説明

固体電解質電池

【課題】サイクル特性の劣化を抑制できる固体電解質電池を提供する。
【解決手段】この固体電解質電池は、基板10上に、正極側集電体膜30と、正極活物質膜40と、固体電解質膜50と、負極電位形成膜64と、負極側集電体膜70と、保護膜80とがこの順で積層された構成を有する。負極側集電体膜70は、負極内側集電体膜70aおよび負極外側集電体膜70bから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固体電解質電池に関する。さらに詳しくは、電池構成部材を薄膜で形成した薄膜固体リチウム二次電池等の固体電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等のリチウム系二次電池は、優れたエネルギー密度を有することから、携帯型電子機器等に使用されている。一般的なリチウム系二次電池では、電解質として電解液やゲル状電解質が使用されている。近年では、安全性や信頼性の観点から、電解液に代えて固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池の研究開発が、精力的に進められている。
【0003】
全固体リチウム二次電池の一形態として、正極、負極、固体電解質等の電池構成部材を薄膜化した固体電解質電池(薄膜固体リチウム二次電池)が提案されている。(非特許文献1参照)この薄膜固体リチウム二次電池は、薄膜化およびこれに伴う小型化という特徴を有することから、電気回路基板上にオンチップで組み込むことができる。また、薄膜固体リチウム二次電池は、ICカードやRFタグ等に組み込むこともできる。
【0004】
薄膜固体リチウム二次電池の一形態として、リチウムフリーの薄膜電池が提案されている。(非特許文献2参照)非特許文献2では、薄膜電池において、Liが析出する負極の試みがなされており、負極活物質は初期には存在せず、1回目の充電時に負極側集電体にLiが析出し、これが実質上の負極活物質となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. B. Bates et al.,“Thin-Film lithium and lithium-ion batteries”, Solid State Ionics, 135, 33-45(2000)(2. Experimental procedures, 3. Results and discussion)
【非特許文献2】B. J. Neudecker et al.,“Lithium-Free Thin-Film Battery with In Situ Plated Li Anode”, J. Electrochem. Soc., 147, 517-523 (2000)(Experimental)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池構成部材を薄膜化した固体電解質電池では、よりエネルギー密度を向上させるために、集電体等の周辺部材を薄化することが提案されている。しかしながら、集電体を薄化するに伴い、サイクル特性が劣化する。
【0007】
したがって、この発明の目的は、サイクル特性の劣化を抑制できる固体電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、この発明は、正極側層と、負極側層と、正極側層および負極側層の間にある固体電解質層とを備え、負極側層は、負極側集電体層を含み、負極側集電体層は、固体電解質層に近い側にある第1の負極側集電体層と、固体電解質層に遠い側にある第2の負極側集電体層とから構成され、第1の負極側集電体層は、銅、ニッケル、若しくはこれらの何れかを含む合金、またはステンレスを含み、第2の負極側集電体層は、アルミニウム、銀、またはこれらの何れかを含む合金を含む固体電解質電池である。
【0009】
この発明による固体電解質電池は、サイクル特性の劣化を抑制するために、以下の構成を有する。すなわち、この発明による固体電解質電池では、負極側集電体層は、固体電解質層に近い側にある第1の負極側集電体層と、固体電解質層に遠い側にある第2の負極側集電体層とから構成される。第1の負極側集電体層は、銅、ニッケル、若しくはこれらの何れかを含む合金、またはステンレスを含む。第2の負極側集電体層は、アルミニウム、銀、またはこれらの何れかを含む合金を含む。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、サイクル特性の劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の第1の実施の形態による固体電解質電池の構成例を示す断面図である。
