説明

固体酸触媒の調製方法、及び該触媒を用いたラクタム化合物の製造方法

【課題】シクロアルカノンオキシム化合物からベックマン転位反応により、対応するラクタム化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】管の下層部に酸化物及び水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1化合物を、その上層部に酸素で二酸化硫黄を酸化する能力を有する触媒を存在させ、三酸化硫黄を含む気体とを接触させ固体酸触媒を調製する。この調製法で得られる固体酸触媒の存在下、シクロアルカノンオキシム化合物からベックマン転位反応により対応するラクタム化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸触媒反応に高い活性を有する、環境に優しい固体酸触媒の調製法及びそれを用いてシクロアルカノンオキシム化合物をベックマン転位反応により対応するラクタム化合物を製造する方法に関するものである。得られるラクタム化合物は、ナイロンの原料として重要な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、アルキル化反応、エステル化反応、ベックマン転位反応等の酸触媒反応には、硫酸、塩化アルミニウム、フッ化水素、リン酸等の酸触媒が用いられている。しかし、これらの酸触媒は分離回収が困難であり、また装置の腐食や廃酸処理の問題があった。
【0003】
これらの問題を解決する酸触媒として、例えば、アルミナ、チタニア等の単独金属酸化物、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、アルミナ−ボリア等の複合酸化物、ZSM−5、β−ゼオライト等のゼオライト、モンモリロナイト等の粘土鉱物等、多くの固体酸触媒が知られている(例えば非特許文献1参照)。しかし、これらの固体酸触媒は酸強度が比較的弱いために、反応系によっては固体酸触媒として十分な活性を示さない場合があった。
【0004】
これに対し、強酸性を有する固体酸触媒として、周期律表第IV族金属水酸化物もしくは酸化物を5〜20倍重量の0.01〜5モル濃度の硫酸根含有溶液と接触させた後350〜800℃の温度範囲で焼成して硫酸化した、酸強度(H)が−10.6より強い固体酸触媒が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかし、硫酸根含有溶液と接触させるこの処理方法は、溶液中の水により酸点が被毒したり、触媒に残存した水が固体酸触媒反応において副反応を併発させるという問題点も発生させる。また、この処理方法を、耐酸性の低い例えばメソ多孔体に対して適用すると、メソ多孔体の骨格構造が破壊されることも知られている(例えば非特許文献2参照)。骨格構造の破壊は、固体触媒の細孔径、細孔容積及び表面積の低下を引き起こし、触媒活性に悪影響を及ぼすため、好ましくない。
【0005】
シクロヘキサノンオキシムの転位によるε−カプロラクタムの工業的製造では、酸触媒として発煙硫酸が使用されている。しかし、この方法ではε−カプロラクタムを分離回収するために、通常、硫酸等の強酸をアンモニアで中和する必要があり、大量の硫酸アンモニウムが副生する。また、上述のように、装置の腐食など工程上の問題も多く、効率的な転位用触媒の開発が期待されている。
【0006】
そこで、硫酸触媒を使用しない液相でのベックマン転位反応に関し、均一系触媒又は不均一系触媒について種々の検討が行われてきている。しかし、均一系触媒は、触媒の分離が煩雑となるため、工業的には触媒分離が容易な不均一系触媒がより好ましい。
【0007】
不均一系触媒に関してはレニウム化合物を触媒として使用する方法、亜鉛を含有したβ−ゼオライトを触媒とする方法、酸化ジルコニウムや酸化チタン、酸化アルミニウム等のIV属、III属金属の酸化物を担体にパラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等のVIII属金属を担持した触媒を使用する方法、イミニウムイオンを担持したゼオライトを触媒とする方法、固体触媒存在下、誘電率が6〜60の範囲にある化合物を共存させて反応を行う方法等が提案されている。
【0008】
しかしながら、レニウム化合物を触媒とした方法(例えば非特許文献2参照)では、カプロラクタム選択率が極めて低い。更に反応温度も200℃以上と高い。同様のレニウム化合物を触媒とした方法(例えば特許文献3参照)は転化率100%、カプロラクタム収率81.4モル%と高いが、ピリジン等の含窒素複素環化合物を併用するため、反応系が複雑になっている。
【0009】
亜鉛を含有したβ−ゼオライトを触媒とする方法(例えば特許文献4参照)では、反応温度130℃で転化率47モル%、カプロラクタム選択率72モル%(収率では34モル%)といずれも低いという問題点を有している。
【0010】
酸化ジルコニウムや酸化チタン、酸化アルミニウム等のIV属、III属金属の酸化物を担体にパラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等のVIII属金属を担持した触媒を使用する方法(例えば特許文献5参照)は転化率、収率ともに高いが、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等の貴金属は高価で価格変動も大きく、工業的に実施するには満足しうるものではない。
