説明

地下水利用熱交換システムおよび地下水利用熱交換設備

【課題】熱効率に優れた地下水利用熱交換システムおよび該システムに適した設置およびメンテナンスが容易な地下水利用熱交換設備を提供する。
【解決手段】地盤中に設置し、外周部を埋め戻して揚水兼還水用の井戸を構成するケーシング1に、上部スクリーン部2と下部スクリーン部3を設ける。ケーシング1内をパッカー31により上部スクリーン部2側と下部スクリーン部3側とに仕切り、ケーシング1内の上部スクリーン部2側から揚水し、下部スクリーン部3側から地盤内に還水する操作と、下部スクリーン部3側から揚水し、上部スクリーン部2側から地盤内に還水する操作とを切り替え可能とする。ケーシング1の外周の埋め戻し部分について、上部スクリーン部2位置の上方と、上部スクリーン部2位置と下部スクリーン部3位置の中間に、設置位置の地層に応じて、それぞれ遮水材i1、i2を充填し、地下水の流れのショートカットを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷暖房等の空調、給湯、融雪、工場における機械設備の冷却等に利用される地下水利用熱交換システムおよび該システムに適した地下水利用熱交換設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中熱の空調などへの利用形態としては大きく分けて、熱媒体を循環させるUチューブ等の採熱管を用いる地中熱交換型と、地下水を直接汲み上げて利用する地下水利用型があり、それぞれ長所と短所があるため、設置される場所の環境やコストなどに応じて、条件的に有利なものが選択されることになる。
【0003】
このうち、地下水利用型の地中熱利用システムの改良技術として、例えば特許文献1〜3に記載された発明がある。
【0004】
特許文献1には、複数の帯水層に対する取水と環水を兼用する単一の井戸を設けてその内部をパッカーにより上下に仕切り、その井戸内にヒートポンプ装置を設置するとともに、井戸内に設置した2台のポンプを選択的に運転することにより、もしくは単独のポンプにより地下水の供給経路を切替えて運転することにより、いずれか一方の帯水層から取水した地下水をヒートポンプ装置に供給して他方の帯水層に環水させる構成の地下水を熱源とするヒートポンプ設備が開示されている。
【0005】
そして、この特許文献1記載の発明によれば、高効率のヒートポンプ運転を通年にわたって行うことができ、また井戸の施工コストおよび所要設置スペースを大幅に削減できるとされている。
【0006】
また、特許文献2には、上部ストレーナと下部ストレーナを1本の井戸内に設けて、上部ストレーナ、下部ストレーナの間にしきりを設置することにより井戸内を二分割したヒートポンプシステムが開示されている。
【0007】
そして、この特許文献2記載の発明によれば、一本の井戸により地下水の取水と還元を行うことができ、ヒートポンプを高効率で年間を通して稼働することができ、従来は地下水汲み上げ井戸と還元井戸の2本が必要であったのが、1本の井戸で汲み上げ、還元が可能となり、井戸の切削コスト、設置スペースを大幅に削減できるとされている。
【0008】
さらに、特許文献3、非特許文献1には、上記特許文献2における目詰まりの問題を解決するため、ケーシング内を上下に分離する可動式分離装置が井戸内のケーシング内に上下移動可能に配設し、ケーシング内には下部管と上部管を挿入し、可動式分離装置の上側のケーシング1に上スクリーン部2を形成させ、可動式分離装置の下側のケーシングに下スクリーン部を形成させ、ケーシング内の上側室からの注水量が低下してきたときあるいは定期的に、下部管の揚水機能と上部管の注入機能を相互に切り替え、上部管を通して可動式分離装置の上側のケーシング内の上側室から揚水し、熱利用後の地下水を、下部管を通して可動式分離装置の下側のケーシング内の下側室に注水して地中に戻すようにした地下水熱交換方法および装置が開示されている。
【0009】
そして、この特許文献3記載の発明によれば、下側室の下スクリーン部の目詰まり、或いは上側室の上スクリーン部の目詰まりが、地下水の逆流により解消され、地下水の逆流によるスクリーン部の逆洗を、定期的にまたは注水量の低下時などに行なうことにより、地下水熱利用の最大化を図り、地下水熱を利用して効率の良い熱利用や熱交換を行なうことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3600992号公報
