説明

固体電解質フィルムの製造方法

【課題】乾燥を効率的かつ効果的に行うことにより固体電解質フィルムの生産性を向上する。
【解決手段】ドープ24をドラム96に流延して流延膜61を形成する。ドラム96により流延膜61を冷却し、ゲル化して固化する。固化した流延膜61を湿潤前駆体フィルム67としてドラム96から剥がす。この後、湿潤前駆体フィルム67を第1テンタ82で乾燥して、液接触装置83に送る。液接触装置83では、接触液106に湿潤前駆体フィルム67を入れて、湿潤前駆体フィルム67に含まれる溶媒を接触液106に置き換える。この湿潤前駆体フィルム67を乾燥工程で乾燥し、固体電解質フィルム78を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質フィルムの製造方法に関するものであり、特に、プロトン伝導性をもつ固体電解質フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境汚染やエネルギー問題を改善することができる次世代発電手段として、燃料電池が注目されている。燃料電池は積層された複数の燃料電池セルを有し、これらの燃料電池セルは、電気的に直列に接続されている。この燃料電池セルは、電極膜複合体(MEA)とも称され、外部回路で接続されるアノード電極及びカソード電極と、これらの電極に挟まれた固体電解質フィルムとを備える。燃料電池セルが起電力を発生する代表的なプロセスは、次のとおりである。まず、水素原子含有物質がカソード電極に供給されると、水素原子はカソード電極内でプロトンとなり、その際に生じた電子が外部回路へ案内される。プロトンは、固体電解質フィルムを通過してアノード電極で酸素と結合し外部へ排出される。このようにして、燃料電池セルの2つの電極間に起電力を発生することができる。このように、発生したプロトンを伝導する固体電解質はプロトン伝導材料と言われる。
【0003】
プロトン伝導材料としては有機ポリマーが多く提案されている。これは、有機ポリマーは無機材料よりも、高いプロトン伝導性を示す温度、つまり作動温度が低いとともにその領域(作動温度領域)が広いこと、軽量であること等の特徴をもつためであり、このような特徴から、家庭用や車載用途の燃料電池への利用が期待される。
【0004】
そこで、プロトン伝導度が高い有機高分子型フィルムの製造方法として、スルホン酸基を有するポリマーを含むドープからフィルムを形成する方法(例えば、特許文献1参照)やポリマーを含むドープからフィルムを形成した後、これを酸処理してスルホン化する方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【0005】
ところで、ポリマーをフィルムの形態にする方法としては、周知のように溶融製膜方法と溶液製膜方法とがある。前者は、溶媒を使わずにフィルムを製造することができるが、加熱によるポリマーの変性や、原料ポリマー中の不純物がそのままフィルム中に残るという問題がある。一方、後者は、溶液(ドープ)の製造設備及び溶媒回収設備等の設備が必要とはなるが、加熱処理の温度を溶融製膜よりも非常に低くすることができるためにポリマーの変性を防ぐことができ、また、ドープの製造工程でポリマー中の不純物を除去することができるという利点がある。さらに、後者では、前者によるよりも平面性及び平滑性に優れたフィルムを製造することができるという利点もある。
【0006】
溶液製膜方法は、周知のように、原料となるポリマーとこのポリマーを溶解する溶剤とを含むドープを支持体上に流延して流延膜を形成した後、溶媒を含んだ湿潤フィルムとして流延膜を支持体から剥ぎ取り、更に、乾燥手段により乾燥させてフィルムとする方法である。しかしながら、固体電解質として有望なポリマーのほとんどは、その剛直な化学構造のために沸点が高い化合物にしか溶解しない。これにより、流延膜や湿潤フィルムを完全に乾燥させるには20時間以上といった長い時間を要することになり、固体電解質フィルムのトータルの製造時間は非常に長いものとなる。さらに、このような乾燥時間の長さは、連続したラインで製造することに対しては種々の問題を招く原因となる。例えば、搬送路の長さを非常に長くしなければならない等の設備上の問題や、ライン中で何か問題が生じた場合の原因究明やその対処が迅速に行われない、フィルム製造ラインが長くなる分だけフィルム中に異物が混入する確率が高くなる等の問題が生じることになる。
【0007】
乾燥時間を短くする方法としては、流延膜や湿潤フィルムをより高温にして乾燥する、流延膜や湿潤フィルムの周辺に高温の気体を流動させる等の方法があるが、これらの方法だけでは、湿潤フィルムに乾燥ムラが生じてしまい、得られる固体電解質フィルムは性状や外観が不均一なものとなってしまうことが多い。このような不均一な性状及び外観の代表的な例としては、局所的な孔、いわゆるピンホールの発生がある。
【0008】
乾燥の困難性が有る中で、プロトン伝導度が高い有機高分子型フィルムとして、溶液製膜方法により所定のポリアリーレンを含むドープから形成されるものが提案されている(例えば、特許文献3,4参照)。特許文献3の提案では、フィルム形状にした固体電解質を乾燥して有機溶媒を除去した後、水により分子量が1000未満の水溶性化合物や無機物を抽出除去しており、また特許文献5では、固体電解質の原料について再結晶を実施することにより不純物を取り除いている。
【0009】
【特許文献1】特開2005−268144号公報
【特許文献2】特開2005−268145号公報
【特許文献3】特開2005−146018号公報
【特許文献4】特開2005−239833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1〜4はいずれも少規模スケールでの製造方法であり、大量生産を意識した方法とはされていない。例えば、特許文献3の方法では、プラスチックフィルム上にキャストするが、これにより大量生産を実施するとなると、プラスチックフィルムの搬送速度を上げる必要がある。しかし、溶媒を多量に含む流延膜には搬送用あるいは支持用のローラ等を接触させることは好ましくないために、プラスチックフィルム上で乾燥させなければならず、搬送速度を上げるほどプラスチックフィルムの長さを長くする必要がある。したがって、特許文献3の方法では、設備上の限界もしくは生産速度に限界があるといえる。また、プラスチックフィルムを支持体として用いた場合には、プラスチックフィルムが劣化していくために、廃棄処分されてしまい、廃棄物減少という環境保全のためにも好ましくはない。そして、上記のいずれの方法でも乾燥効率が悪く、乾燥工程に時間が大きくかかってしまうことについては解決されておらず、また、溶媒の完全除去も達成されていない。
【0011】
本発明は、上記問題を解決することを目的とし、固体電解質フィルムの製造工程における乾燥時間を短くして、プロトン伝導度が高い固体電解質フィルムを大量に生産することができる固体電解質フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の固体電解質フィルムの製造方法は、溶剤と固体電解質でありスルホン酸基を有するポリマーと前記溶剤中で多価の陽イオンを生じる塩とを含むドープを支持体の上に流延して流延膜を形成する工程と、前記流延膜を冷却する工程と、前記流延膜を前記支持体から剥がして乾燥する工程と、を有することを特徴として構成されている。
【0013】
そして、上記製造方法では、前記ポリマーはスルホン酸基を有し、前記溶剤中で多価の陽イオンを生じる塩がドープに含まれることが好ましく、陽イオンは、Mg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,Al2+の少なくともいずれかひとつであることが好ましい。また、前記流延膜には水を含ませることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、固体電解質フィルムの製造工程における乾燥時間を短くして、プロトン伝導度が高い固体電解質フィルムを大量に生産することができる。得られる固体電解質フィルムを用いた電極膜複合体は燃料電池の構成部材として用いると良好な起電力を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。固体電解質フィルムは、溶液製膜方法によりつくる。流延するドープは、固体電解質であるポリマーとこの固体電解質を溶解するための溶媒とを含む混合物であり、添加剤がさらに混合されていてもよい。
【0016】
<固体電解質>
固体電解質としては、プロトン供与基をもつポリマーまたはプロトン受容基をもつポリマーを用いることができる。プロトン供与基をもつポリマーは、特に限定されないが、酸残基をもち、プロトン伝導材料として公知であるものを用いることができる。中でも好ましいポリマーは、酸残基をもつものであり、例えば、側鎖にスルホン酸基を有する付加重合高分子化合物、ポリエーテルエーテルケトンをスルホン化したスルホ化ポリエーテルエーテルケトン、スルホ化ポリベンズイミダゾール、ポリスルホンをスルホン化したスルホ化ポリスルホン、耐熱性芳香族高分子化合物のスルホ化物などが挙げられる。側鎖にスルホン酸基を有する付加重合高分子化合物としては、ナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸や、スルホ化スチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルブタジエンスチレンなどがあり、耐熱性芳香族高分子のスルホ化物としてはスルホ化ポリイミド等がある。
【0017】
パーフルオロスルホン酸の好ましい例としては、例えば特開平4−366137号公報、特開平6−231779号公報、特開平6−342665号公報に記載される物質が挙げられ、中でも、化1に示す物質が特に好ましい。ただし、化1において、mは100〜10000であり、200〜5000が好ましく、500〜2000がより好ましい。そして、nは0.5〜100であり、5〜13.5が特に好ましい。また、xはmと略同等であり、yはnと略同等である。
【0018】
【化1】

【0019】
スルホ化スチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルブタジエンスチレンの好ましい例としては、特開平5−174856号公報、特開平6−111834号公報に記載される化合物や化2に示される物質が挙げられる。
【0020】
【化2】

【0021】
