説明

圧延制御方法及び圧延制御装置

【課題】
従来は、エッジドロップ品質と、板端部によるロールヘの傷つきによる、板表面へのロールマークの防止を両立させた圧延は困難であった。
【解決手段】
WRを幅方向にいくつかの仮想領域に区切り、板端部がその位置にあった圧延長さを積算し、エッジドロップが許容値を超えないWRシフト領域内で、上記積算値がある値を超えた領域を使用しないようにWRのシフト位置を決定する。
【効果】
エッジドロップ品質と、板表面品質の両者を達成することが出来る。更にロール自体の寿命を長くすることが出来るので、ロールにかかるコスト削減,ロール交換のための時間削減による生産量増加が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延制御方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、圧延制御においては、被圧延材の板幅方向端部の板厚の落ちこみを防止するために、エッジドロップ量計測値と、鋼板の目標エッジドロップ量設定値を比較演算し、この比較演算値に基づき、圧延機の作業ロールの板幅方向へのシフト制御を行っている。このような技術は、例えば特開昭60−12213号公報に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−12213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような作業ロールの制御では、エッジドロップ制御が安定すると、作業ロールシフト位置が変更されなくなる。ロールシフト位置が一定のままでは、ロール表面上で板端部が当たる部分に、板端による局部的な力が連続して加わるために、次第に筋状の傷が付いてくる。このロールに傷が付いた部分が板端部よりロールに付いた傷が圧延材に転写される、いわゆるロールマーク転写が発生し、板の表面品質を劣化させる。
【0005】
本発明は上記の問題点を顧みてなされたものであり、本発明の目的は、エッジドロップ制御においても、表面品質の劣化を抑制することが可能なものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、被圧延材の板幅方向端部近傍に相当する圧延ロールの領域を特定して作業状況を積算するように構成した。
【0007】
好ましくは、ロールを幅方向にいくつかの仮想領域に区切った記憶域を設け、板端部がその領域に有った圧延長さを領域毎に積算し、その積算値によりその領域に付いたロールマークの度合いを判定し、エッジドロップ制御でロールのシフト位置を制御する場合、エッジドロップの許容範囲を満足するシフト領域内で、上記計測値がある値を超えた領域を使用しないようにシフト位置を決定することにより達成できる。
【0008】
好ましくは、作業ロールを幅方向にいくつかの仮想領域に区切り、板端部がその位置にあった圧延長さを積算し、エッジドロップが許容値を超えない作業ロールシフト領域内で、上記積算値がある値を超えた領域を使用しないように作業ロールのシフト位置を決定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、表面品質の劣化を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について図を用いて説明する。
【0011】
図1は、本発明を適用した圧延機のエッジドロップ制御装置の1実施例である。圧延材15は圧延機スタンド1によって所望の厚さに圧延される。圧延機スタンド1の詳細を図2に示す。被圧延材15を挟んで、上作業ロール111及び下作業ロール112(上作業ロール111及び下作業ロール112を総称して作業ロール11と呼ぶ)が設けられる。上作業ロール111及び下作業ロール112は各々板幅方向端部にテーパを持っている。例えば、上作業ロール111のテーパ部は右端部に設け下作業ロール112のテーパ部は左端部に設け、上作業ロール111のテーパ部と下作業ロール112のテーパ部は互いに反対側の端部に設ける。このように設けることで、被圧延材の板幅方向の両端でエッジドロップ制御が可能となる。
【0012】
上作業ロール111及び下作業ロール112を挟んで、上中間ロール121及び下中間ロール122(上中間ロール121及び下中間ロール122を総称して中間ロール12と呼ぶ)をさらにこれらを挟んで、上バックアップロール131及び下バックアップロール132(上バックアップロール131及び下バックアップロール132を総称してバックアップロール13と呼ぶ)を設ける。
【0013】
