圧粉磁心の製造方法
【課題】金属磁性粒子を含む軟磁性材料を圧縮成形して圧粉磁心を製造する方法であって、結晶粒の微細化を引き起こさない方法を提供すること。
【解決手段】圧粉磁心を製造するときに、圧縮成形工程を複数回にわたって実施し、かつそれぞれの圧縮成形工程の後に焼鈍工程を実施するように、また、圧縮成形工程で入るひずみを圧縮成形工程前後の密度変化率で表した場合、最終の圧縮成形工程での密度変化率は0.6〜25.5%の範囲であり、かつ最終の圧縮成形工程の1つ手前の圧縮成形工程での密度変化率は44.2〜58.5%の範囲であるように、構成する。
【解決手段】圧粉磁心を製造するときに、圧縮成形工程を複数回にわたって実施し、かつそれぞれの圧縮成形工程の後に焼鈍工程を実施するように、また、圧縮成形工程で入るひずみを圧縮成形工程前後の密度変化率で表した場合、最終の圧縮成形工程での密度変化率は0.6〜25.5%の範囲であり、かつ最終の圧縮成形工程の1つ手前の圧縮成形工程での密度変化率は44.2〜58.5%の範囲であるように、構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心の製造方法に関し、さらに詳しく述べると、ヒステリシス損失の低い圧粉磁心を製造する方法に関する。本発明の圧粉磁心は、最終製品での結晶粒の粗大化を達成可能であるため、電磁気を利用した各種の製品において有利に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、アクチュエータ等の電磁気を利用した製品では、局所的に大きな交番磁界を効率的に得るため、磁心(軟磁石)を交番磁界中に設けているのが一般的である。磁心は、通常、金属磁性粒子とその表面を被覆した絶縁皮膜とからなる複数個の複合金属磁性粒子を有機バインダで相互に結合させて軟磁性材料を作製し、さらにその軟磁性材料の粉末を圧縮成形することによって製造されている。よって、このような磁心は、一般的に「圧粉磁心」と呼ばれている。
【0003】
従来、上記のような圧粉磁心において、得られる製品の効率や出力向上のため、ヒステリシス損失を低く抑えることが重要視されてきた。また、圧粉磁心において低ヒステリシス損失を確保するため、それぞれの金属粒子の結晶粒の粗大化を図ることが有用であるということがよく知られている。例えば、特許文献1には、金属磁性粒子とその金属磁性粒子の表面を取り囲む磁性被膜とを含む複数の複合磁性粒子を備える軟磁性材料を原料として使用して製造されたものであって、金属磁性粒子の結晶粒の平均の大きさが10μm以上であることを特徴とする圧粉磁心が記載されている。
【0004】
しかしながら、本発明者らの研究により、原料として使用する金属磁性粒子の結晶粒がいかに粗大であっても、圧粉磁心の製造に欠かすことができないその後の成形及び焼鈍工程で、結晶粒径が微細化し、ヒステリシス損失が増大してしまうということが明らかとなった。一例を説明すると、図1は、結晶粒径が87μmである金属磁性粒子(アトマイズ鉄粉)の断面組織を示す光学顕微鏡写真である。なお、この金属磁性粒子は、結晶粒径を評価するためのものであり、市販の「ソマロイ700」(商品名)というリン酸塩の絶縁皮膜を有するアトマイズ鉄粉をそのまま成形、焼鈍及び評価した。圧縮成形は1300MPaの圧力下で実施し、引き続いて到達温度600℃で昇温速度100℃/時間、保持時間60分にわたって焼鈍した。図2は、得られた圧粉磁心の断面組織を示す光学顕微鏡写真である。図1の断面組織を図2の断面組織と比較することから明らかとなるように、原料工程では約87μmであった結晶粒径が、圧縮成形及び焼鈍が完了した後においては、約40μmまで減少している。
【0005】
このように原料の金属磁性粒子の結晶粒径を規定したとしても、圧粉磁心の成形及び焼鈍工程によって、最終製品の結晶粒径が変化してしまう。そのために、圧粉磁心において目標とする性能(低ヒステリシス損失等)を得るためには、最終製品での結晶粒径を微細化することなく、原料段階での粗大な結晶粒径をそのまま維持することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−142547号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、金属磁性粒子を含む軟磁性材料から圧縮成形及び焼鈍により圧粉磁心を製造するとき、得られる圧粉磁心において金属磁性粒子の結晶粒の微細化を防止することができ、よって、粗大化された結晶粒に由来する低ヒステリシス損失やその他の特性を達成することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、目標の性能を得るためには、原料だけでなく成形工程におけるひずみや、焼鈍工程における焼鈍温度などの検討により、最終製品での結晶粒径の粗大化が必要であるという知見を得、鋭意研究した結果、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、金属磁性粒子を含む軟磁性材料を圧縮成形して圧粉磁心を製造する方法において、
前記圧縮成形工程を複数回にわたって実施し、かつそれぞれの圧縮成形工程の後に焼鈍工程を実施するものであり、
前記圧縮成形工程で入るひずみを圧縮成形工程前後の密度変化率で表した場合、
最終の圧縮成形工程での密度変化率は0.6〜25.5%の範囲であり、かつ
前記最終の圧縮成形工程の1つ手前の圧縮成形工程での密度変化率は44.2〜58.5%の範囲であることを特徴とする圧粉磁心の製造方法にある。また、本発明は、このような製造方法によって得られる圧粉磁心とその使用にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下の詳細な説明から理解されるように、圧粉磁心の製造に際し、成形工程及びそれに引き続く焼鈍工程をそれぞれ複数回にわたって反復することで、結晶粒径の粗大化を達成することができ、よって、ヒストリシス損失の低下を達成することができる。また、低ヒステリシス損失の達成の結果、製品の効率や出力を高めた圧粉磁心を提供することができる。さらに、かかるすぐれた性能を保有しているため、本発明方法で得られる圧粉磁心は、電動機、発電機、アクチュエータ等、電磁気を利用した各種の製品において磁心として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】金属磁性粒子の断面組織を示した光学顕微鏡写真である。
【図2】成形及び焼鈍処理を施した後の金属磁性粒子の断面組織を示した光学顕微鏡写真である。
【図3】鋼板における圧延でひずみが導入されたのち、その後の焼鈍により再結晶が発生する模式図である。
【図4】鋼板における純鉄の再結晶の状態を示した状態図である。
【図5】市販の純鉄における焼きなまし時間と硬さの関係をプロットしたグラフである。
【図6】本発明方法により得られる圧粉磁心を模式的に示した断面図である。
【図7】本発明による圧粉磁心の製造方法を順を追って示した工程図である。
【図8】本発明による圧粉磁心の製造方法を順を追って具体的に示した説明図である。
【図9】焼鈍工程の前後における変形率と結晶粒径の関係をプロットしたグラフである。
【図10】圧粉磁心においてヒステリシス損失及び渦電流損失を測定した結果を示したグラフである。
【図11】圧粉磁心における変形率と硬さの関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
最初に、本発明を発明するに至った経緯を説明する。
【0013】
鋼板を初めとする溶製材では、それを製造する時、圧延時の変形率や焼鈍条件によって焼鈍後の溶製材の結晶粒径が異なることが知られている。例えば、須藤ら、「金属組織学」、丸善、1972年8月刊、を参照すると、図3に示すように、鋼板に関して、圧延によりひずみが導入されたのち、その後の焼鈍により再結晶が発生する様子が示されている。また、図4には、同じ鋼板に関して、圧延率と焼鈍温度を変化させた際の再結晶後の結晶粒径が模式的に示されている。この文献には、変形率(ひずみ)が8〜10%となるように圧延を実施した際、焼鈍後の結晶粒径が最大となると、記載されている。これは、変形率が8〜10%の際に、圧延後に導入されたひずみ量が最適となり、焼鈍による再結晶発生後の結晶粒径が最大になるためである。
【0014】
本発明者らは、このたび、溶製材におけるこの考え方を、粉末材料から圧粉磁心を製造するときにも導入し得るということを発見した。すなわち、金属磁性粒子を含む軟磁性材料を圧縮成形して圧粉磁心を製造するとき、その製造プロセスのうちの成形及び焼鈍工程を通じて上記した文献に記載の再結晶現象を発生させ、また、成形工程での変形率及び焼鈍温度を適切に選択することにより結晶粒径の粗大化を狙うというものである。