【特許文献2】特開平9−280689号公報
【特許文献3】特開2010−117081号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】南有鎮、大岡龍三、柴芳郎、奥村建夫、「地下水循環型空水冷ハイブリッドヒートポンプシステムの開発に関する研究(その1)SCWシステム概要及び実験装置の構築」、日本建築学会大会学術講演梗概集、D-2, pp.1105-1106、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の特許文献1記載の発明は、井戸内のパッカーのやや上部の位置に圧縮機や膨張弁等を含む冷媒循環系統を備えたヒートポンプ装置を設置するものであり(特許文献1段落0014−0015参照)、井戸内への設置やメンテナンスが難しく、実用的でない。
【0013】
また、特許文献2記載の発明の改良発明である特許文献3記載の発明では、可動式分離装置として、ゴムまたはゴム状弾性体などにより風船状形成され、圧送用チューブにより内部に空気などの流体を圧送して膨張させ、内部の空気を抜くことにより収縮させる構造のパッカーを用いるものであり、やはり設置やメンテナンス上の問題がある。
【0014】
また、特許文献2や特許文献3記載の発明は、主として住宅などへの適用を目的とした比較的浅い井戸を構成するものであり、ケーシング内を単にパッカーで仕切っているに過ぎないため、揚水される地下水と還水される地下水が地盤内で混じるいわゆるショートカットが生じやすく、熱効率を下げてしまう可能性がある。
【0015】
本願発明は、上述のような従来技術における課題の解決を図ったものであり、単一の井戸を構成するケーシング内をパッカーで仕切り、1本の井戸で揚水と還水を可能とする地下水利用熱交換システムにおいて、熱効率に優れた地下水利用熱交換システムおよび該システムに適した設置およびメンテナンスが容易な地下水利用熱交換設備を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願の請求項1に係る発明は、地盤中に設置し、外周部を埋め戻して揚水兼還水用の井戸を構成するケーシングに、地盤との間で地下水を出入させるための上部スクリーン部と下部スクリーン部を設けるとともに、前記ケーシング内をパッカーにより上部スクリーン部側と下部スクリーン部側とに仕切り、単一の井戸で揚水および地盤内への還水を可能とした地下水利用熱交換システムにおいて、前記ケーシングの外周の埋め戻し部分について、前記上部スクリーン部位置の上方と、前記上部スクリーン部位置と前記下部スクリーン部位置の中間に、ケーシング設置位置の地層に応じて、それぞれ遮水材を充填することで、揚水する地下水と還水される地下水の流れのショートカットを防止するようにしたことを特徴とするものである。
【0017】
ケーシング内をパッカーにより上部スクリーン部側と下部スクリーン部側とに仕切り、単一の井戸で揚水および地盤内への還水を可能とする構成は、特許文献2、3と同じであるが、本発明では地盤内の地下水の流れを考慮して、揚水される地下水と還水される地下水が地盤内で混じるのを防止している。
【0018】
本発明では、特許文献2、3が対象とする浅い井戸ではなく、通常30〜70m以上程度の大深度の井戸を想定しており、特許文献1記載の発明のように、間に粘性土などの不透水性土層を挟んで揚水および還水を行えば、揚水される地下水と還水される地下水が地盤内で混じるのが防止することができる。
【0019】
本発明では、そのような場合に限らず、一般的には同じ地層内でも若干の土質の相違により地下水が上下方向に比べ水平方向により浸透しやすいことを利用し、ケーシングの外周の埋め戻し部分についても、上部スクリーン部位置の上方と、上部スクリーン部位置と下部スクリーン部位置の中間に、ケーシング設置位置の地層に応じて、それぞれ遮水材を充填することで、それぞれ狙った狭い地層範囲からの揚水と還水が可能となり、揚水する地下水と還水される地下水の流れのショートカットをより効率的に防止できる。
