説明

固形製剤およびその製造方法

【課題】従来よりも少ない被覆量で活性成分の胃内での放出を抑制すると共に腸内での放出を可能とし、活性成分の作用を効果的に発現させることができる固形製剤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】活性成分を含む内核固形物を、生体適合性ナノ粒子と、該生体適合性ナノ粒子と複合化された腸溶性高分子と、を含む被覆層で被覆した固形製剤とすることにより、胃内では生体適合性ナノ粒子が被覆層から消化管液に分散せず、腸内では生体適合性ナノ粒子が被覆層から消化管液に分散し、内核固形物に含まれる活性成分を放出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内核固形物を、生体適合性高分子を含む被覆層で被覆した固形製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖尿病疾患の患者数は、潜在者も含めると多数にのぼり、年々増加傾向にある。このような糖尿病疾患に対する治療薬としてインスリンが使用されている。しかし、インスリンのようなペプチド性薬物は、胃内で消化酵素の分解を受けて失活するため経口投与が困難である。このため、従来、インスリンは静脈注射等により投与されており、患者の日常生活における負担が大きくなっていた。
【0003】
しかし、近年、糖尿病疾患に対する羅患率は、高齢者のみならず若年層においても増加する傾向にあり、生活の質(QOL)の向上及び服薬アドヒアランスの向上が求められている。かかるQOLや服薬アドヒアランスの向上のため、必要なときに必要な量の薬物(活性成分)を放出する薬物放出技術、薬物の吸収を高めて体内に効率良く吸収させる薬物吸収制御技術といった、いわゆるDrug Delivery System(以下、DDSという)の開発が試みられている。
【0004】
このような背景のもと、経口投与しても薬物を胃では放出せず、吸収部位である小腸から大腸において放出させる方法が種々提案されている。例えば、特許文献1には、薬物含有コア粒子を、水溶性ポリマーの第一膜と、水不溶性ポリマー及び腸溶性ポリマーの組み合わせの第二膜とを所定の比率で、いずれかの順でコートすることにより、経口投与後における薬物の放出の遅延時間及び持続時間を制御する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、薬物と膨潤剤とからなる核を、水不溶性かつ水浸透性の物質からなる被覆膜層で被覆した医薬組成物であり、該被覆膜層の一部が他の被覆膜層部分より薄いか、あるいは破断強度の弱い組成であり、経口投与後、所定時間経過後に被覆膜層の一部に亀裂が生じて核内の薬物が放出されることにより、ラグタイムの長短にかかわらず、含有された薬物の大部分が薬物放出開始から短時間の内に放出され、放出部位に滞留し、通常製剤と比較して高い局所濃度の維持を可能とする方法が開示されている。
【0006】
かかる特許文献2には、水不溶性かつ水浸透性の物質として乳酸・グリコール酸コポリマーや、ポリアクリル酸及びその誘導体並びにそれらのコポリマーを用いることが開示されており、内核に徐放性基剤として生分解性ポリマーを用いること、被覆膜層の上に、さらに腸溶性物質からなる水透過性制御膜を形成することが開示されている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載されたように、胃内での薬物放出を防ぐために単に腸溶性高分子を用いて内核にコーティングを施すのみでは、被覆層を厚くする必要がある。また、特許文献2のように、被覆層中に薄い部分や破断強度の低い部分を形成することは、煩雑である。
【0008】
一方、消化管での吸収を改善するために、薬物を生分解性高分子に封入する技術も提案されている。かかる技術は、膜で包む、若しくは膜剤とマトリックスを形成することにより、薬物を途中で吸収・分解させることなく、目標とする患部に効果的かつ集中的に送り込み、患部で薬物を放出させる技術であり、薬物の治療効果を高めるだけでなく、副作用の軽減も期待できるというメリットがある。
【0009】
キャリアーの素材となる生体適合性高分子は、生体への刺激・毒性が低く、生体適合性で、投与後分解して代謝される生体内分解性のものが望ましい。また、内包する薬物を持続して徐々に放出する粒子であることが好ましい。このような素材として、例えば特許文献3〜5に開示されているように、乳酸・グリコール酸共重合体(以下、PLGAという)が好適に用いられている。PLGAは薬物を内包可能であり、当該薬物の効力を保持したまま長期間保存できることが知られている。さらに、生体内においてPLGAが加水分解され、数時間から数十時間単位の徐放ができると考えられる。
【0010】
このようなナノ粒子は、一般に、良溶媒に溶解させた薬物溶液を、撹拌下、薬物を溶解し難い貧溶媒中に滴下することで、薬物の結晶を析出させる球形晶析法を用いて製造される。球形晶析法では、物理化学的な手法でナノ粒子を形成でき、しかも得られるナノ粒子が略球形であるため、均質なナノ粒子を、触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮する必要なく、容易に形成することができる。
【0011】
例えば、特許文献3には、シクロスポリンを、実質的に非晶質な状態で生分解性ポリマー微小球又は極小球に封入することにより、シクロスポリンの生物学的利用率を向上させる方法が開示されている。また、特許文献3には、かかる微小球等を腸溶性ポリマーでコーティングし、シクロスポリンを小腸へ標的放出させることが開示されている。
【0012】
しかし、特許文献3においては、対象としている粒子はマイクロサイズであり、また、腸溶性コーティングへの具体的な適用例は記載されておらず、単に微小球に腸溶性コーティングを施すことができることを示唆するものに過ぎなかった。
【0013】
一方、特許文献4には、少なくとも1つの生分解性(生体適合性)ポリマーと少なくとも1つのポリカチオン性ポリマーとを含むポリマー・マトリックスから粒子状担体を形成することにより、非経口投与されていたのと同程度の量の有効成分を経口投与する方法が開示されている。かかる特許文献4には、ポリマー・マトリックスに腸溶性ポリマーを含むことができることが開示されている。
【0014】
また、特許文献5には、生分解性(生体適合性)ポリマー、タンパク質抗原及び腸溶性ポリマーを有する微小粒子組成物であって、生分解性微小粒子の表面に腸溶性ポリマーのコーティング層を形成することにより、胃の内部において抗原を分解又は変形から保護する方法が開示されている。かかる特許文献5には、タンパク質抗原を生分解性ポリマー溶液でエマルジョン化し、該エマルジョンをさらに腸溶性ポリマー溶液でエマルジョン化した後、凍結乾燥することが開示されている。
【特許文献1】特表2003−522141号公報
【特許文献2】特開2002−212062号公報
【特許文献3】特表平11−503147号公報
【特許文献4】特表2004−502720号公報
【特許文献5】特表2003−517440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、特許文献4については、腸溶性高分子のポリマー・マトリックスへの具体的な適用例は記載されておらず、単にポリマー・マトリックスに腸溶性高分子を含めることができることを示唆するものに過ぎない。また、かかる粒子状担体を用いて固形物を被覆する方法は開示されていない。
【0016】
また、特許文献5では、生分解性高分子と腸溶性高分子とをエマルジョン化した後、凍結乾燥を行うことによって微小粒子を形成することは開示されているが、かかる微小粒子を用いて固形物を被覆する方法は開示されていない。
【0017】
