説明

土壌中に埋設される鋼材の診断方法

【課題】本発明は、実際に試掘を行うことなく、土壌中に埋設される鋼材の劣化状況を診断することのできる鋼材の診断方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る鋼材の診断方法は、一部がコンクリートで覆われ且つ他部が土壌に接触する状態で土壌中に埋設される鋼材の診断方法であって、少なくとも前記鋼材の対地電位と土壌の比抵抗とを測定し、前記鋼材に発生し得る孔食の孔食深さと鋼材の対地電位と土壌の比抵抗と鋼材の埋設期間との間の相関関係を示す推定関数に基づいて、孔食深さの推定値を求め、該孔食深さの推定値を用いて、孔食発生箇所における鋼材の腐食断面積を求めることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一部がコンクリートで覆われ且つ他部が土壌に接触する状態で土壌中に埋設される鋼材の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば送電線を支持すべく鉄塔が設置されている。かかる鉄塔は、その基端部を地面に埋設されている。ところで、概ね50年以上前に設置された旧来の鉄塔では、該鉄塔の脚部として用いられる鋼材のうち地面近傍の部位はコンクリートで覆われるものの、地中深くに位置する基端部位はコンクリートで覆われることなく鋼材がむき出しの状態で土壌中に埋設されているものが多い。かかる態様で設けられた鋼材は、一般に、土壌基礎又は鋼材基礎などと呼ばれている。
【0003】
このように旧来の鉄塔において鋼材基礎が採用されていたのは、鉄塔が山中に設置されることが多くてコンクリートの運搬に問題があり、今日の鉄塔の基礎のように鋼材の全ての部分が覆われたいわゆるコンクリート基礎を採用することができなかったことや、土壌中は酸素の供給が断たれるために、腐食はあまり問題とならないであろうと考えられたことや、当時は鉄塔の規模がさほど大きくなく、コンクリート基礎でなくとも十分であったことによるものである。
【0004】
ところが、近年、鋼材の腐食が発見され、設置からの経過年数も既に長いものとなっているため、鉄塔の安全性を維持するために鋼材の腐食状態の確認がよく行われるようになってきている。その具体的な方法は、実際に鉄塔の基礎部分を掘削した上で、鋼材の腐食状態を直接目視で確認し、鋼材の寸法等を実測するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この方法では、掘削によって鉄塔の強度に悪影響を及ぼしかねないという問題がある。また、掘削による悪影響を軽減するためには、鉄塔を補強することや地盤が崩れることのないよう補強すること(土留支保工などと呼ばれる)が必要であるが、このためには大変な労力と費用が必要となるという問題がある。
【0006】
なお、埋設管の分野においては、例えば特開平01−250841号公報や特開平02−107947号公報に記載されているように、実際の掘削(試掘)作業を行うことなく診断を行う方法が提案されているが、設置状況の違い等により、その方法をそのまま適用することができないのが実情である。
【0007】
そこで、本発明は、実際に試掘を行うことなく、土壌中に埋設される鋼材の劣化状況を診断することのできる鋼材の診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る鋼材の診断方法は、一部がコンクリートで覆われ且つ他部が土壌に接触する状態で土壌中に埋設される鋼材の診断方法であって、少なくとも前記鋼材の対地電位と土壌の比抵抗とを測定し、前記鋼材に発生し得る孔食の孔食深さと鋼材の対地電位と土壌の比抵抗と鋼材の埋設期間との間の相関関係を示す推定関数に基づいて、孔食深さの推定値を求め、該孔食深さの推定値を用いて、孔食発生箇所における鋼材の腐食断面積を求めることを特徴とする。
【0009】
上記構成からなる鋼材の診断方法によれば、推定関数を用いることにより、実測によらずとも孔食深さを推定することが可能となる。ここで、腐食断面積は、鋼材の強度や寿命に対して直接的な関係を有し、鋼材に関する様々な推定に対して有用なものであるため、孔食深さから腐食断面積を求めることにより、鋼材の劣化診断を簡易に且つ高い精度で行うことが可能となる。
【0010】
また、上記鋼材の診断方法においては、前記推定関数は、複数の孔食深さの実測値、鋼材の対地電位及び土壌の比抵抗の測定値を用いて求められた相関関数に対して、より多くの前記孔食において孔食深さの推定値が実測値を上回ることとなるように補正を行ったものである構成が好ましい。
【0011】
相関関数は、該相関関数の基となったデータを代表するものであるため、データが相関関数を中心として分布する状態となっている。従って、全データの半分程度において、相関関数から得られた孔食深さが実際の孔食深さよりも小さいものとなっており、相関関数をそのまま推定関数として用いた場合には、孔食深さを実際よりも小さく推定することとなり得る。従って、より多くのケースにおいて孔食深さが実測値を上回ることとなるように補正された推定関数を用いることで、鋼材の安全性をより高いレベルで判定することができる。
【0012】
また、上記鋼材の診断方法においては、前記孔食深さの推定値に一定の値を掛けて孔食の長さを求め、前記孔食深さ及び孔食の長さを用いて前記腐食断面積が求められる構成が好ましい。
【0013】
これは、発明者が鋭意検討の結果、孔食の長さと孔食の深さとが一定の関係を有するものと見なすことができることを発見するに到ったものであり、かかる関係を利用すれば、ごく簡易な処理によって前記腐食断面積を得ることができる。
【0014】
また、上記鋼材の診断方法においては、前記鋼材は、構造物の支持部として用いられるものであり、前記腐食断面積から求められる鋼材の強度と前記構造物を支持するのに必要とされる鋼材の強度とを比較することにより、鋼材の強度が診断される構成が好ましい。
【0015】
具体的には、上記鋼材の診断方法においては、前記腐食断面積に基づいて求められた鋼材の残存断面積と、前記構造物を支持するのに必要とされる鋼材の強度を確保するのに必要な鋼材の所要断面積とを比較する。
【0016】
このようにすれば、鋼材の強度が面積という指標によって定量的に表されることとなるため、強度の評価を容易に行うことができる。
【0017】
また、上記鋼材の診断方法においては、前記鋼材は、構造物の支持部として用いられるものであり、前記腐食断面積から求められる鋼材の強度が前記構造物を支持するのに必要とされる鋼材の強度となるまでの期間を余寿命として求める構成が好ましい。
【0018】
具体的には、上記鋼材の診断方法においては、前記腐食断面積及び前記埋設期間から求められた腐食速度に基づいて、鋼材の残存断面積が前記構造物を支持するのに必要とされる鋼材の強度を確保するのに必要な鋼材の所要断面積となるまでの期間を余寿命として求める。
【0019】
このようにすれば、鋼材の余寿命が面積という指標によって定量的に表されることとなるため、余寿命の評価を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、実際に試掘を行うことなく、土壌中に埋設される鋼材を診断することのできる鋼材の診断方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明に係る鋼材の診断方法の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0022】
まず、図1を用いて、本実施形態に係る診断方法を用いて劣化診断が行われる診断対象物たる鋼材について説明する。該鋼材は、構造物の支持部として用いられる部材であり、具体的には、鉄塔1の脚部(若しくは柱部分)2を構成するものである。鉄塔1は4つの脚部2を有し、即ち、1つの鉄塔1に対して4つの鋼材10が用いられる。また、鋼材10としては、一般に等辺山型鋼と呼ばれる部材が用いられ、縦方向(若しくは、長さ方向)に直交する横方向の断面形状がL字状を有する。
【0023】
該鋼材10は、図2に示すように、一部がコンクリート20で覆われ且つ他部が土壌に接触する状態で土壌中に埋設された状態で存在する。具体的には、前記鋼材10は、約1.5〜3.5m程度の長さを地中に埋設されている。なお、場合によっては、1m程度しか埋設されないものも存在する。また、前記コンクリート20は、鋼材のうち地面より上方の部位から地中の部位にかけて施されており、かかるコンクリート20は、一般に「根巻きコンクリート」と呼ばれる。多くの場合、コンクリート20は、地面から約1m程度の深さの部分までを覆うように設けられる。従って、前記鋼材10は、基端部の約0.5〜2.5m程度の部分がコンクリートに覆われることなくむき出しの状態となっている。かかる態様で設けられた鉄塔1の基礎は、一般に、土壌基礎又は鋼材基礎と呼ばれる。なお、以下では、図1や図2を参照する場合を除き、鉄塔や鋼材等の用語に対して特に符号を付さないこととする。
【0024】
