説明

圧延材の捻転発生の検出方法、圧延材の捻転抑制方法及びこれらの方法が採用される圧延機

【課題】圧延材を正確に案内するというローラガイドの本来の機能を損なうことなく、圧延材の捻転状態を正確に判断する。
【解決手段】本発明の圧延材Wの捻転発生の検出方法は、外周面にカリバが形成された一対の圧延ロール10、10とこの圧延ロール10の上流側または下流側に設けられたガイドローラ13とを有する圧延機を用いて圧延材Wを圧延するに際して、ガイドローラ13を回転自在に支持する一対の軸支部14、14のそれぞれに、軸支部14に作用するラジアル荷重を計測する荷重計測手段15を設けておき、荷重計測手段15の結果に基づいて、圧延材Wの捻転を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延材の捻転発生の検出方法、圧延材の捻転抑制方法及びこれらの方法が採用される圧延機に関する。
【背景技術】
【0002】
ビレットやブルームなどの鋼片より線材や棒鋼などの条鋼を製造する条鋼圧延設備(条鋼圧延ライン)では、上流側より順に、加熱炉、粗圧延装置、中間圧延装置、仕上げ圧延装置が配置されているのが一般的である。
このうち粗圧延装置や中間圧延装置には、菱孔型、角孔型、丸孔型などの孔型(カリバ)を圧延ロールの外周面に備えた複数の圧延機が順に備えられている。それぞれの圧延機は、その圧延ロールの軸心が水平方向、垂直方向と交互になるように順番に配置されている。
【0003】
このような粗圧延装置や中間圧延装置を用いて、これらの圧延機を順番に通過させながら圧延材の断面形状を徐々にサイズダウンしつつ圧延(孔型圧延)が行われ、最終的に仕上げ圧延機へと圧延材が導入される。
ところで、粗圧延装置や中間圧延装置での孔型圧延においては、何らかの理由で圧延材が捻れてしまうことがある。このような捻れがある圧延材を圧延機で圧延しようとすると、圧延材の断面形状と孔型の形状とが下流側の圧延機で合致しなくなってしまい、圧延材に無理な力が作用して折れ込み疵などが発生し、圧延品質が大きく損なわれる虞がある。
【0004】
それ故、従来の圧延設備には、次の特許文献1や特許文献2に示すような圧延材の捻転検出方法が開発されてきた。
例えば、特許文献1は、丸鋼材を連続圧延する際の被圧延材の捻転検出方法であって、被圧延材の軸心を通る垂直方向または水平方向の延長線上の一点で交わる2本の基準線を被圧延材の両外周端近傍を望む如く前記延長線に対称な角度で放射状に設定し、前記基準線の被圧延材を挟む一方側に基準線と平行でかつ被圧延材の断面と平行な面で幅を有する平行光線の光源を、他方側に平行光線の受光器をそれぞれ設け、前記平行光線が被圧延材の外周端によって遮光される点と前記基準線との距離を測定し、この測定値を演算機に入力してあらかじめ記憶させた前記基準線と被圧延材断面形状との関係に基づき被圧延材断面の傾斜を求める被圧延材の捻転検出方法を開示する。すなわち、特許文献1には、圧延材から離れた光源から圧延材の表面に向かって光線を照射し、照射された光線にできる圧延材の影(シルエット)から、圧延材の捻転方向と捻転角度とを算出する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2は、少なくとも1つの圧延機で圧延した後の鋼材を捻転させて次の圧延機に噛み込ませて棒線材を圧延する工程において鋼材を捻転させた後に圧延する圧延機の入側に用いられるローラーガイドであって、ガイドローラと該ガイドローラの芯間を調整する芯間調整機構が組み込まれたハウジングに、鋼材の圧延方向に垂直な面内で芯間が自在に動き得るガイドローラと該ガイドローラの芯間を閉じる方向に引くスプリングとレシービングガイドとを組み込んだローラーホルダが鋼材の圧延方向に垂直な面内で自在に回動し得るように組み込まれ、且つ該ローラーホルダの回動角度を検出する角度検出装置を有している棒線材の捻転圧延用ローラーガイドを開示する。すなわち、特許文献2のローラホルダは圧延方向に対して垂直な面に沿って自由に回動可能とされており、圧延材が捻転すれば圧延材に合わせて回動するようになっている。それ故、この圧延設備では、ローラホルダの回動角度を角度検出装置を用いて検出すれば、圧延材の捻転状態を算出できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−126539号公報
