説明

地中熱交換装置及びその設置方法

【課題】 本発明は、以上の点に鑑み、場所打ちコンクリート拡底杭に熱交換チューブを好適に設置することができる地中熱交換装置を提供する。
【解決手段】地中熱交換装置1は、場所打ちコンクリート拡底杭に設置され、熱媒体を介して地盤と熱交換を行う。地中熱交換装置1は、熱媒体が内部を循環し、鉛直方向に延びて、下端部がU字状に折り返され、屈曲可能な可撓部2aを有する複数の熱交換チューブ2と、複数の熱交換チューブ2が取り付けられ、場所打ちコンクリート拡底杭3の軸部の設計径Db1以上の外径を有するリング状の位置決めリング5と、各熱交換チューブ2の下端部に一端がそれぞれ回動自在に連結され、水平状に展開可能な複数の開脚部材7を有する開脚機構6とを備える。開脚部材7が水平状に展開したときの開脚機構の開脚半径が場所打ちコンクリート拡底杭3の底面の設計半径を超える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、場所打ちコンクリート拡底杭に設置される地中熱交換装置及びその設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中温度は、深度が10m以上になると、年間を通してほぼ一定であり、地上温度よりも夏季は低く、冬季は高い。そこで、従来から、地中温度と地上温度との温度差を利用して、地中熱を建築物の空調などに利用する地中熱交換システムが実現されており、省エネルギー化や都市のヒートアイランド現象の緩和に有効であるため、普及が期待されている。
【0003】
一般的な大型建築物に設置される地中熱交換システムでは、基礎下に地中深く埋め込まれる鋼管杭やPC杭の中空部に熱交換チューブを組み込み、熱交換チューブ内を循環する熱媒体から地中熱を建築物内に設置された熱交換装置によって地上に取り出している。
【0004】
しかし、高層建築物の場合、場所打ちコンクリート杭が用いられることが多い。場所打ちコンクリート杭は全断面で建築物の重量を支えており、内部に熱交換チューブを組み込んだ場合、その部分が断面欠損になる。また、掘削孔にコンクリートを打設するまで形状が確定せず、熱交換チューブの設置は困難である。
【0005】
そこで、特許文献1には、場所打ちコンクリート杭の中央付近に熱交換チューブを設置する場合、杭の設計強度を熱交換チューブより外周側部分で持たせるように設計することが記載されている。しかし、熱交換チューブより内側部分の杭の耐力を無視して設計するため、杭径が大きくなる。
【0006】
そして、特許文献2には、杭鉄筋かごの外周に設置される偏心防止スペーサに取り付けることにより、場所打ちコンクリート杭の設計径と掘削径との間に熱交換チューブを設置することが記載されている。この場合、設計上の杭体の外側に熱交換チューブを設置するので、場所打ちコンクリート杭の耐力は低下せず、杭径を大きくする必要はなく、また、熱交換チューブの設置も比較的容易である。
【0007】
なお、近年、杭1本当たりの支持力を大きくするため、杭の底部を軸部より拡げた拡底杭が多用されている。拡底杭の底部の底面積が大きく、地盤反力を有効に利用することができるため、同じ反力が得られる通常の杭と比較して、コンクリート量の節減、掘削土砂排出量の低減、工期の短縮を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3886469号公報
【特許文献2】特許第4229436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、場所打ちコンクリート杭が拡底杭の場合、特許文献2に記載のように、熱交換チューブを杭鉄筋かごに沿って設置した場合、拡底部まで杭鉄筋に沿って熱交換チューブを設置すると断面欠損になり、拡底部を設けても地盤反力を有効に利用することができないという問題がある。また、熱交換チューブを拡底部より上方のみに設置すると、深度の深い地中に熱交換チューブを埋設することができず、熱交換効率が劣るという問題がある。