次に、上述のような鋼材に発生し得る腐食(金属腐食)の類型について説明する。まず、腐食は、土壌中に存在する水分が媒介となって生ずる自然腐食と、人為的な電気設備からの電流に起因する電食とに大別される。このうち、自然腐食は、マクロセル腐食とミクロセル腐食とにさらに区別される。これを表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
<マクロセル腐食>
マクロセル腐食は、腐食する部分と腐食しない部分とを明確に判別可能な腐食であり、腐食する部分から腐食しない部分へ電解質(土壌など)を通って電流が流れるいわゆる大きな電池(マクロセル)を形成する状態のものである。かかるマクロセル腐食により、鋼材が局部的に腐食するいわゆる「孔食」が発生する。代表的なマクロセル腐食としては、コンクリート/土壌(C/S)マクロセル腐食、通気差マクロセル腐食、異種金属マクロセル腐食が知られている。
【0027】
<C/Sマクロセル腐食>
まず、C/Sマクロセル腐食について説明する。コンクリートはpH13程度の強アルカリ性であることから、コンクリート中の鋼材表面には不動態皮膜(金属の耐食性を維持する酸化皮膜)が形成され、腐食が防止される。一方、土壌はほぼ中性(pH5〜8程度)である場合が多いことから、土壌に直接接触している鋼材は自然腐食環境にある。この場合に、直接接触している部分の鋼材がアノード、コンクリート中の鋼材がカソードとなって形成されるマクロセルによって生じる腐食がC/Sマクロセル腐食である。即ち、C/Sマクロセル腐食は、前記一部と他部との境界部分において発生し得る。ここで、鉄塔を構成する鋼材においては、コンクリートが無筋であることや、鋼材に亜鉛めっきが施されていることや、コンクリート中の鋼材面積よりも土壌内の鋼材面積が大きいことなどから、鉄塔を構成する鋼材においてはC/Sマクロセル腐食が発生する可能性は高くないと考えられていたが、鉄塔を構成する鋼材においてC/Sマクロセル腐食が確認された例は実際に存在する。
【0028】
<通気差マクロセル腐食>
次に、通気差マクロセル腐食について説明する。土壌中においては、深さによって土壌の質が異なり、例えば粘土質など水分が多く通気性の悪い部分と砂質土壌など水分が少なく通気性の良い部分とが存在し、この通気性の差によって土壌中の酸素濃度の差が生じる場合がある。この場合に、通気性の悪い土壌に接する部分の鋼材がアノード、通気性の良い土壌に接する部分の鋼材がカソードとなって形成されるマクロセルによって生じる腐食が通気差マクロセル腐食である。即ち、通気差マクロセル腐食は、前記鋼材の他部における所定箇所ごとの土壌中の酸素濃度の差に起因して発生し得る。鉄塔を構成する鋼材においては、地下水の存在や設置の際の埋め戻しによって異質な土壌が層状或いはランダムに分布している場合があり、通気差マクロセル腐食が発生し得る。
【0029】
なお、異種金属マクロセル腐食は、種類の異なる2種類の金属が接触すると、両者の電位の相違により電池を構成し、卑な電位の金属が腐食するものであるが、鉄塔を構成する鋼材においては、異種金属を使用することはなく、異種金属マクロセル腐食は通常発生しない。
【0030】
<ミクロセル腐食>
ミクロセル腐食は、腐食する部分と腐食しない部分とを判別できないような微細な電池(ミクロセル)を形成する状態のものである。かかるミクロセル腐食により、鋼材が全面的に徐々に腐食していくいわゆる「全面腐食」が発生する。代表的なミクロセル腐食としては、バクテリア腐食、酸性土壌腐食、一般土壌腐食が知られている。
【0031】
かかるミクロセル腐食の中で、一般土壌腐食は、自然水と本質的に類似する土壌中の酸素が主なカソード反応物質となって起こる腐食であり、鉄塔を構成する鋼材においては、この一般土壌腐食が発生する。一般土壌腐食により形成された酸化皮膜は安定しており、一般土壌腐食の腐食速度Sgは、孔食の腐食速度Spに比べて非常に緩慢とされる。なお、添え字の「g」は全面腐食「general corrosion」を示し、「p」は孔食「pitting corrosion」を示す。
【0032】
なお、バクテリア腐食は、泥湿地に多く見られる現象であるが、鉄塔はそのような場所に設置されることが少ないため、鉄塔を構成する鋼材においては、バクテリア腐食による腐食は考えにくい。また、酸性土壌腐食は、酸性の強い土壌(pH4以下)による腐食であるが、雨が比較的多い日本の土壌はほぼ中性に保たれているため、酸性土壌腐食による腐食も考えにくい。
【0033】
以上のことから、鉄塔を構成する鋼材においては、一般土壌腐食を主要因とする全面腐食と、C/Sマクロセル腐食及び通気差マクロセル腐食とする孔食とが主に発生するものと言うことができる。
【0034】
次に、本実施形態に係る鋼材の診断方法について説明する。該診断方法の一連の流れは図3に示されるようであり、以下に詳細に説明する。まず、鋼材の対地電位(塔脚対地電位)Vと土壌の比抵抗ρとを測定する。
【0035】
<鋼材の対地電位Vの測定>
ハンドオーガー等の掘削工具を用いて、鋼材の近傍(例えば、約1m程度までの距離)の土壌に図2に示すような測定用孔30を形成する。該測定用孔30は、鉛直方向に沿って掘削されるものであってもよく、鋼材10の設置角度(即ち、鉄塔の根開きの角度)で掘削されるものであっても良い。また、対地電位測定装置と鋼材10とを接続するとともに、対地電位測定装置に接続された照合電極(参照電極)を前記測定用孔30に挿し込み、前記鋼材10がコンクリート20で覆われている深さ(例えば、約0.5m)と、コンクリートで覆われていない深さ(例えば、約1.5m)とで、鋼材10の対地電位Vを測定する。具体的には、地面から鋼材10の下端部の深さ(例えば、約3.5m)まで約0.5mごとに測定を行う。なお、測定には、直流電流が用いられる。また、どの深さまで測定を行えばよいかについては、弾性波等を用いて予め鋼材の下端部の位置を確認することで把握することができる。
【0036】
<土壌の比抵抗ρの測定>
土壌比抵抗測定装置に接続された接地棒を測定用孔30に挿し込み、少なくとも前記鋼材10がコンクリート20で覆われていない深さ(例えば、地面から約1m以上の深さ)における土壌の比抵抗ρを測定する。具体的には、地面から鋼材10の下端部の深さまで約0.5mごとに測定を行う。土壌比抵抗測定装置は、交流ブリッジの原理を用いたものである。なお、通常の測定値は数kΩ・cm〜1000kΩ・cm程度であるが、0kΩ・cmに近い値が測定された場合は、接地棒が埋設地線等に接触若しくは接近している可能性があるため、同一孔内で位置を変えて測定を行い、確認する。
【0037】
<その他の土壌腐食環境因子の確認>
その他の土壌腐食環境因子として、土壌の含水率、pH値、地下水の状況等を確認する。土壌の含水率は、厳密に測定を行うものであってもよいが、湿潤状態を経験的に判断するものであってもよい。経験的には、手に取った土を摘んた際に容易に崩れるようであれば含水率が20%以下であり、そうでない場合には20%を超えていることが知られている。
【0038】
pH値を測定する場合には、地上から約1mの深さに存在する土を測定に用いる。例えば、前記測定用孔30を掘削する際に掘り出された土を利用すればよい。なお、日本の土壌は、酸性に近い中性(例えば、pH5.5)であることが一般的であることから、必ずしも測定を要するものではないが、植物類の腐敗(分解腐葉土化)によってフミン酸のような有機酸が発生し土壌の酸度が上昇している可能性がある場合には、実際に測定を行うことが望ましい。
【0039】
地下水の状況の確認に関しては、地下水の存在状態(地下水の仕置)が「地下水がある、ない、変動する」の3つのいずれに該当するかを確認する。なお、地下水の状況は降雨によって変動し得るため、地下水の状況の確認は、降雨時及びその直後を避けて行うことが望ましい。
【0040】
なお、図1に示すように、鋼材10は断面形状がL字状を有するものであることから、測定は、L字の各辺に対応する二つの部分に対して測定を行うことが好ましい。具体的には、図1に示すように、一つの鋼材に対してP1,P2の二箇所で測定を行う。
【0041】
次に、上記測定結果に基づいて、鋼材の腐食状態の診断を行う。
【0042】
<全面腐食の評価>
全面腐食の評価は、鋼材の対地電位V及び土壌の比抵抗ρの測定結果に基づいて行われる。具体的には、鋼材の対地電位Vに基づく全面腐食に対する影響と土壌の比抵抗ρに基づく全面腐食に対する影響とを考慮して、全面腐食の程度を判定する。
【0043】
鋼材の対地電位Vに基づく全面腐食に対する影響は、鋼材の対地電位Vと腐食の影響度とを対応付けて段階的に評点を与えた表2に基づいて決定する。なお、前記測定においては、コンクリートの影響を控除するため、前記鋼材のコンクリートで覆われていない深さ(例えば、地面から約1m以上の深さ)における測定値を用いる。また、異なる深さで測定された複数の測定値のうち、最も影響度の高いものを用いる。一つの鋼材に対して二箇所で測定を行う場合には、それら二箇所の測定値の中で最も影響度の高いものを用いる。
【0044】
【表2】

