説明

固体酸化物形燃料電池セル体

【課題】還元ガスに対する耐久性を向上させたプリコート層を備えた固体酸化物形燃料電池セル体を提供すること。
【解決手段】空気極と、インターコネクタとを備えた固体酸化物形燃料電池セル体であって、前記空気極とインターコネクタの間にプリコート層を備え、前記プリコート層がLa1−ySrNi1−xFeで表され、その組成範囲を0≦y≦0.3、0.7≦x≦1とすることで、還元ガスに対する耐久性を向上させたプリコート層を備えた固体酸化物形燃料電池セル体を提供することが可能になった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプリコート層を備える固体酸化物形燃料電池セル体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の固体酸化物形燃料電池セル体として、空気極とインターコネクタの間にプリコート層を備えた固体酸化物形燃料電池セル体が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
空気極とインターコネクタとの間にプリコート層を備えることで、例えば(La,Ca)CrOインターコネクタの焼結において、その緻密化に寄与しているCaとCrの化合物の液相が空気極に拡散するのを抑制し、インターコネクタの焼結性が確保されている。
【0004】
また、導電率の高い材料として、La(Ni,Fe)Oや(La,Sr)(Ni,Fe)Oで表されるペロブスカイト型酸化物が提案されている(例えば特許文献2、3参照)。
【0005】
一方、還元安定性を高めた材料として、例えば(La,Sr)(Fe,Cr)O、(La,Sr)(Fe,Ti)Oで表されるペロブスカイト型酸化物が提案されている(例えば特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平5−121085号公報
【特許文献2】特開2002‐151091号公報
【特許文献3】特開平11‐242960号公報
【特許文献4】特開2006‐185697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者らは現状のプリコート層について様々な検討を行なった結果、還元ガスに対する耐久性が悪い場合があることを見出した。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、還元ガスに対する耐久性を向上させたプリコート層を備えた固体酸化物形燃料電池セル体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の固体酸化物形燃料電池セル体は、空気極と、インターコネクタとを備えた固体酸化物形燃料電池セル体であって、前記空気極とインターコネクタの間にプリコート層を備え、前記プリコート層がLa1−ySrNi1−xFeで表され、その組成範囲が0≦y≦0.3、0.7≦x≦1で表されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、還元ガスに対する耐久性を向上させたプリコート層を備えた固体酸化物形燃料電池セル体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態を説明するのに先立って、本発明の作用効果について説明する。
【0011】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池セル体は、空気極と、インターコネクタとを備えた固体酸化物形燃料電池セル体であって、前記空気極とインターコネクタの間にプリコート層を備え、前記プリコート層がLa1−ySrNi1−xFeで表され、その組成範囲が0≦y≦0.3、0.7≦x≦1で表されることを特徴とする。
【0012】
本発明では、プリコート層がLa1−ySrNi1−xFeで表され、その組成範囲を0≦y≦0.3、0.7≦x≦1とすることにより、還元ガスに対する耐久性を向上させたプリコート層を備えた固体酸化物形燃料電池セル体を提供することができる。
【0013】
また、本発明に係る燃料電池は、空気極とインターコネクタの間にプリコート層を備え、前記プリコート層がLa1−ySrNi1−xFeで表され、その組成範囲が0≦y≦0.3、0.7≦x≦1で表されることを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル体を備えるものである。
【0014】
空気極とインターコネクタの間にプリコート層を備え、前記プリコート層がLa1−ySrNi1−xFeで表され、その組成範囲が0≦y≦0.3、0.7≦x≦1で表されることを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル体を用いることで、還元ガスに対する耐久性を向上させ、信頼性に優れる燃料電池を提供することができる。
