説明

圧力調整装置

【課題】上部インクタンク内のインクの蒸発を抑制できる圧力調整装置を提供する。
【解決手段】上部インクタンク21内に連通された大気連通管73に取り付けた電磁弁74と、上部インクタンク内に貯蔵されたインクの液面高さを検出する液面検出センサ34と、上部インクタンクの圧力調整空間内に連通されたベローズ76と、ベローズの他端側に固着された錘79と、錘と一体にベローズを移動させるためのベローズ移動用駆動源85と、ベローズの初期高さ位置設定時に電磁弁を開放し、且つベローズ移動用駆動源を錘側に連結させ、ベローズ移動用駆動源により錘と一体にベローズを液面検出センサの出力に応じた初期高さ位置に移動させる一方、印刷時に電磁弁を閉鎖し且つベローズ移動用駆動源を錘側から切り離して、ベローズと一体に錘を重力により重力方向に移動させることで上部インクタンクの圧力調整空間内の圧力を一定に保つように制御する制御手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクが貯蔵された上部インクタンクと下部インクタンクとの間にインクジェットヘッドが配設され、上下のインクタンク間でポンプを介してインクを循環させながらインクジェットヘッドにより記録紙上にインク画像を印刷する際に、上部インクタンク内に貯蔵されたインクの蒸発を抑制し、且つ、上部インクタンク内の圧力を略一定に調整できる圧力調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、インクジェット方式を適用したインクジェット印刷装置は、画像情報や文字情報などによる印刷データに基いてインクジェットヘッドのノズルからインクを記録紙に向けて吐出させて画像や文字などを印刷することができ、しかも、多色のインクを使用して記録紙上に印刷データをカラーで印刷できるので、家庭用や業務用のプリンタとして多用されている。
【0003】
この種のインクジェット印刷装置の一例として、印刷データを記録紙上に印刷するにあたってインクを多量に使用する場合に、一般的に、インクが貯蔵された上部インクタンクと下部インクタンクとの間でポンプを介してインクを循環させながらインクジェットヘッドにより印刷データを記録紙上に印刷しているが、インク循環型を適用した画像形成装置において、下部インクタンク内の圧力を調整する圧力調整装置を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、インクタンク内に貯蔵されたインクを記録ヘッドに供給する際に、記録ヘッドよりも上流側にインクを適切な負圧に保つためのインク容器の負圧保持機構がある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
まず、上記した特許文献1に開示された圧力調整装置及び圧力調整装置を搭載した画像形成装置では、ここでの図示を省略するが、インク補充タンクを連通させた上部インクタンクと下部インクタンクとの間に記録ヘッドが配設されており、上部インクタンクと下部インクタンクとの間で循環ポンプを介してインクが循環されている。
【0006】
そして、画像形成時には、上部インクタンクに取り付けた大気連通管の弁を開放して上部インクタンク内のインクを記録ヘッドに供給する一方、下部インクタンクに取り付けた大気連通管の弁を閉鎖して、この下部インクタンクに設けた圧力調整装置により下部インクタンク内の圧力を略一定な負圧に調整している。
【0007】
この際、上記した圧力調整装置は、下部インクタンク内の空間の容積変化を、重錘(例えば水)を収納した容器摺動部(特許文献1中の図2)の摺動や、重錘(例えば水)を収納したベローズ(特許文献1中の図5)の変位などにより下部インクタンク内の圧力を略一定な負圧に保持する旨が記載されている。
【0008】
次に、上記した特許文献2に開示されたインク容器の負圧保持機構では、ここでの図示を省略するが、記録ヘッドにインクを供給するインクタンクの上部に連通管の一端が接続され、この連通管の他端に伸縮自在なベローズを用いた負圧容器が接続されていると共に、負圧容器に錘が固着されている。
【0009】
そして、錘の自重により負圧容器(ベローズ)の容積を拡大することで、インクタンク内を常に一定の負圧に保持する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−37020号公報
【特許文献2】特開2001−315350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、特許文献1に開示された圧力調整装置及び圧力調整装置を搭載した画像形成装置では、画像形成時に下部インクタンクに設けた圧力調整装置により下部インクタンク内の圧力を略一定な負圧に保持できるものの、上部インクタンクに取り付けた大気連通管の弁が開放されているために上部インクタンク内のインクは大気に曝されているので、インクの一例として水性インクとか、エマルジョンインクや、溶剤系のインクを用いた場合に、これらのインクが上部インクタンクに取り付けた大気連通管を介して外部に蒸発してしまい、上部インクタンク内のインクの粘度が高くなり、記録ヘッドでの吐出不良が発生すると言う問題が生じる。
