説明

地下構造物の免震用注入薬液組成物及びそれを用いた免震工法

【課題】硬化反応速度を調節し得る免震用注入薬液組成物、該組成物を用いた免震工法を提供する。
【解決手段】イソシアネート成分(A)と、瀝青乳剤成分(B)と、セメント成分(C)とを含有する地下構造物の免震用注入薬液組成物であって、イソシアネート成分(A)が、ポリイソシアネート成分(A1)及び水酸基含有ポリエーテル成分(A2)を反応させて得られるイソシアネート末端ウレタンプレポリマーと、粘度低下剤成分(A3)とを含有し、瀝青乳剤成分(B)に含まれる乳化剤としてノニオン系界面活性剤を使用し、イソシアネート成分(A)と、瀝青乳剤成分(B)と、セメント成分(C)との配合割合を、イソシアネート成分(A)の100重量部に対して、瀝青乳剤成分(B)が50〜200重量部、セメント成分(C)が20〜40重量部とし、瀝青乳剤成分(B)中の不揮発分が50〜70重量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物の免震用注入薬液組成物及びそれを用いた免震工法に関し、より詳細には、ビルディングの基礎部分やトンネル等の地下構造物と、岩盤、地盤等との間に免震用の弾性体を形成するために注入される免震用注入薬液の組成物、及びそれを用いた免震工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地震による被害を最小限に抑えるための技術開発が盛んに行われている。なかでも、ビルディングの基礎部分、トンネル等の地下構造物と、岩盤、地盤等との間にゴムなどの弾性体を形成して地震の振動を吸収する免震技術が注目されている。
【0003】
地下構造物と岩盤、地盤等との間に形成される弾性体として、例えば、液状ポリブタジエン及びポリイソシアネートから調製されるポリウレタンと、アスファルト(瀝青)を含むものが知られている(特許文献1)。しかし、このポリウレタンは溶剤を含んだ形で使用されるため、安全性、環境汚染などの点で好ましくない。
【0004】
このような安全性、環境汚染などの問題点を回避するため、ポリウレタン及びアスファルト(瀝青)を含む水系の組成物を使用することが考えられる(特許文献2)。この組成物では、予めポリイソシアネートとポリオールとの反応によりウレタンプレポリマーが調製され、これに瀝青乳剤を加えてその水分によりウレタンポリマーが生成される。この組成物に於いては、ウレタンプレポリマーの生成に、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の各種ポリイソシアネートが使用されている。しかし、免震用の弾性体として使用する場合には、安全性等の面からポリイソシアネートはMDIに限定されてしまう。ところが、ポリイソシアネートとしてMDIを使用すると、瀝青乳剤との混合により開始されるウレタンプレポリマーの重合速度が大き過ぎるため、地下構造物まで送液するまでに硬化が完了してしまうという新たな問題が生じる。
【特許文献1】特開2001−49683号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平7−109417号公報(特許請求の範囲、段落〔0030〕〜〔0035〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するために為されたものであり、本発明の目的は、硬化反応速度を調節し得る免震用注入薬液組成物を提供することである。また、本発明の他の目的は、その免震用注入薬液組成物を用いた免震工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の地下構造物の免震用注入薬液組成物は、イソシアネート成分(A)と、瀝青乳剤成分(B)と、セメント成分(C)とを含有する地下構造物の免震用注入薬液組成物であって、前記イソシアネート成分(A)が、ポリイソシアネート成分(A1)及び水酸基含有ポリエーテル成分(A2)を反応させて得られるイソシアネート末端ウレタンプレポリマーと、粘度低下剤成分(A3)とを含有し、前記ポリイソシアネート成分(A1)は、40〜60重量%の2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び/又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと、40〜60重量%の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとを含む混合物であり、前記瀝青乳剤成分(B)に含まれる乳化剤がノニオン系界面活性剤であり、前記イソシアネート成分(A)と、前記瀝青乳剤成分(B)と、前記セメント成分(C)との配合割合は、前記イソシアネート成分(A)の100重量部に対して、前記瀝青乳剤成分(B)が50〜200重量部、前記セメント成分(C)が20〜40重量部であり、前記瀝青乳剤成分(B)中の不揮発分が50〜70重量%であることを特徴としている。
