説明

固体高分子電解質膜およびその製造方法

【課題】固体高分子電解質膜の劣化を抑制でき、さらに原料コストの上昇およびプロトン伝導度の低下も抑制しうる固体高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】燃料極側触媒層20a側もしくは酸化剤極側触媒層20c側の、近傍部分に白金が担持されてなる白金担持部位100を有する固体高分子電解質膜10、または燃料極側触媒層20a側もしくは酸化剤極側触媒層20c側の、表面に白金が担持されてなる白金配置部位110を有する固体高分子電解質膜10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体高分子型燃料電池用固体高分子電解質膜に関し、より詳細にはHによる電解質の劣化が抑制された固体高分子電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池はエネルギー問題や環境問題を解決することのできる発電システムとして注目されており、各種燃料電池の中でも特に固体高分子型燃料電池は低温でも作動しうることから、自動車などの移動体用動力源として期待されている。
【0003】
しかし、固体高分子型燃料電池は、電池内部で発生するHによって固体高分子電解質膜が劣化するという問題を有している。固体高分子電解質膜が劣化するとプロトン伝導度が低下し、これに伴い電池性能も低下する。
【0004】
により固体高分子電解質膜が劣化するメカニズムについては必ずしも明らかになっていないが、Hが熱や重金属イオンと接触することによりラジカル化して固体高分子電解質膜に含まれる電解質を分解することが原因であると考えられている。非特許文献1では、固体高分子電解質膜への不純物の混入の影響を想定して、種々の対イオンの固体高分子電解質膜をH溶液で処理したところ、HおよびFe2+イオンにより下記化学式1に示すフェントン反応が引き起こされてヒドロキシラジカルが発生し、電解質が分解されたことが報告されている。
【0005】
【化1】

【0006】
この問題に対して、特許文献1には酸化マンガンなどの遷移金属酸化物をH分解触媒として固体高分子電解質膜中に分散させて、発生したHをHOとOとに分解することで固体高分子電解質膜の劣化を抑制する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2001−118591号公報
【非特許文献1】新エネルギー産業技術総合開発機構、平成13年度成果報告書固体高分子形燃料電池の研究開発 固体高分子形燃料電池の劣化要因に関する研究 劣化要因の基礎研究(1)電極触媒/電解質界面の劣化要因、18〜25ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法ではH分解触媒を膜全体に分散させているため、H分解触媒の添加量が多くなり原料コストが上昇したり、固体高分子電解質膜のプロトン伝導度が低下したりしていた。
【0008】
本発明は、固体高分子電解質膜の劣化を抑制でき、さらに原料コストの上昇およびプロトン伝導度の低下も抑制しうる固体高分子電解質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、固体高分子電解質膜の両面に配置される燃料極側触媒層または酸化剤極側触媒層でHが発生する点に着目し、H分解触媒の配置位置を固体高分子電解質膜の表面または表面近傍部分にすることにより、Hの分解反応に関与しないH分解触媒の量を減らし原料コストの上昇を抑制すると共に、プロトン伝導度の低下も抑制できることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、少なくとも片方の表面近傍部分に白金が担持されてなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用固体高分子電解質膜、または少なくとも片方の表面に白金が配置されてなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用固体高分子電解質膜により上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により電解質の分解を抑制し、さらに原料コストの上昇およびプロトン伝導度の低下も抑制しうる固体高分子電解質膜を提供することができる。
【0012】
