説明

地域局在型水素供給・管理システム

【課題】 地域共同体で燃料電池設備を実用化する際に、そのエネルギー源となる水素を安定して供給・管理できるシステムを確立すること。
【解決手段】 個人または団体を組織構成員とする地域共同体における当該地域内で使用される燃料電池用の水素を供給・管理するシステムであって、原料を受け入れて水素を製造するための水素製造装置と、製造した水素を一時的に保管するための水素貯蔵装置とを備えた設備群と、水素貯蔵装置から地域共同体の構成員である個々の家庭や施設へ水素を供給するパイプライン網を有し、該パイプライン網を構成する個々のラインは2以上の流路を有し、そのうち1の流路は水素供給ラインとして機能させ、他の流路は燃料電池から排出されるオフガスの回収ライン及び/又は緊急水素供給ラインとして機能させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地域局在型の水素供給・管理システムに関し、より詳細には、地域共同体内で燃料電池設備を実用化する際に、そのエネルギー源となる水素を安定して供給・管理できるように工夫されたシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止対策とも相俟って、エネルギーの原油依存体質からの脱却が世界的規模で重要課題となっており、環境保全に対する取り組みが先行する欧州の先進諸国はもとより、米国や日本を始めとするアジア諸国の一部でも、エネルギー源として水素利用社会への移行を企図した動きが政府主導で進められるようになってきている。
【0003】
エネルギー源として水素を利用するに当たっては、原理的には水素と酸素の化学反応によって生じるエネルギーを取り出すが、消費される水素の単位重量当たりに発生するエネルギーが大きく、しかも副生物は水のみであるため、環境負荷の極めて小さいエネルギー源である。水素の製造に伴う二酸化炭素の発生は考慮すべきであるが、水力発電、風力発電、太陽光発電、地熱発電などの自然エネルギーを利用した発電プロセスと並んで該燃料電池発電への関心が高まっているのは、安定供給の観点から自然エネルギーには不安定要因があるという宿命的問題や、自然エネルギーによる発電設備の導入や保全に伴う総合的な環境負荷の問題が議論されるにつれて、普及の実現性と総合的な環境負荷軽減可能性のバランスを考慮したとき、燃料電池発電に大きな魅力が存在するからに他ならない。将来的に自然エネルギーを利用した水からの水素製造技術が確立し、これが普及すれば、水素が環境面で究極的なエネルギー源となることは必定である。
【0004】
水素エネルギー社会へ移行する過渡的段階では、発電技術としての燃料電池の普及と並んで、水素製造技術および水素貯蔵技術の発展と、それらを含めた水素供給・管理システム(インフラストラクチャー)の確立が急務となる。
【0005】
水素製造技術の現状に目を向けると、水の電気分解、副生水素(製鉄所やソーダ工業からの副生ガス)の分離回収や化石燃料の改質が、また水素貯蔵技術については、液化貯蔵、高圧貯蔵、水素吸蔵合金の利用、ケミカルハイドライドの利用、等が実用化に向けて開発途上にある。
【0006】
現在のところ日本国内では、上記既存技術を組み合わせ、普及促進のための試みとして十数か所で水素ステーションを建設し実証試験が行われているが、現時点では、化石燃料の改質と高圧貯蔵を組み合わせた水素ステーションの技術的信頼性が最も高く、実現の可能性が高いと言われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水素エネルギー社会の実現には、安価で安全性の高い燃料電池の開発・改良に加えて、原料となる水素安定供給システムの普及が不可欠となる。燃料電池に関する近年の実用化研究では、エネルギー消費量の大きい電力分野と自動車分野に注目が集まり、それらの分野で燃料電池関連技術の開発は加速度的に進んでいるが、水素安定供給のためのインフラストラクチャーの整備については課題が多い。
【0008】
電力消費量の比較的小さい機器の開発とは異なり、家庭用あるいは業務用据置型燃料電池発電装置や燃料電池自動車の普及には、燃料電池機器そのものの性能向上に加えて、エネルギー源となる水素を安定供給するためのインフラストラクチャー整備が不可欠となる。電力消費量が比較的大きいこれら燃料電池システムを普及させるためのインフラストラクチャー整備には、膨大なコスト負担が予測される。従ってその具現化に当たっては、行政を主体とする地域単位のインフラストラクチャー整備を徐々に進め、やがては広域インフラストラクチャーへと発展させていく様な体系立った社会的計画が不可欠であると考えらており、地域の各コミュニティ(共同体)が自発的に導入意欲を示す様なインセンティブを与えることが重要と考えられる。
