説明

固体酸化物形燃料電池用の燃料極材料およびその製造方法

【課題】本発明は、より一層高い発電性能を長期にわたって発揮することができる固体酸化物形燃料電池用の燃料極の材料を提供することを目的とする。また、本発明は、当該燃料極材料を用いた高性能の燃料極および燃料電池用セルを提供することも目的とする。
【解決手段】本発明の固体酸化物形燃料電池用燃料極材料は、平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gである酸化ニッケル粉末と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末からなること、または、当該酸化ニッケル粉末と、平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が2〜60m/gの酸化ニッケル粉末とからなる混合酸化ニッケル粉末と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用の燃料極材料およびその製造方法、当該燃料極材料により形成された固体酸化物形燃料電池用の燃料極、並びに当該燃料極を有する固体酸化物形燃料電池用セルに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」という場合がある)用セルにおいては、空気極で酸素分子が電子を得て酸素イオンとなり、この酸素イオンが固体電解質を経由して燃料極へ移動し、燃料ガス例えば水素と反応して電子を放出する。この電子は外部回路を経由して燃料極から空気極に流れるが、この過程で物理的な仕事が行われる。かかるSOFC用セルの動作の原動力となるのは、空気極と燃料極における酸素濃度の差である。この酸素濃度差と温度により、SOFC用セルの起電力は一義的に決まるものであるが、電解質、燃料極および空気極のそれぞれで生じる内部抵抗(オーム抵抗や反応抵抗)により、セルの性能が異なる。よって、セルの内部抵抗を低減するための技術開発が進められている。
【0003】
固体酸化物形燃料電池の燃料極材料としては、酸化ニッケルとジルコニアの粉末を混合してなるニッケル−ジルコニアサーメットが、高い電極触媒活性と電解質との熱膨張差緩和性を有することから古くより用いられてきた。当該サーメットにおいて、酸化ニッケルとジルコニアの比率は、導電性、熱膨張率、電極触媒活性などを考慮した上で最適化される。(なお、酸化ニッケルは燃料電池として作動するときは水素などの燃料によって還元され、金属ニッケルになっているが、ここでは酸化ニッケルと金属ニッケルを区別せずニッケルと称する。)即ち、ニッケルは電極活性と電子導電性を有する材料であるが、燃料電池の作動停止に伴う室温から作動温度までの昇温と作動温度から室温までの熱サイクルや、700〜1000℃等の作動温度で長時間曝されることによってニッケル成分の凝集や導電ネットワーク構造が分断されて電極活性が低下する問題が知られている。
【0004】
この問題に対して、表層部は金属ニッケルでその内部に酸化チタンが不規則な形状の核として存在する表面改質粉を燃料極用材料として用いる技術が開示されている(特開平9−245817号)。しかしながら、そのためには溶射製膜する必要が有り、簡便には製造できず量産性に劣るものである。
【0005】
また、特許文献2には、ニッケルもしくは酸化ニッケルを含む粉末に、MgO、CaO、SrO、Y、La、Sc、Alのいずれか一種以上もしくはタングステン粉末もしくはチタン粒子を添加してなる混合粉末材料を使用して、ニッケル粒子の焼結と凝集を防止する技術が開示されている(特開平9−274921号)。しかしながら、MgO、Al等の添加は逆に酸化ニッケルの焼結を促進する作用があり、燃料極作製での高温焼成において酸化ニッケル粉末が粗大化すると共に、還元後のニッケル粒子も粗大化するためニッケル粒子の焼結と凝集は十分に抑止できていない。
【0006】
【特許文献1】特開平9−245817号公報
【特許文献2】特開平9−274921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来、固体酸化物形燃料電池の発電性能を長期間維持するための高い電極活性を有する燃料極材料が開発されている。しかし、広く固体酸化物形燃料電池が実用化されるためには、発電性能や信頼性をさらに向上させる必要がある。そこで、本発明が解決すべき課題は、より一層高い発電性能を発揮することができる固体酸化物形燃料電池用の燃料極材料を提供する、および高性能を有する高性能を有する固体酸化物形燃料電池用燃料極および固体酸化物形燃料電池用セルを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく燃料極材料中の酸化ニッケルについて鋭意研究を重ねたところ、燃料電池用セルの発電性能経時安定化のためには、燃料極材料中の酸化ニッケルの凝集が大きく影響することがわかり、更に酸化ニッケル粉末と安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末を含有してなる燃料極材料において、酸化ニッケル粉末が、適切な比表面積と平均粒子径とを持つときに良好な発電性能、特に高い発電耐久性能を示す燃料極材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
つまり、比表面積が0.1〜1m/gと非常に低いながら、平均粒子径が0.3〜3μmと通常の酸化ニッケル粉末の平均粒子径と同等の物性をもつ酸化ニッケル粉末を使用することによって、高温に長時間曝されても凝集が抑制される耐熱性を有し、発電性能の経時劣化が少ない固体酸化物形燃料電池用セルが得られることを見出した。さらに、上記酸化ニッケル粉末からなる燃料極は1m以下と非常な低比表面積のために電極活性が低くなるが、通常の比表面積と平均粒子径をもつ酸化ニッケル粉末を加えることで、十分な電極活性をもち、且つ発電性能の経時安定化が達成できることも見出した。
【0010】
つまり、本発明の固体酸化物形燃料電池用燃料極材料は、平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gである酸化ニッケル粉末(X)と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末からなることを特徴とする。また、酸化ニッケル粉末(X)に平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が2〜60m/gの酸化ニッケル粉末(Y)を添加して得られる混合酸化ニッケル粉末を用いることが好ましい。上記混合酸化ニッケル粉末としては、前記平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gである酸化ニッケル粉末(X)の割合が50〜90質量%、前記平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が2〜60m/gの酸化ニッケル粉末(Y)の割合が10〜50質量%であるものが好ましい。