【0015】
図6は、本発明方法によって得られる圧粉磁心を模式的に示した断面図である。圧粉磁心10は、複数個の金属磁性粒子1の圧粉体である。それぞれの金属磁性粒子1は、結晶粒11の集合体であり、また、結晶粒11は、粗大化されたままのものであり、通常、10μm以上の平均粒径を有している。よって、この圧粉磁心10は、ヒステリシス損失が低く、製品の効率や出力を向上させる点で有効である。また、金属磁性粒子1の表面には、絶縁皮膜2が被覆されている。また、図示される通り、それぞれの金属磁性粒子1の間隙は、圧粉磁心の原料である軟磁性材料を作製するときに金属磁性粒子どうしを結合させるために使用した有機バインダが、焼鈍工程の段階で圧粉体から燃焼及び分解により除去せしめられたことによるものである。製品の密度は、間隙の幅によって決まるため、製品の要求密度によって、有機バインダの添加量を増減させる必要があるのは言うまでもない。
【0016】
図7は、本発明による圧粉磁心の好ましい製造方法を順を追って示した工程図である。本発明方法は、図示される通り、圧縮成形工程とその後の焼鈍工程を繰り返し実施して圧粉磁心を製造することに特徴がある。すなわち、本発明の実施に当っては、金属磁性粒子を含む軟磁性材料を圧縮成形して圧粉磁心を製造するに当たって、圧縮成形工程を複数回にわたって実施し、かつそれぞれの圧縮成形工程の後に焼鈍工程を実施することに特徴がある。
【0017】
本発明方法において、圧縮成形工程とその後の焼鈍工程以外の工程は、基本的には、圧粉磁心の製造において従来一般的に使用されている手法をそのまま、もしくは任意に改良して実施することができる。一般的には、例えば図7に示されるような手順で、すなわち、金属磁性粒子の用意から始まって、金属磁性粒子の熱処理→絶縁皮膜の形成→バインダの混合→軟磁性材料の作製を実施し、その後で、圧縮成形工程及び焼鈍工程を反復することによって、目標とする性能をもった圧粉磁心を製造することができる。なお、金属磁性粒子の熱処理、絶縁皮膜の形成及びバインダの混合の各工程は、必要に応じて、それらの1工程もしくはそれ以上を省略してもよい。
【0018】
通常一般的に用いられている手法に従って圧粉磁心を製造する場合、圧粉磁心の成形工程で、金属磁性粒子に「ひずみ」(本発明では、このひずみを、もとの形状からの「変形率」として評価する)が発生することが確認されている。また、圧粉磁心の成形工程では一度に最終製品において目標とされる密度まで成形を実施するため、成形工程での変形率は、原料として使用する金属磁性粒子の「見かけ密度」と最終製品において目標とされる密度(「最終密度」)で決定されてしまう。これに対して、本発明では、成形工程を複数回に分けて実施することにより、任意の変形率を選択し、適切なひずみ量を得ることができる。
【0019】
また、本発明の実施に当っては、各成形工程の間に焼鈍工程を設ける必要がある。これは、成形工程を連続で行うと、ひずみが蓄積されてしまい、再結晶後の結晶粒径が微細化してしまうためである。本発明において焼鈍工程を設けることで、その前の成形工程において発生したひずみをリセットし、成形工程の前の初期の状態に戻すことが可能である。
【0020】
さらに、成形工程を複数回に分けて実施するとき、最終の圧縮成形工程前後の密度変化率(ひずみ)は、通常、0.5〜57%の範囲であることが望ましい。これは、変化率が0.5%を下回ると、結晶の粗大化に必要な再結晶が発生せず、反対に57%を上回ると、通常の圧粉磁心と同様に結晶粒径が微細化してしまうからである。
【0021】
加えて、各成形工程でも、それぞれの圧縮成形工程前後の密度変化率は57%以下であることが望ましい。これは、57%を上回ると、通常の圧粉磁心と同様に結晶粒径が微細化してしまうからである。
【0022】
そして、それぞれの圧縮成形工程の後、得られる成形体は、平均して110〜160のビッカース硬度を有していることが望ましい。これは、ビッカース硬度が110を下回ると、結晶の粗大化に必要な再結晶が発生せず、反対に160を上回ると、再結晶後の結晶粒径が微細化してしまうためである。好ましくは、ビッカース硬度は、平均して120〜140である。これは、ビッカース硬度が120を下回ると、成形体内部のバラツキを考慮すると部分的に結晶の粗大化に必要な再結晶が発生しない可能性があり、反対にビッカース硬度が140を上回ると、同様に、部分的に再結晶後の結晶粒径が微細化してしまう可能性があるためである。なお、先に参照した須藤らの「金属組織学」によると、図5に示すように、純鉄溶製材では、再結晶発生後の結晶粒径が最大となる変形率が8〜10%に相当するビッカース硬度は120〜140であることが記載されており、この点からも、本発明で規定されるビッカース硬度に臨界的意義があることがわかる。
【0023】
焼鈍工程において適用する温度、すなわち、焼鈍温度は、400〜910℃の範囲であることが望ましい。これは、400℃を下回ると、結晶の粗大化に必要な再結晶が発生せず、反対に910℃を上回ると、金属磁性粒子の表面を被覆した絶縁皮膜が劣化し、また金属磁性粒子が焼結してしまうからである。
【0024】
焼鈍温度の決定に当っては、得られる圧粉磁心の硬さだけでなく、絶縁皮膜の耐熱性も加味して決定することが好ましい。ひずみの除去(すなわち、ひずみ取り)をより十分に行いヒステリシス損失を低下させたい場合には、比較的に高温の焼鈍温度を適用し、また、渦電流の損失を低下させたい場合には、比較的に低温の焼鈍温度を適用することが推奨される。
【0025】
最終製品としての圧粉磁心の密度は、通常、7.2g/cm3以上、好ましくは7.5g/cm3以上である。最終製品の密度が7.2g/cm3を下回ると、ヒステリシス損失が増加するとともに、磁束密度が減少するので、望ましくない。
【0026】
成形工程を繰り返すとき、その繰り返し回数は、特に限定されるものではなく、所望とする効果や目標とする性能などに応じて任意に変更することができる。成形工程の繰り返し回数は、通常、2回もしくはそれ以上であり、好ましくは、2回〜5回、さらに好ましくは、2回もしくは3回である。製造しようとする圧粉磁心が複雑な形状を有する場合には、成形工程を容易にするため、中間成形体を複数組み合わせて最終成形を行ってもよい。
【0027】
引き続いて、本発明による圧粉磁心の製造方法をさらに具体的に説明する。
【0028】
本発明の実施において、圧粉磁心の原料として使用する金属磁性粒子は、その圧粉磁心の組成に応じて任意に変更することができる。一般的に、金属磁性粒子は、鉄系材料、すなわち、純鉄もしくはその合金からなることができる。適当な金属磁性粒子は、以下に記載するものに限定されないが、例えば、鉄(Fe)、鉄(Fe)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)系合金、鉄(Fe)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−窒素(N)系合金、鉄(Fe)−炭素(C)系合金、鉄(Fe)−ホウ素(B)系合金、鉄(Fe)−リン(P)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−シリコン(Si)系合金などである。これらの金属磁性粒子は、単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。なかんずく、好適な金属磁性粒子は、Fe、Fe‐Si、Fe‐Al、Fe‐Ni、Fe‐Co及びその混合物である。
【0029】
金属磁性粒子は、いろいろな粒径で使用することができる。金属磁性粒子の平均粒径は、通常、30〜500μmであることが好ましい。金属磁性粒子の平均粒径を30μm以上とすることにより、保磁力を低減することができる。金属磁性粒子の平均粒径を500μm以下とすることにより、渦電流損を低減することができる。金属磁性粒子の平均粒径は、さらに好ましくは、50〜300μmである。
【0030】
金属磁性粒子は、それを圧縮成形工程に供する前、必要に応じて熱処理することができる。熱処理工程は、通常、金属磁性粒子の融点を下回る温度、例えば金属磁性粒子の融点を50℃ほど下回る温度で実施することができる。熱処理を行うことによって、金属磁性粒子の内部に存在するひずみを低減することができる。また、この熱処理工程を900℃もしくはそれ以上の温度で実施することで、金属磁性粒子の結晶を粗大化することができる。金属磁性粒子の熱処理温度は、通常、900〜1200℃である。
【0031】
好ましくは、金属磁性粒子の表面に絶縁皮膜を形成し、金属磁性粒子の周囲を絶縁皮膜で取り囲むことができる。金属磁性粒子を絶縁皮膜で覆うことによって、金属磁性粒子と絶縁皮膜の複合磁性粒子からなる軟磁性材料を圧縮成形するとき、得られる圧粉磁心の電気抵抗率ρを大きくすることができ、さらには、電気抵抗率ρの増加により、金属磁性粒子間に渦電流が流れるのを抑制して、圧粉磁心の渦電流損を低減させることができる。