【0020】
埋め戻し部分に用いる遮水材は、ベントナイトなどを含む粘土系の材料、硬化性の樹脂系材料、アスファルト系材料など、必要な遮水性が得られる材料であれば特に限定されない。
【0021】
請求項2は、請求項1に係る地下水利用熱交換システムおいて、複数のポンプの切り替えにより、前記ケーシング内の前記上部スクリーン部側から揚水し、前記下部スクリーン部側から地盤内に還水する操作と、前記下部スクリーン部側から揚水し、前記上部スクリーン部側から地盤内に還水する操作とを切り替え可能としたことを特徴とするものである。
【0022】
ケーシング内をパッカーにより上部スクリーン部側と下部スクリーン部側とに仕切り、ケーシング内の上部スクリーン部側から揚水し、下部スクリーン部側から地盤内に還水する操作と、下部スクリーン部側から揚水し、上部スクリーン部側から地盤内に還水する操作とを切り替え可能とする構成は、特許文献3と同じであり、それによって、上部スクリーン部、下部スクリーン部での目詰まりを防止することができる。
【0023】
この場合、揚水用のポンプとしては、パッカーによって仕切られる上部スクリーン部側と下部スクリーン部側のそれぞれに水中ポンプを設けることで、小型のポンプでも効率のよい、揚水および切り替えが可能となる。
【0024】
また、請求項1に関しても述べたように、本願発明では地盤内の地下水の流れを考慮して、ケーシングの外周の埋め戻し部分に遮水材を適切に配置することで、狙った狭い地層範囲からの揚水と還水が可能となり、揚水する地下水と還水される地下水の流れのショートカットを効率的に防止し、地下水利用熱交換システムとしての熱効率を向上させることができる。
【0025】
本願の請求項3に係る地下水利用熱交換設備は、請求項2記載の地下水利用熱交換システムに用いられる地下水利用熱交換設備であって、地盤中に設置されて前記揚水兼還水用の井戸を構成する、上部スクリーン部と下部スクリーン部を有するケーシングと、前記ケーシングの内側に径方向に所定の間隔をおいて配置され、前記ケーシングの上部スクリーン部と連通する通水部を有する内装管と、前記内装管の上部に設けられた上部蓋体と、前記内装管の下部に設けられ、前記ケーシング内を上部スクリーン部側と下部スクリーン部側とに仕切る下部パッカーおよびシール材と、下端に揚水用の水中ポンプを備え、前記上部蓋体を貫通し、前記内装管内より揚水するための上部揚水管と、下端に揚水用の水中ポンプを備え、前記上部蓋体および前記下部パッカーを貫通し、前記ケーシング内の下部より揚水するための下部揚水管と、前記上部蓋体に形成された上部還水孔と、前記下部パッカーに形成された下部還水孔と、前記上部蓋体を貫通し、前記下部還水孔に接続される還水管とを備えることを特徴とするものである。
【0026】
上部還水孔は、下部揚水管から揚水され熱交換に使用された水を内装管の通水部を通じて上部スクリーン部から地盤中へ還水するためのものである。
【0027】
また、下部還水孔は、上部揚水管から揚水され熱交換に使用された水を内装管より下方のケーシング内下部を通じて前記下部スクリーン部から地盤中へ還水するためのものである。
【0028】
背景技術の項で挙げた特許文献3の発明では、パッカーとしての風船状の可動式分離装置をケーシングの内面に沿って上下する構造であるため、設置やメンテナンスに手間がかかるのに対し、本発明ではケーシングの内側に挿入される内装管の下部に下部パッカーを、上部に上部蓋体を設け、これらに配管等を取り付ける構造としたため、揚水および還水の設備をユニット化することができ、ケーシング内への設置およびメンテナンスが容易である。
【0029】
また、揚水用の水中ポンプが内装管の下部パッカーの上下に配置され、これらの運転の切り替えにより、揚水経路と還水経路を逆転させ、スクリーン部における目詰まりによる性能低下を防止することができる。
【0030】
なお、上部揚水管、下部揚水管、還水管等は、金属パイプや樹脂製ホースなど用いることができる。
【0031】
また、上部還水孔、下部還水孔は、単なる孔でもよいが、パッキングを施した管あるいは接続用のソケットなどを取り付けたものでもよい。
【0032】
