説明

固体電解質膜型反応器

【課題】 多孔質支持体中のガス拡散の影響を排除する構造とすることにより、合成ガス等の利用価値の高いガス種を高効率な化学変換反応によって得ることを可能とした、新しい構造の支持膜型膜型反応器の提供を目的とする。
【解決手段】 多孔質支持体1と、この上に形成された酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質からなる緻密層2と、前記緻密層2の上に形成された触媒層3とからなる3層構造の反応構造体を用いた膜型反応器であって、前記触媒層3表面に炭化水素を主成分とした被処理ガス4を、前記多孔質支持体1側表面に高純度酸素ガス5を、それぞれ供給することを特徴とする固体電解質膜型反応器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を使って、炭化水素を主成分とした被処理ガスを部分酸化、あるいは改質し、合成ガス等利用価値の高いガス種に転換する膜型反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と一酸化炭素の混合ガスである合成ガスは、メタノール、フィッシャー・トロプシュ合成油、ジメチルエーテル等のクリーン燃料の原料であり、天然ガスやLPG等の飽和炭化水素ガスから触媒水蒸気改質法を使って合成する方法が実用化されている。最近では、大きな吸熱反応である改質反応を燃焼による発熱で熱補償するATR(Auto Thermal Reforming)反応に関する開発が盛んに行われるようになってきた。ATR開発と並んで、酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を用いた膜型反応器の開発も精力的に進められており、膜型反応器により合成ガスの製造コストが大幅に削減できるとの試算も報告されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
固体電解質を用いた膜型反応器の特徴は、選択的なガスの透過と、反応場(透過側に配置された触媒を加えた固体電解質−触媒−気相の3相界面)の提供にあると考えられる。酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を用いた膜型反応器の場合、3相界面を中心とした反応場で炭化水素ガスの部分酸化あるいは改質が行われ、合成ガス等の利用価値の高いガス種に化学変換される。この時の変換反応の速度は、酸素の供給速度(透過速度)と表面での触媒反応速度の関連で決定されるが、触媒反応は非常に迅速に進むため、酸素の透過速度(酸素供給側表面におけるイオン化速度と固体電解質内を移動するイオンの拡散速度)が律速すると言っていい。
【0004】
従来の膜型反応器は、大別すると固体電解質自体が炭化水素ガスと酸素含有ガスを隔離するタイプ(自立膜型)と、多孔質基体の上に固体電解質の薄膜を形成したタイプ(支持膜型)とがある。例えば、特許文献1でも述べられているように、両者を比較すると、支持膜型が理想的な構造と言える。
【0005】
即ち、前者は、十分な機械的強度を有するため、2種類のガスを隔離する上で信頼性は高いが、厚くなるために酸素の透過速度が著しく低下してしまい、上述した理由から変換効率が損なわれる。一方、後者は、信頼性の点で不利であると同時に、多孔質支持体/固体電解質緻密層/触媒層の3層構造としなければならないデメリットはあるものの、機械的な強度を多孔質支持体に持たせるため、固体電解質自体を薄くすることができる。この固体電解質の薄膜化は、直接、酸素の透過速度向上に寄与するため、膜型反応器の化学変換反応を飛躍的に上げられる大きなメリットを生む。
【0006】
【特許文献1】特開2002−97083号公報
【非特許文献1】Paul N. Dyer et al., "Ion transport membrane technology for oxygen separation and syngas production", Solid State Ionics, 134 (2000) p.21-33
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したことから、将来的には膜型反応器のタイプは支持膜型にならざるを得ないと考えられ、これまで本発明者らも、支持膜型の膜型反応器を開発してきた。しかしながら、支持膜型の膜型反応器を開発する過程で、幾多の改良を重ね、上述した信頼性や3層構造のデメリットを克服してきたものの、膜型反応器の化学変換反応が固体電解質の薄膜化によって期待される程増大しないことを突き止めた。鋭意検討を加えた結果、この原因が多孔質支持体中におけるガス拡散に起因したものであることを見出した。
【0008】