【特許文献2】実開平4−108908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1に記載された技術は、圧延材の影によってその捻転状態を非接触で判断できるものである。しかしながら、このような影を用いた判断は正確なものとはなり得ない。
というのも、この技術は本来なら3次元で示される圧延材の輪郭を平面に投影して2次元の情報として利用するものであり、厚み方向の情報を用いずに幅方向の情報だけで捻転状態を判断しているため、例えば回転対称な断面形状を有する圧延材のように捻転してもシルエットがあまり変化しないものや、影同士が重なって分離できないような複雑な断面形状を備えたものに対しては、捻転状態を正確に判断することが困難になる。それ故、このような不正確な捻転状態に基づいて圧延材の捻転を抑制することも非常に難しい。
【0008】
また、特許文献2の圧延設備は、圧延材の捻転に合わせてローラガイド(ローラホルダ)が自在に回動するものであるが、このように圧延材に対する保持力のないローラガイドでは圧延ロール間の所定の位置に圧延材を案内するというローラガイドの本来の機能を十分に発揮できない。つまり、特許文献2の圧延設備では、ローラガイドの剛性が不足して圧延材を案内する機能が低下し、圧延材の品質を良好に維持できなくなる虞がある。
【0009】
本発明は、上記問題点を鑑みて為されたものであり、圧延材を正確に案内するというローラガイドの本来の機能を損なうことなく、圧延材の捻転状態を正確に判断することができ、圧延材の捻転を確実に抑制することができる圧延材の捻転発生の検出方法、圧延材の捻転抑制方法及びこれらの方法が採用される圧延機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明は以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係る圧延材の捻転発生の検出方法は、外周面にカリバが形成された一対の圧延ロールとこの圧延ロールの上流側または下流側に設けられたガイドローラとを有する圧延機を用いて圧延材を圧延するに際しては、前記ガイドローラを回転自在に支持する一対の軸支部のそれぞれに、当該軸支部に作用するラジアル荷重を計測する荷重計測手段を設けておき、前記荷重計測手段の結果に基づいて、前記圧延材の捻転を判定することを特徴とするものである。
【0011】
なお、好ましくは、前記荷重計測手段で計測された一方の軸支部の計測荷重と他方の軸支部の計測荷重との比率を求め、得られた荷重の比率が所定の範囲を超えた際に、圧延材が捻転状態にあると判定するとよい。
また、好ましくは、前記荷重計測手段が、歪みゲージ又はロードセルで構成されているとよい。
【0012】
一方、本発明に係る圧延材の捻転抑制方法は、上述した圧延材の捻転発生の検出方法により、圧延材が捻転状態にあると判定された際には、前記荷重計測手段が設けられた圧延機の一つ上流側に位置する圧延機において、当該捻転状態を解消すべく、圧延ロールのスラスト方向に沿った位置を変更することを特徴とするものである。
なお、好ましくは、前記計測荷重の比率と、当該比率に対応する圧延ロールのスラスト方向に沿った変更量とを予めテーブルにしておき、前記テーブルから得られた変更量を基に、一つ上流側に位置する圧延機の圧延ロールをスラスト方向に移動させるとよい。
【0013】
