説明

固体酸化物形燃料電池セルおよび燃料電池

【課題】燃料枯れによる破損を有効に防止できる固体酸化物形燃料電池セルおよび燃料電池を提供する。
【解決手段】内部に燃料ガスを流通させるための燃料ガス流路2有する導電性支持体1、燃料極層3、固体電解質層4、空気極層6がこの順で積層されている固体酸化物形燃料電池セル10であって、燃料極層3が燃料ガス流路2に沿って形成されており、燃料ガスの流れ方向xの下流側に位置する燃料極層3の大気孔率部3aにおける気孔率が、燃料ガスの流れ方向xの上流側に位置する燃料極層3の上流側部3bにおける気孔率よりも大きい。これにより、上流側で水素が消費され、燃料ガスの流れ方向下流側の大気孔率部3aにおいて燃料ガス中の水素濃度が薄くなったとしても、水素を容易に固体電解質層4表面まで移動させることができ、燃料枯れを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガス通路を内部に備えた導電性支持体に、燃料極層、固体電解質層および酸素極層が積層された発電部を有する固体酸化物形燃料電池セルおよび燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形の燃料電池は、固体電解質層の一方の面に、燃料極層を設け、他方の面に酸素極層(例えば、空気極層)を設けた基本構造を有している。このような固体酸化物形燃料電池セルにおいては、一般に、固体電解質層の酸素イオン伝導性は600℃程度から高くなるため、600℃以上の温度域で、酸素極層側に酸素を含むガスを、燃料極層側に水素を含むガスを各々供給することで、酸素極層と燃料極層との間の酸素濃度差に基づき、両極間で電位差が発生する。
【0003】
酸素極層から固体電解質層を通じて燃料極層へ移動した酸素イオンは、燃料極層で水素イオンと結合して水となる。このとき、同時に電子の移動が起こる。従って、燃料電池では、酸素を含むガスと水素を含むガスとを供給することで、以上の反応を連続して起こし、発電する。
【0004】
通常、使用される固体酸化物形燃料電池セルでは、例えば、上記のようなセル構造(即ち発電部)を、内部にガス通路を備えた多孔質の導電性支持体上に形成し、導電性支持体内部のガス通路に燃料ガス(例えば、水素ガス)を流すことにより、導電性支持体を介して燃料極層表面に水素を供給すると同時に、酸素極層の外面に空気等の酸素含有ガスを流すことにより、酸素極層表面に酸素を供給し、これにより、各電極で上記のような電極反応を生じせしめ、発電した電流を、導電性支持体に設けられているインターコネクタにより取り出すようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような構造の燃料電池セルは、その複数を集電部材により互いに直列に接続してセルスタックとし、このようなセルスタックを複数、適当な収容容器内に収容し、各セルスタックを導電部材により接続することにより、燃料電池組立体として使用される。
【0006】
また、燃料極層が気孔径の異なる気孔を有する複数の多孔体構成層からなり、燃料極層の固体電解質層との界面側から燃料極層の表面側へ向かって気孔径が順次大きくなる固体酸化物形燃料電池セルも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−146334号公報
【特許文献2】特開2002−175814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
燃料利用率が高い条件で燃料電池セルによる発電を行っていくと、燃料ガス流路内のガスの流れ方向上流側(ガス導入側)ではガス中の水素濃度は高いが、この流れ方向に沿って順次水素が消費されていくため、ガスの流れ方向下流側(ガス排出側)ではガス中の水素濃度が薄くなり、燃料枯れが発生し易くなるという問題があった。
【0009】
即ち、導電性支持体や燃料極層には、導電性成分として金属成分が含まれており、燃料
ガス中の水素の還元作用によって、発電に使用する酸素による金属成分の酸化が防止されているが、上記のように、燃料ガスのガス排出側で燃料枯れ(水素濃度の低下)が生じると、導電性支持体や燃料極層の金属成分の酸化を抑制することができず、ガス排出側では酸化による体積膨張などが生じてしまい、この結果、燃料ガスのガス排出側において燃料電池セルが破損する虞があった。
【0010】
