説明

固体高分子電解質膜、固体高分子電解質膜の製造方法及び固体高分子型燃料電池

【課題】 高濃度アルコール燃料による発電に適した固体高分子電解質膜膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 多孔性高分子膜と、プロトン伝導性基を含有するプロトン伝導成分と、を少なくとも有する固体高分子電解質膜であって、
前記プロトン伝導成分として、第一のプロトン伝導成分と、該第一のプロトン伝導成分よりも酸解離度が小さい第二のプロトン伝導成分と、を有し、
前記第二のプロトン伝導成分は、前記多孔性高分子膜の孔を該多孔性高分子膜の膜面方向にふさぐように存在しており、
前記固体高分子電解質膜中に存在する前記第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数が、該固体高分子電解質膜中に存在する前記第二のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数よりも多いことを特徴とする固体高分子電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜、固体高分子電解質膜の製造方法及び固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の電解質膜としては、パーフルオロスルホン酸膜が広く用いられる。パーフルオロスルホン酸膜はプロトン伝導性に優れるが、メタノール水溶液などの液状アルコール燃料を用いた場合に、膜が膨潤する、燃料を透過させやすいため発電効率が低いといった課題がある。
【0003】
これらの課題を解決するために絶縁性多孔膜の多孔内にプロトン伝導性ポリマーを充填した電解質膜が検討されている。この電解質膜は絶縁性多孔膜を基材に用いることで含水による寸法変化を抑えることができ、含水した状態でもアルコール透過性を抑制できるといった利点がある。
【0004】
このような固体高分子電解質膜の例として、特許文献1には、ポリイミド多孔質フィルムに2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と架橋剤を充填して重合させた電解質膜が記載されている。
【0005】
また、別の固体高分子型電解質膜として、特許文献2では、架橋ポリエチレン膜に2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と架橋剤を充填して重合させた電解質膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−263998号公報
【特許文献2】特開2004−253336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の固体高分子電解質膜は、低濃度メタノール水溶液の透過抑制には適するものの、高濃度メタノール溶液の透過を十分に抑制できるとは言いがたかった。直接メタノール型燃料電池に用いられるメタノール水溶液燃料のエネルギー貯蔵密度は、メタノールが高濃度であると高くなる。燃料極の反応には水も必要であるので、燃料から水を供給する場合は、メタノールと水が等モルである約64重量%がメタノール水溶液燃料の理想的な濃度である。
【0008】
そこで本発明は、高濃度アルコール燃料による発電に適応させた固体高分子電解質膜、その製造方法及び固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の第一発明は、多孔性高分子膜と、プロトン伝導性基を含有するプロトン伝導成分と、を少なくとも有する固体高分子電解質膜であって、
前記プロトン伝導成分として、第一のプロトン伝導成分と、該第一のプロトン伝導成分よりも酸解離度が小さい第二のプロトン伝導成分と、を有し、
前記第二のプロトン伝導成分は、前記多孔性高分子膜の孔を該多孔性高分子膜の膜面方向にふさぐように存在しており、
前記固体高分子電解質膜中に存在する前記第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数が、該固体高分子電解質膜中に存在する前記第二のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数よりも多いことを特徴とする固体高分子電解質膜である。
【0010】
また、本願の第二発明は、多孔性高分子膜の孔部に第一のプロトン伝導成分を固定する第一固定工程と、前記多孔性高分子膜の表面近傍に第二のプロトン伝導成分を固定する第二固定工程とを少なくとも有することを特徴とする固体高分子電解質膜の製造方法である。
【0011】
さらに、本願の第三発明は、上記第一発明に係る固体高分子電解質膜と該固体高分子電解質膜を挟持する一対の電極とを少なくとも有する固体高分子型燃料電池である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高濃度アルコール燃料による発電に適した固体高分子電解質膜膜、その製造方法及び固体高分子型燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の固体高分子電解質膜を用いた固体高分子型燃料電池の構成の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0015】
[固体高分子電解質膜]
本発明に係る固体高分子電解質膜は、多孔性高分子膜と、プロトン伝導性基を含有するプロトン伝導成分とよりなる。また、前記プロトン伝導成分として、第一のプロトン伝導成分と、該第一のプロトン伝導成分よりも酸解離度が小さい第二のプロトン伝導成分とを有し、前記固体高分子電解質膜中に存在する前記第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数が、該固体高分子電解質膜中に存在する前記第二のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数よりも多い。
