説明

土壌固化材及び土壌固化方法

【課題】長期的に一定以上の固化強度を維持することができ、かつ、処理対象物である土壌含有物が強アルカリ性にならずに自然環境を保全することのできる土壌固化材を提供する。
【解決手段】セメント及び第一リン酸カルシウムを含む土壌固化材。第一リン酸カルシウム/セメントの質量比は、好ましくは0.5〜2.3である。土壌固化材は、土壌含有物の単位体積当たりのセメント量が70kg/m以下になるような量で土壌含有物中に供給される。土壌固化材の成分である第一リン酸カルシウムとしては、10〜20質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む過リン酸石灰、60〜70質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む第一リン酸カルシウム高純度物等を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設発生土、建設汚泥等の土壌含有物を固化するための土壌固化材、及び該土壌固化材を用いた土壌固化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設工事に伴って、建設発生土、建設汚泥等の土壌含有物が発生する。近年、これらの土壌含有物を廃棄するための埋立て処分場の確保が困難になりつつあることから、これらの土壌含有物を、建設工事の現場内で固化して、土構造物等の構成材等として利用することが検討されている。
建設発生土等の土壌含有物を固化するための改質剤として、例えば、水ガラス並びにリン酸及び/又はリン酸塩を組み合わせてなることを特徴とする汚泥又は泥土の改質剤が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−61128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記の特許文献1の技術は、改質剤として水ガラスを用いているため、含水比が大きく流動性に富む土壌含有物(例えば、建設汚泥)を、トラック等による運搬作業の容易化などを目的として短時間で固化する場合には適しているものの、ナトリウムの溶脱によって経時的に固化強度が低下する傾向があるため、長期的に一定以上の固化強度を維持することが要求される土構造物等の構成材等の用途に、固化後の土壌含有物を利用することができないという問題がある。
一方、建設発生土、建設汚泥等の土壌含有物を固化して、得られた固化物を土構造物の構成材として用いる場合、固化に用いるセメントが多量であると、地盤が強アルカリ性となり、植物の生育を阻害するなどの悪影響が生じる。そのため、地盤が弱酸性〜弱アルカリ性の範囲内となるように、固化を行なうことが望まれている。なお、水質汚濁防止法で定められている改良土からの排水のpHは、5.8〜8.6である。
本発明の目的は、長期的に一定以上の固化強度を維持することができ、かつ、土壌固化材を供給して混合した後の土壌含有物が強アルカリ性にならずに自然環境を保全することのできる土壌固化材、及び土壌固化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント及び第一リン酸カルシウムを含む土壌固化材を、建設発生土等の土壌含有物に供給して混合すれば、長期的に一定以上の固化強度を維持することができ、かつ、土壌固化材を供給して混合した後の土壌含有物のpHも弱酸性〜弱アルカリ性(特に、水質汚濁防止法で許容されているpH5.8〜8.6)の範囲内に収めることができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[8]を提供するものである。
[1] セメント及び第一リン酸カルシウムを含むことを特徴とする土壌固化材。
[2] 第一リン酸カルシウム/セメントの質量比が、0.5〜2.3である上記[1]に記載の土壌固化材。
[3] セメント、及び、第一リン酸カルシウムを含有する物質として、10〜20質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む過リン酸石灰を含み、かつ、セメントと過リン酸石灰の合計量100質量部中、セメントの量が21〜30質量部、過リン酸石灰の量が79〜70質量部である上記[1]又は[2]に記載の土壌固化材。