【0011】
また、前記燃料極材料としては、混合酸化ニッケル粉末の割合が45〜75質量%、前記安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末の割合が25〜55質量%であるものが好適である。
【0012】
本発明の固体酸化物形燃料電池用燃料極材料の製造方法は、酸化ニッケル粉末(X)が、酸化ニッケル粉末、または酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、ギ酸ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケルおよびシュウ酸ニッケルよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上を酸化雰囲気中で、1300〜1500℃で熱処理し、熱処理によって得られた酸化ニッケル粉末を湿式ミリングおよび/または乾式ミリングして得られることを特徴とするものである。さらには、本発明の固体酸化物形燃料電池用燃料極材料を用いて、固体酸化物形燃料電池における固体電解質の片面側に形成することによって燃料極とすることもできる。そして、当該燃料極が固体電解質の片面側に上記燃料極材料で形成されたものであり、他方面側に空気極を形成することによって固体酸化物形燃料電池用セルとすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の燃料極材料を用いれば、酸化ニッケルの凝集が抑制され、発電性能、特に発電耐久性能に優れた固体酸化物形燃料電池の燃料極を製造することができる。よって、本発明の燃料極材料は、固体酸化物形燃料電池を一層実用化に近づけるものとして、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本発明にかかる第一の発明は、平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gである酸化ニッケル粉末(X)と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末とを含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用燃料極材料である。
【0015】
また、本発明にかかる第二の発明は、平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gである酸化ニッケル粉末(X)と、平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が2〜60m/gの酸化ニッケル粉末(Y)とからなる混合酸化ニッケル粉末と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末とを含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用燃料極材料である。
【0016】
また、本発明にかかる第三の発明は、固体酸化物形燃料電池用燃料極材料の製造方法である。第一の製造方法は、平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gである酸化ニッケル粉末(X)と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末とを含む固体酸化物形燃料電池用燃料極材料であって、酸化ニッケル粉末(X)が、酸化ニッケル粉末、または酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、ギ酸ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケルおよびシュウ酸ニッケルよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上を酸化雰囲気中で、1300〜1500℃で熱処理し、熱処理によって得られた酸化ニッケル粉末を湿式ミリングおよび/または乾式ミリングして得られることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用燃料極材料の製造方法である。
【0017】
第二の製造方法は、固体酸化物形燃料電池用燃料極材料の製造方法である。第一の製造方法は、平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gである酸化ニッケル粉末(X)と、平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が2〜60m/gの酸化ニッケル粉末(Y)と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末とを含む固体酸化物形燃料電池用燃料極材料であって、酸化ニッケル粉末(X)が、酸化ニッケル粉末、または酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、ギ酸ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケルおよびシュウ酸ニッケルよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上を酸化雰囲気中1300〜1500℃で熱処理し、熱処理によって得られた酸化ニッケル粉末を湿式ミリングおよび/または乾式ミリングして得られることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用燃料極材料の製造方法である。
【0018】
本発明にかかる酸化ニッケル粉末(X)は、平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gであり、比表面積が1m/g以下の低表面積であることによって、耐熱性が付与されるためか、高温度で長時間曝されても凝集や焼結しにくくなり、電極活性の低下を招きにくくなる。またこのとき、平均粒子径が0.3〜3μmと特定することによって、低比表面積による大幅な電極活性の低下を防止しつつ維持することができる結果、初期においても十分な発電性能が得られ、その劣化を防ぐことができる。比表面積が0.1m/g未満になるとさらに耐凝集性は高まるが、電極活性自体が大きく低下して満足する発電性能が得られない。また、1m/gを超えると、燃料極形成時の焼成や燃料電池運転時の長時間曝されことにより凝集が起こりやすくなり電極活性の低下が顕著になるものである。
【0019】
前記酸化ニッケル粉末(X)の比表面積は0.2〜0.9m/gが好ましく、さらに好ましくは0.3〜0.8m/gである。
【0020】
前記酸化ニッケル(X)は平均粒子径が0.3〜3μmであり、平均粒子径が3μmを超えると電極活性が極端に低下し、逆に平均粒子径が0.3μm未満では、電極活性は高くなるが高温で長時間曝されると凝集が起こりやすくなって電極活性の低下を招くことになる。好ましい平均粒子径は0.4〜2.8μm、さらに好ましくは0.5〜2.5μmである。