【0009】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、燃料電池発電に不可欠となる水素の広域的安定供給の第1段階として、地域共同体単位の水素安定供給管理システムを創設し、ひいては水素の広域的安定供給にスムーズに発展させていくことのできる様な水素の安定供給・管理システムを確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することのできた本発明に係る地域局在型水素供給・管理システムとは、地域共同体における当該地域内で当該共同体に所属する構成員が使用する燃料電池用の水素を供給・管理するシステムであって、原料を受け入れて水素を製造するための水素製造装置と、製造した水素を一時的に保管するための水素貯蔵装置とを備えた設備群と、水素貯蔵装置から地域共同体の構成員が所有する燃料電池に水素を供給するパイプライン網を有し、該パイプライン網を構成する個々のラインは2以上の流路を備え、そのうち1の流路は水素供給ラインとして機能させ、他の流路は燃料電池から排出されるオフガスの回収ライン及び/又は緊急水素供給ラインとして機能させるところに特徴を有している。
【0011】
上記本発明に係る水素供給管理システムは、水素外販用の水素ステーションと該水素ステーションへの水素供給ラインを備えていることが好ましい。この水素ステーションは、上記水素貯蔵装置に直接接続してもよく、又は、上記パイプライン網に含めて、或いは該パイプライン網とは別に、水素外販用の送給ラインを付加して水素を供給することで、余剰水素を燃料電池自動車用途などに外販用水素として販売可能にすることも有効である。この場合、外販用水素として高圧水素を必要とする場合は、水素ステーションを水素貯蔵装置に直結して高圧水素が得られる様にするのがよい。また、燃料電池自動車の如くそれほど高圧の水素を必要としない場合は、上記パイプライン網から分岐してもよいし、水素貯蔵装置から直接供給できるようにしてもよい。そして、この様な当該共同体管理の外販システムを組み込めば、余剰水素の外販による利益を共同体運営のための経費などに充当できるので好ましい。
【0012】
本発明で用いる水素製造のための原料自体は格別特殊なものではなく、搬送の容易な液状もしくは気体状のものとして、天然ガス、プロパンガス、合成ガス、石油、軽油、重油、メタンハイドレート、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、製鉄副生ガスなどを使用することができ、原料事情によってはこれらの2種以上を併用することも可能である。
【0013】
また、この発明で使用する水素製造装置としては、水素精製プロセスとしてのCO吸着除去器と水素貯蔵装置へ水素を供給するための昇圧器を備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
近年、クリーンエネルギーへの関心が高まり、中でも燃料電池への期待度が増しているが、水素供給・管理のインフラ整備は、燃料電池普及の鍵を握っているといっても過言ではない。既に構築され利用基盤の確立している都市ガス網に代わって、或いはこれらと両立して普及させていくには、小規模の地域共同体であっても経済性と利便性を追求することができ、個々の地域共同体が次々に設立される様な魅力あるシステムを確立することによって、これを広域規模に拡大させていくことが必要と思われる。本発明では、地域共同体内における燃料電池利用分野を対象とした水素供給・管理システムを確立することができ、本発明の管理システムをベースとして、これを地域的なインフラ整備の集成体として広域規模の燃料電池設備と原料供給・管理システムに発展させていくことが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、上述した如く燃料電池設備への水素安定供給・管理のインフラストラクチャー整備の第1段階として、以下に説明する様な地域共同体内での水素安定供給・管理システムを確立した。
【0016】
