説明

固形粉末化粧料及びその製造方法

【課題】立体性の高い凸部を有し、全体にわたって均一でかつ高い硬度を有するとともに、使用時の粉の取れ性に優れた固形粉末化粧料を提供すること。
【解決手段】15質量%以下の液状成分を含む原料粉末を圧縮成型してなり、上面及び下面を有するとともに上面に凸状部を備えた略扁平な形状の固形粉末化粧料である。上面の基準面から凸状部の最高位置までの高さH1と、該最高位置を通り、かつ平面視において粉末化粧料の横断長が最小となるように引かれた直線における該横断長D1との比(H1/D1)が0.05〜0.4であり、粉末化粧料の高さ方向の硬度差が20%以内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形粉末化粧料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固形粉末化粧料に意匠性を付与して高級感等を高める目的で、その表面を立体形状にする技術が知られている。例えば特許文献1には、固形粉末化粧料の表面をドーム状、半球状、円錐状、角錐状、ダイヤカット状等の多種多様な立体形状に成型するための方法が提案されている。また、表面に花弁状の凸部を有する固形粉末化粧料も提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
上述した形状を有する固形粉末化粧料の製造において、立体性の高い凸部の形状を油圧や電動サーボプレスなどの高圧力で成形しようとすると、凸部内のエア抜けが悪いため凸部の密度が低くなって強度が不足する傾向にある。強度を上げようとしてプレス圧を高くすると、成形体のスプリングバック現象によって成形体にひびや割れが発生してしまう。これらの現象は凸型形状だけではなく、成形体の縦断面が三角形や半円形の場合でも同様である。このため、凸部の高さや形状を自由にデザインすることができず、意匠性の高い立体形状の固形粉末化粧料を製造することは容易ではなかった。
【0004】
固形粉末化粧料の製造において、上述した油圧や電動サーボプレスの装置を用いる場合に、超音波を併用することが提案されている(特許文献3及び4参照)。特に、特許文献4に記載の方法では、粒径5〜500μmの熱可塑性材料を5〜80重量%含有する粉末混合物を、加圧室の底に置きピストンで加圧する際に、一方向から超音波力を加えている。これらの方法によれば、従来の高圧プレス成形に比べ、低圧での圧縮成型が可能になるとされている。また、断面が凸型の形状であってもよいとされているが、全体にわたって均一な硬度を有するとともに、使用時の粉の取れ性に優れたものを得ることは容易ではない。
【0005】
【特許文献1】特開平5−201829号公報
【特許文献2】特開2001−213721号公報
【特許文献3】特開昭63−275511号公報
【特許文献4】特開平5−70325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る固形粉末化粧料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、15質量%以下の液状成分を含む原料粉末を圧縮成型してなり、上面及び下面を有するとともに上面に凸状部を備えた略扁平な形状の固形粉末化粧料であって、
上面の基準面から凸状部の最高位置までの高さH1と、該最高位置を通り、かつ平面視において粉末化粧料の横断長が最小となるように引かれた直線における該横断長D1との比(H1/D1)が0.05〜0.4であり、粉末化粧料の高さ方向の硬度差が20%以内である固形粉末化粧料を提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記の固形粉末化粧料の好適な製造方法であって、15質量%以下の液状成分を含む原料粉末を金型内に充填し、該原料粉末を挟んで相対向してそれぞれ配された成型用杵の少なくとも一方によって該原料粉末に超音波振動を与えながら、両杵によって圧縮を加える圧縮成型を行い、上面及び下面を有するとともに上面に凸状部を備えた略扁平な形状の固形粉末化粧料を製造する方法であって、
原料粉末を圧縮成型する前に、該圧縮成型の圧力よりも低い圧力を加えた状態下に、原料粉末に超音波振動をパルス的に印加する予備成型を行う固形粉末化粧料の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、立体性の高い凸部を有する固形粉末化粧料であって、全体にわたって均一でかつ高い硬度を有するとともに、使用時の粉の取れ性に優れた固形粉末化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の固形粉末化粧料の一実施形態の斜視図が示されている。図2(a)は、図1に示す化粧料の平面図であり、図2(b)及び(c)は図2(a)におけるb−b線断面図及びc−c線断面図である。本実施形態の化粧料1は、立体性の高い凸部を有するにもかかわらず、全体にわたって均一でかつ高い硬度を有するとともに、使用時の粉の取れ性に優れた点に特徴を有するものである。
