説明

地盤安定化構造および地盤安定化工法

【課題】現場における施工を迅速に行なうことができ、施工後は地下水の排水を促して地山を安定的に保持できるようにした地盤安定化構造および地盤安定化工法を提供する。
【解決手段】地盤面上に敷設された支圧版1と、地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入することにより施工された可塑状ゲル注入材からなる定着体3と、地盤中に施工され、基端側と先端側がそれぞれ支圧版1と定着体3に定着されたアンカー体2とから構成する。支圧版1プレキャストコンクリートから成形し、複数敷設する。アンカー体2には孔開き鋼管を利用して排水機能を付与する。定着体3は地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入し、徐々に拡大させて土を周囲に押しやるように形成する。定着体3はアンカー体2の長手方向に所定間隔おき、あるいはアンカー体2の長手方向に連続する柱状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤安定化構造および地盤安定化工法に関し、現場施工を迅速に行なうことができ、主として地山(法面)の補強や建物が建つ敷地地盤の液状化防止などに適用される。
【背景技術】
【0002】
農地や山林を整地して宅地や道路、鉄道などを新設する造成工事では、整地に伴い、切り取った地山(斜面)の崩壊防止と景観整備などを目的として地山の補強が行なわれる。また、建物や備蓄タンク等の既存の構造物が建つ地盤の液状化を防止し、地盤の支持力を高める目的で地盤改良が行われることがある。
【0003】
従来、地山の安定化工法として、例えばプレキャストコンクリ−トからなる支圧版を地山に敷設し、当該支圧版によって地山に縦横格子状に連続する法枠を構成し、これを地山に施工したグランドアンカー体に固定して地山を補強する工法が一般に知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ビ−ム部を十字状に交差させて一体に成形されたプレキャストコンクリ−ト製の支圧版を地山に所定間隔おきに敷設し、各支圧版の中央部分を地盤中に施工したアンカー体に固定することにより地山を補強する工法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、プレキャストコンクリ−ト製の支圧版を地山に所定間隔おきに敷設すると共に、各支圧版の中央部分を地盤中に施工したアンカー体に固定し、かつ各支圧版と支圧版との間に場所打ちコンクリ−トによって支圧版と一体の法枠を縦横に連続して形成する工法が記載されている。
【0006】
さらに、地盤の液状化を防止し、地盤の支持力を高める地盤改良工法としては、地盤中にセメントミルク等の固化材や薬液を注入する注入工法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−331666号公報
【特許文献2】特開平8−232270号公報
【特許文献3】特開平8−144287号公報
【特許文献4】特開2006−118204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記した地山安定化工法においては、各支圧版は地盤中にグラウト材によって形成された定着体に高強度の引張材を介して連結し、その引張材に引張力を付与するための反力版として用いられ、引張材は引張力を付与した後に支圧版に固定している。
【0009】
また、近年地盤中に低スランプのモルタルや土砂を圧入して地盤を静的に締め固める工法が提示されているが、地表面近くでは地盤の隆起が大きく地表面を締め固めることが困難であった。
【0010】
また、地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入して地盤を締め固める方法が、本出願人によって開発されているが、これも地表面近くでは地表面が隆起して地盤面近くの締め固めが不充分であるという問題があった。
【0011】
さらに、これらの方法による地盤改良では、地盤の隆起が地上に建つ既存の建物や構造物に悪影響を及ぼすのみならず、隆起量分は地盤の締め固め効果に寄与しないため、最も支持力の増加を必要とする地表面近くの改良が困難という問題があった。
【0012】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、地表面近くの静的締め固めにおいて生ずる地盤の隆起と沈下を防ぎ、それによって地上の建物や構造物の変位や破壊を防ぎながら建物や構造物直下、あるいはその近傍の地盤強化を可能にし、また現場における施工を迅速に行うことができ、かつ地山や建造物を安定的に保持することができ、さらに敷地地盤の液状化を防止することができる地盤安定化構造および地盤安定化工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の地盤安定化構造は、地盤面上に敷設された支圧版と、地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入することにより周辺土を周囲に押しやるように徐々に拡大し、周辺土を締め固めるように施工された可塑状ゲル注入材からなる定着体と、地盤中に施工され、基端側と先端側がそれぞれ前記支圧版と前記定着体に定着されたアンカー体とからなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明を図12に基づいて説明すると、アンカー体を地盤中に定着するための定着体を、地盤中で周辺土を周囲に押しやるように徐々に拡大して形成される可塑状ゲル固結体によって施工する際に、アンカー体の基端側と先端側をそれぞれ地盤上に敷設された支圧版と地中に施工された可塑状ゲル固結体からなる定着体に定着し、特に地表面に近い領域に可塑状ゲル注入材を圧入すると、地表面近くの地盤を隆起させようとする力が働き、上端側と先端側がそれぞれ地表面の支圧版と地中の定着体で拘束されたアンカー体の地表面に近い部分が伸びようとする。そして、それが大きな引抜き抵抗力を生じ、それにより支圧版が地盤の隆起を防ぐことになる。