【0010】
本発明は、以上の点に鑑み、場所打ちコンクリート拡底杭に熱交換チューブを好適に設置することができる地中熱交換装置及びその設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の地中熱交換装置は、建築物の基礎となる場所打ちコンクリート拡底杭に設置され、熱媒体を介して地盤と熱交換を行う地中熱交換装置であって、前記熱媒体が内部を循環し、鉛直方向に延びて、下端部がU字状に折り返され、屈曲可能な可撓部を有する複数の熱交換チューブと、前記複数の熱交換チューブが取り付けられ、前記場所打ちコンクリート拡底杭の軸部の設計径以上の外径を有するリング状の位置決めリングと、前記各熱交換チューブの下端部に一端がそれぞれ回動自在に連結され、水平状に展開可能な複数の開脚部材を有する開脚機構とを備え、前記開脚部材が水平状に展開したときの前記開脚機構の開脚半径が前記場所打ちコンクリート拡底杭の底面の設計半径を超えることを特徴とする。
【0012】
本発明の地中熱交換装置によれば、開脚機構の開脚半径が場所打ちコンクリート拡底杭の底面の設計半径を超えるので、開脚機構が水平状に展開して掘削孔の底面に接地した状態で、熱交換チューブは場所打ちコンクリート拡底杭の底面の設計径の外側に位置する。そして、場所打ちコンクリート拡底杭の軸部の設計径以上の外径を有する位置決めリングに取り付けられるので、熱交換チューブは場所打ちコンクリート拡底杭の軸部の設計径の外側に位置する。そのため、熱交換チューブを設置しても、拡底部を含めて場所打ちコンクリート拡底杭には断面欠損は生じず、拡底部の地盤反力を有効に利用することができる。
【0013】
また、位置決めリングに取り付けられると共に、掘削孔の底面に接地して水平状に展開した開脚機構の開脚部材の一端に下端部が連結された状態で熱交換チューブが掘削孔内に設置される。そのため、熱交換チューブは掘削孔内に安定して設置され、コンクリートの打設前に形状が確定する。よって、熱交換チューブを、容易、確実、且つ安定的に場所打ちコンクリート拡底杭内の適切な位置に設置することができる。さらに、熱交換チューブが深度の深い地中に埋設されるので、熱交換効率が優れたものとなる。
【0014】
なお、熱交換チューブを掘削孔の壁面に接触することなく、適切な位置に設置するためには、可撓部を適切な範囲に設ける必要がある。具体的には、前記場所打ちコンクリート拡底杭の拡底部の鉛直高さから、前記熱交換チューブに吊下げられた状態での前記開脚機構の鉛直高さを差し引いた長さだけ前記熱交換チューブの下端部から離れた位置を下端とし、前記場所打ちコンクリート拡底杭の拡底部の傾斜面の長さだけ前記熱交換チューブの下端部から離れた位置を上端とする範囲に、前記可撓部を少なくとも設けることが必要となる。
【0015】
また、熱交換チューブ全体が可撓部となるものとしてもよい。この場合も、開脚部材が水平状に展開することにより、位置決めリングの取り付け箇所より下方部分の熱交換チューブが外方向に屈曲することになる。
【0016】
本発明の地中熱交換装置において、前記開脚機構は、前記各開脚部材の他端が周方向に等間隔にそれぞれ回動自在に連結された中心部材を有し、前記開脚部材の前記熱交換チューブとの連結点と前記中心部材との連結点との間との距離と、前記中心部材の中心と前記開脚部材と中心部材との連結点との間の距離との和が前記場所打ちコンクリート拡底杭の底面の設計半径を超えることが好ましい。これにより、中心部材の中心と開脚部材と中心部材との連結点との距離を大きくするほど、可撓部を設ける範囲を少なくすることができる。
【0017】
さらに、この場合、前記中心部材の中心から外端まで距離が前記位置決めリングの外径以下であることが好ましい。これにより、地中熱交換装置を掘削孔に挿入して下降させるとき、中心部材と掘削孔の軸部の壁面とが接触するおそれ、及び開脚部材が中心側に倒れ込むおそれを確実に防止することができる。
【0018】
