説明

固体電解質構造体の製造方法、固体電解質構造体、及びその固体電解質構造体を用いた固体酸化物形燃料電池用単セル

【課題】
本発明は、大きな電力を発生する高出力の固体酸化物形燃料電池を製造することができる固体電解質構造体、及びその製造方法を提供することを目的とする。また、この固体電解質構造体を用いた固体酸化物形燃料電池用単セルを提供する。
【解決手段】
本発明は、固体酸化物形燃料電池に用いる固体電解質構造体の製造方法であって、焼成された固体電解質基板、或いは固体電解質基板の未焼成体の表面の一部又は全部を、固体電解質原料及び有機高分子を溶媒中に分散、乳化、或いは溶解させて含有する泡状スラリーで被覆して焼成し、前記固体電解質基板の表面に多孔質固体電解質層を形成する。また、その方法で形成された固体電解質構造体を挟んで空気極材料と燃料極材料とを形成して固体酸化物形燃料電池用単セルを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固体酸化物形燃料電池に用いる固体電解質構造体の製造方法、固体電解質構造体、及びその固体電解質構造体を用いた固体酸化物形燃料電池用の単セルに関する。
【0002】
本明細書においては、燃料ガスと酸化剤ガスとを分離している一般的な固体酸化物形燃料電池について説明するが、同じ構成のものを燃料ガスと酸化剤ガスとを分離しない直接火炎固体酸化物燃料電池(DFFC)などにも利用することができる。
【0003】
また、本明細書においては、固体酸化物形燃料電池について説明するが、同じ構成のものを電気化学リアクターとして用いることもできる。
【背景技術】
【0004】
固体酸化物形燃料電池(以下、SOFCともいう)は、電解質として固体酸化物を使用すること、動作環境が高温であることに特徴がある。SOFCは、平板型、筒型、又はハニカム型など様々な形状のものが考案され、実用化が図られている。
【0005】
SOFCは起電力が小さいため、実用的に充分な電力を得るための障害となるSOFC単セルの内部抵抗を低減し、SOFCの出力を増大させる方法が検討されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、酸化物イオン伝導性セラミックス材料を含有する緻密質セラミックス材料層を挟んで2つの多孔質セラミックス材料層が対向される積層構造を備える、固体酸化物形燃料電池の単セル用構造体が記載されている。また、単セル用構造体を利用した固体酸化物形燃料電池も記載されている。
【0007】
この単セル用構造体は、緻密質セラミックス材料層を薄く形成して、単セル用構造体自体も薄くすることによって、内部抵抗を低減し、SOFCの高出力を実現している。
【0008】
また、この単セル用構造体の製造方法としては、造孔剤を含有した多孔質セラミックス原料層用スラリーを用いる方法が記載されている。
具体的には、造孔剤を含有した多孔質セラミックス原料層用スラリーから多孔質セラミックス原料層用セラミックスグリーンシートを作製し、緻密セラミックス原料層用セラミックスグリーンシートを挟んで2つの多孔質セラミックス原料層用セラミックスグリーンシートを積層して得た前躯体を焼成することで、単セル用構造体を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−230874号公報(「特許請求の範囲」等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載された製造方法では、平板型のSOFC単セルは容易に製造できるものの、筒型やハニカム型のSOFC単セルの製造には手間を要した。また、造孔剤を用いて形成した多孔質セラミックス層は、例え分散剤等を併せ導入したとしても気泡同士を繋ぐ通路径は僅かで、独立気泡が形成されやすく、また、表面に気泡が現れにくいため、SOFC単セルをつくる際に電極材料が多孔質セラミックス層に侵入しにくいものであった。そのため、多孔質セラミックス層の内部には、燃料電池の反応が起こる三相界面が形成されにくく、燃料電池からより大きな電力を得難かった。
【0011】
本発明者らは、多孔質セラミックス層を容易に形成でき、さらに、造孔剤を用いて形成した多孔質セラミックス層を備えた単セル用構造体よりも大きな電力を発生する高出力のSOFCを得ることができる固体電解質構造体の製造方法を検討し、本発明に至った。
【0012】
本発明は、大きな電力を発生する高出力の固体酸化物形燃料電池を製造することができる固体電解質構造体、及びその製造方法を提供することを目的とする。また、この固体電解質構造体を用いた固体酸化物形燃料電池用単セルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決する方法として、請求項1に記載の発明は、固体酸化物形燃料電池に用いる固体電解質構造体の製造方法であって、焼成された固体電解質基板、或いは固体電解質基板の未焼成体の表面の一部又は全部を、固体電解質原料、有機高分子及び溶媒を含有する泡状スラリーで被覆して焼成し、前記固体電解質基板の表面に多孔質固体電解質層を形成することを特徴とする固体電解質構造体の製造方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の製造方法において、前記固体電解質基板の燃料極側には多孔質固体電解質層を形成し、空気極側には多孔質固体電解質層を形成しないことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、固体電解質基板の表面の一部又は全部に、固体電解質原料、有機高分子及び溶媒を含有する泡状スラリーを焼成して形成された多孔質固体電解質層を備えることを特徴とする固体電解質構造体である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の固体電解質構造体において、多孔質固体電解質層の気孔率が40〜90容量%であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載の固体電解質構造体を挟んで空気極材料と燃料極材料とを備えることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用単セルである。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池用単セルにおいて、前記空気極材料及び/又は燃料極材料が、多孔質固体電解質層の気孔の内壁にも形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項に記載の製造方法によって得られた固体電解質構造体を用いた固体酸化物形燃料電池用単セルを利用すれば、より大きき電力を発生する高出力の固体酸化物形燃料電池を得ることができる。