本発明により耐久性が向上した固体高分子型燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第一は、図1のAの符号10に示すように、少なくとも片方の表面近傍部分に白金が担持されてなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用固体高分子電解質膜である。図1のAにおいて符号100は白金担持部位を示し、符号20aはMEAを形成した際に固体高分子電解質膜10の片面に配置される燃料極側触媒層を示し、符号20cはMEAを形成した際に固体高分子電解質膜10の片面に配置される酸化剤極側触媒層を示す。ただし、白金担持部位100の形成位置や厚みなどは図1のAに限定されない。
【0014】
上述したように固体高分子型燃料電池において、Hは燃料極側触媒層または酸化剤極側触媒層で発生する。このため、固体高分子電解質膜の少なくとも片方の表面近傍部分に白金を担持させることにより、電解質の分解を抑制することができ、さらに白金を固体高分子電解質膜全体に担持させた場合と比較して、白金を効率よく用いプロトン伝導度の低下を抑制することができる。ただし、本発明は表面近傍部分を除く部位に白金が担持される場合を完全に除くわけではなく、本発明を阻害しない範囲の極微量の白金は混入していてもよい。
【0015】
本発明ではH分解触媒として白金を用いるが、これは各種H分解触媒の中でも白金のH分解能が特に優れるためである。白金は高価な貴金属であるが、本発明では上述したように従来技術と比較してHの分解反応に寄与しないH分解触媒の量を減らして効率よく用いることができるため、原料コストの大幅な上昇を抑制することができる。
【0016】
白金は、固体高分子電解質膜の燃料極側触媒層側または酸化剤極側触媒層側のどちらか一方の表面近傍部分に担持されていれば良いが、好ましくは両側の表面近傍部分に担持される。
【0017】
前記近傍部分とは、固体高分子電解質膜の厚みに対して、45%以内の深さまでの部分を示し、より好ましくは30%以内の深さまでの部分を示し、更に好ましくは10%以内の深さまでの部分を示す。45%以内であると、原料コスト上昇を抑制したり、プロトン伝導度の低下を抑制したりできる。白金担持部位の厚みは、SEM観察により確認することができ、倍率は1000倍で観察することが好ましい。
【0018】
燃料極側触媒層側の白金担持部位の厚みは、固体高分子電解質膜の厚みに対して、2.5〜30%であることが好ましく、より好ましくは2.5〜10%である。白金担持部位の厚みが2.5〜30%であると、電解質の劣化と原料コストの上昇とプロトン伝導度の低下とを効果的に抑制することができる。酸化剤極側触媒層側の白金担持部位の厚みは、固体高分子電解質膜の厚みに対して、2.5〜30%であることが好ましく、より好ましくは2.5〜10%である。白金担持部位の厚みが2.5〜30%であると、電解質の劣化と原料コストの上昇とプロトン伝導度の低下とを効果的に抑制することができる。
【0019】
白金の合計担持量は固体高分子電解質膜に含まれる電解質に対して0.1〜10質量%含まれることが好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。0.1質量%以上であると、Hの分解性に優れ、10質量%以下であると、Hの分解反応に関与しない白金が生じ難くなり、白金の利用率が向上する。白金の担持量はICP発光分析により測定することができる。
【0020】
白金は濃度勾配をつけて配置されていても良い。この場合、固体高分子電解質膜の表面に近付くほど濃度が高くなるように白金を配置すると、白金の利用率をさらに高められる。
【0021】
白金の形状は特に限定されないが、粒子状である場合には白金粒子の平均粒径は、5〜100nmが好ましく、より好ましくは5〜10nmである。白金粒子の平均粒径が5nm以上であるとH分解効果に優れる点で好ましく、100nm以下であると粒径に見合ったH分解効果が得られる点で好ましい。白金粒子の平均粒径は、SEM観察により得られた白金粒子の粒径から、平均値を算出することにより求められる。
【0022】
本発明で用いられる固体高分子電解質膜としては、フッ素系固体高分子電解質膜、または炭化水素系固体高分子電解質膜などが好ましく挙げられる。フッ素系固体高分子電解質膜としては、デュポン株式会社製ナフィオン(登録商標)、旭硝子株式会社製フレミオン(登録商標)、旭化成ケミカルズ株式会社製アシプレックス(登録商標)およびザ・ダウ・ケミカル・コンパニー製ダウエックス(登録商標)などが挙げられる。炭化水素系固体高分子電解質膜としてはエンジニアリングプラスチックにスルホン酸基などの酸基を導入したものが特に好ましく、例えばスルホン化ポリフェニレン誘導体、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、アルキルスルホン化ポリベンズイミダゾールなどが好ましく挙げられる。固体高分子電解質膜の膜厚は特に限定されず、適宜調節することができる。
