説明

圧着不良端子検出方法および端子圧着装置

【課題】 本発明の目的は、より精度良く圧着不良を検出できる圧着不良端子検出方法及びこの検出方法を用いた端子圧着装置を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、絶縁被覆電線に圧着端子90を圧着して装着する端子圧着装置1の、絶縁被覆電線の導体94に圧着端子90の導体圧着部95を圧着する導体圧着用型押部5a、絶縁被覆電線の絶縁被覆92に圧着端子90の絶縁被覆圧着部93を圧着する絶縁被覆圧着用型押部5b、及び絶縁被覆電線に圧着端子90を圧着する際に発生する全荷重が加わる部分である、例えばラム6に各々別個に荷重センサー10を取り付け、これら3箇所の荷重センサー10から得られる波形データを互いに演算加工した演算結果を、圧着端子90の正常な圧着の際得られる波形データを演算加工した演算結果と比較し、絶縁被覆電線への圧着端子90の圧着不良を検出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁被覆電線の端末に端子圧着装置により圧着端子を装着する際、圧着端子の装着不良を検出するための圧着不良端子検出方法、及び端子圧着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、導体と該導体上に施した絶縁被覆とを有する絶縁被覆電線の端末に圧着端子を装着する場合、端子圧着装置を用いて自動的に圧着端子を装着している。
端子圧着装置で自動的に圧着端子を絶縁被覆電線の端末に装着する場合、いくつかのパターンの圧着端子装着不良が発生する。そこでこの種の端子圧着装置においては、前記圧着端子の圧着不良を検出し、良品中に不良品が混入しないようにすることが大きな課題となっている。
そこで従来にあっては、特許文献1や特許文献2にあるような圧着端子の圧着不良の検出が行われていた。
【0003】
特許文献1の場合は、絶縁被覆電線に圧着端子を圧着する際に発生する全荷重が加わる部分(例えばラム)に荷重センサーを取り付け、該加重センサーが出力する波形データを、正常な圧着が行われた場合の波形データと比較することで、圧着不良の検出を行っていた。
一方、特許文献2の場合は、絶縁被覆電線の導体に圧着端子の導体圧着部を圧着する導体圧着用型押部と、絶縁被覆電線の絶縁被覆に前記圧着端子の絶縁被覆圧着部を圧着する絶縁被覆圧着用型押部とにそれぞれ荷重センサーを取り付け、該加重センサーが出力する波形データを正常な場合の波形データと比較することで、圧着不良の検出を行っていた。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−281071号公報
【特許文献2】特公平7−11549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている圧着不良検出の場合、一箇所の荷重センサーで全体の反力(歪)を拾っているため、軽微な圧着不良の場合や複数の圧着不良が混在しトータルの歪にはその差異がわずかしか現れない場合には、正常かどうかの判別が困難な場合があった。
【0006】
一方、特許文献2に開示されている圧着不良検出の場合、導体圧着用型押部と絶縁被覆圧着用型押部とに個々に荷重センサーを設けた分、特許文献1に記載の発明の圧着不良端子検出方法よりも高い精度の不良検出が期待できる。
しかしながら、その精度はまだまだ十分なものとは言えなかった。
例えば図9(b)のように圧着端子90の導体圧着部95から数本の導体94がこぼれてしまった場合、こぼれた本数が極わずかだと検出が困難であった。
また図9(d)のように、絶縁被覆圧着部93の片側のみ圧着不良を起こしているような場合には、一応、絶縁被覆圧着用型押部は絶縁被覆圧着部93を圧着しているため、絶縁被覆圧着用型押部に装着した荷重センサーからの波形データにははっきりした異常が認められない場合があった。
【0007】