【0011】
イミニウムイオンを担持したゼオライトを触媒とする方法(例えば特許文献6参照)は、触媒調製法が複雑であるうえ、シクロヘキサノンオキシム転化率が34%と低いという問題点を有している。
【0012】
固体酸触媒存在下、誘電率が6〜60の範囲にある化合物を共存させて反応を行う方法(例えば特許文献7参照)は、誘電率が6〜60の範囲にある化合物の共存効果は認められるものの、使用している固体酸触媒の触媒能が不十分であるため、カプロラクタム収率が低くとどまっている。例えば、誘電率が6〜60の範囲にある化合物として脱水ベンゾニトリルを使用した場合、固体酸触媒がβ−ゼオライトのときカプロラクタム収率53%、Zn含有β−ゼオライトのとき同33%、Y型ゼオライトのとき同61%、SiO担持ヘテロポリ酸のとき同36%、Al含有メソポーラス触媒のとき同26%であり、高い収率が得られないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公昭59−006181号公報
【特許文献2】特開平08−151362号公報
【特許文献3】特開平09−301952号公報
【特許文献4】特開2001−19670号公報
【特許文献5】特開昭62−169769号公報
【特許文献6】特開平09−040641号公報
【特許文献7】特開2001−072657号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】触媒の辞典(朝倉書店)236ページ
【非特許文献2】Journal of Molecular Catalysis A:Chemical 192(2003)153−170
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、酸触媒反応に有効な固体酸触媒の調製法を提供することを課題とする。
特に、シクロアルカノンオキシム化合物からベックマン転位反応により対応するラクタム化合物を製造するに際し、温和な反応条件下において高収率でラクタム化合物を製造する触媒の調製法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、酸化物及び水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1化合物と、三酸化硫黄を含む気体とを接触させることを特徴とする固体酸触媒の調製法により上記目的が達成できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0017】
さらに、本発明によれば、この固体酸触媒の存在下、シクロアルカノンオキシム化合物のベックマン転位反応により、対応するラクタム化合物を製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する三酸化硫黄は、硫黄を含むものから製造されるものならば、特に制限されない。三酸化硫黄を製造するために使用される硫黄化合物として、例えば、硫黄、SO、S(n=5〜8)、HSO、発煙硫酸、(NHSO、HSO、H(n=3〜7)、FSOH、CFSOH,ClSOH、SOCl、SOCl、及びTiSO等の金属硫酸塩が挙げられる。これらは単独でも混合して使用しても良い。
【0019】
これらの化合物のうち、常温で気体の化合物は、そのままあるいは不活性ガスに希釈して、酸化あるいは熱分解させ三酸化硫黄として使用される。常温で液体もしくは固体のものは、そのまま酸化してあるいは熱分解させてあるいは熱分解させた後に酸化して、三酸化硫黄として使用される。
好ましくは、常温で気体の二酸化硫黄(SO)を酸化した三酸化硫黄(SO)が使用され、SOの場合、例えば不活性ガス等で希釈したものを使用できる。
【0020】
二酸化硫黄(SO)の酸化は、通常酸素を使用して、酸化触媒の存在下又は非存在下に、酸化反応が行われるが、オゾンあるいは過酸化物などの酸化剤も使用することができる。
酸素酸化については、特に制限されず、純酸素、空気、又は不活性ガス等で希釈したもの等が使用できる。ただし、いずれも含有水分量が少ないものが好ましい。具体的には、導入する気体中の水分量は、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは100ppm、さらに好ましくは10ppm以下、最も好ましくは、水分含有量を1ppm以下に制御したものである。
【0021】
酸化触媒の存在下に行われる酸化反応において使用される酸化触媒としては、二酸化硫黄を酸化する能力を有する触媒であれば特に制限されないが、例えば、バナジウム、銅、鉄、コバルト、ニッケルのいずれか1種以上を含有する触媒が好適に使用できる。好ましくはバナジウム、銅及び鉄である。
これらの酸化触媒は、その役割から通常は、流す気体に対し、酸化物あるいは水酸化物の上流部に充填される。
【0022】