【0015】
以下、本発明における固体酸化物形燃料電池セル体について、詳細に説明する。
【0016】
代表的な固体酸化物形燃料電池セル体の一例である、円筒型セル体を図1に示す。空気極支持体1上に固体電解質3、さらに固体電解質3の上にインターコネクタ2と接触しないように燃料極4が構成されている。そして、空気極支持体1とインターコネクタ2の間にプリコート層5が構成されている。発電に際して、空気極支持体1と固体電解質3の界面で、インターコネクタ2及びプリコート層5を経由して空気極内部を流れてきた電子と外部の酸素ガスが反応し、(1)式に示すように酸素イオンを生じる。この酸素イオンが固体電解質3を通って燃料極4に達し、燃料ガス中の水素や一酸化炭素と酸素イオンが反応して水あるいは二酸化炭素と電子を生成する。これらの反応は(2)、(3)式で示される。
+4e → 2O2− …(1)
+O2− → HO+2e …(2)
CO+O2− → CO+2e …(3)
【0017】
次にプリコート層の形成方法について、空気極を支持体とする円筒型セルを例にとって説明する。プリコート層の塗布方法は均一に膜を形成することが出来れば特に限定されない。スラリーコート法、スクリーン印刷法、シート転写法のような湿式法、プラズマ溶射法、CVD法のような気相を介した方法などを用いることが出来る。コスト面を考慮すると安価に成膜可能な湿式法のほうがより好ましい。プリコート層5を空気極支持体1上に形成後、インターコネクタ2をプリコート層5上に形成させる。このとき、空気極支持体1のプリコート層5を形成していない面に電解質3を形成した後、インターコネクタ2をプリコート層5上に形成させてもよい。
【0018】
本発明に用いられるインターコネクタ材料としては、カルシウムドープランタンクロマイト、ストロンチウムドープランタンクロマイト、カルシウムドープランタンクロマイトにNiO、TiOを混合したNiO/TiO/(La,Ca)CrO、La(Cr,Mg)O、(La,Sr)FeO、(La,Sr)(Fe,Ti)O、(La,Sr)(Fe,Cr)O、MTiO(M=Sr、Ca、Mgのうちいずれか一つ以上)などが挙げられる。
【0019】
以下に本発明の実施例を添付の図面を参照して説明する。なお、当然のことであるが本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0020】
(評価)
プリコート層について評価するために、以下のような実験を行なった。まず、各実験用試料の作製方法について、以下に記載する。
【0021】
(実施例1)
出発原料として、La(OH)、SrCO、NiO、Feの各粉末を使用した。La0.95Sr0.05Ni0.25Fe0.75組成となるように所定量の出発原料を秤量し、ボールミル混合した。この混合粉末を大気中1200℃で10時間焼成し、原料粉末を得た。この粉末に有機バインダーとしてポリビニルアルコールを分散させ、一軸プレス法にて角柱を成形した。この成形体を大気中1350℃で2時間焼成し、実験用試料とした。
【0022】
(実施例2)
組成がLa0.85Sr0.15Ni0.25Fe0.75となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0023】
(実施例3)
組成がLa0.75Sr0.25Ni0.05Fe0.95となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0024】
(実施例4)
組成がLa0.95Sr0.05Ni0.1Fe0.9となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0025】
(実施例5)
組成がLa0.88Sr0.12Ni0.05Fe0.95となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0026】
(実施例6)
組成がLa0.97Sr0.03Ni0.03Fe0.97となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0027】
(実施例7)
組成がLa0.9Sr0.1Ni0.15Fe0.85となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0028】
(実施例8)
出発原料として、La(OH)、NiO、Feの各粉末を使用した。LaNi0.15Fe0.85組成となるように所定量の出発原料を秤量し、ボールミル混合した。この混合粉末を大気中1200℃で10時間焼成し、原料粉末を得た。この粉末に有機バインダーとしてポリビニルアルコールを分散させ、一軸プレス法にて角柱を成形した。この成形体を大気中1350℃で2時間焼成し、実験用試料とした。
【0029】
(実施例9)