【0007】
この構成では、ポリイソシアネート成分(A1)である2,2’又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと水酸基含有ポリエーテル成分(A2)とにより構成されるウレタンプレポリマーの重合速度が、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと水酸基含有ポリエーテル成分(A2)とにより構成されるウレタンプレポリマーの重合速度より小さいため、2,2’−又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとの配合割合を調節することにより、免震用注入薬液組成物としての硬化速度を調節することが可能となる。このような重合速度の違いは、芳香環に於けるNCO基の置換位置の相違に起因していると考えられる。
【0008】
本発明の地下構造物の免震工法は、上記の地下構造物の免震用注入薬液組成物を含有する免震用注入薬液を用いた地下構造物の免震工法であって、前記イソシアネート成分(A)と前記セメント成分(C)とを混合して混合物を得る工程と、イソシアネート成分(A)及びセメント成分(C)の前記混合物と前記瀝青乳剤成分(B)とを地下構造物の近傍にそれぞれ送液する工程と、地下構造物の近傍において、前記送液された前記混合物と前記瀝青乳剤成分(B)とを混合して免震用注入薬液とし、該免震用注入薬液を直ちに地下構造物の近傍に注入して硬化させる工程とを包含していることを特徴としている。
【0009】
また、本発明の他の地下構造物の免震工法は、上記の地下構造物の免震用注入薬液組成物を含有する免震用注入薬液を用いた地下構造物の免震工法であって、前記瀝青乳剤成分(B)と前記セメント成分(C)とを混合して混合物を得る工程と、前記瀝青乳剤成分(B)及びセメント成分(C)の前記混合物と前記イソシアネート成分(A)とを地下構造物の近傍にそれぞれ送液する工程と、地下構造物の近傍において、前記送液された前記混合物と前記イソシアネート成分(A)とを混合して免震用注入薬液とし、該免震用注入薬液を直ちに地下構造物の近傍に注入して硬化させる工程とを包含していることを特徴としている。
【0010】
上述のように、本発明の免震用注入薬液組成物を用いて調製した免震用注入薬液は、硬化速度が調整されているので、上述のように順次各成分を混合して地下構造物の近傍に注入すれば、注入後の一定時間経過後に硬化が完了し、目的とする免震性能を有する免震弾性体を形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の地下構造物の免震用注入薬液組成物は、ポリイソシアネート成分(A1)として、硬化成分である4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの一部を、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び/又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートに代えたものを使用しているので、これを用いて免震用注入薬液の硬化時間を施工時間に応じて調整することが可能となる。
【0012】
また、上記の免震用注入薬液組成物を用いた本発明の地下構造物の免震工法によれば、ポンプにより免震用注入薬液を送液することができるので、効率よく免震構造物の施工を行うことができる。また、この免震用注入薬液を例えばトンネルを覆うように施工することにより、トンネルの止水にも寄与することとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に於いて使用されるポリイソシアネート成分(A1)として、MDIと称される通常の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートに加えて、芳香環に於けるNCO基の置換位置が異なる2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネートと2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとが使用される。2,2’−と2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートは、NCO基が立体的に反応し難い位置にあるため、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートよりも重合反応の速度が遅く、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーに組み込まれた場合にも、硬化速度を遅らせる効果を生じる。
【0014】