耐熱性芳香族高分子のスルホ化物の例としては、例えば、特開平6−49302号公報、特開2004−10677号公報、特開2004−345997号公報、特開2005−15541号公報、特開2002−110174号公報、特開2003−100317号公報、特開2003−55457号公報、特開平9345818号公報、特開2003−257451号公報、特表2000−510511号公報、特開2002−105200号公報に記載される物質が挙げられ、中でも、以下の化3〜化5に示される物質が特に好ましいものとして挙げられる。化5は、式(I)〜(II)で示される各構造単位からなる共重合体である。式(I)中のXはカチオン種を表す。
【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
上記ポリマー重量のうち、スルホン酸基が占める割合は、フィルムの吸湿膨張率とプロトン伝導度に寄与する。ポリマー重量のうち、スルホン酸基が占める割合が小さくなると、スルホン酸基が少なすぎて、プロトン伝導路、いわゆるプロトンチャンネルを十分に形成することができないことがある。そのため、得られるフィルムは実用に十分なプロトン伝導性を発現しないことがある。一方、ポリマー重量のうち、スルホン酸基が占める割合が大きくなると、フィルムの水分吸収性が高くなってしまうため、吸水による膨張率、つまり吸水膨張率が大きくなり、フィルムが劣化しやすくなる。
【0026】
なお、化5の一般式で表されるポリマーは、XがH以外のカチオン種であってもプロトン伝導性を示す。したがって、H以外のカチオン種をXとするポリマーから固体電解質フィルムを製造してもよく、本発明における固体電解質とは、化5のXがHであるポリマーとH以外のカチオン種であるポリマーとを含む。しかし、HとH以外のカチオン種との両方を含む場合には、プロトン伝導性は、Hである割合が大きいほど高くなる。その意味では、Xはカチオン種の中でもHであることが特に好ましい。カチオン種とは、電離したときにカチオンを生成する原子または原子団を意味する。このカチオン種は1価である必要はない。プロトン以外のカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオンが好ましく、カルシウムイオン、バリウムイオン、四級アンモニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンがより好ましい。
【0027】
側鎖がスルホン酸基である化合物を得る過程でのスルホン化反応は、公知文献の各種合成法に従って行うことができる。スルホン化剤としては、硫酸(濃硫酸)、発煙硫酸、ガス状あるいは液状物の三酸化硫黄、三酸化硫黄錯体、アミド硫酸、クロロスルホン酸等を用いることができる。溶媒としては、炭化水素(ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジオキセタン等)、ハロゲン化アルキル(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等)等を用いることができる。反応温度は、−20℃〜200℃の範囲でスルホン化剤の活性に応じて決定するとよい。また、別の方法として、モノマーにメルカプト基、ジスルフィド基、スルフィン酸基を予め導入しておいて、酸化剤による酸化反応によってスルホン化物を合成することもできる。このときには、酸化剤として、過酸化水素、硝酸、臭素水、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、過マンガン酸カリウム、クロム酸等を用いることができ、溶媒としては、水、酢酸、プロピオン酸等を用いることができる。この方法における反応温度は、室温(例えば、25℃)〜200℃の範囲で酸化剤の活性に応じて決定するとよい。また、さらに別の方法として、モノマーにハロゲノアルキル基を予め導入しておいて、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩等による置換反応をしてスルホン化物を合成してもよい。このときには溶媒として、水、アルコール類、アミド類、スルホキシド類、スルホン類等を用いることができる。反応温度は、室温(例えば、25℃)〜200℃の範囲で決定するとよい。なお、以上のスルホン化反応における溶媒は、2種以上の物質を混合した混合物であってもよい。
【0028】
また、スルホン化物への反応工程では、アルキルスルホン化剤を用いてもよく、一般的な方法としてはスルホンとAlClを用いたフリーデルクラフツ反応がある(Journal of Applied Polymer Science,Vol.36,1753−1767,1988)。フリーデルクラフツ反応を行うためにアルキルスルホン化剤を用いた場合は、溶媒として炭化水素(ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、アセトフェノン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン等)、ハロゲン化アルキル(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン等、)等を用いることができる。反応温度は、室温から200℃の範囲で決定するとよい。なお、反応における溶媒は、2種以上の物質を混合した混合物であってもよい。
【0029】
固体電解質としては、以下の諸性能をもつものが好ましい。プロトン伝導度は、例えば25℃、相対湿度70%において、0.005S/cm以上であることが好ましく、0.01S/cm以上であるものがより好ましい。さらに、50%メタノール水溶液に18℃で一日浸漬した後のプロトン伝導度が0.003S/cm以上であることが好ましく、0.008S/cm以上であるものがより好ましく、特に、浸漬前に対する浸漬後のプロトン伝導度の低下率が20%以内であるものが好ましい。そして、メタノール拡散係数が4×10−7cm/s以下であることが好ましく、2×10−7cm/s以下であるものが特に好ましい。
【0030】
強度については、弾性率が10MPa以上であるものが好ましく、20MPa以上であるものが特に好ましい。なお、弾性率の測定方法については、特開2005−104148号公報の段落[0138]に詳細に記されており、弾性率の上記値は、東洋ボールドウィン社製の引っ張り試験機による値である。したがって、他の試験方法や試験機を用いて弾性率を求める場合には、上記試験方法や試験機による値との相関性を予め求めておくとよい。
【0031】
耐久性については、50%メタノール中に一定温度で浸漬する経時試験の前後で、重量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が、それぞれ20%以下であるものが好ましく、15%以下であるものが特に好ましい。さらに過酸化水素中における経時試験の前後でも、同様に重量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が20%以下であるものが好ましく、10%以下であるものが特に好ましい。また50%メタノール中、一定温度での体積膨潤率が10%以下であるものことが好ましく、5%以下であるものが特に好ましい。
【0032】
固体電解質フィルムのプロトン伝導性能は、プロトン伝導度とメタノール透過係数との比である指数により表される。そして、ある方向における指数が大きいほど、その方向におけるプロトン伝導性能が高いといえる。また、固体電解質フィルムの厚み方向においては、プロトン伝導度は厚みに比例し、メタノール透過係数は厚みに反比例するので、厚みを変えることにより固体電解質フィルムのプロトン伝導性能を制御することができる。燃料電池に用いる固体電解質フィルムでは、一方の面側にアノード電極、他方の面側にカソード電極が設けられることになるので、固体電解質フィルムの厚み方向における指数が他の方向における指数よりも大きいことが好ましい。固体電解質フィルムの厚みは10〜300μmが好ましい。例えば、プロトン伝導度とメタノール拡散係数とが共に高い固体電解質の場合には、厚みが50〜200μmとなるようにフィルムを製造することが特に好ましく、プロトン伝導度とメタノール拡散係数とが共に低い固体電解質の場合には、厚みが20〜100μmとなるようにフィルムを製造することが特に好ましい。
【0033】
耐熱温度については、200℃以上であるものが好ましく、250℃以上のものがさらに好ましく、300℃以上のものが特に好ましい。ここでの耐熱温度は、1℃/分の速度で加熱していったときの重量減少5%に達した温度を意味する。なお、この重量減少は、水分等の蒸発分を除いて計算される。
【0034】
さらに、固体電解質をフィルムとしてこれを燃料電池に用いる場合には、その最大出力密度が10mW/cm以上である固体電解質であることが好ましい。
【0035】
以上の固体電解質を用いることにより、フィルムの製造に好適な溶液を製造することができるとともに、燃料電池として好適な固体電解質フィルムを製造することができる。フィルムの製造に好適な溶液とは、例えば、粘度が比較的低く、ろ過により異物を予め除去しやすい溶液である。なお、得られる溶液を、以下の説明ではドープと称することとする。
【0036】
<溶媒>
ドープの溶媒には、固体電解質としてのポリマーを溶解させることができる有機化合物が用いられる。例としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)、及び窒素を含有する化合物(N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)など)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0037】
ドープの溶媒は、複数の物質を混合した混合物であってもよい。溶媒を混合物とする場合には、固体電解質の良溶媒である化合物と貧溶媒である化合物との混合物とすることが好ましい。ある液体化合物が固体電解質または前駆体の良溶媒であるか貧溶媒であるかは、固体電解質が全重量の5重量%となるように溶剤と固体電解質とを混合して、不溶解物の有無により判断することができる。固体電解質の良溶媒、つまり固体電解質を溶解する物質は、溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的高い方であり、一方、貧溶媒は溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的低い方である。したがって、貧溶媒である化合物を良溶媒である化合物に混合することにより、フィルム製造工程における溶媒除去の効率及び効果を高めることができ、特に、流延膜の乾燥効率を高めることができる。
【0038】
良溶媒である化合物、つまり良溶媒成分としてはDMF、DMAc、DMSO、NMPが好ましく、中でも、安全性や沸点が比較的低いという点からDMSOが特に好ましい。貧溶媒である化合物、つまり貧溶媒成分としては、炭素数が1以上5以下であるいわゆる低級アルコール、酢酸メチル、アセトンが好ましく、中でも炭素数が1以上3以下の低級アルコールがより好ましく、良溶媒としてDMSOを用いた場合にはこれとの相溶性が最も優れる点からメチルアルコールが特に好ましい。