【図2】この発明の第2の実施の形態による固体電解質電池の構成例を示す断面図である。
【図3】この発明の第3の実施の形態による固体電解質電池の構成例を示す断面図である。
【図4】サイクル特性の測定結果を示す棒グラフである。
【図5】サイクル特性の測定結果を示すグラフである。
【図6】サイクル特性の測定結果を示すグラフである。
【図7】サイクル特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。説明は、以下の順序で行う。なお、実施の形態の全図において、同一または対応する部分には同一の符号を付す。
1.第1の実施の形態(固体電解質電池の第1の例)
2.第2の実施の形態(固体電解質電池の第2の例)
3.第3の実施の形態(固体電解質電池の第3の例)
4.他の実施の形態(変形例)
【0013】
1.第1の実施の形態
この発明の第1の実施の形態による固体電解質電池について説明する。図1は、この発明の第1の実施の形態による固体電解質電池の構成例を示す断面図である。この固体電解質電池は、例えば、電池構成部材が薄膜で構成された薄膜型の固体電解質電池である。
【0014】
図1に示すように、この固体電解質電池は、基板10上に、正極側集電体膜30と、正極活物質膜40と、固体電解質膜50と、負極電位形成膜64と、負極側集電体膜70と、保護膜80とがこの順で積層された構造を有する。
【0015】
(基板)
基板10としては、例えば、ポリカーボネート(PC)樹脂基板、フッ素樹脂基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、ポリブチレンテレフタレート(PBT)基板、ポリイミド(PI)基板、ポリアミド(PA)基板、ポリスルホン(PSF)基板、ポリエーテルスルホン(PES)基板、ポリフェニレンスルフィド(PPS)基板、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)基板、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ガラス基板、アクリル基板等を使用することができる。基板10は、特に限定されるものではないが、導電性がなく、且つ、作製する電池の膜厚に応じて表面の平滑性が十分にあればよい。基板10としては、量産性、コストの点から、カーボネート樹脂基板、ガラス基板、アクリル基板が好ましい。
【0016】
(正極側集電体膜)
正極側集電体膜30を構成する材料としては、例えば、Ti、Cu、Ni、Al等を使用することができる。正極側集電体膜30を構成する材料は、導電性があり、繰り返し、充放電に対する耐久性に優れた材料であればよい。
【0017】
(正極活物質膜)
正極活物質膜40を構成する材料は、リチウムイオンを離脱および吸蔵させ易く、正極活物質膜に多くのリチウムイオンを離脱および吸蔵させることが可能な材料であればよい。また、電位が高く、電気化学当量の小さい材料がよい。例えば、Mn、Co、Fe、P、Ni、Si、Crの少なくとも1つとLiとを含む酸化物若しくはリン酸化合物、または硫黄化合物が挙げられる。具体的には、例えば、LiMnO2(マンガン酸リチウム)、LiMn24、Li2Mn24等のリチウム−マンガン酸化物、LiCoO2(コバルト酸リチウム)、LiCo24等のリチウム−コバルト酸化物、LiNiO2(ニッケル酸リチウム)、LiNi24等のリチウム−ニッケル酸化物、LiMnCoO4、Li2MnCoO4等のリチウム−マンガン−コバルト酸化物、Li4Ti512、LiTi24等のリチウム−チタン酸化物、その他、LiFePO4(リン酸鉄リチウム)、硫化チタン(TiS2)、硫化モリブデン(MoS2)、硫化鉄(FeS、FeS2)、硫化銅(CuS)及び硫化ニッケル(Ni32)、酸化ビスマス(Bi23)、鉛酸ビスマス(Bi2Pb25)、酸化銅(CuO)、酸化バナジウム(V613)、セレン化ニオブ(NbSe3)等が挙げられる。また、これらを混合して用いることも可能である。成膜性、電池のサイクル安定性や電位を考慮すると、LiCoO2やLiMnO2などのCoまたはMnとLiとを有するリチウム複合酸化物が好ましい。
【0018】
(固体電解質膜)
固体電解質膜50を構成する材料としては、固体のリチウムイオン伝導体を用いることができる。例えば、常温で1×10-6Scm-1以上の高いリチウム導電性と絶縁性とを有する無機化合物であればよい。具体的には、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸リチウム(Li3PO4)に窒素を添加したLi3PO4-xx(一般に、LiPONと呼ばれている。)、LiBO2x、Li4SiO4−Li3PO4、Li4SiO4−Li3VO4等を使用することができる。