さらに、本発明に係る圧延機は、外周面にカリバが形成された一対の圧延ロールとこの圧延ロールの上流側または下流側に設けられたガイドローラとを有する圧延機であって、前記ガイドローラを回転自在に支持する一対の軸支部のそれぞれに設けられ且つ当該軸支部に作用するラジアル荷重を計測する荷重計測手段と、前記荷重計測手段の結果に基づいて、前記圧延材の捻転を判定する捻転発生検出部とを有することを特徴とするものである。
【0014】
なお、好ましくは、前記捻転発生検出部は、荷重計測手段で計測された一方の軸支部の計測荷重と他方の軸支部の計測荷重との比率を求め、得られた荷重の比率が所定の範囲を超えた際に、圧延材が捻転状態にあると判定するように構成されているとよい。
また、好ましくは、前記捻転発生検出部により圧延材が捻転状態にあると判定された際に、前記荷重計測手段が設けられた圧延機の一つ上流側に位置する圧延機に備えられた圧延ロールのスラスト方向に沿った位置を変更する圧延ロール位置変更部を有するとよい。
【0015】
また、前記圧延ロール位置変更部は、前記圧延ロールのスラスト方向に沿った変更量を予めテーブルとして記録しておき、当該テーブルから得られた変更量を基に、一つ上流側に位置する圧延機の圧延ロールをスラスト方向に移動させるように構成されているとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る圧延材の捻転発生の検出方法及びこの方法が採用される圧延機によれば、圧延材を正確に案内するというローラガイドの本来の機能を損なうことなく、圧延材の捻転状態を正確に判断することができる。
また、本発明に係る圧延材の捻転抑制方法及びこの方法が採用される圧延機によれば、圧延材の捻転を確実に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】条鋼圧延設備の全体図である。
【図2】圧延材の捻転発生の検出装置を示す拡大図である。
【図3】捻転発生の検出装置が設けられたローラガイドの拡大図である。
【図4】圧延材の捻転発生の検出方法を示すフローチャートである。
【図5】捻転が発生した場合の圧延材と孔型との関係を示す図である。
【図6】ガイドローラの軸支部に作用するラジアル荷重の計測結果を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る圧延材Wの捻転発生の検出装置1が設けられた条鋼圧延設備2を示している。
この条鋼圧延設備2は、線材や棒鋼等の条鋼の圧延材Wを製造するものであって、上流側(図1左側)から下流側(図1右側)に向けて順に、ビレットなどの鋼片を加熱する加熱炉3、粗圧延装置4、中間列圧延装置5、仕上げ圧延装置6、冷却装置7、巻き取り装置8を有している。粗圧延装置4、中間列圧延装置5及び仕上げ圧延装置6は、いずれも複数の圧延スタンド9(圧延機)を備えている。そして、本発明の捻転発生の検出装置1は、上述した3つの圧延装置のうち、粗圧延装置4に設けられている。
【0019】
図1の場合、粗圧延装置4は全部で8基の圧延スタンド9を有していて、それぞれの圧延スタンド9には垂直圧延スタンド9Vと水平圧延スタンド9Hとのいずれかが用いられている。
図2は図1のA部分を拡大して示したものである。
図2に示すように、圧延スタンド9は、圧延材Wを圧延する一対の圧延ロール10、10と、これらの圧延ロール10の上流側に配備されて、一対の圧延ロール10、10間に圧延材Wを案内するローラガイド12とを有している。
【0020】
一対の圧延ロール10、10は、その軸心が互いに平行な同径同長のロールから構成されている。それぞれの圧延ロール10は、その軸心を水平方向又は垂直方向のいずれかに向けて配備されている。図2の場合であれば、#1,#3で示される圧延スタンド9は、垂直方向に軸心を向けた一対の圧延ロール10、10を備えた垂直圧延スタンド9Vであり、#2で示される圧延スタンド9は、水平方向に軸心を向けた一対の圧延ロール10、10を備えた水平圧延スタンド9Hである。これらの垂直圧延スタンド9V及び水平圧延スタンド9Hは、圧延ロール10の設置方向(軸芯方向)が90°異なるものとなっている。
【0021】
