説明

固定具及び被取付部材の固定構造

【課題】雄部材が裏押しされたとしても、十分な係止状態を維持することができる固定具及び被取付部材の固定構造を得る。
【解決手段】本止め状態において、雄部材16に雌部材14から抜ける方向への外力が作用した場合、雄部材16が軸方向へ移動して、係合脚片28の爪部34が係合する位置が、装着部58、60から当接部54、56へ移動する。当接部56には係合溝62が形成されているため、該係合溝62が係合脚片28の爪部34と係合する。これにより、雄部材16の回転方向への移動を規制し、雄部材16をそのまま軸方向に沿って移動させ、係合脚片28の爪部34が係合孔64と係合しないようにして、フランジ部20と係合脚片28とで、車体パネル及びトリムボードが挟持された状態を維持できるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体パネルにトリムボードなどを着脱可能に固定するための固定具及び被取付部材の固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のトリムボードは、雌部材と雄部材とで構成された固定具によって、車体パネルへ着脱可能に固定される。
【0003】
例えば、特許文献1では、雄部材の頭部の下面の外縁側に、周方向に沿って一対の突起が設けられている。また、雄部材の軸部には、周方向に沿って凹部が凹設されており、該凹部が仕切壁で区画されている。
【0004】
一方、雌部材の鍔には、雄部材の頭部が嵌る係合凹部が凹設されており、係合凹部の上面には、鋸歯形カムが形成されている。この鋸歯形カムを構成する傾斜面に雄部材の頭部に設けられた突起が当接可能とされている。
【0005】
また、雌部材の筒形胴部には、軸方向に沿ってスリットが設けられており、雄部材の仕切壁が挿入可能とされている。トリムボード及び車体パネルに形成された装着孔内へ雌部材を挿入した後、雌部材のスリットの位置に雄部材の仕切壁の位置を合わせて、雄部材の軸部を雌部材の筒形胴部内へ挿入する。
【0006】
ここで、筒型胴部はスリットによって、複数の切割り片を形成するが、各切割り片の内面には爪部が突設され、該爪部が雄部材の軸部の凹部と係合する。これにより、雄部材が回転不能な状態で雌部材に仮止めされる。
【0007】
この状態では、雄部材の突起が鋸歯形カムの傾斜面に当接したまま、雄部材の頭部が雌部材の凹部から浮き上がった状態となっている。この状態から、雄部材を回転させると、雄部材の突起が、鋸歯形カムの傾斜面の頂部を乗り越え、鋸歯形カムの平面部に案内されると共に、雄部材が雌部材の奥方へ押込まれる。
【0008】
これにより、切割り片の爪部が雄部材の軸部の周方向に沿って等間隔に設けられた係止隆起に係止されると共に、各切割り片は外方に拡張し、雌部材の鍔と切割り片との間で、トリムボード及び車体パネルを挟持し、トリムボードを車体パネルに固定可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実公平6−45048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、この固定具を介してトリムボードを車体パネルに固定した状態で、組立時において、雄部材が軸部の先端部側から押されてしまった場合、チッピング(石等が当たって雄部材を押してしまう)による場合等、いわゆる雄部材が裏押しされた場合、雄部材の突起が雌部材の鋸歯形カムの傾斜面に沿って回転してしまう。つまり、切割り片の爪部が凹部と係合し、切割り片が縮径して、雄部材及び雌部材がトリムボード及び車体パネルから取り外し可能な状態となる。
【0011】
本発明は上記事実を考慮して、雄部材が裏押しされたとしても、十分な係止状態を維持することができる固定具及び被取付部材の固定構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、固定具において、環状のフランジ部と、前記フランジ部の表面に設けられた環状の凹部内に形成され、周方向に沿って傾斜する傾斜カムと、前記フランジ部から垂下し、中空部を構成する複数の係合脚体と、前記係合脚体の先端部に設けられた爪部と、を含んで構成された雌部材と、前記フランジ部から前記中空部内へ挿入可能な棒状の軸部と、前記軸部の一端部に設けられ、該軸部の外形よりも大きく形成され、前記凹部内に収容される頭部と、前記頭部の裏面から突出し、前記傾斜カムに当接し、前記軸部を回転させながら前記凹部内に前記頭部を案内する突起部と、前記軸部の他端部に該軸部の周方向に複数設けられ、前記頭部が前記凹部内に収容されていない状態で、前記爪部が係合する係合孔と、前記係合孔と係合孔の間に設けられた仕切壁の外面の延長線上に位置し、前記頭部を前記凹部内に収容させると、前記係合孔から外れた前記爪部が当接して、前記係合脚体を外側へ向かって押し広げる装着部と、少なくとも一つの前記仕切壁の外面に、前記軸部の軸方向に沿って形成され、前記爪部が係合して、前記軸部の回転を規制する係合部と、を含んで構成された雄部材と、を備えている。