本発明の地中熱交換装置の設置方法は、建築物の基礎となる場所打ちコンクリート拡底杭を打設するために掘削した掘削孔に、熱媒体を介して地盤との熱交換を行う地中熱交換装置を設置する方法であって、前記地中熱交換装置は、前記熱媒体が内部を循環し、屈曲可能な可撓部を有する複数の熱交換チューブと、前記場所打ちコンクリート拡底杭の軸部の設計径以上の外径を有するリング状の位置決めリングと、外方向に傾動可能に連結された複数の開脚部材を有する開脚機構とを備え、下端部でU字状に折り返されて鉛直方向に延びる前記複数の熱交換チューブを、前記位置決めリングに、該位置決めリングの中心を中心として点対称となるように取り付け、前記複数の開脚部材の一端に、前記各熱交換チューブの下端部をそれぞれ回動自在に連結し、前記地中熱交換装置を、前記位置決めリングの中心と前記開脚機構の開脚中心とを前記掘削孔の中心鉛直軸に一致させながら下ろして、前記開脚機構を前記掘削孔の底面に接地させて前記複数の開脚部材を水平状に展開させることを特徴とする。
【0019】
本発明の地中熱交換装置の設置方法によれば、位置決めリングの中心と開脚機構の開脚中心とを掘削孔の中心鉛直軸に一致させながら下ろして、開脚機構を掘削孔の底面に接地させて複数の開脚部材を水平状に展開させるので、本発明の地中熱交換装置を所定の設定位置に、掘削孔の壁面に接触させることなく設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る地中熱交換装置が設置された場所打ちコンクリート拡底杭を示す模式縦断側面図。
【図2】掘削孔内に地中熱交換装置を吊下げた状態を示す模式縦断側面図。
【図3】図2のIII−III線における模式矢視断面図。
【図4】図2のIV−IV線における模式矢視断面図。
【図5】掘削孔内に地中熱交換装置を設置した状態を示す模式縦断側面図。
【図6】図5のVI−VI線における矢視模式断面図。。
【図7】掘削孔内に杭鉄筋かごを設置した状態を示す模式縦断側面図。
【図8】掘削孔内に本発明の一実施形態の変形に係る地中熱交換装置を吊下げた状態を示す模式縦断側面図。
【図9】図8のIX−IX線における模式矢視断面図。
【図10】掘削孔内に地中熱交換装置を設置した状態を示す模式縦断側面図。
【図11】図10のXI−XI線における模式矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る地中熱交換装置1について説明する。図1に示すように、地中熱交換装置1は、内部を熱媒体が循環する熱交換チューブ2を、高層建築物などの基礎となる場所打ちコンクリート拡底杭3(以下、単に「拡底杭3」ともいう)に設置するためのものである。
【0022】
地中熱交換装置1は、図示しないが、熱媒体を循環させるポンプや送風機などの熱媒体循環手段、熱交換チューブに接続され、熱交換チューブと共に熱媒体の循環路を形成する管路、空調用、給湯用、融雪用等の熱交換装置など、建築物内に設置される構成部材と共に、地中熱交換システムを構成する。熱交換装置は、壁、床、天井、屋根などに設置される。また、必要に応じて、地中を通ってきた熱媒体をさらに加熱するために、ボイラーやヒートポンプなどを地中熱交換システムに組み入れてもよい。熱媒体として、例えば、水、オイル、不凍液、空気を用いることができる。
【0023】
地中熱交換システムは、熱媒体循環手段を作動させ、熱媒体を循環させることにより、熱交換装置で熱の授受を行うと共に、熱交換チューブ2の内部の熱媒体と周囲の地中との間で熱の授受を行う。このような熱交換システムの作動により、例えば、夏季には地上温度より十分に低い地中温度で冷やされた熱媒体を介して建築物内の空気が冷やされ、冬季には地上温度より十分に高い地中温度で暖められた熱媒体を介して建築物内の空気が暖められることにより、建築物内の空調が行われる。
【0024】