【0023】
本発明の第二は、図1のBの符号10に示すように、少なくとも片方の表面に白金が配置されてなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用固体高分子電解質膜である。図1のBにおいて符号110は白金配置部位を示し、符号20aはMEAを形成した際に固体高分子電解質膜10の片面に配置される燃料極側触媒層を示し、符号20cはMEAを形成した際に固体高分子電解質膜10の片面に配置される酸化剤極側触媒層を示す。ただし、白金配置部位110の形成位置や厚みなどは図1のBに限定されない。
【0024】
上述したように固体高分子型燃料電池において、Hは燃料極側触媒層または酸化剤極側触媒層で発生する。このため、固体高分子電解質膜の少なくとも片方の表面に白金を配置させることにより、電解質の分解を抑制することができ、さらに白金を固体高分子電解質膜全体に担持させた場合と比較して、白金を効率よく用いプロトン伝導度の低下を抑制することができる。ただし、本発明は表面を除く部位に白金が担持される場合を完全に除くわけではなく、本発明を阻害しない範囲の極微量の白金は混入していてもよい。
【0025】
本発明ではH分解触媒として白金を用いるが、これは各種H分解触媒の中でも白金のH分解能が特に優れるためである。白金は高価な貴金属であるが、本発明では上述したように従来技術と比較してHの分解反応に寄与しないH分解触媒の量を減らして効率よく用いることができるため、原料コストの大幅な上昇を抑制することができる。
【0026】
白金は、固体高分子電解質膜の燃料極側触媒層側または酸化剤極側触媒層側のどちらか一方の表面に担持されていれば良いが、好ましくは両側の表面に担持される。
【0027】
燃料極側触媒層側の白金配置部位の厚みは、固体高分子電解質膜の厚みに対して、0.1〜5%であることが好ましくより好ましくは0.1〜1%である。白金配置部位の厚みが0.1%以上であると、H分解能に優れ、5%以下であると原料コストの上昇またはプロトン伝導度の低下を抑制することができる。
【0028】
白金の合計担持量は固体高分子電解質膜に含まれる電解質に対して0.1〜10質量%含まれることが好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。0.1質量%以上であると、Hの分解性に優れ、10質量%以下であると、Hの分解反応に関与しない白金が生じ難くなり、白金の利用率が向上する。白金の担持量はICP発光分析により測定することができる。
【0029】
本発明で用いられる固体高分子電解質膜としては、上述の本発明の第一の項に記載したものが好ましく挙げられる。
【0030】
本発明の第三は、固体高分子電解質膜を白金化合物溶液に浸漬する段階と、前記白金化合物溶液から取り出した前記固体高分子電解質膜を、還元剤を含む溶液に浸漬することにより、前記固体高分子電解質膜の表面近傍部分に白金を担持させる段階とを含むことを特徴とする、上述の本発明の第一の項に記載したMEAの製造方法である。
【0031】
固体高分子電解質膜に白金担持部位を形成するための好ましい手順について以下に記載するが、本発明はこれに限定されない。
【0032】
まず、(1)固体高分子電解質膜を用意し、(2)固体高分子電解質膜から不純物を除去し、(3)固体高分子電解質膜をプロトン型にし、(4)固体高分子電解質膜をK型にし、(5)固体高分子電解質膜を白金化合物溶液に浸漬してPt2+で陽イオン交換し、(6)固体高分子電解質膜を還元剤を含む溶液に浸漬することにより固体高分子電解質膜の表面近傍部分に白金を担持させて、白金担持部位を形成する。(1)〜(6)の詳細について以下に記載する。
【0033】
(1)固体高分子電解質膜としては、上述の本発明の第一の項に記載したものを好ましく用いることができる。
【0034】
(2)固体高分子電解質膜から不純物を除去する方法としては、固体高分子電解質膜を1〜5%H溶液中で0.5〜1.5時間煮沸し、次に純水中で0.5〜1.5時間煮沸する方法が好ましい。
【0035】