【0021】
特に前記酸化ニッケル(X)の90体積%径も2〜20μm、好ましくは2.5〜10μmの範囲であることによって、電極活性の低下を最小限に防止できる。
【0022】
酸化ニッケル粉末(X)に平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が2〜60m/gの酸化ニッケル粉末(Y)を添加した混合酸化ニッケル粉末を用いることが好適である。これにより電極活性の経時安定性が向上するものである。
【0023】
酸化ニッケル粉体(Y)は平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が2〜60m/gであり、平均粒子径が0.3μm未満で比表面積が60m/gを超える粉末では凝集が起こりやすく、逆に、平均粒子径が3μmを超え比表面積が2m/g未満の粉末では電極活性の向上に十分寄与できない。好ましくは平均粒子径が0.35〜2.5μmおよび比表面積がは2.5〜30m/g、さらに好ましくは平均粒子径が0.4〜2μmおよび比表面積は3〜20m/gである。
【0024】
混合酸化ニッケル粉末における酸化ニッケル粉末(X)と酸化ニッケル粉末(Y)との混合割合は、酸化ニッケル粉末(X)の割合を50〜90質量%、酸化ニッケル粉末(Y)の割合を10〜50質量%(合計で100質量%)とすることが好ましい。酸化ニッケル粉末(Y)の割合が50質量%よりも少な過ぎると電極活性が不足気味で十分な発電性能が得られない恐れがある。逆に、酸化ニッケル粉末(Y)の割合が90質量%よりも多過ぎると電極活性の経時安定性が不足し、発電性能の劣化傾向が大きくなる。さらに好ましくは、酸化ニッケル粉末(X)の割合が60〜85質量%、酸化ニッケル粉末(Y)の割合が15〜40質量%である。
【0025】
本発明における粉末の平均粒子径(50体積%径)、90体積%径は、例えば堀場製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置「LA−920」を用い、蒸留水中に分散剤として0.2質量%のメタリン酸ナトリウムを添加した水溶液を分散媒とし、該分散媒の約100cm3中に各粒子を0.01〜0.5質量%添加し、3分間超音波処理して分散させた後の測定値である。なお、平均粒子径とは、粒度分布の測定結果において、累積グラフにおける50体積%での粒径を、また、90体積%径は同じく累積グラフにおける90体積%での粒径をいう。また、比表面積は、窒素ガス吸着BET法で測定した値をいう。
【0026】
本発明の燃料極材料には、上記のような酸化ニッケル粉末(X)とともに、電解質との熱膨張の整合化、酸化ニッケル粉末(X)、(Y)の凝集防止、酸化ニッケル粉末(X)、(Y)とのサーメット化による三次元構造安定化と多孔性の保持のために、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末が含有されている。
【0027】
使用する安定化ジルコニア粉末は、3〜10モル%イットリア安定化ジルコニア、4〜12モル%スカンジア安定化ジルコニア、および3〜15モル%イッテルビア安定化ジルコニアからなる群より選択される少なくとも1種の粉末が好適である。特に高いイオン導電性の観点から8〜10モル%イットリア安定化ジルコニア、10〜12モル%スカンジア安定化ジルコニア、および12〜15モル%イッテルビア安定化ジルコニア等の立方晶系シルコニアが好適に使用される。その平均粒子径は 特に制限されないが、0.1〜50μmの範囲が好ましい。また、三次元構造安定化と多孔性の保持を効果的にするために、0.1〜1μmと15〜50μmと言うように異なった平均粒子径をもつ2種以上の粉末からなるものでもよい。また、ジルコニア粉末の比表面積は、1〜30m2/g程度が好ましい。また、ドープセリア粉末としては、イットリウム、サマリウム、ガドリニウムから選択される少なくとも1種の酸化物でドープされたセリアが好適に選択される。これらは、セリア中のCeの一部が少なくとも1種が前記希土類元素により置換されたもので、前記希土類元素の一部が、希土類元素ではない他の元素により更に置換されていてもよい。これらのドープセリアは、1種の希土類元素により置換された化学式Ce1−xLn2±δ(LnはY、Sm、Gdのうちの1種であり、δは酸素過剰量又は酸素欠損量である。)で表され、xは、通常、0.05≦x≦0.3である。このようなドープされた酸化セリウムとしては、例えば、イットリアドープセリア(Ce0.80.22±δ)、サマリアドープセリア(Ce0.8Sm0.22±δ)、ガドリニアドープセリア(Ce0.8Gd0.22±δ)等が挙げられ、特にxが0.2、つまり20モル%添加されたサマリアドープセリアとガドリニアドープセリアが特に好適に使用される。これら酸化セリウム粉末の粒径は、特に制限されないが、平均粒径として0.1〜50μmが好ましい。また、比表面積は、1〜30m2/g程度が好ましい。
【0028】
燃料極材料において、混合酸化ニッケル粉末と安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末との混合割合は混合酸化ニッケル粉末の割合を45〜75質量%、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末の割合を25〜55質量%(合計で100質量%)とすることが好ましい。混合酸化ニッケル粉末が少な過ぎると電極活性が低下して十分な発電性能が得られず、電子導電性にも乏しくなり得る。逆に、混合酸化ニッケル粉末が多過ぎると電解質との熱膨張の違いが大きくなって平坦なセルが製造しにくくなると共に、酸化ニッケルの凝集が一層起こりやすくなる。より好ましくは、混合酸化ニッケル粉末の割合を50〜70質量%、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末の割合を30〜50質量%である。また、安定化ジルコニア粉末とドープセリア粉末との混合粉末の場合、その混合割合は安定化ジルコニア/ドープセリアが質量%で10〜90:10〜90、好ましくは20〜80:20〜80、さらに好ましくは30〜70:30〜70である。
【0029】
本発明にかかる製造方法は前記固体酸化物形燃料電池用燃料極材料を得られるものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gである酸化ニッケル粉末(X)と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末とを含む固体酸化物形燃料電池用燃料極材料であって、酸化ニッケル粉末(X)が、酸化ニッケル粉末、または酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、ギ酸ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケルおよびシュウ酸ニッケルよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上を酸化雰囲気中で、1300〜1500℃で熱処理し、熱処理によって得られた酸化ニッケル粉末を湿式ミリングおよび/または乾式ミリングして得られることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用燃料極材料の製造方法である。
