説明

固体電解質、固体電解質の製造方法および電極膜接合体

【課題】特定の性質を全て満たす固体電解質の提供。
【解決手段】下記部分構造を共に含む固体電解質。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーデバイスや電気化学センサー等に用いることができる固体電解質に関する。特に、特定構造の高分子を含むことにより、高いプロトン伝導度、低いメタノール透過性および高い強度を併せ持つ固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、固体電解質の一例であるプロトン伝導材料として、一般にナフィオン(登録商標、以下同じ)に代表されるスルホン酸基含有パーフルオロカーボン重合体が用いられている。この材料のイオン伝導度は高いものの、メタノールのような高極性有機溶媒も透過させるため、ダイレクトメタノール型燃料電池では低出力となってしまう。
【0003】
このような状況下、有機ケイ素化合物を前駆体とし、ゾル−ゲル反応により生成する有機−無機ハイブリッド型のプロトン伝導材料が提案されている(特許文献1)。これらの有機−無機コンポジッドおよびハイブリッド型プロトン伝導材料は、ケイ酸とプロトン酸からなりプロトン伝導部位である無機成分と材料に柔軟性を付与する有機成分とにより構成されるが、膜のプロトン伝導度を高めるために無機成分を増やすと膜の機械的強度が低下し、柔軟性を得るために有機成分を増やすとプロトン伝導度が低下するため、2つの特性を満足する材料を得ることが困難である。これらの特性を改善するために、メソゲン基を有する有機−無機ハイブリッド材料が提案されている(特許文献2および3)。
【0004】
一方、プロトン伝導材料をダイレクトメタノール型燃料電池に適用するためには、メタノールの透過を抑制することが必須であり、高いプロトン伝導度、高い機械的強度および低いメタノール透過性を全て満たす材料が希求されている。
【0005】
【特許文献1】ドイツ特許第10061920号公報
【特許文献2】特開2004−143446号公報
【特許文献3】特開2000−212305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、固体高分子電解質燃料電池やダイレクトメタノール燃料電池等に広く適用できる固体電解質(特に、膜状の固体電解質(固体電解質膜))の提供であり、特に高いプロトン伝導度、高い機械的強度および低いメタノール透過性のすべてを兼ね備えた固体電解質を供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)下記一般式(1)で表される組成を含むポリマーから構成される部分構造および下記一般式(2)で表される部分構造を含み、かつ、前記一般式(1)で表される組成を含むポリマーから構成される部分構造と、前記一般式(2)で表される部分構造の重量比は、1/1000〜10/1である固体電解質。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、R11およびR15は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、R12は単結合または2価の連結基を表し、*はケイ素原子に結合する位置を表し、n11は1〜3の整数を表し、R13はアルキル基またはアリール基を表し、R14はπ電子を持つ置換基を表し、n12およびn13はそれぞれ1〜100000の整数を表し、n12とn13の比は1/1000〜10/1である。)
一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、R21はアルキル基またはアリール基を表し、R22は(n21+n23)価の連結基を表し、R23は酸残基を表し、*はケイ素原子に結合する位置を表し、n21は1〜3の整数を表し、n22は1〜3の整数を表し、n23は1または2を表す。)
(2)さらに、下記一般式(3)で表される部分構造を含む(1)に記載の固体電解質。
一般式(3)
【化3】

(一般式(3)中、Aはメソゲンを含む有機原子団であり、R31はアルキル基またはアリール基を表し、*はケイ素原子に結合する位置を表し、**は炭素−炭素結合または炭素−酸素結合を主鎖に持つ高分子に結合する位置を表し、n31は1〜4の整数を表し、n32は1〜3の整数を表し、n33は0〜4の整数を表す。)
(3)下記一般式(4)で表される組成を含むポリマーおよび一般式(5)で表される化合物を用いる、(1)または(2)に記載の固体電解質の製造方法。
一般式(4)
【化4】

(一般式(4)中、R11およびR15は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、R12は単結合または2価の連結基を表し、n11は1〜3の整数を表し、R13はアルキル基またはアリール基を表し、R14はπ電子を持つ置換基を表し、R16は水素原子、アルキル基、アリール基またはシリル基を表す。n12およびn13はそれぞれ1〜100000の整数を表し、n12とn13の比は1/1000〜10/1である。)
一般式(5)
【化5】

(一般式(5)中、R21はアルキル基またはアリール基を表し、R22は(n21+n23)価の連結基を表し、R24は水素原子、アルキル基、アリール基またはシリル基を表し、R25は酸残基に誘導できる置換基を表す。n21は1〜3の整数を表し、n22は1〜3の整数を表し、n23は1または2を表す。)
(4)下記一般式(6)で表される化合物を用いる、(3)に記載の固体電解質の製造方法。
一般式(6)
【化6】

