説明

圧力調整器

【課題】 二次圧力の急激な変化によるダイヤフラムの偏心や傾きを制限し、ダイヤフラム部品が二次室の周壁面に強く衝突して異音を発生することをなくす。
【解決手段】 二次圧力の変動を感知して変位し一次室2から二次室6への流体流量を制御する弁体20を動作させるダイヤフラム9に重ねたダイヤフラムプラグ12の外側周縁に案内裾体25を設けた。案内裾体25は二次室6にその周壁面と狭い隙間を有して装入され、偏心や傾きを僅かにとどめてダイヤフラムプラグ12が周壁面に強く衝突しないように働く。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は二次圧力の変動をダイヤフラムに感知させ、その変位に応じて弁体を動作させることにより一次室から二次室への流体流量を制御して二次圧力を一定圧力に調整する圧力調整器、殊に二次側の要求流量が大幅に変化する気体の圧力調整に適する圧力調整器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】二次圧力の変動を感知して変位するダイヤフラムによって一次室から二次室への流体流量を制御する弁体を動作させ、二次圧力が一定圧力となるように調整する圧力調整器は、液体および気体を問わず幅広い分野で使用されている。
【0003】例えば、埋蔵量が膨大であること、エンジン排気が低公害であることなどの理由から、自動車エンジンにおいてガソリンに代る燃料として注目されている圧縮天然ガスも圧力調整器を必要とし、そのための圧力調整器が多種類提供されている。
【0004】図7は自動車に搭載して圧縮天然ガスを減圧することを目的として開発された圧力調整器の一例を示したものであって、本体51には一次室54と二次室56と弁座58とを設けて入口55から一次室54に入った流体が弁座口59より二次室56に流入して出口57から送出されるようになっている。
【0005】本体51とカバー体52との間にはダイヤフラム53の周縁部が挟み固定されており、このダイヤフラム53の二次室56側の面には平板状のダイヤフラムプラグ61が、カバー体52の内部のばね室60側の面には皿状のダイヤフラムリテーナ62およびダンパばね63の基部がそれぞれ重ねられ、ダイヤフラムプラグ61の中心に突設したねじ64に螺装したナット65によってこれらが一体に結合されている。
【0006】ばね室60には内側周面に沿って薄肉筒状のダンパばねリテーナ66が内装されており、基部から立上った板ばね状のダンパばね63がダンパばねリテーナ66に接触しているとともに、圧縮コイルばねからなる調整ばね67がダンパばね63の内側に位置してダンパ室60に装入されダイヤフラム53を二次室56へ向けて付勢している。
【0007】一方、ダイヤフラム53の中心に位置させて弁軸69の基端がダイヤフラムプラグ61に取付けられ弁プラグ68によって固定されている。この弁軸69は二次室56,弁座口59を貫通し、その先端は一次室54に装入された弁体70に結合されている。
【0008】二次室56の流体圧力、即ち二次圧力が高くなるとダイヤフラム53が調整ばね67を圧縮してばね室60の方へ変位することによって、弁体70が弁座58に接近し一次室54から二次室56への流体流量を減少させるか或いは着座して二次圧力を低下させる。二次圧力が低くなるとダイヤフラム53が調整ばね67のばね荷重で二次室56の方へ変位することによって、弁体70が弁座58から大きく離れ一次室54から二次室56への流体流量を増加させて二次圧力を上昇させる。この動作により二次圧力が所定の一定圧力に調整されることは通常のダイヤフラム式圧力調整器と全く同じである。
【0009】ダンパばね63は二次圧力の急激な変化の際にダイヤフラム53に発生する振動を吸収するものであり、或る程度硬い材料で作られているためばね室60の周壁面に直接摺動させることなく硬質材料で作ったダンパばねリテーナ66に接触させている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】前記の圧力調整器を自動車エンジンの燃料系に組込んで圧縮天然ガスの減圧に使用した場合、燃料要求流量が大幅に変化する自動車の過度運転時に二次圧力の急激な変化を生じる。特に、加速運転時に燃料要求流量が急増するために二次圧力が急激に低下してダイヤフラム53を弁軸69の軸線方向、即ち図の上下方向へ振動させるだけでなく横方向へ偏心させ、更にこれらが複合して傾けるという現象を生じる。