これらの問題に鑑み本発明の目的は、より精度良く圧着不良を検出できる圧着不良端子検出方法及びこの検出方法を用いた端子圧着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく本発明の請求項1記載の圧着不良端子検出方法は、絶縁被覆電線の導体に圧着端子の導体圧着部を圧着する導体圧着用型押部と、前記絶縁被覆電線の絶縁被覆に前記圧着端子の絶縁被覆圧着部を圧着する絶縁被覆圧着用型押部とを有する端子圧着装置によって絶縁被覆電線に圧着端子を圧着する際に、前記絶縁被覆電線への前記圧着端子の圧着不良を検出する圧着不良端子検出方法であって、前記導体圧着用型押部、前記絶縁被覆圧着用型押部、及び前記絶縁被覆電線に前記圧着端子を圧着する際に発生する全荷重が加わる部分に各々別個に荷重センサーを取り付け、これら3箇所の荷重センサーから得られる荷重の波形データを互いに演算加工した演算結果を、前記絶縁被覆電線に対する前記圧着端子の正常な圧着の際得られる波形データを演算加工した演算結果と比較し、絶縁被覆電線への圧着端子の圧着不良を検出することを特徴とする。
【0009】
また本発明の請求項2記載の圧着不良端子検出方法は、請求項1記載の圧着不良端子検出方法において、前記導体圧着用型押部に取り付けた荷重センサーの波形データの出力値をD1、前記絶縁被覆圧着用型押部に取り付けた荷重センサーの波形データの出力値をD2、前記絶縁被覆電線に前記圧着端子を圧着する際に発生する全荷重が加わる部分に取り付けた荷重センサーの波形データの出力値をD3としたときに、△D=D3−(D1+D2)の演算結果を前記絶縁被覆電線に対する前記圧着端子の正常な圧着の際得られるものと比較して、絶縁被覆電線への圧着端子の圧着不良を検出することを特徴とする。
【0010】
また本発明の請求項3記載の端子圧着装置は、導体と該導体上に施した絶縁被覆とを有する絶縁被覆電線の導体に圧着端子の導体圧着部を圧着する導体圧着用型押部と、前記絶縁被覆電線の絶縁被覆に前記圧着端子の絶縁被覆圧着部を圧着する絶縁被覆圧着用型押部と、を有する端子圧着装置であって、該端子圧着装置は前記導体圧着用型押部、前記絶縁被覆圧着用型押部、及び前記絶縁被覆電線に前記圧着端子を圧着する際に発生する全荷重が加わる部分に各々別個に加重センサーが取り付けられ、これら3箇所の荷重センサーによって得られる荷重の波形データを演算加工した演算結果を、前記絶縁被覆電線に対する前記圧着端子の正常な圧着の際得られる波形データを互いに演算加工した演算結果と比較し、絶縁被覆電線への圧着端子の圧着不良を検出する検出部をさらに有することを特徴とする。
【0011】
また本発明の請求項4記載の端子圧着装置は、請求項3記載の端子圧着装置において、前記検出部は、前記導体圧着用型押部に取り付けた荷重センサーの波形データをD1、前記絶縁被覆圧着用型押部に取り付けた荷重センサーの波形データをD2、前記絶縁被覆電線に前記圧着端子を圧着する際に発生する全荷重が加わる部分に取り付けた荷重センサーの波形データをD3としたときに、演算結果△D=D3−(D1+D2)を前記絶縁被覆電線に対する前記圧着端子の正常な圧着の際得られるものと比較して圧着不良を検出することを特徴とする。
【0012】
上記のようにしてなる本発明の圧着不良端子検出方法または端子圧着装置によれば、端子圧着装置において、絶縁被覆電線の導体に圧着端子の導体圧着部を圧着する導体圧着用型押部、絶縁被覆に前記圧着端子の絶縁被覆圧着部を圧着する絶縁被覆圧着用型押部、及び絶縁被覆電線に圧着端子を圧着する際に発生する全荷重が加わる部分、具体的には例えばラムの部分の、都合3箇所に各々別個に荷重センサーを取り付けたことにより、これら3箇所の荷重センサーから得られる波形データそのものだけでなく、これらの波形データを相互に加算したり、その差分を取る等の演算加工して得た演算結果を、正常な圧着が行われた際のものと比較することができるようになる。そのため、導体圧着部や絶縁被覆圧着部における圧着不良を、従来検出できなかったような軽微な圧着不良も含めて、より精度良く検出することが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明によれば、より精度良く圧着不良を検出できる圧着不良端子検出方法及びこの検出方法を用いた端子圧着装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に図を用いて、本発明の圧着不良端子検出方法およびこの検出方法を用いた端子圧着装置の一実施例を詳細に説明する。