本発明は、燃料枯れによる破損を有効に防止できる固体酸化物形燃料電池セルおよび燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の固体酸化物形燃料電池セルは、内部に燃料ガスを流通させるための燃料ガス流路を有する導電性支持体に、燃料極層、固体電解質層、酸素極層がこの順で積層されている固体酸化物形燃料電池セルであって、前記燃料極層が前記燃料ガス流路に沿って形成されており、前記燃料ガスの流れ方向下流側に位置する前記燃料極層の大気孔率部における気孔率が、前記燃料ガスの流れ方向上流側に位置する前記燃料極層の上流側部における気孔率よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
燃料ガス流路内の燃料ガスの流れ方向上流側では燃料ガス中の水素濃度は高いものの、この流れ方向に沿って順次水素が消費されていき、燃料ガスの流れ方向下流側では燃料ガス中の水素濃度が薄くなるが、本発明の固体酸化物形燃料電池セルでは、燃料ガスの流れ方向下流側における燃料極層の気孔率が上流側の気孔率よりも大きいため、燃料ガスの流れ方向下流側における燃料極層での反応界面への水素の移動、および反応によって発生したHOガスの放出に対する抵抗が小さくなり、上流側で水素が消費され、燃料ガスの流れ方向下流側において燃料ガス中の水素濃度が薄くなったとしても、水素を容易に固体電解質層表面まで移動させることができ、燃料枯れを防止できる。これにより、導電性支持体や燃料極層の金属成分の酸化を抑制でき、燃料ガスのガス排出側における燃料電池セルの破損を防止でき、燃料電池の長期信頼性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】固体酸化物形燃料電池セルを示すもので、(a)は横断面図、(b)は縦断面図である。
【図2】図1の固体酸化物形燃料電池セルの側面図である。
【図3】燃料電池セルスタック装置の一例を示し、(a)は燃料電池セルスタック装置を概略的に示す側面図、(b)は(a)の燃料電池セルスタック装置の破線で囲った部分の一部を拡大した断面図である。
【図4】燃料電池モジュールの一例を示す外観斜視図である。
【図5】燃料電池装置の一例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、固体酸化物形燃料電池セル(以下、燃料電池セルと略す)の一例を示すものであり、(a)はその横断面図、(b)は(a)の断面図である。なお、両図面において、燃料電池セル10の各構成を一部拡大して示している。
【0015】
この燃料電池セル10は、中空平板型の燃料電池セル10で、断面が扁平状で、全体的に見て楕円柱状をしたNiを含有してなる多孔質の導電性支持体(以下、支持体ということがある)1を備えている。導電性支持体1の内部には、適当な間隔で複数の燃料ガス流路2が長手方向に形成されており、燃料電池セル10は、この導電性支持体1上に各種の部材が設けられた構造を有している。
【0016】
導電性支持体1は、図1に示されている形状から理解されるように、互いに平行な一対の平坦面nと、一対の平坦面nをそれぞれ接続する弧状面(側面)mとで構成されている。平坦面nの両面は互いにほぼ平行に形成されており、一方の平坦面n(下面)と両側の弧状面mを覆うように多孔質な燃料極層3が設けられており、さらに、この燃料極層3を覆うように、緻密質な固体電解質層4が積層されている。また、固体電解質層4の上には、反応防止層5を介して、燃料極層3と対面するように、多孔質な空気極層6が積層されている。また、燃料極層3および固体電解質層4が積層されていない他方の平坦面n(上面)には、密着層7を介してインターコネクタ8が形成されている。
【0017】
すなわち、燃料極層3および固体電解質層4は、両端の弧状面mを経由して他方の平坦面n(上面)まで形成されており、固体電解質層4の両端にインターコネクタ8の両端が位置するように積層され、固体電解質層4とインターコネクタ8で導電性支持体1を取り囲み、内部を流通する燃料ガスが外部に漏出しないように構成されている。
【0018】
そして、燃料極層3が燃料ガス流路2に沿って形成されており、燃料ガスの流れ方向下流側における燃料極層3の気孔率が上流側の気孔率よりも大きくされている。
【0019】
すなわち、本形態の燃料電池セルでは、図1(b)、図2に示すように、燃料極層3は、気孔率が大きい大気孔率部3aを有している。つまり、一般的な燃料極層としての気孔率を有する上流側部3bと、この上流側部3bよりも気孔率が大きい下流側の大気孔率部3aを有している。燃料ガスの流れ方向xの下流側の部分のうち、固体電解質層4を介して空気極層6が形成されている燃料極層3の部分、およびその近傍の燃料極層3の気孔率が大きくされ、大気孔率部3aとされており、この大気孔率部3aよりも上流側の燃料極層3の部分が、一般的な燃料極層としての気孔を有する上流側部3bとされている。