拡底杭3は、底部4aが軸部4bより拡大された掘削孔4にコンクリートを流し込むことにより形成される。図2に示すように、掘削孔4は、例えば100mm程度の施工代αだけ、設計杭径より大きく掘削されている。具体的には、拡底杭3の底面の設計径Da1よりも掘削孔4の底面の径Da2は2αだけ大きく、拡底杭3の軸部の設計径Db1よりも掘削孔4の軸部4bの径Db2は2αだけ大きくなっている。なお、掘削孔4は、例えば、リバースサーキュレーションドリルで掘削するリバースサーキュレーション工法や、ドリリングバケットで掘削するアースドリル工法などの適宜な工法で掘削すればよい。
【0025】
地中熱交換装置1は、複数の熱交換チューブ2、位置決めリング5、及び開脚機構6を備えている。
【0026】
各熱交換チューブ2は、鉛直方向に延びて、下端部がU字状に折り返されて連なる一対の管状部材からなる。熱交換チューブ2は、地中のコンクリート内でも酸化や腐食が起きず、効率的に熱交換できる材料、例えば、ポリエチレンなどの樹脂、ステンレス鋼、銅、アルミニウムなどの金属から形成されている。熱交換チューブ2の内径や厚みは、拡底杭3の大きさ、使用態様などに合わせて適宜選択すればよい。
【0027】
熱交換チューブ2は、鉛直方向の所定範囲に屈曲可能な可撓部2aを有している。可撓部2aは、弾性変形可能に形成されており、管壁形状が長さ方向に波型をした蛇腹状としたフレキシブルチューブとすることが好ましい。
【0028】
図2及び図3に示すように、位置決めリング5は、複数の熱交換チューブ2の中間部が取り付けられるリング状の枠材である。位置決めリング5は、その内径が拡底杭3の軸部の設計径Db1を超え、その外径が掘削孔4の軸部4aの径Db2よりも小さい。なお、位置決めリング5の内径は、拡底杭3の軸部の設計径Db1と一致していてもよい。各熱交換チューブ2は、詳細は図示しないが、一対毎に樹脂製や金属製のバンドやクランプ又は針金などを用いて、位置決めリング5の中心O1を中心に点対称に取り付けられる。
【0029】
なお、位置決めリング5の内側に熱交換チューブ2を取り付けてもよいが、掘削孔4内に挿入することを考慮すると、最外殻部がなるべく小さくなるように、位置決めリング5の外側に熱交換チューブ2を取り付けることが好ましい。
【0030】
位置決めリング5は、拡底杭3の高さなどに応じて、1又は複数設けられる。位置決めリング5の設置高さは限定されないが、地中熱交換装置1が拡底杭3に設置されたとき、拡底杭3の拡底部の設計径内に位置決めリング5が位置しないように設定される。熱交換チューブ2の位置安定のため、可撓部2aの上方の近傍に位置決めリング5を取り付けることが好ましい。熱交換チューブ2の可撓部2aを位置決めリンク5に取り付けてもよい。
【0031】
図2及び図4に示すように、開脚機構6は、熱交換チューブ2の下端部にそれぞれの一端が回動自在に連結された複数の開脚部材7を有する。そして、開脚部材7は、例えばピンを用いて、連結点O2にて互いに回動自在に連結されている。これにより、開脚機構6は、連結点O2を中心に、開脚部材7が開脚して水平状に展開可能となっている。
【0032】
開脚部材7は、ここでは棒状の剛性部材であり、その一端が、熱交換チューブ2の下端部に連結されている。例えば、樹脂製や金属製のバンドやクランプ又は針金などを用いて、熱交換チューブ2のU字状部分に開脚部材7の一端が連結されている。これにより、熱交換チューブ2と開脚部材7とは連結点Pにて回動自在に連結されている。なお、開脚部材7は、棒状に限定されず、板状などであってもよい。
【0033】
開脚機構6は、地中熱交換装置1を掘削孔4内に吊下げながら下降させている間、中心O2を下端としてすぼめた傘のように閉じた状態であるが、中心Oが掘削孔4の底面に接地すると、図5に示すように、熱交換チューブ2が下降するに伴い、各開脚部材7が中心O2を中心に外方向に傾きながら開いていく。地中熱交換装置1が所定の設定位置まで下降したとき、各開脚部材7が水平状に完全に開いて掘削孔4の底面に接地した状態となる。
【0034】
このとき、図6に示すように、各開脚部材7と熱交換チューブ2との連結点Pは、拡底杭3の底面の設計径Da1の外側、且つ、掘削孔4の底面の径Da2より内側に位置している。即ち、開脚機構6の開脚半径である連結点O2と連結点Pとの間の距離Lは、次の式(1)の関係を満たす。