【0019】
(負極電位形成膜)
負極電位形成膜64を構成する材料としては、正極活物質と同一材料または正極活物質と電位が近い材料を用いることができる。この固体電解質電池では、製造時点に、負極活物質膜を形成することなく、これに換えて負極電位形成膜64を形成している。負極活物質は充電と共に負極側に生じる。負極側に生じるのは、Li金属或いは固体電解質膜の負極側界面のLiが過剰に含まれる層である(以下、Li過剰層と称する)。
【0020】
この固体電解質電池では、過剰に堆積されるLi(Li過剰層)を負極活物質として利用しながら、充放電特性を損なわずに充放電の繰返しに対して高い耐久性を有する。
【0021】
負極電位形成膜64は、このようにLi過剰層がなくなった際の電位を形成するための層である(即ち、放電時にLi過剰層がなくなった後の充電時に再びLi過剰層が形成される)。また、負極電位形成膜64がLiを含む材料によって形成されている場合、充電の際に過剰にLiが入ったとしても限度があるため、充電容量の劣化が少ないという利点をも有する。更に、負極電位形成膜64から負極側集電体へのLiの拡散を抑えることができるために、集電体の劣化を抑え、繰返し充放電特性を極めて良好にすることができる。
【0022】
(負極側集電体膜70)
負極側集電体膜70は、負極内側集電体膜70aと、負極外側集電体膜70bとから構成されている。負極内側集電体膜70aは、厚さ方向において、固体電解質膜50に近い側に配置され、負極外側集電体膜70bは、厚さ方向において、固体電解質膜50に遠い側に配置されている。
【0023】
(負極内側集電体膜70a)
負極内側集電体膜70aを構成する材料としては、導電性を有すると共に、リチウムと合金化しにくい材料が選ばれる。また、上述のように、この固体電解質電池では、製造時に負極活物質膜を形成せず、充電により、Li過剰層が形成され、このLi過剰層が負極活物質として機能する。したがって、Li過剰層に近接する負極内側集電体膜70aは、充放電の繰り返しに伴う、Li過剰層の生成・消滅の影響を受けにくい材料で構成することが好ましい。すなわち、負極内側集電体膜70aは、充放電の繰り返しに伴う、Li過剰層の生成・消滅の影響を受けにくいような、柔らかい材料や、耐久性に優れた材料で構成することが好ましい。このような材料としては、具体的には、例えば、銅、ニッケル、若しくはこれらの何れかを含む合金、またはステンレス(SUS;Stainless Used Steel)が挙げられる。
【0024】
(負極外側集電体膜70b)
負極外側集電体膜70bを構成する材料としては、良好な導電性を確保するため、電気抵抗が低い材料が選ばれる。また、負極外側集電体膜70bは、保護膜80を介して、大気に接するため、大気に触れても劣化しにくい材料が好ましい。このような材料としては、具体的には、例えば、アルミニウム、銀、またはこれらの何れかを含む合金が挙げられる。
【0025】
負極側集電体膜70の厚さ(負極内側集電体膜70a+負極外側集電体膜70bの厚さ)の下限は、薄膜形成の点から10nmが好ましい。負極側集電体膜70の厚さが10nm未満であると、薄膜形成自体が困難になる傾向にある。負極側集電体膜70の厚さの上限は、サイクル特性の点からは特に限定されないが、エネルギー密度、タクトタイムの点から、150nmが好ましく、100nmがより好ましい。
【0026】
なお、負極側集電体膜70を単層で構成した場合には、その厚さの薄化に伴い、サイクル特性が低下する傾向にある。一方、この固体電解質電池では、負極側集電体膜70を2層で構成し、さらに、各層を最適な材料を選択して構成するにより、負極側集電体膜70を薄化した場合でも、良好な導電性を確保すると共に、耐久性を向上することができる。これにより、電池の長寿命化およびエネルギー密度の増大の両方を実現することができる。
【0027】
(保護膜)
保護膜80は、ガスバリア性を保持するために、絶縁性有機物または絶縁性無機物等で構成される。保護膜80は、単層で構成しても、複数の層で構成してもよい。保護膜80は、基板10上に積層された、正極側集電体膜30、正極活物質膜40、固体電解質膜50、負極電位形成膜64、および負極側集電体膜70からなる積層体の全体を覆うように設けられていてもよい。
【0028】
(固体電解質電池の製造方法)