【0012】
そこで、水性インクとか、エマルジョンインクや、溶剤系のインクの蒸発を防ぐ目的で画像形成時に上部インクタンクに取り付けた大気連通管の弁を閉鎖して、特許文献1に開示されたような下部インクタンクに設けた圧力調整装置の技術的思想を上部インクタンクに適用をすることが考えられるものの、この圧力調整装置では前述したように重錘として例えば水を用いているので使用勝手が悪いと共に、伸縮自在なベローズを用いる場合に上部インクタンク内の圧力を最適に設定するベローズの初期高さ位置設定について何等の開示もなく示唆すらされていない。
【0013】
一方、特許文献2に開示されたインク容器の負圧保持機構では、記録ヘッドよりも上流側に配置されたインクタンク内を伸縮自在なベローズを用いた負圧容器と錘とにより一定の負圧に保持できるが、ここではインク循環型に構成されていないのでそのまま適用することができない。
【0014】
そこで、インクが貯蔵された上部インクタンクと下部インクタンクとの間にインクジェットヘッドが配設され、上下のインクタンク間でポンプを介してインクを循環させながらインクジェットヘッドにより記録紙上にインク画像を印刷する際に、上部インクタンク内に貯蔵されたインクの蒸発を抑制し、且つ、上部インクタンク内の圧力を略一定に調整できる圧力調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、第1の発明は、インクが貯蔵された上部インクタンクと下部インクタンクとの間にインクジェットヘッドが配設され、上下のインクタンク間でポンプを介して前記インクを循環させながら前記インクジェットヘッドにより記録紙上にインク画像を印刷する際に、前記上部インクタンク内の圧力を略一定に調整する圧力調整装置であって、
前記上部インクタンクの圧力調整空間内に一端側が連通され、且つ、他端側が大気に接する大気連通管と、
前記大気連通管の一端側と他端側との間で選択的に開閉される電磁弁と、
前記上部インクタンク内に貯蔵された前記インクの液面高さを検出する液面検出センサと、
前記上部インクタンクの圧力調整空間内に一端側が連通され、且つ、内部容積が可変可能に伸縮するベローズと、
前記ベローズの他端側に固着された錘と、
前記錘と一体に前記ベローズを移動させるためのベローズ移動用駆動源が前記錘側に選択的に連結されるベローズ移動機構と、
前記ベローズの初期高さ位置設定時に前記電磁弁を開放し、且つ、前記ベローズ移動用駆動源を前記錘側に連結させて、前記ベローズ移動用駆動源により前記錘と一体に前記ベローズを前記液面検出センサの出力に応じた初期高さ位置に移動させる一方、前記ベローズの初期高さ位置設定後の印刷時に前記電磁弁を閉鎖し且つ前記ベローズ移動用駆動源を前記錘側から切り離して、前記錘の重量によりこの錘と一体に前記ベローズを重力方向に移動させることで、前記上部インクタンクの圧力調整空間内の圧力を一定に保つように制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする圧力調整装置である。
【0016】
また、第2の発明は、上記した第1の発明の圧力調整装置において、
前記ベローズ移動機構は、前記錘に接続したラックと、このラックに噛合するギアを回転させるモータと、前記ラック側と前記モータ側とを選択的に接離させる切換え手段とを有する第1の組、又は、前記錘に接続された紐と、この紐を巻回する回転体を回転させるモータと、前記回転体側と前記モータ側とを選択的に接離させる切換え手段とを有する第2の組のいずれか一方の組を備えたことを特徴とする圧力調整装置である。
【0017】
また、第3の発明は、上記した第2の発明の圧力調整装置において、
前記ベローズ移動機構は、前記錘と一体に移動する前記ベローズの移動位置を検出する絶対位置センサを第1の組内の前記ラックの移動、又は、前記第2の組内の前記紐の移動に連動するように取り付けたことを特徴とする圧力調整装置である。
【0018】
また、第4の発明は、上記した第2又は第3の発明の圧力調整装置において、
