説明

圧電セラミッックス及び積層圧電セラミックス部品

【課題】アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有し、950〜1050℃程度で緻密に焼結させることができ、且つ、その内部に存在する複数の電極と圧電セラミックスとを同時に焼成して多積層圧電セラミックス部品とした場合においても、良好な電気機械結合定数と、高い圧電特性を保持することが可能な、低鉛の圧電セラミックスを提供する。
【解決手段】主成分として組成式(LiNa1−x−y(Nb1−zTa)O(但し、0.04<x≦0.1、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0.95≦a≦1.005)で表されるアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有した結晶によって構成される圧電セラミックスであり、該圧電セラミックスの素体を構成する複数の結晶粒子201の粒界又は粒界三重点において、Si及びKを含有する結晶相202又は非結晶相202を存在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛等を含有しないアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックス、及び該圧電セラミックスからなる複数の圧電セラミックス層と電極とを交互に積層することによって得られた積層圧電セラミックス部品に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電セラミックスの電気エネルギーを機械エネルギーへ、もしくは機械エネルギーを電気エネルギーへ変換する原理(圧電効果)を用いて、多くの電子デバイスへの応用がなされている。
この圧電効果を用いた電子デバイスのことを、特に圧電デバイスといい、その圧電デバイスに用いられる圧電セラミックスを有した電子部品を圧電セラミックス部品という。
【0003】
従来、圧電セラミックス部品に用いられる圧電セラミックスは、例えば、PbTiO−PbZrOの2成分よりなる鉛を含有した圧電セラミックス(以下、PZTとする。)や、このPZTに対してさらにPb(Mg1/3Nb2/3)OやPb(Zn1/3Nb2/3)Oなどを第3成分とした圧電セラミックスが存在する。
これらPZTを主成分とする圧電セラミックスは、高い圧電特性を誇り、現在実用化されている圧電セラミックス部品のほとんどに使用されている。
しかしながら、前記PZTを主成分とする圧電セラミックスはPbを含むために、生産工程時におけるPbOの揮発など、環境負荷が高いことが問題となっている。
【0004】
このために、鉛を含有しない、もしくは低鉛である圧電セラミックスが求められてきた。鉛を含有しない圧電セラミックスは、近年、精力的に研究が行われており、その中でアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスは、PZTに匹敵する圧電効果を有するセラミックスであることが、例えば非特許文献1,2などで開示されている。
上記の圧電セラミックスは、構成元素として主にLi、Na、K、Nb、Ta、SbおよびOを主成分とし、より具体的には、一般式{Li[Na1−y1−x{Nb1−z−wTaSb(x、y、z、w、aおよびbはモル比を示しており、0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、0.95≦a、b≦1.05である)で示される。上記の組成式で示される圧電セラミックスは、上記の範囲において高い圧電特性(圧電定数、電気機械結合係数など)を有することが一般的に知られている(特許文献1〜3参照)。
そして、上記の組成式で示される圧電セラミックスを主成分として、積層圧電セラミックス部品の開発が進められている(特許文献4〜6参照)。
【0005】
たとえば、特許文献4においては、焼結助剤として、LiCO、LiBO、Liを混合する手段によって、低温での焼成を可能とした積層圧電セラミックス部品が発明されている。
また、特許文献5においては、一般式{(1−x)(K1−a−bNaLi)(Nb1−cTa)O3−xM2ZrO}(ただし、M2はCa、Ba、およびSrのうち少なくともいずれか1種、x、a、b、cは、それぞれ0.005≦x≦0.1、0≦a≦0.9、0≦b≦0.1、0≦a+b≦0.9、0≦c≦0.3である。)で表され、Mnが前記主成分100モルに対し2〜15モルの範囲で含有され、かつZrが前記主成分100モルに対し0.1〜5.0モルの範囲で含有されていることを特徴とする圧電磁器組成物によって形成された圧電セラミックス層を保持した積層圧電セラミックス部品が発明されている。
さらに、特許文献6においては、一般式{Li[Na1−y1−x{Nb1−z−wTaSb}O(但し、0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、x+y+z>0、0.95≦a≦1)で表される圧電セラミックスにおいて、互いに組成の異なったコア相とシェル相とを有していることを特徴とする圧電セラミックス層を保持した積層圧電セラミックス部品が発明されている。
【0006】
一方で、特許文献7で開示されているように、積層圧電セラミックス部品を提供するのに、有用であると考えられる材料として、(1−a)[K1−xNa1−yLi[Nb1−z−wTaSb]O+aKNbSi(但し、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦w<1、0.003≦a≦0.1)で表される圧電セラミックスが存在する。
そして、特許文献7における圧電セラミックスにおいては、セラミックスを構成する多結晶の平均粒子径を0.8〜3μmと小さくすることができる。このため、例えば積層圧電セラミックス部品においては、その各々の層においてより層間における結晶粒子の個数を多く取ることが可能であるから、結晶粒子の間に存在する粒界の数を層間で多く取ることができる。
一般に十分に緻密に焼結した圧電セラミックスにおいては、粒界の絶縁特性は粒内の絶縁特性よりも高いため、粒界の数を層間で多く取ることで、その抵抗特性を向上させることができるから、信頼性の面で有利である。また、例えばkpは38%以上であるため、高い圧電特性も保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−068835号公報
【特許文献2】特開2003−342069号公報
【特許文献3】特開2004−300012号公報
【特許文献4】特開2008−207999号公報
【特許文献5】国際公開第2008/152851号
【特許文献6】特開2010−180121号公報
【特許文献7】特開2010−52999号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nature,432(4),2004,pp.84−87
【非特許文献2】Applied Physics Letters 85(18),2004,pp.4121−4123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記したとおり、従来、精力的に積層圧電セラミックス部品の開発が進められている。
しかしながら、前記した積層圧電セラミックス部品においては、各々について以下に記載する通りの課題が存在し、鉛を用いた圧電セラミックスおよび圧電セラミックス部品を容易に代替できる圧電セラミックスとは言い難い。