(一般式(6)中、Aはメソゲンを含む有機原子団であり、R31はアルキル基またはアリール基を表し、R32は水素原子、アルキル基、アリール基またはシリル基を表す。n31は1〜4の整数を表し、n32は1〜3の整数を表し、n33は0〜4の整数を表す。Bは重合により炭素−炭素結合または炭素−酸素結合を形成しうる置換基を表す。)
(5)膜状である、(1)または(2)に記載の固体電解質。
(6)(1)、(2)および(5)のいずれかに記載の固体電解質を有する電極膜接合体。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、特定構造の高分子化合物と有機ケイ素化合物を用いることにより、高いプロトン伝導度(例えば、1×10-2S/cm以上)、高い機械的強度(例えば、400kgf/cm2以上)および低いメタノール透過性(例えば、ナフィオン117の値を100%としたとき、10%以下)のすべてを兼ね備えた固体電解質を得ることができる。これにより、燃料電池や電気化学素子等に用いた場合に、高い性能が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において、本願発明の内容について詳細に説明する。尚、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0010】
本発明は一般式(1)で表される組成を含むポリマーから構成される部分構造および一般式(2)で表される部分構造が含まれることを特徴とする固体電解質である。一般式(1)で表される組成を含むポリマーから構成される部分構造と、一般式(2)で表される部分構造の比は重量で、1/1000〜10/1であり、1/200〜2/1が好ましく、1/50〜1/1が特に好ましい。一般式(1)で表される組成を含むポリマーから構成される部分構造中の一般式(1)で表される組成の含有率は、重量比で10〜100%が好ましく、50〜100%がさらに好ましく、90〜100%であることが最も好ましい。
【0011】
一般式(1)で表される組成を含むポリマーから構成される部分構造について説明する。ここで、「組成を含むポリマーから構成される部分構造」とは、例えば、一般式(1)の左側のカッコで括られる単位と右側のカッコで括られる単位とが、該ポリマー中に、n12およびn13の組成比で存在していることをいい、その結合順序は問わないことをいう。さらに、該ポリマーには、一般式(1)に含まれない構成単位を有していてもよい。また、本発明において、複数のR11、R12、R13、R14および/またはR15が存在する場合、それぞれ、同一であってもよいし、異なっていてもよい。すなわち、例えば、一般式(1)の左側のカッコで括られる単位および/または右側のカッコで括られる単位が2種類以上であってもよい。このような場合、左側のカッコで括られる単位の数の合計をn12とし、右側のカッコで括られる単位の合計をn13とする。好ましくは、左側のカッコで括られる単位は1種類であり、より好ましくは、左側のカッコで括られる単位および右側のカッコで括られる単位のいずれもが1種類の場合である。
さらに、一般式(1)で表される組成を含むポリマーから構成される部分構造の一部が、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、該部分構造の他の一部と結合(例えば、架橋結合)していたり、該部分構造以外の部分と結合していてもよい。
本発明の一般式(1)で表される組成を含むポリマーから構成される部分構造は、例えば、一般式(4)で表される組成を含むポリマーを用いることによって得られる。ここで、一般式(1)および一般式(4)中、R11、R12、R13、R14、R15、n11、n12、n13は同義であり、好ましい範囲も同義である。この重合過程ではSi−(OR16n11の部分構造が加水分解−縮合を経て、Si−(O−*)n11に変換される。従って、一般式(4)で表される組成を含むポリマーの一般式(4)で表される組成の含有率は、重量比で10〜100%が好ましく、50〜100%がさらに好ましく、90〜100%であることが最も好ましい。
以下、一般式(1)および一般式(4)について説明する。
【0012】
11およびR15はそれぞれ水素原子、アルキル基、アリール基を表し、複数のR11およびR15は、いずれも、同じでも異なっていても良い。R11、R15がアルキル基の場合、好ましくは炭素数1〜24、より好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、i−プロピル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、tert−オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、2−ヘキシルデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロヘキシルメチル基、オクチルシクロヘキシル基等である。R11、R15がアリール基の場合、好ましくは炭素数6〜24のアリール基であり、縮環していてもよい。例えばフェニル基、4−メチルフェニル基、3−シアノフェニル基、2−クロロフェニル基、2−ナフチル基等である。R11、R15は、それぞれ、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基がさらに好ましく、それぞれ、水素原子、メチル基、フェニル基がさらに好ましく、水素原子、メチル基が最も好ましい。R11および/またはR15はさらに置換基を有していてもよいが、無置換の方が好ましい。
【0013】
12は単結合または2価の連結基を表す。連結基の場合、アルキレン基、アリーレン基、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO2−および−NH−ならびにこれらの組み合わせからなる基が好ましい。アルキレン基は、好ましくは炭素数1〜24、より好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基であり、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、i−プロピレン基、i−ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、2−エチルヘキシレン基、tert−オクチレン基、デシレン基、ドデシレン基、テトラデシレン基、2−ヘキシルデシレン基、ヘキサデシレン基、オクタデシレン基、シクロヘキシルメチレン基、オクチルシクロヘキシレン基等である。2価の置換基中のアルキレン基の含まれる位置は末端(より好ましくはケイ素原子に結合する側の末端)が好ましい。アリーレン基は、好ましくは炭素数6〜24のアリーレン基であり、縮環していてもよい。例えばフェニレン基、4−メチルフェニレン基、3−シアノフェニレン基、2−クロロフェニレン基、2−ナフチレン基等である。アリーレン基の2価の連結基を形成する基の位置はメタ位またはパラ位が好ましく、パラ位がさらに好ましい。
12は、単結合、アルキレン基、アリーレン基、−O−、−CO−および−NH−ならびにこれらの組み合わせからなる基がより好ましく、単結合、1,4−フェニレン基、1,4−ナフチレン基、−O(CH22−、−O(CH23−、−O(CH22−O−、−O(CH22O(CH22−、−O(CH22O(CH23−、−COO(CH22−、−COO(CH23−、−COO(CH22O(CH23−、−CONH(CH22−、−CONH(CH23−、−CO(CH22−がさらに好ましく、単結合、1,4−フェニレン基、−O(CH22−、−O(CH22O(CH22−、−COO(CH22−、−COO(CH23−、−CONH(CH22−、−CONH(CH23−、−CO(CH22−が最も好ましい。R12は置換基を有していてもよいが、無置換のほうが好ましい。
【0014】
n11は1〜3の整数を表し、2または3が好ましく、3がより好ましい。n11は、2、3の順に架橋密度が高まり好ましい。
【0015】
13はアルキル基またはアリール基を表し、その好ましい範囲および例は上記R11の水素原子を除き同様である。好ましい範囲も同義である。
【0016】
14はπ電子を持つ置換基を表し、単結合、アリーレン基、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO2−、−N(−)−若しくは−NH−またはこれらの2以上を組み合わせた基と、水素原子、アルキル基、アリール基またはシアノ基との組み合わせが好ましい。π電子はR14の高分子鎖に結合する原子上に存在するものが好ましい。R14はアルキル基と窒素原子の結合で環を形成しても良い。ここでいうアルキル基およびアリール基の好ましい範囲および例は上記R11の場合と水素原子を除き同様である。R14は好ましくは炭素数1〜24、より好ましくは炭素数1〜10である。R14はフェニル基、4−メチルフェニル基、3−シアノフェニル基、2−クロロフェニル基、2−ナフチル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、オクチルオキシ基、メトキシエトキシ基、メトキシペンタ(エチルオキシ)基、ペンタフルオロプロポキシ基、−O(CH2CH2O)nCH3基(nは正の整数)、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−オクチルカルボニル基、フェノキシカルボニルオキシ基、カルボキシル基、アシル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基)、シアノ基、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基、ピバロイル基、2−クロロアセチル基、ステアロイル基、ベンゾイル基、p−n−オクチルオキシフェニルカルボニル基、フェノキシカルボニル基、o−クロロフェノキシカルボニル基、m−ニトロフェノキシカルボニル基、p−tert−ブチルフェノキシカルボニル基がさらに好ましく、フェニル基、4−メチルフェニル基、3−シアノフェニル基、2−ナフチル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、カルボキシル基、アシル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基)、シアノ基、ペンタフルオロプロポキシ基、−O(CH2CH2O)nCH3基(nは正の整数)、アセチルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基、ピバロイル基、ステアロイル基、ベンゾイル基、p−n−オクチルオキシフェニルカルボニル基、フェノキシカルボニル基、o−クロロフェノキシカルボニル基が最も好ましい。R14はさらに置換基を有していてもよいが、無置換のほうが好ましい。
【0017】
16は水素原子、アルキル基、アリール基またはシリル基を表し、シリル基以外の場合、その好ましい範囲および例は上記R11と同様である。シリル基の好ましい例としては、炭素数1〜10のアルキル基から選ばれた3つのアルキル基で置換されたシリル基(トリメチルシリル基、トリエチルシリル基およびトリイソプロピルシリル基等)、またはポリシロキサン基(−(Me2SiO)nH(n=10〜100)等)が挙げられる。
【0018】
n12およびn13は、それぞれ、1〜100000の整数を表し、いずれも5〜10000がさらに好ましく、10〜1000がさらに好ましい。さらに、n12とn13の比は1/1000〜10/1であり、1/300〜5/1が好ましく、1/100〜1/1がさらに好ましい。
【0019】
一般式(4)で表される組成を含むポリマーは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)による数平均分子量としては100〜10000000が好ましく、1000〜1000000がさらに好ましく、10000〜100000が最も好ましい。GPCの測定法としては「新実験科学講座 19.高分子化学[II]、丸善株式会社、1978年、p.533」等に挙げられる一般的な方法を用いることができる。
【0020】
*はケイ素原子に結合する位置を表し、ケイ素原子に結合した結果−Si−O−Si−O−の繰り返し単位を有する三次元架橋構造を形成する。一般式(4)で表される組成を含むポリマーは、異種のモノマーがさらに共重合していてもよい。一般式(4)で表される組成を含む部分構造中の一般式(4)で表される組成の含有率は前述のとおりである。異種の共重合モノマーとしては重合後の主鎖に−CH2−基を含まないモノマーであり、無水コハク酸、テトラフルオロエチレン、トリフルオロビニルアルキルエーテル等が好ましく挙げられる。また、ポリマーの末端基としては、重合開始剤、停止剤、副反応、不純物、溶媒に由来する置換基が挙げられる。一般式(4)で表される組成を含むポリマーは、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであっても良いが、ランダム共重合体であるものが好ましい。
【0021】
一般式(1)で表される組成を含むポリマーから構成される部分構造の好ましい例は、下記一般式(4)で表される組成を含むポリマーを用いて得られるものである。以下に一般式(4)で表される組成を含むポリマーの好ましい例を示す。なお、これらのポリマーを構成する構成単位は順不同に重合(ランダム共重合)している。また、それぞれの構成単位の右下に記載された数値は、それぞれの構成単位のモル比を示している。
【0022】
【化7】