上述した固体電解質電池は例えば以下のようにして製造できる。まず、基板10上に、正極側集電体膜30と、正極活物質膜40と、固体電解質膜50と、負極電位形成膜64と、負極内側集電体膜70aと、負極外側集電体膜70bと、保護膜80とを順次形成する。以上により、この発明の第1の実施の形態による固体電解質電池を製造できる。なお、各薄膜の形成には、スパッタリング法、蒸着法、メッキ、噴射塗布等を適宜用いることができる。
【0029】
なお、充放電の繰り返しに対する耐久性は低下するが、上述した固体電解質電池において、負極電位形成膜64を省略した構成としてもよい。すなわち、正極側集電体膜30/正極活物質膜40/固体電解質膜50/負極内側集電体膜70a/負極外側集電体膜70b/保護膜80の構成としてもよい。この場合には、一回目の充電により、固体電解質膜50と負極内側集電体膜70aとの界面に、Liが析出し、このLiが2回目以降の充放電において、負極活物質として機能する。
【0030】
2.第2の実施の形態
この発明の第2の実施の形態による固体電解質電池について説明する。図2は、この発明の第2の実施の形態による固体電解質電池の構成を示す断面図である。この固体電解質電池は、例えば、電池構成部材が薄膜で構成された薄膜型の固体電解質電池である。
【0031】
図2に示すように、この固体電解質電池は、基板10上に、正極側集電体膜30と、正極活物質膜40と、固体電解質膜50と、負極側集電体保護膜66と、負極側集電体膜70と、保護膜80とがこの順で積層された構造を有する。負極側集電体膜70は、負極内側集電体膜70aと、負極外側集電体膜70bとから構成されている。負極内側集電体膜70aは、厚さ方向において、固体電解質膜50に近い側に配置され、負極外側集電体膜70bは、厚さ方向において、固体電解質膜50に遠い側に配置されている。
【0032】
基板10、正極側集電体膜30、正極活物質膜40、固体電解質膜50、負極側集電体膜70(負極内側集電体膜70aおよび負極外側集電体膜70b)および保護膜80は、第1の実施の形態と同様であるので詳細な説明を省略する。以下では、負極側集電体保護膜66について説明する。
【0033】
(負極側集電体保護膜)
負極側集電体保護膜66を構成する材料は、リチウムイオンを吸蔵および離脱させ易く、多くのリチウムイオンを吸蔵および離脱させることが可能な材料であればよい。このような材料として、Sn、Si、Al、Ge、Sb、Ag、Ga、In、Fe、Co、Ni、Ti、Mn、Ca、Ba、La、Zr、Ce、Cu、Mg、Sr、Cr、Mo、Nb、V、Zn等の何れかの酸化物を使用することができる。また、これら酸化物を混合して用いることもできる。
【0034】
具体的には、例えば、シリコン−マンガン合金(Si−Mn)、シリコン−コバルト合金(Si−Co)、シリコン−ニッケル合金(Si−Ni)、五酸化ニオブ(Nb25)、五酸化バナジウム(V25)、酸化チタン(TiO2)、酸化インジウム(In23)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、酸化ニッケル(NiO)、Snが添加された酸化インジウム(ITO)、Alが添加された酸化亜鉛(AZO)、Gaが添加された酸化亜鉛(GZO)、Snが添加された酸化スズ(ATO)、F(フッ素)が添加された酸化スズ(FTO)等である。また、これらを混合して用いることもできる。
【0035】
負極側集電体保護膜66を形成する場合には、例えば、その膜厚は正極活物質膜の膜厚よりも十分薄く、これを負極活物質と見做した時そのLi含有理論容量が、正極活物質膜のLi含有理論容量の半分以下となる膜厚に選ばれる。電池の初期の充電では、負極側集電体保護膜66の一部が負極活物質のように振舞うが、負極側集電体保護膜66はすぐに満充電となり、その後Li過剰層が生じる。また、その後の充放電では、Li過剰層の生成・消滅の繰返しのみを利用するものである。従って、この固体電解質電池では、Li過剰層が実質上の負極活物質となっている。
【0036】
負極側集電体保護膜66は、電池の初期充電の際にLiを一部取り込むものの、その後の充放電の過程でLi含有量が一定値に保たれ、且つ、これによりLiの負極側集電体膜66への拡散を抑え、負極側集電体膜66の劣化を抑えることによって、繰返し充放電特性を極めて良好にし、更に、Liの負極側集電体膜66へ拡散による充電量の損失を最小限に抑える効果がある。もし、負極側集電体保護膜66がなければ、Liが負極側集電体膜66へ拡散してしまい、電池の充放電に伴うLiの総量を一定値に保持することができないので、充放電特性が劣化してしまう。
【0037】
