説明

地下タンクの漏洩検査装置

【課題】地下タンクの漏洩検査を短時間で行う装置を提供する。
【解決手段】計測制御装置24は、静圧テスト時に地下タンク12に貯蔵されている液体の粘度区分を設定する粘度区分設定手段24Aと、設定された液種のうち粘度の低い液種に対応する検査時間が経過するまでの間に液面変位速度センサ22から出力された信号の出力レベルに基づいて漏洩の有無を判定する判定手段24Bとを有する。粘度区分設定手段24Aは、記憶部80に設定された検査時間が経過するまでの間に液面変位速度センサ22からの信号の変化を監視する監視手段24Cと、信号の出力レベルの変化率に基づいて地下タンク12に貯蔵された液体の動粘度区分を選択する選択手段24Dとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地下タンクの漏洩検査装置に係り、特に地下タンクに液体を貯蔵したままの状態で当該地下タンクの漏洩検査を行なう地下タンクの漏洩検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンをはじめとする燃料油等の液体を地下タンクに貯蔵する貯蔵所等においては、地下タンクからの燃料油の漏洩を防止するために、「消防庁危険物関係通達」に基づいて地下タンクの気密漏洩検査を定期的に行うことが義務付けられている。このような地下タンクの気密漏洩検査方法として、微加圧法あるいは微減圧法が広く用いられている。微加圧法も微減圧法も、地下タンク内の貯蔵物を移動させることなく行える簡便な方法ではあるが、小さな穴が開いているときには、油がシールの役割を果たし検出不能な場合があり、その検査範囲はタンク内の地下水位より上部の気相領域壁面からの漏洩検査に限られている。
【0003】
一方、タンク内の液相領域又は地下水位より下部のタンク壁面からの漏洩検査方法としては、地下タンク内の液面レベルの変動を検知するものがある。この方法では、漏れ量、又は外部からの浸入量が低い場合には、液面レベルの変位が極めて小さいため、その液面変位による漏洩検知には多大な時間を要する。
【0004】
また、上記のような液面レベルを検知する以外の漏洩検査方法としては、液面レベルの微少な変動に連動してオリフィス通路内を流通する液体の流量を計測することで漏洩の有無を検査する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この漏洩検査方法は、液面レベルの変動に伴って発生する微少な通路からなるオリフィス通路を通過する液体の流れの量を計測して液面レベルの変位速度、すなわち液面レベルの単位時間当たりの変位量を検知するため、オリフィス通路を構成する測定管路の内径を細くするほど流量計の分解能が上がり、微小な液面変位も検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−292091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような微少なオリフィス通路に液体を流通させた状態でオリフィス通路内を流れる液体の流量を計測する漏洩検査方法の場合、貯蔵されている燃料の種別に応じた粘度(または粘性係数)の差違によって液体がオリフィス通路内を流通する流速が変動するため、粘性係数の高い液体(例えば、重油等)が貯蔵された地下タンクの漏洩検査は、粘性係数の低い液体(例えば、ガソリン、軽油)が貯蔵された地下タンクを検査する場合よりも長時間(2倍程度の時間)をかけて行なうことになる。
【0008】
このような理由により、従来の漏洩検査装置では、粘度の高い液体が貯蔵された地下タンクの漏洩検査に時間がかかり過ぎるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、上記課題を解決した地下タンクの漏洩検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下のような手段を有する。
(1) 本発明は、検査対象である地下タンクの気相領域に減圧状態または加圧状態に保持する圧力保持部と、当該地下タンクの上部開口よりタンク内の液相領域に挿入される検査プローブと、該検査プローブ内に設けられたオリフィス通路と、該オリフィス通路を流通する液体の流速を検出するセンサと、を備え、前記圧力保持部により前記地下タンク内を減圧又は加圧状態に保持して漏洩検査を行なう地下タンクの漏洩検査装置において、
前記地下タンクに貯蔵されている液体の粘度区分を設定する粘度区分設定手段と、
前記粘度区分に対応させた前記漏洩検査における検査時間が記憶された記憶手段と、