【0023】
【化8】

【0024】
一般式(2)で表される部分構造について説明する。一般式(2)で表される部分構造は、例えば、一般式(5)で表される化合物の重合反応によって得られる。この重合過程ではSi−(OR24n22の部分構造が加水分解−縮合を経て、Si−(O−*)n22に変換される。また、R25は後述する反応によってR23に変換できる。従って、一般式(2)および一般式(5)中、R21、R22、n21、n22、n23は同義であり、好ましい範囲も同義である。
以下、一般式(2)および一般式(5)について説明する。
【0025】
21はアルキル基またはアリール基を表し、その具体例は、一般式(1)におけるR13と同様である。好ましい範囲も同義である。
【0026】
22は(n21+n23)価の連結基を表し、好ましくは、脂肪族基および/または芳香族基である。(n21+n23)が2の場合、炭素数1〜12のアルキレン基および炭素数6〜12のアリーレン基ならびにこれらの組み合わせが好ましく、メチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、フェニレン基がより好ましく、メチレン基、プロピレン基が特に好ましい。(n21+n23)が3以上の場合、分岐があっても良い炭素数1〜12のポリメチレン基および炭素数6〜12の炭化水素芳香族基ならびにこれらの組み合わせが好ましく、分岐があっても良い炭素数1〜6のポリメチレン基および炭素数6の炭化水素芳香族基がさらに好ましい。これらの連結基は置換基を有していてもよいが、無置換のほうが好ましい。
【0027】
23は酸残基を表し、特にpKa4以下の酸残基が好ましく、−SO3H、−P(O)(OH)、−P(O)(OH)2、−COOH、−SO2Hなどが好ましい例として挙げられる。特に好ましいものは、pKaの低い−SO3H基である。当該前駆体は、それ自身の酸で縮合しゲル化し易いため、一般式(5)で示される化合物を本発明の固定電解質作成時に用いることが特に好ましい。
【0028】
*はケイ素原子に結合する位置を表し、ケイ素原子に結合した結果、本発明の固体電解質は、−Si−O−Si−O−の繰り返し単位を有する三次元架橋構造を形成する。
【0029】
n21は1〜3の整数を表し、1または2が好ましく、1がより好ましい。n21を3以下とすることにより、塗布しやすい程度のゲル化となり、塗布液の作成が容易になる。
n22は1〜3の整数を表し、2または3が好ましく、3がより好ましい。n22を3とすることにより、架橋密度が高まりより好ましい。
n23は1または2を表す。n23は膜の性質としては大きくても良いが、原料の入手性、コストの面から小さい1であることがよい。
【0030】
25は酸残基に誘導できる置換基を表し、総炭素数1〜20のものが好ましく、総炭素数1〜10のものがさらに好ましい。R25としてはスルホン酸エステル基、スルホン酸塩基、スルフィン酸エステル基、スルフィン酸塩基、ジスルフィド基を含む基、トリスルフィド基を含む基、メルカプト基、アシルメルカプト基、リン酸ジエステル基、リン酸塩基、カルボン酸エステル基、カルボン酸塩基が好ましい。具体的には、−SH、−SO3Me、−SO3Ph、−SO3Bu、−SO3Na、−SO3K、−PO3Me2、−PO32、−COOMe、−COOPh、−COONa、−SAc、−SCOPhが好ましく−SH、−SO3Me、−SO3Bu、−SO3Na、−SAc、−SCOPhがさらに好ましい。ここで、Phはフェニル基を表す。
【0031】
ジスルフィド基を含む基の場合、例えば、下記のように酸残基に誘導される。ここで、Rは置換基を表す。
【化9】

【0032】
ジスルフィド基を含む基としては、下記一般式(10)で表される化合物が好ましい例として挙げられる。言い換えれば、本発明の一般式(5)には、下記一般式(10)のようなものも含まれる趣旨である。
【0033】
一般式(10)
【化10】

【0034】
21およびR24、ならびに、n21、n22は、上記一般式(5)のそれぞれと同義であり、好ましい範囲も同義である。但し、R22は、(n21+1)価の連結基として表される。
【0035】
以下に一般式(5)の化合物の具体的化合物例を挙げる。
【0036】
【化11】

【0037】
さらに、本発明の固体電解質では一般式(3)で表されるの部分構造を含むものが好ましい。
【0038】
一般式(3)で表される部分構造について説明する。一般式(3)で表される部分構造は、例えば、一般式(6)で表される化合物の重合反応によって得られる。この重合過程ではSi−(OR32n32の部分構造が加水分解−縮合を経て、Si−(O−*)n32に変換され、Bが重合により炭素−炭素結合または炭素−酸素結合を持つ主鎖に誘導される。**はBが重合した結果生成した高分子に結合する位置である。従って、一般式(3)および一般式(6)中、A、R31、n31、n32、n33は同義であり、好ましい範囲も同義である。以下、一般式(3)および一般式(6)について詳細に説明する。
【0039】
31は、水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、その好ましい範囲および具体例は、一般式(1)におけるR13と同様である。
【0040】
Aはメソゲンを含む有機原子団であり、メソゲン基の好ましい例としては、Dietrich Demus および Horst Zaschkeによる 「Flussige Kristalle in Tabellen II」, 1984年, p7−18に記載されているものが挙げられる。中でも、下記一般式(7)で表される構造を含むものが好ましい。
【0041】
一般式(7)
【化12】