本発明は、上記問題点に鑑み、従来よりも少ない被覆量で活性成分の胃内での放出を抑制すると共に腸内での放出を可能とし、活性成分の作用を効果的に発現させることができる固形製剤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、活性成分を含む内核固形物を、生体適合性ナノ粒子と、該生体適合性ナノ粒子と複合化された腸溶性高分子と、を含む被覆層で被覆した固形製剤である。
【0019】
また本発明の第2の構成は、上記構成の固形製剤において、前記生体適合性ナノ粒子を形成する生体適合性高分子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれか1種あるいは2種以上であることを特徴としている。
【0020】
また本発明の第3の構成は、上記構成の固形製剤において、前記腸溶性高分子が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセテートフタレートのいずれか1種あるいは2種以上であることを特徴としている。
【0021】
また本発明の第4の構成は、上記構成の固形製剤において、前記生体適合性ナノ粒子にも活性成分が封入されていることを特徴としている。
【0022】
また本発明の第5の構成は、上記構成の固形製剤において、前記内核固形物にも生体適合性ナノ粒子を含み、該生体適合性ナノ粒子には前記内核物質に含まれる活性成分の少なくとも一部が封入されていることを特徴としている。
【0023】
また本発明の第6の構成は、上記構成の固形製剤において、前記内核固形物が錠剤または丸剤であることを特徴としている。
【0024】
また本発明の第7の構成は、上記構成の固形製剤において、前記被覆層が圧縮成型により形成されることを特徴としている。
【0025】
また本発明の第8の構成は、上記構成の固形製剤において、前記被覆層が水溶性物質を含むことを特徴としている。
【0026】
また本発明の第9の構成は、生体適合性高分子から生体適合性ナノ粒子を形成する第1工程と、前記生体適合性ナノ粒子を腸溶性高分子と複合化する第2工程と、活性成分を含む内核固形物を、前記生体適合性ナノ粒子と、該生体適合性ナノ粒子と複合化された腸溶性高分子と、を含む被覆層で被覆する第3工程と、を含む固形製剤の製造方法である。
【0027】
また、また本発明の第10の構成は、上記構成の固形製剤の製造方法において、前記第3工程が、圧縮成形により前記内核固形物を前記被覆層で被覆することを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
本発明の第1の構成によれば、活性成分を有する内核固形物を被覆する被覆層に、生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子とが複合化された複合体の状態で存在することにより、従来よりも少ない被覆量で、胃内では生体適合性ナノ粒子が被覆層から消化管液に分散することを抑制し、腸内では腸溶性高分子の溶解特性に応じて腸溶性高分子が溶解すると共に生体適合性ナノ粒子が被覆層から消化管液に分散し、内核固形物に含まれる活性成分を放出することができる。
【0029】
これにより、従来よりも少ない被覆量で、胃内での活性成分の放出を抑制すると共に腸内での活性成分の放出が可能となり、活性成分の胃内での失活等を抑制し、生物学的利用率を向上させる等、その作用を効果的に発現させることができる。特に、従来経口投与が不可能であった活性成分に対しても経口投与を可能とすることができる。
【0030】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の固形製剤において、生体適合性高分子として、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれか1種あるいは2種以上を用いることにより、生体への刺激・毒性が低くなる。また、活性成分を十分に封入可能であり、且つ活性成分の効力を保持したまま長期間保存できるとともに、封入した活性成分の徐放が可能な固形製剤を提供できる。
【0031】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第1または2の構成の固形製剤において、腸溶性高分子として、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセテートフタレートのいずれか1種あるいは2種以上を用いることにより、その溶解特性に応じて腸内で被覆層から生体適合性ナノ粒子を消化管液に分散させることができ、所望の放出パターンで活性成分を放出することができる。
【0032】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1〜第3のいずれかの構成の固形製剤において、生体適合性ナノ粒子にも活性成分を封入することにより、内核固形物からの活性成分の放出に加え、被覆層の生体適合性ナノ粒子からの活性成分の放出が可能となり、内核固形物と被覆層とで活性成分の放出パターンを異なるものとする等、より多彩な放出制御が可能となる。
【0033】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1〜第4のいずれかの構成の固形製剤において、内核固形物にも生体適合性ナノ粒子を含み、該生体適合性ナノ粒子に内核物質の活性成分の少なくとも一部を封入することにより、内核固形物からの活性成分の放出を徐放化したり、生体適合性ナノ粒子に封入された活性成分と封入されない活性成分とで放出パターンを異なるものとする等、より多彩な放出制御が可能となる。
【0034】
また、本発明の第6の構成によれば、上記第1〜第5のいずれかの構成の固形製剤において、内核固形物を錠剤または丸剤とすることにより、取り扱い性が向上し、患者のQOL及び服薬アドヒアランスの向上に寄与することが可能となる。
【0035】
また、本発明の第7の構成によれば、上記第6の構成の固形製剤において、被覆層を圧縮成型により形成することにより、生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子の上記複合体を、内核固形物の表面に容易に形成することができる。
【0036】
また、本発明の第8の構成によれば、上記第1〜第7のいずれかの構成の固形製剤において、前記被覆層が水溶性物質を含むことにより、腸内において消化管液との接触による被覆層からの生体適合性ナノ粒子の分散性を高めることができるため、その配合に応じて被覆層からの生体適合性ナノ粒子の分散を制御することができ、より多彩な活性成分の放出制御が可能となる。
【0037】
また、本発明の第9の構成によれば、生体適合性高分子から生体適合性ナノ粒子を形成する第1工程と、生体適合性ナノ粒子を腸溶性高分子と複合化する第2工程と、活性成分を含む内核固形物を、生体適合性ナノ粒子と、該生体適合性ナノ粒子と複合化された腸溶性高分子と、を含む被覆層で被覆する第3工程と、を含む固形製剤の製造方法とすることにより、活性成分を有する内核固形物を被覆する被覆層に、生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子とが複合化された複合体の状態で存在することができる。
【0038】
これにより、少ない被覆量で、胃内では被覆層から生体適合性ナノ粒子が分散することを抑制し、腸内では腸溶性高分子の溶解特性に応じて腸溶性高分子が溶解すると共に被覆層から生体適合性ナノ粒子が分散し、内核固形物から活性成分を放出することができる。従って、従来よりも少ない被覆量で、胃内での活性成分の放出を抑制すると共に腸内での活性成分の放出が可能となり、活性成分の胃内での失活等を抑制し、生物学的利用率を向上させることができる。特に、従来経口投与が不可能であった活性成分に対しても経口投与を可能とすることができる。