これらのジフェニルメタンジイソシアネートの配合比率は、目的とする硬化時間に応じて調整すればよいが、一般的には、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネートと2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとの合計の配合比率が40〜60重量%、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの配合比率が40〜60重量%である。
【0015】
本発明におけるイソシアネート末端ウレタンプレポリマーは、ポリイソシアネート成分(A1)と水酸基含有ポリエーテル成分(A2)とを、NCO基とOH基との当量比(NCO基/OH基)が1.5〜5となるように反応させることが好ましく、2〜3となるように反応させることがより好ましい。当量比(NCO基/OH基)が上記範囲より小さいと、得られる免震弾性体が柔らかくなり過ぎ、また得られるウレタンプレポリマーの粘度が高くなるので、施工時に困難を伴うこととなる。また、当量比(NCO基/OH基)が上記範囲より大きいと、得られる免震弾性体が硬くなり過ぎるので好ましくない。
【0016】
ここで、上記の水酸基含有ポリエーテル成分(A2)は、数平均分子量が200〜10,000であることが好ましい。この分子量が上記範囲より小さいと、生成するポリウレタンの分子量が小さくなり、上記範囲より大きいと、生成するポリウレタンの分子量が大きくなりすぎるので好ましくない。また、水酸基含有ポリエーテル成分(A2)は、エチレンオキサイド単位を5〜60重量%で含有していることが好ましい。エチレンオキサイド単位の含有量が上記範囲より小さいと、他の成分との混和性(相溶性)が低下し、上記範囲より大きいと、硬化時間が早くなりすぎるので好ましくない。水酸基含有ポリエーテル成分(A2)を構成するエチレンオキサイド単位以外の構成単位としては、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等を挙げることができる。
【0017】
水酸基含有ポリエーテル成分(A2)のOH基の平均官能基数は、1.5〜2.5であることが好ましい。OH基の平均官能基数が上記範囲より小さいと、得られるウレタンプレポリマーの架橋密度が小さくなり、逆に上記範囲より大きいと、ウレタンプレポリマーの架橋密度が大きくなり過ぎて得られる免震弾性体が硬くなり過ぎるので好ましくない。
【0018】
本発明の地下構造物の免震用注入薬液組成物においては、粘度低下剤成分(A3)として、平均分子量が250〜600の脂肪酸二塩基酸エステルが使用される。脂肪酸二塩基酸エステルの平均分子量が上記範囲より小さいと、脂肪酸二塩基酸エステルが溶出し易くなるとともに組成物全体の引火点が低くなり、上記範囲より大きいと、粘度低下の効果が小さくなるので好ましくない。脂肪酸二塩基酸エステルが好ましい理由は、芳香族系の化合物に比較して疎水性が低いため、相溶性の点で有利だからである。脂肪酸二塩基酸エステルのうち、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)及びアジピン酸ジイソノニルが、粘度低下効果が大きく、かつ引火点が200℃以上で安全性が高いため、特に好ましい。
【0019】
本発明の地下構造物の免震用注入薬液組成物において使用される瀝青乳剤成分(B)としては、ストレートアスファルト、ブローンアスファルト、カットバックアスファルト、プロパン脱瀝アスファルト等の石油アスファルト、重油、天然アスファルト、タール、ピッチ等の1種または2種以上を混合した瀝青物と、ノニオン系の各種界面活性剤とを、コロイドミル、ホモジナイザ、ホモミキサ等の適当な乳化機を用いて水中に乳化させたものを挙げることができる。ここで、本発明に於いてノニオン系の界面活性剤が使用されるのは、カチオン系やアニオン系の界面活性剤を用いた瀝青乳剤を使用すると、他のイソシアネート成分(A)やセメント成分(C)と相溶しないからである。瀝青乳剤成分(B)中の不揮発分は、50〜70重量%が好ましく、これを超えると他のイソシアネート成分(A)やセメント成分(C)と相溶しなくなるので好ましくない。
【0020】
本発明の地下構造物の免震用注入薬液組成物において使用されセメント成分(C)は、ウレタンプレポリマーとは直接には反応しないが、ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基が瀝青乳剤中の水分と反応した場合に生ずる炭酸ガスを吸収し、無発泡状とし、かつ、硬化物の機械的特性を向上させる機能を果たす。セメント成分(C)としては、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、高炉コロイドセメント、コロイドセメント、シリカセメント、耐硫酸塩セメント、アルミナセメント等のセメント、生石灰、消石灰等の石灰が挙げられる。これらは単独又は混合物として使用することができる。これらのうち、ポルトランドセメントが、汎用的で経済性が高いので好ましい。