本図が示すように、実施例のエッジドロップ制御装置には、圧延機スタンド出側に設置されるエッジドロップ検出器3が設けられている。エッジドロップ検出器3は、図4に示すエッジドロップ評価点(例えば、板端部から10mmの位置)の板厚と板中央部(例えば、板端部から100mmの位置)の板厚の偏差を検出する。このエッジドロップ検出器により測定されるエッジドロップ値と、目標エッジドロップ設定装置5により決定される目標エッジドロップとの偏差に応じ、エッジドロップ制御出力演算装置4はエッジドロップ制御出力を作業ロールシフト11のシフト量として演算する。作業ロール11のシフト量(WRシフト量)は図2に示されるように上作業ロール111のテーパ開始部分、被圧延材15の端部までの距離(ΔWS)操作側として演算され、また下作業ロール112のテーパ開始部から被圧延材15の端部までの距離(ΔWD)駆動側として演算される。WR領域別圧延長積算装置7はWRを幅方向の仮想領域毎に圧延長さを積算する。WRオシレーション出力演算装置8はこの積算値に基づき作業ロールシフト量(ΔW)を変更するための作業ロールオシレーション量ΔWOCを演算する。エッジアップ判定装置10は、エッジドロップ検出値を基に、板端部での板厚が他の部分より厚くなっている状態(エッジアップ)を判定する。エッジアップ除去WRシフト量演算装置11はエッジアップを除去するために作業ロールシフト量ΔWを演算する。WRシフト制御出力決定装置9はエッジドロップ制御出力演算装置4,WRオシレーション出力演算装置8及びエッジアップ除去WRシフト量演算装置11の出力に基づいて、最終制御出力を決定する。これにより、WRシフト制御装置6が圧延機スタンド1を制御する。エッジドロップ制御出力演算装置4の詳細を説明する。
【0014】
6段式の圧延機スタンド1のエッジドロップ制御を例として説明する。エッジドロップ制御出力演算装置4は、圧延機におけるエッジドロップ制御を行うもので、圧延機出側のエッジドロップ量(板端部における板厚ドロップ)を、エッジドロップ検出器3からの検出信号と、目標エッジドロップ設定装置5より与えられる目標エッジドロップとの差に応じて、圧延機が有するアクチュエータを操作する量を演算し、エッジドロップを制御する。6段式の圧延機において、このアクチュエータには、(1)作業ロール11(以下WR)シフト、(2)中間ロール12(インターミディエートロール;以下IMR)シフトが有るので、これらを制御することによりエッジドロップ量を制御する。作業ロール11のWRシフト,中間ロール12のIMRシフトは、それぞれロールの軸方向の位置を変更させる機能である。図2に示すようにロール片端部にはあらかじめ先細り(テーパ)加工がなされているので、ロールの軸方向の位置を変更することにより、ロールの圧延材に対する先細り(テーパ)開始点が変更され、圧延材端部における板をつぶす力の分布を変えることにより、エッジドロップを制御する。すなわち、エッジドロップ制御出力演算装置4は、エッジドロップ検出器3で検出されたエッジドロップ量が、目標エッジドロップ設定装置5で設定された目標エッジドロップ量に近づくように、作業ロールシフト量ΔWを演算する。
【0015】
次に、WR領域別圧延長積算装置7及びWRオシレーション出力演算装置8の詳細について説明する。まずはじめにWR領域別圧延長積算装置7について、作業ロール111の板幅方向に対して、図3に示すように仮想的な領域(i−n,…,i−1,i,i+1,…,i+m)を作成する。このロールの幅方向シフト位置はエッジドロップ制御などにより動作する。このシフト動作により被圧延材の板端部がロールに接触する位置が変わる。WR領域別積算装置7には、仮想領域毎(i−n,…,i−1,i,i+1,…,i+m)に圧延長さを積算する記憶域を持っており、圧延中に板端部が接触している前記仮想領域の圧延長さを積算し、記憶しておく。仮想領域毎の積算値についてはロール交換した時点からの値を積算しておく(ロール交換で積算値をクリアする)。
【0016】
WRオシレーション出力演算装置8では、エッジドロップ制御出力演算装置4の出力(WRシフト量ΔW)に対する補正量であるWRオシレーション量ΔWOCを演算する。すなわち、WRシフト量はΔW+ΔWOCとして補正される。
【0017】
WRオシレーション出力演算装置8では、第1の所定圧延長積算値毎(例えば、100m毎)に、前回の作業ロール11の板端部相当領域と領域と今回の作業ロール11の板端部相当領域が同上か否か判断する。同じであると、前々回の作業ロール11の板端部相当領域から前回の作業ロール11の板端部相当領域への移動方向と同方向に移動するようにWRオシレーション量を演算する。例えば、前々回から前回に領域i−1から領域iに移動していれば、今回、領域iから領域i+1に作業ロール11の板端部相当領域が移動するように、WRオシレーション量ΔWOCを演算する。このような制御によると、WRシフト量ΔW+ΔWOCにより、作業ロール11は図4(b)のように移動する。
【0018】