また、ケーシングの内側に挿入される内装管は、塩化ビニールパイプなど安価な合成樹脂製のパイプが利用でき、その場合、海岸に近く海水の影響を受けるような地盤に設置される場合でも錆などの腐食の問題もない。
【0033】
請求項4は、請求項3に係る地下水利用熱交換設備において、前記通水部は、前記内装管の管壁に形成された多数の小孔またはスリットにより形成されていることを特徴とするものである。
【0034】
この通水部はケーシングの上部スクリーン部位置近傍に設けられ、通水部と上部スクリーン部を通じて地下水の揚水、還水が行われる。
【0035】
請求項5は、請求項3または4に係る地下水利用熱交換設備において、前記上部蓋体は、前記内装管およびケーシングの上蓋を構成するものであり、前記上部揚水管、前記下部揚水管、前記上部還水孔および前記還水管の位置に接続用のソケットが設けられていることを特徴とするものである。
【0036】
請求項5は、上部蓋体がケーシング部分の蓋も兼ねた場合である。なお、上部蓋体を内装管のみの蓋体とする場合は、ケーシング内で内装管のみ上下させることもできる。
【0037】
請求項6は、請求項3、4または5に係る地下水利用熱交換設備において、前記下部パッカーは、前記内装管の下蓋を構成するものであり、前記下部揚水管および前記下部還水孔の位置に接続用のソケットが設けられていることを特徴とするものである。
【0038】
本発明は、特許文献1〜3記載の発明のように、直接、ケーシングを上下に区画するのではなく、内装管の内外で区画される構成であることから、ユニット化が容易となっている。
【0039】
また、ソケットを設けておくことで、ユニットとしての組み立てが容易となる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の地下水利用熱交換設備によれば、ケーシングの外周の埋め戻し部分について、上部スクリーン部位置の上方と、上部スクリーン部位置と下部スクリーン部位置の中間に、ケーシング設置位置の地層に応じて、それぞれ遮水材を充填することで、揚水する地下水と還水される地下水の流れのショートカットを効率的に防止し、高い熱効率を維持することができる。
【0041】
本発明の地下水利用熱交換設備によれば、ケーシング内に挿入される内装管とその上下に位置する上部蓋体および下部パッカー、配管等を1つのユニットとして組み立てることができ、ケーシング内への設置やメンテナンスにおける取り扱いが容易である。
【0042】
また、内装管には安価な合成樹脂製のパイプを用いることもでき、その場合、海水などに対する耐性にも優れる。
【0043】
揚水用の水中ポンプが内装管の下部パッカーの上下に配置され、これらの運転の切り替えにより、揚水経路と還水経路を逆転させ、スクリーン部における目詰まりによる性能低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態を示したもので、(a)は本発明の地下水利用熱交換システムおよび地下水利用熱交換設備の一実施形態を示す鉛直断面図、(b)は適用地盤の地質柱状図である。
【図2】図1の実施形態における上部蓋体の一例を示したもので、(a)は平面図、(b)は部分断面図である。
【図3】図1の実施形態における下部パッカーの一例を示したもので、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0046】
図1〜図3は、本発明の一実施形態を示したもので、図1は本発明の地下水利用熱交換システムが適用される地盤の地質柱状図との関係で、地下水利用熱交換設備の全体構造(地上の配管および建物の空調設備などは、従来の地下水利用熱交換設備の場合と特に異なるところがないため、省略する)を示したもので、図2はその上部蓋体部分、図3は下部パッカー部分の詳細を示したものである。
【0047】
地盤中に設置されて井戸を構成するケーシング1には、前述した特許文献1〜3記載の発明と同様に、揚水および還水の際に、地盤との間で地下水を通過させるための上部スクリーン部2と下部スクリーン部3が形成されている。
【0048】