【0015】
特に、アンカー体の先端側と地表面側がそれぞれ、先に施工された定着体と支圧版によって拘束されているため、定着体と支圧版との間に可塑状ゲル注入材を圧入することにより、後から形成される定着体 (可塑状ゲル固結体)は、地盤中で周辺土を周囲に押しやるように徐々に拡大して形成され、これに伴い周囲の土が締め固められると同時に、アンカー体に大きな引き抜き抵抗力が付与され、これによりアンカー体に大きな引張力が付与されて地盤にプレストレスが導入されるため、地盤の支持力を高めることができる。
【0016】
すなわち、本発明は従来のプレストレス工法のようにアンカー体 (引張材)にジャッキ等で引張力を直接導入するのではなく、アンカー体 (引張材)の地表面側と先端側をそれぞれ拘束しておいて、地表面付近の領域に可塑状ゲル注入材を圧入するという簡便な手法で アンカー体(引張材)にプレストレスを生じさせることを可能にしたものである。
【0017】
したがって、本発明は、地山(斜面)の崩壊防止や耐震補強を目的とした地山(法面)の補強、建物や備蓄タンク等の既存構造物が建つ敷地地盤の液状化防止などの耐震補強に適した地盤補強構造といえる。すなわち、地盤の隆起を防止すると共に地盤にアンカー体によるプレストレスが作用していることにより変形が生じにくい地盤の安定化が可能になる。
【0018】
また、アンカー体を地盤中に定着するための定着体を、地盤中で土を周囲に押しやるように徐々に拡大して形成される可塑状ゲル注入材を地盤中に圧入して施工することにより、地盤を締め固めると同時にアンカー体に大きな引抜き抵抗力を付与して支圧版を地盤面上に強固に固定することができる。
【0019】
特に、可塑状ゲル固結体は地盤中で土を周囲に押しやるように徐々に拡大して形成され、これに伴い周囲の土が締め固められるため、アンカー体に大きな引き抜き抵抗力を付与することができ、また地盤の支持力を高めることができる。
【0020】
なお、この場合の支圧版には、プレキャストコンクリ−トまたは場所打ちコンクリ−トのいずれの方法で成形されたものも利用することができる。また、支圧版の形状は特に限定されるものではなく、例えば、矩形、多角形、円形、十字形、Y字形などの形状が挙げられる。さらに、アンカー体にはPC鋼棒や鉄筋、あるいは鋼管や孔開き鋼管あるいは鋼管中に鉄筋を挿入したもの等が考えられる。
【0021】
また、この場合の可塑状ゲル固結体は、アンカー体の長手方向に連続する柱状、またはアンカー体の長手方向に一定間隔おきに施工されていてもよい。
【0022】
可塑状ゲル注入材は、注入管の注入口付与で塊状固結体を形成するため、注入管に沿って逸脱しないというセメントグラウト等とは異なる特性を有する。このためアンカー体に一定の間隔をあけて塊状に固結することにより大きな引き抜き抵抗力を得る。
【0023】
請求項2記載の地盤安定化構造は、請求項1記載の地盤安定化構造において、アンカー体は、孔開き鋼管または鋼製棒状体から形成されてなることを特徴とするものである。
【0024】
アンカー体として特に、孔開き鋼管を用いてアンカー体に排水機能を付与することにより、地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入して土を周囲に押しやるように可塑状ゲル固結体を徐々に拡大させながら形成する際に、地盤の締め固めを効率的に行なことができる。また、施工後は地下水の排水を促進させて地すべり等の地山の崩壊を未然に防止することができる。(図1(b))
【0025】
本発明によれば、地すべり等の活動を活発化させる要因とされる地下水を孔開き鋼管によって排出することにより地山を安定的に保持することができる。
【0026】
また、図7で説明すれば、定着体(可塑状ゲル固結体)は、アンカー体の長手方向に所定間隔おきに塊状に施工することができるため、地盤が粘性土の場合であっても、アンカー体の各定着体(可塑状ゲル固結体)間に形成された排水孔が、可塑状ゲル注入材の圧入による周辺粘性土の圧密により発生した土中水を地上に排水させる排水孔の働きを有することにより地盤を締め固めて強化することができる。
【0027】
また、図16(b)では、アンカー体の先端部分から地表部分にかけて定着体を順次形成することにより、定着体周辺の粘性土が圧密されて生じた地中水が、排水孔から圧入管を通って地表に脱水されるため地盤が脱水されて強化される。
【0028】
また、図16、図17において、定着体を図9のように、アンカー体に所定間隔おきに塊状に形成することにより、地震時の間隔水圧の上昇は排水孔から脱水されることにより低減されることで、液状化を防止することができる。
【0029】
また、これにより地山が安定するため、アンカー体に必要以上に大きな引張り抵抗力を付与する必要はなくなり、このためアンカー体の施工深さ、アンカー体を地盤中に定着させる定着体の大きさ等を小規模なものとすることができ、現場施工の省力化、簡略化、さらにはコスト削減等が図れる。
【0030】
なお、本発明による地山(法面)の補強に際し、アンカー体として利用する孔開き鋼管は、水平よりはむしろ地表面側に一定の水勾配をつけて地盤中に施工するほうが排水機能は促進される。また、鋼製棒状体には丸鋼や異形棒鋼の他にPC鋼材などを用いることができる。
【0031】
請求項3記載の地盤安定化工法は、請求項1記載の地盤安定化工法において、
支圧版は複数敷設され、アンカー体は複数施工され、かつ前記支圧版は互いに連結されていることを特徴とするものである。
【0032】
本発明によれば、複数の定着体と一体となった各アンカー体は地表部で複数の支圧版によって一体となるため、水平方向の地震力に対して一体となって抵抗するという大きな耐震効果を生ずる(図12,13,14参照)。
