説明

地中熱採熱用の鋼管を設けた場所打ちコンクリート杭

【課題】場所打ちコンクリート杭において、杭内に配設される熱交換パイプ内を循環する熱媒に地中熱を効率よく伝達することができ、また、地中熱を少ないコストで効率よく活用できる方法を提供する。
【解決手段】杭内の深さ方向に地中熱交換用の熱媒を循環させるための熱交換パイプ2を配設した場所打ちコンクリート杭11において、杭外周部11aの一部に熱伝導率が高い鋼管1を設置し、鋼管1の全外周面を地盤と接触させる。熱交換パイプ2を、鋼管1の内面に接するように配設することで、熱交換パイプ2内を循環する熱媒に地中熱を効率よく伝達することができる。また、地中熱の採熱が効率よく行える特定の地層(例えば、透水層22)の深さに当たる杭外周部11aに鋼管1を設置すれば、効率的かつ経済的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中熱を効率よく活用するため、熱伝導率の高い鋼管を設けた場所打ちコンクリート杭に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の原因とされるCOの削減やヒートアイランド現象の緩和に効果のある地中熱利用技術が注目されている。この技術は、地中の温度が一年を通して変化が少ない点に着目し、地上と地中の温度差から得られる熱エネルギーを利用したものであり、建物内の冷暖房などに利用されている。
【0003】
地中熱を利用する方法には坑内熱交換型と地下水利用型があり、いずれも地中熱を採熱するための坑井が必要であるが、この坑井を掘る費用が高いことが地中熱利用技術の普及を阻害する要因となっている。このため、建物の基礎杭を坑井として利用する方法が考え出され、基礎杭の中に熱交換パイプを挿入して地中熱を採熱する基礎杭利用タイプが注目されている。
【0004】
建物の基礎杭の杭種には、コンクリート製の既成杭や鋼管杭および場所打ちコンクリート杭などがあり、それぞれの杭種に応じた地中熱利用技術が考案されている。場所打ちコンクリート杭においては、例えば、鉄筋かごに樹脂製チューブなどからなる熱交換パイプを設置し、熱交換パイプ中に水などの熱媒体を循環させて地中熱交換を行う、いわゆる坑内熱交換型が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−324913号公報
【特許文献2】特開2004−332330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、場所打ちコンクリート杭の中に熱媒体を循環させるための熱交換パイプ(樹脂製チューブなど)を鉄筋かごに沿わせて設置する方法があるが、通常、鉄筋かごの外縁は地盤から最低10cm離して施工されるため、地盤から熱交換パイプとの距離も10cm以上となり、熱伝導が悪く地中熱を有効に活用できないという課題があった。
【0007】
特許文献1では、場所打ちコンクリート杭において、螺旋状に形成された熱交換パイプが鉄筋かご及び/又は鋼管の内側に配設されている。この場合、地盤と熱交換パイプとの間には鋼管およびコンクリートが介在し、地中熱はそれらを通して伝達される。しかし、地盤から熱交換パイプまでが上記のように少なくとも10cm以上離れていると思われる特許文献1においては、コンクリートの熱伝導率が低いために、地中熱が有効に活用されていない。
【0008】
また、特許文献2では、場所打ちコンクリート杭において、熱交換パイプを基礎杭の設計杭径と掘削孔との空隙に配置し、鉄筋かごの外周に設置されている偏心防止用のスペーサーに取り付けて支持する構成が提案されている。この場合、熱交換パイプは掘削孔壁の近くに配置されるため、従来のように熱交換パイプが杭内部に配置されたものと比べて、地中熱との熱伝達は効率よく行うことができる反面、熱交換パイプを杭内に挿入する際に、熱交換パイプが掘削孔壁に接触して損傷することが考えられる。
【0009】
また、掘削孔壁と熱交換パイプとの間に小さな隙間があることから、杭施工におけるコンクリート打設においてコンクリートの充填性が悪く、掘削孔壁とコンクリートとが密着しないために、杭の設計上必要な周面摩擦力が確保されなくなることも懸念される。
【0010】