【0045】
土壌の比抵抗ρに基づく全面腐食に対する影響は、土壌の比抵抗ρと腐食の影響度とを対応付けて段階的に評点を与えた表3に基づいて決定する。なお、コンクリートの影響を控除するため、前記鋼材のコンクリートで覆われていない深さ(例えば、地面から約1m以上の深さ)における測定値を用いる。また、異なる深さで測定された複数の測定値のうち、最も影響度の高いもの(即ち、測定値が大きいもの)を用いる。一つの鋼材に対して二箇所で測定を行う場合には、それら二箇所の測定値の中で最も影響度の高いものを用いる。
【0046】
【表3】

【0047】
そして、上記で決定された各影響度に基づいて、全面腐食の程度を決定する。具体的には、表4又は表5を用いる。なお、表4及び表5は、表記方法が異なるが実質的に同様の内容を示すものである。そして、上記各影響度の合計が7以上の場合「著しい全面腐食」と判定し、合計が6の場合「全面腐食」と判定し、合計が5の場合「表面腐食」と判定し、合計が4以下の場合「健全」と判定する。より具体的には、合計が6以上であるか否かで評価を行い、合計が6以上の場合には、腐食の程度が高いと評価し、5以下の場合とには、腐食の程度が低いと評価する。なお、この場合、評点の合計が6以上であることが全面腐食に関する評価に対して設定された所定の条件となる。
【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
<C/Sマクロセル腐食による孔食の評価>
前記一部及び他部における前記鋼材の対地電位Vの電位差に基づいて、前記一部と他部との境界部分に発生し得る鋼材のC/Sマクロセル腐食に関する評価を行う。なお、孔食(即ち、C/Sマクロセル腐食及び通気差マクロセル腐食)の評価においては、評価結果は、腐食の可能性(若しくは、確率)によって与えられる。具体的には、前記鋼材のコンクリートで覆われている深さ(例えば、約0.5m)と、コンクリートで覆われていない深さ(例えば、約1.5m)との鋼材の対地電位Vの電位差(若しくは、対地電位Vの勾配)を求める。そして、電位差と孔食の発生の可能性とを対応付けて段階的に評点を与えた表6に基づいて決定する。なお、この場合、評点が3以上(若しくは、鋼材の対地電位Vの電位差が−100mV以下)であることがC/Sマクロセル腐食に関する評価に対して設定された所定の条件となる。一つの鋼材に対して二箇所で測定を行う場合には、各箇所ごとの対地電位Vの電位差のうち絶対値が大きい方の値を用いる。
【0051】
【表6】