【0033】
請求項4記載の地盤安定化構造は、請求項1−3のいずれか1に記載の地盤安定化構造において、支圧版の上面に排水溝が設けられてなることを特徴とするものである。(図2,3参照)
【0034】
本発明は、アンカー体として設置された孔開き鋼管を介して地表に排水された地下水が地表面を浸蝕したり、地盤中に浸透して地盤を軟弱にするのを防止することができる。また、孔開き鋼管から排水された地下水は、排水溝を通って地山に排水されることで、支圧版の特にアンカー体の周辺部が地下水によって汚れるのを防止することができ、法面の美感を損なうことがない。なお、排水溝の地下水は排水されて処理される。
【0035】
請求項5記載の地盤安定化工法は、地盤面上に支圧版を敷設する工程と、地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入することにより土を周囲に押しやるように徐々に拡大し、周辺地盤を締め固めるように定着体を施工する工程と、地盤中にアンカー体を施工し、その基端側と先端側をそれぞれ前記支圧版と前記定着体に定着する工程とからなることを特徴とするものである。(図12−図18参照)
【0036】
本発明は、可塑状ゲル注入材を地盤中に圧入し、定着体(可塑状ゲル固結体)が地盤中で土を周囲に押しやるように徐々に拡大させながら形成することにより、周辺土が締め固められかつアンカー体に大きな引抜き抵抗力が付与され、これにより支圧版が地山に強固に固定されて地山が保持されるため、特に軟弱な地山や敷地地盤の安定化に適している。
【0037】
また、定着体としての可塑状ゲル固結体によってアンカー体に大きな引抜き抵抗力を付与することができる。この場合の定着体(可塑状ゲル固結体)は、アンカー体の長手方向に連続する柱状に施工することも、またアンカー体の長手方向に一定間隔おきに施工することもできる。
【0038】
また、可塑状ゲル注入材の吐出量、圧入圧力および圧入速度を一定に保持しつつ、可塑状ゲル注入材を地盤中に圧入することにより地盤の亀裂や注入材の逸脱を防止することができるため、定着体を地盤中に必要な大きさに施工することができる。
【0039】
可塑状ゲル注入材を地盤中に圧入するための装置は、シリンダ−内に吸引された可塑状ゲル注入材をピストンによって地盤中に圧入するピストン式の圧入装置を利用し、特にピストンの駆動源に油圧ジャッキやスクリュ−ジャッキを利用することにより、可塑状ゲル注入材の吐出量、圧入圧力および圧入速度を容易にコントロ−ルすることができるため、地盤の締め固め度に応じて必要量の可塑状ゲル注入材を地盤中に一定圧力、一定速度で圧入することにより塊状ゲルを増大させることができる。勿論通常のポンプで圧入することもできる。
【0040】
また、可塑状ゲル注入材は、単調に圧入するよりも一定のインタ−バルをとって連続的に圧入する方が地盤の体積ひずみ(ダイレイタンシ−)が発生しやすいため、ポンプの注入圧でゆるい地盤に間隙をつくりながらそこに可塑状ゲル注入材を圧入して低吐出量でもより大きな締め固めの効果が得られる。
【0041】
本発明における可塑状ゲル注入材は流動性を有しながら、地盤中では逸脱することなく、塊状ゲルをつくり、しかも表面が脱水に伴って膜をつくりながらその内部では流動性をもち拡大させる流動特性を必要とする。このためには以下の特性をもつことが好ましい。
【0042】
該可塑状ゲル注入材が以下の(1)と(3)、又は(1)と(2)と(3)を有効成分として含み、かつ圧入時のテ−ブルフロ−が12cm以上又は/並びに圧入時のスランプが5cmより大きく、または/並びにシリンダ−によるフロ−が8cmより大きく地盤中への圧入前又は圧入中に可塑状ゲルに到る注入材であることが望ましい。
(1)シリカ系非硬化性粉状体(F材)
(2)カルシウム系粉状硬化発現材(C材)
(3)水(W材)
【0043】
可塑状ゲル注入材は脱水率30パ−セント以内で可塑状ゲルに到り、また可塑状ゲル注入材は土砂や粘土やベントナイト、フライアッシュスラグ流動化土等、カルシウム系粉状硬化発現材を用いなくても地盤中で脱水によって流動性を失って塊状体を形成し、周辺地盤と同等あるいはそれ以上の強度を発現するものであってもよい。
【0044】
また、非硬化性粉状体(F材)はフライアッシュ、スラグ、焼却灰、粘土、土砂および珪砂の群から選択される材料である。
【0045】
カルシウム系粉状硬化発現材(C材)はセメント、石灰、石膏およびスラグの群から選択される材料である。ただし、スラグは非硬化性粉状体がスラグの場合に硬化発現材から除外する。
【0046】
硬化発現材は1−40重量パ−セントである。ただし、硬化発現材比=C/(F+C)×100(%)であって、F、C、Wはいずれも重量を示す。
【0047】
水粉体比は20−200重量パ−セントである。ただし、水粉体比=W/(F+C)×100(%)であって、F、C、Wはいずれも重量を示す。
【0048】
可塑状ゲル注入材は添加剤として水ガラスやアルミニウム塩等のゲル化促進剤、増粘剤、界面活性剤等の解こう剤、アルミ粉末等の起泡剤、および粘土等の流動化材からなる群から選ばれる一つ以上の流動性調整材を含む。
【0049】
請求項6記載の地盤安定化工法は、請求項5記載の地盤安定化工法において、定着体はアンカー体の長手方向に複数施工し、そのうち、地表面より深い方の定着体を先に施工し、その後、地表面に近い方の定着体を施工することを特徴とするものである(図12−17)。
【0050】
地表面付近の圧入は、アンカー体の上端側と先端側がそれぞれ、地表面の支圧版と深部の定着体で拘束された地盤中に行なわれることにより、アンカー体に引張力が生じさせるため地盤隆起が押えられ、これにより地表面近くの地盤隆起や変形を防ぎ耐震効果を生ずる。
【0051】
請求項7記載の地盤安定化工法は、請求項5記載の地盤安定化工法において、定着体は、アンカー体の長手方向に間隔をおいて複数施工し、その後、前記定着体と定着との間に新たに定着体を施工することを特徴とするものである(図12,13)。
