説明

地すべり計測装置

【課題】 地上にワイヤーを導出することなく、地すべり面における地すべり土塊の移動量を測定することができるようにする。
【解決手段】 地すべり面250で地すべり土塊200の移動量を計測する計測器10と、低周波磁界にてデータを送信するための送信アンテナコイル21と、前記計測器から計測データを受け該計測データを前記送信アンテナコイルで送信させる制御装置23と、前記計測器、送信アンテナコイル、制御装置に電力を供給するバッテリ25と、前記計測器、送信アンテナコイル、制御装置、バッテリを収納し、前記境界面を通る状態にて地中に埋設される筐体30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボーリング孔を利用して地中内部のせん断変形等を計測する地すべり計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地すべり等により動く地滑り土塊と動かない基礎地盤との境界面は、通常、すべり面と呼ばれる。すべり面における地すべり土塊の移動量計測には、ボーリング孔を通して地中のある深度に一端を固定したワイヤーを地上に導出し、そのワイヤーの伸び量(繰り出し量)を地上に設置した計測機器で計測する地中伸縮計が用いられている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「地すべり観測便覧」第164頁〜第167頁、社団法人 地すべり対策技術協会 平成8年10月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記の地中伸縮計では、以下のような問題点が指摘されている。
【0005】
1.地すべり土塊の沈下により地上に設置した計測機器も変位し地すべり移動量が適切に評価できないことがある。
【0006】
2.地すべりによる地すべり土塊の移動が始まる前に、ボーリング孔の曲がりや孔つぶれによる孔壁とワイヤーの接触や、ワイヤーの断線が生じ、測定誤差が生じたり、計測そのものが不能になったりすることがある。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解消することのできる地すべり計測装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、すべり面の直近で地すべりに伴う地すべり土塊の移動量を測定する計測器とその計測データを収集して無線で地上に伝送するデータ収集伝送部を地中に埋設したことを特徴とする。
【0009】
具体的には、本発明の態様によれば、地すべり土塊と動かない基礎地盤との境界面、すなわち地すべり面で地すべり土塊の移動量を計測する計測器と、低周波磁界にてデータを送信するための送信アンテナコイルと、前記計測器から計測データを受け該計測データを前記送信アンテナコイルで送信させる制御装置と、前記計測器、送信アンテナコイル、制御装置に電力を供給するバッテリと、前記計測器、送信アンテナコイル、制御装置、バッテリを収納し、前記境界面を通る状態にて地中に埋設される筐体と、を備えることを特徴とする地すべり計測装置が提供される。
【0010】
上記態様による地すべり計測装置においては、前記計測器からの計測データをデジタルデータに変換するA/D変換器を備え、前記制御装置は、前記デジタルデータを付属のメモリに記憶する共に、あらかじめ定めた送信タイミングで前記送信アンテナコイルにより送信させることが望ましい。
【0011】
本発明の別の態様として、上記の地すべり計測装置と、前記送信アンテナコイルからの低周波磁界による信号を受信する受信アンテナコイルを備え該受信アンテナコイルの受信信号から前記計測データを取り出す受信装置と、を備えることを特徴とする地すべり計測システムが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、地上にワイヤーを導出することなく、地すべり面における地すべり土塊の移動量を測定することができる。
【0013】
本発明によればまた、ワイヤーが筐体に収容されているので、地すべりによる地すべり土塊の移動が始まる前に、ワイヤーが断線してしまうというような問題は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による地すべり計測装置の設置形態を説明するための概略断面図である。
【図2】図1に示した地すべり計測装置を拡大して概略構成を示した図である。