【0039】
<塩>
固体電解質としてのポリマーが、側鎖にスルホン酸基を有する場合には、ドープに用いられる溶媒と混ぜたときに多価の陽イオンを生じる塩を、ドープ中に含ませることが好ましい。多価の陽イオンを生じる塩がドープ中に含まれることにより、後述の流延膜冷却工程において、スルホン酸基と塩から生じる陽イオンとの間でのクーロン力が生じる。これにより、ポリマー分子同士を、陽イオンを介して架橋させることができる。例えば、2価の陽イオンをM2+として表すときに、「−SO・・・M2+・・・SO−」というようにM2+が−SO同士の橋渡しの役割を果たす。この結果、流延膜の貯蔵弾性率が上昇するので、流延膜の強度が上がり、流延膜の支持体からの剥ぎ取りのタイミングを早めるとともに、剥ぎ取った後の自己支持性をより高めることができる。多価の陽イオンとしてはMg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,Al2+が好ましい。
【0040】
ドープにはさらに、(1)フィルムの機械的強度を高める目的、(2)膜中の酸濃度を高める目的で、種々のポリマーを含有させてもよい。
【0041】
上記(1),(2)の目的のうち(1)には、分子量が10000〜1000000程度であり、固体電解質と相溶性のよいポリマーが適する。例えば、パーフッ素化ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、およびこれらのうち2以上のポリマーの繰り返し単位を含むポリマーが好ましい。また、フィルムとしたときの全重量に対し1〜30重量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。なお、相溶剤を用いることにより固体電解質との相溶性を向上させてもよい。相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上であるものが好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
【0042】
上記(1),(2)の目的のうち(2)には、プロトン酸部位を有するポリマー等が好ましい。このようなポリマーとしては、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するスルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱芳香族高分子化合物のスルホン化物等を例示することができる。また、フィルムとしたときの全重量に対し1〜30重量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。
【0043】
さらに、得られる固体電解質フィルムを燃料電池に用いる場合には、アノード燃料とカソード燃料との酸化還元反応を促進させる活性金属触媒をドープに添加してもよい。これにより、固体電解質フィルムの中に一方の極から浸透した燃料が他方の極に到達することなく固体電解質中で消費されるので、クロスオーバー現象を防止することができる。活性金属触媒は、電極触媒として機能するものであれば特に限定されないが、白金または白金を基にした合金が特に適している。
【0044】
図1を参照しながらドープの製造方法につき説明する。ドープ製造設備10は、溶媒11aを貯留するためのタンク11と、前駆体12aを供給するためのホッパ12と、多価の陽イオンを生じる塩を、ドープの溶媒の成分と同じ液体に溶かして貯留するためのタンク15と、溶媒11aと前駆体12aと添加剤とを混合して混合液16とするタンク17と、混合液16を加熱するための加熱装置18と、加熱された混合液16の温度を調整するための温度調整器21と、温度調整器21を出た混合液16をろ過してドープ24とする第1ろ過装置22と、ドープ24の濃度を調整するためのフラッシュ装置26と、濃度調整されたドープ24をろ過するための第2ろ過装置27とを備える。更に、ドープ製造設備10には、フラッシュ装置26内で揮発する溶媒を回収するための回収装置28と、回収された溶媒を再生するための再生装置29とが備えられている。また、ドープ製造設備10は、ストックタンク32を介してフィルム製造設備33に接続されている。なお、送液量を調節するためのバルブ36〜38と、送液用のポンプ41,42とがドープ製造設備10には設けられているが、これらが配される位置及び数の増減については適宜変更される。
【0045】
バルブ37を開として、溶媒11aを溶媒タンク11からタンク17へ送る。前駆体12aをホッパ12から入れてタンク17へ送る。このとき、前駆体12aは、計量と送出とを連続的に行う送出手段によりタンク17へ連続的に送りこまれてもよいし、計量して所定量を送出するような送出手段によりタンク17へ断続的に送り込まれてもよい。また、溶媒11a中で陽イオンを生じる塩は液体、好ましくは溶媒タンク11中の溶媒11aの少なくとも一成分に溶解した状態で、バルブ36を開にすることにより必要量がタンク15からタンク17へ送り込まれる。
【0046】
溶媒11aと前駆体12aと塩とのタンク17へ入れる順番は特に限定されない。また、塩は必ずしもタンク17で前駆体12a及び溶媒11aと混合されなくてもよく、例えば、後の工程で前駆体12aと溶媒11aとの混合物にインライン混合方式等で混合されてもよい。
【0047】
タンク17には、その外表を包み込み、タンク17との間に伝熱媒体が供給されるジャケット46と、モータ47により回転する第1攪拌機48と、モータ51により回転する第2攪拌機52とを備えている。タンク17は、ジャケット46の内側に伝熱媒体を供給し、これを循環させることにより、その内部の温度が調整される。タンク17の内部温度は、−10℃〜55℃の範囲であることが好ましい。第1攪拌機48,第2攪拌機52のタイプを適宜選択して使用することにより、前駆体12aが溶媒11aにより膨潤した混合液16を得る。なお、第1攪拌機48は、アンカー翼を有するものであることが好ましく、第2攪拌機52は、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。
【0048】
次に、混合液16は、ポンプ41により加熱装置18に送られる。加熱装置18は、管本体(図示しない)とこの管本体との間に伝熱媒体を通すためのジャケット(図示しない)とを有するジャケット付き管であることが好ましく、さらに、混合液16を加圧する加圧部(図示しない)を有することが好ましい。このような加熱装置18を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で混合液16中の固形分を効果的かつ効率的に溶解させることができる。以下、このように加熱により固形成分を溶媒11aに溶解する方法を加熱溶解法と称する。加熱溶解法においては、混合液16を60℃〜250℃となるように加熱することが好ましい。
【0049】
なお、加熱溶解法に代えて冷却溶解法により固形成分を溶媒11aに溶解させてもよい。冷却溶解法とは、混合液16を温度保持した状態またはさらに低温となるように冷却しながら溶解を進める方法である。冷却溶解法では、混合液16を−100℃〜−10℃の温度に冷却することが好ましい。以上のような加熱溶解法または冷却溶解法により前駆体12aを溶媒11aに十分溶解させることが可能となる。
【0050】
混合液16を温度調整器21により略室温とした後に、第1ろ過装置22によりろ過して不純物や凝集物等の異物を取り除きドープ24とする。第1ろ過装置22に使用されるフィルタは、その平均孔径が10μm以下であることが好ましい。
【0051】
ろ過後のドープ24は、バルブ38を開にすることによりストックタンク32に送られて一旦貯留された後、フィルムの製造に用いられる。
【0052】
ところで、上記のように、固形成分を一旦膨潤させてから、溶解して溶液とする方法は、前駆体12aの溶液における濃度を上昇させる場合ほど、ドープ製造に要する時間が長くなり、製造効率の点で問題となる場合がある。そのような場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを一旦つくり、その後に目的の濃度とする濃縮工程を実施することが好ましい。例えば、バルブ38により、第1ろ過装置22でろ過されたドープ24をフラッシュ装置26に送り、このフラッシュ装置26でドープ24の溶媒11aの一部を蒸発させることによりドープ24を濃縮することができる。濃縮されたドープ24はポンプ42によりフラッシュ装置26から抜き出されて第2ろ過装置27へ送られる。ろ過の際のドープ24の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。第2ろ過装置27で異物を除去されたドープ24は、ストックタンク32へ送られ一旦貯留されてからフィルム製造に用いられる。なお、濃縮されたドープ24には気泡が含まれていることがあるので、第2ろ過装置27に送る前に予め泡抜き処理を実施することが好ましい。泡抜き方法としては、例えばドープ24に超音波を照射する超音波照射法等の、公知の種々の方法が適用される。
【0053】
また、フラッシュ装置26でのフラッシュ蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示せず)を備える回収装置28により凝縮されて液体となり回収される。回収された溶媒は、再生装置29によりドープ製造用の溶媒として再生されて再利用される。このような回収及び再生利用により、製造コストの点での利点がある。また、ドープ24の製造工程は閉鎖系で実施されており、このため、人体及び環境への悪影響を防ぐ効果がある。
【0054】
また、ドープ24中に粗大な微粒子や異物等の不純物が含まれていると、このドープ24を用いて固体電解質フィルムとした場合、固体電解質フィルムのプロトン伝導度が低下したり、固体電解質フィルム自体が劣化したりするおそれがある。そのため、ドープ24を製造する途中の段階で、少なくとも1回以上はろ過装置を用いてドープ24をろ過することが好ましい。なお、ドープ製造設備10内でのろ過装置の設置個数や設置箇所及びドープをろ過する回数は特に限定されるものではなく、必要に応じて決定すれば良い。ろ過すするためのフィルタの孔径は10μm以下であることが好ましい。
【0055】