これら垂直圧延スタンド9V及び水平圧延スタンド9Hの圧延ロール10の外周面には、圧延材Wを圧延する孔型11(カリバ)が形成されている。この孔型11の断面形状は、所望とする圧延断面形状を半割にしたような形となっており、例えば、孔型11は菱形や角形の孔型11の場合ではこの菱形や角形を半割にしたような略V字状の形状となっている。また、半円形や半オーバル(凹円弧状)の孔型11の場合もある。
【0022】
図2及び図3に示すように、それぞれの圧延スタンド9の入側には、圧延材Wを圧延ロール10に案内するローラガイド12が設けられている。ローラガイド12は、圧延ロール10より小径短尺のガイドローラ13と、このガイドローラ13を回転自在に支持する左右一対乃至は上下一対の軸支部14、14とを有している。
ガイドローラ13は、当該圧延スタンド9に配備された圧延ロール10と同じ向きに軸心を向けて配備されており、圧延ロール10の場合と同様に圧延材Wを挟み込むように一対配備されている。すなわち、垂直圧延スタンド9Vに配備されるガイドローラ13は圧延ロール10と同様に軸心を垂直方向に向けて取り付けられており、水平圧延スタンド9Hに配備されるガイドローラ13は軸心を水平方向に向けて取り付けられている。また、これらのガイドローラ13の外周面には、圧延材Wをスムーズに案内できるように圧延材Wの断面形状に合わせた案内孔型11(案内カリバ)が形成されている。
【0023】
それぞれのガイドローラ13の両端側には、このガイドローラ13を回転自在に支持する一対の軸支部14、14が配備されている。これらの軸支部14は、圧延スタンド9側から圧延方向の上流側に向かって突出するように形成されており、その先端側に架け渡されるようにしてガイドローラ13が支持されている。そして、これら一対の軸支部14、14には、荷重計測手段15が設けられている。
【0024】
本実施形態の場合、荷重計測手段15としてひずみゲージを用いている。ひずみゲージは軸支部14の上下面や左右側面に設けられ、当該軸支部14に作用するラジアル荷重(圧延ロール軸に垂直に作用する荷重)を計測する。計測されるラジアル荷重には、捻転した圧延材Wに起因する荷重が含まれる。
図6は、この荷重計測手段15により計測されたラジアル荷重の計測結果の一例を示したものである。
【0025】
図6(a)に示すように、圧延材Aにおいては、一方側の軸支部14に作用する荷重P1と他方側の軸支部14に作用する荷重P2との間に圧延途中で比較的大きな差が生じている。また、圧延条件が圧延材Aと異なる圧延材Wの結果(図6(b))を見ると、一方側の軸支部14と他方側の軸支部14に作用する荷重の差(荷重P1と荷重P2との差)が更に大きくなっている。
【0026】
圧延材Aと圧延材Bとの間では、圧延材の捻転状態が異なることを本願発明者らは確認しており、このことから、軸支部14に作用する荷重を一方側(P1側)と他方側(P2側)とで比較することで捻転状態を評価できるとの知見を得ている。
このようにして計測されたそれぞれの軸支部14の荷重計測手段15で計測された荷重P1及びP2は、捻転発生検出部16に送られる。
【0027】
捻転発生検出部16では、荷重計測手段15での荷重の計測結果に基づいて、圧延材Wが捻転しているかどうか、言い換えれば圧延材Wの捻転状態を判定している。
具体的には、捻転発生検出部16では、予め作成されたテーブル(データベース)に照らし合わせて、荷重計測手段15で計測された荷重P1及び荷重P2の比(荷重比)から捻転角度θを導きだし、導いた捻転角度θが予め定められた閾値以上であるかどうかで圧延材Wに捻転が発生しているかどうかを判定している。
【0028】
図5に示すように、このテーブルは、軸支部14に作用する荷重の比率(荷重比:P1/P2)とこの荷重比に対する捻転角度θの関係を、後述する力学的関係を基に求めることで得られる。また、テーブルには、発生している圧延材Wの捻れ(捻転角度θ)を是正するために必要な「一つ上流側に位置する圧延スタンド9での圧延ロール10のスラスト量」も載っているが、このスラスト量は、現場での実験やコンピュータシミュレーションの結果から明らかとなる。