なお、正極活物質膜40の厚さに対応して、固体電解質膜の負極側界面に形成されるLi過剰層の厚さは変化するが、負極側集電体保護膜66は、固体電解質膜50の負極側界面に形成されるLi過剰層に対する保護膜として十分に機能すればよいので、負極側集電体保護膜66の膜厚は、Li過剰層の厚さには直接関係せず、正極活物質膜40の厚さに依存しない。
【0038】
負極活物質の容量が正極活物質内のLi量よりも少ない場合には、負極活物質に入りきらないLiが界面に析出してLi過剰層をなしこれが負極活物質として機能することを、この固体電解質電池では利用する。この固体電解質電池では、負極側集電体保護膜66の膜厚を正極活物質膜40よりも十分に薄く形成して、充電されていない状態では実質的に負極活物質が存在しない状態としている。
【0039】
この固体電解質電池における、負極側集電体保護膜66は、負極活物質として利用される材料でもよいので、この場合には、より正確にいえば、一部は負極活物質として機能し、残りはLi過剰層に対する保護膜として機能する。負極側集電体保護膜66の膜厚が正極活物質膜40よりも十分に薄い場合には、その殆どが保護膜として使用される。
【0040】
この固体電解質電池では、負極側集電体保護膜66を正極活物質膜40の膜厚よりも十分に薄く形成して、界面に析出してなり負極活物質として機能するLi過剰層が、電池駆動の半分以上を担っている構成を有している。
【0041】
(固体電解質電池の製造方法)
上述した固体電解質電池は例えば以下のようにして製造できる。まず、基板10上に、正極側集電体膜30と、正極活物質膜40と、固体電解質膜50と、負極側集電体保護膜66と、負極内側集電体膜70aと、負極外側集電体膜70bと、保護膜80とを順次形成する。以上により、この発明の第2の実施の形態による固体電解質電池を製造できる。
【0042】
3.第3の実施の形態
この発明の第3の実施の形態による固体電解質電池について説明する。図3は、この発明の第3の実施の形態による固体電解質電池の構成を示す断面図である。この固体電解質電池は、例えば、電池構成部材が薄膜で構成された薄膜型の固体電解質電池である。
【0043】
図3に示すように、この固体電解質電池は、基板10上に、正極側集電体膜30と、正極活物質膜40と、固体電解質膜50と、負極活物質膜68と、負極側集電体膜70と、保護膜80とがこの順で積層された構造を有する。負極側集電体膜70は、負極内側集電体膜70aと、負極外側集電体膜70bとから構成されている。負極内側集電体膜70aは、厚さ方向において、固体電解質膜50に近い側に配置され、負極外側集電体膜70bは、厚さ方向において、固体電解質膜50に遠い側に配置されている。
【0044】
基板10、正極側集電体膜30、正極活物質膜40、固体電解質膜50、負極側集電体膜70(負極内側集電体膜70aおよび負極外側集電体膜70b)および保護膜80は、第1の実施の形態と同様であるので詳細な説明を省略する。以下では、負極活物質膜68について説明する。
【0045】
(負極活物質膜)
負極活物質膜68を構成する材料としては、リチウム金属、リチウム合金等を用いることができる。また、負極活物質膜68を構成する材料としては、リチウムイオンを吸蔵および離脱させ易く、多くのリチウムイオンを吸蔵および離脱させることが可能な材料を用いることも可能である。このような材料として、Sn、Si、Al、Ge、Sb、Ag、Ga、In、Fe、Co、Ni、Ti、Mn、Ca、Ba、La、Zr、Ce、Cu、Mg、Sr、Cr、Mo、Nb、V、Zn等の何れかの酸化物を使用することができる。また、これらの酸化物を混合して用いることもできる。
【0046】
具体的には、例えば、シリコン−マンガン合金(Si−Mn)、シリコン−コバルト合金(Si−Co)、シリコン−ニッケル合金(Si−Ni)、五酸化ニオブ(Nb25)、五酸化バナジウム(V25)、酸化チタン(TiO2)、酸化インジウム(In23)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、酸化ニッケル(NiO)、Snが添加された酸化インジウム(ITO)、Alが添加された酸化亜鉛(AZO)、Gaが添加された酸化亜鉛(GZO)、Snが添加された酸化スズ(ATO)、F(フッ素)が添加された酸化スズ(FTO)等である。また、これらを混合して用いることもできる。
【0047】
(固体電解質電池の製造方法)
上述した固体電解質電池は例えば以下のようにして製造できる。まず、基板10上に、正極側集電体膜30と、正極活物質膜40と、固体電解質膜50と、負極活物質膜68と、負極内側集電体膜70aと、負極外側集電体膜70bと、保護膜80とを順次形成する。以上により、この発明の第3の実施の形態による固体電解質電池を製造できる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