本発明において地域共同体は、その構成員が共有する水素製造装置と水素貯蔵装置を稼動させることによって水素の製造と貯蔵を行い、当該共同体の構成員は、各構成員が個々に保有する燃料電池発電装置の稼動用原料として、該共同体によって製造されたパイプライン網を通して供給される水素を使用することにより電力を調達する。この際、地域共同体は、構成員全員が消費する電力相当の水素を確保した上で、不慮の事故による水素製造量の減少なども考慮し、好ましくは更に、余剰の水素については外販用としての販売とそれによる利潤追求をも図り得る様、水素貯蔵設備を備えている。外販用水素は、例えば当該地域内に設けられた水素ステーションで販売される燃料電池自動車用水素であり、当該販売による利益は、当該共同体の運営資金として充当される。
【0017】
水素製造コストを低減するには、水素製造量を増やすと共に稼動率を高め、しかも水素製造装置は極力連続運転することが望ましい。そのため本発明の好ましい態様では、外販用の水素も考慮して多めに水素を製造し貯蔵可能にすることで、水素製造装置の稼働率を高めて水素製造コストの低減を図ると共に、共同体内で必要な水素を常に安定して供給できる様にしている。更に加えて本発明の好ましい態様では、製造された水素を外販することによって、共同体は販売収入を取得可能とし、得られた収益は共同体の構成員が消費した水素製造コストの一部を補助し、或いは共同体が保有する施設の保全や運営、更には設備投資の原資として活用できる様にしている。
【0018】
この様な地域共同体による運営システムが導入されれば、共同体運営の主体は、営利目的、非営利目的の如何を問わず、水素製造事業に対するコスト削減と利益追求を図ることができる。即ち地域共同体内における水素製造コストの低減が進行し、更に、当該共同体内での意識を高めて営利目的にまで発展させていけば、水素外販事業規模が拡大すると共に当該地域共同体の構成員の数も拡大し、ひいては広域的水素インフラストラクチャーの普及に貢献できる。
【0019】
共同体の規模や水素製造設備への投資規模の策定に当たっては、投資対効果の最大化が求められ、また近隣に同様目的の共同体が存在すると、各々の水素外販事業は互いに競争原理にさらされ、最も経済原理に叶った規模へと収束していく。更に、例えば黎明期に行政が普及促進のための施策を講じる場合でも、大きなリスクを背負って大規模なインフラ整備のためのコスト負担を強いられることなく、地域共同体の申請に基づいて水素インフラストラクチャー導入への助成事業で対応すればよく、個々の共同体の自主性を活かしつつ、効率的な普及促進事業が展開できる。そして、この様な地域共同体が各地で自発的に生まれ発展することで水素インフラ整備が全国的に広まっていけば、自ずと燃料電池活用事業の全国的な普及が実現可能になるものと考えられる。
【0020】
こうした水素インフラ整備を進めていく上で重要な技術的ポイントは、コンパクトで安全性の高い水素製造装置と水素貯蔵装置である。即ち共同体では、その構成員が必要とする量の水素を安定して供給するため、必要十分量の水素を製造し貯蔵できる規模の装置が導入されることになるが、通常の場合、地域共同体が保有し得る土地の広さには制限があると考えられ、その規模に適合する設備サイズでなければならない。また、その立地は一般住居の近隣になることが予測されるので、高度の安全性が要求されると共に、設備にはより簡便で確実な保全性も要求される。
【0021】
こうした要件を満たすには、既に技術的に確立している各種燃料の改質による水素の製造技術と、燃料電池用としての水素仕様を満たす効率の高い水素精製技術、および安全面で信頼性の高いパイプラン網を組み合わせた水素インフラ機構が有効と考えられる。
【0022】
こうした観点に立って本発明者らは、主に化石燃料を水蒸気改質することにより粗製水素を製造した後、不純物COを吸着除去することによって精製水素とし、更に燃料電池用水素を高圧貯蔵するシステムを確立することで、設備全体の占有面積を縮小する方策を開発し、既に特許出願(出願番号2004-067607)を済ませた。
【0023】
本発明においては、原料供給方式や水素製造方式を特に限定するものではないが、地域共同体が水素の安定供給・管理システムを共有する運営形態の一例として、上記先願発明を適用した実施形態についてその概要を以下に説明する。
【0024】
本発明の水素安定供給・管理システムを採用した事業の開始に当たっては、地域に局在化する共同体を設立する。共同体の構成員は、一般家庭、集合住宅(マンション等)、企業、私的・公的施設などの如何を問わず近隣の電力消費者である。投資対効果は消費電力量に影響されるので、ある程度の規模の構成員は必要となるが、消費電力量が一定以上であるならば、規模に応じた設備を導入することで経済性は成立する。マンション等の集合住宅やオフィス・ビル等は、パイプライン網などの整備が比較的容易であるので共同体の参加形態としては好ましい。