【0021】
本発明におけるイソシアネート成分(A)と、瀝青乳剤成分(B)と、セメント成分(C)との配合割合は、イソシアネート成分(A)の100重量部に対して、瀝青乳剤成分(B)が50〜200重量部、セメント成分(C)が20〜40重量部であることが好ましく、瀝青乳剤成分(B)が80〜120重量部、セメント成分(C)が20〜40重量部の範囲がより好ましい。
【0022】
瀝青乳剤成分(B)が50重量部を下回ると、乳剤の分解が極端に早まり、材料の硬化が早期に発生し、注入が困難となる。加えて注入後に未反応のウレタンが水分と反応すると、ウレタンの反応に伴う発泡による体積増加を起こし、構造物や躯体を損なうおそれがある。瀝青乳剤成分(B)が200重量部を上回ると、ウレタンの反応がすべての乳剤の分解に関与することができず、硬化物を得ることができなくなる。
【0023】
セメント成分(C)が20重量部を下回ると、ウレタンの反応に伴う発泡による体積増加が発生し、硬化物中に気泡を生じる。この気泡が連続して連続空隙となると、硬化物としての機能が損なわれることになる。セメント成分(C)が40重量部を上回ると、硬化物中にセメントによる骨格が生成し、硬化物の弾性が損なわれてしまう。
【0024】
本発明の地下構造物の免震用注入薬液組成物は、その硬化物の一軸圧縮強度が0.5Mpa以下となることが好ましく、一軸圧縮強度が0.5Mpaを超えると、免震弾性体としての機能を果たさなくなるので好ましくない。
【0025】
安全衛生上の観点からは、この硬化物の有機成分の溶出濃度は、硬化物100gを10Lの水中に常温で24時間浸漬した場合に10ppm以下であることが好ましい。また、イソシアネート成分(A)の引火点が200℃以上であることが好ましい。
【0026】
本発明の免震工法では、まず、イソシアネート成分(A)とセメント成分(C)とが混合される。この混合物と瀝青乳剤成分(B)は、別々に免震弾性体を敷設すべき地下構造物の近傍まで送液される。送液された混合物と瀝青乳剤成分(B)とは地下構造物の近傍で、例えばスタティックミキサー等により混合されて免震用注入薬液となる。この免震用注入薬液は、地下構造物の近傍に注入されると、硬化して免震弾性体を形成する。
【0027】
また、本発明の他の免震工法では、まず、瀝青乳剤成分(B)とセメント成分(C)とが混合される。この混合物とイソシアネート成分(A)は別々に免震弾性体を敷設すべき地下構造物の近傍まで送液される。送液された前記混合物とイソシアネート成分(A)とは地下構造物の近傍で、例えばスタティックミキサー等により混合されて免震用注入薬液となる。この免震用注入薬液は、地下構造物の近傍に注入されると、硬化して免震弾性体を形成する。
【0028】
図1〜図3は、本発明に係る免震用注入薬液及び免震工法の適用例を示す概念図である。図1は、地下構造物としてのボックスカルバートに本発明の免震工法を適用した場合を例示している。この適用例では、既に地中に埋められたボックスカルバート1に対して、本発明の免震用注入薬液を用いて免震機能が付与されている。即ち、ボックスカルバート1の上面1aに、注入ロッド2を介して免震用注入薬液を注入して硬化させることにより、免震層3が形成される。通常、地震の振幅は地表に近いほど大きいので、図1の例のようにボックスカルバート1の上面1aにのみ免震層3を設けた場合にも、比較的大きな免震効果が発揮される。
【0029】
免震層3の形成に使用される本発明に係る免震用注入薬液は、上述のように地下構造物であるボックスカルバート1の近傍で、例えばスタティックミキサー等により混合されて調製され、直ちに注入ロッド2を介してボックスカルバート1の上面1aに注入される。
【0030】
図2は、開削トンネルに本発明の免震用注入薬液を用いて免震機能を付与した場合を示している。同図の例では、堅い基礎地盤11の上に堆積した柔らかい表層地盤12を地表から振り抜いて開削トンネル壁14が形成されている。開削トンネル壁14の両側には、地表から基礎地盤11に達するように免震層13が形成されている。この免震層13は、開削トンネル壁14を形成した後、埋め戻し前に免震用注入薬液を調製して注入することにより形成される。
【0031】
図3(a)は、断面が円形のトンネルに本発明の免震用注入薬液を用いて免震機能を付与した場合を示し、図3(b)は同図(a)の断面を示している。この例では、トンネル23のトンネル壁24は、通常の地盤21と軟弱地盤22とを貫いて施工されている。トンネル壁24の外側には、トンネル壁24の全体を覆って免震層23が形成されている。この免震層23は、トンネル壁24を形成した後、トンネル壁24に設けた注入口24aを介して免震用注入薬液を注入することにより形成される。
【実施例】
【0032】