【図3】本発明による地すべり計測装置におけるデータ収集伝送部の構成例を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明による地すべり計測装置の設置形態を説明するための概略断面図である。本実施形態においては、地すべり計測装置1を、計測を必要とする地中に設置するため、ボーリング等によりボーリング孔100を形成し、地すべり計測装置1を地上から挿入して所定の深度に固定する。ボーリング孔100の深さは、地すべり土塊200と、地すべりがあっても動かない基礎地盤300との境界面、すなわち地すべり面250を通過して基礎地盤300に到達するようにする。その理由は後述する。
【0017】
地すべり計測装置1をボーリング孔100内に位置決めし、固定するために、ボーリング孔100内にはセメントベントナイト等のグラウト400が充填され、固化される。
【0018】
図2は、本発明の実施形態による地すべり計測装置1の概略構成を示す図である。地すべり計測装置1は、地すべり土塊200の移動量を計測する計測器10と、計測器10からの計測データを収集し、収集した計測データを無線で地上に送信するデータ収集伝送部20から成り、これらは上面、底面を持つ円筒状の筐体30に収容されている。筐体30は、例えば塩化ビニールパイプのような材料で作られる。
【0019】
計測器10は、非特許文献1の動作原理を利用しているが、構成自体は異なる。すなわち、本実施形態による計測器10は、ワイヤー11、固定部12、計測部13から成るが、ワイヤー11の一端側、ここでは上端側を固定部12に固定する一方、他端側(下端側)の計測部13においてはワイヤー11を糸巻きリールのような構成によって繰り出し可能にし、しかもリールの回転量からワイヤー11の繰り出し量を計測する構成としている。計測部13は、ワイヤー11の繰り出し量を、例えば可変抵抗を用いた音量調節器と同様の原理で、ワイヤー11の繰り出し量(巻き取りリールの回転量)に対応してレベルの変化する電気信号に変換し、計測データとして出力する。
【0020】
地すべり土塊200の移動をワイヤー11の繰り出し量の変化として検出するためには、計測器10は、地すべり面250が固定部12と計測部13との間にあるように、言い換えればワイヤー11が地すべり面250にかかるように設置される必要がある。ボーリング孔100の深さは、これを考慮し、地滑り面250の深さや、地すべり計測装置1の長さサイズ等を考慮して決定される。
【0021】
いずれにしても、上記のような計測器10によれば、地上にワイヤー11を導出することなく地すべり面の変位、つまり地すべり土塊200の移動量を計測することができる。
【0022】
また、ボーリング孔100にはグラウト400等が充填され、ワイヤー11は筐体30に収容されるので、地すべりが発生する前に孔つぶれやワイヤー11の断線が生じることが無い。
【0023】
図3は、地すべり計測装置1のうちの、特にデータ収集伝送部20の概略構成を示すブロック図である。
【0024】
ここでは、データ収集伝送部20は、低周波磁界にてデータを送信するための送信アンテナコイル21と、計測部13からの計測データをデジタルデータに変換するA/D変換器22と、変換されたデジタルデータを送信アンテナコイル21で送信させる制御装置23と、デジタルデータを一時保存するメモリ24と、計測部13、送信アンテナコイル21、A/D変換器22、制御装置23、メモリ24に電力を供給するバッテリ25とを有する。これらの構成要素は、図示しないが、筐体30とは別のケースに収容されるのが好ましい。
【0025】
制御装置23は、例えばマイクロコンピュータチップのような手段で実現することができ、送信アンテナコイル21をバッテリ25からの電力で励磁し、かつその励磁を制御することで低周波磁界信号を発生させると共に、この低周波磁界信号にA/D変換器22からのデジタルデータあるいはメモリ24から読み出したデジタルデータを重畳させて送信させる。低周波磁界信号は、地中は勿論、水中でも伝送可能である。
【0026】
なお、送信アンテナコイル21によるデジタルデータの送信は、連続でも良いが、バッテリ25のセービング効果を考え、定周期での間欠送信とするのが好ましい。このために、A/D変換器22からのデジタルデータはメモリ24に保存されるが、一定周期で生データを収集できれば良いのであればメモリ24は不要である。
【0027】
図1に戻って、送信アンテナコイル21から送信された低周波磁界信号は地上に設置された受信アンテナコイル40で受信される。地上側には、受信アンテナコイル40を備え、この受信アンテナコイル40の受信信号からデジタルデータを取り出す受信装置(図示省略)が設置される。受信装置は、受信アンテナコイル40の他、取り出したデジタルデータを処理する制御手段や、処理されたデータを表示あるいはプリントアウトする表示出力手段を備える。受信装置はまた、処理したデータ(地すべり土塊200の移動量)を予め設定した閾値と比較してこの閾値を超えた時には警報を発生する機能を有するようにしても良い。なお、制御手段や表示出力手段は、受信アンテナコイル40とは離れた、地すべりの起こらない別場所に設置されるのが好ましい。
