説明

圧力漏れ検出方法及び圧力漏れ検出装置

【課題】鋳造品の圧力漏れの検出にあたり、検出結果の信頼性を低下させることなく、定常状態では検出できない圧力漏れを検出可能とする。
【解決手段】鋳造品Wのうち、閉空間Pに面する部分(平板部W2)に所定の変形を付与した状態で圧力漏れを検出することにより、定常状態で閉じたひび割れ等を圧力漏れを検出可能な程度に広げることができるため、かかるひび割れ等による圧力漏れを検出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉空間を形成する鋳造品の圧力漏れを検出するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、図4に、トルクコンバーターを収容する鋳造製のケーシング部材Wを模式的に示す。このケーシング部材Wは、トランスミッションを収容するミッションハウジングHに固定される筒部W1と、トランスミッション側の空間PMとトルクコンバーター側の空間PTとを遮断する中空の平板部W2とを一体に有する。ケーシング部材Wの筒部W1をミッションハウジングHにボルト等で固定することにより、トランスミッション側に設けられたオイルポンプOにケーシング部材Wの平板部W2が押し付けられ、これによりトランスミッション側の空間PMがシールされる。トランスミッションはオイルで潤滑されているため、このオイルがトルクコンバーター側の空間PTに漏れ出さないように、トランスミッション側の空間PMは高い気密性が求められる。しかし、鋳造製のケーシング部材Wは、成形時に鋳造欠陥やひび割れ等が形成されることがあり、これらを介してトランスミッション側の空間PMとトルクコンバーター側の空間PTとが連通し、トルクコンバーター側の空間PTにオイルが漏れ出す恐れがある。従って、鋳造製のケーシング部材Wを成形した後、ケーシング部材Wで形成される閉空間に圧力漏れが生じるか否かを検査する必要がある。
【0003】
例えば特許文献1には、鋳造品で形成される閉空間を加圧又は減圧すると共に、このときの閉空間の圧力を測定することにより、閉空間の圧力漏れの有無を検出する方法が示されている。図5に、上記のような方法で圧力漏れの有無を検出する圧力漏れ検出装置の一例を示す。この圧力漏れ検出装置100は、鋳造品W、閉塞部材101、及びシール部材102で閉空間P(散点領域)を形成し、この閉空間Pを圧力供給口103を介して加圧装置104で所定の圧力まで加圧する。このときの加圧装置104による設定圧力と、圧力センサ105で測定された閉空間Pの圧力とを比較することにより、圧力の漏れの有無を検出することができる。すなわち、加圧装置104による設定圧力が圧力センサ105による測定圧力と等しければ圧力漏れ無しと判別され、加圧装置104による設定圧力よりも圧力センサ105による測定圧力が小さければ、閉空間Pに圧力漏れが生じていると判別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−96677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、圧力漏れの試験時には圧力漏れ無しと判別された鋳造品であっても、実際に製品に組み付けて使用したときに、油漏れが生じる場合がある。これは、以下のような理由によるものと考えられる。例えば、図6に示すように、閉空間Pと外部空間とを連通するような鋳造欠陥Q1であれば、上記のような圧力漏れ検出装置100により閉空間Pを加圧することで、圧力漏れを検出することができる。しかし、図7(a)に示すように、定常状態(鋳造品Wが変形していない状態)でほぼ完全に閉じたひび割れQ2が形成されている場合、このひび割れQ2は閉空間Pと外部空間とを連通していないため、上記のような圧力漏れ検出装置100では圧力漏れを検出することができない。しかし、このようなひび割れQ2を有する鋳造品を製品に組み付けて使用したときには、図7(b)に示すように、組み付け時や使用時の負荷等により鋳造品Wが変形してひび割れQ2が広がり、閉空間Pと外部空間とを連通して油漏れが生じることがある。特に、鋳造品が、図4に示すようなトルクコンバーターのケーシング部材の場合、薄肉な平板部W2がオイルポンプOに押し付けられるため、変形が生じやすく、上記のような不具合が生じる恐れが高い。
【0006】
例えば、閉空間Pの圧力を測定する圧力センサの感度を高め、僅かな圧力の変化を検出可能とすれば、上記のようなひび割れQ2による圧力漏れを検出できる可能性がある。しかし、圧力センサの感度を過度に高めると、シール部材からのごく僅かな圧力漏れも検出してしまうため、圧力漏れが鋳造品に起因するものか、シール部材に起因するものかを判別できず、検出結果の信頼性が低下する。