【0011】
図1及び図2(a)に示すように、化粧料1は、平面視して、角が丸みを帯びた矩形状をしている。この矩形は、図2(a)に示すように長辺L1(図2に記載)と短辺L2とからなる。図2(b)及び図2(c)に示すように、化粧料1は、上面1aと、これに対向する下面1bとを有している。下面1bは平坦な水平面をなしている。一方、上面1aは、その周縁部に位置する平坦な水平面からなる基面部2と、基面部2と滑らかに連なる三次元状の立体面部3を有している。立体面部3は、斜面部3a及び下面1bと平行な天面部3bとを有している。そして、基面部2よりも上方の部位が立体形状の凸状部4となっている。
【0012】
凸状部4は、b−b線断面でみると台形をなしている。また、c−c線断面でみても台形をなしている。そして、このような形状の凸状部4を有する化粧料1は、その全体としてみると、略扁平な形状をしている。
【0013】
上述したとおり、本実施形態の化粧料1は、凸状部4の立体性が高いものである。凸状部4の立体性の尺度として、本実施形態においてはH1/D1を採用している。ここでH1は、上面1aの基準面である基面部2から凸状部4の最高位置までの高さで定義される。D1は、凸状部4の最高位置を通り、かつ化粧料1の平面視において化粧料1の横断長が最小となるように引かれた直線における該横断長で定義される。本実施形態においては、化粧料1は平面視において矩形をしているので、D1は矩形の短辺であるL2と一致する。
【0014】
凸状部4に同じ高さの最高位置が2箇所以上存在するときは、D1の値が最も小さくなる位置を最高位置と定義する。また、凸状部4の形状によっては、図3に示すように化粧料1全体が凸状部4を構成し、水平な平坦部が存在しない場合がある。このような場合における基面部は凸状部4の最低位置と定義し、そこから最高位置までの高さをH1とする。
【0015】
本実施形態においては、凸状部4の立体性の尺度である上述のH1/D1を0.05〜0.4の範囲、好ましくは0.1〜0.3の範囲に設定している。H1/D1の値をこの範囲に設定することで、化粧料1に十分な立体感を付与することができ、意匠性の高い化粧料となすことができる。
【0016】
化粧料1のH1/D1の値は上述の範囲であるところ、H1及びD1それぞれの値それ自体は、化粧料1の具体的な用途に応じ、次のとおりであることが好ましい。化粧料1が例えばアイシャドウである場合、H1に関しては、この範囲を0.5〜5mm、特に1〜3mmとすることができる。D1に関しては、一般的に5〜30mmが用いられる。同様の観点から、化粧料1が例えばファンデーションである場合、H1に関しては、この範囲を1〜5mm、特に2〜5mmとすることでき、D1に関しては、一般的に30〜60mmが用いられる。なお、化粧料1の下面1bから基面部2までの高さH2は、本実施形態において臨界的でなく、化粧料1の具体的な用途等に応じ適切に設定できる。
【0017】
H1/D1の値が上述の範囲に設定されている化粧料は、これを圧縮成型によって製造する場合、その立体形状に起因して、一般に平面視における各部位の加圧力を均一にすることが容易でない。これに対して本実施形態の化粧料1は、その各部位における硬さが均一になっている点に特徴の一つを有する。硬さの均一性に関する尺度として、本実施形態においてはマイクロゴム硬度計MD−1(高分子計器(株)製、触針φ0.16mm、長さ0.5mm)で測定された硬度(以下、「アスカー硬度」と言う。)を採用している。そして、化粧料1の高さ方向の硬度差が20%以下、好ましくは15%以下となっている。化粧料1の高さ方向の硬度差は、図4に示すように、化粧料1の上面1aでの硬度A1、及び化粧料1をその上面1aから下面1b側に向けて最低3等分となるように簡易フライス盤等(例えばローランド製MDX−40)で、下層を破壊及び圧密しないように底面と平行に順次削り取っていったときの、各層でのアスカー硬度A2、A3、・・・、Anを測定し、測定されたアスカー硬度の最大値AMaxと最小値AMinとの差を、最小値AMinで除して100を乗じた値、すなわち〔(AMax−AMin)/AMin〕×100で定義される。なお、各層のアスカー硬度は数点測定してその平均値を用いても良い。
【0018】