即ち、従来の方法で支持膜型膜型反応器を作動させようとすると、多孔質支持体に進入した酸素含有ガス(例えば、空気)の酸素のみが固体電解質の薄膜を透過するため、多孔体の中で酸素濃度が一時的に低下する。酸素濃度の一時的な低下は、供給する酸素含有ガスから酸素の拡散によって補われるが、酸素の透過速度が拡散速度を上回ると恒久的に酸素濃度の低下が生じる。支持膜型は、固体電解質の厚みを薄くして酸素の透過速度を上げると共に、多孔質支持体は強度を提供するため一定以上の厚みが必要であるところに特徴があることから、支持膜型では酸素の透過速度と拡散速度の関係は常に前者が大きくなる。したがって、多孔質支持体中の酸素濃度の低下は避けられず、これは透過速度の低下に直結するため、固体電解質を薄膜化したメリットが出づらい。
【0009】
なお、上述の説明は、従来の支持膜型膜型反応器において、多孔質支持体側に酸素含有ガス、触媒層側に炭化水素ガスを流すことを前提に、多孔質支持体中の酸素濃度の低下に関する問題点を指摘したが、支持膜型の構造を変えることにより、ガスの供給方法を反対にした膜型反応器も考えられる。即ち、支持膜構造を、多孔質支持体/触媒層/固体電解質緻密層とし、多孔質支持体側に炭化水素ガス、緻密層側に酸素含有ガスを供給する膜型反応器である。しかしながら、この構成でも多孔質支持体中で触媒共存により反応した生成ガスと原料の炭化水素ガスとの間でガス拡散が十分速くないと、化学変換反応の速度は著しく阻害される結果となる。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑み、多孔質支持体中のガス拡散の影響を排除する構造とすることにより、合成ガス等の利用価値の高いガス種を高効率な化学変換反応によって得ることを可能とした、新しい構造の支持膜型膜型反応器の提供を目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、上記の目的を達成するためには、多孔体中のガス拡散の影響が出ないよう、固体電解質薄膜への供給ガスとして、酸素含有ガスの代わりに高純度酸素を用いるのが根本的な解決になるとの結論を得、本発明をなすに至った。本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1) 多孔質支持体と、この多孔質支持体上に形成された酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質からなる緻密層と、前記緻密層の上に形成された触媒層とからなる3層構造の反応構造体を用いた膜型反応器であって、前記触媒層表面に炭化水素を主成分とした被処理ガスを、前記多孔質支持体側表面に高純度酸素ガスを、それぞれ供給することを特徴とする固体電解質膜型反応器。
(2) 前記高純度酸素ガスが、93%以上の酸素濃度であることを特徴とする(1)記載の固体電解質膜型反応器。
(3) 前記高純度酸素ガスが、酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を使って酸素含有ガスから分離生成する酸素であることを特徴とする(1)又は(2)記載の固体電解質膜型反応器。
(4) 前記膜型反応器内に、酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を使って酸素含有ガスから酸素を分離生成する機能を設けることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の固体電解質膜型反応器。
(5) 多孔質支持体と、この多孔質支持体上に形成された酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質からなる第一の緻密層と、前記多孔質支持体を挟んで前記第一の緻密層と対峙した位置に形成された酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質からなる第二の緻密層と、第一の緻密層の上に形成された触媒層とからなる4層構造の反応構造体であって、前記4層構造の前記触媒層側に炭化水素を主成分とした被処理ガスを、前記第二の緻密層側に酸素含有ガスを、それぞれ供給することを特徴とする固体電解質膜型反応器。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来問題となっていた多孔質支持体中で起きる酸素濃度の低下を抑えることができるため、酸素の透過速度の低下が無く、炭化水素等の被処理ガスを高効率で化学変換し、合成ガス等の利用価値の高いガス種を簡便に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
図1は、本発明の一例である。図1(a)は、多孔質支持体1と、この上に形成された酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質からなる緻密層2と、前記緻密層2の上に形成された触媒層3とからなる3層構造の反応構造体を用いた膜型反応器であって、前記触媒層3表面に炭化水素を主成分とした被処理ガス4を、前記多孔質支持体1側表面に高純度酸素ガス5を、それぞれ供給する固体電解質膜型反応器の例を、図1(b)は、前記3層構造の反応構造体(反応管6)の断面模式図を示す。
