説明

圧力トランスデューサ

【課題】 液体クロマトグラフを低流量で実施する場合においても、粘度計の応答性をさらに改善すること。
【解決の手段】 磁性体を含むダイアフラムと、前記ダイアフラムの両側に配置されたコイルと、前記ダイアフラムが前記コイルに近接及び/または離間したかを磁気的に検出する変異検出手段と、前記ダイアフラムの変位に応じて前記コイルのいずれかに変位抑制電流を印加する変位抑制手段とを、備え、前記ダイアフラムの一部が硬磁性材料からなることを特徴とする、圧力トランスデューサ、及び前記トランスデューサを含んだ粘度計により、前記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力トランスデューサに関する。特に、液体クロマトグラフ用粘度計に用いる圧力トランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ装置の溶離液に含まれる高分子物質を分析するためには、通常、高分子物質を分子の流体力学的サイズ等で分離可能な多孔質ゲル等が充填された分析カラムと、示差屈折率検出器または紫外吸収検出器が汎用される。
【0003】
ところで高分子物質の流体力学的サイズは、単にその分子量のみならず、空間的な展開の度合いなどの分子の形状や分子の硬さなどに依存するが、サイズによって物理的性質に差が認められる。
【0004】
一般的に、紫外吸光度や屈折率は高分子の重量濃度に依存し、粘度は高分子の重量濃度、及び分子サイズに依存することから、紫外吸光度と粘度、または屈折率と粘度を同時に測定することでサイズに関する情報を抽出することができる。したがって分子量がわかれば、サイズの情報から分子の形状や硬さに関する情報を得ることができる。逆に形状や硬さがわかっておれば、分子量に関する情報を得ることができる。
【0005】
ところで、液体クロマトグラフ装置の溶出液のように、微量でかつ連続的に粘度の測定を行なう必要があるときは、キャピラリーブリッジを利用した粘度計が用いられる(特許文献1、2)。キャピラリーブリッジを利用した粘度計の構成図を図1に示す。前記粘度計(10)は、最も基本的には、同一の長さ及び内径を有する4本のキャピラリー(細管)(21、22、23、24)をブリッジ状に接続したものである(図1)。各細管にキャリア液を流した時と、試料液(通常、キャリア液に高分子物質を含む液)を流した時とで、試料液の粘度とキャリア液の粘度との差に依存して細管の両端に発生する圧力が変化する。連続的に粘度測定を行なうときは、いずれか一方の直列ペア細管の後段細管(24)と中点(32)との間に、試料液を滞留または希釈し、前段細管を経由して流入する液体が粘度測定期間中、直接前記後段細管に流入しないようにするための、希釈管または遅延管(40)を設置する。流入路Aに分析カラムから溶出した溶出液を流すと、試料液が中点(31、32)に到達するまでは前段細管(21)の両端に発生する圧力と前段細管(22)の両端に発生する圧力が等しく変化するのでブリッジの中点(31、32)に圧力差が生じない。一方、試料液が後段細管(23)を通過する間は後段細管(24)には試料液が流れてこないので、後段細管(23)の両端に発生する圧力と後段細管(24)の両端に発生する圧力に差が生じる。その結果、ブリッジの中点(31、32)の圧力に差が生じる。圧力差の大きさは試料液の粘度とキャリア液の粘度との差に依存するので、中点(31、32)の圧力差から試料液の粘度を求めることができる。そして、中点における圧力の測定にはダイアフラム式圧力トランスデューサ(50)を用いることが多い。
【0006】
液体クロマトグラフ用粘度計として、図1に記載のキャピラリーブリッジを利用した粘度計を用いる場合、細管(21、22、23、24)として内径が0.2から0.4mm、長さが数十cmから数mのステンレス製細管またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製細管が用いられている。粘度計に流す流量は、分析カラムのサイズ等によって変わるが、通常0.2から3mL/minである。
【0007】