【0020】
燃料電池セル10の長手方向における大気孔率部3aの長さは、燃料電池セル10の長手方向の長さに対して1/2よりも短くされている。逆に上流側部3bの燃料電池セル10の長手方向における長さは、燃料電池セル10の長手方向の長さに対して1/2以上とされている。
【0021】
すなわち、燃料極層3、固体電解質層4および空気極層6の3層が重畳した発電部において、燃料ガスの流れ方向xの下流側における燃料極層3の部分が大気孔率部3aとされていれば良い。
【0022】
燃料枯れが生じるのは、燃料ガスが消費される部分であるため、燃料極層3の下流側であっても、固体電解質層4を介して空気極層6が形成されていない非発電部の燃料極層3の部分は、上流側よりも気孔率を大きくする必要はないが、製造を容易とするため、固体電解質層4を介して空気極層6が形成されていない非発電部の燃料極層3の部分も、上流側よりも気孔率を大きくしても良い。例えば、燃料ガスの流れ方向xの上流側部分は発電部以外も通常の気孔率としても良く、下流側部分は発電部以外も大気孔率部3aとしても良い。
【0023】
燃料ガスの流れ方向xの下流側における燃料極層3の大気孔率部3aの気孔率が、上流側部3bよりも気孔率が大きいため、燃料ガスの流れ方向xの下流側における燃料極層3の大気孔率部3aでの水素の固体電解質層表面への移動がスムーズとなり、また、生成した水を固体電解質層表面から排出し易くなり、上流側で水素が消費され、下流側において燃料ガス中の水素濃度が薄くなったとしても、大気孔率部3aにおいて水素を容易に固体電解質層4表面まで移動させることができ、燃料枯れを防止できる。これにより、導電性支持体1や燃料極層3の金属成分の酸化を抑制でき、燃料ガスのガス排出側における燃料電池セルの破損を防止できる。
【0024】
大気孔率部3aは、図2において、一点鎖線で示す部分であり、上流側部3bは、燃料極層3のうち大気孔率部3a以外の部分とされている。従って、大気孔率部3a以外の下流側の部分も上流側部3bとされている。
【0025】
以下、各部材について説明する。
【0026】
(支持体1)
支持体1は、燃料ガスを燃料極層3まで透過させるためにガス透過性であること、及びインターコネクタ8を介しての集電を行うために導電性であることが要求されるが、このような要求を満たすと同時に、同時焼成により生じる不都合を回避するために、鉄属金属成分と特定の希土類酸化物とから支持体1を構成するのがよい。
【0027】
鉄族金属成分は、支持体1に導電性を付与するためのものであり、鉄族金属単体であってもよいし、また鉄族金属酸化物、鉄族金属の合金もしくは合金酸化物であってもよい。鉄族金属には、Fe、Ni、Co、Ruがあり、本形態では、何れをも使用することができるが、安価であること及び燃料ガス中で安定であることからNi及び/またはNiOを鉄族成分として含有していることが好ましい。
【0028】
また希土類酸化物成分は、支持体1の熱膨張係数を、固体電解質層4の熱膨張係数と近似させるために使用されるものであり、高い導電率を維持し且つ固体電解質層4等への元素拡散を防止するために、Y、Lu、Yb、Tm、Er、Ho、Dy、Gd、Sm、Prからなる群より選ばれた少なくとも1種の希土類元素を含む希土類酸化物が、上記鉄族成分と組合せで使用することが好適である。かかる希土類酸化物としては、Y、Lu、Yb、Tm、Er、Ho、Dy、Gd、Sm、Prを例示することができ、特に安価であるという点で、Y、Ybが好適である。
【0029】
これらの希土類酸化物は、焼成時や発電中において、鉄族金属やその酸化物との固溶、反応をほとんど生じることがなく、しかも、支持体1中の鉄族金属或いはその酸化物、及び上記希土類酸化物は、何れも拡散しにくい。従って、支持体1と固体電解質層4とが同時焼成された場合においても、希土類元素の固体電解質層4への拡散が有効に抑制され、固体電解質層4のイオン伝導度等への悪影響を回避することができる。
【0030】
本形態においては、特に支持体1の熱膨張係数を固体電解質層4の熱膨張係数に近似させるという点で、上記の鉄族成分は、支持体1中に35〜70体積%の量で含まれ、上記の希土類酸化物は、支持体1中に30〜65体積%の量で含まれていることが好適である。尚、支持体1中には、要求される特性が損なわれない限りの範囲で他の金属成分や酸化物成分を含有していてもよい。
【0031】
