説明

固定減速材濃度を用いた酸化エチレンの生成

【課題】銀系触媒、減速材及び補助減速材と併せてエチレンと酸素を用い、酸化エチレンを形成するエチレン酸化制御方法である。
【解決手段】エチレン酸化を制御する際、触媒活性及び触媒選択性などの触媒特性を最適化すべく、減速材濃度を比較的狭い有効濃度範囲内で一定に保ち、補助減速材濃度を比較的広い有効濃度範囲内で変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、化学反応における工程管理に関する。特に、本発明は、エチレン酸化の化学反応における改善された工程管理に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、商業的に重要な化学反応は、バッチ処理式の化学反応器又は連続処理式の化学反応器のいずれかを利用して行うことができる。また、多くの商業的に重要な化学反応においては、反応体物質及び生成物への添加材料としては、(1)特定の生成物を形成するための特定の反応体物質の化学反応を容易にする触媒材料と、(2)通常、特定の触媒材料中に含まれ、特定の化学反応に対する特定の触媒材料の性能を促進する(即ち、そのような性能が少なくとも触媒活性と触媒選択性に対して最適化される)促進剤材料、及び、(3)特定の反応体物質群又は流内に含まれる、特定の化学反応に対する特定の触媒材料の性能を適切に減速することを目的とした減速物質が含まれる。
【0003】
一般に、大量(即ち、年間数千トン)の有機化学中間体又は生成物、無機化学中間体又は生成物及び混成有機及び無機化学中間体又は生成物を生成するために使用できる商業的に重要な化学反応は数多いが、とりわけ基本的な商業的に重要な化学反応は、酸化エチレン(即ち、エチレンエポキシド)を形成するための、エチレンと酸素の化学酸化反応(即ち、化学エポキシ化反応)である。更に、前述の化学酸化反応により形成される酸化エチレンは、更に別の商業的に重要な有機化学生成物及び/又は有機化学中間材料を更に含むエチレン・グリコールを形成するため、加水分解されてもよい。
【0004】
多管型連続反応器内での、エチレンと酸素分子の銀系触媒反応を経た、商業的に重要な酸化エチレン生成は、数十年前から生産的に使用され、益々改善されていることは周知である。上記に関わらず、商業的に重要な酸化エチレン生成における桁外れの規模の体積のため、商業的に重要な酸化エチレン生成においてまだ実施されない別の一見重要度の低い工程改善が、相当な経済的利益を生み出す可能性はまだある。
【0005】
化学処理分野においては、エチレンと分子酸素の銀系触媒反応を経た酸化エチレン生成の様々な特徴が知られている。特に興味深いのは、この工程における塩化物減速材の適用である。例えば、R. McNamceは米国特許第2238474号において、触媒の効率を向上させるため、エチレン酸化用供給物に二塩化エチレンを添加することを開示している。
【0006】
G. Lawは米国特許第2279469号において、供給物へのハロゲン化合物の添加が二酸化炭素の形成を抑制することを開示している。
【0007】
G. Searsは米国特許第2615900号において、銀触媒に金属ハロゲン化物を添加することで、二酸化炭素の形成を低減した、と開示している。
【0008】
D. Sackenは米国特許第2765283号において、酸化エチレン触媒の生成に使用される、塩素含有化合物を有する担体を洗浄することで、高変換率と高収率となったことを開示する。
【0009】
Lauritzenは米国特許第4874879号において、酸素を供給物に添加する前に新鮮レニウム含有触媒を事前に塩化することを開示する。
【0010】
M. Nakajimaは米国特許第4831162号において、Rb及び銀を含む高選択性触媒用の「塩素含有燃焼反応減速剤」及び窒素酸化物を含む供給物を開示する。
【0011】
T. Notermannが米国特許第4994587号において、且つ、P. Haydenが米国特許第5387751号において、どちらも高選択性触媒のための塩化物減速材及び窒素酸化物からなるガス供給物を開示している。
【0012】
P. Shankarは米国特許第5155242号において、新鮮触媒の事前の塩化が、Cs及び銀を含む触媒の始動を容易にする事を開示する。事前の塩化により、より低温でレニウム含有触媒の始動ができることも開示している。
【0013】