【0020】
特に多孔質固体電解質層の気孔率が40〜90容量%であると、高出力、且つ耐久性に優れた固体酸化物形燃料電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、固体酸化物形燃料電池に用いる固体電解質構造体の製造方法、その製造方法によって製造された固体電解質構造体、及び、その固体電解質構造体を用いた固体酸化物形燃料電池用単セルである。
【0022】
この固体電解質構造体は、焼成された固体電解質基板、或いは固体電解質原料を含有するスラリーを硬化させた固体電解質基板の未焼成体の表面の一部又は全部を、固体電解質原料及び有機高分子を溶媒中に分散させて含有する泡状スラリーで被覆して焼成することで製造することができる。
【0023】
このような製造方法によって得られた固体電解質構造体を用いた固体酸化物形燃料電池用単セルを利用すれば、より大きき電力を発生する高出力の固体酸化物形燃料電池を得ることができる。
【0024】
また、固体電解質基板に泡状スラリーを被覆して多孔質固体電解質層を形成する製造方法によれば、固体電解質基板が筒型やハニカム型などの複雑な形状であっても、多孔質固体電解質層を容易に形成することができる。
【0025】
以下に、前記固体電解質構造体、及びその製造方法の詳細を説明する。
【0026】
(固体電解質基板)
まず、固体電解質構造体の基板となる固体電解質を準備する。この固体電解質基板は、固体電解質材料によって形成されており、その形状は通常、SOFCやリアクターに用いられる形状であれば特に制限しない。具体的な形状としては、例えば、平板型などの板型、円筒型などの筒型、ハニカム型などが挙げられる。
【0027】
この固体電解質基板は既に焼成されているものであってもよいし、後述する泡状スラリーと共に焼成して固体電解質を形成可能な未焼成体であってもよい。固体電解質基板が未焼成体であれば、焼成時に泡状スラリーと共に収縮することによって、焼成によって固体電解質基板と泡状スラリーが剥離する等の不具合が生じにくい。
【0028】
固体電解質基板の未焼成体の形成方法は特には限定しないが、例えば、鋳込み成形方法、プレス成形方法、押出し成形方法、射出成形方法、シート成形方法など一般的な方法を用いることができる。その他の方法であっても、焼成することで固体電解質を形成可能な未焼成体が得られる方法であればよい。
【0029】
前記固体電解質材料とは、酸素イオン導電性を有するセラミックス材料のことであって、具体的には、蛍石型の結晶構造を取るものとして、イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)又はイットリア部分安定化ジルコニア(3YSZ)の他に、スカンジアで安定化した上、セリアもしくはアルミナがドープされたジルコニア(ScSZ)、あるいは、ガドリニウムもしくはサマリウムをドープしたセリア(GDC、SDC)などがあげられる。またペロブスカイト型結晶構造としてはストロンチウムやマグネシウムあるいはコバルトなどをドープしたランタンガレート(LSGM、LSGMC)などを使用することもできる。これらは、1種類で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。また、これらの固体電解質材料に不純物を含むものや、その他の種類のものであっても酸素イオン導電性を有するセラミックスであれば固体電解質材料として使用することができる。
【0030】
また、ある種のペロブスカイト系組成物などにみられるプロトン導電性のある電解質も、酸素イオン導電性を有し、本発明の趣旨をそこなうものではない。
【0031】
これらの固体電解質材料によって形成された固体電解質は、SOFCに使用する場合には緻密に焼上げた気孔率2容量%以下(好ましくは1容量%以下)のものが良いが、特殊なDFFCや特殊な電気化学リアクターとして使用する場合においては通気性を有する気孔率50容量%以下の多孔質体とすることもある。
【0032】
また、固体電解質基板は、燃料ガスと酸化剤ガスを隔離する壁の厚みが100〜2000μmであることが好ましく、200〜1500μmであることが特に好ましく、350〜1000μmであることが特に好ましい。壁の厚みが薄すぎると、固体電解質構造体の製造時に破損しやすくなる。また、この固体電解質構造体を使用したSOFCを運転した際にも破損する恐れがある。逆に、壁の厚みが厚すぎると固体電解質構造体の内部抵抗が大きくなり、SOFCなどに使用した際に高い出力が得難くなる。
【0033】
ただし、固体電解質基板の燃料ガスと酸化剤ガスを隔離する壁の片側にしか、多孔質固体電解質層をしない場合には、燃料極材料層又は空気極材料層によって固体電解質基板が支持される電極支持型にすることによって、固体電解質基板の厚みを更に薄くすることができる。即ち、十分な強度をもつ燃料極材料層又は空気極材料層の表面に薄膜状の固体電解質基板を形成すれば、固体電解質基板が薄くても、燃料極材料層又は空気極材料層と一体となって十分な強度を発揮するため、固体電解質構造体の製造時に破損したり、SOFCを運転した際にも破損したりすることも少なくなる。厚みを薄くすることによって、固体電解質構造体の内部抵抗を小さくすることができ、より高出力のSOFCが得やすくなる。
電極支持型にした場合には、固体電解質基板の厚みは5μm以上が好ましい。厚みが5μmより小さいと電極支持型にしても、SOFCを運転時に固体電解質基板が破損する場合がある。
なお、電極支持型の場合には、下記の多孔質固体電解質層は、固体電解質基板の支持体となる燃料極材料層又は空気極材料層がない側にのみ形成する。
【0034】
(泡状スラリー)
次に、前記固体電解質基板に被覆する泡状スラリーを調整する。
この泡状スラリーは、固体電解質原料、有機高分子等の材料が溶媒中に分散、乳化、或いは溶解されたものあって、且つ気泡を含ませて調整されたものである。
【0035】
