説明

地盤改良工法

【課題】削孔により発生する排土を確実に行い、周辺地盤に与える変位等の悪影響を防止する。
【解決手段】注入ロッド(1)先端の掘削刃(3)の上部に設けた攪拌翼(5)の上方に隣接して、前記攪拌翼の半径より略5cm程度小さい半径から成り、かつ、螺旋状の円板の傾きが10〜20度で、投射形状が略円周1周分の土壌押上円板(6)を備えた攪拌装置が用いられ、前記攪拌装置の回転によって形成される撹乱部(16)の半径を土壌押上板(6)の半径より略5cm大きく形成して該撹乱部の外周面に間隙(12)を形成し、前記間隙部分の軟弱土が特に乱されて泥状化されることによって、円筒状の泥水膜の領域を形成し、前記土壌押上円板の直径内に含まれる軟弱土と直径外の領域の縁切りを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は土木工事のうち、軟弱地盤等の地中に固化材スラリー等の地盤改良材を注入し、該固化材スラリーと軟弱地盤とを混合する高圧噴射攪拌装置を用いる、地盤改良工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固化材など地盤改良材を地盤に混入攪拌する地盤改良工法においては、混入する固化材の体積に相当する固化材スラリーを押し込むため、土中変形が周辺地盤へ伝播され少なからず周辺地盤に変位をもたらす。
また、アースオーガーのシャフトをスクリューオーガー状に構成し、回転上下動させることにより土を強制的に地表に排出し、排土部の空隙に固化材体積相当量の混合土を吸収し、変位移動を防止する工法が知られている。しかし、この工法はシャフトの駆動部が上部にある場合に限られ、下部駆動方式やボーリングタイプの小型機械には適用できない問題がある。
【0003】
また、改良すべき軟弱地盤の噴射注入杭打設予定位置を先行して、予め攪乱翼で攪乱して、少なくとも一本おきに柱状の攪乱部へ噴射注入杭を建込んで固化材を注入し、地盤変位の生じない杭を形成する工法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)が、攪乱部の形成のみでは十分吸収できない可能性がある。
【0004】
上記の課題を解決するために、改良予定地盤の地中に注入ロッドを貫入し、該注入ロッドの攪乱装置で土壌を攪乱して形成した攪乱層又は、その外周部に固化材スラリーを高圧噴射注入して円柱状改良体を形成する際に、注入ロッドの固化材スラリー噴射部の上部に近接して設けた土壌押上円板により固化材スラリー噴射口の近傍の攪乱土を上方へ押し上げて土壌押上円板の下方に空隙を形成し、固化材スラリーと混合された混合土を、該空隙に吸収し、周辺地盤への変位移動を防止する地盤改良工法(例えば特許文献2、非特許文献1参照。)を、本発明者らは提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−59222号公報
【特許文献2】特許第2739602号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】パンフレット「LDis工法」 小野田ケミコ株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の本発明者らが提案した上記特許発明には、使用する土壌押上円板の形状については特に規定されていなかったので、上記工法を実施する場合、仕様の異なる土壌押上円板を多数製作し、現場において対象地盤、固化材スラリー注入量、排土量などを勘案して、試行錯誤の末、最適な排土量が得られる適切な寸法及び形状の土壌押上円板を選定又は改良して使用していた。
【0008】
そのため、現場毎に最初に数本で試験施工を行い、排土状況を確認し土壌押上円板を選定する等の手間が掛かり施工能率が悪く、変位低減のためにも最も効率的な排土が行える土壌押上円板の形状の開発が望まれていた。
【0009】
また、削孔時の排土方法も硬化材スラリー噴射口の近傍の攪乱土を上方へ押し上げて土壌押上円板で排土するという一般的な手法を開示するに留まり、変位低減に効果的で具体的な排土の手順についても試行錯誤の状態であり、最も効率的な削孔方法の確率が要請されていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等が提案した前記特許発明による地盤改良施工事例も増加蓄積され、これら多数の施工例事例を鋭意検討した結果、土壌押上円板の形状において、貫入・引き上げ抵抗、排土量等に関し、おおよそ、最適の形状が存在することが明らかになった。