前記ベローズ移動機構は、待機時に前記第1の組内の前記ラック側と前記モータ側とを前記切換え手段を介して連結した上で両者間をロックさせ、又は、前記第2の組内の前記回転体側と前記モータ側とを前記切換え手段を介して連結した上で両者間をロックさせることを特徴とする圧力調整装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る圧力調整装置によると、インクが貯蔵された上部インクタンクと下部インクタンクとの間にインクジェットヘッドが配設され、上下のインクタンク間でポンプを介してインクを循環させながらインクジェットヘッドにより記録紙上にインク画像を印刷する際に、上部インクタンクの圧力調整空間内に連通された大気連通管に取り付けた電磁弁と、上部インクタンク内に貯蔵されたインクの液面高さを検出する液面検出センサと、上部インクタンクの圧力調整空間内に一端側が連通されたベローズと、ベローズの他端側に固着された錘と、錘と一体にベローズを移動させるためのベローズ移動用駆動源と、ベローズの初期高さ位置設定時に電磁弁を開放し、且つ、ベローズ移動用駆動源を錘側に連結させて、ベローズ移動用駆動源により錘と一体にベローズを液面検出センサの出力に応じた初期高さ位置に移動させる一方、ベローズの初期高さ位置設定後の印刷時に電磁弁を閉鎖し且つベローズ移動用駆動源を錘側から切り離して、錘の重量によりこの錘と一体にベローズを重力方向に移動させることで、上部インクタンクの圧力調整空間内の圧力を一定に保つように制御する制御手段と、を備えているので、この結果、印刷中には、上部インクタンクの圧力調整空間内に連通させた大気連通管に取り付けた電磁弁が閉鎖されるので、上部インクタンク内のインクが大気に触れることがなくなり、インクの蒸発を抑制することができ、これに伴って、上部インクタンク内のインクの粘度が変化しないために、インクジェットヘッドでの吐出不良が発生せず、更に、上部インクタンク内の圧力空間内の圧力を略一定に調整できるので、圧力調整装置の品質及び信頼性の向上に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る実施例の圧力調整装置の全体構成を示したブロック図である。
【図2】本発明に係る実施例の圧力調整装置の全体構成を示した斜視図である。
【図3】本発明に係る実施例の圧力調整装置において、上部インクタンクに設けた圧力調整部内のベローズを待機位置に待機させる状態を模式的に示した図である。
【図4】本発明に係る実施例の圧力調整装置において、上部インクタンクに設けた圧力調整部内のベローズの初期高さ位置を設定する状態を模式的に示した図である。
【図5】本発明に係る実施例の圧力調整装置において、上部インクタンクに設けた圧力調整部内の錘によりベローズを重力方向に移動させる状態を模式的に示した図である。
【図6】本発明に係る実施例の圧力調整装置内に設けた圧力調整部を一部変形させた変形例の圧力調整部を説明するために模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係る圧力調整装置の一実施例について、図1〜図6を参照して詳細に説明する。
【0022】
本発明に係る圧力調整装置では、インクジット方式を適用して、インクが貯蔵された上部インクタンクと下部インクタンクとの間にインクジェットヘッドが配設され、上下のインクタンク間でポンプを介してインクを循環させながらインクジェットヘッドにより記録紙上にインク画像を印刷する際に、上部インクタンク内に貯蔵されたインクを蒸発させることなく、上部インクタンク内の圧力を略一定に調整できるように構成されている。
【0023】
この際、この圧力調整装置に用いられるインクは、水分を含む水性インクや、油性のインクを水中に乳化分散して作製したエマルジョンインク(O/W型又はW/O型)とか、溶剤系のインクのいずれでも良いが、以下に説明する実施例では、水性インクを用いた場合について説明する。
【実施例】
【0024】
本発明に係る実施例の圧力調整装置10の全体構成について、図1及び図2を併用して説明する。
【0025】
上記した圧力調整装置10は、電源11と、パソコンPCや不図示のLANケーブルなどに着脱自在に接続されるインターフェース12と、パソコンPCや不図示のLANケーブルなどからインターフェース12を介して印刷データDが入力され且つ装置全体を制御する制御部13と、例えば水性インクIKを適用してこの水性インクIKを循環させるインク循環経路部20と、インク循環経路部20内の上部インクタンク21と下部インクタンク24との間に配設され且つヘッド駆動回路41及び複数のヘッドブロック44を有して印刷データDに応じて水性インクIKを記録紙PAに向かって吐出させるライン型インクジェットヘッド40と、循環中の水性インクIKの温度を制御するインク温度制御部50と、記録紙PAを搬送する記録紙搬送部60と、上部インクタンク21内の圧力を略一定な値に調整する圧力調整部70と、を備えて構成されている。
【0026】
ここで、本発明に係る実施例の圧力調整装置10内に設けた各構成部材について具体的に順を追って説明する。
【0027】