以上の製造方法により、前駆体12aの濃度が、全重量に対し5重量%以上50重量%以下であるドープ24を製造することができる。ドープ24の前駆体12aの濃度を全重量に対し10重量%以上40重量%以下の範囲とすることがより好ましい。また、添加剤の濃度をドープ中の固形分全体を100重量%とすると1重量%以上30重量%以下の範囲とすることが好ましい。また、多価の陽イオンをドープ中に含ませる場合には、塩の添加量はスルホン酸基の量に応じて決定することが好ましく、固体電解質であるポリマーの重量に対しての重量に対して0.01重量%以上20重量%以下の範囲とすることが好ましい。すなわち、スルホン酸基の量が多いほど塩の添加量を多くし、スルホン酸基の量が少ないほど塩の添加量を少なくするとよい。なお、ドープ24中において、溶媒11aに固形分が溶解しているかどうかは、ろ過した後のドープ24を蛍光灯に照らすことで確認することができる。
【0056】
[固体電解質フィルム製造工程]
次に、本発明の固体電解質フィルムの製造方法について説明する。図2に、本発明に係る固体電解質フィルム製造工程60のフローを示す。なお、ここでは、フローの概略のみを説明するものとし、各工程の詳細については別の図面を参照して説明する。
【0057】
固体電解質フィルム製造工程60には、ドープのポリマー成分の種類に応じて2通りのフローがある。ひとつは図2の矢線(a)で示す第1フローであり、もうひとつは矢線(b)で示す第2フローである。第1フローは、ドープのポリマー成分が、H以外のカチオン種をもつ化合物である場合であり、このような化合物としては化5におけるXがH以外のカチオン種である化合物を例示することができる。第2フローはカチオン種がHである化合物である場合である。第1フローと第2フローとの上記両化合物を区別するために、以下の説明では後者を固体電解質と称し、これに対し前者を前駆体と称することにする。
【0058】
固体電解質フィルム製造工程60は、ドープ24(図1参照)から流延膜61を形成する流延膜形成工程62と、流延膜61を冷却して固める流延膜冷却工程63と、流延膜61を支持体から剥取る剥取工程66とを有する。
【0059】
第1フローは、支持体から剥ぎ取った流延膜61、つまり湿潤前駆体フィルム67を、ローラ等に接触させても変形しない程度にまで、すなわち厚みが変化しない程度にまで乾燥させる第1乾燥工程68と、ドープの溶媒と溶け合う液と湿潤前駆体フィルム67とを接触させる液接触工程71と、液接触工程71を経た湿潤前駆体フィルム67を乾燥する第2乾燥工程72とを有する。第1乾燥工程68では、湿潤前駆体フィルム67の両側端部を保持しながら湿潤前駆体フィルム67を乾燥し、第2乾燥工程72ではローラにより支持しながら乾燥する。第1フローでは、さらに、第2乾燥工程70の後の湿潤前駆体フィルム67に酸の溶液を接触させる酸接触工程75と、酸接触工程75を経た湿潤前駆体フィルム67を水等で洗浄する洗浄工程76と、洗浄後の湿潤前駆体フィルム67を乾燥する第3乾燥工程77と、さらに乾燥を進めて固体電解質フィルム78を得る第4乾燥工程79とがある。酸接触工程75では、プロトン供与体である酸と前駆体とを反応させることにより前駆体におけるカチオン種がプロトン置換し、前駆体は固体電解質となる。第3乾燥工程77では、湿潤前駆体フィルム67の両側端部を保持しながらこのフィルム67を乾燥し、第4乾燥工程79では、湿潤前駆体フィルム67をローラで支持して搬送しながら乾燥する。
【0060】
これに対し、第2フローにおいては、支持体から剥ぎとった流延膜61は溶媒を含んだ状態の固体電解質のフィルムであるので、これを以下の説明では湿潤固体電解質フィルム80と称する。この湿潤固体電解質フィルム80を、第1フローの湿潤前駆体フィルム67と同様に第1乾燥工程68、液接触工程71、第2乾燥工程72に順に供した後、第3乾燥工程77、第4乾燥工程により完全に乾燥して固体電解質フィルム78とする。なお、両フローは、ともに連続式、つまり長尺の固体電解質フィルム78を製造する場合であるが、本発明はこれに限定されず、バッチ式、つまりシート状、短冊状の固体電解質フィルムを製造する場合にも適用することができる。この場合には、第1,3乾燥工程68,77では、両側端部にもならず前駆体あるいは固体電解質のシートの外周部を保持手段で保持することが好ましく、第2,4乾燥工程では、ローラでの支持に限定されない。
【0061】
[固体電解質フィルム製造設備]
図3は、上記第1フローを実施するフィルム製造設備33の概略図である。ただし、このフィルム製造設備33は本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。
【0062】
ストックタンク32(図1参照)を介してドープ製造設備10(図1参照)と接続されているフィルム製造設備33は、流延膜形成工程から剥取工程までの工程が行われる流延室81と、第1乾燥工程を行う第1テンタ82と、液接触工程を行う液接触装置83と、第2乾燥工程を行う第1ローラ乾燥室86と、酸接触工程及び洗浄工程を行う酸接触装置87と、第3乾燥工程を行う第2テンタ88と、第4乾燥工程を行う第2ローラ乾燥室89と、固体電解質フィルム78の温度及び含水量を調整するための温湿度調整室91と、固体電解質フィルム78がロール状に巻き取られる巻取室92とを備える。
【0063】
流延室81には、ドープ24を支持体に流出する流延ダイ95と、断面円形の中心が回転中心となって駆動回転し、ドープ24が周面に流延されて流延膜61が形成される支持体としてのドラム96と、湿潤固体電解質フィルム67を支持するローラ97と備える。湿潤固体電解質フィルム67は、剥ぎ取り時には、ドラム96の下流方向へ張力を付与されることにより、ローラ97に支持されながら剥ぎ取られる。
【0064】
流延ダイ95は、コートハンガー型のダイで、析出硬化型のステンレス鋼製であることが好ましく、その熱膨張率は小さいほど好ましい。流延ダイ95のドープの流出口の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となる固体電解質フィルム78の幅の1.1倍〜2.0倍程度であることが好ましい。また、この流延ダイ95は、流出されるドープ24の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ95の温度を制御する温度コントローラが備えられることが好ましい。さらに、流延ダイ95には、幅方向に所定の間隔で複数備えられた厚み調整ボルト(ヒートボルト)と、このヒートボルトにより、流出口としてのスリットの隙間を調整する自動厚み調整機構が備えられることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ125の送液量に応じてスリットのプロファイルを設定する。流延ダイ95のドープ流出口であるスリットのクリアランスは、0.5mm〜3.5mmの範囲で調整される。そして、流延ダイ95のリップ先端には硬化膜が形成されていることがより好ましい。
【0065】
ドープ24が流延ダイ95のリップ先端で局所的に乾燥固化することを防止するために、リップ先端の両側部に対して、ドープの溶媒成分の少なくともひとつと同じ液体を供給する液体供給装置(図示しない)を、リップ先端近傍に設けることが好ましい。液体が供給される位置は、流延ビードの両端部とリップ先端の両端部と外気との三相境界線の周辺部が好ましい。供給される液体の流量は、片側それぞれに対し0.1mL/分〜1.0mL/分とすることが好ましい。これにより、異物、例えばドープ24から析出した固形成分や外部から流延ビードに混入したものが流延膜61中に混合してしまうことを防止することができる。
【0066】
ドラム96は、回転速度及び駆動力とともに周面温度を制御するためのコントローラ98を備える。ドラム96としては、回転速度ムラが0.2%以下であるような高精度で回転できるものが好ましく、また、周面の平均粗さが0.01μm以下であることが好ましく、表面がハードクロムめっき処理等を施されているものが好ましい。これにより、十分な硬度と耐久性とを向上させることができる。なお、流延支持体には、ドラム96に代えて、複数の回転ローラに掛け渡されて連続走行する流延バンドを用いてもよい。
【0067】
流延ビードの上流側には、減圧チャンバ(図示せず)が備えられる。流延ビードとは、流延ダイ95から流延バンド94にかけて形成されるリボン状のドープ24である。また、流延ビードの上流側とは、流延バンド94の走行方向に関して流延ビートよりも上流側のエリアを意味する。この減圧チャンバにより、流延ビードの上流側のエリアの圧力を下流側のエリアの圧力よりも低く維持し、流延ビードの切断を防止したり流延ビードの形状の安定化を図る。
【0068】
流延室81には、その内部温度を所定の値に保つための温調機(図示せず)を設けてある。この流延室81を流延膜61の搬送方向で複数の区画に分けて、区画毎に温度を独立に制御してもよい。これにより、流延膜61を徐々に乾燥することができるので、急激に溶媒が蒸発してしわやつれなどの形状変化が流延膜61に発生することを抑制することができる。また、流延室81には、流延膜61から蒸発した溶媒ガスを回収するための凝縮器(コンデンサ)と、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置とを設けてあるが図示はともに略す。
【0069】
流延室81の下流側の第1テンタは、湿潤前駆体フィルム67の側端部を突き刺すピンが備えられた保持手段としてのピン台101を有し、このピン台101が搬送路を走行することにより、湿潤前駆体フィルム67が搬送される。搬送路の上方には、乾燥空気を流出するダクト102が備えられている。
【0070】
流延室81の下流の液接触装置83には、液槽104が備えられ、この中には湿潤前駆体フィルム67を支持するローラ105が備えられる。液槽104には、湿潤前駆体フィルム67を接触させる接触液106が収容されている。そして、この接触液106を液槽104から出して精製し、精製した後に液槽104に再び送り込む接触液循環精製装置(図示なし)を液槽104は備える。接触液106は、湿潤前駆体フィルム67の中の溶媒と置き換わる。
【0071】
接触液104は、ドープ24の溶媒よりも沸点が低く、溶媒と溶け合う、つまり溶媒に対して相溶性をもつ液体である。溶媒よりも沸点が低い液体を接触液104とすることにより、第2乾燥工程ひいては第3,第4乾燥工程における乾燥を効果的かつ効率的に実施することができる。また、溶媒に対し相溶性を示す液体を接触液104とすることにより、流延膜61に含まれる溶媒との置換が効果的かつ効率的に行われるので、液接触工程の時間をより短くすることができる、液接触装置83における搬送路を短くすることができる、等の効果がある。
【0072】
ドープ24の溶媒が混合物であるときには、溶媒成分のうち、最も沸点が高いものと、前駆体との親和性が最も高いものと、配合比が最も大きいものとの少なくともいずれかひとつの条件を満たす溶媒成分に対して相溶性を示す液体を接触液104として用いることが好ましい。また、ドープ24の溶媒が前駆体の良溶媒である化合物と貧溶媒である化合物との混合物である場合には、両者に対して相溶性を示す液体を接触液104として用いることが好ましい。ドープ24の溶媒成分としてDMSOとメチルアルコールとを用いた場合には、接触液104を水とすることが好ましい。水は、蒸留水またはイオン交換水であることが好ましい。水に代えて、ドープの溶媒成分の水溶液、中でも、前駆体の良溶媒である化合物の水溶液を用いてもよい。