【0025】
共同体は、水素供給・管理システムに関連するインフラ整備の設備経費を負担し、水素製造装置、水素貯蔵装置、水素貯蔵装置から各構成員が所有する燃料電池設備までの水素供給用パイプライン網を共同で保有する。場合によっては、原料ホルダー、貯蔵水素の外販用施設・機器などの付帯設備も導入する。燃料電池設備本体については、複数の地域共同体で共有することも可能であるが、運営を簡素化する上では、各々の地域共同体が個々の設備として保有することが望ましい。この様な前提で企画した共同体の一例を図1の概念図に示す。
【0026】
共同体内の構成員で必要とされるエネルギーを賄うことのみを考えた場合、共同体内での電力需要量に相当する水素を製造すればよいが、水素製造量を必要最小量に設定すると、水素需要量の負荷変動に対して柔軟な水素供給体制が取れないので、常にある程度の水素を備蓄しておくことが利便性の観点から望ましい。備蓄の適正量がどの程度かの判断は難しいので、水素貯蔵装置の容量は設置スペースや設備コストなどの諸条件が許される限り十分に大きい方がよく、また水素製造装置も断続運転よりも連続運転の方がエネルギー効率がよいので、十分量の備蓄が可能な水素貯蔵装置とそれに適合した連続水素製造装置が経済性の観点から好ましい。
【0027】
水素外販を考えた場合は、当然に、より大きな規模の設備導入が必要となる。適正な規模は、立地条件なども考慮して決定すべきであるが、当該共同体が保有する水素供給・管理システムの維持・保全に必要なコストを水素外販によって賄うことができれば、共同体内での電力料金を原料原価のレベルに近づけることができるので、共同体構成員は、当該共同体に加入することによる水素エネルギー利用のメリットを享受できる。
【0028】
例えば、燃料電池自動車用として外販される水素の価格は、基本的には競争原理によって決まるので、外販によるメリットを最大化できる水素備蓄量を試算し、それに基づいて水素貯蔵装置と水素製造装置の設計を行えばよい。設備規模が大きくなると、常時備蓄されている水素のうち共同体内で消費される水素量の占める割合は減少し、共同体内における電力消費の負荷変動に対して追随が一層容易になるので、この観点からも外販メリットは高まる。
【0029】
導入する水素供給・管理システムはライフラインとなり、安定供給が必須要件となるので、共同体が共有する設備の保全には十分な配慮が必要となる。共同体と設備提供者間での設備保全契約締結などによって設備の維持・管理を行うのが一般的であるが、万一当該の水素供給管理システムに不具合が起こった場合も、構成員への水素供給を止めることなく速やかに補修作業を行なえる様なシステムを構築しておくことが望ましい。
【0030】
水素製造装置に不具合が生じたときは水素備蓄量で対応し、水素貯蔵装置の不具合に対しては貯蔵装置の複数設置や緊急時用の水素容器の準備などで対応でき、またこれらの装置は定期点検が容易であり、致命的な不具合が発生する前の事前対策も可能である。しかし、水素貯蔵装置から共同体構成員個々の家庭やオフィスなどを結ぶ水素供給用パイプラインの不具合については対応が難しい。
【0031】
そこで本発明では、初期投資時のコストアップ要因にはなるが、パイプライン網を施設する際に、夫々のラインを2以上の流路で構成しておき、そのうち1の流路は水素供給ラインとして、また他の流路は緊急水素供給ラインとして待機させておくのがよい。こうしておけば、水素供給ラインに不具合が生じた場合は、緊急用に待機している別のラインで水素供給を代替し、不具合部分を供給ラインから外して補修することができるからである。
【0032】
しかし、この方式にも問題がある。待機ラインは不使用状態のまま放置されがちであるため、いざ緊急事態が発生した時に使用不可となっていることが懸念されるからである。
【0033】
そこで本発明では、上記緊急用待機ラインを、水素供給を行なった当該燃料電池設備から排出されるオフガスを、共同体が共有する水素製造設備、水素貯蔵装置、水素ステーションのいずれかに戻すラインとして常時使用しておく。
【0034】
燃料電池設備から排出されるオフガスの中には若干量の未利用水素が含まれており、この未利用水素については幾つかの有効利用法が考えられるが、共同体構成員が個別に利用するよりも、共同体の共有設備に戻して一括して回収利用する方が無駄なく利用できる。回収利用の方法としては、例えばオフガスからの分離精製による再利用、水素製造用改質器の熱源としての利用、関連施設の冷・暖房熱源としての利用などである。