本発明で使用する酸化物及び水酸化物から選ばれる少なくとも1化合物は、三酸化硫黄で表面修飾されるものであればいずれも使用できる。例えば、HMS、MCM−41等の多孔性酸化物及びこれらに金属を担持又は導入したもの、ZSM−5、β−ゼオライト等のゼオライト及びこれらに金属を担持又は導入したもの、シリカ−アルミナ、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア等の複合酸化物、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の酸化物又はこれらの前駆体となる水酸化物が挙げられる。
【0023】
酸化物及び水酸化物から選ばれる少なくとも1化合物の具体例としては、周期律表第4〜14族(族番号に1−18の通し番号を用いる1989年改訂のIUPAC無機化学命名法に従う)による族番号からなる群より選ばれる1種以上の元素(炭素は除く)を含む酸化物及び水酸化物が挙げられる。これらの酸化物及び水酸化物の比表面積については、特に制限はないが、好ましくは300m/g以上、より好ましくは700m/g以上、更に好ましくは700〜1200m/gである。
【0024】
周期律表第4〜14族から選ばれる元素の具体例としては、4族のチタン、ジルコニウム、ハフニウム、5族のバナジウム、ネオジウム、タンタル、6族のクロム、モリブデン、タングステン、7族のマンガン、レニウム、8族の鉄、ルテニウム、オスミウム、9族のコバルト、ロジウム、イリジウム、10族のニッケル、パラジウム、白金、11族の銅、銀、金、12族の亜鉛、カドミウム、水銀、13族のホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、14族の珪素、ゲルマニウム、スズ、鉛が挙げられる。好ましくは、チタン、ジルコニウム、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛及び珪素である。より好ましくはジルコニウム、アルミニウム、ガリウム及び珪素である。
これらの元素は2種以上を混合して使用しても何ら、問題はない。
【0025】
酸化物及び水酸化物から選ばれる少なくとも1化合物の三酸化硫黄による処理形態は特に制限されない。例えば、三酸化硫黄を気相で直接接触させてもよく、二酸化硫黄(又は硫黄含有化合物)、酸素及び酸化触媒共存下で気相で接触させることもできる。酸素及び酸化触媒共存下で気相で接触させる方法の一例としては、ガラス管の下層部に酸化物及び水酸化物を、その上層部に酸化触媒をそれぞれ充填し、二酸化硫黄(又は硫黄含有化合物)と酸素を含有するガスと100〜800℃、好ましくは200〜700℃の温度で、10分〜1000時間の範囲内で気相で接触させる。なおこの場合は、ガスを上層部から下層部方向へ流通させることが好ましい。ガス中で生成する三酸化硫黄の濃度は特に制限されないが、全硫黄含有化合物供給量が酸化物及び水酸化物1gに対し0.1ミリモル〜100モルが好ましい。酸素濃度も特に制限されないが、気体の硫黄含有化合物に対し0.1〜1000倍モル量が好ましい。
【0026】
三酸化硫黄と気相で接触処理する前の酸化物及び/又は水酸化物には、水や有機物が付着している場合もあるため、前処理として空気中又は不活性ガス雰囲気下で(好ましくは空気又は不活性ガスを流通させながら)焼成することが好ましい。また、触媒表面に弱く物理吸着した硫黄含有化合物を除くため、後処理として空気中又は不活性ガス雰囲気下で(好ましくは空気又は不活性ガスを流通させながら)焼成することも好ましい。前処理と後処理の焼成温度と焼成時間は特に制限されず、場合に応じて選択できるが、好ましくは100〜800℃、1分〜100時間である。
【0027】
このようにして得られた固体酸触媒は、酸触媒反応、特に、シクロアルカノンオキシム化合物からベックマン転位反応により対応するラクタム化合物を製造するに際の触媒として効果的に使用される。
【0028】
本発明でラクタム化合物を製造するために使用されるシクロアルカノンオキシム化合物は、好ましくは炭素数5〜12個を有する環状脂肪族炭化水素オキシム化合物である。具体的には、シクロペンタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、シクロヘプタノンオキシム、シクロオクタノンオキシム、シクロノナノンオキシム、シクロデカノンオキシム、シクロウンデカノンオキシム、シクロドデカノンオキシムが挙げられる。好ましくは、シクロヘキサノンオキシム、シクロドデカノンオキシムである。
【0029】
これらシクロアルカノンオキシムは、塩の形で使用することもできる。塩としては、塩酸塩や硫酸塩で使用される。
また、これらのシクロアルカノンオキシム化合物は、単独での使用ならびに2種以上を混合して使用しても何ら問題はない。
【0030】
本発明で得られる対応するラクタム化合物の具体例としては、シクロペンタノンオキシムからはバレロラクタム、シクロヘキサノンオキシムからはカプロラクタム、シクロヘプタノンオキシムからはエナントラクタム、シクロドデカノンオキシムからはラウロラクタムが挙げられる。
【0031】
本発明のベックマン転位反応の反応条件は、特に制限されず、気相反応、トリクル反応及び液相反応にて実施されるが、好ましくは液相反応である。
【0032】
