説明

圧延板、および圧延板の製造方法

【課題】マグネシウム合金からなる板材であって、薄くても剛性が高い板材、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】圧延板本体10と、この本体10に一体化され、本体10厚さの10倍以上の長さを有する突条20とを有し、マグネシウム合金からなる圧延板1とする。突条20は、圧延板1におけるリブの役割を果たすので、圧延板1の剛性を大きく向上させることができる。このような圧延板1は、外周に凹溝Gを有する圧延ロールRを用意し、この圧延ロールRによりマグネシウム合金からなる素材を圧延することで得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯用電気機器の筐体などに好適に利用することができるマグネシウム合金からなる圧延板、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムに種々の添加元素を含有したマグネシウム合金が、携帯電話やノートパソコンといった携帯用電気機器類の筐体や自動車部品などの部材の材料に利用されてきている。
【0003】
最近、ASTM規格のAZ31合金に代表される展伸用マグネシウム合金からなる板にプレス加工を施し、上記筐体を形成することが検討されている(例えば、特許文献1,2参照)。また、ASTM規格のAZ91合金からなり、プレス加工性に優れる板も検討されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−105029号公報
【特許文献2】特開2002−239644号公報
【特許文献3】特開2007−098470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、携帯機器の更なる軽量化が望まれており、筐体の原料であるマグネシウム合金からなる板材を軽量化することが望まれている。しかし、軽量化のためにマグネシウム合金からなる板材の厚さを薄くすると、携帯機器の筐体として要求される剛性を満たさない虞がある。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、マグネシウム合金からなる板材であって、薄くても剛性が高い板材、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、マグネシウム合金からなる圧延板であって、板状の圧延板本体と、本体に一体に形成される突条とを備え、この突条が、圧延板本体の厚さの10倍以上の長さを有することを特徴とする。
【0008】
圧延板本体に一体化され、圧延板本体の厚さの10倍の長さを有する突条は、圧延板におけるリブの役割を果たすので、圧延板の剛性を大きく向上させることができる。そのため、本発明の圧延板は、圧延板本体の厚さを薄くしても、高い剛性を誇る。また、圧延板本体に突条が一体化されていると、圧延板にプレス加工などの二次加工を行う際、加工により変形する部分に突条を含めることができる。これに対して、圧延板本体とは別部材とした突条を圧延板本体にネジ止めしたり溶接したりした場合、ネジ止め部や溶接部に変形が加わると、突条が圧延板本体から脱落するなどの不具合が生じる可能性が高い。
【0009】
以下、本発明の構成を詳細に説明する。
【0010】
<圧延板の全体構成>
本発明の圧延板が圧延により得られたものであることは、圧延板の物理的特性を調べることで容易にわかる。代表的な物理特性としては、圧延板の組織や、引張り強さ、硬度、伸び、表面状態などを挙げることができる。例えば、板材の伸びが10%未満の場合、板材が圧延板であることは、板材の組織から判断するのであれば、剪断帯(圧延による高歪によって転位が蓄積されて形成された微細結晶からなる帯状の組織)が板厚断面に網目状となっていることから、引張り強さから判断するのであれば、300MPa以上であることから、表面状態から判断するのであれば、算術平均粗さRa(JIS B0601 01)が1.5μm以下であることからわかる。
【0011】
また、突条が圧延板本体に一体に形成されていることは、圧延板を直接観察することで容易にわかる。例えば、圧延板の断面を顕微鏡観察すれば、圧延板本体と突条との間につなぎ目がないことを組織学的に確認できる。
【0012】
<突条の形状と寸法>
本発明圧延板1の突条20は、図1(A)の斜視図に示すように、圧延板本体10の一面側に形成されていても良いし、図1(A)とは異なり、本体10の一面側と他面側の両方に設けられていても良い。圧延板1における突条20は、例えば、圧延板本体10の平均厚さを算出して、この平均厚さを圧延板本体10の厚さtとし、この厚さtよりも厚い圧延板1の箇所として規定すれば良い。圧延板本体10の厚さtの好ましい範囲は、0.3〜3.0mm、より好ましい範囲は0.4〜1.0mmである。この平均厚さは、圧延板本体10について10点以上の異なる測定点での測定値を平均したものとすれば良い。