【0035】
Da1<2・L<Da2 ・・・(1)
これにより、熱交換チューブ2の下端部は、拡底杭3の底面の設計径Da1の外側、且つ、掘削孔4の底面の径Da2より内側に位置することになる。
【0036】
なお、地中熱交換装置1を下降させている間、中心O2が掘削孔4の底面に接地するまでは、熱交換チューブ2は可撓部2aを含めて鉛直方向に直線状となっている。中心O2が掘削孔4の底面に接地した後、開脚部材7が開脚するに伴い、熱交換チューブ2の可撓部2aは外方向に徐々に屈曲する。
【0037】
そして、各開脚部材7が水平状に完全に開いたとき、熱交換チューブ2の下部は、拡底部4aの傾斜面に略平行に設置され、拡底杭3の拡底部の設計径の外側、且つ、掘削孔4の拡底部4aの壁面より内側に位置することになる。
【0038】
なお、このように熱交換チューブ2を掘削孔4の壁面に接触させることなく適切な位置に設置するためには、可撓部2aを適切な範囲に設ける必要がある。可撓部2aの最小長さは、掘削孔4の拡底部4aの径Da2と軸部4bの径Db2の差によって定まり、差が大きいほど長くなる。
【0039】
具体的には、図5に示すように、中心O2が掘削孔4の底面に接地した後に可撓部2aが屈曲を開始する必要があるので、可撓部2aの下端は、掘削孔4の拡底部4aの鉛直高さH1から、熱交換チューブ2に吊下げられた状態での開脚機構6の鉛直高さH2を差し引いた長さだけ離れた位置より、少なくとも熱交換チューブ2の下端部に近いことが必要となる。そして、各開脚部材7が水平状に完全に開いたときに可撓部2aが掘削孔4の拡底部4aと軸部4bとの境界に位置する必要があるので、可撓部2aの上端は、掘削孔4の拡底部4aの傾斜面の長さSだけ、少なくとも熱交換チューブ2の下端部から離れる必要がある。
【0040】
以下、地中熱交換装置1を場所打ちコンクリート拡底杭3に設置するための、本発明の一実施形態に係る地中熱交換装置の設置方法について説明する。
【0041】
まず、図2に示すように、適宜な工法で、拡底部4aを備えた掘削孔4を掘削する。
【0042】
そして、下端部でU字状に折り返して鉛直方向に延ばした複数の熱交換チューブ2を、位置決めリング5の中心O1を中心として点対称となるように、位置決めリング5の外周に取り付ける。さらに、各開脚部材7の一端に、各熱交換チューブ2の下端部をそれぞれ回動自在に連結させて、地中熱交換装置1を完成させる。
【0043】
そして、揚重機などによって地中熱交換装置1を吊上げ、位置決めリング5の中心O1と開脚機構6の開脚中心O2とを掘削孔4の中心鉛直軸CLに一致させた状態を保ちながら徐々に下降させる。
【0044】
そして、地中熱交換装置1を所定の設定位置まで下降させ、開脚機構6を掘削孔4の底面に接地させて、各開脚部材7を水平状に完全に展開させる。そして、この状態で地中熱交換装置1を掘削孔4に対して、図示しない手段により仮固定する。これにより、上述したように、熱交換チューブ2は、拡底杭3の設計径と掘削孔4の壁面との間に設置される。
【0045】
その後、図7に示すように、杭鉄筋かご8を挿入して掘削孔4内に設置する。
【0046】
そして、図1に示すように、地中熱交換装置1及び杭鉄筋かご8が設置された掘削孔4にコンクリートを打設して、場所打ちコンクリート拡底杭3を形成する。これにより、所定の設定位置に地熱交換装置1が固定され、熱交換チューブ2が拡底杭3内に安定的に設置される。
【0047】
上述したように、開脚機構6が水平状に展開して掘削孔4の底面に接地した状態で、熱交換チューブ2は拡底杭3の設計径の外側に、拡底杭3の外周面に沿って略平行に設置される。そのため、熱交換チューブ2を設置しても拡底部を含めて拡底杭3に断面欠損は生じず、拡底部の地盤反力を有効に利用することができるので、杭径を大きくする必要がない。
【0048】
また、地中熱交換装置1を設定位置まで下降させて仮固定することにより、熱交換チューブ2を拡底杭3の設計径と掘削孔4の壁面との間に確実に設置することができる。
【0049】