【0015】
本実施例の端子圧着装置1の特徴的な部分は、図1、図3、図4及び図5に示すように、導体圧着用型押部5a、絶縁被覆圧着用型押部5b、及び圧着時に発生する全荷重を捕捉できるラム6の、都合3箇所にそれぞれ荷重センサー10b、10c、10aを設置し、本発明の検出部の一例となる波形判定回路20(検出部)において、前記3箇所の荷重センサー10a〜10c全てから荷重の波形データを集め、必要に応じてそれらの波形データを演算加工して演算結果を得、これを圧着不良のない正常な場合の波形データの演算結果と比較して、圧着不良を検出する点にある。
【0016】
以下に本実施例の端子圧着装置1及び圧着不良端子検出方法について図1〜図10を用いて説明する。
図1は、端子圧着装置1を示すもので、この端子圧着装置1は、プレスフレーム2、このプレスフレーム2上に固定された端子圧着台3、この端子圧着台3の上方に上下動可能に設けられているアプリケータ4、このアプリケータ4の下端に装着され、圧着端子90を圧着する端子圧着用型押部5、アプリケータ4の上端にその下端が固定され、かつプレスフレーム2に穿たれた孔2b内を摺動自在に嵌挿されているラム6、そしてこのラム6を上下動させるトグル装置7及び端子配給レバー8等々により構成されている。
【0017】
トグル装置7は主として上方リンク71、下方リンク72、トグル73及びフライホイール74とを有していて、これら上方リンク71と下方リンク72とトグル73との各一端は軸75により回動自在に軸支されている。
一方、上方リンク71の他端は固定部76に、下方リンク72の他端はラム6の上端に、そしてトグル73の他端はフライホイール74の周部に、いずれも回動自在に軸支されている。
フライホイール74は、図示しない駆動モータにより回転され、その回転はトグル73や上方リンク71、下方リンク72を介してラム6に伝達され、ラム6は上下に往復動する。
【0018】
端子配給レバー8は、その上端を軸81に回動自在に軸支され、かつ中央部に形成されている駆動溝82内に、一端をアプリケータ4の上端に固定されたアーム83の他端がピン等を介して係合され、下端には杵84が装着されている。
その結果、この端子配給レバー8は、アプリケータ4の上下動により左右に揺動して杵84を左右に駆動し、図2に示すようにキャリア80により連結されている多数の圧着端子90から圧着端子90を一個ずつ端子圧着台3へと搬送するようになっている。
【0019】
ラム6と共に上下動するアプリケータ4の下端には、図1、図4、図5が示すように導体圧着用型押部5a、絶縁被覆圧着用型押部5bが装着されている。一方、端子圧着台3内には、搬送されてきたキャリア80から圧着端子90を順番に切り離すパンチ96が装着されている。その結果、アプリケータ4の一回の下降で、圧着端子90の切り離し、絶縁被覆圧着用型押部5bによる前述した図9に示すような絶縁被覆圧着部93による圧着、同じく導体圧着用型押部5aによる導体圧着部95の圧着が同時に行われる。
【0020】
ここでトグル装置7において、トグル73で軸75を押すと、上方リンク71、下方リンク72が垂直方向に略一直線になって垂直方向に押す力Pが大きくなる。
いま両リンク71と72の長さが等しいと仮定し、垂直方向と下方リンク72が成す角度をθ、そしてトグル73の押圧力をFとすると、下方リンク72がラム6を押す力は、P=F/(2tanθ)で示される。
この力Pが、端子圧着台3上で端子圧着用型押部5が絶縁被覆電線の端末に圧着端子90を圧着する力(以下圧着力という)となる。したがって、ラム6は端子圧着時に、この力Pの反力−Pを受ける。そこでラム6に荷重センサー10aを装着してこの反力−Pの変化を検出して、圧着端子90への圧着力が正常であったかどうかを判断することができる。