そして、ダイアフラム式圧力トランスデューサ(50)として、可変リラクタンス型圧力トランスデューサを用いる場合、通常、磁性体で作られたダイアフラム(60)の両側にE型コア(91、92)に巻かれたインダクタンスコイル(93、94)が垂直向きに近接して配置されている(図2(A))。さらに、ダイアフラム(60)の中心部にある円盤部分(61)が平面を保ったまま、差圧によって平行移動しやすくするために、ダイアフラムの周辺部はひだ状(62)になっている(図2(B))。そして、ダイアフラムの両側に差圧が発生すると、ダイアフラムの円盤部分(61)が最大0.025から0.05mm移動し、コイル(93、94)とダイアフラムの円盤部分(61)との距離が変化してリラクタンスが変化する。直列に配線接続された両コイルの両端には5V(実効値)、3から5kHz程度の交流電圧が加えられる。両コイルのリラクタンスに差がないときには、両コイルの接続点に交流電圧が生じないが、リラクタンスに差が生じると、差の値に応じて交流電圧が出力される。
【0008】
一般に、可変リラクタンス型圧力トランスデューサでは、ダイアフラム(60)はヒステリシスが小さい軟磁性材料で作られる。そして、ひだ部の形状や厚さを変えること等により、ダイアフラムの弾性を変化させることで、所定の差圧に対するダイアフラムの変位量を変えることができ、差圧の検出感度を調整できる。
【0009】
ところで近年、液体クロマトグラフにおいて、少量の試料に対応し、溶離液の消費量を減らし、分析時間を短縮するために、分析カラムに充填する粒子の細径化、及び分析カラムの小口径化が進んでいる。そのため、0.2から0.3mL/min以下の溶離液流量で分析を行なうことが増えてきた。
【0010】
液体クロマトグラフにおいて溶離液の流量を少なくすると、キャピラリーブリッジに従来の装置と同じ径の細管を使用したときは、細管の両端間に発生する圧力は小さくなる。したがって、少ない流量で検出可能な圧力を発生するためには、より細い径の細管を用いるか、より感度の高い圧力トランスデューサを用いるか、両者を併用する必要があった。しかしながら、0.2mm以下の径の細管を用いると粘度信号のピークがテーリングすることが明らかとなった。一方、粘度計の下流に示差屈折率計といった検出器を接続して調査したところ、粘度信号のテーリングはピーク成分の広がりによるものではないことも明らかとなった。
【0011】
また、ダイアフラムを薄くしたり、ダイアフラムの周辺に通常より多くのひだを設置したり、ダイアフラムを弾性に富む素材で製作することにより、圧力トランスデューサの感度を上げる方法を採用しても、細管の径を小さくしたときと同様、粘度信号のピークがテーリングすることが明らかとなった。
【0012】
【特許文献1】特開昭59−160740号公報
【特許文献2】特表平11−514744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以前発明者らは、先行技術の課題を解決するために、
液体流入路及び液体流出路と、実質的に同一の流路抵抗を有する4本の細管と、有し、
前記細管を2本ずつ直列に接続し、当該細管の直列ペアを流入路−流出路に対し並列に接続し、各直列ペアの中点を、ダイアフラムを介して圧力的に接続した平衡ブリッジ型粘度計において、
いずれか一方の直列ペア細管の後段細管と中点との間に設置され、前段細管を経由して流入する液体を、他方の直列ペア細管の後段細管を試料液が通過する間中、滞留または希釈し、後段細管に基準粘度液を導入する基準粘度調整手段と、
前記ダイアフラムの基準位置に対する変異を検出する変異検出手段と、
前記ダイアフラムの変位を低減するようにダイアフラムに対し変位抑制力を印加する変位抑制手段と、
前記変位抑制手段による変位抑制力値より液体の粘度を算出する粘度算出手段と、
を備えた平衡ブリッジ型粘度検出装置を発明し、当該装置により、粘度信号のテーリングの抑制、及び少ない流量における高精度な粘度変化の検出を実現している(特願2007−310186号)。
【0014】
しかしながら、前記装置において、ダイアフラムは従来技術と同じ軟磁性材料で作られている。そのため、ダイヤフラムの変位を抑えるためにコイルに変位抑制電流である直流電流を加えたとき、ダイヤフラムに働く力は引力のみであり、斥力を加えることができなかった。また、力の大きさが電流の二乗に比例するため、フィードバックゲイン(差圧に対する位相検出器のゲイン、電流を流すためのアンプのゲイン、電流を流した時にダイヤフラムに加わる磁気圧力をすべて掛け合わした値)が差圧入力に比例し、差圧が小さい時にはフィードバックを良好にかけることができなかった。また、フィードバックゲインが差圧入力に比例するため、差圧とフィードバック磁気圧力との誤差の量が差圧の値の平方根に比例する値になる。よって、差圧に比例する信号を得るためには、二乗回路あるいはデジタル演算器を用いて差圧信号を求める必要があった。
【0015】