アスカー硬度の測定においては、各層において、同じ場所か又は互いに近接する場所(例えば2mm以内の距離)の測定を行う場合には、硬度計の針の進入量(0.5mm)を考慮すると、化粧料1を削り取る厚みを1mm以上とすることが好ましい。一方、各層において、硬度測定の部位を離れた場所にすることができる場合には、化粧料1を削り取る厚みに特に制限はない。尤も、削り取る厚みを過度に小さくすることには特段の技術的な意味はなく、一般に0.5〜2mm程度の厚みで以て削り取ればよい。
【0019】
化粧料1は、原料粉末を金型内に充填して直接成型してもよいし、原料粉末を容器内で圧縮成型して得たものであってもよい。容器は一般に、底面が平坦であり、かつ該底面上に、該底面と同形の開口部を有する浅底の皿状の形状を有している。かかる容器内で一体的に成型された化粧料1は、そのままファンデーション、アイシャドウ、チーク等の化粧品の製品形態に供することができる。
【0020】
化粧料1は、15質量%以下の液状成分を含む原料粉末を用いて製造されたものである。ここで言う液状成分には、例えば水、及び低級アルコール等の水溶性有機溶剤などの水性成分、並びに室温で液体である油性成分が包含される。液状成分が15質量%超である原料粉末を用いた場合には、液架橋力が高くなり、超音波による流動化の効果が得られにくくなってしまう。
【0021】
原料粉末の構成成分は、化粧料1の具体的な用途に応じて適切なものが選択される。化粧料1が例えばファンデーションやチークである場合には、粉末成分が好ましくは85〜95質量%、更に好ましくは85〜90質量%含有される。この粉末成分は、例えばタルク、マイカ、セリサイト、カオリン等の体質顔料、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄等の着色顔料、パール顔料などの光輝顔料を包含する。粉末成分に加え、化粧料1は、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香料、紫外線吸収剤、保湿剤、殺菌剤などを適宜含有することができる。
【0022】
特に、化粧料1を、後述する方法で製造する場合には、原料粉末中に、融点が40〜150℃である固体の油性成分を好ましくは0.5〜10質量%、更に好ましくは1〜5質量%含有させる。これによって、全体にわたって均一でかつ高い硬度を有するとともに、使用時の取れ性に優れた化粧料を容易に得ることができる。この油性成分としては、例えばミツロウ、鯨ロウ等の動物性ワックス;カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ライスワックス、木ロウ等の植物性ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の鉱物性ワックス;ポリエチレンワックス、硬化ひまし油、水素添加ホホバ油、ステアリン酸アミド、シリコンワックス等の合成ワックスを用いることができる。
【0023】
図5には、本実施形態の化粧料1を製造するために用いられる好ましい装置の模式図が示されている。装置10は枠体11を備えている。枠体11の高さ方向の中央部には、成型テーブル12が水平方向に取り付けられている。成型テーブル12の中央部には貫通孔が設けられており、その貫通孔にタブレット成型用金型13が嵌合されている。金型13はその上下が開口した筒状の形状をしている。金型13はその上部に側方へ張り出すフランジ13aを有している。フランジ13aは成型テーブル12へボルト締め(図示せず)されている。
【0024】
金型13の筒状開口部の上下の位置には超音波振動素子14a,14bが配されている。各素子14a,14bはエアシリンダ15a,15bによって支持されている。上部エアシリンダ15aは、枠体11の天板11aに取り付けられ、それから垂下している。一方、下部エアシリンダ15bは、枠体11の底板11b上に取り付けられている。これによって、各超音波振動素子14a,14bはそれぞれ上下方向へ移動可能になっている。なお、超音波振動素子の移動手段はエアシリンダに限定されず、他に油圧シリンダや、電動モータを用いたボールネジプレス等の機器を用いても良い。
【0025】
各超音波振動素子14a,14bの先端にはホーン16a,16bが取り付けられている。各ホーン16a,16bの先端は成型用金型13の筒状開口部と同一形状をなしている。これら三者は同一軸線上に位置している。各ホーン16a,16bは、化粧料1の原料粉末を圧縮成型する際に、該原料粉末に超音波振動を与える役割、及び該原料粉末を圧縮するための成型用杵としての役割を有している。したがって以下の説明では、これらのホーンをそれぞれ上杵16a、下杵16bと呼ぶことにする。各杵16a,16bの先端形状は、金型13の筒状開口部と同形状になっている。
【0026】
