に印刷成形した。次いで、1000℃〜1200℃の焼成温度で大気中で焼成した。このようにして、図6に示されるような、燃料極82と固体電解質膜84と空気極86とからなるアノード支持形SOFC80を作製した。
【0052】
<ガス管の作製>
3〜8mol%YSZ粉末(平均粒径:約1μm)に上記と同様のバインダー、分散剤、および溶媒を添加して混練し、スラリーまたはペースト状のガス管用成形材料を調製した。次いで、かかる成形材料を押出成形等によって管状に成形した。得られた成形体を大気中で1300℃〜1600℃)で焼成し、2本の管状のガス管92,94(図6参照)を作製した。
【0053】
<ペースト状接合材の作製>
平均粒径が約1μm〜10μmであるSiO粉末、Al粉末、NaCO粉末、KCO粉末、MgCO粉末、CaCO粉末およびB粉末を、それぞれ以下の配合比、すなわち酸化物換算でSiO;60〜75質量%、Al;10〜20質量%、NaO;3〜15質量%、K;5〜15質量%、MgO;0〜3質量%;、CaO;0〜3質量%、B;0〜3質量%で混合し、計6種類(サンプル1〜6)の結晶含有ガラスの組成が異なる原料粉末を調製した。各サンプル1〜6に係る結晶含有ガラスの組成を表1に示した。
次いで、サンプル1〜6に係る原料粉末を1000℃〜1500℃の温度域(ここでは1450℃)で溶融してガラスを形成した。その後、サンプル6以外のガラスを粉砕し、800℃〜1000℃の温度域(ここでは850℃)で30分〜60分間の結晶化熱処理を行った。これにより、サンプル1〜5では、ガラスマトリックス中に分散するようにクリストバライト結晶および/またはリューサイトの結晶が析出した。その後、得られた結晶含有ガラスを粉砕し、分級を行って、平均粒径約2μmの粉末状の結晶含有ガラスを得た。なお、上記のように、サンプル6は、サンプル2と同組成のガラスであって上記結晶化熱処理を行わずに得たガラスである。
次いで、ガラス粉末(サンプル1〜6)40質量部に、一般的なバインダー(ここではエチルセルロースを使用した。)3質量部と、溶剤(ここではターピネオールを使用した。)47質量部とを混合し、表1のサンプル1〜6に対応する計6種類のペースト状接合材を作製した。
【0054】
【表1】

【0055】
<接合処理>
上記6種類のペースト(サンプル1〜6)をそれぞれ接合材として用いて接合処理を行った。具体的には、図6に示されるように、上記作製したアノード支持形SOFC80の両側にガス管92,94を配置し、該ガス管92,94に挟まれたSOFC80における固体電解質膜84とガス管92,94との各間の隙間を塞ぐようにして接合材(各サンプル1〜6)を塗布した。これを80℃で乾燥した後、大気中で800℃〜1000℃の温度域で1時間保持(焼成)した。これにより、ガス管92,94とSOFC80とを接合した。
ここで、上記サンプル1〜5については、室温冷却後に接合部96の溶出は認められなかった。しかし、結晶化熱処理を行っていない接合材であるサンプル6では、その接合部96での溶出が認められた。
【0056】
ここで、サンプル1〜6のペースト状接合材を使用して得られる接合部96の熱膨張係数(ただし、示差膨張方式(TMA)に基づく室温(25℃)〜450℃の間の平均値))を測定した。サンプル1〜4に係る接合部96については、表1に示されるように、いずれも9×10−6/K〜12×10−6/Kの範囲内であった。また、緻密でクラックの無い接合部表面が観察された。一方、サンプル5を用いて得られる接合部96の熱膨張係数は12×10−6/Kを超えた。また、サンプル6を用いて得られる接合部96の熱膨張係数は、9×10−6/Kを下回った。また、サンプル5および6については、いずれの接合部においても、その表面にクラックが観察された。
なお、ここで使用したYSZ固体電解質膜84およびYSZ製ガス管92,94の同条件での熱膨張係数は10.2×10−6/Kであった。また、ここで使用した上記ランタンカルシアクロマイトから成る薄板状インターコネクタ相当部材の同条件での熱膨張係数は9.7×10−6/Kであった。
【0057】
<ガスリーク試験>
次に、上記構築した計6種類(サンプル1〜6)を用いてガス管92,94とSOFC80とが接合されたSOFCシステムの供試体について、接合部96からのガスリークの有無を確認するリーク試験を行った。具体的には、まず、サンプル1を備えたSOFCシステムの試供体について、該試供体を800℃に加熱し、かかる温度条件下で燃料極82に向けてガス管94側から水素含有ガス(水素(H)ガス3体積%および窒素(N)ガス97体積%の混合ガス)を1時間供給することにより上記燃料極82を還元処理した。次いで、ガス管92側から空気を0.2Paの圧力下で100mL/分の流量で試供体に供給するとともに、ガス管94側から燃料ガスとしてのヘリウム(He)ガスを0.2Paの圧力下100mL/分の流量で試供体に供給した。ガスクロマトグラフィにより燃料極82側(すなわちガス管94側)からのHe排ガスの組成を測定し、該He排ガスに含まれるNガスの量から、接合部96から空気中のNがリークしているか否かを評価した。サンプル2〜6についても同様にしてリーク試験を実施した。
ガスリークの評価結果を表1に示す。表1において、Nガスのリーク率(He排ガス中に含まれるNガスの体積含有率)が1%以下のものを「無」と表示し、実用的な気密性を有しているものとした。表1に示されるように、サンプル1〜4を用いて得られる接合部96ではガスリークが好ましく防止されており、優れた気密性を有することがわかった。