P. Haydenは欧州特許第0057066号において、塩素含有減速材が異なる有効性を有することを開示する。供給物が幾つかの減速材化合物を含む場合、触媒の性能は、減速材の絶対和ではなく、その有効和の影響を受ける。
【0014】
Y. Okaは米国特許第6300507号において、供給物流に注入される液体の形態の塩化物減速材の添加を開示する。
【0015】
W. Evansは米国特許第6372925号及び第6717001号において、より高選択性触媒においては、最大選択性を維持するために、減速材の濃度は、処理中に繰り返し最適化されなければならないことを開示する。また、減速材のレベルにおける小さな変化が触媒の性能に顕著な効果を見せることも開示する。
【0016】
最後に、P. Chipmanは米国特許第7193094号において、より選択性の高い銀触媒の処理中に、反応温度の変化に応じて減速材のレベルを調節することを開示する。
【0017】
また、公開文献Montrasiらの「エチレンから酸化エチレンへの酸化:有機塩素化合物の役割」Oxidation Communications, Vol. 3 (3-4), 259-67 (1983)は、酸化エチレンを形成するためのエチレンと分子酸素の銀系触媒反応における銀系触媒活性と選択性に可逆的な影響を与える有機塩素化合物減速物質を開示している。低減した触媒の活性に応じて、減速材のレベルを増加させなければならない。また、前述の参考文献には、「塩素スカベンジャー」材料の使用により、有機塩素化合物減速物質の幅広い有効範囲が可能となることが開示されている。
【0018】
特に、エチレン酸化反応などの、商業的に重要な化学反応は、国内外の経済拡大に伴って重要であり続けることは間違いない。したがって、このような商業的に重要なエチレン酸化反応が、効率的に最適化されるような方法が望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、化学反応、特にエチレン酸化反応を最適化する方法を提供する。特に時効作用を示す銀系触媒を用いたエチレン酸化化学触媒反応に適用できる方法である。「時効作用」により、エチレン酸化化学触媒反応における銀系触媒の使用の時間関数として、銀系触媒の性能パラメータのうち少なくとも1つが低下することを意味する。性能パラメータとしては、銀系触媒活性及び触媒選択性を挙げることができるが、必ずしもこれらに限定されない。エチレン酸化化学反応では、エチレン酸化用の銀系触媒の性能に影響を与える減速材と、銀系触媒とエチレン酸化化学反応用の減速材に影響を与える補助減速材を含む反応ガス混合物もまた使用する。本発明は、補助減速材が、減速材を含まない銀系触媒にある程度まで(即ち、通常の銀系触媒選択性及び/又は銀系触媒活性の文脈において)影響することを意図するものではない。
【0020】
本発明は、補助減速材の有効濃度範囲が減速材の有効濃度範囲より広い場合に、特定の値を提供する。そのような状況においては、より狭い有効濃度範囲で効果的な減速材の濃度は一定に保たれてもよく、一方では、広い有効濃度範囲で処理される補助減速材の濃度は、時効作用を示す銀系触媒が時効するにつれ、エチレン酸化化学反応を最適化するため(即ち、連続的又は不連続的に)変化させてもよい。本発明では、通常、狭い有効濃度範囲で効果的な減速材の濃度を制御するより、効果的な化学工程制御に対し障害が少ない、広い有効濃度範囲で効果的な補助減速材の濃度を効果的に制御する範囲における値を提供する。
【0021】
エチレン酸化の特定の制御方法としては、銀系触媒、減速材及び補助減速材の存在下で、エチレンと酸素を反応させて酸化エチレンを形成することを含む。この特定の方法は、減速材の濃度は一定に保つが、銀系触媒が時効するにつれ補助減速材の濃度を変化させることも含む。
【0022】
エチレン酸化の別の特定の制御方法は、レニウム促進剤、減速材及び補助減速材を含む銀系触媒の存在下で、エチレンと酸素を反応させて酸化エチレンを形成することを含む。この別の特定の方法は、減速材の濃度は一定に保つが、銀系触媒が時効するにつれ補助減速材の濃度を変化させることも含む。
【0023】
エチレン酸化の更に別の特定の制御方法は、銀系触媒、有機ハロゲン化合物減速材及び有機非ハロゲン化合物補助減速材の存在下で、エチレンと酸素を反応させて酸化エチレンを形成することを含む。この別の特定の方法は、有機ハロゲン化合物減速材の濃度は一定に保つが、銀系触媒が時効するにつれ有機非ハロゲン化合物補助減速材の濃度を変化させることも含む。
