説明

固体酸及びその製造方法、並びに固体酸触媒

【課題】固体酸触媒として好適に使用するこができ、材料としての安定性に優れ、かつ高い表面酸性度を有する新規な固体酸、並びに、かかる固体酸の製造方法を提供する。
【解決手段】α−アルミナ及びタングステン酸を含有し、比表面積が3〜50m2/gであり、かつアルゴン吸着熱が−14.5kJ/mol以下であることを特徴とする固体酸、並びに、水酸化アルミニウムにタングステン酸化合物を含浸させた後、1000℃以上の焼成温度で焼成することを特徴とする上記固体酸の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な固体酸及びその製造方法、並びに該固体酸からなる固体酸触媒に関し、特に材料としての安定性に優れ、かつ高い表面酸性度を有する新規固体酸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア等の物質が、固体酸として機能することがよく知られている。これらの物質は、固体酸としての性質を利用して、各種反応の触媒や吸着剤などとして広く利用されている。
【0003】
ところで、上記固体酸からなる固体酸触媒は、固体であるため回収が容易で、また、反応装置を腐食することがなく、環境に優しい触媒であるため、いわゆるグリーンケミストリーの観点からも着目されている。
【0004】
上記固体酸は、通常500〜600℃前後の温度で原料を焼成することにより製造される。例えば、特開平7−194976号公報(特許文献1)には、アルミナ水和物の表面にシリカ水和物を沈着させた後、酸素の存在下、550〜650℃の温度で焼成することにより、シリカ−アルミナを製造できることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−194976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の固体酸は、より高温で焼成すると表面の酸性度が低下し、その結果、該固体酸を触媒として使用した場合に活性が低下してしまう問題があった。また、500〜600℃で焼成して得られる通常のアルミナは、γ−アルミナなどの中間的な結晶状態にあるため、使用中に高温に曝されたり、或いは熱履歴を受けることにより、結晶状態が変化してしまうという問題があった。更に、上記固体酸は、触媒として使用した場合に、反応系中の水分によって酸強度が低下してしまうという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、固体酸触媒として好適に使用するこができ、材料としての安定性に優れ、かつ高い表面酸性度を有する新規な固体酸を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる固体酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、水酸化アルミニウムにタングステン酸化合物を含浸させて、1000℃以上の高温で焼成することにより、アルミナがα−アルミナとして含有されるため材料として安定である一方、表面の酸性度が高い固体酸が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、
[1]α−アルミナ及びタングステン酸を含有し、比表面積が3〜50m2/gであり、かつアルゴン吸着熱が−14.5kJ/mol以下である固体酸、
[2]上記タングステン酸の含有量が、酸化物として0.1〜10質量%である上記[1]の固体酸、
[3]上記[1]又は[2]の固体酸からなる固体酸触媒、
[4]水酸化アルミニウムにタングステン酸化合物を含浸させた後、1000℃以上の焼成温度で焼成する上記[1]又は[2]の固体酸の製造方法、及び
[5]上記焼成温度が1000〜1200℃である上記[4]の固体酸の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原料を高温で焼成して固体酸を調製するため、材料としての安定性、特に熱安定性が高く、加えて表面の酸性度が高い固体酸を提供することができる。また、本発明の固体酸は、表面の酸性度が高いので、異性化反応、クラッキング、不均化反応、エステル化反応、エステル交換反応などの反応の触媒として優れた触媒作用を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<固体酸>
以下に、本発明の固体酸を詳細に説明する。本発明の固体酸は、α−アルミナ及びタングステン酸を含有し、比表面積が3〜50m2/gであり、かつアルゴン吸着熱が−14.5kJ/mol以下であることを特徴とする。ここで、本発明の固体酸においては、アルミナと酸化タングステンとの複合酸化物であるタングステン酸塩(又はタングステン酸化合物)が活性種として作用するものと考えられる。なお、固体酸中のアルミナがα−アルミナの形態で存在することは、XRDによって確認することができる。また、固体酸の比表面積は、N2吸着によるBET法で測定することができる。更に、固体酸のアルゴン吸着熱は、J. Phys. Chem., B, vol.105, p9669 (2001) に記載の方法に従って測定することができる。
【0012】