本発明を実施例及び比較例に基づいて説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0033】
(イソシアネート成分(A)の調製)
表1に示すポリイソシアネート成分(A1)と、水酸基含有ポリエーテル成分(A2)と、粘度低下剤成分(A3)とを使用して、イソシアネート成分(A)である(A−I)〜(A−IV)を調製した。
【0034】
まず、ポリイソシアネート成分(A1)と水酸基含有ポリエーテル成分(A2)とを同表に示す配合比率で混合し、80℃で6時間反応させて、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを調製し、次に、粘度低下剤成分(A3)を混合することにより、イソシアネート成分(A)である(A−I)〜(A−IV)を調製した。(A−I)〜(A−IV)における当量比(NCO/OH)、NCO含量、及び成分(A)の全体の引火点も併せて表1に示した。なお、イソシアネート成分(A)全体の引火点は、JIS K2265(クリーブランド開放式)に基づいて測定した。引火点は、200℃以上であることが必要である。
【0035】
【表1】

【0036】
(瀝青乳剤成分(B))
表2に示す(B−I)〜(B−IV)を瀝青乳剤成分(B)として用いた。
【0037】
【表2】

【0038】
(セメント成分(C))
ポルトランドセメントをセメント成分(C)として用いた。
【0039】
(免震用注入薬液組成物の調製)
500mlのポリカップに、表3に示す配合比率で20℃に温度調節した各成分を計量し、ミキサーで500RPMの回転速度で1分間撹拌・混合を行った。このときの性状について、成分(A)〜(C)の混合液の相溶性、(A)成分の引火点、硬化時間、有機物溶出濃度及び圧縮強度を評価し、更にこれらの評価に基づいて総合評価い、併せて表3に示した。
【0040】
【表3】

【0041】
各評価の方法の説明及び評価基準は、以下のとおりである。
【0042】
(混合液の相溶性)
上記のように成分(A)〜(C)を混合した液を目視にて観察し、均一に混合されて反応硬化物も均一のものを「○」、混合液が不均一で反応硬化物もいびつなものを「×」とした。
【0043】
(イソシアネート成分(A)の引火点)
引火点が200℃以上のものを「○」、200℃未満のものを「×」とした。
【0044】
(硬化時間)
上記のように成分(A)〜(C)を混合した液について、混合開始から液の流動性がなくなるまでの時間をストップウォッチを用いて測定した。後述する総合評価に於ける硬化時間の「合格」の基準は、2分以上である。
【0045】
(有機物溶出濃度)
上記のように成分(A)〜(C)を混合して得た免震用注入薬液の硬化物を更に24時間養生して、ブロック状の硬化物を得た。このブロック状の硬化物(100g)を10Lの蒸留水中に常温で24時間浸漬した後、試料水を採取してJIS K0102(過マンガン酸カリウム滴定法)により有機物の溶出濃度を測定した。後述する総合評価に於ける有機物溶出濃度の「合格」の基準は、10ppm以下である。
【0046】
(圧縮弾性係数)
上記のように成分(A)〜(C)を混合して得た免震用注入薬液の約200gを、直径5cm、高さ10cmの円筒状のモールドに速やかに充填し、円筒状の硬化物を得た。この硬化物を常温で7日間養生しして得られた供試体について、一軸圧縮強度を測定した。測定条件は10mm/分の圧縮速度で、圧縮歪み10%まで圧縮した場合の最大応力を測定し、下記の計算式より圧縮弾性係数を算出した。なお、後述する総合評価に於ける圧縮弾性係数の「合格」の基準は、5MPa以下である。
【0047】
圧縮弾性係数=圧縮歪み10%まで圧縮した場合の最大応力×10 …(式)。
【0048】
(総合評価)
上記の評価項目のうち、全ての項目で「○」又は「合格」となったものを「○」、一つでも「×」又は「不合格」となる項目があるものは「×」とした。
【0049】
以上から、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び/又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを用いたイソシアネート成分(A)を含有する各実施例の免震用注入薬液組成物は、全ての評価項目で一定の基準を満たし、総合評価は「○」であった。これに対して、2,2’−及び/又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを用いない各比較例の免震用注入薬液組成物は、何れかの項目で「×」又は「不合格」となり、総合評価は「×」となった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の地下構造物の免震用注入薬液組成物及びそれを用いた免震工法によれば、免震性に優れた免震弾性体が得られるので、土木・建築の分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】地下構造物としてのボックスカルバートに、本発明の免震工法を適用した場合を例示する断面図である。