【0024】
また、本発明は、触媒性能をその最大値に保つために効果的な方法を提供する。触媒性能を減速材の濃度を調節することで最適化する場合、触媒には、これまでと違うレベルに調節するために、10〜24時間の延長時間が必要なことが分かっている。一方、予想外ではあったが、本発明のパラメータでは、触媒性能を補助減速材の濃度を調節することで最適化する場合、触媒には、これまでと違うレベルに調節するために、4〜8時間の時間制限が必要である。
【発明の効果】
【0025】
エチレン酸化化学反応を最適化するための方法を含む本発明は、以下の説明内容の範囲内であることが理解される。以下の説明の特定の実施形態は、エチレン化学反応体物質が、銀系触媒の存在下で反応して酸化エチレン化学生成物を形成する場合で、エチレン酸化化学反応が、(1)触媒に対して活性である減速材、(2)触媒及び減速材双方に対して活性である補助減速材を用いることにより時効作用を補償するために減速されてもよい状況下で適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
通常、商業的に実践される酸化エチレン生成工程は、銀系触媒の存在下で、反応器内にて、約180℃から約330℃、更に好ましくは約200℃から約325℃、最も好ましくは約210℃から約270℃の範囲の温度で、酸素含有酸化剤ガスとエチレンを継続的に接触させて行う。反応器圧は、質量速度と所望の生産性(即ち、生産速度)によりおよそ大気圧から約30気圧まで変化してもよい。しかし、幾つかの実施形態の全ての範囲においては、より高い反応器圧を用いてもよい。
【0027】
エチレン酸化反応用の反応ガス混合物は、約0.5から約45体積%のエチレンと、約3から15体積%の酸素、及び、約8体積%までの二酸化炭素から成ってもよい。供給物中の酸素レベルは、供給物内の炭化水素のレベルにより定まる可燃レベルの閾値を超えるべきではない。残りの供給ガス混合物は、窒素、メタン、アルゴン、などを含む比較的不活性な材料を含んでもよいが、これらに限定されない。酸化エチレンを形成するためエチレン反応ガスと酸素酸化剤ガスを反応させる場合、通常、エチレン反応ガスの一部のみと酸素酸化剤ガスが反応器内で銀系触媒を通過するごとに反応する。所望の酸化エチレン化学反応生成物の分離と、望ましくない不活性ガスと副生成物の除去の後、未反応のエチレン反応ガスと酸素酸化剤ガスは反応器へ再循環する。
【0028】
上記開示において、本実施例は、特に、酸化エチレンを形成するためのエチレンと酸素の銀系触媒反応における、減速物質(即ち、通常はガス)及び補助減速材(即ち、これも通常はガス)両方の使用を意図している。また、本実施形態に付随するものとして、減速物質及び補助減速材と、銀系触媒材料との相互作用がある。したがって、銀系触媒材料、減速物質及び補助減速材の更なる検討を以下に示す。
【0029】
上記開示に記載したように、エチレン酸化反応における触媒は、通常セラミック支持体上に支持された銀系触媒である。アルミナ材料からなるセラミック支持体は、特に一般的である。代替手段あるいは追加としての他のセラミック支持体を除外するわけではないが、それらはあまり一般的ではない。適切なセラミック支持体は、通常、グラム当たり約0.3から約2.0平方メートルの表面積を有し、吸水量はグラム当たり約0.30から約0.60ミリリットルである。
【0030】
銀系触媒内のセラミック支持体は、その中及び/又はその上に位置する銀を触媒作用に効果的な量、含んでいる。このような銀系触媒は、セラミック支持体内及びセラミック支持体上の少なくとも1つの銀前駆体の含浸を容易にするのに適している適切な溶剤に溶解した銀イオン、銀化合物、銀錯体又は銀塩、また或いはその混合物、などの少なくとも1つの銀前駆体材料に、セラミック支持体を含浸することで生成される。このような銀前駆体材料に含浸したセラミック支持体は、その後、銀前駆体材料溶液から除去され、少なくとも1つの含浸銀前駆体材料は、他を排除するものではないが通常、高温焼成処理により、金属銀材料に転換される。また、少なくとも1つの銀前駆体材料の含浸の前、同時又は後に、セラミック支持体上には、適切な溶剤に溶解したアルカリ金属のイオン、化合物又は塩の少なくとも1つの形態の、少なくとも1つのアルカリ金属促進剤前駆体材料が沈着されるのが好ましい。また、少なくとも1つの銀前駆体材料及び/又は少なくとも1つのアルカリ金属促進剤駆体材料の含浸の前、同時又は後に、セラミック支持体上には、適切な溶剤に溶解した遷移金属促進剤前駆体のイオン、化合物又は塩の少なくとも1つの形態の、少なくとも1つの適切な遷移金属促進剤駆体材料が沈着されるのが好ましい。