この積算値が一定量を超えると(前記第1の積算値よりも充分に大きな値であり、例えば10km、これを第2の積算値と呼ぶ)、ロールのその領域には傷が付く可能性が非常に高いと判断できる。この時、ロールのシフト位置を変更する(このシフト位置変更動作を以下オシレーションと呼ぶ)。
【0019】
図4に示されるようにエッジドロップは、板端部より数十ミリメートル内側にあるエッジドロップ評価点における板厚の減少量である。ロールには図4にあるような先細り加工がなされているので、その幅方向のシフト位置を変えることにより、このエッジドロップを制御することが出来る。シフト位置を板端部より内側方向に変更するとエッジドロップ量は減少し、逆に外側に変更するとエッジドロップ量は増加する。
【0020】
先に述べたように、ある領域での積算値が一定量(第2の積算値)を超えたときにロールのシフト位置を変更する。すなわち、今回領域iから領域i+1に移動しようとしたときに、領域i+1における延長積算値が第2の積算値を超えていた場合には、さらに領域i+2に移動するように、WRオシレーション量ΔWOCを演算する。ところでエッジドロップには板厚制御などとは異なって許容範囲があるので、この範囲内にエッジドロップが収まるようであれば、ロールのシフト位置を変更しても差し支えない。すなわち、図4に示されるように、エッジドロップ許容範囲からエッジドロップを許容できるWRシフト範囲(最大WRシフト量WRmaxと最小WRmin)を求めておき、WRシフト量(ΔW+ΔWOC)と比較する。移動する予定の領域i+1でのWRシフト量がWRシフト範囲からはずれた場合には、例えば、前回の領域から今回への領域移動とは逆の方向に領域移動するようにΔWOCを演算する。例えば、前回に領域i−1から領域iに移動したのであれば、今回領域iから領域i−1に戻るように作業ロール11を制御する。
【0021】
エッジドロップ量減少の観点からシフト内側に、領域1つ分移動させる。引き続きその領域での積算値が一定量を超えたときに、更に領域1つ分シフトを内側に変更する。この動作を続けた結果エッジドロップが許容範囲を超えてしまうようであれば逆に外側に領域1つ分移動させる。外側への移動を繰り返し、再びエッジドロップが許容範囲を超える時に、内側への移動を再開する。
【0022】
上記の一連の動作により、1つのコイル内におけるエッジドロップの許容範囲を満足するシフト領域が決定される。このシフト領域が決定された後は、出来るだけ、各領域に板端部が存在した量が均一となるようにシフト動作をさせる。例えば図4において現在領域i−1を使用しており、次のシフト動作方向は内側シフトで領域iとなるが、領域iは既に積算値が大きくなってしまっているので(第1の積算値と第2の積算値の間の値である、第3の積算値と呼ぶ)この領域は使用せず、領域i+1までシフト位置を変更するようにする。
【0023】
このように、シフト位置を内側→外側→内側→…と繰り返し変更するので、この動作をオシレーションと呼ぶ。
【0024】
次に、エッジアップ判定装置10及びエッジアップ除去WRシフト量決定装置11の詳細を説明する。エッジアップ判定装置10において、図4に示すエッジドロップ評価点におけるエッジアップをチェックする。エッジアップを検出した場合には、エッジアップ除去WRシフト量演算装置8により、エッジアップを除去するためのWRシフト量ΔWEUを演算する。具体的には、WRシフト量ΔWを零あるいは近傍とする。
【0025】
次に、WRシフト制御出力決定装置9の詳細を説明する。WRシフト制御出力として(1)出側エッジドロップ制御出力4、(2)WRオシレーション制御出力8、(3)エッジアップ除去制御出力11の3つの制御出力値がWRシフト制御出力装置9に入力される。WRシフト制御出力決定装置9は、エッジドロップ検出器3の検出値に基づいて、エッジアップが発生していると判断した場合、エッジアップ除去WRシフト量11の出力値ΔWEUを作業ロールシフト量とする。エッジアップがなければ、エッジドロップ量が所定範囲(図4に示すエッジドロップ許容範囲。ただし、この許容範囲よりも広い範囲とすることも、この許容範囲より狭い範囲としても良い)の範囲外であると、エッジドロップ制御出力演算装置4の出力値ΔWを作業ロールシフト量とする。許容範囲内であれば、WRオシレーション装置8の出力値ΔW+ΔWOCを作業ロールシフト量とする。WRシフト制御出力決定装置では、これら3つの出力に優先順位を付けて最終制御出力を決定する。例えば優先順位1をエッジアップ除去制御出力、優先順位2を出側エッジドロップ制御出力、優先順位3をWRオシレーション制御出力とする。優先順に出力がゼロで無いものを選択し、WRシフト最終制御出力として、WRシフト制御装置に制御出力を与える。
【0026】
