説明

土のう袋

【課題】 生分解性を有し、環境性に優れ、かつ十分な機械的強度を有する土のう袋を提供する。
【解決手段】 土のう袋1を構成する織布(本体基布2、フタ基布3、吊りベルト5、縛り紐7)に、生分解性プラスチックからなるフラットヤーンを製織してなる織布を用いる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、生分解性を有し、環境性に優れ、かつ十分な機械的強度を有する土のう袋に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、土のう袋は、台風や大雨などの自然災害時における仮設堤防用や住居への水侵入防止用など、主として人手による緊急時対策に用いられている。したがって、その大きさ(容量)もせいぜい10〜20kg程度のものであった。土のう袋に用いられる材料としては、長期使用に耐えられるだけの耐水性、耐食性、耐候性、機械的強度等が要求されており、その材料としては、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂のフィラメントあるいはスプリットヤーンからなる織布が用いられている。
【0003】一方、大型の袋としては、粉粒体の輸送や貯蔵に利用されているフレキシブルコンテナー(一般には「フレコン」と略称される)がある。このフレコンの容量としては、通常500〜3000kg程度である。このフレコンを土のうとして用いる仮設築堤方法が、例えば、特開平8−49225号公報などに提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記方法では、仮設したフレコン(大型袋体)を撤去しようとする時期には材料の劣化が進み、吊り手の強度が低下して引き上げ不能になる危険性が高い。また、そのまま放置した場合は、紫外線による劣化や海水による繰り返し波動等により袋体が破損し、破損した布片が海上に浮遊してしまう。このポリオレフィンなどからなる布片は、自然に分解されることはなく、また、比重が軽く、海中に沈むことがないため、漁業等へ影響を与え、さらに海岸の景観を損ねるなどの環境上の問題を引き起こす。
【0005】本発明は、かかる問題を解決するものであり、生分解性を有し、環境性に優れ、かつ十分な機械的強度を有する土のう袋を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の土のう袋は、生分解性プラスチックからなるフラットヤーンを製織して織布とし、この織布を縫製してなることを特徴とするものである。また、上記生分解性プラスチックは、脂肪族ポリエステルであることが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳しく説明する。図1は、本発明の土のう袋の一例を示す斜視図であり、図2は、図1の土のう袋に砂、土、砕石等の内容物を充填した状態を示す斜視図である。土のう袋1は、生分解性織布からなる本体基布2をミシン縫糸で縫製して袋状にし、この袋状の本体基布2の開口部に生分解性織布からなるフタ基布3をミシン縫糸で筒状に縫いつけ、投入口4を形成したものである。本体基布2の外周壁には、生分解性織布からなる4本の吊りベルト5が縫いつけられ、さらに、これら吊りベルト5の一端を折り曲げて本体基布2の開口部に縫いつけてることによって吊り手6が形成されている。また、フタ基布3には、砂、土、砕石等の内容物を充填した後に投入口4を縛って土のう袋1を密封するための生分解性織布からなる縛り紐7が取り付けられている。
【0008】上記生分解性織布は、図3に示すように、生分解性プラスチックからなるフラットヤーン8を経緯糸に用い、スルーザー織機、サーキュラー織機などの従来の織機で製織してなるものである。フラットヤーン8は、機械的強度、生産性、取扱い性等に優れることから本発明の土のう袋の織布に好適に用いることができる。
【0009】生分解性織布の打込密度は、少なくとも砂、土、砕石等の内容物を透過しない程度であればよいが、土のう袋1の機械的強度を高く維持するためには、できるだけ高密度のものがよい。特に、本体基布2には、内容物の重さに耐えるだけの強度が必要とされるので、本体基布2の打込密度は、フタ基布3の打込密度よりも高くされることが好ましい。例えば、3000デニールのフラットヤーンを用いた場合、本体基布2の打込密度は、縦10〜18本/インチ、横10〜20本/インチの範囲が好ましく、フタ基布3の打込密度は、縦5〜9本/インチ、横5〜9本/インチの範囲が好ましい。
【0010】また、吊りベルト5にも、内容物の重さに耐えるだけの強度が必要とされるので、吊りベルト5の打込密度は、本体基布2の打込密度と同程度とされることが好ましい。一方、縛り紐7の打込密度は、フタ基布3の打込密度と同程度で十分である。また、生分解性を有する天然繊維からなる紐で代用してもよい。生分解性織布に用いるフラットヤーン8の繊度は、機械的強度や生産性、取扱い性などの点から、1800〜3800デニールのものが好ましい。