【0042】
一般式(7)中、R71およびR73は、それぞれ、2価の連結基または単結合を表す。2価の連結基としては、−CH=CH−、−CH=N−、−N=N−、−N(O)=N−、−COO−、−COS−、−CONH−、−COCH2−、−CH2CH2−、−OCH2−、−CH2NH−、−CH2−、−CO−、−O−、−S−、−NH−、−(CH213−、−CH=CH−COO−、−CH=CH−CO−、−(C≡C)13−、ならびに、これらの組合せ等が好ましく、−CH2−、−CO−、−O−、−CH=CH−、−CH=N−、−N=N−、ならびに、これらの組合せ等がより好ましい。
【0043】
72は2価の4〜7員環の置換基、またはそれらから構成される縮合環の置換基を表し、n7は1〜3の整数を表す。R72は好ましくは6員環の芳香族基、4〜6員環の飽和または不飽和脂肪族基、5または6員環の複素環基、またはそれらの縮合環である。R72の好ましい具体例としては、以下に示す(Y−1)〜(Y−28)で表される置換基、およびこれらの組合せ(縮環したものを含む、以下同じ)が挙げられる。これらの置換基の中でより好ましくは(Y−1)、(Y−2)、(Y−18)、(Y−19)、(Y−21)および(Y−25)ならびにこれらの組み合わせであり、さらに好ましくは(Y−1)、(Y−2)および(Y−19)ならびに、これらの組み合わせである。
【0044】
【化13】

【0045】
Aは、分子の配向性を高めるために、メソゲンとともに炭素数5以上のアルキル基またはアルキレン基を含むものが好ましい。アルキル基またはアルキレン基の炭素数は、特に定めるものではないが、5〜25が好ましく、6〜18がより好ましい。好ましい置換基の例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基およびこれらの置換基にオキシ基(−O−)が結合した置換基が挙げられる。また、これらの置換基はさらに置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、フルオロ基が挙げられる。これらの置換基は、好ましくは炭素原子数が1〜24であり、より好ましくは炭素原子数が1〜12である。
【0046】
32は水素原子、アルキル基、アリール基またはシリル基を表し、その好ましい範囲および例は上記一般式(4)のR16と同様である。
【0047】
Bは重合性基を表し、炭素−炭素または炭素−酸素結合を形成し重合体を生成しうる重合性基であり、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、エチニル基、アルキレンオキシド基(エチレンオキシド基、トリメチレンオキシド基等)等が好ましい例として挙げられる。中でもアクリロイル基、メタクリロイル基、エチレンオキシド基、トリメチレンオキシド基等が好ましい。
【0048】
n31は1〜3の整数であるのが好ましく、1または2であるのがさらに好ましく、1が最も好ましい。
【0049】
n32は2または3が好ましく、3がより好ましい。n32は3が最も架橋密度が高まり好ましい。n33は0〜3の整数であるのが好ましく、0または1であるのがさらに好ましく、1が最も好ましい。以下に有機ケイ素化合物の具体例を挙げるがこれらに限定されるものではない。
【0050】
【化14】