【0010】
すなわち、特許文献4に示した積層圧電セラミックス部品にあるように、例えば単純に炭酸塩であるLiCOを焼成時に混入する手法は、焼成後に、LiOとして残存してしまい、セラミックスの抵抗が低下してしまうため、圧電デバイスとして用いる際に好ましい手法とは言い難い。そして、LiBOやLiといった化合物を焼成時に混入する手法は、圧電特性を低下させてしまうために、これもまた、好ましい手法とは言い難い。事実、特許文献4の記載にあっては、その手段を用いた際の圧電特性に言及する記載は見あたらなかった。
【0011】
また、特許文献5における積層圧電セラミックス部品は、Niをその内部電極に使用するために、還元雰囲気で焼成することを目的としているが、その圧電特性において、電気エネルギーを機械エネルギーへ変換する効率を示す指標である、電気機械結合係数kp(円板形状振動子における、円板径方向への結合係数)が最大でも32.7%と総じて低い。このため、さらに高い電気機械結合係数kpを持つことを特徴とする鉛を含有しない、もしくは低鉛である圧電セラミックスによる積層圧電セラミックス部品の発明が望まれる。
【0012】
また、特許文献6における積層圧電セラミックス部品は、その緻密化する焼成温度が1100℃以上と高いため、積層圧電セラミックス内部に使用する電極の種類がその電極の融点によって限定されてしまう。
鉛を用いた圧電セラミックスの場合は、適宜組成を調整することで、一般に焼成温度は1000℃前後で十分に緻密なセラミックスを得ることが可能であることから、さらに低い温度で緻密に焼結させることが可能であり、且つ高い圧電特性を有する圧電セラミックスおよび積層圧電セラミックス部品の発明が望まれる。
【0013】
一方、引用文献7に記載された圧電セラミックスのように、KNbSiとした結晶相を単に析出させたのみでは、その効果を正に発揮するのは難しいことが判明した。例えば、圧電セラミックスの外表面にのみ析出する結晶相であった場合、その圧電セラミックスの内部に電極を有した部品である多積層圧電セラミックス部品においては、例えばKNbSiとした結晶相が内部の電極間における圧電セラミックスにおいて析出しないので、析出する結晶相の効果が充分には現れず、前記したような粒界の数を多く取ることはできない。
【0014】
また、本発明者らが処々検討を行ったところ、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックス、特にLiがその一般式に存在する圧電セラミックスにおいては、焼結性が大きく低下してしまい、緻密な焼結体を得ることが極めて難しいことが判明した。
例えば、前記の特許文献7における圧電セラミックスにおいて、Liが原子百分率において4%より高いアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスについては具体的に記載されておらず、緻密な焼結体を得ることが難しいためと考えられる。
【0015】
本発明は、こうした先行技術における課題を鑑みてなされたものであり、Liが原子百分率において4%より高いアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスであって、950〜1050℃程度で緻密に焼結させることが可能であり、且つ、その内部に複数の電極が存在し、それらの電極と圧電セラミックスとを同時に焼成することによって得られる多積層圧電セラミックス部品とした場合においても、良好な電気機械結合定数と、高い圧電特性を保持することが可能な、鉛を含有しない、もしくは低鉛である圧電セラミックスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の研究者らは数々の試行錯誤の結果、圧電セラミックスの素体を構成する複数の結晶粒子の粒界又は粒界三重点において、Si及びKを含有する結晶相又は非結晶相が存在することにより、前記目的を達成できることを新たに見出した。
【0017】
本発明は該知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]主成分として組成式(LiNa1−x−y(Nb1−zTa)O(但し、0.04<x≦0.1、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0.95≦a≦1.005である)で表されるアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有した結晶によって構成される圧電セラミックスであり、該圧電セラミックスの素体を構成する複数の結晶粒子の粒界又は粒界三重点において、Si及びKを含有する結晶相又は非結晶相が存在していることを特徴とする圧電セラミックス。
[2]前記結晶相又は非結晶相の組成が、KNbSiであることを特徴とする[1]に記載の圧電セラミックス。
[3]前記主成分100モル%に対して、SiOをモル換算で0.2〜3.0モル%、及びLiOをモル換算で0.1〜1.5モル%含有し、かつ、<LiOモル量>/<SiOモル量>の比率が0.3〜0.7の範囲にあることを特徴とする[1]又は[2]に記載の圧電セラミックス。
[4]前記主成分100モル%に対して、M2O(ただしM2はCa、Ba、Srのうちの少なくともいずれか1種)をモル換算で0.0〜2.0モル%、ZrOをモル換算で0.0〜2.0モル%、及びMnOをモル換算で0.0〜2.0モル%含有していることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の圧電セラミックス。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の圧電セラミックスからなる圧電セラミックス層を有し、該圧電セラミックス層の外表面に外部電極が形成されていることを特徴とする、圧電セラミックス部品。
[6][1]〜[4]のいずれかに記載の圧電セラミックスからなる圧電セラミックス層と、該圧電セラミックス層内に配置され、且つ該圧電セラミックス層を介して厚み方向に重なり合うように形成された複数の内部電極を有し、前記圧電セラミックスの外表面に、前記内部電極のいずれかに電気的に接続されている複数の外部電極が形成されていることを特徴とする、多積層圧電セラミックス部品。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、Liが原子百分率において4%より高いアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスにおいて、圧電セラミックスの素体を構成する複数の結晶粒子の粒界ないしは粒界三重点に、SiおよびKを含有する結晶相又は非結晶相を意図的に析出させることによって、その微細組織が好ましく改善し、その結晶粒子の平均粒子径を1〜5μmとすることが可能となる。このために、前記した多積層セラミックス部品において、良好な圧電特性のみならず、良好な信頼性を得ることが可能となる。
また、本発明の前記の特徴を持つ圧電セラミックスおよび多積層圧電セラミックス部品においては、950〜1050℃程度で十分に緻密に焼成することが可能であり、且つ、良好な電気機械結合定数と、高い圧電特性を保持しているから、Pbを主成分とする圧電セラミックスを容易に代替することが可能となる。