【0014】
本発明による膜型反応器は、従来の膜型反応器と比較してシンプルな反応器構造とすることができると言うメリットもある。即ち、従来の膜型反応器は、図2に示すように、反応官106の外側に被処理ガス104を供給しながら、反応管106の内側に酸素含有ガス105を常時供給するためのノズルを反応管1本毎に設ける必要があった。これに対し、本発明による膜型反応器ではガス流れの影響を考慮する必要が無いことから、酸素含有ガスを常時供給するためのノズルは必要ない。
【0015】
但し、ここで供給する高純度酸素5は、不純物ガスを全く含まない理想的な純酸素を用いることが現実問題として不可能であるため、図1(a)では、不純物ガスの滞留・蓄積を防止する機構を付帯している。即ち、高純度酸素ガスを常時循環させながら、循環系統中に酸素純化装置7を用い、同時に、透過によって減じた酸素の量を補充する機構を設ける。または、高純度酸素ガスを循環させること無く、透過によって減じた酸素分を補充して運転を行い、長期間の運転により不純物ガスの濃度が高くなった段階で高純度酸素雰囲気に置換する作業(フラッシング)を行っても良い。
【0016】
このように、図1(a)の膜型反応器では、多孔質支持体1中にある酸素は固体電解質を透過して触媒層3側に移るが、酸素濃度の低下は殆ど無く、一時的に生じるガス圧低下は外部からの補給があるため、定常状態として圧力は一定に保たれる。
【0017】
なお、用いる酸素ガスの純度が極端に悪くなると、循環系統中の酸素純化装置7が有効に働く前に、純度を落としていたガス(例えば、窒素)がすぐに多孔質支持体1に滞留してしまい、酸素透過の速度が低下してしまう。又は、フラッシング操作の頻度が多くなり、本発明のメリットを享受し辛くなる。このため、用いる酸素ガスの純度は高いほど有効となるが、種々検討した結果、93%以上がより望ましいことが分かった。
【0018】
ここで用いる高純度酸素は、どんな方法で製造しても本発明の範囲を逸脱するものではない。即ち、PSA(Pressure Swing Adsorption)と呼ばれる吸着剤を利用した酸素製造方法や深冷分離法と呼ばれる極低温下での空気の蒸留による酸素製造方法によって得られた酸素を用いることができる。
【0019】
但し、被処理ガス(炭化水素ガスが主成分)4から合成ガス等の利用価値の高い改質ガス8に化学変換する効率を、酸素製造を含めた総合効率で比較してみると、酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を使って酸素含有ガスから酸素を分離生成する方法で得られた酸素を用いる方がより好ましい。固体電解質を使った酸素分離方法は、700℃〜900℃程度の高温で、例えば、圧縮した空気を原料として供給すると、酸素分圧の違いを駆動力として高純度の酸素ガスを分離・生成するものであり、酸素濃度の低下した原料の高温高圧空気から熱と圧力のエネルギーが回収できるため、より少ないエネルギーで酸素を製造できるためである。
【0020】
更に、膜型反応器が同じように高温領域で作動するため、酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を使った酸素分離を膜型反応器と一体化することにより、総合効率はより向上する。これを実現するための具体例を図3に示す。酸素分離は酸素分圧の違いを駆動力とするため、空気等の酸素含有ガス15は分離側の酸素圧力より高い分圧となるよう、通常は圧縮される。但し、反応器6側の被処理ガス(炭化水素ガスが主成分)4は非常に酸素分圧が低い状態であるため、高純度酸素側の圧力は減圧された状態でも酸素の透過が起きる。したがって、酸素含有ガス15を圧縮する必要は必ずしもない。また、圧縮する場合には、炭化水素ガス領域も同圧となるように圧縮することにより容器内の圧力バランスが取れる。なお、図3で示している酸素分離管16は、自立膜型でもよいが、酸素の供給が律速してしまうことが無いよう十分な酸素透過能を有する必要があり、この場合も支持膜型である方が望ましい。
【0021】
酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を使った酸素分離を膜型反応器に組み込んだ高純度酸素利用膜型反応器の別の例を図4に示す。この場合も、図3の場合と同様、酸素含有ガス15や被処理ガス(炭化水素ガスが主成分)4は圧縮してもしなくてもよい。また、酸素分離管16は自立膜型でもよいが、支持膜型の方がより望ましい。
【0022】