【0021】
ここでラム6には所定位置で、図3に示すように全周にわたって軸方向と直角方向にその一部を切欠いてラム6より細径の柱6aが形成されていて、この柱6aに荷重センサー10aが配置される。この荷重センサー10aは2つのセンサー11a、11bを有するブリッジ回路からなっており、センサー11aは柱6aの前面に、センサー11bはセンサー11aと180度反対側、すなわち裏面(図示されていない)に装着される。
センサー11aは、図3に示すように、例えば2枚の互いに直交して装着されるロードセル12a、13aにより構成されている。具体的には一方のロードセル12aは柱6aの軸方向に貼られ、他方のロードセル13aは柱6aの軸に直角に貼り付けられる。そしてロードセル12aは柱6aの軸方向の歪に対応して、ロードセル13aは軸に直角方向の歪に対応して抵抗値が変化する。センサー11bも同様にロードセル12b、13bにより構成されている。
【0022】
荷重センサー10aにおいて、各ロードセルは図6に示すようにブリッジ回路に接続される。尚、図6で、ロードセル12b、13bは前述したように柱6aの裏面に貼り付けられたロードセルを示している。ブリッジ回路を構成する各ロードセル12aと12b、13aと13bの各接点a、bは電源15に接続される。またロードセル12aと13a、12bと13bの各接点c、dは荷重センサー10aの端子10ax、10ayに接続される。
【0023】
このようにしてなる荷重センサー10aにより、端子圧着時に個々の圧着端子90毎に、ラム6の柱6aに生ずる歪を検出して、前述した反力−Pを検出する。
因みに、ラム6の一部を切り欠いて細径の柱6aとし、この部分に荷重センサー10aを装着した理由は、圧着力の反力−Pによる歪を出易くして、検出感度を上げるためであり、感度の点で問題なければ、あえてラム6の一部を切り欠いて細径の柱6aを形成する必要はない。
【0024】
また端子圧着用型押部5の導体圧着用型押部5a、絶縁被覆圧着用型押部5bの両方には、さらに精度良く圧着不良を検出できるように、図4、図5に示すように、各々別個に荷重センサー10b、10cが装着されている。これら荷重センサー10b、10cにおいては、荷重センサー10aと同様に、ロードセル31a、32a(裏側にも同様に2つのロードセルを貼り付けてある)、ロードセル36a、37a(裏側にも同様に2つのロードセルを貼り付けてある)が互いに直交するように設置されている。
これら荷重センサー10b、10cについてもそれぞれ図6同様のブリッジ回路が構成される。
【0025】
本実施例の検出部の一例となる波形判定回路20は、詳しくは図7に示すように、アンプ21a、21b、21c、アナログ−デジタル変換器(以下A/D変換器という)22a、22b、22c、比較器23a、23b、23c、及びメモリ24a、24b、24c、さらには中央演算処理装置(以下CPUという)25や、後述する加重センサー10aと加重センサー10b、10cとの差分等のデータを保存するメモリ26とを有して構成される。
前述した荷重センサー10aの端子10ax、10ayは、図7に示すように、波型判定回路20のアンプ21aの入力端子に結線される。アンプ21aの出力端子はA/D変換器22a及び比較器23aの各入力端子に接続される。比較器23aの出力端子はA/D変換器22aのトリガ入力端子に接続され、A/D変換器22aの出力端子はメモリ24aの入力端子に接続される。
荷重センサー10b、10cについても同様にアンプ21b、21cに接続され、これらアンプ21b、21cはさらにA/D変換器22b、22c、比較器23b、23cとそれぞれ結線され、A/D変換器22b、22cはそれぞれメモリ24b、24cに接続される。これらのメモリ24a、24b、24cはさらにCPU25に接続される。
【0026】
以下にこの端子圧着装置1の動作を説明する。
トグル装置7はフライホイール74の回転をトグル73及び上方リンク71、下方リンク72を介してラム6とアプリケータ4に伝えて、これらを往復動させる。
