説明

土木用ネット

【課題】土壌との密着性やなじみがよく、土との摩擦抵抗が大きく、地滑り防止効果や表層安定効果等に優れた土木用ネットを提供する。
【解決手段】土木用ネットであって、ネットを構成する糸が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維のフィラメント糸であることを特徴とする土木用ネット。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土木用ネットに関するものであり、特に土壌との密着性やなじみがよく、土との摩擦抵抗が大きく、地滑り防止効果や表層安定効果等に優れた土木用ネットを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、法面土留枠体に関する発明が記載され、特に地質により滑りやすい土質には法面内に地滑り防止のための土木用ネットを敷くことが開示されている。
又、盛土補強、軟弱地盤埋立地等の表層の安定にも土木用ネットが用いられており、フィルムを二軸延伸した格子状シート、ポリエチレン等のネット等格子状に補強構造をもつシートが多用されているが、土壌との密着性やなじみが弱く、土との摩擦抵抗も大きくないために地滑り防止効果や表層安定効果が充分ではないという問題がある。
【0003】
【特許文献1】特開2002−339367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる問題を改善した土木用ネットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)土木用ネットであって、ネットを構成する糸が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維(以下「ポリケトン繊維」という。)のフィラメント糸であることを特徴とする土木用ネット。
【化1】

【発明の効果】
【0006】
本発明により、土壌との密着性やなじみがよく、土との摩擦抵抗が大きく、地滑り防止効果や表層安定効果等に優れた土木用ネットを提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について以下に具体的に説明する。
本発明において、土木用ネットとは、法面内等の地滑り防止用、盛土補強、軟弱地盤埋立地等の表層の安定用、海岸等におけるコンクリートブロック等の重量物の沈床防止用等土壌や地盤の安定や補強、保護を目的としたものをいう。
本発明のポリケトン繊維を構成するポリケトンは、繰り返し単位の95モル%以上、好ましくは98モル%以上、特に好ましくは99.6モル%以上が、上記式(1)で示されるものであり、5モル%未満の範囲で、上記式(1)以外の繰り返し単位、例えば、下記式(2)に示すもの等を含有していても良い。
【化2】

但し式中、Rは、エチレン以外の炭素数1〜30の有機基であり、例えば、プロピレン、ブチレン、1−フェニルエチレン等の基であり、Rの水素原子の一部または全部が、ハロゲン基、エステル基、アミド基、水酸基、エーテル基で置換されていてもよい。もちろん、Rは二種以上であってもよく、例えば、プロピレン基と1−フェニルエチレン基が混在していてもよい。
【0008】
ポリケトンの固有粘度[η]は、好ましくは1dl/g以上、より好ましくは2dl/g以上、特に好ましくは4dl/g以上であり、好ましくは20dl/g以下、より好ましくは15dl/g以下、特に好ましくは10dl/g以下である。
尚、固有粘度[η]は次の定義式に基づいて求められる値である。
【数1】