【0016】
本発明において「酸解離度」とは、酸のプロトン解離平衡反応における水素イオンの解離度の相対的な大小を示している。本願発明の場合、静的な状態におけるプロトン伝導性基ひとつあたりの解離プロトン数を用いて、プロトン伝導成分ごとの酸解離度の大小関係を比較する。より具体的には、プロトン伝導性基ひとつあたりの解離プロトン数は、「系中の解離プロトン数」を、「系中におけるプロトン伝導性基の数」で割ることにより求められる。プロトン伝導性基の数は、原料化合物の構造式からの換算やイオン交換容量測定で求めることができる。系中の解離プロトン数は、一定濃度の水溶液を作製して市販のpHメータなどで解離プロトン濃度を測定することで求めることができる。
【0017】
酸解離度が大きいプロトン伝導成分は、解離したプロトンの運動性が高いために固体高分子電解質膜のプロトン輸送能力を向上させる役割を担う。したがって、固体高分子電解質膜中の酸解離度が大きいプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数が多いほうが、膜のプロトン伝導抵抗が小さくなり、直接メタノール型燃料電池の電解質膜として適したものとなる。
【0018】
酸解離度が小さいプロトン伝導成分は、極性が小さいので、メタノール透過を抑制する効果がある。一方で、プロトンの伝導性は小さくなってしまう。しかしながら、プロトンの存在量はプロトン伝導性基の仕込み個数で制御できるので、酸解離度が大きいプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数が酸解離度が小さいプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数よりも多い限りにおいては、電解質膜全体のプロトン伝導性低下への影響が小さい。
【0019】
酸解離度が大きいプロトン伝導成分(即ち第一のプロトン伝導成分)は前記多孔性高分子膜の孔内に存在していることが好ましい。言い換えれば、第一のプロトン伝導成分は前記多孔性高分子膜の孔内に充填されていることが好ましい。ここで、「プロトン伝導成分が多孔性高分子膜の孔内に存在する(充填されている)」とは、孔内の全てがプロトン伝導成分で満たされている必要は無く、孔内の90%以上にプロトン伝導成分が存在していれば良い。
【0020】
メタノール透過を抑制する役割を持つ酸解離度が小さいプロトン伝導成分(即ち第二のプロトン伝導成分)は、電解質膜のどの箇所に設けてもある程度の効果を有するが、多孔性高分子膜の孔を該多孔性高分子膜の膜面方向にふさぐように存在していれば全ての透過経路において抑制能力を発揮できる。ここで「多孔性高分子膜の孔を多孔性高分子膜の膜面方向にふさぐように存在している」とは、固体高分子電解質膜の膜面の一方から他方の膜面に至る経路のうち、多孔性高分子膜中は内部の孔のみを通過するプロトンの任意の経路を考えたとき、プロトンが第二のプロトン伝導成分を必ず通過するように第二のプロトン伝導成分が存在している状態を表す。すなわち上記経路において、固体高分子電解質膜の膜面のいずれかからその膜面に近い方の多孔性高分子膜の膜面に至るまで若しくは多孔性高分子膜中の孔内のいずれかに第二のプロトン伝導成分が存在していればよい。「膜面」とは、固体高分子電解質膜又は多孔性高分子膜の対向する表面のうち、最も面積が大きい一対の面のいずれか一方の面を表す。
【0021】
このような形状のうち、第二のプロトン伝導成分が多孔性高分子膜の外側で電解質膜の少なくとも一方の表面近傍に存在している形状は、実現が容易であるという点で好ましい。
【0022】
ここで「表面近傍」とは、固体高分子電解質膜の膜面、膜面の外側及び膜面から膜厚の20%までの深さの孔の内部を表す。
【0023】
また、前記第二のプロトン伝導成分が多孔性高分子膜の両面の表面近傍に存在することがさらに好ましい。
【0024】
例えば第二のプロトン伝導成分からなる膜を複数設け、一枚あたりの膜厚を薄くした方が良い。なぜならば、プロトンが固体高分子電解質膜を通過する際のホッピング移動を考慮すると、全体の膜厚が同じであった場合、第二のプロトン伝導成分からなる一枚の膜を設けた場合よりも電解質膜全体のプロトン伝導抵抗が小さくなるからである。この理は膜状でない場合も妥当する。したがって、第二のプロトン伝導成分が多孔性高分子膜の両面の表面近傍に存在することで、同じ量の第二のプロトン伝導成分が片面のみに存在している場合より、メタノールのバリア性を損なわずにプロトン伝導性を良好にすることができる。また、製造しやすいという観点からも、このような形状の高分子膜の方が好ましい。
【0025】
本発明において多孔性高分子膜とは、多数の微細な孔が存在する高分子膜を表している。これらの孔は独立しているのではなく、適度に連結して膜の一方の面から他方の面にかけて気体や液体が透過できる非直線的な通路状になっていることが好ましい。
【0026】
本発明における多孔性高分子膜の材料は特に制限されないが、アルコール水溶液の使用を考えるとアルコール類と水に不溶かつ膨潤しない高分子材料が好ましい。具体的には、ポリイミド系樹脂(例:宇部興産社製のユーピレックス(登録商標))、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂(例:日東電工社製の多孔性PTFE膜)、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などの各種樹脂材料が使用可能である。ここで、「ポリイミド系樹脂」とは、ポリイミドもしくはポリイミド誘導体からなる樹脂のことであり、その他の材料についても同様とする。前記材料のうち、メタノールと水に対する不溶性、物理強度、化学安定性の面で特に優れているのは、ポリイミド系樹脂である。
【0027】