本発明は、従来技術における上述のような課題を解決するためになされたものであり、場所打ちコンクリート杭において、杭の外周部の一部に熱伝導率の高い鋼管を設けて地中熱を効率よく採熱し、鋼管の内面に熱交換パイプを配設することにより地中熱を効率よく活用できる機能を有する場所打ちコンクリート杭を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の場所打ちコンクリート杭は、杭内の深さ方向に地中熱交換用の熱媒を循環させるための熱交換パイプを配設した場所打ちコンクリート杭において、前記コンクリート杭の外周部の一部に鋼管を設置し、前記熱交換パイプが前記鋼管の内面に接するように配設してあることを特徴とするものである。
【0012】
本発明によれば、場所打ちコンクリート杭の外周部の一部に、熱伝導率の高い鋼管を設けることによって、前記鋼管の全外周面を地盤と接触させ、地盤が持つ地中熱を熱交換パイプ内の熱媒に、鋼管を介して効率よく伝達することができる。
【0013】
すなわち、場所打ちコンクリート杭の外周部の一部に地中熱採熱用の鋼管を設置し、その鋼管の内面に接するように熱交換パイプを設けることで、まず、地盤と直接接している鋼管に地中熱が伝達され、続いて鋼管と接している熱交換パイプ内を流れる熱媒に地中熱が伝達される。
【0014】
このように、場所打ちコンクリート杭の外周部の一部に設けた鋼管の内面に熱交換パイプを配設するので、地盤から熱交換パイプまでの間隔がほとんどなく、鉄筋かごなどの杭内部に熱交換パイプを配設する場合に比べて効率のよい熱伝達が期待できる。
【0015】
なお、熱交換パイプは、前記鋼管の内面に接するようにあらかじめ地上にて固定されているため、特許文献2のように、杭施工におけるコンクリート打設においてコンクリートの充填性に問題が生じることはなく、杭としての機能は十分確保される。
【0016】
さらに、杭の設計上、鋼管を場所打ちコンクリート杭の外周部の一部に設けてある、いわゆる場所打ち鋼管コンクリート杭において、その鋼管の内面に熱交換パイプを配設すれば、新たに鋼管を設ける必要が無いため、より少ないコストで地中熱を利用することができる。なお、場所打ちコンクリート杭には、場所打ち鋼管コンクリート杭を含むものとする。
【0017】
請求項2に記載の地中熱採熱用の鋼管を設けた場所打ちコンクリート杭は、請求項1記載の鋼管を設けた場所打ちコンクリート杭において、前記鋼管は、地中熱の採熱が効率よく行える、熱伝導率の高い地層または岩盤または地下水流のある透水層を含む位置に設置してあることを特徴とするものである。
【0018】
本発明によれば、場所打ちコンクリート杭の全長にわたって鋼管を使用することなく、熱伝導率の高い地層または岩盤または地下水流のある透水層など、地中熱の採熱が効率よく行える特定の地層を含む位置に熱伝導率の高い鋼管を設置することにより、従来のコンクリートに比べて地中熱を杭内に多く取り込むことができる。
【0019】
鋼管は、深さ方向に、場所打ちコンクリート杭の外周部の一部の高さ部分に設置すればよく、熱伝導率の高い地層に対して杭の外周部を鋼管にすれば、地中熱を効率的に活用することができ、経済的である。
【0020】
なお、本発明における場所打ちコンクリート杭は、地中熱採熱用の鋼管を杭の外周部の一部に配置し、地中熱を効率よく活用することを特徴とするが、それ以外の杭内の深さ方向に配設される熱交換パイプにおいても、杭体のコンクリートを介して地中熱の採熱が行われることは言うまでもない。
【0021】
請求項3に記載の地中熱採熱用の鋼管を設けた場所打ちコンクリート杭は、請求項1または2記載の鋼管を設けた場所打ちコンクリート杭において、前記熱交換パイプは、前記鋼管の内面に、鉛直方向または水平方向に1または複数回折り返して配設し、あるいは、螺旋状に配設してあることを特徴とするものである。
【0022】
鋼管の内面に設けた熱交換パイプを鉛直方向や水平方向、または螺旋状に配設することによって、鋼管内面に接する熱交換パイプの接触面積を広くとれば、杭内に取り込まれた地中熱を熱交換パイプ内の熱媒により多く伝達することができる。
【0023】