上記のような鉄族金属成分と希土類酸化物とから構成される支持体1は、燃料ガス透過性を有していることが必要であるため、通常、開気孔率が30%以上、特に35乃至50%の範囲にあることが好適である。また、支持体1の導電率は、300S/cm以上、特に440S/cm以上であることが好ましい。
【0032】
また、支持体1の平坦面nの長さは、通常、15〜35mmであり、支持体1の高さは、用途に応じて適宜設定されるが、一般家庭での発電用に使用される場合には、通常、100乃至150mm程度の高さに設定される。さらに、平坦面nの両端には、コーナー部での欠けを防止し、さらには機械的強度を高めるために弧状面mが形成されるが、後述する固体電解質層4の剥離を防止するためには、弧状面mの曲率半径を5mm以下、好まし
くは1乃至5mm、さらに好ましくは1乃至4mmの範囲とするのがよい。このように曲率半径を小さくすることにより、平坦面nから弧状面mの境界部が滑らかになり、固体電解質層4の剥離を有効に防止する上で有利となる。また、このような曲率半径とするために、この支持体1の厚み(2つの平坦面nの間隔)は2〜10mmの範囲にあることが望ましい。
【0033】
(燃料極層3)
燃料極層3は、電極反応を生じせしめるものであり、それ自体公知の多孔質のサーメットから形成される。例えば、希土類元素が固溶しているZrO及び/またはCeOと、Ni及び/またはNiOとから形成される。
【0034】
燃料極層3中の上記ZrO及び/またはCeO含量は、35乃至65体積%の範囲にあるのが好ましく、またNiまたはNiO含量は、65乃至35体積%であるのがよい。さらに、この燃料極層3の開気孔率は、燃料ガスを固体電解質まで供給し、固体電解質表面で生じた水分を排出するために、15%以上が望ましく、さらに、導電性を向上すべく、特に20乃至50%の範囲にあるのが望ましい。特に、燃料極層3の大気孔率部3aの気孔率は30〜50%が望ましく、上流側部3bの気孔率は20〜40%が望ましい。大気孔率部3aの気孔率は、上流側部3bの気孔率よりも5%以上、特には10%以上大きいことが望ましい。
【0035】
このような燃料極層3の気孔率は、燃料電池セルの断面における燃料極層を、画像解析装置を用いて測定することで得られる。
【0036】
このような大気孔率部3a、上流側部3bを有する燃料極層3は、例えば、大気孔率部3a、上流側部3bを形成するためのペースト中の造孔材(焼成により飛散する樹脂等から形成される)の含有量を変えることにより作製することができる。すなわち、大気孔率部3aを形成するためのペースト中の造孔材を、上流側部3bを形成するためのペースト中の造孔材よりも多く含有させればよい。
【0037】
燃料極層の厚みは、性能低下及び熱膨張差による剥離等を防止するため、1〜30μmであることが望ましい。
【0038】
また、ZrOまたはCeO中に固溶している希土類元素としては、支持体1で使用する希土類酸化物に関して示したものと同様のものを例示することができるが、セルの分極値を低くするという点で、ZrOに対してはYが3乃至10モル%程度、CeOに対してはSmが5〜20モル%程度固溶しているものが好ましい。
【0039】
燃料極層における大気孔率部3aでは気孔率が大きいため、この部分の導電率が低下する傾向にあるため、大気孔率部3aでは、ZrOよりも高い導電性を有するCeOを用いることが望ましい。従って、例えば上流側部3b中にZrOを用いた場合には、大気孔率部3aでCeOを用いることで、大気孔率部3aにおける導電性を上流側部3bと同程度とすることが可能となる。
【0040】
また、大気孔率部3aでは気孔率が大きくなるため、この部分の導電率が低下する傾向にあるため、大気孔率部3aでは、ZrO及び/またはCeOとNi及び/またはNiOとの合量に対する、Ni及び/またはNiOの含有率を、上流側部3bよりも増加することが望ましい。すなわち、大気孔率部3aでは、上流側部3bよりもZrO及び/またはCeOの含有比率が小さいことが望ましい。このような含有比率にしたとしても、Ni及び/またはNiO比率を増やすことによって燃料極層3の熱膨張率が増加するため、例えば固体電解質や支持体との熱膨張率のずれは大きくなるものの、気孔率がより大
きくなっているため、大気孔率部3aにおける導電性を上流側部3bと同程度とすることが可能となるとともに、その熱膨張率差によって発生する応力を低減できる。
【0041】
さらに、この燃料極層3は、少なくとも空気極層6に対面する位置に存在していればよい。即ち、図1の例では、支持体1の一方側の平坦面nから他方の平坦面nまで延びており、インターコネクタ8の両端まで延びているが、一方側の平坦面nにのみ形成されていてもよいし、更には支持体1の全周にわたって燃料極層3を形成することも可能である。