【0032】
絶縁皮膜は、圧粉磁心の製造において一般的に使用されている絶縁材料から、任意の成膜法を使用して形成することができる。例えば、絶縁材料として、シリコン系有機化合物やリン酸塩を含む材料を使用することができる。例えば、シリコン樹脂から絶縁皮膜を形成した場合、シリコン樹脂に由来する優れた絶縁性を薄膜で達成することができる。また、リン酸塩を含む金属酸化物から絶縁皮膜を形成した場合にも、金属磁性粒子の表面を覆う被覆層をより薄くすることができる。これにより、複合磁性粒子の磁束密度を大きくし、磁気特性を向上させることができる。絶縁皮膜は、単層で使用してもよく、必要に応じて、2層もしくはそれ以上の多層で使用してもよい。
【0033】
絶縁皮膜の形成に使用するリン酸塩としては、例えば、リン酸鉄のほか、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウムなどを使用することができる。また、酸化物としては、例えば、酸化シリコン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどを使用することができる。
【0034】
絶縁皮膜の膜厚は、広い範囲で変更することができる。絶縁皮膜の膜厚は、平均して、0.005〜20μmであることが好ましく、さらに好ましくは、0.05〜0.4μmである。絶縁皮膜の膜厚を0.005μm以上とすることによって、トンネル効果による通電を抑制することができる。また、0.05μm以上とすることによって、トンネル効果による通電をより効果的に抑制することができる。一方、絶縁皮膜の膜厚を20μm以下とすることによって、圧縮成形時に絶縁皮膜がせん断破壊することを防止できる。また、軟磁性材料に占める絶縁皮膜の割合が大きくなりすぎないので、軟磁性材料を圧縮成形して得られる圧粉磁心の磁束密度が著しく低下することを防止できる。また、絶縁皮膜の膜厚を0.4μm以下とすることによって、磁束密度の低下をさらに防止することができる。絶縁皮膜の形成には、有機溶剤を使用した湿式被覆法やミキサーによる直接被覆法などを使用できるが、これらの手法に限定されるわけではない。
【0035】
絶縁皮膜の形成後、金属磁性粒子から軟磁性材料を作製するため、金属磁性粒子をバインダで相互に結合させることが好ましい。バインダ(結合剤)としては、この技術分野において一般的に使用されているように、有機バインダを有利に使用することができる。有機バインダは、引き続く圧縮成形工程において、金属磁性粒子の間で緩衝材として機能することができ、金属磁性粒子どうしの接触によって絶縁皮膜が破壊されるのを防ぐことができる。また、有機バインダは、圧縮工程の後に引き続いて行われる焼鈍工程において、燃焼もしくは分解によって圧粉磁心から取り除くことができる。しかしながら、必要に応じて、有機バインダに代えて、無機バインダを使用してもよい。
【0036】
有機バインダとしては、以下に列挙するものの限定されないが、例えば、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミド、熱可塑性ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂、高分子量ポリエチレン、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリイミドなどの非熱可塑性樹脂、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カルシウム、オレイン酸リチウム、オレイン酸カルシウムなどの高級脂肪酸系化合物などを挙げることができる。これらの有機バインダは、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
複数個の金属磁性粒子をバインダを併用して混合し、軟磁性材料を作製するとき、任意の混合方法を使用することができる。適当な混合方法として、例えば、メカニカルアロイング法、振動ボールミル、遊星ボールミル、メカノフュージョン、共沈法、化学気相蒸着法(CVD法)、物理気相蒸着法(PVD法)、めっき法、スパッタリング法、蒸着法、ゾル−ゲル法などを使用することができる。この混合工程により、複数個の複合磁性粒子が、それぞれ、バインダで互いに接合された軟磁性材料が得られる。
【0038】
ここで、軟磁性材料に対するバインダの割合は、0を超え1.0質量%以下であることが好ましい。バインダの割合を1.0質量%以下とすることによって、軟磁性材料に占める金属磁性粒子の割合を一定以上に確保することができ、さらにはより高い磁束密度の軟磁性材料を得ることができる。なお、先にも述べた通り、バインダの混合は必須の工程ではなく、必要ならば、バインダを混合することなく、金属磁性粒子あるいは絶縁皮膜を有する複合磁性粒子のみで引き続く圧縮成形工程を実施してもよい。
【0039】
引き続いて、圧縮成形工程及びその後の焼鈍工程を本発明に従い繰り返して実施する。
【0040】
圧縮成形工程のため、先の工程で得られた、通常混合粉末の形をした軟磁性材料を、最終製品に所望の形態を有する金型に充填する。金型の内側には、予め潤滑剤を塗布しておいてもよい。次いで、金型に充填した軟磁性材料を、例えば100〜150℃の型温度及び700〜1500MPaの圧力で圧縮成形する。圧縮成形は、圧粉磁心の製造に一般的に使用されている成形装置を使用して、従来一般的に使用されている成形条件下で実施することができる。これにより、混合粉末が圧縮されて成形体が得られる。
【0041】
引き続いて、圧縮成形の際に発生した成形体のひずみをリセットするため、必要に応じて熱処理と言ってもよい焼鈍工程を実施する。焼鈍工程は、圧縮成形時に発生したひずみをリセットするのに必要な条件下で、例えばそれを達成するのに必要な温度及び回数で実施する。焼鈍工程は、通常、300℃もしくはそれ以上から、絶縁皮膜の熱分解温度を下回る温度で実施し、例えば300〜1000℃の温度で実施する。例えば、絶縁皮膜としてシリコン樹脂を使用した場合、焼鈍温度は、好ましくは、600℃である。例えば、焼鈍工程において、到達温度を600℃に設定し、昇温速度を100℃/時及び保持時間を60分間として焼鈍工程を実施することができる。なお、本発明者らの知見によれば、圧縮成形時に成形体の内部に発生したひずみを低減するには、400〜910℃で焼鈍工程を実施するのが効果的である。
【0042】
また、焼鈍工程は、比較的に低い温度で実施されるため、金属磁性粒子の表面に形成されている絶縁皮膜が劣化することがない。よって、焼鈍工程後においても、絶縁皮膜が金属磁性粒子を覆う状態が保持され、金属磁性粒子間に渦電流が流れるのを絶縁皮膜によって確実に抑制することができる。
【0043】
上記のようにして1回目の圧縮成形工程及び焼鈍工程が完了した後、2回目の圧縮成形工程を実施する。2回目の圧縮成形工程は、上記した1回目の圧縮成形工程に準じて、但し、0.5〜57%の変化率を達成するのに十分な条件で実施する。そして、この圧縮成形工程が完了した後、それにより発生したひずみをリセットするため、再び焼鈍工程を実施する。この焼鈍工程も、上記した1回目の圧縮成形工程に準じて実施して実施する。このような一連の工程を経て、目標とする性能をもった圧粉磁心を製造することができる。なお、ここではそれぞれ2回の圧縮成形工程及び焼鈍工程を使用したけれども、必要に応じて、3回もしくはそれ以上の圧縮成形工程及び焼鈍工程を実施してもよい。
【0044】
本発明方法により最終製品として得られる圧粉磁心は、好ましくは、90%以上、さらに好ましくは95%以上の相対密度を有している。圧粉磁心の相対密度は、絶縁皮膜及び複合磁性粒子間の間隙(空孔)を含んで測定された圧粉磁心の実測密度を、金属磁性粒子の理論密度で割った値で求められる。高い相対密度を有するため、本発明の圧粉磁心は、緻密でありかつ硬度に優れている。例えば、圧粉磁心のビッカース硬度(Hv)は、通常、110〜160であり、好ましくは、120〜140である。
【0045】
本発明方法により得られる圧粉磁心は、その優れた性能のため、いろいろな製品に有利に使用することができる。一例として、電磁気を利用した各種の電磁機器、例えば、変圧器、電動機、発電機、アクチュエータなどにおいて有利に利用することができる。本発明の圧粉磁心は、特に自動車用途において好適である。自動車用途としては、例えば、自動車エンジン等の燃料噴射弁、エンジンバルブ駆動用の電磁アクチュエータなどを挙げることができる。
【実施例】
【0046】
次いで、本発明をその実施例を参照して説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0047】