【0039】
また、本発明の第10の構成によれば、上記第9の構成の固形製剤の製造方法において、第3工程として、圧縮成形により前記内核固形物を前記被覆層で被覆することにより、生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子との上記複合体を、内核固形物の表面に容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の固形製剤は、活性成分を含む内核固形物を、生体適合性ナノ粒子と、該生体適合性ナノ粒子と複合化された腸溶性高分子と、を含む被覆層で被覆したものである。被覆層中に生体適合性高分子と腸溶性高分子とが複合化された複合体の状態で存在することにより、従来よりも少ない被覆量で、低pHの胃内では生体適合性ナノ粒子が被覆層から消化管液に分散するのを抑制し、活性成分の放出を抑制することができる。また、中性付近のpHの腸内では、腸溶性高分子がその溶解特性に応じて溶解すると共に生体適合性ナノ粒子が被覆層から消化管液に分散し、活性成分を放出することができる。
【0041】
本発明の固形製剤に用いられる生体適合性ナノ粒子は、生体適合性高分子を、ナノ単位の大きさの粒子(ナノスフェア)としたものである。かかる生体適合性ナノ粒子の製造方法としては、生体適合性高分子を1000nm未満の平均粒径を有する粒子に加工することができる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、非高剪断力粒子調製法である球形晶析法を好適に用いることができる。
【0042】
かかる球形晶析法を用いることにより、粒子調製中に外部応力が加わることを回避することができ、例えば後述するように生体適合性ナノ粒子内に活性成分を封入する場合には、高剪断力により分解等する活性成分にも適用することができ、より有用である。しかし、高剪断力を要する調製法を用いることもできる。
【0043】
球形晶析法は、化合物合成の最終プロセスにおける結晶の生成・成長プロセスを制御することで、球状の結晶粒子を設計し、その物性を直接制御して加工することができる方法である。この球形晶析法の一つに、エマルジョン溶媒拡散法(ESD法)がある。
【0044】
ESD法は、次に示すような原理によって、ナノ粒子を製造する技術である。本法には、基剤ポリマーとなるPLGA等を溶解できる良溶媒と、これとは逆にPLGAを溶解しない貧溶媒の二種類の溶媒が用いられる。この良溶媒には、PLGAを溶解し、且つ貧溶媒へ混和するアセトン等の有機溶媒を用いる。そして、貧溶媒には、通常、ポリビニルアルコール水溶液等を用いる。
【0045】
操作手順としては、まず、良溶媒中にPLGAを溶解後、このPLGA溶液を、貧溶媒中に攪拌下、滴下すると、混合液中の良溶媒(有機溶媒)が貧溶媒中へ急速に拡散移行する。その結果、貧溶媒中で良溶媒の自己乳化が起き、サブミクロンサイズの良溶媒のエマルジョン滴が形成される。さらに、良溶媒と貧溶媒の相互拡散により、エマルジョン内から有機溶媒が貧溶媒へと継続的に拡散していくので、エマルジョン滴内のPLGAの溶解度が低下し、最終的に、球形結晶粒子のPLGAナノ粒子が生成する。
【0046】
上記球形晶析法では、物理化学的な手法でナノ粒子を形成でき、しかも得られるナノ粒子が略球形であるため、均質なナノ粒子を、触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮する必要がなく、容易に形成することができる。その後、良溶媒である有機溶媒を減圧留去し(溶媒留去工程)、粉末状のPLGAナノ粒子(生体適合性ナノ粒子)を得る(第1工程)。
【0047】
良溶媒および貧溶媒の種類は、生体適合性高分子の種類や後述するように封入する活性成分の種類等に応じて決定されるものであり特に限定されるものではないが、生体適合性ナノ粒子は、経口投与させる固形製剤の原料として用いられるため、人体に対して安全性が高く、且つ環境負荷の少ないものを用いる必要がある。
【0048】
このような貧溶媒としては、そのまま、或いは界面活性剤を添加した水が挙げられるが、例えば界面活性剤としてポリビニルアルコールを添加したポリビニルアルコール水溶液が好適に用いられる。ポリビニルアルコール以外の界面活性剤としては、レシチン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。なお、余剰のポリビニルアルコールが残存している場合は、溶媒留去工程の後に、遠心分離等によりポリビニルアルコールを除去する工程(除去工程)を設けても良い。
【0049】
良溶媒としては、低沸点且つ難水溶性の有機溶媒であるハロゲン化アルカン類、アセトン、メタノール、エタノール、エチルアセテート、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられるが、例えば環境や人体に対する悪影響が少ないアセトンのみ、若しくはアセトンとエタノールの混合液が好適に用いられる。
【0050】
なお、生体適合性ナノ粒子内に、後述する様に活性成分を封入する場合には、例えば、上記したEDS法において、良溶媒中にPLGAを溶解後、PLGAが析出しないように、活性成分の溶解液を良溶媒中へ添加混合し、PLGAと活性成分を含む混合液を、上記貧溶媒中に攪拌下、滴下する。その他は、上記と同様にして粉末状の活性成分含有生体適合性ナノ粒子を得ることができる。
【0051】
このように生体適合性ナノ粒子に活性成分を封入する場合には、例えば活性成分がアニオン性の場合、カチオン性高分子等を貧溶媒に添加することにより封入率を高めることができる。また、例えば活性成分がカチオン性の場合、その種類に応じてアニオン性高分子を貧溶媒に添加することにより封入率を高めることもできる。また、良溶媒中でのアニオン性活性成分の親和性及び分散安定性を向上させるため、良溶媒中にカチオン性物質を添加することができ、良溶媒中でのカチオン性活性成分の親和性及び分散安定性を向上させるため、良溶媒中にアニオン性物質を添加することもできる。
【0052】
本発明に用いられる生体適合性高分子は、生体への刺激・毒性が低く、生体適合性で、投与後分解して代謝される生体内分解性のものが望ましい。また、生体内で徐々に分解されるものが好ましく、例えば活性成分を内包した場合、活性成分を持続して徐々に放出することができるものであることが好ましい。
【0053】
また、かかる生体適合性高分子を用いて生体適合性ナノ粒子を形成することにより、腸溶性高分子と複合化して被覆層を形成した際、徐々に分解され、被覆層より内部に消化管液等が浸入することを抑制できるため、少ない被覆量でも十分な腸溶性を発揮することができる。このような素材としては、特にPLGAを好適に用いることができる。PLGAナノ粒子は活性成分を内包可能であり、当該活性成分の効力を保持したまま長期間保存できることが知られている。
【0054】
PLGAの分子量は、5000〜200000の範囲内であることが好ましく、15000〜25000の範囲内であることがより好ましい。乳酸とグリコール酸との組成比は1:99〜99:1であればよいが、乳酸1に対しグリコール酸0.333であることが好ましい。
【0055】
また、PLGAの表面をポリエチレングリコール(PEG)で修飾しておくと、例えば活性成分を封入する際、水溶性の活性成分とPLGAとの親和性が向上し、封入が容易になるため好ましい。生体内分解性の生体適合性高分子としては、ほかに、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアスパラギン酸等が挙げられる。また、これらのコポリマーであるアスパラギン酸・乳酸共重合体(PAL)やアスパラギン酸・乳酸・グリコール酸共重合体(PALG)を用いても良く、アミノ酸のような荷電基あるいは官能基化し得る基を有していてもよい。