本発明の課題は、液体クロマトグラフを少ない流量で実施する場合においても、粘度計の応答性をさらに改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する:
第一の発明は、磁性体を含むダイアフラムと、
前記ダイアフラムの両側に配置されたコイルと、
前記ダイアフラムが前記コイルに近接及び/または離間したかを磁気的に検出する変異検出手段と、
前記ダイアフラムの変位に応じて前記コイルのいずれかに変位抑制電流を印加する変位抑制手段とを、
備えた圧力トランスデューサであって、
前記ダイアフラムの一部が硬磁性材料からなることを特徴とする、前記圧力トランスデューサである。
【0017】
第二の発明は、前記コイルが前記ダイアフラムの両側に配置されたコアに巻かれていることを特徴とする、第一の発明に記載の圧力トランスデューサである。
【0018】
第三の発明は、第一または第二の発明に記載の圧力トランスデューサのうち、前記ダイアフラムが少なくとも、
硬磁性材料からなる平面板を、2枚の軟磁性材料からなる薄板で挟んだ構造をした円盤部分、
前記円盤部分を取り囲むひだ部、
前記ひだ部の外側にある固定部分、
からなることを特徴とする、前記圧力トランスデューサである。
【0019】
第四の発明は、前記ダイアフラムの近接及び/または離間を検出するためのコイルと、前記変位抑制電流を印加するコイルが同一のコイルであることを特徴とする、第一から第三の発明に記載の圧力トランスデューサである。
【0020】
第五の発明は、前記ダイアフラムの近接及び/または離間を検出するためのコイルと、前記変位抑制電流を印加するコイルが異なるコイルであることを特徴とする、第一から第三の発明に記載の圧力トランスデューサである。
【0021】
第六の発明は、第一から第五の発明に記載の圧力トランスデューサを含んだ液体クロマトグラフ用粘度計である。
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明の圧力トランスデューサにおけるダイアフラムは、円盤部分、前記円盤部分を取り囲むひだ部、前記ひだ部の外側にある固定部分から構成され、前記円盤部分の少なくとも一部が硬磁性材料からなっている。前記円盤部分における硬磁性材料からなる領域は、前記円盤部分のうち少なくとも中心を含んでいればよいが、前記ダイアフラムに対して、垂直にかつ近接して配置される、変位抑制電流(直流電流)を流すためのコイルを収納するE型コアの中心コアの外径より大きく、前記E型コアの外側コアの内径より小さい領域が好ましい。硬磁性材料としては、ハードフェライト、アルニコ(AlNiCo)、SmCo、NdFeB、PrCo、PtFeといった永久磁石に使われる材料を例示することができる。特にSmCoやNdFeBといった希土類磁石は、飽和磁束密度が高く、抗磁力も強いことから、薄くても大きな磁束を発生できる点で、本発明で使用するダイアフラムにおける好ましい硬磁性材料といえる。また、測定する差圧が小さい時は、大きな磁力を発生させる必要がないので、前述した材料の他に、フェライト系ステンレス(例えばSUS430)、マルテンサイト系ステンレス(例えばSUS410)といった磁性ステンレスを硬磁性材料として使用してもよい。
【0024】
本発明の圧力トランスデューサにおけるダイアフラム(60)の一態様として、図3(A)に示す、前記円盤部分(61)が硬磁性材料(100)からなる平面板を軟磁性材料からなる2枚の薄板(111、112)で挟んだ構造からなるダイアフラム、及び図3(B)に示す、前記円盤部分(61)が、硬磁性材料(100)からなる中心部と軟磁性材料(113)からなる周辺部とで構成される平面板を、非磁性材料からなる2枚の薄板(116、117)で挟んだ構造からなるダイアフラムを例示できる。前記軟磁性材料からなる薄板(111、112)及び周辺部(113)の材料としては、飽和磁束密度が前記硬磁性材料で作られた永久磁石の外部磁束密度より大きい材料が好ましく、耐食性を考慮すると電磁ステンレス(例えばK−M31(東北特殊鋼社製))といった軟磁性ステンレスが特に好ましい。なお、前記薄板(111、112)の材料として電磁鋼板といった耐食性が不足している材料を用いるときは、前記材料の表面を、金といった耐食性の高い金属でめっきをする、塗装をする、またはフッ素系樹脂等でコーティングすることにより、耐食性を向上させることで、前記薄板の材料として用いることができる。前記非磁性材料からなる薄板(116、117)の材料としては、バネ性と耐蝕性に優れた非磁性ステンレスを用いることができる。非磁性ステンレスとしては、バネ用ステンレス(例えば、SUS301、SUS304、SUS304L)や耐久性が高いオーステナイト系ステンレス(例えば、SUS316)を例示できる。図3(A)及び(B)において、前記平面板を前記2枚の薄板で挟む際は、高いライン圧に耐えるため、前記平面板と前記薄板とは密着して挟むのが好ましい。なお、前記平面板を挟む際に中空部分(120)が生じる場合は、磁性を持たない材料(例えば、磁性を持たない樹脂、接着剤あるいは非磁性ステンレス)で前記中空部分(120)を埋めればよい。