実施例1
本例では、図8に模式的に示されるような手法に従って本発明方法により圧粉磁心を製造し、得られた圧粉磁心の変形率(ひずみ)と結晶粒径の関係を評価した。
【0048】
最初に、金属磁性粒子(鉄系粉末;図では「鉄粉」として表示)として、ヘガネス社製の「ソマロイ700」(商品名、結晶粒径87μm)を用意した。次いで、金属磁性粒子99.8質量部にシリコーン樹脂0.2質量部を被覆処理した。シリコーン樹脂としては信越化学社製の「シリコンレジンKR220L」(商品名)を使用した。被覆処理は、常法に従い、シリコンレジンKR220LをIPA(イソプロピルアルコール)に溶解して1重量%溶液とし、鉄粉温度110℃でスプレーすることで実施した。
【0049】
次いで、得られた混合粉末をリング状キャビティを備えた金型に入れ、1回目の圧縮成形を実施した。圧縮成形工程は、大気中で型温130℃及び圧力130、260、650又は1300MPaで実施した。なお、本例では、金属磁性粒子のかさ密度を基本として変形率(ひずみ)の異なる、すなわち、変形率がそれぞれ44.2%、51.7%、57.4%及び58.5%である、4種類のサンプルを作製した。1回目の圧縮成形が完了した後、焼鈍を行うことでひずみを一旦リセットした。焼鈍工程は、到達温度600℃で昇温速度100℃/時間、保持時間60分で実施した。焼鈍工程の完了後、得られた金属磁性粒子の変形率(%)と結晶粒径(μm)の関係を測定したところ、図9にプロットするようなグラフが得られた。図示されるように、変形率がそれぞれ44.2%、51.7%、57.4%、そして58.5%のとき、それぞれの金属磁性粒子の結晶粒径は、68.1μm、59.0μm、46.9μm、そして41.1μmであった。これらの測定結果から、成形及び焼鈍によって原料粉末の結晶粒径(87μm)より結晶が微細化するものの、成形時の変形率を小さくするほど結晶粒径が微細化する度合いが小さくなることがわかる。
【0050】
引き続いて、最終製品に必要な成形密度(7.2g/cm3以上)を得るため、先に実施した1回目の圧縮成形工程及び焼鈍工程と同様な手法で2回目の圧縮成形及び焼鈍を実施した。すなわち、2回目の圧縮成形工程は、1回目の変形率がそれぞれ44.2%、51.7%、57.4%及び58.5%である上述の4種類のサンプルについて、大気中で型温130℃及び圧力1300MPaで実施した。次いで、ひずみをリセットするための焼鈍工程を実施した。焼鈍工程は、到達温度600℃で昇温速度100℃/時間、保持時間60分で実施した。2回目の焼鈍工程の完了後、得られた金属磁性粒子の変形率(%)と結晶粒径(μm)の関係を再び測定したところ、図9にプロットするようなグラフが得られた。図示されるように、2回目の変形率がそれぞれ25.5%、14.5%、3.2%、そして0.6%のとき、それぞれの金属磁性粒子の結晶粒径は、45.7μm、53.0μm、43.2μm、そして38.1μmであった。この場合、1回目の成形・焼鈍工程後の結晶粒径を基準として考えると、2回目の変形率を小さくするほど結晶粒径が微細化する度合いが小さくなることがわかる。つまり、所望の成形密度を得つつ、結晶粒径を粗大化するためには、極端に結晶粒径を微細化させてしまうような大きな変形(ひずみ)を与えないように成形及び焼鈍を繰り返すことが必要であることがわかる。
【0051】
実施例2
本例では、本発明方法に従って製造された圧粉磁心の磁気特性(ヒステリシス損失・渦電流損失)を評価した。
【0052】
前記実施例1に記載の手法に準じて圧縮成形工程及び焼鈍工程を各々2回にわけて実施して圧粉磁心を製造した。但し、本例では、1回目の変形率を51.7%、2回目の変形率を14.5%の条件で、金属磁性粒子の結晶粒径が53μmと最も粗大であったサンプルについて磁気特性(ヒステリシス損失及び渦電流損失)を測定した。ヒステリシス損失及び渦電流損失は、それぞれ、次のような手法で測定した。
【0053】
〔ヒステリシス損失及び渦電流損失の測定〕
ヒステリシス損失及び渦電流損失は、周波数に対して鉄損値をプロットし、一次の項(ヒステリシス損失)と二次の項(渦電流損失)とに分離することによって求めた。なお、図10に示したヒステリシス損失および渦電流損失は、周波数400Hz、磁束密度1.5Tの条件下での測定結果である。
【0054】
図10は、得られた測定結果をまとめたグラフである。従来の1回成形焼鈍に対し今回の2回成形焼鈍では、ヒステリシス損失Iが38.7W/kgから30.6W/kgに変化した。一方、渦電流損失IIは、40.05W/kgから10.66W/kgに変化した。このことから、成形及び焼鈍を繰り返し結晶粒径が粗大化したものは、ヒステリシス損失が大きく低下することがわかる。また、渦電流損失も減少した。この理由は定かではないが、成形体を一旦焼鈍することで、鉄母材が軟化し、一度で成形するよりも皮膜へのミクロ的な圧力が減少したものと考察される。
【0055】
実施例3
本例では、本発明方法に従って製造された圧粉磁心について、変形率とビーカース硬度Hvの関係を評価した。
【0056】
前記実施例1に記載の手法に準じて1回目の圧縮成形工程のみ実施して圧粉磁心を製造した。但し、本例では、変形率がそれぞれ34.4%、40.4%、44.2%、51.7%、57.3%、そして58.4%である6種類のサンプルを作製した。変形率がそれぞれ34.4%、40.4%、44.2%、51.7%、57.3%、そして58.4%のとき、それぞれの金属磁性粒子の結晶粒径は、69.5μm、71.8μm、68.1μm、59.0μm、46.9μm、そして41.1μmであった。次いで、得られたサンプルのビッカース硬度Hvを次のような手法で測定した。
【0057】
〔ビッカース硬度Hvの測定〕
ダイヤモンド四角すい圧子を荷重10gfで試験面に押し付けてくぼみをつけ、くぼみの対角線長さから求めたくぼみの表面積からビッカース硬度を算出した。今回は金属磁性粒子の結晶中の硬さを測定するためマイクロビッカース測定器を使用した。
【0058】
図11は、得られた測定結果をまとめたグラフである。変形率に対するビッカース硬度の測定結果から、本発明品において、成形後のビッカース硬度は、好ましくは、Hv120〜140の範囲であり、溶製材の結晶粒径が粗大化する変形率8〜10%に一致していることがわかる。
【符号の説明】
【0059】
1 金属磁性粒子
2 絶縁皮膜
10 圧粉磁心
11 金属磁性粒子の結晶粒
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心の製造方法に関し、さらに詳しく述べると、ヒステリシス損失の低い圧粉磁心を製造する方法に関する。本発明の圧粉磁心は、最終製品での結晶粒の粗大化を達成可能であるため、電磁気を利用した各種の製品において有利に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、アクチュエータ等の電磁気を利用した製品では、局所的に大きな交番磁界を効率的に得るため、磁心(軟磁石)を交番磁界中に設けているのが一般的である。磁心は、通常、金属磁性粒子とその表面を被覆した絶縁皮膜とからなる複数個の複合金属磁性粒子を有機バインダで相互に結合させて軟磁性材料を作製し、さらにその軟磁性材料の粉末を圧縮成形することによって製造されている。よって、このような磁心は、一般的に「圧粉磁心」と呼ばれている。
【0003】
従来、上記のような圧粉磁心において、得られる製品の効率や出力向上のため、ヒステリシス損失を低く抑えることが重要視されてきた。また、圧粉磁心において低ヒステリシス損失を確保するため、それぞれの金属粒子の結晶粒の粗大化を図ることが有用であるということがよく知られている。例えば、特許文献1には、金属磁性粒子とその金属磁性粒子の表面を取り囲む磁性被膜とを含む複数の複合磁性粒子を備える軟磁性材料を原料として使用して製造されたものであって、金属磁性粒子の結晶粒の平均の大きさが10μm以上であることを特徴とする圧粉磁心が記載されている。
【0004】
しかしながら、本発明者らの研究により、原料として使用する金属磁性粒子の結晶粒がいかに粗大であっても、圧粉磁心の製造に欠かすことができないその後の成形及び焼鈍工程で、結晶粒径が微細化し、ヒステリシス損失が増大してしまうということが明らかとなった。一例を説明すると、図1は、結晶粒径が87μmである金属磁性粒子(アトマイズ鉄粉)の断面組織を示す光学顕微鏡写真である。なお、この金属磁性粒子は、結晶粒径を評価するためのものであり、市販の「ソマロイ700」(商品名)というリン酸塩の絶縁皮膜を有するアトマイズ鉄粉をそのまま成形、焼鈍及び評価した。圧縮成形は1300MPaの圧力下で実施し、引き続いて到達温度600℃で昇温速度100℃/時間、保持時間60分にわたって焼鈍した。図2は、得られた圧粉磁心の断面組織を示す光学顕微鏡写真である。図1の断面組織を図2の断面組織と比較することから明らかとなるように、原料工程では約87μmであった結晶粒径が、圧縮成形及び焼鈍が完了した後においては、約40μmまで減少している。