【0052】
本発明は、後から施工する定着体は、先に施工された定着体によって拘束された地盤内において施工することにより締め固めをより効果的に行なえるようにしたものである。
【0053】
アンカー体の先端から地表面方向に定着体を順次に施工するだけでは、圧入による土粒子の移動が周辺地盤に順次に行われるため、締め固めが効果的に行われにくいが、先に施工された複数の定着体と定着体との間に後から新たに定着体を施工すれば、周辺の土粒子は移動を防げられるため、拘束地盤内における圧入が大きな締め固め効果を生じ、また新たに施工される定着体を横方向にも確実に拡大させて周辺地盤をより確実に締め固めることができる。
【0054】
請求項8記載の地盤安定化工法は、請求項5記載の地盤安定化工法において、定着体は、アンカー体の長手方向に複数同時に施工することを特徴とするものである(図12,13,14参照)。
【0055】
複数の注入孔から地盤中に注入材を同時に圧入して複数の定着体を同時に施工することにより周辺地盤を逃すことなく拘束状態を保ちながら締め固めることができる。
【0056】
請求項9記載の地盤安定化工法は、5−8のいずれか1に記載の地盤安定化工法において、定着体は、地盤中の脱水を併用しながら施工することを特徴とするものである。可塑状ゲル注入材による地盤の圧縮と圧縮による地下水の脱水を圧入管に設けた排水孔またはドレ−ン材、あるいは排水管によって地上部に排水して土の締め固め効果を急速に行うことを特徴とするものである(図7,19参照)。
【発明の効果】
【0057】
本発明によれば、可塑状ゲル注入材を地盤中に圧入して可塑状ゲル注入材からなる定着体を周囲の土を押しやるように徐々に拡大させながら形成することにより周辺地盤を締め固めて強化することができ、また可塑状ゲル固結体を地盤面上に敷設された支圧版を固定するアンカー体の定着体とすることにより、アンカー体に大きな引抜き抵抗力を付与して支圧版を地盤面上に強固に固定し、これにより地盤を安定的に保持することができる。
【0058】
また、アンカー体として孔開き鋼管を用いてアンカー体に地下水の排水機能(排水ドレ−ン)を付与することにより、地盤の締め固めを効率的に行なうことができると共に地盤の液状化を防止することができる。
【0059】
また、地すべり等の活動を活発化させる要因とされる地下水を速やかに排水することで地山を安定的に保持することができる。
【0060】
さらに、地盤の締め固めによりアンカー体に大きな引抜き抵抗力を付与することができるため、アンカー体の施工深さ、アンカー体を地盤中に定着させる定着体の大きさ等をこれまでより小規模なものとすることができ、現場施工の省力化、簡略化、さらにはコスト削減等が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】地盤安定化構造の一実施形態を示し、(a)は地山に敷設された支圧版、地盤中に施工されたアンカー体および定着体を示す断面図、(b)はその一部拡大断面図である。
【図2】地山に縦横に隣り合って敷設された支圧版の平面図である。
【図3】支圧版の平面図である。
【図4】図1に図示する地盤安定化構造の施工手順の一工程を示し、地山に支圧版を敷設した状態を示す一部断面図である。
【図5】図1に図示する地盤安定化構造の施工手順の一工程を示し、アンカー体を施工するアンカー孔を削孔する方法を示す地山の一部断面図である。
【図6】図1に図示する地盤安定化構造の施工手順の一工程を示し、アンカー孔にアンカー体として孔開き鋼管を挿入する方法を示す地山の一部断面図である。
【図7】図1に図示する地盤安定化構造の施工手順の一工程を示し、地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入して定着体(可塑状ゲル固結体)を形成する方法を示す地山の一部断面図である。
【図8】図1に図示する地盤安定化構造の施工手順の一工程を示し、地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入して定着体(可塑状ゲル固結体)を形成する方法を示す地山の一部断面図である。
【図9】図1に図示する地盤安定化構造の施工手順の一工程を示し、アンカー体の端部を支圧版に定着する方法および地山の浅い位置で定着体が徐々に拡大する状態を示す地山の一部断面図である。
【図10】地盤安定化構造の他の実施形態を示し、(a)は、地山に敷設された支圧版、地盤中に施工されたアンカー体および定着体を示す断面図、(b)はその一部拡大断面図である。
【図11】図10に図示する地盤安定化構造の施工手順の一工程を示し、地盤中に可塑状ゲル注入材を注入して定着体を柱状に連続するように形成する方法を示す地山の一部断面図である。
【図12】主として建造物の基礎の強化や軟弱地盤の液状化防止等の耐震補強に適用される地盤安定化構造の実施形態を示し、地盤面上に敷設された支圧版、地盤中に施工されたアンカー体および定着体を示す断面図である。
【図13】主として建造物の基礎の強化や軟弱地盤の液状化防止等の耐震補強に適用される地盤安定化構造の他の実施形態を示し、地盤面上に敷設された支圧版、地盤中に施工されたアンカー体および定着体を示す断面図である。
【図14】主として建造物の基礎の強化や軟弱地盤の液状化防止等の耐震補強に適用される地盤安定化構造の他の実施形態を示し、地盤面上に敷設された支圧版、地盤中に施工されたアンカー体および定着体を示す断面図である。
【図15】図12に図示する地盤安定化構造の施工手順の一工程を示し、(a)は地盤面上に支圧版を設置した状態を示す断面図、(b)は地盤中にアンカー孔を削孔する方法を示す断面図である。