なお、本明細書では、泡状とは、スラリーが泡立てられて微小気泡を多数内包している性状をいう。特に、微小気泡を内包するスラリーであって気泡の混入率が30容量%以上であるものを泡状スラリーという。なお、この混入率とは、泡立てたスラリーの容積中に占める気泡の容積の割合である。例えば、気泡を含まないスラリーを容積が2倍になるまで泡立てて得た泡状スラリーの気泡混入率は50容量%となる。
【0036】
この泡状スラリーを、必要に応じて乾燥、硬化、或いはゲル化させた後に焼成することによって、多孔質固体電解質を形成することができる。
【0037】
前記固体電解質原料は、焼成することで酸素イオン導電性を有する固体電解質を形成する無機成分であって、例えば、前記した固体電解質基板を形成する固体電解質材料の粉末など、この技術分野において固体電解質の形成に通常用いられるセラミック粉末を用いることができる。
【0038】
なお、セラミック粉末は、1種類の固体電解質材料粉末からなるものであっても、2種類以上の固体電解質材料粉末を混合したものであってもよい。また、セラミック粉末を焼成して得られたものが酸素イオン導電性を有するセラミックスとなる範囲であれば、固体電解質材料粉末以外の無機粉末を含有していてもよい。
【0039】
前記固体電解質材料粉末以外の無機粉末としては、例えば、非晶質であってガラス転移点がセラミック粉末に含まれる固体電解質材料の融点以下の無機材の粉末(以下、無機バインダーともいう)や、後述する電極材料層を形成する無機材の粉末(以下、電極材料粉末ともいう。)などを用いることができる。
【0040】
前期無機バインダーとしては、硼珪酸系ガラス、ジルコンフリット、SiO−Al−CaO−NaO、SiO−Al−B−CaO−NaO、SiO−Al−B−CaO−F、SiO−Al−B−ZrO2−Fなどが挙げられる。無機バインダーを含有することで、固体電解質基板と泡状スラリーを焼成した多孔質固体電解質との密着性を向上させ、SOFCの耐久性を向上させることができる。
【0041】
前記電極材料粉末については後に詳しく述べる。電極材料粉末を含有することで、多孔質固体電解質層に空気極材料層又は燃料極材料層を形成する際に、多孔質固体電解質層と空気極材料層又は燃料極材料層との密着力が向上させ、SOFCの耐久性を向上させることができる。即ち、SOFCを繰り返し使用することによる出力の低下を抑えることができる。
【0042】
なお、これらの固体電解質材料粉末以外の無機粉末と固体電解質材料粉末の含有量は、前記泡状スラリー中の無機成分全体のうち固体電解質材料粉末以外の無機粉末が10質量%以下、固体電解質材料粉末が90質量%以上であることが好ましく、固体電解質材料粉末以外の無機粉末が5質量%以下、固体電解質材料粉末が95質量%以上であることが特に好ましい。固体電解質材料の含有量が少なすぎると、泡状スラリーを焼成して得られる多孔質固体電解質の酸素イオン導電性が低下してしまう。
【0043】
泡状スラリーに用いる固体電解質材料粉末は、その泡状スラリーで被覆する固体電解質基板に含まれる固体電解質材料と同一のものを含むことが好ましい。そうすることで、固体電解質基板と多孔質固体電解質層との密着が良好なものとなる。
【0044】
更に、固体電解質材料粉末以外の無機粉末と固体電解質材料粉末とを含めた、泡状スラリーに含有される無機成分中に、固体電解質基板に含まれる固体電解質材料と同一のものを80質量%以上(望ましくは90質量%以上)含有させれば、固体電解質基板と多孔質固体電解質層との熱収縮率及び熱膨張率の差が小さくなり、固体電解質構造体の焼成時に固体電解質基板と多孔質固体電解質層とが剥離する等の不具合を抑制できる。また、SOFCの運転によって加熱・冷却を繰り返しても、固体電解質基板と多孔質固体電解質層とが剥離する等の不具合が生じにくくなる。
【0045】
固体電解質材料粉末も含めた無機粉末は、平均粒子径0.01〜10μmのものを用いることが好ましい。平均粒子径がこの範囲であれば泡状スラリーが泡立ちやすく、また無機粉末が沈降することによる材料の分離も起こりにくいため、安定した性状の泡状スラリーを得やすい。なお、前記平均粒子径とは、動的光散乱法又はレーザー回析散乱法により求めた値である。
【0046】
前記有機高分子は、熱可塑性(非架橋性)又は熱硬化性(架橋性)を問わず使用することができる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、澱粉、水溶性セルロース類(メチルセルロース:MC 、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース 、カルボキシメチルセルロース等)などの水溶性高分子;ポリ酢酸ビニル系、アクリル樹脂系、ポリウレタン系、ポリエステル系、エポキシ樹脂系、フッ素樹脂系等の各種熱可塑性又は熱硬化性合成樹脂、さらには、木粉、天然繊維、合成繊維などを挙げることができる。
【0047】
また、有機高分子が既に溶媒に乳化又は溶解されているものを使用することもできる。例えば、水系塗料分野において樹脂バインダーとして一般的に使用されている合成樹脂エマルション、合成樹脂溶液などを挙げることができる。
【0048】
これらの有機高分子の中でも、前記泡状スラリーには、造膜性を有するものを用いることが好ましい。このような有機高分子を用いることで、泡状スラリーを乾燥、硬化、或いはゲル化させて泡状スラリーの未焼成体を形成する際に、泡状スラリー時の形状を維持したままの未焼成体を形成しやすくなる。また、固体電解質原料等の粉末成分を未焼成体に留めておくことができ、未焼成体の形状を維持することができる。
【0049】
なお、造膜性とは、前記スラリー組成物の塗膜を乾燥や加熱させたとき、有機高分子の成分相互が融着した均一相(膜)を形成する特性をいう。
【0050】
造膜性を有する有機高分子としては、例えば、前記熱可塑性又は熱硬化性合成樹脂による合成樹脂エマルション、合成樹脂溶液、或いは、水に溶解させた水溶性高分子などが挙げられる。
【0051】
また、前記泡状スラリーには、有機高分子である起泡剤や増粘剤を添加することが好ましい。これらを用いることによって、泡状スラリーの泡立ちの程度や気泡の混入率などを調整し易くなる。
【0052】
前記起泡剤としては、蛋白質を主成分とする蛋白質系起泡剤、卵白、及び界面活性剤を主成分とする起泡剤(湿潤剤、分散剤などの起泡性のあるものも含む)などを用いることができる。起泡剤を利用することで、セラミックスラリーに気泡を混入させやすく、気泡の大きさの調整も容易となる。