【0056】
上記以外の生体適合性高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリアルキレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテルおよびポリビニルエステルのようなポリビニル化合物、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、アクリル酸とメタクリル酸とのポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、エチルセルロース、他のセルロースおよび他の多糖類、ならびにペプチドまたはタンパク質、あるいはそれらのコポリマーまたは混合物が挙げられる。これらのうちでは、エチルセルロースが好ましい。また、これらを2種以上組み合わせてもよい。
【0057】
以上のように得られた生体適合性ナノ粒子を、腸溶性高分子と複合化する(複合化工程)。かかる複合化とは、上記生体適合性ナノ粒子を腸溶性高分子と共に凍結乾燥等により、再分散可能に凝集した状態(複合体)とすることである。また、かかる凍結乾燥等により、凝集粒子(ナノコンポジット、複合化粒子)が得られる。
【0058】
このような複合化粒子の製造は、例えば、上記生体適合性ナノ粒子粉末及び腸溶性高分子に精製水を加え、超音波等により両者を分散して得られた懸濁液を凍結乾燥することにより得ることができる。また、生体適合性ナノ粒子の懸濁液と、腸溶性高分子を精製水等に分散して得た懸濁液(乳濁液も含み、以下、「懸濁液」という)と、を混合した後、凍結乾燥することもできる。
【0059】
かかる複合化により、個々の生体適合性ナノ粒子は腸溶性高分子によって隔離され、生体適合性ナノ粒子が互いに凝集することを回避することができる。これにより、後述するように、被覆層を形成しても、被覆層中での生体適合性ナノ粒子同士の偏析や凝集、或いはこれらに外部応力が加わった比較的強固な凝集等を回避することができる。
【0060】
よって、小腸や大腸等、腸内の消化管液(腸液)と略同程度の中性付近のpHを示す溶液(中性溶液)と接触したとき、互いの凝集により生体適合性ナノ粒子の分散が極度に遅延することを防止することができる。従って、複合化粒子を被覆層とした際、腸内において生体適合性ナノ粒子の被覆層から腸液への分散を速やかにし、このように分散性を良好にすることにより、内核固形物からの活性成分の放出を可能にする。
【0061】
なお、凍結乾燥法に代えて、流動層乾燥造粒法(例えば、ホソカワミクロン(株)製アグロマスタAGMを使用)により生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子を複合化することもできる。
【0062】
生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子の組成比は、胃内で活性成分を放出せず、腸内で活性成分を所望のパターンで放出可能であれば特に限定されるものではない。しかし、例えば、生体適合性高分子に対して腸溶性高分子が多くなれば、耐酸性を保つために被覆層の量を多くする必要がある。これに対し、腸溶性高分子が少なくなれば、被覆層の成形性や腸内で生体適合性ナノ粒子の被覆層から腸液への分散が極度に遅延するおそれがある。
【0063】
従って、例えばこれらの観点を考慮して生体適合性高分子と腸溶性高分子の組成比を設定することができ、かかる観点から、例えば生体適合性高分子の重量1に対して腸溶性高分子の重量を2〜4とすることが好ましく、3程度とすることがより好ましい。
【0064】
上記腸溶性高分子としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセテートフタレートのいずれか1種あるいは2種以上を用いることができる。また、これらの腸溶性高分子は、活性成分の所望の放出パターンに応じた溶解特性を有するものを適宜選択若しくは組み合わせて用いることができ、例えばpH5.5以上で溶解するメタクリル酸コポリマーL等を用いることができる。
【0065】
また、上記複合化の際、生体適合性ナノ粒子及び腸溶性高分子の懸濁液に、有機または無機の物質を添加して再分散可能に複合化させ、これらと共に乾燥させることもできる。例えば、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルアルコール等を添加することができる。
【0066】
そして、活性成分を含む内核固形物を、上記生体適合性ナノ粒子と該生体適合性ナノ粒子と複合化された腸溶性高分子を含む被覆層により被覆する(第3工程)ことにより、固形製剤とする。また、かかる被覆層は、上記の通り、生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子が上記複合体として被覆層中に含有されているものである。
【0067】
活性成分を含む内核固形物は、経口用固形物であり、活性成分を含み、且つ生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子との複合体を含む被覆層により被覆可能なものであれば、特に限定されない。例えば、内核固形物は、活性成分に添加剤等を配合して錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の経口用固形物に適宜成形することができる。また、内核固形物として活性成分のみを用いてもよく、活性成分のみを錠剤や丸剤に成形したり、カプセルに封入したり、顆粒剤としたり、そのままあるいは粉砕して散剤とすること等もできる。
【0068】
これらのうちでも、錠剤または丸剤が好ましい。錠剤または丸剤とすることにより、取り扱い性が向上し、患者のQOL及び服薬アドヒアランスの向上に寄与することが可能となる。また、内核固形物を適宜徐放化等することにより、腸内で被覆層から生体適合性ナノ粒子が分散した後、内核固形物からの活性成分の放出を制御することもできる。
【0069】
活性成分として、経口可能な活性成分であれば特に限定されないが、例えば、胃内で分解するような活性成分を用いることもできる。このような活性成分として、例えば、インスリン、カルシトニン、ソマトスタチン等のペプチド、タンパク、抗体等を挙げることができる。特に、これら活性成分を用いることにより、従来経口投与が不可能であった活性成分が経口投与可能となるため、より効果的である。また、2種類以上の活性成分を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0070】
内核固形物に配合される添加剤としては、例えば、乳糖、とうもろこしでんぷん、マンニトール等の賦形剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース等の崩壊剤、ステアリン酸や、その塩であるステアリン酸マグネシムやステアリン酸カルシウム等の滑沢剤、軽質無水ケイ酸等の流動化剤、その他、着色剤、安定化剤、酸化防止剤等が挙げられ、これらを適宜組み合わせて用いることもできる。しかし、上記添加剤は、活性成分と共に経口用固形物を成形可能であれば、特にこれらに限定されるものではない。
【0071】
このような内核固形物を上記被覆層により被覆する方法としては、例えば、上記複合化粒子を内核固形物と共に圧縮成形する方法が挙げられる。かかる圧縮成形法としては、例えば、所定の直径の臼、下杵及び上杵を装着した打錠機を用い、まず、所定量の上記複合化粒子の一部を臼内に投入し、次に、その上に上記臼・杵の直径より小さい内核固形物(例えば錠剤)を載置し、そして、その上から残りの複合化粒子を投入して内核固形物の周囲を覆った後、上杵及び下杵により圧縮する方法が挙げられる。
【0072】