【0011】ダイヤフラム53が偏心し或るいは傾くと、円板状のダイヤフラムプラグ61も一体に動いて二次室56の周壁面に衝突して異音を発し、自動車の運転者や同乗者に不安感や不快感を与える。また、ダイヤフラム53のこのような不規則な動きは弁体70の動作を不安定とし、二次圧力の早期回復にも悪影響を及ぼす。
【0012】本発明はダイヤフラムにダンパばねを具えたものにおいても二次圧力の急激な変化に伴う偏心や傾きを防止することができない、という前記課題を解決するためになされたものであって、自動車エンジンの燃料系のように燃料要求流量が急激且つ大幅に変化する系に使用しても安定した動作が期待できる圧力調整器を得ることを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】一次室から二次室への流体流量を制御する弁体が二次圧力を感知して変化するダイヤフラムによって動作し、二次圧力を一定圧力となるように調整する圧力調整器がもっている前記課題を解決するために、本発明は次のようにした。
【0014】即ち、第一の発明はダイヤフラムの二次室側の面に重ねられたダイヤフラムプラグの外側周縁に案内裾体を設け、この案内裾体を二次室にその周壁面との間に狭い隙間を有して装入したものである。
【0015】次に、第二の発明はダイヤフラムの二次室側の面に重ねられて弁体の弁軸を固定する弁プラグの外側周縁に案内裾体を設け、この案内裾体を二次室にその周壁面との間に狭い隙間を有して装入したものである。
【0016】また、第三の発明はダイヤフラムの二次室と反対側に形成されているばね室側の面に重ねられたダイヤフラムリテーナの外側周縁に案内裾体を設け、この案内裾体をばね室にその周壁面との間に狭い隙間を有して装入したものである。
【0017】更に、第四の発明はダイヤフラムの二次室と反対側に形成されているばね室の中心に案内筒体を設けるとともに、ダイヤフラムの中心に軸部材を突設し、案内筒体に軸部材を狭い隙間を有して挿入したものである。
【0018】第一,第二および第三の発明における案内裾体は二次室またはばね室の周壁面との間に隙間を有するためダイヤフラムの正常な変位を妨げないが、僅かな偏心や傾きで周壁面に激しい衝突を伴うことなく接触し、異音を発生しないとともに弁体の動きを不安定にしない。また、第四の発明における案内筒体および軸部材は第一,第二,第三の発明における内壁面および案内裾体とそれぞれ対応しており、ダイヤフラムの正常な変位を妨げないとともに異音の発生、弁体の不安定をなくす。
【0019】
【発明の実施の形態】図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1,図3,図4,図5および図6は本発明のそれぞれ異なる実施の形態を示すものであって、先ずこれらに共通の構成を説明する。
【0020】本体1は一次室2と弁座4と二次室6とを下から上へ順に有しており、一次室2の底面は本体プラグ8によって閉止されているとともに、二次室6の上面はダイヤフラム9によって閉止されている。また、カバー体10は下方へ開放したばね室11を有しており、本体1の上にダイヤフラム9の周縁部を挟み込んで重ね固定されている。流体は入口3から一次室2に入り、弁座口5,二次室6を経て出口7から送出される。
【0021】ダイヤフラム9の二次室6側の面には平板状のダイヤフラムプラグ12が、ばね室11側の面には外側周縁を立上がらせた皿状のダイヤフラムリテテーナ13がそれぞれ重ねられ、ダイヤフラムプラグ12の中心にダイヤフラム9,ダイヤフラムリテーナ13を貫通させて突設したねじ14にナット15を螺装することによってこれらが一体に結合されている。
【0022】ばね室11には圧縮コイルばねからなる調整ばね16が装入されダイヤフラム9を二次室6へ向けて付勢しているとともに、板ばね状のダンパばね17が調整ばね16の外側方に配置装入されている。
【0023】一方、ダイヤフラム9の中心に位置させてこれと直角に弁軸18が配置され、その基端の弁ナット19がダイヤフラムプラグ12に嵌込まれて弁プラグ21により脱落しないように固定されている。弁軸18は二次室6,弁座口5を貫通し、その先端は一次室2に装入した弁体20に結合されている。
【0024】そして、二次室6の流体圧力、即ち二次圧力と調整ばね16のばね荷重とが平衡した位置に変位するダイヤフラム9によって弁体20が弁座4に接近或いは着座し、または反対に弁体20が弁座4から大きく離間することによって一次室2から二次室6への流体流量を制御して二次圧力を所定の一定圧力に調整するものであり、このことは従来のものと同じである。