【0013】
請求項1に記載の発明では、固定具が雌部材と雄部材を備えており、雌部材に設けられた環状のフランジ部の表面には、雄部材の頭部が収容可能な凹部が形成され、該凹部内には、周方向に沿って傾斜する傾斜カムが設けられている。
【0014】
この傾斜カムに、雄部材の頭部の裏面から突出する突起部が当接可能としており、突起部を傾斜カムに当接させた状態で、雌部材に対して雄部材を回転させると、傾斜カムの傾斜面に沿って突起部を介して雄部材が回転すると共にその軸方向に沿って移動して、凹部内に雄部材の頭部を収容させる。
【0015】
また、フランジ部からは、雄部材の軸部が挿入可能な中空部を構成する複数の係合脚体が垂下しており、該係合脚体の先端部には、爪部が設けられている。
【0016】
一方、雄部材の軸部には、係合孔が形成されており、頭部が凹部内に収容されていない状態で、該係合孔に爪部が係合可能である。この係合孔に爪部が係合された状態で、雄部材は雌部材に、いわゆる仮止めされたこととなる。
【0017】
また、係合孔と係合孔の間には、仕切壁が設けられており、この仕切壁の外面の延長線上には、係合脚体を外側へ向かって押し広げる装着部が設けられている。雄部材が雌部材に仮止めされた状態で、雄部材の軸部を回転させると、雄部材が軸方向に沿って移動して、雄部材の頭部が雌部材のフランジ部の凹部内に収容される。
【0018】
このとき、係合脚体の爪部と係合している係合孔の位置が、周方向及び軸方向にずれて、爪部が係合孔から外れ、仕切壁の外面の延長線上に位置する装着部が爪部に当接し、係合脚体が該爪部を介して押し広げられる。この状態が、雄部材が雌部材に、いわゆる本止めされた状態である。
【0019】
つまり、被取付部材及びこの被取付部材に取付けられる取付部材に形成された取付孔内へ雌部材を挿入させた状態で雄部材を雌部材に本止めすることで、雌部材のフランジ部と係合脚体とで被取付部材及び取付部材を挟持し、被取付部材に取付部材を取付けることができる。
【0020】
一方、少なくとも一つの仕切壁の外面には、軸部の軸方向に沿って係合部が形成されている。つまり、装着部の延長線上に係合部が設けられていることとなる。被取付部材に取付部材を取付ける作業工程で、雄部材が雌部材に本止めされた状態で(被取付部材に取付部材を取付けられた状態で)、雄部材が軸部の先端部側から押された場合(いわゆる裏押しされた場合)、係合脚体の爪部と係合している装着部の位置が、軸方向に沿ってずれて、仕切壁が爪部と係合することとなる。仕切壁に爪部と係合する係合部を形成することで、爪部が係合部と係合した状態で、雄部材は回転を規制されることとなる。つまり、係合孔が爪部と係合することはない。
【0021】
そして、爪部が係合部と係合した状態では、係合脚体は外側へ向かって押し広げられているため、雄部材及び雌部材が被取付部材及び取付部材の取付孔から外れることはない。また、この状態では、雄部材の頭部は雌部材のフランジ部の凹部内へ収容されていないため、雄部材を押圧して、雌部材の係合脚体の爪部を装着部に係合させるようにすれることで、雄部材を雌部材に本止めすることができる。
【0022】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の固定具において、前記装着部と前記仕切壁の間に、前記爪部が係止可能な係止部が設けられている。
請求項2に記載の発明によれば、雄部材が雌部材から外れる方向への移動が規制される。
【0023】
請求項3に記載の発明は、被取付部材の固定構造において、被取付部材及び取付部材に形成された取付孔に請求項1又は2に記載の固定具を装着して、固定具を介して取付部材を被取付部材に取付ける。
請求項3に記載の発明では、請求項1又は2に記載の発明に記載の効果と略同一の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、上記構成としたので、雄部材が裏押しされたとしても、十分な係止状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る固定具を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る固定具の仮止め状態を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る固定具の仮止め状態を示す断面図である。