まず、上記した制御部13は、図1に示した如く、この内部に演算部(CPU)13aと、圧力調整装置10の制御用ソフトなどを記憶したROM13bと、圧力調整装置10の動作時に変更可能な情報を一時的に格納するRAM13cと、後述する上部インクタンク21に取り付けた液面検出センサ34の出力と圧力調整部70内のベローズ76の初期高さ位置との関係を示したテーブル13dとを有している。
【0028】
そして、制御部13によりインク循環経路部20,ライン型インクジェットヘッド40,インク温度制御部50,記録紙搬送部60,圧力調整部70を制御している。
【0029】
次に、図2に示したように、上記したインク循環経路部20は、C(シアン),K(ブラック),M(マゼンタ),Y(イエロー)などの複数色の水性インクIKを循環させるために各色ごとに設けられており、図2中では例えば文字を印刷するためにK(ブラック)の水性インクIKを用いた場合を図示して以下説明する。
【0030】
勿論、K(ブラック)の水性インクIK以外のC(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)などの水性インクIKに対してもK(ブラック)の水性インクIKと同様にインク循環経路部20がそれぞれ設けられているものである。
【0031】
尚、K(ブラック)の水性インクIKを用いて文字だけを印刷するように構成した場合には、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)に対応する部材は必要なくなるので、圧力調整装置10内には少なくとも一以上のインク循環経路部20と、少なくとも一以上のライン型インクジェットヘッド40とを備えれば良いものである。
【0032】
また、インク循環経路部20では、K(ブラック)用の水性インクIKが貯蔵された上部インクタンク21と下部インクタンク24との間にK(ブラック)用のライン型インクジェットヘッド40が配設されている。
【0033】
この際、上部インクタンク21は、ライン型インクジェットヘッド40よりも上方の上流側に配設されており、且つ、上部インクタンク21とライン型インクジェットヘッド40内に設けたインク供給室42との間に接続管22が接続されて、上部インクタンク21内に貯蔵された水性インクIKがライン型インクジェットヘッド40のインク供給室42内に供給されるようになっている。
【0034】
一方、下部インクタンク24は、ライン型インクジェットヘッド40よりも下方の下流側に配設されており、且つ、ライン型インクジェットヘッド40内に設けたインク回収室43と下部インクタンク24との間に接続管23が接続されて、ライン型インクジェットヘッド40のインク回収室43内に回収された水性インクIKが下部インクタンク24内に一時的に貯蔵されるようになっている。
【0035】
また、下部インクタンク24内に一時的に貯蔵された水性インクIKを上部インクタンク21側に吸い上げるポンプ26と、循環中の水性インクIKをインク仕様に基づくインク使用可能範囲内の下限インク温度(例えば25°C)と上限インク温度(例えば45°C)との間に設定した最適な目標インク温度(例えば35°C)に制御するために温度計51及び加熱用ヒータ52並びに冷却用ファン53を備えたインク温度制御部50と、循環中の水性インクIKに対して不純物を除去するフィルタ29とが下部インクタンク24側から上部インクタンク21側に向かって複数の接続管25,27,28を介して上記順に接続されている。
【0036】
また、K(ブラック)の水性インクIKを補充するためのインクボトル30が接続管1と電磁弁32を介して下部インクタンク24に交換可能に接続されていると共に、このインクボトル30内は大気連通管33により大気に開放されている。
【0037】
また、上部インクタンク21には、内部に貯蔵した水性インクIKの液面高さを検出する液面検出センサ34と、上部インクタンク21内の圧力を略一定に調整する圧力調整部70とが取り付けられているが、この実施例の要部を構成する圧力調整部70については後で詳述する。
【0038】
一方、下部インクタンク24には、一端側が下部インクタンク24の圧力調整空間内に連通し且つ他端側が大気に接していると共に、一端側と他端側との間に開閉自在な電磁弁36を有する大気連通管35と、下部インクタンク24内に一時的に貯蔵された水性インクIKの液面高さを検出する液面検出センサ37とが取り付けられている。
【0039】
そして、液面検出センサ37により下部インクタンク24内の水性インクIKが減少していることを検出したときに、制御部13はインクボトル30に接続した接続管31に取り付けた電磁弁32と、大気連通管35に取り付けた電磁弁36とをそれぞれ開いてインクボトル30内の水性インクIKを下部インクタンク24内に補充するようになっている。
【0040】
次に、図2に示したように、K(ブラック)用のライン型インクジェットヘッド40は、記録紙搬送部60を構成する回転自在なベルトプラテン61と対向し、且つ、このベルトプラテン61によってY軸方向に搬送される記録紙PAの上方に固定設置されている。