本発明の固体酸は、アルミナとして熱的安定性の高いα−アルミナを含むため、材料としての安定性(特に熱的安定性)が非常に高い。なお、固体酸中のアルミナがγ−アルミナやδ−アルミナの形態で存在する場合、固体酸の表面の酸性度が不十分で、触媒としての活性が低くなる。また、本発明の固体酸は、アルゴン吸着熱が−14.5kJ/mol以下であるため、表面の酸性度が非常に高い。
【0013】
上記固体酸の比表面積が3m2/g未満では、触媒として使用した場合の活性点が少ないため触媒活性が低くなり、一方、比表面積が50m2/gを超える固体酸を調製することは、高温で焼成するため、実際上困難である。また、アルゴン吸着熱が−14.5kJ/molより大きい固体酸は、表面の酸性度が低いため、各種酸触媒反応における触媒活性が低くなる。
【0014】
本発明の固体酸において、上記タングステン酸の含有量は、酸化物(WO3)として0.1〜10質量%の範囲が好ましい。固体酸中のタングステン酸の含有量が酸化物として0.1質量%未満では、高温での焼成により3m2/g以上の比表面積を維持することが難しくなり、一方、10質量%を超えると、十分な酸性度を得ることが難しくなる。これらの観点から、上記タングステン酸の含有量は、酸化物として1〜5質量%の範囲が更に好ましい。
【0015】
<固体酸の製造方法>
上述した本発明の固体酸は、水酸化アルミニウムにタングステン酸化合物を含浸させた後、1000℃以上の焼成温度で焼成することにより製造することができる。例えば、水酸化アルミニウム粉末を100℃で乾燥した後、メタタングステン酸アンモニウム水溶液を含浸させ、乾燥させた後、空気中、1000℃以上で3時間焼成することにより、上記固体酸を製造することができる。なお、固体酸にタングステン酸を含有させることにより、理由は明らかではないが、α−アルミナ表面で強い酸性度を示すようになる。
【0016】
上記固体酸の原料の水酸化アルミニウムとしては、特に限定されるものではないが、通常は、粉末を用いる。また、該水酸化アルミニウムの製造方法も、特に限定されるものではなく、一般的な方法で製造することができる。
【0017】
上記固体酸の原料として使用するタングステン酸化合物は、焼成によりタングステン酸になり得る化合物であればよい。該タングステン酸化合物として、具体的には、三酸化タングステン(WO3)、タングステン酸アンモニウム[(NH4)WO4]、パラタングステン酸アンモニウム[5(NH4)2O・12WO3・5H2O]、メタタングステン酸アンモニウム[(NH4)6(H21240)・nH2O]などを使用することができ、これらの中でも、メタタングステン酸アンモニウムを使用することが好ましい。
【0018】
上記タングステン酸化合物は、最終的な固体酸においてタングステン酸含有量が酸化物として0.1〜10質量%の範囲になるように、上記水酸化アルミニウムに含浸させることが好ましく、1〜5質量%の範囲になるように含浸させることが更に好ましい。また、水酸化アルミニウムへのタングステン酸化合物の担持方法は、特に限定されず、通常の担持方法で実施することができる。なお、通常は、タングステン酸化合物の水溶液を水酸化アルミニウムに含浸させて担持する。更に、水酸化アルミニウムへのタングステン酸化合物の含浸方法も、特に限定されず、通常の含浸方法で実施することができる。ここで、含浸方法としては、例えば、ポアフィリング法、加熱含浸法、真空含浸法、浸漬法、スプレー法等を挙げることができる。なお、通常は、水酸化アルミニウムにタングステン酸化合物を含む水溶液を含浸させた後、乾燥させる。
【0019】
上記のようにして、水酸化アルミニウムにタングステン酸化合物を含む水溶液を含浸させた後、1000℃以上で焼成することにより、固体酸中のアルミナが熱的安定性の高いα−アルミナとして存在するようになる。なお、焼成温度が1000℃未満では、固体酸中のアルミナがγ−アルミナやδ−アルミナの形態で存在するようになるため、固体酸の酸性度が不十分となり、触媒としての活性が低くなる。ここで、上記焼成温度は、1000〜1250℃の範囲が好ましく、1000〜1200℃の範囲が更に好ましい。焼成温度が1200℃を超えると、比表面積の低下が観察され始め、また、1250℃を超えると、急激な比表面積の低下が起こることがある。なお、焼成時間は、1〜5時間の範囲が好ましく、2〜4時間の範囲が更に好ましい。
【0020】
<固体酸触媒>
上述した本発明の固体酸は、高い表面酸性度を有するため、異性化反応、クラッキング、不均化反応、エステル化反応、エステル交換反応などの種々の反応の触媒として好適に使用することができる。また、本発明の固体酸は、α−アルミナを含み、材料としての安定性に優れるため、触媒として安定に使用することができ、触媒寿命が長い。また、本発明の固体酸は、耐水性や耐熱性に優れているので、水性ガスシフト反応やジメチルエーテル水蒸気改質触媒をはじめ、触媒燃焼、水和反応、脱水反応などの触媒、あるいは担体として使用することができる。
【実施例】
【0021】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、調製した触媒の比表面積及びアルゴン吸着熱は下記の方法で測定した。
【0022】
[分析方法]
(1)比表面積
2吸着によるBET法で比表面積を測定した。
【0023】
(2)アルゴン吸着熱