一方、アプリケータ4の往復動に応じて端子配給レバー8が左右に揺動して杵84を動作させ、キャリア80に所定間隔で保持されている複数の圧着端子90から、圧着端子90を一個ずつ端子圧着台3上に搬送し、圧着端子90の絶縁被覆圧着部及び導体圧着部をそれぞれ予め決められている位置に位置決めする。
【0027】
絶縁被覆電線の先端の絶縁被覆を除去した、いわゆる端末処理が完了している絶縁被覆電線を、端子圧着台3上に位置決めされている圧着端子90上に位置決めしたら、アプリケータ4の下端に装着されている端子圧着用型押部5が下降して圧着端子90の絶縁被覆圧着部及び導体圧着部とを圧着し、各々で絶縁被覆電線の絶縁被覆及び導体をそれぞれ圧着し、圧着端子90に接続する。
絶縁被覆電線に圧着端子90を圧着して装着した際、その反力がラム6に加わり、柱6aに歪が生ずる。荷重センサー10aでこの歪を検出して対応する電気信号Vを発生する。
【0028】
荷重センサー10aが発生させた電気信号Vをアンプ21aで増幅した後、A/D変換器22aと比較器23aに送る。比較器23aではこの増幅した電気信号Vと基準信号Vsとを比較して、電気信号Vと基準信号Vsの差が許容範囲より大きい場合には、A/D変換器22aにレベルトリガをかける。A/D変換器22aはこのトリガ信号Ptが印加されると、サンプリングを開始して、入力する電気信号Vの波形データをサンプリングし、A/D変換を行い、この波形データを時系列的にメモリ24aに格納する。
これと同様の処理が、荷重センサー10b、10cについてもそれぞれアンプ21b、21c、A/D変換器22b、22c、比較器23b、23cを介して行われ、出力された波形データを時系列的にメモリ24b、24cに格納する。
【0029】
メモリ24a、24b、24cは、正常な圧着状態の信号波形、すなわち正常な圧着が行われた際得られた波形データを記憶しており、CPU25はこの正常な波形データと圧着端子90の圧着時、逐次送られてくる波形データとを比較して、圧着端子90の圧着が正常に行われているかどうかを判定する。もし比較の結果に所定の差あるいはそれ以上の差がある場合には、異常と判定して、異常判定信号Voを出力する。
【0030】
ところで、前述したように荷重センサー10aや荷重センサー10b、10cを単体で用いた場合、軽微な圧着不良、具体的には前述した図9(b)、(d)に示す圧着不良を検出することは困難であった。
そこで本実施例では、従来は同じ端子圧着装置1に同時に設けられることのなかった荷重センサー10aと荷重センサー10b、10cを図1に示すように同じ端子圧着装置1に設ける構成とし、波形判定回路20のCPU25において波形データを互いに演算加工することにより、従来のように各荷重センサー10a、10b、10cからのそれぞれの波形データによる判定だけでは困難であった、軽微な圧着不良をより確実に検出できるようにしたのである。
以下にこの点をより具体的に説明する。
【0031】
図8に3箇所の各荷重センサー10a〜10cの出力波形をそれぞれ示す。図8(a)は図4に示す導体圧着用型押部5aに装着した荷重センサー10bが出力した波形データ、図8(b)は絶縁被覆圧着用型押部5bに装着した荷重センサー10cの波形データを、図8(c)は、図3に示すラム6の柱6aに装着した荷重センサー10aの波形データ(以下単に波形という)を示す。
これらの波形は、図7に示される波形判定回路20に入力され、そこで演算処理される。
【0032】
例えば図8(a)において、G1は導体圧着部95の圧着が、図9(a)に示すように、正常に行われた場合の波形である。一方、一点鎖線で示されているN1は図9(b)に示すように、導体94のうち2本程度の少ない本数が導体圧着部95から外れてしまった場合の波形で、前述したG1よりも下側に現れる。
尚、一般的には、導体圧着部95から外れる導体94の本数が増える程、N1はG1よりも、より下方に現れる。
他方、N2のように正常の波形G1よりも上方に波形が現れる、ということは導体圧着部95が導体94のみならず他のもの、例えばキャリア80から圧着端子90を切り離す際発生した切り屑をも導体94と一緒に圧着したような場合が考えられる。