また、本発明の前記の特徴を持つ圧電セラミックスを、前記した特徴を持つ多積層圧電セラミックス部品の圧電セラミックス素体として用いることによって、その焼成温度が950〜1050℃程度と十分に低いことから、Pt、Pd、Agを主成分とする内部電極材料と共に焼成を行っても、焼結性を損なうことなく、良好な圧電特性を得ることが可能となる。
また、本発明の圧電セラミックスを用い、その圧電セラミックス素体の表面に外部電極が形成された圧電セラミックス部品においては、その焼成温度が950〜1050℃程度と十分に低いことから、Pt、Pd、Agを主成分とする内部電極材料と共に焼成を行っても、焼結性を損なうことなく、良好な圧電特性を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスの結晶構造を模式的に示す図。
【図2】本発明に関する多積層圧電セラミックス部品として、積層圧電アクチュエータの一実施の形態を示す断面図。
【図3】本発明の多積層圧電セラミックス部品における、その微細組織を模式的に示す図。
【図4】前記積層圧電アクチュエータの製造過程で得られるセラミックスグリーンシートの斜視図。
【図5】前記積層圧電アクチュエータの斜視図。
【図6】EPMAによって評価した、本発明の圧電セラミックスの反射電子像a)および組成像b)〜d)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の圧電セラミックスについて、詳しく説明する。
本発明の圧電セラミックスは、その素体の全部としては、以下の組成式(i)で表現できる範囲にある。
100(LiNa1−x−y(Nb1−zTa)O+αLiO+βSiO+mM2O+nZrO+lMnO・・・・・・・・(i)
組成式(i)中において、M2はCa、Ba、およびSrのうち少なくともいずれか1種類を示している。
【0021】
上記の式(i)中、x、y、z、a、α、β、m、n、およびlは以下の範囲にある。
0.04≦x≦0.1 …(1)
0≦y≦0.8 …(2)
0≦x+y≦0.8 …(3)
0≦z≦0.4 …(4)
0.95≦a≦1.005 …(5)
0.2≦α≦1.5 …(6)
0.4≦β≦3.0 …(7)
0.30≦α/β≦0.70 …(8)
0≦m≦2.0 …(9)
0≦n≦2.0 …(10)
0≦l≦2.0 …(11)
【0022】
したがって、本発明の圧電セラミックスは、(1)〜(5)で表される範囲にある組成式(LiNa1−x−y(Nb1−zTa)Oで示されるアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスとなる主成分100モルに対して、(6)〜(11)で表される範囲で所定の酸化物を含有させることによって得ることができる。
【0023】
前記の組成式で示される圧電セラミックスが、前記の本発明の効果を得ることができたのは、次のように考えられた。
まず、前記アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造とは、一般的なABO型のペロブスカイト構造を有し、AサイトにK、Na、Liといったアルカリ金属元素が配座し、BサイトにNbが配座する元素の周期性を有する。
図1に、その結晶構造の模式図を示す。図1に示すとおり、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造は、Bサイトの周りに6つのOが配位し、Aサイトの周りに12つのOが配位している構造を取り、この構造が周期的に連続することで、結晶を形成している。そして、その化学量論がA:B=1:1となるときに、理想的に完全に全てのサイト位置に元素が配座するため、安定な構造となる。
【0024】
しかしながら、前記構成元素を鑑みると明らかなように、水分によるK、Na、Liの溶出や、仮焼工程においてのK、Na、Liの揮発、焼成工程においてのK、Na、Liの揮発などによって最終的には数%程度、具体的には2%以下の組成の変動が起こる。これらの構成元素の変動は、その原材料、合成時期、合成工程の変化によって起こりうる。
これらの変動に対応するために、例えば初期配合におけるK、Na、Li源となる原材料を意図的に多めに含有させ、最終的な工程すなわち焼成工程以後にA:B=1:1の理想的な状態に近づけることなどが手法としてとられる。
高い圧電効果を有するには、最終的なAサイトとBサイトの比率を0.98<A/B<1.01の範囲内に置くことが望ましい。
このような意図的に初期配合における元素量を適宜調整することは、ほとんどのセラミックスの合成において行われる一般的な手法である。
【0025】
しかしながら、前記のようにK、Na、Liを意図的に多めに含有させる手法は、多く行われているが、ただ淡々と調整しただけでは、前記成分がKO、NaO、LiOのような酸化物、ないしKCO3、NaCO、LiCOのような炭酸化合物として析出してしまう。このような場合、圧電セラミックス内で伝導成分として寄与することになるから、圧電セラミックスの比抵抗が著しく低下してしまい、また時には潮解性を有する圧電セラミックスとなってしまうため、実用に足りる圧電デバイスを提供することが出来なかった。
【0026】
これに対して、前記のK、Na、Liといったアルカリ成分の揮発を押さえることで、その微細組織を適切に調整することが可能となったのが、前記特許文献7に記載されたKNbSiとされる結晶相を、その素体に含有する圧電セラミックスである。
このようにガラスを含有する結晶相、もしくは非結晶相を含有させることによって、揮発していくアルカリ成分を適切に調整し、その微細組織を前記特許文献7にあるとおり、好ましく改善していると考えられる。
【0027】
しかしながら、本発明の圧電セラミックスのようにLiを4%以上含んだ組成、つまり0.04<xであるような組成式で示される前記圧電セラミックスにおいては、焼結性が著しく低下してしまい、極めて焼成が難しい組成であることが、本発明の圧電セラミックスを得る前段階の予備的な実験によって、明らかになった。
【0028】
この焼結性の低下を改善し、0.04<xとなるようなアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスにおいても、緻密に焼結させることが可能となるように様々な元素を試験したところ、Liを式(6)の通りに、さらに所定量加えることによって、その焼結性が著しく改善した。
【0029】
またさらに、Liを式(6)、Siを式(7)の範囲にあるように、適切に調整することによって、その焼結性の改善のみならず、圧電特性についても好ましく改善していることがわかった。
【0030】
そして、特に式(6)および式(7)におけるαとβの比であるα/βが、式(11)の範囲にある場合には、焼結性、圧電特性のみならず、信頼性の指標として、十分な比抵抗の値が得られていた。
【0031】
したがって、0.04<xとなるようなアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスにおいて、Siのみを所定の手続きによって、混合し、焼成した場合においては、焼結が難しく実用性に乏しいと判断せざるを得なかったが、Liをさらに所定量混合することによって、Pbを主成分とする圧電セラミックスを容易に代替することが可能となる圧電セラミックスとすることができた。
【0032】