本発明によれば、請求項1および請求項2記載の鋼管を設けた場所打ちコンクリート杭において、鋼管内面に接する熱交換パイプの接触面積を広くとることにより、杭内に取り込まれた地中熱を熱交換パイプ内の熱媒により多く伝達することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以上のような構成からなるので次のような効果が得られる。
【0025】
場所打ちコンクリート杭の外周部の一部に熱伝導率の高い鋼管を設けて地中熱を効率よく採熱し、鋼管の内面に接するように熱交換パイプを1または複数本配設することにより、熱交換パイプ内を循環する熱媒に地中熱を効率的に伝達することができる。
【0026】
また、鋼管は、場所打ちコンクリート杭の深さ方向の、地中熱の採熱が効率よく行える熱伝導率の高い地層または岩盤または地下水流のある透水層など特定の位置に設置すれば、少ないコストで地中熱を効率よく活用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る地中熱採熱用の鋼管を設けた場所打ちコンクリート杭の一実施形態を概念的に示した正面図である。
【図2】図1の実施形態の断面図であり、(a)はA−A断面、(b)はB−B断面を示したものである。
【図3】図1の実施形態の鋼管内部を概念的に示した斜視図である。
【図4】本発明に係る地中熱採熱用の鋼管を設けた場所打ちコンクリート杭において、鋼管内部に熱交換パイプを鉛直方向に複数回折り返して配設した場合の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を添付した図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下に示される実施形態に限定されるものではない。
【0029】
図1は、本発明に係る鋼管1を設けた場所打ちコンクリート杭11の一実施形態を示した正面図であり、図2(a)はA−Aの断面図、図2(b)はB−B断面図である。図3には、鋼管1内部の熱交換パイプ2の配設位置を斜視図に示した。
【0030】
まず、地盤を掘削し、杭孔を設ける。熱媒を循環させるための熱交換パイプ2は、鉄筋かご12と同時に建て込むため、鉄筋かご12に接続する。
【0031】
鋼管1は、地中熱の採熱が効率よく行える特定の地層(例えば、透水層22)の深さに当たる杭外周部11aに設置されるように、鉄筋かご12と接続する。
【0032】
また、鋼管1の外径は、場所打ちコンクリート杭11の杭径Aと同じ径が施工しやすく一般的であるが、鋼管1を杭の上部において使用する場合には、鋼管1の表面積を広くして地盤との接触面積を広くすれば、地中熱を多く取り込むことができるため、杭径Aよりも大きな外径を使用しても構わない。
【0033】
鋼管1と鉄筋かご12との接続方法は、例えば、鉄筋棒や平鋼を折り曲げて製作した鋼材を用いて溶接して固定する方法や鋼材を介してボルト締めで固定する方法などがあり(図示省略)、鉄筋かご12から外れることがなく、強度面や耐久性に問題がなければ、材質や固定方法などは問わない。
【0034】
図2(a)、図3に示したように、熱交換パイプ2は、杭上端から鋼管1上端の高さまでの範囲および鋼管1の下端から杭先端までの範囲については、鉄筋かご12の外側に配設されるフープ筋に外接するように固定し、主筋13と平行になるように設置する。
【0035】
また、鋼管1を設置する深さの範囲は、図2(b)に示したように、熱交換パイプ2が鋼管1の内面に接するように配設する。
【0036】
なお、熱交換パイプ2は杭全長にわたって全範囲に設置する必要は必ずしもなく、地中熱を有効に活用するため任意の範囲において設置すればよい。
【0037】
例えば、図1に示したように、鋼管1が杭の中間の深度に設置されている場合、熱交換パイプ2は杭上端から鋼管1下端深度まで設置してもよいし、杭全長にわたって設置してもよい。
【0038】
なお、熱交換パイプ2を杭全長にわたって設置すれば採熱量は増えるものの、鋼管1より下方にある地層の熱伝導率が小さい場合には、地中熱利用全体としての効率性が低下する場合も考えられる。
【0039】
図4には、本発明に係る地中熱採熱用の鋼管1を設けた場所打ちコンクリート杭11において、鋼管1内部に熱交換パイプ2を鉛直方向に複数回折り返して配設した場合の斜視図を示した。
【0040】
