説明

圧力測定装置及び圧力測定方法

【課題】 より信頼性が高い測定が可能な圧力測定装置及び圧力測定方法を提供する。
【解決手段】 第1抵抗素子13を有し、気体の圧力に対応した電気信号を出力する第1検知部4と、前記第1検知部4に近接配置され、前記第1抵抗素子13より表面積が小さい第2抵抗素子14を有し、前記気体の圧力に対応した電気信号を出力する第2検知部5と、前記第1検知部4の出力値から前記第2検知部5の出力値を差し引いて前記気体の圧力を算出する演算部8とを有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱損失量に基づいて圧力を測定する圧力測定装置及び圧力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、気体の圧力を測定する圧力測定装置の検出部として、ピラニ真空計を用いることが知られている。ピラニ真空計は、基板等の上に設けられている細い金属線からなる抵抗素子を備えたデバイスであり、一般に定温駆動と呼ばれる方法で駆動を行う。定温駆動時は抵抗素子に電圧を印加し、ジュール発熱により素子温度を周囲気体より高い設定値に保つ。このとき、周囲気体の圧力に応じて気体が抵抗素子から奪う熱量が変化するため、抵抗素子の温度を保つために必要な電圧が変化する。このときの電圧値から圧力の測定を行うことができる。
【0003】
また、抵抗素子から出力される電圧値に基づく圧力値を得るために、図5に示す圧力測定装置101では、図示しない抵抗素子が設けられているピラニ真空計102と温度補償部103から得られた電圧値をドライバ104を介して信号変換して演算部105に入力し、演算部105内に設けられているメモリー106に記憶された数式を用いて圧力値を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−114574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の圧力測定装置101では、高真空領域において抵抗素子から周囲気体への放熱量よりも、圧力測定に寄与しない固体伝導熱量(配線基板へ伝導する熱量)の影響が支配的になるため、抵抗素子の環境温度や発熱による物性変化や基板配線との接続抵抗の変化により抵抗素子の初期抵抗値が変化した場合、駆動時の抵抗素子の温度設定値など駆動条件が変化することにより固体伝導熱量が変化し、圧力測定精度を悪化させる。そのため高真空領域において信頼性の高い圧力測定結果を求めることが困難であった。
【0006】
そこで本発明では、より信頼性が高い測定が可能な圧力測定装置及び圧力測定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、実施形態の圧力測定装置は、第1抵抗素子を有し、気体の圧力に対応した電気信号を出力する第1検知部と、第1検知部に近接配置され、第1抵抗素子より表面積が小さい第2抵抗素子を有し、気体の圧力に対応した電気信号を出力する第2検知部と、第1検知部の出力値から第2検知部の出力値を差し引いて気体の圧力を算出する演算部とを有することを特徴としている。
【0008】
また、実施形態の圧力測定方法は、請求項1又は請求項2に記載の圧力測定装置を用いた圧力測定方法であり、第1検知部と第2検知部により気体の圧力を測定する工程と、演算部で、第1検知部の出力値から第2検知部の出力値を差し引いて気体の圧力を算出する工程とを有することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る圧力測定装置の概略図。
【図2】本発明の実施形態に係る圧力測定装置の検出部と温度補償部の上面図。
【図3】図2のA−A線に沿う圧力測定装置の検出部と温度補償部の断面図。
【図4】本発明の実施形態に係る圧力測定方法を示すフローチャート。
【図5】従来の配線基板を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るより信頼性が高い測定が可能な圧力測定装置及び圧力測定方法を、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
まず、本発明の実施形態に係る圧力測定装置について、図1乃至図3を参照して説明する。
【0012】