また、前記した範囲にある本発明の圧電セラミックスに関して、その内部組成の分布を評価するために、EPMA(Electron probe microanalyzer:電子線マイクロアナライザ)を用いて評価した(後述する、実施例2の図6参照)。その結果、アルカリ成分であるカリウム(K)とケイ素(Si)を含有することを特徴とする、結晶相ないし非結晶相の析出がその圧電セラミックスの素体を構成する複数の結晶粒子の粒界ないしは粒界三重点において、確認することができた。そして、その結晶粒子の平均粒子径は1〜5μmの範囲となった。
一方、Liを所定量加えない、本発明の圧電セラミックスではない焼結体に関しては、焼結体が溶融してしまい、その表面に明らかにケイ素を含有した結晶相が不均質に析出しており、またセラミックスの平均粒子径も5μm以上に巨大化したため、実用性はないと判断した。
【0033】
前記結果より、主成分として組成式(LiNa1−x−y(Nb1−zTa)O(但し、0.04<x≦0.1、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0.95≦a≦1.005である)で表されるアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有した結晶によって構成される圧電セラミックスであり、その圧電セラミックスの素体を構成する複数の結晶粒子の粒界ないしは粒界三重点において、SiおよびKを含有することを特徴とした結晶相又は非結晶相が存在していることを特徴とする圧電セラミックスとすることで、その結晶粒子の平均粒子径を1〜5μmにすることが可能であり、焼結性を改善し、またその圧電特性および信頼性に関しても十分な結果となった。
そして、前記圧電セラミックスは、前記の組成式(i)において、式(1)〜(8)を満たしていることがわかった。
【0034】
次に、前記圧電セラミックスの組成式(i)において、式(9)〜(11)に関しての効果について説明する。
【0035】
式(9)に関しては、主成分であるアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックス100モルに対して、上限を2モル%としてCa、Ba、およびSrのうち少なくともいずれか1種類となるM2Oを混合した組成となる。
この場合には、1価のアルカリ金属元素が揮発することによって、同時に生成すると考えられる酸素空孔を、2価のアルカリ土類金属元素でAサイトに欠陥を伴いながら、価数を保証していくことができるため、全体を中性に保ち、欠陥生成を抑制することが可能であるため、有為な結果を得ることができたと考えられた。
【0036】
式(10)に関しては、主成分であるアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックス100モルに対して、上限を2モル%としてZrOを混合した組成となる。
この場合には、素体の中に4価の陽イオンが存在することで、1価のアルカリ金属元素が揮発することにより同時に生成する酸素空孔によって、4価の陽イオンとなりやすいNbが4価となるのを抑制し、セラミックスが電子伝導的に振る舞うのを抑制する効果が得られたと考えられた。
【0037】
式(11)に関しては、主成分であるアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックス100モルに対して、上限を2モル%としてMnOを混合した組成となる。
この場合には、素体の中に価数陽動を起こしやすいMnが存在することで、先に示したような酸素空孔が発生した場合に、全体の電荷を中性に保ちやすくする効果があると考えられた。
【0038】
前記に示したM2O、ZrOおよびMnOは、二種類以上混合させたとしても、同様にその信頼性として比抵抗の値を向上させる効果があることが、式(9)〜(11)の範囲内の組成式において確認された。
【0039】
また、本発明における圧電セラミックスには、他の第一遷移元素であるSc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Znを少なくとも1種類一定量混入させることによって、焼結温度を制御したり粒子の成長を制御したり、高電界化における寿命を延ばしたりすることが可能であるが、これらの元素は、用いても、用いなくてもよい。
また、本発明における圧電セラミックスには、第二遷移元素であるY、Zr、Mo、Ru、Rh、Pdを少なくとも1種類一定量混入させることによって、焼結温度を制御したり粒子の成長を制御したり、高電界化における寿命を延ばしたりすることが可能であるが、これらの元素は、用いても、用いなくてもよい。
また、本発明における圧電セラミックスには、第三遷移元素であるLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、W、Re、Os、Ir、Pt、Auを少なくとも1種類一定量混入させることによって、焼結温度を制御したり粒子の成長を制御したり、高電界化における寿命を延ばしたりすることが可能であるが、これらの元素は、用いても、用いなくてもよい。
さらに、上記に示した第一遷移元素、第二遷移元素、第三遷移元素の内、少なくとも1種類一定量混入させることによって、焼結温度を制御したり粒子の成長を制御したり、高電界化における寿命を延ばしたりすることが可能であるが、これらを複合させても、させなくても同様の効果が得られる。
【0040】
次に、上記本発明の圧電セラミックスを使用して作成された圧電セラミックス部品の一形態となる多積層圧電セラミックス部品について説明する。
図2は、本発明に関する多積層圧電セラミックス部品として、圧電セラミックス層(101)を介して厚み方向に重なり合うように形成された複数の内部電極(102)を有し、圧電セラミックス(101)の外表面に、内部電極(102)のいずれかに電気的に接続されている複数の外部電極(103)が形成された積層圧電アクチュエータの一実施の形態を示す断面図である。
図2に示すとおり、第一の電極(102a、102c、102e、102g)と第二の電極(102b、102d、102f)とが圧電セラミックス層(101)を介して交互に複数層積み重ねられており、第一の電極と電気的に接続する第一の端子電極(103a)と、第二の電極と電気的に接続する第二の端子電極(103b)と、を有している。圧電セラミックス層と交互に存在する第一の電極と第二の電極は、同時に焼成することにより多積層圧電セラミックス部品となる。また、第一の電極と第二の電極には、通常の大気中の焼成であれば主にPt、Pd、Ag等を含んだ金属によって形成されている。
該多積層圧電アクチュエータは、第一の端子電極と、第二の端子電極とは、それぞれ第一の電極と第二の電極に電気的に接続されているので、第一の端子電極と第二の端子電極の間に電圧が印加されると、図中Z軸の方向に変位することができる。
【0041】
さらに図3に、多積層圧電セラミックス部品のその内部の電極と圧電セラミックス層におけるその微細組織に係わる模式図を示す。
該多積層圧電セラミックス部品の圧電セラミックス層は、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックス結晶粒子(201)と、KおよびSiを含有していることを特徴とする結晶相又は非結晶相と判断される第一の副相粒子(202)ならびに、前記以外の結晶相によって構成される、他の状態と考えられる第二の副相粒子(203)によって構成される。
第一および第二の副相粒子は複数の圧電セラミックス結晶粒子の粒界ないしは粒界三重点に存在している。