【0051】
【化15】

【0052】
【化16】

【0053】
【化17】

【0054】
【化18】

【0055】
【化19】

【0056】
本発明の固体電解質は燃料電池において触媒電極用固体電解質およびプロトン伝導膜用固体電解質のいずれにも使用することができる。固体電解質の形状は、板状、膜状が好ましく、いずれの場合も膜状に形成することが好ましい。成形した時点で板状、膜状であっても良いし、バルク体に成形した後に、切断して板状、膜状に加工することもできる。
固体電解質を膜状としたときの膜厚は5〜800μmが好ましく、10〜500μmがより好ましく、10〜400μmがさらに好ましく、30〜200μmがよりさらに好ましく、25〜150μmが最も好ましい。
【0057】
次に、本発明の固体電解質の作製法について述べる。本発明では一般式(5)で表される化合物の置換基R25を酸残基に誘導する第一の工程が含まれる。この反応は置換基R25の構造に応じて適宜選択することができ、酸化反応であっても、置換反応であっても、加水分解反応であってもよい。
【0058】
酸化反応を適用する場合、酸化剤としては、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、酸化クロム、臭素水、硝酸およびこれらの水溶液が挙げられる。特に過酸化水素は酸化後の分解物が水であるため、膜特性に悪影響を及ぼさず好ましい。この処理液には有機溶媒等が添加されていても良い。
【0059】
第一の工程の溶媒は原料が溶解するものであればよく、好ましくはカーボネート化合物(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、複素環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン、N−メチルピロリドン等)、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、鎖状エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、エステル類(カルボン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステル等)、非プロトン極性物質(ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、非極性溶媒(トルエン、キシレン等)、塩素系溶媒(メチレンクロリド、エチレンクロリド等)、水等を用いることができる。中でも、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)等が特に好ましい。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0060】
第一の反応工程の反応温度は反応速度に関連し、前駆体の反応性と選択した試薬の種類および量に応じて選択することができる。好ましくは−20℃〜150℃であり、より好ましくは20℃〜120℃であり、さらに好ましくは50℃〜100℃である。
【0061】
本発明では、さらにアルコシキシリル基の加水分解反応および縮合を行う第二の工程を行う。これは第一の工程で生成した酸残基の触媒能によって進行してもよいし、別途酸性化合物を添加してもよい。
【0062】
酸性化合物としては無機または有機のプロトン酸が好ましい。無機プロトン酸としては、塩酸、硫酸、リン酸類(H3PO4、H3PO3、H427、H5310、メタリン酸、ヘキサフルオロリン酸等)、硼酸、硝酸、過塩素酸、テトラフルオロ硼酸、ヘキサフルオロ砒素酸、臭化水素酸、固体酸(タングストリン酸、タングステンペルオキソ錯体等)等が挙げられる。有機プロトン酸としては、リン酸エステル類(例えば炭素数1〜30のリン酸エステル類であり、リン酸メチルエステル、リン酸プロピルエステル、リン酸ドデシルエステル、リン酸フェニルエステル、リン酸ジメチルエステル、リン酸ジドデシルエステル等)、亜リン酸エステル類(例えば炭素数1〜30の亜リン酸エステル類であり、亜リン酸メチルエステル、亜リン酸ドデシルエステル、亜リン酸ジエチルエステル、亜リン酸ジイソプロピル、亜リン酸ジドデシルエステル等)、スルホン酸類(例えば炭素数1〜15のスルホン酸類であり、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ヘキサフルオロベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等)、カルボン酸類(例えば炭素数1〜15のカルボン酸類であり、酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸、置換安息香酸等)、イミド類(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸、トリフルオロメタンスルホニルトリフルオロアセトアミド等)、ホスホン酸類(例えば炭素数1〜30のホスホン酸類であり、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジフェニルホスホン酸、1,5−ナフタレンビスホスホン酸等)等の低分子化合物、またはナフィオンに代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン等の耐熱芳香族高分子のスルホン化物等のプロトン酸部位を有する高分子化合物が挙げられる。これらを2種以上併用することも可能である。
【0063】
第二の工程の溶媒は第一の工程で生じた一般式(5)で表される化合物由来の生成物が溶解するものであればよく、第一の反応工程に用いる溶媒として例示したものから選択することができる。第一の工程の溶媒と共通の物が好ましい。
【0064】
第二の工程の反応温度は反応速度に関連し、前駆体の反応性と選択した酸の種類および量に応じて選択することができる。好ましくは−20℃〜150℃であり、より好ましくは20℃〜120℃であり、さらに好ましくは50℃〜100℃である。
【0065】
第一の反応工程と第二の反応工程は同時に行ってもよい。第一の工程、第二の工程において一般式(6)で表される化合物を添加することが特に好ましい。
【0066】
一般式(4)で表される組成を含むポリマーと一般式(5)で表される化合物は、重量比で1/1000〜10/1で用いることが好ましく、1/200〜2/1で用いることがさらに好ましく、1/50〜1/1で用いることが特に好ましい。一般式(6)で表される化合物を添加する場合は、一般式(4)で表される組成を含むポリマーと一般式(5)ので表される化合物の和に対し、1重量%〜1000重量%であることが好ましく、10重量%〜400重量%であることがさらに好ましく、50重量%〜200重量%であることが特に好ましい。
【0067】
本発明において、得られた反応液を塗布する際の支持体は特に限定されないが、好ましい例としてはガラス基板、金属基板、高分子フィルム、反射板等を挙げることができる。高分子フィルムとしては、TAC(トリアセチルセルロース)等のセルロース系高分子フィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等のエステル系高分子フィルム、PTFE(ポリトリフルオロエチレン)等のフッ素系高分子フィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。塗布方式は公知の方法でよく、例えばカーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等を用いることができる。
【0068】
本発明では、塗布-乾燥中に、メソゲンの配向が起こる。配向を促進させるために、様々な手法を採用することができる。例えば、前述の支持体等に事前に配向処理を施すことができる。配向処理としては種々の一般的な方法を採用できるが、好ましくは各種ポリイミド系配向膜、ポリビニルアルコール系配向膜等の液晶配向層を支持体等の上に設け、ラビング等の配向処理行う方法、支持体上のゾル−ゲル組成物に磁場や電場等を印加する方法、加熱する方法等を用いることができる。
【0069】
本発明の材料の配向状態は、偏光顕微鏡により光学異方性を観察することにより確認することができる。観察方向は任意でよいが、クロスニコル下でサンプルを回転させ、明暗が切り替わる部分があれば異方性があるといえる。配向状態は異方性を示す状態であれば特に制限はない。液晶相と認識できるテクスチャーが観察される場合は相を特定することができ、リオトロピック液晶相でもサーモトロピック液晶相でもよい。配向状態はリオトロピック液晶相の場合はヘキサゴナル相、キュービック相、ラメラ相、スポンジ相、ミセル相が好ましく、特に室温でラメラ相もしくはスポンジ相を示すことが好ましい。サーモトロピック液晶相ではネマチック相、スメクチック相、クリスタル相、カラムナー相およびコレステリック相が好ましく、特に室温でスメクチック相、クリスタル相を示すことが好ましい。また、これらの相における配向が固体状態で保持されている配向状態も好ましい。ここでいう異方性とは分子の方向ベクトルが等方的ではない状態をいう。
【0070】
一般式(6)で表される化合物を添加する場合、重合性基Bが(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エチニル基等の炭素−炭素不飽和結合である場合、大津隆行・木下雅悦共著, 「高分子合成の実験法」, 化学同人や大津隆行著, 「講座重合反応論1ラジカル重合(I)」, 化学同人に記載された一般的な高分子合成法であるラジカル重合法を用いることができる。ラジカル重合法として、熱重合開始剤を用いる熱重合法と光重合開始剤を用いる光重合法を使用することができる。熱重合開始剤の好ましい例としては、2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキシド等の過酸化物系開始剤等が挙げられ、光重合開始剤の好ましい例としては、α−カルボニル化合物、アシロインエーテル、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物、多核キノン化合物、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ、アクリジンおよびフェナジン化合物およびオキサジアゾール化合物が挙げられる。
【0071】
重合開始剤は、一般式(6)で表される化合物と同時に添加しても、反応液を塗布する直前に添加しても良い。重合開始剤の添加量はモノマー総量に対し好ましくは0.01〜20質量%であり、より好ましくは0.1〜10質量%である。
【0072】
Bで表される重合性基がエチレンオキシド基、トリメチレンオキシド基等のアルキレンオキシド基の場合、重合触媒としてはプロトン酸(上記で挙げたプロトン酸)やルイス酸(好ましくは三フッ化ホウ素(エーテル錯体を含む)、PF5、SbF5、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等)、オキソニウム塩(Et3OSbF6、Et3OBF4等)、ヨードニウム塩(Ph2IPF6、Ph2IBF4等)、スルホニウム塩(Ph3SPF6、Ph2MeSBF4等)を用いることができる。酸として一般式(5)で表される化合物であって、酸に誘導されたものを用いる場合には、重合性基Bの重合用に上記重合触媒を添加しなくてもよい。重合触媒を添加する場合には、塗布する直前に反応液に添加するのが好ましい。通常、重合は塗布後に加熱または光照射により膜中で進行させる。これにより分子の配向状態が固定され、また膜の強度も向上する。
【0073】
材料の膜特性を向上させるため、必要に応じて、上記に記載した2種以上の化合物を混合して用いてもよい。例えば、一般式(4)で表される組成を含むポリマー、一般式(5)および/または一般式(6)で表される化合物の複数種類を混合してもよい。これらの前駆体にさらに他のケイ素化合物を添加してもよい。他のケイ素化合物の例としては、下記一般式(8)で表される有機ケイ素化合物またはそれらを重合した化合物が挙げられる。
【0074】
一般式(8)
【化20】

【0075】
一般式(8)中、R81はアルキル基、アリール基またはヘテロ環基を表し、R82は水素原子、アルキル基、アリール基またはシリル基を表し、m8は0〜4の整数を表し、m8または4−m8が2以上のとき、R81またはR82はそれぞれ同一でも異なってもよい。また、R81および/またはR82は置換基を有していてもよく、置換基により互いに連結し、多量体を形成してもよい。
【0076】
一般式(8)のm8は0または1が好ましく、R82はアルキル基が好ましい。さらにm8が0のときの好ましい化合物の例としては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)等が挙げられ、m8が1のときの好ましい化合物の例としては以下の化合物が挙げられる。
【0077】
【化21】

【0078】
一般式(8)で表される化合物を併用する場合、一般式(4)で表される組成を含むポリマーと一般式(5)で表される化合物の重量の和に対して、1〜400質量%の範囲で用いるのが好ましく、10〜100質量%の範囲で用いるのがより好ましい。
【0079】
本発明の固体電解質では、下記一般式(9)で表される、ゾル−ゲル反応において変化しない化合物を可塑剤として添加してもよい。このような可塑剤を添加することにより、膜に柔軟性を付与することができる。添加量は、一般式(4)で表される組成を含むポリマーと一般式(5)で表される化合物の重量の和に対して、1モル%〜50モル%であり、5モル%〜20モル%が好ましい。
【0080】
一般式(9)
【化22】