前記粘度区分設定手段によって設定された液種のうち粘度の低い液種に対応する検査時間が経過するまでの間に前記センサから出力された信号の出力レベルに基づいて漏洩の有無を判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする。
(2) 本発明の前記粘度区分設定手段は、
前記地下タンクの静圧テストによって液相表面に発生した波動の収束に伴う前記オリフィス通路を流通する液体の流速変化を前記センサにより計測し、前記センサからの信号の出力レベルの変化に基づいて前記地下タンクに貯蔵されている液体の動粘度区分を設定することを特徴とする。
(3) 本発明の前記粘度区分設定手段は、
前記検査時間が経過するまでの間に前記センサからの信号の変化を監視する監視手段と、
前記信号の変化パターンに基づいて前記地下タンクに貯蔵された液体の動粘度区分を選択する選択手段と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粘度区分設定手段によって設定された液種のうち粘度の低い液種に対応する検査時間が経過するまでの間にセンサから出力された信号の出力レベルに基づいて漏洩の有無を判定するため、粘度(粘性係数)の高い液体を貯蔵する地下タンクの漏洩検査を短時間で行なうことが可能になり、地下タンクの漏洩検査を効率良く行なうことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による地下タンクの漏洩検査装置の一実施例の構成図である。
【図2】液面変位速度センサ22の取付部分を拡大して示す縦断面図である。
【図3A】地下タンク12の静圧テストの各油種毎の結果を示す図である。
【図3B】地下タンク12の静圧テストの各油種毎の結果を示すグラフである。
【図4】地下タンク12の液相領域での漏洩発生を想定した擬似水浸入テストを模式的に示す図である。
【図5A】地下タンク12の液相領域の漏洩擬似テストの各油種毎の結果を示す図である。
【図5B】地下タンク12の液相領域の漏洩擬似テストの各油種毎の結果を示すグラフである。
【図6】静圧テスト時に計測制御装置24が実行する制御処理を説明するためのフローチャートである。
【図7】漏洩検査時に計測制御装置24が実行する制御処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明による地下タンクの漏洩検査装置の一実施例の構成図である。尚、本実施例では、地下タンクの漏洩検査装置を車両等に燃料を供給するための給油所に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0015】
図1に示されるように、漏洩検査装置10は、地下タンク12の漏洩を検査する測定系と、当該地下タンク12の検査条件として減圧状態を設定する設備系とから構成されている。測定系としては、検査プローブ21と、液面変位速度センサ22と、計測制御装置24等を有する。
【0016】
検査プローブ21は、マンホール18から給油所の地下タンク12内に挿入される管状部材であり、漏洩検査時に地下タンク12の液面を検出する液面計を外した位置に取り付けられる。液面変位速度センサ22は、検査プローブ21の下端内部に設けられ、地下タンク12の漏洩による液面変位に伴う液体の流速を検出する流速センサが設けられている。計測制御装置24は、液面変位速度センサ22から出力された信号を検出・処理し、表示・記録・出力、及び判定等を行う。
【0017】
また、漏洩検査装置10の設備系としては、検査条件(本実施例では、減圧状態)を設定するために減圧装置70が設けられている。減圧装置(圧力保持部)70は、地下タンク12を密閉し気相部Gを減圧状態に保持するための継手71、減圧ホース72、減圧ポンプ73及び圧力計75等からなる。
【0018】
ここで、漏洩検査装置10の各部について説明する前に、漏洩検査を受ける給油所の構成について、まず説明する。
【0019】
図1において、地下タンク12には、ガソリンや軽油等からなる油液13が貯留されており、内部は、油液が貯留された液相領域Lと空気とベーパとが混在する気相領域Gとが形成されている。
【0020】
また、地下タンク12には、注油管14と、給油管16と、通気管20が挿通されている。注油管14は、地下タンク12にタンクローリ車等から油液を荷卸しするための補給管で、上端が地上に露出された注入口14aであり、下端が地下タンク12内の底部(液相領域L)に挿入されている。
【0021】
給油管16は、地下タンク12の油液13を吸上げるための吸入管で、下端が地下タンク12内の底部側(液相領域L)に挿入され、上端が計量機17内のポンプや流量計などの機器に連通されている。計量機17は、給油所に車両が到着すると、給油ホース先端に設けられた給油ノズルから車両の燃料タンク等に油液を供給すると共に、ポンプにより吸い上げた油液を流量計によって計量して供給量を表示する構成になっている。