以下の方法で、図1に示す、負極側集電体膜が2層構造を有する薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0050】
ポリカーボネート基板上に、正極側集電体膜、正極活物質膜、固体電解質膜、負極電位形成膜、負極側集電体膜(負極内側集電体膜、負極外側集電体膜)の順にスパッタリングにより、成膜した。なお、スパッタリングによる成膜は、500μmのステンレスマスクを用いて行った。但し、リソグラフィー技術を用いてパターンを形成することもできる。
【0051】
具体的には、正極側集電体膜としてTiを100nm、正極活物質膜としてLiCoO2を200nm、固体電解質膜としてLi3PO4-xxを500nm、負極電位形成膜としてLiCoO2を10nm、負極内側集電体膜としてCuを5nm、負極外側集電体膜としてAlを5nm成膜した。
【0052】
各薄膜の成膜は、下記の条件で行った。なお、スパッタ時間に関しては、所望の膜厚が得られるように適宜調整した。スパッタリング装置は、アルバック社製SMO−01特型を用いた。
【0053】
(正極側集電体膜)
ターゲット組成:Ti
スパッタリングガス:Ar70sccm、0.45Pa
スパッタリングパワー:1000W(DC)
【0054】
(正極活物質膜)
ターゲット組成:LiCoO2
スパッタリングガス:(Ar80%+O220%、混合ガス)、20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:300W(RF)
【0055】
(固体電解質膜)
ターゲット組成:Li3PO4
スパッタリングガス:Ar20sccm+N220sccm、0.26Pa
スパッタリングパワー:600W(RF)
【0056】
(負極電位形成膜)
ターゲット組成:LiCoO2
スパッタリングガス:(Ar80%+O220%、混合ガス)、20sccm、0.20Pa
スパッタリングパワー:300W(RF)
【0057】
〔負極側集電体膜〕
(負極内側集電体膜)
ターゲット組成:Cu
スパッタリングガス:Ar70sccm、0.45Pa
スパッタリングパワー:500W(DC)
【0058】
(負極外側集電体膜)
ターゲット組成:Al
スパッタリングガス:Ar70sccm、0.45Pa
スパッタリングパワー:1000W(DC)
【0059】
<実施例2>
下記の条件で、負極内側集電体膜を成膜した。
【0060】
(負極内側集電体膜)
ターゲット組成:Ni
スパッタリングガス:Ar70sccm、0.45Pa
スパッタリングパワー:1000W(DC)
【0061】
以上の点以外は、実施例1と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0062】
<実施例3>
負極内側集電体膜の膜厚を10nmに変えた点以外は、実施例1と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0063】
<実施例4>
負極内側集電体膜の膜厚を20nmに変えた点以外は、実施例1と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0064】
<実施例5>
負極外側集電体膜の膜厚を10nmに変えた点以外は、実施例1と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0065】
<実施例6>
負極外側集電体膜の膜厚を20nmに変えた点以外は、実施例1と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0066】
<実施例7>
負極内側集電体膜の膜厚を95nmに変えた点以外は、実施例1と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0067】
<実施例8>
負極内側集電体膜の膜厚を145nmに変えた点以外は、実施例1と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0068】
<実施例9>
負極外側集電体膜の膜厚を95nmに変えた点以外は、実施例1と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0069】
<実施例10>