【0025】
本発明の圧力トランスデューサにおけるダイアフラム(60)の別の態様として、図3(A)及び(B)において、硬磁性材料(100)からなる平面板(図4(A))、または硬磁性材料(100)からなる中心部と軟磁性材料(113)からなる周辺部とで構成される平面板(図4(B))を2枚の軟磁性材料で挟む、または軟磁性材料で覆い、さらに、非磁性材料からなる2枚の薄板(116、117)で挟んだ構造からなるダイアフラムをあげることができる(図4(A)及び(B))。
図3(B)、図4(A)及び図4(B)に示すダイアフラムは、軟磁性を付与するために使われる軟磁性材料とバネ性と耐食性を付与するに使われる非磁性材料を独立に最適化することができるので、材料選択の自由度が図3(A)に示すダイアフラムより向上する。
【0026】
本発明の圧力トランスデューサにおける直流電流発生源としては、特に限定されないものの、入力信号に比例してコイルに流す電流を設定可能な回路または装置が好ましく、電圧増幅回路の出力に直列抵抗を接続した回路、入力電圧に比例して出力電流を規定可能な電流出力増幅回路、外部信号で出力電圧や出力電流を制御可能な定電圧電源及び定電流電源、を例示できる。また、フィードバックの動作点にオフセットを設定し、引力または斥力のどちらか一方の力を与えればよい場合には、単一方向の電圧または電流を発生させる発生源を用いることができるが、通常は、入力信号の極性に応じて、出力電圧または電流が、正の値と負の値の両方を取り得るものが、オフセットを設定せずにフィードバックをかけることが可能なため、より好ましい。なお、本発明において直流電流とは、常に一定の電流という意味ではなく、リラクタンスを測定するために使われる数KHz程度の交流電流に対して一定の電流であるという意味であり、差圧の変化に応答して電流が流れる向きや電流の大きさは変化する。
【0027】
本発明の圧力トランスデューサにおける直流電流を流すコイルは、差圧を検出するための交流電流と同じコイルであってもよいし、前記コイルとは別のコイルを新たに用意しても良い。同じコイルに直流電流と交流電流を流す場合には、相互にカップリングしないよう、コンデンサまたはチョークコイルで直流成分と交流成分とを分離するのが好ましい。なお、直流電流を流すコイルはダイヤフラムの片側のみに設置してもよいし、両側に設置してもよい。前者の場合は、電流を流す向きによって、コイルとダイヤフラムの間に引力または斥力が働く。後者の場合は、電流の向きを逆に流すことによって、一方のコイルとダイヤフラムの間に引力が働き、他方のコイルとダイヤフラムの間には斥力が働く。逆に、一方のコイルとダイヤフラムの間に斥力が働いたときは、他方のコイルとダイヤフラムの間には引力が働く。さらに、前記直流電流を流すコイルは、本発明の圧力トランスデューサの内側に組み込むこともでき、前記構成をとることで、小さい電流であっても前記トランスデューサに力を発生させることができる。なお、前記トランスデューサの外側からダイヤフラムに磁力を加える場合はダイヤフラムとの距離が長くなるため、より強い磁場を発生する必要があるが、大きな電磁石を用いることで前記問題を解決することができる。また、前記トランスデューサの外側に前記直流電流を流すコイルを設置した場合は、電流を流すことによる発熱が圧力トランスデューサに直接伝わることがないという利点を有する。上記したいずれの場合にも、電流の大きさと前記トランスデューサに加わる力はほぼ比例する。
【0028】
従来の軟磁性材料からなるダイヤフラムでは、コイルに電流を流すことによってダイヤフラムに力を与えることができたが、力は常に引力で、電流のほぼ二乗に比例する強さであった。すなわち、斥力を与えることができなかったので、ダイヤフラムの両側に直流電流を流すコイルを設置する必要があり、力の向きが変わるところで、直流電流を流すコイルを切り替える必要があった。また、力が電流のほぼ二乗に比例するので、フィードバックのゲインが差圧入力に比例することになり、差圧が小さいところではダイヤフラムの変位を抑えることができなかった。また、電流がゼロに近いところでは、ノイズが存在すると絶えず直流電流を流すコイルが切り換わった。本発明の圧力トランスデューサを用いれば、力が電流に対して直線的に変化するため、一定のフィードバックのゲインを得ることができる。また、一つのコイルに流れる電流が負から正へ、正から負へ連続的に変化するため、ゼロ付近であってもフィードバックを良好にかけることができる。