【0031】
通常、セラミック支持体は、好ましくは水溶性銀イオン溶液である銀前駆体材料含浸溶液に含浸される。セラミック支持体は、同時又は別の工程で、上述したようにアルカリ金属前駆体材料及び遷移金属前駆体材料に含浸されてもよい。本実施形態により生成及び使用される銀系触媒は、通常、支持体の表面及び細孔全体にわたって沈着される、金属として表される銀を約45重量%まで含んでいる。金属として表される銀の含有量は、全触媒の約1から約40重量%が好ましく、約8から約35%の銀含有量が更に好ましい。特に有用な銀前駆体材料には、シュウ酸銀、硝酸銀、酸化銀、炭酸銀、カルボン酸銀、クエン酸銀、フタル酸銀、乳酸銀、プロピオン酸銀、酪酸銀及び高脂肪酸塩と、その組合せが含まれるが、他を排除するものではない。
【0032】
上記開示によると、セラミック支持体上に沈着されるかセラミック支持体上に存在する銀の量は、「触媒作用に効果的な量の銀」(即ち、例えば、酸化エチレンを生成するためのエチレンと酸素の反応を経済的に触媒する量)と記される量である。本開示で使用される用語「触媒作用に効果的な量の銀」とは、触媒寿命内の安定した活性と安定した選択性で、例えば、エチレンと酸素から酸化エチレンへの測定可能な変換率を提供する銀の量にもまた言及することも意図している。
【0033】
上述のように、触媒作用に効果的な量の銀に加え、本実施形態による銀系触媒は、いずれもセラミック支持体に支持された促進量のアルカリ金属促進剤と促進量の遷移金属も含んでいる。本開示で使用されるアルカリ金属促進剤又は遷移金属促進剤の「促進量」という用語は、特定の促進剤成分を含まない銀系触媒と比較した場合に、銀系触媒の1つ以上の触媒性能を向上させるために有効に作用する促進剤成分の量に言及することを意図している。特定の促進剤の正確な濃度は、その他の要因、銀系触媒における所望の銀含有量、銀系触媒における担体の性質、含浸溶液の粘度、及び、特定の銀前駆体材料の溶解性によって決まる。
【0034】
セラミック支持体を含浸するために使用される銀前駆体材料及び促進剤駆体材料溶液は、本分野で知られる任意の溶剤又は錯化/可溶化剤も含んでよい。多種多様な溶剤又は錯化/可溶化剤が、含浸溶液中で所望の濃度になるよう銀前駆体材料を可溶化するために用いることができる。有用な錯化/可溶化成分は、アミン類、アンモニア又は乳酸を含む。アミン類は、1から5つの炭素原子を有するアルキレンジアミン且つアルカノールアミンを含む。一実施形態においては、特定の含浸溶液は、シュウ酸銀(即ち、銀前駆体材料として)及びエチレンジアミンの水溶液からなる。通常、錯化/可溶化剤は、含浸溶液中に銀前駆体材料1モルにつき約0.1から約5.0モルのエチレンジアミンの量で存在してもよく、好ましくは約0.2から約4.0モル、更に好ましくは銀前駆体材料1モルにつき約0.3から約3.0モルのエチレンジアミンである。含浸溶液中の銀前駆体材料の濃度(即ち、銀塩など)は、約1重量%から、使用される特定の銀前駆体材料/可溶化剤の組合せが溶解可能な最大限までの範囲である。通常、約7%から約45重量%の銀を含む銀前駆体材料溶液の使用が適しており、約10%から約35重量%の銀濃度が好ましい。
【0035】
特定のセラミック支持体の含浸は、通常、過剰溶液含浸法、初期湿潤含浸法などの、従来の方法で行われる。通常、セラミック支持体は、十分な量の銀前駆体材料溶液がセラミック支持体に吸収されるまで、銀前駆体材料溶液中に浸される。好適には、支持体を含浸するために使用される銀前駆体材料溶液の量は、支持体の細孔容積充填の必要分未満である。銀前駆体材料溶液及び/又は促進剤駆体材料は、吸収、毛管現象及び/又は真空により、セラミック支持体の細孔内へ浸透する。中間での乾燥が有る又は無い1回の含浸又は一連の含浸は、含浸溶液中の銀前駆体材料及び/又は促進剤駆体材料の濃度に部分的に応じて使用されてもよい。様々な促進剤の前蒸着、共蒸着及び後蒸着といった周知の先行技術の工程は、銀系触媒の所望の触媒特性を提供するため、有利に使用できる。
【0036】