【0013】
突条20の長さLは、本体10の厚さtの10倍以上であれば良いが、圧延板1の剛性を高める観点からすれば、好ましくはtの20倍以上、より好ましくはtの30倍以上である。長さLの実測値としては、例えば、本発明圧延板を携帯電話の筐体として利用するのであれば30mm以上、パソコンの筐体として利用するのであれば100mm以上とすることが好ましい。
【0014】
突条20は、圧延板本体10に対して単数設けられていても複数設けられていても良い。単数の場合、圧延板本体10の一辺から、この一辺に対向する辺にかけて一連長に形成されていることが好ましい。複数の場合、例えば、図1(A)に示すように、一連長の突条20を複数並列しても良いし、図1(B)に示すように、複数の突条20を一直線(L方向)上に配置した突条群を複数並列して設けても良い。どのような構成を選択するにせよ、突条20の長さ方向に直交する任意の直線(図中に代表して4本示す二点鎖線)に、少なくとも一つの突条20が交差するようにする。このようにすれば、上記任意の直線を曲げ代として圧延板1を曲げようとしても、いずれかの突条20が曲げの抵抗となるので、曲がり難い圧延板1、即ち剛性の高い圧延板1となる。その他、複数の突条20を設ける場合、圧延板1を上面視(下面視)したときに、少なくとも2つの突条20が交差するような配置、例えば、十字架状や格子状に突条20を配置しても良い。この場合も、交差する各突条20の長さ方向と直交する直線に少なくとも一つの突条20が交差するようにすることが好ましい。
【0015】
突条20の断面形状は、特に限定されない。例えば、断面形状として、矩形(図2(A)参照)、三角形(図2(B)参照)、台形(図2(C)参照。好ましくは、等脚台形)、ドーム状(図2(D)参照。半円状などでも良い)などを挙げることができる。
【0016】
突条20の幅Wは、0.2〜20mmの範囲とすることが好ましい。幅Wが小さくなると、突条20に物理的な力が作用したときに突条20が破損し易いし、幅Wが大きくなると、圧延板1の軽量化の度合いが低下する。
【0017】
また、突条20の高さHは、突条20の形状によって最適な値が変化するが、概ね0.2〜1.0mmの範囲とすることが好ましく、この範囲で圧延板本体10の厚さ以上とすることがより好ましい。その他、突条20の高さHは、突条20の断面形状と断面積とから規定しても良い。圧延板1に付与する剛性と圧延板1の軽量化とのバランスを考慮すれば、一つの突条20の好ましい断面積は0.15〜1.5mmである。そして、この面積の範囲を満たしつつ、選択した断面形状で上述した幅Wの好ましい範囲を満たすように高さHを設定すれば良い。例えば、断面矩形の突条20であれば、幅Wを0.2〜4mmとして高さHを設定すれば良い。
【0018】
また、圧延板本体10に形成される突条20の数は、特に限定されない。但し、突条20の数があまりに多くなると、圧延板1の軽量化の効果が低くなる。従って、圧延板本体10に複数の突条20を形成するのであれば、隣り合う突条20間の間隔Sを15mm以上として、圧延板1に形成される突条20を適当な数に調整することが好ましい。突条20が一つでもあれば、圧延板1の強度を向上させる効果を有する。
【0019】
<圧延板の材質>
圧延板を構成するマグネシウム合金は特に限定されない。例えば、耐食性を重視するのであれば、Alを含有するMg−Al系合金、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg−Al−Zn系合金、Zn:0.2〜1.5質量%)、AM系合金(Mg−Al−Mn系合金、Mn:0.15〜0.5質量%)、AS系合金(Mg−Al−Si系合金、Si:0.6〜1.4質量%)、Mg−Al−RE(希土類元素)系合金などが好適である。特に、Alを8.3〜9.5質量%含有するAZ91相当材(例えば、AZ91E;8.3〜9.2質量%のAlを含有、AZ91D;Al8.5〜9.5質量%のAlを含有)は、強度、塑性変形時の割れ難さといった機械的特性や、耐食性に優れる。
【0020】
<本発明圧延板の製造方法>
圧延板本体に突条が一体に形成された圧延板を製造するためには、素材の圧延と同時に、圧延板本体に突条が形成されるようにすると良い。以下に、本発明の圧延板の製造方法を具体的に説明する。
【0021】
本発明の圧延板の製造方法は、圧延ロールによりマグネシウム合金からなる素材を圧延することで圧延板を製造する方法であって、前記圧延ロールは、その外周に凹溝を有する構成とし、この圧延ロールで素材を圧延することで、本発明の圧延板を製造することを特徴とする。例えば、本発明の圧延板を得るにあたって複数パスの圧延ロールにより連続して圧延を行う場合、最終パスに凹溝を有する圧延ロールを使用すれば良い。