【0025】ダンパばね17は二次圧力の急激な変化の際にダイヤフラム9に発生する弁軸18の中心軸線方向の振動を吸収するものであり、周方向等間隔で複数設けられている。また、図1,図3,図4および図6に示した形態のものは平板状の基部17aをダイヤフラムリテーナ13に重ねてナット15により固定し、それより立上ったダンパばね17をばね室11にその周壁面に重ねて内装したダンパばねリテーナ22に接触させている。ダンパばね17はダンパ効果をもたせるために或る程度硬い材料で作る必要があり、アルミニウム合金などの一般的に比較的軟質の材料で作られるカバー体10が摩耗することのないようにダンパばねリテーナ22を設けたものであり、従ってダンパばねリテーナ22は硬質材料で作られている。
【0026】本発明の目的である、ダイヤフラム9の偏心や傾きによるダイヤフラムプラグ12の二次室6の周側壁への激しい衝突の防止を達成させるため、図1に示した実施の形態ではダイヤフラムプラグ12の外側周縁にダイヤフラム9と反対方向へ向かう環状の案内裾体25を一体成形により設け、この案内裾体25を二次室6にその周壁面との間に狭い隙間を有して挿入した。このものは請求項1に記載した第一の発明の一形態である。
【0027】前記の隙間はダイヤフラム9の正常な変位動作を妨げないが、僅かな偏心または傾きで案内裾体25が二次室6の周壁面に接触することにより、激しい衝突が回避され異音を発生させない。また、偏心や傾きが僅かであるため弁体20の動きが不安定とならず、二次圧力の急激且つ大幅な変化を早期回復させることができる。
【0028】図2は図1のダイヤフラムプラグ12および案内裾体25と二次室6との関係を説明する図であって、高さLの案内裾体25を有する外径Dのダイヤフラムプラグ12が内径D0の二次室6に装入され、角度θで傾いている。これらの間には、Sinθ=(D0−D)/Lの関係があり、この式よりDを変化させたときθは直線的に変化するが、Lを変化させたときθは双曲線的に変化することが判る。これより、案内裾体25の高さLを大きくするとθを大幅に小さく、即ち傾きを著しく小さい角度に制限することができる。
【0029】従って、図1の形態においてはダイヤフラム9の正常な変位を妨げない程度に案内裾体25を高く作るのが好ましい。また、このことによりダイヤフラムプラグ12の外径Dを小さくしてその小形化を計ることが可能である。
【0030】図3に示した実施の形態のものは、弁プラグ21をダイヤフラムプラグ12よりも大径の円板に形成し、その外側周縁に環状の案内裾体26を一体に設け、この案内裾体26を二次室6にその周壁面との間に狭い空隙を有して装入したものである。このものは請求項2に記載した第二の発明の一形態である。
【0031】図3の形態における案内裾体26は図1の形態における案内裾体25と全く同じ機能を有し、ダイヤフラム9の偏心や傾きによる異音の発生を防止するとともに弁体20の不安定な動きをなくす。
【0032】図4,図5および図6に示した実施の形態のものは、ダイヤフラム9の偏心および傾きの抑制手段を二次室6の側に設ける代りにばね室11の側に設けた点で図1,図3のものと相違している。
【0033】図4に示した実施の形態のものは、ダイヤフラムリテーナ13の外側周縁の立上り部を延長して環状の案内裾体27を連続一体形成し、この案内裾体27をばね室11にその周壁面との間に僅かな隙間を有して挿入したものである。このものは請求項3に記載した第三の発明の一形態である。
【0034】この図4の形態における案内裾体27も前記各形態の案内裾体25,26と同様の機能をもっている。そして、この形態のものは二次室6に案内裾体を設けるスペースが得られない場合に有用である。
【0035】図5は第三の発明の図4とは異なる実施の形態を示すものである。この形態ではダイヤフラムリテーナ13に設けた環状の案内裾体28をばね室11にその周壁面との間に僅かな隙間を有して装入し、ダンパばね17を案内裾体28の内側面に接触させたものである。ダンパばね17の平板状の基部17aはばね室11の頂壁に重ねて固定されており、ばね室11にダンパばねリテーナ22を要しない構造である。また、ダンパばね17と案内裾体28との接触摺動によって摩耗粉を発生することがあっても、この摩耗粉はダイヤフラムリテーナ13が受けて溜め、他の部品に付着して悪影響を及ぼすという心配がない。
【0036】図6に示した実施の形態のものは、前記各実施の形態のものと異なり、ばね室11の中心部にダイヤフラム9の偏心および傾きの抑制手段を設けたものである。即ち、ばね室11の中心軸線上に位置させて頂壁から案内筒体29を下向きに突出形成するとともに、ダイヤフラムプラグ12のねじ14を延長して軸部材30を形成し、案内筒体29に軸部材30を狭い隙間を有して挿入した。