【0030】
(酸化ニッケル粉末(X)の製法)
酸化ニッケル粉末(X)は、平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gであれば市販の酸化ニッケル粉末でよい。また酸化ニッケル以外のニッケル源のなかでも熱処理により酸化ニッケルとなるものであればニッケル源として用いることができ、特に熱処理時の分解ガスの影響や取り扱いの容易さから酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、ギ酸ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケルおよびシュウ酸ニッケルよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上を酸化雰囲気中で、1300〜1500℃で熱処理し得られた酸化ニッケル粉末を用いることが好ましい。
【0031】
また、熱処理温度を1300〜1500℃に特定したのは、この温度域で燃料電池用セルの燃料極や燃料極基板が作製されるので、前もってこの温度域に酸化ニッケル粉末を曝すことによって若干の凝集は起こるものの酸化ニッケル粉末に耐熱性が付与され、燃料電池作動条件下でも安定した物性を維持して発電性能の長期安定化が図れるためである。したがって、1300℃未満では、燃料極材料として用いた場合には、処理温度が低いためか、熱に対する安定性が不足して凝集しやすく長期にわたる安定した発電性能が得られなくなる。逆に熱処理温度が1500℃を超えると、焼結が進む結果熱処理による凝集体が非常に大きく且つ硬くなるために上記ミリングによる粉砕が困難になって、平均粒子径3μm以下に調製できなくなる。熱処理温度の好ましい範囲は1320〜1480℃、さらに好ましくは1350〜1450℃である。また、熱処理時間は1〜10時間が好ましい。よりで、好ましくは1320〜1480℃で2〜8時間である。
【0032】
上記熱処理によって得られた酸化ニッケル粉末はほぼ1〜2μmから100〜200μm程度に凝集しており、その凝集体を湿式ミリングおよび/または乾式ミリングによって、目的とする平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gである酸化ニッケル粉末に調製される。湿式ミリングはボールミル、ビーズミル、湿式ジェットミル、ホモジナイザー法などによって、またはこれらを組み合わせた粗粉砕+微粉砕という2段粉砕によって、前記凝集体を粉砕・解砕する。また、乾式ミリングでは遊星ミル、ジェットミル、ローラーミル、ハンマーミル、アトマーザー、高圧分散機法などによって前記物性の酸化ニッケル粉末を得る。さらに乾式ミリングと湿式ミリングを組み合わせて粉砕することも可能である。粉砕時には、適宜サンプルを採取して平均粒子径を測定し、上記所望の平均粒子径となったところで粉砕操作を中止すればよい。
【0033】
湿式ミリングでは粉砕メディアを使用する使用する溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコールが単独でまたは2種以上混合して使用される。ミリング効果を高めるために、ノニオン系の界面活性剤や、硝酸等の鉱酸、アンモニア水等のアルカリ溶液、酢酸等の有機酸を選択することが出来る。特に、粉体を溶媒に懸濁させた懸濁液に高圧の圧力エネルギーを与え、途中で2流路に分岐させ、再度合流する部分で衝突させて粉砕・分散を行う湿式ジェットミルはボールミルなどに比べてエネルギー密度が高くまた、粉砕メディアを使用しないので不純物の混入がなく短時間で微細化でき、また、その粒度分布はパス回数によって調整できるので特に好ましい。上記の湿式ミリングで粉砕した場合、粉砕された酸化ニッケル粉末は上記の溶媒に分散された状態の懸濁液になっているので、次いで溶媒成分を蒸発させて前記物性の酸化ニッケル粉末を得る。その乾燥方法は特に制限はされないが、溶媒蒸発によって再凝集を抑制する効果があるスプレードラヤー、振動乾燥機、流動乾燥機、ドラムドライヤー等で乾燥することが好ましい。
【0034】
次いで上記手順により得られた酸化ニッケル粉末(X)と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末とを混合する。、単にこれら粉末を順次または同時に添加することによって燃料極材料とすることができるが、その混合方法は出来るだけ均一に混合されればよく特に制限はない。ジェットミキサー、流動混合機、V型混合機や攪拌擂潰機等が好適に使用される。これらの方法は酸化ニッケル粉体(X)と安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末との混合のみならず、これらの酸化ニッケル粉体(Y)、混合ニッケル粉体、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末との混合に適宜用いることができる。
【0035】
(酸化ニッケル粉体(Y)の製法)
酸化ニッケル粉体(Y)は、市販の酸化ニッケル粉末でよい。また、酸化ニッケル以外のニッケル源のなかでも熱処理により酸化ニッケルとなるものであればニッケル源として用いることができ、特に熱処理時の分解ガスの影響や取り扱いの容易さから酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、ギ酸ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケルおよびシュウ酸ニッケルよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上を酸化雰囲気中で、800〜1300℃で熱処理することにより得ることができる。
【0036】
(燃料極の製法)