【0022】
マグネシウム合金からなる板材に突条を一体に形成する場合、圧延以外の方法を使用すると以下に列挙するような欠点がある。例えば、プレスや鍛造などの塑性変形加工では、形成する突条の形状に自由度を持たせることができるものの、板材の強度が低く、割れ易い。しかも、突条を作るための金型の部分に素材が入り込み難い。そのため、圧延板に形成する突条の数が多くなると、各突条の形状にばらつきが生じ易く、板材の剛性が板材の部位によって異なり、安定した品質を維持することができない。また、切削により板材に突条を形成する場合、反応性の高いマグネシウム合金の切削屑が大量に生じるため、作業時の安全性に問題がある上、歩留りが悪く生産性が良くない。これらのことから、板材に一体化された突条を形成するためには圧延を利用することが最適である。
【0023】
上記圧延ロールに形成される凹溝は、圧延ロールの周方向に沿って設けられていても良いし、圧延ロールの幅(軸)方向に平行に設けられていても良い。図3(A)および図3(B)に、凹溝Gを形成した圧延ロールRと、この圧延ロールRにより形成される圧延板1の概略図を示す。
【0024】
図3(A)に示すように、圧延ロールRの周方向(図中の円弧矢印)に沿って凹溝Gを形成すれば、理論的には圧延板1の圧延方向(図中の直線矢印)に沿った突条20を無限に形成することができる。ここで、圧延ロールRに形成される凹溝Gは、周方向に連続している必要はなく、途中で分断されていても良い。この場合、圧延方向に所定の長さを有する突条20が、所定の間隔を空けて圧延板1に断続的に形成される。
【0025】
図3(B)に示すように、圧延ロールRの幅方向に平行に凹溝Gを形成すれば、圧延方向に直交する突条20を圧延方向に所定の間隔を空けて並列するように形成することができる。また、この構成によれば、圧延の際に、圧延方向と凹溝Gの形成方向とが直交しているので、凹溝Gに素材が入り込み易い。そのため、凹溝Gを深くしても凹溝Gの形状が精度良く転写された突条20を形成することができる。
【0026】
また、図3(A)に示す凹溝と、図3(B)に示す凹溝とを組み合わせた圧延ロールとしても良い。この場合、圧延板を上面視したときに、十字架状に配された突条や、格子状に配された突条を形成することができる。
【0027】
その他、凹溝を、圧延ロールの周方向と幅方向の両方に交差する方向に伸びるように形成しても良い。この場合、圧延板の斜め方向に伸びる突条を形成することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の圧延板は、圧延板本体に突条が形成されているため、薄肉であっても強度が高い。そのため、本発明の圧延板を携帯機器の筐体として利用すれば、その機器に要求される強度を満たしつつ機器の軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明圧延板の斜視図であって、(A)は一連長の突条が複数並列された状態で設けられた圧延板、(B)は一直線上に配列された複数の突条からなる突条群が複数並列された状態で設けられた圧延板を示す。
【図2】本発明圧延板を突条の形成方向と直交する方向に切断した本発明圧延板の部分断面図であって、(A)は断面矩形の突条、(B)は断面三角形の突条、(C)は断面台形の突条、(D)は断面ドーム状の突条を有する圧延板を示す。
【図3】圧延ロールと、その圧延ロールを使用して作製される圧延板の概略図であって、(A)は圧延ロールの周方向に沿って形成される凹溝を有する圧延ロールを使用した場合、(B)は圧延ロールの軸方向に平行に形成された凹溝を有する圧延ロールを使用した場合を示す。
【図4】実施形態に係る圧延板から切り出した試験片のたわみ量を測定する方法についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0031】
[試験例1]
複数のマグネシウム合金からなる圧延板を作製し、その強度を測定した。
【0032】
AZ31相当の組成(Mg−3.0質量%Al−1.0質量%Zn)、およびAZ91相当の組成(Mg−9.0質量%Al−1.0質量%Zn)を有するマグネシウム合金からなる素材板(厚さ3.0mm)を複数用意した。本試験例における素材板は、双ロール鋳造により得たが、他の方法、例えば押し出しなどにより得ても良い。
【0033】
次に、複数パスの圧延ロールを用意し、素材板の厚さを徐々に薄くすることで最終的な厚さが0.5mmの圧延板を作製した。ここで、最終パスに使用する一対の圧延ロールのうち、上側の圧延ロールには凹凸の無い通常の圧延ロールを使用し、下側のロールには、図3(A)に示すような複数の凹溝GがロールRの周方向に並列して形成されているロールRを使用した。このようにすることで、圧延板本体10の一面側に突条20が並列して形成された圧延板1を作製した(図3(A)参照)。