また、位置決めリング5に中間部が取り付けられると共に、掘削孔4の底面に接地して水平状に展開した開脚部材7の一端に下端部が連結された状態で、熱交換チューブ2が掘削孔4内に設置される。そのため、熱交換チューブ2は掘削孔4内に安定して設置され、コンクリートの打設前に形状が確定する。よって、熱交換チューブ2を、容易、確実、且つ安定的に場所打ちコンクリート拡底杭3内の適切な位置に設置することができる。
【0050】
また、熱交換チューブ2が拡底杭3の拡底部の外側に設置されるので、熱交換チューブ2が深度の深い地中に埋設され、熱交換効率が優れたものとなる。また、掘削孔4の壁面、即ち地盤に近い位置に熱交換チューブ2が設置されるので、熱交換効率が優れたものとなる。
【0051】
以下、本発明の一実施形態に変形に係る地中熱交換装置1Aについて説明する。図8及び図9に示すように、地中熱交換装置1Aは、上述した地中熱交換装置1と比較して、開脚機構6Aのみが異なる。
【0052】
開脚機構6Aは、熱交換チューブ2の下端部にそれぞれの一端が回動自在に連結された複数の開脚部材9と、各開脚部材9の他端が周方向に等間隔にそれぞれ回動自在に連結された中心部材10とを有する。
【0053】
開脚部材9は、ここでは棒状であり、その一端が、熱交換チューブ2の下端部に連結されている。例えば、樹脂製や金属製のバンドやクランプ又は針金を用いて、熱交換チューブ2のU字状部分を開脚部材9の一端に連結している。これにより、熱交換チューブ2と開脚部材9とは連結点P1にて回動自在に連結されている。なお、開脚部材9は、棒状に限定されず、板状などであってもよい。
【0054】
中心部材10は、ここでは円板状であり、その中心O3を中心に周方向に等間隔に位置する連結点P1に、各開脚部材9の他端が連結されている。例えばピンを用いて、開脚部材9と中心部材10とは、連結点P2にて回動自在に連結されている。なお、中心部材10は円板状に限定されず、四角形板等の多角形板や星型板などであってでもよく、さらには板状に限定されず、リング状などであってもよい。
【0055】
開脚機構6Aは、地中熱交換装置1Aを掘削孔4に吊下げながら下降させている間、中心部材10を下端としてすぼめた傘のように閉じた状態であるが、中心部材10が掘削孔4の底面に接地すると、図10に示すように、熱交換チューブ2が下降するに伴い、各開脚部材9が中心部材10を中心に外方向に傾きながら開いていく。地中熱交換装置1Aが所定の設定位置まで下降したとき、各開脚部材9が水平状に完全に開いて、開脚部材9が掘削孔4の底面に接地した状態となる。
【0056】
このとき、図11に示すように、各開脚部材9と熱交換チューブ2との連結点P1は、拡底杭3の底面の設計径Da1の外側、且つ、掘削孔4の底面の径Da2より内側に位置している。即ち、開脚機構6の開脚半径である中心O3と連結点Pとの間の距離Lは、開脚部材9の長さL1(=連結点P1と連結点P2との間の距離)と中心部材10の半径r(=中心O3と連結点P2との間の距離)の和となり、上述した式(1)の関係を満たすので、次の式(2)の関係を満たす。
【0057】
Da1<2・(L1+R)<Da2 ・・・(2)
これにより、熱交換チューブ2の下端部は、拡底杭3の底面の設計径Da1の外側、且つ、掘削孔4の底面の径Da2より内側に位置することになる。
【0058】
なお、地中熱交換装置1Aを下降させている間、中心部材10と掘削孔4の軸部4bの壁面が接触することを防止するためには、中心部材10の中心O3から外端までの距離rが軸部4bの径Db2の半分未満とする必要がある。そして、開脚部材9が中心側に倒れ込むおそれを確実に防止するために、余裕をとって、中心部材10の中心O3から外端まで距離rが位置決めリング5の外径以下、さらには拡底杭3の軸部の設計径Db1以下であることが好ましい。
【0059】
また、地中熱交換装置1Aを下降させている間、中心部材10が掘削孔4の底面に接地するまでは、熱交換チューブ2は可撓部2aを含めて鉛直方向に直線状となっている。中心部材10が掘削孔4の底面に接地した後、開脚部材9が開脚するに伴い、熱交換チューブ2は可撓部2aが外方向に徐々に屈曲する。