いずれにせよ、導体圧着用型押部5aに装着した荷重センサー10bの波形から、導体圧着部95における圧着不良を検出できる。
【0033】
図8(b)において、G2は絶縁被覆圧着部93の圧着が、図9(a)に示すように、正常に行われた場合の波形である。一方、N3は図9(c)が示すように、導体圧着部95のみならず絶縁被覆圧着部93でも導体94のみ圧着し、絶縁被覆92を圧着できなかった状態を示す波形を示している。すなわち外径が絶縁被覆外径よりも細い導体94の外径部分を圧着したため、N3は正常値の波形であるG2の下方に出現する。
このように、絶縁被覆圧着用型押部5bに装着した荷重センサー10cからの波形をチェックすれば、通常の絶縁被覆圧着部93における圧着不良は精度良く検出可能である。
【0034】
図8(c)において、G3は絶縁被覆圧着部93及び導体圧着部94の各圧着が、図9(a)に示すように、正常に行われた場合の波形である。一方、N4は図9(d)に示すように、絶縁被覆圧着部93の一方の圧着部が圧着不良を起こした場合である。
前述したように、この場合、導体圧着部95では導体94を正常に圧着しているが、絶縁被覆圧着部93の一方の圧着端子が正常に圧着されていない。
このような場合には、導体圧着部95では導体94を正常に把握しているため、導体圧着用型押部5aに装着した荷重センサー10bにはなんら異常は現れない。すなわち導体圧着用型押部5aに装着した荷重センサー10bでは検出できない。
【0035】
また絶縁被覆圧着部93の荷重センサー10cにおいても、一応の圧着は行っているため絶縁被覆圧着用型押部5bに設置した荷重センサー10cの波形からその異常を読み取ることは容易ではない。
これに対し、ラム6の柱6aに設けた荷重センサー10aによれば、図9(d)のような圧着不良の場合、その波形N4は、図9(a)のような正常な圧着の際現れる波形G3よりも大きな値となって現れることを本発明者らは見出した。
【0036】
このようにラム6の柱6aに設置した荷重センサー10aに、図9(d)に対応した波形が出現する理由は、例えば図9(d)のような場合、左右の絶縁被覆圧着部93のバランスが崩れたことにより絶縁被覆圧着用型押部5bがわずかではあるが軸方向に傾きが生じて、その結果アプリケータ4とラム6において、これらを案内する部分との間に摺動抵抗が発生し、これがラム6の柱6aに装着した荷重センサー10aにG3<N4として現れるからである、と推測される。
【0037】
ただし、ラム6の柱6aに装着した荷重センサー10aにおける波形には導体圧着用型押部5a、絶縁被覆圧着用型押部5bにおける荷重分も含まれているので、該荷重センサー10aにおける波形単独では正確に圧着不良を検出することは困難である。
そこでさらに確実に図9(d)のような不良を検出するために、本実施例では、導体圧着用型押部5aの荷重センサー10bの波形の出力値をD1、絶縁被覆圧着用型押部5bの荷重センサー10cの波形の出力値をD2、ラム6の柱6aの荷重センサー10aの波形の出力値をD3としたときに、波形判定回路20のCPU25において差分値△D=D3−(D1+D2)の演算結果を算出し、これを常時監視する。
このように△Dの演算結果を監視することで摺動抵抗の変化をより精度良く検出でき、従来検出できなかった圧着不良をも検出することが可能になる。
【0038】
より詳細に説明すると、上記のように△Dを見ていれば、導体圧着用型押部5a、絶縁被覆圧着用型押部5bの正常値自身が持っている許容範囲内のばらつきが相殺され、△Dにはいわゆるキャリア80から圧着端子90を切り離す荷重分と摺動抵抗の差のみしか現れない。
それ故、摺動抵抗のばらつきをより細かく捉えることができる。具体的には、摺動抵抗の値がばらつくのは、例えば図9(d)のような圧着不良で絶縁被覆圧着用型押部5bのバランスが崩れたり、あるいは図9(b)に示すような心線こぼれであって、導体圧着用型押部5aのバランスが崩れたような場合で、このようなケースでは、摺動抵抗に変化が現れるため圧着不良を検出することが可能になる。