【図4】図1の4−4線の断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る固定具の本止め状態を示す斜め下方から見た斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る固定具の本止め状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る固定具の本止め状態を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る固定具の雄部材が裏押しされた状態を示す斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る固定具の雄部材が裏押しされた状態を示す断面図である。
【図10】図9の10−10線の断面図である。
【図11】図10の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態に係る固定具について説明する。
【0027】
例えば、図7に示すように、車体パネル(被取付部材)10にトリムボード(取付部材)12を固定するため、雌部材14と雄部材16とで構成された固定具18が用いられる。車体パネル10及びトリムボード12に形成された取付孔10A、12Aに、この固定具18を装着し、該固定具18で車体パネル10及びトリムボード12の取付孔10A、12Aの周辺部を挟持することによって、トリムボード12が車体パネル10に固定される。
【0028】
<固定具>
ここで、固定具について説明する。
図1に示すように、固定具18は雌部材14と雄部材16とで構成されている。なお、説明の便宜上、図中矢印UPで示す方向を上方として説明する。
【0029】
(雌部材)
雌部材14は、取付孔10A、12Aよりも大径の環状のフランジ部20を備えており、フランジ部20の表面には、略円柱状の凹部22が凹設されている。
【0030】
凹部22の底部22Aには、周方向に沿って時計回りに、凹部22の開口側から底部22A側へ向かって傾斜する傾斜カム24が、90°未満の範囲で互いに対向して二つ設けられている。傾斜カム24の最下部24Aの近傍には、傾斜カム24の頂部24Bと略同一の高さを有する壁部26が突設されており、壁部26を中心にして傾斜カム24の反対側には、平坦部23(凹部22の底部22A)が設けられている。
【0031】
また、フランジ部20の内縁部からは、4本の係合脚片(係合脚体)28が垂下しており、これらの係合脚片28によって中空部30(図3参照)が形成されている。係合脚片28は取付孔10A、12Aへ挿入可能とされており、係合脚片28と係合脚片28の間には、スリット部32が設けられている。このスリット部32により、係合脚片28同士は独立し、個々に弾性変形可能としている。
【0032】
また、係合脚片28は、平坦部23及び傾斜カム24の最下部24A側に位置しており、係合脚片28の内面の先端部には、断面視で略三角形状を成す爪部34(図10参照)が設けられている。
【0033】
(雄部材)
雄部材16は、雌部材14の中空部30内へ挿入可能な棒状の軸部36を備えている。この軸部36の一端部には、該軸部36の外形よりも大きく形成された頭部38が設けられており、該頭部38が雌部材14の凹部22内に収容可能とされる。
【0034】
頭部38の上面には、十字溝40が形成されており、ドライバーなどが係合可能とされている。また、頭部38の裏面からは、突起部42が突出しており、周方向に沿って所定の間隔で二つ配置されている(図4参照:なお、図4は、図1の4−4線の断面図である)。
【0035】
突起部42は頭部38の裏面から垂下する垂下面42Aを備えており、該垂下面42Aの先端部から周方向に沿って反時計回りに頭部38の裏面へ向かって傾斜面42Bが形成されている。この傾斜面42Bが、凹部22内に設けられた傾斜カム24に当接して、傾斜カム24の表面に沿って移動可能としている。
【0036】
また、突起部42と突起部42の間には、角状の当接リブ44が突設されており、この当接リブ44は突起部42よりも低く幅狭に形成されている。当接リブ44が突起部42よりも低く形成されており、傾斜カム24の頂部24Bと壁部26とは略同一の高さとなるようにしているため、突起部42が傾斜カム24の頂部24Bに当接した場合、当接リブ44は壁部26には当接しないこととなる。
【0037】
つまり、突起部42が傾斜カム24の頂部24Bに当接した場合、傾斜カム24の斜面に沿って突起部42を介して、当接リブ44と壁部26に当接するまで、雄部材16が回転しながら下方へ移動する。なお、突起部42が傾斜カム24に当接する前に、当接リブ44が壁部26に当接した場合は、当接リブ44によって、雄部材16の下方への移動が規制される。