本実施形態では、このケーシング1の内側に、内装管11が径方向に所定の間隔をおいて配置されている。内装管11の管壁にはケーシング1の上部スクリーン部2位置の近傍に対応する位置に、多数の小孔13あるいはスリットなどからなる通水部12が形成されており、通水部12とケーシング1の上部スクリーン部2を通じて地下水の揚水、還水が行われる。
【0049】
内装管11の上部には、内装管11およびケーシング1の上蓋を構成する上部蓋体21が取り付けられている。この上部蓋体21の下面側には、後述する上部揚水管41、下部揚水管51、上部還水孔61および還水管81の位置に接続用のソケット22が設けられている。また、後述する上下の水中ポンプ42、52のケーブルなどを通すためのパッキンを施したケーブル用孔25が設けられている。
【0050】
また、上部蓋体21の上面側には、地上の配管と接続するための接続用フランジ24を有する接続口23が設けられ、地上の配管の端部に設けられた接続用フランジ(図示せず)と上部蓋体21の接続用フランジ24をボルトで接続できるようになっている。
【0051】
内装管11の下部には、下部パッカー31が取り付けられている。この下部パッカー31には、後述する下部揚水管51および下部還水孔71に接続される還水管81位置に接続用のソケット32が設けられている。また、後述する下側の水中ポンプ52のケーブルなどを通すためのパッキンを施したケーブル用孔35が設けられている。
【0052】
また、内装管11の下部の外周面には、ケーシング1の内面との間にシール材35を介在させることで、ケーシング1内を上部スクリーン部2側と下部スクリーン部3側とに仕切っている。
【0053】
このような構成において、上部揚水管41の下端に取り付けられた水中ポンプ42を作動させることで、ケーシング1の上部スクリーン部2および内装管11の通水部12を通じて内装管11内に取り込まれた地下水(1年を通じて温度変化が少なく、夏は気温に比べ冷たく、冬は気温に比べ暖かい)が上部揚水管41から揚水され、地上の配管(図示せず)を通じて建物の空調等に利用される。
【0054】
一方、建物の空調等に利用された地下水は、内装管11を貫通し、下部還水孔71に接続された還水管81を通じて、内装管11の下方に還水され、ケーシング1の下部スクリーン部3より地盤に戻される。
【0055】
また、下部揚水管51の下端に取り付けられた水中ポンプ52を作動させると、ケーシング1の下部スクリーン部3を通じて地下水が下部揚水管51から揚水され、地上の配管(図示せず)を通じて建物の空調等に利用される。
【0056】
一方、建物の空調等に利用された地下水は、上部蓋体21に設けられた上部還水孔61より内装管11内に入り、内装管11の通水部12およびケーシング1の上部スクリーン部2を通じて地盤に戻される。
【0057】
これら上下の水中ポンプ42、52の切り替えにより、ケーシング1の上部スクリーン部2、下部スクリーン部3を通過する地下水の流れが反転し、目詰まりを防止することができる。
【0058】
ケーシング1の上部スクリーン部2、下部スクリーン部3の位置は、例えば図1(b)に示される現位置の地質(地層)に応じて、揚水する地下水と還水される地下水が混じりにくいように決められる。
【0059】
さらに、ケーシング1の外周の埋め戻し部分については、上部スクリーン部2位置の上方と、上部スクリーン部2位置と下部スクリーン部3位置の間に、それぞれ遮水材i1、i2(例えば、ベントナイト等の粘土系材料、樹脂系の止水材など)を充填している。
【0060】
すなわち、課題を解決するための手段の項で述べたように、本発明は、通常30〜70m以上程度の大深度の井戸を想定しており、間に粘性土などの不透水性土層を挟む場合に限らず、一般的には同じ地層内でも若干の土質の相違により地下水が上下方向に比べ水平方向により浸透しやすいことを利用し、ケーシング1の外周の埋め戻し部分について、上部スクリーン部2位置の上方と、上部スクリーン部2位置と下部スクリーン部3位置の中間に、ケーシング1設置位置の地層に応じて、それぞれ遮水材i1、i2を充填することで、揚水する地下水と還水される地下水の流れのショートカットをより効率的に防止し、高い熱効率を維持できるようにしている。
【0061】