【0053】
前記増粘剤としては、セラミックスラリーや塗料の増粘剤として通常用いられるものを用いればよく、例えばセルロース誘導体、ポリアクリルアミド類、ポリビニルアルコール、多糖類などを用いることができる。増粘剤を用いることで、気泡の壁面強度が向上して気泡が破裂しにくくなり、消泡を抑制して気泡を安定化することができる。
【0054】
前記溶媒としては、セラミックスラリーの溶媒として通常用いられるものを用いればよい。例えば、水、有機溶剤、アルコール、動植物油などを用いればよい。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0055】
なお、セラミックスラリーに微小気泡を内包させて泡状スラリーを容易に調整するには、セラミックスラリーは溶媒として水を使用したものであることが好ましい。
【0056】
また、スラリー全体に占める溶媒の含有割合は、10〜60質量%であることが好ましく、15〜35質量%であることが特に好ましい。溶媒が少なすぎるとスラリーに気泡を含ませることが難しい。逆に、溶媒が多すぎると、固体電解質構造体の製造過程において、固体電解質基板に被覆した泡状スラリーを乾燥、硬化、或いはゲル化する工程での容積の変化が大きく、多孔質固体電解質の気孔率を調整しにくくなる。溶媒の含有割合が上記の範囲であれば、泡状スラリーが乾燥、硬化、或いはゲル化する工程での容積の変化を抑制でき、泡状スラリーの気泡の混入率によって、多孔質固体電解質の気孔率を予測しやすい。
【0057】
前記泡状スラリーには、本発明の要旨を損なわない範囲において、上記成分以外の界面活性剤、湿潤剤、増粘剤などの添加剤を添加することもできる。なお、界面活性剤、湿潤剤、増粘剤などの添加剤の種類は特に限定されるものではない。泡状スラリーの性状安定や塗装作業性の向上などの目的に応じて、それらを適宜選択し、添加量を適宜に設定する。
【0058】
前記泡状スラリーは、上記した各種の材料を用いて、例えば、以下のように調整することができる。
【0059】
まず、溶媒中に固体電解質原料及び有機高分子、更に必要に応じてその他の材料を混合して、固体電解質原料、有機高分子、及びその他の材料を溶媒中に分散、乳化、或いは溶解させたスラリーを調整する。この段階では、スラリーは気泡をほとんど含まない。
【0060】
次に、前記のスラリーに気泡を混入させて泡状スラリーとする。泡を混入させる方法は特には限定されないが、例えば、スラリーをミキサーやインペラーなどで攪拌しながらスラリーに空気を導入して泡立てる方法や、スラリー中に管などを通して空気を導入することによって泡立てる方法などがある。
【0061】
なお、泡立てることによってスラリー中に形成された気泡の混入率は30容量%以上であることが好ましい。気泡の混入率が30容量%以上の泡状スラリーを用いれば、大きき電力を発生する高出力のSOFCを得るのに適した固体電解質構造体を得ることができる。
【0062】
ただし、泡状スラリーを焼成して得られる多孔質固体電解質の気孔率が大きすぎると多孔質固体電解質が脆くなってしまい、多孔質固体電解質に電極材料を形成する際に破損したり、燃料電池として使用するには耐久性が不足したりする場合があるため、気孔率が90容量%以下、より望ましくは80容量%以下になるように気泡混入率を調整することが好ましい。
泡状スラリーを焼成して得られる多孔質固体電解質の気孔率は、使用する固体電解質原料や有機高分子などの原材料の種類や、それらの配合割合などに影響されるため、気泡混入率のみによって調整することはできない。しかし、組成と気泡混入率が同じ泡状スラリーを用いて同じ条件(乾燥時間、焼成温度、焼成時間)で作製した多孔質固体電解質は、安定してほぼ同じ気孔率を示すため、泡状スラリーから多孔質固体電解質を一度試作して気孔率を測定することによって、その泡状スラリーから得られる多孔質固体電解質の気孔率は容易に推測できるようになる。なお、泡状スラリーを焼成して多孔質固体電解質を製造する作業は当業者であれば容易であり、多孔質固体電解質の気孔率は当業者であれば容易に測定できる。
【0063】
また、このスラリーにおける乾燥及び焼成によって消失しない成分(固体電解質原料等の無機成分)と乾燥及び焼成によって消失する成分(有機高分子等の有機成分及び溶媒成分)との含有比率は、消失しない成分100質量部に対して、消失する成分が30〜100質量部であることが好ましく、40〜80質量部であることが特に好ましい。これによって、固体電解質構造体を利用して高出力のSOFCが得やすくなる。
消失する成分の含有量が少なすぎると、多孔質固体電解質において、泡状スラリーに混入されていた気泡の痕によって形成された気孔間を気体や液体が移動しにくいものとなってしまう。消失する成分が上記範囲であれば、気孔と気孔とを隔てる壁に適度な穴が形成され、気孔間を気体や液体が移動しやすくなり、多孔質固体電解質の内部にまで気体や液体を送り込むことができ、高出力のSOFCが得やすくなる。逆に、消失する成分の量が多すぎると、泡状スラリーから形成される多孔質固体電解質が脆くなってしまい、SOFCの製造過程で電極材料層を形成する過程等において欠損を生じやすい。また、SOFCの運転による欠損も生じやすくなる。
【0064】
(被覆・焼成)
前記固体電解質構造体は、前記固体電解質基板に前記泡状スラリーを被覆して、それを焼成して製造したものである。
【0065】
泡状スラリーは、固体電解質基板の表面の全部に被覆してもよいが、表面の一部にだけ被覆してもよい。
【0066】
固体電解質基板の表面の全部に被覆する場合は、固体電解質構造体をSOFCに使用した際に燃料極となる側(以下、燃料極側ともいう)と空気極となる側(以下、空気極側ともいう)の両方の面の全体を泡状スラリーで被覆することとなる。
【0067】
また、表面の一部を被覆する場合としては、固体電解質基板の燃料極側の面にだけ被覆する場合、空気極側の面にだけ被覆する場合、燃料極側及び/又は空気極側の面の一部分にだけ被覆する場合などが挙げられる。
【0068】
また、固体電解質基板が筒型である場合には、固体電解質基板の筒内部に泡状スラリーを充填することで、筒型の固体電解質基板の内側の面に泡状スラリーを被覆してもよい。この場合、内部に泡状スラリーを充填した筒型の固体電解質基板を乾燥させた後、又は焼成した後に、固体電解質基板から多孔質固体電解質を一定の厚みだけ残して削り取ってもよい。