【図16】図12に図示する地盤安定化構造の施工手順の一工程を示し、(a)はアンカー孔にアンカー体を設置し、その上端部を支圧版に定着する方法を示す断面図、(b)は地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入して定着体を形成する方法を示す断面図、(c)はシングルパッカ方式の圧入管先端部の構造を示す断面図、(d)はダブルパッカ方式の圧入管先端部の構造を示す断面図である。
【図17】図12に図示する地盤安定化構造の施工手順の一工程を示し、特に支圧版と定着体によってアンカー体の上端側と先端側を拘束した状態で地表面付近に可塑状ゲル注入材を圧入してアンカー体にプレストレスを導入する方法を示す打面図である。
【図18】図12に図示する地盤安定化構造の他の施工方法を示し、(a)はアンカー孔にケーシングと鉄筋からなるアンカー体を挿入する方法を示す断面図、 (b)はアンカー孔内に可塑状ゲル注入材を圧入して柱状に連続する定着体を施工する方法を示す断面図、(c)は支圧版と定着体によってアンカー体の上端側と先端側を拘束した状態で地表面付近に可塑状ゲル注入材を圧入してアンカー体にプレストレスを導入する方法を示す打面図である。
【図19】図12に図示する地盤安定化構造の他の施工方法を示し、支圧版と定着体によってアンカー体の上端側と先端側を拘束した状態で地表面近くに可塑状ゲル注入材を圧入することにより地盤を強化する方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
図1−図3は、本発明の一実施形態を示し、農地や山林を整地して宅地や道路、鉄道などを造成するに際して、斜面の補強を目的に行なわれるものである。
【0063】
図において、符号1は地山に敷設された支圧版、2は地盤中に施工され、支圧版1を地山に固定するアンカー体、3は地盤中にアンカー体2と一体に施工され、アンカー体2に引抜き抵抗力を付与する定着体である。
【0064】
支圧版1は、プレキャストコンクリ−トより支圧版本体部1a(以下「本体部1a」という)と本体部1aの周囲に四方に突設された複数のア−ム部1bとから平面ほぼ十字形状に成形され、本体部1aの中央部に定着孔1cが形成されている。
【0065】
また、各ア−ム部1bは、本体部1a側の端部が本体部1aと同一高さ(厚さ)、同一幅を有し、共に一番大きく、先端方向に高さ(厚さ)および幅が徐々に小さくなるように成形されている。さらに、各ア−ム部1bの上面には排水溝1dがア−ム部1bの長手方向に連続して形成されている。
【0066】
このように成形された支圧版1は地山に縦横複数敷設され、各支圧版1のア−ム部1bどうしが地山の勾配方向と横方向に梁状に連続することにより縦横に連続する格子状の法枠を構成している。
【0067】
アンカー体2は、外周部に注入孔2aまたは排水孔2bとなる複数の貫通孔を有する孔開き鋼管から形成され、その基端側(地表側)の端部2cは支圧版1の定着孔1cを貫通し、本体部1aの上側に所定長突出し、かつ本体部1aに定着されている。なお、アンカー体2の先端部は開放し、地下水を排水するための排水孔2bになっている。
【0068】
この場合、アンカー体2の端部2cは、端部2cに取り付けられた定着金物4と定着孔1c内に充填されたコンクリ−ト等の固化材5によって支圧版1の本体部1aに定着されている。
【0069】
また、アンカー体2は、地盤中にほぼ水平若しくは地表面側にやや下り勾配の状態で施工されていることにより排水機能を有し、これにより地下水がアンカー体2内を地表側に排水されるようになっている。
【0070】
定着体3は、可塑状ゲル注入材を地盤中に圧入することにより、アンカー体2の周囲の土を周囲に押しやるように徐々に拡大して周囲の土を締め固め、アンカー体2と一体をなす塊状に形成されている。また、定着体3はアンカー体2の長手方向に一個ないし複数個、所定間隔おきに形成されている。
【0071】
このような構成において、各支圧版1は定着体3により付与されたアンカー体2の引抜き抵抗力によって地山に固定され、また、アンカー体2の排水機能により地下水はアンカー体2の端部から外に排水される。
【0072】
なお、アンカー体2の外に排水された地下水は、ビ−ム部1bの上端面に形成された排水溝1dを流れ、ビ−ム部1bの先端付近で排水溝1dの外側に流れ出ることで、地下水による地表面の浸食を防ぎ、地下水の地盤中への浸透による地盤の軟化を防止することができる。また、支圧版1の本体部1aが地下水で汚れることもない。
【0073】
次に、図4−図9に基づいて施工手順を説明する。
【0074】
(1) 最初に、複数の支圧版1を地山に縦横に隣り合わせに敷設する。その際、各支圧版1のア−ム部1bを縦横に連続させて地山に複数のア−ム部1b,1bから縦横に格子状に連続する法枠を構成する(図2参照)。
【0075】
(2) 次に、各支圧版1の定着孔1cから地盤中にアンカー孔6を削孔する。アンカー孔6は孔壁をケ−シング7によって保護しながらボ−リング8によって削孔する(図5参照)。
【0076】
(3) 次に、支圧版1の定着孔1cからアンカー孔6内のケ−シング7内にアンカー体2として孔開き鋼管を挿入し、その地表面側の端部2cを定着孔1cの上側に所定長突出させる。また、アンカー体2の挿入と同時に、アンカー孔6からケ−シング7を徐々に引き抜く(図6参照)。
【0077】
(4) 次に、アンカー体2内に圧入管9を挿入する。そして、圧入管9を介して地表から地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入することにより、アンカー体2の外周部に可塑状ゲル注入材からなる定着体3(可塑状ゲル固結体)をアンカー体2と一体に形成する(図7参照)。
【0078】
この場合の圧入管9には、図示するように先端に注入材吐出口9aと当該注入材吐出口9aを挟んでその両側に二個のパッカ−9b,9bを備えた圧入管を用いる。
【0079】