また絶縁被覆における圧着不良については、キャリア80から圧着端子90を切り離す荷重分に変化が現れることもあるため、△Dを監視することで絶縁被覆における圧着不良をより精度良く検出することもできる。
【0039】
このように、本実施例によれば、ラム6、導体圧着用型押部5a、絶縁被覆圧着用型押部5bに各々別個に荷重センサー10a〜10cを取り付け、これら3箇所の荷重センサー10a〜10cから得られる荷重の波形のデータを演算加工した演算結果△Dを絶縁被覆電線に対する圧着端子90の正常な圧着の際得られる波形のデータを演算加工した演算結果と比較し、前記絶縁被覆電線への圧着端子90の圧着不良を検出することで、これまで検出できなかった軽微な圧着不良をも検出することができるようになる。
また上述の実施例から分かるように、複数の荷重センサー10a〜10cそれぞれの波形と、それらを互いに演算加工した演算結果のパターンの組み合わせから、どのタイプの圧着不良なのか、不良モードが判別できるようになる。したがって不良モード別の圧着不良発生頻度を分析することができるようになり、その後の圧着不良対策を行い易くなる利点もある。
【0040】
尚、本実施例では、荷重センサー10a〜10cをラム6と導体圧着用型押部5a、絶縁被覆圧着用型押部5bに装着したが、他の実施例として導体圧着用型押部5a、絶縁被覆圧着用型押部5bに加重センサーを装着する代わりに、導体圧着用型押部5a、絶縁被覆圧着用型押部5bとそれぞれ対になっている型押部側、すなわち端子圧着台3側に設けられている導体圧着用型押部50a、絶縁被覆圧着用型押部50bに荷重センサーを装着してもよい。
具体的には図10(a)に示すように導体圧着用型押部50aにロードセル31a、32a(裏面に31b、32b)からなる加重センサー10bを装着してもよいし、この導体圧着用型押部50aの下端に圧電素子のような荷重センサー51を装着してもよい。同様に、絶縁被覆圧着用型押部50bについても、図10(b)のように荷重センサー10cを装着する。
【0041】
また本実施例では荷重センサー10として歪センサーの一つであるロードセルを用いた例を示しているが、これ以外にも圧電変換素子、磁気抵抗素子あるいは静電容量素子等の荷重−電気変換素子を使用することもできる。
また本実施例では、ラム6に荷重センサー10aを取り付けたが、絶縁被覆電線に圧着端子を圧着する際に発生する全荷重が加わる部分であれば他の箇所にこの荷重センサー10aを取り付けてもよい。
さらにまた本実施例では、荷重センサー10a〜10cで得られた波形を△D=D3−(D1+D2)で演算加工したが、端子圧着装置1の構成や端子圧着方法の態様などに応じて適宜演算加工方法を変えてもよい。
【0042】
以上のように本発明の圧着不良端子検出方法および端子圧着装置によれば、より精度良く圧着不良を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の端子圧着装置の一実施例を示す正面図である。
【図2】図1に示す端子圧着装置に供給されるキャリア付き圧着端子の一部平面図である。
【図3】図1に示す端子圧着装置のラム部の拡大正面図である。
【図4】図1に示す端子圧着装置における導体圧着用型押部及び絶縁被覆圧着用型押部の側面図である。
【図5】図4に示す導体圧着用型押部及び絶縁被覆圧着用型押部の一部拡大正面図である。
【図6】図1の端子圧着装置に装着した荷重センサーのブリッジ回路である。
【図7】図1の端子圧着装置における検出部を模式的に示すブロック図である。
【図8】図1に示す端子圧着装置の各荷重センサーで得られる波形であって、(a)は導体圧着用型押部に装着した荷重センサーから得られる波形、(b)は絶縁被覆圧着用型押部に装着した荷重センサーから得られる波形、そして(c)は全荷重が加わる部分に装着した荷重センサーから得られる波形をそれぞれ示すグラフである。
【図9】端子圧着装置において絶縁被覆電線の端末に装着した圧着端子の種々の状態を示す平面図である。