そして、圧電セラミックス層の層間に存在する0.5〜2μmの厚みからなる内部電極(204)によって圧電セラミックス層は挟まれており、またかつその構造が連続的に繰り返されることで積層構造を形成している。
また、圧電セラミックス層には空孔部(205)が存在していても、存在していなくてもかまわない。
このとき、 アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックス結晶粒子は、前記したようにABO型のペロブスカイト構造を有し、主にAサイトにK、Na、Liといったアルカリ金属元素が配座し、主にBサイトにNb、Taが配座する元素の周期性を有した結晶からなる。
【0042】
前記、本発明の圧電セラミックスを構成する、M2O、ZrOおよびMnOといった酸化物は、焼成によってアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスの周期的な構造に取り込まれることで、上述した価数陽動を抑制し、電気的に中性に近づくことで、酸素欠陥の抑制、ないし電子伝導性を抑制する効果が得られる。
【0043】
KおよびSiを含有していることを特徴とする結晶相ないし非結晶相と判断される第一の副相粒子は、例えばKNbSi、KNbSi等のKとSiとNbとOを含有していること特徴とした結晶相ないし、非結晶相が考えられる。またKLiSiO、KLiSiO等のKとLiとSiとOを含有していることを特徴とした結晶相ないし、非結晶相が考えられる。また、KSi、KSi、KSi、KSiO等のKとSiとOを含有していることを特徴とした、結晶相ないし非結晶相も考えられる。
【0044】
前記の第一の副相粒子は、以上のように様々な結晶相ないし非結晶相の形体を取り得るが、KおよびSiを含有することを主な特徴として有している。また、第一の副相粒子は前述の結晶相ないし非結晶相の少なくとも1つの相から成るが、複数の結晶相ないし非結晶相が混在していてもよい。
【0045】
前記以外の結晶相によって構成される、他の状態と考えられる第二の副相粒子としては、例えば組成式としてKLiNb15、K5.75Nb10.850、KLiNb17で示されるような一般的にタングステンブロンズ構造を取るとされる結晶相が考えられる。また例えば組成式としてLiNbO、LiNbOで示されるようなLiとNbとOとを含有していることを特徴とした結晶相が考えられる。さらには、例えばMnO、Mn、MnOで示されるようなMnとOとを含有していることを特徴とした結晶相もしくは非結晶相が考えられる。
【0046】
前記の第二の副相粒子は、以上のような結晶相ないし非結晶相の形体を取り得る。第二の副相粒子は前述の結晶相ないし非結晶相の少なくとも1つの相から成るが、複数の結晶相ないし非結晶相が混在していてもよい。
【0047】
以下、前記の通りの特徴を有した多積層セラミックス部品である、特に積層圧電アクチュエータの製造方法を説明する。
はじめに、圧電セラミックス層を構成する主組成となる アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスの合成を行う。
【0048】
アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスの原料として、カリウム(K)を含有する原料とナトリウム(Na)を含有する原料と、リチウム(Li)を含有する原料と、ニオブ(Nb)を含有する原料、およびタンタル(Ta)を含有する原料とを用意する。
その際、カリウムを含有する原料としては、炭酸カリウム(KCO)、ないし炭酸水素カリウム(KHCO)が好ましい。ナトリウムを含有する原料としては、炭酸ナトリウム(NaCO)、ないし炭酸水素ナトリウム(NaHCO)が好ましい。リチウムを含有する原料としては、炭酸リチウム(LiCO)が好ましい。
また、ニオブを含有する原料としては、五酸化ニオブ(Nb)が好ましく、タンタルを含有する原料としては、五酸化タンタル(Ta)が好ましい。
【0049】
上記の原料を前記、x、y、zが満たす範囲の組成に秤量したのちに、部分安定化ジルコニア(PSZ)ボールと、エタノール等の有機溶媒で、ボールミルによって10〜60時間湿式攪拌した後、有機溶媒を揮発乾燥させて攪拌原料を得る。
ついで、得られた攪拌原料を、700〜950℃の温度で、1〜10時間の仮焼成を行った後、ボールミルによって解砕し、仮焼粉を得る。
【0050】
そして、リチウムを含有する原料と、ケイ素(Si)を含有する原料と、M2となるカルシウム(Ca)もしくは、バリウム(Ba)もしくは、ストロンチウム(Sr)を含有する原料と、ジルコニウム(Zr)を含有する原料と、マンガン(Mn)を含有する原料とを用意し、前記仮焼粉に、α、β、m、n、lを満たすように各々の原料を秤量し、再度、PSZボールとエタノール等の有機溶媒でボールミルを用いて、10〜60時間湿式攪拌した後、有機溶媒を揮発乾燥させて仮焼粉混合物を得る。
【0051】
その際、ケイ素を含有する原料としては、酸化ケイ素(SiO)が好ましい。カルシウムを含有する原料としては、炭酸カルシウム(CaCO)が好ましい。バリウムを含有する原料としては、炭酸バリウム(BaCO)が好ましい。ストロンチウムを含有する原料としては、炭酸ストロンチウム(SrCO)が好ましい。
そして、ジルコニウムを含有する原料としては、酸化ジルコニウム(ZrO)が好ましく、マンガン(Mn)を含有する原料としては、炭酸マンガン(MnCO)ないし、一酸化マンガン(MnO)ないし、二酸化マンガン(MnO)ないし、四三酸化マンガン(Mn)ないし、酢酸マンガン(Mn(OCOCH))が好ましい。
【0052】
前記の各々の組成を含有する原料としては、それぞれ少なくとも2種類以上の組成を含有する原料であっても構わない。例えばリチウムとケイ素を含有する原料としては、メタケイ酸リチウム(LiSiO)やオルトケイ酸リチウム(LiSiO)等を用いることも可能であるし、カルシウムとケイ素を含有する原料としては、メタケイ酸カルシウム(CaSiO)やオルトケイ酸カルシウム(CaSiO)等を用いることも可能であるし、カルシウムと酸化ジルコニウムを含有する原料として、ジルコン酸カルシウム(CaZrO)、バリウムと酸化ジルコニウムを含有する原料として、ジルコン酸バリウム(BaZrO)、ストロンチウムと酸化ジルコニウムを含有する原料として、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO)を用いることも可能である。
【0053】
次に、前記手順により得られた仮焼粉混合物に、有機バインダーと分散剤を加え、純水又はエタノール等の有機溶媒を用いてボールミル中で湿式混合して、セラミックススラリーとし、このセラミックススラリーを、ドクターブレード法等を用いて成形加工することでセラミックスグリーンシートを作製する。
そして、Pt、Pd、Ag等を主成分とした導電性ペーストを用意して、図4に示すとおりに、半アレイ形状(502a)とアレイ形状(502b)からなる伝導層パターンをセラミックスグリーンシート(501a〜g)上にスクリーン印刷する。
【0054】
この伝導層パターンが形成されたセラミックスグリーンシート(501a〜501g)を図4に示した通りに、互い違いに重ねた後に、さらに伝導層パターンの形成されていないセラミックスグリーンシート(503a、503b)で挟み込んで圧着することで、伝導層パターンと、セラミックスグリーンシート(501a〜501g)が相互に積み重なる形状のセラミックス積層体を得る。
【0055】