多孔性高分子膜の膜厚や空孔率は、その材質、目的とする固体高分子電解質膜の強度、目的とする固体高分子型燃料電池の特性などから選ばれる。ここで、膜電極接合体の組み立て時や固体高分子型燃料電池としての使用時に十分な強度を保つという観点から、多孔性高分子膜の厚さは15μm以上であることが好ましい。一方、プロトンの移動距離を短くして発電効率を向上させるという観点から、多孔性高分子膜の厚さは150μm以下とすることが好ましい。
【0028】
また、プロトン伝導成分が存在できる部分を多くして発電効率を向上させるという観点から、多孔性高分子膜の平均空孔率は体積換算で30%以上であることが望ましい。一方、固体高分子膜の強度を確保するという観点から、多孔性高分子膜の平均空孔率は体積換算で90%以下であることが好ましい。なお、体積換算での平均空孔率とは、多孔性高分子膜において空孔部が占める体積(厳密に言えば容積)の割合である。平均空孔率(単位は%)の算出方法は、多孔性高分子膜の重量と体積から多孔性高分子膜の見かけの比重を計算し、その上で、[1−(多孔性高分子膜の見かけの比重/高分子材料自体の比重)]×100とすることで算出する。
【0029】
第一のプロトン伝導成分は、プロトン伝導性基を有する高分子化合物からなることが好ましい。プロトン伝導性基の役割は、固体高分子電解質膜の燃料極側から空気極側へプロトンを輸送することである。また、第一のプロトン伝導成分の母体を高分子化合物とすることにより、第一のプロトン伝導成分を発電反応中に流れ出ない程度の強度で前記多孔性高分子膜に物理的または化学的に固定化することが容易になる。
【0030】
プロトン伝導性基としては、例えば、スルホン酸基、スルフィン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基、ボロン酸基などが挙げられる。
【0031】
第一のプロトン伝導成分の酸解離度を第二のプロトン伝導成分の酸解離度よりも大きくするためには、第一のプロトン伝導成分に含まれるプロトン伝導性基はスルホン酸基であることが好ましい。スルホン酸基は酸解離度が高いので、プロトンの輸送効率を向上させる効果が高い。
【0032】
また、第一及び第二のプロトン伝導成分中のプロトン伝導性基の含有量は、特に制限されないが、固体高分子電解質膜のプロトン伝導率を高く保つという観点から、プロトン伝導性基1個あたりのプロトン伝導成分の分子量が1000以下であることが好ましい。
【0033】
第二のプロトン伝導成分は、前記多孔性高分子膜に物理的または化学的に固定化することが容易になるという観点から、プロトン伝導性基を有する高分子化合物からなることが好ましい。
【0034】
プロトン伝導性基としては、例えば、スルホン酸基、スルフィン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基、ボロン酸基などが挙げられる。
【0035】
第二のプロトン伝導成分の酸解離度を相対的に小さくするためには、第二のプロトン伝導成分に含まれるプロトン伝導性基はリン酸基またはホスホン酸基であることが好ましい。リン酸基またはホスホン酸基はプロトン伝導性であり、固体電解質膜のプロトン伝導を妨げず、酸解離度が小さいためにメタノール透過を抑制する機能を有する。
【0036】
本願発明の固体高分子電解質膜は、プロトン伝導率が0.10S/cm以上で、かつメタノール透過係数が1.0×10−7以下であることが好ましい。
【0037】
[固体高分子電解質膜の製造方法]
本発明における固体高分子電解質膜の製造方法は、多孔性高分子膜の孔部に第一のプロトン伝導成分を固定する第一固定工程と、前記多孔性高分子膜の表面近傍に、前記第一のプロトン伝導成分よりも酸解離度が小さいかつ前記第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数よりもプロトン伝導性基の数が少ない第二のプロトン伝導成分を固定する第二固定工程とを少なくとも有する。
【0038】
第一固定工程は、多孔性高分子膜の孔部に第一のプロトン伝導成分前駆体を充填し、第一のプロトン伝導成分前駆体を第一のプロトン伝導成分に変換して多孔性高分子膜に固定する工程であることが好ましい。なお、第一のプロトン伝導成分前駆体は、第一のプロトン伝導成分に変換されるものであれば、プロトン伝導性基を有する化合物(例えばスルホン酸基含有化合物)であっても良く、プロトン伝導性基を有する化合物とその他の添加剤を含む混合物であっても良い。
【0039】
多孔性高分子膜の孔内に前記第一のプロトン伝導成分前駆体を充填する方法は特に制限されない。例えば、第一のプロトン伝導成分前駆体に多孔性高分子膜を浸漬するだけでも良い。更に接触効率を上げるために、必要に応じて超音波振動を加えたり、減圧濾過や加圧濾過の手法を併用したりしても良い。
【0040】
第一のプロトン伝導成分前駆体を第一のプロトン伝導成分に変換して多孔性高分子膜に固定する方法としては、重合開始剤を用いた加熱重合反応や、電子線照射又は紫外線照射による重合反応が考えられる。その他、カップリング剤(架橋剤)によるクロスリンキング、ゾルゲル反応などの方法も考えられる。
【0041】
第一固定工程において多孔内に充填された第一のプロトン伝導成分前駆体を重合させる方法としては、特に電子線照射を用いることが好ましい。後述する除去工程の際に表面近傍の第一のプロトン伝導成分を効果的に除去できるからである。重合後の第一のプロトン伝導成分は、固体状またはゲル状のプロトン伝導成分となっていることが好ましい。
【0042】
電子線照射において、化合物同士の化学結合の形成量を増大させるという観点から、電子線の照射量は100Gy以上に設定することが好ましく、5kGy以上に設定することがより好ましい。一方、多孔性高分子膜やプロトン伝導成分の変性を抑制するという観点から、電子線の照射量は10MGy以下に設定することが好ましく、200kGy以下に設定することがより好ましい。
【0043】