【0005】
このように原料の金属磁性粒子の結晶粒径を規定したとしても、圧粉磁心の成形及び焼鈍工程によって、最終製品の結晶粒径が変化してしまう。そのために、圧粉磁心において目標とする性能(低ヒステリシス損失等)を得るためには、最終製品での結晶粒径を微細化することなく、原料段階での粗大な結晶粒径をそのまま維持することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−142547号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、金属磁性粒子を含む軟磁性材料から圧縮成形及び焼鈍により圧粉磁心を製造するとき、得られる圧粉磁心において金属磁性粒子の結晶粒の微細化を防止することができ、よって、粗大化された結晶粒に由来する低ヒステリシス損失やその他の特性を達成することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、目標の性能を得るためには、原料だけでなく成形工程におけるひずみや、焼鈍工程における焼鈍温度などの検討により、最終製品での結晶粒径の粗大化が必要であるという知見を得、鋭意研究した結果、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、金属磁性粒子を含む軟磁性材料を圧縮成形して圧粉磁心を製造する方法において、
前記圧縮成形工程を複数回にわたって実施し、かつそれぞれの圧縮成形工程の後に焼鈍工程を実施するものであり、
前記圧縮成形工程で入るひずみを圧縮成形工程前後の密度変化率で表した場合、
最終の圧縮成形工程での密度変化率は0.6〜25.5%の範囲であり、かつ
前記最終の圧縮成形工程の1つ手前の圧縮成形工程での密度変化率は44.2〜58.5%の範囲であることを特徴とする圧粉磁心の製造方法にある。また、本発明は、このような製造方法によって得られる圧粉磁心とその使用にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下の詳細な説明から理解されるように、圧粉磁心の製造に際し、成形工程及びそれに引き続く焼鈍工程をそれぞれ複数回にわたって反復することで、結晶粒径の粗大化を達成することができ、よって、ヒストリシス損失の低下を達成することができる。また、低ヒステリシス損失の達成の結果、製品の効率や出力を高めた圧粉磁心を提供することができる。さらに、かかるすぐれた性能を保有しているため、本発明方法で得られる圧粉磁心は、電動機、発電機、アクチュエータ等、電磁気を利用した各種の製品において磁心として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】金属磁性粒子の断面組織を示した光学顕微鏡写真である。
【図2】成形及び焼鈍処理を施した後の金属磁性粒子の断面組織を示した光学顕微鏡写真である。
【図3】鋼板における圧延でひずみが導入されたのち、その後の焼鈍により再結晶が発生する模式図である。
【図4】鋼板における純鉄の再結晶の状態を示した状態図である。
【図5】市販の純鉄における焼きなまし時間と硬さの関係をプロットしたグラフである。
【図6】本発明方法により得られる圧粉磁心を模式的に示した断面図である。
【図7】本発明による圧粉磁心の製造方法を順を追って示した工程図である。
【図8】本発明による圧粉磁心の製造方法を順を追って具体的に示した説明図である。
【図9】焼鈍工程の前後における変形率と結晶粒径の関係をプロットしたグラフである。
【図10】圧粉磁心においてヒステリシス損失及び渦電流損失を測定した結果を示したグラフである。
【図11】圧粉磁心における変形率と硬さの関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
最初に、本発明を発明するに至った経緯を説明する。
【0013】
鋼板を初めとする溶製材では、それを製造する時、圧延時の変形率や焼鈍条件によって焼鈍後の溶製材の結晶粒径が異なることが知られている。例えば、須藤ら、「金属組織学」、丸善、1972年8月刊、を参照すると、図3に示すように、鋼板に関して、圧延によりひずみが導入されたのち、その後の焼鈍により再結晶が発生する様子が示されている。また、図4には、同じ鋼板に関して、圧延率と焼鈍温度を変化させた際の再結晶後の結晶粒径が模式的に示されている。この文献には、変形率(ひずみ)が8〜10%となるように圧延を実施した際、焼鈍後の結晶粒径が最大となると、記載されている。これは、変形率が8〜10%の際に、圧延後に導入されたひずみ量が最適となり、焼鈍による再結晶発生後の結晶粒径が最大になるためである。
【0014】
本発明者らは、このたび、溶製材におけるこの考え方を、粉末材料から圧粉磁心を製造するときにも導入し得るということを発見した。すなわち、金属磁性粒子を含む軟磁性材料を圧縮成形して圧粉磁心を製造するとき、その製造プロセスのうちの成形及び焼鈍工程を通じて上記した文献に記載の再結晶現象を発生させ、また、成形工程での変形率及び焼鈍温度を適切に選択することにより結晶粒径の粗大化を狙うというものである。
【0015】
図6は、本発明方法によって得られる圧粉磁心を模式的に示した断面図である。圧粉磁心10は、複数個の金属磁性粒子1の圧粉体である。それぞれの金属磁性粒子1は、結晶粒11の集合体であり、また、結晶粒11は、粗大化されたままのものであり、通常、10μm以上の平均粒径を有している。よって、この圧粉磁心10は、ヒステリシス損失が低く、製品の効率や出力を向上させる点で有効である。また、金属磁性粒子1の表面には、絶縁皮膜2が被覆されている。また、図示される通り、それぞれの金属磁性粒子1の間隙は、圧粉磁心の原料である軟磁性材料を作製するときに金属磁性粒子どうしを結合させるために使用した有機バインダが、焼鈍工程の段階で圧粉体から燃焼及び分解により除去せしめられたことによるものである。製品の密度は、間隙の幅によって決まるため、製品の要求密度によって、有機バインダの添加量を増減させる必要があるのは言うまでもない。
【0016】
図7は、本発明による圧粉磁心の好ましい製造方法を順を追って示した工程図である。本発明方法は、図示される通り、圧縮成形工程とその後の焼鈍工程を繰り返し実施して圧粉磁心を製造することに特徴がある。すなわち、本発明の実施に当っては、金属磁性粒子を含む軟磁性材料を圧縮成形して圧粉磁心を製造するに当たって、圧縮成形工程を複数回にわたって実施し、かつそれぞれの圧縮成形工程の後に焼鈍工程を実施することに特徴がある。
【0017】
本発明方法において、圧縮成形工程とその後の焼鈍工程以外の工程は、基本的には、圧粉磁心の製造において従来一般的に使用されている手法をそのまま、もしくは任意に改良して実施することができる。一般的には、例えば図7に示されるような手順で、すなわち、金属磁性粒子の用意から始まって、金属磁性粒子の熱処理→絶縁皮膜の形成→バインダの混合→軟磁性材料の作製を実施し、その後で、圧縮成形工程及び焼鈍工程を反復することによって、目標とする性能をもった圧粉磁心を製造することができる。なお、金属磁性粒子の熱処理、絶縁皮膜の形成及びバインダの混合の各工程は、必要に応じて、それらの1工程もしくはそれ以上を省略してもよい。
【0018】
通常一般的に用いられている手法に従って圧粉磁心を製造する場合、圧粉磁心の成形工程で、金属磁性粒子に「ひずみ」(本発明では、このひずみを、もとの形状からの「変形率」として評価する)が発生することが確認されている。また、圧粉磁心の成形工程では一度に最終製品において目標とされる密度まで成形を実施するため、成形工程での変形率は、原料として使用する金属磁性粒子の「見かけ密度」と最終製品において目標とされる密度(「最終密度」)で決定されてしまう。これに対して、本発明では、成形工程を複数回に分けて実施することにより、任意の変形率を選択し、適切なひずみ量を得ることができる。
【0019】
また、本発明の実施に当っては、各成形工程の間に焼鈍工程を設ける必要がある。これは、成形工程を連続で行うと、ひずみが蓄積されてしまい、再結晶後の結晶粒径が微細化してしまうためである。本発明において焼鈍工程を設けることで、その前の成形工程において発生したひずみをリセットし、成形工程の前の初期の状態に戻すことが可能である。
【0020】
さらに、成形工程を複数回に分けて実施するとき、最終の圧縮成形工程前後の密度変化率(ひずみ)は、通常、0.5〜57%の範囲であることが望ましい。これは、変化率が0.5%を下回ると、結晶の粗大化に必要な再結晶が発生せず、反対に57%を上回ると、通常の圧粉磁心と同様に結晶粒径が微細化してしまうからである。