なお、本実施形態では、遮水材i2の下方には充填砂利g2を、遮水材i1と遮水材i2充の間には充填砂利g1を充填し、遮水材i1の上方には充填砂sを充填しているが、これらもケーシング1が設置される地盤の地質などに応じて選択的に用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1…ケーシング、2…上部スクリーン部、3…下部スクリーン部、
11…内装管、12…通水部、13…小孔、
21…上部蓋体、22…ソケット、23…接続口、24…接続用フランジ、25…ケーブル用孔、
31…下部パッカー、32…ソケット、35…ケーブル用孔、36…シール材、
41…上部揚水管、42…水中ポンプ、
51…下部揚水管、52…水中ポンプ、
61…上部還水孔、
71…下部還水孔、
81…還水管、
s…充填砂、
1、g2…充填砂利、
1、i2…遮水材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に設置し、外周部を埋め戻して揚水兼還水用の井戸を構成するケーシングに、地盤との間で地下水を出入させるための上部スクリーン部と下部スクリーン部を設けるとともに、前記ケーシング内をパッカーにより上部スクリーン部側と下部スクリーン部側とに仕切り、単一の井戸で揚水および地盤内への還水を可能とした地下水利用熱交換システムにおいて、前記ケーシングの外周の埋め戻し部分について、前記上部スクリーン部位置の上方と、前記上部スクリーン部位置と前記下部スクリーン部位置の中間に、ケーシング設置位置の地層に応じて、それぞれ遮水材を充填することで、揚水する地下水と還水される地下水の流れのショートカットを防止するようにしたことを特徴とする地下水利用熱交換システム。
【請求項2】
複数のポンプの切り替えにより、前記ケーシング内の前記上部スクリーン部側から揚水し、前記下部スクリーン部側から地盤内に還水する操作と、前記下部スクリーン部側から揚水し、前記上部スクリーン部側から地盤内に還水する操作とを切り替え可能としたことを特徴とする請求項1記載の地下水利用熱交換システム。
【請求項3】
請求項2記載の地下水利用熱交換システムに用いられる地下水利用熱交換設備であって、
地盤中に設置されて前記揚水兼還水用の井戸を構成する、上部スクリーン部と下部スクリーン部を有するケーシングと、
前記ケーシングの内側に径方向に所定の間隔をおいて配置され、前記ケーシングの上部スクリーン部と連通する通水部を有する内装管と、
前記内装管の上部に設けられた上部蓋体と、
前記内装管の下部に設けられ、前記ケーシング内を上部スクリーン部側と下部スクリーン部側とに仕切る下部パッカーおよびシール材と、
下端に揚水用の水中ポンプを備え、前記上部蓋体を貫通し、前記内装管内より揚水するための上部揚水管と、
下端に揚水用の水中ポンプを備え、前記上部蓋体および前記下部パッカーを貫通し、前記ケーシング内の下部より揚水するための下部揚水管と、
前記上部蓋体に形成された上部還水孔と、
前記下部パッカーに形成された下部還水孔と、
前記上部蓋体を貫通し、前記下部還水孔に接続される還水管と、
を備えることを特徴とする地下水利用熱交換設備。
【請求項4】
前記通水部は、前記内装管の管壁に形成された多数の小孔またはスリットにより形成されていることを特徴とする請求項3記載の地下水利用熱交換設備。
【請求項5】
前記上部蓋体は、前記内装管およびケーシングの上蓋を構成するものであり、前記上部揚水管、前記下部揚水管、前記上部還水孔および前記還水管の位置に接続用のソケットが設けられていることを特徴とする請求項3または4記載の地下水利用熱交換設備。
【請求項6】
前記下部パッカーは、前記内装管の下蓋を構成するものであり、前記下部揚水管および前記下部還水孔の位置に接続用のソケットが設けられていることを特徴とする請求項3、4または5記載の地下水利用熱交換設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−87976(P2012−87976A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234167(P2010−234167)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(592040826)住友不動産株式会社 (94)
【Fターム(参考)】