電子線の加速電圧は電解質膜の厚さによって異なるが、例えば15μm以上150μm以下程度のフィルムでは50kV以上2MV以下程度の加速電圧が好ましい。加速電圧の異なる複数の電子線を同時に照射してもよい。また電子線の照射中に加速電圧を変化させてもよい。また、必要に応じて活性エネルギー線の照射中または照射直後に加熱処理を行っても良い。
【0044】
第一固定工程で用いる第一のプロトン伝導成分前駆体の種類は特に制限されないが、固体高分子電解質膜のプロトン伝導性のためにはスルホン酸基含有化合物を用いることが好ましい。その中でも、化合物中におけるスルホン酸基の割合の大きいものを用いることが好ましく、例えば、官能基1個あたりの分子量は500以下であることが好ましい。
【0045】
第一のプロトン伝導成分前駆体は、電子線に活性を有する官能基を持つ化合物であると、第一固定工程における化学結合が更に強固になるのでより好ましい。電子線に活性を有する官能基としては、二重結合、三重結合などの不飽和結合が挙げられる。その中でも特に活性の高い官能基は、メタクリル酸基、アクリル酸基、ビニル基、スチレン基である。
【0046】
第一のプロトン伝導成分前駆体としての、スルホン酸基と電子線に活性を有する官能基を持つ化合物の例としては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホブチルメタクリレート類、スルホプロピルメタクリレート類、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スルホベンゼンメタクリレート類、スルホベンジルメタクリレート類を挙げることができる。
【0047】
また、上記化合物にフッ素を導入した化合物を使用しても構わない。これら化合物の複数種類を混合併用しても構わない。
【0048】
また、第一のプロトン伝導成分前駆体は、スルホン酸基を持たない化合物を含んでいても良い。例えば、複素環構造を有する化合物を添加することで、第一固定工程で形成されるプロトン伝導成分の多孔性高分子膜への固定を強固にする効果が期待できる。なお、複素環構造を有する化合物は電子線に活性を有する官能基を有していても良い。また、スルホン酸基を持たない化合物として、重合物同士あるいは重合物と多孔性高分子膜の化学結合を強固にするために、架橋剤を適量添加しても良い。このような架橋剤としては、電子線に対して活性を有するものが好ましい。例えば、アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、グリセリンジメタクリレートなどが好適な架橋剤として挙げられる。また、粘度調整の目的で、機能性化合物に適当な溶剤を少量添加しても良い。第一固定工程と前記第二固定工程の間に、前記多孔性高分子膜の表面近傍にある第一のプロトン伝導成分を除去する除去工程を設けることが好ましい。除去工程によって、高分子膜の表面近傍にある孔を露出させて、第二のプロトン伝導成分の定着性を良くするためである。この時、多孔性高分子膜の表面近傍にある全ての第一のプロトン伝導成分を除去する必要は無く、第二のプロトン伝導成分が十分に定着する程度に除去を行えば良い。除去の手法は、特に制限されないが、電子線照射前の第一のプロトン伝導成分にとって可溶である溶媒に浸漬し、その中で擦り処理を実施すると効果的に除去できる。
【0049】
第二固定工程は、多孔性高分子膜の表面近傍に第二のプロトン伝導成分を接触させ、第二のプロトン伝導成分前駆体を第二のプロトン伝導成分に変換して多孔性高分子膜に固定する工程である。第二のプロトン伝導成分前駆体とは、プロトン伝導性基を有する化合物(例えばリン酸基又はホスホン酸基含有化合物)とその他の添加剤を含む混合物である。
【0050】
多孔性高分子膜の表面近傍に第二のプロトン伝導成分を接触させる方法は特に制限されない。例えば、第二のプロトン伝導成分に多孔性高分子膜を浸漬するだけでも良い。更に接触効率を上げるために、必要に応じて超音波振動を加えても良い。
【0051】
第二固定工程において多孔性高分子膜の表面に付着した第二のプロトン伝導成分前駆体を重合させる方法としては、第一固定工程と同様の方法を用いることができる。重合後の第二のプロトン伝導成分は、膜状のプロトン伝導成分として多孔性高分子膜の少なくとも一方の表面近傍に存在していることが好ましい。
【0052】
第二固定工程における電子線照射の照射量や加速電圧の条件は、第一固定工程と同様で特に制限されない。第一固定工程で形成されたプロトン伝導成分を保護する目的で、第二固定工程における電子線の照射量や加速電圧を相対的に小さくしても良い。
【0053】
また、電子線照射後、不要の混合物が膜の表面に残る場合は、水などで洗浄することによって取り除いてもよい。
【0054】
第二固定工程で用いる第二のプロトン伝導成分前駆体の種類は特に制限されないが、固体高分子電解質膜のプロトン伝導性とメタノール透過抑制のためにはリン酸基またはホスホン酸基含有化合物を用いることが好ましい。特に、化合物中におけるリン酸基またはホスホン酸基の割合の大きいものを用いることが好ましく、例えば、官能基1個あたりの分子量は500以下であることが好ましい。
【0055】
第二のプロトン伝導成分前駆体は、電子線に活性を有する官能基を持つ化合物であると、第二固定工程における化学結合が更に強固になるのでより好ましい。電子線照射に活性を有する官能基としては、二重結合、三重結合などの不飽和結合が挙げられる。その中でも特に活性の高い官能基は、メタクリル酸基、アクリル酸基、ビニル基、スチレン基である。そのうち、膜状の重合体を得やすい官能基は、メタクリル基とアクリル基である。
【0056】
第二のプロトン伝導成分前駆体としての、リン酸基と電子線に活性な官能基を有する化合物としては、側鎖にリン酸エステル基を持つ(メタ)アクリル酸エステル誘導体を好適に用いることができる。また、リン酸基含有化合物は、添加物としてリン酸基を持たない化合物を含んでいても良い。添加可能な化合物の例は、スルホン酸基含有化合物の場合と同様である。