【0029】
本発明のトランスデューサを含んだ粘度計の一態様として、図1に示す粘度計をあげることができる。粘度計(10)は、4本の細管(21、22、23、24)を備え、細管21及び23の細管、22及び24の細管は、それぞれ流入路及び流出路に対して直列に接続されている。なお、細管22と細管24との間には、希釈管または遅延管よりなる粘度調整管(40)が配置されている。ここで、希釈管としては、十分大きな内容量を有し、攪拌子で内部液体が攪拌される中空円筒管が用いられ、遅延管としては粒径が数百μmのガラスビーズなどを充填した円筒管(カラム)が多く用いられる。そして、細管21より細管23までの流路の中点31と、細管22より細管24までの流路の中点32との間にはブリッジが形成され、前記ブリッジの中点には本発明の圧力トランスデューサ(50)が配置されている。粘度調整管(40)内の液体部分の体積は、分析対象物を溶出するために必要な溶離液(キャリア液)の体積と比較して大きくなるように選択する。なお、粘度調整管(40)の圧損が無視できない場合は、粘度調整管(40)から細管24の圧損と、細管23の圧損とが等しくなるように調整する。このような粘度調整管(40)により、細管22を経由して流入する試料液は検出期間中細管24には流入せず、基準粘度流体(通常キャリア液)が細管24に流入する、または試料液が十分に希釈されキャリア液と同程度の粘度に調整されて細管24に流入する。
【0030】
試料液を流入路Aから流すと、キャリア液に溶解した高分子物質が中点(31、32)に達するまでは、細管21及び22の圧損が等しく変化し、一方細管23及び24の圧損も等しいため、中点(31、32)の間に圧力差は生じない。しかし前記高分子物質が中点(31、32)を通過すると、区間Bでは前記高分子物質に由来する粘度によって細管23の圧損が変化するのに対し、区間Cでは前記高分子物質が粘度調整管(40)に滞留し、細管24に達するまでは圧損を生じないため、中点(31、32)間に差圧が生じる。
【0031】
そして、圧力トランスデューサ(50)により、ダイアフラム(60)変位検出に基づき、当該変位を抑制するように変位抑制手段(70)がダイアフラム(60)に抑制力を印加し、その抑制力値に基づき粘度演算手段(80)が当該時点の粘度を出力する。
【発明の効果】
【0032】
本発明の圧力トランスデューサは、ダイアフラムの一部が硬磁性材料からなることを特徴としている。本発明の圧力トランスデューサは、ダイヤフラムに加わる磁気力と、加えた直流電流の大きさが符合も含めて比例する。そのため、微弱な差圧から大きな差圧までフィードバックが良好に効くようになり、差圧と出力信号の直線性も改善する。さらに、従来技術では、差圧がゼロの値に近い時に、電流が流れるコイルが切り換わるため、信号が不正確になったり、直流電流を流すコイルが1個だけの場合はフィードバック系のオフセットが必要であったが、本発明の圧力トランスデューサを使うことより前記問題は解消され、より精密に差圧を測定することができるようになった。
【0033】
本発明の圧力トランスデューサを用いてダイヤフラムの変位を抑えるようにフィードバックをかけることにより、内径が0.1mm前後と従来よりも細い細管を用いた粘度計、及び/または感度が高く変位しやすいダイヤフラムを用いた粘度計であっても、粘度信号がテーリングすることなく、対称性のよい信号を得ることができる。そのため、本発明の圧力トランスデューサを含んだ粘度計は、少ない流量を流すセミマイクロ液体クロマトグラフ用の粘度計として特に好ましい。
【実施例】
【0034】
以下実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例1 本発明のトランスデューサ(その1)