【0022】
また、計量機17のポンプ吸込み側の流路部分には、ポンプの吸込みヘッド圧を確保するための逆止弁(図示省略)が配設されており、地下タンク12の漏洩検査時には、この逆止弁は地下タンク12内の圧力が負圧になるため閉弁状態に切り替わり、地下タンク12への空気の逆流を防止する。
【0023】
通気管20の上端開口20aには、大気と地下タンク12との圧力差により開閉する通気弁が設けられている。なお、地下タンク12の漏洩検査時は、通気管20の上端開口20aから通気弁が外されて減圧装置70の継手71が取り付けられている。また、通気管20の下端は、地下タンク12内の上部に形成された気相領域Gに挿入されている。
【0024】
地下タンク12の上部に位置する給油所のコンクリート面には、マンホール18が埋設されている。マンホール18は、通常、地表に開口した開口部がマンホール蓋(図示省略)によって施蓋されている。マンホール18の内部には、検査プローブ21及び検尺棒、液面計のフロート等を地下タンク12内に挿入するため計量管19の計量口19aが開口している。尚、計量管19の計量口19aは、当該計量口19aに装着された液面計本体によって、常時は気密に施蓋されている。また、検査プローブ21を計量管19に挿入する漏洩検査時は、液面計本体は除去される。
【0025】
次に、上述した漏洩検査装置10の設備系及び測定系各部構成について説明する。
【0026】
漏洩検査時の設備系において、減圧装置70の減圧ポンプ73は、継手71を介して通気管20に連通されており、地下タンク12内の気相部Gの気体を外部に排出して、地下タンク12内を減圧する。減圧ポンプ73の吸引側は、減圧ホース72を介して、通気管20の通気口10aと継ぎ手71を介して気密に接続される。この減圧ホース72の途中には、地下タンク12内の温度状態を測定するための温度計74、地下タンク2内の減圧状態を測定するための圧力計75が設けられている。減圧ポンプ73によって吸引された地下タンク12内の気相部Gの気体は、不活性ガスを混合する等して安全・環境面の処置がなされた後、大気開放ホース76を介して放出される。
【0027】
一方、漏洩検査時の測定系において、検査プロ一ブ21は、下端部に液面変位速度センサ22を備え、検査時には、計量口19aから計量管19を介して地下タンク12内に挿入配置される。液面変位速度センサ22は、液面レベルの変動に伴って発生する流量センサを通過する液体の流れの量を計測する。
【0028】
液面変位速度センサ22には、本実施例の場合は、熱交換式流量センサが用いられている。液面変位速度センサ22の検出信号は、検査プロ一ブ21の長さ方向に延設した信号線25a及び検査プロ一ブ21の上端から引き出された信号線25bを介して防爆のための安全保持器28、I/F変換器(電流/周波数変換器)29に出力される。そして、I/F変換器29によって変換された周波数信号が検出信号(計測信号)として計測制御装置24に供給される。
【0029】
計測制御装置24は、本実施例の場合は、パーソナルコンピュータによって構成され、出力手段30と、記憶手段31と、入力手段32とを有する。出力手段30は、漏洩検査の検査状況や測定結果を監視・出力するためのプリンタ30aと、ディスプレイ装置30bとを有する。
【0030】
また、計測制御装置24は、静圧テスト時に地下タンク12に貯蔵されている液体の粘度区分を設定する粘度区分設定手段24Aと、粘度区分設定手段によって設定された液種のうち粘度の低い液種に対応する検査時間が経過するまでの間に液面変位速度センサ22から出力された信号の出力レベルに基づいて漏洩の有無を判定する判定手段24Bとを有する。
【0031】
また、記憶手段31は、漏洩検査のための各種データや測定結果を格納するための記憶部80からなり、RAM(Random Access Memory)81と、ROM(Read Only Memory)82とを有する。RAM81、ROM82には、計測制御装置24が実行する各種制御プログラム及び静圧テストのテスト時間、粘度区分に対応させた漏洩検査の検査時間、静圧テストによるセンサ信号の出力レベルの変化パターン、漏洩検査の各種データが記憶されている。
【0032】
粘度区分設定手段24Aは、記憶部80に設定された検査時間が経過するまでの間に液面変位速度センサ22からの信号の変化を監視する監視手段24Cと、信号の変化パターンに基づいて地下タンク12に貯蔵された液体の動粘度区分を選択する選択手段24Dとを有する。
【0033】
選択手段24Dは、複数の液体のうち粘度の低い液体の流速が安定するのに要する所定のテスト時間(40分)が経過したとき、液面変位速度センサ22からの信号の出力レベルに応じて地下タンク12に貯蔵された液体の動粘度区分を選択する。