【図2】開削トンネルに本発明の免震用注入薬液を用いて免震機能を付与した場合を示す断面図である。
【図3】(a)は、断面が円形のトンネルに本発明の免震用注入薬液を用いて免震機能を付与した場合を示し、(b)は同図(a)の断面を示している。
【符号の説明】
【0052】
1…ボックスカルバート
1a…上面
2…注入ロッド
3…免震層
11…基礎地盤
12…表層地盤
13…免震層
14…開削トンネル壁
21…地盤
22…軟弱地盤
23…免震層
24…トンネル壁
24a…注入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート成分(A)と、瀝青乳剤成分(B)と、セメント成分(C)とを含有する地下構造物の免震用注入薬液組成物であって、
前記イソシアネート成分(A)が、ポリイソシアネート成分(A1)及び水酸基含有ポリエーテル成分(A2)を反応させて得られるイソシアネート末端ウレタンプレポリマーと、粘度低下剤成分(A3)とを含有し、
前記ポリイソシアネート成分(A1)は、40〜60重量%の2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び/又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと、40〜60重量%の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとを含む混合物であり、
前記瀝青乳剤成分(B)に含まれる乳化剤がノニオン系界面活性剤であり、
前記イソシアネート成分(A)と、前記瀝青乳剤成分(B)と、前記セメント成分(C)との配合割合は、前記イソシアネート成分(A)の100重量部に対して、前記瀝青乳剤成分(B)が50〜200重量部、前記セメント成分(C)が20〜40重量部であり、前記瀝青乳剤成分(B)中の不揮発分が50〜70重量%である
ことを特徴とする地下構造物の免震用注入薬液組成物。
【請求項2】
前記水酸基含有ポリエーテル成分(A2)は、数平均分子量が200〜10,000であり、エチレンオキサイド単位を5〜60重量%で含有し、更にOH基の平均官能基数が1.5〜2.5である請求項1記載の地下構造物の免震用注入薬液組成物。
【請求項3】
前記地下構造物の免震用注入薬液組成物の硬化物の一軸圧縮強度が0.5Mpa以下であり、該硬化物100gを10Lの水中に常温で24時間浸漬した場合の有機成分の溶出濃度が10ppm以下であり、更に、イソシアネート成分(A)の引火点が200℃以上である請求項1又は2に記載の地下構造物の免震用注入薬液組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の地下構造物の免震用注入薬液組成物を含有する免震用注入薬液を用いた地下構造物の免震工法であって、
前記イソシアネート成分(A)と前記セメント成分(C)とを混合して混合物を得る工程と、
イソシアネート成分(A)及びセメント成分(C)の前記混合物と前記瀝青乳剤成分(B)とを地下構造物の近傍にそれぞれ送液する工程と、
地下構造物の近傍において、前記送液された前記混合物と前記瀝青乳剤成分(B)とを混合して免震用注入薬液とし、該免震用注入薬液を直ちに地下構造物の近傍に注入して硬化させる工程と
を包含していることを特徴とする地下構造物の免震工法。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載の地下構造物の免震用注入薬液組成物を含有する免震用注入薬液を用いた地下構造物の免震工法であって、
前記瀝青乳剤成分(B)と前記セメント成分(C)とを混合して混合物を得る工程と、
前記瀝青乳剤成分(B)及びセメント成分(C)の前記混合物と前記イソシアネート成分(A)とを地下構造物の近傍にそれぞれ送液する工程と、
地下構造物の近傍において、前記送液された前記混合物と前記イソシアネート成分(A)とを混合して免震用注入薬液とし、該免震用注入薬液を直ちに地下構造物の近傍に注入して硬化させる工程と
を包含していることを特徴とする地下構造物の免震工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−162816(P2008−162816A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351229(P2006−351229)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(390019998)東亜道路工業株式会社 (42)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】