【0057】
本発明による固体高分子電解質膜を用いると、高濃度アルコール燃料に適応した固体高分子型燃料電池を形成することができる。このような固体高分子型燃料電池は、本発明の固体高分子電解質膜とこの膜を挟持する一対の電極とを少なくとも有している。この燃料電池は、水素ガス燃料を用いた場合でも発電可能である。
【0058】
固体高分子型燃料電池を形成する場合の、電池構成や製造方法、各種部材の材質などは一般に知られている技術を適用することができる。たとえば、固体高分子電解質膜の両面に触媒層を設け、その外側に燃料拡散層、酸化剤拡散層(一般的には、空気拡散層又は酸素拡散層)を設ける。それにより、固体高分子電解質膜の一方の面に燃料極を、他方の面に酸素極又は酸化剤極を、それぞれ配置して、膜電極接合体とすることが可能である。そして、この膜電極接合体に、燃料供給路及び燃料タンク並びに空気(又は酸素)供給路を設けることによって、燃料電池とすることができる。なお、空気を送り込む送気ポンプや酸素タンクを設けても良い。
【0059】
このような燃料電池の具体例としては、図1に示す構造の燃料電池を挙げることができる。図1は本発明の固体高分子電解質膜を適用した燃料電池の最小構成の一例を示したものであって、実際の形状は任意である。また、複数個の膜電極接合体を直列または並列に組み合わせても良い。
【0060】
図中、1は膜電極接合体、101は本発明の固体高分子電解質膜、102は触媒層、103は拡散層、2は燃料極(アノード)、3は酸化剤極(カソード)である。本例では固体高分子電解質膜101、一対の触媒層102、一対の拡散層103よりなる接合体を膜電極接合体と称する。また、本例では、触媒層102、拡散層103はアノード2又はカソード3の一部である。本例では、アノード2及びカソード3の触媒層102、拡散層103以外の部分は、燃料又は酸化剤の供給路の外壁と電流を取り出すための回路の一部とを兼ねている部分である。なお、図示していないが、固体高分子電解質膜101、触媒層102、拡散層103、の周囲の少なくとも一部にシール材を設けてこれらの部材(の少なくとも一部)と外気との接触を防ぐことができる。
【0061】
第二のプロトン伝導成分が前記多孔性高分子膜の片面のみの表面近傍に存在している場合は、酸解離度が相対的に小さい方の面を燃料極側として、電池を構成することが好ましい。例えば、第一のプロトン伝導成分より酸解離度が小さい第二のプロトン伝導成分に接するように燃料極を配置することが好ましい。燃料としてメタノール水溶液を用いる場合のメタノール濃度は、3重量%から60重量%が適当である。特に高濃度領域でメタノールの透過抑制という本発明の効果は大きく現れる。
【0062】
本発明による固体高分子電解質膜を燃料電池に適用する場合、第二のプロトン伝導成分は、必ずしも全面にわたって多孔性高分子膜の孔を該多孔性高分子膜の膜面方向にふさぐように存在していなくともよい場合がある。たとえば、固体高分子電解質膜よりもそれを挟持する電極(一般的には触媒層)のサイズが小さい場合、電極間に存在する多孔性高分子膜の孔を膜面方向にふさぐように存在していれば、本発明の効果は達成できる。
【0063】
これは、一方の電極から他方の電極に至る経路(多孔性高分子膜中は内部の孔のみを通過するプロトンの任意の経路)を考えたとき、プロトンが第二のプロトン伝導成分を必ず通過するように第二のプロトン伝導成分が存在している状態を表す。具体的な構成としては、図1に示した構造の燃料電池において、個体高分子電解質膜101の片面又は両面の触媒層102と接触している表面近傍に第二のプロトン伝導成分からなる膜が設けられている構成を挙げることができる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は特許請求の範囲の記載に基づいて解釈されるものであり、以下の実施例により限定されるものではない。
【0065】
(固体高分子電解質膜の製造例)
(実施例1)
第一のプロトン伝導成分としてビニルスルホン酸の重合体、第二のプロトン伝導成分としてメタクロイルオキシエチルホスフェートを選択した。事前にビニルスルホン酸を水溶液化してpHメータ(堀場製作所製、D−50)により酸解離度を測定した。その結果、ビニルスルホン酸のプロトン伝導性基あたりの解離プロトン数は0.56であった。同様にして測定したところ、メタクロイルオキシエチルホスフェートのプロトン伝導性基あたりの解離プロトン数は0.24であった。
【0066】
プラスチック容器中でビニルスルホン酸28.0g、アクリロイルモルホリン9.2g、メチレンビスアクリルアミド1.2gを混合し、スルホン酸基含有の混合溶液を作製した。この溶液中に多孔性高分子膜として厚さ27μm、平均細孔径0.1μm、充填前の平均空孔率40%のポリイミド膜を浸漬し、ポリイミド膜の孔内に溶液を充填した。容器より取り出したポリイミド膜を平滑なPTFEフィルム上へ移して、電子線照射装置(岩崎電気社製、EC250/15/180L)を用いて、加速電圧200kV、線量50kGyの電子線を照射した。電子線の照射によりポリイミド膜の孔内に充填された液状の混合溶液は固着した。
【0067】
電子線照射後のポリイミド膜を60℃に熱したメタノール/水混合溶液(等体積混合)に移して、その両表面をスポンジで擦り洗いすることで表面近傍の充填物を除去した。洗浄後の膜は、一旦、自然乾燥させた。
【0068】
洗浄後の膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面から1μm程度の深さにかけて平均直径0.1μmの孔が多数空いている様子が見られた。
【0069】