【0007】
本発明の解決すべき課題は、鋳造品の圧力漏れの検出にあたり、検出結果の信頼性を低下させることなく、定常状態では検出できない圧力漏れを検出可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、少なくとも一部が鋳造品で形成される閉空間の圧力漏れを検出するための方法であって、鋳造品のうちの閉空間に面する部分に所定の変形を付与するステップと、上記閉空間に面する部分に所定の変形を付与した状態で、閉空間の圧力漏れを検出するステップとを有する圧力漏れ検出方法を提供する。
【0009】
このような圧力漏れ検出方法は、例えば、鋳造品のうちの閉空間に面する部分に所定の変形を付与する変形付与部と、閉空間を所定の圧力まで加圧又は減圧する圧力変動部と、閉空間の圧力を測定する圧力測定部と、圧力変動部による設定圧力と圧力測定部による測定圧力とを比較して閉空間の圧力漏れを検出する検出部とを備えた圧力漏れ検出装置により行うことができる。
【0010】
本発明では、鋳造品のうち、閉空間に面する部分に所定の変形を付与することにより、定常状態では閉じているひび割れ等を、圧力漏れを検出可能な程度に広げることができる。このように、本発明は、鋳造品の特定部分に直接的あるいは間接的に所定の変形を付与し、実際の鋳造品の組付状態や製品の使用状態に近づけることにより、従来は検出できなかった圧力漏れを検出可能とするものであるため、圧力センサの感度を高める必要はなく、信頼性の高い検出結果を得ることができる。
【0011】
上記の変形付与部として、例えば図8に示すように、シリンダ106により突出可能なピストン107を閉塞部材101に設け、このピストン107を閉塞部材101から突出させることにより、シール部材102を介して鋳造品Wに変形を付与する構成が考えられる。しかし、この場合、ピストン107と閉塞部材101との摺動部に別途のシール部材108を設ける必要がある。密閉状態で圧力漏れ試験を行うにあたり、シール箇所が増加すると、圧力漏れの要因が増えるため好ましくなく、特に、ピストン107等の摺動部を完全にシールすることは困難である。そこで、鋳造品の開口部を閉じて閉空間を形成する閉塞部材に内部空間を形成し、この内部空間の圧力を高めて閉塞部材を膨張させることにより変形付与部を構成すれば、シール箇所を増加させることなく鋳造品に変形を付与することができる。
【0012】
鋳造品のうち、変形付与部により変形が付与される部分の変位を測定する変位測定部を設け、この変位測定部の測定値に基づいて変形付与部を制御すれば、鋳造品に所定量の変形を正確に付与することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の圧力漏れ検出方法及び圧力漏れ検出装置によれば、圧力漏れの検出結果の信頼性を低下させることなく、定常状態では検出できない圧力漏れを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】圧力漏れ検出装置の断面図である。
【図2】図1の圧力漏れ検出装置の拡大断面図である。
【図3】他の実施形態にかかる圧力漏れ検出装置の断面図である。
【図4】トルクコンバーターのケーシング部材を模式的に示す断面図である。
【図5】従来の圧力漏れ検出装置の断面図である。
【図6】鋳造品の鋳造欠陥によりオイル漏れが生じる様子を示す断面図である。
【図7】鋳造品のひび割れによりオイル漏れが生じる様子を示す断面図であり、(a)は定常状態、(b)は変形を付与した状態を示す。
【図8】ピストンで鋳造品に変形を付与する様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る圧力漏れ検出装置1の断面図である。この圧力漏れ検出装置1による圧力漏れ検査の対象となる鋳造品Wは、例えばトルクコンバーターのケーシング部材である。図示例では、鋳造品Wを簡略化して示し、筒部W1と、筒部W1の内周面に突出した中空の平板部W2とからなる構成としている。圧力漏れ検出装置1は、鋳造品Wが載置されるベース10と、鋳造品Wの開口部を閉じて閉空間Pを形成する閉塞部材20と、閉空間Pを加圧する圧力変動部としての加圧装置30と、閉空間Pの圧力漏れの有無を検出する検出部40と、鋳造品Wに所定の変形を付与する変形付与部50と、鋳造品Wの変形を測定する変位測定部60とを備える。尚、以下では、便宜上、図1における上下方向を用いて説明するが、装置の使用方向を限定する趣旨ではない。