【0011】上記生分解性プラスチックは、地中や水中(海中)の菌類やバクテリア等によって分解されるプラスチックであればよく、天然高分子系や化学合成高分子系のいずれであってもよい。例えば、脂肪族ポリエステル(ε−カプロラクトン系、ジカルボン酸とグリコールの縮合物等)、多糖類(デンプン、デキストリン、キトサン)、ポリヒドロキシ酸、ポリオルトエステル、ポリデプシペプチド、ポリペプチド、ポリβ−ヒドロキシ酪酸、デンプンと他の合成樹脂(エチレン−ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレン等)とのブレンド物などが挙げられる。中でも、生分解性に優れつつ、機械的強度に優れ、比重が水より高い点で、脂肪族ポリエステルが好適に用いられる。
【0012】脂肪族ポリエステルの具体例としては、「バイオポール」(商品名:日本モンサント(株)製)、「ビオノーレ」(商品名:昭和高分子(株)製)などが挙げられ、中でも、「ビオノーレ」は特に生分解性に優れ、高強度を有していることから、フラットヤーン8の原料として優れている。また、ビオノーレ等の脂肪族ポリエステルは、燃焼カロリーが低く(ポリエチレンの約半分)、使用済みの土のう袋1を仮に焼却処分したとしても、容易に焼却処理が可能で、かつ塩化水素等の有害ガスの発生もない。
【0013】本発明に係るフラットヤーン8には、必要に応じて酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、ワックス類、着色剤、結晶化促進剤、帯電防止剤、難燃剤、無機充填材等の添加剤などを添加してもよい。酸化防止剤としては、p−tert−ブチルヒドロキシトルエン、p−tert−ブチルヒドロキシアニソール等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、ジステアリルチオジプロピオネート、ジラウリルチオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。熱安定剤としては、トリフェニルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイトなどが挙げられる。
【0014】紫外線吸収剤としては、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノンなどが挙げられる。滑剤としては、高級脂肪酸のモノアミド型、脂肪酸アマイド、合成シリカ、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、パルミチン酸ナトリウムなどが挙げられる。帯電防止剤としては、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アルキルアミン、アルキルアミン、アルキルアリルスルホネート、アルキルスルホネートなどが挙げられる。
【0015】難燃剤としては、ヘキサブロモシクロドデカン、トリス−(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェート、ペンタブロモフェニルアリルエーテルなどが挙げられる。無機充填材としては、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、タルク、マイカ、硫酸バリウム、アルミナなどが挙げられる。結晶化促進剤としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリ−トランスシクロヘキサンジメタノールテレフタレートなどが挙げられる。
【0016】上記フラットヤーン8は、生分解性プラスチックをインフレーション法などの公知の押出成形法によって溶融押出してフィルムとし、このフィルムをスリットし、ついで延伸することによって製造される。生分解性プラスチックの溶融押出は、サーキュラーダイス、Tダイス等を備えた公知の成形機を用いて行うことができる。押出温度は、一般に170〜230℃、好ましくは180〜210℃である。延伸方法は、熱ロール延伸法等の公知の延伸方法を用いることができる。延伸温度は、80〜110℃、好ましくは90〜105℃であり、延伸倍率は3〜9倍、好ましくは4〜8倍である。フラットヤーン8の強度は延伸倍率により調節することができ、延伸倍率を高めることで強度を高めることができるが、あまり延伸倍率を高くすると延伸切れしやすくなる傾向がある。また、緩和温度は90〜120℃、好ましくは95〜110℃であり、緩和率は5〜20%、好ましくは8〜15%である。
【0017】土のう袋1に用いられるミシン縫糸は、生分解性を有するものが望ましい。その材質としては、例えば、上記生分解性プラスチックや、麻糸、綿糸等の天然繊維が好ましく、中でも、強度、コストの点で、麻糸が好適に用いられる。
【0018】このような土のう袋にあっては、生分解性プラスチックからなるフラットヤーンを製織して織布とし、この織布を縫製してなるものであるので、生分解性を有し、かつ機械的強度に優れたものとなる。本発明の土のう袋の分解速度は、環境温度や場所等により変わってくるが、通常、2〜3年で分解される。なお、本発明の土のう袋は、袋状の形状を有し、その中に土、砂、砕石等の内容物を充填でき、投入口を密封できるものであればよく、図示例の形状のものに限定されるものではない。