【0034】
次いで、得られた各圧延板を150mm×30mmの寸法に切り出した試験片を作製した。突条20を有する圧延板1から得られる試験片Pは、試験片Pの長辺方向に1つの突条20を有するように作製した(後述する図4を参照)。
【0035】
さらに、図4に示すように、100mmの間隔を空けて配置される2つの支持台A,Bにかけ渡すように試験片Pを配置した。試験片Pの支持台A,Bのそれぞれに乗っている部分の長さは同じである。また、突条20を有する試験片Pについては、突条20の延伸方向が支持台A,Bの並列方向に平行となるようにした(図4参照)。
【0036】
そして、試験片Pうち、支持台A,Bに下支えされていない部分の中間部に上から1kgの荷重をかけて試験片Pのたわみ量(mm)を測定した。ここで、突条20を有する試験片Pにあっては、突条20の部分に荷重をかけた(図4を参照)。測定した各試験片Pのたわみ量を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から、突条20を有する試料2,4−6は、突条20のない試料1,3よりもたわみ量が小さく、剛性が高い。これに対して、試料7,8を見れば、圧延板1の厚さtを厚くすれば、圧延板1の軽量化を図ることはできないものの、圧延板1の剛性は高まることがわかる。また、突条20の高さHが0.5mmである試料5の方が、0.2mmである試料4よりも剛性が優れることが明らかになった。さらに、突条20の断面形状が矩形である試料6の方が、等脚台形である試料4よりも剛性が優れることが明らかになった。
【0039】
上述した突条を有する試料2,4−6は、二次加工に供することもできる。具体的には、これらの試料に対して突条の延伸方向と直交する方向に圧延板を直角に曲げるプレス加工を行ったところ、いずれの試料も損傷を生じることなく加工することができた。但し、断面矩形の突条を有するものについては、突条の高さHを高くした場合に損傷が生じる虞があるので注意が必要である。
【0040】
なお、本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することが可能であり、上述した実施形態の構成に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明マグネシウム合金部材は、携帯機器やパソコンの筐体といった、軽量化が望まれる部材に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 圧延板
10 本体 20 突条
t 圧延板の厚さ
L 突条の長さ W 突条の幅 H 突条の高さ S 突条間の間隔
R 圧延ロール G 凹溝
P 試験片
A,B 支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金からなる圧延板であって、
板状の圧延板本体と、
前記圧延板本体に一体に形成される突条とを備え、
前記突条は、圧延板本体の厚さの10倍以上の長さを有することを特徴とする圧延板。
【請求項2】
圧延板上で突条の長さ方向に直交する任意の直線に少なくとも1つの突条が交差することを特徴とする請求項1に記載の圧延板。
【請求項3】
前記突条の断面形状が矩形であることを特徴とする請求項1または2に記載の圧延板。
【請求項4】

前記突条の高さが前記圧延板本体の厚さ以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の圧延板。
【請求項5】
前記マグネシウム合金は、Alの含有量が8.3〜9.5質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の圧延板。
【請求項6】
圧延ロールによりマグネシウム合金からなる素材を圧延することで圧延板を製造する方法であって、
前記圧延ロールは、その外周に凹溝を有する構成とし、
この圧延ロールで素材を圧延することで、以下に示す圧延板を製造することを特徴とする圧延板の製造方法。
板状の圧延板本体と、前記圧延板本体に一体に形成される突条とを備え、前記突条が圧延板本体の厚さの10倍以上の長さを有するマグネシウム合金からなる圧延板。
【請求項7】
前記凹溝は、圧延ロールの周方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項6に記載の圧延板の製造方法。
【請求項8】
前記凹溝は、圧延ロールの幅方向に平行に設けられていることを特徴とする請求項6または7に記載の圧延板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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