【0017】
ベース10は、その上面に載置された鋳造品Wと共に昇降可能に設けられる。ベース10に載置された鋳造品Wは、図示しない位置決め手段によりベース10上に固定される。
【0018】
閉塞部材20は、鋳造品Wの上方開口部を閉じて閉空間Pを形成するものであり、本実施形態では、基部21と、基部21の下面に固定された押圧部22とを有する。基部21は、環状のシール部材23を介して鋳造品Wの筒部W1の上端部に当接し、押圧部22は、環状のシール部材24を介して鋳造品Wの平板部W2の上端面に当接する。閉塞部材20、鋳造品W、及び、シール部材23,24で、閉空間Pが構成される。尚、シール部材24は環状に限らず、例えば平板状であってもよい。
【0019】
加圧装置30は、閉空間Pを所定の圧力まで加圧するものであり、例えば加圧エアを供給するものである。加圧装置30と閉空間Pとは配管31を介して接続され、具体的には、配管31の先端部が鋳造品Wの筒部W1に設けられた貫通穴W10に接続される。配管31の途中には圧力センサ32が設けられ、この圧力センサにより閉空間Pの圧力を測定することができる。加圧装置30及び圧力センサ32は検出部40に接続される。この検出部40において、加圧装置30による設定圧力と、圧力センサ32による測定圧力とを比較することにより、圧力漏れの有無を検出する。
【0020】
変形付与部50は、鋳造品Wのうち、閉空間Pに面する部分に変形を付与するものであり、本実施形態では、比較的薄肉である平板部W2に変形が付与される。変形付与部50は、平板部W2を下方に押し込んで変形させるものであり、本実施形態では、閉塞部材20の内部に設けられた袋体51と、袋体51から延びた配管52と、配管52を介して袋体51の内部を加圧するシリンダ53とで構成される。袋体51及び配管52の内部には油が満たされ、シリンダ53により袋体51内の油圧が高められる。シリンダ53は、図示しない制御部により制御され、これにより袋体51の内部の圧力が制御される。
【0021】
変位測定部60は、変形付与部50による鋳造品Wの変形を測定するものであり、例えば、レーザ変位計が用いられる。この変位測定部60により、鋳造品Wの平板部W2の変位量を測定し、この測定値が変形付与部50にフィードバックされる。
【0022】
次に、上記構成の圧力漏れ検出装置1による鋳造品Wの圧力漏れ検出方法を説明する。
【0023】
まず、ベース10を降下させた状態で、ベース10の上面に鋳造品Wを搬入し、図示しない位置決め手段でベース10上に固定する。この状態でベース10を上昇させ、閉塞部材20の所定位置に設けたシール部材23,24に鋳造品Wの筒部W1及び平板部W2をそれぞれ当接させることにより、閉塞部材20で鋳造品Wの上方開口部が閉じられて閉空間Pが形成される(図1参照)。
【0024】
この状態から、変形付与部50のシリンダ53を駆動し、袋体51の内部を加圧する。この加圧力により、図2に示すように、閉塞部材20が内部から外部へ向けて加圧されて膨張し、押圧部22の下面が定常状態と比べて下方に変位する(点線参照)。この押圧部22の下面の変位により、シール部材24を介して平板部W2が下方に押し下げられる。このとき、平板部W2の変位量を変位測定部60(図1参照)で測定し、その測定値をシリンダ53の制御部にフィードバックしながらシリンダ53による加圧力を制御することにより、平板部W2を所定量だけ正確に変位させることができる。尚、平板部W2の変形の方向は、鋳造品Wを製品に組み付ける際の変形、あるいは、製品の使用時の変形と同じ方向に設定される。また、平板部W2の変位量は、鋳造品Wの製品への組み付け時や製品の使用時に平板部W2に生じる変位量(シミュレーション値あるいは経験値)に基づいて設定される。本実施形態では、トルクコンバーターのケーシング部材(鋳造品W)をトランスミッションのハウジングに組み付けた際に、オイルポンプに押し付けられることにより生じる平板部W2の変形に基づいて、変形付与部50による平板部W2の変形の方向及び変位量が設定される。
【0025】
こうして、平板部W2に所定の変形を付与した状態で、加圧装置30により閉空間Pに加圧エアを供給すると共に、圧力センサ32により、閉空間Pの圧力を測定する。加圧装置30による設定圧力、及び、圧力センサ32による測定圧力の値は、共に検出部40に伝達され、検出部において両者が比較される。そして、設定圧力と測定圧力とが等しい場合、あるいはその差が所定範囲内である場合は、圧力漏れが生じていないと判別され、設定圧力よりも測定圧力が小さく、その差が所定範囲を越えている場合は、圧力漏れが生じていると判別される。