当該圧入管9をアンカー体2内に挿入し、注入材吐出口9aとアンカー体2の注入孔2aが一致するようにセットし、かつパッカ−9b,9bを膨張させてアンカー体2内のパッカ−9b,9b間を密閉する。そして、圧入管9を介してアンカー体2内に可塑状ゲル注入材を圧入する。そうすると、可塑状ゲル注入材は注入材吐出口9aと注入孔2aを通ってアンカー体2周囲の地盤中に吐出され、アンカー体2の周囲に塊状の定着体(可塑状ゲル固結体)3がアンカー体2と一体に形成される。
【0080】
したがって、この作業をアンカー体2の各注入孔2aの位置で行いながら、圧入管9を引き抜くことにより塊状の定着体3(可塑状ゲル固結体)をアンカー体2と一体に形成することができる。
【0081】
また特に、注入材の圧入を注入孔2aについて一個ないし複数個おきに行うことにより、排水孔2bと定着体3をアンカー体2の軸方向に交互に形成することができる(図8,9参照)。
【0082】
(5) 次に、支圧版1の定着孔1c内にコンクリ−ト等の固化材5を充填し、アンカー体2の端部2cに定着金物4を取り付けてアンカー体2の端部2bを支圧版1の本体部1aに定着する。
【0083】
(6) この場合、特に地表面近くの注入口2aの位置で可塑状ゲル注入材を厚入する際は、図9に図示するように、先にアンカー体2の端部2cを支圧版1に定着金物4と固結材5で定着してから行う。すなわち、アンカー体2の端部2cを先に支圧版1の本体部1aに定着して地表面を支圧版1で押え付けた状態で可塑状ゲル注入材を圧入することにより、注入材の圧入による地山の隆起を阻止することができ、また地盤の締め固めを効率的に行なうことができる。
【0084】
図10(a),(b)は、本発明の他の実施形態を示し、特に定着体3がアンカー体2の長手方向に連続する柱状に形成されている。なお、この場合、アンカー体2に排水機能を付与せず、支圧版1を地山に固定するアンカー機能のみを付与することも、また、アンカー体2の先端部を排水孔2bとすることによりアンカー機能と排水機能の両方の機能を付与することができる。
【0085】
本発明の施工は、たとえば図11に図示するように、先に削孔したアンカー孔6内に挿入したケ−シング(図省略)内にアンカー体2として孔開き鋼管を挿入し、その地表側の端部2cを支圧版1の定着孔1cの外側に所定長突出させる。また、アンカー体2の挿入と同時に、アンカー孔6からケ−シングを引き抜く。
【0086】
なお、図10において、排水孔2bはアンカー体2の先端部に設け、地山の地下水を図10(b)に図示するように地表面に排水する。また、定着体3は最初アンカー体2の長手方向に所定間隔おいて複数施工し、その後さらに、各定着体3,3間に新たに定着3を施工することにより、定着体3を施工しながら地盤をより効率的に締め固めることができる。また、図11において、シングルパッカ9bを有する圧入管9から注入口9aを通して圧入する注入孔2aはゴムスリ−ブのような逆止弁(図省略)で覆われてもよい。
【0087】
次に、この孔開き鋼管内に圧入管9を挿入する。この場合、圧入管9には図示するように先端に注入材吐出口9aと当該注入材吐出口9aに隣接して圧入管9の基端側にパッカ−9bを備えた圧入管を用いる。
【0088】
当該圧入管9をアンカー体2内に挿入し、注入材吐出口9aとアンカー体2の注入孔2aが一致するようにセットする。そして、パッカ−9bを膨張させてアンカー体2内のパッカ−9bより先端側を密閉する。
【0089】
次に、圧入管9を介してアンカー体2内に可塑状ゲル注入材を圧入する。そうすると、可塑状ゲル注入材は注入材吐出口9aと注入孔2aを通ってアンカー体2周囲の地盤中に吐出され、アンカー体2の周囲に塊状の定着体(可塑状ゲル固結体)3がアンカー体2と一体に形成される。
【0090】
したがって、この作業をアンカー体2の各注入孔2aの位置で行いながら、圧入管9を引き抜くことによりアンカー体2の長手方向に柱状に連続する塊状の定着体3(可塑状ゲル固結体)をアンカー体2と一体に形成することができる。
【0091】
なお、圧入管9としては、図7および図11に図示するようなものに限定されるものではなく、単に鋼管などから形成され、アンカー体2の側部をアンカー体2の長手方向に沿って徐々に引抜けるようにしたものでもよい。
【0092】
図12−図14は、本発明の他の実施形態を示し、主として建物や備蓄タンク等の構造物が建つ敷地地盤の液状化等を防止する目的で実施されるものである。
【0093】
図において、符号1は地盤面上に敷設された支圧版、2は支圧版1を貫通して地盤中に施工され、支圧版1を地盤面上に固定するアンカー体、3は地盤中にアンカー体2と一体に施工され、アンカー体2に引抜き抵抗力を付与する定着体である。なお、支圧版として建物のコンクリ−ト基礎を適用してもよい。
【0094】
支圧版1には矩形版状や多角形版状、あるいは円形版状などの支圧版が用いられ、当該支圧版1は地盤面上に縦横に版どうしを互いに突き合わせて、あるいは版と版との間に一定の間隔を開けて敷設されている。
【0095】
なお、支圧版1の形状は上記した形状に限定されるものではない。例えば、図3に図示するような支圧版が用いられるときは、図2に図示するように各支圧版1のア−ム部1bどうしが地盤面上で縦横に梁状に連続して縦横に連続する格子状の枠を構成するように敷設されてもよい。
【0096】
アンカー体2は、支圧版1に形成された定着孔1cを貫通し、地盤中に一定深さに施工されている。また、アンカー体2の上端部2cは支圧版1の上に所定長突出し、かつ支圧版1に定着されている。この場合、アンカー体2の上端部2cは、端部2cに取り付けられた定着金物4と定着孔1c内に充填されたコンクリ−ト等の固化材5によって支圧版1に定着されている。
【0097】
また、アンカー体2は、地盤中に垂直または図13に図示するように斜めに、あるいは図14に図示するように複数のアンカー体2が地盤中で交差するように施工されている。
【0098】
定着体3は、可塑状ゲル注入材を地盤中に圧入することにより、アンカー体2周囲の土を周囲に押しやるように徐々に拡大して周囲の土を締め固めるように形成され、かつアンカー体2と一体な塊状に形成される。また、定着体3はアンカー体2の軸方向に所定間隔おきに、あるいはアンカー体2の軸方向に柱状に連続して形成されている。