【0052】
<通気差マクロセル腐食による孔食の評価>
通気差マクロセル腐食に関する評価は、ドイツ規格協会のDIN50929(1985)に準じて行うことができる。ドイツ規格協会のDIN50929(1985)を表7に示す。
【0053】
【表7】

【0054】
ここで、通常鉄塔が設置される山地の一般的な土壌においては、前記表7に示す全項目のうち項目1,5,6,7,8,10に関する事項は評点が0付近となる。従って、各項目のうち残る濃色で示された項目2,3,4,9,11に関する事項を検討する。具体的には、前記各項目2,3,4,9,11に対応した事項として、(a)土壌の比抵抗の影響(表8参照)、(b)含水率の影響(表9参照)、(c)pH値の影響(表10参照)、(d)地下水の影響(表11参照)、(e)埋戻し土の均質性の影響(表12参照)、(f)比抵抗の勾配の影響(表13参照)を評価する。
【0055】
【表8】


【0056】
【表9】

【0057】
【表10】

【0058】
【表11】

【0059】
【表12】

【0060】
【表13】

【0061】
なお、項目11に関しては、鉄塔を構成する鋼材に適した手法として、項目11に相当する事項を評価する。具体的には、比抵抗の勾配の影響は、前記表8に基づいて項目(a)で決定された各深さごとの土壌の比抵抗ρに関する評点の隣接する深さとの差(Δa)によって求められる。また、(a)土壌の比抵抗の影響では、一つの鋼材に対して二箇所P1,P2(図1参照)で測定を行う場合には、各深さごとにいずれか影響度が大きい(即ち、値が小さい)方の箇所の測定値を用いる。
【0062】
そして、表8〜表13に示すこれら各項目(a)〜(f)から、通気差マクロセル腐食の程度(可能性)の評価が行われる。具体的には、これら各項目(a)〜(f)に対する各評点を合計し、その合計値を表14に照合して決定される。なお、この場合、評点の合計が−5以下であることが通気差マクロセル腐食に関する評価に対して設定された所定の条件となる。
【0063】
【表14】

【0064】
<鋼材の腐食に関する総合評価>
最後に、上記各腐食の評価結果を用いて、鋼材の腐食の状態を診断する。具体的には、前記各腐食に関する評価は、腐食の状態が各腐食の種類ごとに設定された所定の条件を満たすか否かによって行われる。また、前記各評価結果のうち少なくとも一つが前記所定の条件を満たすものである場合には、鋼材を劣化状態と診断する。より具体的には、図3に示すように、前記全面腐食の評価における評点が6以上であること、C/Sマクロセル腐食による孔食の評価における評点が3以上であること、通気差マクロセル腐食による孔食の評価における評点が3以上であること、のいずれか一つでも該当する場合には、鋼材に対して何らかの対策が必要と判断する。この鋼材の腐食に関する総合評価は、表15に表される。即ち、表15において濃色で示される部分が何らかの対策を要するケースである。
【0065】
【表15】

【0066】
さて、上記鋼材の腐食に関する総合評価において腐食が何らかの対策を要するものと判断された場合であっても、対策の内容やその時期は鋼材の腐食の程度によって異なるものである。従って、鋼材の腐食の程度を定量的に把握する必要がある。次では、鋼材の腐食の程度を定量的に評価する方法について説明する。
【0067】
腐食の程度の定量的な評価は、鋼材の残存強度を評価すること、及び、余寿命を評価することにより行われ、これら鋼材の残存強度及び余寿命は、腐食断面積(即ち、腐食によって損失した鋼材の断面方向の損失断面積)ΔDを基にして求められる。概略的に説明すると、腐食断面積ΔDから鋼材の残存面積Dを把握することができる。なお、腐食断面積ΔDは、全面腐食によるもの及び孔食によるもののそれぞれを考慮して求められる。そして、残存面積Dを用いれば、例えば許容応力度Saを用いること等により、残存強度を求めることができる。一方、鉄塔を支持するのに必要とされる鋼材の強度を別途求めることができるので、それとの比較により、残存強度がどの程度であるかを評価することができる。
【0068】
具体的には、残存強度の評価は、鋼材に必要とされる所要強度に対する残存強度の大きさ(即ち、残存強度÷所要強度)を安全率Rsとして求めることにより行われる。なお、残存強度の評価は、引張及び圧縮のそれぞれに対して求められる。そして、前記安全率Rsが1以上であれば、直ちに何らかの対策が必要と判断し、安全率Rsが1未満であれば、今後に何らかの対策が必要となると判断する。
【0069】
また、残存強度と、鉄塔を支持するのに必要とされる鋼材の強度とが判明すれば、鋼材の強度の減少率に基づいて余寿命がどの程度であるかを評価することができる。即ち、余寿命は、残存強度が所要強度に達するまでの期間(所要強度に対する余裕が消滅するまでの期間)を算定することにより行われる。なお、余寿命は、引張及び圧縮のそれぞれに関して求められるものであるが、好ましくは、引張及び圧縮のうち安全率Rsが小さい方に基づいて決定される。また、余寿命は、年単位で求められるが、これに限定されるものではない。以下では、鋼材の残存強度の評価及び余寿命を評価のそれぞれについて詳細に説明する。
【0070】
<全面腐食による腐食量の算定>
全面腐食による鋼材の腐食断面積ΔDgは、全面腐食によって損失する鋼材の損失厚さΔTを基に求められる。具体的に説明すると、全面腐食では鋼材は全表面に亘って同じ比率で腐食するとみなすと、腐食後の断面形状は、腐食前の断面形状から全表面を同じ厚み分減少させたものと考えることができ、腐食前の断面形状や寸法が分かれば、全面腐食による鋼材の損失厚さΔTを用いて腐食後の断面形状や寸法を把握することができる。従って、鋼材の腐食断面積ΔDgは、腐食前の断面積D0と腐食後(現状)の断面積Dとの差として求めることができる。即ち、ΔDg=D0−Dが成り立つ。また、鋼材の損失厚さΔTは、全面腐食の腐食速度Sgと鋼材の埋設期間Ypとに基づいて求められる。即ち、ΔT=2×Yp×Sが成り立つ。なお、ΔTは、鋼材が裏表両面から腐食する場合の損失厚さとして求められる。
【0071】
また、鉄塔を構成する鋼材は、上述のとおり等辺山型鋼と呼ばれる部材であることから、図4に示すように、腐食前の鋼材の辺(外側)の長さをL0とし、厚みをT0とすれば、腐食前の断面積D0(図4(A)参照)は次式で表すことができる。
0=T0×(2L0−T0
一方、全面腐食が発生すると、全表面が満遍なく減少することから、残存断面積D(図4(B)参照)は次式で表すことができる。
D=(T0−2ΔT)×(2L0−2ΔT−T0
従って、腐食断面積ΔDgは次式で表すことができる。
ΔDg=4ΔT×(L0−ΔT)
【0072】
なお、全面腐食の腐食速度Sgは、土壌の比抵抗ρに基づいて決定される。具体的には、全面腐食による腐食速度Sgと土壌の比抵抗ρとの関係として、次の表16に示すものが知られており、腐食速度Sgはこれを用いて決定される。なお、各数値範囲の中では腐食速度Sgと土壌の比抵抗ρとが直線的な比例関係を有するとみなし、各数値範囲の中間地に該当する土壌の比抵抗ρは、各数値範囲の両端を通る線分の一次関数を用いて求められる。
【0073】
【表16】