【0037】この形態のものにおいては、ダイヤフラム9の偏心や傾きを軸部材30が案内筒体29の内側周面に接触することによって僅かなものにとどめるものであり、異音の発生防止、弁体20の安定化という前記各形態のものと同じ効果をもたらす。
【0038】また、この実施の形態のものは二次室6やばね室11の周壁面に案内裾体25,26,27,28を接触させる部分を設ける場所的余裕のないものに好適であり、ダイヤフラム9から大きく離れた部分で軸部材30を案内筒体29に挿入することにより、前記各実施の形態のものと同様にダイヤフラム9の傾きを小さいものにとどめることができる。
【0039】
【発明の効果】以上のように、本発明はきわめて簡単な手段で二次圧力の急激な変化に伴うダイヤフラムの偏心や傾きをごく僅かなものにとどめ、ダイヤフラム部品が二次室の周壁面に強く衝突して異音を発すること、或いは弁体の動作を不安定にすることを防止するものであり、流量が急激且つ大幅に変化する系においても安定した流量制御を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一の実施の形態を示す縦断面図。
【図2】図1の形態の作用説明図。
【図3】本発明の第二の実施の形態を示す縦断面図。
【図4】本発明の第三の実施の形態を示す縦断面図。
【図5】本発明の第四の実施の形態を示す縦断面図。
【図6】本発明の第五の実施の形態を示す縦断面図。
【図7】従来例を示す縦断面図。
【符号の説明】
2 一次室,6 二次室,9 ダイヤフラム,11 ばね室,12 ダイヤフラムプラグ,13 ダイヤフラムリテーナ,17 ダンパばね,20 弁体,21 弁プラグ,25,26,27,28 案内裾体,29 案内筒体,30 軸部材,

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一次室から二次室への流体流量を制御する弁体が二次圧力の変動を感知して変位するダイヤフラムによって動作し、二次圧力を一定圧力となるように調整する圧力調整器において、前記ダイヤフラムの前記二次室側の面に重ねられたダイヤフラムプラグの外側周縁に案内裾体が設けられており、前記案内裾体は前記二次室にその周壁面との間に狭い隙間を有して装入されている。ことを特徴とする圧力調整器。
【請求項2】 一次室から二次室への流体流量を制御する弁体が二次圧力の変動を感知して変位するダイヤフラムによって動作し、二次圧力を一定圧力となるように調整する圧力調整器において、前記ダイヤフラムの前記二次室側の面に重ねられて前記弁体の弁軸を固定する弁プラグの外側周縁に案内裾体が設けられており、前記案内裾体は前記二次室にその周壁面との間に狭い隙間を有して装入されている。ことを特徴とする圧力調整器。
【請求項3】 一次室から二次室への流体流量を制御する弁体が二次圧力の変動を感知して変位するダイヤフラムによって動作し、二次圧力を一定圧力となるように調整する圧力調整器において、前記ダイヤフラムの前記二次室と反対側に形成されているばね室側の面に重ねられたダイヤフラムリテーナの外側周縁に案内裾体が設けられており、前記案内裾体は前記ばね室にその周壁面との間に狭い隙間を有して装入されている。ことを特徴とする圧力調整器。
【請求項4】 前記ダイヤフラムの振動を吸収するダンパばねが前記案内裾体の内側面に接触させて前記ばね室に取付けられている請求項3に記載した圧力調整器。
【請求項5】 一次室から二次室への流体流量を制御する弁体が二次圧力の変動を感知して変位するダイヤフラムによって動作し、二次圧力を一定圧力となるように調整する圧力調整器において、前記ダイヤフラムの前記二次室と反対側に形成されているばね室の中心に案内筒体が設けられているとともに、前記ダイヤフラムの中心に軸部材が突設されており、前記案内筒体に前記軸部材が狭い隙間を有して挿入されている、ことを特徴とする圧力調整器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2000−276236(P2000−276236A)
【公開日】平成12年10月6日(2000.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−78950
【出願日】平成11年3月24日(1999.3.24)
【出願人】(000153122)株式会社日本気化器製作所 (296)
【Fターム(参考)】