【0021】
加えて、各成形工程でも、それぞれの圧縮成形工程前後の密度変化率は57%以下であることが望ましい。これは、57%を上回ると、通常の圧粉磁心と同様に結晶粒径が微細化してしまうからである。
【0022】
そして、それぞれの圧縮成形工程の後、得られる成形体は、平均して110〜160のビッカース硬度を有していることが望ましい。これは、ビッカース硬度が110を下回ると、結晶の粗大化に必要な再結晶が発生せず、反対に160を上回ると、再結晶後の結晶粒径が微細化してしまうためである。好ましくは、ビッカース硬度は、平均して120〜140である。これは、ビッカース硬度が120を下回ると、成形体内部のバラツキを考慮すると部分的に結晶の粗大化に必要な再結晶が発生しない可能性があり、反対にビッカース硬度が140を上回ると、同様に、部分的に再結晶後の結晶粒径が微細化してしまう可能性があるためである。なお、先に参照した須藤らの「金属組織学」によると、図5に示すように、純鉄溶製材では、再結晶発生後の結晶粒径が最大となる変形率が8〜10%に相当するビッカース硬度は120〜140であることが記載されており、この点からも、本発明で規定されるビッカース硬度に臨界的意義があることがわかる。
【0023】
焼鈍工程において適用する温度、すなわち、焼鈍温度は、400〜910℃の範囲であることが望ましい。これは、400℃を下回ると、結晶の粗大化に必要な再結晶が発生せず、反対に910℃を上回ると、金属磁性粒子の表面を被覆した絶縁皮膜が劣化し、また金属磁性粒子が焼結してしまうからである。
【0024】
焼鈍温度の決定に当っては、得られる圧粉磁心の硬さだけでなく、絶縁皮膜の耐熱性も加味して決定することが好ましい。ひずみの除去(すなわち、ひずみ取り)をより十分に行いヒステリシス損失を低下させたい場合には、比較的に高温の焼鈍温度を適用し、また、渦電流の損失を低下させたい場合には、比較的に低温の焼鈍温度を適用することが推奨される。
【0025】
最終製品としての圧粉磁心の密度は、通常、7.2g/cm3以上、好ましくは7.5g/cm3以上である。最終製品の密度が7.2g/cm3を下回ると、ヒステリシス損失が増加するとともに、磁束密度が減少するので、望ましくない。
【0026】
成形工程を繰り返すとき、その繰り返し回数は、特に限定されるものではなく、所望とする効果や目標とする性能などに応じて任意に変更することができる。成形工程の繰り返し回数は、通常、2回もしくはそれ以上であり、好ましくは、2回〜5回、さらに好ましくは、2回もしくは3回である。製造しようとする圧粉磁心が複雑な形状を有する場合には、成形工程を容易にするため、中間成形体を複数組み合わせて最終成形を行ってもよい。
【0027】
引き続いて、本発明による圧粉磁心の製造方法をさらに具体的に説明する。
【0028】
本発明の実施において、圧粉磁心の原料として使用する金属磁性粒子は、その圧粉磁心の組成に応じて任意に変更することができる。一般的に、金属磁性粒子は、鉄系材料、すなわち、純鉄もしくはその合金からなることができる。適当な金属磁性粒子は、以下に記載するものに限定されないが、例えば、鉄(Fe)、鉄(Fe)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)系合金、鉄(Fe)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−窒素(N)系合金、鉄(Fe)−炭素(C)系合金、鉄(Fe)−ホウ素(B)系合金、鉄(Fe)−リン(P)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−シリコン(Si)系合金などである。これらの金属磁性粒子は、単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。なかんずく、好適な金属磁性粒子は、Fe、Fe‐Si、Fe‐Al、Fe‐Ni、Fe‐Co及びその混合物である。
【0029】
金属磁性粒子は、いろいろな粒径で使用することができる。金属磁性粒子の平均粒径は、通常、30〜500μmであることが好ましい。金属磁性粒子の平均粒径を30μm以上とすることにより、保磁力を低減することができる。金属磁性粒子の平均粒径を500μm以下とすることにより、渦電流損を低減することができる。金属磁性粒子の平均粒径は、さらに好ましくは、50〜300μmである。
【0030】
金属磁性粒子は、それを圧縮成形工程に供する前、必要に応じて熱処理することができる。熱処理工程は、通常、金属磁性粒子の融点を下回る温度、例えば金属磁性粒子の融点を50℃ほど下回る温度で実施することができる。熱処理を行うことによって、金属磁性粒子の内部に存在するひずみを低減することができる。また、この熱処理工程を900℃もしくはそれ以上の温度で実施することで、金属磁性粒子の結晶を粗大化することができる。金属磁性粒子の熱処理温度は、通常、900〜1200℃である。
【0031】
好ましくは、金属磁性粒子の表面に絶縁皮膜を形成し、金属磁性粒子の周囲を絶縁皮膜で取り囲むことができる。金属磁性粒子を絶縁皮膜で覆うことによって、金属磁性粒子と絶縁皮膜の複合磁性粒子からなる軟磁性材料を圧縮成形するとき、得られる圧粉磁心の電気抵抗率ρを大きくすることができ、さらには、電気抵抗率ρの増加により、金属磁性粒子間に渦電流が流れるのを抑制して、圧粉磁心の渦電流損を低減させることができる。
【0032】
絶縁皮膜は、圧粉磁心の製造において一般的に使用されている絶縁材料から、任意の成膜法を使用して形成することができる。例えば、絶縁材料として、シリコン系有機化合物やリン酸塩を含む材料を使用することができる。例えば、シリコン樹脂から絶縁皮膜を形成した場合、シリコン樹脂に由来する優れた絶縁性を薄膜で達成することができる。また、リン酸塩を含む金属酸化物から絶縁皮膜を形成した場合にも、金属磁性粒子の表面を覆う被覆層をより薄くすることができる。これにより、複合磁性粒子の磁束密度を大きくし、磁気特性を向上させることができる。絶縁皮膜は、単層で使用してもよく、必要に応じて、2層もしくはそれ以上の多層で使用してもよい。
【0033】
絶縁皮膜の形成に使用するリン酸塩としては、例えば、リン酸鉄のほか、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウムなどを使用することができる。また、酸化物としては、例えば、酸化シリコン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどを使用することができる。
【0034】
絶縁皮膜の膜厚は、広い範囲で変更することができる。絶縁皮膜の膜厚は、平均して、0.005〜20μmであることが好ましく、さらに好ましくは、0.05〜0.4μmである。絶縁皮膜の膜厚を0.005μm以上とすることによって、トンネル効果による通電を抑制することができる。また、0.05μm以上とすることによって、トンネル効果による通電をより効果的に抑制することができる。一方、絶縁皮膜の膜厚を20μm以下とすることによって、圧縮成形時に絶縁皮膜がせん断破壊することを防止できる。また、軟磁性材料に占める絶縁皮膜の割合が大きくなりすぎないので、軟磁性材料を圧縮成形して得られる圧粉磁心の磁束密度が著しく低下することを防止できる。また、絶縁皮膜の膜厚を0.4μm以下とすることによって、磁束密度の低下をさらに防止することができる。絶縁皮膜の形成には、有機溶剤を使用した湿式被覆法やミキサーによる直接被覆法などを使用できるが、これらの手法に限定されるわけではない。
【0035】
絶縁皮膜の形成後、金属磁性粒子から軟磁性材料を作製するため、金属磁性粒子をバインダで相互に結合させることが好ましい。バインダ(結合剤)としては、この技術分野において一般的に使用されているように、有機バインダを有利に使用することができる。有機バインダは、引き続く圧縮成形工程において、金属磁性粒子の間で緩衝材として機能することができ、金属磁性粒子どうしの接触によって絶縁皮膜が破壊されるのを防ぐことができる。また、有機バインダは、圧縮工程の後に引き続いて行われる焼鈍工程において、燃焼もしくは分解によって圧粉磁心から取り除くことができる。しかしながら、必要に応じて、有機バインダに代えて、無機バインダを使用してもよい。
【0036】