詳細には、銀とセシウムのみを含む標準的触媒が、米国特許第4012425号の実施例5により生成された。促進剤としてReも含む選択性のより高い触媒は、米国特許第4766105号の実施例5〜10により生成された。
【0037】
銀系触媒の触媒特性の例として、とりわけ、実現性(暴走への耐性)、選択性、活性、変換率及び安定性が挙げられる。1つ以上の個々の触媒特性は「促進量」の促進剤により高められるが、他の触媒特性が高められる又は高められない場合があり、また更には低下する場合があることは、当業者であれば理解する。更に、異なる触媒特性が異なる処理条件により高められる場合があることも理解される。例えば、本実施形態により連続的に最適化ができる化学反応のための一組の処理条件での高められた選択性を有する触媒は、異なる組の条件で処理されてもよく、選択性よりは活性において向上が見られる。その際、エチレン酸化化学反応装置などの化学反応装置の操作に伴い、特定の処理条件は、他の触媒特性を犠牲にしても特定の触媒特性の利点が得られるよう、変更することができる。このような最適化した条件と結果は、原料費、エネルギー費、副生成物除去費などに活かすことができる。
【0038】
含浸後、銀前駆体材料及び促進剤駆体材料に含浸されたセラミック支持体は、銀前駆体材料を金属銀、促進剤駆体材料を促進剤に変換し、生成された銀系触媒から溶剤及び揮発性分解成分を除去するのに十分な時間で、焼成される(或いは、それとは別に適切に活性化される)。特に、焼成は、0.5から35バールの範囲の反応圧力で、含浸銀前駆体材料を金属銀、促進剤駆体材料を促進剤に変換し、存在する全て又はほぼ全ての有機物を分解し、揮発性物質としてのそれらを除去するのに十分な時間で、好ましくは段階的な変化率で、約200℃から約600℃、好ましくは約220℃から約500℃、更に好ましくは約240℃から約450℃の範囲の温度まで、含浸微細担体を加熱することにより行わる。一般に、焼成温度が高いほど、要する焼成時間は短い。約10分から約24時間の焼成が一般的である。
【0039】
本実施形態において、減速物質は通常、以下に限定はされないが、クロロメタン、塩化エチル、クロロプロパン及び他のクロロアルカン類などの有機塩素化合物、且つ、塩化ビニルなどのクロロアルケン、及びクロロプロペンを含むが、これに限定されない。他の有機塩素化合物且つ他の有機ハロゲン化合物を排除するものではない。特に、減速物質は、供給ガス混合物中の全ての有機塩素化合物(或いは、有機ハロゲン化合物)部分の有効和を含むことを意図するものである。供給ガス混合物中の有機塩素化合物部分の量は、通常体積%で0.5から50ppmの範囲である。銀系触媒のライフサイクルの始まりには、有機塩素化合物濃度は、通常約0.5から約50ppmの範囲である。従来では、この濃度は、銀系触媒の触媒寿命において銀系触媒が時効するにつれ、順次に且つ頻繁に、より高濃度に調節される。連続工程におけるppmの濃度範囲内での減速物質の正確な制御は、多くの場合には難しい。
【0040】
本実施形態において、補助減速材は、通常、以下に限定されないが、エタン、プロパン及び/又はブタン、又はその他関連するアルカン類などの有機非塩化物ガスなどの有機非ハロゲン化合物を含むが、これに限定されない。このような有機非ハロゲン化合物及び有機非塩化物材料の補助減速材は、通常、供給ガス混合物中の他の供給ガスの計に対して約0.1から約10体積%の範囲で存在する。
【0041】
当業者にも理解されるように、支持銀系触媒が時効するにつれ、銀系触媒の活性は失われる。よって、より高い反応温度では、通常、時効した銀系触媒の活性と生産性を維持することが(特に、レニウムを含まない低選択性支持銀系触媒と比べ、極めて高選択性レニウムで促進された支持銀系触媒には)必要となる。このような反応温度の上昇に伴い、銀系触媒の一定かつ最適な性能を維持するため、減速ガス濃度を増加することが必要となる。
【0042】
本実施形態と発明は、銀系触媒の寿命にわたって固定した減速物質濃度を維持することが更に効率的である、という考察が基礎となっている。特に、本実施形態と発明においては、特定の濃度は、特定の銀系触媒用の減速物質の最大濃度と同等、或いはそれより高い。
【0043】