【0073】
液接触装置83と第1ローラ乾燥室86との間の搬送路には、湿潤前駆体フィルム67側にそれぞれ送風孔が向けられた一対のエアシャワー109を設けてある。このエアシャワー109により液きりを行う。
【0074】
エアシャワー109の下流側の第1ローラ乾燥室86には、湿潤前駆体フィルム67を支持するローラが備えられ、このローラにより湿潤前駆体フィルム67は下流側へと案内される。この第1ローラ乾燥室86には、乾燥空気を流出するダクト(図示無し)が備えられ、この乾燥空気により湿潤前駆体フィルム67は乾燥される。
【0075】
第1ローラ乾燥室86の下流側の酸接触装置87には、酸を含む液(以下、酸溶液と称する)110を湿潤前駆体フィルム67に塗布する塗布ダイ111と、湿潤前駆体フィルム67を洗浄するための複数の洗浄槽113とが設けられる。ローラにより、湿潤前駆体フィルム67は塗布ダイ111,洗浄槽113の順に案内される。図の煩雑性を避けるため、洗浄槽113は2つのみを図示しているが、その数は3以上であってもよい。
【0076】
塗布ダイ111は、前述の流延ダイ95と同じ構造を有する。塗布ダイ111は、タンク118から送られてきた酸溶液110を流出して湿潤前駆体フィルム67の片面に塗布する。タンク118は、酸溶液110の温度調節部を備えている。この温度調節部により、酸溶液110の温度は、所望の温度に保持される。
【0077】
洗浄槽113に収容される洗浄液121としては水が好ましい。洗浄槽113には、温度調節部(図示せず)が備えられ、この温度調節部は、各洗浄槽113の洗浄液121の温度を、独立して保持する。
【0078】
なお、塗布ダイ111と洗浄槽113との間の搬送路近傍には、ヒータを配して酸溶液110の塗膜を加熱してもよい。
【0079】
第2テンタ88は、乾燥空気を流延膜61の近傍で送り出すダクト123と、チェーン(図示せず)にとりつけられチェーンの走行に伴い移動する多数のクリップ124とを備える。クリップ124は湿潤前駆体フィルム67の側端部をテンタ入口の把持位置で把持しテンタ出口で把持を解除する。
【0080】
第2テンタ88の下流の第2ローラ乾燥室89の基本構成は第1ローラ乾燥室86と同じである。
【0081】
第2ローラ乾燥室89の下流の温湿度調整室91は、第2ローラ乾燥室89と同様に支持用ローラを搬送路に複数備え、これらのローラで固体電解質フィルム78を搬送する。そして、この温湿度調整室91は、内部のガスを外部のガスと入れ替えて湿潤前駆体フィルム67の温度と湿度とを調整する。
【0082】
温湿度調整室91と巻取室92との間には、固体電解質フィルム78の両側端部を連続的に切断除去する耳切装置(図示せず)が備えられる。耳切装置には、固体電解質フィルム78から切り取られた両側端部を細かく切断するためのクラッシャ(図示せず)が接続する。
【0083】
巻取室92には、固体電解質フィルム78を巻き取るための巻取ロール130と、巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ131とが備えられる。
【0084】
次に、上記のフィルム製造設備33を用いて固体電解質フィルム78を製造する方法の一例を説明する。
【0085】
ストックタンク32(図1参照)に貯留されているドープ24をポンプ125によりろ過装置126に送り、ドープ24中に含まれる所定粒径よりも大きい微粒子や異物、及びゲル状の異物等を取り除く。
【0086】
ろ過後のドープ24を流延ダイ95に送り、流延ダイ95から流出させ、回転するドラム96の周面上に流延膜61を形成する。ドラム96の回転速度の変動を0.5%以下とすることが好ましい。ドラム96の表面温度は−20℃〜10℃の範囲で一定とされることが好ましい。流延室63の温度は、温調装置97により10℃〜50℃とされることが好ましい。流延室81の内部の溶媒ガスは回収装置(図示せず)により回収された後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用される。
【0087】
流延ビードは減圧チャンバの減圧機能により様態が安定する。流延ビードの上流側の圧力は下流側に対して−2500Pa〜−10Paの範囲で一定であることが好ましい。なお、減圧チャンバにジャケット(図示せず)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。流延ダイ95のエッジ部に吸引装置(図示せず)を取り付けて流延ビードの両側部を吸引すると、流延ビードの形状の制御及びその安定化をより図ることができる。このときの吸引風量は、1L/分〜100L/分の範囲であることが好ましい。
【0088】
ところで、良溶媒は前述の通り通常は高沸点のものであることから流延膜61の中に残り、また、流延膜61の変形等の防止の観点から、この工程で積極的に大量の良溶媒を蒸発させることはしない。また、ドープ24の溶媒成分として貧溶媒を用いる場合には、この工程で貧溶媒がなるべく蒸発してしまわないようにすることが好ましい。貧溶媒を流延膜の中に次工程である液接触工程にまで残しておくことにより、前駆体の分子の網目がより形成されやすくなって液接触工程における後述の接触液と流延膜61の中の良溶媒との置換の速度が速くなるという効果が得られる。そこで、本発明では、流延膜61から溶媒をほとんど蒸発させず、冷却により流延膜61に自己支持性をもたせる。具体的には、乾燥ではなく、ドラム96により流延膜61を冷却し、ゲル状に固化する。乾燥によるよりも冷却による方が流延膜61の貯蔵弾性率を短時間で高めることができるため、製造速度を大幅に向上させることができる。貯蔵弾性率G’が冷却により上がっていき1000Paに達したときが剥ぎ取りの目安となる。また、この方法であると、支持体としてプラスチックフィルムを使用する必要がなくなるために、環境保全の観点においても好ましいといえる。
【0089】
ドープ24の中に予め水を入れておくことにより、流延膜61が固化するタイミングをより早めることができる。この効果は、特に、ポリマーがスルホン酸基をもつ化合物である場合に高い。これは、水を介してスルホン酸基同士が引きつけ合うように凝集するためと考えられる。そして、ドープの中に、多価の陽イオンを生じる塩を入れておくことにより、この凝集効果をより高めることができ、流延膜61の固化のタイミングをより高めることができる。なお、水は、ドープに予め入れておく方法もあるが、これに代えて、形成された流延膜61に水を塗布や吹きつけ等により接触させてもよい。つまり、流延膜61の中に水が含まれるようにするとよい。
【0090】
ドラム96から剥ぎ取られた湿潤前駆体フィルム67を第1テンタ82におくり、幅方向に張力を与えながら乾燥する。このときの張力は、湿潤前駆体フィルム67がたるまない程度でよい。過度に張力をかけると、溶媒含有率の多い湿潤前駆体フィルム67がピンによる保持部で裂けたりすることがある。
【0091】
湿潤前駆体フィルム67をローラで搬送できる程度にまで第1テンタ82で乾燥した後に、液接触装置83の接触液106の中に導き、浸漬する。そして、湿潤前駆体フィルム67に含まれる溶媒と接触液106との置き換え、つまり置換を流延膜61の両面から行う。
【0092】
接触液106の温度は10℃以上80℃以下とすることが好ましく、20℃以上50℃以下とすることがより好ましい。80℃よりも高い温度とすると、湿潤前駆体フィルム67にシワが発生することがあり、10℃よりも低い温度とすると、湿潤前駆体フィルム67に含まれる溶媒と接触液106との置換が効率的に行われないことがある。
【0093】
湿潤前駆体フィルム67を接触液100に浸漬させる時間は概ね30秒以上10分以下、より好ましくは1分以上5分以下である。これにより、溶媒と接触液106との置換を十分に行うことができ、第2ローラ乾燥率86、にいては第2テンタ88、第2ローラ乾燥室89における湿潤前駆体フィルム67の乾燥効率及び乾燥効果をより向上させることができる。しかし、この浸漬時間は、湿潤前駆体フィルム67における溶媒の重量の変化と、湿潤前駆体フィルム67の硬さの変化との少なくともいずれか一方を指標として決めるものであるので、必ずしも上記範囲に限定されるものではない。
【0094】
湿潤前駆体フィルム67と接触液106とを接触させる方法は、浸漬による方法に限定されない。他の方法としては、接触液を湿潤前駆体フィルム67に吹き付ける方法、接触液を湿潤前駆体フィルム67に塗布する方法、接触液を気化させて蒸気として湿潤前駆体フィルム67に接触させる方法等がある。これらの方法と浸漬による方法とを複数組み合わせてもよい。
【0095】
液接触工程は複数回実施してもよい。例えば、液槽104を搬送路に直列に配して、湿潤前駆体フィルム67を複数の液槽104に次々に送り込んでもよい。液接触工程を複数回実施する場合には、沸点の高い接触液から低い接触液に順に配することにより、後の乾燥工程における乾燥をより効果的かつより効率的に行うことができる。
【0096】
湿潤前駆体フィルム67が大量の接触液を表面につけたままであると、後の乾燥工程で乾燥ムラが起きて変形することがある。そこで、湿潤前駆体フィルム67は、エアシャワー109により大まかに接触液を除去される。液きりはエアシャワー109による方法の他、掻き取り等の接触による方法であってもよい。湿潤前駆体フィルム67は、エアシャワー109で大まかに液をきられた後、第1ローラ乾燥室86に送られる。ここでは、ローラに搬送されながら、湿潤前駆体フィルム67は乾燥される。第1ローラ乾燥室86を出ると、湿潤前駆体フィルム67の溶媒含有率は低いものとなっているが、本明細書では、第2ローラ乾燥室89を出るまでを湿潤前駆体フィルム67と称するものとする。
【0097】
両側端部が切断された前駆体フィルム67の片面に、塗布ダイ111を用いて酸溶液110を塗布する。塗布した後に、ヒータ(図示せず)による加熱を実施する場合には、塗布された湿潤前駆体フィルム67を80℃以上100℃以下に加熱することが好ましい。湿潤前駆体フィルム67は効果的かつ効率的にプロトン置換が行われ、前駆体は固体電解質となる。
【0098】
プロトン置換された割合は、高ければ高いほど、つまり100%であることが最も好ましい。しかしこのプロトン置換率を100%とせずともよく、本実施形態では生産性との兼ね合いから置換対象であるカチオン種のうち80%以上、より好ましくは90%以上であると十分固体電解質フィルムとしての機能を発現するものとして評価することができた。
【0099】