【0041】
また、ライン型インクジェットヘッド40には、複数のノズル44nを主走査方向(X軸方向)に有するヘッドブロック44が二次元的に複数配置されており、不図示のピエゾ素子(図示せず)を駆動してインク供給室42内に供給された水性インクIKを各ノズル44nから選択的に吐出させると共に、余剰の水性インクIKをインク回収室43内に回収している。
【0042】
この実施例では、ヘッドブロック44が、主走査方向(X軸方向)に沿った一のライン上に沿って複数個配置され、且つ、副走査方向(Y軸方向)に計2ラインに分けて配置されていると共に、隣り合うラインでは各ヘッドブロック44が一部重なりあうように互い違いに千鳥状に配置されている。
【0043】
更に、ライン型インクジェットヘッド40のインク供給室42に温度計45が取り付けられており、この温度計45で各ヘッドブロック44に供給する水性インクIKの温度を検出して、水性インクIKの温度がインク仕様に基づくインク使用可能範囲(例えば25°C〜45°C)内にあることを制御部13が確認した上で、水性インクIKを各ヘッドブロック44から選択的に吐出するようになっている。
【0044】
次に、図2に示したように、上記した圧力調整部70は、上部インクタンク21内に貯蔵された水性インクIKを圧力差によってこの上部インクタンク21よりも下方に配設されたライン型インクジェットヘッド40に供給する際に、上部インクタンク21内の圧力が略1気圧となるように調整する機能を備えている。
【0045】
この圧力調整部70では、三方向ジョイン71の右側に接続管72が接続され、この接続管72の一端側が上部インクタンク21の圧力調整空間内に連通しており、且つ、三方向ジョイン71の中央に大気連通管73が電磁弁74を取り付けた状態で接続されていると共に、三方向ジョイン71の左側に接続管75が重力方向に沿って設置されたベローズ76の一端側となる下端に取り付けた下端密閉板77を介してベローズ76に接続されている。
【0046】
この際、上記した大気連通管73は、一端側が三方向ジョイン71及び接続管72を介して上部インクタンク21の圧力調整空間内に連通され且つ他端側が大気に接していると共に、一端側と他端側との間に開閉自在な電磁弁74が取り付けられているが、三方向ジョイン71を用いずに電磁弁74を有する大気連通管73を上部インクタンク21に直接取り付けても良い。
【0047】
また、上記したベローズ76は、複数の蛇腹により内部容積が可変可能に伸縮するように形成されているものであり、ベローズ76の一端側となる下端側は三方向ジョイン71及び接続管72を介して上部インクタンク21の圧力調整空間内に連通しているが、三方向ジョイン71を用いず上部インクタンク21に直接連通させても良い。
【0048】
また、ベローズ76の他端側となる上端に取り付けた上端密閉板78には金属材などを用いた重量のある錘79が固着され、且つ、この錘79に第1,第2ラック部80a,80bを左右に形成したラック80が重力方向に沿って一体的に取り付けられている。
【0049】
この際、錘79の重量は、上部インクタンク21内の圧力が略1気圧となるように予め設定されている。
【0050】
そして、ラック80の第1ラック部80aには第1ギア81が回転自在に噛合しており、且つ、この第1ギア81の後端軸にロータリーエンコーダなどを用いた絶対位置検出センサ82が取り付けられている。
【0051】
この際、絶対位置検出センサ82は、伸縮自在なベローズ76が最小に縮小したときの下端位置又は最大に伸長した時の上端位置のいずれか一方の位置を基準点としてベローズ76が伸縮した時の高さ位置をラック80の移動に連動して検出するものである。
【0052】
一方、ラック80の第2ラック部80bには第2ギア83が回転自在に噛合しており、且つ、この第2ギア83の後端軸に電磁クラッチ84とギアードモータ85とがこの順に取り付けられて、電磁クラッチ84によりギアードモータ85の駆動力を第2ギア83に伝達したり、あるいは、第2ギア83から切り離すように構成されている。従って、電磁クラッチ84は、ラック80側とギアードモータ85側とを選択的に接離させる切換え手段として機能している。
【0053】
ここで、上記のように構成した圧力調整部70の動作について図3〜図5を用いて説明する。
【0054】
まず、図3に示した状態は、前回の印刷が終わって圧力調整部70は次の印刷を開始する前の待機状態であり、この待機状態では圧力調整部70内に設けたベローズ76の待機位置が前回の印刷終了時の位置によって決まり、通常では伸縮自在なベローズ76が縮小状態に至っている。
【0055】