本発明の別の例を図5に示す。図5(a)は、多孔質支持体1と、この上に形成された酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質からなる第一の緻密層9と、多孔質支持体1を挟んで第一の緻密層9と対峙した位置に形成された酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質からなる第二の緻密層10と、第一の緻密層9の上に形成された触媒層3とからなる4層構造の反応管の断面を図示したものである。この4層構造反応管の触媒層3側に炭化水素を主成分とした被処理ガス4を、第二の緻密層10側に酸素含有ガス15をそれぞれ供給する。また、図5(b)は、上記4層構造の反応管を使った固体電解質膜型反応器の例を図示したものである。
【0023】
酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質からなる第二の緻密層10によって、酸素含有ガス15から酸素のみが分離され、多孔質支持体1に供給される。多孔体中の高純度酸素は、酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質からなる第一の緻密層9を透過し、触媒層3中で被処理ガス(炭化水素ガスが主成分)4を改質し、合成ガス等の利用価値の高い改質ガス8に化学変換される。
【0024】
本構造は、多孔質支持体1側を高純度酸素にした前述の実施形態をさらに進化させたもので、高純度酸素製造と膜型反応器を一つの構造中に取り込んだものと言える。構造自体は前述の3層構造と比較すれば複雑となるが、逆にシステム全体がコンパクトとなるため、設備コストを削減する効果がある。
【0025】
本発明で開示した支持膜構造を形成する上で、用いられる材料に制限は特にない。既に知られている材料が好適に用いられる。例として、酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質からなる第一あるいは第二の緻密層(2、9、10)として、(La,Sr)(Co,Fe)Ox系のペロブスカイト酸化物、多孔質支持体1として、上記緻密層と同一材料やMgO等の酸化物、触媒層3として、Ni系、Fe系触媒を挙げることができる。
【0026】
また、各層の厚みも特に制限はない。但し、緻密層(2、9、10)は酸素以外のガスを透過させることが無いよう、貫通孔が発生しない範囲で可能な限り薄い方が望ましい。例えば、1μm以上100μm以下の範囲で選ばれる。多孔質支持体1は、十分な強度があればやはり薄い方がよく、例えば、1mm以上10mm以下の範囲で選ばれる。触媒層3は、炭化水素ガスの拡散が抑制されることがないよう、例えば、0.1μm以上10μm以下の範囲で選ばれる。
【0027】
支持膜構造は、既に知られている方法を組み合わせることにより、作製することができる。例えば、多孔質支持体1は、高温でガス化除去されるポア材をセラミックス粉と混合しておき、熱処理して作製することができる。緻密層(2、9、10)は、セラミックス粉が分散されたスラリーを使って多孔質支持体1に塗布、焼成する方法や、蒸着等の方法を使って形成することができる。触媒層3においても、市販の触媒をスラリー化し、緻密層(2、9)に塗布・乾燥後、焼き付けることで形成が可能である。
【0028】
反応構造体は、これまで円筒管形状のものを例として挙げてきたが、多孔体中のガス拡散の影響を除くと言う本発明のコンセプトに則っている限り、その形状に制限は無く、例えば、平板型等その他の形状でも適用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例、比較例で説明する。
【0030】
(実施例1)
La23、SrO、Co34、Fe23の粉末を、La0.3Sr0.7Co0.5Fe0.5x(xは、電荷中性条件を満たすように決まる値)の組成となるよう混合・粉砕し、空気中900℃で4時間仮焼した。得られた仮焼粉を粉砕し、粒度調整後、ポア材としてのPVA(ポリビニルアルコール)粉末と混合、一軸プレス成形し、1100℃で焼成して、直径20mm、厚さ2mmのディスク形状多孔質支持体を得た。
【0031】
上記仮焼粉砕粉を使って、別途、緻密層形成用のスラリーを調製した。調製方法は、仮焼粉1900g、溶媒(エタノール)3500ml、バインダー(ポリビニールブチラール樹脂)290gを転動ミルにて混合した。
【0032】
上記多孔質支持体の片側の表面に上記スラリーを塗布し、1250℃にて5時間焼成を行い、厚さ50μmの緻密層を形成した。
【0033】
触媒層は、市販のRu系触媒(東洋シーシーアイ(株)製)を有機溶媒に分散させ、スラリー状にして緻密層に塗布・乾燥後、これを850℃にて焼き付けて形成した。触媒層の厚みは、約0.1mmであった。
【0034】
こうして形成した試料を、図6に示す簡易評価装置を使って、メタンガス部分酸化反応測定を行った。簡易評価装置には、多孔質支持体21、固体電解質緻密層22及び触媒層23を備えた反応器を間に挟んで2つの空間を設け、多孔質支持体21側に高純度酸素又は空気24を供給するようにし、触媒層23側にメタン25を供給するようにした。また、反応器の外周部はシール材26を用いて封止した。更に、反応器の側方に電気炉27を配置した。そして、触媒層23側の空間から回収されたガスをガスクロマトグラフィ(ガスクロ)分析するようにした。