本発明のトランスデューサ(50)の一態様を図5に示す。Eコア(91、92)はソフトフェライトで作られ、中心コアの外径が8.0mm、外側コアの内径が15mmである。ダイヤフラム(60)の円盤部分(61)は、中心にNdFeB磁石からなる、厚さ0.8mm、直径12mmの平面板(100)を有し、前記平面板を軟磁性ステンレス製薄板(111、112)で挟んでいる。前記2枚のステンレス板(111、112)の間隔は、中心から直径19mmまでは一定で、その外側で張り合わせる。前記平面板(100)との隙間(120)は、高いライン圧に耐えられるよう、磁性を持たない材料、例えば樹脂や非磁性ステンレスで埋められている。左右のEコア(91、92)には、それぞれ図示されていないボビンにコイル(93、94)が巻かれ、直流と交流を重畳して流す。ここで、直流回路と交流回路がカップリングしないように、適宜、チョークコイルやコンデンサを用いて分離する。なお、直流供給源に対してそれぞれのコイルを直列に接続してもよいし、並列に接続してもよい。また、正負の直流供給源を使って、二つのコイルに直流電流を流しても良い。いずれの場合も、二つのコイルが作る磁場の極がNNまたはSSのように向き合うように電流を流す。
【0036】
ダイヤフラム(60)が変位すると、リラクタンス検出用コイル(93、94)の電気特性に差が生じるので、トランスの中点(161)とコイルの中点(162)との間の電圧を位相増幅することによって誤差信号を取り出すことができる。誤差信号はさらに直流供給源などで増幅して、電流を誤差信号を小さくする方向にコイルに流す。粘度信号は、図6のように電流供給源の出力から電圧あるいは電流を取り出してもよいし、図7のように位相増幅回路の出力電圧を取り出して増幅してもよい。
【0037】
実施例2 本発明のトランスデューサ(その2)
本発明のトランスデューサ(50)の別の態様を図8に示す。Eコア(91、92)、ダイヤフラム(60)は実施例1と同じである。左右のEコア(91、92)には、それぞれ図示されていないボビンに2組のコイル(93、94、95、96)が巻かれ、1組のコイル(93、94)にはリラクタンスの検出用に交流電流を流し、もう1組のコイル(95、96)には直流電流を流す。なお、直流供給源に対してそれぞれのコイルを直列に接続(図9)してもよいし、並列に接続(図10)してもよい。また、正負の直流供給源を使って、二つのコイルに直流電流を流してもよい。いずれの場合も、二つのコイルが作る磁場の極がNNあるいはSSのように向き合うように電流を流せばよい。
【0038】
ダイヤフラム(60)が変位すると、リラクタンス検出用コイル(95、96)の電気特性に差が生じるので、トランスの中点(161)とコイルの中点(162)との間の電圧を位相増幅することによって誤差信号を取り出すことができる。誤差信号はさらに直流供給源などで増幅して、電流を誤差信号を小さくする方向にコイルに流す。粘度信号は実施例1と同様、位相増幅回路の出力電圧を取り出して増幅してよいし、電流供給源の出力から電圧あるいは電流を取り出してもよい。
【0039】
実施例3 本発明の粘度計(その1)
実施例1に記載のトランスデューサを搭載した本発明の粘度計を液体クロマトグラフに適用した例を以下に示す。
【0040】
本発明を適用する、液体クロマトグラフ装置(180)の概略構成を図11に示す。図
11のクロマトグラフ装置(180)は、分析カラム(181)及び当該カラム(181)の下流側に配置された検出器(182)、分析カラム(181)に溶離液(キャリア液)(183)を供給するポンプ(184)、分析カラム(181)の上流側に試料を注入可能なインジェクションバルブ(185)を備える。そして、本発明の粘度計(10)を分析カラム(181)と検出器(182)との間に設置している。
【0041】
粘度計(10)は、圧力トランスデューサ(50)が実施例1の構成をとっているほかは、図1と同様の構成をとっている。細管の中点(31、32)の間に差圧が生じた場合、差圧によってダイヤフラム(60)が変位しようとするが、変位を抑える方向にも磁気力が働くのでダイヤフラム(60)の変位が抑えられる。フィードバックゲインが100になるようにフィードバック系のゲインを設定すると、ダイヤフラムの変位量が1/100に抑えられ、その結果、液体クロマトグラフィーにおけるピークのテーリングが小さく抑えられる。
【0042】
実施例4 本発明の粘度計(その2)
実施例2に記載のトランスデューサを搭載した本発明の粘度計を液体クロマトグラフに適用した例を以下に示す。
【0043】
本発明を適用する、液体クロマトグラフ装置の概略構成(180)を図11に示す。また、粘度計(10)は、圧力トランスデューサ(50)が実施例2の構成をとっているほかは図1と同様の構成をとっている。直流電流を流すコイルを交流電流を流すコイルと別々に設けたが、実施例3と同様、液体クロマトグラフィーにおけるピークのテーリングが小さく抑えられる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