【0028】
いずれにしても、受信装置は、地中に埋設された地すべり計測装置1と共に、地すべり計測システムを構成する。
【0029】
本実施形態による地すべり計測装置1は以下のように用いられる。まず、図1で説明したように、地すべりの計測を必要とする現場に、あらかじめ計算した深度のボーリング孔100が形成され、このボーリング孔100内に地すべり計測装置1が挿入、固定される。地すべり計測装置1の固定に際しては、ワイヤー11が地すべり面250にかかるようにされ、グラウト400等の充填、固化により固定されることは前述した通りである。この状態で、地すべり計測装置1は動作可能な状態にあり、計測部13からの計測データをデジタルデータに変換したうえで、定期的に送信アンテナコイル21を通して低周波磁界信号で送信する。受信装置は、受信アンテナコイル40を通して送信アンテナコイル21からの低周波磁界信号を受信し、計測データを抽出する。
【0030】
以上、本発明による地すべり計測装置を好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、計測器10の計測部13においてワイヤー11の繰り出し量を検出する手段は、音量調節器の原理を用いるものに限らず、周知の他の様々な手段を用いることができる。また、図3に示すデータ収集伝送部20の構成も一例にすぎず、計測部13からの計測データを、送信アンテナコイル21を用いて低周波磁界信号で伝送する構成であればどのような構成であっても良い。更に、受信装置側に動作指令を低周波磁界信号で送信するための送信アンテナコイルを設ける一方、データ収集伝送部20側にはこれを受信するための受信アンテナコイルを備えることで、地すべり計測動作を地上側からの動作指令で行なわせることができる。この場合の低周波磁界の周波数は、計測データ送信用の周波数と区別されることは言うまでも無い。また、地すべり計測装置が距離的にそれほど離れていない複数箇所に設置されるような場合には、計測データにID(識別情報)を付加するようにしても良い。
【符号の説明】
【0031】
1 地すべり計測装置
10 計測器
11 ワイヤー
12 固定部
13 計測部
20 データ収集伝送部
30 筐体
40 受信アンテナコイル
400 グラウト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地すべり土塊と動かない基礎地盤との境界面、すなわち地すべり面の直近で地すべりに伴う地すべり土塊の移動量を測定する計測器と、その計測データを収集して無線で地上に伝送するデータ収集伝送部を地中に埋設したことを特徴とする地すべり計測装置。
【請求項2】
地すべり土塊と動かない基礎地盤との境界面、すなわち地すべり面で地すべり土塊の移動量を計測する計測器と、
低周波磁界にてデータを送信するための送信アンテナコイルと、
前記計測器から計測データを受け該計測データを前記送信アンテナコイルで送信させる制御装置と、
前記計測器、送信アンテナコイル、制御装置に電力を供給するバッテリと、
前記計測器、送信アンテナコイル、制御装置、バッテリを収納し、前記境界面を通る状態にて地中に埋設される筐体と、
を備えることを特徴とする地すべり計測装置。
【請求項3】
前記計測器からの計測データをデジタルデータに変換するA/D変換器を備え、
前記制御装置は、前記デジタルデータを付属のメモリに記憶する共に、あらかじめ定めた送信タイミングで前記送信アンテナコイルにより送信させることを特徴とする請求項2に記載の地すべり計測装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の地すべり計測装置と、
前記送信アンテナコイルからの低周波磁界による信号を受信する受信アンテナコイルを備え、該受信アンテナコイルの受信信号から前記計測データを取り出す受信装置と、
を備えることを特徴とする地すべり計測システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−232119(P2011−232119A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101637(P2010−101637)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(390027177)坂田電機株式会社 (16)
【Fターム(参考)】