【0034】
また、入力手段32は、漏洩検査実施に当たって各種データを設定入力するためのキーボード等からなる。
【0035】
計測制御装置24は、液面変位速度センサ22によって検出された地下タンク12内の液面変位に基づく流量検出信号がI/F変換器29によって周波数信号に変換された検出信号(計測信号)に基づいて、地下タンク12内に生じた開口部(漏洩箇所)の有無等を検査する。
【0036】
以上のように構成された漏洩検査システム20では、減圧ポンプ73を作動して密閉された地下タンク12内を減圧することによって負圧状態に保ち、地下水または空気の浸入を液相部Lに挿入した液面変位速度センサ22により検知することにより、液相部L及び地下水位より下部の直径0.3mm以下の開口部からの漏洩の有無を検査することが可能になる。
【0037】
図2は液面変位速度センサ22の取付部分を拡大して示す縦断面図である。図2に示されるように、液面変位速度センサ22は、検査プロ一ブ21のセンサ室21aに収納されており、例えば、熱式質量流量計などからなる。また、センサ室21aは、下部隔壁21bと上部隔壁21cとにより仕切られており、下部隔壁21bの流路21dと上部隔壁21cの流路21eとの間には、オリフィス通路22aが連通されている。
【0038】
オリフィス通路22aには、地下タンク12に貯蔵されている油液13が流路21d、21eを介して流通されており、地下タンク12内の液面変位が変動するのに連動して油液13がオリフィス通路22aを移動する。そのため、液面変位速度センサ22は、オリフィス通路22a内を移動する流量(流速)に応じた検出信号を出力する。
【0039】
ここで、漏洩検査装置10による地下タンク12の静圧テストについて説明する。
【0040】
図3Aは地下タンク12の静圧テストの各油種毎の結果を示す図である。図3Bは地下タンク12の静圧テストの各油種毎の結果を示すグラフである。尚、本実施例における静圧テストの条件としては、地下タンク12の容積が10キロリットル、貯蔵液量が5キロリットル(液面高さ700mm、液温25°C)、圧力が0kPaである。また、静圧テストは、減圧ポンプ73により地下タンク12内を所定圧に減圧した状態を保つように圧力が調整されている。
【0041】
図3A及び図3Bに示されるように、グラフA1はガソリン(動粘度0.73mm/s)が地下タンク12に貯蔵された場合の流量を計測した液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルの変化を示している。グラフA2は、灯軽油(動粘度1.86mm/s)が地下タンク12に貯蔵された場合の流量を計測した液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルの変化を示している。
【0042】
グラフA3は、B重油1(動粘度30mm/s)が地下タンク12に貯蔵された場合の流量変化を計測した液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルの変化を示している。グラフA4は、B重油2(動粘度50mm/s)が地下タンク12に貯蔵された場合の流量変化を計測した液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルの変化を示している。
【0043】
ここで、地下タンク12の液面に波動を起こさせると、液面の波が収束して水平面に戻るまでに液体の粘度に応じた時間を要する。従って、油液13の液面変位が収束するまでの時間を計測することにより、油液13の粘度を測定することが可能になる。液面変位速度センサ22は、静圧テストによる液面変位に応じて発生するオリフィス通路22aの流量変化を計測し、その流量計測信号を出力する。
【0044】
図3Bに示す各グラフA1、A2により、粘度の低いガソリン及び灯軽油は、動粘度区分0であり、計測開始から約40分でオリフィス通路22aの流量がゼロで安定することが分かる。また、図3Bに示す各グラフA3、A4により、粘度の高いB重油1、B重油2は、動粘度区分1であり、計測開始から約80分以上経過すると、オリフィス通路22aの流量がゼロで安定することが分かる。
【0045】
従って、静圧テストによる液面変位速度センサ22からの計測信号の時間的変化を監視することにより、当該油液13の種別の変化パターンが計測され、当該油液13の動粘度区分が「0」または「1」であることを判定することが可能になる。例えば、図3Bにおいて、時間が30分〜40分経過したとき、動粘度区分0のガソリン及び灯軽油は、液面変位速度センサ22からの計測信号の出力レベルが殆どゼロで安定する。一方、動粘度区分1のB重油1、B重油2は、液面変位速度センサ22からの計測信号の出力レベルが変化途中であり、安定していない。よって、静圧テストを30分〜40分行なうことで、液面変位速度センサ22からの計測信号の変化率(単位時間当たりの出力レベルの変化)を求めることで地下タンク12に貯蔵された当該油液13の動粘度区分が「0」または「1」であることを判定できる。