そして、得られたセラミックス積層体の伝導層パターン(502a、502b)とアレイ形状の伝導層パターン(502b)のくびれ部分の中間を縦横に断する形で切断した後、例えばアルミナ製のサヤに収容して、300℃〜500℃で脱バインダ処理を行った後に、900℃から1050℃の大気雰囲気中で焼成を行うことで、図2に示した多積層圧電セラミックス部品の構造と、図3に示した前記の微細組織とを持つ、セラミックス焼結体を得ることができる。
【0056】
その後に、上記のセラミックス焼結体の内部電極が露出した両端部にAg等を主成分とした導電性ペーストを塗布し、750℃から850℃で焼き付け処理を行うことで、図5に示すような外部電極(103a,103b)を形成し、この両端部に形成した外部電極を利用して内部のセラミックス層に電界を印加して分極処理を行い、圧電セラミックス層とすることで、多積層圧電アクチュエータを製造することができる。
このとき、外部電極(103a,103b)は、密着性が良好で、内部電極への通電が良好であればよく、他の方法としてスパッタリング法、真空蒸着法による薄膜形成方法を用いても構わない。
【0057】
このように製造された多積層圧電アクチュエータは、圧電セラミックス層が前記組成式(i)の範囲にあり、さらに図3に示すような特徴的な微細組織を有することで、良好な圧電特性を示すとともに、信頼性にすぐれ、且つ低温での焼成も可能であるから、実用的であり、PZTを主成分とする圧電セラミックス部品を代替するに十分な性能を有することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
実施例1においては、式(i)における、α、β、m、n、lの値の異なる試料を作製し、その特性の評価を行った。
【0060】
まず、主相となる、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスの原料として、KCO、NaCO、LiCO、およびNbを用意した。アルカリ炭酸塩に関しては、200℃で12時間以上の乾燥を行い、吸着している水分を揮発させてから用いた。
次に、これらの原料を仮焼後の組成が、式(i)における、x、y、z、aがx=0.06、y=0.52、z=0.0、a=1.0となるように、すなわちLi0.06Na0.520.42NbOとなるように秤量を行い、これらの原料を、PSZボールを用いた湿式ボールミル法でもって15時間の混合を行った。溶媒にはエタノールを用いた。そして、得られた混合物のエタノールを100℃で十分に揮発させた後に、900℃の温度で仮焼を行って、仮焼粉を得た。
【0061】
この仮焼粉を十分に解砕を行った後に、LiCO、SiO、CaCO、BaCO、SrCO、ZrOおよびMnCOを前記仮焼粉に表1中のM2、α、β、m、n、lを満たすように各々の原料を秤量し、再度、PSZボールとエタノールでボールミルを用いて24時間湿式攪拌した後、エタノールを100℃で揮発乾燥させて仮焼粉混合物を得た。
そして、有機バインダとエタノールと共にボールミルに投入して、十分に混合を行い、得られたスラリーをドクターブレード法を使用してシートの厚みが100μmとなるように成形加工してセラミックスグリーンシートを得た。
【0062】
このセラミックスグリーンシートを厚みが約0.6mmとなるように複数枚積層して70℃、100MPaの圧力で一軸加圧を行い、圧着を行った後、直径10mmの円板形状に打ち抜いて、セラミックス成形体を得た。
得られたセラミックス成形体を500℃で3時間ほど加熱し、成形体中の有機成分を十分に脱脂した後、900〜1100℃の温度で2時間の焼成を行って、円板形状の圧電セラミックスを作製した。そして、この圧電セラミックスの両面にAgを800℃で焼き付けを行って電極とし、表1中の試料No.1〜29の試料とした。
【0063】
得られたNo.1〜29の試料について、100℃のシリコーンオイル中にて3.0kV/mmの電界を15分間印加して、分極処理を行った。
そして分極を行った各試料について、一晩室温にて静置後に誘電損失tanδ、比誘電率ε33/ε、kp、圧電定数d31を測定した。
各々の測定は、インピーダンスアナライザを使用して測定を行った。tanδおよび、ε33/εは周波数1kHzにおける値から求め、ε33/εについては、測定した静電容量の値と試料寸法から決定した。kpおよびd31については、共振ー反共振法によって、JEITA EM−4501である「圧電セラミック振動子の電気的試験方法」に則って算出を行った。
【0064】
次いで、各試料について、直流電流電圧計を使用して室温(25℃)および150℃における絶縁抵抗率(ρ)の測定を2端子法によって行い、絶縁抵抗率の対数であるlog(ρ/Ω・cm)の算出を行った。印加する電界は2kV/mmであり、60秒印加後の電流量でもって評価した。なお、絶縁抵抗率の対数log(ρ/Ω・cm)が13以上となる場合は、計測された電流量が小さく、定量性に乏しいため、表2中において「13以上」と表記した。
【0065】
以上の測定および算出した各々の結果においては、ε33/εが500以上であり、kpが38%以上であり、圧電定数d31の絶対値が55pC/N以上であり、室温における絶縁抵抗率の対数が11log(ρ/Ω・cm)以上であり、150℃における絶縁抵抗率の対数が8以上であること、ならびに、焼成温度について1050℃以下で焼結させることが可能であった試料であること、を条件として良品の判定基準とした。
上記の結果については、表2にその結果をまとめた。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
以下、試料No.1〜29についての各値についての説明を行い、良品不良品問わず、その試料の状態を説明すると共に、式(i)の範囲を満たす場合において、本発明の目的を満たすことを明らかにする。
【0069】
試料No.1〜17は、式(i)の通り、主成分100モルに対してLiO、SiO、MnOの含有モル量であるα、β、lを異なる量含有する場合である。
【0070】
試料No.1はα、β、lが全て0であり、圧電セラミックス中にLi、Si、Mnをさらに加えておらず、主組成のみの状態における場合である。
この場合焼成温度が1080℃と高いため、Pt、Pd、Agを主成分とする内部電極材料と共に焼成を行う場合に、電極と反応する可能性があり、良好な圧電特性および絶縁抵抗率を得ることが難しい。
【0071】
試料No.2は、SiOを主成分100モルに対して1.4モル加えたことを特徴とする場合である。
この場合、前記の通り焼結性に乏しく、またその比誘電率も480と何も含有させていない、試料No.1と比較して著しく低下してしまい、直ちにPbを主成分とする圧電セラミックスを代替することができない。また室温における絶縁抵抗率の対数log(ρ/Ω・cm)も8.9と小さいため、信頼性に乏しい。
【0072】
試料No.8は、主成分100モルに対してMnOが4.0モルであり、lの範囲から大きすぎる場合である。
この場合、室温における絶縁抵抗率の対数log(ρ/Ω・cm)が7.9と小さいために、分極処理を行うことができず、圧電セラミックスとして機能しない。
したがって、ただちにPbを主成分とする圧電セラミックスを代替することができない。
【0073】
試料No.9は、主成分100モルに対してLiOが0.4モルであり、SiOが1.4モルであり、α/βが0.3よりも小さい場合である。