【0035】
現有の都市ガス網を利用した家庭用燃料電池システムとして、燃料電池/水素製造用改質器一体型のものが提案されているが、燃料電池設備からのオフガスは水素製造用改質器の燃料として利用されることが多い。その場合、システム排熱を温水供給用熱源として利用するコジェネシステムが一般的に採用されるが、電力と熱の需給バランスが必ずしも理想的でなく、余剰熱の利用法に課題が残されている。
【0036】
本発明が想定するシステムでは、水素製造用改質器と個々の燃料電池設備までの距離が離れているため、それほど多くの廃熱が末端で発生することはない。よって、燃料電池設備からのオフガス中に含まれる水素は、各末端で必要ならば熱源として利用し、余った水素を共同体の共有設備までパイプラインで戻して回収することが、エネルギー有効利用の観点から効果的な手段となる。戻された水素は再度燃料電池に供給してもよいし、純度の点で再供給に問題がある場合は、精製して用いるかあるいは改質器の燃料として利用してもよい。いずれにしても、各末端で燃焼させた場合の未利用廃熱の有効利用を検討するよりは、全体としてのエネルギーの有効利用が期待できる。
【0037】
燃料電池排ガスの戻りラインは、先に述べた様に、緊急用待機ラインとして常時ガスを流しておくことによって緊急用待機ラインの不具合を事前に検知する役割を担っている。このシステムで水素供給ラインに不具合が発生した場合は、後述する様なバルブ操作による当該不具合部分を送給ラインから切り離して補修すればよい。また、水素供給ラインと緊急用待機ラインは定期的に切り替えてその老朽化速度を抑える方法を採用することもできる。更に、このラインを3本以上設け、定期的なバルブ操作によって切換え使用すれば、安定供給のための運転に更に柔軟に対応できる。
【0038】
次に、地域共同体に導入されるパイプラインの機能について説明する。
【0039】
図2は、地域共同体を例示するもので、想定される代表的な2種類のケースを示している。共同体は、共有設備として原料容器、水素製造装置(圧縮器と水素精製装置を含む)、水素貯蔵装置を保有し、水素貯蔵装置から燃料電池設備を有する各末端の組織構成員に水素を供給するパイプライン網が整備される。パイプラインの施設法としては、個別供給できるA地区と、分岐点まで集中輸送し分岐点から各組織構成員に個別に供給するB地区の2種類の方式を示している。図中、実線で示したのが水素供給ライン、点線で示したのが緊急ラインを兼ねた燃料電池設備からのオフガス戻りラインである。
【0040】
白抜きの四角で示した部分は切換弁を備えた切換ポートで、バルブの切換えにより水素供給ラインとして利用するか、緊急ラインとして利用するかを選択できる様になっている。そして創業時には、1のラインは水素送給用として使用し、他方の緊急ラインは末端構成員の燃料電池設備から排出されたオフガスの返送ラインとして使用する。
【0041】
尚、燃料電池設備には水素を主成分とする燃料が供給され、好ましくは高純度に精製された水素を供給するのがよいが、電極に顕著な悪影響をおよぼすCOさえ十分に除去されていれば、改質ガス由来のCO2やCH4などが若干量混入していても差し支えない。
【0042】
燃料ガスは燃料電池に通気して供給されるので、オフガスが排出してくる。このオフガスには若干量の水素が含まれているので、破線で示す緊急ラインを通して共有設備の水素製造装置へ戻し有効利用が図られる。
【0043】
図3は、定常操業時および緊急操業時の復旧方法を示している。(1)は定常操業時の例を示しており、実線ラインで水素の供給、破線ラインでオフガスの返送を行なう。しかも、それらのラインを定期的に切換えることにより、送給ラインおよび返送ラインを常時使用することで、パイプラインの劣化抑制を図る。尚、パイプラインは2本以上の複数のパイプによって形成するのが一般的である。
【0044】