例えば、銀、また促進剤としてのセシウム及びレニウムも含む新鮮銀系触媒用の塩化炭化水素減速物質の有効和の濃度は、通常、約0.5から約5ppmの範囲である。支持銀系触媒の寿命にわたったこの減速物質の最大濃度は、約5から約20ppmであってもよい。本実施形態において、最大濃度は、銀系触媒の寿命にわたり、一定の濃度として使用される。本実施形態においては、補助減速物質の使用は、供給ガス混合物中の添加成分として提供される。特定の銀系触媒の性能が時効と共に低下するにつれ、本実施形態では、最適な銀系触媒性能を保持するため、補助減速物質のレベルを再最適化する。
【0044】
基本的に、本発明によれば、銀系触媒の寿命の初めには、比較的高濃度の有機塩素化合物減速物質などの有機ハロゲン化合物は、銀系触媒活性を望まないレベルに低下させるのに十分である。しかし、有機非ハロゲン化合物減速物質を制御して添加することで、銀系触媒の最適性能の回復ができる。銀系触媒の寿命のこの段階においては、減速物質及び補助減速物質の両方の濃度は、その最大値である。本実施形態と発明においては、銀系触媒が時効するにつれ、供給ガス混合物中の減速物質の濃度は変えないが、銀系触媒の最適性能を維持及び確保するため、補助減速物質の濃度を徐々に調節する。
【0045】
上述のように、補助減速物質は、エタンやプロパンなどの有機非ハロゲン化合物(即ち、非塩化物)材料であることが好ましいが、これに限定されない。適切な濃度の補助減速物質が供給ガス混合物中に含まれる場合、銀系触媒の高活性及び/又は高選択性が得られる。銀系触媒が時効するにつれ、その性能は低下し、補助減速物質の濃度を徐々に減らしていく必要がある。この補助減速物質濃度の制御された低減は、銀系触媒が高選択性銀系触媒である場合、銀系触媒、特に銀系触媒活性の最適性能の回復を意図するものである。
【0046】
参考として、銀系触媒の「選択性」とは、特定の化学反応において生成物に変換される反応体(即ち、エチレン)の割合のことである。

選択性 (%) = 酸化エチレンに変換されたエチレンのグラム分子 x 100
反応エチレンのグラム分子

本実施形態及び発明によれば、補助減速物質の有効濃度範囲は、通常、減速物質の有効濃度範囲より大きい。この補助減速物質の大きい有効濃度範囲は、通常容易に制御され、また、その大きさは軽微に変化できる。例えば、本実施形態においては、新鮮銀系触媒は、約0.5から約5ppmの範囲の有機ハロゲン化合物(即ち、塩化物)減速物質ガス濃度と、供給物ガス混合物の約0.1から約5%の範囲のアルカン有機非ハロゲン化合物(即ち、非塩化物)補助減速物質の濃度で最大性能を発揮することができる。本実施形態によれば、銀系触媒の寿命の最後には、有機ハロゲン化合物減速ガスの濃度は変わらないが、有機非ハロゲン化合物補助減速ガスの濃度は、通常、約0.01から約1.0%の範囲の濃度であってもよい。
【0047】
本発明の更に具体的な実施形態として、新鮮銀系触媒を用いたエチレン酸化反応の始動時には通常の処理温度より低い(即ち、120〜200℃)の温度で、有機ハロゲン化合物減速ガスが供給物ガス混合物に添加される。この比較的低い温度では、新鮮銀系触媒は、供給ガス組成によっては活性を示さないか、低い活性を示す。始動時から、供給物ガス混合物中の減速物質濃度は、銀系触媒の寿命を通して使用される一定のレベルに調節される。同時に、供給物ガス混合物は、最大レベルの補助減速物質を含むよう選択される。銀系触媒が時効するにつれ、銀系触媒の性能は、補助減速物質の濃度を継続的に調節することにより最適化される。
【0048】
更に具体的な別の特定の実施形態においては、新鮮銀系触媒の始動時には、通常の処理温度より低い(即ち、120〜200℃)の温度で、有機ハロゲン化合物減速ガスも供給物ガス混合物に添加される。この比較的低い温度では、新鮮銀系触媒は、特定の供給物ガス混合物によっては低い活性を示す。特定の化学反応の開始から、供給物ガス混合物中の減速物質濃度は、銀系触媒の寿命を通して使用される一定のレベルに調節される。
【0049】
この特定の化学反応の初期段階においては、補助減速物質を添加する必要はない。正確には、補助減速物質は、減速物質濃度が銀系触媒に一定の影響を与えることが明らかな場合に添加される。排ガスの特定の組成は、この特定の条件に達したことを明らかにするため使用されてもよく、この時点で補助減速物質が供給物ガス混合物に添加されることとなる。また、銀系触媒活性(即ち、生産性)は、支持銀系触媒の表面と供給物ガス混合物中の減速物質が均衡に達したことを明らかにするため使用されてもよい。この銀系触媒の寿命の初期段階の間は、使用中の減速物質の増加した濃度においては、通常銀系触媒の活性は、実質的に減少している。