以上の構造を有する装置10を用いた化粧料1の製造方法を図6(a)ないし(c)を参照しながら説明すると、先ず図6(a)に示すように、下部エアシリンダ15bを動作させ、金型内に予め挿入されている下杵を、原料粉末を充填するために金型内で下降させる。また上部エアシリンダ15aを動作させ、上杵16aを上昇させて成型テーブル12上の空間に待避させる。これによって、金型13にはその筒状開口部と下杵16bとで画成される凹部が形成される。この凹部に、原料粉末20を充填する。
【0027】
次に、エアシリンダ15aを動作させて、上杵16aを降下させ、原料粉末20が充填されている前記の凹部内へ上杵16を挿入する。上杵16aの位置を固定し、次に下杵16bを上昇させ、図6(b)に示すように原料粉末20に圧縮力を加えて成型を行う。なお、容器(例えば浅底の皿状の容器)内に原料粉末を充填して成型する場合には、下杵16bを金型内で下降させる前に下杵16bの上に容器(図示せず)を載せ、その後下杵16bを降下させる。あるいは下杵16bを降下させた後に容器(図示せず)を金型内の下杵上に置く。その後、容器内に原料粉末を充填して圧縮成型する工程は、容器を用いない場合と同様である。
【0028】
また、得られる化粧料の高さ方向の硬度差をより小さくするために、本成型前に予備圧縮を実施することが好ましい。予備成型は、本成型を行う前に、本成型の圧力よりも低い圧力を加えた状態下に、原料粉末20に超音波振動をパルス的に印加することからなる。本成型に先立ちこの予備成型を行うことで、金型の凹部内で原料粉末20がより効果的に均質化し、かつ空気抜きが促進される。その結果、全体にわたって均一でかつ高い硬度を有するとともに、使用時の取れ性に優れた立体性の高い凸状部4を有する化粧料1を得ることができる。超音波振動の印加は、各杵16a,16bの振動条件を同じか、又は異ならせて、両杵16a,16bを用いて行ってもよく、あるいは一方の杵のみを振動させて行ってもよい。
【0029】
図7には、予備成型及びそれに引き続く本成型の操作条件の一例が示されている。同図においては実線が原料粉末20に加わる圧力を示し、一点鎖線が下杵16bの位置(予備成型開始時からの上昇量)を示す。点線は超音波振動の印加のタイミングを示し、パルスが下がっている状態の時に超音波振動が印加されていること示す。
【0030】
図7に示すように、予備成型においては、本成型よりも低い圧力を原料粉末20に加える。予備成型時の圧力は、本成型の圧力の10〜70%、特に20〜50%であることが、原料粉末20の均質化及び空気抜きの促進の点から好ましい。予備成型時に印加する超音波振動の印加時間は50〜300ミリ秒、特に100〜200ミリ秒であることが好ましい。印加時間が長いと、固体の油性成分が超音波振動による摩擦熱で溶融・固化して均質化・エア抜きを阻害することがあるので、固体の油性成分が摩擦熱で溶融してしまわない程度の印加時間を採用することが有利である。超音波の周波数は、10〜100kHz、特に15〜30kHzであることが好ましい。パルスの印加回数は1〜5回、特に2〜3回であることが好ましい。パルス印加のインターバルは、50〜300、特に100〜200ミリ秒であることが好ましい。各回の印加時間は上述の範囲であることを条件として同じにしてもよく、あるいは異ならせてもよい。印加のインターバルや周波数についても同様である。
【0031】
予備成型が完了したら引き続き本成型を行う。本成型は、上杵16a及び下杵16bを解放することなく、予備成型時の圧力を更に増加させることで行う。具体的には、上杵16aの位置は予備成型時と同様とし、下杵16aを更に上昇させることで、原料粉末20に圧力を加える。下杵16bを上昇させている間、原料粉末20に超音波振動を印加してもよく、あるいは、下杵16bが所定の位置まで上昇するまでは超音波振動の印加は行わず、下杵16bが所定の位置に到達した時点で超音波振動の印加を行ってもよい。図7に示す操作条件においては、下杵16bが所定の位置に到達した時点で超音波振動の印加を開始している。
【0032】
本成型においては、原料粉末20を挟んで相対向してそれぞれ配された上下の杵16a,16bによって超音波振動を与えつつ圧縮成型を行う。原料粉末20の成分は超音波を受けることで振動し、それによって摩擦熱が発生する。この摩擦熱によって、原料粉末20中に含まれている融点が40〜150℃である固体の油性成分が溶融して粒子同士を結合する。原料粉末20を挟んで上下から超音波振動を与えることで粒子の振動が促進され、粉末の結合の強度が均一になる。これによって、一方の杵のみによって超音波振動を与えつつ圧縮成型を行ってきた特許文献4等に記載の方法に比較して、圧縮の圧力を低くしても圧縮成型物の強度を同程度に高くすることが可能になる。その結果、硬度が高いにもかかわらず、取れ性に優れた化粧料1を容易に得ることができる。各杵16a,16bの振動条件は同じでもよく、あるいは異なっていてもよいが、一般的には同条件としておく。
【0033】