(3)固体高分子電解質膜をプロトン型にする方法としては、固体高分子電解質膜を0.5〜1.5MのHSO溶液中で0.5〜1.5時間煮沸し、次に純水中で0.5〜1.5時間煮沸する方法が好ましい。
【0036】
(4)固体高分子電解質膜をK型にする方法としては、固体高分子電解質膜を0.5〜1.5MのKCl溶液に20〜30時間浸漬する方法が好ましい。
【0037】
(5)固体高分子電解質膜をPt2+で陽イオン交換するための白金化合物溶液としては、Pt(NHCl、Pt(NHCl、塩化白金酸溶液、またはジニトロジアミン白金錯体溶液などが好ましく挙げられる。固体高分子電解質膜を白金化合物溶液に浸漬する時間は20〜30時間が好ましい。
【0038】
(6)固体高分子電解質膜の表面近傍部分に白金を担持させるための還元剤としては、NaBHを含む溶液であることが好ましい。還元剤としてNaBHを用いると白金が固体高分子電解質膜全体に担持されるのを抑制することができる。これは、NaBHは強力な還元作用を示すため、固体高分子電解質膜の表面近傍部分で速やかに還元が起こり、膜表面で還元された白金が膜深部にまで還元剤が到達することを抑制することが原因であると考えられる。還元剤の温度は25〜80℃が好ましく、より好ましくは40〜80℃である。上記温度範囲で還元を行うことにより、白金の担持量を好ましい範囲内に収めやすくなる。白金の好ましい担持量については上述の本発明の第一の項に記載したとおりである。
【0039】
白金担持部位の厚み、白金の合計担持量、または白金の形状は、白金化合物の種類や、還元剤の種類や、HSO溶液、KCl溶液、白金化合物溶液または還元剤を含む溶液への浸漬時間や、還元剤を含む溶液の温度などにより調節することができる。白金担持部位の好ましい厚みおよび白金の好ましい合計担持量については上述の本発明の第一の項に記載したとおりである。
【0040】
本発明の第四は、固体高分子電解質膜を白金化合物溶液に浸漬する段階と、前記白金化合物溶液から取り出した前記固体高分子電解質膜を、水に浸漬して還元ガスをバブリングすることにより、前記固体高分子電解質膜の表面に白金を析出させる段階とを含むことを特徴とする、上述の本発明の第二の項に記載のMEAの製造方法である。
【0041】
固体高分子電解質膜に白金が析出された白金配置部位を形成するための好ましい手順について以下に記載するが、本発明はこれに限定されない。
【0042】
まず、(a)固体高分子電解質膜を用意し、(b)固体高分子電解質膜から不純物を除去し、(c)固体高分子電解質膜をプロトン型にし、(d)固体高分子電解質膜をK型にし、(e)固体高分子電解質膜を白金化合物溶液に浸漬してPt2+で陽イオン交換し、(f)純水中又は白金化合物溶液中で還元ガスをバブリングすることにより固体高分子電解質膜の表面に白金を析出させて、白金配置部位を形成する。
【0043】
(a)〜(e)は、上述の本発明の第三の項に記載した(1)〜(5)と同様である。
【0044】
(f)還元ガスとしてはHガスが好ましい。バブリングは2〜12時間行うことが好ましい。バブリングをする際の純水の温度は25〜80℃が好ましく、より好ましくは40〜80℃である。上記温度範囲で還元を行うことにより、白金の担持量を好ましい範囲内に収めやすくなる。白金の好ましい析出量については上述の本発明の第二の項に記載したとおりである。還元ガスによる白金の析出は純水中で行わずに、Pt2+で陽イオン交換した固体高分子電解質膜に還元ガスを直接吹き付けることによってもなされるが、安全上純水中でバブリングすることが望ましい。
【0045】
白金配置部位の厚みまたは白金の合計担持量は、白金化合物の種類や、還元ガスの種類や、HSO溶液、KCl溶液、または白金化合物溶液への浸漬時間や、バブリングの時間、バブリング時の純水の温度などにより調節することができる。白金配置部位の好ましい厚みおよび白金の好ましい合計担持量については上述の本発明の第二の項に記載したとおりである。
【0046】
本発明の第五は、本発明の第一または第二の項に記載した固体高分子電解質膜、または本発明の第三または第四の項に記載した製造方法により得られた固体高分子電解質膜を、燃料極側触媒層および酸化剤極側触媒層で挟持してなることを特徴とするMEAである。
【0047】
本発明のMEAは、少なくとも片面に白金担持部位または白金配置部位を有する固体高分子電解質膜を含むため、Hによる電解質の劣化が抑制される。また、白金が膜全体に担持されている場合と比較して、原料コストやプロトン伝導度に優れる。
【0048】