【0081】
一般式(9)中、A9はメソゲンを含む有機原子団であり、一般式(6)で表される化合物中のAと同義であり、そこに含まれるメソゲンは、本発明の固体電解質作成時に用いる一般式(6)で表される化合物中のメゾゲンと同一のものが特に好ましい。R91は置換基または水素原子を表し、総炭素数1〜20の置換基が好ましく、総炭素数1〜20の置換基がさらに好ましい。好ましい置換基の例としては、アルキル基、アリール基、複素環基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、フルオロ基、アルコキシカルボニル基、酸残基(例えば、水酸基、カルボキシル基、スルホ基、スルフィノ基、ホスホノ基)、ビニル基などが挙げられ、これらの中で特に水素原子、水酸基、酸残基、ビニル基が好ましい。n91は1〜6の整数を表し、1または2が特に好ましい。n92は0〜4の整数を表し、1または2が特に好ましい。B9は重合により炭素−炭素結合または炭素−酸素結合を形成しうる重合性基を表し、一般式(6)で表される有機ケイ素化合物中のBと同義であり、特に、本発明の固体電解質作成時に用いるメソゲン含有有機ケイ素化合物のBと同一のものが好ましい。n91またはn92が2以上の時、R91またはB9は同一でも異なってもよい。
【0082】
以下に、一般式(9)で表される化合物の具体例を挙げるがこれらに限定されるものではない。
【0083】
【化23】