本発明の燃料極材料は、固体酸化物形燃料電池の電解質支持型セル用の燃料極あるいは燃料極支持型セルの燃料極基板を形成するために使用される。電解質支持型セル用の燃料極の場合は固体電解質シート上に塗布するために燃料極ペーストとする。具体的には、本発明の燃料極材料を、エチルセルロース、ポリエチレングリコールなどのバインダー;エタノール、トルエン、α−テルピネオール、カルビトールなどの溶剤;グリセリン、グリコール、フタル酸ジブチルなどの可塑剤、更には必要に応じて配合される分散剤、消泡剤、界面活性剤、レベリング性向上剤、レオロジー調整剤などと共に、例えばらいかい機、3本ロールミルや遊星ミルなどを用いて混練して、均一に混合された適度な粘度のペーストとする。コーティングやディッピングによって電解質シート上に燃料極を形成する場合は、B型粘度計で1〜50mPa・s、より好ましくは2〜20mPa・sの範囲に調整するのがよい。スクリーン印刷により燃料極を形成する場合の好ましいスラリー粘度は、ブルックフィールズ粘度計で50,000〜2,000,000mPa・s、より好ましくは80,000〜1,000,000mPa・s、更に好ましくは100,000〜500,000mPa・sの範囲である。上記燃料極ペーストは、例えばバーコーター、スピンコーター、ディッピング装置などにより固体電解質シート上にコーティングし、或いはスクリーン印刷法などで薄膜状に製膜した後、40〜150℃の温度、例えば50℃、80℃、120℃の様な一定の温度、或いは順次連続的に昇温して加熱乾燥する。次いで、好適には1200〜1450℃で焼成し、燃料極を形成する。この際、1300℃以上であれば焼結が十分に進み強固なサーメットが得られ十分な導電率を有する。一方、焼結温度を1450℃以下にすることにより、過度の焼結による電極反応活性の低下を十分に抑制することができる。このときの燃料極層の厚みは、10〜300μm程度が適当であり、好ましくは15〜100μm、さらに好ましくは20〜50μmの範囲である。
【0037】
また、燃料極支持型セル用の燃料極基板の場合は燃料極スラリーとする。具体的には、本発明の燃料極材料を、(メタ)アクリル共重合体樹脂、ポリビニルブチラール樹脂などのバインダー;エタノール、イソプロパノール、トルエン、酢酸エチルなどの溶剤;グリセリン、グリコール、フタル酸ジブチルなどの可塑剤、更には必要に応じて配合される分散剤、消泡剤、界面活性剤、レベリング性向上剤、レオロジー調整剤などと共に、例えばボールミルやビーズミルなどを用いて混練して、均一に混合された適度な粘度のスラリーとする。ドクターブレード法によって燃料極基板を形成する場合は、B型粘度計で1〜50mPa・s、より好ましくは2〜20mPa・sの範囲に調整するのがよい。押出成形法により燃料極を形成する場合の好ましいスラリー粘度は、ブルックフィールズ粘度計で50,000〜2,000,000mPa・s、より好ましくは80,000〜1,000,000mPa・s、更に好ましくは100,000〜500,000mPa・sの範囲である。上記燃料極スラリーは、例えばドクターブレードを備えたシート成形機により高分子フィルム上にキャスティングした後、或いは押出成形機などでスラリーを押出成形して薄膜状に製膜した後、同様に40〜150℃の温度、例えば50℃、80℃、120℃の様な一定の温度、或いは順次連続的に昇温して加熱乾燥する。次いで、さらに同様に好適には1200〜1450℃で焼成し、燃料極を形成する。この際、1300℃以上であれば焼結が十分に進み強固なサーメットが得られ十分な導電率を有する。一方、焼結温度を1450℃以下にすることにより、過度の焼結による電極反応活性の低下を十分に抑制することができる。このときの燃料極基板の厚みは0.3〜3mmが好適であり、さらに好ましくは0.5〜2mm、特に好ましくは0.6〜1.5mmの範囲である。
【0038】
(固体電解質)
固体電解質は、公知のものを用いればよい。例えば、本発明に係る固体酸化物形燃料電池を使用する条件下において、酸素イオン導電率が高い安定化ジルコニアもしくはランタンガレート系ペロブスカイト型酸化物が選択される。安定化ジルコニアは、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウムから選択される少なくとも1種の酸化物を3〜15モル%固溶した安定化ジルコニアが好ましい。その結晶構造は、主体が正方晶系や主体が立方晶系、あるいは正方晶と立方晶との混晶であってもよいが、特に立方晶系を主体とする結晶構造の安定化ジルコニアの場合にその効果が有効に発揮され、9〜12モル%スカンジア安定化ジルコニア、8〜10モル%イットリア安定化ジルコニア、10〜13モル%イッテルビア安定化ジルコニアが特に好ましいものとして推奨される。上記安定化剤の他に、MgO、CaO、SrO、BaOのアルカリ土類金属酸化物や、その他希土類元素酸化物としてLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、その他Al、Ga、Biのような酸化物も適宜選択されるが、その量は酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウムから選択される少なくとも1種の酸化物との合計で15モル%を超えない量が適当である。また、ランタンガレート系電解質としては、LaGaOペロブスカイトを基本構造とし、そのランタンやガリウムの一部が、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅などで置換された、La1−XSrGa1−YMg3−δ、La1−XSrGa1−YMgCo3−δ、La1−XSrGa1−YFe3−δ、La1−XSrGa1−YNi3−δ、(0<X≦0.2、0<Y≦0.2、0<Z≦0.1、δは酸素欠損量である)が例示される。中でもLa0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.23−δやLa0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.115Co0.0853−δが高い酸素イオン導電性を有するので特に好ましい。固体電解質の厚さは、電解質支持型セルの場合は要求される導電率や強度に合わせて、例えば、4〜6モル%のスカンジアを含む正方晶系安定化ジルコニアからなる電解質支持基板としては100μm以下とすることが好ましく、10モル%以上のスカンジアを含む立方晶系安定化ジルコニアでは500μm以下が好ましく、さらに好ましくは300μm以下とする。燃料極支持型セルの場合は、要求される緻密性に合わせて、3〜50μm、好ましくは5〜40μmとする。
【0039】
(空気極)
空気極としては、電子導電性とイオン導電性の両方を有し、酸化雰囲気下でも安定なペロブスカイト形酸化物からなるものが一般的に用いられる。具体的には、La0.8Sr0.2MnO、La0.6Sr0.4CoO3、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8等、ランタンの一部をストロンチウムで置換したランタンマンガナイトや、ランタンの一部をストロンチウムで置換したランタンフェライトやランタンコバルタイト等が、空気極材料として好ましい。また、空気極の酸素イオン導電性を高めるために、希土類などをドープしたセリアを適宜混合することもできる。
【0040】
上記空気極材料は、上述した燃料極材料と同様に、空気極ペーストとした上で、固体電解質上へ空気極を形成するために使用することができる。この際、電解質と空気極との間に絶縁物質が生成するのを防ぐために、反応防止層を設けてもよい。かかる反応防止層は、一般的に、希土類ドープセリアにより形成する。反応防止層と空気極は、個別に焼成を行ってもよいし、或いは燃料極と同時に焼成してもよい。