この場合、室温における絶縁抵抗率の対数log(ρ/Ω・cm)が10.5と小さい、さらに150℃における絶縁抵抗率の対数log(ρ/Ω・cm)が2kV/mmの電界を印加することができず計測できなかった。
したがって、信頼性に乏しいため直ちにPbを主成分とする圧電セラミックスを代替することができない。
【0074】
試料No.12は、主成分100モルに対してLiOが1.0モルであり、SiOが1.4モルであり、α/βが0.7よりも大きい場合である。
この場合、室温における絶縁抵抗率の対数log(ρ/Ω・cm)が7.5と小さいために、分極処理を行うことができず、圧電セラミックスとして機能しない。
したがって、ただちにPbを主成分とする圧電セラミックスを代替することができない。
【0075】
試料No.13は、主成分100モルに対して、LiOが0.1モルであり、SiOが0.2モルであり、αが0.2よりも小さく、βが0.4よりも小さい場合である。
この場合、高い圧電特性を有し、且つ絶縁抵抗率の対数log(ρ/Ω・cm)も十分であるが、焼成温度が1100℃と高いため、Pt,Pd,Agを主成分とする内部電極材料と共に焼成を行う場合に、電極と反応する可能性があり、良好な圧電特性および絶縁抵抗率を得ることが難しい。
【0076】
試料No.17は、主成分100モルに対して、LiOが2.0モルであり、SiOが4.0モルであり、αが1.5よりも大きく、βが3.0よりも大きい場合である。
この場合、kpが31%と小さく、圧電特性d31の絶対値が39pC/Nと小さいため、直ちにPbを主成分とする圧電セラミックスを代替することができない。
【0077】
上記以外の試料No.3〜7、No.10、No.11、No.14〜16は、主成分100モルに対して、LiOの含有モルが0.2〜1.5モル、SiOの含有モルが、0.4〜3.0モル、且つ、LiOとSiOの含有モルの比率が、0.3〜0.7の間であり、MnOの含有モルが0〜2.0モルの範囲となって、本発明の範囲内であるため、良好な圧電特性を示すとともに、信頼性にすぐれ、且つ低温での焼成も可能であるから、実用的であり、Pbを主成分とする圧電セラミックスを代替するに十分な性能を有することがわかった。
【0078】
また特に、試料No.4〜6に見られるように、MnOの含有モルを主成分100モルに対して、0.2〜1.0モルの範囲とすることで、室温および150℃において十分高い絶縁抵抗率の対数log(ρ/Ω・cm)が得られた。
【0079】
上記の結果を元に、α=0.7、β=1.4、l=0.2として、試料No.18〜22においては、M2をSrとしたときの、主成分100モルに対してSrOとZrOの含有モルを調整した。
【0080】
試料No.18〜21は、SrOの含有モルを主成分100モルに対して0.2〜2.0モル、ZrOの含有モルを主成分100モルに対して0.2〜2.0モルとした場合である。
この場合においては、誘電損失の低下が認められるため、損失成分が少なく、より好ましい圧電セラミックスとなったと判断された。
【0081】
一方で、試料No.22は、本発明の範囲外である、SrOの含有モルが主成分100モルに対して5.0モルであり、ZrOの含有モルが主成分100モルに対して5.0モルであるため、誘電損失が、これらを含有しない場合に比較して、大きくなり、尚且つ、kpが35%と著しく低下しているため、直ちにPbを主成分とする圧電セラミックスを代替することができない。
【0082】
試料No.23は、試料No.19からZrOの含有を除いた試料である。この場合においても、前記の通りの良品と判断される特性を持ち、Pbを主成分とする圧電セラミックスを代替するに十分な性能を有することがわかった。
【0083】
試料No.24は、試料No.19からSrOの含有を除いた試料である。この場合においても、前記の通りの良品と判断される特性を持ち、Pbを主成分とする圧電セラミックスを代替するに十分な性能を有することがわかった。
【0084】
試料No.25は、試料No.19からMnOの含有を除いた試料である。この場合においても、前記の通りの良品と判断される特性を持ち、Pbを主成分とする圧電セラミックスを代替するに十分な性能を有することがわかった。
【0085】
試料No.26は、試料No.25におけるM2元素をCaとした場合である。この場合においても、前記の通りの良品と判断される特性を持ち、Pbを主成分とする圧電セラミックスを代替するに十分な性能を有することがわかった。
【0086】
試料No.27は、試料No.26に、主成分100モルに対してMnOを0.2モル含有させた場合である。この場合においても、前記の通りの良品と判断される特性を持ち、Pbを主成分とする圧電セラミックスを代替するに十分な性能を有することがわかった。
【0087】
さらに、No.28および29に見られるように、M2元素をBaとした場合でも、前記の通りの良品と判断される特性を持ち、Pbを主成分とする圧電セラミックスを代替するに十分な性能を有することがわかった。
【0088】
したがって、M2元素をSrからCa、Baを使用した場合であっても、1050℃以下で焼成することが可能であって、kpが38%以上、圧電定数d31の絶対値が55pC/N以上の良好な圧電特性を持ち、
室温における絶縁抵抗率の対数log(ρ/Ω・cm)が11以上であり、150℃における絶縁抵抗率の対数log(ρ/Ω・cm)が8以上である圧電セラミックスが得られることがわかった。
【0089】
以上から、式(i)を満たす本発明の試料は、満たさない試料では達成することのできない、1050℃以下で焼成することが可能であって、ε33/εが500以上、kpが38%以上、圧電定数d31の絶対値が55pC/N以上の良好な圧電特性を持ち、
室温における絶縁抵抗率の対数log(ρ/Ω・cm)が11以上であり、150℃における絶縁抵抗率の対数log(ρ/Ω・cm)が8以上である圧電セラミックスとなることが分かった。
【0090】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1における比較例となる試料No.1と本発明となる試料No.3および、No.18の場合の圧電セラミックスを使用して多積層圧電アクチュエータを試作し、その特性を評価した。
【0091】
はじめに、(実施例1)で示したのと同様の手順にて、厚みが80μmとなるセラミックスグリーンシートを作製した。
次に、内部電極用のペーストとしてはPtを使用した導電性ペーストを用いて、前記のセラミックスグリーンシートに所定パターンの導電層を形成した。そして、この導電層が形成されたセラミックスグリーンシートを積層し、さらに積層したセラミックスグリーンシートの上下を伝導層を形成していない状態のセラミックスグリーンシートで挟み込んで、50MPa程度の圧力で加圧して、圧着してセラミックス積層体の板状成形体を得た。
【0092】
次に、前記の板状成形体を、所定の寸法を満たすように切断した後、アルミナ製のサヤに収容して、300℃〜500℃で脱バインダ処理を行った後に、各圧電セラミックスの焼成温度にて、大気雰囲気中で焼成を行い、積層セラミックス焼結体を得た。
その後に、上記の積層セラミックス焼結体の内部電極が露出した両端部にAgから成る導電性ペーストを塗布し、800℃で焼き付け処理を行って、正極及び負極とし、100℃のシリコーンオイル中で3.0kV/mmの電界を15分間印加して分極処理を行った。以上により、前記してきた図5の特徴を持った多積層圧電アクチュエータを試作した。
【0093】