液相反応では、必ずしも溶媒を使用する必要はない。溶媒を使用する場合の具体例としては、例えばベンゾニトリル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、カプロニトリル、アジポニトリル、トルニトリル等のニトリル化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、メトキシベンゼン等の芳香族炭化水素化合物、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ドデカン等の脂肪族炭化水素化合物、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、マロン酸ジメチル等のエステル化合物、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール化合物、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル化合物、クロロベンゼン等の含ハロゲン炭化水素化合物等を挙げることができ、これらを単独でも混合しても使用できる。好ましくはニトリル化合物である。
【0033】
これら溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、シクロアルカノンオキシム化合物に対し、0.1〜10000重量倍、好ましくは1〜1000重量倍、さらに好ましくは2〜100重量倍、より好ましくは3〜50重量倍である。
【0034】
上述の方法によって製造した固体酸触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、シクロアルカノンオキシム化合物に対し0.000001〜10重量倍用いることが好ましい。
【0035】
本発明の好ましい形態である液相中でのベックマン転位反応は、通常、シクロアルカノンオキシム化合物、固体酸触媒を、適当な溶媒に導入後、加熱することによって行われる。反応は、通常空気又は転位反応に不活性なガスの存在下、好ましくは転位反応に不活性なガスの存在下で行う。転位反応に不活性なガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。反応温度は、通常30〜350℃、好ましくは50℃〜250℃、さらに好ましくは60〜200℃で実施される。反応圧力は、特に限定されるものではなく、常圧下、加圧下いずれでも実施される。
【0036】
転位反応温度が上記範囲より低すぎると、反応がほとんど進行しないことがある。また、反応温度が上記範囲より高すぎると副反応が進行し、目的物のラクタムの収率が減少し、好ましくない。
【0037】
反応形式はバッチ反応、連続流通反応いずれでも良く、また縣濁床、固定床、流動床のいずれでも実施される。反応時間又は滞留時間は反応条件により異なるが、1分〜24時間で実施される。
【0038】
得られるラクタム化合物は、通常用いられる晶析、蒸留操作等により分離・精製される。
【0039】
(酸化物合成例)
次に、本発明において使用した酸化物の合成方法を説明する。
【0040】
なお、酸化物の構成成分原子比はICP−AES測定装置(ICAP−575II型;日本ジャーレル・アッシュ社製)を用いるICP分析により、比表面積は高速比表面積・細孔径分布測定装置(NOVA−1200;ユアサアイオニクス社製)を用いる窒素吸着によるBET比表面積測定(120℃真空下で30分間前処理)により、また、X線回折パターン(Cu−Kα線)は粉末X線回折装置(RAD−RX:理学電機社製)を用いてそれぞれ測定した。
【0041】
(酸化物合成例1)
テトラエチルオルトシリケート200mmolと70wt%ジルコニウムプロポキシド/プロパノール溶液10mmolを混合し室温で1分攪拌した。得られた溶液(1)を、ドデシルアミン60mmolとエタノール1.3molと水7.2molの混合液(2)に加えて室温で1時間激しく攪拌した。生成した白色ゲルを室温で113時間熟成させた後、白色固体を濾取して水及びエタノールで洗浄し、105℃で24時間乾燥した。次いで、空気中、室温から600℃まで5℃/分で昇温して、600℃で1時間焼成した。X線回折測定(Cu−Kα線)及び窒素吸着測定による窒素吸着等温線から、得られた複合酸化物がメソ多孔体であることを確認した。比表面積は993m/gであった。この複合酸化物についてICP分析を行ったところ、Si/Zr(原子比)=16であった。以下、これをZr−MS−16と略記する。
【0042】
(酸化物合成例2)
70wt%ジルコニウムプロポキシド/プロパノール溶液を2mmolに変えたほかは固体酸化物製造例1と同様に複合酸化物を調製した。X線回折測定から、得られた複合酸化物がメソ多孔体であることを確認した。Si/Zr(原子比)=87であった。以下、これをZr−MS−87と略記する。
【0043】
(酸化物合成例3)
テトラエチルオルトシリケート200mmolとエタノール1.3molとイソプロパノール200mmolを混合し、これに硝酸ガリウム4.0mmolを加えて室温で20分攪拌した。得られた混合液(1)を、ドデシルアミン60mmolと水7.2molの混合液(2)に加えて室温で1時間激しく攪拌した。生成した白色ゲルを室温で113時間熟成させた後、白色固体を濾取して水及びエタノールで洗浄し、105℃で24時間乾燥した。次いで、空気中、室温から600℃まで5℃/分で昇温して、600℃で1時間焼成した。X線回折測定から、得られた複合酸化物がメソ多孔体であることを確認した。Si/Ga(原子比)=50であった。以下、これをGa−MS−50と略記する。