【0084】
【化24】

【0085】
【化25】

【0086】
本発明の固体電解質には、(1)膜状とした場合の機械的強度を高める目的、および(2)固体電解質中の酸濃度を高める目的でさらに種々の高分子化合物を含有させてもよい。(1)機械的強度を高める目的には、分子量10,000〜1,000,000程度で本発明の固体電解質と相溶性のよい高分子化合物が適する。例えば、パーフッ素化ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルケトンおよびポリエーテルスルホン、ならびに、これらの共重合体が好ましく、含有量としては全体に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。(2)酸濃度を高める目的には、ナフィオンに代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱芳香族高分子のスルホン化物などのプトロン酸部位を有する高分子化合物などが好ましく、含有量としては全体の1〜30重量%範囲が好ましい。
【0087】
本発明の固体電解質を、多孔質基材の細孔に含浸させて膜を形成することが可能である。細孔を有する基材上に本発明のゾル−ゲル反応液を塗布含浸させるか、基材をゾル−ゲル反応液に浸漬し、細孔内に固体電解質を満たして膜を形成してもよい。細孔を有する基材の好ましい例としては、多孔性ポリプロピレン、多孔性ポリテトラフルオロエチレン、多孔性架橋型耐熱性ポリエチレン、多孔性ポリイミドなどが挙げられる。
【0088】
本発明の固体電解質を燃料電池に用いる場合、膜状の固体電解質にアノード燃料とカソード燃料の酸化還元反応を促進させる活性金属触媒を添加してもよい。これにより、固体電解質膜中に浸透した燃料が他方極に到達すること無く固体電解質膜中で消費され、クロスオーバーを防ぐことができる。用いられる活性金属種は、電極触媒として機能するものであれば制限は無いが、白金または白金を基にした合金が適している。
【0089】
本発明の固体電解質(特に、固体電解質膜)を用いた電極膜接合体および燃料電池について説明する。
【0090】
電池の発電部は電極膜接合体(以下「MEA」と呼ぶ)で構成される。MEAは固体電解質膜と、それを挟んで対向するカソード側電極およびアノード側電極を有する。
【0091】
カソード側電極とアノード側電極は、多孔質導電材料(例えばカーボンペーパー)と触媒層とを有する。触媒層は、白金粒子等の触媒金属を担持したカーボン粒子(例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等)を固体電解質材料(例えばナフィオン、本発明の固体電解質等)に分散させた分散物からなる。触媒層を固体電解質膜に密着させるために、多孔質導電材料に触媒層を塗設したものを固体電解質膜にホットプレス法(好ましくは100〜150℃、2〜100 kg/cm2)で圧着するか、適当な支持体に触媒層を塗設したものをプロトン伝導膜に転写しながら圧着した後、多孔質導電材料で挟み込む方法を一般に用いる。
【0092】
アノード電極およびカソード電極には、例えば、カーボン材料に白金などの活性金属粒子を担持した触媒を用いることができる。通常用いられる活性金属の粒子径は、好ましくは、2〜10nmの範囲である。粒子径を10nm以下とすると、単位質量当りの表面積が大きくなり、活性を高めることができる。一方、粒子径を、2nm以上とすることにより、凝集させずに分散させることが容易になる。
【0093】
水素−酸素系燃料電池における電極の活性向上を目的として、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cu、Pt−Feなどのさまざまな白金基二元金属を用いることができる。アノード燃料にメタノール水溶液を用いる直接メタノール燃料電池においては、電極活性向上のため、Pt−Ru、Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Moなどの白金基二元金属、Pt−Ru−Mo、Pt−Ru−W、Pt−Ru−Co、Pt−Ru−Fe、Pt−Ru−Ni、Pt−Ru−Cu、Pt−Ru−Sn、Pt−Ru−Auなどの白金基三元金属を用いることができる。
【0094】
活性金属を担持させるカーボン材料としては、アセチレンブラック、Vulcan XC−72、ケチェンブラック、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましく用いられる。
【0095】
電極の機能は、(1)燃料を活性金属に輸送すること(2)燃料の酸化(アノード極)、還元(カソード極)反応の場を提供すること、(3)酸化還元により生じた電子を集電体に伝達すること、(4)反応により生じたプロトンを固体電解質膜に輸送すること、である。 (1)のために電極には拡散層が必要であり、これは液体及び気体燃料が奥まで透過できる多孔質性であることが必要である。(2)は上記活性金属触媒が、(3)は上記カーボン材料が担う。(4)の機能を果たすために、触媒層に多孔質導電材料を混在させる。
【0096】
触媒層の多孔質導電材料は、本発明の固体電解質のほか、プロトン供与基を持った固体であれば制限はないが、多孔質導電材料に用いられる酸残基を有する高分子化合物(例えばナフィオンに代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸、側鎖リン酸基ポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱性芳香族高分子のスルホン化物など)、酸が固定された多孔質導電材料(例えば、特開平10−69817号公報、特開平11−203936号公報、特開2001−307752号公報、特許第3103888号公報等に記載の多孔質導電材料)などが好ましく用いられる。また、本発明の固体電解質を触媒層に用いることも可能である。この場合、固体電解質膜と同一のものを採用すると、固体電解質膜と触媒層との密着性が高まり有利である。
【0097】
活性金属の使用量は、0.03〜10mg/cm2の範囲が電池出力と経済性の観点から好ましい。活性金属を担持するカーボン材料の量は、活性金属の質量に対して、1〜10倍が好ましい。多孔質導電材料の量は、活性金属担持カーボンの質量に対して、0.1〜0.7倍が好ましい。
【0098】
上記電極の拡散層としては多孔質導電シートを用いることができ、これは電極基材、拡散層、あるいは裏打ち材とも呼ばれ、集電機能および水がたまりガスの拡散が悪化するのを防ぐ役割を担う。通常は、カーボンペーパーやカーボン布を使用する。また、撥水化のためにPTFE処理を施したものを使用することもできる。
【0099】
MEAの作製法として、さらに以下の手法があげられる。(1)固体電解質膜塗布法:活性金属担持カーボン、多孔質導電材料、溶媒を基本要素とする触媒ペースト(インク)をプロトン伝導膜の両側に直接塗布し、多孔質導電シートを(熱)圧着して5層構成のMEAを作製する。(2)多孔質導電シート塗布法:触媒ペーストを多孔質導電シート表面に塗布し、触媒層を形成させた後、固体電解質膜と圧着し、5層構成のMEAを作製する。(3)Decal法:触媒ペーストをPTFE上に塗布し、触媒層を形成させた後、固体電解質膜に触媒層のみを転写させ3層のMEAを形成させ、多孔質導電シートを圧着し、5層構成のMEAを作製する。(4)触媒後担持法:白金未担持カーボン材料をプロトン伝導材料とともに混合したインクを固体電解質膜、多孔質導電シートあるいはPTFE上に塗布・製膜した後、白金イオンを当該膜に含浸させ、白金粒子を膜中で還元析出させて触媒層を形成させる。触媒層を形成させた後は、上記(1)〜(3)の方法にてMEAを作製する。
【0100】
本発明の固体電解質膜を用いた燃料電池の燃料としては、アノード燃料としては、水素、アルコール類(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタンなど)、ギ酸、水素化ホウ素錯体、アスコルビン酸などが好ましい例として挙げられる。カソード燃料としては、酸素(大気中の酸素も含む)、過酸化水素などが挙げられる。
【0101】
直接メタノール型燃料電池では、アノード燃料として、メタノール濃度3〜100質量%のメタノール水溶液が使用される。アノード反応式(CH3OH+H2O→CO2+6H++6e)により、1モルのメタノールに対し、1モルの水が必要であり、この時のメタノール濃度は64質量%に相当する。メタノール濃度が高い程、同エネルギー容量での燃料タンクを含めた電池の質量および体積が小さくできる。一方、メタノール濃度が低い程、メタノールがプロトン伝導膜を透過しカソード側で酸素と反応し電圧を低下させる、いわゆるクロスオーバー現象を防ぐことができ、出力が低下を防止できる。すなわち、用いるプロトン伝導膜のメタノール透過性により、最適濃度が決められる。直接メタノール型燃料電池のカソード反応式は、(3/2O2+6H++6e→H2O)であり、燃料として酸素(例えば、空気中の酸素)が用いられる。
【0102】
上記、アノード燃料およびカソード燃料を、それぞれの触媒層に供給する方法には、例えば、(1)ポンプ等の補機を用いて強制循環させる方法(アクティブ型)と、(2)補機を用いない方法(例えば、液体の場合には毛管現象や自然落下により、気体の場合には大気に触媒層を晒し供給するパッシブ型)の2通りがあげられる。上記(1)は、カソード燃料で生成する水を循環させることにより、燃料として高濃度のメタノールが使用可能となり、空気供給による高出力化が可能である。しかし、燃料供給系を備える事により小型化がし難い場合がある。一方、上記(2)は、小型化が可能なであるが、燃料供給が律速となり易く高い出力が出にくい場合がある。従って、好ましくは、アノード燃料およびカソード燃料に対し、上記(1)および(2)の方法を組み合わせる方法を採用する。
【0103】
セルのスタッキング 燃料電池の単セル電圧は、一般的に1V以下であるので、負荷の必要電圧に合わせて単セルを直列スタッキングして用いるとよい。スタッキングの方法としては、例えば、(1)単セルを平面上に並べる「平面スタッキング」や(2)単セルを、両側に燃料流路の形成されたセパレーターを介して積み重ねる「バイポーラースタッキング」が用いられる。平面スタッキングは、カソード極(空気極)が表面に出るため、空気を取り入れ易く、薄型にできることから小型燃料電池に、より適している。この他、MEMS技術を応用し、シリコンウェハー上に微細加工を施し、スタッキングする方法も採用できる。
【0104】
燃料電池のアプリケーション 燃料電池は、自動車用、家庭用、携帯機器用、ポータブル機器用など様々な利用が考えられている。特に、直接メタノール型燃料電池は、小型化・軽量化が可能であること、充電が不要であることを活かした様々なエネルギー源としての利用が期待されている。例えば、携帯電話、モバイルノートパソコン、電子スチルカメラ、PDA、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、モバイルサーバー、ウエラブルパソコン、モバイルディスプレイ、ポータブル発電機、野外照明機器、懐中電灯、電動(アシスト)自転車などが挙げられる。また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。さらには、これらの機器に搭載された2次電池の充電用電源としても有用である。
【実施例】
【0105】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0106】
(1)S−25の合成
4、4'−ジヒドロキシナフタレン23.5gをジメチルアセトアミド9mlに溶解し、炭酸カリウム11.5gとヨウ化カリウム7.0gを加えたところに、8−クロロヘキサノール68.8gを添加した。反応液を110℃で9時間攪拌し室温に戻した後、反応液を水に注ぎ析出した結晶をろ過した。得られた粗結晶をアセトニトリルで再結晶し、15.3gの4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)−4'−ヒドロキシビフェニルを得た。
得られた4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)−4'−ヒドロキシビフェニル10gをジメチルアセトアミド50mlに溶解し、炭酸カリウム10.0gを添加し、50℃で攪拌しながら2−エチル−2−ヨードメチルオキセタン9.5gを滴下した。100℃で4時間反応を行った後、反応混合物を水に注ぎ、得られた粗結晶をアセトニトリルで再結晶し、4.0gの4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)−4'−(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシビフェニルを得た。
【0107】
4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)−4'−(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシビフェニル3.6gを脱水テトラヒドロフランに溶解し、60℃に加温し攪拌しながら水素化ナトリウム(60%in oil)0.55gを少しずつ添加すると発泡した。発泡が収まった後、ヨウ化アリル2.5gを滴下した。反応混合物を60℃で3時間攪拌した後、水に注ぎ、酢酸エチルで抽出し、濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、4−(6−(アリルオキシ)ヘキシルオキシ)−4'−(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシビフェニル3.8gを得た。
4−(6−(アリルオキシ)ヘキシルオキシ)−4'−(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシビフェニル1.5gとトリエトキシシラン2.5gをトルエン10 mlに溶解し、80℃、窒素気流中で塩化白金酸10mgをベンゾニトリル0.5mlに溶解した溶液を滴下した。反応液を80℃で1時間反応させた後、反応混合物を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、0.73gのS−25を得た。
【0108】
(2)P−1の合成
3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート5.0g、メチルメタクリレート11.4g、2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)220mgをN,N−ジメチルホルムアミド38mlに溶解し、窒素気流下80℃で8時間攪拌した。室温まで冷却後、メタノール400mlを加え、生成した沈殿を濾取し、メタノールで洗浄した。得られたポリマーを乾燥後、キシレン25ml、2−プロパノール100mlを加え、加熱攪拌し溶液を得た。これを熱時ろ過し、母液にメタノール600mlを加えた。生成した沈殿を濾取し、減圧下乾燥することで上記例示化合物(P−1)10.5g(以下、単にP−1と示す、他の例示化合物についても同じ)を得た。数平均分子量(GPC)は45000であった。
【0109】
(3)P−2の合成
上記においてメチルメタクリレートの添加量を6.0gとした他は同様にしてP−2(6.5g)を得た。数平均分子量(GPC)は63000であった。
【0110】
(4)固体電解質膜(E−1)の作製
T−4(0.190g)、S−25(0.316g)、P−1(0.015g)をキシレン(0.44ml)/イソプロパノール(1.1ml)に溶解し、さらに、30%過酸化水素水(0.437ml)を添加した。65℃で5時間加熱攪拌した後、この処理液をミクロフィルター(FLSP20 1.3CMD、富士写真フイルム(株)製)にて濾過し、塗布液を調製した。その800μLを、ポリイミド膜(ユーピレックス#75S、宇部興産(株)製)上に180μm厚のテプロンテープで作製した3cm×3cmの正方形の枠内に隙間を調整した蓋を施し、放置した。23時間後、ポリイミド膜から膜状に固化した塗布物を剥離し、イオン交換水にて洗浄、乾燥して、透明、微褐色で厚さ133μmの膜を得た。
【0111】
(5) 固体電解質膜(E−2)の作製
P−1をP−2とした他はE−1と同様に作成した。透明、微褐色で厚さ127μmの膜を得た。
【0112】
(6) 固体電解質膜(E−3)の作製
P−1の添加量を0.03gとした他はE−1と同様に作成した。透明、微褐色で厚さ137μmの膜を得た。
【0113】
(7)固体電解質膜(R−1)の作製
P−1を使用しなかった他はE−1と同様に作成した。透明、微褐色で厚さ131μmの膜を得た。
(8)固体電解質膜(R−2)の作製
P−1の代わりにポリメチルメタクリレート(シグマアルドリッチジャパン(株)) 0.015gを使用した他はE−1と同様に作成した。透明、微褐色で厚さ137μmの膜を得た。
【0114】
(9)固体電解質膜(R−3)の作製
トリエトキシビニルシラン35.0g、過酸化ジ−tert−ブチル1mlを加え、窒素気流下140℃で2時間攪拌した。反応終了後、未反応の原料を減圧下留去し、ポリトリエトキシビニルシラン33.5gを得た。上記P−1のかわりにポリトリエトキシビニルシラン0.015gを使用した他はE−1と同様に作成した。透明、微褐色で厚さ128μmの膜を得た。
【0115】
[試験結果]
上記で得られた本発明の固体電解質膜(E−1)〜(E−3)と比較サンプル(R−1〜3)のプロトン伝導度試験結果、膜強度試験結果、および、メタノール透過性試験結果を表1に示す。イオン伝導度は固体電解質膜を直径5mmの円形に打ち抜き、2枚のステンレス板に挟み、交流インピーダンス法により、25℃、相対湿度95%におけるイオン伝導度を測定した。膜強度試験は上記ステンレス板に挟んだサンプルに過重をかけ、クラックが入った圧力を記録した。メタノール透過性は30%メタノール水溶液で満たしたチャンバーと密閉したチャンバーでサンプルをはさみ、密閉したチャンバーに透過したメタノールをガスクロマトグラフィーにて定量した。表にはナフィオン117(デュポン(株))の値を100%とした相対値を示した。
【0116】
【表1】