【0035】
測定は、温度850℃にて、触媒層23側表面にメタンガスを供給速度1×10-63(STP)/sec、多孔質支持体21側表面に高純度酸素(99.99995%純度、市販ボンベより供給)を供給速度1×10-63(STP)/secでそれぞれ供給して行った。両面とも圧力は常圧とした。メタンガス側から回収したガスをガスクロマトグラフで分析した結果、メタンの転化率90%、H2/CO=2と、部分酸化反応の化学両論比が得られた。また、メタンの転化率を基に、酸素の有効透過面積(1.1×10-42)を考慮して、酸素透過速度を見積もったところ、4×10-33(STP)・sec-1・m-2と高い値であることが分かった。
【0036】
(比較例1)
実施例1と同じ試料を使い、図6に示す簡易評価装置を使って、メタンガスの部分酸化反応測定を行った。測定は、温度850℃にて、触媒層23側表面にメタンガスを供給速度1×10-63(STP)/sec、多孔質支持体21側表面に空気を供給速度5×10-63(STP)/secでそれぞれ供給して行った。両面とも圧力は常圧とした。メタンガス側から回収したガスをガスクロマトグラフで分析した結果、メタンの転化率5%と、実施例1と比較して1/18の転化率となった。これは、酸素透過速度として2×10-43・sec-1・m-2と極めて低い値に相当する。
【0037】
(実施例2)
実施例1と同じ手順で、多孔質支持体21/緻密層22/触媒層23の3層構造ディスク試料と、多孔質支持体31/緻密層32の2層構造ディスク試料を調製した。各層の厚みは、実施例1と同じとした。図7に示す簡易評価装置の上部側に3層構造ディスク試料を触媒層23が上になるようにセットし、下部側に2層構造ディスク試料を緻密層32が下になるようにセットした。
【0038】
温度850℃にて、上部からメタンガスを供給速度1×10-63(STP)/secで、下部から空気28を供給速度5×10-63(STP)/secでそれぞれ供給して、メタンガスの部分酸化反応測定を行った。両面とも圧力は常圧とした。メタンガス側から回収したガスをガスクロマトグラフで分析した結果、メタンの転化率70%、H2/CO=2と、部分酸化反応の化学両論比が得られた。また、メタンの転化率を基に、酸素の有効透過面積(1.1×10-42)を考慮して、酸素透過速度を見積もったところ、3.2×10-33(STP)・sec-1・m-2と高い値であることが分かった。
【0039】
(実施例3)
実施例1と同じ手順で、緻密層/多孔質支持体/緻密層/触媒層の4層構造ディスク試料を調製した。各層の厚みは、実施例1と同じとした。図6に示す簡易評価装置を使って、4層構造ディスク試料を触媒層が上になるようにセットした。
【0040】
温度850℃にて、上部からメタンガスを供給速度1×10-63(STP)/secで、下部から空気を供給速度5×10-63(STP)/secでそれぞれ供給して、メタンガスの部分酸化反応測定を行った。両面とも圧力は常圧とした。メタンガス側から回収したガスをガスクロマトグラフで分析した結果、メタンの転化率78%、H2/CO=2と、部分酸化反応の化学両論比が得られた。また、メタンの転化率を基に、酸素の有効透過面積(1.1×10-42)を考慮して、酸素透過速度を見積もったところ、3.5×10-33(STP)・sec-1・m-2と高い値であることが分かった。
【0041】
(実施例4)
図8に示す酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を使った酸素分離を膜型反応器に組み込んだ実験装置を用いて、メタンの部分酸化反応測定を行った。酸素分離管16は、次の手順に従って作製した。まず、実施例1と同じ仮焼粉とPVA粉末を混合したものを円筒管形状となるようゴム型に充填し、CIP(静水圧プレス)成形後、1100℃にて焼成して多孔質支持体とした。これを緻密層形成用スラリーが満たされた容器にタンマン部を下にしてディップし、乾燥後、1250℃にて焼成して、外表面のみに緻密層を形成した。こうして、焼き上がり寸法として、外径約20mm、内径約15mm、長さ約300mm、緻密層厚さ約50μmの酸素分離管16を得た。メタンの部分酸化用反応管も同様の手順で作製した後、緻密層の上に市販のRu系触媒を分散させたスラリーを塗布して焼き付け、約50μm厚の触媒層を形成した。
【0042】