負極外側集電体膜の膜厚を145nmに変えた点以外は、実施例1と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0070】
<実施例11>
下記の条件で、正極活物質膜、負極電位形成膜を成膜した。
【0071】
(正極活物質膜)
ターゲット組成:LiMn24
スパッタリングガス:(Ar80%+O220%)、20sccm
スパッタリングパワー:300W
膜厚:120nm
【0072】
(負極電位形成膜)
ターゲット組成:LiMn24
スパッタリングガス:(Ar80%+O220%)、20sccm
スパッタリングパワー:300W
膜厚:5nm
【0073】
以上の点以外は、実施例1と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0074】
<実施例12>
負極電位形成膜を省略した構成とした点以外は、実施例11と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0075】
<比較例1>
負極側集電体膜を単層構造とした薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、負極側集電体膜を以下の条件で形成した点以外は、実施例1と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0076】
(負極側集電体膜)
ターゲット組成:Al
スパッタリングガス:Ar70sccm、0.45Pa
スパッタリングパワー:1000W(DC)
膜厚:10nm
【0077】
<比較例2>
負極側集電体膜を単層構造とした薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、負極側集電体膜を以下の条件で形成した点以外は、実施例1と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0078】
(負極側集電体膜)
ターゲット組成:Al
スパッタリングガス:Ar70sccm、0.45Pa
スパッタリングパワー:1000W(DC)
膜厚:5nm
【0079】
<比較例3>
負極側集電体膜を単層構造とした薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、負極側集電体膜を以下の条件で形成した点以外は、実施例1と同様にして、薄膜固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0080】
(負極側集電体膜)
ターゲット組成:Cu
スパッタリングガス:Ar70sccm、0.45Pa
スパッタリングパワー:500W(DC)
膜厚:5nm
【0081】
(充放電測定)
実施例1〜実施例10および比較例1〜比較例3の薄膜固体リチウムイオン二次電池について、以下のようにして、50サイクル後の容量維持率を求めた。
【0082】
作製した電池の充放電測定を行った。充放電条件は、60μA、4.1Vの定電流定電圧充電で、終止条件は15μA、6μAの定電流放電で、終止条件は1.0Vで、充放電サイクルを50回繰り返した。そして、1サイクル目の放電容量に対して、50サイクル目の放電容量を、50サイクル後の容量維持率として求めた。
【0083】
(評価)
実施例1、実施例2および比較例3について、50サイクル後の容量維持率を棒グラフ化したものを図4に示す。
【0084】
図4に示すように、実施例1および実施例2では、負極側集電体膜を、負極内側集電体膜(Cu膜またはNi膜)および負極外側集電体膜(Al膜)の2層で形成したため、50サイクル後で90%以上の容量維持率を示した。一方、比較例1では、負極側集電体膜を、単層(Al膜)で形成したため、50サイクル後で70%程度の容量維持率を示した。以上のことから、負極側集電体膜を、負極内側集電体膜(Cu膜またはNi膜)および負極外側集電体膜(Al膜)の2層で形成することにより、優れたサイクル特性を得られることが確認できた。
【0085】
実施例1、実施例3、実施例4および実施例7〜8、並びに比較例2について、負極側集電体膜の膜厚に対して、50サイクル後の容量維持率をプロットしたグラフを図5に示す。実施例1、実施例5、実施例6および実施例9〜10、並びに比較例3について、負極側集電体膜の膜厚に対して、50サイクル後の容量維持率をプロットしたグラフを図6に示す。
【0086】