【0038】
軸部36の他端部(軸部36の先端部)の外周面からは、突起部42及び当接リブ44の下部に位置して、それぞれガイド片46、48が外側へ向かって張り出している。このガイド片46、48は雌部材14の係合脚片28と係合脚片28の間に設けられたスリット部32内を通過可能としている。ここで、ガイド片46とガイド片48の幅を変え、スリット部32の幅を該ガイド片46、48に合わせて変えるようにして、雌部材14の周方向の所定の位置以外では軸部36が中空部30内(図3参照)へ入らないようにしても良い。
【0039】
また、軸部36の先端側には、ガイド片46、48との間に所定の距離を置いて、ガイド片46、48と平行に係止片(係止部)50、52がそれぞれ軸部36の外周面から突出している。説明の便宜上、係止片50、52を間に置いて、ガイド片46、48側を当接部(仕切壁)54、56とし、ガイド片46、48の反対側を装着部58、60とする。
【0040】
当接部54、56及び装着部58、60には、それぞれ係合脚片28の爪部34が当接可能とされており、該爪部34が当接部54、56又は装着部58、60に当接した状態で、係合脚片28は押し広げられ弾性変形した状態となり、車体パネル10及びトリムボード12の取付孔10A、12Aの内径寸法よりも拡径する(図7及び図9参照)。ここで、図7は、爪部34が装着部58、60に当接した状態を示す断面図であり、図9は、爪部34が当接部54、56に当接した状態を示す断面図である。
【0041】
そして、図5及び図6に示すように、爪部34が装着部58、60に当接した状態で、爪部34は係止片50、52に係止され、軸部36の上方への移動(雄部材16の雌部材14から外れる方向への移動)が規制される。この状態が、固定具18のいわゆる本止めの状態とされる。
【0042】
また、当接部56の周方向の中央部には、軸部36の軸方向に沿って係合溝(係合部)62が凹設されており、係合脚片28の爪部34の頂部が係合可能とされている(図10参照)。該爪部34が係合溝62に係合した状態で、爪部34が当接部54に当接した状態よりも係合脚片28の弾性変形量は小さくなるが、前述したように、係合脚片28は押し広げられ弾性変形した状態であり、車体パネル10及びトリムボード12の取付孔10A、12Aの内径寸法よりも拡径している。
【0043】
一方、当接部54と当接部56の間には、係合孔64が設けられている。この係合孔64は略四角錐台状を成しており、外縁部は四角形を成している。係合孔64の底部64Aは、軸部36の軸方向に沿って長方形状を成しており、軸部36の先端部側に位置している。
【0044】
係合孔64には、軸部36の周方向に沿って、係合孔64の外縁部から底部64Aに架けて傾斜面64Bが形成されている。また、軸部36の軸方向に沿って、係合孔64の上外縁部から底部64Aに架けて傾斜面64Cが形成され、係合孔64の下外縁部から底部64Aに架けては水平面64Dが形成されている。
【0045】
該係合孔64には係合脚片28の爪部34が係合可能とされており、図3に示すように、係合脚片28の爪部34が係合孔64に係合され水平面64Dに当接した状態では、係合脚片28は自然状態となっている。つまり、弾性変形していない状態であり、いわゆる固定具18の仮止めの状態とされる。
【0046】
<固定具の作用、効果>
車体パネル10(図3参照)の取付孔10Aとトリムボード12の取付孔12Aを位置合せした状態で、取付孔10A及び取付孔12Aへ雌部材14の係合脚片28を挿入する。雌部材14のフランジ部20がトリムボード12の取付孔12Aの周辺部に当接して、雌部材14が移動規制される。
【0047】
雌部材14のフランジ部20がトリムボード12の取付孔12Aの周辺部に当接した状態で、図1及び図2に示すように、雄部材16の軸部36の先端部に設けられたガイド片46、48の位置が雌部材14のスリット部32の同軸上となるように、雄部材16の軸部36を雌部材14のフランジ部20から中空部30内へ挿入させる。
【0048】
これにより、ガイド片46、48がスリット部32内へ挿入されると共に、軸部36の係合孔64が係合脚片28の内面と対面する。この状態で、雄部材16をさらに押圧すると、雄部材16の突起部42が雌部材14の傾斜カム24の頂部24B側に当接すると共に、当接リブ44が壁部26に当接する。
【0049】
ここで、ガイド片46、48の位置が雌部材14のスリット部32の同軸上から少しずれた場合、当接リブ44は突起部42よりも低く形成されているため、突起部42が傾斜カム24の頂部24Bに当接した場合は、傾斜カム24の斜面に沿って突起部42を介して雄部材16が回転しながら下方へ移動するが、これによって、ガイド片46、48がスリット部32の同軸上に配置される。