【0042】
尚、図示されていないが、必要により、上記の燃料極層3上に拡散抑制層を設け、このような拡散抑制層を燃料極層3と固体電解質層4との間に介在させることもできる。この拡散抑制層は、燃料極層3や支持体1からの固体電解質層4への元素拡散を抑制し、絶縁層形成による性能低下を回避するためのものであり、Laが固溶したCeO、又はCeが固溶したLa、あるいはそれらの混合体(これらを元素拡散防止用複合酸化物と呼ぶ)から形成される。さらに、元素拡散を遮断または抑制する効果を高めるために、他の希土類元素の酸化物が、この拡散防止層に含有されていてもよい。この希土類元素としては、Sc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを例示することができる。
【0043】
また、このような拡散抑制層は、固体電解質層4と共に、インターコネクタ8の両端部まで延びていることが好ましい。これにより、支持体1や燃料極層3から固体電解質層4への元素拡散をさらに防止することができるからである。
【0044】
(固体電解質層4)
固体電解質層4は、電極間の電子の橋渡しをする電解質としての機能を有すると同時に、燃料ガスと空気等の酸素含有ガスとのリークを防止するためにガス遮断性を有していることが必要である。従って、この固体電解質層4の形成に用いる固体電解質としては、このような特性を備えている緻密質なセラミックス、例えば、3〜15モル%の希土類元素が固溶した安定化ZrOを用いるのが好ましい。この安定化ZrO中の希土類元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Td、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを例示することができるが、安価であるという点で、Y、Ybが好適である。
【0045】
さらには、LaとGaを含むペロブスカイト型ランタンガレート系複合酸化物も固体電解質として使用することができる。この複合酸化物は、高い酸素イオン伝導性を有するものであり、これを固体電解質として使用することにより、高い発電効率を得ることができる。このランタンガレート系複合酸化物は、AサイトにLaおよびSr、BサイトにGaおよびMgを有するものであり、例えば下記一般式:(La1−xSr)(Ga1−yMg)O(式中、xは、0<x<0.3の数であり、yは、0<y<0.3の数である)で表される組成を有していることが望ましい。このような組成の複合酸化物を固体電解質として使用することによっても、高い発電性能を発揮させることができる。
【0046】
このような固体電解質層4は、ガス透過を防止するという点から相対密度(アルキメデス法による)が93%以上、特に95%以上であることが望ましい。
【0047】
(空気極層6)
固体電解質層4に形成される空気極層6は、前述した電極反応を生じせしめるものであり、図1に示されているように、固体電解質層4を間に挟んで、前述した燃料極層3と対面するような位置に配置されている。即ち、少なくとも支持体1の一方の平坦面n上に位置する部分に配置される。
【0048】
かかる空気極層6は、所謂ABO型のペロブスカイト型酸化物の焼結体粒子からなる。このようなペロブスカイト型酸化物としては、遷移金属型ペロブスカイト酸化物、特にAサイトにLaを有するLaMnO系酸化物、LaFeO系酸化物、LaCoO系酸化物の少なくとも一種が好適であり、600〜1000℃程度の比較的低温での電気伝導性が高く、酸素イオンに対して優れた表面拡散機能と体積拡散機能とを示すという点から、(La,Sr)(Co,Fe)O系酸化物(以下、La−Sr−Co系複合酸化物と呼ぶことがある)、例えば下記一般式:LaSr1−yCoFe1−Z(式中、yは、0.5≦y≦0.7の数であり、zは、0.2≦z≦0.8の数である)で表される組成を有する複合酸化物が特に好適である。
【0049】
また、このような空気極層6は、ガス透過性を有していなければならず、従って、上記の導電性セラミックス(ペロブスカイト型酸化物)は、開気孔率が20%以上、特に30乃至50%の範囲にあることが望ましい。また、空気極層6の厚みは、集電性という点から30〜100μmであることが望ましい。
【0050】