【0117】
本発明の電解質はプロトン伝導度、強度試験、メタノール透過性のいずれの性能も良好であることが分かる。これに対し、比較例では、前記のうちいずれかが劣っていた。
【0118】
[膜電極複合体の作製]
白金担持カーボン(VulcanXC72に白金50質量%が担持)2gとナフィオン溶液(5%アルコール水溶液)15gを混合し、超音波分散器で30分間分散させた。分散物の平均粒子サイズは約500nmであった。得られた分散物をカーボンペーパー(厚さ350μm)上に塗設し、乾燥した後、直径9mmの円形に打ち抜き、触媒電極を作製した。
固体電解質膜(E−1〜3、R−1〜3)およびナフィオン117の両面に上記で得られた触媒電極を塗布面が固体電解質膜に接するように張り合わせ、125℃、3MPa、3分間で熱圧着した。固体電解質膜(E−1〜3、R−3、ナフィオン117)では触媒電極前面が密着し、欠陥のない膜電極複合体が得られたが、固体電解質膜R−1、R−2では膜に亀裂が生じた。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明で得られる一例の個体電解質の概念図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される組成を含むポリマーから構成される部分構造および下記一般式(2)で表される部分構造を含み、かつ、前記一般式(1)で表される組成を含むポリマーから構成される部分構造と、前記一般式(2)で表される部分構造の重量比は、1/1000〜10/1である固体電解質。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、R11およびR15は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、R12は単結合または2価の連結基を表し、*はケイ素原子に結合する位置を表し、n11は1〜3の整数を表し、R13はアルキル基またはアリール基を表し、R14はπ電子を持つ置換基を表し、n12およびn13はそれぞれ1〜100000の整数を表し、n12とn13の比は1/1000〜10/1である。)
一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、R21はアルキル基またはアリール基を表し、R22は(n21+n23)価の連結基を表し、R23は酸残基を表し、*はケイ素原子に結合する位置を表し、n21は1〜3の整数を表し、n22は1〜3の整数を表し、n23は1または2を表す。)
【請求項2】
さらに、下記一般式(3)で表される部分構造を含む請求項1に記載の固体電解質。
一般式(3)
【化3】

(一般式(3)中、Aはメソゲンを含む有機原子団であり、R31はアルキル基またはアリール基を表し、*はケイ素原子に結合する位置を表し、**は炭素−炭素結合または炭素−酸素結合を主鎖に持つ高分子に結合する位置を表し、n31は1〜4の整数を表し、n32は1〜3の整数を表し、n33は0〜4の整数を表す。)
【請求項3】
下記一般式(4)で表される組成を含むポリマーおよび一般式(5)で表される化合物を用いる、請求項1または2に記載の固体電解質の製造方法。
一般式(4)
【化4】

(一般式(4)中、R11およびR15は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、R12は単結合または2価の連結基を表し、n11は1〜3の整数を表し、R13はアルキル基またはアリール基を表し、R14はπ電子を持つ置換基を表し、R16は水素原子、アルキル基、アリール基またはシリル基を表す。n12およびn13はそれぞれ1〜100000の整数を表し、n12とn13の比は1/1000〜10/1である。)
一般式(5)
【化5】

(一般式(5)中、R21はアルキル基またはアリール基を表し、R22は(n21+n23)価の連結基を表し、R24は水素原子、アルキル基、アリール基またはシリル基を表し、R25は酸残基に誘導できる置換基を表す。n21は1〜3の整数を表し、n22は1〜3の整数を表し、n23は1または2を表す。)
【請求項4】
下記一般式(6)で表される化合物を用いる、請求項3に記載の固体電解質の製造方法。
一般式(6)
【化6】

(一般式(6)中、Aはメソゲンを含む有機原子団であり、R31はアルキル基またはアリール基を表し、R32は水素原子、アルキル基、アリール基またはシリル基を表す。n31は1〜4の整数を表し、n32は1〜3の整数を表し、n33は0〜4の整数を表す。Bは重合により炭素−炭素結合または炭素−酸素結合を形成しうる置換基を表す。)
【請求項5】
膜状である、請求項1または2に記載の固体電解質。
【請求項6】
請求項1、2および5のいずれかに記載の固体電解質を有する電極膜接合体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−104232(P2006−104232A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289017(P2004−289017)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】