図1は圧力測定装置の概略図を示したものであり、本実施形態の圧力測定装置1は、電源部2と、第1、第2検知部4,5と第1、第2温度補償部6,7とで構成されるセンシング部3と、演算部8と、表示部9とから構成されている。
【0013】
電源部2は、第1、第2検知部4,5と、第1、第2温度補償部6,7を備えた定温駆動回路であるセンシング部3に電力を供給する役割を果たしている。
【0014】
そして、センシング部3の第1、第2検知部4,5は、気体の圧力に対応した電気信号を演算部8へと出力する役割を果たしており、ピラニ真空計を使用している。また、
第1、第2検知部4,5は、後述する第1、第2抵抗素子13,14の表面積が異なるものが設けられている。
【0015】
また、センシング部3の第1、第2温度補償部6,7は、環境温度の変化と同じだけ第1、第2抵抗素子13,14の駆動温度を変化させ、環境温度と抵抗素子の温度差を一定に保つことで温度補償を行っている。なお、本実施形態では第1、第2温度補償部6,7を用いているが、温度管理されている環境であれば用いなくてもよい。
【0016】
本実施形態の第1、第2検知部4,5と第1、第2温度補償部6,7について、より詳しく説明する。図2は本実施形態の上面図であり、図3はその断面図である。第1検知部4と第1温度補償部6は並列して設けられ、また、第2検知部5と第2温度補償部7も並列して設けられている。そして、第1温度補償部6と第2検知部5が並設されている。なお、本実施形態では第1、第2検知部4,5および第1、第2温度補償部6,7を並列して設け、第1温度補償部6と第2検知部6が並設しているが、これに限られることはなく、同じ環境温度となる位置であればどのような位置であってもよい。
【0017】
次に、第1、第2検知部4,5の構成を説明する。第1、第2検知部4,5は、配線基板10と、第1、第2支持体11,12と、第1、第2抵抗素子13,14と、第1、第2保護層15,16とで構成されている。
【0018】
配線基板10は、Siから形成されている基板17上にSiOから構成される絶縁層18が設けられ、更にその上にAlの配線19を積層しているものを用いている。なお、本実施形態で使用する配線基板10、基板17、配線19の材質に限られることはなく、どの様なものを用いてもよい。
【0019】
そして、第1、第2支持体11,12は、1μmの厚さで、SiNにより形成されている。また、第1、第2支持体11,12は、第1、第2抵抗素子13,14を配線基板10から一定の間隔、例えば本実施形態では1μmの間隔を設けて支持するため、それぞれ6つの柱Hを設けてブリッジを形成し、第1、第2抵抗素子13,14を支持している。6つの柱Hのうち2つの柱Hは、配線基板10の配線19に接するように形成されており、これは、第1、第2支持体11,12上に形成する第1、第2抵抗素子13,14に配線19を介して電流を供給するためである。残りの4つの柱Hは、絶縁層18に接するように第1、第2支持体11,12が形成されている。なお、本実施形態では第1、第2支持体11,12としてSiNを使用しているが、これに限られることはなく、絶縁体で強度があり、熱抵抗が高いものであればどの様な材質のものを使用しても良い。
【0020】
第1、第2抵抗素子13,14は、Tiであり、第1、第2支持体11,12上にミアンダ状に配置され、配線基板10の配線19に接続する2つの柱Hを通じて電気的に接触している。また、第1抵抗素子13は、厚さが約0.3μm、幅が約5μm、長さが約3200μmの配線を2本並列に配置することで後述する第2抵抗素子と同じ電気抵抗値になるように設計している。また、第1支持体11の縦幅L1は約350μm、柱Hを除いた横幅S1は約350μmとなるように設けられている。そして、第2抵抗素子14では、厚さ0.3μm、幅5μm、長さは1800μmの配線を用いており、第2支持体12の縦幅L2が約260μm、柱Hを除いた横幅S2が約90μmとなるように設けられている。なお、本実施形態では第1、第2抵抗素子13,14としてTiを用いているが、これに限られることはなく、導電性であり、電気抵抗値の温度係数が大きいものであればどのような材質の物を用いても良い。また、第1、第2抵抗素子13,14の厚み、幅、長さ等もこれに限られることはなく、第1抵抗素子13の表面積が第2抵抗素子14の表面積より大きく、電気抵抗値が等しければよい。
【0021】