そして、圧力調整部70内に設けたベローズ76が待機位置に至っているときに、上部インクタンク21内の水性インクIKがライン型インクジェットヘッド40(図2)に供給され続けると、各ヘッドブロック44のノズル44n(図2)から水性インクIKが垂れたり、あるいは、下部インクタンク24(図2)内が満タンになり水性インクIKが溢れしまったりするので、この実施例では、上部インクタンク21の圧力調整空間内に連通された大気連通管73に取り付けた電磁弁74を閉鎖し、上部インクタンク21の圧力調整空間内を密閉状態にして水性インクIKがライン型インクジェットヘッド40に流れないようにしている。
【0056】
また、ギアードモータ85は停止しており、且つ、このギアードモータ85内に設けられた減速機構(図示せず)によりギアードモータ85がロックされているので、ギアードモータ85と電磁クラッチ84を介して連結された第2ギア83及び第2ギア83が噛合した第2ラック部80bを有するラック80もロックされている。これにより、ラック80と一体な錘79及びベローズ76も待機位置でロックされていることになる。
【0057】
この際、ラック80の第1ラック部80aに噛合した第1ギア81も回転を停止しているので、この第1ギア81の後端軸に取り付けた絶対位置検出センサ82はベローズ76の待機位置での絶対位置を制御部13(図1)に知らせている。
【0058】
次に、図4に示した如く、印刷開始前には上部インクタンク21内の圧力を予め調整しておく必要があるので、圧力調整部70内に設けたベローズ76の初期高さ位置を設定している。
【0059】
ここでは、上部インクタンク21の圧力調整空間内に連通された大気連通管73に取り付けた電磁弁74を一時的に開放して、上部インクタンク21の圧力調整空間内を大気開放状態にすると共に、上部インクタンク21内に貯蔵された水性インクIKの液面高さを液面検出センサ34で検出したときの出力を制御部13(図1)に知らせている。
【0060】
そして、液面検出センサ34の出力に基づいて制御部13(図1)内に設けたテーブル13d(図1)からベローズ76の初期高さ位置を求め、ギアードモータ85を駆動して電磁クラッチ84に連結された第2ギア83を例えば矢印方向に回転させる。
【0061】
この第2ギア83の矢印方向への回転に伴って、第2ギア83が噛合した第2ラック部80bを有するラック80が矢印方向に向かって上動するので、ラック80と一体な錘79及びベローズ76も待機位置から矢印方向に向かって上動すると共に、ラック80の第1ラック部80aに噛合した第1ギア81の後端軸に取り付けた絶対位置検出センサ82からの絶対位置情報がベローズ76の初期高さ位置情報と一致したときに、ギアードモータ85を停止させて、大気連通管73に取り付けた電磁弁74を閉鎖している。
【0062】
これにより、ベローズ76が液面検出センサ34の出力に応じた初期高さ位置に至ったときに、上部インクタンク21の圧力調整空間内が密閉状態となると共に、錘79の重量設定により上部インクタンク21内の圧力が略1気圧となるように調整される。
【0063】
尚、ベローズ76が上方に待機していて、液面検出センサ34で検出した液面高さの出力に基づくベローズ76の初期高さ位置がベローズ76の待機位置よりも下方にある場合には、第2ギア83を上記とは逆に回転させれば良いものである。
【0064】
次に、図5に示した如く、印刷するときには、圧力調整部70内に設けたベローズ76が初期高さ位置に設定された後であり、上部インクタンク21の圧力調整空間内に連通された大気連通管73に取り付けた電磁弁74が閉鎖されているので、上部インクタンク21内の圧力が略1気圧に保たれていると共に、ギアードモータ85を停止した状態で電磁クラッチ84が第2ギア83から切り離されるので、第2ギア83がフリー回転状態になる。
【0065】
従って、錘79とラック80とが加算された重量により両者80,79が重力方向に自然落下可能になり、印刷動作中に上部インクタンク21内の水性インクIKが徐々に減少するのに伴って、上部インクタンク21内の圧力調整空間内の体積とベローズ76内の体積との合計体積が略一定となるように錘79及びラック80と一体にベローズ76が重力方向に沿って下動することで、上部インクタンク21内の圧力が略1気圧に保たれる。
【0066】
即ち、錘79及びラック80の自重によりベローズ76は押し潰されて縮小し、このベローズ76内の空気が接続管75及び三方向ジョイン71並びに接続管72を通って上部インクタンク21内に押し流される。
【0067】
これに伴って、上部インクタンク21内の水性インクIKは、ベローズ76内から押し流された空気によって加圧され、圧力が低い方へと流動するので、上部インクタンク21内から接続管22を介してライン型インクジェットヘッド40(図2)のインク供給室42(図2)内に供給される。
【0068】