酸溶液110は、酸性の水溶液に限られず、前駆体のプロトン受容体にプロトンを与え得るものであればよい。例えば、用いる酸よりもプロトン受容性が大きい化合物を前駆体として用いる場合には、酸溶液110に酸を用いてもよい。また、酸溶液110を作るための酸は、アニオンの式量が40以上であるものが好ましい。
【0100】
酸溶液110と湿潤前駆体フィルム67との接触は塗布による方法に限定されるものではない。他の方法としては、湿潤前駆体フィルム67に酸溶液110を吹き付ける方法、酸溶液110に湿潤前駆体フィルム67を浸漬する方法等がある。
【0101】
次に、湿潤前駆体フィルム67を洗浄槽113に送って、洗浄液121に浸漬することにより洗浄する。これにより湿潤前駆体フィルム67の表面に付着している、或いは湿潤前駆体フィルム67に含まれる余分な酸溶液110を洗い流すことができるので、湿潤前駆体フィルム67中に酸が残留してプロトン伝導度の低下や経時変化が変化してしまうことを防止することができる。
【0102】
洗浄工程の回数は2回に限定されない。余分な酸の除去が可能であれば洗浄回数を1回にしてもよいし、もしくは3回以上としてもよい。洗浄液121の温度は、30℃以上に保持することが好ましく、これにより酸の除去効果が向上する。洗浄液121は、純水であることが好ましい。本明細書における純水とは、比電気抵抗が少なくとも1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンは1ppm未満、クロル、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満である水を指す。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいは組み合わせによって、容易に得ることができる。
【0103】
洗浄工程における洗浄方法は、必ずしも浸漬によるものに限定されず、洗浄液121の吹き付けや噴霧や塗布等に代えることができる。このうち、塗布する方法と吹き付ける方法とが湿潤前駆体フィルム67を連続搬送しながら実施できる点で好ましい。さらに、洗浄液121を吹き付ける方法は、噴流によって湿潤前駆体フィルム67上の洗浄液121と酸溶液110との乱流混合が得られるためにより好ましい。
【0104】
洗浄液121を塗布する方法と吹き付ける方法との具体的例として、エクトルージョンコータあるいは、ファウンテンコータ、フロッグマウスコータ等の各種塗布ヘッドを用いる方法と、空気の加湿や塗装、タンクの自動洗浄などに利用されるスプレーノズルを用いる方法とが挙げられる。塗布方法に関しては、「コーティングのすべて」荒木正義編集、(株)加工技術研究会(1999年)にまとめられている。また、スプレーノズルを用いる場合には、(株)いけうち、スプレーイングシステムズ社の円錐状、扇状などのスプレーノズルを湿潤前駆体フィルム67の幅方向に複数配することにより、湿潤前駆体フィルム67の全幅に洗浄液をあてることができる。
【0105】
洗浄液121を吹き付ける場合の吹き付け速度を大きくするほど高い乱流混合が得られるが、湿潤前駆体フィルム67の搬送安定性を損なうこともあるので、その点で好ましい範囲がある。通常は、吹き付けるときの洗浄液の流速は50〜1000cm/秒とすることが好ましく、100〜700cm/秒とすることがより好ましく、100〜500cm/秒とすることがさらに好ましい。
【0106】
洗浄液121の量は、少なくとも下記式(1)に定義される理論希釈率を上回る量を用いなければならない。すなわち、洗浄に使用される洗浄液121の全てが酸溶液110の希釈混合に寄与したという仮定の理論希釈率を定義する。実際には、完全混合は起こらないので、理論希釈率を上回る洗浄液121量を使用することとなる。用いた酸溶液110の酸濃度や酸溶液の溶媒の種類にもよるが、少なくとも100〜1000倍、好ましくは500〜1万倍、さらに好ましくは1000〜十万倍の希釈が得られる程度の量の洗浄液121を使用する。なお、下記の式(1)において、洗浄液121及び酸溶液110の量は、フィルムの単位面積あたりに接触する各液量である。
理論希釈倍率=(洗浄液121の量[cc/m2 ])÷(酸溶液110の量[cc/m2]・・・(1)
【0107】
洗浄工程において、所定量の洗浄液121を湿潤前駆体フィルム67の所定面積に接触させる場合には、一度に全量の洗浄液121を接触させるよりも、定量を数回に分けて接触させるいわゆる回分式洗浄が好ましい。すなわち、所定量の洗浄液121を幾つかに分けて、湿潤前駆体フィルム67の搬送路に沿って複数設置した洗浄手段に供給する。一の水洗手段と次の水洗手段との間には適当な距離を設けて、酸溶液110を拡散させながら希釈を進行させる。さらに好ましくは、湿潤前駆体フィルム67の搬送路を傾斜させて、フィルム上の洗浄液121がフィルム上を流れる様にすれと、拡散に加えて、流動による希釈作用が得られる。洗浄手段と洗浄手段との間には、湿潤前駆体フィルム67上の洗浄液を除去する液切り手段を設けることにより、さらに希釈効率を高めることができる。具体的な水切り手段としては、ブレードコーターに用いられるブレード、エアナイフコーターに用いられるエアナイフ、ロッドコーターに用いられるロッド、ロールコーターに用いられるロールが挙げられる。
【0108】
搬送路に沿って複数配された洗浄手段の数は、多いほうが有利であるが、設置スペースならびに設備コストの観点より、通常は搬送方向に沿って2〜10箇所、好ましくは2〜5箇所が好ましい。
【0109】
酸接触工程と洗浄工程とを行なうことにより、固体電解質フィルム78への無機塩等の不純物の混入を防止することができるとともに、さらに固体電解質フィルム78の劣化を防止することができる。酸接触工程と洗浄工程とは、他の工程と必ずしも連続させなくてもよい。なお、洗浄工程を経た後のフィルム67は、含まれる金属の含有量が1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下である。上記の金属としては、Na、K、Ca、Fe、Ni、Cr、Zn等が挙げられる。これらの金属の含有量は、例えば、市販の原子吸光光度計により測定することで測定することができる。
【0110】
また、酸接触装置87と第2テンタ88との間に予備乾燥室(図示せず)を設けて湿潤前駆体フィルム67を予備乾燥すると、第2テンタ88で湿潤前駆体フィルム67の温度が急激に上昇せずにすみ湿潤前駆体フィルム67の大幅な形状変化を抑制することができる。
【0111】
湿潤前駆体フィルム67は、第2テンタ88に送り込まれる。第2テンタ88では、湿潤前駆体フィルム67は、クリップ124により両側端部を把持されて下流側に搬送される。搬送されている湿潤前駆体フィルム67の近傍には、所望の温度とされた乾燥空気がダクト123から供給され、湿潤前駆体フィルム67の乾燥効率を向上させる。クリップ124を第1テンタ82と同様のピンに代えて、このピンを湿潤前駆体フィルム67の両側端部に突き刺すことにより保持してもよい。乾燥空気の温度は、接触液121の沸点に応じて設定することが好ましい。そして、第2テンタ88の内部温度は概ね50℃以上150℃以下の範囲とされる。なお、第2テンタ88の内部を搬送路の方向で複数のエリアに分割し、エリア毎に異なる温度条件としてもよい。第2テンタ88を出るときの湿潤前駆体フィルム67の溶媒残留量は乾燥基準で10重量%以下となるように、第2テンタ88では乾燥を進めることが好ましい。
【0112】
第2テンタ88では、湿潤前駆体フィルム67を幅方向に延伸させることが可能である。第2テンタ88に送り込む前の湿潤前駆体フィルム67に付与する搬送方向における張力を調整することにより、湿潤前駆体フィルム67を搬送方向に延伸することも可能である。また、湿潤前駆体フィルム67を延伸する場合には、湿潤前駆体フィルム67の搬送方向と幅方向との少なくとも1方向を、延伸前の寸法に対し100.5%〜300%の寸法となるように延伸することが好ましい。これにより、固体電解質フィルム78の分子配向を調整することができる。
【0113】
第2ローラ乾燥室89の内部温度は、特に限定されるものではないが、固体電解質の耐熱性、例えば、ガラス転移点Tg、熱変形温度、融点Tm、連続使用温度等に応じて決定される。その内部温度は、50以上(固体電解質のTg)以下とすることが好ましい。本実施形態では、120℃以上185℃以下としている。この第4乾燥工程では、湿潤前駆体フィルム67の残留溶媒率ができるだけゼロに近くなるまで乾燥することが好ましく、乾量基準での目標値は概ね10重量%未満である。なお、湿潤前駆体フィルム67から蒸発して発生した溶媒ガスは周辺の空気とともに吸着回収装置(図示無し)により吸着回収され、溶媒成分を除去した後の空気は、再度、乾燥空気として第2ローラ乾燥室89の内部に送りこまれる。第2ローラ乾燥室89は、供給する乾燥空気の温度を搬送方向で変化させてその効果を得るために、搬送方向で複数の区画に分割されていることがより好ましい。
【0114】
第1ローラ乾燥室86及び第2ローラ乾燥室89には、ガス循環装置128が接続する。ガス循環装置128は、各乾燥室86,89の内部から送られてきたガスから、溶剤成分と水分とを除去して、除去後の乾燥空気を温度調整した上で各乾燥室86,89に再び送る。なお、ガス循環装置128は第1テンタ102と第2テンタ123にも接続しており、同様の役割を果たすが、図の煩雑化を避けるため、図示は略す。
【0115】
固体電解質フィルム78を温湿度調整室91に搬入する。温湿度調整室91では、第2ローラ乾燥室89と同様にローラに巻き掛けられて搬送される固体電解質フィルム78を、温度制御装置と湿度制御装置とにより所望の温度及び湿度として、その乾燥度合いを制御する。なお、温湿度調整室91の内部温度及び湿度は特に限定されるものではないが、温度は20℃以上30℃以下であることが好ましく、湿度は40RH%以上70RH%以下であることが好ましい。これにより、固体電解質フィルム78の表面にカールが発生したり、巻き取る際に巻取り不良が発生したりするのを抑制することができる。なお、第2ローラ乾燥室89と温湿度調整室91との間に冷却室(図示しない)を設けて固体電解質フィルム78を略室温まで冷却すると、温度変化により固体電解質フィルム78が形状変化するのを抑制することができるので好ましい。
【0116】
固体電解質フィルム78を巻取室92に送り、プレスローラ131で張力を付与しながら巻取ロール130に巻き取る。これにより、しわやつれ等の発生を抑制しながらロール状の固体電解質フィルム78を得ることができる。このようにプレスローラ131で所望のテンションを固体電解質フィルム78に付与しつつ巻き取ると、平面性に優れるロール状のフィルム製品を得ることができるので好ましい。なお、フィルムロールにおける過度な巻き締めを防止するために、上記のテンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。また、巻き取られる固体電解質フィルム78の幅は100mm以上であることが好ましく、本発明は、固体電解質フィルム78の厚みが5μm以上300μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0117】