温度850℃にて、酸素分離部に空気24を供給速度5×10-43(STP)/secで、部分酸化部にメタンガスを供給速度1×10-43(STP)/secでそれぞれ供給して、メタンガスの部分酸化反応測定を行った。双方共に圧力は常圧とした。部分酸化側から回収したガスをガスクロマトグラフで分析した結果、メタンの転化率69%、H2/CO=2と、部分酸化反応の化学両論比が得られた。また、メタンの転化率を基に、酸素の有効透過面積(1.8×10-22)を考慮して、酸素透過速度を見積もったところ、1.9×10-33(STP)・sec-1・m-2と高い値であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)は多孔質支持体側表面に高純度酸素ガスを供給した高純度酸素利用固体電解質膜型反応器の例を示す図であり、(b)は(a)の3層構造反応管の断面を示す模式図である。
【図2】従来の膜型反応器の代表例を示す図である。
【図3】酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を使った酸素分離を膜型反応器に組み込んだ高純度酸素利用固体電解質膜型反応器の例を示す図である。
【図4】酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を使った酸素分離を膜型反応器に組み込んだ高純度酸素利用固体電解質膜型反応器の別の例を示す図である。
【図5】(a)は4層構造の膜型反応管の断面を示す模式図であり、(b)は4層構造の膜型反応管を使った固体電解質膜型反応器の例を示す図である。
【図6】メタンガス部分酸化反応測定に用いた簡易評価装置を示す図である。
【図7】メタンガス部分酸化反応測定に用いた別の簡易評価装置を示す図である。
【図8】酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を使った酸素分離を膜型反応器に組み込んだメタンガス部分酸化反応測定用実験装置を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1:多孔質支持体
2、9、10:緻密層
3:触媒層
4:被処理ガス
5:高純度酸素
6、17:反応管
7:酸素純化装置
8:改質ガス
15:酸素含有ガス
16:酸素分離管
21、31:多孔質支持体
22、32:固体電解質緻密層
23:触媒層
24:高純度酸素又は空気
25:メタン
26:シール材
27:電気炉
28:空気



【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体と、
この多孔質支持体上に形成された酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質からなる緻密層と、
前記緻密層の上に形成された触媒層と、
からなる3層構造の反応構造体を用いた膜型反応器であって、
前記触媒層表面に炭化水素を主成分とした被処理ガスを、前記多孔質支持体側表面に高純度酸素ガスを、それぞれ供給することを特徴とする固体電解質膜型反応器。
【請求項2】
前記高純度酸素ガスが、93%以上の酸素濃度であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解質膜型反応器。
【請求項3】
前記高純度酸素ガスが、酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を使って酸素含有ガスから分離生成する酸素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体電解質膜型反応器。
【請求項4】
前記膜型反応器内に、酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質を使って酸素含有ガスから酸素を分離生成する機能を設けることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の固体電解質膜型反応器。
【請求項5】
多孔質支持体と、
この多孔質支持体上に形成された酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質からなる第一の緻密層と、
前記多孔質支持体を挟んで前記第一の緻密層と対峙した位置に形成された酸素イオン・電子混合伝導性固体電解質からなる第二の緻密層と、
前記第一の緻密層の上に形成された触媒層と、
からなる4層構造の反応構造体であって、
前記4層構造の前記触媒層側に炭化水素を主成分とした被処理ガスを、前記第二の緻密層側に酸素含有ガスを、それぞれ供給することを特徴とする固体電解質膜型反応器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−298664(P2006−298664A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118794(P2005−118794)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(591234178)帝国石油株式会社 (7)
【Fターム(参考)】