式中のt及びTは、それぞれヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子(株)社製)及び該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間である。Cは、上記希釈溶液の濃度であり、ヘキサフルオロイソプロパノール100ml中のポリケトンの質量(g)である。
ポリケトンには必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル抑制剤、他のポリマー、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属石鹸等の添加剤を含有させてもよい。
【0009】
次に、ポリケトン繊維の好ましい特性としては、引張強度は5cN/dtex以上、より好ましくは10cN/dtex以上、特に好ましくは15cN/dtex以上であり、30cN/dtex以下であり、引張伸度は3%以上、より好ましくは3.5%以上、特に好ましくは4%以上であり、好ましくは8%以下、より好ましくは7%以下、特に好ましくは6%以下であり、引張弾性率は100cN/dtex以上、より好ましくは200cN/dtex以上、特に好ましくは300cN/dtex以上であり、1000cN/dtex以下である。
ポリケトン繊維の形態は、フィラメント糸であり、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、扁平型、(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブーメラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある。)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
【0010】
糸条の形態としては、モノフィラメント糸よりもマルチフィラメント糸が好ましく、又、マルチフィラメント原糸が最適であるが、マルチフィラメント糸であれば、混繊糸、仮撚加工糸、空気噴射加工糸等の嵩高加工糸でもよい。又、マルチフィラメント糸を用いた複合糸でもよく、精紡での複合であるサイロフィル、コアヤーンをはじめ、交撚糸、カバリング糸、複合仮撚糸(伸度差仮撚を含む)、2フィード空気流体噴射加工糸であってもよく、必要に応じて適宜選定すればよい。
好ましい単糸繊度は、マルチフィラメント糸の場合は0.01〜10dtex、より好ましくは0.1〜3dtex、特に好ましくは0.5〜3dtexの範囲であり、モノフィラメント糸の場合は、10〜100000dtexの範囲である。また、好ましい総繊度は10〜100000dtex、より好ましくは30〜50000dtexの範囲である。
【0011】
本発明は、かかるポリケトン繊維フィラメント糸を用いて土木用ネットを構成したものである。
本発明では土木用ネットを構成する繊維の内、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、特に90質量%以上をポリケトン繊維で占めていることが好ましく、必要に応じて、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、特に好ましくは10質量%以下の範囲内において、従来、土木用ネットに使用されていた各種繊維、例えば、綿、麻等の天然繊維、ポリエステル繊維やポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維等の汎用合繊、アラミド繊維(パラ系、メタ系)、ポリビニルアルコール繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維等の高強力繊維と引き揃え、混繊、交撚、カバリング、複合嵩高加工等の公知の複合手段により糸条段階で複合してもよく、又、ネットを製網するに際して混用しても良い。
【0012】
ポリケトン繊維のフィラメント糸は、無撚糸又は実質的に無撚糸の形態で、或いは撚り糸、組紐(編紐)の形態で供する。撚り糸の形態としては、単糸撚り糸使いであっても、又、双糸撚り糸使いであっても、或いは3子撚り糸使いなどであっても構わないが、特に好ましい撚構成としては、下撚と上撚の撚方向を異方向とした所謂、諸撚り糸にするのが良い。撚り糸の撚係数(K)は下記の式で表されるが、撚係数(K)としては1,000〜5,000の範囲が好ましい。
撚係数(K)=原糸の繊度(dtex)1/2×撚数(t/m)
必要に応じて撚り止めセットしてもよい。 又、組紐(編紐)とは、マルチフィラメント糸の3本以上の複数本を合糸したものを用いて組物機(編物機)にかけ、組み上げて得られる。一例としては、4本組物(編物)、8本組物、16本組物などであり、例えばその4本組物は、合糸を4本準備し、右側又は左側の糸を交互に真中に配置させて組み上げていくものであり、この組上方法(編組方法)としては、丸打ち、角打ち、平打ちなどがあり、これらを組み合わせて製紐して組紐や編紐に形成される。本発明の組紐は、これらの組紐や編紐を対象とするものであり、両者を総称して組紐と称している。
【0013】
土木用ネットの構成としては、用いる用途に応じて適宜選定すればよく、例えば、網目部分の面積は、好ましくは100cm2 以下がよく、特に好ましくは5cm2 以上、さらに好ましくは10cm2 以上であり、好ましく80cm2 以下、さらに好ましくは60cm2 以下である。又、平行光線透過率は60〜98%、特に70〜98%、さらには80〜98%が好ましい。
本発明の土木用ネットは、水中で用いられてもポリケトン繊維フィラメント糸は殆ど吸水しないため寸法安定性にも優れたものである。
本発明では、必要に応じて、土壌との密着性やなじみをさらに向上させるために、土木用ネット上に、ポリケトン繊維やポリケトン繊維と混用する繊維として例示した各種繊維の繊維ウェブをネット上に重合して、ネットと絡ませて接着又は圧着させてもよい。繊維ウェブの好ましい要件は、目付は600〜2500g/m2 、見かけ厚みは10〜30mm、空隙率60〜98%が好ましい。
【0014】
さらに、沈床防止や土壌の吸出防止、排水(盛土や軟弱地盤内の水分を外へ放出し盛土や軟弱地盤の圧密促進)を向上させるために、土木用ネットの片面に不織布(ニードルパンチ、スパンボンド不織布等)等の通水性シートを接着させてもよい。通水性シートの好ましい要件は、通水係数1×10-3〜5×10-3cm/sec、目付は200〜1500g/m2 が好ましい。
尚、例えば屋外で強い紫外線を受けることによってポリケトン繊維の引張強度等の低下が懸念される時は、繊維又はネットの形態で紫外線吸収材(例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系の一種又は二種以上の組み合わせがある。)及び/又は紫外線遮蔽剤(例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム等の微粒子があり、平均粒径は0.01〜0.6μmが好ましい。)を含有させてもよい。含有させる方法としては、例えば、繊維又ネットに紫外線吸収材及び/又は紫外線遮蔽剤を含有した樹脂やフィルムを付与又は被覆する方法が挙げられ、紫外線吸収材及び/又は紫外線遮蔽剤の含有量は、樹脂やフィルムの質量に対して0.001〜10質量%の範囲が好ましい。
【実施例】
【0015】
本発明を実施例などに基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
本発明における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
(1)引張強度、引張伸度、引張弾性率
JIS−L−1013に準じて測定する。
サンプル長:20cm、引張速度:20cm/分で測定し、20回測定した時の平均値を求める。
【0016】
[実施例1]
1670dtex/1250fのポリケトン繊維(旭化成せんい(株)社製;商標サイバロン;引張強度18cN/dtex、引張伸度5%、引張弾性率350cN/dtex)5本を合糸してストランドとし、Z方向に77T/mの下撚し、次いで、この撚糸ストランド3本を合糸してS方向に45T/mの上撚して1.5mm直径の糸条(総繊度25050dtex)を得た。
この糸条を用いて常法により製網して、網目の大きさが10cm2 、平行光線透過率90%の土木用ネットを作製した。
得られた土木用ネットを、盛土内部に展開敷設した結果、土壌との密着性やなじみがよいものであった。
[比較例1]
ポリプロピレン製の土木用ネット(網目の大きさが10cm2 、平行光線透過率88%、厚み1.2mm)を用いて実施例1同様に評価した結果は、土壌との密着性やなじみにおいて実施例1対比劣ったものであった。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、土壌との密着性やなじみがよく、土との摩擦抵抗が大きく、地滑り防止効果や表層安定効果等に優れた土木用ネットを提供するものであり、盛土補強、軟弱地盤補強、海岸等におけるコンクリートブロック等の重量物の沈床防止材(コンクリートブロックによる消波効果の長期間維持)として利用できる。又、落石防護用ネットとしても利用可能である。
尚、盛土補強において、盛土擁護面に、種子や肥料と土を混合させた客土材料を吹き付けて緑化工事を行うに際し、繊維ウェブを本発明の土木用ネット上に重合して、ネットと絡ませて接着又は圧着したものは、繊維ウェブが格好の客土保持材となり、さらに、本発明の土木用ネットに通水性シートを接着したものは、通水性シートによる盛土の圧密効果に加えて、植物が生育するのに充分な水分を補給するので、緑化が促進される効果もある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土木用ネットであって、ネットを構成する糸が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維のフィラメント糸であることを特徴とする土木用ネット。
【化1】


【公開番号】特開2008−190079(P2008−190079A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25246(P2007−25246)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/高性能ポリケトン繊維の工業化基盤技術の開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】