サイズ排除クロマトグラフィーにおいて、粘度計の出力は濃度と分子の流体力学的サイズに依存する。一方、紫外吸収検出器及び示差屈折率検出器では濃度に比例する。また、本発明を用いることで、溶離液流量が少ない条件で実施する液体クロマトグラフィーであってもピークのテーリングを生じない。したがって、粘度計と、紫外吸収検出器または示差屈折率検出器とを組合わせることによって、微量な分析対象物のサイズに関する情報を抽出することができ、またサイズの情報から分子量、分子の形状や硬さ等に関する情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る粘度計の構成図。
【図2】従来技術における圧力トランスデューサの構成図。
【図3】本発明の圧力トランスデューサに用いるダイアフラム。
【図4】本発明の圧力トランスデューサに用いるダイアフラム。
【図5】本発明の圧力トランスデューサの構成図。
【図6】本発明の圧力トランスデューサの回路図。
【図7】本発明の圧力トランスデューサの回路図。
【図8】本発明の圧力トランスデューサの構成図。
【図9】本発明の圧力トランスデューサの回路図。
【図10】本発明の圧力トランスデューサの回路図。
【図11】本発明に係る粘度計を適用した液体クロマトグラフ装置の構成図。
【符号の説明】
【0046】
10:粘度計
21、22、23、24:細管
31、32:各ブリッジの中点
40:粘度調整管
50:圧力トランスデューサ
60:ダイアフラム
61:ダイアフラムの円盤部分
62:ダイアフラムのひだ部分
70:変位抑制手段
80:粘度計算手段
91、92:Eコア
93、94、95、96:コイル
97、98:チョークコイル
100:硬磁性材料
111、112、113、114、115:軟磁性材料
116、117:非磁性材料
120:中空部分
130:発振器
140:トランス
151:差増幅回路
152:位相検波回路
153:増幅回路
161、162:中点
171:リラクタンス信号
172:粘度信号
173:基準電圧
180:液体クロマトグラフ装置
181:分析カラム
182:検出器
183:溶離液(キャリア液)
184:ポンプ
185:インジェクションバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を含むダイアフラムと、
前記ダイアフラムの両側に配置されたコイルと、
前記ダイアフラムが前記コイルに近接及び/または離間したかを磁気的に検出する変異検出手段と、
前記ダイアフラムの変位に応じて前記コイルのいずれかに変位抑制電流を印加する変位抑制手段とを、
備えた圧力トランスデューサであって、
前記ダイアフラムの一部が硬磁性材料からなることを特徴とする、前記圧力トランスデューサ。
【請求項2】
前記コイルが前記ダイアフラムの両側に配置されたコアに巻かれていることを特徴とする、請求項1に記載の圧力トランスデューサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧力トランスデューサのうち、前記ダイアフラムが少なくとも、
硬磁性材料からなる平面板を、2枚の軟磁性材料からなる薄板で挟んだ構造をした円盤部分、
前記円盤部分を取り囲むひだ部、
前記ひだ部の外側にある固定部分、
からなることを特徴とする、前記圧力トランスデューサ。
【請求項4】
前記ダイアフラムの近接及び/または離間を検出するためのコイルと、前記変位抑制電流を印加するコイルが同一のコイルであることを特徴とする、請求項1から3に記載の圧力トランスデューサ。
【請求項5】
前記ダイアフラムの近接及び/または離間を検出するためのコイルと、前記変位抑制電流を印加するコイルが異なるコイルであることを特徴とする、請求項1から3に記載の圧力トランスデューサ。
【請求項6】
請求項1から5に記載の圧力トランスデューサを含んだ液体クロマトグラフ用粘度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−151737(P2010−151737A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332464(P2008−332464)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】