そして、インク供給室42(図2)内の水性インクIKが複数のヘッドブロック44(図2)の各ノズル44nから記録紙PA上に選択的に吐出される一方、余剰の水性インクIKはインク回収43(図2)から接続管23を通って下部インクタンク24(図2)に一時的に貯蔵された後に、ポンプ26(図2)により上部インクタンク21側に循環される。
【0069】
この際、印刷中における下部インクタンク24(図2)は、この圧力調整空間内に連通された大気連通管35に取り付けた電磁弁36が閉鎖されている状態であり、且つ、不図示の負圧印加部により負圧に設定されている。
【0070】
従って、ポンプ26によって下部インクタンク24から上部インクタンク21へと水性インクIKが流入し、上部インクタンク21内で水性インクIKの量が変動した場合にも、上部インクタンク21内及びベローズ76内の合計の空気量は一定であるので、上部インクタンク21内の空気量が変化した量だけ、ベローズ76内の空気量が増加又は減少するために、上部インクタンク21内の圧力は略一定に保たれる。
【0071】
上記により、印刷中には、上部インクタンク21の圧力調整空間内に連通された大気連通管73に取り付けた電磁弁74が閉鎖されるので、上部インクタンク21内の水性インクIKが大気に触れることがなくなり、水性インクIKの蒸発を抑制することができ、これに伴って、上部インクタンク21内の水性インクIKの粘度が変化しないために、ライン型インクジェットヘッド40(図2)での吐出不良が発生せず、更に、上部インクタンク21内の圧力空間内の圧力を略一定に調整できるので、圧力調整装置10の品質及び信頼性の向上に寄与できる。
【0072】
次に、実施例の圧力調整部70を一部変形させた変形例の圧力調整部70’について図6を用いて簡略に説明する。
【0073】
尚、図6中において、実施例と同一の構成部材に対して同一の符号を付し、且つ、実施例と異なる構成部材に新たな符号を付している。
【0074】
図6に示した如く、変形例の圧力調整部70’では、ベローズ76に固着させた錘79の中心部位に長尺な紐90の一端が接続され、且つ、この紐90の他端部が絶対位置検出センサ91を取り付けたガイドローラ92を経て回転体93に巻き付けられており、且つ、回転体93の後端軸に電磁クラッチ94とギアードモータ95とがこの順に取り付けられて、電磁クラッチ94によりギアードモータ95の駆動力を回転体93に伝達したり、あるいは、回転体93から切り離すように構成されている。従って、電磁クラッチ94は、回転体93側とギアードモータ95側とを選択的に接離させる切換え手段として機能している。
【0075】
この際、絶対位置検出センサ91は、ガイドローラ92に巻き付いた紐90の移動量を検出できるので、ベローズ76の高さ位置を紐90の移動に連動して検出することが可能である。
【0076】
そして、上記のように構成した変形例の圧力調整部70’の動作は、実施例と略同じであり、ベローズ76が待機位置に至っているときには、ギアードモータ95の減速機構(図示せず)により電磁クラッチ94を介して紐90を巻き付けた回転体93がロックされているので、錘79と一体なベローズ76も待機位置にロックされていることになる。
【0077】
また、ベローズ76の初期高さ位置を設定するときには、上部インクタンク21の圧力調整空間内に連通された大気連通管73に取り付けた電磁弁74を開放し、且つ、ギアードモータ95の駆動力を電磁クラッチ94に連結された回転体93に伝達させて、ギアードモータ95の駆動力により液面検出センサ34の出力に応じて回転体93を回転させながら紐90を介して錘79と一体にベローズ76を液面検出センサ34の出力に応じた初期高さ位置に設定している。
【0078】
更に、印刷時には、上部インクタンク21の圧力調整空間内に連通された大気連通管73に取り付けた電磁弁74を閉鎖し、且つ、ギアードモータ95を停止した状態で電磁クラッチ94が回転体93から切り離されるので、回転体93がフリー回転状態になり、錘79の自重により回転体93から紐90が引き出されてこの紐90を接続した錘79が重力方向に自然落下可能になるので、上部インクタンク21内の圧力調整空間内の体積とベローズ76内の体積との合計体積が略一定となるように錘79と一体なベローズ76が重力方向に沿って下動することで、上部インクタンク21内の圧力が略1気圧に保たれる。
【0079】
従って、変形例の圧力調整部70’でも、実施例と略同様に、上部インクタンク21の圧力調整空間内に連通された大気連通管73に取り付けた電磁弁74が閉鎖されているので、上部インクタンク21内の水性インクIKが大気に触れることがなくなり、水性インクIKの蒸発を抑制することができ、これに伴って、上部インクタンク21内の水性インクIKの粘度が変化しないために、ライン型インクジェットヘッド40(図2)での吐出不良が発生せず、更に、上部インクタンク21内の圧力空間内の圧力を略一定に調整できるので、圧力調整装置10の品質及び信頼性の向上に寄与できる。