第1、第2保護層15,16は、第1、第2抵抗素子13,14の発熱による酸化膜の成長を防ぐために第1、第2抵抗素子13,14を覆うように設けられており、厚さ0.5μmのSiNを成膜している。なお、本実施形態では第1、第2保護層15,16としてSiNを用いているが、これに限られることはなく、絶縁体で熱抵抗が高いものであればどの様な材質のものを使用しても良い。また、厚さもこれに限られることはなく、適宜決めてよい。
【0022】
次に、第1、第2温度補償部6,7の構成を説明する。第1、第2温度補償部6,7は、第1、第2検知部4,5と同じ配線基板10上に、第3、第4支持体20,21、第3、第4抵抗素子22,23と、第3、第4保護層24,25の順に積層して構成されている。
【0023】
第3、第4支持体20,21は、第1、第2検知部4,5の柱Hが設けられている配線19を第3、第4支持体20,21の一部が共有するように形成されている。また、第1、第2支持体11,12と同様に1μmの厚さで、SiNにより形成されている。なお、本実施形態では第1、第2検知部4,5の柱Hが設けられている配線19を第3、第4支持体20,21の一部が共有するように形成されているが、これに限られることはなく、共有していなくてもよい。
【0024】
そして、第3、第4抵抗素子22,23は、第1、第2抵抗素子13,14と同様に、Ti配線で、ミアンダ状にそれぞれ形成されており、配線基板10の配線19に電気的に接触するように設けられている。また、第3抵抗素子22は、厚さが約0.3μm、幅が約5μm、長さが約3200μmの配線を2本並列に配置しており、第3支持体20の縦幅が約350μm、横幅が約350μmとなるように設けられており、第4抵抗素子23では、厚さ300nm、幅5nm、長さが1800μmであり、第4支持体21の縦幅が約260μm、横幅が約90μmとなるように設けられている。
【0025】
第3、第4保護層24,25もまた第1、第2保護層15,16と同様に、第3、第4抵抗素子22,23の発熱による酸化膜の成長を防ぐため、第3、第4抵抗素子22,23を覆うように設けられており、厚さ0.5μmのSiNから形成されている。
【0026】
図1に戻り、次に演算部8の説明をする。演算部8は、第1温度補償部6により温度補償された第1検知部4と、第2温度補償部7により温度補償された第2検知部5から出力される気体の圧力に応じた電圧値が入力され第1検知部4より入力された電圧値から第2検知部5より入力された電圧値を差し引いて気体の圧力を算出し、算出結果を表示部9に出力している。
【0027】
より詳しく説明すると、演算部8ではまず、第1温度補償部6により温度補償され、第1検知部4から出力された電圧値Vp1と、第2温度補償部7により温度補償され、第2検知部5から出力された電圧値Vp2を用いて(Vp12−Vp22)を算出する。これは、第1、第2ジュール熱量Qt1 ,Qt2の多くを占めている固体伝導熱量Qsol(配線基板へ伝導する熱量)の影響をキャンセルさせることで、より正確な気体の圧力を求めるためである。
【0028】
すなわち、第1抵抗素子13から発生させるジュール熱量をQt1、気体への放熱量をQg1、輻射熱量をQr1とし、第2抵抗素子14から発生させるジュール熱量をQt2、輻射熱量をQr2とし、第1、第2抵抗素子13,14を支持している第1,第2支持体11,12の材料および柱Hの形状が同じであることから固体伝導熱量をともにQsolとし、第1、第2抵抗素子13,14の抵抗値は同一の設計値なのでRとすると、第1抵抗素子13のジュール熱量Qt1は次式(1)、第2抵抗素子14のジュール熱量Qt2は次式(2)のようになる。
【0029】
t1=Vp1/R=Qg1+Qr1+Qsol・・・(1)
t2=Vp2/R=Qg2+Qr2+Qsol・・・(2)
そして、第1抵抗素子13のジュール熱量Qt1から第2抵抗素子14のジュール熱量Qt2を差し引くと、次式(3)のようになる。また、輻射熱量は固体伝導熱量に比べて桁違いに小さく、影響が無視出来ることから、次式(4)とすることができる。
【0030】
t1−Qt2=(Vp1−Vp2)/R=(Qg1−Qg2)+(Qr1−Qr2)・・・(3)
t1−Qt2=(Vp1−Vp2)/R=(Qg1−Qg2)・・・(4)
このことから、固体伝導熱量Qsolをキャンセルする事が出来るため、より正確な気体への放熱量が分かり、気体の圧力を導き出すことが可能となる。
【0031】
その後、電圧値(Vp1−Vp2)を算出した結果と、予め演算部8に入力されている圧力値との対応テーブルから気体の圧力を算出し、圧力の算出結果を表示部9へと出力している。