【0074】
<孔食による腐食量の算定>
孔食による腐食量は、孔食深さHの推定値を基に求められる。また、孔食深さHの推定値は、前記鋼材に発生し得る孔食の孔食深さHと対地電位Vと土壌の比抵抗ρと鋼材の埋設期間Ypとの間の相関関係を示す推定関数に基づいて求められる。まず、これらの相関関数は、一般に、埋設管に発生する孔食深さに対して用いられる関数を参考にしたものであり、次式で示される。
H/√Yp=a+b×1/√ρ+c×V
そして、H/√Ypを従属変数とし、1/√ρ及びVを独立変数として重回帰分析を行い、係数a,b,cを決定することによって具体的な相関関数が求められる。
【0075】
ところで、相関関数は、該相関関数の基となったデータを代表するものであるため、データが相関関数を中心として分布する状態となっている。従って、全データの半分程度において、相関関数から得られた孔食深さHが実際の孔食深さHよりも小さいものとなっており、即ち、孔食深さHを実際よりも小さく見積もることとなり得る。従って、前記推定関数は、複数の孔食深さHの実測値、鋼材の対地電位V及び土壌の比抵抗ρの測定値を用いて求められた相関関数に対して、より多くの前記孔食において孔食深さHの推定値が実測値を上回ることとなるように補正を行ったものである。好ましくは、前記推定関数は、前記相関関数の切片となるaの値をα大きくすることによって得られ、次式で与えられる。
H/√Yp=(a+α)+b×1/√ρ+c×V
具体的には、αの値は、相関関数の基となった全てのケースにおいて孔食深さHが実測値を上回ることとなるように設定される。なお、推定関数を一旦した後であっても、新たな新しいデータに基づいて推定関数が更新されるものであってもよい。
【0076】
次に、孔食によって鋼材が失われた量(即ち、孔食による腐食断面積ΔDp)を求める。ここで、発明者らは、多数のサンプルを調査した結果、孔食が細長い形状に形成されることを発見した。さらに、孔食の断面形状は、図5に示すように、三角形状とみなすことができ、併せて、孔食が進んで鋼材を貫通する状態となると台形状とみなすことができることも発見した。しかも、細長い形状の孔食は、孔食深さHに対して一定の比率の長さを有することを発見した。具体的には、孔食の長さは、孔食深さHの約7倍であるとの知見を得た。
【0077】
ところで、孔食は、発生する状況によって様々な方向に延びるように形成されるものであり、鋼材の強度に影響を与えることとなる損失断面積は、孔食断面積を横方向に投影したものとなる。従って、孔食が水平方向に交差するように形成された場合には、孔食断面積をそのまま腐食断面積ΔDpとして採用すると、鋼材の強度に与える影響を大きく見積もることとなるが、鋼材の安全性をより高いレベルで判定する観点からは、その方が好ましい。従って、以下では、どの孔食に対しても、孔食が鋼材の横方向に沿って延びるように形成されるものとみなし、孔食断面積を腐食断面積ΔDpとして用いる。ただし、これに限定されるものではない。
【0078】
以上のことから、貫通していないほぼ三角形状の孔食による腐食断面積ΔDpは、孔食深さHを用いて次式で表すことができる。
ΔDp=7×H2÷2
また、貫通した台形状の孔食による腐食断面積ΔDpは、鋼材の厚みT0を用いて次式で表すことができる。
ΔDp=7×T0×(2×H−T0)÷2
【0079】
<合計の腐食量>
以上のことから、鋼材に生じた腐食によって失われた量(総腐食断面積ΔDt)は、全面腐食による腐食量と孔食による腐食量との合計で求めることができる。即ち、ΔDt=ΔDg+ΔDpと表すことができる。
【0080】
<残存強度の評価>
次に、上述の総腐食断面積ΔDtから残存強度を求める方法について説明する。残存強度は、現状の鋼材の許容応力Laによって表される。ここで、許容応力とは、ある時点において鋼材が耐え得る荷重であり、鋼材に対して設定される値である。許容応力Laは、引張及び圧縮のそれぞれに対して求められる。許容応力Laは、許容応力度Sa(単位面積当たりの許容応力)と残存断面積Dとの積で表すことができる。即ち、La=Sa×Dと表すことができる。許容応力度Saは、次の表17で示される。なお、許容応力度Saは時期によって異なるため、鉄塔の建設時点での値を用いる。
【0081】
【表17】

【0082】
一方、鉄塔を支持するのに必要とされる鋼材の所要強度は、基礎荷重Lbに応じて設定される。ここで、基礎荷重Lbとは、鉄塔を支持するために最低限必要とされる鋼材の耐荷重であり、鉄塔ごとに定められる値である。なお、所要強度は、基礎荷重Lbに対して余裕を持って設定されるものであってもよいが、ここでは、基礎荷重Lbを所要強度として用いる。基礎荷重Lbは、引張及び圧縮のそれぞれに対して求められる。基礎荷重Lbは、鉄塔設計書等が存在する場合には、それに記載された値を用いればよいのであるが、鉄塔設計書等が存在しない場合には、日本鉄塔協会が発行する許容応力表等を利用して基礎荷重Lbを推定する。最後に、残存強度÷所要強度によって鋼材の安全率Rsを求める。
【0083】
なお、基礎荷重Lbを推定する場合、圧縮荷重は、最下節主柱材の座屈長による座屈応力とする。例を挙げると、L0=100、T0=10、座屈長120cmの場合、許容圧縮応力=圧縮荷重=245.6(kN)となる。また、引張荷重は、ボルト孔を控除した許容引張荷重とする。例を挙げると、L0=100、T0=10、ボルト穴M20×2本控除の場合、許容引張応力=引張荷重=236.3(kN)となる。ただし、この場合は推定荷重が実荷重に対して1.2倍以上となることもあるため、機会を見て基本寸法の原寸測定とスケッチして設計を行い再評価する。
【0084】
<余寿命の算定>
余寿命は、強度を確保するのに必要な断面積(所要断面積)Dnに基づいて求められる。所要断面積Dnは、基礎荷重Lsを確保するのに必要な断面積に対して所定の安全率Rsをかけた値として求められる。ここで、安全率Rsが1の場合には、所要断面積Dnは基礎荷重Lsを確保するのに必要な断面積となるが、安全率Rsは、誤差を見込んで、1以上の値(例えば、1.01)にも設定され得る。まず、基礎荷重Lsを確保するのに必要な断面積は、基礎荷重Lsを許容応力度Saで割ることで求められる。また、所要断面積Dnは、基礎荷重Lsを確保するのに必要な断面積に安全率Rsを係数としてかけることで求められる。即ち、Dn=Rs×Ls÷Saで表される。そして、腐食前の断面積D0から所要断面積Dnを引くことにより、腐食しても問題のない許容腐食断面積ΔDaを求める。即ち、ΔDa=D0−Dnで表される。次に、前記合計の総腐食断面積ΔDtと埋設期間Ypから、現在までの腐食速度Stを求める。具体的には、S=ΔDt÷Ypで表される。最後に、許容腐食断面積ΔDa及び腐食速度Stに基づいて、余寿命Yfを求める。具体的には、Yf=ΔDa÷S−Ypで表される。
【0085】
なお、余寿命算定において算定した腐食速度Stは、現在の算定腐食量を経年で除した比例直線としているが、腐食による減肉はめっき消失後に発生していることから、実際の腐食速度は更に速い場合が考えられる。従って、余寿命が所定値(例えば、20年)以下のものに対しては、余寿命の半分以下の期間内に対策を行うこととする。また、余寿命が前記所定値よりも長いものに対しては、適当な期間(例えば、10年)の経過後に再調査を行う必要のあるものとして処理する。これらを纏めて表すと、次の表18のようである。
【0086】
【表18】