【0029】
さて、上述のようにして圧延材Wに捻転が発生していることが判定されたら、捻転が発生しているという事実を音や光を用いて現場作業者に報知して、捻転を抑制することができる。
しかし、より好ましくは、圧延材Wが捻転状態にあると判定された際には、一つ上流側に位置する圧延スタンド9において、テーブルに基づいて圧延ロール10をスラスト方向に移動させるようにするとよい。そのために、各圧延スタンド9には、圧延ロール10のスラスト方向に沿った位置を変更する圧延ロール位置変更部17が設けられている。
【0030】
圧延ロール位置変更部17は、圧延ロール10のスラスト方向に沿った位置を所定の長さだけ調整するものであり、例えば、特開2007−290006号公報などに開示される公知のやり方(2ロール方式圧延機のロール軸方向の調整機構として汎用されている、ターンバックルを用いたスラスト調整機構であって、ターンバックルの調整ねじを、油圧または電動で所定の長さだけ伸縮させてチョックとロールを一緒に軸方向に移動させるもの)などを用いることができる。
【0031】
次に、図4のフローチャートを用いて、上述した捻転発生の検出装置1を用いて実際に捻転を検出したり抑制したりする方法、言い換えれば本発明の圧延材Wの捻転発生の検出方法及び圧延材Wの捻転抑制方法について説明する。
図4に示すように、まず、荷重の比率(荷重比P1/P2)と捻転角度θとスラスト量とを、上述した方法でテーブル化する。
【0032】
その後、実際の圧延では、第1番目の圧延スタンド9(#1圧延機)での圧延材Wの捻転を抑制する際には、第2番目の圧延スタンド9(#2圧延機)の入側に配備されたガイドローラ13の荷重比(P1/P2)を計測し、計測された荷重比が、作成したテーブルにおいて、0.9〜1.1の範囲に入っているかどうかを判断する。
計測された荷重比(RG荷重比)がこの範囲内にないときには、テーブルに基づいて荷重比に対応するスラスト方向への変位量を出力し、出力された変位量となるように第1番目の圧延スタンド9の圧延ロール10をスラスト方向に移動させる。一方、テーブルに基づく調整を一度でも行った後(言い換えれば、2回目の調整以降)は、荷重比が1より大きいときは第1番目の圧延スタンド9の圧延ロール10をスラスト方向に現位置より1%だけ一方側に移動させ、荷重比が1より小さいときは第1番目の圧延スタンド9の圧延ロール10を1%だけ他方側に移動させる。
【0033】
このようにすれば、第1番目の圧延スタンド9に設けられた圧延ロール10の位置がスラスト方向に修正され、第1番目の圧延スタンド9で発生する圧延材Wの捻転が抑制される。
次に、第2番目の圧延スタンド9(#2圧延機)での圧延材Wの捻転を抑制する際には、第1番目の圧延スタンド9と同じく第3番目の圧延スタンド9(#3圧延機)の入側に配備されたローラガイド12の荷重比(P1/P2)を計測し、計測された荷重比が、作成したテーブルにおいて、0.9〜1.1の範囲に入っているかどうかを判断し、判断した結果に基づいて第2番目の圧延スタンド9に設けられた圧延ロール10の位置をスラスト方向に修正する。
【0034】
2回目の調整以降は、荷重比が1より大きいときは第2番目の圧延スタンド9の圧延ロール10をスラスト方向に現位置より1%だけ一方側に移動させ、荷重比が1より小さいときは第2番目の圧延スタンド9の圧延ロール10を1%だけ他方側に移動させる。
このようにして圧延スタンド9の設置数の分だけ圧延ロール10の位置をスラスト方向に修正すれば、圧延スタンド9毎に圧延材Wの捻転が抑制され、ひいては粗圧延装置4で発生する圧延材Wの捻転を確実に抑制することも可能となる。
【0035】
特に、上述した捻転発生の検出方法は、新たな設備を別途用意する必要がないため、既存の設備に容易に導入できる点に利点がある。一般に圧延材Wの捻転発生を検出する際には圧延材Wの幅を計測する機器(幅計)などを別途用意する必要があるが、上述した方法であればローラガイド12という既存の設備にも存在する部材を用いて圧延材Wの捻転発生を検出することができるからである。