【0069】
泡状スラリーで被覆する方法は特には限定されないが、被覆時の破泡が少ない方法を選択した方がよい。破泡が少ない方法の例としては、固体電解質基板を泡状スラリーに浸漬してから引き上げたり、固体電解質基板上に泡状スラリーを垂らしたり、ヘラ等の塗装器具を用いて塗り付けたりすることによって、固体電解質基板に泡状スラリーを付着させ、必要に応じてその泡状スラリーの形状をヘラ等の塗装器具によって整える方法などがある。
また、また泡状スラリーの厚みを規制するための型枠を固体電解質基板から泡状スラリーの厚み分だけ離した位置に設け、固体電解質基板と型枠の隙間に泡状スラリーを充填し、泡状スラリーの乾燥後あるいは焼成後に型枠を除去する方法もある。なお、泡状スラリーの乾燥体あるいは焼結体は、型枠を除去する際に破損しやすいので、型枠を除去する方法は、型枠を剥離させる方法、型枠を削り取る方法、或いは、型枠には焼成によって消失する素材のものを用いて焼成時に消失させる方法などから適宜選択する。
【0070】
このようにして、固体電解質基板に泡状スラリーを被覆した後、必要に応じて泡状スラリーを乾燥、硬化、或いはゲル化させる工程を設ける。なお、泡状スラリーが乾燥するか硬化するかゲル化するかは泡状スラリーに含まれる造膜性を有する有機高分子の種類による。
泡状スラリーの乾燥、硬化、或いはゲル化は、泡状スラリーを被覆した固体電解質基板を静置して行う。このとき、乾燥、硬化、或いはゲル化を促進するために泡状スラリーに含まれる溶媒の沸点未満の温度で加熱しても構わない。なお、溶媒の沸点以上の温度で加熱すると泡状スラリーがその形状を保ったまま乾燥、硬化、或いはゲル化できない。なお、水を溶媒とした場合には、加熱温度は80℃以下であることがこのましい。
【0071】
泡状スラリーを乾燥、硬化、或いはゲル化させる工程を設けることによって、泡状スラリー内に形成した気泡を維持したまま多孔質固体電解質を形成することができ、また、焼成後の多孔質固体電解質の形状のばらつきが小さくなるため、この工程を設けることが好ましい。
【0072】
泡状スラリーを被覆した固体電解質基板の焼成は、通常、固体電解質を焼成するのと同様に行えばよい。焼成温度や焼成時間などの焼成条件は使用する固体電解質材料の種類によって適宜決定する。通常は1200〜1600℃程度の温度で2〜8時間程度の時間をかけて焼成される。
【0073】
(固体電解質構造体)
以上のように製造された固体電解質構造体は、固体電解質基板の表面の一部又は全部に多孔質固体電解質層が形成されてなる。SOFCの単セルに利用することを前提とすれば、固体電解質基板の燃料極側及び/又は空気極側に多孔質固体電解質層が形成されてなるとも言える。
なお、この固体電解質構造体は以下の特徴を有する。
【0074】
・ 多孔質固体電解質層には、泡状スラリーに混入されていた気泡の痕が気孔として残り、更にそれらの気孔は、気孔間を気体や液体が移動可能な連続気孔となる。気孔間の穴は電極材料粉末のスラリーも通過可能であって、それによって、SOFCを製造する際には、多孔質固体電解質層の内部にまで電極材料を容易に侵入させることができ、より多くの三相界面を得ることができる。また、SOFCとして使用する際には、多孔質固体電解質層の内部にまで燃料ガス或いは空気(酸化剤ガス)を送りこむことができる。それによって、SOFCの出力を向上させることができる。
【0075】
・ 泡状スラリーによって形成された多孔質固体電解質層の表面には、図1に示すように、気泡の殻(以下、シェルともいう)によって凹凸が形成されており、多孔質固体電解質層の表面積を増大させている。表面積が大きいことによって、SOFCとして使用する際には、より多くの三相界面を得ることができ、SOFCの出力を向上させることができる。また、サーマルサイクルやレドックスサイクルと呼ばれる加熱冷却や酸化還元反応による粒子間の動きを緩和し耐久性に優れた固体電解質構造体を提供できる。
なお、図2に示すように、多孔質固体電解質層を焼成した後、表面を研磨するなどして、多孔質固体電解質層の表面のシェルの一部を取り除くことによって、厚みを調節できる。表面のシェルの一部を取り除くと、より表面積を大きくでき、また、電極材料を多孔質固体電解質層の内部に侵入させやすくなる。
【0076】
・ 固体電解質構造体は、固体電解質基板の燃料極側又は空気極側、或いは両側に多孔質固体電解質層を形成することが容易にでき、更には、燃料極側や空気極側の一部にだけ多孔質固体電解質層を形成することも容易であって、設計の自由度が高い。特に、燃料極材料層又は空気極材料層によって固体電解質基板が支持される電極支持型のSOFC用単セルを製造する際には、電極材料層のない側にしか多孔質固体電解質層を形成できないが、本発明の製造方法によれば、電極材料層のない側にだけ多孔質固体電解質層を形成することも容易である。
【0077】
以上のように、固体電解質構造体の多孔質固体電解質層が泡状スラリーによって形成されたものであることによって、SOFCとして利用した際に高い出力が得られる。
更に、この固体電解質構造体が以下の構成要件を満たすものであれば、SOFCとして利用した際に特に高い出力が得られる。
【0078】
・ 固体電解質構造体の燃料極側に多孔質固体電解質層を形成すれば、高出力且つ耐久性に優れたSOFCが得やすい。SOFCでは、サーマルサイクルやレドックスサイクルと呼ばれる、加熱冷却や酸化還元反応による粒子間の動きによる不具合は、燃料極側の電極で発生しやすい。燃料極側に多孔質固体電解質層を形成することによって、そのような不具合を抑制することができるため高出力のSOFCが得やすく、SOFCの耐久性を上げることができる。
固体電解質基板の厚みを薄くできる、空気極層による電極支持型として、固体電解質基板の燃料極側に多孔質固体電解質層を形成したものが特に高出力且つ耐久性に優れたSOFCを得やすい。
【0079】
・ 固体電解質構造体が燃料ガスと酸化剤ガスを隔離する壁、即ちSOFCにおいてイオンを通す壁において、固体電解質基板の厚みは1500μm以下であることが好まく、1000μm以下であることが特に好ましい。この厚みが大きすぎると、固体電解質基板がイオンを通す際の内部抵抗が大きくなり、高出力が得られない。固体電解質基板の厚みを1500μm以下とすることで、高い出力を得ることができる。
ただし、固体電解質基板の厚みが小さすぎると、SOFCを運転した際に固体電解質構造体が破損する恐れがあので、厚みは100μm以上であることが好ましく、200μm以上であることが特に好ましい。