【0050】
補助減速物質の添加に伴い、銀系触媒活性は増加し、例えば、期待するオレフィン酸化反応が効率的に始まる。この時点で、供給物ガス混合物中の補助減速物質濃度は、選択性及び活性双方において、銀系触媒の最適性能を達成するよう増加されなければならない。特定の最適性能は、補助減速物質濃度の更なる増加で銀系触媒選択性が減少した場合、明らかとなろう。この補助減速物質の最適水準が、銀系触媒活性を継続的に制御するための使用が期待される最高水準となる。
【0051】
銀系触媒の寿命を通して、触媒の性能は低下し、銀系触媒の生産性を維持するため、通常、高反応温度が要求される。このような反応温度の増加においては、通常、支持銀系触媒の最適性能を取り戻すため、補助減速物質を調節する必要がある。触媒の時効が続くため、補助減速物質濃度の幾分かの減少の後には、その後の最適性能は、銀系触媒の寿命の始めの初期最適性能より低くなる。その結果、低触媒活性及び/又は低触媒選択性となる。銀系触媒の寿命の終わりには、補助減速物質濃度は特に低く、触媒性能は、経済的考察で決まる触媒交換が必要となるレベルまで低下する。
【実施例】
【0052】
実施例1〜3
上述のように、通常、銀系触媒生成と活性化の後には、従来の手順が続く。150gのアルミナ支持体Aがフラスコ内に設置され、含浸前におよそca.0.1torrで排出された。米国特許第4,766,105号の実施例5〜10による触媒組成を生成するため、上記銀溶液には、水酸化セシウム、過レニウム酸及び硫酸アンモニウムの水溶液が加えられた。湿式触媒の焼成は、移動ベルトか焼炉で行われた。このユニット内では、湿式触媒がステンレス鋼ベルト上にのせられ、多段加熱炉を通って運ばれる。加熱炉の全ての区間は予熱した超高純度の窒素で継続的に浄化され、触媒が1つの区間から次へと進むにつれ、徐々に温度が上げられる。熱は加熱炉の壁から、及び、予熱した窒素により放出される。
【0053】
本実施例1においては、湿式触媒を周囲温度で加熱炉内に入れた。その後温度を、触媒が加熱区間を通過した際の最大限の約450℃まで徐々に上昇させた。最後の(冷却)区間では、目下活性化されている触媒の温度は、周囲雰囲気に至る前に、100℃未満まで直ちに下げられた。加熱炉内での総滞留時間は、およそ45分であった。
【0054】
銀系触媒を32.5mmの反応管に詰め、以下の組成を含んだ供給物ガス混合物を用いて試験を行った。
エチレン25%
酸素7%
二酸化炭素1%
塩化エチル(減速材)3ppm、及び
エタン(補助減速材)0.25%
【0055】
供給物ガス混合物の流量を、3200hr-1のガス空間速度を提供するようよう調節し、反応器の温度を、銀系触媒1立方メートルにつき毎時酸化エチレン220Kgの生産性(作業速度)となるよう最適化した。供給物ガス混合物は、最適選択性を得るため、減速物質又は補助減速物質の濃度を変更することにより改良された。測定で得られた処理パラメータを表1に報告する。
【表1】

【0056】
補助減速物質濃度が変わると、短時間で最適条件となる結果が、表形式で表わされている。
【0057】
実施例4〜5
反応温度の最適化を供給物ガス混合物組成の改良目的としたことを除き、同じ銀系触媒と実施例1〜3で使用した同じ手順が繰り返された。表2に結果を示す。
【表2】

【0058】
実施例4及び5は、一定の減速材濃度においては、低補助減速材濃度でも、低温で選択性への最小の妥協で更に効率的反応が行えることを示している。
【0059】
実施例6
先の実施例で使用されたものと同じ銀系触媒を再び使用した。本実施例では、補助減速物質濃度は、銀系触媒の最適性能を維持するため、経時と共に継続的に低下させ、一方で、減速物質濃度は一定とした。結果を表3に示す。
【表3】

【0060】
表3の結果は、エチレン酸化反応における減速物質濃度を一定に保ち、エチレン酸化反応における銀系触媒の性能を維持するため、エチレン酸化反応における銀系触媒が時効するにつれ、補助速物質濃度を減少させてもよいことを、明確に示している。
【0061】
本発明の好適な実施形態と実施例は、本発明の限定ではなく、本発明の実例である。本発明、更には添付の請求項による実施形態と実施例を提供しながら、本発明の好適な実施形態と実施例による方法、材料、装置及び寸法の修正および変形することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀系触媒、減速材及び補助減速材の存在下で、エチレンと酸素を反応させて酸化エチレンを形成し、