【0050】
そして、雄部材16の突起部42が雌部材14の傾斜カム24の頂部24B側に当接すると共に、当接リブ44が壁部26に当接した状態では、係合孔64が係合脚片28の爪部34に到達し、図3に示すように、爪部34が係合孔64と係合する。つまり、固定具18の仮止めの状態である。このとき、係合脚片28は略自然状態となっている。
【0051】
また、この状態では、図2に示すように、雄部材16の頭部38が雌部材14の凹部22内に収容されておらず、フランジ部20の上面から浮き上がった状態となっている。
【0052】
なお、上記の説明では、雌部材14の係合脚片28を取付孔10A及び取付孔12Aへ挿入した後、雄部材16を雌部材14に係合させるようにしたが、仮止め状態の固定具18(図3参照)の係合脚片28を取付孔10A及び取付孔12Aへ挿入しても良い。
【0053】
そして、固定具18の仮止め状態において、雄部材16を時計回りに回転させると、当接リブ44が壁部26から落下して平坦部23(凹部22の底部22A)に配置されると共に、突起部42が傾斜カム24の頂部24B側から最下部24A側へ移動して、雄部材16が雌部材14の奥方へ押込まれる。つまり、傾斜カム24によって、雄部材16に作用する回転力を利用して、該雄部材16に軸部36の軸方向へ移動させる軸力を発生させる。
【0054】
雄部材16の周方向及び軸方向の移動により、係合孔64の位置がずれ、爪部34の当接位置が係合孔64の傾斜面64Bと傾斜面64Cの境界線Pに沿って移動し、爪部34が係合孔64から外れると共に、係止片50、52が爪部34を乗り越え、図5〜図7に示すように、装着部58、60(軸部36の外周面)が爪部34と当接する。このとき、雄部材16の頭部38は、雌部材14の凹部22内へ収容される。
【0055】
つまり、この状態が、固定具18の本止め状態であり、係合脚片28は押し広げられた状態となっている。これにより、フランジ部20と係合脚片28とで、車体パネル10及びトリムボード12を挟持することができ、トリムボード12が車体パネル10に固定される。
【0056】
この状態で、突起部42は傾斜カム24の最下部24Aへ移動しており、突起部42の垂下面42Aが壁部26に当接して、雄部材16は時計回りの回転移動を規制される。
【0057】
ここで、雄部材16は時計回りの回転移動を規制されているが、突起部42が傾斜カム24に当接しているため、傾斜カム24及び傾斜面42Bを介して、雄部材16には時計回りに回転させる方向へ押圧する分力を受けることとなる。つまり、本止め状態において、雄部材16を雌部材14の奥方へ押込もうとする力が作用するようにすることで、雄部材16に対する雄部材16の移動を規制して、雄部材16と雌部材14のガタツキを吸収することができる。
【0058】
また、本止め状態では、当接リブ44は平坦部23に配置されており、当接リブ44と傾斜カム24の立壁24Cとの間には隙間が設けられている。このため、雄部材16を雌部材14に対して反時計回りに回転させることは可能である。
【0059】
一方、本止め状態において、雄部材16に雌部材14から抜ける方向(雄部材16の軸部36から頭部38へ向かう方向)への外力が作用した場合(いわゆる裏押しされた場合)、雄部材16が軸方向へ移動して、係合脚片28の爪部34が当接する位置が、装着部58、60から当接部54、56へ移動する。
【0060】
当接部56には係合溝62が形成されているため、図8〜図10に示すように、該係合溝62が係合脚片28の爪部34に係合する。これにより、雄部材16の回転を規制し、雄部材16をそのまま軸方向に沿って移動させ、係合脚片28の爪部34が係合孔64と係合しないようにしている。
【0061】
当接部54及び当接部56は、軸部36の外周面であるため、当接部56と当接する係合脚片28の広がり量は、係合脚片28の爪部34が装着部58、60と当接している状態と同じである。一方、当接部56には係合溝62が形成されているため、係合脚片28の広がり量は、係合脚片28の爪部34が装着部58、60と当接している状態よりも小さくなるが、車体パネル10及びトリムボード12の取付孔10A、12Aの内径寸法よりも拡径している状態である。
【0062】
つまり、係合脚片28の爪部34が当接する位置が、装着部58、60から当接部54、56へ移動しても、フランジ部20と係合脚片28とで、車体パネル10及びトリムボード12が挟持された状態が維持されることとなる。
【0063】