【0044】
(酸化物合成例4)
テトラエチルオルトシリケート200mmolとエタノール1.3molとイソプロパノール200mmolを混合し、これにアルミニウムイソプロポキシド4.0mmolを加えて70℃で20分攪拌した。得られた混合液(1)を、ドデシルアミン60mmolと水7.2molの混合液(2)に加えて室温で1時間激しく攪拌した。生成した白色ゲルを室温で113時間熟成させた後、白色固体を濾取して水及びエタノールで洗浄し、105℃で24時間乾燥した。次いで、空気中、室温から600℃まで5℃/分で昇温して、600℃で1時間焼成した。X線回折測定から、得られた複合酸化物がメソ多孔体であることを確認した。Si/Al(原子比)=50であった。以下、これをAl−MS−50と略記する。
【0045】
(酸化物合成例5)
70wt%ジルコニウムプロポキシド/プロパノール溶液を加えなかったほかは固体酸化物製造例1と同様に酸化物を調製した。X線回折測定から、得られた酸化物がメソ多孔体であることを確認した。以下、これをMSと略記する。
【0046】
(酸化物合成例6)
珪酸ナトリウム溶液(27%SiO、14%NaOH)23.0gと25%セチルトリメチルアンモニウムクロリド溶液20gを激しく攪拌しながら混合し、この混合液のpHが8.5になるよう1規定塩酸を加えた。これを室温で3時間攪拌した後、オートクレーブに仕込み、100℃で16時間保持した。冷却後、固体を濾取し、水で洗浄した後、空気中85℃で乾燥した。乾燥物を空気気流下200℃で2時間、さらに540℃で6時間焼成した。得られた酸化物は、X線回折測定において、MCM41と同様の回折パターンを示した。以下、これをMCM41と略記する。
【実施例】
【0047】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
なお、固体酸触媒の硫黄含有量を全自動蛍光X線分析装置(PW−2400型:PHILIPS社製)を用いて測定した。シクロアルカノンオキシム化合物の転化率及びラクタム化合物の収率は、反応液を液体クロマトグラフィーで分析し、算出した。
さらに、三酸化硫黄については、反応装置の出口に水バブラーを設置し、反応ガスを硫酸イオンとし、イオンクロマトグラフ分析装置(IC7000S型:横川電機社製)を用いて確認した。
【0049】
実施例1
石英製ガラス管の下層にZr−MS−16(酸化物)を0.6g、上層に7wt%五酸化バナジウム/シリカ触媒(酸化触媒)8gを充填し、40ml/分の窒素ベース5000ppmSOガスと100ml/分のG2グレード純空気(JFP製品規格)の混合ガスと、420℃において18時間接触させた。なお、前処理として空気(100ml/分)気流下600℃で30分、後処理として空気(100ml/分)気流下420℃で1時間焼成をそれぞれ行った。得られた触媒の硫黄含有量は、2.2重量%であった。なお、比表面積は828m/gであった。
【0050】
このとき、酸化物と接触した後の混合ガス(排ガス)を水と1時間接触させ、その水に含まれる硫酸イオン及び亜硫酸イオンのイオンクロマトグラフィー分析を行ったところ、硫酸イオン及び亜硫酸イオンをそれぞれ0.058mmol、0.019mmol検出した。
【0051】
この触媒0.05gと50℃で12時間減圧乾燥処理をしたシクロドデカノンオキシム2.5mmolとベンゾニトリル5.0gを50mlガラス製フラスコに充填し、90℃で4時間ベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は89.6モル%、ラウロラクタムの収率は83.0モル%であった。
【0052】
比較例1
Zr−MS−16の2gを10mlの1規定HSO水溶液に浸し、濾過した後、105℃で24時間乾燥した。この乾燥物を空気中、室温から400℃まで5℃/分で昇温して、400℃で3時間焼成した。得られた触媒の比表面積は579m/gであった。
【0053】
この触媒を用いて、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は66.8モル%、ラウロラクタムの収率は60.2モル%であった。
【0054】
比較例2
触媒を無処理のZr−MS−16に変えたほかは、実施例1と同様にベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は26.1モル%、ラウロラクタムの収率は19.3モル%であった。
【0055】
実施例2
7wt%五酸化バナジウム/シリカ触媒を10wt%酸化銅/シリカ触媒に変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は87.2モル%、ラウロラクタムの収率は79.8モル%であった。
【0056】
実施例3
7wt%五酸化バナジウム/シリカ触媒を10wt%酸化鉄/シリカ触媒に変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は75.2モル%、ラウロラクタムの収率は72.0モル%であった。
【0057】
実施例4
7wt%五酸化バナジウム/シリカ触媒を10wt%酸化コバルト/シリカ触媒に変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は39.4モル%、ラウロラクタムの収率は36.7モル%であった。