化粧料1の具体的な用途や組成にもよるが、本成型においては、上下の杵16a,16bによって加わる圧力を好ましくは0.1〜2.5MPa、更に好ましくは0.1〜1.0MPaという低圧に設定することができる。これに対して、一方の杵のみによって超音波振動を与えつつ圧縮成型を行ってきた特許文献4等に記載の方法では、本製造方法よりも一桁以上高い圧力で圧縮成型を行っていた。
【0034】
圧力を低い値に設定できることは、主剤である原料成分に対して、物理的なダメージが少なくなるという利点がある。また、本実施形態においては、原料粉末が液体成分を含有している場合があるが、そのような場合であっても、本成型の圧力が低いので、粉末成分が破壊されて液体成分が染み出して品質上問題となったり、これに起因して製造上のトラブルを発生したりすることもない。
【0035】
原料粉末20に加える超音波振動の条件は、原料粉末20の成分やその配合量、及び目的とする化粧料1の具体的な用途等に応じて適宜調整が可能である。化粧料1が例えばファンデーションやチークである場合には、超音波の周波数は10〜100kHz、特に15〜30kHzとすることが好ましい。この範囲の周波数とすることで、媒質である原料粉末20内での超音波の減衰の程度が小さくなり、原料粉末20の深部にまで振動が伝達される。
【0036】
超音波の振幅は、化粧料1が例えばファンデーションやチークである場合には、5〜100μm、特に10〜50μmであることが好ましい。この範囲の振幅とすることで、粒子の振動が十分に大きくなり、それに起因して十分な摩擦熱が発生する。その結果、短時間での成型が可能になる。
【0037】
超音波振動の印加時間は短時間でも十分であり、本実施形態において特に臨界的でない。この理由は、原料粉末20を挟んで上下から超音波振動を与えることに起因している。印加時間は、好ましくは0.1〜5秒、更に好ましくは0.2〜2.0秒である。油性成分の融点や配合量、原料粉末20の重量や厚みにもよるが、余りに長時間印加すると、表面が高温になり、原料の劣化、油性成分の溶融固化が進んで過剰硬度(化粧料1の使用時に粉が取りづらい)、杵への付着増加、色焼け等が発生する場合がある。
【0038】
本成型が完了したら超音波振動を停止し、図6(c)に示すように上部エアシリンダ15aを動作させ、上杵16aを上昇させて成型テーブル12上の空間に待避させる。また下部エアシリンダ15bを動作させ、下杵16bも上昇させる。これによって金型13の筒状開口部から目的物である化粧料1を取り出す。
【0039】
このようにして得られた化粧料1は、先に述べたとおり、ファンデーションやチーク、アイシャドウ等として用いられる。
【0040】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記の実施形態においては、上杵16a及び下杵16bの双方を振動させて超音波振動を印加したが、これに代えて上杵16a及び下杵16bのいずれか一方のみを用いて超音波振動を印加してもよい。
【0041】
また前記の実施形態においては、原料粉末20が上杵16aに付着することを防止する目的で、これらの間にポリ四フッ化エチレン製のシート等の付着防止用介在物を介在させてもよく、あるいは不織布及び/又は織布を介在させて、化粧料1の表面に網目模様を施し、化粧料1に一層の高級感を付与してもよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0043】
〔実施例1〕
図5に示す装置を用い、図6に示す方法でチークを製造した。装置10における超音波振動素子14a,14bとしては、精電舎電子工業製のランジュバン素子(発振周波数19kHz、最大出力1200W、最大振幅26μm)を用いた。粉末原料20としては、以下の表1に示す組成のものを混合して用いた。
【0044】
【表1】

【0045】
図5に示す装置を図6(a)に示す状態にして、金型の凹部に原料粉末を5g充填した。次に上杵16aを降下させて凹部内に挿入し、所定の位置で固定して図6(b)に示す状態とした。この状態下に予備成型を行った。予備成型の条件は以下の表2に示すとおりである。
【0046】
【表2】

【0047】
予備成型に引き続き、本成型を行った。本成型の条件は以下の表3に示すとおりである。
【0048】
【表3】

【0049】
本成型の完了後、超音波振動を停止し、上杵を上昇・待避させ、また下杵も上昇させて、図6(c)に示すように目的物である固形粉末化粧料を金型内から取り出した。この固形粉末化粧料におけるH1は3mm、D1は24mm、H1/D1は0.125であった。
【0050】
〔実施例2〕
実施例1において、予備成型を行わない以外は実施例1と同様にして、同実施例と同形状で同寸の固形粉末化粧料(チーク)を製造した。