【0036】
ところで、前述したテーブルを作成するにあたり、「荷重の比率(P1/P2)と、この荷重比に対する捻転角度θの関係を力学的関係を基に求めておく」と述べたが、そのやり方は以下の通りである。
まず、図5に示すように、カリバ内で圧延材Wが捻転を起こし、4点の点接触状態となっている状況を考える。
【0037】
そこで、図中にA点及びB点の2箇所において、力のつり合い、及びモーメントのつり合いを考える。
まず、鉛直方向の力のつり合いを考える。
図示した場合では、ガイドローラ13のそれぞれの軸支部14にはラジアル荷重P1及びラジアル荷重P2が作用している。一方、圧延材Wとガイドローラ13(の案内孔型11)との接触点のうち、A点には圧延材Wからガイドローラ13側に垂直荷重Q1の力が、またB点には圧延材Wからガイドローラ13側に垂直荷重Q2の力が作用している。それゆえ、これらの荷重P1、荷重P2、力Q1、力Q2の間には式(1)の関係が成立する。

P1+P2=Q1+Q2 ・・・ (1)
【0038】
次に、水平方向の力のつり合いを考える。
一対のガイドローラ13には、一方のガイドローラ13に水平方向に荷重S1が、また他方のガイドローラ13に水平方向に荷重S2が作用している。一方、A点には圧延材Wからガイドローラ13側に水平荷重R1の力が、またB点には圧延材Wからガイドローラ13側に水平荷重R2が作用している。それゆえ、これらの荷重S1、荷重S2、力R1、力R2の間には式(2)の関係が成立する。

S1+S2=R1+R2 ・・・ (2)
【0039】
さらに、A点でのモーメントのつり合いを考える。まず、モーメントの算出に必要な距離については、A点の位置は、圧延材Wの中心Oを基準として、水平方向にm、垂直方向にnの距離に存在している。また、B点の位置は、同じく中心Oを基準として水平方向にn、垂直方向にmの距離に存在している。そして、これらの距離m及距離nはいずれも、圧延材Wの中心から外周縁までの距離の中で最も大きな距離Hと捻転角度θとを用いれば式(3)のように示される。

m=Hcosθ
n=Hsinθ ・・・ (3)
【0040】
それ故、式(3)を用いれば、水平方向と垂直方向とのそれぞれについて、A点でのモーメントとB点でのモーメントのつり合いを考えることができ、次の式(4)を導くことができる。

Hsinθ×R1=Hcosθ×R2
Hcosθ×Q1=Hsinθ×Q2 ・・・ (4)
【0041】
つまり、上述したように式(1)、式(2)、式(4)の4つの式に対して、Q1、Q2、R1、R2、θの5つの数値が未知であるから、例えば捻転角度θとして適当な値を与えつつ、このときのP1、P2、S1、S2を計測することで、上述したテーブルを作成することができる。
【0042】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
上述した荷重計測手段15としては、ガイドローラ13の軸支部14に取り付けられたひずみゲージを用いた例を挙げたが、ガイドローラ13作用するラジアル荷重を計測できるものであれば他の手段を用いることもできる。例えば、ガイドローラ13の軸支部14にロードセル(多分力計)を設けておき、このロードセルを荷重計測手段15として用いてラジアル荷重を計測するように構成してもよい。また、ガイドローラ13やこのガイドローラ13の軸支部14に対して、荷重に伴う変位を計測可能なレーザ距離計やマイクロメータなどを設けておき、これらを荷重計測手段15として用いて軸支部14の変位(変形)からラジアル荷重を計測するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 検出装置
2 条鋼圧延設備
3 加熱炉
4 粗圧延装置
5 中間列圧延装置
6 仕上げ圧延装置
7 冷却装置
8 巻き取り装置