出発原料として、La(OH)、Feの各粉末を使用した。LaFeO組成となるように所定量の出発原料を秤量し、ボールミル混合した。この混合粉末を大気中1200℃で10時間焼成し、原料粉末を得た。この粉末に有機バインダーとしてポリビニルアルコールを分散させ、一軸プレス法にて角柱を成形した。この成形体を大気中1350℃で2時間焼成し、実験用試料とした。
【0030】
(実施例10)
出発原料として、La(OH)、SrCO、Feの各粉末を使用した。La0.9Sr0.1FeO組成となるように所定量の出発原料を秤量し、ボールミル混合した。この混合粉末を大気中1200℃で10時間焼成し、原料粉末を得た。この粉末に有機バインダーとしてポリビニルアルコールを分散させ、一軸プレス法にて角柱を成形した。この成形体を大気中1350℃で2時間焼成し、実験用試料とした。
【0031】
(比較例1)
組成がLa0.94Sr0.06Ni0.95Fe0.05となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0032】
(比較例2)
組成がLa0.48Sr0.52Ni0.66Fe0.34となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0033】
(比較例3)
組成がLa0.94Sr0.06Ni0.53Fe0.47となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0034】
(比較例4)
組成がLa0.95Sr0.05Ni0.47Fe0.53となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0035】
(比較例5)
組成がLa0.65Sr0.35Ni0.46Fe0.54となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0036】
(比較例6)
組成がLa0.95Sr0.05Ni0.33Fe0.67となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0037】
(比較例7)
組成がLa0.79Sr0.21Ni0.35Fe0.65となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0038】
(比較例8)
組成がLa0.61Sr0.39Ni0.19Fe0.81となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0039】
(比較例9)
組成がLa0.65Sr0.35Ni0.1Fe0.9となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例1と同様である。
【0040】
(比較例10)
出発原料として、La(OH)、SrCO、NiOの各粉末を使用した。La0.67Sr0.33NiO組成となるように所定量の出発原料を秤量し、ボールミル混合した。この混合粉末を大気中1200℃で10時間焼成し、原料粉末を得た。この粉末に有機バインダーとしてポリビニルアルコールを分散させ、一軸プレス法にて角柱を成形した。この成形体を大気中1350℃で2時間焼成し、実験用試料とした。
【0041】
(比較例11)
組成がLa0.44Sr0.56NiOとなるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、比較例10と同様である。
【0042】
(比較例12)
組成がLaNi0.53Fe0.47となるように出発原料の配合割合を変えたこと以外、実施例8と同様である。
【0043】
(比較例13)
出発原料として、La(OH)、SrCO、MnOの各粉末を使用した。La0.75Sr0.25MnO組成となるように所定量の出発原料を秤量し、ボールミル混合した。この混合粉末を大気中1200℃で10時間焼成し、原料粉末を得た。この粉末に有機バインダーとしてポリビニルアルコールを分散させ、一軸プレス法にて角柱を成形した。この成形体を大気中1400℃で2時間焼成し、実験用試料とした。
【0044】
(組成分析方法)
実施例及び比較例の組成分析方法を以下に示す。まず、標準試料作製方法について示す。標準試料は、後で述べる原料を配合し、混合し、乾燥することによって得られる。配合については、La(OH)3, SrCO3, Fe2O3, NiOを110℃で2時間以上乾燥させ、表1に示す元素比になるように配合した。具体的には、標準試料1は元素のmol比がLa:Sr:Ni:Fe=0.9:0.1:0.7:0.3となるように、標準試料2はLa:Sr:Ni:Fe=0.7:0.3:0.5:0.5となるように、標準試料3はLa:Sr:Ni:Fe=0.5:0.5:0.1:0.9となるように配合した。混合については、4種類の原料が均一になるまで十分に混合した。乾燥については、110℃で一晩以上乾燥した。粉体形態の3種類の標準試料についてそれぞれ、四ホウ酸リチウムを用いてガラスビードを作製し、リガク製ZSX PrimusIIを用いて以下の条件で、La, Sr, Ni, Feの強度値の測定を行った。