【0051】
〔比較例1〕
前記の表1に示す原料粉末を用いて、実施例1と同形状で同寸の固形粉末化粧料の成型が可能な金型及び杵並びに加圧装置としての油圧シリンダを用いて圧力18MPaで圧縮成型した。充填量は実施例1と同じく5gであった。このようにして、固形粉末化粧料(チーク)を製造した。
【0052】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた固形粉末化粧料について、上述した方法で高さ方向の硬度差を測定した。また、外観の状態を目視評価した。更に、粉の取れ性を10人の専門パネラーにより官能評価し、下記基準により判定した。これらの結果を以下の表4に示す。
【0053】
〔粉の取れ性 評価〕
A:7人以上が良いと評価した。
B:4〜6人が良いと評価した。
C:2〜3人が良いと評価した。
D:1人以下が良いと評価した。
【0054】
【表4】

【0055】
表4に示す結果から明らかなように、実施例1の固形粉末化粧料(本発明品)は、比較例1の固形粉末化粧料に比べ、全体として均一な硬度を有していることが判る。また、硬度が高いにもかかわらず、粉の取れ性に優れており、また成型も首尾良く行えること判る。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、本発明の固形粉末化粧料の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図2(a)は、図1に示す化粧料の平面図であり、図2(b)及び(c)は図2(a)におけるb−b線断面図及びc−c線断面図である。
【図3】図3は、本発明に係る化粧料の別の実施形態を示す縦断面図である。
【図4】図4は、化粧料の硬度を測定する部位を示す説明図である。
【図5】図5は、図1に示す固形粉末化粧料を製造するために用いられる好ましい装置を示す模式図である。
【図6】図6は、図5示す装置を用いた固形粉末化粧料の製造工程を示す図である。
【図7】図7は、予備成型及び本成型の操作条件を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1 固形粉末化粧料
1a 上面
1b 下面
2 基面部
3 立体面部
4 凸状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15質量%以下の液状成分を含む原料粉末を圧縮成型してなり、上面及び下面を有するとともに上面に凸状部を備えた略扁平な形状の固形粉末化粧料であって、
上面の基準面から凸状部の最高位置までの高さH1と、該最高位置を通り、かつ平面視において粉末化粧料の横断長が最小となるように引かれた直線における該横断長D1との比(H1/D1)が0.05〜0.4であり、粉末化粧料の高さ方向の硬度差が20%以内である固形粉末化粧料。
【請求項2】
原料粉末を容器内で圧縮成型して得られたものである請求項1記載の固形粉末化粧料。
【請求項3】
融点が40〜150℃である固体の油性成分を0.5〜10質量%含有する原料粉末を、超音波振動を与えながら圧縮成型して得られたものである請求項1又は2記載の固形粉末化粧料。
【請求項4】
圧縮成型する前に、該圧縮成型の圧力よりも低い圧力を加えた状態下に超音波振動をパルス的に印加する予備成型に付されて得られたものである請求項1ないし3のいずれかに記載の固形粉末化粧料。
【請求項5】
縦断面における上面の形状が台形状又は上に凸のドーム状である請求項1ないし4のいずれかに記載の固形粉末化粧料。
【請求項6】
15質量%以下の液状成分を含む原料粉末を金型内に充填し、該原料粉末を挟んで相対向してそれぞれ配された成型用杵の少なくとも一方によって該原料粉末に超音波振動を与えながら、両杵によって圧縮を加える圧縮成型を行い、上面及び下面を有するとともに上面に凸状部を備えた略扁平な形状の固形粉末化粧料を製造する方法であって、
原料粉末を圧縮成型する前に、該圧縮成型の圧力よりも低い圧力を加えた状態下に、原料粉末に超音波振動をパルス的に印加する予備成型を行う固形粉末化粧料の製造方法。
【請求項7】
原料粉末を容器内で圧縮成型する請求項6記載の固形粉末化粧料の製造方法。
【請求項8】
原料粉末として、融点が40〜150℃である固体の油性成分を0.5〜10質量%含有するものを用いる請求項6又は7記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−53082(P2010−53082A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220361(P2008−220361)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】