9 圧延スタンド
9H 水平圧延スタンド
9V 垂直圧延スタンド
10 圧延ロール
11 孔型
12 ローラガイド
13 ガイドローラ
14 軸支部
15 荷重計測手段
16 捻転発生検出部
17 圧延ロール位置変更部
θ 捻転角度
W 圧延材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にカリバが形成された一対の圧延ロールとこの圧延ロールの上流側または下流側に設けられたガイドローラとを有する圧延機を用いて圧延材を圧延するに際しては、
前記ガイドローラを回転自在に支持する一対の軸支部のそれぞれに、当該軸支部に作用するラジアル荷重を計測する荷重計測手段を設けておき、
前記荷重計測手段の結果に基づいて、前記圧延材の捻転を判定することを特徴とする圧延材の捻転発生の検出方法。
【請求項2】
前記荷重計測手段で計測された一方の軸支部の計測荷重と他方の軸支部の計測荷重との比率を求め、
得られた荷重の比率が所定の範囲を超えた際に、圧延材が捻転状態にあると判定することを特徴とする請求項1に記載の圧延材の捻転発生の検出方法。
【請求項3】
前記荷重計測手段が、歪みゲージ又はロードセルで構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧延材の捻転発生の検出方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載された圧延材の捻転発生の検出方法により、圧延材が捻転状態にあると判定された際には、
前記荷重計測手段が設けられた圧延機の一つ上流側に位置する圧延機において、当該捻転状態を解消すべく、圧延ロールのスラスト方向に沿った位置を変更することを特徴とする圧延材の捻転抑制方法。
【請求項5】
前記計測荷重の比率と、当該比率に対応する圧延ロールのスラスト方向に沿った変更量とを予めテーブルにしておき、
前記テーブルから得られた変更量を基に、一つ上流側に位置する圧延機の圧延ロールをスラスト方向に移動させることを特徴とする請求項4に記載の圧延材の捻転抑制方法。
【請求項6】
外周面にカリバが形成された一対の圧延ロールとこの圧延ロールの上流側または下流側に設けられたガイドローラとを有する圧延機であって、
前記ガイドローラを回転自在に支持する一対の軸支部のそれぞれに設けられ且つ当該軸支部に作用するラジアル荷重を計測する荷重計測手段と、
前記荷重計測手段の結果に基づいて、前記圧延材の捻転を判定する捻転発生検出部とを有することを特徴とする圧延機。
【請求項7】
前記捻転発生検出部は、荷重計測手段で計測された一方の軸支部の計測荷重と他方の軸支部の計測荷重との比率を求め、得られた荷重の比率が所定の範囲を超えた際に、圧延材が捻転状態にあると判定するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の圧延機。
【請求項8】
前記捻転発生検出部により圧延材が捻転状態にあると判定された際に、前記荷重計測手段が設けられた圧延機の一つ上流側に位置する圧延機に備えられた圧延ロールのスラスト方向に沿った位置を変更する圧延ロール位置変更部を有することを特徴とする請求項7に記載の圧延機。
【請求項9】
前記圧延ロール位置変更部は、前記圧延ロールのスラスト方向に沿った変更量を予めテーブルとして記録しておき、当該テーブルから得られた変更量を基に、一つ上流側に位置する圧延機の圧延ロールをスラスト方向に移動させるように構成されていることを特徴とする請求項8に記載の圧延機。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−240104(P2012−240104A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114714(P2011−114714)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】