有機バインダとしては、以下に列挙するものの限定されないが、例えば、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミド、熱可塑性ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂、高分子量ポリエチレン、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリイミドなどの非熱可塑性樹脂、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カルシウム、オレイン酸リチウム、オレイン酸カルシウムなどの高級脂肪酸系化合物などを挙げることができる。これらの有機バインダは、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
複数個の金属磁性粒子をバインダを併用して混合し、軟磁性材料を作製するとき、任意の混合方法を使用することができる。適当な混合方法として、例えば、メカニカルアロイング法、振動ボールミル、遊星ボールミル、メカノフュージョン、共沈法、化学気相蒸着法(CVD法)、物理気相蒸着法(PVD法)、めっき法、スパッタリング法、蒸着法、ゾル−ゲル法などを使用することができる。この混合工程により、複数個の複合磁性粒子が、それぞれ、バインダで互いに接合された軟磁性材料が得られる。
【0038】
ここで、軟磁性材料に対するバインダの割合は、0を超え1.0質量%以下であることが好ましい。バインダの割合を1.0質量%以下とすることによって、軟磁性材料に占める金属磁性粒子の割合を一定以上に確保することができ、さらにはより高い磁束密度の軟磁性材料を得ることができる。なお、先にも述べた通り、バインダの混合は必須の工程ではなく、必要ならば、バインダを混合することなく、金属磁性粒子あるいは絶縁皮膜を有する複合磁性粒子のみで引き続く圧縮成形工程を実施してもよい。
【0039】
引き続いて、圧縮成形工程及びその後の焼鈍工程を本発明に従い繰り返して実施する。
【0040】
圧縮成形工程のため、先の工程で得られた、通常混合粉末の形をした軟磁性材料を、最終製品に所望の形態を有する金型に充填する。金型の内側には、予め潤滑剤を塗布しておいてもよい。次いで、金型に充填した軟磁性材料を、例えば100〜150℃の型温度及び700〜1500MPaの圧力で圧縮成形する。圧縮成形は、圧粉磁心の製造に一般的に使用されている成形装置を使用して、従来一般的に使用されている成形条件下で実施することができる。これにより、混合粉末が圧縮されて成形体が得られる。
【0041】
引き続いて、圧縮成形の際に発生した成形体のひずみをリセットするため、必要に応じて熱処理と言ってもよい焼鈍工程を実施する。焼鈍工程は、圧縮成形時に発生したひずみをリセットするのに必要な条件下で、例えばそれを達成するのに必要な温度及び回数で実施する。焼鈍工程は、通常、300℃もしくはそれ以上から、絶縁皮膜の熱分解温度を下回る温度で実施し、例えば300〜1000℃の温度で実施する。例えば、絶縁皮膜としてシリコン樹脂を使用した場合、焼鈍温度は、好ましくは、600℃である。例えば、焼鈍工程において、到達温度を600℃に設定し、昇温速度を100℃/時及び保持時間を60分間として焼鈍工程を実施することができる。なお、本発明者らの知見によれば、圧縮成形時に成形体の内部に発生したひずみを低減するには、400〜910℃で焼鈍工程を実施するのが効果的である。
【0042】
また、焼鈍工程は、比較的に低い温度で実施されるため、金属磁性粒子の表面に形成されている絶縁皮膜が劣化することがない。よって、焼鈍工程後においても、絶縁皮膜が金属磁性粒子を覆う状態が保持され、金属磁性粒子間に渦電流が流れるのを絶縁皮膜によって確実に抑制することができる。
【0043】
上記のようにして1回目の圧縮成形工程及び焼鈍工程が完了した後、2回目の圧縮成形工程を実施する。2回目の圧縮成形工程は、上記した1回目の圧縮成形工程に準じて、但し、0.5〜57%の変化率を達成するのに十分な条件で実施する。そして、この圧縮成形工程が完了した後、それにより発生したひずみをリセットするため、再び焼鈍工程を実施する。この焼鈍工程も、上記した1回目の圧縮成形工程に準じて実施して実施する。このような一連の工程を経て、目標とする性能をもった圧粉磁心を製造することができる。なお、ここではそれぞれ2回の圧縮成形工程及び焼鈍工程を使用したけれども、必要に応じて、3回もしくはそれ以上の圧縮成形工程及び焼鈍工程を実施してもよい。
【0044】
本発明方法により最終製品として得られる圧粉磁心は、好ましくは、90%以上、さらに好ましくは95%以上の相対密度を有している。圧粉磁心の相対密度は、絶縁皮膜及び複合磁性粒子間の間隙(空孔)を含んで測定された圧粉磁心の実測密度を、金属磁性粒子の理論密度で割った値で求められる。高い相対密度を有するため、本発明の圧粉磁心は、緻密でありかつ硬度に優れている。例えば、圧粉磁心のビッカース硬度(Hv)は、通常、110〜160であり、好ましくは、120〜140である。
【0045】
本発明方法により得られる圧粉磁心は、その優れた性能のため、いろいろな製品に有利に使用することができる。一例として、電磁気を利用した各種の電磁機器、例えば、変圧器、電動機、発電機、アクチュエータなどにおいて有利に利用することができる。本発明の圧粉磁心は、特に自動車用途において好適である。自動車用途としては、例えば、自動車エンジン等の燃料噴射弁、エンジンバルブ駆動用の電磁アクチュエータなどを挙げることができる。
【実施例】
【0046】
次いで、本発明をその実施例を参照して説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0047】
実施例1
本例では、図8に模式的に示されるような手法に従って本発明方法により圧粉磁心を製造し、得られた圧粉磁心の変形率(ひずみ)と結晶粒径の関係を評価した。
【0048】
最初に、金属磁性粒子(鉄系粉末;図では「鉄粉」として表示)として、ヘガネス社製の「ソマロイ700」(商品名、結晶粒径87μm)を用意した。次いで、金属磁性粒子99.8質量部にシリコーン樹脂0.2質量部を被覆処理した。シリコーン樹脂としては信越化学社製の「シリコンレジンKR220L」(商品名)を使用した。被覆処理は、常法に従い、シリコンレジンKR220LをIPA(イソプロピルアルコール)に溶解して1重量%溶液とし、鉄粉温度110℃でスプレーすることで実施した。
【0049】
次いで、得られた混合粉末をリング状キャビティを備えた金型に入れ、1回目の圧縮成形を実施した。圧縮成形工程は、大気中で型温130℃及び圧力130、260、650又は1300MPaで実施した。なお、本例では、金属磁性粒子のかさ密度を基本として変形率(ひずみ)の異なる、すなわち、変形率がそれぞれ44.2%、51.7%、57.4%及び58.5%である、4種類のサンプルを作製した。1回目の圧縮成形が完了した後、焼鈍を行うことでひずみを一旦リセットした。焼鈍工程は、到達温度600℃で昇温速度100℃/時間、保持時間60分で実施した。焼鈍工程の完了後、得られた金属磁性粒子の変形率(%)と結晶粒径(μm)の関係を測定したところ、図9にプロットするようなグラフが得られた。図示されるように、変形率がそれぞれ44.2%、51.7%、57.4%、そして58.5%のとき、それぞれの金属磁性粒子の結晶粒径は、68.1μm、59.0μm、46.9μm、そして41.1μmであった。これらの測定結果から、成形及び焼鈍によって原料粉末の結晶粒径(87μm)より結晶が微細化するものの、成形時の変形率を小さくするほど結晶粒径が微細化する度合いが小さくなることがわかる。
【0050】
引き続いて、最終製品に必要な成形密度(7.2g/cm3以上)を得るため、先に実施した1回目の圧縮成形工程及び焼鈍工程と同様な手法で2回目の圧縮成形及び焼鈍を実施した。すなわち、2回目の圧縮成形工程は、1回目の変形率がそれぞれ44.2%、51.7%、57.4%及び58.5%である上述の4種類のサンプルについて、大気中で型温130℃及び圧力1300MPaで実施した。次いで、ひずみをリセットするための焼鈍工程を実施した。焼鈍工程は、到達温度600℃で昇温速度100℃/時間、保持時間60分で実施した。2回目の焼鈍工程の完了後、得られた金属磁性粒子の変形率(%)と結晶粒径(μm)の関係を再び測定したところ、図9にプロットするようなグラフが得られた。図示されるように、2回目の変形率がそれぞれ25.5%、14.5%、3.2%、そして0.6%のとき、それぞれの金属磁性粒子の結晶粒径は、45.7μm、53.0μm、43.2μm、そして38.1μmであった。この場合、1回目の成形・焼鈍工程後の結晶粒径を基準として考えると、2回目の変形率を小さくするほど結晶粒径が微細化する度合いが小さくなることがわかる。つまり、所望の成形密度を得つつ、結晶粒径を粗大化するためには、極端に結晶粒径を微細化させてしまうような大きな変形(ひずみ)を与えないように成形及び焼鈍を繰り返すことが必要であることがわかる。
【0051】