[4] セメント、並びに、第一リン酸カルシウムを含有する物質として、10〜20質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む過リン酸石灰、及び、60〜70質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む第一リン酸カルシウム高純度物を含み、かつ、セメント、過リン酸石灰、及び第一リン酸カルシウム高純度物の合計量100質量部中、セメントの量が27〜36質量部、過リン酸石灰の量が42〜49質量部、第一リン酸カルシウム高純度物の量が19〜27質量部である上記[1]又は[2]に記載の土壌固化材。
[5] セメント、及び、第一リン酸カルシウムを含有する物質として、60〜70質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む第一リン酸カルシウム高純度物を含み、かつ、セメントと第一リン酸カルシウム高純度物の合計量100質量部中、セメントの量が25〜46質量部、第一リン酸カルシウム高純度物の量が75〜54質量部である上記[1]又は[2]に記載の土壌固化材。
[6] セメント及び第一リン酸カルシウムを含む土壌固化材を、処理対象物である土壌含有物中に供給して混合し、該土壌含有物を固化することを特徴とする土壌固化方法。
[7] 上記土壌含有物の単位体積当たりのセメント量が70kg/m以下になるような量で、上記土壌固化材を上記土壌含有物中に供給する上記[6]に記載の土壌固化方法。
[8] 上記土壌固化材を供給して混合した後の上記土壌含有物のpHが、8.6以下に保たれるように、上記土壌固化材の供給量を定める上記[6]又は[7]に記載の土壌固化方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明の土壌固化材は、セメント及び第一リン酸カルシウムを含むため、建設発生土、建設汚泥等の土壌含有物の固化に用いた場合に、長期的に一定以上の固化強度を維持することができ、かつ、土壌固化材を供給して混合した後の土壌含有物のpHを弱酸性〜弱アルカリ性(特に、水質汚濁防止法で許容されているpH5.8〜8.6)の範囲内に収めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の土壌固化材は、セメント及び第一リン酸カルシウム(Ca(HPO・HO)を含むものである。
セメントの種類としては、特に限定されることがなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、高炉セメント(A種、B種、C種)、フライアッシュセメント等の混合セメントや、焼却灰等を原料の一部に用いたセメント(エコセメント)等が挙げられる。
中でも、高炉セメントB種は、長期的な強度発現性等に優れ、かつ低コストであるため、本発明において好ましく用いられる。
【0007】
第一リン酸カルシウム(Ca(HPO・HO)としては、第一リン酸カルシウムの市販品(例えば、60〜70質量%(P換算)の水溶性リン酸を含むもの;本明細書において、「第一リン酸カルシウム高純度物」という。)を用いてもよいし、あるいは、第一リン酸カルシウム及び他の成分を含有する物質の市販品(例えば、10〜20質量%(P換算)の水溶性リン酸を含む過リン酸石灰の市販品)を用いてもよい。
第一リン酸カルシウム高純度物における第一リン酸カルシウム(Ca(HPO・HO)の純度は、通常、80〜90質量%である。第一リン酸カルシウム高純度物中の第一リン酸カルシウム以外の成分としては、例えば、炭酸カルシウムが挙げられる。炭酸カルシウムは、第一リン酸カルシウムの市販品の製造時の原料であり、他の原料と反応せずに最終生成物中に少量残存する成分である。
過リン酸石灰は、リン鉱石の粉砕物に硫酸を加えることによって得られる粉末状または粒状の物質であり、主成分として、第一リン酸カルシウム(Ca(HPO・HO)及び硫酸カルシウムを含むものである。過リン酸石灰中の第一リン酸カルシウムの含有率は、約40質量%である。過リン酸石灰中の硫酸カルシウムの含有率は、約60質量%である。
【0008】
本発明の土壌固化材における第一リン酸カルシウム(Ca(HPO・HO)/セメントの質量比は、土壌固化材の成分組成によっても異なるが、好ましくは0.5〜2.3、より好ましくは0.7〜2.1、特に好ましくは0.9〜1.9である。該質量比が0.5未満では、土壌含有物のpHを8.6以下にすることが困難な場合がある。該質量比が2.3を超えると、土壌含有物の固化強度が小さくなる場合がある。
【0009】