【0046】
ここで、上記液面変位速度センサ22を用いて地下タンク12の漏洩検査を行なう場合に液相領域で漏洩が発生した場合を想定した模擬テストの結果について説明する。
【0047】
図4は地下タンク12の液相領域での漏洩発生を想定した擬似水浸入テストを模式的に示す図である。図4に示されるように、地下タンク12の液相領域で漏洩を模擬的に検出する場合、地下タンク12内に上記液面変位速度センサ22を有する検査プローブ21を挿入すると共に、地下タンク12内に水浸入配管90を挿入する。尚、水浸入配管90は、通気管20の挿入部分に挿入される。また、図4において、検査プローブ21、水浸入配管90を挿入するためのマンホール18は、離れた場所に設置された2箇所でも良い、同一のマンホール18でも良い。
【0048】
水浸入配管90は、下端に直径が0.3mmの擬似孔91が設けられ、上端が地上の所定高さ位置に延在している。そして、水浸入配管90の内部には、擬似地下水が充填されており、バルブ92を開弁することで擬似地下水が地下タンク12に浸入開始する。本実施例においては、水浸入配管90の下端が閉塞されているが、上端が開放されているので、擬似地下水の水位と地下タンク12内の液面13aとの落差Hによるヘッド圧力(本実施例では、1500mm、比重1で15kPa)によって、地下タンク12内に浸入する。
【0049】
図5Aは地下タンク12の液相領域の漏洩擬似テストの各油種毎の結果を示す図である。図5Bは地下タンク12の液相領域の漏洩擬似テストの各油種毎の結果を示すグラフである。尚、本実施例における漏洩擬似テストの条件としては、静圧テストと同様に、地下タンク12の容積が10キロリットル、貯蔵液量が5キロリットル(液面高さ700mm、液温25°C)、圧力が0kPaである。また、静圧テストは、減圧ポンプ73により地下タンク12内を所定圧に減圧した状態を保つように圧力が調整されている。
【0050】
図5A及び図5Bに示されるように、グラフA1は、ガソリン(動粘度0.73mm/s)が地下タンク12に貯蔵された場合の擬似水浸入流量を計測した液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルの変化を示している。グラフA2は、灯軽油(動粘度1.86mm/s)が地下タンク12に貯蔵された場合の擬似水浸入流量を計測した液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルの変化を示している。
【0051】
グラフA3は、B重油1(動粘度30mm/s)が地下タンク12に貯蔵された場合の擬似水浸入流量を計測した液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルの変化を示す。尚、図5A、図5Bにおいては、B重油2(動粘度50mm/s)の漏洩擬似テストを省略する。
【0052】
ここで、水浸入配管90のバルブ92を開弁させて水浸入配管90内の擬似水を地下タンク12に浸入させると、擬似孔91から浸入する擬似水の流量に応じて油液13の液面13aが上昇する。これにより、検査プローブ21内のオリフィス通路22aに油液13が流通する。従って、液面変位速度センサ22は、液面13aの上昇に伴ってオリフィス通路22aを流れる油液13の流量(流速)を計測した計測信号を出力する。
【0053】
従って、ガソリン、灯軽油が地下タンク12に貯蔵された場合は、液面変位速度センサ22の計測信号が安定するまでの時間を計測すると、約40分かかることが分かる。また、重油1が地下タンク12に貯蔵された場合は、液面変位速度センサ22の計測信号が安定するまでの時間を計測すると、約80分かかることが分かる。
【0054】
この漏洩擬似テストの結果から液面変位速度センサ22の計測信号の検査時間を40分に設定すると、ガソリン、灯軽油が地下タンク12に貯蔵された場合は、検査時間40分が経過した時点で計測信号が漏洩流量に比例した所定の出力レベル(0.1mm/h)で安定する。また、B重油1が地下タンク12に貯蔵された場合は、検査時間(40分)が経過した時点で計測信号の出力レベル(b30〜b40)が変化過程である。
【0055】