そして、例えば水素送給用の流路に一部が閉塞したり、該流路からの水素ガスの漏洩が発覚し、パイプの補修作業が必要になった時には、例えば(2)に示す如くパイプラインの適所に設けた流路切換ポートでバルブ切換えを行なうことによって、不具合を生じた水素供給ラインを流路から外すと共に、オフガス返送ラインを水素供給ラインに切換え、また、当該ラインの末端構成員が保有する燃料電池設備における水素ガス受入れラインとオフガス返送ラインも切換える。こうすることによって、不具合部分を送給流路から切り離してから故障箇所の補修と復旧作業を行なう。この間、水素はオフガス返送ラインを通して該当する組織構成員に送給されるので、バルブ切換えの間のごく短時間水素の送給が中断するだけで、長期的に水素の供給が停止することはない。尚、この補修期間中、オフガスの返送ラインは途絶されるが、もともと個々の燃料電池設備で発生するオフガス中の水素量はそれほど多くないので、ライン復旧までの間は大気へ放出してもさほどのロスになることはない。しかし場合によっては、この間のオフガスを燃料として利用する燃焼装置を付設しておき、該オフガスを燃料として有効利用できるようにすることも可能である。
【0045】
図3の(3)は、パイプラインを3本施設している場合の補修・復旧例であり、この場合は、水素供給ラインを緊急時のために待機している予備ラインにバルブ切換えすることで故障したパイプラインを送給ラインから分断し、補修・復旧を行なえばよい。この場合は、パイプライン網の導入がコスト高になるが、残りのラインをオフガス返送ラインとして利用できるので、オフガスの回収も継続して行なうことができる。
【0046】
パイプの不具合がどこで起こるかによって共同体全体に及ぼす影響度が変わることがある。例えば前記図2のA地区では、水素貯蔵装置から個々の末端燃料電池設備に直接パイプラインが引かれているので、1箇所での不具合の発生が共同体全体に与える操業上の影響は大きくない。これに対し図2のB地区では、水素貯蔵装置から一旦分岐点まで集中配管で輸送され、そこから個々の末端燃料電池設備へ個別配管で送給されるので、当該分岐点までのラインで不具合が発生した場合は、分岐点以降のすべての構成員の燃料電池設備に影響を与える。それでも水素供給が完全に停止することは回避できるが、分岐点までの配管を3本以上にしておけば、その影響を最小限に食い止めることができる。
【0047】
本発明によれば、上記の様にパイプラインに一部が故障した時の対応が容易になるばかりでなく、災害時にも柔軟な対応が可能となる。即ち、ライフラインとなる該水素送給配管が地震などの天災によって遮断されると、社会的に重大な問題になることから、こうした場合を想定した事前対策が求められているが、本発明の水素送給・管理システムでは、局在化した地域共同体で個々に水素が備蓄されるので、もし広域的なパイプランが遮断した場合でも、各共同体が保有する水素貯蔵装置や水素ステーションからオフラインで供給を受けることが可能となる。
【0048】
また、仮に一部の地域共同体で水素製造装置、水素貯蔵装置、水素ステーションが使用不可になる様な事態が起こった場合でも、本発明の様な地域局在型の水素送給・管理システムが全国的に普及しておれば、水素供給設備が各地に広く分散して存在することになるので、それらが一斉に使用不可になる様な事態が起こらない限り、隣接する共同体からの補給によって、当座の窮状を凌ぐことができる。
【0049】
更に、個々の共同体が保有する水素製造装置、水素貯蔵装置、水素ステーション等が使用不可になった場合を想定しても、共同体内に施設されたパイプラインを使用できれば、隣接する共同体のパイプラン網にアクセスすることで水素の供給を受けることも可能となる。パイプラインまでが使用不能になった場合でも、隣接共同体からオフラインで備蓄水素の供給補助を受けることで、補修・復旧までの対応を図ることも可能となる。
【0050】
なお、本発明を実施する際の水素製造用原料に格別の制限はなく、公知の全ての原料を使用できる。水素製造原料の具体例としては、天然ガス、プロパンガス、合成ガス、石油、軽油、重油、メタンハイドレート、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、製鉄副生ガスなどが挙げられる。これらは何れも大量供給の可能な燃料源であって、各々適切な処理を経て水素リッチガスに改質された後、燃料電池の電極に対して被毒成分となる一酸化炭素を除去し精製してから水素貯蔵装置に供給される。
【0051】
燃料電池の普及経緯を想定すると、燃料不足を回避することの必要上、当面の間は水素源の多くは化石燃料になるものと予測され、また天然ガスやメタンハイドレート、プロパンガスも相対的に需要量が多く不純物含有量も少ないので、環境負荷の小さい水素原料として期待される。石油、軽油、重油なども、安価で且つ輸送も容易であり、不純物含量が多いため前処理プロセスが複雑化する懸念はあるものの、精製プロセスのコンパクト化が実現すれば有望な原料である。
【0052】