スペクトル Kα
X線出力 60mA, 50kV
スリット S2
分析径 1mm角
分光結晶 LiF1
検出器 SC
【0045】
検量線作成方法について、まずLaの場合を説明する。上記の測定により得られたLaの強度値と表1に示すLaの元素比との関係は、縦軸を強度値、横軸をLaの元素比としてグラフ化される。グラフの原点を通るように最小二乗法でプロット点の近似直線を作成して、Laの検量線を得た。Sr, Ni, Feについても同様にして検量線を得た。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例、比較例の元素比の求め方について説明する。全ての実施例、比較例について、評価用の実験用試料をリガク製ZSX PrimusIIを用いて標準試料と同じ条件で測定し、Laの強度値を得た。上述の方法で標準試料より作成したLaの検量線を用いて、強度値からLaの元素比を求めた。Sr、Ni、Feについても同様の方法で、それぞれの検量線から元素比を求めた。
【0048】
なお固体酸化物形燃料電池セル体のプリコート層の組成を分析する際は、セル体のプリコート層表面にあるインターコネクタを研磨しプリコート層を露出させ、前記露出部分を測定すれば良い。
【0049】
(還元安定性評価方法)
インターコネクタが長期運転で劣化し、プリコート層が還元ガスにさらされるのを想定し以下の実験を行なった。実施例1〜10及び比較例1〜13の還元安定性について、次のように評価した。作製した実験用試料を電気炉に入れ、電気炉内部に還元ガスとして水素、キャリアガスとしてNを流し、電気炉内部を3%水素濃度雰囲気状態とした。次に、電気炉を900℃まで昇温させ、900℃で2時間温度をキープした後、室温まで降温させた。その後、実験用試料を取り出し実験用試料が崩壊しているかどうかの確認を目視にて行なった。
【0050】
(評価結果)
実施例1〜10は実験用試料が崩壊することなく形状を保っており、比較例1〜13は実験用試料にクラックが入って崩壊し形状を維持していなかった。還元安定性評価結果を表2及び図2に示す。図2はLa1−ySrNi1−xFe組成図に、実験用試料が崩壊しなかった組成を○で、崩壊した組成を×で表記した図である。縦軸はSrドープ量yを0から0.8まで、横軸はFeドープ量xを0から1まで表しており、点線によって区切ってある。○横の数字は実施例番号を、×横の数字は比較例番号を表す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2及び図2より、実施例1〜10は崩壊することなく形状を保っており、還元安定性に優れていることを示した。よって、La1−ySrNi1−xFeの組成を0≦y≦0.3、0.7≦x≦1とすることで還元ガスにさらされても崩壊しない、すなわち還元安定性に優れたプリコート層となることが確認できた。また、比較例13より、従来のプリコート層として用いている(La,Sr)MnOは本発明のLa1−ySrNi1−xFe(0≦y≦0.3、0.7≦x≦1)と比較して還元安定性に乏しいことが確認された。
【0053】
(導電率評価)
さらには、プリコート層にはインターコネクタから流れてくる電子を効率よく空気極へ流すために高い導電性が要求される。そこで、プリコート層の導電率について評価するために、以下のような実験を行なった。まずは各試料の作製方法について以下に記載する。また、実施例1〜8で還元安定性を評価するために作製した実験用試料についても導電率評価を行なった。
【0054】
(比較例14)
出発原料として、La(OH)、SrCO、Cr、Feの各粉末を使用した。La0.9Sr0.1Cr0.1Fe0.9組成となるように所定量の出発原料を秤量し、ボールミル混合した。この混合粉末を大気中1200℃で10時間焼成し、原料粉末を得た。この粉末に有機バインダーとしてポリビニルアルコールを分散させ、一軸プレス法にて角柱を成形した。この成形体を大気中1400℃で2時間焼成し、実験用試料とした。
【0055】
(比較例15)
出発原料として、La(OH)、SrCO、TiO、Feの各粉末を使用した。La0.9Sr0.1Ti0.1Fe0.9組成となるように所定量の出発原料を秤量し、ボールミル混合した。この混合粉末を大気中1200℃で10時間焼成し、原料粉末を得た。この粉末に有機バインダーとしてポリビニルアルコールを分散させ、一軸プレス法にて角柱を成形した。この成形体を大気中1400℃で2時間焼成し、実験用試料とした。
【0056】
(評価方法)