【0087】
なお、具体的な対策としては、コンクリート基礎化が考えられるが、資材運搬のための仮設備が必要な上、基礎以外の延命化に繋がらないため、電線劣化および線路確保上の諸条件を勘案し鉄塔建替も含めた経済比較を行った上で改修方法を決定する。コンクリート基礎化の形態として、鋼材基礎床盤直上にコンクリート基礎を設置するもの、及び中間部にコンクリート基礎を設置するものが考えられるが、土壌基礎鉄塔は小規模で根開き及び敷地面積が小さいため、設置環境に応じて基礎深度と床盤幅の決定を行う。また、粘土を多く含む土壌や既設盛土内に基礎を設置する場合は、基礎の圧密沈下による不同変位の発生が懸念されるため、つなぎ梁を設けることも検討する。
【実施例1】
【0088】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
<孔食深さHの推定関数の決定>
実施例に係る鋼材の診断方法を運用するに当たり、まず、孔食深さHの算定に用いられる推定関数を決定した。該推定関数を決定する上で用いられたデータを次の表19に示す。
【0090】
【表19】

【0091】
これに基づいて、相関関数は次のとおり求められた。
H=(0.808996+26.367614×1/√ρ+0.001707×V)×√Yp
なお、かかる相関関数に基づいてρ,V,Ypを用いて孔食深さHの推定値を求めたところ、次の表20に示すような結果となった。この結果から分かるように、鋼材のサンプル番号2,7〜9,11〜14では、実測値が推定値以上となっている。なお、孔食深さHの推定値と実測値との関係を示すグラフは、図6に示すようである。
【0092】
【表20】

【0093】
このため、全てのサンプル鋼材において実測値が推定値以下となるように、前記相関関数を補正した。具体的には、鋼材のサンプル番号12が最も推定値と実測値との乖離が大きいため、これを基準に前記相関関数の切片aをα=0.086201で補正した。その結果、推定関数を次のとおり決定した。
H=(0.895197+26.367614×1/√ρ+0.001707×V)×√Yp
この推定関数によると、表21及び図7に示すとおり、全てのサンプル鋼材において実測値が推定値以下となっていることが分かる。
【0094】
【表21】

【0095】
<運用例>
次の表22に示す鋼材に対し、鋼材の診断方法を用いて劣化診断を行った。所定深さごとの鋼材の土壌の比抵抗ρ、鋼材の対地電位V及びpH値を表23に示す。また、一つの鋼材に対して二箇所で測定を行った。二箇所の測定結果は、表23では、それぞれI,IIで示される。
【0096】
【表22】

【0097】
【表23】

【0098】
第1に、全面腐食の評価は、次のとおりである。鋼材の対地電位Vの測定値の中で最も絶対値が小さいものは、深さ2.0mにおけるIでの測定値の−443mVであるので、鋼材の対地電位Vに基づく全面腐食に対する影響の評点は、表2から3となる。また、土壌の比抵抗ρの測定値の中で最も大きいものは、深さ2.5mでのIIの測定値の7.0kΩ・cmであるので、土壌の比抵抗ρに基づく全面腐食に対する影響評点は、表3から4となる。従って、これら評点の合計は7となるので、全面腐食の程度は、表4又は表5から「著しい全面腐食」と判定した。
【0099】
第2に、C/Sマクロセル腐食による孔食の評価について説明すると、深さ0.5m及び1.5mにおける鋼材の対地電位Vの差は、493−456=37mVであり、C/Sマクロセル腐食による孔食の評点は、表6から1となる。即ち、C/Sマクロセル腐食による孔食の発生の可能性は小さいと判定した。
【0100】
第3に、通気差マクロセル腐食による孔食の評価は、表23に示すようであり、(a)土壌の比抵抗の影響の評点は、各深さとも0であった。(b)含水率の影響の評点は、各深さとも−1であった。(c)pH値の影響の評点は、各深さとも0であった。(d)地下水の影響の評点は、各深さとも0であった。(e)埋戻し土の均質性の影響の評点は、各深さとも0であった。(f)比抵抗の勾配の影響の評点は、深さ1.0mにおいて−1であり、他の深さでは0であった。従って、各項目(a)〜(f)に対する各評点の合計は、深さ1.0mでは3であり、他の深さでは2であるから、通気差マクロセル腐食による孔食の発生の可能性は、深さ1.0mでは大と判定し、他の深さでは小と判定した。
【0101】
また、前記孔食深さHの推定関数を用いて、鋼材の土壌の比抵抗ρ及び鋼材の対地電位Vから、各深さごとに孔食深さHを求めた。この結果も併せて表24に示す。
【0102】
【表24】

【0103】
<残存強度の確認>
以上の検討から、全面腐食の評価、通気差マクロセル腐食による孔食の評価において基準を超えるものであるため、測定対象となった鋼材は、何らかの対策が必要な鋼材に該当するものと判明した。従って、次に、残存強度の確認を行った。
【0104】
表15に基づいて、全面腐食の腐食速度Sgを求めたところ、約0.0098mm/年であった。これを元に全面腐食による腐食断面積ΔDgを求めたところ、約255.5mm2であった。また、前記各深さごとの孔食深さHの中で最大のものは、深さ−2.0mの3.4mmであり(表23参照)、これを用いて孔食による腐食断面積ΔDpを求めたところ、約39.4mm2であった。従って、総腐食断面積ΔDtは、約295mm2であり、残存断面積Dは、約795mm2であった。また、残存強度は、引張が96kNであり、圧縮も96kNであった。よって、安全率Rsは、引張が1.171であり、圧縮が1.006となった。これらの結果を表25に示す。即ち、安全率Rsが1を超えていることから、この鋼材は今後に対策が必要となるものであると判断した。
【0105】
【表25】