【0019】
【実施例】以下、実施例を示して本発明を詳しく説明する。本実施例における試験方法は、以下の方法を用いて行った。
(織布の機械的強度)JIS L 1096に準拠して、織布の引っ張り強さおよび伸びを測定した。
【0020】(土のう性能試験)JIS Z 1651(フレキシブルコンテナー)に準拠して、吊り上げ試験および落下衝撃試験を行った。
・吊り上げ試験土のう袋に山砂(嵩比重1.5)を1.2t充填し、この土のうを4支点のフック吊りで、袋の底面が高さ3mになるまで吊り上げ、直ちに0mまで吊り下ろした。この動作を30回反復した。次いで、この土のうを3mまで吊り上げ、5分間静置した後、0mまで吊り下ろした。引き続き、対角線上の2支点のフック吊りにて、前記試験を繰り返し、内容物の漏れ、土のう袋の損傷がないかを確認した。
・落下衝撃試験吊り上げ試験を終了した土のうを用い、袋の底面の高さが0.8mの位置から堅く平らな床(アスファルト道路)へ、1回底面落下させ、内容物の漏れ、土のう袋の損傷がないかを確認した。
【0021】(生分解性の評価)織布試験片(大きさ:30cm×30cm)を、千葉県市原市八幡海岸の水深約3mに沈めたポット中にセットし、24ヶ月間の浸漬後の重量保持率(%)により評価した。
【0022】(フラットヤーンの製造)ビオノーレ#1001(昭和高分子(株)製)を押出温度200℃でインフレーション法により押し出し、冷却してフィルムを得た。このフィルムを規定幅にスリットし、延伸倍率6.5倍、延伸温度95℃、緩和率10%、緩和温度95℃の条件で熱ロール延伸し、3000デニールのフラットヤーンを得た。
【0023】(織布の製造)上記フラットヤーンを経緯糸に用い、スルーザー織機で製織して織布を得た。本体基布と吊りベルト用織布の打込密度は縦13×横14(本/インチ)とし、フタ基布と縛り紐用の織布の打込密度は縦7×横7(本/インチ)とした。得られた織布について、引っ張り強度と伸びを測定した。結果を表1に示す。また、織布の比重は1.2であった。さらに、生分解性についても評価を行い、この結果を図4に示す。
【0024】
【表1】


【0025】(土のう袋の製造)図1に示すような、本体基布部の高さが10000mm、フタ基布部の高さが600mm、土のう袋の直径が900mmの土のう袋を縫製した。ミシン縫糸には麻糸(16/3号)を使用した。得られた土のう袋について、土のう性能試験を行った。吊り上げ試験および落下衝撃試験ともに、内容物の漏れ、土のう袋の損傷は認められなかった。
【0026】以上の結果から、本実施例の土のう袋は、優れた強度を維持しつつ、生分解性を有していることがわかる。
【0027】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の土のう袋は、生分解性プラスチックからなるフラットヤーンを製織して織布とし、この織布を縫製してなるものであるので、生分解性および十分な機械的強度を有している。そのため、本発明の土のう袋を仮設堤防等に使用し、そのまま放置しても、土のう袋としての性能は数年間保持することができ、かつ、その後完全に分解されてしまうので、環境に悪影響を及ぼすことはない。特に、生分解性プラスチックとして脂肪族ポリエステルを用いた場合、さらに、生分解性や機械的強度に優れたものとなり、また、その比重が水より重いため、海岸の仮設堤防用の土のう袋から破損して生じてくる布片は、海中に沈み、漁業や海岸の景観に悪影響を及ぼすことはない。本発明の土のう袋は、特に養浜工事の仮設堤防用に適しており、このような土のう袋を用いることによって、仮設堤防の撤去が不要となり、養浜工事の費用と労力を大幅に削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の土のう袋の一例を示す斜視図である。
【図2】 本発明の土のう袋に内容物を充填した状態を示す斜視図である。
【図3】 本発明の土のう袋に用いられる織布の一例を示す斜視図である。
【図4】 本発明の土のう袋に用いられる織布の生分解性を示すグラフであり、縦軸は重量保持率(%)であり、横軸は浸漬時間(月)である。
【符号の説明】
1 土のう袋
2 本体基布(織布)
3 フタ基布(織布)
5 吊りベルト(織布)
7 縛り紐(織布)
8 フラットヤーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 生分解性プラスチックからなるフラットヤーンを製織して織布とし、この織布を縫製してなることを特徴とする土のう袋。
【請求項2】 上記生分解性プラスチックが、脂肪族ポリエステルであることを特徴とする請求項1記載の土のう袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2000−129646(P2000−129646A)
【公開日】平成12年5月9日(2000.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−298840
【出願日】平成10年10月20日(1998.10.20)
【出願人】(000206163)平成ポリマー株式会社 (7)
【Fターム(参考)】