【0099】
なお、アンカー体2に地下水を排水する排水ドレ−ンの働きを付与することができる。この場合、定着体3をアンカー体2の上下方向に間隔おいて形成して、アンカー体2の外周部に形成された貫通孔の一部を排水孔2bとすることによりアンカー体2内に排水路を確保すればよい。そうすることで、地盤中において地下水はアンカー体2内を地表側に流れ外に排水される。
【0100】
次に、図15−図17に基づいて施工手順を説明する。
【0101】
(1) 最初に、複数の支圧版1を地盤面上に版どうしを互いに突き合せて、あるいは版と版との間に一定の間隔を開けて敷設する。なお、既存の建物の基礎がべた基礎の場合、既存のべた基礎を支圧版として利用することもできる。
【0102】
(2) 次に、支圧版1の定着孔1cから地盤中にアンカー孔6を削孔する。アンカー孔6は、孔壁をケ−シング7によって保護しながらボ−リング8によって削孔するか、ケーシング掘りで削孔する(図15(b)参照)。
【0103】
(3) 次に、支圧版1の定着孔1cからアンカー孔6内のケ−シング7内にアンカー体2として孔開き鋼管を挿入し、その地表側の端部2cを定着孔1cの上側に所定長突出させる。また、アンカー体2の挿入と同時にケ−シング7を徐々に引き抜く。
【0104】
(4) 次に、支圧版1の定着孔1c内にコンクリ−ト等の固化材5を充填し、アンカー体2の端部2cに定着金物4を取り付けてアンカー体2の端部2cを支圧版1に定着する。
【0105】
(5) 次に、アンカー体2内に圧入管9を挿入する。そして、圧入管9を介して地表から地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入することにより、アンカー体2の外周部に可塑状ゲル注入材からなる定着体3をアンカー体2と一体に形成する(図16(b)参照)。
【0106】
この場合、圧入管9には図16(c)に図示するように先端に注入材吐出口9aと当該注入材吐出口9aの上側に位置するパッカ−9bを備えた圧入管を用いる。当該圧入管9をアンカー体2内に挿入し、注入材吐出口9aとアンカー体2の注入孔2aが一致するようにセットし、さらにパッカ−9bを膨張させてアンカー体2内のパッカ−9bより下方を密閉する。
【0107】
そして、圧入管9を介してアンカー体2内に可塑状ゲル注入材を圧入すると、可塑状ゲル注入材は注入材吐出口9aと注入孔2aを通ってアンカー体2周囲の地盤中に吐出され、アンカー体2の周囲に塊状の定着体(可塑状ゲル固結体)3がアンカー体2と一体に形成される。
【0108】
なお、アンカー体2の注入孔2aには、通常ゴムスリーブ等からなる逆止弁(図省略)が取り付けられている。そして、可塑状ゲル注入材は逆止弁を押し開きながら注入孔2aから地盤中に圧入され、逆流は逆止弁によって阻止される。
【0109】
したがって、この作業をアンカー体2の各注入孔2aの位置で行いながら、圧入管9を引き抜くことにより柱状に連続する塊状の定着体3をアンカー体2と一体に形成することができる。
【0110】
なお、注入材の圧入をアンカー体2の注入孔2aについて一個ないし複数個おきに行なうことにより定着体3をアンカー体2の軸方向に一定間隔おきに形成することができる。
【0111】
また、アンカー体2に孔開き鋼管を用い、貫通孔の一部を排水孔2bとすることにより、アンカー体2に地下水を排水するための排水ドレ−ンの働きを付与することができる。この場合、圧入管9には、図16(d)に図示するような、先端に注入材吐出口9aと当該注入材吐出口9aを挟んでその上下両側に位置するパッカ−9b,9bを備えた圧入管を用いる。
【0112】
当該圧入管9をアンカー体2内に挿入し、注入材吐出口9aとアンカー体2の注入孔2aが一致するようにセットし、さらにパッカ−9b,9bを膨張させてアンカー体2内のパッカ−9b,9b間を密閉する。
【0113】
そして、圧入管9を介してアンカー体2内に可塑状ゲル注入材を圧入すると、可塑状ゲル注入材は注入材吐出口9aと注入孔2aを通ってアンカー体2周囲の地盤中に吐出され、アンカー体2の周囲に球状の定着体(可塑状ゲル固結体)3がアンカー体2と一体に形成される。
【0114】
したがって、この作業をアンカー体2の各注入孔2aの位置で行いながら、圧入管9を引き抜くことにより塊状の定着体3(可塑状ゲル固結体)をアンカー体2と一体に形成することができる。また、定着体3,3間に排水孔2bが確保され、この排水孔2bとアンカー体2内を通って地下水は地上に排水される。
【0115】
また、図18(a)−(c)は、図12−図14に図示する地盤安定化工法の他の施工方法を示したものである。
【0116】
(1) 最初に、地盤面上に敷設した支圧版1の定着孔1cから地盤中にアンカー孔6を削孔する。アンカー孔6は孔壁をケ−シング7によって保護しながらボ−リングによって削孔するか、またはケーシング掘りによって削孔する。
【0117】
(2) 次に、支圧版1の定着孔1cからアンカー孔6内に鉄筋などからなる引張材をアンカー体2として挿入する。
【0118】
(3) 次に、ケーシング7を徐々に引き抜きながら、地表から地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入してアンカー体2の外周部に可塑状ゲル注入材からなる定着体3をアンカー体2と一体に形成する。
【0119】
(4) こうして、地表付近まで定着体3が形成されたら、図18(c)に図示するように、アンカー体2の上端部とケーシング7の上端部を固定金具11で一体化する。
なお、ケーシング7は、支圧版1の上側に突出した部分を適当な高さで除去してもよい。また、上記において、ケーシング7を引き抜きながら挿入した圧入管を介して可塑状ゲル注入材を圧入してもよい。
【0120】