【0080】
・ 固体電解質構造体は、固体電解質基板を燃料極材料層又は空気極材料層によって支持する電極支持型とすることが好ましい。それによって、固体電解質基板厚みを100μm以下とすることが可能であって、固体電解質構造体の内部抵抗を小さくすることができ、より高出力のSOFCが得やすくなる。なお、電極支持型の場合、支持体となる燃料極材料層又は空気極材料層の厚みは、それらの形状や強度などを考慮して適宜設定する。
【0081】
・ 固体電解質構造体が燃料ガスと酸化剤ガスを隔離する壁において、多孔質固体電解質層の厚みは50〜5000μmであることが好ましく、100〜4000μmであることがより好ましく、200〜2000μmであることが特に好ましい。この厚みが大きすぎても小さすぎても高い出力を得ることができない。厚みを上記の範囲にすることで高い出力を得ることができる。なお、固体電解質基板の燃料極側と空気極側の両方に多孔質固体電解質層がある場合には、それぞれの多孔質固体電解質層が上記の範囲であればよい。
組成と気泡混入率が同じ泡状スラリーを用いて同じ条件(乾燥時間、焼成温度、焼成時間)で乾燥・焼成すると、乾燥・焼成による収縮率は安定してほぼ同じ値となるため、泡状スラリーから多孔質固体電解質を一度試作して収縮率を測定することによって、その泡状スラリーを被覆厚みから焼成後の多孔質固体電解質の厚みを容易に推測することができるようになる。乾燥・焼成による収縮率は、セラミックスを製造する上で必要なパラメーターであって、当業者であれば容易に測定できる。
【0082】
・ 多孔質固体電解質層の気孔率は、40〜90容量%であることが好ましく、50〜80容量%であることが特に好ましい。気孔率が小さすぎると、気孔の連続性が少なく、気孔内に電極材料を被覆できず多くの三相界面が得られないこと、及び燃料ガスや酸化剤ガスなどの気体が気孔間を移動しにくくなることで高出力のSOFCが得にくくなる。逆に、気孔率が大きすぎると、多孔質固体電解質が脆くなってしまい、SOFCの製造過程で電極材料層を形成する過程等において欠損を生じやすい。また、SOFCの運転による欠損も生じやすくなる。なお、多孔質固体電解質の気孔率は、泡状スラリー中の無機成分の含有割合や泡状スラリーの気泡の混入率を調整することで調整することができる。
【0083】
・ ただし、特殊なDFFCや特殊な電気化学リアクターにおいて、気孔率50容量%以下の固体電解質基材を用いた場合には、多孔質固体電解質層の気孔率は、40〜90容量%(好ましくは50〜80容量%)であって、且つ固体電解質基材の気孔率と多孔質固体電解質層の気孔率の差が15容量%以上になるように設定する。それによって、気孔率の大きな固体電解質基材においても、多孔質固体電解質層を設けることによる効果を得ることができる。
【0084】
(SOFC用単セル)
前記固体電解質構造体は、固体電解質構造体を挟んで空気極材料と燃料極材料とを備えるSOFC用単セルとして利用することができる。
以下、空気極材料と燃料極材料とを合わせて電極材料ともいう。
【0085】
そして、前記固体電解質構造体を用いた単セルを利用することで、高出力のSOFCを得ることができる。
【0086】
特に、SOFC用単セルの電極材料が、多孔質固体電解質層の気孔の内壁にも付着しているように形成されたものであれば、多くの三相界面が確保でき、SOFCがより高出力なものとなる。
【0087】
電極材料は、固体電解質構造体に付着していればよく、その製造方法は、SOFC用単セルの空気極材料と燃料極材料を形成する方法として公知の方法を採用すればよい。
【0088】
ただし、多孔質固体電解質層の気孔の内壁に電極材料を付着させる場合には、電極材料粉末を溶媒に分散させたスラリー又はペーストを用いてコーティングする方法を採用することが好ましい。スラリー又はペーストを用いれば気孔内に容易に電極材料を容易に付着させることができる。
【0089】
多孔質固体電解質層の気孔の内壁にスラリー又はペーストを付着させるには、固体電解質構造体の多孔質固体電解質層部分をスラリー又はペーストに浸漬して、スラリー又はペーストを浸透させればよい。多孔質固体電解質層にスラリー又はペーストが浸透しにくい場合には、スラリー又はペーストに圧力をかけたり、真空引きしたりして強制的にスラリー又はペーストを気孔内に送り込めばよい。
【0090】
前記燃料極材料としては、Ni、Fe、Co、Pt、Pd、Ru、Agなどの酸化物の単独もしくは混合を用いることができる。またそれらを前記した固体電解質材料である3YSZ、8YSZ、ScSZ、GDC、SDC、LSGMなどと混合したサーメットとして用いることもできる。これらの材料によって形成された燃料極は、還元した際に導電性がでると同時に、前記した固体電解質基板や多孔質固体電解質層を形成する固体電解質と熱膨張係数が近似していて、供給ガスや反応生成物の通過を妨げない粗構造を取ることが望ましい。
【0091】
前記空気極材料としては、Co、Fe、Cr、Mnなどの複合酸化物があげられる。前記複合酸化物としては、SSC;(Sm,Sr)CoO、LSM;(La,Sr)MnO、LSC;(La,Sr)CoO、(La,Sr)(Fe,Co)O、LNF;(LaNi0.6Fe0.4)、(La,Ca)MnOなどがある。また、Pt、Ag、Pdなどの金属を用いることも可能である。これらの材料によって形成された空気極は、酸化雰囲気でも導電性を有し、前記した固体電解質基板や多孔質固体電解質層を形成する固体電解質と熱膨張係数が近似していて、供給ガスや反応生成物の通過を妨げない粗構造を取ることが望ましい。
【0092】
これらの燃料極材料や空気極材料を溶媒に分散させたスラリー又はペーストには、溶媒以外にも必要に応じて添加剤やその他の成分を含有させてもよい。添加剤やその他の成分は公知のものを使用すればよい。
【0093】
なお、電極材料の粉末の平均粒子径0.05〜30μmのものを用いることが好ましく、0.05〜15μmのものが特に好ましい。平均粒子径がこの範囲であればスラリー状にした電極材料粉末を多孔質固体電解質層の気孔内部にまで送り込むことができる。平均粒子径が大きすぎると、気孔間の穴を電極材料粉末が通過しにくくなり、気孔内部にまで電極材料を送り込みにくくなってしまい、気孔の内壁に十分に電極材料を付着させにくい。逆に、平均粒子径が小さすぎるとスラリーの粘性が多孔質固体電解質層への浸透に適さないものとなりやすく、気孔内部にまで電極材料を送り込みにくい。なお、前記平均粒子径とは、動的光散乱法又はレーザー回析散乱法により求めた値である。