このように、漏洩擬似テストにおいて、所定の検査時間(40分)が経過するまで液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルを監視すると共に、B重油1(図5B中2点鎖線で示す)のように粘度の高い油液が貯蔵されていて計測信号が安定しないときは、計測信号の変化率(所定時間間隔での傾き、b40−b30/10分)を演算する。従って、B重油1(動粘度30mm/s)が地下タンク12に貯蔵されている場合でも、粘度の低い油液の場合と同様に、漏洩検査の検査時間を40分とすることが可能になり、例えば、図5BのグラフA3が安定するまでにかかる時間(80分)になるまで、計測信号を監視する必要がなく、漏洩検査時間を半分(40分)に短縮することが可能であることを確認できた。
【0056】
ここで、図6のフローチャートを参照して上記液面変位速度センサ22の計測信号に基づいて油液の種別に応じた動粘度を判定する静圧テスト時の制御処理について説明する。
【0057】
図6のS11で計測制御装置24は、地下タンク12に貯蔵された油液13の液面13aに所定重量の物体(例えば、金属による錘)を落下させて波動を発生させる。尚、液面13aに波を発生させる方法としては、作業員が手動で錘を液面に落下させる方法でも良い。
【0058】
続いて、S12の処理に進み、液面変位速度センサ22から出力された計測信号を読み込み、当該計測信号(出力レベル)を記憶部80のRAM81に記憶する。
【0059】
次のS13の処理では、予め設定された検査時間(40分)が経過したか否かをチェックする。この検査時間(40分)は、図3Bに示されるように、グラフA1〜A4の変化に基づいて粘度の低い油液の計測信号の変化パターンから設定された時間である。上記S13の処理において、テスト時間が経過していないときは(NOの場合)、上記S12の処理を繰り返してテスト時間が経過するまでの所定時間間隔で液面変位速度センサ22から出力された計測信号を記憶部80のRAM81に記憶する。
【0060】
また、上記S13の処理において、テスト時間が経過したときは(YESの場合)、S14の処理に進み、液面変位速度センサ22から出力された計測信号が所定の出力レベルで安定(前回処理の出力レベルと同じ)しているか否かをチェックする。上記S14の処理において、液面変位速度センサ22から出力された計測信号の出力レベルが安定している場合(YESの場合)、S15の処理に進み、当該油液の動粘度区分を「0」に設定し、記憶部80のRAM81に記憶する(粘度区分設定手段)。
【0061】
上記S14の処理において、液面変位速度センサ22から出力された計測信号の出力レベルが安定せず、変化過程である場合(NOの場合)、S16の処理に進み、液面変位速度センサ22からの計測信号の変化率(単位時間当たりの出力レベルの変化)を求めることで当該油液13の動粘度区分を「0」または「1」であることを判定すると共に、当該油液の動粘度区分を「1」に設定し、当該地下タンク12の動粘度区分「1」を記憶部80のRAM81に記憶する(粘度区分設定手段)。
【0062】
次のS17の処理では、当該油液の動粘度区分「0」または「1」と、当該地下タンク12の油種として記憶部80のROM82に登録されている当該油種の動粘度区分とを照合する。続いて、S18の処理に進み、今回の静圧テストによって得られた動粘度区分と記憶部80のROM82に登録されている当該油種の動粘度区分とが一致するか否かをチェックする。
【0063】
S18の処理において、今回の静圧テストによって得られた動粘度区分と記憶部80のROM82に登録されている当該油種の動粘度区分とが一致するときは(YESの場合)、静圧テストによる当該油種の動粘度区分が正確であることが確認されたため、S20の処理に進み、静圧テスト結果(動粘度区分「0」または「1」)をディスプレイ装置30bに表示する。また、入力手段32により印刷実行が入力された場合には、プリンタ30aにより静圧テスト結果(動粘度区分「0」または「1」)を印刷する。
【0064】
また、上記S18の処理において、今回の静圧テストによって得られた動粘度区分と記憶部80のROM82に登録されている当該油種の動粘度区分とが不一致の場合(NOの場合)、S19の処理に進み、警報を発して作業員に報知する。そして、S20の処理では、動粘度区分が不一致であることをディスプレイ装置30bに表示する。尚、動粘度区分が不一致の場合は、上記静圧テストを再度実行して動粘度区分を再確認する。
【0065】
このように、静圧テストにより地下タンク12に貯蔵された油液13の動粘度区分を判定することができるので、油液の種別に拘わらず、油液の動粘度区分を判定することが可能になる。
【0066】
図7は漏洩検査時に計測制御装置24が実行する制御処理を説明するためのフローチャートである。図7のS21の処理では、上記静圧テストにより記憶部80のRAM81に設定された当該地下タンク12に貯蔵された油液13の動粘度区分(「0」または「1」)を読み込む。尚、上記静圧テストの時間を短縮したい場合は、S21において、記憶部80のROM82に記憶された動粘度区分(「0」または「1」)を読み込む。