MEAの好ましい態様は上述の図1のAまたは図1のBに示したとおりであり、図1のAに示すように、燃料極側触媒層20a、少なくとも片面に白金担持部位100が形成された固体高分子電解質膜10、および酸化剤極側触媒層20cがこの順序で積層されてなるものか、または、図1のBに示すように燃料極側触媒層20a、少なくとも片面に白金配置部位110が形成された固体高分子電解質膜10、および酸化剤極側触媒層20cがこの順序で積層されてなるものである。
【0049】
本発明で用いられる燃料極側触媒層および酸化剤極側触媒層としては特に限定されず従来公知のものを用いることができる。
【0050】
例えば、燃料極側触媒層、固体高分子電解質膜および酸化剤極側触媒層からなる積層体を積層してプレスをする際の温度や圧力などの、MEAを作製するための方法としては特に限定されず従来公知の方法を用いることができる。
【0051】
本発明の第六は、本発明の第五の項に記載したMEAを含むことを特徴とする固体高分子型燃料電池である。
【0052】
本発明の固体高分子型燃料電池に含まれる固体高分子電解質膜は、Hによる電解質の劣化が抑制されているため耐久性に優れる。また、高価な白金を効率よく用いるため、コストパフォーマンスに優れる。また、固体高分子電解質膜のプロトン伝導を阻害するおそれのある白金が固体高分子電解質膜全体に分散していないため、電池性能に優れる。
【実施例】
【0053】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0054】
(実施例1)
固体高分子電解質膜として15mm角のナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製、NRE212)膜を用意し、3質量%のH水溶液中で1時間煮沸し、純水中で1h煮沸して不純物を除去した。
【0055】
次に、1MのHSO中で1時間煮沸し、純水中で1時間煮沸してナフィオン(登録商標)をプロトン型にした。
【0056】
次に、0.1MのKCl溶液に24時間浸漬してKで陽イオン交換した。
【0057】
次に、0.1MのPt2+(Pt(NHCl)溶液に24時間浸漬し、Pt2+で陽イオン交換されたナフィオン(登録商標)膜を得た。
【0058】
次に25℃の0.5質量%NaBH−3質量%NaOH水溶液に2時間浸漬して白金を還元することにより、白金担持部位を有する固体高分子電解質膜を得た。
【0059】
ICP発光分析用いて、白金担持量を測定したところ、白金担持量は電解質に対して5.3質量%であった。
【0060】
SEMを用いて倍率1000倍で断面を観察したところ、白金担持部位の厚みは固体高分子電解質膜の厚みに対して20%であった。また、白金の形状は粒子状であり、その平均粒径は50nmであった。
【0061】
(実施例2)
0.5質量%NaBH−3質量%NaOH水溶液に固体高分子電解質膜を浸漬せずに、80℃に保持されたPt2+(Pt(NHCl)溶液に水素ガスを6時間バブリングして白金を析出させたこと以外は実施例1と同様にして白金配置部位を有する固体高分子電解質膜を得た。
【0062】
白金担持量は電解質に対して2.5質量%であり、白金配置部位の厚みは固体高分子電解質膜の厚みに対して1%であった。
【0063】
(実施例3)
0.5質量%NaBH−3質量%NaOH水溶液の温度を80℃にして2時間浸漬したこと以外は実施例1と同様にして白金担持部位を有する固体高分子電解質膜を得た。
【0064】
白金担持量は電解質に対して2.8質量%であり、白金担持部位の厚みは固体高分子電解質膜の厚みに対して12%であり、白金の形状は粒子状であり、その平均粒径は50nmであった。
【0065】
(比較例1)
固体高分子電解質膜として15mm角のナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製、NRE212)膜を用意し、実施例1と同様に不純物の除去を行った後で、プロトン型にした。白金を担持させる工程は行わなかった。
【0066】
(比較例2)
25℃の0.5質量%NaBH−3質量%NaOH水溶液に2時間浸漬せずに、80℃の3質量%ヒドラジン水溶液に2時間浸漬したこと以外は実施例1と同様にして白金担持部位を有する固体高分子電解質膜を得た。
【0067】
白金担持量は電解質に対して8質量%であり、白金は固体高分子電解質膜全体に担持され、白金の形状は粒子状であり、その平均粒径は50nmであった。
【0068】
(フェントン試験)
実施例1〜3、参考例1、および比較例1で得られた固体高分子電解質膜を劣化するためのフェントン試験を行った。