次に、別のプラスチック容器中でメタクロイルオキシエチルホスフェート(共栄社化学製、商品名P−1M)28.0g、アクリロイルモルホリン9.2g、メチレンビスアクリルアミド0.7gを混合し、リン酸基含有の混合溶液を作製した。この溶液中に洗浄後自然乾燥させた膜を浸漬させた。この膜を容器より取り出してPTFEフィルム上へ移して、加速電圧150kV、線量30kGyの電子線を照射した。電子線の照射によりポリイミド膜の表面近傍に付着した液状の混合物は膜状に固着し、本実施例の固体高分子電解質膜(以下、PEM−1という)を得た。PEM−1の膜厚は29μmであった。
【0070】
固体高分子電解質膜中に存在する第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数と第二のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数との比を、膜中のそれぞれのプロトン伝導性基の存在比を求めることで比較した。
【0071】
まず、第一のプロトン伝導成分前駆体と第二のプロトン伝導成分前駆体の比重が同じで、かつ電子線照射後の化学的結合による体積変化が無いと仮定した。そうすると、膜中のプロトン伝導性基の数は、「単位体積におけるプロトン伝導成分前駆体中のプロトン伝導性基の数」に「固体高分子電解質膜中にプロトン伝導成分が存在する体積」をかければ求めることが出来る。膜中の第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数と第二のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数との比をとると以下のような式になる。
(第一のプロトン伝導成分前駆体におけるプロトン伝導成分の単位体積あたりの官能基数×第一のプロトン伝導成分の概算膜厚)
/(第二のプロトン伝導成分前駆体におけるプロトン伝導成分の単位体積あたりの官能基数×第二のプロトン伝導成分の概算膜厚)
=固体高分子電解質膜中の第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数と第二のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数との比
概算膜厚とは、多孔性高分子膜の外に存在するプロトン伝導成分の膜の厚さと、多孔性高分子膜の孔内に存在するプロトン伝導成分の膜の厚さに平均空孔率をかけたものとを足し合わせたプロトン伝導成分の膜の厚さの概算値である。実施例1の概算膜厚は以下のようにして求めた。
【0072】
「多孔性高分子膜の厚さ」27μmから「洗浄後に観察された膜の孔の深さ」1μm×2を引き、それに「充填前の膜の平均空孔率」40%をかけたものを第一のプロトン伝導成分の概算膜厚とした。「PEM−1の膜厚」29μmから「多孔性高分子膜の厚さ」27μmを引いたものと、「洗浄後に観察された膜の孔の深さ」1μm×2に「充填前の膜の平均空孔率」40%をかけたものとを足し合わせ第二のプロトン伝導成分の概算膜厚とした。
【0073】
求めた概算膜厚の値を用いて計算を行ったところ、「固体高分子電解質膜中の第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数と第二のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数との比」は7.36であった。
【0074】
この事から、固体高分子電解質膜中には第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基がより多く存在することが分かった。
【0075】
(実施例2)
第二のプロトン伝導成分をジメタクロイルオキシエチルホスフェートとした点及び以下に示した点以外は実施例1と同様にして、固体高分子電解質膜を製造した。
【0076】
まず、実施例1と同様にしてジメタクロイルオキシエチルホスフェートの酸解離度を測定したところ、プロトン伝導性基あたりの解離プロトン数は0.18であった。
【0077】
実施例1と同様にして、スルホン酸基含有成分を電子線照射により固着させた多孔性ポリイミド膜を製造した。電子線照射後のポリイミド膜を常温のイオン交換水に浸して、その両表面をスポンジで擦り洗いすることで表面近傍の充填物を除去した。洗浄後の膜は、一旦、自然乾燥させた。
【0078】
洗浄後自然乾燥させた膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ表面から0.5μm程度の深さにかけて平均直径0.1μmの孔が多数空いている様子が見られた。
【0079】
次に別のプラスチック容器中でジメタクロイルオキシエチルホスフェート(共栄社化学製、商品名P−2M)28.0g、アクリロイルモルホリン9.2gを混合し、リン酸基含有の混合溶液を作製した。この溶液中に洗浄後の膜を再度浸漬させた。この膜を容器より取り出してPTFEフィルム上へ移して、加速電圧150kV、線量30kGyの電子線を照射した。電子線の照射によりポリイミド膜の表面近傍に付着した液状の混合物は膜状に固着し、本実施例の固体高分子電解質膜(以下、PEM−2という)を得た。
【0080】
PEM−2の膜厚は30μmであった。
【0081】
実施例1と同様の方法を用いて、固体高分子電解質膜中に存在する第一及び第二プロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数を比較した。固体高分子電解質膜中の第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数と第二のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数との比は7.42であった。この事から、固体高分子電解質膜中には第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基がより多く存在することが分かった。
【0082】
(実施例3)
第二のプロトン伝導成分を多孔性高分子膜の片面にのみ設けた点及びそれに伴い下記の処理を行った点以外は実施例1と同様にして、固体高分子電解質膜を製造した。