【0094】
前記SOFC用単セルとその他のSOFCの部材とを組み合わせてSOFCが得られる。SOFCの構造は公知のものであればよく、固体電解質構造体の形状やサイズをSOFCに合わせて設計して、SOFC用単セルを製造すればよい。
【実施例】
【0095】
(実施例1)
固体電解質基板として、LSGMからなり、外径20mm、長さ25mm、厚み500μmの円筒型の固体電解質(気孔率1容量%以下)を用いた。この固体電解質基板を図3(a)に示す。
【0096】
泡状スラリーは以下の手順で調整した。
まず、以下の配合で原材料を起泡が混入しないように混合攪拌して、固体電解質粉末を含有するスラリーを調整した。
なお、固体電解質粉末としてLSGM粉末(平均粒子径0.8μm)、分散剤としてポリアクリル酸系分散剤、造膜性を有する有機高分子水溶液としてポリビニルアルコールの15質量%水溶液、起泡剤としてタンパク質系界面活性剤、増粘剤としてセルロース系増粘剤を用いた。
【0097】
固体電解質粉末 20質量部
水 5質量部
分散剤 0.1質量部
有機高分子水溶液 3質量部
起泡剤 0.2質量部
増粘剤 0.1質量部
【0098】
次に、ミキサーを用いて、このスラリーを容積が2倍になるまで泡立てて、気泡混入率50容量%の泡状スラリーを得た。
【0099】
この泡状スラリーに前記の固体電解質基板を浸漬した後に、泡状スラリーから固体電解質基板を取り出して、泡状スラリーで被覆された固体電解質基板を得た。この固体電解質基板を24時間静置して、泡状スラリーを乾燥させた後、固体電解質基板の筒の端面に付着した泡状スラリー乾燥体を削り取った。
【0100】
その後、泡状スラリーで被覆した固体電解質基板を1450℃で5時間焼成して、円筒型の固体電解質基板の外壁面と内壁面に多孔質固体電解質層を備えた固体電解質構造体を得た。この固体電解質構造体を図3(b)に示す。
この固体電解質構造体の多孔質固体電解質層は、気孔率70容量%、厚み1000μmであった。
【0101】
次に、この固体電解質構造体に空気極材料と燃料極材料を以下の手順で定着させて、SOFC用単セルを製造した。
【0102】
燃料極材料としてニッケル粉末(平均粒子系1μm)8質量部、LSGM(平均粒子径1μm)2質量部、ポリビニルブチラールのブチルセロソルブ15質量%溶液4質量部を分散混合して、燃料極材料スラリーを調整した。
【0103】
この燃料極材料スラリーを固体電解質構造体の筒の内側に塗布した。塗布する際に固体電解質構造体の管内を真空にして真空引きを行い、燃料極材料スラリー筒内に充填することでスラリーを多孔質固体電解質層の内部まで送り込んだ。その後、筒内から燃料極材料スラリーを抜き取り、多孔質固体電解質層に付着している燃料極材料スラリーだけを残した。
【0104】
次に、空気極材料としてSSCを10質量部、ポリビニールブチラールのブチルセロソルブ15質量%溶液4質量部を分散混合して、空気極材料スラリーを調整した。
【0105】
この空気極材料スラリーを固体電解質構造体の筒の外側に刷毛を用いて塗布した。
この塗装方法では、空気極材料スラリーは多孔質固体電解質層の表面に付着し、気孔内部にまでは僅かに浸透しただけであった。
【0106】
燃料極材料スラリーと空気極材料スラリーを塗布して乾燥させた後、固体電解質構造体を1100℃で3時間焼成して、固体電解質構造体を挟んで空気極材料と燃料極材料とを備え、多孔質固体電解質層の気孔の内部にも空気極材料および燃料極材料が付着しているSOFC用単セルを得た。
【0107】
(実施例2)
実施例1で用いたものと同じ固体電解質基板と泡状スラリーを用いて、以下の手順で固体電解質構造体を作製した。
【0108】
まず、図4(a)に示すように固体電解質基板11を離型板31の上に設置した。次に、固体電解質基板11の内部に泡状スラリーを充填して、24時間静置した。
【0109】
24時間静置して泡状スラリーを乾燥させた後、離型板31を取り外し、図4(b)に示す、泡状スラリーの乾燥体21´が充填された固体電解質基板11を得た。
【0110】
その後、泡状スラリーの乾燥体21´の中心に穴を開けてから、これを1450℃で5時間焼成して、円筒型の固体電解質基板の内壁面に多孔質固体電解質層を備えた固体電解質構造体を得た。この固体電解質構造体を図4(c)に示す。
この固体電解質構造体の多孔質固体電解質層は、気孔率70容量%、厚み500μmであった。
【0111】
次に、この固体電解質構造体に空気極材料と燃料極材料を実施例1と同じ方法で、筒の内側に燃料極材料、筒の外側に空気極材料を定着させて、SOFC用単セルを製造した。
【0112】
(実施例3)
固体電解質基板として、GDCからなり、外径15mm、長さ30mm、厚み1000μmの円筒型の固体電解質(気孔率30容量%)を用いた。
【0113】
泡状スラリーは、固体電解質粉末としてGDC粉末(平均粒子径1μm)、分散剤としてポリアクリル酸系分散剤、造膜性を有する有機高分子水溶液としてポリビニルアルコールの15質量%水溶液、起泡剤としてタンパク質系界面活性剤、増粘剤としてセルロース系増粘剤を用いた。
【0114】
固体電解質粉末 20質量部
水 5質量部
分散剤 0.1質量部
有機高分子水溶液 3質量部
起泡剤 0.2質量部
増粘剤 0.3質量部
【0115】
次に、ミキサーを用いて、このスラリーを泡立てて、気泡混入率65容量%の泡状スラリーを得た。
【0116】
この泡状スラリーに前記の固体電解質基板を浸漬した後に、泡状スラリーから固体電解質基板を取り出して、泡状スラリーで被覆された固体電解質基板を得た。そして、この固体電解質基板を24時間静置した。
【0117】
その後、泡状スラリーで被覆した固体電解質基板を1450℃で5時間焼成して、円筒型の固体電解質基板の表面全体に多孔質固体電解質層を備えた固体電解質構造体を得た。
この固体電解質構造体の多孔質固体電解質層は、気孔率80容量%、厚み2000μmであった。
【0118】
次に、この固体電解質構造体の筒の内側に実施例1で用いたものと同じ燃料極材料スラリーを刷毛で塗り、筒の外側に実施例1で用いたものと同じ空気極材料スラリーを刷毛で塗って乾燥させた後、1100℃で3時間焼成しすることによってSOFC用単セルを製造した。
【0119】