なお、エッジドロップ制御出力演算装置4,目標エッジドロップ設定装置5,WRシフト制御装置6,WR領域別圧延長積算装置7,WRオシレーション出力演算装置8,WRシフト制御出力決定装置9,エッジアップ判定装置10及びエッジアップ除去WRシフト量演算装置11を装置として説明したが、これらの全てあるいは一部を、一つあるいは複数の計算器によってソフトウェア動作されることが可能なことはいうまでもない。
【0027】
これらにより、エッジドロップ制御中においても、エッジドロップと板表面品質を両立させた圧延を実現出来る。また、ロールの長寿命化が可能となり、ロールにかかるコスト削減,ロール交換のための時間削減による生産量増加が可能である。
【0028】
以上説明してきたように、WRの板幅方向の仮想領域毎に圧延長さを積算し、この積算値がある一定値を超えてしまった領域を使用しないことによりロールマークの圧延材への転写を防止することにより、安定したエッジドロップの製品と、圧延材表面品質の両立及びロールの長寿命化,ロールにかかるコスト削減,ロール交換のための時間削減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】圧延機のエッジドロップ制御装置の全体ブロック図。
【図2】圧延機スタンドの構成図。
【図3】WR領域別圧延長積算装置の動作説明図。
【図4】本実施例のWRオシレーション動作の説明図。
【符号の説明】
【0030】
1…圧延機スタンド、2…被圧延材、3…エッジドロップ検出器、4…エッジドロップ制御出力演算装置、5…目標エッジドロップ設定装置、6…WRシフト制御装置、7…WR領域別圧延長積算装置、8…WRオシレーション出力演算装置、9…WRシフト制御出力決定装置、10…エッジアップ判定装置、11…エッジアップ除去WRシフト量演算装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材の板幅方向端部近傍の板厚を制御するために圧延ロールを板幅方向に移動するよう制御する方法において、被圧延材の板幅方向端部近傍に相当する圧延ロールの領域を特定して作業状況を積算し、前記圧延ロールの移動を前記積算状況に応じて制御する圧延制御方法。
【請求項2】
請求項1において、被圧延材の板幅方向端部近傍に相当する圧延ロールを複数領域に分けて、各々の領域で作業状況を積算し、前記圧延ロールの移動は前記各々の積算状況に応じて制御される圧延制御方法。
【請求項3】
請求項2において、前記積算は圧延長の積算である圧延制御方法。
【請求項4】
請求項3において、前記圧延長が所定値を超えたときに、相当する領域での圧延ロールの部分が被圧延材の板幅方向端部近傍から離れるように、前記圧延ロールの移動を制御する圧延制御方法。
【請求項5】
請求項1において、被圧延材の板幅方向端部近傍に相当する圧延ロールを複数領域に分けて、領域から領域に段階的に前記圧延ロールを移動させるように制御する圧延制御方法

【請求項6】
請求項5において、一方向から他方向へと前記圧延ロールが周期的に移動を繰り返えすように制御する圧延制御方法。
【請求項7】
請求項6において、前記板幅方向端部近傍の板厚の許容量に応じて、前記周期的な移動の範囲を抑制するように制御する圧延制御方法。
【請求項8】
請求項1において、被圧延材の板幅方向端部近傍の板厚が、中心部方向の板厚に近くなったとき、あるいは、超えたときに、前記板厚が小さくなるように前記圧延ロールの移動を制御する圧延制御方法。
【請求項9】
被圧延材の板幅方向端部近傍の板厚を制御するために圧延ロールを板幅方向に移動するよう制御する圧延制御装置において、被圧延材の板幅方向端部近傍に相当する圧延ロールの領域を特定して作業状況を積算する積算手段を有し、前記圧延ロールの移動を前記積算状況に応じて制御することを特徴とする圧延制御装置。
【請求項10】
請求項9において、被圧延材の板幅方向端部近傍に相当する圧延ロールを複数領域に分けて、各々の領域で作業状況を積算し、前記圧延ロールの移動を前記各々の積算状況に応じて制御する圧延制御装置。
【請求項11】
請求項10において、前記積算は圧延長の積算である圧延制御装置。
【請求項12】
請求項11において、前記圧延長が所定値を超えたときに、相当する領域での圧延ロールの部分が被圧延材の板幅方向端部近傍から離れるように、前記圧延ロールの移動を制御する圧延制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−229723(P2008−229723A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130276(P2008−130276)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【分割の表示】特願2004−297082(P2004−297082)の分割
【原出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】