【図10】本発明の他の実施例を示すもので、(a)は端子圧着台側に設置されている導体圧着用型押部の正面図、(b)は絶縁被覆圧着用型押部の正面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 端子圧着装置
3 端子圧着台
4 アプリケータ
5a 導体圧着用型押部
5b 絶縁被覆圧着用型押部
6 ラム
7 トグル装置
10 荷重センサー
11 センサー
31、32、36、37 ロードセル
50a 導体圧着用型押部
50b 絶縁被覆圧着用型押部
90 圧着端子
92 絶縁被覆
93 絶縁被覆圧着部
94 導体
95 導体圧着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆電線の導体に圧着端子の導体圧着部を圧着する導体圧着用型押部と、前記絶縁被覆電線の絶縁被覆に前記圧着端子の絶縁被覆圧着部を圧着する絶縁被覆圧着用型押部とを有する端子圧着装置によって絶縁被覆電線に圧着端子を圧着する際に、前記絶縁被覆電線への前記圧着端子の圧着不良を検出する圧着不良端子検出方法であって、前記導体圧着用型押部、前記絶縁被覆圧着用型押部、及び前記絶縁被覆電線に前記圧着端子を圧着する際に発生する全荷重が加わる部分に各々別個に荷重センサーを取り付け、これら3箇所の荷重センサーから得られる荷重の波形データを互いに演算加工した演算結果を、前記絶縁被覆電線に対する前記圧着端子の正常な圧着の際得られる波形データを演算加工した演算結果と比較し、絶縁被覆電線への圧着端子の圧着不良を検出することを特徴とする圧着不良端子検出方法。
【請求項2】
前記導体圧着用型押部に取り付けた荷重センサーの波形データの出力値をD1、前記絶縁被覆圧着用型押部に取り付けた荷重センサーの波形データの出力値をD2、前記絶縁被覆電線に前記圧着端子を圧着する際に発生する全荷重が加わる部分に取り付けた荷重センサーの波形データの出力値をD3としたときに、△D=D3−(D1+D2)の演算結果を前記絶縁被覆電線に対する前記圧着端子の正常な圧着の際得られるものと比較して、絶縁被覆電線への圧着端子の圧着不良を検出することを特徴とする請求項1記載の圧着不良端子検出方法。
【請求項3】
導体と該導体上に施した絶縁被覆とを有する絶縁被覆電線の導体に圧着端子の導体圧着部を圧着する導体圧着用型押部と、前記絶縁被覆電線の絶縁被覆に前記圧着端子の絶縁被覆圧着部を圧着する絶縁被覆圧着用型押部と、を有する端子圧着装置であって、該端子圧着装置は前記導体圧着用型押部、前記絶縁被覆圧着用型押部、及び前記絶縁被覆電線に前記圧着端子を圧着する際に発生する全荷重が加わる部分に各々別個に加重センサーが取り付けられ、これら3箇所の荷重センサーによって得られる荷重の波形データを演算加工した演算結果を、前記絶縁被覆電線に対する前記圧着端子の正常な圧着の際得られる波形データを互いに演算加工した演算結果と比較し、絶縁被覆電線への圧着端子の圧着不良を検出する検出部をさらに有することを特徴とする端子圧着装置。
【請求項4】
前記検出部は、前記導体圧着用型押部に取り付けた荷重センサーの波形データをD1、前記絶縁被覆圧着用型押部に取り付けた荷重センサーの波形データをD2、前記絶縁被覆電線に前記圧着端子を圧着する際に発生する全荷重が加わる部分に取り付けた荷重センサーの波形データをD3としたときに、演算結果△D=D3−(D1+D2)を前記絶縁被覆電線に対する前記圧着端子の正常な圧着の際得られるものと比較して圧着不良を検出することを特徴とする請求項3記載の端子圧着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−73379(P2007−73379A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260003(P2005−260003)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河オートモーティブパーツ株式会社 (571)
【Fターム(参考)】