【0106】
次に、余寿命の算定を行った。なお、引張及び圧縮の安全率Rsを比較すると圧縮の方が安全率Rsが小さいので、余寿命は圧縮に基づいて決定することとした。ここで、S=ΔDt÷Ypより、現在までの腐食速度Stは約3.78mm/年であった。なお、余寿命の算定においては、安全率Rsを1とした場合だけでなく、誤差を見込んで1.01とした場合においても所要断面積Dnを求めた。まず、安全率Rsを1とした場合、基礎荷重Lsと許容応力度Saとから、所要断面積Dnは、圧縮が782mm2であり、許容腐食断面積ΔDaは、圧縮が308mm2であり、鋼材の寿命は81年であり、余寿命は3年と算定された。また、安全率Rsを1.01とした場合、所要断面積Dnは、圧縮が790mm2であり、許容腐食断面積ΔDaは、圧縮が300mm2であり、鋼材の寿命は79年であり、余寿命は1年と算定された。従って、余寿命は、1〜3年と判定された。これらの結果を表26に示す。また、表4より、この鋼材に関しては0.5〜1.5年以内に対策が必要であると判断された。
【0107】
【表26】

【0108】
上記鋼材の診断方法の効果を検証する。鋼材に対する測定調査及び試掘調査を35件行い、上記鋼材の診断方法による診断の精度を検証した。鋼材の状態を、健全なもの、又は、全面腐食、若しくは、C/Sマクロセル腐食による孔食、通気差マクロセル腐食による孔食が発生しているものに分類したところ、表27に示すように8個のケースに分類することができ、各ケースの発生件数は表に示すようであった。即ち、腐食が発生していた23件のうち、全面腐食が発生していたものは19件存在し、孔食のみが発生していたものは4件存在することが判明した。この結果から、全面腐食の測定のみを行う場合に比べて、腐食が発生している鋼材をより高い精度で取りこぼしなく発見できることが確認された。
【0109】
【表27】