また、変位低減に最も効果的な排土方法も確立されるに至った。
【0011】
その、おおよそ最適な土壌押上円板の形状とは、該注入ロッドの固化材スラリー噴射部の上部に近接して設けた土壌押上円板の投影平面形状の半径が、該注入ロッドの水平攪拌翼の回転により描かれる円形軌跡の円の半径と同一寸法又は前記攪拌翼より10cm以下望ましくは5cm小さく、かつ、該土壌押上円板の投影平面形状の直径は、機械能力に応じ、40cm以上90cm未満の土壌押上円板が選択できる。
【0012】
また、削孔排土方法としては、1回の削孔・引き抜きで可能な排土量に相当する深度方向のステップ長を土質に応じて適宜設定し、単管の注入ロッド先端の掘削刃の上部に設けた攪拌翼の上方に隣接して前記攪拌翼の半径の径より小さい半径からなる螺旋状の土壌押上円板を配設した攪拌装置で、改良予定地盤を第1ステップ深度まで削孔水を低圧噴射しながら削孔した後、その1ステップ深度に相当する長さ分引き抜き排土し、次の第2ステップ深度下端まで、また削孔水を低圧で噴射しながら削孔した後、その1ステップ深度(第2ステップ深度)に相当する長さ分だけ引き抜き排土し、これを各ステップ毎に繰り返して改良予定深度まで削孔し、次に一旦ロッドを地上まで引き抜き、さらに改良予定深度まで再削孔してから、スラリー状の固化材をロッド先端部付近のノズルから側方に噴射しながら引き抜いてくる方法が変位低減に最も効果的であることを見出した。
【0013】
注入ロッドを所定の軟弱地盤中に回転させながら貫入すると、注入ロッドの回転貫入に伴って攪拌翼により軟弱土壌中に攪乱層が形成される。そのときに、攪拌翼によって形成される攪乱部の半径が、該土壌押上円板の半径と同一寸法又は前記攪拌翼半径より10cm以下望ましくは5cmの大きさのため、攪乱部の外周面に間隙が形成され、該間隙に削孔水が進入し、撹乱された軟弱土と混合される。
【0014】
そして、間隙部分の軟弱土が特に乱されて泥状化されることによって、薄い円筒形の泥水膜の領域ができる。そのため、注入ロッドを軟弱地盤中に回転させながらステップ方式で引き抜くと、該土壌押上円板の直径内に含まれる軟弱土と直径外の領域が縁切りされる。その際、該土壌押上円板の回転により、直径内に含まれる軟弱土が上方に押し上げられるときの土のせん断抵抗が小さくなり、確実な排土が可能になる。
【0015】
また、この時の土壌押上円板の形状は、投影平面形状の半径が、攪拌翼の回転により描かれる円形軌跡の縁の半径と同一寸法又は前記攪拌翼半径より10cm以下、望ましくは5cm小さく、かつ、土壌押上円板形状において、螺旋状の土壌押上円板の傾きが10〜20度で、投射形状が円周1周分に加えて中心角が10度程度の扇形状に重複させるか、又は略円周1周分であるとき、土壌の押し上げ(排土)効果が最も大きい。
【0016】
なお、土壌押上円板の半径を攪拌翼の半径より10cm以上大きく形成すると縁切りによる円筒状泥水膜が大きくなり崩壊しやく、土壌押上円板の半径よりも小さく形成すると、泥水膜が薄く又は発生せず(注入ロッドの)せん断抵抗が大きくなり円滑な回動を妨げ、縁切り効果を減少させる。さらに、土壌押上円板の直径は、40cm未満にすると泥水膜があっても周面積の抵抗が大きく、排土効率が悪い。また、螺旋状の土壌押上板の傾きが、10〜20度のとき、排土効率がよい。傾きが10度未満であると排土効率はよいものの、貫入作業時の抵抗となりやすく土壌が上がらず、傾きが20度を越えると、排土が円板から滑り落ち(抵抗が大きくなり)排土効果が悪くなる問題がある。
【0017】
このように、該土壌押上円板により固化材スラリーを含まない原土を排土されてできた空隙に、固化材スラリーと混合された流動状混合土が吸収され、注入ロッドの中心部の地盤も改良され、その排土量は噴射注入固化材スラリーの略体積相当分であることから、周辺地盤への変位が最も効果的に低減される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の地盤改良装置を用いると、土壌押上円板の半径が、その排土機構の攪拌翼半径より5cm小さく、螺旋状の土壌押上板の傾きが10〜20度で、投射形状が略円周1周分の土壌押上板の効果により、削孔中に攪乱部とその周辺の軟弱地盤との間に円筒状泥水膜が形成され、排土が確実に行われることにより、周辺地盤に与える変位等の悪影響が確実に防止できる。