フィルム製造設備の各工程内、あるいは各工程間では、湿潤前駆体フィルム67や湿潤固体電解質フィルム、固体電解質フィルム78は、主にローラにより支持または搬送される。これらのローラには、駆動ローラと非駆動ローラとがあり、非駆動ローラは、主に、フィルムの搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるために使用される。
【0118】
第2フローを実施する場合には、酸処理室を使用せずに固体電解質フィルム78を製造することができる。その他の製造条件については第1フローと同じである。第2フローの場合には、流延膜61をドラム96から剥ぎ取って得られるのは湿潤固体電解質フィルム80であり、これを、第1テンタ82,液接触装置83,エアシャワー109,第1ローラ乾燥室86,第2テンタ88,第2ローラ乾燥室89,温湿度調整室91,巻取室92の順に案内してそれぞれの工程を実施することによりロール状の固体電解質フィルム78が得られる。これら各工程の詳細は、先に述べた第1フローと同じであるので、説明は略す。なお、この場合でも、酸接触工程を第1フローと同様に実施することにより、プロトン伝導度をより向上することができる。
【0119】
本実施形態では、1種類のドープを流延する場合を示したが、本発明では、2種類以上のドープを同時に共流延して積層タイプの流延膜を形成しても良いし、逐次に共流延させて複層の流延膜を形成しても良い。なお、2種類以上のドープを同時に共流延する場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。ただし、共流延により複層からなるフィルムは、表面に露出する2層のうちいずれか一層が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。また、同時に共流延をする場合には、ダイスリットから支持体に流出するドープにおいて、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれるような態様であることが好ましい。このような態様となるように各ドープの濃度は予め調整されることが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成されるビードのうち、外界と接する、つまり露出するドープが内部のドープよりも貧溶媒の比率が大きい処方とされることが好ましい。
【0120】
なお、前駆体を有するフィルムを製造するために、上記方法に代えて次の方法を適用することができる。つまり、細孔が複数形成されている、いわゆる多孔質基材の細孔に前駆体を保持させる方法である。この方法によると、上記実施形態とは異なり、前駆体とは異なる物質からなる多孔質基材中に前駆体が非常に細かく分散してあるような前駆体フィルムを製造することができる。このような前駆体フィルムの製造方法としては、前駆体が含まれるゾル−ゲル反応液を多孔質基材上に塗布して細孔に前駆体を入れる方法、多孔質基材を前駆体が含まれるゾル−ゲル反応液に浸漬し、細孔内に前駆体を満たす方法等がある。多孔質基材の好ましい例としては、多孔性ポリプロピレン、多孔性ポリテトラフルオロエチレン、多孔性架橋型耐熱性ポリエチレン、多孔性ポリイミドなどが挙げられる。また、前駆体を繊維状に加工し、繊維中の空隙を他の高分子化合物等で満たし、その繊維を用いてフィルム状とすることにより前駆体フィルムを形成することもできる。この場合には、空隙を満たすための他の高分子化合物の例としては、本明細書における添加剤として挙げた物質を挙げることができる。これらの各前駆体フィルムについて、上述した酸処理によるプロトン置換を行うことにより、固体電解質フィルムを製造することができる。
【0121】
本発明の固体電解質フィルムは、燃料電池用、特に特に直接メタノール型燃料電池用のプロトン伝導膜として好適に利用することができる他に、燃料電池の2つの電極に挟まれる固体電解質フィルムとして用いることができる。さらに、各種電池(レドックスフロー電池、リチウム電池等)における電解質、表示素子、電気化学センサー、信号伝達媒体、コンデンサ、電気透析、電気分解用電解質膜、ゲルアクチュエーター、塩電解膜、プロトン交換樹脂としても本発明の固体電解質フィルムを用いることができる。
【0122】
(燃料電池)
以下に、固体電解質フィルムを電極膜複合体(Membrane and Electrode Assembly,以下、MEAと称する)に使用する例と、この電極膜複合体を燃料電池に用いる例とを説明する。ただし、ここに示すMEA及び燃料電池の様態は本発明の一例であり、本発明はこれに限定されない。図4は、MEAの断面概略図である。MEA161は、固体電解質フィルム78と、このフィルム78を挟んで対向するアノード電極162及びカソード電極163とを備える。
【0123】
アノード電極132は多孔質導電シート132aと固体電解質フィルム78に接する触媒層132bとを有し、カソード電極133は多孔質導電シート133aと固体電解質フィルム78に接する触媒層133bとを有する。多孔質導電シート132a,133aとしては、カーボンペーパー等がある。触媒層132b,133bは、白金粒子等の触媒金属を担持したカーボン粒子をプロトン伝導材料に分散させた分散物からなる。カーボン粒子としては、例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等があり、プロトン伝導材料としては、例えば、ナフィオン(登録商標)等がある。
【0124】
MEA131の製造方法としては、次の4つの方法が好ましい。
(1)プロトン伝導材料塗布法:活性金属担持カーボン、プロトン伝導材料、溶媒を含む触媒ペースト(インク)を固体電解質フィルム78の両面に直接塗布し、多孔質導電シート132a,133aを(熱)塗布層に圧着して5層構成のMEAを作製する。
(2)多孔質導電シート塗布法:触媒層132b,133bの材料を含んだ液、例えば触媒ペーストを、多孔質導電シート132a,133aの表面に塗布し、触媒層132b,133bを形成させた後、固体電解質フィルム78と圧着し、5層構成のMEA131を作製する。
(3)Decal法:触媒ペーストをPTFE上に塗布し、触媒層132b,133bを形成させた後、固体電解質フィルム78に触媒層132b,133bのみをうつし、3層構造を形成し、これに多孔質導電シート132a,133aを圧着し、5層構成のMEA131を作製する。
(4)触媒後担持法:白金未担持カーボン材料をプロトン伝導材料とともに混合したインクを固体電解質フィルム78、多孔質導電シート132a,133aあるいはPTFE上に塗布・製膜した後、白金イオンを含む液に固体電解質フィルム78を含浸させ、白金粒子をフィルム中で還元析出させて触媒層132b,133bを形成させる。触媒層132b,133bを形成させた後は、上記(1)〜(3)の方法にてMEA131を作製する。
【0125】
ただし、MEAの作り方としては、上記の方法には限定されず、公知の各種方法を適用することができる。例えば、上記の(1)〜(4)の方法の他に次の方法がある。触媒層132b,133bの材料を含んだ塗布液を予めつくり、この塗布液を支持体に塗布して乾燥する。触媒層132b,133bが形成された支持体を、触媒層132b,133bが固体電解質フィルム78に接するように固体電解質フィルム78の両面にそれぞれ重ねて圧着する。そして支持体を剥がしてから、触媒層132b,133bが両面に形成された固体電解質フィルム78を多孔質導電シート132a,133aで挟み込む。そして、多孔質導電シート132a,133aと触媒層132b,133bとを密着させてMEAを製造することができる。
【0126】
図5は、燃料電池の分解概略図である。燃料電池141は、MEA131と、MEA131を挟持する一対のセパレータ142,143と、これらのセパレータ142,143に取り付けられたステンレスネットからなる集電体146と、パッキン147とを有する。アノード極側のセパレータ142にはアノード極側開口部151が設けられ、カソード極側のセパレータ143にはカソード極側開口152設けられている。アノード極側開口部151からは、水素、アルコール類(メタノール等)等のガス燃料またはアルコール水溶液等の液体燃料が供給され、カソード極側開口部152からは、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。
【0127】
アノード電極132およびカソード電極133には、カーボン材料に白金などの活性金属粒子が担持された触媒が用いられる。通常用いられる活性金属の粒子サイズは、2〜10nmの範囲である。ただし、粒子サイズが小さいほど単位重量当りの表面積が大きくなるので活性が高まり有利であるが小さすぎると凝集させることなく分散させることが難しくなるために、2nm程度が小ささの限度といわれている。
【0128】
水素−酸素系燃料電池における活性分極はアノード極、つまり水素極に比べ、カソード極、つまり空気極の方が大きい。これは、カソード極の反応、つまり酸素の還元反応の速度がアノード極に比べて遅いためである。酸素極の活性向上を目的として、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cu、Pt−Feなどのさまざまな白金基二元金属を用いることができる。アノード燃料にメタノール水溶液を用いる直接メタノール燃料電池においては、メタノールの酸化過程で生じるCOによる触媒被毒を抑制するために、Pt−Ru、Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Moなどの白金基二元金属、Pt−Ru−Mo、Pt−Ru−W、Pt−Ru−Co、Pt−Ru−Fe、Pt−Ru−Ni、Pt−Ru−Cu、Pt−Ru−Sn、Pt−Ru−Auなどの白金基三元金属を用いることができる。活性金属を担持させるカーボン材料としては、アセチレンブラック、Vulcan XC−72、ケチェンブラック、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましく用いられる。
【0129】