【0041】
(燃料電池用セル)
本発明にかかる燃料電池用セルは、固体酸化物形燃料電池用燃料極材料により固体電解質の片面に燃料極を形成し、当該固体電解質の他面に空気極を形成することにより得られるものである。燃料極および空気極は上記の手順により固体電解質の両面に各々形成されることにより燃料電池用セルとなる。
【0042】
燃料電池用セルにおいて、燃料極材料中の酸化ニッケル粉末は、電池作動雰囲気下では還元されて燃料極中で金属ニッケルとなり、電極反応の反応場を形成する。当該酸化ニッケル粉末は、1300℃以上の熱処理により熱的に安定となっており、これが還元された金属ニッケルも安定で経時的に焼結することなく燃料極に耐久性能を付与する。その結果、当該材料は多孔性が維持されてガス拡散性に優れ、また耐焼結性により酸化ニッケルの凝集が抑制されて導電パスが維持され燃料極として安定した導電性が示される。また、前記ジルコニア粉末およびまたはセリア粉末は、固体電解質と燃料極との熱膨張差を緩和して接着性を高め、また、高いイオン導電率を燃料極に付与する。加えて、ニッケルの凝集を抑制し、三相界面を安定して維持する。
【0043】
よって、本発明の燃料極では、従来のものよりも電極反応場が大きく、また、酸化ニッケル粉末同士の凝集や気孔率の変化が抑制され安定した微細構造を保つことが出来る。その結果、本発明に係る固体酸化物形燃料電池は、十分な初期発電性能を有する上に、長時間発電しても燃料極の劣化が起こり難いという優れた特性を有する。
なお、本発明ではアノード中のニッケル成分はすべて酸化ニッケルと表示しているが、実際の燃料電池作動中のセルでは酸化ニッケルは還元されて金属ニッケルになっていることは言うまでも無い。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下では「安定化ジルコニア」を単に「SZ」と表す。
【0045】
(実施例1)
(1)熱処理酸化ニッケル粉末
酸化ニッケル粉末(正同化学製、製品名:Green、平均粒子径:0.7μm、比表面積:3.5m/g)を磁製るつぼに入れ上蓋をして1350℃で5時間熱処理して、凝集酸化ニッケル粉末を得た(平均粒子径:3.8μm、比表面積:0.6m/g)。その凝集粉体をジルコニア製遊星ミルポットに入れ20mmφジルコニアボールとともに、240回転/分で5分間、遊星ミルにより乾式粉砕して粗粉体を得た。この粗粉体20質量部をイソプロパノール80質量部に加え懸濁させて得た懸濁液を、湿式微粒化装置(スギノマシン製、スターバーストシステム)に投入し、吐出圧力170MPaで5パス運転してイソプロパノールに分散した酸化ニッケルスラリーを得た。次いで、ロータリーエバポレーターで、80℃に加熱しながら真空排気してイソプロパノールを系外に排出し、平均粒子径:0.5μm、比表面積:0.8m/gの1350℃熱処理酸化ニッケル粉末(A)を調製した。
なお、上記酸化ニッケル粉末の粒度分布と平均粒子径は、分散媒としては0.2質量%メタリン酸ナトリウム水溶液を用い、測定前には3分間超音波照射してレーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、製品名:LA−920)で測定したものである。また、比表面積はBET窒素吸着法によって測定したものである。
(2)燃料極ペースト
上記熱処理酸化ニッケル粉末(A)60質量%と10モル%スカンジア1モル%セリア安定化ジルコニア(第一稀元素製:10Sc1CeSZ、平均粒子径:0.6μm、比表面積:11m/g)40質量%とエタノールを、5mmφジルコニアボールが入ったボールミルに投入し60回転/分で10時間湿式混合した後、これを乾燥して燃料極材料を得た。当該燃料極材料粉体100質量部に対して、バインダーとしてエチルセルロースを2質量部、溶媒としてα−テルピネオールを40質量部加え、3本ロールミルを用いて混練し、燃料極ペースト(AP−1)とした。
(3)空気極ペースト
La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83(セイミケミカル製、平均粒子径:0.5μm)80質量部と20モル%ガドリニアドープセリア(セイミケミカル製、平均粒子径:0.5μm)20質量部を混合し、さらにバインダーとしてエチルセルロースを2質量%、溶媒としてα−テルピネオールを30質量部加え、3本ロールミルを用いて混練し、空気極ペーストとした。
(4)反応防止層ペースト
20モル%ガドリニアドープセリア(セイミケミカル製:Ce0.8Gd0.2、平均粒子径:0.5μm、比表面積:10m/g)に、ポリエチレングリコール(分子量300)35質量部加え、3本ロールミルを用いて混練し、反応防止層ペーストとした。
(5)電解質支持膜型セル
6モル%のスカンジアで安定化されたジルコニア電解質シート(6ScSZシート:30mmφ×厚さ100μm)の片面に、スクリーン印刷により、上記燃料極ペーストを10mmφの形状に塗布し、90℃で5時間乾燥した。次に、その反対側に、スクリーン印刷により、上記反応防止層ペーストを10mmφの形状に塗布し、同様に乾燥した。これを1300℃で5時間焼結して反応防止層を形成した。続いて、この反応防止層の上に上記空気極ペーストを同じく10mmφの形状にスクリーン印刷し、90℃で5時間乾燥後、1000℃で3時間焼結することによって、燃料電池用の電解質支持膜型セルを得た。燃料極、空気極、反応防止層の各膜厚は、それぞれ約40μm、30μm、10μmであった。
【0046】
(実施例2)
(1)燃料極ペースト
実施例1で得た熱処理酸化ニッケル粉末(A)85質量%と、市販の酸化ニッケル粉末(平均粒子径:0.6μm、比表面積:3.2m/g)15質量%を混合しエタノールを溶媒として、5mmφジルコニアボールが入ったボールミルで60回転/分で10時間湿式混合した。このボールミルの中に、当該混合粉体65質量部に対して、10モル%スカンジア1モル%セリア安定化ジルコニア(第一稀元素製:10Sc1CeSZ、平均粒子径:0.6μm、比表面積:11m/g)35質量部添加し、さらに60回転/分で10時間湿式混合した後、これを乾燥して燃料極材料を得た。当該燃料極材料粉体100質量部に対して、バインダーとしてエチルセルロースを2質量部、溶媒としてα−テルピネオールを40質量部加え、3本ロールミルを用いて混練し、燃料極ペースト(AP−2)とした。
(2)電解質支持膜型セル
10モル%のイットリアで安定化されたジルコニア電解質シート(10YSZシート:30mmφ×厚さ300μm)の片面に、スクリーン印刷により、上記燃料極ペースト(AP−2)を10mmφの形状に塗布し、90℃で5時間乾燥した。次いで、実施例1と同様に、その反対側に、実施例1で得た反応防止層ペーストを用いて反応防止層を形成しこれを1300℃で5時間焼結し、さらに反応防止層の上に実施例1で得た空気極ペーストを用いて空気極を形成し、1000℃で3時間焼結することによって、燃料電池用の電解質支持膜型セルを得た。燃料極、空気極、反応防止層の各膜厚は、それぞれ約40μm、30μm、10μmであった。