そして、この状態では、雄部材16の頭部38が雌部材14の凹部22から浮き上がった状態となっているため、固定具18が本止め状態ではないことが目視にて判別できる。このため、雄部材16の頭部38を押圧すると、係合脚片28の爪部34が当接する位置が、当接部54、56から装着部58、60へ移動すると共に、頭部38が凹部22内に収納される。
【0064】
ところで、本止め状態において、雄部材16を雌部材14から取り外す場合、雄部材16を雌部材14に対して反時計回りに回転させる。これにより、突起部42が傾斜カム24の底部から頂部へ向かって移動し、これに伴って、雄部材16が上方へ移動して、頭部38が雌部材14の凹部22内から浮き上がると共に、係合孔64が係合脚片28の爪部34と係合する位置へ移動し、係合孔64と爪部34とが係合して、係合脚片28が復元する。
【0065】
これにより、フランジ部20と係合脚片28とで、車体パネル10及びトリムボード12を挟持している状態が解除され、この状態のまま固定具18が、車体パネル10及びトリムボード12に形成された取付孔10A、12Aから取り外し可能となる。
【0066】
なお、本形態はあくまでも一実施例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0067】
<その他の実施形態>
本実施形態では、一例として、図10に示すように、当接部56に係合溝62を設け、係合脚片28の爪部34の頂部が該係合溝62と係合するようにしたが、雄部材16の回転を規制することができれば良いため、この形状に限るものではない。例えば、図11に示すように、爪部34の頂部に係合凹部34Aを設け、当接部56の表面に、爪部34の頂部及び該係合凹部34Aが係合可能な係合凹凸部56Aを設けるようにしても良い。
【0068】
また、図10に示すように、当接部56のみに係合溝62を設けたが、当接部54にも係合溝62を設けても良い。
さらに、雄部材16に突起部42と当接リブ44を設け、雌部材14の凹部22には突起部42が当接する傾斜カム24と当接リブ44が当接する壁部26を設けたが、雄部材16の回転力により軸力を発生させることができれば良いため、少なくとも傾斜カム24と突起部42が設けられていれば良い。
【符号の説明】
【0069】
10 車体パネル(被取付部材)
12 トリムボード(取付部材)
14 雌部材
16 雄部材
18 固定具
20 フランジ部(雌部材)
22 凹部
24 傾斜カム(雌部材)
28 係合脚片(係合脚体、雌部材)
30 中空部
34 爪部(雌部材)
36 軸部(雄部材)
38 頭部(雄部材)
42 突起部(雄部材)
50 係止片(係止部)
54 当接部(仕切壁、雄部材)
56A 係合凹凸部(係合部、雄部材)
56 当接部(仕切壁、雄部材)
58 装着部(雄部材)
62 係合溝(係合部、雄部材)
64 係合孔(雄部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のフランジ部と、
前記フランジ部の表面に設けられた環状の凹部内に形成され、周方向に沿って傾斜する傾斜カムと、
前記フランジ部から垂下し、中空部を構成する複数の係合脚体と、
前記係合脚体の先端部に設けられた爪部と、
を含んで構成された雌部材と、
前記フランジ部から前記中空部内へ挿入可能な棒状の軸部と、
前記軸部の一端部に設けられ、該軸部の外形よりも大きく形成され、前記凹部内に収容される頭部と、
前記頭部の裏面から突出し、前記傾斜カムに当接し、前記軸部を回転させながら前記凹部内に前記頭部を案内する突起部と、
前記軸部の他端部に該軸部の周方向に複数設けられ、前記頭部が前記凹部内に収容されていない状態で、前記爪部が係合する係合孔と、
前記係合孔と係合孔の間に設けられた仕切壁の外面の延長線上に位置し、前記頭部を前記凹部内に収容させると、前記係合孔から外れた前記爪部が当接して、前記係合脚体を外側へ向かって押し広げる装着部と、
少なくとも一つの前記仕切壁の外面に、前記軸部の軸方向に沿って形成され、前記爪部が係合して、前記軸部の回転を規制する係合部と、
を含んで構成された雄部材と、
を備えた固定具。
【請求項2】
前記装着部と前記仕切壁の間に、前記爪部が係止可能な係止部が設けられた請求項1に記載の固定具。
【請求項3】
被取付部材及び取付部材に形成された取付孔に請求項1又は2に記載の固定具を装着して、前記固定具を介して前記取付部材を前記被取付部材に取付ける被取付部材の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−249198(P2010−249198A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97982(P2009−97982)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】