【0019】
また、ステップ引き上げの改良時には、固化材スラリーと混合され改良された混合土は、引き上げられるロッドの周りの攪拌翼と土壌押上円板の直下付近に生ずる空隙部に回り込むので、ロッド中心部も改良体外周の固化材スラリー噴射領域と比較して均一な改良体が造成できる。
【0020】
さらに土壌押上円板によって地表に排出された排土には、固化材スラリーが混入していないので、一般の残土処理と同等に処理又は転用を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の実施例を図により説明するが、同一図面符号番号はその名称も機能も同一である。
【実施例1】
【0022】
図1は本発明の工法に用いる装置での地盤削孔方法におけるロッド先端部の動向を模式的に示したものである。本図中では、1ステップ当たりの削孔長を一定に描いたが、実施に当たっては土層状態により各土質で排土効率の良い最適なステップ長さを設定すべきであるから、各ステップ長は任意に設定できる。図1で説明すれば、各ステップにおいては、第1ステップ長分だけ削孔したら、一旦第1ステップ分だけロッドを上げ、次に第2ステップ下端まで削孔し、再び第1ステップのの下端までロッドを引き上げる。
【0023】
このロッド引抜きのとき、土壌押上円板にて固化材スラリー噴射口の近傍の攪乱土を上方へ押し上げて排土が行われる。これを繰り返し、ノズル位置が削孔長の最下端(第nステップ)に達するまで削孔を行ったら、一旦ロッドを地上まで引き抜き、さらに改良予定深度まで再削孔した後、改良予定深度に達したロッド先端付近に設けた撹拌翼のノズルから、スラリー状の固化材を側方に高圧噴射しながら引き抜き、改良柱体を造成する。
【0024】
図2〜図3は、本発明の工法に用いる装置と排土状況の実施例を示し、また図2及び図4において、1は回転上下動機構で、注入ロッド2を回転上下動可能に支柱4で支持させる。単管注入ロッド2の上端部はスイベル8を介して固化材スラリー圧送ホース9に連結する。単管注入ロッド2の下端部に攪乱装置を構成する掘削刃(アースオーガー)3および攪拌翼5を設けるとともに軸部および攪拌翼5に固化材スラリーの噴射ノズル10を設ける。上記攪拌翼5の上部近傍に注入ロッド2をステップ方式で引き上げるとき、攪拌翼5により攪乱した土を上方に押し上げるための土壌押上円板6を設ける。土壌押上円板6は、地中に貫入した注入ロッド2を引き上げる際、排土効率を最大にするために、該土壌押上円板6の半径を前記攪拌翼5の半径と同一寸法又は前記攪拌翼半径より10cm以下、望ましくは5cm小さく形成するとともに、投影平面形状で土壌押上円板の傾きが10〜20度、好ましくは15度で、又図6〜8に示すように投射形状が円周1周分に加えて中心角10程度の扇形状に重複させるか又は略円周1周分となるように形成する。
【0025】
この様に構成した単管注入ロッド2を、軟弱地盤11中に削孔水を低圧で噴射しながら回転貫入すると、注入ロッド2の回転貫入に伴って、攪拌翼5によって形成される攪乱部16が、土壌押上円板6の半径より10cm以下、望ましくは5cm大きいので攪乱土と削孔水とで円筒状の泥水膜12の領域が形成される。そのため注入ロッド2を軟弱地盤11中から回転させながらステップアップ方式で引き抜くと、該土壌押上円板の直径内に含まれる軟弱地盤と直径外の領域が縁切りされる。その際、土壌押上円板6の回転により、直径内に含まれる軟弱土が上方に押上られるときのせん断抵抗は小さくなり確実に排土17できる。
【0026】
図4は本発明の工法に用いる装置と改良状態の実施例を示している。図5は図4において造成された改良体断面図であり、図中15は改良部である。固化材スラリー14と混合され改良された混合土はステップ方式で引き上げられるロッド2の周りの土壌押上円板6の直下付近に生ずる空隙部7に回り込む。
【0027】