【0083】
実施例1と同様にして、スルホン酸基含有成分を電子線照射により固着させた多孔性ポリイミド膜を製造した。電子線照射後のポリイミド膜を60℃に熱したメタノール/水混合溶液に浸して、その片側の表面のみをスポンジで擦り洗いすることで表面近傍の充填物を除去した。洗浄後の膜は、一旦、自然乾燥させた。
【0084】
洗浄後の膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ擦り洗いした面から1μm程度の深さにかけて平均直径0.1μmの孔が多数空いている様子が見られた。
【0085】
次に別の容器中でジメタクロイルオキシエチルホスフェート28.0g、アクリロイルモルホリン4.6gを混合し、リン酸基含有の混合溶液を作製した。洗浄後の膜をPTFEフィルム上に固定して、擦り洗いした表面のみにリン酸基含有溶液をドクターブレード法で塗布した。このポリイミド膜に加速電圧150kV、線量30kGyの電子線を照射することで、表面近傍に付着した液状の混合物は膜状に固着し、本実施例の固体高分子電解質膜(以下、PEM−3という)を得た。
PEM−3の膜厚は30μmであった。
【0086】
実施例1と同様の方法を用いて、固体高分子電解質膜中に存在する第一及び第二プロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数を比較した。固体高分子電解質膜中の第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数と第二のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数との比は5.42であった。この事から、固体高分子電解質膜中には第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基がより多く存在することが分かった。
【0087】
(比較例1)
実施例1、3との比較用に、実施例1における固体高分子電解質膜の中間状態である、第一のプロトン伝導成分のみを有する多孔充填ポリイミド膜を作製した。
【0088】
すなわち、実施例1と同様にして、ビニルスルホン酸、アクリロイルモルホリン、メチレンビスアクリルアミドよりなるスルホン酸基含有の混合溶液に、実施例1で用いたものと同じ多孔性ポリイミド膜を浸漬した。容器より取り出したポリイミド膜に、実施例1と同様に電子線照射を照射して、比較用の固体高分子電解質膜(以下、REF−1という)を得た。
【0089】
(比較例2)
水にアクリルアミドメチルプロピルスルホン酸とメチレン−ビス−アクリルアミドと2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(V−50、和光純薬工業社製)を重量比50:30:1の比で溶解させて溶液を作製した。この溶液に実施例1で用いたものと同じ多孔性ポリイミド膜を浸漬した後に多孔性ポリイミド膜を取り出し、ガラス板で挟んだ。そのまま50℃の乾燥機内に12時間静置して加熱重合を行った。これを3回繰り返して、多孔性高分子膜の内部を重合物で充填させた。最後に膜の表面上に弱い力で付着する過剰なポリマーを純水で取り除いて膜を平滑化した。こうして比較用の固体高分子電解質膜(以下、REF−2という)を得た。
【0090】
(比較例3)
第二のプロトン伝導成分に代えて、プロトン伝導性のないポリビニルアルコール膜を設けた点及びそれに伴い下記の処理を行った点以外は実施例1と同様にして、固体高分子電解質膜を製造した。
【0091】
実施例1と同様にして、スルホン酸基含有成分を電子線照射により固着させた多孔性ポリイミド膜を製造した。さらに実施例1と同様にして、膜表面の洗浄と乾燥を行った。
【0092】
次に別のプラスチック容器中で1重量%のポリビニルアルコール(キシダ化学製、重合度2000、けん化度78〜82モル%)水溶液を調製した。この溶液中に洗浄後の膜を浸漬させた。この膜を容器より取り出してPTFEフィルム上へ移して、常温で自然乾燥させた。こうして比較用の固体高分子電解質膜(以下、REF−3という)を得た。
【0093】
(プロトン伝導性の測定)
各実施例および各比較例によって得られた固体高分子電解質膜を幅2mm、長さ3cmに切断し、その両面に1cmの間隔で設けられた白金の電極を密着させた。この電極をインピーダンスアナライザー(ソーラトロン社製、SI−1260)に接続し、温度50℃、相対湿度90%の環境下で、周波数10MHzから1Hzまでインピーダンス測定を行った。Cole−Coleプロットに表れる半円の直径から、伝導率を算出した。表1にその結果を示す。
【0094】
(メタノール透過性の測定)
各実施例および各比較例によって得られた固体高分子電解質膜をガラス製セルに挟み、25℃において透過試験を行なった。電解質膜を挟んだ一方のセルには50重量%メタノール水溶液を入れ、もう一方のセルには同体積のイオン交換水を入れた。イオン交換水側に浸透するメタノール量をメタノール濃度計(京都電子工業社製、MCM−600)により経時的に測定して得られた透過速度からメタノールの透過係数を算出した。透過係数が低いほど、電解質膜中をメタノールが透過しにくい。
【0095】
(膜電極接合体、固体高分子型燃料電池の製造例と出力測定)
図1に模式的に示すような構成の膜電極接合体および固体高分子型燃料電池を作製して、本発明および比較用の固体高分子電解質膜を評価した。
【0096】
アノード側触媒層を構成する触媒担持伝導物質の前駆体ペーストとして、白金−ルテニウム触媒(田中貴金属工業社製「TEC90110」)1gと、5重量%ナフィオン溶液(アルドリッチ社製)5gとを十分に混合したペーストを作製した。カソード側触媒層を構成する触媒担持伝導物質の前駆体ペーストとしては、白金触媒(田中貴金属工業社製「AY−1020」)1gと、5重量%ナフィオン溶液(アルドリッチ社製)5gとを十分に混合したペーストを作製した。