本発明の土壌固化材の好適な実施形態としては、例えば、次の(1)〜(3)が挙げられる。
(1) セメント、及び、第一リン酸カルシウムを含有する物質として、10〜20質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む過リン酸石灰を含み、かつ、セメントと過リン酸石灰の合計量100質量部中、セメントの量が21〜30質量部、過リン酸石灰の量が79〜70質量部であるもの
(2) セメント、並びに、第一リン酸カルシウムを含有する物質として、10〜20質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む過リン酸石灰、及び、60〜70質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む第一リン酸カルシウム高純度物を含み、かつ、セメント、過リン酸石灰、及び第一リン酸カルシウム高純度物の合計量100質量部中、セメントの量が27〜36質量部、過リン酸石灰の量が42〜49質量部、第一リン酸カルシウム高純度物の量が19〜27質量部であるもの
(3) セメント、及び、第一リン酸カルシウムを含有する物質として、60〜70質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む第一リン酸カルシウム高純度物を含み、かつ、セメントと第一リン酸カルシウム高純度物の合計量100質量部中、セメントの量が25〜46質量部、第一リン酸カルシウム高純度物の量が75〜54質量部であるもの
なお、前記(1)〜(3)のいずれの場合においても、前記の材料(例えば、前記(2)におけるセメント、過リン酸石灰、及び、第一リン酸カルシウム高純度物)以外の材料(例えば、任意成分である凝結促進剤、凝結遅延剤など。ただし、水を除く。)の割合は、土壌固化材中、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
【0010】
次に、本発明の土壌固化方法について説明する。
本発明の土壌固化方法は、セメント及び第一リン酸カルシウムを含む土壌固化材を、土壌含有物中に供給して混合し、土壌含有物を固化するものである。
土壌含有物中に供給する時の土壌固化材の形態は、スラリー、粉体、粒体等のいずれであってもよい。なお、スラリーの形態は、主に、土壌含有物に含まれる水分のみでは、セメントの水和による固化が困難な場合に採用される。粉体、粒体の形態は、主に、土壌含有物に含まれる水分によって固化が可能な場合に採用される。
なお、土壌固化材をスラリーの形態で用いる場合、水/土壌固化材の質量比は、特に限定されないが、例えば、0.6〜1.5である。
土壌固化材をスラリーの形態で用いる場合、土壌含有物中への土壌固化材の供給及び混合手段としては、トレンチャー撹拌機、ロータリー式撹拌機、ツインヘッダ等を用いることができる。
土壌固化材を粉体又は粒体の形態で用いる場合、土壌含有物中への土壌固化材の供給及び混合手段としては、バックホウバケット、スケルトンバケット等を用いることができる。
【0011】
土壌固化材の供給量は、土壌固化材の成分組成によっても異なるが、土壌含有物のpHを弱酸性〜弱アルカリ性の範囲内に調整する観点から、土壌含有物の単位体積当たりのセメント量に換算して、好ましくは70kg/m以下、より好ましくは60kg/m以下、特に好ましくは50kg/m以下である。
土壌固化材の供給量の下限値は、土壌含有物の固化強度を大きくする観点から、好ましくは10kg/m、より好ましくは15kg/m、特に好ましくは20kg/mである。
【0012】
土壌固化材の供給量は、土壌固化材の供給後の土壌含有物のpHが特定の値以下になるように定めることが望ましい。この場合、土壌固化材の供給量は、具体的には、土壌固化材の成分組成(例えば、セメント、過リン酸石灰、第一リン酸カルシウム高純度物等の含有率)、及び、土壌含有物の性状(例えば、土壌含有物自体のpH、水分含有率等)に基づいて定めればよい。
土壌含有物のpHは、土壌固化材を供給して混合した後に継続的に保たれる値として、好ましくは8.6以下、より好ましくは8.3以下、特に好ましくは8.1以下である。該pHが8.6を超えると、一時的であっても、水質汚濁防止法の排出基準(pH5.8〜8.6)を満たさないことになり、好ましくない。
該pHの下限値は、好ましくは5.8、より好ましくは6.0、特に好ましくは6.2である。該pHが5.8未満では、一時的であっても、水質汚濁防止法の排出基準(pH5.8〜8.6)を満たさないことになり、好ましくない。