【0047】
(実施例3)
(1)熱処理酸化ニッケル粉末(B)
実施例1と同様の酸化ニッケル粉末を1420℃で3時間熱処理して、凝集酸化ニッケル粉末を得た(平均粒子径:13.9μm、比表面積:0.2m/g)。その凝集粉体をジルコニア製遊星ミルポットに入れ20mmφジルコニアボールとともに、300回転/分で10分間、遊星ミルにより乾式粉砕して粗粉体を得た。この粗粉体20質量部をイソプロパノール80質量部に加え懸濁させて得た懸濁液を、湿式微粒化装置(スギノマシン製、スターバーストシステム)に投入し、吐出圧力245MPaで15パス運転してイソプロパノールに分散した酸化ニッケルスラリーを得た。次いで、ロータリーエバポレーターで、80℃に加熱しながら真空排気してイソプロパノールを系外に排出し、平均粒子径0.8μm、比表面積:0.3m/gの1420℃熱処理酸化ニッケル粉末(B)を調製した。
(2)燃料極ペースト
上記熱処理酸化ニッケル粉末(B)70質量%と20モル%ガドリニアドープセリア(セイミケミカル製:Ce0.8Gd0.2、平均粒子径:0.5μm、比表面積:10m/g)30質量%とエタノールを、5mmφジルコニアボールが入ったボールミルに投入し、60回転/分で10時間湿式混合した後、これを乾燥して燃料極材料を得た。次いで当該燃料極材料粉体100質量部に対して、バインダーとしてエチルセルロースを2質量部、溶媒としてα−テルピネオールを40質量部加え、3本ロールミルを用いて混練し、燃料極ペースト(AP−3)とした。
(3)電解質支持膜型セル
La0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.115Co0.0853−δからなるランタンガレート系電解質シート(LSGMCシート:30mmφ×厚さ350μm)の片面に、スクリーン印刷により、上記燃料極ペースト(AP−3)を10mmφの形状に塗布し、90℃で5時間乾燥した。次いで、実施例1と同様に、その反対側に、実施例1で得た反応防止層ペーストを用いて反応防止層を形成しこれを1300℃で5時間焼結し、さらに反応防止層の上に実施例1で得た空気極ペーストを用いて空気極を形成し、1000℃で3時間焼結することによって、燃料電池用の電解質支持膜型セルを得た。燃料極、空気極、反応防止層の各膜厚は、それぞれ約40μm、30μm、10μmであった。
【0048】
(実施例4)
(1)燃料極ペースト
実施例3で得た熱処理酸化ニッケル粉末(B)60質量%と、実施例2で使用した市販の酸化ニッケル粉末40質量%を混合しエタノールを溶媒として、5mmφジルコニアボールが入ったボールミルで60回転/分で10時間湿式混合した。このボールミルの中に、当該混合粉体50質量部に対して、20モル%ガドリニアドープセリア(セイミケミカル製:Ce0.8Gd0.2、平均粒子径:0.5μm、比表面積:10m/g)50質量部添加し、さらに60回転/分で10時間湿式混合し、乾燥して燃料極材料を得た。当該燃料極材料粉体100質量部に対して、バインダーとしてエチルセルロースを2質量部、溶媒としてα−テルピネオールを40質量部加え、3本ロールミルを用いて混練し、燃料極ペースト(AP−4)とした。
(2)電解質支持型セル
11モル%のイッテルビアで安定化されたジルコニア電解質シート(11YbSZシート:30mmφ×厚さ300μm)の片面に、スクリーン印刷により、上記燃料極ペースト(AP−4)を10mmφの形状に塗布し、90℃で5時間乾燥した。次いで、実施例1と同様に、その反対側に、実施例1で得た反応防止層ペーストを用いて反応防止層を形成しこれを1300℃で5時間焼結し、さらに反応防止層の上に実施例1で得た空気極ペーストを用いて空気極を形成し、1000℃で3時間焼結することによって、燃料電池用の電解質支持膜型セルを得た。燃料極、空気極、反応防止層の各膜厚は、それぞれ約40μm、30μm、10μmであった。
【0049】
(実施例5)
(1)燃料極基板
炭酸ニッケル粉末(正同化学製)を1320℃で8時間熱処理した後実施例1と同様にして粉砕し、比表面積が0.5m/g、平均粒子径が1.3μmの熱処理酸化ニッケル粉末を得た。この粉末を用いた以外は実施例4と同様にして得た燃料極材料粉末100質量部に対して、バインダーとしてメタクリレート系共重合体(分子量:80000、ガラス転移温度:−8℃)を固形分として15質量部、溶剤としてトルエン/イソプロパノール(質量比:3/2)50質量部、分散剤としてソルビタン脂肪酸エステル(花王製)3質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部を、ジルコニアボールが装入された100Lのナイロンポット製のボールミル装置に添加し、40rpmで24時間混練して燃料極材料スラリーを得た。このスラリーを、碇型の攪拌機を備えた内容積が50Lのジャケット付丸底円筒型減圧脱泡容器へ移し、攪拌機を30rpmで回転させながら、ジャケット温度を40℃で減圧(30〜160Torr)下に濃縮・脱泡し、粘度が2.8Pa・sの塗工用スラリーを得た。得られたスラリーを塗工装置のスラリーダムに移し、ドクターブレード法によってPETフィルム上に塗工し、塗工部に続く乾燥機(50℃、80℃、110℃の3ゾーン)を0.2m/分の速度で通過させて溶剤を蒸発・乾燥することにより、厚さが400μmのグリーンシートを得た。得られたグリーンシートを約38mmφに切断した後、1350℃で5時間焼成することにより、厚さが360μmで30mmφの燃料極基板を得た。
(2)燃料極支持型セル
上記のようにして得た燃料極基板上に、10モル%スカンジア1モル%セリア安定化ジルコニア(第一稀元素製:10Sc1CeSZ、平均粒子径:0.6μm、比表面積:11m/g)のペーストをスクリーン印刷して乾燥後、1350℃で2時間焼成し、電解質膜を燃料極基板上に製膜した。ついで、この電解質膜上に実施例1で作製した空気極ペーストをスクリーン印刷して乾燥後、1000℃で2時間焼成し、空気極を電解質膜上に製膜し、燃料極支持型セルを得た。電解質、空気極の各膜厚は、それぞれ約35μm、30μmであった。
【0050】
(比較例1〜3)
上記実施例2、4、5において、熱処理酸化ニッケル粉末を使用せず、市販の酸化ニッケル粉末のみを使用して燃料極材料とした以外は同様にして、電解質支持型セルと燃料極支持型セルを製造した。
(比較例4)
(1)熱処理酸化ニッケル粉末
炭酸ニッケル粉末(正同化学製)を1230℃で4時間熱処理した後実施例1と同様にして粉砕し、比表面積が17.4m/g、平均粒子径が0.2μmの熱処理酸化ニッケル粉末を得た。
(2)電解質支持型セル
この熱処理酸化ニッケル処置粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして燃料電池用の電解質支持膜型セルを得た。燃料極、空気極、反応防止層の各膜厚は、それぞれ約40μm、30μm、10μmであった。
(比較例5)
(1)熱処理酸化ニッケル粉末