メタノール、エタノール、ジメチルエーテル等は、分子中に炭素を含む水素原料であるが、バイオ技術を利用して製造できるので、地球温暖化の問題を回避できる水素原料として期待される。製鉄副生ガスも、発生量が多く且つ副生ガスの有効利用という観点から環境負荷の小さい原料として期待される。
【0053】
また、例えば図1では、容器(原料ホルダー)を設けて定期的に原料を受け入れることを想定しているが、パイプライン網が発達する地域では原料ホルダー等を設けることなく、パイプラインで輸送されてきた原料ガスを直接水素製造用の改質器へ導入すればよい。
【0054】
尚、これらの原料ガスは全て炭素を含んでいるので、改質後は生成する水素への一酸化炭素の混入が避けられない。一酸化炭素は、前述した如く燃料電池の触媒毒として極めて有害なものであることから、多くの除去法が検討されているが、現状では一酸化炭素のみの選択的吸着除去法が最も有効と考えられる。本発明者らが先に出願した特許(出願番号2004-067607)は、装置をコンパクト化し得るものとして最適である。
【0055】
この様な吸着法を採用する際の吸着剤の種類は特に制限されないが、好ましいのは、シリカ、アルミナ、活性炭、グラファイト、ポリスチレン系樹脂から選ばれる1種もしくは2種以上を混合した担体に、ハロゲン化銅(I)やハロゲン化銅(II)を担持させた吸着剤、あるいはそれらの担持剤を還元処理することによって得られる吸着剤は、高い一酸化炭素選択吸着性と大きな一酸化炭素吸着容量を有していることから、吸着装置サイズのコンパクト化に有効である。
【0056】
精製した水素の備蓄法は特に制限されないが、実用化する上で最も現実的なのは昇圧備蓄法であり、精製した水素は水素貯蔵装置へ導入するのがよい。一酸化炭素除去用の吸着剤は、通常高圧になるほど吸着量が増大するので、昇圧器を経た後の高圧状態で一酸化炭素の吸着除去が行なわれる様なプロセスを組み込めば、吸着効率を高め得るばかりでなく吸着剤の使用量も低減できるからである。
【0057】
本発明は以上の様に構成されており、地域共同体内における燃料電池利用設備を対象とした水素供給・管理システムを確立することができ、この地域的な水素供給・管理システムを徐々に普及させていくことで、燃料電池設備の汎用化に不可欠である原料水素供給のための広域的インフラストラクチャー整備へと発展させていくことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明が適用される地域局在型共同体の一例を示す説明図である。
【図2】本発明に係る地域局在方水素供給・管理システムを例示する概念図である。
【図3】水素送給ラインに障害(不具合)が生じたときの補修・復旧作業の一例を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地域共同体における当該地域内で当該共同体に所属する構成員が使用する燃料電池用の水素を供給・管理するシステムであって、原料を受け入れて水素を製造するための水素製造装置と、製造した水素を一時的に保管するための水素貯蔵装置とを備えた設備群と、水素貯蔵装置から地域共同体の構成員が所有する燃料電池設備に水素を供給するパイプライン網を有し、該パイプライン網を構成する個々のラインは2以上の流路で構成し、そのうち1の流路は水素供給ラインとして機能させ、他の流路は燃料電池設備から排出されるオフガスの回収ライン及び/又は緊急水素供給ラインとして機能させることを特徴とする地域局在型水素供給・管理システム。
【請求項2】
前記水素供給・管理システムは、水素外販用の水素ステーションと該水素ステーションへの水素供給ラインを備えている請求項1に記載の地域局在型水素供給・管理システム。
【請求項3】
水素製造のための原料が、天然ガス、プロパンガス、合成ガス、石油、軽油、重油、メタンハイドレート、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、製鉄副生ガスから選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の地域局在型水素供給・管理システム。
【請求項4】
水素製造装置が、水素精製プロセスとしてのCO吸着除去器と水素貯蔵装置へ水素を供給するための昇圧器を備えている請求項1〜3のいずれかに記載の地域局在型水素供給・管理システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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