【実施例】
【0013】
[実施例1〜12]
東京都内の工事現場で得られた掘削発生土に、表1〜表3に示す量の土壌固化材を添加して混合した後、表1〜表3に示す各時点で掘削発生土の固化物のpHを測定した。結果を表1〜表3に示す。
表1〜表3に示すように、本発明の土壌固化材によれば、固化後の土壌含有物のpHを弱酸性〜弱アルカリ性(特に、水質汚濁防止法で許容されているpH5.8〜8.6)の範囲内に常に収め得ることがわかる。
なお、表1〜表3中、「(b)過リン酸石灰」の欄の下段の「(第一リン酸カルシウム)」の値は、過リン酸石灰に含まれている第一リン酸カルシウムの量を示す。また、「(c)第一リン酸カルシウム高純度物」の欄の下段の「(第一リン酸カルシウム)」の値は、第一リン酸カルシウム高純度物に含まれている第一リン酸カルシウムの量を示す。
掘削発生土の性状、土壌固化材の材料、pHの測定方法は、次のとおりである。
(1)掘削発生土の性状
湿潤単位体積重量γが14.84kN/m、含水比が84.7%、pHが7.6であった。
(2)土壌固化材の材料
(a)セメント;高炉セメントB種(太平洋セメント社製)
(b)過リン酸石灰;市販品(呉羽化学工業社製;水溶性リン酸の含有率:14質量%(P換算値))
(c)第一リン酸カルシウム高純度物;市販品(小野田化学工業社製;水溶性リン酸の含有率:63質量%(P換算値);第一リン酸カルシウムの純度:85質量%)
(3)pHの測定方法
地盤工学会基準「土の懸濁液のpH試験方法」(JGS0211−2000)に準じて測定した。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント及び第一リン酸カルシウムを含むことを特徴とする土壌固化材。
【請求項2】
第一リン酸カルシウム/セメントの質量比が、0.5〜2.3である請求項1に記載の土壌固化材。
【請求項3】
セメント、及び、第一リン酸カルシウムを含有する物質として、10〜20質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む過リン酸石灰を含み、かつ、セメントと過リン酸石灰の合計量100質量部中、セメントの量が21〜30質量部、過リン酸石灰の量が79〜70質量部である請求項1又は2に記載の土壌固化材。
【請求項4】
セメント、並びに、第一リン酸カルシウムを含有する物質として、10〜20質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む過リン酸石灰、及び、60〜70質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む第一リン酸カルシウム高純度物を含み、かつ、セメント、過リン酸石灰、及び第一リン酸カルシウム高純度物の合計量100質量部中、セメントの量が27〜36質量部、過リン酸石灰の量が42〜49質量部、第一リン酸カルシウム高純度物の量が19〜27質量部である請求項1又は2に記載の土壌固化材。
【請求項5】
セメント、及び、第一リン酸カルシウムを含有する物質として、60〜70質量%(P換算値)の水溶性リン酸を含む第一リン酸カルシウム高純度物を含み、かつ、セメントと第一リン酸カルシウム高純度物の合計量100質量部中、セメントの量が25〜46質量部、第一リン酸カルシウム高純度物の量が75〜54質量部である請求項1又は2に記載の土壌固化材。
【請求項6】
セメント及び第一リン酸カルシウムを含む土壌固化材を、処理対象物である土壌含有物中に供給して混合し、該土壌含有物を固化することを特徴とする土壌固化方法。
【請求項7】
上記土壌含有物の単位体積当たりのセメント量が70kg/m以下になるような量で、上記土壌固化材を上記土壌含有物中に供給する請求項6に記載の土壌固化方法。
【請求項8】
上記土壌固化材を供給して混合した後の上記土壌含有物のpHが、8.6以下に保たれるように、上記土壌固化材の供給量を定める請求項6又は7に記載の土壌固化方法。

【公開番号】特開2009−51914(P2009−51914A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218916(P2007−218916)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000185972)小野田ケミコ株式会社 (58)
【Fターム(参考)】