【符号の説明】
【0080】
10…実施例の圧力調整装置、
11…電源、12…インターフェース、
13…制御部、13a…演算部(CPU)、13b…ROM、13c…RAM、
13d…テーブル、
20…インク循環経路部、51…上部インクタンク、22,23…接続管、
24…下部インクタンク、25…接続管、26…ポンプ、27,28…接続管、
29…フィルタ、30…インクボトル、31…接続管、32…電磁弁、
33…大気連通管、34…液面検出センサ、35…大気連通管、36…電磁弁、
37…液面検出センサ、
40…ライン型インクジェットヘッド、
41…ヘッド駆動回路、42…インク供給室、43…インク回収室、
44…ヘッドブロック、44n…ノズル、45…温度計、
50…インク温度制御部、51…温度計、52…加熱用ヒータ、53…冷却用ファン、
60…記録紙搬送部、61…ベルトプラテン、
70…実施例の圧力調整部、
71…三方向ジョイン、72…接続管、73…大気連通管、74…電磁弁、
75…接続管、76…ベローズ、77…下端密閉板、78…上端密閉板、
79…錘、80…ラック、80a…第1ラック部、80b…第2ラック部、
81…第1ギア、82…絶対位置検出センサ(ロータリーエンコーダ)、
83…第2ギア、84…電磁クラッチ、85…ギアードモータ、
90…紐、91…絶対位置検出センサ、92…ガイドローラ、
93…回転体、94…電磁クラッチ、95…ギアードモータ、
D…印刷データ、IK…インク(水性インク)、PA…記録紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが貯蔵された上部インクタンクと下部インクタンクとの間にインクジェットヘッドが配設され、上下のインクタンク間でポンプを介して前記インクを循環させながら前記インクジェットヘッドにより記録紙上にインク画像を印刷する際に、前記上部インクタンク内の圧力を略一定に調整する圧力調整装置であって、
前記上部インクタンクの圧力調整空間内に一端側が連通され、且つ、他端側が大気に接する大気連通管と、
前記大気連通管の一端側と他端側との間で選択的に開閉される電磁弁と、
前記上部インクタンク内に貯蔵された前記インクの液面高さを検出する液面検出センサと、
前記上部インクタンクの圧力調整空間内に一端側が連通され、且つ、内部容積が可変可能に伸縮するベローズと、
前記ベローズの他端側に固着された錘と、
前記錘と一体に前記ベローズを移動させるためのベローズ移動用駆動源が前記錘側に選択的に連結されるベローズ移動機構と、
前記ベローズの初期高さ位置設定時に前記電磁弁を開放し、且つ、前記ベローズ移動用駆動源を前記錘側に連結させて、前記ベローズ移動用駆動源により前記錘と一体に前記ベローズを前記液面検出センサの出力に応じた初期高さ位置に移動させる一方、前記ベローズの初期高さ位置設定後の印刷時に前記電磁弁を閉鎖し且つ前記ベローズ移動用駆動源を前記錘側から切り離して、前記錘の重量によりこの錘と一体に前記ベローズを重力方向に移動させることで、前記上部インクタンクの圧力調整空間内の圧力を一定に保つように制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする圧力調整装置。
【請求項2】
前記ベローズ移動機構は、前記錘に接続したラックと、このラックに噛合するギアを回転させるモータと、前記ラック側と前記モータ側とを選択的に接離させる切換え手段とを有する第1の組、又は、前記錘に接続された紐と、この紐を巻回する回転体を回転させるモータと、前記回転体側と前記モータ側とを選択的に接離させる切換え手段とを有する第2の組のいずれか一方の組を備えたことを特徴とする請求項1記載の圧力調整装置。
【請求項3】
前記ベローズ移動機構は、前記錘と一体に移動する前記ベローズの移動位置を検出する絶対位置センサを第1の組内の前記ラックの移動、又は、前記第2の組内の前記紐の移動に連動するように取り付けたことを特徴とする請求項2記載の圧力調整装置。
【請求項4】
前記ベローズ移動機構は、待機時に前記第1の組内の前記ラック側と前記モータ側とを前記切換え手段を介して連結した上で両者間をロックさせ、又は、前記第2の組内の前記回転体側と前記モータ側とを前記切換え手段を介して連結した上で両者間をロックさせることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の圧力調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−68097(P2011−68097A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223079(P2009−223079)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】