【0058】
実施例5
7wt%五酸化バナジウム/シリカ触媒を10wt%酸化ニッケル/シリカ触媒に変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は25.4モル%、ラウロラクタムの収率は23.4モル%であった。
【0059】
比較例3
7wt%五酸化バナジウム/シリカ触媒を充填しなかったほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は18.5モル%、ラウロラクタムの収率は14.8モル%であった。
【0060】
以上の結果から、酸化触媒が存在しないと、SOをSOに酸化できず、固体酸触媒としての機能が発現しないことがわかった。
【0061】
実施例6
7wt%五酸化バナジウム/シリカ触媒を16gに、5000ppmSOガスの流量を100ml/分に、G2グレード純空気(JFP製品規格)の流量を250ml/分に、接触時間を9時間にそれぞれ変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は94.0モル%、ラウロラクタムの収率は86.6モル%であった。
【0062】
実施例7
7wt%五酸化バナジウム/シリカ触媒を8gに変えたほかは、実施例6と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は61.7モル%、ラウロラクタムの収率は56.9モル%であった。
【0063】
実施例8
酸化物をZr−MS−87に変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は76.1モル%、ラウロラクタムの収率は71.4モル%であった。なお、触媒の硫黄含有量は、2.1重量%であった。
【0064】
比較例4
触媒を無処理のZr−MS−87に変えたほかは、実施例1と同様にベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は5.3モル%、ラウロラクタムの収率は2.0モル%であった。
【0065】
実施例9
酸化物をGa−MS−50に変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は97.8モル%、ラウロラクタムの収率は93.3モル%であった。なお、触媒の硫黄含有量は、2.1重量%であった。
【0066】
比較例5
酸化物をGa−MS−50に変えたほかは、比較例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は55.3モル%、ラウロラクタムの収率は48.2モル%であった。
【0067】
比較例6
触媒を無処理のGa−MS−50に変えたほかは、実施例1と同様にベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は18.7モル%、ラウロラクタムの収率は12.3モル%であった。
【0068】
実施例10
酸化物をAl−MS−50に変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は90.9モル%、ラウロラクタムの収率は86.4モル%であった。なお、触媒の硫黄含有量は、2.0重量%であった。
【0069】
比較例7
酸化物をAl−MS−50に変えたほかは、比較例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は33.4モル%、ラウロラクタムの収率は32.0モル%であった。
【0070】
比較例8
触媒を無処理のAl−MS−50に変えたほかは、実施例1と同様にベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は27.9モル%、ラウロラクタムの収率は27.3モル%であった。
【0071】
実施例11
酸化物を予め空気中600℃で2時間焼成したβ−ゼオライト(UOP社製)に変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は92.4モル%、ラウロラクタムの収率は89.1モル%であった。なお、触媒の硫黄含有量は、3.0重量%であった。
【0072】
比較例9
酸化物を予め空気中600℃で2時間焼成したβ−ゼオライト(UOP社製)に変えたほかは、比較例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は23.1モル%、ラウロラクタムの収率は19.5モル%であった。
【0073】
比較例10
触媒を無処理の予め空気中600℃で2時間焼成したβ−ゼオライト(UOP社製)に変えたほかは、実施例1と同様にベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は26.5モル%、ラウロラクタムの収率は23.8モル%であった。
【0074】
実施例12
酸化物をMSに変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は49.4モル%、ラウロラクタムの収率は45.8モル%であった。なお、触媒の硫黄含有量は、1.3重量%であった。
【0075】
比較例11