【0060】
そして、各開脚部材9が水平状に完全に開いたとき、熱交換チューブ2の下部は、拡底部4aの傾斜面に略平行に設置され、拡底杭3の拡底部の設計径の外側、且つ、掘削孔4の拡底部4aの壁面より内側に位置することになる。
【0061】
なお、このように熱交換チューブ2を掘削孔4の壁面に接触することなく適切な位置に設置するためには、可撓部2aを適切な範囲に設ける必要がある。可撓部2aの最小長さは、掘削孔4の拡底部4aの径Da2と軸部4bの径Db2の差、及び中心部材10の半径Rによって定まり、差が大きいほど、半径rが小さいほど長くなる。
【0062】
具体的には、図8に示すように、中心部材10が掘削孔4の底面に接地した後に可撓部2aが屈曲を開始する必要があるので、可撓部2aの下端は、掘削孔4の拡底部4aの鉛直高さH1から、熱交換チューブ2に吊下げられた状態での開脚機構6Aの鉛直高さH3を差し引いた長さだけ離れた位置より、少なくとも熱交換チューブ2の下端部に近いことが必要となる。
【0063】
そして、各開脚部材9が完全に水平状に開いたときに可撓部2aが掘削孔4の拡底部4aと軸部4bとの境界に位置する必要があるので、可撓部2aの上端は、掘削孔4の拡底部4aの傾斜面の長さSだけ、少なくとも熱交換チューブ2の下端部から離れる必要がある。
【0064】
図5と図8を比較して明らかなように、熱交換チューブ2に吊下げられた状態で、開脚機構6Aの鉛直高さH3は開脚機構6の鉛直高さH2より低い。よって、地中熱交換装置1に比べて、可撓部2aの下端位置を熱交換チューブ2の下端部から離すことができ、可撓部2aを設ける範囲を狭めることが可能となる。
【0065】
以下、地中熱交換装置1Aを場所打ちコンクリート拡底杭3に設置するための、本発明の一実施形態に係る地中熱交換装置の設置方法について説明する。
【0066】
まず、図8に示すように、適宜な工法で、拡底部4aを備えた掘削孔4を掘削する。
【0067】
そして、下端部でU字状に折り返して鉛直方向に延ばした複数の熱交換チューブ2を、位置決めリング5の中心O1を中心として点対称となるように、位置決めリング5の外周に取り付ける。さらに、各開脚部材9の一端に、各熱交換チューブ2の下端部をそれぞれ回動自在に連結させて、地中熱交換装置1Aを完成させる。
【0068】
そして、揚重機などによって地中熱交換装置1Aを吊上げ、位置決めリング5の中心O1と開脚機構6の開脚中心O3とを掘削孔4の中心鉛直軸CLに一致させた状態を保ちながら徐々に下降させる。
【0069】
そして、地中熱交換装置1Aを所定の設定位置まで下降させ、中心部材10を掘削孔4の底面に接地させて、各開脚部材97を水平状に展開させる。そして、この状態で地中熱交換装置1Aを、図示しない手段により仮固定する。これにより、上述したように、熱交換チューブ2は、拡底杭3の設計径と掘削孔4の壁面との間に設置される。
【0070】
その後、図示しないが、杭鉄筋かご8(図1参照)を挿入して掘削孔4内に設置する。そして、地中熱交換装置1A及び杭鉄筋かご8が設置された掘削孔4にコンクリートを打設して、場所打ちコンクリート拡底杭3(図1参照)を形成する。これにより、所定の設定位置に地熱交換装置1が固定され、熱交換チューブ2が拡底杭3内に安定的に設置される。
【0071】
地中熱交換装置1Aは、上述した地中熱交換装置1と同様の効果を奏する。さらに、中心部材10が掘削孔4の底面に接地した状態で各開脚部材9が水平状に展開していくので、開脚機構6Aの展開が確実、且つ安定的になる。
【0072】
なお、以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図面では、熱交換チューブ2が4本である場合について説明したが、熱交換チューブ2の本数はこれに限定されない。ただし、開脚機構6,6Aが安定的に開脚するためには、熱交換チューブ2は3本以上であることが好ましい。
【0073】