触媒層132b,133bは、(1)燃料を活性金属に輸送すること、(2)燃料の酸化(アノード極)、還元(カソード極)反応の場を提供すること、(3)酸化還元により生じた電子を集電体146に伝達すること、(4)反応により生じたプロトンを固体電解質、つまり固体電解質フィルム78に輸送すること、という機能をもつ。(1)のために触媒層132b,133bは、液体および気体燃料が奥まで透過できる多孔質性とされる。(2)についてはカーボン材料に担持される活性金属触媒が担い、(3)は同じくカーボン材料が担う。そして、(4)の機能を果たすために、触媒層132b,133bにプロトン伝導材料を混在させる。触媒層のプロトン伝導材料としては、プロトン供与基を持った固体であれば制限はないが、酸残基を有する高分子化合物、例えばナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱性芳香族高分子のスルホン化物等が好ましく用いられる。固体電解質フィルム78に含まれる固体電解質を触媒層132b,133bに用いると、触媒層132b,133bと固体電解質フィルム78とが同種の材料となるため、固体電解質と触媒層との電気化学的密着性が高まり、プロトン伝導の点でより有利である。活性金属の使用量を0.03〜10mg/cmの範囲とすることが、電池出力と経済性との観点から適する。活性金属を担持するカーボン材料の量は、活性金属の重量に対して1〜10倍であることが好ましい。プロトン伝導材料の量は、活性金属担持カーボンの重量に対して、0.1〜0.7倍が好ましい。
【0130】
アノード電極532、カソード電極533は、集電機能および水がたまりガスの透過が悪化するのを防ぐ役割を担う。通常は、カーボンペーパーやカーボン布を使用し、撥水化のためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)処理を施したものを使用することもできる。
【0131】
MEAは電池に組み込み、燃料を充填した状態での交流インピーダンス法による面積抵抗値が3Ωcm以下のものが好ましく、1Ωcm以下のものがさらに好ましく、0.5Ωcm以下のものが最も好ましい。面積抵抗値は実測の抵抗値とサンプルの面積の積から得られる。
【0132】
燃料電池の燃料として用いることのできるものを説明する。アノード燃料としては、水素、アルコール類(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタンなど)、ギ酸、水素化ホウ素錯体、アスコルビン酸などが挙げられる。カソード燃料としては、酸素(大気中の酸素も含む)、過酸化水素などが挙げられる。
【0133】
直接メタノール型燃料電池では、アノード燃料として、メタノール濃度3〜64重量%のメタノール水溶液が使用される。アノード反応式(CHOH+HO→CO+6H+6e)により、1モルのメタノールに対し、1モルの水が必要であり、この時のメタノール濃度は64重量%に相当する。メタノール濃度が高い程、同エネルギー容量での燃料タンクを含めた電池の重量および体積が小さくできる利点がある。しかしながら、メタノール濃度が高い程、メタノールが固体電解質フィルムを透過しカソード側で酸素と反応し電圧を低下させる、いわゆるクロスオーバー現象が顕著となり、出力が低下する傾向にある。そこで、用いる固体電解質フィルムのメタノール透過性により、最適濃度が決められる。直接メタノール型燃料電池のカソード反応式は、(3/2)O+6H+6e→HOであり、燃料として酸素(通常は空気中の酸素)が用いられる。
【0134】
上記アノード燃料およびカソード燃料を、それぞれの触媒層132b,133bに供給する方法としては、(1)ポンプ等の補助機器を用いて強制的に送りこむ方法(アクティブ型)と、(2)補助機器を用いない方法、例えば、燃料が液体である場合には毛管現象や自然落下により、気体である場合には大気に触媒層をさらして供給するパッシブ型との2通りの方法があり、また、(1)と(2)とを組み合わせることも可能である。(1)は、カソード側で生成する水を抜き出すことにより、燃料として高濃度のメタノールを使用することができ、空気供給による高出力化ができる等の利点がある反面、燃料供給系を備える事により小型化がし難い欠点がある。(2)は、小型化が可能な利点がある反面、燃料供給が律速となり易く高い出力が出にくい欠点がある。
【0135】
燃料電池の単セル電圧は一般的に1V以下であるので、負荷の必要電圧に合わせて、単セルを直列スタッキングして用いる。スタッキングの方法としては、単セルを平面上に並べる「平面スタッキング」および、単セルを、両側に燃料流路の形成されたセパレータを介して積み重ねる「バイポーラースタッキング」が用いられる。前者は、カソード極(空気極)が表面に出るため、空気を取り入れ易く、薄型にできることから小型燃料電池に適している。この他にも、MEMS技術を応用し、シリコンウェハー上に微細加工を施し、スタッキングする方法も提案されている。
【0136】
燃料電池は、自動車用、家庭用、携帯機器用など様々な利用が考えられているが、特に、直接メタノール型燃料電池は、小型、軽量化が可能であり充電が不要である利点を活かし、様々な携帯機器やポータブル機器用エネルギー源としての利用が期待されている。例えば、好ましく適用できる携帯機器としては、携帯電話、モバイルノートパソコン、電子スチルカメラ、PDA、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、モバイルサーバー、ウエラブルパソコン、モバイルディスプレイなどが挙げられる。好ましく適用できるポータブル機器としては、ポータブル発電機、野外照明機器、懐中電灯、電動(アシスト)自転車などが挙げられる。また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。さらには、これらの機器に搭載された2次電池の充電用電源としても有用である。
【実施例1】
【0137】
次に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の各実施例において、「実験1」〜「実験6」は本発明の実施様態の例であり、「比較実験1」〜「比較実験4」は本発明に対する比較実験である。
【0138】
化5のXがH以外のカチオン種である化合物を前駆体として用いた。この前駆体を原料Aとする。この原料Aは、化5におけるXがNa、nが0.4、数平均分子量Mnが50000、量平均分子量Mwが120000である。溶媒は、溶媒成分1と溶媒成分2との混合物である。溶媒成分1は原料Aの良溶媒であり、溶媒成分2は原料Aの貧溶媒である。原料Aと溶媒とを以下に示す比で混合して原料Aをこの溶媒に溶解し、全重量に対し20重量%の原料Aを含むドープを製造した。このドープを以降の説明ではドープAと称する。なお、ドープの中には、塩を含ませた場合と含ませない場合とがあるが、これについては、各実験条件とともに後述する。
・原料A; 100重量部
・溶媒成分1;DMSO 256重量部
・溶媒成分2;メタノール 171重量部
【0139】
[固体電解質フィルムの製造]
ドープAからフィルム製造設備33により実験1〜6,比較実験1〜4の各条件で固体電解質フィルムをつくった。表1には、実験1〜6,比較実験1〜4の各条件と、評価結果とを示す。表1における項目番号は、以下の条件及び評価項目の各番号に対応する。
1の(a)・・・ドープに加えた塩の種類、加えなかった場合には「−」を記載する。
1の(b)・・・前駆体であるポリマーの重量を100としたときに、ドープに加えた塩の重量の割合(単位;重量%)
2.ドラム96の温度(単位;℃)
3.流延室81の湿度(単位;%RH)
4.剥ぎ取り時における流延膜の貯蔵弾性率(単位;Pa)
5.形成された流延膜が剥ぎ取られるまでの時間(単位;分)
6.ドラム96からの流延膜の剥ぎ取り性を目視で評価した結果であり、評価基準は以下のとおり。
○;剥ぎ取ることができた
×;自重により変形してしまうあるいは引きちぎれてしまう等で剥ぎ取ることができなかった
7.得られた固体電解質フィルムにおける多価の塩の濃度(単位;ppm)
なお、上記項目6において「×」であったものについては、サンプル片を切り出して、このサンプル片で測定した。
8.プロトン伝導度(単位S/cm);プロトン伝導度の測定は、Journal of the Electrochemical Society 143巻4号1254−1259項(1996年)に従い、4端子交流法を用いて行なった。具体的には、先ず、各固体電解質フィルムから長さ2cm、幅1cmに切り抜いたものをサンプルとした。次に、PTFE板に5mm間隔で白金線を4本固定したものに先のサンプルを載せた後、更にPTFE板を載せてから、これらをビスで固定して試験セルとした。そして、この試験セルと、ソーラトロン製1480型及び1225B型を組合せたインピーダンスアナライザーとを用いて、25℃と80℃との各水中で交流インピーダンス法によりプロトン伝導度を測定した。25℃の水中での結果を(a)欄に、80℃の水中での結果を(b)欄に記す。なお、上記項目6において「×」であったものについては、サンプル片を切り出して、このサンプル片で評価した。
【0140】
【表1】

【0141】
本発明により固体電解質フィルムの製造工程における乾燥時間を短くして、プロトン伝導度が高い固体電解質フィルムを大量に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】ドープ製造設備の概略図である。
【図2】固体電解質フィルムの製造フローである。
【図3】固体電解質フィルム製造設備の概略図である。
【図4】電極膜複合体の断面図である。
【図5】燃料電池の分解断面図である。
【符号の説明】
【0143】
24 ドープ
33 フィルム製造設備
96 ドラム
67 湿潤前駆体フィルム67
78 固体電解質フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤と固体電解質でありスルホン酸基を有するポリマーと前記溶剤中で多価の陽イオンを生じる塩とを含むドープを支持体の上に流延して流延膜を形成する工程と、
前記流延膜を冷却する工程と、
前記流延膜を前記支持体から剥がして乾燥する工程と、
を有することを特徴とする固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記陽イオンは、Mg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,Al2+の少なくともいずれかひとつであることを特徴する請求項1記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記流延膜に水を含ませることを特徴とする請求項1または2記載の固体電解質フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−290443(P2008−290443A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27391(P2008−27391)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】