炭酸ニッケル粉末(正同化学製)を1540℃で2時間熱処理した後実施例3と同様にして粉砕し(パス回数は25回)、比表面積が0.1m/g未満、平均粒子径が5.8μm、90体積%径が16.2μmの熱処理酸化ニッケル粉末を得た。
(2)電解質支持型セル
この熱処理酸化ニッケル処置粉末を用いた以外は、実施例4と同様にして燃料電池用の電解質支持膜型セルを得た。燃料極、空気極、反応防止層の各膜厚は、それぞれ約40μm、30μm、10μmであった。
【0051】
(試験例1)
上記実施例1〜4および比較例1、2、4、5で得た電解質支持型セルと上記実施例5および比較例3で得た燃料極支持型セルについて、小型電気炉中に空気雰囲気下1000℃で1000時間エージング後とエージング前のそれぞれのセル発電性能を、小型単セル発電試験装置を用いて測定した。電流密度:0.3A/cm2におけるそれぞれのセルのセル電圧を比較すると、本発明に係る燃料極材料を用いた実施例1〜5のセルの、エージング前後のセル電圧の劣化率はいずれも10%以下であったが、比較例1〜3のセルの、エージング前後のセル電圧の劣化率はいずれも20%以上であり、実施例1〜5のセルはいずれも耐熱性に優れるものであった。また、実施例1、2で得たセルと比較例1で得たセルについては、同様の小型単セル発電試験装置を用いて連続発電試験を行い、1000時間にわたって出力密度、表面抵抗値(ASR)を測定した。発電試験条件は、燃料極側ガスとしては40mL/分の3%水蒸気加湿水素を、空気極側ガスとしては100mL/分の空気を使用し、試験温度は800℃とした。実施例2と比較例1の結果を表に示す。表の通り、実施例2と比較例1の燃料極材料では、酸化ニッケル粉末とジルコニア粉末の質量比が同一であるにも関わらず、本発明に係る燃料極材料を用いた実施例2の燃料電池セルは、試験した初期性能は比較例1のセルに劣るものの1000時間まで安定した発電性能を有している。一方、比較例1のセルは、初期性能は優れているもののその後性能が低下し、200時間以降では実施例2の性能よりも下回る結果になった。したがって、実施例2の発電性能の長期安定性は比較例1のそれに優れることが実証された。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用燃料極材料として用いることができ、更には前記材料を用いて燃料電池とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gである酸化ニッケル粉末(X)と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末とを含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用燃料極材料。
【請求項2】
前記請求項1に記載の酸化ニッケル粉末(X)と、平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が2〜60m/gの酸化ニッケル粉末(Y)とからなる混合酸化ニッケル粉末と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末とを含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用燃料極材料。
【請求項3】
混合酸化ニッケル粉末が、酸化ニッケル粉末(X)50〜90質量%と、酸化ニッケル粉末(Y)10〜50質量%とであることを特徴とする請求項2記載の固体酸化物形燃料電池用燃料極材料。
【請求項4】
当該当該燃料極材料が、混合酸化ニッケル粉末45〜75質量%と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末25〜55質量%とであることを特徴とする請求項2記載の固体酸化物形燃料電池用燃料極材料。
【請求項5】
平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gである酸化ニッケル粉末(X)と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末とを含む固体酸化物形燃料電池用燃料極材料であって、酸化ニッケル粉末(X)が、酸化ニッケル粉末、または酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、ギ酸ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケルおよびシュウ酸ニッケルよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上を酸化雰囲気中で、1300〜1500℃で熱処理し、熱処理によって得られた酸化ニッケル粉末を湿式ミリングおよび/または乾式ミリングして得られることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用燃料極材料の製造方法。
【請求項6】
平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が0.1〜1m/gである酸化ニッケル粉末(X)と、平均粒子径が0.3〜3μm、比表面積が2〜60m/gの酸化ニッケル粉末(Y)と、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末とを含む固体酸化物形燃料電池用燃料極材料であって、酸化ニッケル粉末(X)が、酸化ニッケル粉末、または酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、ギ酸ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケルおよびシュウ酸ニッケルよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上を酸化雰囲気中で、1300〜1500℃で熱処理し、熱処理によって得られた酸化ニッケル粉末を湿式ミリングおよび/または乾式ミリングして得られることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用燃料極材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4記載の固体酸化物形燃料電池用燃料極材料を固体電解質の片面に形成したことを特徴とする固体電解質形燃料電池の燃料極。
【請求項8】
請求項1〜4記載の固体酸化物形燃料電池用燃料極材料により固体電解質の片面に燃料極を形成し、当該固体電解質の他面に空気極を形成したことを特徴とする固体電解質形燃料電池用セル。

【公開番号】特開2009−140730(P2009−140730A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315511(P2007−315511)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】