酸化物をMSに変えたほかは、比較例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は17.9モル%、ラウロラクタムの収率は7.3モル%であった。なお、触媒中に硫黄は検出されなかった。
【0076】
比較例12
触媒を無処理のMSに変えたほかは、実施例1と同様にベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は10.2モル%、ラウロラクタムの収率は1.7モル%であった。
【0077】
実施例13
酸化物をMCM41、0.7gに変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は83.4モル%、ラウロラクタムの収率は76.3モル%であった。なお、触媒の硫黄含有量は、1.8重量%であった。
【0078】
実施例14
酸化物をアエロジル200(日本アエロジル社製)、0.7gに変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は21.7モル%、ラウロラクタムの収率は18.7モル%であった。なお、触媒の硫黄含有量は、0.5重量%であった。
【0079】
実施例15
酸化物をCARIACT Q−30(富士シリシア化学社製)、1.2gに変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は12.8モル%、ラウロラクタムの収率は9.9モル%であった。なお、触媒の硫黄含有量は、0.4重量%であった。
【0080】
実施例16
酸化物を、水酸化物である水酸化アルミニウム、1.6gに変え、前処理を行わなかったほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は12.5モル%、ラウロラクタムの収率は8.0モル%であった。なお、触媒の硫黄含有量は、9.8重量%であった。
【0081】
実施例17
酸化物を、水酸化物である水酸化ジルコニウム、3.0gに変え、前処理を行わなかったほかは、実施例1と同様に触媒を調製し、該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は37.2モル%、ラウロラクタムの収率は32.3モル%であった。なお、触媒の硫黄含有量は、0.8重量%であった。
【0082】
以上の実施例1〜17及び比較例1〜12をまとめて表1に示した。
【0083】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、酸化物及び水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1化合物を用いることにより、酸触媒反応に対し高活性な固体酸触媒を製造することができる。また、この触媒を用いることで、強酸不在下でも、シクロアルカノンオキシム化合物のベックマン転位反応が効率よく進行し、副生オリゴマーも少なく、対応するラクタム化合物を高収率で有利に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の下層部に酸化物及び水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1化合物を、その上層部に酸素で二酸化硫黄を酸化する能力を有する触媒を存在させ、200〜700℃の温度で、二酸化硫黄と酸素とを含む気体と接触させることを特徴とする、シクロアルカノンオキシム化合物から対応するラクタム化合物へのベックマン転位反応用固体酸触媒の調製法。
【請求項2】
酸素で二酸化硫黄を酸化する能力を有する触媒が、バナジウム、銅、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1元素を含有する触媒である請求項1記載のベックマン転位反応用固体酸触媒の調製法。
【請求項3】
酸素で二酸化硫黄を酸化する能力を有する触媒が、バナジウム、銅及び鉄からなる群より選ばれる少なくとも1元素を含有する触媒である請求項2記載のベックマン転位反応用固体酸触媒の調製法。
【請求項4】
酸化物及び水酸化物からなる群より選ばれる1化合物が、周期律表第4〜14族からなる群より選ばれる1種以上の元素、ただし炭素は除く、を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のベックマン転位反応用固体酸触媒の調製法。
【請求項5】
酸化物が、珪素を含む複合酸化物であることを特徴とする請求項4記載のベックマン転位反応用固体酸触媒の調製法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の調製法により得られる、シクロアルカノンオキシム化合物から対応するラクタム化合物へのベックマン転位反応用固体酸触媒。

【公開番号】特開2009−131847(P2009−131847A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10849(P2009−10849)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【分割の表示】特願2005−516624(P2005−516624)の分割
【原出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】