(5) 次に、固定金具11に設けた注入孔(図示せず)に注入材の送液管12を接続し、送液管12を通して地表面近くに可塑状ゲル注入材を圧入して定着体3を形成することにより地表面近くを締め固める。
【0121】
図19は、本発明の地盤安定化工法において、可塑状ゲル注入材の圧入によって地盤が強化される状況を示したものである。
【0122】
特に、アンカー体2の上端側と先端側がそれぞれ支圧版1と定着体3で拘束された状態で、地表面近くに可塑状ゲル注入材を圧入することで、地盤隆起が押えられ、充分な圧入による締め固め効果とアンカー体2に対するプレストレスが加わって横方向からの振動にも一体となって抵抗する引張強度をもつ耐震性のすぐれた地盤が形成される。
【0123】
図示するように、地盤中に可塑状ゲル注入材を連続的に圧入して定着体3を形成することにより、定着体3が周囲の土を押しやるように徐々に拡大しながら形成されることで地盤が締め固められる。
【0124】
また、定着体3周囲の土が定着体3によって強く圧縮されることにより、定着体3とその周囲の土3aとから定着体3より大きな定着体3Aが形成され、当該定着体3Aによってアンカー体2が地盤中に定着される。
【0125】
また、定着体3は、深い地点から地上方向に各ステ−ジごとに可塑状ゲル注入材を圧入してアンカー体の長手方向に連続する柱状、または所定間隔おきに形成することにより、地盤の締め固めを比較的低い圧入圧力によって効率的に行なうことができる。
【0126】
また、地盤面が支圧版1によって押え付けられていることで、定着体3が徐々に拡大することによりアンカー体2に大きな引張力Nが作用し、この引張力Nに対応して支圧版1と定着体3間の地盤には圧縮力P1が作用し、これにより地盤はさらに締め固められて支持力が増大する。また、可塑状ゲル注入材の圧入によって地盤が隆起することもない。
【0127】
さらに、地盤面が支圧版1によって押え付けられていることにより、互いに隣接する各定着体3が徐々に拡大すると共に、定着体3,3間の地盤には横方向の圧縮力P2が作用し、これにより地盤は横方向にも締め固められるため、地盤の支持力はさらに高められる。
【0128】
また、地盤中にドレ−ン材または排水管10を設置して脱水または排水を併用することにより、地盤の締め固めをより効率的に行なうことができる。また、注入材として可塑状ゲル注入材を使用することで、注入材が地盤中に亀裂を生じて流出することもなく、定着体3として徐々に拡大するため、定着体3周辺の間隙水がドレ−ン材又は排水管10を通して脱水されるため、周辺の土の密度増加が確実にかつ急速に行われるという効果が生ずる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、現場における施工を迅速に行なうことができ、施工後は地下水の排水を促し、地山を安定的に保持することができる。
【符号の説明】
【0130】
1 支圧版
1a 本体部(支圧版本体部)
1b ア−ム部
1c 定着孔
2 アンカー体
2a 孔
2b 基端側部
2c 排水孔兼吸水孔
3 定着体
4 定着金物
5 固化材
6 アンカー施工孔
7 ケ−シング
8 ボ−リング
9 圧入管
9a 注入材吐出口
9b パッカ−
10 ドレ−ン材または排水管
11 固定金具
12 送液管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤面上に敷設された支圧版と、地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入することにより土を周囲に押しやるように徐々に拡大して、周辺地盤を締め固めるように施工された可塑状ゲル注入材からなる定着体と、地盤中に施工され、基端側と先端側がそれぞれ前記支圧版と前記定着体に定着されたアンカー体とから構成されてなることを特徴とする地盤安定化構造。
【請求項2】
アンカー体は、孔開き鋼管または鋼製棒状体から形成されてなることを特徴とする請求項1記載の地盤安定化構造。
【請求項3】
支圧版は複数敷設され、アンカー体は複数施工され、かつ前記支圧版は互いに連結されていることを特徴とする請求項1または2記載の地盤安定化構造。
【請求項4】
支圧版の上端面に排水溝が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の地盤安定化構造。
【請求項5】
地盤面上に支圧版を敷設する工程と、地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入することにより土を周囲に押しやるように徐々に拡大して、周辺地盤を締め固めるように定着体を施工する工程と、地盤中にアンカー体を施工し、その基端側と先端側をそれぞれ前記支圧版と前記定着体に定着する工程とからなることを特徴とする地盤安定化工法。
【請求項6】
定着体はアンカー体の長手方向に複数施工し、そのうち、地表面より深い方の定着体を先に施工し、その後地表面に近い方の定着体を施工することを特徴とする請求項5記載の地盤安定化工法。
【請求項7】
定着体は、アンカー体の長手方向に間隔をおいて複数施工し、その後、前記定着体と定着との間に新たに定着体を施工することを特徴とする請求項5記載の地盤安定化工法。
【請求項8】
定着体は、アンカー体の長手方向に複数同時に施工することを特徴とする請求項5記載の地盤安定化工法。
【請求項9】
定着体は、地盤中の脱水を併用しながら施工することを特徴とする請求項5〜8のいずれか1に記載の地盤安定化工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−189854(P2010−189854A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32528(P2009−32528)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【出願人】(509023447)強化土株式会社 (31)
【Fターム(参考)】