鋼管1内部に配設する熱交換パイプ2を、鋼管1の範囲内で鉛直方向に複数回折り返すことによって、鋼管1内部に接する表面積が増え、鋼管1を介して杭内に取り込まれた地中熱を熱交換パイプ2内の熱媒により多く伝達することができる。
【0041】
図4では、熱交換パイプ2を鉛直方向に5回折り返した場合を示しているが、配設位置などに問題がなければ、折り返す回数は限定されない。
【0042】
また、図3および図4は熱交換パイプ2を鉛直方向に折り返した実施例を示しているが、鋼管1の内面に水平方向に折り返す方法でもよく、あるいは螺旋状に配設しても構わない。
【0043】
熱交換パイプ2を鋼管1の内面に固定するには、例えば、鋼管1を杭孔に挿入する前に予め複数個のリング状の金具を熱交換パイプ2に通しておき、リング状の金具を鋼管1の内面に溶接または接着剤などで固定し、熱交換パイプ2を鋼管1の内面に密着させる。その他に、熱交換パイプ2の先端に金属製のパイプなどを接続しておき、鋼管1の内面に溶接して固定することもできる。
【0044】
なお、鋼管1と熱交換パイプ2との固定方法は、上記に示した鋼管1と鉄筋かご12の接続方法と同様に、強度面や耐久性で問題がなければ、材質や固定方法などは問わない。
【0045】
熱交換パイプ2は、樹脂製または金属製など強度面や耐久性に問題がなければ材質や種類は問わず、鉄筋かご12との接続方法は、鉄製または樹脂製などの結束線などを用いて、鉄筋かご12のフープ筋14に外接するように結束し、鋼管1と鉄筋かご12の接続方法と同様に、強度面や耐久性で問題がなければ、材質や固定方法などは問わない。
【0046】
また、図2(a)に示したように、熱交換パイプ2は鉄筋かご12のフープ筋14に外接して固定されていれば、掘削孔壁23との間隔は偏心防止用のスペーサー15で確保されるので、鉄筋かご12に接続された熱交換パイプ2を杭孔に挿入する際に掘削孔壁23に接触することがなく、熱交換パイプ2が損傷することもない。
【0047】
このように、鋼管1に固定した熱交換パイプ2内に水などの熱媒を充填し、循環させることにより、地盤から鋼管1、鋼管1から熱交換パイプ2内の熱媒へと熱伝達を効率的に行うことができる。
【0048】
杭孔内に、鋼管1、熱交換パイプ2、鉄筋かご12を設置した後、杭孔内にコンクリートを打設し、鋼管を設けた場所打ちコンクリート杭11を完成させる。
【符号の説明】
【0049】
1…鋼管、
2…熱交換パイプ、
11…場所打ちコンクリート杭、11a…杭外周部、
12…鉄筋かご、
13…主筋、
14…フープ筋、
15…スペーサー、
21…地層(不透水層など)、
22…地層(透水層など)、
23…掘削孔壁、
A…杭径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭内の深さ方向に地中熱交換用の熱媒を循環させるための熱交換パイプを配設した場所打ちコンクリート杭において、前記コンクリート杭の外周部の一部に鋼管を設置し、前記熱交換パイプが、前記鋼管の内面に接するように配設してあることを特徴とする地中熱採熱用の鋼管を設けた場所打ちコンクリート杭。
【請求項2】
前記鋼管は、地中熱の採熱が効率よく行える、熱伝導率の高い地層または岩盤または地下水流のある透水層を含む位置に設置してあることを特徴とする請求項1記載の地中熱採熱用の鋼管を設けた場所打ちコンクリート杭。
【請求項3】
前記熱交換パイプは、前記鋼管の内面に、鉛直方向または水平方向に1または複数回折り返して配設し、あるいは、螺旋状に配設してあることを特徴とする請求項1または2記載の地中熱採熱用の鋼管を設けた場所打ちコンクリート杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−97984(P2012−97984A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247314(P2010−247314)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【特許番号】特許第4727761号(P4727761)
【特許公報発行日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(591137363)大洋基礎株式会社 (7)
【Fターム(参考)】