【0067】
次のS21aでは、減圧装置70の減圧ポンプ73を起動させて地下タンク12の気相領域Gを大気圧以下に減圧する。減圧装置70により地下タンク12内が減圧されるため、地下タンク12の壁部に開口部(漏洩箇所)が発生している場合、地下タンク12を囲む土砂の隙間に滞留する地下水が壁部の開口部(漏洩箇所)を介して地下タンク12内に浸入する。地下タンク12において、地下水の浸入が生じた場合、地下水の浸入量に応じて油液13の液面13aが上昇すると共に、検査プローブ21内のオリフィス通路22aに油液が流通する。
【0068】
次のS22の処理では、液面変位速度センサ22から出力された現在の計測信号を読み込み、計測信号の出力レベルを記憶部80のRAM81に記憶する。上記検査プローブ21内のオリフィス通路22aに油液が流れた場合、液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルが上昇し始める(図5B参照)。
【0069】
S23の処理では、予め設定された検査時間(40分)が経過したか否かをチェックする。本実施例では、各油種のなかで粘度の低い動粘度区分「0」の静圧テスト時間(40分)を検査時間として記憶部80のRAM82に設定されている。S23の処理において、検査時間(40分)が経過していないときは(NOの場合)、S22の処理に戻り、検査時間が経過するまでの間は、液面変位速度センサ22から出力された現在の計測信号の出力レベルを記憶部80のRAM81に記憶し続ける。
【0070】
上記S23の処理において、検査時間(40分)が経過したときは(YESの場合)、S24の処理に進み、液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルがゼロか否かをチェックする。S24の処理において、液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルがゼロのときは、S25の処理に進み、オリフィス通路22aを流れる流量がゼロであるので、静圧テストにより設定された動粘度区分(「0」または「1」)で漏洩無しと判定する。
【0071】
また、上記S24の処理において、液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルがゼロでない場合(NOの場合)、S26の処理に進み、液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルが一定(前回処理の出力レベルと同じ)か否かをチェックする。S26の処理において、液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルが一定(図5B中のグラフA1,A2参照)である場合(YESの場合)、出力レベルが安定しているので、S27の処理に進み、静圧テストにより設定された動粘度区分0(例えば、ガソリン、灯軽油)の油液で漏洩有りと判定する。
【0072】
また、上記S26の処理において、液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルが一定でなく変化している場合(NOの場合)、S28の処理に進み、液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルが変化(前回処理の出力レベルと相違)しているか否かをチェックする。S28の処理において、液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルが変化(図5B中のグラフA3参照)している場合(YESの場合)、S29の処理に進み、計測信号の変化率(所定時間間隔での傾き)を演算する。
【0073】
次のS30では、S29の処理で演算された変化率が予め設定された閾値以上か否かをチェックする。S30において、S29の処理で演算された変化率が予め設定された閾値以上である場合(YESの場合)、計測信号の出力レベルが大きく変化している途中であるので、S31に進み、静圧テストにより設定された動粘度区分1(例えば、B重油)の油液で漏洩有りと判定する。
【0074】
また、上記S30において、S29の処理で演算された変化率が予め設定された閾値未満である場合(NOの場合)、計測信号の出力レベルの変化率が小さいので、S25の処理に移行して静圧テストにより設定された動粘度区分(「1」)で漏洩無しと判定する。
【0075】
上記S25、S27、S29、S31の処理で、漏洩検査結果が得られると、S32の処理に進み、上記何れかの判定結果を記憶部80のRAM81に記憶させると共に、判定結果をディスプレイ装置30bに表示する。