かかる場合、有核打錠機を用いれば、より効率的に製造することができる。また、その他、内核固形物を形成するための顆粒と複合化粒子とを用い、内核固形物用の顆粒を圧縮して内核固形物を成形する工程と、その周囲に複合化粒子を圧縮して被覆層を成形する工程とをワンステップで行う有核打錠機を用いて製造することもできる。この場合には、内核固形物の成形と被覆を同時に行うことができるため、更に効率的に製造することができる。なお、通常の打錠機を用いて内核固形物及び被覆層の圧縮成形を行うこともできる。
【0073】
このような圧縮成形法により、例えば図1に示すように、内核固形物が被覆層によって被覆された有核錠(固形製剤)を得ることができる。そして、かかる有核錠の被覆層には、上記生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子の複合体の層が形成されている。このように圧縮成型により被覆層を形成することにより、生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子とが複合体として存在する被覆層を、内核固形物の表面に容易に形成することができる。
【0074】
被覆層には、上記複合化粒子の他、打錠の際に通常用いられる添加剤、例えば、上記内核固形物に添加される添加剤等を配合し、上記複合化粒子と混合して圧縮成形を行うこともできる。また、例えば被覆層に糖アルコール等の低分子量の水溶性物質を配合し、該水溶性物質を上記複合化粒子と混合して被覆層とすることにより、耐酸性を保持しつつ上記中性溶液での生体適合性ナノ粒子の被覆層からの分散性を高め、活性成分の放出を速くすることができる。また、中性付近においてよりpHの低い溶液でもその分散性が良好となり、例えば小腸等、腸内のよりpHの低い部位で活性成分を放出することができる。
【0075】
よって、かかる水溶性物質の配合量を適宜変化させることにより、活性成分の放出パターンを種々設計することが可能となる。また、糖アルコールとしては、例えばマンニトール、トレハロース等を挙げることができる。その他、かかる水溶性物質として、例えば、デキストラン、ヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。
【0076】
また、上記水溶性物質の配合量が多くなると、被覆層からの生体適合性ナノ粒子の分散性が高まる一方、被覆層の形成が困難となる、或いは耐酸性が低下する等のおそれもある。また、かかる配合量が少なくなると、生体適合性ナノ粒子が、腸内のよりpHの低い部位で十分に分散できないおそれもある。従って、かかる観点を考慮して、上記水溶性物質の配合量を、例えば被覆層に対して20重量%〜30重量%とすることができる。
【0077】
また、被覆層に疎水性物質を配合し、上記複合化粒子と混合して被覆層とすることにより、被覆層への水の浸入を抑制することができる。これにより、腸内における生体適合性ナノ粒子の被覆層からの分散性を抑えて、活性成分の放出を抑制することができる。よって、疎水性物質の配合量を適宜変化させることにより、活性成分の放出パターンを種々設計することもできる。かかる疎水性物質として、例えば、ステアリン酸や、その塩であるステアリン酸マグネシム、ステアリン酸カルシウム等を挙げることができる。
【0078】
また、その他、生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子とが複合体として存在するよう被覆層を形成可能であれば、例えば、上記複合化粒子を適宜分散させたコーティング液を用い、パンコーティングや転動流動コーティング法、または上記流動層乾燥造粒法を用い、スプレーコーティング法により内核固形物に噴霧及び乾燥して製造する方法を挙げることができる。また、錠剤や丸剤の他、カプセル剤、顆粒剤、散剤等に被覆することも可能である。
【0079】
このようにして形成された被覆層は、pH1.2のような酸性溶液では腸溶性高分子は溶解せず、生体適合性ナノ粒子も分散しないため、活性成分の放出を抑制することができる。また、生体内で持続的に分解され、内部への水の浸入を抑制する疎水性の生体適合性ナノ粒子を用いるため、腸溶性高分子のみで被覆層を形成する場合よりも少ない被覆量で耐酸性を発揮することができる。
【0080】
一方、腸溶性高分子の種類に応じて例えばpH6.8やpH7.4等の中性溶液では腸溶性高分子が溶解すると共に生体適合性ナノ粒子が分散し、内核固形物の放出特性に応じて活性成分を放出することができる。従って、活性成分の胃内での失活等を抑制し、生物学的利用率を向上させる等、その作用を効果的に発現させることができる。特に、従来経口投与が不可能であった活性成分に対しても経口投与を可能とすることができる。
【0081】
ここで、被覆層において生体適合性ナノ粒子同士が互いに接触し、偏析或いは凝集した場合、酸性溶液で分散しないのみならず、中性溶液においても被覆層からの生体適合性粒子の分散性が極度に低下するおそれがある。かかる場合、活性成分の放出が極度に遅延し、活性成分の作用を十分に発揮できないおそれがある。例えば、生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子の粉末を物理的に混合(以下、「物理混合」という)し、上記圧縮成形法により被覆層を形成した場合、偏析若しくは互いに凝集した生体適合性ナノ粒子が圧縮応力により比較的強固に凝集し、その結果、生体適合性ナノ粒子の分散性が極度に低下するおそれがある。
【0082】
しかし、本発明では、上記の通り、被覆層において生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子とが複合体として存在するため、腸溶性高分子によって個々の生体適合性ナノ粒子が隔離され、生体適合性ナノ粒子同士の凝集を回避することができる。これにより、生体適合性ナノ粒子の分散性の極度な低下を回避できる。
【0083】
そして、中性溶液との接触により被覆層中の腸溶性高分子が溶解すると共に、腸溶性高分子に混在していた生体適合性ナノ粒子が被覆層から剥離して分散する。これにより、内核固形物が中性溶液と接触し、内核固形物から活性成分を放出することができ、活性成分の作用を十分に発揮させることができる。このように、生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子を複合化することにより、例えば生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子を物理混合した場合より、腸内での活性成分の極度の放出遅延を抑制することができる。なお、被覆層から腸内に分散した生体適合性ナノ粒子は、腸内で徐々に分解される。
【0084】
また、腸内での被覆層からの生体適合性ナノ粒子の分散は、腸溶性高分子の溶解特性によって決定するため、例えば、より低いpHで溶解する腸溶性高分子を用いた場合には、生体適合性ナノ粒子の分散が速くなると共に活性成分の放出も速くなり、より高いpHで溶解する腸溶性高分子を用いた場合には、生体適合性ナノ粒子の分散及び活性成分の放出は遅くなる。よって、所望の活性成分の放出パターンに応じて腸溶性高分子を適宜選択すればよい。また、投与後は、腸内の各部位での消化管液のpHに応じて腸溶性高分子が溶解すると共に生体適合性ナノ粒子が被覆層から分散する。
【0085】
また、被覆層の膜厚が大きくなると、耐酸性がより向上する一方、腸内での活性成分の放出が遅延するおそれがあり、膜厚が小さくなると、耐酸性を十分に発揮できないおそれがある。従って、例えば、かかる観点を考慮して被覆層の膜厚を設定することができ、膜厚は、例えば150〜1000μmとすることができ、好ましくは150μm〜500μmとすることができる。また、被覆層のうち固形製剤の上面や下面の被覆層等、一部の膜厚のみが上記範囲であってもよい。
【0086】