実施例1〜8及び比較例14、15の導電率について、次のように評価した。作製した実験用試料にJISR1661に基づき電流端子及び電圧端子を取り付けた。前記実験用試料を900℃、大気雰囲気の条件下にて、直流4端子法による導電率測定を行ない、(4)式より導電率を算出した。
σe=L/A×(V/I) ・・・(4)
ここで、σeは導電率、Lは電位端子間距離、Aは試料の断面積、Vは電位、Iは電流を示す。
【0057】
(評価結果)
導電率評価結果について、表3に示す。表3より、実施例1〜8は導電率が2桁以上と高く、さらに実施例1、2、3、5は導電率が3桁以上と非常に高いことが確認された。よって、La1−ySrNi1−xFe(0≦y≦0.3、0.7≦x≦1)とすることで導電性の高いプリコート層となることが確認できた。さらにLa1−ySrNi1−xFe(0≦y≦0.05 0.85≦x≦1を含まない)とすることで、非常に導電率の高いプリコート層となることが確認できた。導電率が高いほどインターコネクタからの電子を効率よく空気極に流すことができるので、出力性能に優れる、特には電流量の多くなる高電流密度領域での出力性能を向上させた固体酸化物形燃料電池セル体を提供することができる。
【0058】
【表3】

【0059】
また、比較例14、15は導電率が1桁と著しく低かった。このことからCrやTiを添加し、還元安定性を高めた(La,Sr)(Fe,Cr)O、(La,Sr)(Fe,Ti)Oは本発明のLa1−ySrNi1−xFe(0≦y≦0.3、0.7≦x≦1)と比較して導電性が低く、プリコート層には不適であることが確認された。
【0060】
以上より、La1−ySrNi1−xFe(0≦y≦0.3、0.7≦x≦1)で表されるプリコート層とすることで、還元安定性に優れ、さらに導電率が高いプリコート層を得られることが明らかになった。前記範囲を用いることにより、プリコート層が還元ガスにさらされても崩壊せず、セル破損を防止することが可能になった。本発明によりインターコネクタに不具合が生じたときにもプリコート層で補助することが出来る。つまり、本発明により、インターコネクタの微小な欠陥や、長期運転によるインターコネクタ劣化による緻密度低下に対しても、セル体が破損せず、信頼性に優れる固体酸化物形燃料電池セル体を提供できる。本発明のプリコート層は円筒型セル体の外側に燃料ガス、内側に酸素や空気を流して発電する空気極支持体型の固体酸化物形燃料電池セル体に特に有用である。すなわち、外側に設けてあるインターコネクタが劣化しても、インターコネクタと空気極との間に設けてあるプリコート層が崩壊せず、空気極支持体に燃料ガスが進入しないため、セル体破損を防ぐことが出来る。また、本実施例範囲の組成は、大部分が結晶系として斜方晶系になっている。結晶系を斜方晶系とすることで、結晶格子が密に詰まらず、構成原子がフレキシブルに動くことができるので、崩壊しにくいものと考えられる。なお、本発明のプリコート層を適用する際に、空気極をLa1−ySrNi1−xFeで表される空気極材料とすることで、導電率の著しい低下を防ぐことが確認されている。また、燃料電池に本発明の固体酸化物形燃料電池セル体を用いることで長期運転時のインターコネクタ劣化による値密度低下に対してもセル体破損を防ぎ、信頼性に優れる燃料電池を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】円筒縦縞型の固体酸化物形燃料電池セル体の断面を示す図である。
【図2】本発明における還元安定性と組成の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1…空気極支持体
2…インターコネクター
3…固体電解質
4…燃料極
5…プリコート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極と、インターコネクタとを備えた固体酸化物形燃料電池セル体であって、前記空気極とインターコネクタの間にプリコート層を備え、前記プリコート層がLa1−ySrNi1−xFeで表され、その組成範囲が0≦y≦0.3、0.7≦x≦1で表されることを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル体。
【請求項2】
請求項1記載の固体酸化物形燃料電池セル体を備える燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−164031(P2009−164031A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2031(P2008−2031)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体酸化物形燃料電池システム技術開発事業/高出力化に関する研究開発/湿式円筒形セルにおける高出力化の研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】