【0026】
以上のように、鋳造品Wの薄肉な平板部W2に所定の変形を付与し、鋳造品の製品への組付時や製品の使用時に近い状態で圧力漏れの検出を行うことにより、図6(a)に示すようなひび割れQ2が発生している場合でも、ひび割れQ2を介した圧力漏れを検出することが可能となる。
【0027】
本発明は上記の実施形態に限られない。図3に示す実施形態は、変形付与部50の構成が上記の実施形態と異なる。具体的には、閉塞部材20の押圧部22の下面の位置を、鋳造品Wの平板部W2に変形を付与しない位置(図中の点線位置参照)よりもδだけ下方に設けている。これにより、鋳造品Wを上昇させ、閉塞部材20と鋳造品Wとで閉空間Pを形成すると同時に、鋳造品Wの平板部W2に所定の変形を付与することができる。
【0028】
また、上記の実施形態では、鋳造品Wの平板部W2を押圧部22で直接押圧することにより、平板部W2に所定の変形を付与する場合を示しているが、これに限られない。例えば、鋳造品Wのうちの閉空間Pに面さない部分(例えば、筒部W1の下方部分)に負荷を加えることにより、間接的に平板部W2に所定の変形を付与してもよい。
【0029】
また、上記の実施形態では、鋳造品Wの開口部を閉塞部材20で閉じることにより形成された閉空間Pの圧力漏れを検出する場合を示しているが、これに限らず、鋳造品Wを介した圧力漏れが生じる可能性のある閉空間、すなわち、少なくとも一部が鋳造品Wで形成される閉空間であれば、本発明を適用することができる。例えば、鋳造品Wのみで形成される閉空間の圧力漏れの検出に本発明を適用することができ、この場合、上記の閉塞部材20は不要となる。
【0030】
また、以上の実施形態のように鋳造品Wに所定の変形を付与した状態で行う圧力漏れの検出に加えて、鋳造品Wに変形を付与しない状態や、鋳造品Wに上記とは異なる変形を付与した状態で圧力漏れの検出を行えば、様々な状態における圧力漏れの有無を検出することができるため、より信頼性の高い圧力漏れ検査を行うことができる。
【0031】
また、以上の実施形態では、圧力変動部が閉空間Pを加圧する加圧装置30である場合を示したが、これに限らず、閉空間Pを所定の圧力まで減圧する減圧装置(図示省略)により圧力変動部を構成し、減圧装置の設定圧力と圧力センサによる測定圧力とを比較することで、閉空間Pの圧力漏れを検出することもできる。
【符号の説明】
【0032】
1 検出装置
10 ベース
20 閉塞部材
30 加圧装置
40 検出部
50 変形付与部
60 変位測定部
P 閉空間
Q1 鋳造欠陥
Q2 ひび割れ
W 鋳造品
W1 筒部
W2 平板部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が鋳造品で形成される閉空間の圧力漏れを検出するための方法であって、
前記鋳造品のうちの前記閉空間に面する部分に所定の変形を付与するステップと、前記鋳造品に前記変形を付与した状態で前記閉空間の圧力漏れを検出するステップとを有する圧力漏れ検出方法。
【請求項2】
少なくとも一部が鋳造品で形成される閉空間の圧力漏れを検出するための装置であって、
前記鋳造品のうちの前記閉空間に面する部分に所定の変形を付与する変形付与部と、前記閉空間を所定の圧力まで加圧又は減圧する圧力変動部と、前記閉空間の圧力を測定する圧力測定部と、前記圧力変動部による設定圧力と前記圧力測定部による測定圧力とを比較して前記閉空間の圧力漏れを検出する検出部とを備えた圧力漏れ検出装置。
【請求項3】
前記鋳造品の開口部を閉じて前記閉空間を形成する閉塞部材を設け、前記閉塞部材が内部空間を有し、この内部空間の圧力を高めて前記閉塞部材を膨張させることにより前記変形付与部を構成した請求項2記載の圧力漏れ検出装置。
【請求項4】
前記鋳造品のうち、前記変形が付与される部分の変位を測定する変位測定部を設け、この変位測定部の測定値に基づいて前記変形付与部を制御する請求項2又は3記載の圧力漏れ検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−133323(P2011−133323A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292558(P2009−292558)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】