そして、試作した試料について、室温にて4.0kV/mmとなる電界を印加し、抗電界印加時の圧電定数d33を測定した。この測定には、レーザードップラー変位計を用いて、試料に4.0kV/mmの電界を印加したときの変位量を観測し、この変位量を該多積層アクチュエータの積層数で除算し、さらに印加した電圧で除算することで、d33pm/Vとして求めた。結果は表3にまとめた。
【0094】
さらに、試作した試料の信頼性を評価するため、室温(25℃)、60℃、100℃にて、直流電流電圧計を使用し、8kV/mmとなる電界を印加して、電界による破壊が起こらないかを確認した。破壊しなかった場合は「OK」とし、破壊した場合は「NG」
として結果を表3にまとめた。
【0095】
【表3】

【0096】
表3に示した結果から明かなように、本発明の範囲外の試料となる試料No.30では、室温にて8kV/mmの高い電界を印加可能であるものの、その圧電定数d33は試料No.31および試料No.32に劣り、さらに60℃、100℃と温度を上昇させて8kV/mmの電界を印加すると、絶縁破壊してしまった。
一方で、本発明の範囲内となる試料No.31では、圧電定数d33が218pm/Vと良好であり、60℃においても8kV/mmの電界を印加可能であった。
さらに、本発明の範囲内と成る試料No.32では、圧電定数d33が235pm/Vと良好であり、60℃および100℃においても8kV/mmの電界を印加可能であった。
【0097】
上記の三つの試料を比較するために、その内部の微細組織を構成する圧電セラミックスの結晶粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察を行って、得られた観察写真からその平均粒子径を評価すると、試料No.30においては、その平均粒子径は7μmであった。一方で、試料No.31においては、その平均粒子径は3μmであり、試料No.32においては、2.5μmとなった。
前記してきたとおり、8kV/mm印加時に絶縁破壊する温度が上昇しているのは、多積層アクチュエータ内部の層間において結晶粒子の個数を多く取ることで、その抵抗特性が向上したと判断した。
【0098】
前記の微細組織の改善は、試料No.31において、主組成に対して加えた組成である、LiO、SiOのいずれかがもたらしたと考察されるため、試料No.31において、その内部組成分布を評価した。
多積層アクチュエータにおける層間を評価するため、試料の中央で切断し、露出した切断面を、3000番以上の研磨紙によって研磨して、十分に平滑にした面を、EPMAで評価を行った。図6に結果を示し、図6中、a)は観察した面の反射電子像であり、b)はKのKα線を観察した写真であり、c)はNaのKα線を観察した写真であり、d)はSiのKα線を観察した写真である。
【0099】
Kが多量に存在すると考えられる輝度の高い位置には、同様に必ずSiが特徴的に輝度が高く、Naの輝度が少ないことが分かった。また、このKとSiが特徴的に析出している箇所は、本発明の圧電セラミックスの主相であるアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を持つ圧電セラミックス結晶粒子の粒界ないしは粒界三重点において、析出していることが分かった。このため、揮発拡散しやすいKとSiが焼結中に反応し、その拡散を抑制することで、焼成中の元素の駆動を抑制し、粒成長を抑制したと考えられた。
【0100】
以上の結果を確認するため、前記記載の表1における本発明の範囲の組成について、同様に観察を行ったところ、同じようにKとSiが特徴的に析出している箇所が本発明の圧電セラミックスの主相粒子の粒界ないしは粒界三重点に存在していることが分かった。
【符号の説明】
【0101】
101:圧電セラミックス層
102:内部電極
102a、102c、102e、102g:第一の電極
102b、102d、102f:第二の電極
103:外部電極
103a:第一の端子電極
103b:第二の端子電極
201:圧電セラミックス素体におけるアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックス結晶粒子
202:KおよびSiが含有していることを特徴とする結晶相ないし非結晶相と判断される第一の副相粒子
203:その他の状態と考えられる第二の副相粒子
204:内部電極
501a〜501g:セラミックスグリーンシート
502a、502b:伝導層パターン
503a、503b:伝導層パターンの形成されていないセラミックスグリーンシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として組成式(LiNa1−x−y(Nb1−zTa)O(但し、0.04<x≦0.1、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0.95≦a≦1.005である)で表されるアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有した結晶によって構成される圧電セラミックスであり、該圧電セラミックスの素体を構成する複数の結晶粒子の粒界又は粒界三重点において、Si及びKを含有する結晶相又は非結晶相が存在していることを特徴とする圧電セラミックス。
【請求項2】
前記結晶相又は非結晶相の組成が、KNbSiであることを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックス。
【請求項3】
前記主成分100モル%に対して、SiOをモル換算で0.2〜3.0モル%、及びLiOをモル換算で0.1〜1.5モル%含有し、かつ、<LiOモル量>/<SiOモル量>の比率が0.3〜0.7の範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電セラミックス。
【請求項4】
前記主成分100モル%に対して、M2O(ただしM2はCa、Ba、Srのうちの少なくともいずれか1種)をモル換算で0.0〜2.0モル%、ZrOをモル換算で0.0〜2.0モル%、及びMnOをモル換算で0.0〜2.0モル%含有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電セラミックス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧電セラミックスからなる圧電セラミックス層を有し、該圧電セラミックス層の外表面に外部電極が形成されていることを特徴とする、圧電セラミックス部品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧電セラミックスからなる圧電セラミックス層と、該圧電セラミックス層内に配置され、且つ該圧電セラミックス層を介して厚み方向に重なり合うように形成された複数の内部電極を有し、前記圧電セラミックスの外表面に、前記内部電極のいずれかに電気的に接続されている複数の外部電極が形成されていることを特徴とする、多積層圧電セラミックス部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−14470(P2013−14470A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148201(P2011−148201)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】