図5および図6に示すように、2層で構成した負極側集電体膜の膜厚の総厚が10nm以上であると、より優れたサイクル特性を得られることが確認できた。なお、実施例1において、負極電位形成膜(LiCoO2膜)は10nmで、その成膜レートは、0.025nm/sec(300W)となっている。また、Al金属の成膜レートは、0.25nm/sec(300W)となっている(負極電位形成膜の成膜と同じサイズのターゲットおよび同じ成膜機を用いた場合)。すなわち、負極電位形成膜(LiCoO2膜)10nmを成膜するタクトの間にAl膜は、100nm成膜することができる。したがって、Al膜の膜厚を100nm以上とすると、製造タクトは、Al膜の成膜が律速となるため、Al膜の膜厚は、100nm以下であることがより好ましい。
【0087】
実施例11および実施例12について、上記の充放電測定と同様の条件で充放電を繰り返し、サイクル特性を評価した。図7に、充放電サイクル数に対して、容量維持率をプロットしたグラフを示す。
【0088】
図7に示すように、負極電位形成膜を形成した実施例11では、負極電位形成膜を形成していない実施例12より、より優れたサイクル特性を得られることが確認できた。これは、負極電位形成膜を形成することにより、負極側集電体膜へのLiの拡散を抑えることができるため、負極側集電体膜の劣化を抑えサイクル特性を極めて良好にすることができるからである。
【0089】
4.他の実施の形態
この発明は、上述したこの発明の実施形態に限定されるものでは無く、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。即ち、例えば、電池の膜構成を、基板10/負極外側集電体膜70b/負極内側集電体膜70a/負極電位形成膜64/固体電解質膜50/正極活物質膜40/正極側集電体膜30/保護膜80とすることもできる。また、例えば、負極側集電体膜70の厚さを150nm以下とした場合には、負極外側集電体膜70bの材料として、チタン(Ti)を用いてもよい。また、例えば、基板10に導電性材料を用いて正極側集電体膜30を省略した構造を有するようにしてもよい。また、例えば、正極側集電体材料からなる金属板で、正極側集電体膜30を構成してもよい。
【符号の説明】
【0090】
10・・・基板
30・・・正極側集電体膜
40・・・正極活物質膜
50・・・固体電解質膜
64・・・負極電位形成膜
66・・・負極側集電体保護膜
68・・・負極活物質膜
70・・・負極側集電体膜
70a・・・負極内側集電体膜
70b・・・負極外側集電体膜
80・・・保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極側層と、
負極側層と、
上記正極側層および上記負極側層の間にある固体電解質層と
を備え、
上記負極側層は、負極側集電体層を含み、
上記負極側集電体層は、上記固体電解質層に近い側にある第1の負極側集電体層と、
上記固体電解質層に遠い側にある第2の負極側集電体層と
から構成され、
上記第1の負極側集電体層は、銅、ニッケル、若しくはこれらの何れかを含む合金、またはステンレスを含み、
上記第2の負極側集電体層は、アルミニウム、銀、またはこれらの何れかを含む合金を含む固体電解質電池。
【請求項2】
充電時に、上記固体電解質層の負極側の界面にリチウム過剰層が形成される請求項1に記載の固体電解質電池。
【請求項3】
上記負極側層は、上記第1の負極集電体層と上記固体電解質層との間にある負極電位形成層をさらに含む請求項2に記載の固体電解質電池。
【請求項4】
上記負極電位形成層は、正極活物質と同一材料または正極活物質と電位が近い材料を含む請求項3に記載の固体電解質電池。
【請求項5】
上記正極活物質は、CoまたはMnと、Liとを有するリチウム複合酸化物を含む請求項4に記載の固体電解質電池。
【請求項6】
上記負極側層は、上記第1の負極側集電体層と上記固体電解質層との間にある負極活物質層を含む請求項1に記載の固体電解質電池。
【請求項7】
上記正極側層を構成する各層および上記負極側層を構成する各層並びに上記固体電解質層の少なくとも何れかが、薄膜で形成された請求項1〜6の何れかに記載の固体電解質電池。
【請求項8】
上記負極側集電体層の膜厚は、10nm以上である請求項1〜7の何れかに記載の固体電解質電池。
【請求項9】
上記負極側集電体層の膜厚は、150nm以下である請求項8に記載の固体電解質電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−59497(P2012−59497A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200872(P2010−200872)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】