また、このような膜厚を有する被覆層は、内核固形物に対する被覆層の重量比を、例えば30重量%〜200重量%、好ましくは30重量%〜100重量%とすることによって得ることができる。また、かかる被覆層が形成された固形製剤の厚みは、例えば、6mm以下とすることができる。
【0087】
ここで、従来、腸溶性高分子としてメタクリル酸コポリマーL(オイドラギットL100−55、デグサ製)を用い、腸溶性高分子のみを被覆層として有核錠を形成する場合には、例えば、内核固形物に対して300重量%の被覆層が形成される場合があった(薬学雑誌127巻12号2057頁〜2063頁、2007年)。しかし、本発明のように、腸溶性高分子を生体適合性ナノ粒子と複合化して被覆層を形成することにより、従来よりも少ない被覆量で腸溶性を発揮することができる。
【0088】
また、被覆層中の生体適合性ナノ粒子にも活性成分を封入することもできる。生体適合性ナノ粒子は腸内で被覆層から分散した後、徐々に分解されるため、生体適合性ナノ粒子に封入された活性成分を持続的に放出することができる。これにより、例えば内核固形物からの放出パターンと異なる放出パターンで活性成分を放出でき、例えば2放性の放出パターンを得る等、より多彩な放出制御が可能となる。
【0089】
また、内核固形物にも生体適合性ナノ粒子を配合し、かかる生体適合性ナノ粒子に活性成分を封入することができる。これにより、内核固形物から、生体適合性ナノ粒子に封入されることなく配合された活性成分が放出するのに加え、生体適合性ナノ粒子に封入された活性成分も放出するため、例えば2放性の放出パターンを得る等、より多彩な放出制御が可能となる。また、上記した被覆層中の生体適合性ナノ粒子に活性成分を封入することと組み合わせれば、さらに多彩な放出制御が可能となる。なお、内核固形物中の活性成分全てを生体適合性ナノ粒子に封入することも、その一部を封入することもできる。
【0090】
また、複数の異なる活性成分をそれぞれ生体適合性ナノ粒子に封入し、内核固形物と被覆層とで異なる活性成分が封入された生体適合性ナノ粒子を配合することができる。また、内核固形物に、異なる活性成分が封入された生体適合性ナノ粒子を配合することも、被覆層にこれらを配合することもできる。これにより、複数の作用を発揮させることができる。
【0091】
また、被覆層に生体適合性ナノ粒子に封入されることなく活性成分を配合することもできる。かかる活性成分は、特に限定されるものではない。但し、このように配合することにより、腸内へ到達する前に活性成分が放出され、例えば胃内で活性成分が失活するおそれもある。従って、例えばかかる観点を考慮して適宜活性成分を選択し、被覆層に配合することができる。
【0092】
その他、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、発明が解決しようとする手段に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例により本発明の効果を更に詳細に説明する。
【参考例】
【0093】
参考例1
[PLGAナノ粒子の調製]
PLGA(PLGA7520、乳酸/グリコール酸=75/25、分子量20000、和光純薬工業製)100mgをアセトン2mLとエタノール1mLの混合液に溶解し、PLGA溶液を得た。一方、ポリビニルアルコール(PVA403、クラレ製)1mgを精製水50mgに溶解し、貧溶媒(外水相)とした。この外水相に、400rpmの攪拌下、PLGA溶液を滴下し(4mL/min)、PLGAナノ粒子(生体適合性ナノ粒子)の懸濁液を得た。
【0094】
懸濁液中のPLGAナノ粒子を遠心分離(20000rpm、15min、4℃)した後、PLGAナノ粒子表面を精製水により洗浄した。洗浄後、適量の精製水を加え、超音波によりPLGAナノ粒子を再び懸濁した。かかる操作を2回繰り返し、最終的に得られた懸濁液を−104℃で一晩凍結乾燥し、PLGAナノ粒子粉末を得た。
【0095】
[PLGAナノ粒子と腸溶性高分子の複合化]
PLGAナノ粒子粉末を精製水に懸濁して得られた懸濁液と、メタクリル酸コポリマーLの懸濁液(オイドラギットL30D55、デグサ製)とを、PLGAナノ粒子とメタクリル酸コポリマーLの重量比が1:3となるよう混合した後、上記同様に凍結乾燥し、PLGAナノ粒子とメタクリル酸コポリマーLとの複合化粒子を得た。
【0096】
[複合化粒子の圧縮成形]
得られた複合化粒子50mgを、直径8mmの上杵、下杵及び臼を装着された油圧プレス式打錠機(ES−10TP、エイシン製)により、圧縮圧100kNで打錠し、参考例1のサンプルを得た。
【0097】
参考例2
[複合化粒子の圧縮成形]
参考例1と同様に調製したPLGAナノ粒子粉末を、メタクリル酸コポリマーLの粉末(オイドラギットL100−55、デグサ製)と重量比が1:3となるよう乳鉢で物理混合し、得られた混合粉末50mgを打錠し、参考例2のサンプルを得た。
【0098】
[pH7.4緩衝液の調製]
0.2mol/Lリン酸二水素カリウム試液と0.2mol/L水酸化ナトリウム試液をpH計測器でpHを測定しながら交互に混ぜ、約pH7.4の緩衝液(pH7.4緩衝液)を調製した。
【0099】
[分散性の評価]
試験管にpH7.4緩衝液を10mL入れ、参考例1及び参考例2のサンプルを投入し、試験液を37℃に保ちながら水平に振とうした。投入から1.5時間、3時間、6時間経過後に試験液を1mL採取し、各採取後、試験管内へpH7.4緩衝液を1mL加えた。
【0100】
採取した試験液1mLにpH7.4緩衝液1mLを添加して2倍希釈した後、動的光錯乱法(ZETA SIZER、MALVERN INSTRUMENTS製)によりPLGAナノ粒子の平均粒子径を測定した(n=3)。また、分光光度計(U−2800A形分光光度計、日立工機製)により測定波長400nmで吸光度の測定を行った(n=3)。参考例1、参考例2の結果をそれぞれ表1、表2に示す。また、表1及び表2に基づく、参考例1(Freeze drying)、参考例2(Physical mix)における相対吸光度のグラフを図2に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
表1及び図2に示すように、参考例1では、時間経過と共にPLGAナノ粒子が試験液中に分散し、相対吸光度が上昇した。また、分散したPLGAナノ粒子の平均粒子径(Z−Ave)は時間の経過と共に大きくなった。相対吸光度が上昇したのは、PLGAナノ粒子と腸溶性高分子とを凍結乾燥により複合化したため、PLGAナノ粒子同士が腸溶性高分子によって隔離され、圧縮成形時に応力が加えられてもPLGAナノ粒子が凝集せず、PLGAナノ粒子が試験液中に分散したためと考えられる。
【0104】
また、分散したPLGAナノ粒子の平均粒子径が大きくなったのは、被覆層中で凝集することなく存在するPLGAナノ粒子が、試験液に接触して膨潤し、膨潤したPLGAナノ粒子が被覆層から剥離して分散したためと考えられる。
【0105】
これに対し、表2及び図2に示すように、参考例2では、6時間経過後も試験液が略透明で、PLGAナノ粒子の分散はほとんど認められなかった。そこで、上記物理混合粉末を微視的に見たところ、PLGAナノ粒子が偏析していた。従って、かかる物理混合粉末に圧縮応力が加わることにより、隣接したPLGAナノ粒子同士が比較的強固に凝集し、試験液に分散しなくなったものと考えられる。
【実施例】
【0106】
実施例1〜実施例5
[内核用顆粒の製造]
モデル薬物としてアセトアミノフェンを用いた。まず、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)70gを精製水1000gに溶解し、7%HPC溶液を調整した。次に、転動流動層造粒乾燥・コーティング装置(マルチプレックス、パウレック製)に乳糖400gとアセトアミノフェン47gを入れ、7%HPC溶液を用いて流動層造粒法により造粒した。そして、この造粒品392gに対しアエロジル2gとステアリン酸マグネシウム2gを混合して内核用顆粒とした。