J. Phys. Chem., B vol.105, p9669 (2001) に記載の方法に従って、−30〜−60℃の温度範囲におけるArの吸着量を測定し、吸着量の温度依存性から吸着熱を求めた。
【0024】
(実施例1)
[1%−WO3/Al23(1200℃)の製造(触媒1)]
水酸化アルミニウム(高純度化学製、100メッシュ以下)を100℃で乾燥させた後、固体酸中のタングステン酸含有量が酸化物として1質量%になるように、メタタングステン酸アンモニウム(日本無機化学工業製)の水溶液を含浸した。その後、水分を蒸発させた後、乾燥した。次いで、空気中、1200℃で3時間焼成して触媒1を得た。得られた触媒1は、比表面積が7.7m2/gであり、Ar吸着熱が−14.7kJ/molであった。また、得られた触媒1をXRD分析したところ、アルミナがα−アルミナの形態で存在することが確認された。
【0025】
(実施例2)
[3%−WO3/Al23(1100℃)の製造(触媒2)]
水酸化アルミニウム(高純度化学製、100メッシュ以下)を100℃で乾燥させた後、固体酸中のタングステン酸含有量が酸化物として3質量%になるように、メタタングステン酸アンモニウム(日本無機化学工業製)の水溶液を含浸した。その後、水分を蒸発させた後、乾燥した。次いで、空気中、1100℃で3時間焼成して触媒2を得た。得られた触媒2は、比表面積が15.0m2/gであり、Ar吸着熱が−15.5kJ/molであった。また、得られた触媒2をXRD分析したところ、アルミナがα−アルミナの形態で存在することが確認された。
【0026】
(実施例3)
[5%−WO3/Al23(1000℃)の製造(触媒3)]
水酸化アルミニウム(高純度化学製、100メッシュ以下)を100℃で乾燥させた後、固体酸中のタングステン酸含有量が酸化物として5質量%になるように、メタタングステン酸アンモニウム(日本無機化学工業製)の水溶液を含浸した。その後、水分を蒸発させた後、乾燥した。次いで、空気中、1000℃で3時間焼成して触媒3を得た。得られた触媒3は、比表面積が30.2m2/gであり、Ar吸着熱が−16.4kJ/molであった。また、得られた触媒3をXRD分析したところ、アルミナがα−アルミナの形態で存在することが確認された。
【0027】
(比較触媒1)
500℃で焼成された日本触媒学会の標準触媒[JRC−SAL−2、シリカ−アルミナ(SiO2−Al23)]を比較触媒1とした。該比較触媒1は、比表面積が560m2/gであり、Ar吸着熱が−14.4kJ/molであった。
【0028】
(比較触媒2)
水酸化アルミニウムを、空気中、1200℃で3時間焼成して、アルミナ(Al23)を調製し、比較触媒2とした。該比較触媒2は、比表面積が4.8m2/gであり、Ar吸着熱が−12.5kJ/molであった。
【0029】
(実施例4〜10及び比較例1〜4)
Chem. Commun., (1995), p789に開示の方法に従って、マイクロ触媒パルス反応器(キャリアガス:He、He流量:30ml/min、パルスサイズ:1μl)を用いてアルキルベンゼンの反応(トルエンの不均化反応、エチルベンゼン及びクメンの分解反応)を行った。なお、使用した各触媒は、反応前にHe気流中で、300℃で1時間加熱した。また、反応後、反応器から流出した生成物を直接ガスクロマトグラフのカラム(GLサイエンス製;Bentone 34 + DIDP(5+5)%/Uniport B 80−100、ステンレスカラム:2m×3mmID、カラム温度:80〜100℃)へ導入して、分析を行った。反応器に充填した触媒量、反応温度及び転化率を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果から、本発明に従う固体酸を種々の触媒反応の触媒として使用することで、一般的な固体酸であるシリカ−アルミナ(比較触媒1)を触媒として使用した場合に比べて、転化率が大幅に向上することが分る。また、比較例4の結果から、1200℃で焼成して得たアルミナ(α−アルミナ)は、触媒作用がないことが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−アルミナ及びタングステン酸を含有し、比表面積が3〜50m2/gであり、かつアルゴン吸着熱が−14.5kJ/mol以下であることを特徴とする固体酸。
【請求項2】
前記タングステン酸の含有量が、酸化物として0.1〜10質量%であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の固体酸からなることを特徴とする固体酸触媒。
【請求項4】
水酸化アルミニウムにタングステン酸化合物を含浸させた後、1000℃以上の焼成温度で焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載の固体酸の製造方法。
【請求項5】
前記焼成温度が1000〜1200℃であることを特徴とする請求項4に記載の固体酸の製造方法。

【公開番号】特開2007−175649(P2007−175649A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378982(P2005−378982)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】