(実施例4)
電極支持型の固体電解質基板として、LSGMからなり、支持体となる燃料極材料の構造体と一体化された、平板型の固体電解質(気孔率1容量%以下)を用いた。
この構造体はニッケルと3YSZの混合物からなり、30mm×50mm×厚み2500μmの平板型で、気孔率30容量%で通気性を備えた燃料極材料の板に、焼成後には30mm×50mm×厚み10μmになる固体電解質基板の未焼成体を積層したものであった。なお、この固体電解質基板の未焼成体は、固体電解質原料を含有するスラリーを燃料極材料の板に塗布して乾燥させることで形成したものであった。
【0120】
この固体電解質基板の燃料極材料構造体と対向する面全体に、実施例1に用いたものと同じ泡状スラリーをヘラで塗りつけ、24時間静置した。
【0121】
その後、泡状スラリーで被覆した固体電解質基板を1450℃で5時間焼成して、平板型の固体電解質基板の片側の面に燃料極材料層を備え、もう片側の面に多孔質固体電解質層を備えた固体電解質構造体を得た。
この固体電解質構造体の多孔質固体電解質層は、気孔率65容量%、厚み2000μmであった。
【0122】
次に、この固体電解質構造体の多孔質固体電解質層の表面全体に実施例1で用いたものと同じ空気極材料スラリーを刷毛で塗って乾燥させた後、1100℃で3時間焼成しすることによってSOFC用単セルを製造した。
【0123】
本発明は上記実施例1〜4に限定されず、明細書に記載した本発明の要旨を変更しない範囲において実施すればよい。
例えば、実施例1〜4は、以下の点を変更して実施することも可能である。
【0124】
・ 実施例1においては、固体電解質基板の筒の端面に付着した泡状スラリーは乾燥後に削り取ったが、端面などの泡状スラリーの被覆が不要な部分に、粘着テープを貼り付けておいて、泡状スラリー被覆直後あるいは泡状スラリー乾燥後に、その粘着テープを剥がすことで、被覆が不要な部分に泡状スラリーを付着させないこともできる。また、固体電解質基板を泡状スラリーに浸漬させるのではなく、ヘラなどの工具を用いて被覆が必要な部分にだけ泡状スラリーを付着させてもよい。
【0125】
・ 実施例2においては、泡状スラリーの乾燥体21´の中心に穴を開けたが、この工程を行わず、泡状スラリーを焼成した後に多孔質固体電解質の中心に穴を開けても同じ形状のものを得ることができる。
【0126】
・ 実施例1で使用した泡状スラリーに更に、燃料極材料として用いたニッケル粉末を含有させたものを、燃料極側の多孔質固体電解質層の形成に用いてもよい。例えば、実施例1の項に記載した泡状スラリーの配合のうち、固体電解質粉末100質量部に対して10質量部のニッケル粉末を泡状スラリーに加えたものも使用できる。
【0127】
・ 実施例4では、燃料極材料の板に固体電解質基板を形成したものを用いて、空気極側に多孔質固体電解質を形成したが、空気極材料の板に固体電解質基板を形成したものを用いて、燃料極側に多孔質固体電解質を形成してもよい。
【0128】
(出力測定)
実施例1で作製したSOFC単セルの出力を測定するために、燃料として水素ガス、酸化剤として空気を用いて、700℃の条件下で発電させて、電圧と電流密度を測定した。
なお、測定では、電流密度0A/cmの状態から発電を開始し、電流密度が0.01A/cm変化する毎に電圧の測定を行なった。
【0129】
測定結果を、横軸を電流密度、縦軸を電圧とした図5のグラフに示す。なお、図5には、代表的な測定値と、測定結果から得られた回帰直線のみを示す。



【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】固体電解質基板の片側にのみ多孔質固体電解質を形成した固体電解質構造体の断面模式図
【図2】図1の固体電解質構造体の多孔質固体電解質層表面のシェルを除去したものの断面模式図
【図3】実施例1に示す固体電解質構造体の模式図
【図4】実施例2に示す固体電解質構造体の模式図
【図5】実施例1に示すSOFC単セルの出力の測定結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0131】
1 固体電解質構造体
11 固体電解質基板
21 多孔質固体電解質層
21´ 泡状スラリーの乾燥体
22 気孔(泡状スラリーの気泡の痕)
23 気孔のシェル
22´ シェルが取り除かれた気孔
31 離型板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池に用いる固体電解質構造体の製造方法であって、焼成された固体電解質基板、或いは固体電解質基板の未焼成体の表面の一部又は全部を、固体電解質原料、有機高分子及び溶媒を含有する泡状スラリーで被覆して焼成し、前記固体電解質基板の表面に多孔質固体電解質層を形成することを特徴とする固体電解質構造体の製造方法。
【請求項2】
前記固体電解質基板の燃料極側には多孔質固体電解質層を形成し、空気極側には多孔質固体電解質層を形成しないことを特徴とする請求項1に記載の固体電解質構造体の製造方法。
【請求項3】
固体電解質基板の表面の一部又は全部に、固体電解質原料、有機高分子及び溶媒を含有する泡状スラリーを焼成して形成された多孔質固体電解質層を備えることを特徴とする固体電解質構造体。
【請求項4】
多孔質固体電解質層の気孔率が40〜90容量%であることを特徴とする請求項3に記載の固体電解質構造体。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の固体電解質構造体を挟んで空気極材料と燃料極材料とを備えることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用単セル。
【請求項6】
前記空気極材料及び/又は燃料極材料が、多孔質固体電解質層の気孔の内壁にも形成されていることを特徴とする請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池用単セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−142001(P2011−142001A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1775(P2010−1775)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】