また、上記の空気極層6は、固体電解質層4上に形成してもよいが、固体電解質層4上に反応防止層5を設け、このような反応防止層5を介して空気極層6を固体電解質層4に積層することもできる。このような反応防止層5は、空気極層6から固体電解質層4への元素拡散を遮断するためのものであり、元素拡散防止機能を有する酸化物の焼結体から形成される。このような反応防止層用酸化物としては、例えば、構成元素としてCeを含有する酸化物を例示することができ、特にCeOに希土類元素酸化物が固溶したCe系複合酸化物が高い元素拡散遮断性に加えて、酸素イオン導電性及び電子伝導性に優れているという点で、好適に使用される。
【0051】
(インターコネクタ8)
上記の空気極層6に対面する位置において、支持体1上の平坦面nに設けられているインターコネクタ8は、導電性セラミックスからなるが、燃料ガス(水素)及び酸素含有ガスと接触するため、耐還元性、耐酸化性を有していることが必要である。このため、かかる導電性セラミックスとしては、一般に、ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物(LaCrO系酸化物)が使用される。また、支持体1の内部を通る燃料ガス及び支持体1の外部を通る酸素含有ガスのリークを防止するため、かかる導電性セラミックスは緻密質でなければならず、例えば93%以上、特に95%以上の相対密度を有していることが好適である。
【0052】
かかるインターコネクタ8の厚みは、ガスのリーク防止と電気抵抗という点から、10〜200μmであることが望ましい。
【0053】
また、このインターコネクタ8は、支持体1の他方の平坦面n上に直接設けることもできるが、例えば、Yなどからなる密着層7を介して支持体1上に形成することもできる。また、先に述べたように、燃料極層3を支持体1の全周にわたって設けた場合には、このインターコネクタ8は、燃料極層3を間に挟んで支持体1上に形成されることとなる。
【0054】
(燃料電池セルの製造)
上述した構造を有する燃料電池セルは、燃料極層3の下流側に大気孔率部3aを有することを除けば、それ自体公知の方法で製造することができるが、特に以下に述べる同時焼成法を利用することが好適である。以下の製造方法は、図1、2に示した構造の燃料電池セルを例にとって説明したものである。
【0055】
例えば、前述した導電性支持体1を形成するための混合粉末、例えば、鉄族金属もしく
はその酸化物粉末と希土類酸化物粉末との混合粉末に、有機バインダーと、溶媒、及び必要によりメチルセルロース等の分散剤とを混合してスラリーを調製し、このスラリーを押出成形して、燃料ガス流路を有する柱状の導電性支持体用成形体を作製し、これを乾燥、脱脂する。乾燥条件は、80℃〜150℃の温度範囲で、2時間以上乾燥することが望ましい。さらに、乾燥後に、800〜1100℃の温度域で仮焼する。
【0056】
次に、所定の燃料極形成用粉末、例えばNi及び/又はNiO粉末と希土類元素が固溶したZrO粉末との混合粉末と、所定の有機バインダー及び溶媒と、造孔材とを混合してスラリーを調製する。ここで、造孔材の含有率が異なる2種のスラリーを作製し、造孔材の含有率が多いスラリーを、大気孔率部3aを形成するためのスラリーとし、造孔材の含有率が少ないスラリーを、上流側部3bを形成するためのスラリーとする。
【0057】
一方、固体電解質層用のシート(以下、固体電解質シートと呼ぶ)を作製する。即ち、Yを含有したZrO(YSZ)などの固体電解質粉末を、有機バインダー及びトルエン等の溶媒と混合して成形用スラリーを調製し、このスラリーを用いて固体電解質シートを成形する。
【0058】
次いで、固体電解質シートの所定位置に、大気孔率部3aを形成するためのスラリーと、上流側部3bを形成するためのスラリーを塗布し、固体電解質シートの表面に燃料極層のシートを形成し、これを、前述した支持体用成形体(仮焼体)の所定位置に巻き付け、乾燥する。大気孔率部3aを形成するためのスラリーを塗布した部分が、支持体用成形体の一端側となるように巻き付ける。
【0059】
この後、例えば、LaCrO系材料などのインターコネクタ用粉末を、有機バインダー及び溶媒に混合してスラリーを調製し、このスラリーを用いて常法に従ってインターコネクタ用シートを作製し、このシートを、上記の固体電解質シートが巻かれた支持体用成形体で、支持体用成形体が露出した露出面に積層することにより、支持体用成形体の一部の面に燃料極層シート及び固体電解質シートが積層され、さらに残りの一部の面にインターコネクタ用シートが積層された積層成形体を作製する。さらに、必要により、この積層成形体の固体電解質シートの表面、特に支持体成形体の平坦面nに対面する領域に、前述したSDC複合酸化物などの反応防止層用酸化物を含むスラリーを用いて、反応防止層用のシートを積層し、或いは反応防止層用コーティング層を形成しておくこともできる。