【0069】
フェントン試験として、80℃で保持され、Fe2+を12質量ppm含む10%H溶液を用意し、固体高分子電解質膜の浸漬時点を0時間として、3時間、6時間、9時間、12時間の上澄み液を採取した。次に、イオンクロマトグラフィーを用いて上澄み液のF濃度を測定した。Fe2+を含むH溶液は、3時間毎に新しい溶液を用意し、F濃度は各溶液の濃度を積算していった。12時間目のF濃度を下記表1に示す。
【0070】
(プロトン伝導度測定試験)
実施例1〜3、および比較例1〜2で得られた固体高分子電解質膜のプロトン伝導度を測定した。
【0071】
プロトン伝導度は、60℃かつ相対湿度60%の条件下で交流インピーダンス装置(ソーラトロン社製)を用いて測定を行った。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示すように比較例1は、プロトン伝導度に優れるがF濃度が25質量ppmであることから電解質が劣化していることがわかる。
【0074】
これに対して、実施例1〜3、および比較例2はF濃度が検出限界以下であることから、電解質の劣化が抑制されていることがわかる。さらに、実施例1〜3は比較例2に比べて白金量が少なく、プロトン伝導度に優れることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】Aは本発明の第1の固体高分子電解質膜を含むMEAを示す断面概略図、Bは本発明の第2の固体高分子電解質膜を含むMEAを示す断面概略図である。
【符号の説明】
【0076】
10 固体高分子電解質膜、
20a 燃料極側触媒層、
20c 酸化剤極側触媒層
100 白金担持部位、
110 白金配置部位。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片方の表面近傍部分に白金が担持されてなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用固体高分子電解質膜。
【請求項2】
前記表面近傍部分の深さは、前記固体高分子電解質膜の厚みの30%以内であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項3】
前記白金の合計担持量は、前記固体高分子電解質膜に含まれる電解質に対して、0.01〜10質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項4】
少なくとも片方の表面に白金が配置されてなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用固体高分子電解質膜。
【請求項5】
前記白金の合計担持量は、前記固体高分子電解質膜に含まれる電解質に対して、0.01〜10質量%であることを特徴とする請求項4に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項6】
固体高分子電解質膜を白金化合物溶液に浸漬する段階と、
前記白金化合物溶液から取り出した前記固体高分子電解質膜を、還元剤を含む溶液に浸漬することにより、前記固体高分子電解質膜の表面近傍部分に白金を担持させる段階と、
を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項7】
固体高分子電解質膜を白金化合物溶液に浸漬する段階と、
前記白金化合物溶液から取り出した前記固体高分子電解質膜を、水に浸漬して還元ガスをバブリングすることにより、前記固体高分子電解質膜の表面に白金を配置させる段階と、
を含むことを特徴とする請求項4または5に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の固体高分子電解質膜、または請求項6もしくは請求項7に記載の製造方法により得られた固体高分子電解質膜を、燃料極側触媒層および酸化剤極側触媒層で挟持してなることを特徴とするMEA。
【請求項9】
請求項8に記載のMEAを含むことを特徴とする固体高分子型燃料電池。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−165024(P2007−165024A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356976(P2005−356976)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】