【0110】
以上のように、本実施形態に係る鋼材の診断方法によれば、実際に試掘を行うことなく、土壌中に埋設される鋼材を診断することができる。
【0111】
即ち、本実施形態に係る鋼材の診断方法は、全面腐食に関する評価結果とC/Sマクロセル腐食に関する評価結果と通気差マクロセル腐食に関する評価結果とを用いて、鋼材の腐食状態を診断する。従って、異なる種類の腐食に関する評価結果を複合的に用いることで、腐食の発生を看過することなく鋼材の腐食状態の診断をより正確に行うことが可能となる。
【0112】
なお、本実施形態にかかる鋼材の診断方法は、上述のような構造物の支持部として用いられる鋼材の診断方法として特に有用である。即ち、構造物の支持部として用いられる鋼材は、鉛直方向に沿って埋設されるものであり、例えばガス管等の埋設管とは埋設の方向や深さが異なるものである。従って、従来知られている埋設管の腐食状態の診断方法を構造物の支持部として用いられる鋼材の診断方法にそのまま適用することは困難であり、上記実施形態は、従来提供されていなかった診断方法を提供するものである。
【0113】
また、前記各腐食に関する評価は、腐食の状態が各腐食の種類ごとに設定された所定の条件を満たすか否かによって行われ、前記各評価結果のうち少なくとも一つが前記所定の条件を満たすものである場合には、鋼材を劣化状態と診断する。上記各種類の腐食は、それぞれ原理は異なるものの概ね同時に発生し得るものではあるが、上記構成を採用すれば、仮に各腐食が別々に発生したとしてもいずれをも発見することができ、鋼材の腐食の状態をより正確に把握することが可能となる。
【0114】
また、前記全面腐食に関する評価結果は、腐食の程度が所定の基準に対して高いか低いかによって与えられるとともに、前記C/Sマクロセル腐食及び通気差マクロセル腐食に関する評価結果は、腐食の可能性が所定の基準に対して高いか低いかによって与えられる。従って、評価結果を二値的に表すことができるため、鋼材の腐食に関する評価を簡素に行うことができる。
【0115】
また、前記鋼材の対地電位Vの測定は、所定の深さごとに行われ、前記全面腐食に関する評価は、所定の深さごとに測定された鋼材の対地電位Vの最大値に基づいて行われる。従って、所定の深さごとに測定が行われることで、診断の精度を高めることができる。しかも、対地電位Vの測定値のうちの最大値(即ち、腐食に対する影響度がより高いものとして測定された部分)を用いて評価が行われることとなるため、鋼材の安全性をより高いレベルで判定することができる。
【0116】
また、前記土壌の比抵抗ρの測定は、所定の深さごとに行われ、前記全面腐食に関する評価は、所定の深さごとに測定された土壌の比抵抗ρの最小値に基づいて行われる。従って、所定の深さごとに測定が行われることで、診断の精度を高めることができる。しかも、比抵抗ρの測定値のうちの最小値(即ち、腐食に対する影響度がより高いものとして測定された部分)を用いて評価が行われることとなるため、鋼材の安全性をより高いレベルで判定することができる。
【0117】
また、前記通気差マクロセル腐食に関する評価は、前記土壌の比抵抗ρと、含水率と、pH値と、地下水の状況とに基づいて行われる。従って、通気差マクロセル腐食の原因と考えられている土壌中の酸素濃度を直接測定しないでも、通気差マクロセル腐食に関する評価を行うことができる。
【0118】
また、本実施形態に係る鋼材の診断方法は、前記鋼材に発生し得る孔食の孔食深さHと鋼材の対地電位Vと土壌の比抵抗ρと鋼材の埋設期間Ypとの間の相関関係を示す推定関数に基づいて、孔食深さHの推定値を求め、該孔食深さHの推定値を用いて、孔食発生箇所における鋼材の腐食断面積ΔDpを求める。即ち、推定関数を用いることにより、実測によらずとも孔食深さHを推定することが可能となる。ここで、腐食断面積ΔDp(ひいてはΔDt)は、鋼材の強度や寿命に対して直接的な関係を有し、鋼材に関する様々な推定に対して有用なものであるため、孔食深さHから腐食断面積ΔDpを求めることにより、鋼材の劣化診断を簡易に且つ高い精度で行うことが可能となる。
【0119】
また、前記推定関数は、複数の孔食深さHの実測値、鋼材の対地電位V及び土壌の比抵抗ρの測定値を用いて求められた相関関数に対して、より多くの前記孔食において孔食深さHの推定値が実測値を上回ることとなるように補正を行ったものである。ここで、相関関数は、該相関関数の基となったデータを代表するものであるため、データが相関関数を中心として分布する状態となっている。従って、全データの半分程度において、相関関数から得られた孔食深さHが実際の孔食深さHよりも小さいものとなっており、相関関数をそのまま推定関数として用いた場合には、孔食深さHを実際よりも小さく推定することとなり得る。従って、より多くのケースにおいて孔食深さHが実測値を上回ることとなるように補正された推定関数を用いることで、鋼材の安全性をより高いレベルで判定することができる。
【0120】
また、上記鋼材の診断方法においては、前記孔食深さHの推定値に一定の値を掛けて孔食の長さを求め、前記孔食深さH及び孔食の長さを用いて前記腐食断面積ΔDpが求められる。これは、発明者が鋭意検討の結果、孔食の長さと孔食深さHとが一定の関係を有するものと見なすことができることを発見するに到ったものであり、かかる関係を利用すれば、ごく簡易な処理によって前記腐食断面積ΔDp(ひいてはΔDt)を得ることができる。
【0121】
また、前記鋼材は、構造物の支持部として用いられるものであり、前記腐食断面積ΔDtから求められる鋼材の強度と前記構造物を支持するのに必要とされる鋼材の強度とを比較することにより、鋼材の強度が診断される。
【0122】
具体的には、上記鋼材の診断方法においては、前記腐食断面積ΔDtに基づいて求められた鋼材の残存断面積Dと、前記構造物を支持するのに必要とされる鋼材の強度を確保するのに必要な鋼材の所要断面積Dnとを比較する。従って、鋼材の強度が面積という指標によって定量的に表されることとなるため、強度の評価を容易に行うことができる。
【0123】
また、前記鋼材は、構造物の支持部として用いられるものであり、前記腐食断面積ΔDtから求められる鋼材の強度が前記構造物を支持するのに必要とされる鋼材の強度となるまでの期間を余寿命Yfとして求める。
【0124】
具体的には、上記鋼材の診断方法においては、前記腐食断面積ΔDt及び前記埋設期間Ypから求められた腐食速度Stに基づいて、鋼材の残存断面積Dが前記構造物を支持するのに必要とされる鋼材の強度を確保するのに必要な鋼材の所要断面積Dnとなるまでの期間を余寿命Yfとして求める。従って、鋼材の余寿命Yfが面積という指標によって定量的に表されることとなるため、余寿命Yfの評価を容易に行うことができる。
【0125】
なお、本発明に係る鋼材の診断方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0126】
例えば、上記各腐食の評価の際に用いられる測定値の境界値や評点の境界値、係数の値等の各種値は上述したものに限定されるものではなく、これらの各種値を適宜変更して鋼材の診断方法を用いることができるのは当然である。
【0127】
また、通気差マクロセル腐食に関する評価においては、土壌中の酸素濃度を測定することにより評価を行うものであってもよい。
【0128】
また、上記実施形態においては、前記推定関数は、相関関数の基となった全てのケースにおいて孔食深さが実測値を上回ることとなるように補正されるものであったが、これに限定されず、補正前の相関関数より多くの前記孔食において孔食深さの推定値が実測値を上回ることとなるように補正を行ったものであればよい。即ち、孔食深さの実測値と推定値との差を基準にして、この差が0となるように補正する以外にも、孔食深さの推定値を基準にして、孔食深さの推定値が0より小さくなるように補正するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の実施形態に係る鋼材の診断方法を用いて劣化診断が行われる鉄塔及び鋼材の配置を表す平面図を示す。
【図2】同実施形態に係る鋼材の診断方法を用いて劣化診断が行われる鉄塔の鋼材の側面図を示す。
【図3】同実施形態に係る鋼材の診断方法のフローを示す。
【図4】同実施形態に係る鋼材の診断方法において、鋼材の腐食断面積を求める方法を説明するための、鋼材の概略断面図を示す。
【図5】同実施形態に係る鋼材の診断方法において、孔食深さを求める方法を説明するための、鋼材の拡大概略断面図を示す。
【図6】同実施形態の実施例において、相関関数を用いた際の孔食深さの推定値と実測値との関係を示すグラフを示す。
【図7】同実施形態の実施例において、相関関数を補正して得られた推定関数を用いた際の孔食深さHの推定値と実測値との関係を示すグラフを示す。
【符号の説明】
【0130】
1…鉄塔、10…鋼材、20…コンクリート、30…測定用孔、P1,P2…測定箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部がコンクリートで覆われ且つ他部が土壌に接触する状態で土壌中に埋設される鋼材の診断方法であって、
少なくとも前記鋼材の対地電位と土壌の比抵抗とを測定し、
前記鋼材に発生し得る孔食の孔食深さと鋼材の対地電位と土壌の比抵抗と鋼材の埋設期間との間の相関関係を示す推定関数に基づいて、孔食深さの推定値を求め、
該孔食深さの推定値を用いて、孔食発生箇所における鋼材の腐食断面積を求めることを特徴とする鋼材の診断方法。
【請求項2】
前記推定関数は、複数の孔食深さの実測値、鋼材の対地電位及び土壌の比抵抗の測定値を用いて求められた相関関数に対して、より多くの前記孔食において孔食深さの推定値が実測値を上回ることとなるように補正を行ったものであることを特徴とする請求項1に記載の鋼材の診断方法。
【請求項3】
前記孔食深さの推定値に一定の値を掛けて孔食の長さを求め、
前記孔食深さ及び孔食の長さを用いて前記腐食断面積が求められることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼材の診断方法。
【請求項4】
前記鋼材は、構造物の支持部として用いられるものであり、
前記腐食断面積から求められる鋼材の強度と前記構造物を支持するのに必要とされる鋼材の強度とを比較することにより、鋼材の強度が診断されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋼材の診断方法。
【請求項5】
前記腐食断面積に基づいて求められた鋼材の残存断面積と、前記構造物を支持するのに必要とされる鋼材の強度を確保するのに必要な鋼材の所要断面積とを比較することを特徴とする請求項4に記載の鋼材の診断方法。
【請求項6】
前記鋼材は、構造物の支持部として用いられるものであり、
前記腐食断面積から求められる鋼材の強度が前記構造物を支持するのに必要とされる鋼材の強度となるまでの期間を余寿命として求めることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋼材の診断方法。
【請求項7】
前記腐食断面積及び前記埋設期間から求められた腐食速度に基づいて、鋼材の残存断面積が前記構造物を支持するのに必要とされる鋼材の強度を確保するのに必要な鋼材の所要断面積となるまでの期間を余寿命として求めることを特徴とする請求項6に記載の鋼材の診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−162706(P2009−162706A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2829(P2008−2829)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(591260672)中電技術コンサルタント株式会社 (58)
【Fターム(参考)】