【0060】
次いで上記の積層成形体について、脱バインダー処理のための熱処理を行なった後、酸素含有雰囲気中で1300〜1600℃で同時焼成することにより、導電性支持体1上に燃料極層3及び固体電解質層4が積層され、さらに所定位置にインターコネクタ8が積層され、必要により元素拡散防止層や反応防止層を備えた焼結構造体を得ることができる。
【0061】
さらに、上記で得られた焼結構造体の固体電解質層4上、或いは反応防止層上に、LaFeO系酸化物粉末などを溶媒に分散させた酸素極層用の塗布液をスプレー噴霧して酸素極層用コーティング層を形成し、1000〜1300℃で焼き付けることにより、空気極層6を備えた燃料電池セルを得ることができる。尚、得られた燃料電池セルは、酸素含有雰囲気での焼成により、支持体1などに含まれる導体成分がNiOなどの酸化物となっているが、このような酸化物は、燃料ガスを供給しての還元処理や発電によって還元されることになる。
【0062】
図3は、上述した燃料電池セル10の複数個を、集電部材13を介して電気的に直列に接続して構成される燃料電池セルスタック装置の一例を示したものであり、(a)は燃料電池セルスタック装置11を概略的に示す側面図、(b)は(a)の燃料電池セルスタック装置11の一部拡大断面図であり、(a)で示した破線で囲った部分を抜粋して示して
いる。なお、(b)において(a)で示した破線で囲った部分に対応する部分を明確とするために矢印にて示しており、(b)で示す燃料電池セル10においては、上述した反応防止層5等の一部の部材を省略して示している。
【0063】
なお、燃料電池セルスタック装置11においては、各燃料電池セル10を集電部材13を介して配列することで燃料電池セルスタック12を構成しており、各燃料電池セル10の下端部が、燃料電池セル10に燃料ガスを供給するためのガスタンク16に、ガラスシール材等の接着剤により固定されている。また、燃料電池セル10の配列方向の両端から燃料電池セルスタック12を挟持するように、ガスタンク16に下端部が固定された弾性変形可能な導電部材14を具備している。
【0064】
また、図3に示す導電部材14においては、燃料電池セル10の配列方向に沿って外側に向けて延びた形状で、燃料電池セルスタック12(燃料電池セル10)の発電により生じる電流を引出すための電流引出し部15が設けられている。
【0065】
ここで、本形態の燃料電池セルスタック装置11においては、上述した燃料電池セル10を用いて、燃料電池セルスタック12を構成することにより、長期信頼性が向上した燃料電池セルスタック装置11とすることができる。
【0066】
図4は、燃料電池セルスタック装置11を収納容器内に収納してなる燃料電池モジュール18の一例を示す外観斜視図であり、直方体状の収納容器19の内部に、図3に示した燃料電池セルスタック装置11を収納して構成されている。
【0067】
なお、燃料電池セル10にて使用する燃料ガスを得るために、天然ガスや灯油等の原燃料を改質して燃料ガスを生成するための改質器20を燃料電池セルスタック12の上方に配置している。そして、改質器20で生成された燃料ガスは、ガス流通管21を介してガスタンク16に供給され、ガスタンク16を介して燃料電池セル10の内部に設けられたガス流路2に供給される。
【0068】
なお、図4においては、収納容器19の一部(前後面)を取り外し、内部に収納されている燃料電池セルスタック装置11および改質器20を後方に取り出した状態を示している。図4に示した燃料電池モジュール18においては、燃料電池セルスタック装置11を、収納容器19内にスライドして収納することが可能である。なお、燃料電池セルスタック装置11は、改質器20を含むものとしても良い。
【0069】
また収納容器19の内部に設けられた酸素含有ガス導入部材22は、図4においてはガスタンク16に並置された燃料電池セルスタック12の間に配置されるとともに、酸素含有ガスが燃料ガスの流れに合わせて、燃料電池セル10の側方を下端部から上端部に向けて流れるように、燃料電池セル10の下端部に酸素含有ガスを供給する。そして、燃料電池セル10のガス流路より排出される燃料ガスを酸素含有ガスと反応させて燃料電池セル10の上端部側で燃焼させることにより、燃料電池セル10の温度を上昇させることができ、燃料電池セルスタック装置11の起動を早めることができる。また、燃料電池セル10の上端部側にて、燃料電池セル10のガス流路から排出される燃料ガスと酸素含有ガスとを燃焼させることにより、燃料電池セル10(燃料電池セルスタック12)の上方に配置された改質器20を温めることができる。それにより、改質器20で効率よく改質反応を行うことができる。