【0076】
また、上記S28の処理において、液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルが変化していない場合(NOの場合)、上記S24の処理に戻り、S24〜S31の処理を再度実行する。また、入力手段32により印刷実行が入力された場合には、プリンタ30aにより判定結果(漏洩の有無)を印刷する。
【0077】
S33では、減圧装置70の減圧ポンプ73を停止させる。尚、通気管20の上端開口20aに接続された継手71を通気管20から分離させることで大気中の空気が地下タンク12内に供給され、地下タンク12の気相領域Gは大気圧に戻る。
【0078】
このように、液面変位速度センサ22から出力された現在の計測信号を所定の検査時間(40分)が経過するまで監視することにより、油液13の種別(動粘度の差違)に拘わらず、地下タンク12の漏洩検査を行なうことができる。また、地下タンク12に貯蔵された油液13がB重油のように動粘度が高い場合でも、液面変位速度センサ22の計測信号の出力レベルの変化率を演算して閾値と比較することで、従来よりも短時間(例えば、40分)で漏洩検査を行なうことが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
上記実施例では、地下タンク12にガソリン、灯軽油、B重油の何れかの油液が貯蔵されている場合を例に挙げて説明したが、これ以外の液体(例えば、動粘度の異なる化学薬品や流動性を有する食品等)が貯蔵された地下タンクの漏洩検査を行なう漏洩検査装置にも本発明を適用できるのは勿論である。
【0080】
上記実施例では、地下タンク12内の圧力を減圧装置70により減圧する場合を例に挙げて説明したが、減圧装置70に代えて加圧装置を用いて地下タンク12内を大気圧以上に加圧して地下タンク12の壁部の開口部の有無を検査しても良いのは勿論である。
【符号の説明】
【0081】
10 漏洩検査装置
12 地下タンク
13 油液
14 注油管
16 給油管
17 計量機
18 マンホール
19 計量管
20 通気管
21 検査プローブ
21a センサ室
22 液面変位速度センサ
22a オリフィス通路
24 計測制御装置
24A 粘度区分設定手段
24B 判定手段
24C 監視手段
24D 選択手段
28 安全保持器
29 I/F変換器
30 出力手段
30a プリンタ
30b ディスプレイ装置
31 記憶手段
32 入力手段
70 減圧装置
73 減圧ポンプ
71 継ぎ手
72 減圧ホース
80 記憶部
81 RAM
82 ROM
90 水浸入配管
91 擬似孔
92 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象である地下タンクの気相領域に減圧状態または加圧状態に保持する圧力保持部と、当該地下タンクの上部開口よりタンク内の液相領域に挿入される検査プローブと、該検査プローブ内に設けられたオリフィス通路と、該オリフィス通路を流通する液体の流速を検出するセンサと、を備え、前記圧力保持部により前記地下タンク内を減圧又は加圧状態に保持して漏洩検査を行なう地下タンクの漏洩検査装置において、
前記地下タンクに貯蔵されている液体の粘度区分を設定する粘度区分設定手段と、
前記粘度区分に対応させた前記漏洩検査における検査時間が記憶された記憶手段と、
前記粘度区分設定手段によって設定された液種のうち粘度の低い液種に対応する検査時間が経過するまでの間に前記センサから出力された信号の出力レベルに基づいて漏洩の有無を判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする地下タンクの漏洩検査装置。
【請求項2】
前記粘度区分設定手段は、
前記地下タンクの静圧テストによって液相表面に発生した波動の収束に伴う前記オリフィス通路を流通する液体の流速変化を前記センサにより計測し、前記センサからの信号の出力レベルの変化に基づいて前記地下タンクに貯蔵されている液体の動粘度区分を設定することを特徴とする請求項1に記載の地下タンクの漏洩検査装置。
【請求項3】
前記粘度区分設定手段は、
前記検査時間が経過するまでの間に前記センサからの信号の変化を監視する監視手段と、
前記信号の変化に基づいて前記地下タンクに貯蔵された液体の動粘度区分を選択する選択手段と、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の地下タンクの漏洩検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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