【0097】
これらのペーストをそれぞれカーボンペーパー(東レ社製「TGP−H−060」、200μm厚)に金属触媒換算で2mg/cmとなるように塗布した後乾燥して、アノード側触媒層付き拡散層とカソード側触媒層付き拡散層とした。
【0098】
各実施例および各比較例によって得られた固体高分子電解質膜をそれぞれアノード側触媒層付き拡散層とカソード側触媒層付き拡散層で挟み込み、100℃、2kNの条件でホットプレス処理して膜電極接合体を得た。
膜電極接合体を燃料電池セル(ケミックス社製、DFC−012、単セル、触媒層面積10cm)に装着して本実施例および比較用の固体高分子型燃料電池を得た。
得られた固体高分子型燃料電池セルのアノード側には50重量%メタノールを燃料として供給し、カソード側には常圧の空気を供給し、セル全体を50℃にて保温しながら発電を行った。出力測定には燃料電池テストシステム(スクリブナー社製、890B)を用いて、電流値を変化させた時の最高出力値を読み取った。各電池セルについての最高出力値を表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
各実施例の固体高分子電解質膜は、高いプロトン伝導率を示すとともに、高濃度メタノール燃料を用いたにも関わらず小さなメタノール透過係数を示した。その結果、各実施例の固体高分子電解質膜を用いた燃料電池は、大きな出力値を示した。それに対して、比較例のREF−1、REF−2はプロトン伝導性には優れているものの、実施例と比較してメタノール透過量が多いために、これらを用いた燃料電池の出力は低かった。REF−3は、メタノールの透過は抑えられるものの、プロトン伝導性を示さない層を有するためにプロトン伝導率が極めて低かった。そのため、REF−3を用いた燃料電池の出力は極めて低いものとなった。
【符号の説明】
【0101】
1 膜電極接合体
2 アノード
3 カソード
101 固体高分子電解質膜
102 触媒層
103 拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性高分子膜と、プロトン伝導性基を含有するプロトン伝導成分と、を少なくとも有する固体高分子電解質膜であって、
前記プロトン伝導成分として、第一のプロトン伝導成分と、該第一のプロトン伝導成分よりも酸解離度が小さい第二のプロトン伝導成分と、を有し、
前記第二のプロトン伝導成分は、前記多孔性高分子膜の孔を該多孔性高分子膜の膜面方向にふさぐように存在しており、
前記固体高分子電解質膜中に存在する前記第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数が、該固体高分子電解質膜中に存在する前記第二のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数よりも多いことを特徴とする固体高分子電解質膜。
【請求項2】
前記第一のプロトン伝導成分が、前記多孔性高分子膜の孔内に存在していることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項3】
前記第二のプロトン伝導成分が、前記多孔性高分子膜の少なくとも一方の膜面の表面近傍に存在していることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項4】
前記第二のプロトン伝導成分が、前記多孔性高分子膜の両面の表面近傍に存在していることを特徴とする請求項3に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項5】
前記第二のプロトン伝導成分が、リン酸基及びホスホン酸基の少なくとも一方を有する高分子化合物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の固体高分子電解質膜。
【請求項6】
前記第一のプロトン伝導成分が、スルホン酸基を有する高分子化合物であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の固体高分子電解質膜。
【請求項7】
多孔性高分子膜の孔部に第一のプロトン伝導成分を固定する第一固定工程と、前記多孔性高分子膜の表面近傍に、前記第一のプロトン伝導成分よりも酸解離度が小さいかつ前記第一のプロトン伝導成分のプロトン伝導性基の数よりもプロトン伝導性基の数が少ない第二のプロトン伝導成分を固定する第二固定工程と、を少なくとも有することを特徴とする固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項8】
前記第一固定工程と前記第二固定工程の間に、前記多孔性高分子膜の表面近傍にある第一のプロトン伝導成分を除去して該多孔性高分子膜表面の孔を露出させる除去工程を有することを特徴とする請求項7に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項9】
前記第一固定工程及び前記第二固定工程の少なくとも一方において、電子線照射により前記多孔性高分子膜と第一のプロトン伝導成分前駆体又は第二のプロトン伝導成分前駆体とを化学的結合によって固定させることを特徴とする請求項7又は8に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれかに記載の固体高分子電解質膜と該固体高分子電解質膜を挟持する一対の電極とを少なくとも有することを特徴とする固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2009−259808(P2009−259808A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76772(P2009−76772)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】