前記減速材の濃度を一定に保ちながら、銀系触媒が時効するにつれ補助減速材の濃度を変化させることを含むエチレン酸化制御方法。
【請求項2】
前記銀系触媒は、前記銀系触媒の活性に影響を与える時効作用を受けやすいことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記銀系触媒は、前記銀系触媒の選択性に影響を与える時効作用を受けやすいことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記銀系触媒は、支持銀系触媒からなることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記銀系触媒は、少なくとも1つの促進剤を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記銀系触媒は、レニウムを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記減速材は、有機ハロゲン化合物からなることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
レニウム促進剤、減速材及び補助減速材を含む銀系触媒の存在下で、エチレンと酸素を反応させて酸化エチレンを形成し、
前記減速材の濃度を一定に保ちながら、銀系触媒が時効するにつれ補助減速材の濃度を変化させることを含むエチレン酸化制御方法。
【請求項9】
前記減速材は、前記銀系触媒に対しての第1の濃度範囲において活性であり、
前記補助減速材は、前記第1の濃度範囲よりも広い、前記銀系触媒及び前記減速材双方に対しての第2の濃度範囲において活性であることを特徴とする請求項1または8記載の方法。
【請求項10】
前記補助減速材は、有機非ハロゲン化合物からなることを特徴とする請求項1または8記載の方法。
【請求項11】
前記有機非ハロゲン化合物は、エタン、プロパン及びブタンのうちの1つであることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記有機非ハロゲン化合物は、エタンであることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
銀系触媒、有機ハロゲン化合物減速材及び有機非ハロゲン化合物補助減速材の存在下で、エチレンと酸素を反応させて酸化エチレンを形成し、
前記有機ハロゲン化合物減速材の濃度を一定に保ちながら、銀系触媒が時効するにつれ有機非ハロゲン化合物補助減速材の濃度を変化させることを含むエチレン酸化制御方法。
【請求項14】
前記銀系触媒は、レニウム促進剤を含むことを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記有機ハロゲン化合物減速材は、前記銀系触媒に対しての第1の濃度範囲において活性であり、
前記有機非ハロゲン化合物補助減速材は、前記第1の濃度範囲よりも広い、前記銀系触媒及び前記有機ハロゲン化合物減速材双方に対しての第2の濃度範囲において活性であることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記有機非ハロゲン化合物は、エタン、プロパン及びブタンのうちの1つであることを特徴とする請求項13記載の方法。

【公表番号】特表2010−538812(P2010−538812A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524080(P2010−524080)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/072947
【国際公開番号】WO2009/035809
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(507273035)エスデー リ−ツェンスフェルヴェールトゥングスゲゼルシャフト エムベーハー ウント コー. カーゲー (13)
【氏名又は名称原語表記】SD LIZENZVERWERTUNGSGESELLSCHAFT MBH & CO.KG
【Fターム(参考)】