また、拡底部4aの径Da2と軸部4bの径Db2の差が小さい場合には、熱交換チューブ2をポリエチレン等の樹脂などから構成し、熱交換チューブ2全体が可撓部となるものとしてもよい。この場合、開脚機構6,6Aの開脚に伴い、位置決めリング5の取り付け箇所より下方部分の熱交換チューブ2が徐々に外方向に屈曲することになる。
【符号の説明】
【0074】
1,1A…地中熱交換装置、2…熱交換チューブ、3…場所打ちコンクリート拡底杭、 4…掘削孔、4a…拡底部、4b…軸部、5…位置決めリング、 6,6A…開脚機構、 7…開脚部材、 8…杭鉄筋かご、 9…開脚部材、 10…中心部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の基礎となる場所打ちコンクリート拡底杭に設置され、熱媒体を介して地盤と熱交換を行う地中熱交換装置であって、
前記熱媒体が内部を循環し、鉛直方向に延びて、下端部がU字状に折り返され、屈曲可能な可撓部を有する複数の熱交換チューブと、
前記複数の熱交換チューブが取り付けられ、前記場所打ちコンクリート拡底杭の軸部の設計径以上の外径を有するリング状の位置決めリングと、
前記各熱交換チューブの下端部に一端がそれぞれ回動自在に連結され、水平状に展開可能な複数の開脚部材を有する開脚機構とを備え、
前記開脚部材が水平状に展開したときの前記開脚機構の開脚半径が前記場所打ちコンクリート拡底杭の底面の設計半径を超えることを特徴とする地中熱交換装置。
【請求項2】
前記場所打ちコンクリート拡底杭の拡底部の鉛直高さから、前記熱交換チューブに吊下げられた状態での前記開脚機構の鉛直高さを差し引いた長さだけ前記熱交換チューブの下端部から離れた位置を下端とし、
前記場所打ちコンクリート拡底杭の拡底部の傾斜面の長さだけ前記熱交換チューブの下端部から離れた位置を上端とする範囲に、前記可撓部が少なくとも設けられていることを特徴とする請求項1に記載の地中熱交換装置。
【請求項3】
前記開脚機構は、前記各開脚部材の他端が周方向に等間隔にそれぞれ回動自在に連結された中心部材を有し、
前記開脚部材の前記熱交換チューブとの連結点と前記中心部材との連結点との間との距離と、前記中心部材の中心と前記開脚部材と中心部材との連結点との間の距離との和が前記場所打ちコンクリート拡底杭の底面の設計半径を超えることを特徴とする請求項1又は2に記載の地中熱交換装置。
【請求項4】
前記中心部材の中心から外端まで距離が前記位置決めリングの外径以下であることを特徴とする請求項3に記載の地中熱交換装置。
【請求項5】
建築物の基礎となる場所打ちコンクリート拡底杭を打設するために掘削した掘削孔に、熱媒体を介して地盤との熱交換を行う地中熱交換装置を設置する方法であって、
前記地中熱交換装置は、前記熱媒体が内部を循環し、屈曲可能な可撓部を有する複数の熱交換チューブと、前記場所打ちコンクリート拡底杭の軸部の設計径以上の外径を有するリング状の位置決めリングと、外方向に傾動可能に連結された複数の開脚部材を有する開脚機構とを備え、
下端部でU字状に折り返されて鉛直方向に延びる前記複数の熱交換チューブを、前記位置決めリングに、該位置決めリングの中心を中心として点対称となるように取り付け、
前記複数の開脚部材の一端に、前記各熱交換チューブの下端部をそれぞれ回動自在に連結し、
前記地中熱交換装置を、前記位置決めリングの中心と前記開脚機構の開脚中心とを前記掘削孔の中心鉛直軸に一致させながら下ろして、前記開脚機構を前記掘削孔の底面に接地させて前記複数の開脚部材を水平状に展開させることを特徴とする地中熱交換装置の設置方法。

【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−154521(P2012−154521A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12288(P2011−12288)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】