【0058】
上述のように、本実施例によると、結晶含有ガラスからなる接合材を用いて、ジルコニア系固体電解質膜と該電解質膜と同質材料のガス管との間を塞ぐようにしてSOFCとガス管とを接合、連結することにより、ガスリークを生じさせることなく十分な気密性を確保しつつ接合する(すなわち接合部を形成する)ことができた。このため、機械的強度および気密性に優れた好適なSOFC(単セル、スタック)システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 接合材(接合部)
10 固体酸化物形燃料電池(SOFC)
12 燃料極
14 固体電解質膜
16 空気極
20 ガス管
30 支持基材
40 固体酸化物形燃料電池(SOFC)
42 燃料極層
44 固体電解質膜
46 空気極層
50 ガス管
60 固体酸化物形燃料電池(SOFC)
62 燃料極
64 固体電解質膜
66 空気極
70 ガス管
80 固体酸化物形燃料電池(SOFC)
82 燃料極
84 固体電解質膜
86 空気極
92,94 ガス管
96 接合部
100,110,120 固体酸化物形燃料電池システム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と、空気極と、固体電解質とを備える固体酸化物形燃料電池と、
前記固体酸化物形燃料電池に接合されて該固体酸化物形燃料電池にガスを供給するためのガス管と、
を備える固体酸化物形燃料電池システムであって、
前記固体酸化物形燃料電池と前記ガス管との接合部は、クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶がガラスマトリックス中に析出していることを特徴とするガラスからなる接合材により形成されている、固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項2】
前記接合部は、
酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 60〜75質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 3〜15質量%;
O 5〜15質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
0〜 3質量%;
から実質的に構成されている、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項3】
前記固体電解質および前記ガス管は、ジルコニア系酸化物から構成されている、請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項4】
前記固体電解質と前記ガス管との間の隙間を塞ぐように前記接合部が形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項5】
前記固体酸化物形燃料電池は、燃料極と、該燃料極の表面上に100μm以下の膜厚で形成されて前記燃料極に支持される固体電解質膜と、該固体電解質膜の表面上に形成された空気極層とからなる積層構造を備えている、請求項1〜4のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項6】
固体酸化物形燃料電池と該固体酸化物形燃料電池にガスを供給するためのガス管とを接合するための接合材であって、
酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 60〜75質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 3〜15質量%;
O 5〜15質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
0〜 3質量%;
から実質的に構成されたガラスであって該ガラスのマトリックス中にクリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶が析出していることを特徴とするガラスからなる、接合材。
【請求項7】
前記接合材として、熱膨張係数が9×10−6/K〜12×10−6/Kとなるように調製されている、請求項6に記載の接合材。
【請求項8】
固体酸化物形燃料電池と該固体酸化物形燃料電池にガスを供給するためのガス管とを接合するための接合する方法であって、
請求項6または7に記載の接合材を用意し、該接合材を固体酸化物形燃料電池とガス管との接続部分に塗布すること、
前記塗布された接合材を、該接合材が前記塗布した部分から流出しない温度域で焼成することによって、前記固体酸化物形燃料電池と前記ガス管との前記接続部分において該接合材からなるガス流通を遮断する接合部を形成すること、
を包含する、方法。
【請求項9】
前記固体電解質と前記ガス管との隙間を塞ぐように前記固体酸化物形燃料電池と前記ガス管とを接合する、請求項8に記載の接合方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−277771(P2010−277771A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127804(P2009−127804)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】