【0070】
さらに、本形態の燃料電池モジュール18においても、上述した燃料電池セルスタック装置11を収納容器19内に収納してなることから、長期信頼性が向上した燃料電池モジュール18とすることができる。
【0071】
図5は、外装ケース内に図4で示した燃料電池モジュール18と、燃料電池セルスタック装置11を動作させるための補機とを収納してなる燃料電池装置の一例を示す分解斜視図である。なお、図5においては一部構成を省略して示している。
【0072】
図5に示す燃料電池装置23は、支柱24と外装板25とから構成される外装ケース内を仕切板26により上下に区画し、その上方側を上述した燃料電池モジュール18を収納するモジュール収納室27とし、下方側を燃料電池モジュール18を動作させるための補機類を収納する補機収納室28として構成されている。なお、補機収納室28に収納する補機類は省略して示している。
【0073】
また、仕切板26には、補機収納室28の空気をモジュール収納室27側に流すための空気流通口29が設けられており、モジュール収納室27を構成する外装板25の一部に、モジュール収納室27内の空気を排気するための排気口30が設けられている。
【0074】
このような燃料電池装置23においては、上述したように、信頼性を向上することができる燃料電池モジュール18をモジュール収納室27に収納して構成されることにより、信頼性の向上した燃料電池装置23とすることができる。
【0075】
なお、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。
【0076】
例えば、上記形態では、中空平板型の固体酸化物形燃料電池セルについて説明したが、円筒型の固体酸化物形燃料電池セルであっても良いことは勿論である。さらに、燃料極層、固体電解質層、酸素極層を順次設けてなる平板状の燃料電池セルと、燃料極層に接続する燃料側インターコネクタと、前記酸素極層に接続する酸素側インターコネクタとの積層体を隔離板を介して複数積層してなり、燃料極層及び酸素極層の中央部にそれぞれ燃料ガス及び酸素含有ガスが供給されて燃料極層及び酸素極層の外周部に向けて流れ、燃料電池セルの外周部から余剰の燃料ガス及び酸素含有ガスが放出され、燃焼されるタイプの平板型燃料電池(例えば、特表2004−507060号公報等の平板型燃料電池)にも応用できる。さらに、各部材間に機能に合わせて各種中間層を形成しても良いことは勿論である。
【符号の説明】
【0077】
1:導電性支持体
2:燃料ガス流路
3:燃料極層
3a:大気孔率部
3b:上流側部
4:固体電解質層
6:空気極層
8:インターコネクタ
11:燃料電池セルスタック装置
18:燃料電池モジュール
23:燃料電池装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に燃料ガスを流通させるための燃料ガス流路を有する導電性支持体に、燃料極層、固体電解質層、酸素極層がこの順で積層されている固体酸化物形燃料電池セルであって、前記燃料極層が前記燃料ガス流路に沿って形成されており、前記燃料ガスの流れ方向下流側に位置する前記燃料極層の大気孔率部における気孔率が、前記燃料ガスの流れ方向上流側に位置する前記燃料極層の上流側部における気孔率よりも大きいことを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項2】
前記燃料極層が、ZrO及び/またはCeOと、Ni及び/またはNiOとを含有するとともに、前記大気孔率部における前記ZrO及び/またはCeOと前記Ni及び/またはNiOとの合量に対する前記Ni及び/またはNiOの比率が、前記上流側部における前記ZrO及び/またはCeOと前記Ni及び/またはNiOとの合量に対する前記Ni及び/またはNiOの比率よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池セルを収納容器内に収納してなることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−94427(P2012−94427A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242098(P2010−242098)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】