実施例2
本例では、本発明方法に従って製造された圧粉磁心の磁気特性(ヒステリシス損失・渦電流損失)を評価した。
【0052】
前記実施例1に記載の手法に準じて圧縮成形工程及び焼鈍工程を各々2回にわけて実施して圧粉磁心を製造した。但し、本例では、1回目の変形率を51.7%、2回目の変形率を14.5%の条件で、金属磁性粒子の結晶粒径が53μmと最も粗大であったサンプルについて磁気特性(ヒステリシス損失及び渦電流損失)を測定した。ヒステリシス損失及び渦電流損失は、それぞれ、次のような手法で測定した。
【0053】
〔ヒステリシス損失及び渦電流損失の測定〕
ヒステリシス損失及び渦電流損失は、周波数に対して鉄損値をプロットし、一次の項(ヒステリシス損失)と二次の項(渦電流損失)とに分離することによって求めた。なお、図10に示したヒステリシス損失および渦電流損失は、周波数400Hz、磁束密度1.5Tの条件下での測定結果である。
【0054】
図10は、得られた測定結果をまとめたグラフである。従来の1回成形焼鈍に対し今回の2回成形焼鈍では、ヒステリシス損失Iが38.7W/kgから30.6W/kgに変化した。一方、渦電流損失IIは、40.05W/kgから10.66W/kgに変化した。このことから、成形及び焼鈍を繰り返し結晶粒径が粗大化したものは、ヒステリシス損失が大きく低下することがわかる。また、渦電流損失も減少した。この理由は定かではないが、成形体を一旦焼鈍することで、鉄母材が軟化し、一度で成形するよりも皮膜へのミクロ的な圧力が減少したものと考察される。
【0055】
実施例3
本例では、本発明方法に従って製造された圧粉磁心について、変形率とビーカース硬度Hvの関係を評価した。
【0056】
前記実施例1に記載の手法に準じて1回目の圧縮成形工程のみ実施して圧粉磁心を製造した。但し、本例では、変形率がそれぞれ34.4%、40.4%、44.2%、51.7%、57.3%、そして58.4%である6種類のサンプルを作製した。変形率がそれぞれ34.4%、40.4%、44.2%、51.7%、57.3%、そして58.4%のとき、それぞれの金属磁性粒子の結晶粒径は、69.5μm、71.8μm、68.1μm、59.0μm、46.9μm、そして41.1μmであった。次いで、得られたサンプルのビッカース硬度Hvを次のような手法で測定した。
【0057】
〔ビッカース硬度Hvの測定〕
ダイヤモンド四角すい圧子を荷重10gfで試験面に押し付けてくぼみをつけ、くぼみの対角線長さから求めたくぼみの表面積からビッカース硬度を算出した。今回は金属磁性粒子の結晶中の硬さを測定するためマイクロビッカース測定器を使用した。
【0058】
図11は、得られた測定結果をまとめたグラフである。変形率に対するビッカース硬度の測定結果から、本発明品において、成形後のビッカース硬度は、好ましくは、Hv120〜140の範囲であり、溶製材の結晶粒径が粗大化する変形率8〜10%に一致していることがわかる。
【符号の説明】
【0059】
1 金属磁性粒子
2 絶縁皮膜
10 圧粉磁心
11 金属磁性粒子の結晶粒
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性粒子を含む軟磁性材料を圧縮成形して圧粉磁心を製造する方法において、
前記圧縮成形工程を複数回にわたって実施し、かつそれぞれの圧縮成形工程の後に焼鈍工程を実施するものであり、
前記圧縮成形工程で入るひずみを圧縮成形工程前後の密度変化率で表した場合、
最終の圧縮成形工程での密度変化率は0.6〜25.5%の範囲であり、かつ
前記最終の圧縮成形工程の1つ手前の圧縮成形工程での密度変化率は44.2〜58.5%の範囲であることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
得られる圧粉磁心において、含まれる金属磁性粒子の割合は、圧粉磁心の全量を基準にして、99重量%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
得られる圧粉磁心において、含まれる金属磁性粒子の結晶粒は、10μm以上の平均粒径を有している、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属磁性粒子は、Fe、Fe‐Si、Fe‐Al、Fe‐Ni、Fe‐Co及びその混合物からなる群から選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
第1回の前記圧縮成形工程の前に、前記金属磁性粒子の表面に絶縁皮膜を被覆する工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
それぞれの圧縮成形工程の後、得られた成形体は、平均して110〜160のビッカース硬度(Hv)を有している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記焼鈍工程は、それぞれ、400〜910℃の温度で実施される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
最終製品としての前記圧粉磁心の相対密度は90%以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
第1回の前記圧縮成形工程の前に、複数個の前記金属磁性粒子を有機バインダでもって相互に結合する工程をさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項1】
金属磁性粒子を含む軟磁性材料を圧縮成形して圧粉磁心を製造する方法において、
前記圧縮成形工程を複数回にわたって実施し、かつそれぞれの圧縮成形工程の後に焼鈍工程を実施するものであり、
前記圧縮成形工程で入るひずみを圧縮成形工程前後の密度変化率で表した場合、
最終の圧縮成形工程での密度変化率は0.6〜25.5%の範囲であり、かつ
前記最終の圧縮成形工程の1つ手前の圧縮成形工程での密度変化率は44.2〜58.5%の範囲であることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
得られる圧粉磁心において、含まれる金属磁性粒子の割合は、圧粉磁心の全量を基準にして、99重量%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
得られる圧粉磁心において、含まれる金属磁性粒子の結晶粒は、10μm以上の平均粒径を有している、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属磁性粒子は、Fe、Fe‐Si、Fe‐Al、Fe‐Ni、Fe‐Co及びその混合物からなる群から選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
第1回の前記圧縮成形工程の前に、前記金属磁性粒子の表面に絶縁皮膜を被覆する工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
それぞれの圧縮成形工程の後、得られた成形体は、平均して110〜160のビッカース硬度(Hv)を有している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記焼鈍工程は、それぞれ、400〜910℃の温度で実施される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
最終製品としての前記圧粉磁心の相対密度は90%以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
第1回の前記圧縮成形工程の前に、複数個の前記金属磁性粒子を有機バインダでもって相互に結合する工程をさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【公開番号】特開2012−119708(P2012−119708A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−13001(P2012−13001)
【出願日】平成24年1月25日(2012.1.25)
【分割の表示】特願2008−141519(P2008−141519)の分割
【原出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月25日(2012.1.25)
【分割の表示】特願2008−141519(P2008−141519)の分割
【原出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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