以上、図2から図3あるいは、図4から図5の各施工段階の実施例において、例えば、噴射ノズル10を有する攪拌翼5の直径を50cm以上100cmとした場合、その注入ロッド2の固化材スラリー噴射部10の上方に近接して設けられた土壌押上円板6は、該土壌押上円板6の投影平面形状の半径が、攪拌翼5の回転に描かれる円形軌跡の半径と同一寸法又は前記攪拌翼半径より10cm以下望ましくは5cm小さく、かつ、該土壌押上円板6の投影平面形状の直径が、40cm以上90cm未満の土壌押上円板に形成する。
なお、図中6aは螺旋状の土壌押上円板を構成する下部円板面、6bは扇形状に重複形成した上部円板面である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の改良装置を用いての地盤削孔方法におけるロッド先端部の同行を模式的示した図である。
【図2】本発明の工法に用いる実施例の装置および排土状況を示す断面図である。
【図3】同上の土壌押上円板の取付状態の平面図である。
【図4】本発明の工法に用いる実施例の装置および改良状況を示す断面図である。
【図5】同上における改良体断面図である。
【図6】本発明の工法に用いる他の実施例の装置の正面図である。
【図7】同上の側面図である。
【図8】同上の土壌押上円板の平面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 回転上下機構
2 単管注入ロッド
3 掘削刃(アースオーガー)
4 支柱
5 攪拌翼
6 土壌押上円板
6a 下部円板面
6b 扇形状の重複上部円板面
7 空隙部
8 スイベル
9 圧送ホース
10 ノズル
11 軟弱地盤
12 円筒状泥水膜
13 排土予定部
14 噴射硬化材スラリー
15 改良部
16 攪乱部
17 排土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単管式注入ロッド先端の掘削刃によって地盤を予定深度まで削孔し、該注入ロッドを通じて地盤中に高圧噴射される固化材スラリーのエネルギーで撹拌翼の外側を切削・混合しつつ、注入ロッドの固化材スラリー噴射部の上部に近接して設けた土壌押上円板により固化材スラリー噴射口の近傍の攪乱土を上方へ押し上げて土壌押上円板の下方に空隙を形成し、固化材スラリーと混合された混合土を、該空隙に吸収し、改良予定地盤中に円柱状の改良体を造成する工法において;
注入ロッド先端の掘削刃の上部に設けた攪拌翼の上方に隣接して、前記攪拌翼の半径より略5cm程度小さい半径から成り、かつ、螺旋状の円板の傾きが10〜20度で、投射形状が略円周1周分の土壌押上円板を備えた攪拌装置が用いられ、
前記攪拌装置の回転によって形成される撹乱部の半径を土壌押上板の半径より略5cm大きく形成して該撹乱部の外周面に間隙を形成し、
前記間隙部分の軟弱土が特に乱されて泥状化されることによって、円筒状の泥水膜の領域を形成し、
前記土壌押上円板の直径内に含まれる軟弱土と直径外の領域の縁切りを行うことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
前記削孔時に1回の削孔・引抜き可能な排土量に相当する深度方向のステップ長を土質に応じて適宜設定し、
設定した第1ステップ深度まで削孔水を低圧で噴射しながら削孔した後、その1ステップ深度に相当する長さ分だけ引き抜き排土し、次ぎの第2ステップ深度下端まで、また削孔水を低圧で噴射しながら削孔した後、その1ステップ深度に相当する長さ分だけ引き抜き排土し、これを各ステップ毎に繰り返して改良予定深度まで削孔・排土する、複数回のステップ方式で削孔されることを特徴とする請求項1記載の地盤改良工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−138691(P2010−138691A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29750(P2010−29750)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【分割の表示】特願2004−277633(P2004−277633)の分割
【原出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000185972)小野田ケミコ株式会社 (58)
【Fターム(参考)】