【0107】
[有核錠の製造]
上記内核用顆粒と、参考例1で得られた複合化粒子とを用い、表3に示す処方で有核錠を製造した。卓上型単発式打錠機(MINIPRESS MII、RIVA製)を用い、まず、直径6mmの臼及び杵を装着し、かかる臼内に内核用顆粒を入れ、15kNでアセトアミノフェン層(内核錠、内核固形物)を製造した。次に、複合化粒子の一部を上記直径8mmの臼に入れて15kNで押し固め、その中心部にアセトアミノフェン層を置き、さらに周囲と上面に残りの複合化粒子を充填してアセトアミノフェン層の周囲を覆い、打錠した。こうして、被覆層中に複合化粒子を配合した表3に示す実施例1〜実施例5の有核錠(固形製剤)を製造した。
【0108】
比較例
[有核錠の製造]
一方、実施例1〜実施例5で製造した内核用顆粒を用い、表3に示す処方で、被覆層としてメタクリル酸コポリマーL粉末(オイドラギットL100−55、デグサ製)のみを用い、実施例1〜実施例5と同様にして、内核固形物をメタクリル酸コポリマーL粉末により被覆し、比較例の有核錠を製造した。
【0109】
【表3】

【0110】
[pH1.2緩衝液の調製]
塩化ナトリウム2gに塩酸70mL及び精製水を加えて溶解し、1000mLとすることにより、pH約1.2の緩衝液(pH1.2緩衝液)を得た。
【0111】
[pH6.8緩衝液の調製]
0.2mol/Lリン酸二水素カリウム試液250mLに0.2mol/L水酸化ナトリウム試液118mL及び水を加えて1000mLとし、pH約6.8の緩衝液(pH6.8緩衝液)を得た。
【0112】
[溶出試験]
pH1.2緩衝液及びpH6.8緩衝液を試験液とし、実施例1〜実施例5の錠剤を用いて溶出試験を行い、被覆層の厚みと活性成分の溶出挙動との関係について調べた(n=3)。まずpH1.2緩衝液40mLに実施例1〜実施例5の錠剤を投入し、上記参考例と同様に37℃に保ちながら水平に振とうし、10分、20分、30分、45分、1時間、1.5時間、2時間経過後に試験液1mLを採取した。
【0113】
次に、各錠剤をpH1.2緩衝液から取り出し、pH6.8緩衝液に投入した後、10分、20分、30分、45分、1時間、1.5時間、2時間経過後に試験液を採取した。各採取液を上記の分光光度計により吸収波長240nmで測定し、溶出率を算出した。なお、各採取後、pH1.2緩衝液及びpH6.8試験液1mLを新たに試験管に加えた。結果を図3に示す。なお、表3及び後述する表4では、有核錠上面と下面の被覆層の重量及び厚みは略同じであるため、有核錠下面の被覆層の重量及び厚みのみを示す。また、以下、有核錠下面の被覆層の厚みを単に「膜厚」という。
【0114】
図3に示すように、比較例及び実施例1〜実施例5は、pH1.2緩衝液中でアセトアミノフェンの溶出が認められず、共に耐酸性を示した。しかし、比較例では、pH6.8での溶出が速くなったのに対し、実施例1〜実施例5ではpH6.8での溶出を抑制することができた。また、比較例と実施例3〜実施例5との結果を比較すると、実施例3〜実施例5の方は、より小さな膜厚でもpH6.8での溶出を抑制することができた。これは、腸溶性高分子に疎水性であるPLGAナノ粒子を加えることにより、水の浸入が抑制されたことによるものと考えられる。
【0115】
この結果、本発明の被覆層の方が、腸溶性高分子のみを用いて被覆層を形成した場合よりも小さな膜厚でも十分な耐酸性を発揮できることがわかった。さらに、実施例1〜実施例5では、被覆層の膜厚が150μm〜1000μm程度であればいずれの被覆層であっても十分な耐酸性を示し、pH1.2緩衝液中でのアセトアミノフェンの溶出を抑制することができた。
【0116】
ここで、実施例1〜実施例5の被覆層は、上記の通り、有核錠上面及び下面の被覆層の厚みは略同じであり、しかも有核錠の側面部分の被覆層よりも厚みが小さい。このように、側面部分の被覆層の厚みが上面及び下面より大きい場合には、pH6.8緩衝液中で上面及び下面が先に崩壊し、アセトアミノフェン層からアセトアミノフェンが放出すると考えられる。しかし、被覆層は、有核錠の上面、下面及び側面部分とも略同じ厚みとすることもでき、特に限定されるものではない。
【0117】
また、実施例1〜実施例5における内核固形物に対する被覆層の重量比は約30重量%(実施例5)〜約100重量%(実施例1)であり、上述したように従来よりも少ない被覆量で耐酸性を発揮できることがわかった。なお、実施例1〜実施例5は、例えばpH7.4緩衝中のような、より高いpHの緩衝液中ではアセトアミノフェンは十分に放出されると推察され、実施例1〜実施例5の固形製剤は、腸内における大腸若しくは大腸下部等の消化管液のpHが比較的高い部位で活性成分を放出可能と推察される。
【0118】
実施例6〜実施例10
[有核錠の製造]
参考例1と同様に調製したPLGAナノ粒子の懸濁液とメタクリル酸コポリマーLの懸濁液との混合液に、表4の処方に示すようにデキストラン(分子量10200)を添加して溶解し、参考例1と同様に凍結乾燥を行い、複合化粒子を得た。かかる複合化粒子と実施例1〜実施例5で製造した内核用顆粒とを用い、表4に示す処方で、実施例1〜実施例5と同様にして有核錠を調製した。なお、実施例6〜実施例8では被覆層に対してデキストランを20重量%配合し、実施例9、実施例10では30重量%配合した。
【0119】
【表4】

【0120】
[溶出試験]
上記pH1.2緩衝液及びpH6.8緩衝液を試験液とし、実施例6〜実施例10の錠剤を用いて溶出試験を行い、水溶性物質の被覆層への配合量と活性成分の溶出挙動との関係について調べた(n=3)。まず、実施例6〜実施例10の錠剤をpH1.2緩衝液に投入し、10分、20分、30分、45分、1時間、1.5時間、2時間経過後に試験液1mLを採取した。
【0121】
次に、各錠剤をpH1.2緩衝液から取り出し、pH6.8緩衝液に投入した後、10分、20分、30分、45分、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間経過後に試験液を採取した。それ以外は上記実施例1〜実施例5と同様にして、溶出試験を行った。なお、各採取後、pH1.2緩衝液及びpH6.8試験液1mLを新たに試験管に加えた。実施例6〜実施例8の結果を図4に、実施例9及び実施例10の結果を図5に示す。なお、溶出状態に応じて適宜溶出試験を終了した。
【0122】
図4及び図5に示すように、pH1.2緩衝液中では、水溶性物質であるデキストランの被覆層に対する配合比が、実施例6〜実施例8のように20重量%であっても、実施例9、実施例10のように30重量%であっても、アセトアミノフェンの溶出を十分抑えることができた。また、膜厚が、実施例6〜実施例10のように150μm〜500μm程度では、膜厚に関らずpH1.2緩衝液におけるアセトアミノフェンの溶出を十分に抑えることができた。
【0123】
また、pH6.8緩衝液中では、実施例9(図5参照)の方が実施例6(図4参照)よりも、実施例10(図5参照)の方が実施例8(図4参照)よりもアセトアミノフェンの溶出が速い傾向にあり、デキストランの配合量が多くなると被覆層からのPLGAナノ粒子の分散が速やかになり、アセトアミノフェンの放出も速くなることがわかった。また、デキストランの配合比が20重量%であっても、30重量%であっても、膜厚を小さくするとpH6.8緩衝液中におけるPLGAナノ粒子の被覆層からの活性成分の放出が速くなることがわかった。
【0124】