【0032】
表示部9は、演算部8から出力された気体の圧力の算出結果を、例えばディスプレイなどに出力して表示している。
【0033】
次に、圧力測定方法について図4を参照して説明する。
【0034】
まず、電源部2からセンシング部3に電力を供給する(ステップS1)。
【0035】
次に、第1温度補償部6により温度補償される第1検知部4と、第2温度補償部7により温度補償される第2検知部5から出力される、温度補償後の第1検知部4の電圧値Vp1と、温度補償後の第2検知部5の電圧値Vp2を演算部8に入力する(ステップS2)。
【0036】
その後、演算部8により、温度補正後の第1検知部4の電圧値Vp1から、温度補正後の第2検知部5の電圧値Vp2を引いた電圧値(Vp1−Vp2)を算出する(ステップS3)。
【0037】
次に、予め演算部8に入力されている第1検知部4のサンプル電圧値Vsp1から第2検知部5のサンプル電圧値Vsp2を差し引いた電圧値(Vsp1−Vsp2)と圧力値の対応テーブルを参照して気体の圧力を算出する(ステップS4)。そして、気体の圧力の算出結果を表示部9へと出力し、表示部9により表示する(ステップS5)。
【0038】
以上、本実施形態によれば、センシング部3を構成する第1、第2検知部4,5と、第1、第2温度補償部6,7から出力される気体の圧力に応じた電気信号を演算部8に入力し、第1温度補償部6により温度補正された第1検知部4の電圧値Vp1と、第2温度補償部7により温度補償された第2検知部5の電圧値Vp2から(Vp12−Vp22)を算出し、予め演算部8に入力されている圧力値と電圧値(Vsp12−Vsp22)の対応テーブルを参照することで気体の圧力を算出している。これにより、第1、第2検知部4,5の第1、第2抵抗素子13,14の環境温度や発熱による物性変化等の影響を低減させ、より正確な気体の圧力を導き出すことが可能となる。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1,101…圧力測定装置
2…電源部
3…センシング部
4…第1検知部
5…第2検知部
6…第1温度補償部
7…第2温度補償部
8,105…演算部
9…表示部
10…配線基板
11…第1支持体
12…第2支持体
13…第1抵抗素子
14…第2抵抗素子
15…第1保護層
16…第2保護層
17…基板
18…絶縁層
19…配線
20…第3支持体
21…第4支持体
22…第3抵抗素子
23…第4抵抗素子
24…第3保護層
25…第4保護層
H…柱
L1,L2…縦幅
S1,S2…横幅
102…ピラニ真空計
103…温度補償部
104…ドライバ
106…メモリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1抵抗素子を有し、気体の圧力に対応した電気信号を出力する第1検知部と、
前記第1検知部に近接配置され、前記第1抵抗素子より表面積が小さい第2抵抗素子を有し、前記気体の圧力に対応した電気信号を出力する第2検知部と、
前記第1検知部の出力値から前記第2検知部の出力値を差し引いて前記気体の圧力を算出する演算部と、
を有することを特徴とする圧力測定装置。
【請求項2】
更に、前記第1検知部に近接配置され、前記第1検知部の温度補償をおこなう第1温度補償部と、前記第2検知部に近接配置され、前記第2検知部の温度補償をおこなう第2温度補償部のうち、少なくとも1つを有することを特徴とする請求項1記載の圧力測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の圧力測定装置を用いた圧力測定方法であり、
前記第1検知部と前記第2検知部により前記気体の圧力を測定する工程と、
前記演算部で、前記第1検知部の出力値から前記第2検知部の出力値を差し引いて前記気体の圧力を算出する工程と、
を有することを特徴とする圧力測定方法。
【請求項4】
更に、前記第1温度補償部により前記第1検知部の温度補償をおこなう工程と、前記第2温度補償部により前記第2検知部の温度補償をおこなう工程のうち少なくとも1つを有することを特徴とする請求項3記載の圧力測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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