かかる現象は、水溶性物質は緩衝液に溶解するため、被覆層において緩衝液に溶出した水溶性物質が存在していた部位に細孔が形成され、かかる細孔から緩衝液が内部へ浸入することにより、アセトアミノフェンの溶出が促進されたものと考えられる。なお、上記実施例1〜実施例5と同様、実施例8、実施例10においても、腸内における消化管液のpHが比較的高い部位で活性成分が放出されると推察される。この結果、例えばデキストラン等の水溶性物質を被覆層に対して20重量%〜30重量%配合することにより、腸内での生体適合性ナノ粒子の分散性を高め、活性成分の溶出を速やかにできることがわかった。
【0125】
また、水溶性物質の配合量を多くすることにより、腸内における消化管のpHが比較的低い部位、例えば小腸等で活性成分を速やかに放出できることがわかった。また、例えば水溶性物質を被覆層に対して30重量%配合し、膜厚を150μmとすることにより、比較例よりも小さな膜厚及び少ない被覆量に維持しつつ、胃内での十分な耐酸性を保持すると共に腸内で速やかに活性成分を放出できる。
【0126】
従って、このように被覆層に水溶性物質を配合し、かかる配合量を適宜変化させることにより、胃内での活性成分の放出を抑制すると共に、腸内での活性成分の放出パターンを適宜設計して制御できることがわかった。また、併せて被覆層の膜厚や被覆層の量を変化させることにより、より多彩な放出パターンを設計できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の固形製剤は、活性成分を有する内核固形物を、生体適合性ナノ粒子と、該生体適合性ナノ粒子と複合化された腸溶性高分子と、を含む被覆層で被覆することにより、従来よりも少ない被覆量で、胃内での活性成分の放出を抑制すると共に腸内での活性成分の放出が可能となり、活性成分の胃内での失活等を抑制し、生物学的利用率を向上させる等、その作用を効果的に発現させることができる。
【0128】
また、生体適合性高分子として、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれか1種あるいは2種以上を用いることにより、生体への刺激・毒性が低くなり、活性成分を十分に封入可能であり、且つ活性成分の効力を保持したまま長期間保存できるとともに、封入した活性成分の徐放が可能な固形製剤を提供できる。
【0129】
また、腸溶性高分子として、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセテートフタレートのいずれか1種あるいは2種以上を用いることにより、その溶解特性に応じて腸内で被覆層から生体適合性ナノ粒子を消化管液に分散させることができ、所望の放出パターンで活性成分を放出することができる。
【0130】
また、生体適合性ナノ粒子にも活性成分を封入することにより、また、内核固形物にも生体適合性ナノ粒子を含み、該生体適合性ナノ粒子に内核物質の活性成分の少なくとも一部を封入することにより、より多彩な放出制御が可能となる。また、内核固形物を錠剤または丸剤とすることにより、取り扱い性が向上し、患者のQOL及び服薬アドヒアランスの向上に寄与することが可能となる。
【0131】
また、被覆層を圧縮成型により形成することにより、生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子の複合体を、内核固形物の表面に容易に形成することができる。また、前記被覆層が水溶性物質を含むことにより、その配合に応じて腸内における被覆層からの生体適合性ナノ粒子の分散を制御することができ、より多彩な活性成分の放出制御が可能となる。
【0132】
また、本発明は、生体適合性高分子から生体適合性ナノ粒子を形成する第1工程と、生体適合性ナノ粒子を腸溶性高分子と複合化する第2工程と、活性成分を含む内核固形物を、生体適合性ナノ粒子と、該生体適合性ナノ粒子と複合化された腸溶性高分子と、を含む被覆層で被覆する第3工程と、を含む固形製剤の製造方法とすることにより、従来よりも少ない被覆量で、胃内での活性成分の放出を抑制すると共に腸内での活性成分の放出が可能となり、活性成分の胃内での失活等を抑制し、生物学的利用率を向上させることができる。
【0133】
また、第3工程として、圧縮成形により前記内核固形物を前記被覆層で被覆することにより、生体適合性ナノ粒子と腸溶性高分子との複合体を、内核固形物の表面に容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】は、内核固形物が被覆層によって被覆された状態を示す模式図である。
【図2】は、参考例で得られたサンプルのpH7.4緩衝液での分散性を示すグラフである。
【図3】は、実施例1〜実施例5及び比較例で得られた固形製剤のpH1.2及びpH6.8緩衝液での溶出挙動を示すグラフである。
【図4】は、実施例6〜実施例8で得られた固形製剤のpH1.2及びpH6.8緩衝液での溶出挙動を示すグラフである。
【図5】は、実施例9及び実施例10で得られた固形製剤のpH1.2及びpH6.8緩衝液での溶出挙動を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分を含む内核固形物を、生体適合性ナノ粒子と、該生体適合性ナノ粒子と複合化された腸溶性高分子と、を含む被覆層で被覆した固形製剤。
【請求項2】
前記生体適合性ナノ粒子を形成する生体適合性高分子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれか1種あるいは2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の固形製剤。
【請求項3】
前記腸溶性高分子が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセテートフタレートのいずれか1種あるいは2種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の固形製剤。
【請求項4】
前記生体適合性ナノ粒子にも活性成分が封入されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項5】
前記内核固形物にも生体適合性ナノ粒子を含み、該生体適合性ナノ粒子には前記内核固形物に含まれる活性成分の少なくとも一部が封入されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項6】
前記内核固形物が錠剤または丸剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項7】
前記被覆層が圧縮成形により形成されることを特徴とする請求項6に記載の固形製剤。
【請求項8】
前記被覆層が水溶性物質を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項9】
生体適合性高分子から生体適合性ナノ粒子を形成する第1工程と、
前記生体適合性ナノ粒子を腸溶性高分子と複合化する第2工程と、
活性成分を含む内核固形物を、前記生体適合性ナノ粒子と、該生体適合性ナノ粒子と複合化された腸溶性高分子と、を含む被覆層で被覆する第3工程と、
を含む固形製剤の製造方法。
【請求項10】
前記第3工程が、圧縮成形により前記内核固形物を前記被覆層で被覆することを特徴とする請求項9に記載の固形製剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−256239(P2009−256239A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106895(P2008−106895)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000113355)ホソカワミクロン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】